判例検索β > 平成28年(ワ)第3049号
損害賠償請求事件
事件番号平成28(ワ)3049
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成29年10月12日
法廷名大阪地方裁判所
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主1文
被告は,原告に対し,33万円及びこれに対する平成27年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告のその余の請求を棄却する。

3
訴訟費用はこれを20分し,その17を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求
被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成27年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,原告が,被告に所属する地方公務員である警察官らが原告を器物損壊の被疑事実について取り調べた際に原告を恫喝する等の違法行為を行ったとして,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,損害賠償金220万円及びこれに対する最後の取調べがされた日である平成27年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1
争いのない事実等
(1)

当事者等

原告は,平成27年10月18日当時,大阪市a区bc丁目d番e号fのg号室(以下,同マンションを「本件マンション」という。)に居住していた男性である(争いがない。)。


被告は,大阪府A警察署(以下「A警察署」という。)を設置する地方公共団体である(争いがない。)。B巡査長(以下「B」という。),C巡査部長(以下「C」という。),D警部補(以下「D」という。)及びE巡査部長(以下「E」という。)は,いずれもA警察署に所属する警察官である(弁論の全趣旨)。
(2)

原告は,同月18日,F(以下「F」という。)からFの自動車(以下「本件自動車」という。)に石をぶつけたとの疑いを掛けられ,Fの通報によって臨場したA警察署の警察官により,パトカーで同署に任意同行された。原告は,同日の深夜から同月19日の早朝にかけて,A警察署において,同署の警察官から,器物損壊事件(以下「本件事件」という。)の被疑者として取調べ(以下「本件第1取調べ」という。)を受けた。(争いがない。)
(3)

原告は,同年11月27日,A警察署において,同署の警察官から,本件
事件の被疑者として取調べ(以下,「本件第2取調べ」といい,本件第1取調べと併せて「本件取調べ」という。)を受けた(争いがない。)。(4)

原告は,Fが本件事件の被害届を取り下げたため,同年12月14日,本件事件について親告罪の告訴の欠如を理由として起訴猶予とされた(弁論の全趣旨)。

2
争点
(1)

本件第1取調べの違法性
(原告の主張)

原告は,平成27年10月18日午後11時頃,本件マンションの外において携帯電話で電話を掛けて知人と話をしていた際,Fから,「自分の自動車に石をぶつけたやろ。」と言われた。原告は,身に覚えがないため,Fに対して反論をしていたが,A警察署の警察官が来て,パトカーに乗せられてA警察署に連行された。


原告は,その後,同日の深夜から同月19日の早朝にかけて,長時間にわたる取調べを受けた。原告は,取調べにおいて,警察官から,自らの言い分や弁解を全く聞いてもらえず,原告が本件事件の犯人であると決め付けられ,何度も恫喝をされ続けた。原告は,そのような状況の中で,意識がもうろうとしていたこと,警察官からの恫喝に耐え切れなかったこと,このままでは帰ることができないと思ったことなどから,供述調書に署名指印をする義務はないのに,自己の罪を認める旨が記載された供述調書に署名指印をさせられた。警察官は,本件事件について,十分な捜査をすることなく,他に原告の犯行を裏付ける資料は一切ないのに,原告を犯人に仕立て上げるために自白調書への署名指印を強要したものである。以上によれば,本件第1取調べは違法というべきである。
(被告の主張)

A警察署の警察官であるD及びEらは,平成27年10月18日午後11時33分頃,Fから「車に石をぶつけられた。」との通報を受け,E現場に赴き,通報者であるFに対する事情聴取を行った。
Fは,事情聴取に対し,同日午後11時25分頃,外からドーンという大きな音がしたのを聞き,本件マンションの前に止めていた自分の車が気になって確認したところ,運転席の窓ガラスに傷が付いており,ブロック片がそばに落ち,その横に壊れた眼鏡が落ちていた,近くに原告が立っており,他に誰もいなかったから原告を犯人と思って追及したが,原告が認めようとしなかったため,らちが明かずに通報した旨を述べた。Dらが原告に対して事情聴取を行ったところ,原告は,当初は本件事件について関与を否定したが,最終的には自身の犯行であることを認める供述を行った。Dらは原告に対してA警察署への任意同行を求め,原告は,任意同行に応じたが,パトカーに乗車する直前,警察官やFが見ている前で,自身の財布を地面に投げ付けながら,「弁償したらええんやろ。」と述べた。


Bは,A警察署において,原告に対して供述拒否権を告げた上で取調べ(本件第1取調べ)を開始し,他の警察官から原告が本件事件について自身の犯行であると認めている旨聞いていたことなどから,「やったのは自分で間違いないか。」と問いただしたところ,原告は,Bに対し,「やった記憶がない。」と否認し,本件事件についてあいまいな供述を繰り返した。しかしながら,Bが,原告に対し,自ら確認した現場の状況やFの供述,原告のLINEによる知人女性とのやり取りの履歴などの捜査結果を基に追及を続けたところ,原告は,知人女性とのトラブルが原因でむしゃくしゃしてFの車にブロックを投げたと認めた。そのため,Bが,その旨の供述調書を作成し,原告に読み聞かせを行い,原告は,その内容に誤りがない旨を申し立てて署名指印を行い,本件第1取調べは終了した。ウ
本件第1取調べの様子は前記イのとおりであり,Bが原告を恫喝したり,原告が,取調べ中に体調不良を申し出たり,取調べを拒否して退室を申し出たりしたことはない。本件第1取調べは,平成27年10月19日午前1時48分頃から午前4時27分頃まで行われたが,本件事件が深夜に発生し,原告が否認や不合理な弁解をしていたこと,当直体制の限られた人員で事案処理に当たっていたことからすれば,取調べの時間帯や長さが不当であるとはいえない。
したがって,本件第1取調べの過程に何ら違法な点はない。

(2)

本件第2取調べの違法性

(原告の主張)

原告は,A警察署の警察官から連絡を受け,平成27年11月27日午前10時頃,A警察署に出頭した。原告は,A警察署の警察官から取調べを受けた際,警察官から,「逮捕されんぞ,お前」,「眠たいこと言うたら,あかんのや」,「何今ごろになって眠たいこというとんじゃ,お前」,「そんな眠たい話は聞かれへん」,「お前なめてんのか,お前,警察。嫌がらせしてんのか。」,「当然じゃ,アホ」,「二度とブロック投げません言うんは,ブロック投げたこと認めてんのと一緒じゃ,アホ。」,「それでなんで反省できへんのじゃ,アホ。」,「そんなんで国家公務員になれるんかいや。そんな反省もできん人間が。」,「わしらとタイタイの公務員になれんかいや。えーっ,こらあー。」などと大声で恫喝されるなどされた。

警察官が,原告に対し,密室において,恫喝し,高圧的な態度で取調べを行い,大声で怒鳴り付けたり,侮辱したりするような前記アの発言を行ったことは,国家賠償法1条1項上の違法があるというべきである。
(被告の主張)

本件事件については,Fが示談の成立により被害届を取り下げ,訴訟条件を欠くこととなったため,A警察署は,必要最小限の捜査で検察庁に送致する方針とし,原告の身上に関する取調べや証拠品であるブロック片の所有権放棄に関する書類の作成等が未了であったことから,原告に対する取調べを平成27年11月27日に行うこととした。


BやCが本件第2取調べにおいて原告に対し前記(原告の主張)アのとおりの発言を行ったことは認める。
原告は,本件第2取調べにおいて,録音していることを意識してあえて冷静に挑発するような供述を行い,BやCが,原告に対し,その挑発に乗って不相当な発言をしてしまったことは事実である。しかしながら,BやCは,原告に対し,侮辱したり無理やり犯行を認めさせようとしたりしたわけではなく,原告が本件第1取調べの際に作成した供述調書の内容を否定して犯行を否認し,不合理な理由を付けて示談成立に関する調書やブロック片の所有権放棄書への署名に応じようとしない不誠実な態度に苦言を呈し,反省を促す趣旨で前記のような発言を行ったのである。
したがって,BやCの前記の各発言に違法性があったとまでいうことはできず,仮に違法性があったとしても,非常に軽微である。

(3)

損害の発生及びその額

(原告の主張)

原告は,前記(1)及び(2)(原告の主張)記載のとおり,本件第1取調べにおいては長時間にわたって恫喝され続けて自白調書に署名指印をさせられ,本件第2取調べにおいては侮辱的な言葉を言われたり恫喝され続けたりした。これら違法な取調べの結果,原告は,多大な精神的苦痛を受け,不安抑うつ状態と診断され,就労できない状態に陥った。また,原告は無実であるにもかかわらず,違法捜査の結果,起訴猶予処分とされ,精神的苦痛を受けた。
以上の精神的苦痛を慰謝するためには,金銭に評価するとすれば,200万円の慰謝料が相当である。


原告は,本件訴訟のための弁護士費用として,前記アの慰謝料相当額200万円の一割である20万円を要したため,同額の損害を受けた。

したがって,原告には,A警察署の警察官の違法な取調べによって,合計220万円の損害が生じた。

(被告の主張)

前記(1)及び(2)(被告の主張)のとおり,本件取調べは違法ではなかったから,原告に精神的損害が生じたということはできない。


原告は,平成25年4月12日から,Gクリニックに通院し,「適応障害,混合性不安抑うつ状態,不眠症」の診断を受け,本件第1取調べの直前まで治療を受けており,本件取調べの後のHクリニックにおける原告の診断や治療はGクリニックにおける診断や治療と変わりはないから,原告の不安抑うつ状態が本件取調べによって生じたものということはできない。また,原告は,本件取調べの前である平成27年8月31日の診療録(乙4・13頁)には「収入0」と記載されているから,本件取調べの前から仕事をしていなかったことが推測される。
したがって,原告の疾病と本件取調べとの間に因果関係はない。

第3

争点に対する判断
1
認定事実
前記争いのない事実等,証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認定できる(認定根拠は,各事実の末尾に記載している。)。
(1)

原告は,平成27年10月18日午後11時25分頃,本件マンションの
外で電話をしていた際,Fから,「俺の車に傷をつけたやろ。」などと声を掛けられた。原告はFに対して「知らないです。」などと答えたところ,言い争いになり,原告はその眼鏡を地面に投げ付けた。Fは,警察に対し,本件自動車に石をぶつけられたとして110番通報を行った。(甲7,12・2頁,乙3,原告本人調書4頁,5頁,証人B調書1頁,2頁)
(2)

A警察署の警察官であるBは,Fの110番通報を受けて他の警察官と
ともにパトカーで現場に向かい,現場に到着したときには,既にA警察署の地域課員の警察官であるD及びEが原告及びFに対する事情聴取を始めていた。Bは,本件自動車並びにその近くに落ちていたブロック片及び原告の眼鏡の写真撮影を行った。(証人B調書1頁,2頁,弁論の全趣旨)(3)

Bは,Dらから,原告が本件事件について自認に転じているとの報告を
受けて,原告に対してA警察署への任意同行を求め,原告からその同意を得て,原告を乗車させてパトカーでA警察署へ移動した。原告は,Dらによる事情聴取が開始されてからパトカーに乗車するまでの間に,「ガラスぐらい買うたるわ。」などと述べて,自らの財布を地面に投げ付けた。(証人B調書1頁~3頁,17頁~19頁,原告本人調書4頁~6頁,17頁)(4)

Bは,同月19日午前1時48分頃から午前4時27分頃まで,A警察
署の取調室において,原告に対し,黙秘権及び弁護人選任権を告げた上で,取調べ担当者として本件第1取調べを行った。Bは,本件第1取調べの最中,Fに話を聞いたり,本件自動車の写真を撮影したりするために取調室を離れることがあり,実際に取調べを行っていたのは約2時間程度であった。Bは,本件第1取調べの際に,原告から,Gクリニックに通院していること,精神疾患を有していることを聞いた。
原告は,本件第1取調べにおいて,本件事件についてやった記憶がない旨を当初述べていたが,Bからの追及を受けて,本件自動車にブロック片を投げ付けた旨述べた。Bは,原告が本件自動車にブロック片を投げ付けた旨の供述調書を作成して原告に読み聞かせを行い,原告は,同調書に署名指印を行った。(甲11,証人B調書3頁~12頁,19頁~26頁,29頁,30頁,原告本人調書12頁)
(5)

原告の父は,同月26日頃,Fに対し本件事件についての示談金を交付し,
Fとの間で示談を成立させた(証人B調書12頁,原告本人調書18頁,弁論の全趣旨)。
(6)

原告は,同年11月初め頃,知り合いの弁護士に警察から取調べを受け
たことについて相談し,取調べの際に録音の機械を持っていくことについてアドバイスを受けた(原告本人調書22頁,23頁)。
(7)

Bは,Fから本件事件について示談が成立した旨の連絡を受け,原告の身
上経歴及び示談成立についての供述調書,ブロック片の所有権放棄の書面を作成するために,原告に出頭を求め,原告は,同月27日にA警察署に出頭した(証人B調書12頁,13頁,弁論の全趣旨)。
(8)

B及びCは,同日,A警察署において,原告に対する本件第2取調べを行
った。原告は,本件第2取調べが行われている間,録音機によって原告,B及びCの発言内容等を録音していたが,B及びCは,原告が録音機を持ち込んで発言内容を録音していることを知らなかった。
Bは,原告に対し,ブロック片で本件自動車を傷付けたことに間違いはないこと,Fとの間で示談が成立したが,警察やFなどに迷惑を掛けたことを反省しているということを内容とする供述調書への署名を求めたが,原告は,ブロック片で本件自動車に傷を付けたことはない,示談は原告の父が勝手にやったことであるなどと述べて供述調書への署名を拒んだ。B及びCは,原告に対し,「逮捕されんぞ,お前」,「眠たいこと言うたら,あかんのや」,「何今ごろになって眠たいこというとんじゃ,お前」,「そんな眠たい話は聞かれへん」,「お前なめてんのか,お前,警察。嫌がらせしてんのか。」,「当然じゃ,アホ」,「二度とお前ブロック投げません言うことは,ブロック投げたこと認めてんのと一緒じゃ,アホ。」,「それでなんで反省できひんのじゃ,アホ。」,「そんなんで国家公務員になれるんかい。お前,そんな反省もできん人間が。」,「わしらとタイタイの公務員になれるんかいや。」,「おお,こらあー。」などと大声で述べ,本件事件を起こしたことを反省するように求め,前記供述調書への署名を重ねて求めた。
原告は,身上経歴に関する供述調書及びブロック片についての所有権放棄書についてはBからの読み聞かせを受けた上で署名したが,示談成立に関する前記供述調書については署名を拒否したまま,本件第2取調べは終了した(甲4,5,乙1,証人B調書13頁~16頁)。
(9)

原告は,同年12月14日,本件事件について,親告罪の告訴の欠如を
理由として起訴猶予処分を受けた(弁論の全趣旨)。
2
争点(1)(本件第1取調べの違法性)について
(1)ア

原告は,Bが,本件第1取調べにおいて,原告の言い分や弁解を全く聞かないまま,十分な捜査もせずに原告を本件事件の犯人であると決め付けて恫喝を続け,自白調書への署名指印を強要した旨主張し,これに沿う供述をする(原告本人調書6頁~16頁)。


確かに,本件マンション近くで防犯カメラを設置していた株式会社Iの従業員による報告書(甲6)によれば,A警察署の警察官は,本件事件発生当時の防犯カメラの映像を確認しなかったこと,前記認定事実(4)のとおり,原告は本件第1取調べの際に本件事件の犯人であることを認める旨の供述調書に署名指印をしたことが認められる。


しかしながら,前記認定事実(1)から(4)までのとおり,本件第1取調べが行われたのは本件事件の発生から間もないときであり,事件の発生が深夜であって人通りの少ない時間帯であったことに鑑みれば,近くにブロック片が落ちていた本件自動車のすぐ近くにいて,Fが同車に傷を付けた犯人と疑っている原告について,警察官が取調べを行うことが必要性がない,又は相当性を欠くと評価することはできない。そして,警察官が,防犯カメラ映像の確認を行わなかったことについては,原告が本件第1取調べの際には本件事件の犯人であることを認めていたこと,本件事件が自動車に対する器物損壊という重大とは必ずしもいえないものであったことに鑑みれば,必要不可欠な捜査を欠いたと評価することはできないし,少なくとも本件第1取調べの時点で原告の取調べを先行させたことが不当ということはできない。
そうすると,A警察署の警察官が原告の取調べを行うに当たり,十分な捜査を行わなかったと認めることはできない。

本件第1取調べの具体的な態様については,内容に食い違いがある原告の前記アの供述とBの供述(証人B調書3頁~12頁)の他に直接の裏付けとなる証拠はないが,前記認定事実⑻,甲第4号証及び乙第1号証によれば,Bは,本件第2取調べにおいては,原告に対し,身上や示談の内容等について聴取及び確認を行い(乙1・1頁~23頁),作成した供述調書の内容について読み聞かせをした上で署名指印を求め(乙1・34頁~36頁),原告が納得しない箇所については内容の訂正を行おうとしたこと(乙1・42頁,43頁)が認められる。Bは,本件第2取調べが原告によって録音されていたことは知らなかったのであって,本件第1取調べの際と異なる態度を取っていたとは考え難いから,本件第1取調べに際しても同様の姿勢で取調べに臨んでいたと認めるのが相当である。
そうすると,Bが,本件第1取調べにおいて,原告の言い分や弁解を一切聞かず,犯人と決め付けて恫喝を続けたとの原告の前記供述は信用し難く,採用することはできない。

(2)

したがって,原告の前記アの主張を採用することはできない。
原告は,本件第1取調べが平成27年10月18日の深夜から同月19日
の早朝にかけての長時間にわたって行われており違法である旨主張し,確かに,前記認定事実(4)のとおり,本件第1取調べは同日午前1時48分頃から午前4時27分頃まで約2時間半にわたって行われたことが認められる。しかしながら,前記認定事実(1)のとおり,本件事件についての110番通報がされたのは同月18日午後11時25分頃という深夜であったことが認められるところ,事件の覚知後できるだけ速やかに取調べを行うことには捜査上の必要性や合理性があるといえ,取調べの時間帯が深夜であったからといって本件第1取調べが直ちに違法であると認めることはできない。また,前記認定事実(4)のとおり,原告は,本件第1取調べにおいて,本件事件について記憶がない旨を述べて当初は否認していたが,Bの追及を受けて自白するに至ったのであって,本件第1取調べが本件事件直後の初回の取調べであったこと,原告に対する説得等の必要性があったことに鑑みれば,取調べがある程度長時間に及ぶことはやむを得ない面があったと認められる。加えて,Bは,取調べの途中でFに話を聞くなどのために取調室を離れることもあったのであって,原告から精神疾患を有していることを聞き,慎重な取調べが要請されていたということも併せ考えれば,深夜であったとはいえ,約2時間半という取調べの時間が不当に長時間であり,違法であるとは認められない。
したがって,原告の前記主張を採用することはできない。
(3)

以上によれば,Bによる本件第1取調べが違法であったと認めることは
できない。
3
争点(2)(本件第2取調べの違法性)について
(1)

犯罪捜査規範167条4項は,警察官が被疑者の取調べを行うに当たっては,言動に注意し,相手方の年齢,性別,境遇,性格等に応じ,その者にふさわしい取扱いをする等その心情を理解して行わなければならないと定めている。警察官は,被疑者の取調べに当たって,不合理な弁解等を行う被疑者を説得し,反省を促すために,厳しい言い方などをしなければならないことがときにあることは否定し難いが,そのような場合であっても,逮捕権等の強制力のある公権力を背景とする自らの立場を自覚し,相手方の人格を損なうことのないよう,取調べの目的や必要性に照らして相当といえる限度で取調べを行うことが義務付けられているというべきである。そして,警察官が,前記の義務に違反したときは,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けると解するのが相当である。
(2)

前記認定事実(7)及び(8)のとおり,B及びCは,本件第2取調べにおいて,
原告に対し,本件事件を起こしたこと,Fとの示談の成立及びFなどに迷惑を掛けたことを反省していることなどを内容とする供述調書への署名を原告が拒んだことについて,反省もできん人間,逮捕されるぞ,アホなどと大声で申し向けるなどし,前記供述調書に署名することを重ねて求めたことが認められる。
前記認定事実(7)及び(9)のとおり,本件第2取調べの時点では,本件事件は,示談の成立によって,訴訟条件であるFからの告訴を欠き,起訴猶予処分で終わることが予定されていた状況にあったが,事件の経緯等を明らかにするためには前記供述調書を作成する必要があったということができ,B及びCは,前記供述調書への署名を拒む原告に対し,その理由を聴取し,調書の作成に向けて説得する必要があったことは認めることができる。しかしながら,既に終局結果自体は変わり難い状況にあったのであって,前記供述調書を作成する必要性が高度のものであったとはいい難い。また,前記のような取調べの態様は,原告に対して逮捕の可能性を匂わせて威圧するとともに罵声を浴びせるものであって,取調べの相手方を不当に抑圧することによって取調官の望む答えを引き出そうとするものであり,理由の聴取や説得の方法として合理的とはいえず,かえって事実をねじ曲げかねないおそれがあるものというべきである。B及びCとしては,原告に対し,前記供述調書への署名を拒む理由を聞き,署名するように理性的に説得した上で,それでも署名に応じようとしないのであれば,既に終局結果は予定されていたのであるから,原告が署名を拒む理由等を供述調書として残すなどして取調べを終えることが妥当であったと考えられる。
したがって,B及びCによる本件第2取調べは,公権力を背景にする警察官の取調べとしてその必要性に照らして相当であったということはできず,前記(1)で説示した義務に違反する違法な取調べであると評価するのが相当である。
(3)

これに対し,被告は,原告が,本件第2取調べにおいて,BやCをあえ
て挑発し,不合理な弁解や不誠実な態度を取ったことから,BやCは原告の反省を促すために不相当な発言を行ってしまったのであって取調べが違法とまではいえない旨主張する。
しかしながら,反省を促すためであるからといって,取調べの相手方に対して罵声を浴びせる等の行為が許されるわけではなく,また,それらの行為が反省を促すために効果的であるともいうことはできないから,前記⑵で認定説示したとおり,取調べの方法として必要性に照らして相当であったとは認められない。
したがって,被告の前記主張を採用することはできない。
(4)

以上によれば,B及びCの本件第2取調べは違法と認められるから,B及
びCが所属する被告は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づく責任を負う。
4
争点(3)(損害の発生及びその額)について
(1)

甲第12号証によれば,原告は,本件第2取調べ後である平成28年2月4日から同年10月29日まで,本件第2取調べに起因する恐怖感等を訴えてHクリニックに通院し,同年2月18日には不安抑うつ状態との診断を受けたことが認められる。他方,乙第4号証によれば,原告は,平成25年4月12日以降,Gクリニックに通院し,同月頃,混合性不安抑うつ状態との診断を受けていたことが認められる。これらに鑑みると,原告が本件第2取調べ後に診断を受けた不安抑うつ状態が本件第2取調べのみに起因すると認めることはできないが,原告は,本件第2取調べによって恐怖等を感じ,病院に通院する必要が生じたものと認められる。
(2)

前記(1)のほか,本件第2取調べの態様や経緯,原告のその後の生活状況等,その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,本件第2取調べによって原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては,30万円が相当である。
(3)

本件事案の性質,内容及び認容額等に鑑みると,本件第2取調べと相当因果関係のある損害としての弁護士費用は,3万円と認めるのが相当である。
(4)
第4

したがって,原告は,被告に対し,33万円の損害賠償請求権を有する。結論
以上によれば,原告の請求は主文第1項の範囲で理由があるからその限度で
認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第22民事部

裁判長裁判官

北川
裁判官

新海清寿加子
裁判官

道垣内正大
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