判例検索β > 平成28年(ワ)第3609号
協定遵守請求事件
事件番号平成28(ワ)3609
事件名協定遵守請求事件
裁判年月日平成29年10月27日
法廷名名古屋地方裁判所
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平成29年10月27日判決言渡
第3609号
口頭弁論終結日

協定遵守請求事件

平成29年7月28日
判決主文1
原告の主位的請求をいずれも棄却する。

2
被告が原告に対し,別紙協議目録記載1⑵の事項について,協議に応ずる義務を負うことを確認する。

3
原告のその余の予備的請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求

1
主位的請求


被告は,原告と,別紙協議目録記載1の事項について同目録記載2の態様において,協議に応ぜよ。


2
訴訟費用は被告の負担とする。
予備的請求



被告が原告に対し,
別紙協議目録記載1の事項について同目録記載2の態様
において,協議に応ずる義務を負うことを確認する。



訴訟費用は被告の負担とする。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,愛知県知多半島東部海域に漁業権を有する漁業協同組合である原告が,電気事業を営む株式会社であり,A火力発電所及びB火力発電所を保有,運転している被告に対し,
①B火力発電所及びA火力発電所の運転による水温の上昇及び排出される塩素の影響で近年,原告の漁獲量が減少し,原告に損害が発生している,
②次期石炭灰処分場の建設計画及びA火力発電所の建て替え計画による海水温上昇等により原告の操業に重大な影響を及ぼすことが予想されると主張して,
①につき原告と被告との間で平成9年に締結された協定書6条3項及び7条に基づき,②につき同協定書7条に基づき,主位的に,原告と別紙協議目録記載1の事項について同目録記載2の態様において協議することを求め,予備的
に,被告が原告に対し同協議に応ずる義務を負うことの確認を求める事案である。
2
前提事実(争いのない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨より容易に認められる事実)


原告は,
愛知県知多郡C町海岸から沖の海域を漁場とする漁業協同組合である(甲1,争いのない事実)。原告が漁業権を有する海域は,別紙「被告の火力発電所と原告の漁業権域との位置関係」のとおりである(甲3,争いのない事実)。



被告は,電気事業を営む株式会社であり,A火力発電所及びB火力発電所を保有,運転している(甲2,争いのない事実)。



原告は,平成9年12月1日,被告との間で,被告のA火力発電所5号機及びB火力発電所4・5号機の建設,操業に関する協定書(以下「本件協定書」という。)を締結した。なお,本件協定書の前文,1条,6条3項及び7条の規定は,以下のとおりである。(甲4の1,争いのない事実)

前文
原告(以下甲という。)と被告(以下乙という。)は,乙のA火力発電所5号機ならびにB火力発電所4・5号機(以下総称して発電所という。)の建設および操業(以下乙の事業という。)に関して,次のとおり協定を締結する。


1条
甲は,乙が乙の事業を実施することについて同意し,これに伴う乙の次の行為を了承するものとする。



乙の事業の実施に伴う海域における浚渫等の行為。



発電所の冷却水の取水・放水。



発電所の関係船舶の航行・停泊等の行為。



発電所の操業開始前後に行う「海域のモニタリング調査」



発電所およびその他海上工作物を含む関連施設の建設および運営。
その他乙の事業の実施に必要となる一切の行為。
6条3項
乙は,万一,乙の事業に関し乙の責に帰すべき事故等により甲または甲の
組合員の営む漁業に損害を与えた場合は,
甲または甲の組合員と誠意をもっ
て協議し,その損害を賠償するものとする。

7条
この協定について疑義が生じたとき,
または定めのない事項が生じたとき
は,甲乙双方誠意をもって協議し解決するものとする。



原告は,平成9年12月1日,被告との間で,本件協定書に付随する確認書(以下「本件確認書」という。)及び覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した(甲4の2・3,争いのない事実)。



被告は,平成18年2月2日,本件協定書締結当時に建設が計画されていた石油を使用燃料とするA火力発電所5号機
(以下
「A火力発電所5号機
(石油)

という。)の建設を中止することを公表した(甲12,弁論の全趣旨)。一方,B火力発電所4・5号機は,建設され,操業を開始した。



A火力発電所2号機は,平成21年7月から約2年間運転を停止していたが,平成23年7月31日,運転を再開した(争いのない事実)。


被告は,平成26年4月16日,次期石炭灰処分場の建設計画(D1号地最終処分場。以下「次期石炭灰処分場建設計画」という。)を公表した(甲5の1,争いのない事実)。次期石炭灰処分場の設置位置は,別紙「次期石炭灰処分場位置図」のとおりである(甲5の2,甲15,争いのない事実)。⑻

原告は,平成26年11月14日,被告に対し,原告の漁獲量等の減少とB火力発電所及びA火力発電所の操業との関連性並びに次期石炭灰処分場建設計画の原告の操業への影響の有無及び程度について協議を申し入れた(甲7の
1,争いのない事実)。これに対し,被告は,平成26年12月5日,原告に対し,
原告との協議に応ずる意思がないことを伝えた
(甲8,
争いのない事実)




被告は,平成27年2月6日,A火力発電所の開発計画(以下「A火力リプレース計画」という。)を公表した。その内容は,既設の2ないし4号機を廃止・撤去し,廃止済みの1号機を撤去し,平成33年度の営業運転開始を目指して,石炭火力発電設備であるA火力発電所5号機(以下「A火力発電所5号機(石炭)」という。)を新設するというものであった。(甲6,争いのない事実)


原告は,平成27年7月16日,被告に対し,再度,

協議に応ずる

よう求めた(甲10,争いのない事実)。これに対し,被告は,平成27年7月28日,原告に対し,原告との協議に応ずる意思がないことを伝えた(甲11,争いのない事実)。
3
争点


B火力発電所及びA火力発電所の運転により損害が発生したことを理由とする本件協定書6条3項及び7条に基づく協議義務の有無



次期石炭灰処分場建設計画についての本件協定書7条に基づく協議義務の有無



A火力リプレース計画についての本件協定書7条に基づく協議義務の有無4
争点に関する当事者の主張


争点⑴
(B火力発電所及びA火力発電所の運転により損害が発生したことを理由とする本件協定書6条3項及び7条に基づく協議義務の有無)について(原告の主張の要旨)

本件協定書に基づく協議対象について
原告及び被告が本件協定書を締結した平成9年12月1日当時,
既にA火
力発電所1ないし4号機及びB火力発電所1ないし3号機は稼働していたところ,これに加えて,A火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機を建設するに際して結ばれたのが本件協定書である。したがって,本件協定書で対象になったのは,直接的には「A火力発電所5号機ならびにB火力発電所4・5号機の建設および操業」であるが,本件協定書を締結した平成9年当時操業していたA火力発電所1ないし4号機及びB火力発電所1ないし3号機からの増設については,
広く本件協定書の対象となると解す
べきである。したがって,A火力発電所及びB火力発電所の建設及び操業に関する事項は広く本件協定書に基づく協議の対象である。


本件協定書6条3項又は7条の要件該当性
原告の漁業海域は,
被告の運転するB火力発電所及びA火力発電所と近接
しているため,原告の操業は上記発電所の運転の影響を受けやすい。また,原告は主に貝類等の底生生物を対象に操業しているところ,
アサリ,
トリ貝,
バカ貝等の二枚貝の底生生物は,
海水温の影響を受けやすいという特徴があ
る。そして,実際に,近年,原告の漁獲量は減少してきており,特に主要な漁獲物であるアサリ,トリ貝等の減少は著しい。その原因としては,A火力発電所2号機の操業再開により大量の塩素注入,
近海への大量の塩素の放出
がされ,アサリの稚貝を死滅させたということが考えられる。
また,原告における近年のアサリ,トリ貝等の漁獲量の不振の原因は,A火力発電所及びB火力発電所の操業による温排水による海水温の上昇及び排出される塩素による影響であることが強く疑われる。
原告の平成2年から平成26年までの中期的な漁獲量の推移を見ると,近
年著しく減少しており,
特に平成9年以降のトリ貝やアサリの漁獲量の減少
が著しい。この漁獲量の減少傾向は,A火力発電所及びB火力発電所の温排水の影響によるものと考えられると同時に,
平成23年度が著しく減少して
いる原因としては,
A火力発電所2号機の操業再開及びB火力発電所のフル
稼働運転が考えられる。
本件協定書6条3項は,「乙(被告)の責に帰すべき事故等により甲(原告)または甲の組合員の営む漁業に損害を与えた場合は,甲または甲の組合員と誠意をもって協議し,その損害を賠償するものとする。」と規定し,本件協定書7条は,「この協定について疑義が生じたとき,または定めのない事項が生じたときは,甲乙双方誠意をもって協議し解決するものとする。」と規定している。そして,原告に既に発生した損害について,「被告の責に帰すべき事故等によ」るものである「疑義」があるから,本件協定書6条3項及び7条の要件に該当し,被告には協議に応ずる義務がある。
(被告の主張の要旨)

本件協定書に基づく協議対象について
本件協定書前文によれば,
「A火力発電所5号機ならびにB火力発電所4・
5号機の建設および操業」が協議の対象であるから,A火力発電所及びB火力発電所の建設及び操業に関する事項が広く本件協定書に基づく協議の対象となるわけではない。


本件協定書6条3項又は7条の要件該当性
被告は,A火力発電所5号機及びB火力発電所4・5号機の建設・操業に関して,被告の責に帰すべき事故等を生じさせ,それによって原告又は原告の組合員の営む漁業に損害を与えたことは一度もない。
また,
A火力発電所2号機の操業再開により温排水の排出量が著しく拡大し,従来にも増して海水温の上昇が生じたことはなく,大量の塩素を注入したこともない。したがって,被告は,A火力発電所2号機の運転再開も含めて,被告の責に帰すべき事故等を生じさせたことはなく,それによって原告又は原告の組合員に損害を生じさせたことはない。よって,本件協定書6条3項の「損害」が発生していない以上,本件協定書7条に規定する「疑義」も生じない。被告は,原告に対し,本件協定書及び本件覚書に基づき,A火力発電所及びB火力発電所が定格出力(認可された最大出力)で継続運転した場合の温排水拡散による影響・評価を踏まえた内容の補償を行っているため,
A火力発電所及びB火力発電所の操業で通常想定される温排水拡散による原告への影響に対しては既に補償済みであり,
被告の責に帰すべき事故等
が生じていない以上は,本件協定書6条3項にいう損害は生じていない。以上より,被告には,B火力発電所及びA火力発電所の運転により損害が発生したことを理由とする本件協定書6条3項及び7条に基づく協議義務はない。


争点⑵
(次期石炭灰処分場建設計画についての本件協定書7条に基づく協議義務の有無)について
(原告の主張の要旨)

本件協定書に基づく協議対象について
本件協定書に基づく協議の対象は,
平成9年当時存在していた火力発電所
に対して,新たな建設,操業がされる際の事柄を含むと解されるから,次期石炭灰処分場建設計画は本件協定書に基づく協議の対象に含まれる。また,被告は,次期石炭灰処分場は,B火力発電所1ないし3号機からの石炭灰を処分するものであって,B火力発電所4・5号機から生じる石炭灰は処分の対象になっていないと主張するが,
被告から出された次期石炭灰処分場建設
計画についてのプレスリリースにおいては,
建設予定の次期石炭灰処分場で
は,B火力発電所の1ないし3号機から生ずる石炭灰のみが処分され,4・5号機から生ずる石炭灰は処分されていないという区別は全くされておらず,関係地域住民に配布された平成28年10月22日付けの「D1号地最終処分場設置計画のあらまし」(甲15)にも,B火力発電所の1ないし3号機と4・5号機を区別する記載はない。これらの事情からすれば,次期石炭灰処分場で処分される石炭灰が,
B火力発電所の1ないし3号機のみを対
象とし,4・5号機から生ずる石炭灰は除外されているという事実はなく,B火力発電所4・5号機から生ずる石炭灰も次期石炭灰処分場で処分されるはずである。
被告が愛知県知事に対して提出した産業廃棄物処理施設設置許可申請書に添付された生活環境影響調査書には,
B火力発電所を今後も安定的に運転
していくためには継続的に自社処分場を確保する必要があることから次期石炭灰処分場の建設を計画した旨が記載されており,この目的は,石炭灰がB火力発電所1ないし3号機から排出されたものか,B火力発電所4・5号機から排出されたものかにかかわらず当てはまる。さらに,B火力発電所の1ないし5号機の年間の石炭使用料の割合からすると,
上記各発電所から排
出される石炭灰の半分程度はB火力発電所4・5号機由来のものといえる。また,
上記設置許可申請書に添付された埋立計画に記載されている年間の埋立量からしてもB火力発電所4・5号機由来の石炭灰等の埋立てが想定されているものと考えられる。
被告は,本件協定書締結当時のB火力発電所4・5号機の環境影響評価手続においても,石炭灰の扱いについての地元関係者の意見に対し,B火力発電所4・5号機で発生する石炭灰は,原則として全量セメント原料等に有効利用する計画になっており,埋立処分する計画はないと説明した旨主張する。しかし,上記の地元関係者に対する説明は,当時の被告の計画や想定を説明したにすぎず,実際にB火力発電所4・5号機から発生する石炭灰が埋め立てられていなかったことを示すものではない。
また,
「原則として全量」
有効利用する計画というにとどまり,
確実に全量有効利用するとはされてお
らず,実際にB火力発電所4・5号機から排出される石炭灰が全量有効利用されたとは限らない。
次期石炭灰処分場で受入れが予定されている産業廃棄
物の種類は,
「ダスト類(フライアッシュ)」
「燃え殻(クリンカアッシュ,
パイライト)」といったセメント原料やコンクリート混和材に再利用される石炭灰のみならず,「汚泥」や「第13号廃棄物(汚泥固化物)」も含まれているのであり,仮に,B火力発電所4・5号機から排出されるフライアッシュやクリンカアッシュが全て埋立処分以外に有効利用されるとしても,汚
泥や汚泥固化物はなお次期石炭灰処分場で処分されることになる。このこと
は,
被告がA火力リプレース計画の環境影響評価手続においてB火力発電所4・5号機からの排出物も発電所の最終処分場に埋立処分していることを認めていることからも明らかである。したがって,客観的な行為としては,B火力発電所4・5号機から排出された石炭灰もB火力発電所1ないし3号機から排出された石炭灰とともに埋立処分場に埋め立てられており,今後,次期石炭灰処分場に埋め立てられることも想定されている。
さらに,被告は,B火力発電所1ないし3号機とB火力発電所4・5号機の石炭灰処理設備を比較して,B火力発電所4・5号機は石炭灰を埋立処分することを想定した設備設計になっていないと主張する。しかし,上記の設計の違いは,B火力発電所1ないし3号機では,当初から一定量の石炭灰を直接灰捨地に運ぶ設計になっているのに対し,
B火力発電所4・5号機では,
当初から一定量の石炭灰を直接灰捨地に運ぶ設計となっていないという石炭灰の処理に関する取扱いが異なることを示すにすぎず,B火力発電所4・5号機から排出される石炭灰が埋立処分されないことを示すものではない。以上より,B火力発電所4・5号機から排出される石炭灰も埋立処分されており,次期石炭灰処分場建設計画は,B火力発電所4・5号機の操業に直結する事項であるから,本件協定書に基づく協議の対象に当たる。イ
本件協定書7条の要件該当性
本件協定書7条の要件に該当するためには,
「疑義」や「定めのない事項」
が生じていることが必要である。次期石炭灰処分場建設計画は,本件協定書締結当時は想定されていなかったものであるから,「定めのない事項」に該当することは明らかである。また,仮にB火力発電所4・5号機から生ずる石炭灰は,
次期石炭灰処分場での処分の対象になっていないという被告の主
張を前提としたとしても,上記処分の対象になっているか否かについて「疑義」があるといえる。
したがって,本件協定書7条の要件に該当し,被告には協議に応ずる義務がある。
(被告の主張の要旨)

本件協定書に基づく協議対象について
本件協定書の目的がA火力発電所5号機及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業(運転)に関する原告及び被告の合意であることを踏まえると,本件協定書7条に基づく協議義務は,A火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業(運転)に関する事項に限定され,次期石炭灰処分場建設計画に関する事項は,その対象とはならない。
本件協定書締結当時のB火力発電所4・5号機の環境影響評価手続において,石炭灰の扱いについての地元関係者の意見に対し,B火力発電所4・5号機で発生する石炭灰は,
原則として全量セメント原料等に有効利用する計
画になっており,埋立処分する計画はない旨を説明している。また,B火力発電所の1ないし3号機と4・5号機の石炭灰処理設備を比較すると,B火力発電所4・5号機は石炭灰を埋立処分することを想定した設備設計とはなっておらず,発生する石炭灰は,セメント原料等に有効利用するために,石炭灰を貯蔵する「灰貯蔵サイロ」等から直接運搬車等へ移し,発電所構外へ運び出している。このように,本件協定書締結当時のB火力発電所4・5号機の環境影響評価手続や石炭灰処理設備に鑑みても,B火力発電所4・5号機から発生する石炭灰は原則として全て売却等して有効利用しており,埋立
処分することがないことは明らかであり,
次期石炭灰処分場建設計画はB火
力発電所4・5号機の操業と関連性を有するものではない。
したがって,
次期石炭灰処分場建設計画は本件協定書に基づく協議の対象
ではない。

本件協定書7条の要件該当性
本件協定書7条では,本件協定書について「疑義」又は「定めのない事項」が生じたときは,
原告被告双方誠意をもって協議し解決するものとされてい
る。そして,B火力発電所4・5号機は事故等を生ずることなく操業しており,何ら「疑義」や「定めのない事項」はない。また,一般的に,契約は一定の目的をもって締結され,
契約内容は当該目的を達成するために定められ
ていることを踏まえると,当該契約の各規定は,契約締結の目的の範囲内で効力を有すると考えるべきであり,
本件協定書の目的がA火力発電所5号機
(石油)及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業に関する原告及び被告の合意であることを踏まえると,本件協定書7条に基づく協議義務は,A火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所の建設及び操業自体に関する事項に限定され,一方当事者が何らかの疑義を持ったからといって,無限定に他方当事者が協議義務を負うことにはならない。したがって,被告は原告に対し,本件協定書7条に基づく協議義務を負わない。



争点⑶
(A火力リプレース計画についての本件協定書7条に基づく協議義務の有無)について
(原告の主張の要旨)

本件協定書に基づく協議対象について
A火力リプレース計画は,
既設のA火力発電所2ないし4号機及び廃止済
みの1号機を撤去し,新たに石炭を燃料とするA火力発電所5号機(石炭)を新設するという計画であるのに対し,
本件協定書締結当時に想定していた
「A火力発電所5号機」は,石炭を燃料とするものではなく,石油を燃料とするものであった。しかし,本件協定書で「A火力発電所5号機」の建設及び操業に関して協議事項を定めたのは,
A火力発電所5号機の建設及び操業
に関して原告が漁業権を有する海域に悪影響が生じるおそれを想定してのことである。そして,本件協定書締結当時に想定していたA火力発電所5号機(石油)とA火力リプレース計画におけるA火力発電所5号機(石炭)は,燃料が石油か石炭かという違いはあるが,
建設予定場所については原告が漁
業権を有する海域に隣接するという点で同じであるから,両者は,当該発電所の建設及び操業により原告が漁業権を有する海域に悪影響が生じるおそれがあるという点で同様であり,
本件協定書で協定事項を定めた趣旨がA火
力発電所5号機(石炭)にも妥当する。
また,
本件協定書は従前の火力発電所設備の大幅変更を想定して締結されたのである。そして,全く新しい計画であれば,被告も「A火力新発電所」「A火力発電所新1号機」と名付ければ足りるところ,従前のA火力発電所1ないし4号機を前提として,「5号機」と名付けていることは,従前の1ないし4号機を前提として「5号機」を追加新設するという認識を有していることを示すものである。
以上より,A火力リプレース計画は本件協定書に基づく協議の対象である。

本件協定書7条の要件該当性
本件協定書7条の要件に該当するためには,
「疑義」や「定めのない事項」
が生じていることが必要である。そして,A火力リプレース計画は,本件協定書締結当時は想定されていなかったものであるから,「定めのない事項」に該当することは明らかである。また,A火力リプレース計画が本件協定書に基づく協議の対象に当たるか否かについて「疑義」が生じている。したがって,本件協定書7条の要件に該当し,被告には協議に応ずる義務がある。
(被告の主張の要旨)

本件協定書に基づく協議対象について
本件協定書締結当時建設予定であったA火力発電所5号機(石油)は,既設のA火力発電所1ないし4号機に加えて新設する予定であり,
石油を使用
燃料としていたのに対し,A火力リプレース計画のA火力発電所5号機(石炭)既設のA火力発電所2ないし4号機及び廃止済みの1号機を撤去し,は,
最新鋭の高効率発電設備1機を建設するものであり,
石炭を使用燃料とする
ものである。以上の事実に鑑みれば,A火力発電所5号機(石炭)はA火力発電所5号機(石油)と全く別物であり,A火力リプレース計画は本件協定書に基づく協議の対象ではない。


本件協定書7条の要件該当性
本件協定書7条では,本件協定書について「疑義」又は「定めのない事項」が生じたときは,
原告被告双方誠意をもって協議し解決するものとされてい
る。そして,A火力発電所5号機(石油)は建設されず,何ら「疑義」や「定めのない事項」はない。また,一般的に,契約は一定の目的をもって締結され,契約内容は当該目的を達成するために定められていることを踏まえると,当該契約の各規定は,契約締結の目的の範囲内で効力を有すると考えるべきであり,本件協定書の目的がA火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業に関する原告及び被告の合意であることを踏まえると,
本件協定書7条に基づく協議義務は,
A火力発電所5号機
(石油)
及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業自体に関する事項に限定され,一方当事者が何らかの疑義を持ったからといって,
無限定に他方当事者が協
議義務を負うことにはならない。したがって,被告は原告に対し,本件協定書7条に基づく協議義務を負わない。

第3
1
当裁判所の判断
前記前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件協定書等の締結

原告は,平成9年12月1日,被告との間で,本件協定書を締結した。被告は,平成9年当時,A火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業に当たり,
その影響を受ける可能性があった周辺漁業者
の同意を得るために,
愛知県漁業協同組合連合会知多支部のE水産振興会等
を通じて協定書を締結するために交渉していたところ,原告は,上記E水産振興会等とは別に被告と単独で協議を行い,
本件協定書を締結するに至った
(甲13,弁論の全趣旨)。


原告は,平成9年12月1日,被告との間で,本件確認書を締結した。本件確認書1条には,本件協定書1条の行為により,環境影響調査書に示す温排水による影響及びその評価を超えた場合で,
原告又は原告の組合員の営む
漁業に損害を与えた場合は,
本件協定書6条3項の協定をもって協議する旨
記載されている。(甲4の2)


原告は,平成9年12月1日,被告との間で,本件覚書を締結した。本件覚書2条には,
被告が原告に対して協力金として2億円を支払う旨が記載さ
れ,本件覚書4条には,上記の金銭の支払によりA火力発電所5号機及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業に関し,全て円満に解決したことを確認する旨の記載がある。(甲4の3)
次期石炭灰処分場について


B火力発電所4・5号機から発生する石炭灰は,セメント原料等に有効利用するために石炭灰を貯蔵する
「灰貯蔵サイロ」
等から直接運搬車等へ移し,
発電所構外へ運び出している(乙5,弁論の全趣旨)。一方,B火力発電所1ないし3号機から発生する石炭灰については,
その一部を灰捨地に埋め立
てることが想定された設備となっている(乙6,弁論の全趣旨)。

被告が平成8年12月に作成したB火力発電所4・5号機についての「環境影響調査書の地元公開・周知等の報告について」では,B火力発電所4・5号機で発生する石炭灰は,
「原則として全量セメント原料等に有効利用す
る計画になっており,被告の自社灰捨地に埋め立てる計画はありません。」とされている一方,
B火力発電所1ないし3号機から発生する石炭灰につい
ては,「その一部はセメント原料として有効利用されており,残りは引き続き既設灰捨地に埋立てる予定です。」とされている(乙4)。

被告が平成26年4月16日に公表した次期石炭灰処分場建設計画のプレスリリースには,「B火力発電所は石炭を燃料としているため,燃焼後に石炭灰が排出されます。当社は,石炭灰をセメント原料や土木建築資材等に有効利用できるよう努めておりますが,有効利用できない一部は,自社処分場に埋め立て処分しております。
現在当社が使用しているB火力発電所に隣
接した自社処分場の埋め立て進捗率は,
2014年3月末で約86%となっ
ております。B火力発電所を今後も安定的に運転していくためには,継続的に自社処分場を確保する必要があり,
当社は次期石炭灰処分場の開発につい
て検討をすすめてまいりました。」と記載されている(甲5の1)。

被告は,関係地域住民に対し,平成28年10月22日付け「D1号地最終処分場設計計画のあらまし」を配布した。この書面には,B火力発電所では年間約100万トンの石炭灰が排出されること,
排出される石炭灰はセメ
ント原料や土木建築資材等に有効利用して廃棄物の低減に努めているものの,
有効利用できない一部をB火力発電所構内に設置した被告の産業廃棄物の最終処分場に埋立処分していること,
今後もB火力発電所を安定的に運転
していくために継続的に自社処分場を確保する必要があり,
次期石炭灰処分
場の設置を計画したこと,が記載されている。(甲15)


被告が平成29年3月に作成した
「A火力発電所リプレース計画の環境影
響評価準備書についての意見の概要と事業者の見解」と題する文書において,事業者(被告)の見解として,「B火力発電所4,5号機では,排煙脱硫装置から排出される排水を加熱,蒸発により濃縮減量して汚泥とし,成分が溶出しないようにコンクリート固化して処理する設備
(脱硫排水無排水化
装置固化設備)を有しております。この生成された汚泥固化物は,発電所の最終処分場にて埋立処分しています。」と記載されている(甲16)。カ
被告が次期石炭灰処分場の設置に関して愛知県知事に提出した平成29
年3月22日付けの産業廃棄物処理施設設置許可申請書の添付書類には,次
期石炭灰処分場の受入産業廃棄物の種類として「第13号廃棄物」,その品目として「汚泥固化物」,その品目の詳細として「排煙脱硫装置から排出される排水を加熱,蒸発により濃縮減量し,フライアッシュ(石炭灰)とセメントを混合し,固化したもの。」と記載されている(甲17)。
A火力リプレース計画について

A火力発電所5号機(石油)は,結局建設されることなく,平成18年2月に建設中止が公表された。


被告は,平成27年2月6日,A火力リプレース計画を公表した。その内容は,既設のA火力発電所2ないし4号機を廃止・撤去し,廃止済みの1号機を撤去し,2021年の営業運転開始を目指して,石炭火力発電設備としてA火力発電所5号機(石炭)を新設するというものであった。

2
争点⑴
(B火力発電所及びA火力発電所の運転により損害が発生したことを理由とする本件協定書6条3項及び7条に基づく協議義務の有無)について⑴ア

前記認定事実によれば,本件協定書は,平成9年12月に締結され,当時建設が予定されていたA火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業に関する事項について協定を結んだものである。そして,本件協定書を締結した当時の当事者双方の意思としては,当時建設が予定されていた発電所,すなわち,A火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機について協定を結んだものであり,本件協定書締結当時既に操業していた発電所や本件協定書締結当時建設が予定されていなかった発電所に関する事項についてまで本件協定書に基づく協議の対象とする意思は有していなかったと解するのが相当である。したがって,本件協定書に基づく協議対象は,
本件協定書締結当時に建設が予定されていたA火力発電所
5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業に関する事項に限られると解され,
本件協定書締結当時既に操業していたA火力発電所1な
いし4号機及びB火力発電所1ないし3号機からの増設については,広く本
件協定書の対象になるとの原告の主張は採用できない。

これを本件についてみると,
原告が損害発生の原因として主張するA火力
発電所2号機の操業再開による大量の塩素注入及び近海への大量の塩素の放出は,A火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業に関する事項でないから,本件協定書に基づく協議対象に該当しない。
また,原告は,A火力発電所及びB火力発電所の操業による温排水による海
水温の上昇及び排出される塩素により,原告の漁獲量が減少したとも主張する。しかしながら,原告は,本件協定書に基づく協議の対象となり得るA火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機の操業によって温排水による海水温の上昇や塩素の排出が生じたことや,
これらの影響により原告の漁獲
量の減少を生じさせたことについて,何ら具体的な主張立証をしておらず,これらを認めるに足りる証拠は存在しない。したがって,本件協定書6条3項にいう
「乙の責に帰すべき事故等により甲または甲の組合員の営む漁業に損害を与えた」とはいえず,同項の要件に該当しない。
さらに,本件協定書7条の「疑義」とは,本件協定書の対象事項に関し,本件協定書の内容等について「疑義」が生じた場合に協議する義務を定めたものであると解するのが相当であり,
本件協定書6条3項の要件に該当する事実が
発生したか否かが不明であることをもって,直ちに上記「疑義」があると解することはできない。よって,本件協定書7条の要件に該当するとはいえない。⑶

以上によれば,被告には,B火力発電所及びA火力発電所の運転により損害が発生したことを理由とする本件協定書6条3項及び7条に基づく協議義務は認められない。
3
争点⑵
(次期石炭灰処分場建設計画についての本件協定書7条に基づく協議義務の有無)について


本件協定書に基づく協議対象について

前記2⑴アのとおり,本件協定書に基づく協議対象は,本件協定書締結当時に建設が予定されていたA火力発電所5号機
(石油)
及びB火力発電所4・
5号機の建設及び操業に関する事項に限られると解される。


これを本件についてみると,
前記認定事実によれば,
次期石炭灰処分場は,
B火力発電所から生じる石炭灰のうち,
セメント原料等に有効利用できない
ものを処分するために建設が計画されているものである。また,前記認定事実によれば,B火力発電所4・5号機から生じた汚泥固化物は発電所の最終処分場で埋立処分されているところ,
次期石炭灰処分場においても汚泥固化
物が埋立処分される予定であることが認められる。さらに,前記認定事実によれば,
次期石炭灰処分場建設計画についてのプレスリリースや関係地域住民に配布された「D1号地最終処分場設置計画のあらまし」においても,単にB火力発電所から排出される石炭灰の自社処分場を確保する必要があり次期石炭灰処分場の開発・設置を計画した旨記載されているだけであり,石炭灰を排出する発電所として,B火力発電所の1ないし3号機と4・5号機を区別する記載は存在しない。これらの事実を総合して勘案すれば,B火力発電所4・5号機から生じた汚泥固化物の少なくとも一部は,現在は被告の最終処分場において埋立処分されており,
次期石炭灰処分場が設置された後
は,同処分場において埋立処分される予定であると認めることができる。したがって,次期石炭灰処分場建設計画は,B火力発電所4・5号機の操業に関連するものであるから,B火力発電所4・5号機の操業に関する事項に当たり,本件協定書に基づく協議の対象に当たると解するのが相当である。被告は,本件協定書締結当時のB火力発電所4・5号機の環境影響評価手続において,石炭灰の扱いについての地元関係者の意見に対し,B火力発電所4・5号機で発生する石炭灰は,原則として全量セメント原料等に有効利用する計画になっており,埋立処分する計画はない旨を説明しており,B火力発電所4・5号機で発生する石炭灰を埋立処分することはない旨主張する。しかし,上記の地元関係者の意見に対する説明は,平成8年に作成されたものであり,約20年前の説明内容である上,「原則として」有効利用する「計画になっている」とするにとどまり,確実に有効利用されるとはしておらず,上記説明はあくまでも計画を説明するものにすぎない。そして,実際にも,
上記のとおり,
B火力発電所4・5号機からは汚泥固化物が発生し,
この少なくとも一部はセメント原料等に有効利用されることなく埋立処分されているのである。この点について,被告は,B火力発電所の1ないし3号機と4・5号機の石炭灰処理設備を比較すると,B火力発電所4・5号機は石炭灰を埋立処分することを想定した設備設計とはなっていないから,B
火力発電所4・5号機から発生した石炭灰は埋立処分されないと主張する。しかし,上記のように,B火力発電所4・5号機から発生した石炭灰(汚泥固化物)は埋立処分されていると認められる上,被告が証拠として提出する乙5によっても,B火力発電所4・5号機の設備設計上,発生した石炭灰が埋立処分されることを想定した設備設計となっていないとまで認めることはできない。したがって,上記の被告の主張及び立証に鑑みても,B火力発電所4・5号機から発生する石炭灰が埋立処分されており,次期石炭灰処分場でも埋立処分される予定であるとの上記認定を覆すに足りる証拠はなく,被告の上記主張は採用できない。


次期石炭灰処分場建設計画は,
本件協定書締結当時は想定されていなかった
ものであるから,「定めのない事項」に該当するため,本件協定書7条の要件に該当する。


したがって,被告には,次期石炭灰処分場建設計画についての本件協定書7条に基づく協議義務がある。よって,被告は原告に対し,別紙協議目録記載1⑵の事項について協議すべき義務を負う。
もっとも,原告は,別紙協議目録記載2の態様により協議に応ずることを求めるが,本件協定書において,協議の態様については明文化されていないことが認められ,
他にこれについて原告と被告間で合意が成立したことを認めるに
足りる証拠はない。原告は,協議を実質的に実のあるものとするためには,協議を同目録記載2の態様で行うことが必要かつ相当であり,
原告の協議を求め
得る権利の内容を構成するものであると主張するが,
直ちにこれを採用するこ
とはできない。また,仮に原告の主位的請求に協議態様を定めずに別紙協議目録記載1の事項について協議に応ずることを求める意思が含まれるとしても,協議態様が特定されていない場合,
執行裁判所において義務の履行の有無を判
断することができず強制執行(間接強制)が不可能であり,そのような強制執行が不可能な給付請求をすることは不適法で許されないから,
協議態様を定め
ない給付判決をすることはできない(最高裁平成24年(許)第48号同25年3月28日第一小法廷決定・民集67巻3号864頁参照)。
したがって,被告は,原告に対し,別紙協議目録記載1⑵の事項について,協議に応ずる義務を負うことを確認するにとどめる(なお,原告は,被告が別紙協議目録記載2の態様において協議に応じる義務があることの確認を求めるが,上記給付請求と同様の理由により,そのような態様における協議義務の存在を認めることはできない。)。

4
争点⑶
(A火力リプレース計画についての本件協定書7条に基づく協議義務の有無)について


本件協定書に基づく協議対象について

前記2⑴アのとおり,本件協定書に基づく協議対象は,本件協定書締結当時に建設が予定されていたA火力発電所5号機
(石油)
及びB火力発電所4・
5号機の建設及び操業に関する事項に限られると解される。

これを本件についてみると,
本件協定書の締結当時に建設が予定されてい
たのは,石油を使用燃料とするA火力発電所5号機(石油)であるのに対して,
A火力リプレース計画で予定されているのは石炭を使用燃料とするA火力発電所5号機(石炭)である。そして,本件協定書が締結された当時は,A火力リプレース計画は立ち上がっておらず,A火力発電所5号機(石炭)が建設されることは想定されていなかった。また,前記認定事実のとおり,A火力リプレース計画は,既設のA火力発電所2ないし4号機を廃止・撤去し,廃止済みのA火力発電所1号機を撤去して,A火力発電所5号機を新設するというものである。これは,従前の発電所を全て廃止・撤去して,全く新たな発電所を建設するというものであり,
従前の発電所の建設計画の延長
ではなく,全く別の計画に基づくものといえる。したがって,本件協定書締結当時に想定されていたA火力発電所5号機(石油)とA火力リプレース計画によるA火力発電所5号機(石炭)は全く別の発電所であり,A火力リプレース計画は,A火力発電所5号機(石油)の建設及び操業に関する事項とはいえず,本件協定書に基づく協議の対象には当たらない。
原告は,本件協定書で「A火力発電所5号機」の建設及び操業に関して協議事項を定めたのは,
A火力発電所5号機の建設及び操業に関して原告が漁
業権を有する海域に悪影響が生じるおそれを想定してのことであり,本件協
定書締結当時に想定していたA火力発電所5号機(石油)とA火力リプレース計画におけるA火力発電所5号機(石炭)は,燃料が石油か石炭かという違いはあるが,
建設予定場所については原告が漁業権を有する海域に隣接す
るという点で同じであるから,両者は,当該発電所の建設及び操業により原告が漁業権を有する海域に悪影響が生じるおそれがあるという点で同様であり,
本件協定書で協定事項を定めた趣旨がA火力リプレース計画におけるA火力発電所5号機(石炭)にも妥当すると主張する。しかし,仮に,原告の主張するように,本件協定書が,原告が漁業権を有する海域に悪影響が生じるおそれを想定して締結されたものであるとしても,上記のとおり,A火力発電所5号機(石油)とA火力発電所5号機(石炭)は全く別のものであり,A火力発電所5号機(石炭)は,本件協定書締結当時,当事者双方が本件協定書に基づく協議の対象として想定していなかったものであるから,本
件協定書に基づく協議の対象とはいえず,原告の上記主張は採用できない。また,原告は,本件協定書は従前の火力発電所設備の大幅変更を想定して締結されたのであるから,
A火力リプレース計画も本件協定書に基づく協議の
対象に含まれると解されるとも主張する。しかし,本件協定書は,上記のとおり,当時建設が予定されていたA火力発電所5号機(石油)及びB火力発電所4・5号機の建設及び操業に関する事項について締結されたものであり,
従前の火力発電所設備の大幅変更を想定して締結されたことを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は採用できない。


前記2⑵のとおり,本件協定書7条の「疑義」とは,本件協定書の対象事項に関し,本件協定書の内容等について「疑義」が生じた場合に協議する義務を定めたものであると解するのが相当である。また,本件協定書7条の「定めのない事項」についても,「疑義」と同様,本件協定書の対象事項に関し本件協定書の内容等について「定めのない事項」が生じた場合に協議する義務を定めたものであると解するのが相当である。そして,前記⑴のとおり,A火力発電所5号機
(石炭)
が本件協定書の対象とならないことは明らかであるから,
「疑
義」や「定めのない事項」があることを理由として本件協定書7条の要件に該当するとはいえない。



よって,被告に,A火力リプレース計画についての本件協定書7条に基づく協議義務は認められない。

5
以上より,原告の主位的請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却し,予備的請求は,被告が原告に対し,別紙協議目録記載1⑵の事項について,協議に応ずる義務を負うことの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し,その
余の予備的請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のと
おり判決する。

名古屋地方裁判所民事第8部

裁判長裁判官

桃崎
裁判官

前田志織
裁判官

澤田真里
(別紙はいずれも省略)

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