判例検索β > 平成25年(ワ)第38号
原状回復等請求事件
事件番号平成25(ワ)38
事件名原状回復等請求事件
裁判年月日平成29年10月10日
法廷名福島地方裁判所
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平成29年10月10日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成25年(ワ)第38号,第94号,第175号,平成26年(ワ)第14号,第165号,第166号
口頭弁論終結日

原状回復等請求事件

平成29年3月21日

当事者


別紙1当事者目録記載のとおり

略語・用語については,別紙7「略語・用語一覧表」の例による。主文
1
本件訴えのうち,原状回復請求に関する訴えをいずれも却下する。
2
本件訴えのうち,平成29年3月22日以降の損害賠償金の支払を求める訴え
をいずれも却下する。
3
原告らの被告東電に対するその余の主位的請求(一般不法行為に基づく請求)
をいずれも棄却する。
4
被告東電は,別紙6認容金額目録の各「被告東電認容額」欄に記載のある原告
に対し,各「被告東電認容額」欄記載の金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
原告らの被告東電に対するその余の予備的請求(原賠法に基づく請求)をいず
れも棄却する。
6
被告国は,別紙6認容金額目録の各「被告国認容額」欄に記載のある原告に対
し,各「被告国認容額」欄記載の金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7
原告らの被告国に対するその余の請求をいずれも棄却する。

8
訴訟費用は,

(1)
別紙6認容金額目録の各「被告東電認容額」欄に記載のない原告らとの関係で
生じた費用は原告らの負担とし,
(2)

別紙6認容金額目録の各「被告東電認容額」欄に記載があり,
「被告国認容

額」欄に記載のない原告らとの関係で,被告国に生じた費用は原告らの負担とし,原告ら及び被告東電に生じた費用はこれを20分し,その1を被告東電の,その余を原告らの負担とし,
(3)
別紙6認容金額目録の各「被告東電認容額」欄及び「被告国認容額」欄のいず
れにも記載がある原告らとの関係で原告ら及び被告らに生じた費用はこれを20分し,その1を被告らの負担とし,その余を原告らの負担とする。



(省略)

事実及び理由
第1章
第1

当事者の求めた裁判

1
請求の趣旨
原状回復請求

被告らは,各自,各原告(承継原告を除く。
)に対し,それぞれ別紙2原告目録の

「旧居住地」欄記載の居住地において,空間線量率を0.04μSv/h以下とせよ。
2
損害賠償請求(平穏生活権侵害)

(1)

提訴時までの確定損害分

被告らは,各自,


別紙2原告目録(省略)の「事件番号」欄に「38」とある原告(承継原告を
除く。
)については各132万円,

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「175」とある原告(承継原告を除く。)

については各165万円,

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「14」とある原告(承継原告を除く。)に

ついては各192万5000円,

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「165」とある原告(承継原告を除く。)

については各231万円,
及び各金員に対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)

提訴後損害分

被告らは,各自,

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「38」とある原告(承継原告を除く。)に

ついては平成25年3月11日から,

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「175」とある原告(承継原告を除く。)

については平成25年9月11日から,


別紙2原告目録の「事件番号」欄に「14」とある原告(承継原告を除く。)に

ついては平成26年2月11日から,

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「165」とある原告(承継原告を除く。)

については平成26年9月11日から,
それぞれ各「旧居住地」欄記載の居住地において空間線量率が0.04μSv/h以下となるまでの間,各1か月5万5000円の割合による金員を支払え。(3)

承継原告関係

(省略)
3
損害賠償請求(ふるさと喪失)
被告らは,各自,

(1)

別紙2原告目録の「94号」欄又は「166号」欄に記載のある原告(承継原
告を除く。
)に対し,各2200万円,
(2)
(3)
原告兼亡H-376訴訟承継人H-95に対し,4400万円,
原告兼亡H-101訴訟承継人H-100に対し,2200万円,
及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
訴訟費用は被告らの負担とする。

5
仮執行宣言

第2
1
請求の趣旨に対する答弁
被告国

(1)

本案前の答弁

原告らの被告国に対する訴えのうち,請求の趣旨第1項の請求(原状回復請求)に係る訴え及び同第2項(2)(提訴後損害分)の請求に係る訴えのうち口頭弁論終結日の翌日以後に生ずる損害賠償金の支払を求める部分をいずれも却下する。(2)

本案の答弁

原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却する。

(3)

訴訟費用は原告らの負担とする。

(4)

仮執行の宣言を付することは相当でないが,仮にこれを付する場合には,


担保を条件とする仮執行免脱宣言
その執行開始時期を判決が被告国に送達された後14日経過した時とすること
2
被告東電

(1)

本案前の答弁

請求の趣旨第1項(原状回復請求)及び第2項(2)(提訴後損害分)に係る訴えのうち,被告東電に対する訴えを却下する。
(2)
本案の答弁

原告らの被告東電に対する請求をいずれも棄却する。
(3)

訴訟費用は原告らの負担とする。

(4)

仮執行免脱宣言

第2章
第1

事案の概要
事案の概要

本件は,平成23年3月11日当時,福島県又はその隣接県である宮城県,茨城県,栃木県に居住していた原告ら3864名(取下原告,死亡原告を含み,承継原告を含まない。
)が,平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(本件地震)及びこれに伴う津波(本件津波)により発生した福島第一原発の事故(本件事故)により,原告らの本件事故当時の居住地(旧居住地)が放射性物質により汚染されたとして,
1
原告ら(承継原告を除く。
)が,被告らに対し,人格権又は被告国に対しては国

賠法1条1項,被告東電に対しては民法709条に基づき,原告らの旧居住地における空間放射線量率を本件事故前の値である0.04μSv/h以下にすることを求める(原状回復請求)とともに,
2
原告らが,被告らに対し,被告国に対しては国賠法1条1項,民法710条,
被告東電に対しては,主位的に民法709条,710条,予備的に原賠法3条1項に基づき,各自,平成23年3月11日から旧居住地の空間線量率が0.04μSv/h以下となるまで(承継原告については,死亡原告の死亡時まで)の間,1か月5万円の割合による平穏生活権侵害による慰謝料,1割相当の弁護士費用,提訴時までの確定損害金に対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(平穏生活権侵害),

3
原告らのうち40名(死亡原告を含み,承継原告を含まない。
)が,被告らに対

し,上記2と同様の根拠法条に基づき,各自,
「ふるさと喪失」による慰謝料として
2000万円,1割相当の弁護士費用,これに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(ふるさと喪失)
た事案である。
第2

争いのない事実

1
被告東電
被告東電は,福島県双葉郡双葉町及び同郡大熊町に福島第一原発を設置し,運転
してきた東京電力株式会社が会社分割及び商号変更を経た株式会社であり,本件事故に関し,原賠法2条3項の「原子力事業者」である。
2
本件事故
平成23年3月11日,本件地震が発生し,本件地震に伴う津波(本件津波)等
によって原子炉の冷却機能を喪失したことにより福島第一原発から大量の放射性物質が大気中に放出される事故(本件事故)が発生した。
第3
1
争点
原状回復請求

1-1
1-2

被告国に対する請求の適法性

1-3

不法行為に基づく請求の成否

1-4
請求の特定性

人格権に基づく請求の成否

2
被告国の損害賠償責任

2-1

将来請求の適法性

2-2

規制権限の有無

2-2-1
2-2-2

津波対策義務としての技術基準適合命令が基本設計に及ぶか

2-2-3

シビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)

2-2-4

規制権限不行使の判断枠組み

「独立性」欠如是正義務

2-3

津波対策に関する規制権限不行使の違法性

2-3-1
2-3-2
予見義務
予見可能性

2-3-3

回避義務

2-3-4

回避可能性

2-3-5
2-4

その他の事情

シビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)違反に関する規制権限
不行使の違法性
2-5
「独立性」欠如是正義務違反に関する規制権限不行使の違法性

2-6

相互の保証

3
被告東電の損害賠償責任

3-1
3-2

請求の適法性

3-3
一般不法行為に基づく請求の可否

請求権の成否

4
損害

4-1
4-2

「ふるさと喪失」損害

4-3

共同不法行為の成否,被告国の責任の範囲

4-4
平穏生活権侵害

弁済の抗弁

第4

争点に関する当事者の主張

原告らの主張は,別紙8「争点一覧表に対応する原告らの主張要旨」(原告ら主張
要旨)のとおり,被告国の主張は,別紙9「争点一覧表に対応する被告国の主張要旨」
(被告国主張要旨)のとおり,被告東電の主張は,別紙10「被告東京電力準備書面(40)
(争点一覧表についての被告東京電力の主張の要旨)(被告東電主張要」
旨)のとおりである。
(これらの書面で使用されている略語は,必ずしも別紙7「略語・用語一覧表」の略語と一致しないことがある。


第3章
第1
1
当裁判所の判断
本件地震の発生から本件事故に至る経緯

本件津波の到来
平成23年(以下,特に断らない限り,月日だけで表記した日付は平成23年の
もの)3月11日午後2時46分,東北地方太平洋沖でM9.0の連動型巨大地震(本件地震)が発生した。本件地震の震源域は,三陸沖南部海溝寄り,宮城県沖,福島県沖,茨城県沖の複数の領域を震源域として連動して発生し,その長さは約500km,幅は約200kmで,最大すべり量は50m以上であった。本件地震後,これに伴う津波(本件津波)が福島第一原発に到来した。福島第一原発約1.5k
m沖合の波高計によれば,水位は,午後3時15分頃から上昇し,午後3時27分頃に約4mのピークとなった(第一波)後,いったん低下し,午後3時33分頃から急に上昇し,午後3時35分頃に測定限界であるO.P.+7.5mを超えた(第二波)
。福島第一原発付近での津波の高さは,被告東電の推計で+13.1m(甲B185の1・6-2頁,甲B185の2・1~2頁,乙B259・6-2頁,丙B
41の1・9頁,丙B41の2添付3-10)
,中央防災会議の推計で+8.5m
(甲B283の1・6頁図5,丙B41の2添付3-6)
,藤井雄士郎,佐竹健治に
よる推計で約10m(甲B284・5頁図3)
,8学会合同調査報告による推計で約
10m(甲B282・105頁図5.2.71)などと推計されている。本件津波は,1~4号機の主要建屋敷地高さ(O.P.+10m)を超えて遡上
し,1~4号機海側エリア及び主要建屋設置エリアはほぼ全域が浸水した。1~4号機敷地エリアでの浸水高はO.P.+11.5~15.5m(浸水深1.5~5.5m)であり,局所的に最大O.P.+16~17m(浸水深6~7m)に及んだ。(甲B1の1本文編19頁,資料編20頁,甲B166の1,甲B185の1・2,甲B286,乙B259,丙B41の1・9~10,12,105~109頁,丙
B41の2添付3-7~3-10)
2
1号機の状況

1号機の原子炉は,本件地震により自動的に緊急停止(原子炉スクラム)した。1号機は,3月11日午後3時37分,本件地震及び本件津波により,1号機自体の発電能力による内部電源,新福島変電所からの外部電源,非常用ディーゼル発電機からの非常用電源の全交流電源を喪失し,前後して,バッテリーからの直流電源も喪失した(全電源喪失)
。このため,非常用冷却設備である非常用復水器(IC)

高圧注水系(HPCI)のいずれも機能を喪失し,炉心の冷却が不可能になった。その結果,1号機の原子炉水位が急激に低下し,国会事故調及び東電事故調によれば3月11日午後6時50分頃(甲B4・24頁,丙B41の1・139~140頁)
,保安院によれば3月11日午後6時頃(乙B3の1・IV-40頁),炉心損

傷が開始した。
政府事故調は,3月11日午後8時07分以降,午後10時頃までに,炉心損傷が進んで炉心溶融(燃料ペレットの溶融)が生じ,圧力容器又はその周辺部にその閉じ込め機能を喪失させるような損傷が生じていた可能性があり,3月12日午前2時45分頃までにはそのような損傷が生じていたと推定している(甲B1の2本
文編28~29頁,資料編23~42頁)

国会事故調は,炉心損傷の開始を3月11日午後6時50分頃とする被告東電の解析結果を引用しつつ(甲B4・24頁)
,3月11日午後5時30分頃の段階で,
「このときまでには既にICを隔離してから約2時間がすぎており,既に炉心上部が露出し,溶融も始まっていたと推定される。(甲B4・146頁)ともしている。」

東電事故調は,本件地震発生8時間後(3月11日午後10時50分頃)に溶融燃料の落下を仮定し,実際の炉心溶融時期を特定していないが,炉心損傷後に炉心溶融が起こったこと自体は否定していない(丙B41の1・69~70,136~145頁)

3月12日午後2時30分頃には,ベント(格納容器圧力の異常上昇を防止し,
格納容器を保護するため,放射性物質を含む格納容器内の気体(ほとんどが窒素)を一部外部環境に放出し,圧力を降下させる措置。甲B4・546頁)が成功した
が,その結果,1号機から大気中に放射性物質が放出された。
3月12日午後3時36分には,1号機原子炉建屋で水素爆発が起き,放射性物質が大量に放出されるに至った。
(甲B1の1・2,甲B4,丙B41の1)
3
2号機の状況
2号機の原子炉は,本件地震により自動的に緊急停止(原子炉スクラム)した。
2号機は,3月11日午後3時41分,本件地震及び本件津波により,内部電源,外部電源,非常用電源の全交流電源を喪失し,前後して直流電源を喪失した(全電源喪失)
。このため,非常用冷却設備である高圧注水系(HPCI)は機能を喪失し,原子炉隔離時冷却系(RCIC)も制御不能となり,3月14日午後1時25分頃までに機能を喪失し,炉心の冷却が不可能になった。その結果,2号機の原子炉水位が低下し,国会事故調及び東電事故調によれば3月14日午後7時20分頃(甲B4・24頁,丙B41の1・173頁)
,保安院によれば3月14日午後8時頃
(乙B3の1・IV-53頁)
,炉心損傷が開始した。政府事故調によれば,3月1

4日午後1時45分頃から午後6時10分頃までの間に,圧力容器又はその周辺部にその閉じ込め機能を損なうような損傷(溶融燃料の落下によるものを含む。)が生
じていた可能性があり,3月14日午後9時18分頃までには圧力容器又はその周辺部にそのような損傷が生じたもの(すなわち,炉心溶融が生じていたもの)と推定されている(甲B1の2本文編32~33頁,資料編70~136頁)。
3月14日午後9時過ぎ頃にベント又は原子炉建屋からの放出により,3月15
日午前7時から午後0時までの間に原子炉建屋からの放出により,それぞれ大気中に放射性物質が大量に放出された(甲B1の2資料編79~80,115~127頁,丙B41の1・277頁)

(甲B1の1・2,甲B4,丙B41の1)
4
3号機の状況
3号機の原子炉は,本件地震により自動的に緊急停止(原子炉スクラム)した。
3号機は,3月11日午後3時42分,本件地震及び本件津波により,内部電源,外部電源,非常用電源の全交流電源を喪失したが(全交流電源喪失),バッテリーか
らの直流電源は一部で機能を維持していた。そのため,3号機はバッテリーからの直流電源による原子炉隔離時冷却系(RCIC)で原子炉を冷却していたが,3月12日午前11時36分には原子炉隔離時冷却系が自動停止し,午後0時35分には高圧注水系(HPCI)が自動起動した。3月13日午後2時42分に高圧注水系が手動停止された後,原子炉隔離時冷却系や高圧注水系の再起動が試みられたが,直流電源の枯渇により再起動ができず(全電源喪失)
,炉心の冷却が不可能になった。
その結果,3号機の原子炉水位が低下し,国会事故調及び東電事故調によれば3月
13日午後10時40分頃(甲B4・24頁,丙B41の1・197頁),保安院に
よれば3月13日午後11時頃(乙B3の1・IV-66頁)
,炉心損傷が開始した。
政府事故調によれば,3月13日午前6時30分頃から午後9時10分頃までの間,圧力容器又はその周辺部にその閉じ込め機能を損なうような損傷(溶融燃料の落下によるものを含む。
)が生じていた可能性があり,3月14日午前5時頃までにはそ

のような損傷が生じたもの(すなわち,炉心溶融が生じていたもの)と推定されている(甲B1の2本文編37頁,資料編157~201頁)

3月14日午前11時01分頃には,3号機原子炉建屋で水素爆発が起き,放射性物質が大量に放出されるに至った。
3月15日午前6時過ぎ頃には,4号機原子炉建屋が爆発し,4号機原子炉建屋
開口部を通じて,3号機由来の放射性物質が大気中に放出された。3月16日午前10時過ぎには,3号機原子炉建屋からの放出により,大気中に放射性物質が大量に放出された(丙B41の1・277頁)

(甲B1の1・2,甲B4,丙B41の1)
5
4号機の状況
4号機は,平成22年11月から定期検査のため運転停止中であり,全ての燃料
は原子炉建屋4,5階の使用済み燃料プールに取り出されていた。また,非常用
ディーゼル発電機2台のうちA系は点検中のため使用不能であった。4号機は,3月11日午後3時38分,本件地震及び本件津波により,外部電源,非常用ディーゼル発電機B系からの非常用電源の全交流電源,バッテリーからの直流電源を喪失した(全電源喪失)
。このため,使用済み燃料プールの冷却が不可能と
なり,使用済み燃料の損傷が懸念されたが,3月20日頃には放水車からの放水などにより燃料プールの水位が維持され,燃料損傷は回避された。
3月15日午前6時過ぎ頃,4号機原子炉建屋が爆発し,原子炉建屋4,5階部分が損傷した。その原因は,排気筒合流部を通じて3号機から流入した水素による水素爆発とみられている。

(甲B1の1・2,甲B4,乙B112の1・2,丙B41の1)6
放射性物質の大量放出
これら一連の本件事故により大気中に放出された放射性物質の量は,ヨウ素13
1換算値にして,保安院による4月12日の推定で37万TBq,6月6日の推定で77万TBq,平成24年2月1日の推定で48万TBq,原子力安全委員会による4月12日の推定で63万TBq,独立行政法人日本原子力研究開発機構による8月24日の推定で57万TBq,被告東電による平成24年5月24日の推定で90万TBqなどと推計されている(甲B1の1本文編345~346頁,甲B1の2本文編274頁,甲B4・329頁,丙B41の1・294頁)。
このほか,放射性物質による汚染水も大量に海洋に放出された(甲B1の1本文
編327~344頁,甲B1の2本文編275頁,丙B41の1・297頁)。
第2
1
原状回復請求について
請求の特定性について

(1)

原状回復請求が特定性を欠いていること

給付請求における請求の趣旨は,原告らが求める判決の主文と同一のものであり,実現すべき内容について強制執行が可能な程度に特定し,明確化する必要がある。本件の請求の趣旨第1項の原状回復請求は,
「被告らは,各自,各原告(承継原告を

除く。
)に対し,それぞれ別紙2原告目録の「旧居住地」欄記載の居住地において,空間線量率を0.04μSv/h以下とせよ」というもので,実現すべき結果のみを記載しているが,そのような結果を実現するために,被告らに対し作為を求めるものであると解されるから,その作為の内容は,上記に述べたとおり,強制執行が可能な程度に特定されなければならない。
しかるに,原告らの原状回復請求は,被告らにおいてなすべき作為(除染工事)の内容が全く特定されていないから,請求の特定性を欠き不適法である(東京高裁平成25年6月13日判決・丙B26[放射性物質除去請求控訴事件]参照)。
原告らは,国道43号線訴訟(大阪高裁平成4年2月20日判決・民集49巻7
号2409頁,最高裁平成7年7月7日第二小法廷判決・民集49巻7号2599頁)や横田基地第1次・第2次訴訟(最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決・集民167号下359頁)で抽象的不作為請求が適法とされていることを指摘し,特に公害・環境問題をめぐって違法な権利侵害状態の差止や違法な権利侵害状態の存在を前提にその違法状態の除去等のための一定の作為を求める訴訟においては,
被害者側において,実現すべき状態(請求内容)をもたらす具体的な方法まで特定する必要はないのであり,請求内容の実現のための方法を特定しない請求も民事訴訟としては適法とされるべきである,などと主張する(原告ら主張要旨2頁)。
しかし,抽象的不作為請求は,現に継続している侵害行為をしないことを求めるものであるのに対し,本件の請求の趣旨第1項記載の作為請求は,現に生じた結果
を除去するという積極的な行為を求めるものであって,判決によって義務付けられる内容に差があるというべきである。したがって,作為請求と不作為請求とでは求められる特定性の程度は異なるのであり,抽象的不作為請求が適法とされているからといって,除染等の作為を必要とする抽象的作為請求まで適法となるものではない。

(2)

実現可能な執行方法が存在しないこと

なお,除染特措法に基づき被告国や市町村が実施する除染については,環境省に
より除染関係ガイドライン(甲B90の1~5)が定められている。そこで,原告らの請求を,
「被告らは,各自,各原告に対し,各原告の旧居住地に
おいて居住の用に供されている主たる建物について,除染関係ガイドラインに定められた「建物等の工作物の除染等の措置」
(甲B90の3・2-10~2-51頁)
に従った除染工事を行い,同ガイドラインに定められた測定方法により,生活空間2~5点程度の地表から1mの高さの位置においてNaIシンチレーション式サーガンマ

ベイメータで測定したγ線の空間線量率(甲B90の2,甲B90の3・2-15~2-17頁)がいずれも0.04μSv/h以下となるようにせよ」と特定される作為を求めているものと善解したとしても,以下のとおり,原告らの請求は,実現不可能な作為を求めるものとして不適法である。
すなわち,除染関係ガイドラインは,除染特措法に基づき被告国又は市町村が行う除染を前提としているところ(甲B90の1,甲B90の3・2-5頁),除染特
ひばく

措法が想定している除染結果は,長期的な目標として追加被曝線量が1mSv/y以下となることを目標として行われているものであり,除染関係ガイドラインに従った除染工事を行ったからといって,空間線量率が0.23μSv/h(追加被曝線量1mSv/yに相当する。甲B97,379)以下に低下することが保障されているものではなく,ましてや空間線量率を原告らの求める0.04μSv/h以下に低下させることを想定したものでは全くない(甲B89,甲B98・5頁,丙B30~36)

除染関係ガイドラインに従った除染工事を含め,確実に原告らの旧居住地の空間
線量率を0.04μSv/h以下まで低減させる実現可能な方法が存在すると認めるに足りる証拠はないから,原告らの原状回復請求は,実現可能な執行方法が存在しないという点からも不適法である。
2
原状回復請求の適法性についてのまとめ
以上によれば,原告らの原状回復請求は,除染特措法に基づく行政権の行使を不
可避的に包含するかなどその余の点について判断するまでもなく,被告らに求める
作為の内容が特定されていないものであって,不適法である。原告らの原状回復請求は,本件事故前の状態に戻してほしいとの原告らの切実な思いに基づく請求であって,心情的には理解できるが,民事訴訟としては上記のとおり実現が困難であり不適法といわざるを得ない。

第3
1
被告国の損害賠償責任について
将来請求が不適法であること

承継原告を除く原告らの平穏生活権侵害に基づく損害賠償請求は,旧居住地の空間線量率が0.04μSv/h以下となるまで1か月5万5000円の割合による金員の支払を求めるものであるから,本件口頭弁論終結後に発生する金員の支払を求める部分は将来の給付を求める訴え(将来請求)である。
一般に,継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が流動
性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるとともに,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事
由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しない(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁[大阪国際空港事件]
,最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決・集民224号
391頁[横田基地第5次~第7次訴訟]
,最高裁平成28年12月8日第一小法廷

判決・裁時1665号5頁[厚木基地第4次訴訟]。

本件における平穏生活権侵害に基づく損害賠償請求権は,継続的不法行為に基づくものか否かはともかく,損害賠償請求権の成否及びその額は,旧居住地の空間線量率の変化,避難指示の解除,その他旧居住地の状況等の事情によって左右される可能性があり,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定
することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるとともに,その場合における権利の成立要件の具備について
は原告側においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら被告らの側で立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を被告らに課するのは不当であると考えられるから,原告らの損害賠償請求のうち,本件口頭弁論終結日の翌日以降の金員の支払を求める部分は,将来請求としての適格性を欠き不適法である。原告らは,交通事故による損害賠償請求の場合には,
「逸失利益」や「後遺障害慰謝
料」といった「将来損害」についても,不法行為時に発生した損害として認められていることとの対比から,本件においても将来請求が適法とされるべきであると主張するが(原告ら主張要旨4頁)
,交通事故による症状が固定し,以後後遺障害が生
じたことを前提に損害の算定が可能である交通事故に基づく損害賠償請求事件と,
旧居住地の空間線量率の変化,避難指示の解除,その他旧居住地の状況等の事情によって左右される可能性がある本件とは事情を異にするものといえ,原告らの主張は採用し得ない。
2
規制権限の有無

(1)
規制権限不行使の違法性の判断枠組み

被告国の規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となる(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁[宅建業者訴訟],最高裁平成7年

6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁[クロロキン薬害訴訟],最
高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁[筑豊じん肺訴訟]
,最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁[水俣病関西訴訟]
,最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8
号799頁[大阪泉南アスベスト訴訟]。


そこで,原告らが被告国の規制権限不行使を問題とする平成14~18年時点(訴状56~57頁,原告ら準備書面(45)6頁,原告ら最終準備書面(第2分
冊)284頁,原告ら主張要旨81頁)における,被告国の原子力発電所に対する規制権限を定めた法令の趣旨,目的,その権限の性質等を踏まえて,①津波対策義務,②「独立性」欠如是正義務,③シビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)のそれぞれにつき,被告国の規制権限の有無と,その権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くか否かを検討する。
(2)

津波対策義務に関連する法令の趣旨,目的
原子力基本法

平成14~18年当時,原子力基本法(平成24年法律第47号による改正前の昭和30年法律第186号。乙A1の1・2)は,
「原子力の研究,開発及び利用を
推進することによつて,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興とを図り,もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与すること」を目的として(1条)「原子力の研究,開発及び利用は,平和の目的に限り,安全,
の確保を旨として,民主的な運営の下に,自主的にこれを行うものとし,その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとする。(2条。下線部は強調のため裁判」

所で付した。以下同じ)という原子力利用の基本方針を定めていた。本件事故後,平成24年法律第47号による改正により,原子力基本法2条2項に「前項の安全の確保については,確立された国際的な基準を踏まえ,国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として,行うものとする。
」とする規定が追加されているが,平成14年及び平成18年

当時においても,原子力の利用は「安全の確保」を旨として行うこととされていたのであるから,国民の生命,健康及び財産の保護は同法の目的とされ,我が国における原子力政策の基本とされていたものといえる。

炉規法
原子力発電所の設置については,炉規法(平成24年法律第47号による改正前
の昭和32年法律第166号「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」
。乙A3の1・2)が,
「原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の精

神にのつとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制等を行うこと」を目的として(1条)
,実用発電用原子炉の設置には経済産業大臣の許可を必要とすること(23条1項1号)
,設置許可に当たっては原子炉施設の位置,構造及び設備が原子炉による災害の防止上支障がないものであることが必要であること(24条1項4号)な
どを定めていた。
本件事故後,平成24年法律第47号による改正により,炉規法の目的が「原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図る
ために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関し,大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制を行い,もつて国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目
的とする」
(1条)ものであることが明確にされているが,平成14年及び平成18年当時においても,原子力災害を防止して「公共の安全を図る」こと,すなわち国民の生命,健康及び財産の保護は炉規法の目的とされていたものといえる。ウ
電気事業法
設置許可がなされた後の,電気事業の用に供する原子力発電所の運転については,
炉規法(平成24年法律第47号による改正前のもの)73条で27条から29条までの適用が除外され,電気事業法(平成24年法律第47号による改正前の昭和
39年法律第170号。乙A4の1・2)による規制が行われていた。電気事業法は,
「電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによつて,電気の使用者の利益を保護し,及び電気事業の健全な発達を図るとともに,電気工作物の工事,維持及び運用を規制することによつて,公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ること」を目的として(1条)
,事業用電気工作物を設置する者は,事業用
電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならないこと(39条1項)
,その技術基準を定める経済産業省令においては,事業用電
気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること(39条2項1号)
,経済産業大臣は,事業用電気工作物が39条1項の経済産業省令で
定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができること(40条。技術基準適合命令)
,技術基準適合命令に違反した
者は300万円以下の罰金(118条7号。法人にも罰金併科(121条)。平成1

4年法律第178号による改正後は,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金,又はその併科(116条2号)
,法人には3億円以下の罰金(121条1号)

を科せられることなどを定めていた。
本件事故後,平成24年法律第47号による改正により,炉規法73条の適用除外が削除され,技術基準は炉規法43条の3の14に,技術基準適合命令は同法4
3条の3の23に引き継がれた。

省令62号
電気事業法39条1項による委任に基づき,省令62号(昭和40年通商産業省
令第62号「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令」
。平成14年7月3
1日時点においては,平成15年経済産業省令第102号による改正前のもの。乙A5の1)4条1項は,技術基準として,
「原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷
却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が地すべり,断層,なだれ,
洪水,津波又は高潮,基礎地盤の不同沈下等により損傷を受けるおそれがある場合は,防護施設の設置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。
」と定めていた。
平成18年12月31日時点における省令62号(平成20年経済産業省令第12号による改正前のもの。乙A5の2)4条1項は,
「原子炉施設並びに一次冷却材
又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震を除く。
)により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措
置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。」と定めていた。
本件事故後,平成23年経済産業省令第53号による改正により,省令62号5
条の2に「津波による損傷の防止」の基準が追加されるなどし(甲A2,7,8,乙A16)
,平成25年6月28日には技術基準規則(平成25年原子力規制委員会規則第6号「実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則」。乙A1
8)が制定され,実用発電用原子炉に適用すべき技術基準の内容は同規則に引き継がれた。

津波対策に関する規制権限
これら平成14~18年当時の原子力基本法,炉規法及び電気事業法の目的並び
に電気事業法39条,40条の趣旨に鑑みると,経済産業大臣の有する技術基準適合命令を発する規制権限は,原子炉が,原子核分裂の過程において高エネルギーを放出するウラン等の核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,基本設計について安全性が審査された上で
設置許可処分が行われて稼働を開始した原子炉施設についても,その後の時の経過により進展した最新の科学的知見等に照らして,技術基準への適合性を通じて安全
性を審査する必要があり,審査の結果,原子炉施設が技術基準に適合しないときには技術基準適合命令を発することによって,原子炉施設の事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を保護する趣旨で,経済産業大臣に付与されていたものと解される。そして,この規制権限は,上記の趣旨によれば,上記周辺住民等の安全の確保を主要な目的として,最新の科学的知見等を踏まえて,適時にかつ適切に行使されるべき性質のものである。
これを本件で問題となる津波対策についてみると,経済産業大臣は,福島第一原発1~4号機の原子炉施設の一部である非常用電源設備が「津波により損傷を受け
るおそれがある」と認められるにもかかわらず,設置者である被告東電が適切な措置を講じない場合には,適時にかつ適切に技術基準適合命令を発すべき権限を有するとともに,その権限の不行使が,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合には,その不行使により被害を受けた周辺住民等との関係において国賠法1条1項の責任を負う。

(3)

津波対策に関する規制権限が基本設計に及ぶか
被告国の主張

被告国は,原告らの主張する津波対策は,いずれも基本設計に関する事項であるから,詳細設計についての規制である省令62号に基づく技術基準適合命令により是正させることはできなかった,と主張する(被告国主張要旨9~13頁)。

技術基準が基本的に詳細設計についての基準であること
炉規法は,原子炉の設置・変更許可(23条~26条の2)のほかに,設計・工
事方法の認可(炉規法27条。実用発電用原子炉については,炉規法73条による適用除外の結果,電気事業法47条)等の各規制を定め,これらの規制が段階的に行われることとされているのであるから,設置許可段階においては,専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となり,後続の設計・工事方法の認可(炉規法27条,73条,電気事業法47条)の段階で規制の対象とされる当該原子炉の具体的
な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とならないものと解される(最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁[伊方原発訴訟],最高
裁平成4年10月29日第一小法廷判決・集民166号509頁[福島第二原発訴訟]
,最高裁平成17年5月30日第一小法廷判決・民集59巻4号671頁[もんじゅ行政訴訟第二次上告審]。

電気事業法39条の技術基準は,基本設計について炉規法24条の設置許可基準を満たした実用発電用原子炉をその対象として規律するものであり,詳細設計である工事計画認可の基準ともされていることから(電気事業法47条3項1号),基本
的には詳細設計について規律する基準であると解される(甲A6・1頁,乙A1
6・1頁)


技術基準適合命令は基本設計に及び得ないか
平成14年7月31日時点における省令62号4条1項は,
「原子炉施設……が津

波……により損傷を受けるおそれがある場合は……適切な措置を講じなければならない。(乙A5の1)と定めていたところ,

「津波……により損傷を受けるおそれが
ある」の意義は,設置許可基準である平成13年安全設計審査指針(乙A7)の指針2第2項の「安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を想定し
た設計であること」との定めと整合的に解釈されていた(甲A6・11頁,弁論の全趣旨)

したがって,省令62号4条1項は,設置許可基準である平成13年安全設計審査指針と同様の内容,水準を規定するものと解されるのであるから,原子炉施設が基本設計において平成13年安全設計審査指針に違反して津波安全性を欠いていた
場合には,設置許可基準のみならず,同時に技術基準にも違反することとなり,技術基準に反した場合の是正手段である技術基準適合命令の対象となると解される。
すなわち,技術基準適合命令は,基本設計に関わる部分の変更にも及び得るものと解するのが相当である。
形式的に考えても,津波に対する安全性を欠いた原子炉施設は,技術基準である省令62号4条1項に違反し,
「技術基準に適合していない」状態にあるのであるか
ら,これに対しては技術基準適合命令を発し得るとみるのが,電気事業法40条の文言上も自然な解釈である。
また,電気事業法40条は,技術基準適合命令の内容として事業用電気工作物の「移転」を要求し得ることを前提としているところ,原子炉施設の移転が基本設計を変更することなく詳細設計の変更で可能な場合があるとは想定し難い。
実質的に考えても,設置許可の時点においては基本設計において安全性を有していた原子炉が,その後の設備の劣化や故障,地形や気象条件の変化,知見の進展等によって基本設計における安全性を欠くに至る(又は欠くと認識される)事態は当然に想定し得るところ,平成24年法律第47号による改正前の炉規法がこのような事態を想定せず,強制力を有しない行政指導か,事情変更による設置許可の取消
しかという両極端の規制手段しか行使できなかったとみるのは不合理であり,そのような事態は,技術基準違反を構成する限り,炉規法29条2項,36条1項(実用発電用原子炉については炉規法73条,電気事業法39条1項,40条)の技術基準適合命令によって対処することが想定されていたものと解される。そのように解さなければ,既設原子炉にも適用することを前提に技術基準として規定された事
項につき,詳細設計における安全性を欠いた原子炉については技術基準適合命令によって是正することができるのに,より危険な,基本設計における安全性を欠いた原子炉について,実効性のある規制手段を有しなかったことになり,厳重な安全規制によって安全性が確保されることを大前提に原子力発電所の稼動を認めるという原子力基本法,炉規法,電気事業法の趣旨,目的に照らし不合理である。
さらに,具体的な場面として,原子炉施設が技術基準に適合しない状態にあり,技術基準に適合する状態に是正しなければならない場合,事業者が,それを最小限
の詳細設計の変更で対応するか,さらに安全性を高めるために基本設計の変更で対応するかは自由であり,技術基準適合命令の結果,設置許可(変更)申請がなされることも当然に想定されているはずである。
経済産業大臣としては,原子炉施設が技術基準に適合しないと認められる限り,技術基準適合命令を発令することができ,技術基準適合命令を発するに当たり,その技術基準違反の是正手段が基本設計の変更を要するか詳細設計の変更で足りるかを判断した上,基本設計の変更を要する場合には技術基準適合命令を発し得ないという制約があるとは解されない。

平成24年改正後の炉規法との関係について
平成24年法律第47号による改正後の炉規法43条の3の23は,使用停止等
処分を行い得る場合として,同改正前の電気事業法40条に相当する「発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき」に加え,
「発電用原子炉施設の位置,構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき」を規定しており,原子炉施設が技術基準に適合しない場合に加え,原子炉施設が設置許可基準に適合しない場合にも使用停止等の処分をなし得ることを明文で規定した。そして,平成24年改正後の炉規法43条の3の6の設置許可基準である設置許可基準規則(乙A17)と,同改正後の炉規法43条の3の14の技術基準である技術基準規則(乙A18)とは,前者が基本設計に関するもの,後者が詳細設計に関するものとして規制対象を切り分けて
いるものと解される(乙A18・4頁)

しかし,このことは,平成24年改正まで,技術基準適合命令が基本設計に及び得なかったことを意味するものとはいえない。平成24年改正前において,設置許可基準の全部又は一部を技術基準の内容とするか否かは,電気事業法39条2項による委任の範囲内において経済産業大臣の裁量に委ねられており,設置許可基準の
全部を既設原子炉に適用する(バックフィット)ことは要求されていなかった(そのため,例えば,技術基準上の耐震性評価は,設置許可当時の耐震設計審査指針で
評価することとされていた。乙A16・10~11頁)のに対し,平成24年改正後は,設置許可基準の全部について必要的に既設原子炉に適用されることとなったにすぎないと解され,改正前の技術基準適合命令が基本設計に及び得ないと解すべき根拠とはいえない。

技術基準適合命令が基本設計に及ぶかについてのまとめ
以上によれば,経済産業大臣は,原子炉施設が省令62号1項4号の技術基準に
適合しないと認められる場合には,当該原子炉施設が技術基準に適合するよう技術基準適合命令を発することが可能であり,この場合における技術基準適合命令が基本設計の変更に及び得ないという制約があったとは認められない。(4)

「独立性」確保に関する規制権限
平成14年当時の規制権限

設置許可基準である平成13年安全設計審査指針(乙A7)の指針48第3項は,「非常用所内電源系は,多重性又は多様性及び独立性を有し」ていることを要求していたが,この設置許可基準(及びそれ以前の平成2年8月30日付け「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」
(乙A24)
,昭和52年6月14日付
け「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」
(乙A23)
)は,昭和4
1年12月1日から昭和47年1月11日にかけて設置(変更)許可処分を受けた福島第一原発1~4号機に遡及的に適用(バックフィット)されるものではなかった。

平成14年当時の省令62号(乙A5の1)8条の2第2項は,
「安全設備(原子
炉格納容器を除く。以下この項において同じ。
)は,当該安全設備自体又は当該安全
設備が属する系統として,多重性を有するように施設しなければならない。」と定め,
非常用電源設備(安全設備」に含まれる。省令62号2条6号ニ。乙A5の1)に「
「多重性」を要求していたが,
「独立性」までは要求していなかった。

したがって,経済産業大臣は,省令62号を改正しない限り,
「独立性」欠如是正
義務違反を理由として技術基準適合命令を発する規制権限を有していなかった。

平成18年当時の規制権限
平成17年経済産業省令第68号による改正(平成18年1月1日施行)後の省
令62号(乙A5の2)8条の2第1項は,
「第二条第八号ハ及びホに掲げる安全設
備は,当該安全設備を構成する機械器具の単一故障(単一の原因によつて一つの機械器具が所定の安全機能を失うことをいう。以下同じ。
)が生じた場合であつて,外
部電源が利用できない場合においても機能できるように,構成する機械器具の機能,構造及び動作原理を考慮して,多重性又は多様性,及び独立性を有するように施設しなければならない。
」とし,33条4項は,
「非常用電源設備及びその附属設備は,
多重性又は多様性,及び独立性を有し,その系統を構成する機械器具の単一故障が
発生した場合であつても,運転時の異常な過渡変化時又は一次冷却材喪失等の事故時において工学的安全施設等の設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならない。
」として,非常用電源設備に「多重性又は多様性」と
「独立性」を要求していた。
したがって,経済産業大臣は,非常用電源設備が「独立性」を欠如していれば,
技術基準適合命令を発する規制権限を有していた。
(5)

シビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)
平成14年までのシビアアクシデント対策に関する規制権限

シビアアクシデントとは,
「設計基準事象を大幅に超える事象であって,安全設計
の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却又は反応度の制御ができない状態であり,その結果,炉心の重大な損傷に至る事象」をいうとされていた(甲B1の1本文編407~408頁,甲B4・94,545頁,甲B76・6頁,甲B81・2頁,甲B149・207頁)
。全交流電源の長時間の喪失という事態も,シビアア
クシデントの1つである。
福島第一原発1~4号機の設置許可当時の設置許可基準である昭和39年原子炉
立地審査指針(乙A13)は,
「重大事故」
(敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全
防護施設等を考慮し,技術的見地からみて,最悪の場合には起こるかもしれないと
考えられる重大な事故)及び「仮想事故」
(重大事故を超えるような,技術的見地か
らは起こるとは考えられない事故。例えば,重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちいくつかが動作しないと仮想し,それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)を想定して立地条件の適否を判断することとしていたが,そこで仮想した放射性物質の放散は本件事故よりもはるかに小さいものであり(乙B59,137,138,証人舘野①17~18頁),シビアアクシデント対策を義
務付けるようなものではなかった。
原子力安全委員会原子炉安全基準専門部会共通問題懇談会は,1979年(昭和54年)のスリーマイルアイランド原発事故,1986年(昭和61年)のチェル
ノブイリ原発事故を受け,昭和62年7月からシビアアクシデント対策の検討を重ね,平成2年2月19日に「原子炉安全基準専門部会共通問題懇談会中間報告書」を,平成4年3月5日に「シビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントに関する検討報告書-格納容器対策を中心として-」
(甲B76・4~29
頁)を作成して,原子力安全委員会に報告した(甲B76・1頁)。原子力安全委員

会は,これを受けて,平成4年5月28日,
「発電用軽水型原子炉施設におけるシビ
アアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」(甲B76)を
決定した。これを受けて,通商産業省資源エネルギー庁は,平成4年7月には「アクシデントマネジメントの今後の進め方について」
(甲B81)を取りまとめた。
これらは,シビアアクシデント対策を原子力事業者の自主的取組として位置付け
るものであり,設置許可基準や技術基準の内容としてシビアアクシデント対策を法的に義務付けるものではなかった(甲B81・5頁)

通商産業省資源エネルギー庁やこれを引き継いだ保安院は,これらの方針に基づき,原子力事業者に対し,シビアアクシデント対策を促してきたが(甲B83,84,乙B38~41)
,シビアアクシデント対策を法的に義務付けることはなかった。

平成2年以降の設置許可基準である「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」
(平成2年8月30日原子力安全委員会決定。乙A24)の指針27は,
「原子炉施設は,短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であること」を設置許可基準として要求しており(乙A24)
,平成13年3月29日の一部改訂後も同様であった(乙A7)

この指針27の解釈では,
「長期間にわたる全交流動力電源喪失は,送電線の復旧又
は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない。」と解釈され
(乙A7・22頁,乙A24・55頁)「短時間」とは30分間以下のことである,
と解釈されていた(甲B1の1本文編413頁,乙B54・2頁)。
原子力安全委員会原子力施設事故・故障分析評価検討会全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループは,平成5年6月11日,
「原子力発電所における全交流電源

喪失事象について」
(甲B82)を取りまとめたが,その結論は,現状の対策(短時
間の全交流電源喪失に対する対策)で十分とするもので,長時間の全交流電源喪失に対する対策を法的に義務付けるものではなかった。

平成14年当時の規制権限
以上のとおり,平成14年当時,シビアアクシデント対策を法的に義務付ける規
定は存在しなかったから,経済産業大臣は,
(電気事業法による委任の範囲内で)省
令62号を改正しない限り,シビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)違反を理由として技術基準適合命令を発する規制権限を有していなかった。ウ
平成18年当時のシビアアクシデント対策に関する規制権限
平成17年経済産業省令第68号による改正(平成18年1月1日施行)により,
省令62号(乙A5の2)16条5号に「原子炉停止時(短時間の全交流動力電源喪失時を含む。
)に原子炉圧力容器内において発生した残留熱を除去することができる設備」の設置を義務付ける規定が,33条5項に「原子力発電所には,短時間の全交流動力電源喪失時においても原子炉を安全に停止し,かつ,停止後に冷却するための設備が動作することができるよう必要な容量を有する蓄電池等を施設しなけ
ればならない。
」との規定が追加され,短時間の全交流電源喪失に備えた対策は義務付けられたが,長時間の全交流電源喪失に備えた対策は義務付けられなかった。
以上のとおり,平成18年当時においても,シビアアクシデント対策を法的に義務付ける規定は存在しなかったから,経済産業大臣は,
(電気事業法による委任の範
囲内で)省令62号を改正しない限り,シビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)違反を理由として技術基準適合命令を発する規制権限を有していなかった。エ
平成23年改正後の規制権限
本件事故後の平成23年10月7日,平成23年経済産業省令第53号により省
令62号に5条の2が追加(即日施行)され,
「津波によって交流電源を供給する全
ての設備,海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備及び使用済燃料貯蔵槽を冷却する全ての設備の機能が喪失した場合においても直ちにその機能を復旧できるよう,その機能を代替する設備の確保その他の適切な措置を講じなければならない。(省令62号5条の2第2項)として,全交流電源喪失時に電源供給機能を代」
替する設備(電源車など)や,最終ヒートシンク(海水を使用して原子炉施設を冷却する設備)喪失時に冷却機能を代替する設備(淡水貯槽と原子炉建屋までの配管など)を確保するなどの代替設備確保義務が課せられた(甲A2,7,8,乙A1
6)

この代替設備確保義務がシビアアクシデント対策であるか否かは争いがあるが,この平成23年改正が,平成23年当時の電気事業法の委任の範囲内で行われたことは争いがなく,そうすると,平成14年,18年当時の電気事業法の下においても,省令改正によりこのような代替設備の確保を義務付けることが可能であったと
いえる(そのような省令改正義務があったか否かは,回避義務の問題である。。)

平成24年改正後の規制権限
平成24年法律第47号による改正後の炉規法1条は,
「この法律は,原子力基本

法(昭和三十年法律第百八十六号)の精神にのつとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られることを確保するとともに,原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質,核燃料物質及び原子
炉による災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関し,大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制を行い,もつて国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする。」
として,
「重大な事故」
(シビアアクシデント)による災害の防止を炉規法の目的に
明記し,同改正後の43条の3の6第1項3号は,発電用原子炉の設置許可基準として,
「その者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委
員会規則で定める重大な事故をいう。第四十三条の三の二十二第一項及び第四十三条の三の二十九第二項第二号において同じ。
)の発生及び拡大の防止に必要な措置を
実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること」を求め,同改正後の43条の3の22第1項柱書きは,
「発電用原子炉設置者は,次の事項について,原子力規制委員会規則で定めると
ころにより,保安のために必要な措置(重大事故が生じた場合における措置に関する事項を含む。
)を講じなければならない。
」とシビアアクシデント対策を義務付け,
実用発電用原子炉に対する炉規法の適用除外(同改正前の73条)を削除した。これを受けて,設置許可基準規則(乙A17)及び技術基準規則(乙A18)は,「設計基準事故対処設備の電源が喪失したことにより重大事故等が発生した場合に
おいて炉心の著しい損傷,原子炉格納容器の破損,貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷を防止するために必要な電力を確保するために必要な設備」
(設置許可基準規則57
条1項,技術基準規則72条1項)等のシビアアクシデント対策を義務付けている。平成14~18年当時にこれら平成24年改正後のようなシビアアクシデント対策を義務付けることが,当時の炉規法,電気事業法の下で可能であったか否かは争
いがあるが,原告らは,これら平成24年改正後のようなシビアアクシデント対策を平成14~18年当時に義務付けるべきであったと主張しているものではない。
原告らが主張しているシビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)は,平成14~18年当時,省令62号を改正して平成23年改正後の5条の2第2項のような代替設備確保義務を盛り込むべき義務(そして,そのような改正後の省令62号に基づいて技術基準適合命令を発すべき義務)である(原告ら最終準備書面(第2分冊)79~80,303頁,原告ら主張要旨16頁)

3
津波対策に関する予見義務
平成14年当時の省令62号4条1項にいう「津波……により損傷を受けるおそ
れがある」の意義は,設置許可基準である平成13年安全設計審査指針(乙A7)の指針2第2項「安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を想定した設計であること。
」と整合的に解釈されていた(甲A6・11頁,弁論の全趣
旨)
。そして,平成13年安全設計審査指針の指針2にいう「自然現象のうち最も苛
酷と考えられる条件」とは,
「対象となる自然現象に対応して,過去の記録の信頼性
を考慮の上,少なくともこれを下回らない苛酷なものであって,かつ,統計的に妥当とみなされるもの」をいうと解釈されていた(乙A7・18頁)。
上記のような平成13年安全設計審査指針の指針2の解釈は,省令62号4条1項にいう「津波……により損傷を受けるおそれがある」の解釈としても妥当なもの
として是認できるところ,上記解釈によっても,
「予想される自然現象のうち最も苛
酷と考えられる条件」として想定すべき津波は,既往最大の津波に限られるものではなく,合理的な根拠に基づいて「予想」され,
「統計的に妥当とみなされる」津波
であれば,既往最大の津波を超える規模の津波であっても「予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件」の津波として安全対策が要求されていたものとい
うことができる(少なくともこれを下回らない」との文言も,想定津波が既往最大「
の津波よりも大きくなることを想定した文言といえる。。現に,被告東電が平成1)

4年3月に「津波評価技術」に基づいて推計した想定津波O.P.+5.7m(甲B130)は,平成6年に既往最大の津波として推計したO.P.+3.5m(甲B127)を上回っていた。
したがって,経済産業大臣は,
「津波により損傷を受けるおそれがある」原子炉施
設に対して技術基準適合命令を発すべき規制権限を適時かつ適切に行使するため,津波に関する科学的知見を継続的に収集し,
「予想される自然現象のうち最も苛酷と
考えられる条件」として合理的に想定される津波については,これを予見すべき義務があったというべきである。
4
津波対策に関する予見可能性

(1)

予見可能性の対象

原告らは,本件における予見可能性の対象としては,福島第一原発1~4号機の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波の予見可能性があれば足りると主張する(原告ら主張要旨8頁)

これに対し,被告国は,本件事故の直接の原因となった本件地震と同程度の地震及び本件津波と同程度の津波についての予見可能性が必要であると主張する(被告国主張要旨16頁)

そこで検討すると,現実に発生した事象の発生経過を具体的に予見できなかったとしても,結果発生の現実的危険性のある事象を予見することが可能であり,当該事象の発生により現実的に予想される結果についての回避義務を果たしていれば,
結果として現実に発生した結果の発生をも回避することが可能であったときは,現実に発生した結果を行為者に帰責することができると解される。換言すれば,予見可能性の対象は,現実に発生した具体的な因果経過の全てである必要はなく,その主要部分についてあれば足りるというべきである(ただし,過失責任を問うには,予見可能な事象に対する回避義務を尽くしていれば,現実の結果をも回避すること
もできたという回避可能性も要件となる。。

したがって,①O.P.+10mを超える津波が福島第一原発に到来することが
予見可能であり(予見可能性)
,②想定されたO.P.+10m超の津波に対する対策(回避義務)を果たしていれば本件事故の発生を回避することが可能であった(回避可能性)のであれば,津波による全交流電源喪失(そして,全交流電源喪失による炉心溶融の発生,炉心溶融による放射性物質の大量発生と大量放出,放射性物質の大量放出による原告らの被害の発生)という因果経過の主要部分の予見可能性があったといえる。
なお,津波の高さには,①狭義の津波高さ,②浸水高,③遡上高の3種があるところ,本件では,福島第一原発1~4号機といった具体的地点に到来する津波の予見可能性が問題となっているのであるから,福島第一原発1~4号機付近における
浸水高がO.P.+10mを超える津波の予見可能性があれば,敷地高さを超える津波の予見可能性があったものとして,結果回避義務が発生するものと認めるのが相当である。
(2)

予見可能性を基礎付ける知見の程度

規制権限の行使によって,被規制者に対する権利,利益が制限され,あるいは義務,負担が発生し,場合によっては刑事罰等による制裁が伴うことがあるのであるから,これを行使するためにはその必要性を基礎付けるに足りる客観的かつ合理的な根拠が必要であり,予見可能性の対象としては,規制権限の行使を客観的かつ合理的な根拠をもって正当化できるだけの具体的な法益侵害の危険性が認められることが必要である。

被告国は,規制権限不行使の違法が問われた最高裁平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁[クロロキン薬害訴訟]
,最高裁平成16年4月
27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁[筑豊じん肺訴訟],最高裁平成
16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁[水俣病関西訴訟]
,最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁[大阪
泉南アスベスト訴訟]を見ても,規制権限を行使すべき作為義務を導くのに必要な予見可能性が存在すると認められた事案は,いずれも規制権限の不行使が違法とさ
れた時点で,被害が現実に発生し,かつ,当該規制権限の行使が正当化でき,さらにその行使が作為義務にまで至っているといえるだけの科学的知見が既に形成,確立し,具体的な法益侵害の予見可能性があった事案であり,
「形成,確立された科学
的知見」とは,専門的研究者全員の意見の一致までは求められないものの,単に一部の専門家から論文等で学説が提唱されただけでは足りず,少なくとも,その学説が学会や研究会での議論を経て,専門的研究者の間で正当な見解であると是認され,通説的見解といえる程度に形成,確立した科学的知見であることを要するべきであり,本件のように,いまだ発生していない被害の発生防止のための規制権限の不行使においては,より一層,確立された科学的知見に基づく具体的な危険発生の予見
可能性があって初めてその違法が問題とされるべきである,などと主張する(被告国主張要旨17~18頁)

しかし,客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であっても,常に学会や研究会で通説が形成されるというプロセスがあるわけではなく,また,常に異論が出されることはあり得ることからすれば,規制権限行使の必要性を導く前提としての予
見可能性の対象となる事項は,規制権限が付与された趣旨,目的や規制権限の性質等に照らし,規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であれば足り,
「学会や研究会での議論を経て,専門的研究者の間で正当な
見解であると是認され,通説的見解といえる程度に形成,確立した科学的知見であること」は,当該知見が「規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根
拠を有する科学的知見」であることを示す一資料であるにとどまり,常にそのような程度の知見の確立が要求されるものではないと解するのが相当である。また,原子力発電所に対する規制権限の行使は,被害が発生してからでは取り返しが付かないのであるから,いまだ被害が発生していないからといって,その性質上被害が発生してからでないと規制権限行使の必要性が明らかにならない薬害,じ
ん肺,水俣病,石綿肺といった類型よりも類型的に高度の予見可能性が要求されると解することはできない。

(3)

平成14年7月の「長期評価」以前における予見可能性
設置許可時点における想定津波(3.1m)

福島第一原発1~4号機は,昭和41年7月1日から昭和46年8月5日にかけて被告東電により設置(変更)許可申請がなされ,昭和41年12月1日から昭和47年1月11日にかけて内閣総理大臣により設置(変更)許可処分がされた(甲B4・61頁,乙B60)

被告東電は,福島第一原発の南約55kmにある福島県いわき市の小名浜検潮所における昭和26年の観測開始から昭和38年までの最高潮位である,昭和35年のチリ地震津波におけるO.P.+3.122mの津波を想定可能な最大の津波
(設計想定津波)として想定して,非常用電源設備を含む原子炉施設の設計を行い,設置(変更)許可を得た(甲B1の1本文編373~374頁,甲B4・83頁,甲B274・8頁,甲B290・121頁,丙B41の1・16頁)。

平成6年の想定津波(3.5m)
平成5年7月の北海道南西沖地震(奥尻島地震)を機に,通商産業省資源エネル
ギー庁は,平成5年10月15日,被告東電を含む電気事業者に対し,既設原子力発電所の津波に対する安全性をチェックして報告するよう指示した(乙B12)。
被告東電は,平成6年3月,
「福島第一・第二原子力発電所

津波の検討につい

て」
(甲B127)を提出した。同報告書によれば,福島第一原発の護岸前面での最大水位上昇量はチリ地震津波(1960年)による約2.1mであり,朔望平均満潮位時(O.P.+1.359m)に津波が来襲すると,最高水位はO.P.+3.5m程度と想定された(甲B127)


4省庁報告書に基づく想定津波(4.8m)

(ア)

7省庁手引きの作成

平成5年7月の北海道南西沖地震(奥尻島津波)を機に,国土庁,農林水産省,水産庁,運輸省,気象庁,建設省,消防庁の7省庁は,平成9年3月,「地域防災計
画における津波対策強化の手引き」
(7省庁手引き。甲B21)及びその別冊である

「津波災害予測マニュアル」
(甲B22)を作成した。7省庁手引きにおいては,
「近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,別途現在の知見により想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として設定するものとする。
」としていた(甲B
21・30頁)

(イ)

4省庁報告書による想定津波(6.4m)

農林水産省,水産庁,運輸省,建設省の4省庁は,平成9年3月,「太平洋沿岸部
地震津波防災計画手法調査報告書」(4省庁報告書。甲B115の1・2)を作成した。同報告書において,想定地震の地域区分は地震地体構造論上の知見に基づき設定し,想定地震の発生位置は既往地震を含め太平洋沿岸を網羅するように設定することとされ(甲B115の1・125頁)
,福島第一原発が所在する大熊町の想定地
震津波は,福島県沖の「G3-2」の区域(甲B115の1・162頁)にM8.0(甲B115の1・202頁)を想定した想定地震で,海岸線に沿った津波水位
の平均値で6.4mと想定された(甲B115の2・148頁)

(ウ)

別資料による想定津波(7.2m)

4省庁が設置した太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査委員会(甲B115の1・1~2頁)が平成9年5月26日に開催した第3回委員会の資料2の表-3(3)
(甲B335資料2・20頁)によれば,福島第一原発1~4号機が所在する双葉町の想定地震津波は,福島県沖の「G3-2」の区域(甲B115の1・162頁)にM8.0(甲B335資料2・11頁)を想定した想定地震で,この想定津波で生じた沿岸最大津波水位の市町村平均値で6.8m,市町村内最大値で7.2m,大熊町の平均値で6.4m,最大値で7.0mと想定された。(エ)

津波対応WGによる想定津波(8.6m)

「津波対応WG」
(電事連の内部に設置された津波対応ワーキンググループと思わ
れる。
)は,平成9年7月25日,「太平洋沿岸部地震防災計画手法調査」への対応「

について」
(乙B70)を取りまとめて被告国に報告し,電事連は,平成9年10月15日,同旨の「7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針」(甲B338)を
被告国(通商産業省)に提出した。同対応方針は,
「原子力としての考え方の方向
性」としては,
「原子力の津波評価の考え方を指針等にまとめる際は,必要に応じて地震地体構造上の地震津波も検討条件として取り入れる方向で検討・整備していく必要がある。,
」「最大規模の地震津波を想定した上で更にバラツキを考慮することは,その発生の可能性は小さく工学的には現実的でないと考えられる。,」「現在,原子力
の津波評価指針が制定されていないことから,申請書上はこれまでと同様に,①歴史津波,②海域活断層による津波を検討対象とする。一方,施設の検討に当たって
は,将来の津波の指針化を想定して,①,②の津波に加えて③想定し得る最大規模の地震による津波に対しても安全機能が維持されることを確認する。(乙B70・」
3頁の「原子力としての対応の方向性(案)
」では,
「③想定し得る最大規模の地震
による津波に対しても安全機能が維持されることを検討することとする。」とされて
いた。,
)「当面は3.の原子力としての考え方の方向性を念頭にQ&Aを作成し,対
応していくものの,中長期的には7省庁津波と整合する原子力の考え方を指針として取りまとめ,これに基づいて安全性の確認を行い,場合によってはその結果を公表していく必要があるものと考えられる。,などとしていた(甲B338・2~3」
頁)

福島第一原発に想定される津波は,4省庁報告書による計算値で平均6.4~
6.8m,最大7.0~7.2m,朔望平均満潮位を考慮した津波高は平均O.P.+7.8~8.2m,最大O.P.+8.4~8.6m,事業者数値シミュレーション結果によれば最高O.P.+4.8m(甲B338・添付資料2表-2,乙B70・5頁表2)
,解析結果等の2倍値でO.P.+9.5m(乙B70・7頁)
とされていた。

(オ)

被告東電による想定津波(4.8m)

被告東電は,4省庁報告書に基づき想定される津波に対する福島第一原発の安全
性についての検討を行い,平成10年6月,
「津波に対する安全性について(太平洋
沿岸部地震津波防災計画手法調査)(甲B128。甲B339も同時期のものと思」
われる。
)を作成した。同書面によれば,4省庁報告書にいうG2-3,G3-2,G3-3の3つの波源モデルについて解析した結果,最大水位上昇量は福島第一原発においてはG2-3が最大となり,最大水位上昇量に朔望平均満潮位を重ね合わせた場合の最大水位は,福島第一原発1~4号機でO.P.+4.7~4.8mと想定された(甲B128・1,4頁,甲B339)

福島第一原発への到来が想定される最大津波は,4省庁報告書ではG3-2の想定地震による6.4m(甲B115の2・148頁)
,被告東電の計算ではG2-3

の想定地震による4.8m(甲B128,339)と異なっているが,これは,4省庁報告書が高速演算のために非線形方程式を用いない線形の高速演算モデルを採用し,海底摩擦や防潮堤の存在を考慮せず,計算格子のメッシュ長を600mとしている(甲B115の1・176頁,乙B154[佐竹調書①]14~15頁,乙B156[佐竹調書②]62頁,乙B159・11頁)のに対し,被告東電の計算
では非線形方程式を使用し,海底摩擦や防潮堤の存在を全て考慮し,格子間隔を最小40mとしていること等による(甲B128・3頁,弁論の全趣旨・被告東電準備書面(7)57頁)

そうすると,より詳細な計算の結果,福島第一原発付近に到来する想定津波はO.P.+4.8mと計算されたのであるから,より簡易な計算によるO.P.+
8.6m等の津波について設計上想定すべきであったとはいえない。(カ)

計算値の2倍,あるいは標準偏差分の2倍の津波を考慮する必要があったと
はいえないこと
①4省庁報告書の計算値と実測値の関係によれば,計算値が5mの場合,標準偏差分の2倍まで考慮すれば,実測値が取り得る範囲は1.7m≦実測値≦14.9mとされ(甲B115の1・201頁表4.6。なお,4省庁報告書は2乗すべきところを2倍にしており,計算値5mに標準偏差の2倍を考慮した場合の実測値の
範囲は2.3m≦実測値≦11.1mが正しいとのことであるが,いずれにせよ結論に影響しない。,②4省庁報告書の調査委員会の委員には,通商産業省の顧問で)
もある首藤伸夫教授や阿部勝征教授が参加していたが,これらの専門家は津波数値解析の精度は「倍半分」
(すなわち,最大2倍の誤差があり得る)と発言し(甲B2
5・44頁,甲B274・29頁,乙B190の1・2)
,③通商産業省は,平成9
年6月までに,仮に今の数値解析の2倍で津波高さを評価した場合に,その津波により原子力発電所がどうなるか,さらにその対策として何が考えられるかを提示するよう電力会社に要請しており(甲B25・44頁)
,④電事連は,平成12年2月,
想定の1.2倍,1.5倍,2倍の水位で非常用機器が影響を受けるかどうかを分
析した津波に対するプラント概略影響評価を作成し,そこでは福島第一原発の想定の1.2倍がO.P.+5.9~6.2m(すなわち,想定津波はO.P.+4.9~5.2m,1.5倍でO.P.+7.4~7.8m,2倍でO.P.+9.8~10.3m)とされていた(甲B4・83頁,甲B25・41頁,甲B274・31頁)

しかし,上記①の「実測値が取り得る範囲」というのは計算値の誤差の範囲を示
すに過ぎず,また,①~④のような事実があったとしても,想定津波として計算された津波の2倍,あるいは標準偏差2倍分(95%信頼区間)の高さの津波について具体的な予見可能性が生じるとはいえない。
したがって,4省庁報告書から,1~4号機敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波を予見できたとはいえない(原告らも,4省庁報告書をもって直ちに「福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来する具体的な危険性を認識できる程度の予見可能性を基礎付ける知見」であると主張するものではなく,
「福島第一原発の所
在地においても敷地高さを超える津波に対する防護対策の必要性について調査研究する必要性を基礎付ける知見」であると位置付けている。原告ら準備書面(41)
31頁,原告ら最終準備書面(第2分冊)84頁,原告ら主張要旨18~20頁)。

「津波浸水予測図」について

(ア)

「津波浸水予測図」の作成

国土庁と財団法人日本気象協会は,平成11年3月,7省庁手引きの別冊である「津波災害予測マニュアル」
(甲B22)に基づき,
「津波浸水予測図」
(甲B296
の1~4,乙B159)を作成,公表した。これによれば,
「設計津波高6m」及び
「設計津波高8m」において,福島第一原発1~4号機のタービン建屋及び原子炉建屋はほぼ建屋の全体において浸水深1~4mで浸水すると予測されていた(甲B296の3・4,乙B159)

(イ)

「津波浸水予測図」からO.P.+10m超の津波が予見可能となるもので
はないこと
しかし,
「津波浸水予測図」は,津波予報区(福島県の場合,県全体で1つの予報区である。
)ごとに気象庁から発表される量的津波予報で予報された津波の高さ2m,4m,6m,8mに対応する浸水状況を予測したものであり,これ自体から福島第一原発に到来すべき津波の高さを予見できるものではない(乙B156[佐竹調書②]52~58,65~67,76~78頁,乙B159)。

国土庁防災局震災対策課職員が作成した「津波浸水予測図の作成とその活用」(甲
B297の1)には,
「津波高さが2・4・6・8・10mの5通りとなるよう,津
波波形の設定を行った。ただし,地震断層モデルから想定される最大津波高さが10m未満の領域では,その津波高さを最大として,それ以上の津波高さは想定しなかった。
」とあるところ,福島第一原発付近の津波浸水予測図が2・4・6・8mの
ものがあって10mのものが存在していない(甲B296の1~4,乙B159)ということは,逆に,福島県において,最大津波高さ10m以上の津波が平成11年当時に想定されていなかったことを示している(乙B156[佐竹調書②]56~58頁)

また,津波浸水予測図は,格子間隔を100mとし,防波堤や水門等の防災施設
や沿岸構造物による効果を考慮せずに作成されているものであるから(甲B297の1・51頁,乙B156[佐竹調書②]53,56,59~61,75~76,
78~79,82~87頁,乙B159)
,津波浸水予測図で,
「設計津波高6m」
及び「設計津波高8m」において,1~4号機のタービン建屋及び原子炉建屋がほぼ建屋の全体において浸水深1~4mで浸水すると予測されているからといって,現実には防波堤が存在する1~4号機付近に津波高さ6~8mの津波が到来した場合に,1~4号機敷地付近における浸水高がO.P.+10mを超えることが具体的に予見できたとはいえない(原告らも,津波浸水予測図をもって直ちに「福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来する具体的な危険性を認識できる程度の予見可能性を基礎付ける知見」であると主張するものではなく,
「福島第一原発の所在地
においても敷地高さを超える津波に対する防護対策の必要性について調査研究する
必要性を基礎付ける知見」であると位置付けている。原告ら準備書面(41)31頁,原告ら最終準備書面(第2分冊)84頁,原告ら主張要旨19~20頁)。

「津波評価技術」に基づく想定津波(5.6m)

(ア)

「津波評価技術」の作成

土木学会原子力土木委員会津波評価部会は,同部会における議論(甲B27,118~124)を経て,平成14年2月,
「原子力発電所の津波評価技術」
(津波評
価技術。甲B6の1~3)を作成した。
「津波評価技術」は,プレート境界付近の想
定津波については,①プレート境界付近に将来発生することを否定できない地震に伴う津波を想定津波の評価対象とする(甲B6の2・1-31頁),②同じ海域でこ
れまでに発生した津波の痕跡高を説明できる断層モデルを基準として基準断層モデ
ルを設定する(甲B6の3・2-51~2-60頁)
,③基準断層モデルに基づいて,
波源の不確定性や数値計算上の誤差,地形データ等の誤差を考慮するため,基準断層モデルの諸条件(パラメータ)を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ)
,評価対象地点に対して最も影響が大きくなる断層モデル
を選定し,想定津波を計算する(甲B6の2・1-6頁)
,④想定津波の計算結果が

既往津波の再現計算結果及び痕跡高を上回ることを確認する(甲B6の2・1-7頁)
,といった手法をとっている。
「津波評価技術」は,既往津波の痕跡高を説明で

きる基準断層モデルを基準としているため,大きな既往津波のない福島県沖海溝沿い領域に波源の設定領域を設けておらず(甲B6の2・1-59頁,甲B6の3・2-59頁)
,その海域を波源とする津波を評価できるようにはなっていなかった(甲B312[島崎調書①]26~28頁,乙B144・16~17頁,乙B156[佐竹調書②]19~24頁)

(イ)

平成14年推計(5.5m)

被告東電は,平成13年12月19日に「土木学会「原子力発電所の津波評価技術」に係わる影響評価:福島第一・第二原子力発電所」で試算を行った(甲B129)後,平成14年3月,
「津波の検討-土木学会「原子力発電所の津波評価技術」
に関わる検討-」
(甲B130)により「津波評価技術」に従った数値シミュレー
ションを行い,被告国に報告した。同報告書によれば,近地津波として領域3,4,5,7,8と呼ばれる領域(津波評価技術で波源設定領域を設けていない福島県沖海溝沿い領域は含まれていない。
)に波源を設定し,Mw8.0~8.6としてパラ
メータスタディを実施した結果,1~4号機での最大水位上昇量に朔望平均満潮位
(O.P.+1.359m)を考慮した設計津波最高水位はO.P.+5.4~5.5m(5~6号機でO.P.+5.6~5.7m)
,チリ沖に波源を設定した遠
地津波ではO.P.+5.4~5.5m(5~6号機でも同じ)と推計され,既往津波の痕跡高を上回っていることが確認された(甲B130)

被告東電は,上記推計結果に基づき,6号機非常用ディーゼル発電機冷却系海水
ポンプ用モータのかさ上げや,少なくとも3,4号機のタービン建屋地下1階における海水配管トレンチ,電源ケーブルトレンチの貫通部の浸水防止対策などの対策を実施した(甲B1の1本文編381頁,甲B4・84頁,甲B130,乙B3の1・Ⅲ-29頁,丙B41の1・17~18頁,丙B63,弁論の全趣旨・被告東京電力準備書面(32)。


(ウ)

平成21年推計(5.6m)

被告東電は,平成18年に保安院から求められた耐震バックチェック(丙B4
2)の最終報告に向けて,最新の海底地形と潮位観測データを考慮し,領域3,4,5,7,8と呼ばれる領域(福島県沖海溝沿い領域は含まれていない。)に波源を設
定して「津波評価技術」に基づく想定津波を再評価した結果,平成21年2月,1~4号機の取水ポンプ位置の津波水位はO.P.+5.4~5.6m(5~6号機でO.P.+6.0~6.1m)
,敷地北側及び敷地南側からは浸水せず,と推計さ
れた。
被告東電は,この再評価に基づき,ポンプ用モータのシール処理等の対策を講じた(甲B1の1本文編401頁,甲B4・85頁,甲B16,丙B41の1・19頁)


(エ)

原子力発電所の津波評価技術2016

土木学会は,平成28年9月30日,
「津波評価技術」を「原子力発電所の
津波評価技術2016」に改訂した(甲B395,401,乙B184)。こ
の「原子力発電所の津波評価技術2016」では,
「決定論的津波評価手法」
に加え「確率論的津波評価手法」を取り入れるなどし,
「地震調査研究推進本
部……の地震・津波に関する評価や,活断層と海溝型地震を対象にした長期評価が参考となるほか,第5章で述べる確率論的評価にあたっては,震源をあらかじめ特定しにくい地震等に関する評価手法で示されている地震地体構造区分の枠組み等も参考にすることができる。(甲B401本編18頁)と」
しているが,決定論的津波評価手法」においては,プレート間巨大地震を「


想定する場合」と「既往津波の断層モデルに基づき海域ごとに設定する場合」を例示し,大きな既往津波のない福島県沖海溝沿い領域に,M8規模の津波地震の波源の設定領域を設けていない(甲B401付属編2-63~2-68頁)。
(オ)

「津波評価技術」からの予見可能性についてのまとめ

「津波評価技術」の作成過程においては,算定結果に一定の安全率を掛ける方式が検討されたこともあったが,結局,完成した「津波評価技術」において算定結果に安全率あるいは補正係数を掛ける方式は取り入れられなかったのであるから(甲
B1の1本文編379~381,445~447頁,甲B6の1~3,甲B27,121~124,274,275,323,324,乙B190の1・2,乙B227)「津波評価技術」からは,1~4号機敷地付近における浸水高O.P.+,
10mを超える津波が予見できたとはいえない。

貞観地震に関する平成14年までの知見(2~4m)
じようがん

貞観11年5月26日(869年7月13日)に発生した貞観地震については,平成14年までに複数の論文が発表され(甲B12の1~6,甲B134,甲B359の1・2)
,菅原大助らによる平成13年の数値復元によれば,貞観地震の津波の波高は,茨城県大洗から福島県相馬にかけて(福島第一原発付近を含む。)小さく,
およそ2~4m,福島県相馬から宮城県気仙沼にかけて大きく,およそ6~12mとされており(甲B12の5)
,福島第一原発付近に到来した津波がO.P.+10
mを超えていたという知見は得られていなかった(現在に至るまで,そのような知見は得られていない。。


平成14年7月までの予見可能性についてのまとめ
以上のとおり,平成14年7月31日に「長期評価」が公表されるまで,1~4
号機の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波を具体的に予見可能な知見は存在しなかった。
(4)

平成14年7月の「長期評価」による予見可能性
「長期評価」の作成

地震調査研究推進本部(地震本部)地震調査委員会は,日本海溝沿いのうち三陸沖から房総沖にかけての領域を対象とし,長期的な観点での地震発生の可能性,震源域の形態等について評価し,同委員会長期評価部会海溝型分科会,同部会,同委員会での議論(甲B272の1~6,乙B152,166)を経て,平成14年7月31日,
「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」
(長期評価。

甲B5の2)を作成,公表した。
地震本部は,平成7年の阪神・淡路大震災を機に,
「地震による災害から国民の生

命,身体及び財産を保護するため……地震に関する調査研究の推進のための体制の整備等について定めることにより,地震防災対策の強化を図り,もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資すること」を目的として制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)に基づき,文部科学省(平成11年法律102号による改正前は総理府)に設置され,
「地震に関する観測,測量,調査又は研究
を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行うこと」をつかさどり(同法7条2項4号),平成1
1年4月23日付け「地震調査研究の推進について」
(甲B246)に基づき,海溝
型地震の発生可能性について,海域ごとに長期的な確率評価を行っている(甲B2
47~249)

「長期評価」は,過去に大きな既往地震のない福島県沖海溝沿い領域を含む,「三
陸沖北部から房総沖の海溝寄り」という南北800km程度の巨大な領域を設定し,この領域で,M8クラスのプレート間大地震(プレート境界地震。太平洋プレートの沈み込みに耐え切れなくなった北米プレートがはね上がることで起きる地震)が,
17世紀以降,①慶長16年10月28日(1611年12月2日)の津波を引き起こした慶長三陸地震,②延宝5年10月9日(1677年11月4日)の津波を引き起こした延宝房総沖地震,③明治29年(1896年)6月15日の津波を引き起こした明治三陸地震,と約400年で3回発生していることから,この領域全体で約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定し,ポアソン過
程という確率推定方法により,今後30年以内のこの領域全体での発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%と推定した。この領域の中の特定の海域での発生確率については,地震を引き起こすと考えられた断層長(200km程度)と領域全体の長さ(800km程度)の比を考慮して,530年に1回の割合で発生すると推定し,今後30年以内の発生確率は6%程度,今後50年以内の
発生確率は9%程度と推定した(甲B5の2・5,14,18~24頁)。
想定地震の規模については,次の地震も津波地震であることを想定し,その規模
は,過去に発生した地震のMt等を参考にして,Mt8.2前後と推定した(甲B5の2・6頁)

すなわち,
「長期評価」は,
「津波評価技術」で波源を想定していなかった福島県
沖海溝沿い領域についても,今後30年に(特定海域として)6%程度の確率で,Mt8.2前後の地震が起きる可能性があるとしたものである。

「長期評価」の信頼度
地震本部地震調査委員会は,平成15年3月24日,
「プレートの沈み込みに伴う

大地震に関する「長期評価」の信頼度について」
(乙B15)を作成,公表した。
そこでは,
「長期評価」の「三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)
」について,
「(1)発生領域の評価の信頼度」は「C」
(やや低い)「(2)

規模の評価の信頼度」は「A」
(高い)「(3)発生確率の評価の信頼度」は「C」

(や
や低い)とされた(乙B15・8頁)

「発生領域の評価の信頼度」が「C」であるというのは,
「想定地震と同様な地震
が発生すると考えらえる地域を1つの領域とした場合」に,
「想定地震と同様な地震

が領域内で1~3回しか発生していないが,今後も領域内のどこかで発生すると考えられる。発生場所を特定できず,地震データも少ないため,発生領域の信頼性はやや低い。
」ことを意味する(乙B15・3頁)

「規模の評価の信頼度」が「A」であるというのは,
「想定地震と同様な地震が3
回以上発生しており,過去の地震から想定規模を推定できる。地震データの数が比
較的多く,規模の信頼性は高い。
」ことを意味する(乙B15・5頁)

「発生確率の評価の信頼度」が「C」であるというのは,
「想定地震と同様な地震
が発生すると考えらえる地域を1つの領域とした場合」に,
「想定地震と同様な地震
は領域内で2~4回と少ないが,地震回数をもとに地震の発生率から発生確率を求めた。発生確率の値の信頼性はやや低い。
」ことを意味する(乙B15・6頁)


この信頼度評価は,平成21年3月9日の改訂によっても変更はなかった(甲B362,丙B50)



「長期評価」に対する被告東電の対応

(ア)

平成14年8月

被告東電の津波想定の担当者は,
「長期評価」発表の1週間後,
「長期評価」を取
りまとめた海溝型分科会委員に対し,(土木学会の「津波評価技術」と)異なる見「
解が示されたことから若干困惑しております」とのメールを送り,地震本部がこのような「長期評価」を発表した理由を尋ねた。委員は,
「1611年,1677年の
津波地震の波源がはっきりしないため,長期評価では海溝沿いのどこで起きるかわからない,としました」と回答した。
しかし,被告東電は,文献上は福島県沖で津波地震が起きたことがない,という
点を主な理由として,
「長期評価」に基づく想定津波への対策を検討することを見
送った(甲B4・87頁,甲B274・90頁)

被告国も,平成14年時点で,
「長期評価」から想定される津波の高さについて被
告東電に推計を指示したり自ら推計したりすることはなく,
「長期評価」から想定さ
れる津波についての対策を被告東電に指示することはなかった。

(イ)

平成20年2月16日

被告東電は,平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震を受けて,被告東電内部で打合せを行っていたところ,平成20年2月16日の中越沖地震対応打合せ(甲B302・7~9頁,甲B349の1)において,
「Ssに基づく耐震安全性評
価の打ち出しについて」
(甲B349の2)が配付され,そのスライド4及び5には,
福島県内の原子力発電施設に関わるバックチェックスケジュールが記載されるとともに,そのスライド12には,
「地震随伴事象である「津波」への確実な対応」とし
て,津波高さの想定変更について,従来の「海溝沿いの震源モデル考慮せず」の「+5.5m」の想定から,
「海溝沿い震源モデルを考慮」した「+7.7m以上」
への見直し(案)が示され,その備考欄には「詳細評価によってはさらに大きくな
る可能性」が記載されていた。
(ウ)

平成20年2月26日

被告東電は,平成20年2月26日,土木学会の委員であった地震学者の今村文彦に意見を求めたところ,
「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できな
いので,波源として考慮すべきであると考える。
」との意見が出された(甲B1の1
本文編396頁,甲B4・88頁,甲B274・99頁,甲B275・7頁,乙B187・30~31頁)

(エ)

平成20年4月18日:平成20年試算(15.707m)

被告東電は,東電設計に津波評価を委託し,東電設計は,平成20年4月18日,「新潟県中越沖地震を踏まえた福島第一・第二原子力発電所の津波評価委託回
打合せ資料

資料2

福島第一発電所

第2

日本海溝寄りの想定津波の検討Rev.

1」
(甲B348)を作成し,
「長期評価」に基づく試算(平成20年試算)を行っ
た。この平成20年試算においては,
「長期評価」に従い,福島県沖海溝沿い領域
(甲B348・1頁の活動域「③’
(⑨))に明治三陸地震の波源モデル(津波評


価技術」の三陸沖の領域③の波源モデル。甲B6の3・2-178頁。Mw8.3)を置き,
「津波評価技術」の方法による詳細パラメータスタディを行ったと
ころ,朔望平均満潮位(O.P.+1.490m)時の津波高さは,1~4号機取水ポンプ位置でO.P.+8.310(4号機)~9.244m(2号機),敷地南
側敷地(O.P.+10m)でO.P.+15.707m(浸水深5.707m),
4号機原子炉建屋中央付近(O.P.+10m)でO.P.+12.604m(浸水深2.604m)
,4号機タービン建屋中央付近(O.P.+10m)でO.P.

+12.026m(浸水深2.026m)と試算された(甲B348・9頁表2-3(2)
,15頁図2-5)
。これは,敷地をO.P.+10m盤で計算し,建屋の
存在を考慮しない前提での試算である(甲B302・5頁,甲B348・5頁図1-3,乙B156[佐竹調書②]87頁)

(甲B1の1本文編396頁,甲B1の2本文編422頁,甲B4・88頁,甲B
16,348,丙B41の1・20~21頁)
(オ)

平成20年6月10日

平成20年6月10日,被告東電内部で津波評価に関する説明が行われ,担当者より,平成20年試算の想定波高の数値,防潮堤を作った場合における波高低減の効果等につき説明がなされ,原子力・立地本部副本部長から,①津波ハザードの検討内容に関する詳細な説明,②福島第一原発における4m盤への津波の遡上高さを低減するための対策の検討,③沖に防潮堤を設置するのに必要な許認可の調査,④機器の対策に対する検討をそれぞれ行うよう指示が出された(甲B1の1本文編396頁,甲B181の5の1・3~8頁,甲B274・100頁,丙B41の1・23頁)

(カ)

平成20年7月31日

平成20年7月31日,被告東電内部で2回目の説明が行われ,①「長期評価」の取扱いについては,評価方法が確定しておらず,直ちに設計に反映させるレベルのものではないと思料されるので,
「長期評価」の知見については,電力共通研究と
して土木学会に検討してもらい,しっかりとした結論を出してもらう,②その結果,対策が必要となれば,きちんとその対策工事等を行う,③耐震バックチェックは,
当面,
「津波評価技術」に基づいて実施する,④土木学会の委員を務める有識者に上記方針について理解を得る(決して,今後なんら対応をしないわけではなく,計画「
的に検討を進めるが,いくらなんでも,現実問題での推本即採用は時期尚早ではないか,というニュアンス」,とすることが被告東電の方針として決定された(甲B)
1の1本文編396~397頁,甲B4・88頁,甲B181の5の1・8~21
頁,甲B274・100,115~116頁,丙B41の1・23頁)。
被告東電は,平成20年10月頃,土木学会の委員を務める有識者らを訪ね,上記方針について理解を求めたところ,有識者からは,特段否定的な意見は出なかった(甲B1の1本文編398頁,甲B274・152~153頁,甲B275・7頁,乙B187・31~33頁,丙B41の1・23頁)


(キ)

平成20年9月10日

平成20年9月10日,被告東電内部で耐震バックチェック説明会(福島第一)
が開催され,その席上で,
「福島第一原子力発電所津波評価の概要(地震調査研究推
進本部の知見の取扱)(甲B353の2)が配付され,会議後回収された。同資料」
には,平成20年試算の福島第一最大浸水深図が記載され,敷地南側で津波高さ15.7m(浸水深5.7m)の津波が想定されたことが示されており,「敷地南部の
放水口付近から敷地(O.P.+10m)へ遡上する。,
」「敷地北部・南部から敷地
への遡上及び港内からO.P.4mへの遡上について対策が必要」「推本がどこで,
もおきるとした領域に設定する波源モデルについて,今後2~3年間かけて電共研で検討することとし,
「原子力発電所の津波評価技術」を改訂予定。,
」「電共研の実
施について各社了解後,速やかに学識経験者へ推本の知見の取扱について説明・折
衝を行う。,
」「改訂された「原子力発電所の津波評価技術」によりバックチェックを実施。,
」「ただし,地震及び津波に関する学識経験者のこれまでの見解及び推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると,現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され,津波対策は不可避」などと記載されていた(甲B353の2・2頁)


(ク)

平成21年2月11日

平成21年2月11日,被告東電内部で中越沖地震対応打合せが行われ,原子力設備管理部長から,
「土木学会評価でかさ上げが必要となるのは,1F5,6のRH
RSポンプ[判決注:福島第一原発5,6号機残留熱除去海水系ポンプ]のみであるが,土木学会評価手法の使い方を良く考えて説明しなければならない。もっと大きな14m程度の津波がくる可能性があるという人もいて,前提条件となる津波をどう考えるかそこから整理する必要がある。
」との発言がなされた(甲B352の
1・6頁)

(ケ)

平成21年6月

被告東電は,平成21年6月,土木学会に対し,
「長期評価」の取扱いにつき審議
を依頼した(乙B198資料1・15~16,32~33頁,丙B41の1・24,32頁)


土木学会では,平成21年度から平成23年度までの期間に,
「長期評価」の取扱
いを含む波源モデルの構築,数値計算手法の高度化,不確かさの考慮方法の検討(確率論的検討を含む。,津波に伴う波力や砂移動の評価手法の構築等の幅広い分)
野について審議し,平成24年10月を目途に「津波評価技術」の改訂を行うこととしていた(甲B1の1本文編405,440頁,乙B198,丙B41の1・32頁)

(コ)

平成21年8月

被告東電の原子力設備管理部長は,平成21年8月上旬頃,被告東電の担当者に対し,平成20年試算の波高の試算結果については,保安院から明示的に試算結果の説明を求められるまでは説明不要と指示した(甲B1の1本文編401頁,甲B181の5の1・30~32頁)

(サ)

平成21年8月28日

被告東電は,平成21年8月28日,保安院に対し,
「福島第一・第二原子力発電
所の津波評価について」
(乙B198添付資料1・1~2,19~20頁)を示して,
福島第一原発の津波評価の状況を説明したが,その「4.想定津波の検討結果(概略検討結果)
」では,
「津波評価技術」に基づく「O.P.+5~6m程度」の想定
津波のみを報告し,
「長期評価」に基づく平成20年試算によりO.P.+15.7
mとの推計結果が得られていることは報告しなかった(乙B188,198)。
(シ)

平成22年8月~平成23年2月

被告東電は,平成22年8月から平成23年2月まで,4回にわたり,福島地点津波対策ワーキングを開催して,平成24年10月を目途に結論が出される予定の土木学会における検討結果いかんによっては福島第一原発・福島第二原発における津波対策として必要となり得る対策工事の内容につき検討がなされた。同ワーキングでは,機器耐震技術グループからは海水ポンプの電動機の水密化が,建築耐震グ
ループからはポンプを収容する建物の設置が,土木技術グループからは防波堤のかさ上げ及び発電所内における防潮堤の設置がそれぞれ提案され,さらに,これらの
対策工事を組み合わせて対処するのがよいのではないかといった議論がなされた。しかし,被告東電は,土木学会による検討結果が出る前に対策工事を行うことは考えておらず,そのため,本件事故に至るまで,
「長期評価」から想定される津波に対
する具体的な対策は全く取られなかった(甲B1の1本文編400,440頁,甲B4・89頁)

(ス)

平成23年3月7日

被告東電は,平成23年3月7日,保安院に対し,
「福島第一・第二原子力発電所
の津波評価について」
(甲B16)を示して,初めて平成20年試算の結果を報告し,
「福島第一原発の津波対策については,平成24年10月を目処に結論が出される予定の土木学会における検討結果いかんでは津波対策工事を検討しているが,同月までに対策工事を完了させるのは無理である」旨を説明した(甲B1の1本文編404~405頁,甲B16,甲B274・110~112頁,乙B188・25~26頁,乙B198・8~10頁,資料7,資料8・6~15頁,丙B41の1・25~26頁)


(セ)

被告東電の対応についてのまとめ

結局,被告東電は,平成23年3月11日の本件事故に至るまで,「長期評価」か
ら想定される津波に対する対策を取らなかった。
(ソ)

被告国の対応

被告国も,本件事故に至るまで,
「長期評価」から想定される津波についての対策
を被告東電に指示したことはなかった(なお,上記(ア)~(ス)の事実は,被告国の規制権限不行使の違法性の根拠として用いるものでないから,上記各事実を被告国が現に認識し又は認識し得たか否かを検討する必要はない。。


「長期評価」の信頼性

(ア)
「長期評価」が専門家による議論を経てとりまとめられたものであること
「長期評価」は,地震防災対策特別措置法という法律上の根拠に基づき,想定される地震の長期評価を行う使命をもって組織された地震本部地震調査委員会が,同
委員会長期評価部会海溝型分科会での専門的研究者(長期評価」作成当時,海溝型「

べかつゆき

うみの

分科会での議論に加わった地震学者として,島崎邦彦,阿部勝征,安藤雅孝,海野のりひと

さぎやたけし


じよしのぶ

德仁,笠原稔,菊地正幸,鷺谷威,佐竹健治,都司嘉宣,野口伸一など。甲B249参考資料2頁,証人都司①23~24頁)による議論を経て取りまとめたものであるから,特にその信頼性を疑うべき根拠が示されない限り,研究会での議論を経て,専門的研究者の間で正当な見解であると是認された知見であり,単なる一研究者の見解や,任意の研究者グループの見解をまとめたものではない。後に見るとおり,
「長期評価」の内容については個別に異論が出されている部分があるが,自然科学の分野においては,たとえ学界の通説であったとしても,異論が出されることは
あり得るものであって,科学的根拠を否定すべき事情が明らかになった場合を除き,単に異論が存在することのみによって,
「長期評価」の信頼性が失われるものとはい
えない。このように,
「長期評価」は,法律上の根拠に基づき設置された会議におい
て,専門家の議論を経て作成されたものであって,その会議の設置の目的にも照らせば,
「規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知
見」であると認められる。
(イ)

「長期評価」が本件地震を想定したものではなかったことについて
本件地震は,二つ以上の各プレートの境界型巨大地震の固有の領域にまたがって起きる一つの超巨大地震(連動型超巨大地震)であった(甲B242の1・58頁)
。これに対し,
「長期評価」は,本件地震のように,それぞれの領域にまたがり,かつ,それぞれが連動して発生するようなM9.0,Mt9.1クラスの連動型超巨大地震までをも想定したものではなかった。
しかし,前記のとおり,予見可能性の対象として検討すべき事象は,発生した事象の主要部分であれば足り,本件に照らせば,1~4号機敷地高さ(O.P.+10m)を超えて浸水してくる津波の有無であるというべきであるから,「長期評

価」が本件地震,本件津波を想定したものではなかったとしても,「長期評価」にお
いて想定される地震によって1~4号機敷地高さ(O.P.+10m)を超える津
波が合理的に想定されたのであれば,被告国はこれを省令62号4条1項で想定すべき「津波」として津波安全性評価の基礎とすべき義務があったというべきである。(ウ)

「長期評価」から直ちに福島第一原発に到来する津波の高さが出てくるわけ
ではないことについて
「長期評価」は,福島第一原発のような特定の場所に到来する津波の高さを予測したものではないし,具体的な波源モデルを示したものでもないから,「長期評価」
から直ちに福島第一原発付近に到来する津波の高さが算出されるわけではない。しかし,
「長期評価」は,従来地震を想定していなかった福島県沖海溝沿い領域にもMt8.2前後の地震の発生を想定していたのであるから,当該領域に適切な波
源モデルを入れてシミュレーションを行えば,
「長期評価」が想定する規模の地震に
よって福島第一原発付近に到来する津波の高さは計算可能であったといえる。現に,被告東電は,平成20年4月18日までに平成20年試算を実施し,1~4号機敷地南側でO.P.+15.7mという推計結果を得ているところ(甲B348)
,これは,
「長期評価」においてM8.2,Mt8.2と推定され(甲B5の
2・8頁)「津波評価技術」においてMw8.3とされている(甲B6の3・2-,
178頁)明治三陸地震の波源モデルを用いて算出されたものであり(甲B348)「長期評価」に基づくシミュレーションとして合理性を有するものである。,
被告国が,平成14年の「長期評価」直後に,被告東電に対し,
「長期評価」に基
づき福島第一原発付近に想定される津波高さの検討を命じていれば,平成20年試
算のようなシミュレーションを行うことは,平成14年時点においても可能であったと認められる(甲B311[島崎調書①]37~40頁,甲B312[島崎調書②]76~77頁,甲B314・35~36頁,甲B315,甲B354・4~5頁,乙B156[佐竹調書②]44頁,証人都司①69~70頁,証人都司②84~85頁)


(エ)

「長期評価」がポアソン過程に基づいていることについて

「長期評価」において,
「三陸沖北部および三陸沖南部海溝寄り以外の領域は,過

去の地震資料が少ないなどの理由でポアソン過程として扱ったが,今後新しい知見が得られればBPT分布を適用した更新過程の取り扱いの検討が望まれる。(甲B」
5の2・7頁)とされていた。
活断層や海域で起こる地震は繰り返し発生すると考えられており,その間隔はBPT分布という確率分布に従うと考えられているので,過去に複数の既往地震があり,最新の活動時期が分かっている地震(固有地震)については,BPT分布に従って発生確率を計算することができる(甲B311・19~20頁,甲B314・28~29頁,甲B320,乙B144・18~19頁,証人都司①50頁)。
これに対して,想定地震と同様な地震が発生すると考えられる領域を1つの領域
とした場合には,同じ場所で繰り返し発生しているとは言い難いため,固有地震としては扱わず,いつも同じ確率で,ポアソン分布という確率分布に従って発生するものと仮定して発生確率を計算する(ポアソン過程。甲B5の2・24頁,甲B311[島崎調書①]20~22頁,甲B314・29頁,乙B144・19頁,証人都司①50頁)


その結果,ポアソン過程に基づいて計算された発生確率は,BPT分布に基づいて計算された発生確率に比して信頼度が低いことは否定できないが,それでも,専門家による合理的な計算の結果としての数値であることに変わりはなく,「長期評
価」がポアソン過程に基づいて発生確率を計算しているからといって,「長期評価」
の信頼性が否定されるものではない。

(オ)

「長期評価」における「発生領域の評価の信頼度」及び「発生確率の評価の
信頼度」がいずれも「C(やや低い)
」とされていることについて
「長期評価」における「発生領域の評価の信頼度」及び「発生確率の評価の信頼度」は,いずれも「C(やや低い)
」とされている(乙B15・8頁)

しかし,この評価は,地震資料が少ないことに起因するものであり,「長期評価」
が専門家による客観的かつ合理的根拠を有する知見であることに変わりはないから,「長期評価」における「発生領域の評価の信頼度」及び「発生確率の評価の信頼
度」がいずれも「やや低い」と評価されているからといって,
「長期評価」の信頼性
が否定されるものではない(甲B311[島崎調書①]16~22頁,甲B314・28~29頁,証人都司①48~51頁)

(カ)
「長期評価」が日本海溝沿いの北部と南部を合わせて「三陸沖北部から房総
沖の海溝寄り」領域としていることについて
a
「長期評価」の領域設定
「長期評価」は,想定される次の地震の発生位置(領域)及び震源域の形態につ
き,三陸沖北部以外の三陸沖から房総沖にかけては,同一の震源域で繰り返し発生している大地震がほとんど知られていないため,
「長期評価」が津波地震であると認
定した1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震の3つの地震等を根拠として,同じ構造をもつプレート境界の海溝付近に「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」という南北800km程度の巨大な領域を設定し,その中のどこでも同様の地震が発生する可能性があるとしている(甲B5の2・2~3,10,16,18~19頁)

この領域設定は,日本海溝寄り領域の北部と南部でプレートの構造に大きな差異
(津波地震の発生可能性に影響するような差異)のないことを前提とするものである(甲B7,甲B242の1・40~42頁,甲B311[島崎調書①]12~16頁,甲B312[島崎調書②]25~32頁,甲B314・24~28頁,証人都司①27~29,34~35頁,証人都司②4~23,50~54頁)。
b
微小地震の起こり方について
1997年10月1日から2001年12月31日までの微小地震を含めた全マ
グニチュードの気象庁地震の震央分布及び断面図(甲B5の2・図4-1・2,甲B292・9~10頁)を見ると,まず,海溝寄り部分(海溝から幅60~70km)では明らかに陸寄り部分よりも微小地震の数が少ない。そして,海溝寄り部分の中でも,北部(図のD,E)と南部(F,G)とでは北部の方がやや微小地震が多い(乙B154[佐竹調書①]27~28頁)。

しかし,これを領域設定上の有意差とみるかどうかは地震学的な評価の違いというべきであり,この震央分布を踏まえた上で(甲B5の2・図4-1・2),これを
領域設定上の有意差と認めずに北部と南部をまとめて1つの領域として設定した「長期評価」の見解が不合理であるとはいえない(甲B311[島崎調書①]13~14頁,甲B312[島崎調書②]25~26頁,証人都司①28頁,証人都司②5~8頁)

c
「長期評価」作成前における「長期評価」の見解と異なる見解について「長期評価」が作成される前において,
「長期評価」の見解と異なる見解が示され

ていた論文としては,次のようなものがある。しかし,これらの見解は,それぞれ依拠するデータを基にした評価・考察を行うに当たって,個人として異なる見解を示したものに過ぎず,また,
「長期評価」を作成するに当たっては,これらの見解も
考慮されていることに照らし,これらの見解が存在することによって,「長期評価」
の信頼性がないということはできない。
(a)

深尾・神定論文(甲B266の1・2)

昭和55年(1980年)の深尾良夫・神定健二「日本海溝の内壁直下の低周波地震ゾーン」
(甲B266の1・2)156頁の図2によれば,まず,1974年から1977年の低周波地震及び超低周波地震は全て海溝寄りの領域で起こっている。そして,海溝寄り部分の北部(三陸沖)
,中部(福島県沖)
,南部(茨城県沖,房総
沖)では北部のほうがやや低周波地震・超低周波地震が多い。

しかし,これを領域設定上の有意差とみる(乙B154[佐竹調書①]28~29頁)かどうかは地震学的な評価の違いというべきである(甲B311[島崎調書①]14~16頁,甲B312[島崎調書②]26~28,58頁,証人都司①29~31頁,証人都司②8~10頁)

(b)

河野論文(乙B178)

昭和63年(1988年)の河野俊夫「東北日本の海溝軸周辺に発生する地震について」
(乙B178)には,1985年~1987年のM3.5以上の地震の震央
分布につき,
「北緯38.5度付近を境に北と南に分けてみてみると,北側は地震活動が非常に活発で,ルーチンでは海溝軸からはるか遠くに決っていた地震が無くなり,すべて海溝軸近傍に集中するようになった。……一方,南側の地震は活動が極めて低調である反面海溝軸からはるか遠くにまで地震の発生がみられる。この様に海溝外側では,北緯38.5度付近を境にして北と南では地震活動に顕著な相違がみられる。(45頁)「海底地形との関係をみてみると,海溝の水深7000mの」

幅が最も狭くなっている両側で地震活動が最も活発であり,また,日本海溝が折れ曲がっている北緯38.5度付近を境にして北側と南側の地震活動が顕著に違っている。,
」「さらに,1926年以降のM≧7.0の余震域の分布と再決定震源を重ね
合わせてみたのが図9であるが,北緯38.5度付近より北側では大地震の活動が活発で巨大地震も発生しているけれど,南の領域は北にくらべて大地震の活動が低調で,最も規模の大きい地震でもM7.5どまりとなっている。そしてこれらの大地震の活動とそれより東側の今回再決定した海溝周辺の地震活動とが良く対応している。このことは北緯38.5度付近を境にして北側と南側の領域では,海洋プレ
ートの沈み込みに伴うテクトニクスのちがいを意味しているのではないかと思われる。(46~47頁)などの記載がある。

これは,海溝沿い北部と南部の地震活動の相違を地形構造の差異に関連付けて説明するものであるが,これを領域設定上の有意差とみるかどうかは地震学的な評価の違いというべきである。

(c)

西澤論文(乙B164)

平成2年(1990年)の西澤あずさほか「海底地震観測による1987年6月の福島沖の地震活動」
(乙B164)には,
「陸上の観測網から求められた福島沖の
地震活動の特徴の1つは,海溝軸近傍から陸に向かってほぼ連続的にM<5の小および微小地震活動のある三陸沖とは異なり,海溝軸から陸側約80kmの領域では地震活動が低いが,それより陸側において顕著に活発になることである。同様な傾向はOBSアレイを用いた観測でも確認されており,三陸沖ではHIRATAetal.(1
983)が活動の空白域は海溝陸側斜面の水深4~6kmの幅30~40kmの領域に限られることを示している。一方,福島沖での1982年と1985年のOBSによる地震活動の観測結果では,震源分布のばらつきは大きいが,陸では決められない小さな地震に関しても地震活動が活発な領域は水深2km以浅(海溝軸より100km以上陸側)である」「このような地域による活動の相違は陸のプレート,
と海のプレートのカップリングの違いを反映させたものであり,福島沖の方が三陸沖よりもカップリングが弱いために海溝近傍では地震がほとんどなく巨大地震を含む地震活動が起こりにくいのではないかと推定している。(410頁)などの記載」
がある。

これは,海溝沿い北部(三陸沖)と南部(福島沖)の地形構造の差異を地震活動の相違に関連付けて説明するものであるが,このような論文があったとしても,これを領域設定上の有意差とみるかどうかは地震学的な評価の違いというべきである。(d)

谷岡・佐竹論文(乙B148)

平成8年(1996年)の谷岡勇市郎・佐竹健治「津波地震はどこで起こるか明治三陸津波から100年」
(乙B148)には,
「北緯40度から39度の間では,
典型的なプレート間地震が起きていない。……こうしてみると三陸沖北緯40~39度付近の地震発生パターンは,その周りでみられるような通常のプレート地震とはまったく違うようだ。,
」「海側の海底が粗いところでは,海溝近くで津波地震,海
溝の東側で正断層型大地震が発生し,海溝から陸寄りで低角逆断層型のプレート間
大地震は発生しない。一方,海溝の東側の海底がなめらかなところでは,海溝から陸寄りで典型的なプレート間大地震が発生し,海溝近くでの異常な津波地震は発生しない。(579頁)「a)なめらかなプレート境界の場合,柔らかい堆積物が沈」
,(
み込んで海溝近くは無地震域となる。さらに深く沈み込んだところは強い地震結合ゾーンとなり,プレート間大地震を起こす。
(b)粗いプレート境界の場合,正断層

型の地震が起こって地塁-地溝構造を発達させ,沈み込んだ地塁が海溝近くでゆっくり地震を起こす。深く沈み込んでも,プレート間の結合が不均質なのでプレート
間大地震は起こらない。,
」「筆者らの考えが正しいとすると,津波地震は常に同じ場
所で起こることになる。つまり,明治三陸地震の発生域(北緯40~39度付近)で将来マグニチュード7クラスの地震が起きた場合,津波地震となる可能性は非常に高い。(580頁)などの記載がある。

平成14年2月の「津波評価技術」にも,
「日本海溝沿い海域では,北部と南部の
活動に大きな違いがある点が特徴である。……北部では,海溝付近に大津波の波源域が集中しており(1968年十勝沖の領域を除く)
,後述するように津波地震,正
断層地震もみられる。一方,南部では1677年房総沖地震を除き,海溝付近に大津波の波源域は見られず,陸域に比較的近い領域で発生している。(甲B6の3・」

2-26頁)「プレート間地震を発生させるプレート境界面の形状が明らかになっ,
てきている。……傾斜方向が38°N付近で変化している。,
」「日本海溝付近では,
1896年明治三陸津波のような津波地震や1933年昭和三陸津波のようなプレート間正断層地震が発生している。谷岡・佐竹(1996)は典型的なプレート間逆断層地震と津波地震の発生様式を図1.2.1▲7のように推定している。プレ
ート境界面の起伏が多い,粗いプレート境界面の場合,海溝の陸側で津波地震が,海溝の沖合側で正断層型地震が発生するという内容である。このことと図1.2.1▲6の海底地形断面図とを合わせて考慮すると,津波地震や正断層型地震の発生する場所が限定されることが示唆される。(甲6の3・2-27頁)などの記載が」
ある。

これは,海溝沿い北部(三陸沖)と南部(福島沖)の地形構造の差異を津波地震の発生可能性と関連付けたものであるが,このような論文があったとしても,この谷岡・佐竹論文の著者の1人である佐竹自身,
「長期評価」において海溝沿い北部と
南部を1つの領域とすることに同意していたのであり,上記論文の主張を採用するか否かは地震学的な評価の違いというべきである(甲B312[島崎調書②]28
~29頁,証人都司②16~17,22~23頁)。
(e)

三浦論文(乙B145,146)

平成12年(2000年)の三浦誠一ほか「エアガン-海底地震計データによる日本海溝・福島沖前弧域の地震波速度構造」
(乙B145)には,
「日本海溝に沿っ
て一様に地震が発生しているのではなく,震央分布には非一様性がある(図1)。マ
グニチュード(M)7級の巨大地震は三陸沖で数多く発生しているが,福島沖では非常に少ない。,
」「福島沖では……過去数百年間はM7級の地震は発生していない。……逆に微小地震活動は三陸沖では比較的少ないが,福島沖で非常に活発である。……このような地震発生様式の非一様性は,地下の構造が一様でないためと考えられる。(88頁)などの記載がある。

平成13年(2001年)の三浦誠一ほか「日本海溝前弧域(宮城沖)における
地震学的探査-KY9905航海-」
(乙B146)には,
「太平洋プレートは日本
海溝に沿って一洋に沈み込んでいるように思われるが,日本海溝周辺での地震の起こり方は海溝軸に沿って一様ではない。マグニチュード(M)7以上の巨大地震は日本海溝北部の三陸沖や青森沖などで多く発生している。一方,日本海溝南部の福島沖では1938年の塩屋埼沖地震(M7.0-7.5)が最大規模であり過去数
百年間巨大地震は起きていないという報告もある。……微小地震までも含めた定常的地震活動も日本海溝に沿って一様ではない。海溝軸の海側における地震は三陸沖で見られるが福島沖では非常に少ない。,
」「日本海溝の南北である三陸沖および福島
沖で詳細な構造探査が行われ,海溝軸近傍およびプレート境界部の低速度領域の存在,プレートの沈み込み角度など,南北での違いが明らかになっている。」などの記

載がある(146頁)

これらは,海溝沿い北部(三陸沖)と南部(福島沖)の地形構造の差異を指摘するものであるが,これらの論文があったとしても,これを領域設定上の有意差とみるかどうかは地震学的な評価の違いというべきである(証人都司②11~12,14~16,51~52,71~72頁)


d
「長期評価」作成後における「長期評価」の見解と異なる見解について「長期評価」作成後に公表された「長期評価」の見解と異なる見解が示された論
文には,次のようなものがある。しかし,これらの見解は,それぞれ依拠するデータに基づいた評価・考察を行うに当たって,個人として異なる見解を示したものであり,
「長期評価」の検討手法や根拠を根底から否定するものではないことからすると,これらの見解によって,
「長期評価」の信頼性が否定されるものとはいえない。
(a)

鶴論文(乙B149の1・2,乙B150)

平成14年(2002年)12月19日に発表された鶴哲郎ほか「日本海溝域におけるプレート境界の弧沿い変化:プレート間カップリングの意味」(乙B149の
1・2)には,
「北部では極めて大量の流体が楔形低速堆積ユニットに含まれ,その量は,プレート境界衝上地震が発生している10-13km超の深度で,元の量のごくわずかにまで減少する」「南部では極めて大量の流体が,降斜方向に延長して,
いる管状低速堆積ユニット(ユニットU)に含まれる。対照的に,ユニットUが薄いか見えない場所では流体の量は,ほんのわずかあるに過ぎない。したがって,流体含有率は海溝沿いで異なる。,
」「流体が低摩擦を減らすことを考慮し,特定の境界
面にある流体が堆積物の全流体含有率に比例すると仮定すると,低速堆積ユニット
の厚さの地域差(図17)は,プレート境界でのカップリングの変化を示唆している。特に,10-13km超の深度で南部より北部のカップリングが強い。,」「カッ
プリングのこの違いにより,日本海溝域でのプレート境界地震(北部で発生したM7.5超の,記録されている大規模なプレート境界衝上地震のほぼすべて)発生の地域差を説明できる可能性がある」
(乙B149の2・13頁)などの記載がある。

また,平成19年(2007年)の鶴哲郎「反射法地震探査から見たプレート境界の反射強度」
(乙B150)には,
「日本海溝前弧域の北部と南部とでは,プレー
ト境界近傍において観察される低速度層の幾何学的特長および空間分布に大きな違いが見られる。(433頁)「日本海溝および千島海溝域において,プレート境界」

近傍に発達する低速度層の空間分布を詳細に調べ,地震活動の空間分布と比較した。
それにより,流体がプレート境界のせん断応力を開放させ,地震発生域と非発生域とを区分する物性の一つとして寄与しているらしいことが浮かび上がってきた。」

(438頁)などの記載がある。
これらは,北部と南部の地質構造の差異をプレート境界地震(津波地震)の発生可能性と関連付けたものであるが,これらの論文があったとしても,そのような地質構造の差異を領域設定上の有意差とみるかどうかは地震学的な評価の違いというべきである(甲B312[島崎調書②]29~31,54~55頁,証人都司②17~22,71~74頁)

(b)

松澤・内田論文(乙B17)

平成15年(2003年)の松澤暢・内田直希「地震観測から見た東北地方太平洋下における津波地震発生の可能性」
(乙B17)には,
「津波地震が巨大な低周波
地震であるならば,三陸沖のみならず,福島県沖から茨城県沖にかけても津波地震発生の可能性がある。ただし,海溝における未固結の堆積物は三陸沖にのみ顕著であるため,三陸沖以外においては巨大低周波地震は発生しても津波地震には至らないかもしれない。(368頁)「図2を見ると,三陸沖と同様に福島県沖から茨城」

県沖にかけても繰り返し地震の発生率が高いことがわかる。また,河野による解析
では,低周波地震は三陸沖と福島・茨城県沖に多く,宮城県沖には少ない。この河野の求めた低周波地震が多い領域と図2で示した繰り返し地震の発生率が高い領域はよく対応しており,前述の仮説が正しければ,この福島県沖~茨城県沖にかけての領域においても大規模な低周波地震が発生する可能性がある。しかしながら,Tsuru.et.al.によれば,この福島県沖の海溝近傍では,三陸沖のような厚い堆積物
は見つかっておらず,もし,大規模な低周波地震が起きても,海底の大規模な上下変動は生じにくく,結果として大きな津波は引き起こさないかもしれない。(37」
3頁)などの記載がある。
これは,北部と南部の地質構造の差異を津波地震の発生可能性と関連付けたものであるが,このような論文があったとしても,そのような地質構造の差異を領域設
定上の有意差とみるかどうかは地震学的な評価の違いというべきである(甲B311[島崎調書①]22~23頁,甲B312[島崎調書②]55~60頁)。

松澤は,平成16年4月から平成28年3月まで地震本部地震調査委員会長期評価部会の委員を務めているが(乙B177・2頁)
,平成21年3月9日の「長期評
価」の一部改訂(甲B362,丙B50)
,平成23年11月25日の「三陸沖から
房総沖にかけての地震活動の長期評価について(第二版)(乙B10)の作成にお」
いても,
「長期評価」の領域区分に異議を唱えることはなかった(乙B177・13~18頁)

(c)

佐々木・玉木論文(乙B147)

平成17年(2005年)の佐々木智之・玉木賢策「日本海溝陸側斜面前縁部の海底地形と宮城沖での侵食の進行」
(乙B147)には,
「海溝陸側斜面前縁部の浸
食に伴った地形形態の変化には,海溝軸付近の海側斜面上でのホルスト・グラーベン地形の発達の程度に加えて,太平洋プレートのたわみが関係しており,日本海溝北部の海底地形は南部と比較して相対的に圧縮的で,南部では伸張的な形態が卓越することが明らかになった。この海底地形形態の南北変化は,地殻構造や地震の震源分布に認められる南北変化の傾向とも調和する。(125頁)「日本海溝陸側斜」


面の海底地形の形態は,海溝軸に沿って南北方向へ変化することが知られている。深海平坦面と呼ばれた前弧海盆域は,北部の三陸沖では100㎞以上の東西幅を有するが,南部域の福島沖から茨城沖では著しく狭い(図1)
。水深4000m付近か
ら海溝軸部に相当する7500~8000mの間の陸側斜面に関しても,南北で地形形態が異なる。,
」「近年の地殻構造探査の成果から,日本海溝北部域には陸側斜面
の前縁部に,沈み込む海洋プレート上面に沿ってP波速度2~3km/sでクサビ型をした前縁プリズムが存在するが,南部域には低P波速度のプリズムは存在しないことが明らかにされた。陸側斜面下を沈み込んでいる海洋プレート上面の堆積層と考えられる反射面の層厚に関しても,北部域では厚さ数100mであるのに対して,南部域では1~2kmを有することが地殻構造探査から判明している。微小地
震の震源分布に関しては,三陸沖ではその東西幅が広く,南部ではより陸側に震源が集中することが知られている。浅部域における太平洋プレートの沈み込み角度に
ついても,南部域の方が急角度であることが明らかにされた。,
」「微小地震の震源分
布に関しては,三陸沖ではその東西幅が広く,南部ではより陸側に震源が集中することが知られている。(126頁)などの記載がある。

これは,北部と南部の地形構造の差異を指摘するものであるが,このような論文があったとしても,そのような地質構造の差異を領域設定上の有意差とみるかどうかは地震学的な評価の違いというべきである(証人都司②12~16頁)。
(キ)
a
3つの地震を津波地震としていることについて

「長期評価」による津波地震の認定
「長期評価」は,
「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」領域において,①慶長16
年10月28日(1611年12月2日)の津波を引き起こした慶長三陸地震,②延宝5年10月9日(1677年11月4日)の津波を引き起こした延宝房総沖地震,③明治29年(1896年)6月15日の津波を引き起こした明治三陸地震,と津波地震が約400年で3回発生していることから,ポアソン過程により,今後30年以内のこの領域全体での発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率
は30%と推定した。すなわち,
「長期評価」による発生確率の推定は,上記3つの
地震がいずれも津波地震であり,かつ,波源域が「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」領域内であることを前提とするものである。この前提については,次に述べるとおり異なる見解を示す論文等があるが,いずれもその依拠する事情を踏まえて,個人として評価・考察を行ったものであって,
「長期評価」は,それらの見解も考慮

した上で作成されたものであること,また,
「長期評価」作成後における知見におい
ても,この前提が科学的に否定される見解までは存在しないことからすると,「長期
評価」の信頼性を失わせるものとはいえない。
b
1611年慶長三陸地震について

(a)
津波地震であること

平成7年(1995年)の都司嘉宣・上田和枝「慶長16年(1611),延宝5
年(1677)
,宝暦12年(1763)
,寛政5年(1793)
,および安政3年

(1856)の各三陸地震津波の検証」
(甲B257)や,平成15年(2003
年)の都司嘉宣「慶長16年(1611)三陸津波の特異性」
(甲B258,乙B1
8)には,慶長三陸地震が,本震(午前8~10時頃)の約4時間後の地震が大津波を引き起こした(津波地震説)のではなく,地震によって発生した海底地滑りによって津波が発生したとの見解(海底地滑り説)が記載されている。また,都司は,現在では,慶長三陸地震は正断層型地震ではないかとの見解を提唱している(甲B242の1・57頁,甲B265,証人都司②34頁)。
なお,
「津波評価技術」は,慶長三陸地震について,
「1611年慶長三陸津波は,
相田(1977)により正断層地震のモデルが提案されているが,都司(199
4)と渡辺(1998)は津波地震の可能性を指摘している。(甲B6の3・2-」
27頁)と両論を併記するにとどめている。
海溝型分科会や長期評価部会における議論においては,都司・上田論文(甲B257)も参照された上で,慶長三陸地震の発生機序が明らかでないとの意見や,正断層型とする説の紹介もあったが,最終的には慶長三陸地震を津波地震と認定し,
都司も同意して「長期評価」が作成されたのであり(甲B5の2・35頁,甲B272の1・7頁,甲B272の3・6頁,甲B311[島崎調書①]23頁,乙B144・20頁,乙B152・6~7頁,証人都司①43~47頁),都司がこれと
異なる見解を前後に述べていたとしても,
「長期評価」の信頼性は否定されない。
(b)

波源域が三陸沖であること

海溝型分科会や長期評価部会における議論においては,慶長三陸地震の波源域は明らかでないとの意見や,千島沖とする説の紹介もあったが,最終的に慶長三陸地震の波源域は三陸沖と認定された(甲B5の2・19,21,24,29頁,図5,図16,甲B272の2・5頁,甲B272の3・6頁,甲B272の5・4~5頁,乙B144・20頁,乙B152・6~7頁,乙B156[佐竹調書②]15
~17頁,証人都司①43~47頁,証人都司②24~35,77~80頁)。
平成10年1月の渡辺偉夫「日本被害津波総覧【第2版】
」も,慶長三陸地震の震

央を三陸はるか沖としている(甲B356・72~73頁)

「津波評価技術」も,三陸沖(領域4)の既往最大津波を1611年の慶長三陸地震としており,三陸沖説を採用しているようである(甲B6の2・1-59頁,甲B6の3・2-59頁。ただし,甲B6の3・2-59頁表1.3.2▲2では,領域4には1933年の昭和三陸地震の波源モデルを使用しており,慶長三陸地震は昭和三陸津波と同様の正断層型地震であるとの見解を採用しているようである。甲B6の3・2-178頁)

「長期評価」後に発表された平成23年(2011年)の岡村行信,行谷佑一「17世紀に発生した千島海溝の連動型地震の再検討」
(乙B153)では,慶長三

陸地震の波源域を千島海溝としている。
しかし,
「長期評価」の作成過程においても,千島沖説が検討された上で,三陸沖説が採用されているのであり,千島沖説が地震学者の通説となって「長期評価」の見解が否定された状況にあるとまでは認められないから,そのような異論があるからといって,
「長期評価」の信頼性は否定されない。

c
1677年延宝房総沖地震について
海溝型分科会における議論においては,延宝房総沖地震の波源域は明らかでない
との意見や,日本海溝沿いではなく,相模トラフ沿いや,もっと陸寄りで発生したとする説の紹介もあったが,最終的には房総沖海溝沿いを波源とする津波地震であると認定して「長期評価」が作成された(甲B5の2・21,24,29頁,図5,図22,甲B272の3・5~6頁,甲B272の5・4~5頁,乙B144・20頁,乙B154[佐竹調書①]37~39頁,乙B156[佐竹調書②]12~13頁,証人都司①38~42頁,証人都司②35~38,74~76頁)。
平成10年1月の渡辺偉夫「日本被害津波総覧【第2版】
」も,延宝房総沖地震の
震央及び波源域を房総半島東方沖としていた(甲B356・74~75頁)。

「津波評価技術」も,延宝房総沖地震を房総沖海溝沿いで起こった津波地震としていた(甲B6の3・2-30,2-59頁)


「長期評価」後である平成15年(2003年)に発表された石橋克彦「史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震」
(乙B19)には,延宝房総沖地震(1
677年)の「Mは,6は小さすぎるかもしれず,6.5程度かもしれない」とし,「地震調査研究推進本部地震調査委員会(2002)の見解(この地震は房総沖の海溝寄りで発生したM8クラスのプレート間地震)は疑問である」(387頁)「本

地震を1611年三陸沖地震・1896年明治三陸津波地震と一括して「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)
」というグループを設定し,
その活動の長期評価をおこなった地震調査研究推進本部地震調査委員会(2002)の作業は適切ではないかもしれず,津波防災上まだ大きな問題が残っている。」

(387~388頁)などの記載がある。
しかし,石橋は,
「阿部(1999)は,津波マグニチュード(Mt)を8.0と
求め,石橋(1986b,c)が推定したM6~6.5と比較して津波地震と結論したのだが,M8であれば,そういう意味での津波地震ではなくなる。(乙B1」
9・382頁)「1677年延宝房総沖地震が津波地震であることは確実といって,

よいだろうが,その震源・波源の実体とテクトニックな意義についてはまだ不明な点が多い。(388頁)としているのであり,延宝房総沖地震が津波地震であるこ」
とは否定していない。
また,
「長期評価」は,石橋論文(乙B19)と同様に延宝房総沖地震をM6~6.5の津波地震であるとしていた昭和61年(1986年)の石橋克彦「1677
(延宝5)年関東東方沖の津波地震について」
(甲B5の2・34頁,乙B19・3
88頁)を参照した上で,延宝房総沖地震をM8.0,Mt8.0の津波地震と認定していたのであり(甲B5の2・8,9頁,甲B311[島崎調書①]23~25頁)
,石橋がこれと異なる見解を前後に述べていたとしても,
「長期評価」の信頼
性は否定されない。

平成11年4月の地震本部地震調査委員会編「日本の地震活動-被害地震から見た地域別の特徴-<追補版>」
(甲B370)
,平成21年3月の地震本部地震調査

委員会編「日本の地震活動-被害地震から見た地域別の特徴-<第2版>」(乙B2
1)には,延宝房総沖地震に関し,
「被害状況などから,房総半島東方沖で発生した
と考えられていますが,震源域の詳細は分かっていません。さらに,プレート間地震であったか,沈み込むプレート内地震であったかも分かっていません。……専門用語で「津波地震」と呼ばれる特殊な地震……であった可能性が指摘されています。(乙B21・153頁。甲B370の記載も同旨)との記載がある。」
しかし,平成21年時点においても延宝房総沖地震の詳細が分かっていなかったとしても,専門家が議論の上で津波地震と認定した「長期評価」の信頼性は否定されない。

d
1896年明治三陸地震について
明治三陸地震については,これを三陸沖北部海溝沿いで起きた津波地震とするこ
とに異論は見られない(なお,平成23年11月25日の「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価(第二版)(乙B10)では,明治三陸地震のMtが」
「8.6~9.0」に改訂されているが(16頁)
,平成14年の「長期評価」
(甲
B5の2)では,明治三陸地震をM8.2,Mt8.2の津波地震とし(8頁),想
定される「次の地震」の規模もMt8.2前後としていた(6頁)のであるから,被告らにおいて,明治三陸地震のMtを9.0として津波想定を行う必要があったとは認められない。。

(ク)

「津波評価技術」について

「津波評価技術」は,既往津波のない福島県沖海溝沿い領域には地震を想定していなかった(甲B6の2・1-59頁,甲B6の3・2-59頁)。
しかし,平成14年7月に策定された「長期評価」は,平成14年2月の「津波評価技術」を作成した土木学会の委員であった(甲B6の1・vi頁)阿部勝征や佐竹健治も加わった地震本部地震調査委員会長期評価部会海溝型分科会での専門家
による議論を経て作成されたものであり,
「津波評価技術」よりも後の知見である。
また,
「津波評価技術」の本文では,波源設定のための領域区分は「地震地体構造
の知見に基づくものとする。また,基準断層モデルの波源位置は,過去の地震の発生状況等の地震学的知見等を踏まえ,合理的と考えられる位置に津波の発生様式に応じて設定することができる。
」とされ(甲B6の2・1-34~1-35頁)
,地
震地体構造の知見や地震学的な知見を踏まえて合理的と考えられる位置であれば,既往地震のない領域に波源を設定することも必ずしも否定されてはいない(乙B156[佐竹調書②]21~22,27~29頁)

土木学会の委員であった今村文彦も,
「津波評価技術」は,
「Aという領域でαと
いう既往地震が過去に存在する一方,Bという領域ではαと同様の地震が発生していなくても,地震地体構造の知見に照らしBという領域とAという領域の近似性が
あるような場合,Bという領域でもαという地震が発生する可能性があるものとして波源を設定するというのが津波評価技術の考え方」であるとしている(乙B187・14頁)

したがって,
「津波評価技術」が福島県沖海溝沿い領域に津波地震を想定していなかったからといって,それは,福島県沖海溝沿い領域で津波地震が起きないことを
保証したものではなく(甲B17・18,20頁,乙B156[佐竹調書②]22頁)「長期評価」の信頼性が否定されるものではない。

(ケ)

中央防災会議の報告について

中央防災会議日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会は,同調査会における議論(甲B1の2本文編305~307頁,甲B9の1・2,甲B274・64~66頁,乙B20)を経て,平成18年1月25日,
「日本海溝・千島海
溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告」
(乙B16,乙B16の2)を作成した。
同報告書においては,調査対象領域については「長期評価」を基本としつつ,「防災
対策の検討対象とする地震については,過去に大きな地震(M7程度以上)の発生が確認されているものを対象として考える。,
」「大きな地震が発生しているが繰り返

しが確認されていないものについては,発生間隔が長いものと考え,近い将来に発生する可能性が低いものとして,防災対策の検討対象から除外することとする。こ
のことから……福島県沖……のプレート間地震は除外される。(乙B16・13~」
14頁)として,福島県沖海溝沿い領域を防災対策の検討対象から除外した。中央防災会議は,
「防災基本計画を作成し,及びその実施を推進すること」
(災害
対策基本法11条2項1号)「強化地域に係る地震防災基本計画を作成し,及びそ,
の実施を推進」すること(大規模地震対策特別措置法5条1項)「日本海溝・千島,
海溝周辺海溝型地震防災対策推進基本計画……を作成し,及びその実施を推進」すること(日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法5条1項)などをつかさどっており,時間的・財政的制約のもとで広域的かつ一般的な防災対策を対象とするものである(甲B9の1・33,39頁,甲B
9の2・29~30頁,甲B25・47頁,甲B312[島崎調書①]31頁)。
したがって,中央防災会議において,既往地震が確認されている領域のみを検討対象とすることとし,福島県沖海溝沿い領域を検討対象から除外したとしても,原子力発電所の津波対策においても福島県沖海溝沿い領域の地震を想定しなくてよいということになるものではなく,中央防災会議の報告によって「長期評価」の信頼
性が否定されるものではない。
(コ)
a
福島県の津波想定区域図について

福島県の津波想定区域図(丙B45)の作成
福島県は,平成19年,県内の沿岸市町が作成する津波ハザードマップや津波避
難計画の作成支援を目的として,津波想定区域図(丙B45)を作成した。そこでは,福島県沖海溝沿い領域には地震を想定しなかった(丙B45・1頁)。
b
被告東電による想定津波(5m)
被告東電は,平成19年6月,福島県の津波シミュレーション結果を入手し,福
島県が想定した津波高さがO.P.+5m程度であり,被告東電の「津波評価技術」に基づく想定津波(1~6号機でO.P.+5.7m)を上回らないことを確認した(丙B41の1・18~19頁)

c
福島県の津波想定区域図が「長期評価」の信頼性を否定するものではないこと
福島県が,防災計画を策定する上で,福島県沖海溝沿い領域での地震を想定しなかったとしても,中央防災会議の報告について述べたのと同様,原子力発電所の津波対策においても福島県沖海溝沿い領域の地震を想定しなくてよいということになるものではないから,合理的な根拠に基づき福島県沖海溝沿い領域での地震発生を想定した「長期評価」の信頼性が否定されるとはいえない。
(サ)
a
茨城県の浸水想定区域図

茨城県の浸水想定区域図(甲B252)の作成
茨城県も,茨城県沿岸津波浸水想定検討委員会における議論(乙B195)を経
て,平成19年,浸水想定区域図(甲B252)を作成した。そこでは,福島県沖海溝沿い領域には地震を想定しなかった(甲B252・10頁,甲B275・8~9頁,乙B156[佐竹調書②]14~15,47~48頁,乙B190の2・3頁)

b
被告東電による想定津波(4.7m)
被告東電は,平成20年3月,茨城県の津波シミュレーション結果を入手し,茨
城県が想定した津波高さがO.P.+4.7m程度であり,被告東電の「津波評価技術」に基づく想定津波(1~6号機でO.P.+5.7m)を上回らないことを確認した(丙B41の1・18~19頁)

c
茨城県の浸水想定区域図が「長期評価」の信頼性を否定するものではないこと茨城県が,防災計画を策定する上で,福島県沖海溝沿い領域での地震を想定しな
かったとしても,中央防災会議の報告について述べたのと同様,原子力発電所の津波対策においても福島県沖海溝沿い領域の地震を想定しなくてよいということになるものではないから,これと異なる合理的な根拠に基づき福島県沖海溝沿い領域での地震発生を想定した「長期評価」の信頼性が否定されるとはいえない。(シ)

a
土木学会における「長期評価」の評価

土木学会における審議予定
被告東電は,
「津波評価技術」を作成した土木学会の専門家の間でも,
「長期評

価」の見解を受けて「津波評価技術」を改訂すべきであるといった議論は特にされていなかった,と主張する(被告東京電力最終準備書面(2)44頁)。
しかし,土木学会では,平成15年度から検討することとしていた確率論的な評価手法の中で「長期評価」の見解を取り扱うこととし(乙B154[佐竹調書①]54頁,乙B156[佐竹調書②]90頁),平成17年及び
平成19年には論文として発表しており(丙B41の1・20頁),被告東電
から平成21年6月に審議要請を受けて,
(福島県沖海溝沿い領域を含む)太
平洋側プレート境界沿いの波源モデルの構築についても平成21年度~平成23年度までの期間に「津波評価技術」の改訂に向けた審議をし(丙B41
の1・32頁)
,平成24年10月を目途に結論が出される予定であった(甲
B1の1本文編405頁)というのであるから,土木学会が「長期評価」の信頼性を否定していたとはいえない(乙B190の1・2)

b
平成16年度アンケート
土木学会津波評価部会は,平成16年頃,確率論的津波ハザード解析に適用する
ロジックツリーの重みについて,同評価部会の委員及び幹事31名,地震学者5名の合計36名にアンケートを送り,35名から回答を得た。その中で,「三陸沖~房
総沖海溝寄りの津波地震活動域(JTT1~JTT3)
」で「超長期の間にMt8級
の地震が発生する可能性」について,0~1の重み付けをさせ,地震学者を他の見識者の4倍として全体加重平均をした結果,分岐①「過去に発生例があるJTT1
及びJTT3は活動的だが,発生例のないJTT2は活動的でない」とした重みが「0.50」
,地震学者グループの平均で「0.35」
,分岐②「JTT1~JTT
3は一体の活動域で,活動域内のどこでも津波地震が発生する」とした重みが「0.50」
,地震学者グループの平均で「0.65」であり,地震学者グループにおいては,
「津波地震は(福島県沖海溝沿い領域を含む)どこでも起きる」とする方
が,
「福島県沖海溝沿い領域では起きない」とする判断より有力であった(甲B325,甲B353の2,乙B156[佐竹調書②]39~41,61~62頁)。

c
平成20年度アンケート
土木学会津波評価部会は,平成21年2月頃(乙B177・19頁),同評価部会

の委員及び幹事34名並びに外部専門家5名の合計39名に対して同様のアンケートを行い,各設問について10~28名の回答を得た(乙B114)「三陸沖~房。
総沖海溝寄りの津波地震活動域(JTT)
」で「超長期の間にMt8級の地震が発生
する可能性」について,0~1の重み付けをさせ,地震学者を他の見識者の4倍として全体加重平均をした結果,分岐①「過去に発生例がある三陸沖(1611年,1896年の発生領域)と房総沖(1677年の発生領域)でのみ過去と同様の様式で津波地震が発生する」とした重みが「0.40」
,②「活動域内のどこでも津波

地震が発生するが,北部領域に比べ南部ではすべり量が小さい(北部赤枠内では1896モデルを移動させる。南部赤枠内では1677モデルを移動させる)」とした
重みが「0.35」
,③「活動域内のどこでも津波地震(1896年タイプ)が発生し,南部でも北部と同程度のすべり量の津波地震が発生する(赤枠全体の中で1896モデルを移動させる)
」とした重みが「0.25」であり,①過去に発生例があ
る三陸沖と房総沖でのみ津波地震が発生するとしたものが最も有力であった(乙B114・20頁)

しかし,この平成20年のアンケート結果によっても,福島県沖海溝沿い領域でも津波地震が発生するとする②と③の合計は0.6で,同領域では津波地震は起きないとする①の重み(0.4)を上回っている(乙B114・20頁)。また,この

平成20年のアンケートは,専門家でない土木学会津波評価部会の委員及び幹事からも回答を得て重み付けを行っているところ,平成13年3月時点の同部会の委員・幹事30名のうち13名は電力会社,5名は電力関連団体に所属しており(甲B4・90~91頁,甲B6の1・vi~vii頁)
,かかる非専門家の意見を含ん
だ重み付けの合理性は疑問である(平成20年アンケートについては,地震学者の
みの重み付け結果は記載されていない。。

d
土木学会の「長期評価」に対する評価のまとめ

結局,土木学会においても,
「長期評価」の合理性,信頼性を否定するような知見
が得られたとはいえない(ここでは,
「長期評価」の合理性,信頼性を否定するよう
な事情が存在するか否かを検討したもので,土木学会の評価を被告国の規制権限不行使の違法性の根拠として用いるものでないから,上記各事実を被告国が現に認識し又は認識し得たか否かを検討する必要はない。。

土木学会の委員であった佐竹健治も,いつの時点であっても,土木学会が,「長期
評価」を無視してよいと判断したことはない,土木学会では,福島沖における津波地震の発生の可能性のような専門家の意見が分かれる知見については,確率論のロジックツリーの分岐として考慮することとしていた,と述べている(乙B190の
2・2頁)

(ス)

合同ワーキンググループでの議論について

資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会の地震・津波ワーキンググループと地質・地盤ワーキンググループとの合同ワーキンググループは,平成21年6月24日~7月13日の第32~33回合同ワーキンググループにおいて,福島第一原発5号機,福島第二原発4号機の耐震バックチェック中間報告書の評価について議論し,基準地震動Ssの策定につき,一部の委員から貞観地震についての言及がされたものの,
「長期評価」に基づく検討
が必要であるとの意見は出されなかった(甲B15の1・2)

しかし,そもそも,津波安全性の評価は耐震バックチェック中間報告の対象と
なっていなかったのであるから(甲B4・452頁,甲B15の1・17頁,甲B15の2・14頁,乙B188・11頁,丙B41の1・15頁),そのような中間
報告の評価についての議論で「長期評価」に基づく検討の必要性が専門家から出なかったからといって,津波対策として「長期評価」に基づく想定津波の検討が不要であるとも,
「長期評価」の信頼性が否定されるものともいえない。

(セ)

比較沈み込み学について

政府事故調によれば,本件地震以前における地震・津波に関する地震学者の考え
方は,以下のとおりであった。
①日本海溝沿いの震源については,
「長期評価」のとおり,沖合の日本海溝寄りの
領域と陸寄りの領域に分け,さらに陸寄り領域は震源を幾つかのセグメントに分けて考えていた。
②まず,日本海溝沿いの領域全般について,M9クラスの地震が起こり得るとは考えられていなかった。M9クラスの超巨大地震は,チリ沖やアラスカ沖のようにプレートが若くて密度がそれほど大きくなく,海溝に沈み始めたばかりで浅い角度で沈み込んでいるところで発生するという「比較沈み込み学」仮説に,多くの地震学者が賛同していた。

③多くの地震学者から「比較沈み込み学」が受容されるのと同時に,地震は過去に発生したものが繰り返すものであり,過去に発生しなかった地震は将来にも起こらないとする考え方が一般的であった。そのため,福島県沖で発生する可能性がある地震については,陸寄りの領域においては,平成14年頃の時点では,過去約400年間の記録に基づき,最大でも塩屋崎沖で発生した福島県東方沖地震(昭和1
3年)のようなM7.5クラスとされていた。平成20年頃からは,貞観地震の波源モデルが徐々に明らかにされつつあったが,依然として福島県沿岸に貞観地震によりどの程度の津波が来襲し,また,地震波源がどこまでの広がりを持つものであったかは必ずしも明確でなかった。
④一方,福島県沖海溝沿い領域で発生する津波地震については,「長期評価」のよ

うに,M8クラスの地震が三陸沖M8クラスの地震が三陸沖から房総沖にかけてのどこでも起こり得るとする考えと,従前どおり特定領域でしか起こらないとする考えの両論があった。前者を推す島崎邦彦は,歴史記録がないのはわずかな期間の記録しか見ていないためであって津波地震が福島県沖だけ起こらないとする理由がない,また,そもそも津波地震は,固着の弱いところで起こる「ぬるぬる地震」で
あってプレートの新旧が固着の大小を支配する比較沈み込み学は適用されないため,三陸沖から房総沖にかけての各領域のプレートの新旧度合いとは関係なくどこでも
同規模程度の津波地震が起こり得るという考えであった。
⑤他方,土木学会においては,この領域での津波地震発生の可能性について両論があったことを踏まえ,三陸沖から房総沖にかけてのどこでも起こるとする場合と特定領域でのみ起こるとする場合の両方の津波発生パターンを考慮に入れたロジックツリーによる確率論的津波ハザード評価の研究を「津波評価技術」の後継研究として進めていた。
(甲B1の2本文編303頁)
以上によれば,M9クラスの地震は想定されていなかったが(甲B1の2本文編303頁,甲B31,117,甲B312[島崎調書②]45~47頁,乙B13,
35,乙B144・9,36頁,乙B174・5~9頁,証人都司②47~48頁)
,福島県沖海溝沿い領域でM8クラスの津波地震が起きるかどうかについては,「長期評価」のとおり「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り領域」
(福島県沖海溝沿い
領域を含む。
)のどこでも起こり得るという考えと,既往地震のあった特定領域でしか起こらないという考えの両説があった状況であり,前者の説(長期評価」の見「

解)が「比較沈み込み学」に反するとは考えられていなかった。
「比較沈み込み学」は,M9クラスの超巨大地震は,沈み込む海洋プレートの年代が若いチリ海溝型の沈み込み帯で起こり,年代の古いマリアナ海溝型の沈み込み帯では起こりにくいという考え方であり(乙B35,151,乙B154[佐竹調書①]44~45,52~53頁,乙B173・5~9頁,乙B177・6~9
頁)
,M8クラスの地震まで検討対象とするものではなかったと認められる。被告国も,津波地震が「比較沈み込み学」の検討対象となる地震から除外されることに異を唱えるものではなく,
「比較沈み込み学」から福島県沖海溝沿い部分にお
ける津波地震の発生が否定されるとの主張をするものではない(被告国第15準備書面11頁)


「比較沈み込み学」と同時に一般的になっていった「地震は過去に発生したものが繰り返すものであり,過去に発生しなかった地震は将来にも起こらない」とする
考え方についても,
「長期評価」の見解も,
「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」を
一つの領域と考えて,この領域内で過去3度地震が起こっているので,将来もこの領域内で同程度の地震が起きる可能性があるとしているものであり,上記の考え方をベースにしていることに変わりはない。
また,ここでいう「過去に発生したもの」というのは,繰り返し間隔が非常に長いこともあるので少なくとも数百年のスパンで考える必要があり(乙B156[佐竹調書②]68頁)福島県沖海溝沿い領域で津波地震が起きていないとしても,そ,
れは東北地方の地震・津波が歴史記録に残っている過去400年程度に限っての話であるから(証人都司①2頁)
,上記の考え方から,福島県沖海溝沿い部分における

津波地震の発生可能性を否定できるものでもない。
M8クラスの津波地震が福島県沖海溝沿い領域で発生するか否かについては,地震学者の間でも,これを肯定する説(長期評価」の見解)が通説となっていたとま「
では認められないが,逆に,これを否定する説が通説となっていたとも認められず,地震学者の見解も分かれていた状況であったと認められる(甲B1の2本文編30
3頁,甲B31,甲B311[島崎調書①]22~25頁,甲B354・14頁,乙B312[島崎調書②]34~36頁,乙B144・36頁,乙B154[佐竹調書①]33~37,44~45,52~55頁,乙B156[佐竹調書②]67~68,72~74頁,乙B174,176,177,証人都司②59頁)。
「長期評価」が,研究会での議論を経て,専門的研究者の間で正当な見解である
と是認された,
「規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を有する知見」であったことは前記のとおりであるから,反対説があったというだけでは,「長期評価」の信頼性は否定されない。
(ソ)

発生頻度について

平成13年安全設計審査指針にいう「想定される」とは,
「原子炉の安全設計の観
点から考慮すべき頻度で発生すると考えられること」をいい(乙A7・16頁),省
令62号4条1項で想定すべき津波についても同様に解される。

「長期評価」によれば,福島県沖海溝沿い領域という特定海域に発生する次の地震の発生確率は,今後30年以内に6%程度とされていたのであるから(甲B5の2・14頁)
,この発生確率の信頼度が「C」
(やや低い)であること(乙B15・
8頁)を踏まえても,
「長期評価」から想定される津波は,省令62号4条1項で想
定すべき津波といえる。後記のマイアミ論文を含め,
「長期評価」から想定される津
波の発生頻度が設計上無視できるほど低いと認めるに足りる証拠はない。(タ)

「長期評価」の信頼性についてのまとめ

「長期評価」は,研究会での議論を経て,専門的研究者の間で正当な見解であると是認された,
「規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を有する知見」であり,その信頼性を疑うべき事情は存在しなかったのであるから,「長期評
価」から想定される津波は,省令62号4条1項で想定すべき津波として津波安全性評価の対象とされるべきであったといえる。
(5)

平成18年時点における予見可能性
中央防災会議の報告等

前記のとおり,平成15年3月24日には地震本部が「長期評価」の信頼度(乙
B15)を作成,公表し,平成18年1月25日には中央防災会議が「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告」
(乙B16)を作成,公表したが,
これらが「長期評価」の信頼性を否定するものでなかったことは前記のとおりである。
平成16年度に土木学会が地震学者5名にアンケートを送ったところ,「津波地震

は(福島県沖海溝沿い領域を含む)どこでも起きる」とする方が,「福島県沖海溝沿
い領域では起きない」とする判断より有力であったこと,
「長期評価」の信頼性を疑
わせるような知見は存在しなかったことも,前記認定のとおりである。イ
溢水勉強会

(ア)

溢水勉強会の概要

平成16年のスマトラ沖地震を機に,保安院とJNES(独立行政法人原子力安
全基盤機構)は,平成18年1月30日,溢水勉強会を発足させた。この溢水勉強会は,保安院とJNESで構成し,電気事業者(被告東電を含む。,電事連,原子)
力技術協会及びメーカーがオブザーバーで参加するというものであった。溢水勉強会は,平成18年1月から平成19年3月まで,合計10回にわたる議論(甲B11の1,甲B132,乙B23~29(枝番含む。,109,253)を経て,平)
成19年4月,
「溢水勉強会の調査結果について」
(甲B11の2)を取りまとめた。
(イ)

平成18年5月11日第3回溢水勉強会

平成18年5月11日の第3回溢水勉強会において,被告東電は,代表プラントとして選定された福島第一原発5号機について,O.P.+14m(5号機の敷地高さO.P.+13.0m+1m)及びO.P.+10m(上記仮定水位O.P.+14mと設計水位O.P.+5.6mの中間)の津波を仮定し,仮定水位の継続時間は考慮しないで(無限時間継続するものと仮定して)機器影響評価を行ったところ,①O.P.+10m,O.P.+14mの両ケース共に非常用海水ポンプが津波により使用不能な状態となること,②津波水位O.P.+10mの場合には建
屋への浸水はないと考えられることから,建屋内への機器への影響はないが,津波水位O.P.+14mの場合は,タービン建屋大物搬入口,サービス建屋入口から流入すると仮定した場合,タービン建屋の各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性があること,③津波水位O.P.+14mのケースでは,浸水による電源の喪失に伴い,原子炉安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失
すること,が確認された(甲B11の1,乙B253)

(ウ)

溢水勉強会の報告書

最終的に平成19年4月に取りまとめられた「溢水勉強会の調査結果について」(甲B11の2)においては,耐震設計審査指針の改訂に伴い,地震随伴事象として津波評価を行うことから,外部溢水に係る津波の対応は耐震バックチェックに委ねることとし,内部溢水に対する規制について,溢水ワーキングチームを立ち上げて引き続き検討することとされた。

(エ)

溢水勉強会からO.P.+10m超の津波が予見可能であるとはいえないこ

上記のとおり,第3回溢水勉強会において,O.P.+14mの津波によって福島第一原発5号機の電源設備の機能を喪失すること,O.P.+10mの津波によっても福島第一原発5号機の非常用海水ポンプが使用不能な状態となることが確認されたが,ここで仮定した津波の高さは,敷地高さ+1m,あるいはこれと設計津波との中間として仮定したものにすぎず(甲B11の1,乙B24の2),溢水勉
強会でO.P.+14m,10mの津波を仮定して機器影響評価を行っているからといって,平成18年当時,O.P.+14m,10mの津波が具体的に予見され
ていたことになるものではない(原告らも,溢水勉強会の検討結果から,直接に敷地高さを超える津波の予見可能性が認められると主張するものではない。原告ら最終準備書面(第2分冊)293頁)


マイアミ論文

(ア)
平成18年5月25日:第4回溢水勉強会

平成18年5月25日の第4回溢水勉強会において,被告東電は,「確率論的津波
ハザード解析による試計算について」
(甲B132・28~29頁)を報告した。
(イ)

マイアミ論文

被告東電の従業員である酒井俊朗ほか4名は,平成18年7月17日から20日にかけて米国フロリダ州マイアミで開催された第14回原子力工学国際会議(ICONE-14)において,
「日本における確率論的津波ハザード解析法の開発」
(甲
B10の1・2。マイアミ論文)を発表した。マイアミ論文は,上記第4回溢水勉強会での報告(甲B132・28~29頁)を発展させたものである。マイアミ論文は,既往津波が確認されていない「JTT2」と呼ばれる領域においても津波地震が発生するという仮定と,既往津波のあるJTT1,JTT3での
み発生するという仮定の双方をロジックツリーで考慮し,確率論的津波ハザード解析(PTHA)の手法を適用し,例として用いる福島の地点における津波ハザード
曲線を評価したところ,不確かさ0.05,0.50では,長期:近地+遠地,長期:近地,長期:遠地のいずれにおいても津波高さ10.0mの津波の確率は1.0E-07(1000万年に1度)に達せず,不確かさ0.95では,長期:近地+遠地で津波高さ10.0mを超える津波の確率は,1.0E-04(1万年に1度)と1.0E-05(10万年に1度)の間,不確かさの平均(全ハザード曲線の期待値)では,長期:近地+遠地で津波高さ10.0mを超える津波の確率は,1.0E-05(10万年に1度)と1.0E-06(100万年に1度)の間であった。津波高さの中央値は,5mを超えていない。
なお,マイアミ論文の津波ハザード評価は,福島第一原発1~4号機のものでは
ない(丙B71)
。丙B71には,福島第一原発1~4号機のものであるとする津波ハザード曲線が添付されているが,それによっても,不確かさの平均で,津波高さO.P.+10.0mを超える津波の確率は,1~4号機でいずれも1.0E-05(10万年に1度)と1.0E-06(100万年に1度)の間であった。(ウ)

マイアミ論文からO.P.+10m超の津波が予見可能であるとはいえない
こと
確率論的津波ハザード解析の手法は,平成18年当時においても研究途上の技術であったと認められ,
「規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を
有する知見」となっていたとは認められない(甲B1の1本文編429頁,甲B10の1・2,甲B132・28~29頁,乙B71,186,187,乙B19
6・24頁,乙B227,丙B41の1・20頁,丙B43)
。また,マイアミ論文
のロジックツリーの重み設定は「地震・津波の専門家を含む35名」(甲B132・
28頁)
,すなわち,地震・津波の専門家でない土木学会委員・幹事の意見も多く含んで設定されているものであるから,その合理性は疑問である。
したがって,マイアミ論文から,福島第一原発1~4号機敷地において敷地高さ
(O.P.+10m)を超える津波が予見可能であったとは認められない。他方,逆に,マイアミ論文で10m超の津波の確率が低かったからといって,「長

期評価」の信頼性を疑わせるものとも,
「長期評価」に基づく(決定論的)想定津波
に対する対策が不要になるものともいえない。

耐震バックチェック

(ア)
耐震バックチェック指示

原子力安全委員会による「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の全面改訂(平成18年9月19日原子力安全委員会決定。改訂後のものが「平成18年耐震設計審査指針」
。乙A8の2)を受けて,保安院は,平成18年9月20日,被
告東電を含む原子力事業者に対し,既設発電用原子炉施設等について,平成18年耐震設計審査指針に照らした耐震安全性の評価を実施し,報告するよう指示した
(丙B42。耐震バックチェック)

平成18年耐震設計審査指針は,地震随伴事象である津波についても,「施設の供
用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」を要求しており(乙A8の2・14頁)
,この津波安全性評価も耐震バックチェックの対象と

されていた(乙B73)

(イ)

バックチェック中間報告

被告東電は,平成20年3月31日から平成21年6月19日にかけて,被告国に耐震バックチェック中間報告書を提出し(平成20年3月に福島第一原発5号機,福島第二原発4号機の,平成21年4月に福島第二原発1~3号機の,平成21年6月に福島第一原発1~4,6号機の中間報告書が提出された。,保安院は平成2)
1年7月21日に,原子力安全委員会は平成21年11月19日に,代表プラントである福島第一原発5号機,福島第二原発4号機の中間報告の内容を妥当と認めた(甲B1の1本文編390頁,甲B4・71~73頁,甲B15の1・2,甲B398,乙B30~32,47,48,丙B41の1・14~15頁)。また,保安院

は,平成22年7月末頃までに,福島第一原発3号機の中間報告の内容を妥当と認めた(乙B188・23頁)


しかし,津波安全性評価は最終報告書で報告することとされ,中間報告書では安全性評価の対象となっておらず(甲B4・452頁,乙B188・11頁,丙B41の1・15頁)
,津波安全性評価を盛り込んだ耐震バックチェック最終報告書は,被告東電から提出されることがないまま,本件事故に至った。
(ウ)

「津波評価技術」に基づく想定津波の再評価

前記のとおり,被告東電は,耐震バックチェックの最終報告に向けて,「津波評価
技術」に基づく想定津波を再評価した結果,平成21年2月,福島第一原発1~4号機の取水ポンプ位置の津波水位をO.P.+5.4~5.6m(5~6号機でO.P.+6.0~6.1m)
,敷地北側及び敷地南側からは浸水せず,と再評価した
(甲B1の1本文編401頁,甲B4・85頁,甲B16,丙B41の1・19頁)

(エ)

平成20年試算

前記のとおり,被告東電は,この耐震バックチェックの過程で平成20年試算を実施し,福島第一原発敷地南側においてO.P.+15.707mとの推計結果を得た(甲B348)


衆議院予算委員会における質疑
平成18年3月1日の第164回国会衆議院予算委員会第7分科会において,吉
井英勝衆議院議員(日本共産党)が,
「押し波の波高が,例えば10メーターだとか
もっと高いのもあるんですね。それに埋もれてしまったといいますか,水没に近い状態で原発の機械室の機能が損なわれるとか,もちろんそういうこともあるんですが,私は,以外と余り注目されていない引き波の方の問題ですね。……三陸海岸にある東北電力女川原発の1号機,東電福島第一の1,2,3,4,5号機,この6機では,基準水面から4メートル深さまで下がると冷却水を取水できないという事態が起こり得るのではないかと思いますが,どうですか。
」という質問を行っている

(甲B137)が,福島第一原発におけるO.P.+10m超の津波の到来を具体的に予見させるものとはいえない。


貞観地震に関する知見の進展

(ア)

平成18年までの知見

貞観地震については,平成18年8月に「仙台平野の堆積物に記録された歴史時代の巨大津波
1611年慶長津波と869年貞観津波の浸水域」
(甲B14の1)

が発表され,仙台平野(宮城県仙台市から山元町)での津波堆積物が発見されていたが,福島第一原発付近にO.P.+10m超の津波が到来したという知見は得られていなかった。
(イ)

平成18年以降の知見(8.7m)

平成18年以降も,貞観地震については複数の論文が発表され(甲B14の2~9,甲B36~38,乙B168)
,平成20年5月までには,文部科学省の委託に
基づく国立大学法人東北大学大学院理学研究科,国立大学法人東京大学地震研究所,独立行政法人産業総合研究所の共同研究により,福島県双葉郡浪江町請戸地区からも貞観地震の津波の堆積物が発見されていた(甲B14の8,甲B36,37)が,福島第一原発付近にO.P.+10m超の津波が到来したという知見は得られてい
なかった。
なめがや

被告東電は,平成21年4月に発表された佐竹健治,行谷佑一,山木滋「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」
(甲B14の5。佐竹
論文)の原稿(活断層・古地震研究報告」に平成20年10月18日受理された後「
のもの。乙B190の2・8頁)で示されていた波源モデルに基づき,平成20年12月にシミュレーションを行った結果,1~4号機で津波水位O.P.+8.7m(5~6号機でO.P.+9.1~9.2m)
,敷地南側(O.P.+10m)に
は浸水せず,という結果を得た(甲B1の1本文編398頁,甲B16,丙B41の1・21頁)

被告東電がこの結果を保安院に報告した平成23年3月7日付け書面(甲B1
6)には,
「仮に土木学会の断層モデルに採用された場合,不確実性の考慮(パラメータスタディ)のため,2~3割程度,津波水位が大きくなる可能性あり」との記
載があるが,この記載は可能性を示すものにすぎず,実際にパラメータスタディを行った結果ではないから,この記載から,O.P.+8.7mの1.2~1.3倍(O.P.+10.4~11.3m)の津波について具体的な予見可能性があったとはいえない。
(ウ)

被告東電による津波堆積物調査

被告東電は,平成21年12月から平成22年3月までの間に福島県の太平洋沿岸において津波堆積物調査を実施し,福島県北部(南相馬市小高区浦尻地区)で標高4mまで貞観地震の津波による津波堆積物を確認したが,南部(富岡町仏浜地区,広野町下浅見川地区,いわき市平下高久地区)では津波堆積物を確認できなかった。被告東電は,この結果を平成23年1月に論文として投稿し,本件事故後の平成23年5月25日に発表した(丙B46)


平成18年時点における予見可能性についてのまとめ
以上のとおり,平成18年までに得られた知見や,その後本件事故までに蓄積さ
れた知見にも,平成14年7月31日に発表された「長期評価」
(及びこれに基づく
被告東電の平成20年試算)以外には,福島第一原発1~4号機敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波の到来を具体的に予見すべき知見は存在しなかった。しかし,被告国は,平成14年の「長期評価」に基づき直ちにシミュレーションを実施していれば,福島第一原発敷地南側において最大O.P.+15.7mの津波を想定可能であり,また,
「長期評価」の信頼性を疑うべき事情は存在しなかった

のであるから,平成14年時点においても平成18年時点においても,福島第一原発1~4号機敷地において敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波を予見可能であった。
5
津波対策に関する回避義務

(1)

非常用電源設備の設置状況
非常用電源設備の津波安全性を確保する必要があったこと

福島第一原発自身の発電能力(内部電源)及び送電線からの外部電源を喪失した
場合に備えて,福島第一原発1~4号機には,非常用ディーゼル発電機による非常用電源設備が備えられていた(5,6号機にも非常用ディーゼル発電機は設置されており,また1~6号機には短時間直流電源を供給するバッテリーも設置されていたが,ここでは触れない。以下の非常用電源設備の設置状況は,平成14年当時,平成18年当時,本件事故当時で大きな変化はない。。

この非常用電源設備は,原子炉の附属設備の一つであるから,省令62号4条1項により「津波により損傷を受けるおそれ」がないものでなければならず,予見可能な津波に対する安全性を欠いていれば,技術基準適合命令の対象となるべきものであった。


非常用ディーゼル発電機本体
1~4号機には,それぞれA,B2系統の非常用ディーゼル発電機が設置されて
いた。
1号機の非常用ディーゼル発電機A・B系は,タービン建屋地下1階(A系がO.P.+4.9m,B系がO.P.+2m)に設置されていた。
2号機の非常用ディーゼル発電機は,A系がタービン建屋地下1階(O.P.+
1.9m)
,B系(空冷式)が共用プール建屋1階(O.P.+10.2m)に設置されていた。
3号機の非常用ディーゼル発電機A・B系は,いずれもタービン建屋地下1階(O.P.+1.9m)に設置されていた。
4号機の非常用ディーゼル発電機A系はタービン建屋地下1階(O.P.+
1.9m)
,B系(空冷式)は共用プール建屋1階(O.P.+10.2m)に設置されていた。
(甲B1の1資料編76頁,乙B259・4-56頁)

非常用ディーゼル発電機冷却系海水ポンプ
非常用ディーゼル発電機は,空冷式である2,4号機各B系を除き,非常用ディ
ーゼル発電設備冷却系海水ポンプで取り込まれる海水を利用して発電機の冷却を行
う水冷式構造になっていた。水冷式非常用ディーゼル発電機6台の非常用ディーゼル発電設備冷却系海水ポンプ6台は,いずれも屋外の海側エリア(O.P.+4m)に,建屋に覆われずにむき出しで設置されていた。
2,4号機各B系の非常用ディーゼル発電機は空冷式であり,発電機の冷却に海水ポンプを必要としなかった。
(甲B1の1本文編25,28頁,資料編75頁,乙B259・4-56頁)エ
非常用配電盤
非常用ディーゼル発電機の電源は,まず高圧配電盤(M/C)により6900V
に変圧され,さらに低圧配電盤(P/C,MCCなど)で480V又は210Vに変圧されて,発電所内の各機器に供給されることとなっていた。非常用ディーゼル発電機自体の機能が維持されていても,各配電盤が機能喪失すれば,電源を供給することはできなくなる。
1号機の非常用高圧配電盤は,C,Dの2系統ともタービン建屋1階(O.P.+10.2m)に設置されていた。

2号機の非常用高圧配電盤は,C,Dの2系統がタービン建屋地下1階(O.P.+1.9m)
,E系が共用プール建屋地下1階(O.P.+2.7m)に設置されていた。
3号機の非常用高圧配電盤は,C,Dの2系統がいずれもタービン建屋地下1階(O.P.-0.3m)に設置されていた。

4号機の非常用高圧配電盤は,C,Dの2系統がいずれもタービン建屋地下1階(O.P.+1.9m)に,E系が共用プール建屋地下1階(O.P.+2.7m)に設置されていた。
(甲B1の1資料編76~77頁,乙B259・4-56頁)
(2)

O.P.+10m以上の津波が予見されれば技術基準適合命令の発令が可能で
あったこと
被告国が,平成14年の「長期評価」に基づき直ちにシミュレーションを実施し
ていれば,福島第一原発敷地南側においてO.P.+15.7mの津波を予見可能であったことは前記のとおりである。平成20年試算によれば,1~4号機の取水ポンプ位置における浸水高はO.P.+8.310~9.244mと,主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超えないものであったが,4号機原子炉建屋周辺は(敷地南側から浸入する津波により)浸水深2.604mの高さで浸水すると計算されていた(甲B348・15頁図2-5)

陸上に遡上した津波が,障害物への衝突,波同士のぶつかり合い,引き波と押し波のぶつかり合いなどによって本来の津波高さ以上の浸水高,遡上高をもたらすことは広く知られていた事実であるから(甲B4・193頁,甲B169,甲B18
2の1・2,甲B186,188,甲B242の1,甲B287,乙B156[佐竹調書②]
・85~87頁,証人都司①17~20頁)
,ひとたび敷地高さ(O.P.
+10m)を超えるO.P.+15.7mの津波が敷地南側から敷地に遡上すれば,タービン建屋や共用プール建屋の開口部等から水が浸入し,非常用高圧電源盤等が水没し,非常用電源設備が機能を喪失する可能性があることは,平成18年の第3
回溢水勉強会の結果(甲B11の1)等を待つまでもなく,平成14年当時においても予見可能であったと認められる(甲B35,丙B41の1・31頁)。
したがって,平成14年7月31日の「長期評価」に接した被告国としては,「長
期評価」に基づく想定津波の高さを計算し又は被告東電に計算させていれば,福島第一原発1~4号機敷地南側にO.P.+15.7mの津波が到来すること,かか
る津波により非常用電源設備の機能が喪失すること,非常用電源設備の機能が喪失すれば全交流電源喪失により放射性物質が外部に漏出するような重大事故に至る可能性があることを予見することが可能であり,1~4号機の非常用電源設備は「津波により損傷を受けるおそれ」があり,電気事業法39条に定める技術基準である省令62号4条1項に適合しないと認めるべきものであったのであるから,経済産
業大臣は,同法40条の技術基準適合命令を発するべきであったといえる。(3)

回避義務についてのまとめ

1~4号機の非常用電源設備は,
「長期評価」から想定される津波(福島第一原発
敷地南側においてO.P.+15.7mに達する津波)に対する安全性を欠いており,省令62号4条1項の技術基準に適合しない状態となっていたのであるから,経済産業大臣は,平成14年7月31日に「長期評価」が公表された後,「長期評
価」に基づくシミュレーションを行うのに必要な合理的期間が経過した後である平成14年12月31日頃までに,被告東電に対し,非常用電源設備を技術基準(省令62号4条1項)に適合させるよう行政指導を行い,被告東電がこれに応じない場合には,技術基準適合命令を発する規制権限を行使すべきであった。6
津波対策に関する回避可能性

(1)

回避可能性判断の前提となる想定津波

経済産業大臣が規制権限を適切に行使していれば,本件地震及び本件津波があったとしても本件事故に至らず,原告らの被害が生じなかったといえるかどうか(回避可能性)を判断するに当たっては,上記規制権限が適切に行使された場合,被告東電が具体的にいかなる結果回避措置を取ったといえるかを検討しなければならず,具体的な回避措置を想定するためには,具体的な想定津波の高さを特定しなければならない(同じく敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波であっても,O.P.+10.1mの津波と,O.P.+15mの津波と,O.P.+30mの津波とでは,当該津波に対する安全性を確保するために必要な回避措置の内容は異なってくる。。


そこで検討するに,平成20年試算により想定された津波は1~4号機敷地南側において浸水高O.P.+15.7mの津波であった(甲B348)のであるから,平成14年時点において規制権限が行使されていれば取られたであろう回避措置も,この「長期評価」から想定されたはずの浸水高O.P.+15.7mの津波を基準として考えるべきである。

(2)

回避措置としてタービン建屋等の水密化及び重要機器室の水密化が想定される
こと


想定津波によりタービン建屋等の浸水が予測されたこと
O.P.+15.7mの津波が到来した場合,津波は1~4号機主要建屋敷地に
遡上し,4号機タービン建屋付近は浸水深2.026mで,1~3号機のタービン建屋付近は浸水深1m以上で,共用プール建屋付近は浸水深5m以上で,浸水することが予測され(甲B348・15頁)
,非常用電源設備が機能喪失するおそれが
あった。

防潮堤の設置だけが想定される回避措置であるとはいえないこと
この場合,O.P.+15.7mの津波に備えた防潮堤を設置することも考えら
れる(乙B175,185,186,188,丙B51)が,被告東電が,平成20年試算を受けて,福島第一原発沖合に新たな防波堤の設置を検討したところ,反射した波が周辺集落に向かう波を大きくする可能性があるとされ,周辺集落の安全性に悪影響を及ぼすような対応は好ましくないとの意見が出されていた(甲B1の1本文編397頁,甲B4・89頁,甲B181の5の1・7~8頁,丙B41の1・23頁)というのであるから,防潮堤以外の方策についても検討せざるを得な
い状況にあったといえる。したがって,被告国が適切に規制権限を行使していれば,被告東電が取るべき回避措置は,防波堤や防潮堤の設置以外にはなかったとまでは認められない。

タービン建屋等の水密化,機械室の水密化が回避措置として想定されること原告らが津波対策義務として主張する回避義務は,①タービン建屋等の防護措置,
すなわち,非常用電源設備の設置されていたタービン建屋,コントロール建屋,共用プール建屋(総称して「タービン建屋等」
)の人の出入口,大物(機器)搬入口な
どに強度強化扉と水密扉の二重扉等を設置すること,タービン建屋等の換気空調系ルーバなどの外壁開口部の水密化等の対策を取ること,タービン建屋等の貫通部からの浸水防止等の対策を取ること(以下,総称して「タービン建屋等の水密化」,)

②タービン建屋等内の非常用電源設備の設置されている機械室への浸水防護等の対策を取ること(重要機器室の水密化)
,③非常用ディーゼル発電機冷却系海水ポンプ

を津波から防護するための防水構造の建屋を設置し,電気系統の配線の貫通口を水密化する対策を取ること(海水ポンプ建屋の水密化)である(原告ら最終準備書面(第2分冊)256~257頁,原告ら主張要旨67~68頁)

現に,被告東電は,土木学会により従前の想定津波を大きく超える津波が想定された場合に備えて,平成22年8月から平成23年2月まで,4回にわたり,福島地点津波対策ワーキングを開催し,福島第一原発・福島第二原発における津波対策として必要となり得る対策工事の内容につき検討し,機器耐震技術グループからは海水ポンプの電動機の水密化が,建築耐震グループからはポンプを収容する建物の設置が,土木技術グループからは防波堤のかさ上げ及び発電所内における防潮堤の
設置がそれぞれ提案され,さらに,これらの対策工事を組み合わせて対処するのがよいのではないかといった議論をしていたというのであり(甲B1の1本文編400,440頁,甲B4・89頁)
,本件事故前においても,想定津波が敷地高さを超
える場合の対策が専ら防波堤のかさ上げに限られるとは考えられていなかった。そして,福島第一原発においても,平成3年溢水事故を機に,地下階に設置され
た重要機器が内部溢水により被水・浸水して機能を失わないよう,原子炉最地下階の残留熱除去系機器室等の入口扉の水密化,原子炉建屋1階電線管貫通部とランチハッチの水密化,非常用ディーゼル発電機室入口扉の水密化(すなわち重要機器室の水密化)が実施されていた(乙B26の1,丙B41の1・38頁,証人舘野②30~31頁)


また,平成11年(1999年)のフランスのルブレイエ原子力発電所における洪水による浸水事故を受けて,ルブレイエ原子力発電所では,防護用堤防の高さを上げる等の対策に加え,開口部の閉鎖(すなわち主要建屋の水密化)等の対策を実施していた(甲B17・13頁,甲B294,乙B175,証人舘野①38頁,証人舘野②42,56~59頁)


さらに,被告東電は,平成14年3月の「津波評価技術」に基づく想定津波の再評価に基づき,6号機の非常用ディーゼル発電機冷却系海水ポンプ用モータのかさ
上げに加え,建屋貫通部等の浸水防止対策(すなわち重要機器室の水密化)などの対策を実施していた(甲B1の1本文編381頁,甲B4・84頁,甲B130,乙B3の1・Ⅲ-29頁,丙B41の1・17~18頁,丙B63)。
アメリカのブラウンズフェリー原子力発電所やスイスのミューレブルク原子力発電所でも,主要建屋や重要機器室の水密化が本件事故前から実施されていた(甲B2・129~134頁)

かしわざきかりわ

おおい

本件事故後には,柏崎刈羽原子力発電所,福島第二原発,大飯原子力発電所,東海第二原子力発電所,浜岡原子力発電所等の原子力発電所で,主要建屋や重要機器室の水密化が津波対策として実施されている(甲B17添付資料3-1,3-3,4-5,4-6,甲B88の1・145頁,甲B176・6頁,甲B253・8頁,甲B366~369,乙B3の2・VI-2,VI-4頁,VIII-1頁)。
これらの事情を踏まえると,多額の費用と期間を必要とする防潮堤の設置に比べ,タービン建屋等の水密化(タービン建屋等への浸水を防止するための,大物搬入口や出入口扉の強度強化扉及び水密扉との交換(甲B369・6~7頁,乙B18
1・2~6頁,乙B196・62頁)
,ディーゼル発電機給気ルーバへの自動ルーバ
閉止装置の設置(甲B369・7~8頁,証人舘野②45~46頁),建屋外壁貫通
部への被水防止カバーの設置(甲B369・8頁)をいう。
)及び重要機器室の水密
化(建屋内の重要機器室への浸水を防止するための,建屋内の隔壁及び床等の配管貫通部の浸水防止,出入口への水密扉の設置(甲B369・8~9頁,証人舘野②
43頁)をいう。
)によるコストはそれほど大きいわけではなく,技術的な問題もなかったと認められるから(甲B2・134頁,甲B3・75~79頁,甲B369・5~8頁)
,非常用電源設備の津波安全性に対して技術基準適合命令が発せられていれば,被告東電は,防潮堤の設置に代えて,あるいは防潮堤の設置と並行して,タービン建屋等の水密化及び重要機器室の水密化の措置(甲B369・5~9頁,
乙B181・2~6頁)を取っていたであろうと認めるのが相当である。主要建屋や重要機器室の水密化という概念及び工事自体は本件事故前から存在していたので
あるから,主要建屋敷地高さを超えて津波が到来することが予見された場合の回避措置としてタービン建屋等の水密化及び重要機器室の水密化を想定することは,平成14年当時の知見からも想定可能であり,本件事故後の知見に基づく後知恵バイアスによるものとはいえない。
本件事故時点で,国内の原子力発電所において主要建屋の水密化が講じられた事
例がなかった(乙B175,証人舘野②43~47頁)としても,それは,福島第一原発以外の原子力発電所が,想定津波が敷地高さを超えない(ドライサイト)と評価されていたためであり,福島第一原発の想定津波が敷地高さを超える(ウェットサイト)と評価された場合に主要建屋や重要機器室の水密化が要求されることと矛盾するものではない。
そうすると,被告国が適切に規制権限を行使し,技術基準適合命令を発していれば,被告東電において,タービン建屋等の水密化及び重要機器室の水密化という回避措置が取られていたであろうと認めるのが相当である。

海水ポンプ建屋の水密化を回避措置として想定することはできないこと浜岡原子力発電所においては,本件事故後,新たに緊急時海水取水設備を防水構
造の新設ポンプ室に設置している(甲B366・7頁,甲B367・16,30~31頁,甲B368・20~21頁,甲B369・11頁)

しかし,これは本件事故後の対策であり,平成14年当時,海水ポンプ建屋の水密化が実現可能であったと認めるに足りる証拠はない。
被告東電において,平成22年8月から平成23年2月にかけて福島地点津波対策ワーキングが開催され,海水ポンプの電動機の水密化やポンプを収容する建物の設置といった対策案が検討されたが,海水ポンプの電動機の水密化やポンプを収容する建屋の設置はいずれも技術的な問題があり,その実現は困難と目されていたというのであるから(甲B1の1本文編400頁)
,被告国が適切に規制権限を行使し,

技術基準適合命令を発していたとしても,被告東電において海水ポンプ建屋の水密化という回避措置を取っていたであろうとは認められない。

(3)

タービン建屋等の水密化,重要機器室の水密化により本件事故を回避可能で
あったこと

水冷式非常用ディーゼル発電機が浸水により機能喪失すること
空冷式の2,4号機各B系を除く,1号機A・B系,2号機A系,3号機A・B
系,4号機A系の水冷式非常用ディーゼル発電機は,いずれもその冷却に海水ポンプを必要とするところ,これらの海水ポンプ6台はいずれもO.P.+4m盤上に設置され,本件津波によりその機能を喪失し,水冷式非常用ディーゼル発電機6台も機能を喪失した(丙B41の1・107~108頁)
。このことは,タービン建屋
等の水密化,重要機器室の水密化の措置を取っていたとしても回避できなかった
(これを回避するには海水ポンプ建屋の水密化が必要である。。

しかし,海水ポンプを必要としない2・4号機各B系の空冷式非常用ディーゼル発電機は,4m盤が浸水しても機能を喪失することはない。

空冷式非常用ディーゼル発電機本体が機能を維持していたこと
2,4号機各B系の非常用ディーゼル発電機は,いずれも共用プール建屋1階
(O.P.+10.2m)に設置されていた。共用プール建屋は,本件津波により1階及び地下1階が浸水したが,非常用ディーゼル発電機本体は浸水せず機能を維持していた(甲B1の1資料編76頁,甲B185の1,乙B259・4-54,4-56頁,丙B41の1・107頁)

したがって,非常用配電盤が機能を維持していれば,電源の供給は可能であった
(甲B2・42~44頁,甲B3・50~51頁,乙B196・54頁)。

非常用高圧配電盤,非常用低圧配電盤の機能喪失が回避可能であったこと空冷式の非常用ディーゼル発電機2号機B系,4号機B系にそれぞれ接続する非
常用高圧配電盤2E,4E,非常用低圧配電盤2E,4Eは,いずれも共用プール建屋地下1階に設置されていた。本件津波により,共用プール建屋地下1階の非常用高圧配電盤,非常用低圧配電盤とも浸水し,その結果,2,4号機の非常用ディーゼル発電機は電源供給機能を喪失した(甲B1の1資料編76~77頁,甲B1
85の1,乙B259・4-53,4-56頁,丙B41の1・107~108頁,丙B41の2添付7-4)

共用プール建屋1階への浸水経路は,入退域ゲート,給気ルーバと考えられ,地下1階への浸水経路は,1階からの浸水,ケーブル貫通部と考えられる(甲B185の1,乙B259・4-39頁)

平成20年試算において,共用プール建屋付近は浸水深約5mの深さで浸水することが想定されていたのであるから(甲B348・15頁)
,O.P.+15.7m
の津波を想定して共用プール建屋の水密化,重要機器室の水密化を行っていれば,共用プール建屋1階への浸水を防護でき,非常用高圧配電盤,非常用低圧配電盤の
機能喪失は回避できていたと考えられる(甲B369,乙B196・53~54頁)


共用プール建屋が本件津波の波圧に耐え得たこと
津波工学者である今村文彦は,本件事故前の知見に基づいて波力評価をした上で
水密扉・強化扉を設計した場合,その水密扉・強化扉は,本件津波の波圧に耐えられなかった可能性がある,平成20年試算を前提として水密化の措置を講じたとしても,平成20年試算と大きく異なる遡上態様であった本件津波の波力に耐えられたかは疑問がある,本件事故前の知見のみに基づいて漂流物の挙動や衝突力を適切に推定することは非常に困難であった,などと述べる(乙B187・53~58頁)


本件事故前の原子炉施設の構造設計における津波波圧の評価は,概ね,朝倉良介らが平成12年に海岸工学論文集に発表した「護岸を越流した津波による波力に関する実験的研究」で提案された評価式によっていたものと認められる(乙B187・50頁)

そして,本件事故後に進展した知見によれば,朝倉らの評価式による波圧は,最
新の波圧算定式による波圧に比べて過小評価となる可能性があるとの指摘がある(乙B187・49~51,54~55頁)


くたい

しかし,本件津波によっても,主要建屋の外壁や柱等の構造軀体に有意な損傷は確認されていないのであるから(甲B185の1,乙B196・61頁,乙B259・4-14頁)
,共用プール建屋の外壁等の構造軀体は,本件事故前の基準による強度を保った上で出入口扉の水密化等を実施したとしても,本件津波の波圧に耐え得たものと認められる。
これに対して,主要建屋の地上開口部に取り付けられている建具等(ドア,シャッター,ルーバ,ハッチカバー)には本件津波あるいは漂流物によるものと思われる損傷が確認されており,共用プール建屋東側開口部の建具等も,本件津波の波圧又は漂流物の衝突により損傷し,その結果,建屋内に海水が浸入したものと考
えられる(甲B185の1・2,乙B196・52~53,60頁,乙B259・4-14~4-15,4-33,4-51頁)が,上記のとおり,本件津波の波圧及び漂流物の衝突力は,本件事故前の基準で(大きな設計変更がされていなければ,福島第一原発が建設された昭和40年代の基準で)設計された主要建屋の外壁等を破壊するほどのものではなかったのであるから,共用プール建屋東側開口部を水密
扉及び強度強化扉に交換しておけば,その強度強化扉は,平成20年試算と本件事故前の知見に基づいて設計されていたとしても,本件津波の波圧に耐え得たものと認められる。

非常用電源設備が機能を維持していれば本件事故は回避可能であったこと以上のとおり,2,4号機各B系の空冷式非常用ディーゼル発電機,非常用高圧
配電盤,非常用低圧配電盤の機能が維持されていれば,非常用交流電源の供給が可能であり,1,3号機への電源融通により,全交流電源喪失による本件事故は回避できていたと認められる(甲B3・51頁,証人舘野②49,62頁)。
現に,5号機は,本件津波によって全交流電源を喪失したが,非常用電源設備の機能を維持した6号機からの電源融通によって炉心溶融を免れている(丙B41の
1・206~210頁)


工事完了までの期間について

タービン建屋等の水密化及び重要機器室の水密化を実施するには,①「長期評価」に基づく地震による想定津波のシミュレーションを行い,福島第一原発敷地南側においてO.P.+15.7mとの推計結果を得る,②推計結果に基づく対策を検討し,タービン建屋等の水密化,重要機器室の水密化を選択する,③変更許可ないし工事計画認可が必要であれば被告東電から経済産業大臣にその申請をする(炉規法23条2項5号の「原子炉及びその附属施設……の位置,構造及び設備」の変更を伴う基本設計の変更については炉規法26条による変更許可が,公共の安全の確保上特に重要なものとして経済産業省令(電気事業法施行規則62条1項,別表第2中欄)で定められた詳細設計の変更については電気事業法47条の工事計画認
可が,それ以外の経済産業省令(電気事業法施行規則65条1項,別表第2下欄)で定める工事については電気事業法48条の工事計画の届出が必要であり,これらにも当たらない軽微な変更については届出も不要である。,④経済産業大臣におい)
てその妥当性を審査し,許可ないし認可をする,⑤被告東電において予算措置を講じ,工事を発注する,⑥工事が完了する,といった過程が必要であるが,被告国
(経済産業大臣)において平成14年7月31日の「長期評価」を認識した後,平成14年末までに適切に規制権限を行使していれば,平成14年末から8年以上後である平成23年3月11日に本件津波が到来するまでに対策工事は完了していたであろうと認められる(甲B369・4~9頁,乙B196・57頁,乙B239~242)


(4)

回避可能性についてのまとめ

以上によれば,被告国(経済産業大臣)が適切に規制権限を行使し,「長期評価」
に基づくO.P.+15.7mの津波に対する安全性の確保を被告東電に命じていれば,被告東電は,非常用電源設備の設置されたタービン建屋等の水密化及び重要機器室の水密化を実施し,全交流電源喪失による本件事故は回避可能であったと認められる。
7
その他津波対策に関する規制権限不行使の違法性に関する事情

被告国も,被告東電に対する規制権限を全く行使しなかったわけではなく,平成18年9月20日には津波安全性評価を含めた耐震バックチェックを指示し,本件事故に至るまで,津波安全性評価を含めた最終報告書の提出に向けた指示を行っていたものであるが,平成20年から平成21年にかけて被告東電から提出された耐震バックチェック中間報告書には津波安全性評価は盛り込まれておらず,平成23年3月7日に示された「福島第一・第二原子力発電所の津波評価について」(甲B1
6)でも具体的な津波対策については触れられず,平成14年7月31日の「長期評価」の公表から平成23年3月11日の本件事故に至るまで,被告東電から「長期評価」に基づく想定津波に対する対策は全く示されていなかったのであるから,
本件で問題となっている「長期評価」に基づく想定津波に対する安全性に関する限り,被告国は,津波安全性を欠いた福島第一原発に対する規制権限を,規制権限の行使が可能であった平成14年末から8年以上の間,全く行使していなかったものである。
この規制権限の不行使は,技術基準への適合性を通じて安全性を審査し,技術基
準に適合しない原子炉施設には技術基準適合命令を発することによって,原子炉施設の事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を保護するという,経済産業大臣に技術基準適合命令を発する規制権限を付与した電気事業法の趣旨,目的,最新の科学的知見等を踏まえて,適時にかつ適切に行使されるべきという技術基準適合命令の性質等に照
らし,本件の具体的事情の下において,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていたと認めるのが相当である。
8
「独立性」欠如是正義務について

(1)

平成14年時点における「独立性」欠如是正義務について

前記のとおり,平成14年時点においては,非常用電源設備の「独立性」は技術基準となっていなかったところ,平成14年時点において,省令62号の技術基準に非常用電源設備の「独立性」を盛り込むべき省令改正義務があったとは認められ
ない。
(2)

平成18年時点における「独立性」欠如是正義務について
「独立性」の解釈における共通要因について

平成17年経済産業省令第68号による改正(平成18年1月1日施行)後の省令62号(乙A5の2)8条の2第1項,33条4項は非常用電源設備に「独立性」を要求していたから,1~4号機の非常用電源設備が「独立性」を欠如していれば,技術基準適合命令の対象となる。
上記省令62号においては,
「独立性」に関する定義はないが,平成13年安全設
計審査指針(乙A7)の解釈において,
「独立性」とは,
「二つ以上の系統又は機器

が設計上考慮する環境条件及び運転条件において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないこと」をいい(乙A7・3頁)「共通要因」とは,,
「二つ以上の系統又は機器に同時に作用する要因であって,例えば環境の温度,湿度,圧力又は放射線等による影響因子,系統若しくは機器に供給される電力,空気,油,冷却水等による影響因子」をいうと解釈されており(乙A7・17頁),これら

は整合的に解釈されるべきであることからすれば,省令62号にいう「独立性」も同様に解釈するのが相当である。
そして,平成13年安全設計審査指針の指針48の「独立性」が想定する「共通要因」は,自然現象(指針2)
,外部人為事象(指針3)
,内部発生飛来物(指針
4)
,火災(指針5)に対する安全性が確保されたことを前提として想定される「共
通要因」であると考えられ,これら指針2~5において安全性を確保することが予定されている外部事象や内部発生飛来物は「共通要因」として想定されないものと解される。
そうすると,省令62号8条の2第1項,33条4項でいう「独立性」においても,省令62号4条1項で想定される津波や8条4項の「飛散物」として想定され
る内部溢水は,
「共通要因」として想定されていなかったものと解するのが相当である。


設置許可基準規則でいう「独立性」の解釈との関係について
本件事故後に制定された設置許可基準規則(乙A17)33条7項,技術基準規
則(乙A18)45条7項は,それぞれ,
「非常用電源設備及びその附属設備は,多
重性又は多様性を確保し,及び独立性を確保し,その系統を構成する機械又は器具の単一故障が発生した場合であっても,運転時の異常な過渡変化時又は設計基準事故時において工学的安全施設及び設計基準事故に対処するための設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならない。
」と定め,非常用電源
設備に「独立性」を要求しているところ,ここでいう「独立性」とは,「二以上の系
統又は機器が,想定される環境条件及び運転状態において,物理的方法その他の方
法によりそれぞれ互いに分離することにより,共通要因又は従属要因によって同時にその機能が損なわれないこと」をいい(設置許可基準規則2条2項19号)「共,
通要因」とは,
「二つ以上の系統又は機器に同時に作用する要因であって,例えば環境の温度,湿度,圧力又は放射線等による影響因子,系統若しくは機器に供給される電力,空気,油,冷却水等による影響因子及び地震,溢水又は火災等の影響」を
いうと解釈され(甲A17・6頁,乙A17・6頁)
,溢水(外部溢水及び内部溢
水)を含むものと解釈されている。
しかし,これは,シビアアクシデント対策が導入された平成24年法律第47号による改正後の炉規法の下での設置許可基準規則の解釈であるから,本件事故後の設置許可基準規則にいう「独立性」が溢水に対する独立性を含む概念として解釈さ
れているからといって,平成18年当時の省令62号にいう「独立性」も同様に解釈すべきことになるものではない。

1~4号機の非常用電源設備が「独立性」を備えていたこと
上記のとおり,省令62号33条4項でいう「独立性」に,津波や内部溢水に対
する独立性は含まれないから,A,B2系統の非常用電源設備が設置され,それぞれ別の非常用母線に接続されていた1~4号機の非常用電源設備は,平成18年当時に想定されていた共通要因(津波及び内部溢水を含まない。
)に対する「独立性」

を備えていた。

省令改正義務がなかったこと
上記のような「独立性」の「共通要因」の解釈は,炉規法,設置許可基準及び技
術基準の構造から導かれるものであるから,省令62号の文言をそのままに行政解釈(乙A16)のみを変更したとしても,当然に拡大された範囲での「独立性」(津
波や内部溢水に対する「独立性」
)を要求する技術基準適合命令の発令が可能となる
とはいえない。
したがって,経済産業大臣は,省令62号を改正しない限り,
「独立性」欠如是正
義務違反により技術基準適合命令を発する権限を有していなかった。そして,平成18年当時,津波や内部溢水に対する安全性は別の規定で確保され
ることが前提となっていたことなどからすれば,平成18年時点において,省令62号33条4項の非常用電源設備の「独立性」として津波や内部溢水に対する「独立性」を要求すべき省令改正義務があったとは認められない。
(3)

「独立性」欠如是正義務についてのまとめ

以上によれば,被告国(経済産業大臣)に「独立性」欠如是正義務に関する規制
権限不行使の違法があったとは認められない。
9
シビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)について

(1)

省令改正義務がなかったこと

前記のとおり,平成14~18年時点において,シビアアクシデント対策義務は原子力事業者の自主的取組に委ねることとされ,技術基準に盛り込まれておらず,平成23年改正後の省令62条5号の2第2項に相当する代替設備確保義務も技術基準に盛り込まれていなかった。
平成23年改正後の省令62号5条の2第2項は,本件事故を契機に,津波によって全交流電源が喪失した場合においても原子炉冷却機能を復旧できるよう,代
替設備の確保その他の適切な措置を講じることを規定したものである(甲A2,7,8,乙A16)


平成23年改正後の省令62号5条の2第2項のような代替設備確保義務を省令62号の改正により導入すること自体は,平成14~18年当時の炉規法,電気事業法の下でも可能であったが,この平成23年改正による省令62号5条の2第2項は,本件事故を契機に追加されたものであって,これを本件事故前の時点において追加すべきであったというのは,本件事故が起きた後から振り返っての後知恵バイアスであるといわざるを得ず,平成14~18年時点で,省令62号の技術基準に代替設備確保義務(平成23年改正後の省令62号5条の2第2項と同様のもの)を盛り込むべき省令改正義務があったとは認められない。
(2)

シビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)についてのまとめ
以上によれば,被告国(経済産業大臣)にシビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)に関する規制権限不行使の違法があったとは認められない。10

被告国の責任についてのまとめ

以上によれば,
「独立性」欠如是正義務違反,シビアアクシデント対策義務(代替設備確保義務)違反は認められない。しかし,経済産業大臣は,平成14年7月31日に発表された「長期評価」に基づき,福島第一原発1~4号機敷地南側にO.P.+15.7mの津波が到来することを予見することが可能であり,1~4号機の非常用電源設備は「津波により損傷を受けるおそれ」があり,電気事業法39条に定める技術基準である省令62号4条1項に適合しないと認めるべきものであったのであるから,同法40条の技術基準適合命令を発することが可能であった
にもかかわらずこれを行わなかったものであり,この津波対策義務に関する規制権限の不行使は,本件の具体的事情の下において,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていたと認められ,被告国は,本件事故により被害を受けた原告らとの関係において,国賠法1条1項の責任を免れないものというべきである。11

(1)

相互の保証について
韓国について

外国人が国家賠償請求をするには,その国籍国との間で相互の保証があることが
必要である(国賠法6条)「相互の保証がある」とは,当該外国人の本国で,日本。
人が被害者として当該事案と同種の損害賠償請求をした場合に,国賠法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められることをいうものと解される。
原告T-1972の国籍は韓国(大韓民国)であるところ,韓国には国家賠償法が存在し,同国の判例上,公務員の不作為に対しても国家賠償が認められること,外国人が被害者の場合には相互の保証があるときに限り適用することとされ,同国の判例上,日本との間では相互の保証があるとされていること,韓国にも原子力損害賠償法があり,我が国と同様の責任集中制度が規定されているが,国の責任を排
除しているかについては明確な整理がなされていないことが認められるから(甲C223,乙B228,231)
,韓国との間には相互の保証があると認められる(名
古屋高裁昭和51年9月30日判決・判タ345号225頁,大阪高裁昭和54年5月15日判決・民集38巻11号1275頁,最高裁昭和59年11月29日第一小法廷判決・民集38巻11号1260頁[天神川事件]
,広島高裁平成17年1

月19日判決・民集61巻8号2805頁,最高裁平成19年11月1日第一小法廷判決・民集61巻8号2733頁[三菱元徴用工在外被爆者事件],横浜地裁平成
26年5月21日判決・判時2277号123頁,東京高裁平成27年7月30日判決・判時2277号84頁[厚木基地第4次訴訟]
,那覇地裁沖縄支部平成29年
2月23日判決・乙B257[嘉手納基地第3次訴訟]。


(2)

中国について

原告T-1114,原告T-1117,原告T-1458の国籍は中国(中華人民共和国)である。
中国には中華人民共和国国家賠償法が存在し,要件は限定されているものの国家賠償が認められていること,相互の保証に関する規定があること,国家賠償法の対象とならない行政行為についても,民法通則や中華人民共和国権利侵害責任法により国の責任が認められる可能性があること,これらの規定は外国人にも適用がある
ことが認められるから(甲C224,乙B229,231)
,中国との間には相互の
保証があると認めるのが相当である(横浜地裁平成26年5月21日判決・判時2277号123頁,東京高裁平成27年7月30日判決・判時2277号84頁[厚木基地第4次訴訟]
,那覇地裁沖縄支部平成29年2月23日判決・乙B257
[嘉手納基地第3次訴訟]。

(3)

フィリピンについて

原告T-3036の国籍はフィリピン(フィリピン共和国)である。フィリピンにおいては,国については主権免責が規定されているものの,過誤又は過失で特定の者に特別の命令又は任務を付与して行った作為又は不作為により他人に損害が生じたときにはフィリピン民法により損害賠償請求が可能とされていること,フィリピン民法は外国人にも適用があることが認められるから(甲C108,乙B260~269(枝番を含む。)
),フィリピンとの間には相互の保証があると認
めるのが相当である(東京高裁平成27年7月30日判決・判時2277号84頁[厚木基地第4次訴訟]。


那覇地裁沖縄支部平成29年2月23日判決(嘉手納基地第3次訴訟。乙B257)は,フィリピンとの間の相互の保証を否定しているが,同判決が相互の保証を否定したのは,国の公の営造物に基づく損害賠償責任については主権免責が認められると解されたためであり,同判決によっても,
「特別機関を通じて政府権能を行使
する場合における当該機関の過失又は怠慢による損害賠償責任……は認められる」
と判断されており(乙B257・152頁)
,同判決が相互の保証を否定しているこ
とは,上記認定を左右しない。
(4)

ウクライナについて

原告T-2229の国籍はウクライナである。
ウクライナには,国家賠償に関する法令として,2015年(平成27年)12月10日採択された「国家公務に関する法律」が存在するほか,本件事故当時にも,2003年(平成15年)1月16日採択された「市民保護に関する法律」(ウクラ

イナ民法)が存在し,国家権力機関等が,その権限を遂行するに際しての不法な決定や行為,不作為により個人又は法人に対して与えられた損害に対して,国家賠償が認められていたこと,それらの規定は外国人にも適用されることが認められるから(甲C109,乙B230,231)
,ウクライナとの間には相互の保証があると
認められる。
(5)

相互の保証についてのまとめ

以上によれば,外国人原告全員との関係で相互の保証が認められる。
第4
1
被告東電の損害賠償責任
一般不法行為に基づく請求の可否について

(1)

原賠法は一般不法行為の適用を排除していると解されること

原賠法(平成26年法律第134号による改正前のもの)は,
「原子炉の運転等に
より原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もつて被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資すること」を目的として(1条)
,原子力事業者の無過失責任(3条1項)
,責任集中(3条2項,4条)
,求
償権の制限(5条)
,原子力事業者の損害賠償措置(6条以下)
,国の措置(16条
以下)などを定めている。

原賠法4条が,原子力事業者以外の者に対する一般不法行為の適用を排除していることは明らかであるが,同法3条1項が,原子力事業者に対する一般不法行為(民法709条,715条)に基づく損害賠償請求権の併存(請求権競合)を排除しているか否かは争いがある(甲B160,161,丙A1)

しかし,原子力損害につき,原子力事業者が,原賠法3条1項の無過失責任に加
えて,民法709条に基づく一般不法行為責任を併存的に負担するとした場合,原子力事業者が一般不法行為に基づく請求に対して支払った損害賠償金について,軽過失ある第三者に対する求償が可能となったり(原賠法5条)
,損害賠償措置(原賠
法6~15条)や原子力損害賠償・廃炉等支援機構からの資金援助(原子力損害賠償・廃炉等支援機構法41条以下)の対象外と判断されたりする可能性があり,そ
うなると,被害者の保護を図り,原子力事業の健全な発達に資することを目的とした原賠法の趣旨に反する事態となるおそれがあることから,原賠法は,原子力損害については一般不法行為責任の規定の適用を排除しているものと解するのが相当である(水戸地裁平成20年2月27日判決・判時2003号67頁,東京高裁平成21年5月14日判決・判時2066号54頁)


「東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅
時効等の特例に関する法律」
(平成25年12月11日法律第97号)が,時効期間
延長(同法3条)の対象を「特定原子力損害(当該事故による損害であって原子力事業者(原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第二条第三項に規定する原子力事業者をいう。
)が同法第三条第一項の規定により賠償の責
めに任ずべきものをいう。以下同じ。」
)(1条)に限定し,一般不法行為責任の併存
を想定していないことも,上記解釈を裏付けるものといえる。
(2)

原告らの主張について

原告らは,交通事故につき,運行供用者である加害者が,一般不法行為に基づく人身損害の請求に対し損害賠償金を支払ったとしても,自動車損害賠償保障法15条に基づく加害者請求をなし得るのと同様,原子力事業者が一般不法行為に基づく原子力損害の請求に対し損害賠償金を支払った場合には,原賠法の諸規定が適用される,などと主張する(原告ら主張要旨88~89頁)

しかし,そもそも自動車損害賠償保障法に基づく責任については損害賠償の対象が生命又は身体を害した場合に限定されており(同法3条)
,このように同法による

損害賠償の範囲が限定されていることからすれば,同法以外に一般不法行為に基づく損害賠償を認める必要がある(同法4条)のに対し,原賠法3条1項によって認められる損害賠償額と一般不法行為に基づく請求によって認められる賠償額とに差は生じないと考えられることからすれば,原賠法3条1項の無過失責任に加えて一般不法行為責任の併存を認める必要性はない。このように解しても,原賠法3条1
項の請求に当たって,請求者が原子力事業者の故意又は過失を損害額算定の一要素として主張,立証することは可能であると解されるから,被害者の保護に欠けるところはない。
(3)

一般不法行為に基づく主位的請求についてのまとめ

したがって,一般不法行為に基づく原告らの主位的請求は理由がない。2
(1)

請求の適法性について
損害賠償請求が原状回復が可能であることを前提としているとはいえないこと
被告東電は,被告東電に対する損害賠償請求は,不適法な原状回復請求が履行可能であることを前提としている点において不適法であると主張する。しかし,原告らの請求は,提訴後損害分の損害賠償請求につき「旧居住地において空間線量率が0.04μSv/h以下となるまでの間」という不確定期限(終期)を付しているにすぎず,
「被告らが旧居住地の空間線量率を0.04μSv/h
以下とするまでの間」といった,被告らの行為によって空間線量率の低減を実現することを前提としているとはいえないから,被告東電の主張はその前提を欠く。(2)

将来請求部分が不適法であること

もっとも,被告東電に対する損害賠償請求のうち,本件口頭弁論終結後に発生する損害に係る部分については,将来請求としての適格性を欠き不適法であることは,被告国に対する将来請求について述べたとおりである。
このことは,被告東電が,自主賠償基準において一定の範囲で将来分を含めた包括請求の賠償に応じていること(丙C16,18,19,67)によっても左右されない。

(3)

請求の適法性についてのまとめ

したがって,被告東電に対する損害賠償請求のうち,本件口頭弁論終結後に発生する損害に係る部分は不適法であるが,その余の部分は適法である。3
被告東電の過失について

(1)
注意義務

被告東電は,福島第一原発を設置,稼働するに当たり,電気事業法39条に基づき,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない義務,その委任を受けた省令62号4条1項に基づき,非常用電源設備が「津波により損傷を受けるおそれ」がないように適切な措置を講ずべき義務を負っていたものである。ここでいう「津波により損傷を受けるおそれ」とは,既
往最大の津波に対する安全性が確保されているだけでは足りず,
「予想される自然現
象のうち最も苛酷と考えられる条件」
,すなわち,合理的な根拠に基づいて「予想」

される津波に対する安全性が確保されることが必要であったことは前記のとおりである。
(2)

被告東電に過失があること

しかるに,被告東電は,平成14年7月31日の「長期評価」は客観的かつ合理的根拠を有する知見であり,その信頼性を疑うべき事情は存在しなかったのであるから,
「長期評価」から想定される地震による予見可能な津波を省令62号4条1項で想定すべき「津波」として,これに対する適切な対策を講じなければならない注意義務があるのにこれを怠り,
「長期評価」から予見可能なO.P.+15.7mの
津波に対する対策を怠った結果,本件事故に至ったのであるから,被告東電には過
失があるといえる。
被告東電は,平成9年3月の4省庁報告書(甲B115の1・2)発表後の平成10年6月には4省庁報告書に基づく想定津波を(甲B128)
,平成14年2月の
「津波評価技術」
(甲B6の1~3)発表後の平成14年3月には「津波評価技術」に基づく想定津波を(甲B130)
,平成19年の福島県の津波想定区域図(丙B4

5)発表後の平成19年6月には福島県の津波想定に基づく想定津波を(丙B41の1・18~19頁)
,平成19年の茨城県の浸水想定区域図(甲B252)発表後
の平成20年3月には茨城県の浸水想定に基づく想定津波を(丙B41の1・18~19頁)
,平成21年4月の佐竹論文(甲B14の5)については発表前の原稿に基づき平成20年10月に佐竹論文に基づく想定津波を(甲B1の1本文編398
頁,甲B16,丙B41の1・21頁)
,それぞれ知見の発表後速やかにシミュレー
ションを行い,従前の想定津波を超えていた場合には海水ポンプのかさ上げや重要機器室の水密化等の対策を取っていたのに,平成14年7月の「長期評価」については,平成20年4月18日の平成20年試算(甲B348)まで想定津波のシミュレーションすら行わず,土木学会に対する調査依頼も,
「長期評価」発表後直ち

に行ったのではなく,平成20年試算(甲B348)によって想定津波が従前の想定津波を大きく超えることが明らかになった後の平成21年6月に初めて行ったも
のであった(丙B41の1・24頁)

このような「長期評価」に対する対策の懈怠は,平成14年時点においては,予見可能性を基礎付ける事実(長期評価」及びその信頼性を基礎付ける事実)の認識「
はあったのに具体的予見をしなかったという予見義務の違反であり,平成20年試算後は,回避義務を基礎付ける事実(長期評価」

,その信頼性を基礎付ける事実,
「長期評価」から想定される津波がO.P.+10mを超えることを示す平成20年試算,1~4号機の非常用電源設備がO.P.+10m超の津波に対する安全性を欠いている事実)の認識があったのに回避措置を取らなかったという回避義務の違反である。この予見義務・回避義務違反は,原子炉が,原子核分裂の過程におい
て高エネルギーを放出するウラン等の核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,万が一にも原子力事故を引
き起こすことのないよう,原子力発電所の安全性を最優先に考えなければならない原子力事業者に求められる高度の予見義務,回避義務を怠ったものとして,強い非難に値する。
しかし,この予見義務・回避義務違反の原因は,被告東電が,既往地震の波源域のみを波源域として設定していた「津波評価技術」の波源設定方法を,「津波評価技

術」本来の考え方(津波評価技術」は,地震地体構造の知見や地震学的な知見を踏「
まえて合理的と考えられる位置であれば,既往地震のない領域に波源を設定することを必ずしも否定しないものであったことは前記のとおりである。)を超えて絶対視
し,
「長期評価」の信頼性の評価を誤り,電気事業法上の対策義務があるものとは認識しなかったためと認めるのが相当であり,O.P.+10m超の津波の到来を電
気事業法上の対策義務があるものとして認識しながら,経済的合理性を優先してあえて対策を取らなかったといった,故意やそれに匹敵する重大な過失があったとま
では認め難い。

第5
1
平穏生活権侵害に基づく損害賠償請求について
本訴における訴訟物について

(1)

訴訟物の個数について

一般に,交通事故の場合において,同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは,原因事実および被侵害利益を共通にするものとして,請求権(訴訟物)の個数としては一個であると解されている(最高裁昭和48年4月5日第一小法廷判決・民集27巻3号419頁)

そうすると,原賠法,国賠法に基づき本件事故により生じた損害の賠償を求める場合においても,明示又は黙示に一部請求として構成しない限り,訴訟物は「本件
事故により発生した原告の被告国に対する国賠法に基づく損害賠償請求権全部(ただし,財物損害を除く。」「本件事故により発生した原告の被告東電に対する原賠),
法に基づく損害賠償請求権全部(ただし,財物損害を除く。」がそれぞれ1個の訴)
訟物を構成するものと考えられる(精神的損害と営業損害とが別々に算定されるのは1個の訴訟物の内部における損害費目の算定であって,本来的に訴訟物を異にす
るものではなく,これらを慰謝料に含めた包括一律請求をすることも法的に妨げられるものではない。もっとも,交通事故の場合においても人身損害と物的損害とは別個の訴訟物と解されているから,本件事故による損害であっても財物損害については訴訟物は別個となると解される。。

(2)

本訴における訴訟物の範囲について

原告らは,平穏生活権侵害に基づく損害賠償請求に関し,
「全ての原告に共通する
精神的な損害の一部(内金)として,一律に,月額金5万円の慰謝料を請求するものである。
」として,本件が一部請求であることを明示し(訴状82頁)
,原告らの
一部は「ふるさと喪失」損害を別途請求しており,平穏生活権侵害による損害と「ふるさと喪失」損害とは別個の損害である旨主張している(原告ら準備書面(被
害総論9)9頁,原告ら最終準備書面(第4分冊)141~142頁,原告ら主張要旨98頁)


また,原告らは,原告らの請求する平穏生活権侵害による損害は中間指針等とは重なり合わず,仮に重なり合う部分があったとしても中間指針等により賠償が認められている部分は本訴の訴訟物としない旨主張している(原告ら準備書面(被害総論10)
,原告ら最終準備書面(第4分冊)35頁)

そうすると,平穏生活権侵害による損害賠償として本訴の訴訟物を構成するのは,①本件事故に基づき原告らが被った精神的損害であって,積極損害,消極損害,生命・身体的損害やそれらに伴う精神的損害を含まず,②「ふるさと喪失」として別訴の訴訟物を構成する確定的,不可逆的損害を含まず,③「中間指針等による賠償額」を含まず,④これらを控除してもなお損害額が請求金額を超えるときは,請求
金額の範囲に限定されているもの(いずれも明示的一部請求)と解するのが相当である。
このように解する限り,
「中間指針等による賠償額」は,本訴請求債権と慰謝料の
考慮要素を異にする部分があるとしても,質的には同質の損害(本件事故に基づく精神的損害の慰謝料)であるから,裁判所は,証拠上認められる全ての考慮要素を
考慮して精神的損害の賠償額を認定し,①それが「中間指針等による賠償額」を超えるか否かを判断し(原告らが被告東電から現に受領し又は将来受領する賠償金については,それが「中間指針等による賠償額」の範囲内であれば,その部分は本訴請求債権から除外されているから,現に受領したか否かを問わず,本件では考慮しない。,②既払額が「中間指針等による賠償額」を超える場合には,ADR等にお)

いて「中間指針等による賠償額」を超えて支払われた賠償金による弁済の抗弁について判断し,③残った認定損害額を請求金額の範囲内において全部又は一部認容し,④認定損害額が「中間指針等による賠償額」及び既払金を超えない場合には,請求を全部棄却することになる(この一部棄却又は全部棄却判決の既判力は,一部請求から除外された請求権に及ばない。。


中間指針等で示されている賠償額は目安であって,個別の事情によってこれを超える(あるいは,これを下回る)損害を認定することは当然に許容されているとこ
ろであるが(丙A2・23頁,丙A3・8頁,丙A4・2頁,丙A5・3頁),本件
では,その目安の額を超える損害が認められるか否かを判断することとなる。(3)

本訴における被侵害法益

以上の前提を踏まえ,本判決においては,請求の趣旨第2項の損害賠償請求(弁護士費用相当額部分を除く,月額5万円の損害賠償請求)の被侵害法益として審理の対象となる権利利益を,原告らの主張する「包括的生活利益としての人格権」該当性,
「生存と人格形成の基盤」該当性,
「日常の幸福追求による自己実現」該当性,
「生命・身体に直結する平穏生活権」該当性,
「人格権」該当性,
「権利」該当性を
問うことなく「平穏生活権」と定義し,その侵害を「平穏生活権侵害」と呼称する。
その上で,本件における被侵害法益(平穏生活権)の内実について検討すると,人は,その選択した生活の本拠において平穏な生活を営む権利を有し,社会通念上受忍すべき限度を超えた大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪臭によってその平穏な生活を妨げられないのと同様,社会通念上受忍すべき限度を超えた放射性物質による居住地の汚染によってその平穏な生活を妨げられない利
益を有しているというべきである。
ここで故なく妨げられない平穏な生活には,生活の本拠において生まれ,育ち,なりわい

職業を選択して生業を営み,家族,生活環境,地域コミュニティとの関わりにおいて人格を形成し,幸福を追求してゆくという,人の全人格的な生活(原告らのいう「日常の幸福追求による自己実現」
)が広く含まれる。
(4)

平穏生活権侵害の成否の判断枠組み

そして,放射性物質による居住地の汚染が社会通念上受忍すべき限度を超えた平穏生活権侵害となるか否かは,侵害行為の態様,侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきである(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号13
69頁[大阪国際空港事件]
,最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決・民集47
巻2号643頁[厚木基地第1次訴訟]
,最高裁平成5年2月25日第一小法廷判
決・集民167号359頁[横田基地訴訟]
,最高裁平成6年1月20日第一小法廷
判決・訟月41巻4号532頁[福岡空港事件]
,最高裁平成6年3月24日第一小
法廷判決・集民172号99頁[レディミクストコンクリート製造工場事件],最高
裁平成7年7月7日第二小法廷判決・民集49巻7号1870頁[国道43号線訴訟]等参照)

本件における「侵害行為の態様,侵害の程度」としては,旧居住地の汚染の程度すなわち旧居住地周辺における空間線量率が最も重要な要素となる。なお,後記の
とおり,本件事故当時の炉規法,実用炉規則及び線量限度告示では,周辺監視区域外の線量が1mSv/y以下となるように放射線源を管理することが求められており,法令上,1mSv/yを超える公衆の被曝は許容されていなかったということができるが,この規制は,公衆の被曝を予防するために定められたものであって,この基準を超える被曝をしたとしても,直ちに平穏生活権侵害が成立するとはいえ
ない。線量が健康被害を生じさせる程度に高ければそれだけ平穏生活権侵害として認められやすくなるといえるが,一方,健康被害の危険性が低い(あるいは高いことが証明できない)としても,それだけで平穏生活権侵害の成否が決まるものではない。平穏生活権侵害の成否は,低線量被曝に関する知見等や社会心理学的知見等を広く参照した上で決するべきである。また,平穏生活権侵害が成立する場合にお
ける慰謝料の考慮要素としては,被告らの故意又は過失の有無,程度も参酌され得る。
「被侵害利益の性質と内容」としては,政府による避難指示等により居住及び移転の自由が法的に制約されたか否かは重要な要素となるが,それだけで平穏生活権侵害の成否が決まるものではなく,本件事故により原告らの生活に影響した社会的
事実を広く参照して決するべきである。なお,避難の合理性(旧居住地から避難した場合に,避難と本件事故との間に相当因果関係が認められるか)と平穏生活権侵
害の成否は,考慮要素を共通にするため,結果的にほとんどの場合に結論は一致すると考えられるが,平穏生活権侵害の成否を考えるに当たっては,必ずしも前者が後者の前提となるものではなく,境界的な事例においては,避難の合理性は認められるが旧居住地の汚染は平穏生活権侵害として賠償に値する程度に至らないという場合も,逆に,旧居住地の汚染は平穏生活権侵害として賠償に値するが避難を相当とするほどではないという場合も,いずれも想定され得る。
本件において,本件事故後の福島第一原発は何らの便益を生み出さないから,「侵
害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等」は問題とならないが,そうであるとしても,およそ本件事故前に比して空間線量率が上昇していれば直ち
に平穏生活権侵害が成立するわけではなく,侵害行為に公共性ないし公益性がないことを前提に,他の事情を総合考慮して平穏生活権侵害の成否が判断されることになる。
「侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況」としては,本件事故発生当初の時点においては,1号機,3号機,4号機が順次爆発し,事故が拡大しつつある
状況にあったことなど,その時点における旧居住地の汚染状況だけでなく,本件事故の進展に対する不安が合理的に存在する状況にあったか否かも考慮要素となる。「その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等」としては,騒音であれば騒音防止措置の有無等が問題となるところ,本件においては,新たな放射性物質の放出を抑制する措置が取られたか否か(各原子炉の冷温停止状
態が達成されたか否か)
,除染の進展状況等が考慮要素となる。
(5)

一律請求について

さらに,本件は4000名近くの原告による大規模集団訴訟であり,原告らは「全ての原告に共通する」損害を主張している(訴状82頁,原告ら準備書面(被害総論17)11~12頁,原告ら主張要旨5頁)
(一律請求。積極損害,消極損害
等については別途の請求が予定されており,これらを慰謝料に包括して一括評価する「包括一律請求」ではない。。


これは,結局,原告らが本件事故に基づいて被った精神的苦痛を一定の限度で原告らに共通するものとしてとらえ,その賠償を請求するものと理解することができる。もとよりそのような被害であっても,原告ら各自の生活条件,身体的条件等の相違に応じてその内容及び程度を異にし得るものではあるが,他方,そこには,全員について同一に存在が認められるものや,また,その具体的内容において若干の差異はあっても,平穏生活権が侵害されているという点においては同様であって,これに伴う精神的苦痛の性質及び程度において差異がないと認められるものも存在し得るのであり,このような観点から同一と認められる性質・程度の被害を原告ら全員に共通する損害としてとらえて,各自につき一律にその賠償を求めることは許
されるというべきであり,裁判所が,一定の指標に基づいて原告らを適切なグループに区分し,そのグループごとに共通する慰謝料の要素を抽出して共通被害を認定することも許されるというべきである(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁[大阪国際空港事件]
,最高裁昭和63年(オ)第
612号平成5年2月25日第一小法廷判決・訟月40巻3号452頁[横田基地
第5次~第7次訴訟]
,最高裁平成6年1月20日第一小法廷判決・訟月41巻4号
532頁[福岡空港訴訟]
,最高裁平成7年7月7日第二小法廷判決・民集49巻7
号1870頁[国道43号線訴訟]等参照)

当裁判所は,原告らの旧居住地の避難指示区分によって原告らをグループ化して共通被害を認定するのが相当であると考えるから,①旧居住地が帰還困難区域,大
熊町又は双葉町である原告ら,②旧居住地が居住制限区域・旧居住制限区域である原告ら,③旧居住地が避難指示解除準備区域・旧避難指示解除準備区域である原告ら,④旧居住地が旧特定避難勧奨地点である原告ら,⑤旧居住地が旧緊急時避難準備区域である原告ら,⑥旧居住地が旧一時避難要請区域である原告ら,⑦旧居住地が自主的避難等対象区域である原告ら,⑧旧居住地が自主賠償基準の対象区域であ
る原告ら,⑨旧居住地がこれらの区域外である原告ら,について,それぞれ,「中間
指針等による賠償額」を超える共通損害が認められるか否かを判断することとする。
2
政府による避難指示等

(1)

避難区域の指定等

内閣総理大臣は,3月11日,原災法(平成24年法律第47号による改正前のもの)15条3項に基づき,福島第一原発から半径3km圏内を避難区域に,半径3~10km圏内を屋内退避区域に指定した(丙C2)

内閣総理大臣は,3月12日,原災法15条3項に基づき,福島第一原発から半径20km圏内及び福島第二原発から半径10km圏内を避難区域に指定した(丙C3,4)

内閣総理大臣は,3月15日,原災法15条3項に基づき,福島第一原発から半
径20~30km圏内を屋内待避区域に指定した(丙C5)

原災本部長である内閣総理大臣は,4月21日,原災法20条3項に基づき,福島第二原発に係る避難区域を半径8km圏内に変更する(丙C6)とともに,福島第一原発から半径20km圏内を,原災法28条2項,災害対策基本法63条1項の警戒区域に設定した(丙C7)


原災本部長である内閣総理大臣は,4月22日,原災法20条3項に基づき,福島第一原発から20~30km圏内の屋内待避区域の指定を解除するとともに,かつらおむら

なみえまち

いいたてむら

かわまたまち

葛尾村,浪江町,飯舘村,川俣町の一部及び南相馬市の一部であって避難区域を除ひろのまち

ならはまち

かわうちむら

く区域を計画的避難区域に,広野町,楢葉町,川内村,田村市の一部及び南相馬市の一部であって避難区域及び計画的避難区域を除く区域を緊急時避難準備区域に,それぞれ指定した(丙C8)

緊急時避難準備区域の指定は,9月30日に解除された(丙C9)。
(2)

一時避難要請区域の指定等

南相馬市は,3月16日,市民の生活の安全確保等を理由として,その独自の判断に基づいて,南相馬市の住民に対して一時避難を要請した(丙A2・8頁)。
南相馬市は,4月22日,一時避難要請区域から避難していた住民に対して,自宅での生活が可能な者の帰宅を許容する旨の見解を示した(丙A2・8頁)。

(3)

特定避難勧奨地点の指定等

原災本部は,6月30日から11月25日にかけて,事故発生後1年間の積算線量が20mSvを超えると推定される地点について,住居単位で特定避難勧奨地点を指定した。
りようぜんまち
つきだてまち

ほばらまち

具体的には,福島県伊達市霊山町,月舘町,保原町の117地点128世帯,南しもかわうち

相馬市鹿島区,原町区の142地点153世帯,川内村下川内地区の1地点1世帯が特定避難勧奨地点に指定された(丙C10,丙C11の1・2・4~6,丙C27,丙C33の1,丙C298,299)

伊達市及び川内村の特定避難勧奨地点は平成24年12月14日に,南相馬市の特定避難勧奨地点は平成26年12月28日に,それぞれ解除された(丙C11の3,丙C33の1,丙C77,300)

(4)

収束宣言

原災本部は,12月16日,福島第一原発の原子炉は冷温停止状態(圧力容器底部及び格納容器内の温度が概ね100℃以下になっていること)に達し,格納容器からの放射性物質の放出による敷地境界における被曝線量は0.1mSv/yと,目標とする1mSv/yを下回り(既に放出された放射性物質の影響を含めた敷地境界における空間線量率は1mSv/yを大きく上回っていた。甲C157資料179,丙B65,66)
,不測の事態が発生した場合も敷地境界における被曝線量が
十分低い状態を維持することができるようになり,
「放射性物質の放出が管理され,

放射線量が大幅に抑えられている」という「ステップ2」の目標達成と完了を確認し,本件事故そのものは収束に至ったと判断した(収束宣言。丙C12)。
福島第二原発から8km圏内の避難区域の指定は,12月26日に解除された(甲B1の2本文編242頁)が,同区域は全て福島第一原発から20km圏内の警戒区域となっていた(丙C27)


(5)

避難指示区域の再編等

平成24年4月1日から平成25年8月8日にかけて,警戒区域,避難区域,計
画的避難区域は,帰還困難区域,居住制限区域,避難指示解除準備区域に再編された(丙C13,28)

みやこじ

平成26年4月1日,田村市都路地区の避難指示解除準備区域の指定が解除された(丙C31の1・2)

平成26年10月1日,川内村の避難指示解除準備区域の指定が解除され,川内
村の居住制限区域は避難指示解除準備区域に再編された(丙C30の3)。
平成27年9月5日から平成28年7月12日にかけて,楢葉町,葛尾村,川内村,南相馬市の居住制限区域,避難指示解除準備区域の指定が順次解除された(丙C29,159,160,230,235,238,239)

本件口頭弁論終結後の平成29年3月31日から4月1日にかけて,飯舘村,浪
江町,川俣町,富岡町の居住制限区域,避難指示解除準備区域の指定が解除される予定である(丙C216,236,237,301)

3
中間指針等による賠償の枠組み

(1)

中間指針
中間指針の策定

原賠審は,原賠法18条2項2号に基づき,第1回~第13回原賠審における議論(甲A21,丙A11,13~16,21)を経て,4月28日に「東京電力(株)福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針」
(丙A10)
,5月31日に「東京電力(株)福島第一,第二原子力発
電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針」
(丙A12)をそれ
ぞれ策定した後,これらを取り込んだものとして,8月5日,中間指針(東京電力「
株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」
。丙A2)を策定した。

避難指示等対象区域
中間指針は,以下の地域を「避難指示等対象区域」と定義している(丙A2・6
~8頁,丙A3・1頁)


(ア)
(イ)

屋内待避区域

(ウ)

計画的避難区域

(エ)

緊急時避難準備区域

(オ)

特定避難勧奨地点

(カ)

避難区域

一時避難要請区域


避難等対象者
中間指針は,以下の(ア)ないし(ウ)に該当する者を「避難等対象者」として定義
している(丙A2・8~10頁)
。また,屋内待避区域を除く避難指示等対象区域の
滞在者は,中間指針にいう「避難等対象者」には含まれないが,自主賠償基準において,避難者と同等の賠償を受けることとなっている(丙C15,19,20)。
(ア)

本件事故が発生した後に対象区域内から対象区域外に避難を余儀なくされた
者。ただし,6月20日以降に緊急時避難準備区域(特定避難勧奨地点を除く。)か
ら避難した者のうち,子供,妊婦,要介護者,入院患者等以外の者を除く。(イ)

本件事故発生時に対象区域外に居り,同区域内に生活の本拠としての住居が
あるものの引き続き対象区域外滞在を余儀なくされた者
(ウ)

屋内退避区域内で屋内退避を余儀なくされた者
避難等対象者の賠償額の目安

中間指針は,賠償の対象となる期間を3期に分け,賠償額の目安を以下のとおりとしている(丙A2・18~23頁)

(ア)

本件事故から6か月間(第1期)

月額10万円。ただし,避難所,体育館,公民館等における避難生活等を余儀なくされた者については,1人月額12万円。
終期については,避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた損害は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。
中間指針の賠償額は月単位で算定され,基本的には日割りを想定していない(丙
A6・74~76頁)ことから,被告東電は,3月11日から3月31日までを平成23年3月の1か月分とし,第1期の終期を平成23年8月31日としている(丙C14,弁論の全趣旨)

(イ)
a
第1期終了から6か月間(第2期)

第2期の終期は,中間指針でも「但し,警戒区域等が見直される等の場合には,
必要に応じて見直す。
」とされ(丙A2・18頁)
,中間指針第二次追補において,
避難指示区域見直しの時点まで延長されている(丙A4・3頁)

b
c
賠償額の目安は,中間指針においては,月額5万円。
ADRの総括基準(甲A9)及び自主賠償基準(丙C15,20)においては,
月額10万円又は12万円。
(ウ)

第2期終了から終期までの期間(第3期)

中間指針においては,第3期の精神的損害については,今後の本件事故の収束状況等を踏まえ,改めて損害額の算定方法を検討するとされ,中間指針第二次追補(丙A4)において損害額の算定方法が示された。
(2)

中間指針第一次追補
中間指針第一次追補の策定

原賠審は,第13回~第18回原賠審における議論(甲A20,22~25,甲C27,丙A21~29)を経て,12月6日,中間指針第一次追補(東京電力株「
式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)。丙A3)を策定した。」

自主的避難等対象区域
中間指針第一次追補は,以下の地域のうち避難指示等対象区域を除いた区域を,
「自主的避難等対象区域」と定義している(丙A3・2~3頁)

(ア)
県北地域

福島市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,国見町,川俣町,大玉村(イ)

県中地域

郡山市,須賀川市,田村市,鏡石町,天栄村,石川町,玉川村,平田村,浅川町,古殿町,三春町,小野町
(ウ)

相双地域

相馬市,新地町
(エ)

いわき地域

いわき市

自主的避難等対象者
中間指針第一次追補は,以下の者を「自主的避難等対象者」と定義している(丙
A3・4頁)

本件事故発生時に自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があった者
(本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行ったか,自主的避難等対象区域外から同区域外に引き続き滞在したか,当該住居に滞在を続けたか等を問わない。。)

自主的避難等対象者の賠償額の目安
中間指針第一次追補は,自主的避難等対象者の賠償額の目安を以下のとおりとし
ている(丙A3・6~8頁)

(ア)

自主的避難等対象者のうち子供(対象期間において満18歳以下の者。丙A
7・11頁)及び妊婦(対象期間に妊娠していた者)については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として40万円。
平成24年1月以降に関しては,今後,必要に応じて検討することとされ(丙A3・8頁)
,中間指針第二次追補において,
「少なくとも子供及び妊婦については,
個別の事例又は類型毎に,放射線量に関する客観的情報,避難指示区域との近接性等を勘案して,放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には,賠償の対象となる。,」「賠償すべき

損害及びその損害額の算定方法は,原則として第一次追補第2の[損害項目]で示したとおりとする。具体的な損害額については,同追補の趣旨を踏まえ,かつ,当
該損害の内容に応じて,合理的に算定するものとする。
」とされた(丙A4・14
頁)

(イ)

その他の自主的避難等対象者については,本件事故発生当初の時期(概ね本
件事故発生から4月22日頃まで。丙A7・13頁)の損害として8万円。(ウ)

自主的避難者と滞在者の損害額は同額とする。

(3)

中間指針第二次追補
中間指針第二次追補の策定

原賠審は,第19回~第26回原賠審における議論(甲A11,12,19,甲C27,丙A30,31,丙C92)を経て,平成24年3月16日,中間指針第二次追補(東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の「
範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)。丙A4)を策定した。


第2期の終期変更
中間指針第二次追補は,中間指針の「第2期」を避難指示区域見直しの時点まで
延長し,当該時点から終期までの期間を「第3期」とした。

第3期の賠償額の目安
中間指針第二次追補は,第3期における精神的損害の賠償額の目安を以下のとお
りとしている(丙A4・4~10頁)

(ア)
避難指示解除準備区域については,月額10万円。

(イ)

居住制限区域については,月額10万円を目安とした上,概ね2年分をまと
めて240万円の請求をすることができるものとする。ただし,避難指示解除までの期間が長期化した場合は,賠償の対象となる期間に応じて追加する。(ウ)
(エ)
帰還困難区域については,600万円。
旧緊急時避難準備区域については,月額10万円。

「避難指示等の解除から相当期間経過後」は,平成24年8月末までを目安とする。楢葉町の旧緊急時避難準備区域については,同町の避難指示区域の指定解除後
相当期間が経過した時点までとする。
(オ)

特定避難勧奨地点については,月額10万円。
「避難指示等の解除から相当期

間経過後」は,特定避難勧奨地点の解除から3か月間を当面の目安とする。(4)

中間指針第四次追補
中間指針第四次追補の策定

原賠審は,第27回~第39回原賠審における議論(丙A17~20,32,丙C314)を経て,平成25年1月30日に「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第三次追補(農林漁業・食品産業の風評被害に係る損害について)
」を(弁論の全趣旨・被告東京電
力準備書面(6)15頁)
,平成25年12月26日に中間指針第四次追補(東京

電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第四次追補(避難指示の長期化等に係る損害について)。甲B15」
9,丙A5)を,それぞれ策定した。

第3期の賠償額の目安
中間指針第四次追補は,第3期における精神的損害の賠償額の目安を以下のとお
りとしている(丙A5・4~8頁)

(ア)

帰還困難区域,大熊町・双葉町の居住制限区域・避難指示解除準備区域につ
いては,中間指針第二次追補の600万円に1000万円を加算し,上記600万円を月額に換算した場合の将来分(平成26年3月以降)の合計額(ただし,通常の範囲の生活費の増加費用を除く。
)を控除した金額を目安とする。具体的には,第
3期の始期が平成24年6月の場合は,加算額から将来分を控除した後の額は700万円とする。
(イ)
(ウ)

それ以外の地域については,引き続き月額10万円。
「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は,避難指示区
域については1年間を当面の目安とし,個別の事情も踏まえ柔軟に判断するものとする。

(5)

自主賠償基準

被告東電は,以下のとおり,自主賠償基準に基づき,精神的損害の賠償を行っている。

帰還困難区域,大熊町,双葉町旧居住者
①3月11日から平成24年5月まで月額10万円(避難所等加算別途。平成2
3年3月分は1か月分として計算)の15か月分150万円(丙C14,15),②
平成24年6月から平成29年5月まで5年分600万円(丙C16),③帰還困難
慰謝料700万円(丙C17)の合計1450万円。

居住制限区域,避難指示解除準備区域(旧居住制限区域,旧避難指示解除準備
区域を含み,大熊町,双葉町を除く。
)旧居住者
3月11日から平成30年3月31日まで85か月分850万円(丙C14,15,16,18,67)


旧特定避難勧奨地点(南相馬市)旧居住者
避難の有無を問わず,3月11日から平成27年3月31日まで月額10万円の
49か月分490万円(丙C19,弁論の全趣旨)


旧特定避難勧奨地点(川内村,伊達市)旧居住者
避難の有無を問わず,3月11日から平成25年3月31日まで月額10万円の
25か月分250万円(丙C19,弁論の全趣旨)


旧緊急時避難準備区域旧居住者
避難の有無を問わず,3月11日から平成24年8月31日まで月額10万円の
18か月分180万円。平成24年9月1日時点で高校生以下であった者に対しては,これに加えて平成24年9月から平成25年3月31日まで月額5万円の7か月分35万円を追加賠償(丙C14,15,19,20,144)。

旧一時避難要請区域,旧屋内退避区域旧居住者
避難の有無を問わず,3月11日から9月30日まで,月額10万円の7か月分
70万円(丙C19,20)



自主的避難等対象区域旧居住者
子供及び妊婦に対し,避難の有無を問わず,3月11日から12月31日までの
損害として40万円,平成24年1月1日から8月31日までの損害として8万円。それ以外の者に対し,避難の有無を問わず,3月11日から4月22日頃までの損害として8万円(丙C21,24)


県南地域,宮城県丸森町旧居住者
子供及び妊婦に対し,避難の有無を問わず,3月11日から12月31日までの
損害として20万円(丙C22~25)

4
低線量被曝に関する知見等

(1)

低線量被曝に関する科学的知見

放射線の人体に対する影響には,ある限界線量(しきい値)を超えると初めて影響が現れる確定的影響と,受ける線量に応じて影響の出る確率が高まる確率的影響とがある。急性障害,白血球減少,白内障などは確定的影響とされ,100mSv以下の領域では確定的影響は生じないとされている。
がんの発生は確率的影響とされ,100mSvを超える領域では,被曝線量に比例して発がんのリスクが増加することが確認されている。
低線量率の環境で長期間にわたり継続的に合計100mSvを被曝した場合は,短時間に100mSvを被曝した場合よりも健康影響は小さい(線量率効果)と推定されている。これを考慮するための線量・線量率効果係数(DDREF)を2と
して計算すると(ICRPの1990年勧告及び2007年勧告はいずれも線量・線量率効果係数を2としている。,長期間にわたり100mSvを被曝すると,生)
涯のがん死亡のリスクは約0.5%増加すると試算されている。
100mSv以下の被曝線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明すること
は難しいとされている。
100mSv以下の低線量領域でも確率的影響のリスクが直線的に増加するか否
かは争いがあり,低線量ではむしろ身体に益がある(放射線ホルミシス)との説,確率的影響についてもしきい値がある(しきい値あり直線モデル)との説,放射線は複数通らないと影響は出ない(低線量では直線よりも影響は出にくい)との説,100mSv以下の領域においてもリスクは直線的に増加する(LNTモデル)との説,長時間の低線量被曝は短時間の高線量被曝よりもむしろ危険である(ペトカウ効果)との説など様々な説が唱えられているが,ICRPをはじめとする国際機関では,LNTモデルを採用し,100mSv以下の領域においても確率的影響のリスクは直線的に増加するものとして放射線防護を図ることとされている。(甲B1の1本文編286~289頁,甲B4・401~406頁,甲B19,3
9,41~48,377,386~390,乙B63,64,67~69,172,206,207,210,219~226,丙B1~8,52,72~74)(2)

ICRPの勧告
1990年勧告

ICRPの1990年勧告(乙B63)は,放射線防護体系として,①放射線被曝を伴うどんな行為も,その行為によって被曝する個人又は社会に対して,それが引き起こす放射線損害を相殺するのに十分な便益を生むのでなければ,採用すべきでない(行為の正当化)
,②ある行為内のどんな特定の線源に関しても,個人線量の大きさ,被曝する人の数,及び,受けることが確かでない被曝の起こる可能性,の3つ全てを,経済的及び社会的要因を考慮に加えたうえ,合理的に達成できる限り
低く(AsLowAsReasonablyAchievable)保つべきである(防護の最適化,ALARAの原則)
,③関連する行為全ての複合の結果生ずる個人の被曝は線量限度に従うべきであり,また潜在被曝の場合にはリスクの何らかの管理に従うべきである(個人線量限度・個人リスク限度)
,という3つの基本原則を勧告している。
職業被曝に関する線量限度は,いかなる1年間にも実効線量は50mSvを超え
るべきでないという付加条件付きで,5年間の平均値が20mSv/y(5年間に100mSv)という実効線量限度を勧告している。

公衆被曝に関する線量限度は1mSv/yとし,特殊な状況においては,5年間にわたる平均が1mSv/yを超えなければ,単一年にこれよりも高い実効線量が許されることもあり得るとしている。

2007年勧告
ICRPの2007年勧告(甲B39,乙B206,丙B8)は,放射線防護の
3つの基本原則(正当化,最適化,線量限度の適用)を引き続き維持し,職業被曝の線量限度,公衆被曝の線量限度についても1990年勧告の基準を維持している。2007年勧告は,被曝状況を①緊急時被曝状況,②現存被曝状況,③計画被曝状況の3つのタイプに分類し,計画被曝状況に対しては線量拘束値を,現存被曝状況及び緊急時被曝状況に対しては参考レベルを,それぞれ設定することを勧告している。
「緊急時被曝状況」とは,ある行為(放射線被曝又はそのリスクの増加を生じさせる活動。例えば,原子力発電所の運転など)を実施中に発生し,至急の対策を要する不測の状況(例えば,原子力発電所事故発生後の状況)である。緊急時被曝状
況に対しては,急性又は年間で20~100mSvの参考レベルを設定すべきとされる。
「参考レベル」とは,緊急時又は現存被曝状況において,それを上回る被曝の発生を許す計画の策定は不適切であると判断され,それより下では防護の最適化を履行すべき線量のレベルであり,参考レベルに選定される値は,考慮されている被曝
状況の一般的な事情によって決まるとされる。
「現存被曝状況」とは,管理についての決定をしなければならない時に既に存在する,緊急事態の後の長期被曝状況を含む被曝状況(例えば,原子力発電所事故後の汚染された土地における生活)である。現存被曝状況に対しては,1~20mSv/yの参考レベルを設定し,個人線量を参考レベルより下に引き下げること
を目的として最適化プロセスを履行すべきであるとされる。
「計画被曝状況」とは,被曝が生じる前に放射線防護を前もって計画することが
でき,被曝の大きさと範囲を合理的に予測できるような状況(例えば,原子力発電所の通常操業中の状況)である。計画被曝状況に対しては,1mSv/y以下の線量拘束値を設定すべきであるとされる。
「線量拘束値」とは,これを超えれば,防護が最適化されているとはいえず,ほとんどいつも対策を取らなければならない線量レベルであるとされる。政府は,少なくとも平成26年以降,福島県内の状況は現存被曝状況に概ね移行しているものとし,参考レベルは設定していないとしている(甲B385)。
(3)

本件事故当時の国内法令の定め

本件事故当時,放射線障害の防止のための基準は,放射線障害防止の技術的基準に関する法律(昭和33年法律第162号。平成24年法律第47号による改正前のもの)により,
「放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とする」との基本方針(3条)の下,文部科学省に置かれた放射線審議会の審議に基づいて決定されていた(6条)


本件事故当時,ICRPの1990年勧告は国内法令に取り入れられていたが(甲B40,376,乙B211)
,2007年勧告の国内法令への取入れは,放射
線審議会において審議中であった(甲A14,甲B378)

本件事故当時,炉規法(平成24年法律第47号による改正前のもの)35条1項の委任に基づく実用炉規則8条により,原子炉設置者は,管理区域,保全区域及
び周辺監視区域を定め,それぞれ立入制限,居住制限等の措置を講じなければならないものとしていた。
「管理区域」とは,炉室,使用済燃料の貯蔵施設,放射性廃棄物の廃棄施設等の場所であって,その場所における外部放射線に係る線量が3か月につき実効線量1.3mSv(5.2mSv/y相当)を超えるおそれのあるものをいう(実用炉
規則1条2項4号,線量限度告示2条1項1号)

「保全区域」とは,原子炉施設の保全のために特に管理を必要とする場所であっ
て,管理区域以外のものをいい(実用炉規則1条2項5号)
,線量基準は設けられて
いない。
「周辺監視区域」とは,管理区域の周辺の区域であつて,当該区域の外側のいかなる場所においてもその場所における線量が実効線量1mSv/y(経済産業大臣が認めた場合には5mSv/y)を超えるおそれのないものをいう(実用炉規則1条2項6号,線量限度告示3条1項1号,2項)

すなわち,実効線量が1mSv/yを超えるおそれがある区域は周辺監視区域として,さらに,5.2mSv/yを超えるおそれのある区域は管理区域として,立入等を厳しく制限されることとなっていた。
また,原子炉設置者は,放射線業務従事者の線量が,5年間につき100mSv,
1年間につき50mSvを超えないようにする措置を講じなければならないとされていた(実用炉規則9条,線量限度告示6条)

実用発電用原子炉以外の他の放射線源を取り扱う場合にも,それぞれの規制法令により,同様に,管理区域を(放射線源によっては保全区域や周辺監視区域も)定め,放射線業務従事者の線量を管理することとされていた。
本件事故当時,公衆被曝限度を直接定める法令は存在しなかったが,上記のとおり,周辺監視区域外の線量が1mSv/y以下となるよう放射線源を管理することが求められていたことからすると,実質的には,1990年勧告の定めるとおり,1mSv/yを超える公衆の被曝は許容されていなかったものということができる
(もっとも,そのことを直接的に規制する法令の規定はなかった。。)
(4)

健康調査等

福島県では,本件事故後,指定医療機関において無料で受診することができる以下の健康調査を行っている。

基本調査
本件事故当時福島県に居住していた者等約205万名を対象に行った,問診票に
よる外部被曝実効線量推計の結果(平成27年12月30日における回答率
27.4%,放射線業務従事経験者を除く線量推計者45万9620名),
99.8%が5mSv未満であり,最大値は25mSv(相双地区旧居住者),平均
値は0.8mSv,県北地区の平均値は1.4mSv,県中地区の平均値は1.0mSv,県南地区の平均値は0.6mSv,会津地区の平均値は0.2mSv,南会津地区の平均値は0.1mSv,相双地区の平均値は0.8mSv,いわき地区の平均値は0.3mSvであった(甲C208の1,甲C209,212,乙B173・151~161頁,丙B15)


甲状腺検査
平成4年4月2日から平成23年4月1日までに県内で出生した約37万名(受
診者約30万名)を対象に,平成23年度から平成25年度までに行った甲状腺先のうほう

行検査(1回目)の結果,A判定(A1:囊胞や結節は認められなかったもの。A2:5.0mm以下の結節や20.0mm以下の囊胞が認められたもの)が29万8182名(99.2%)
,B判定(B:5.1mm以上の結節や20.1mm以上
の囊胞が認められた者)が2293名(0.8%)
,C判定(甲状腺の状態から判断
して,直ちに二次検査を要するもの)が1名(0.0%)であった。B,C判定対象者の二次検査の結果,悪性ないし悪性疑いは116名(5.1%)であった。平成4年4月2日から平成24年4月1日までに県内59市町村で出生した38万1282名を対象に,平成26年度から平成27年度に行った甲状腺本格検査(2回目)の結果(平成28年9月30日までの受診者27万0431名),一次検

査でA判定が26万8209名(99.2%)
,B判定が2222名(0.8%)

C判定が0名(0%)であった。B判定対象者2222名を対象に行った甲状腺二次検査の結果(平成28年9月30日までの受診者1685名,結果確定者1553名)
,A判定が378名(24.3%)
,通常診療(保険診療)を必要とする者が
1175名(75.7%)であり,
「悪性ないし悪性疑い」と判定された者は68名

(4.4%)であった。
平成4年4月2日から平成24年4月1日までに県内59市町村で出生した33
万6609名を対象に,平成28年度から平成29年度に行った甲状腺本格検査(3回目)の結果(平成28年9月30日までの受診者4万9387名,検査結果確定者3万0253名)
,一次検査でA判定が3万0042名(99.3%)
,B判
定が211名(0.7%)
,C判定が0名(0%)であった。B判定対象者211名
の二次検査は,平成28年10月から開始された。
なお,この検査における「囊胞」とは,中に液体がたまった袋状のもので(囊胞内結節・充実部分を含む囊胞を含まない。,細胞がないため,がんに発達すること)
はない。
この検査における「結節」とは,甲状腺の細胞が変化したもの(囊胞内結節・充
実部分を含む囊胞を含む。
)で,良性のものと悪性のもの(がん)があるが,多くは
良性である。
甲状腺がんの90%以上は乳頭がんであるが,乳頭がんは発育が遅く,穏やかな性質で,命に関わることは非常にまれであるとされる。
(甲C208の2,甲C209~212,乙B173・162~176頁,丙C1
79)
このほか,市町村により,独自の甲状腺検査が行われている(甲C214)。

健康診査
旧警戒区域,旧計画的避難区域,旧緊急時避難準備区域が所在する12市町村
(田村市,南相馬市,川俣町,広野町,楢葉町,富岡町,川内村,大熊町,双葉町,浪江町,葛尾村,飯舘村)の全域及び伊達市の旧特定避難勧奨地点が所在する区域の旧居住者並びに基本調査の結果必要と認められた者約21万名を対象に,指定医療機関での集団検診及び個別検診を実施している。
その結果,肥満,耐糖能異常,肝機能異常,高血圧の割合が増加した,などとされる。

(甲C208の3,甲C209,乙B173・178~182頁)エ
こころの健康度・生活習慣に関する調査

旧警戒区域,旧計画的避難区域,旧緊急時避難準備区域が所在する12市町村の全域及び伊達市の旧特定避難勧奨地点が所在する区域の旧居住者約21万名を対象にアンケート調査を行った結果,16歳以上で「気分の落ち込みや不安に関して支援が必要と考えられる人」は,平成23年度で14.6%,平成24年度で11.7%,平成25年度で9.7%等であった(甲C208の4,甲C209,乙B173・183~189頁)


妊産婦に関する調査
年度ごとに,県内で母子健康手帳を交付された者,調査期間内に県外で母子手帳
を交付され,県内で分娩した者にアンケート調査を行い,支援が必要と思われる者には電話やメールによる相談対応等を行っている。
平成23年度の調査結果(平成23年度対象数1万6001名,回答率58.2%)では,早産率は4.75%(全国平均5.7%)
,低出生体重児率は
8.9%(全国平均9.6%)
,先天奇形・先天異常発生率は2.85%(一般的発
生率3~5%)と,全国平均や一般的に報告されているデータとの差はほとんどな
く,平成24~26年度も同様であった。
(甲C208の5,甲C209,乙B173・190~195頁)カ
内部被曝検査
このほか,福島県では,希望者に対し,ホールボディーカウンター(WBC)に
よる内部被曝の検査を行っており(平成23年6月~平成28年11月の検査人数31万2269名)預託実効線量1mSv未満が31万2243名,
(100.0%)
,1mSvが14名(0.0%)
,2mSvが10名(0.0%)

3mSvが2名(0.0%)であった(甲C215,乙B173・197~198頁,丙B16)

このほか,市町村が独自の内部被曝検査を行っている(甲C216,丙C140
の1・2)

(5)

UNSCEARの報告


2013年福島報告書
UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は,平成25年
(2013年)10月25日第68回国際連合総会第4委員会において第60回年次会合の活動報告を行い(丙B17)
,平成26年4月2日,その報告の基盤となっ
ている科学的附属書A「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」
(丙B53。2013年福島報告書)を発表した(丙B54・1
頁)

その内容は,概要以下のとおりである。
(ア)

滞在者の実効線量

避難が行われなかった福島県の市町村(避難指示のあった双葉町,広野町,浪江町,楢葉町,大熊町,富岡町,飯舘村,川俣町,南相馬市,田村市,川内村,葛尾村の12市町村以外の市町村。グループ2)の住民の,本件事故から1年間の実効線量(外部被曝,吸入による内部被曝,経口摂取による内部被曝の合計。自然放射線源によるバックグラウンド線量への上乗せ分)は,成人で1.0~4.3mSv,
10歳児で1.2~5.9mSv,1歳児で2.0~7.5mSvと推定される。グループ3(福島県に隣接する宮城県,群馬県,栃木県,茨城県及び福島県に近い千葉県,岩手県)の住民の本件事故から1年間の実効線量は,成人で0.2~1.4mSv,10歳児で0.2~2.0mSv,1歳児で0.3~2.5mSvと推定される。

(イ)

避難者の実効線量

予防的避難地区(双葉町,大熊町,富岡町,楢葉町,広野町,南相馬市,浪江町,田村市の一部,川内村,葛尾村の一部)から避難した者の本件事故から1年間の実効線量は,成人で1.1~5.7mSv,10歳児で1.3~7.3mSv,1歳児で1.6~9.3mSvと推定される。
計画的避難地区(飯舘村,南相馬市,浪江町,川俣町,葛尾村の一部)から避難した者の本件事故から1年間の実効線量は,成人で4.8~9.3mSv,10歳
児で5.4~10mSv,1歳児で7.1~13mSvと推定される。(ウ)

公衆における健康影響

UNSCEARは,被曝が確定的影響のしきい値を大きく下回っていると理解している。これは,放射線被曝を原因として生じる急性の健康影響(急性放射線症や他の確定的影響)が報告されていないこととも一致している。
精神的な健康の問題と平穏な生活が破壊されたことが,事故後に観察された主要な健康影響を引き起こした。これは,地震,津波,原発事故の多大な影響,及び放射線被曝に対する恐怖や屈辱感への当然の反応の結果であった。公衆においては,うつ症状やPTSD症状などの心理的な影響が観察されており,今後健康に深刻な
影響が出てくる可能性がある。
日本の一般住民における固形がんの基準生涯リスク(事故に起因する放射線被曝がない場合の固形がんの生涯リスク)は通常約35%だが,10mSvの実効線量に被曝した後の固形がんの推定相対リスクは約35.13/35≒1.004であり,放射線被曝によるがんの生涯リスクは識別可能な疾患発生率の上昇につながら
ないかもしれないが,原則として一部のがんと年齢層のリスクが増加した可能性は残る。
推定された甲状腺吸収線量のほとんどは,疫学的な研究で甲状腺がんの過剰な発生率が観測されない範囲内だった。しかし,線量が範囲上限に近い場合は,十分に大きな集団では個人のリスク上昇により放射線被曝による甲状腺がんの発生率が識
別できるほどに上昇する可能性があることが示唆される。線量分布に関する情報が不十分なので,UNSCEARは幼少期及び小児期により高い甲状腺線量を被曝した人について識別可能な程度に甲状腺がんの発生率が上昇する可能性があるかどうか確固たる結論を導くことはできない。
小児白血病のいかなる増加も識別できるとは予想されない。

乳がん発生率の上昇が識別可能なレベルになるとは予測していない。本件事故による胎児被曝が原因で,自然流産や流産,周産期死亡率,先天的な影
響又は認知障害の発生率が上昇するとは予測されていない。リスクのいかなる増加も,小児白血病又は他の小児がんの発生率の識別可能な上昇にはつながらないと予測されている。
(丙B17,52~54)

2015年報告書
UNSCEARは,平成24年10月末までに開示又は公表された情報に基づき
2013年福島報告書を作成した後,その後の知見の進展を踏まえ,平成27年10月頃,
「東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響に関するUNSCEAR2013年報告書刊行後の進展」
(丙B54。2015年報告書)を
発表した。
審査された新たな情報源79編のうち,半数以上が2013年福島報告書の主要な仮定の1つ又は複数を確証するものであり,実質的に2013年福島報告書の主要な知見に影響を及ぼしたり,その主要な仮定に異議を唱えたりするものはなかったが,12編についてはさらなる解析又はさらに質の高い調査で確認することによ
りその可能性があると特定された。

2016年報告書
UNSCEARは,平成28年,2015年報告書以降の知見の進展を踏まえ,
平成28年頃,
「東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響に関するUNSCEAR2013年報告書刊行後の進展
国連科学委員会による今後

の作業計画を指し示す2016年白書」
(乙B254の1・2。2016年報告書)
を発表した。
審査された新たな情報源のうち,大部分が2013年福島報告書の主要な仮定の1つ又は複数を追認するものであり,実質的に2013年福島報告書の主要な知見に影響を及ぼしたり,その主要な仮定に異議を唱えたりするものはなかったが,一
部については,さらなる分析やより質の高い調査での確認が必要であるなどとされた。

(6)

社会心理学的知見
リスク認知の2因子モデル

一般人のリスク認知においては,集団を対象に専門家が行うリスク評価のようにある事象(ハザード)の生じる確率にその事象によって生じる影響被害の程度を掛け合わせて評価している(頻度説)わけではなく,その事象(ハザード)を主観的・直感的に認識してその事象を避けたり受け入れたりしている(主観説)とされる。
一般人のリスク認知に影響する因子は,大きく「恐ろしさ因子」と「未知性因子」に分けられ(リスク認知の2因子モデル)「恐ろしさ因子」の要素としては,,

①制御可能性(そのリスクにさらされているとき,死を免れるように制御できるかどうか)
,②恐ろしさ(冷静に考えて対処できるリスクか,ひどく恐ろしいと感情的な反応を招くリスクか)
,③世界的な惨事(世界的な惨事の脅威となるリスクかどうか)
,④致死的帰結(被害が現実のものとなったとき,その帰結は致死的なものかどうか)
,⑤平等性(リスクと引き換えになるベネフィットは平等に人々に分配される
かどうか)
,⑥カタストロフ(一度に1人が死ぬリスクか,それとも一度に多くの命が奪われるリスクか)
,⑦将来世代への影響(将来世代を脅かすものかどうか),⑧
削減可能性(そのリスクは簡単に削減できるものなのかどうか)
,⑨増大か減少か
(そのリスクは増大しているのか,減少しているのか)
,⑩自発性(人はそのリスク
状況に自発的に入っていくのかどうか)の10要素が,
「未知性因子」の要素として

は,⑪観察可能性(それによる被害の発生プロセスは観察できるかどうか),⑫さら
されていることの理解(リスクにさらされている人が正確にそのことを理解できるかどうか)
,⑬影響の晩発性(それによる死は即時的か,それとも後になってからか)
,⑭新しさ(新しく新奇なリスクか,それとも古くてなじみのあるリスクか),
⑮科学的理解(科学的に理解されているリスクかどうか)
,の5要素があるとされて

いる。
(甲C9,16,52,55,56,71,乙C2,証人中谷内)

原発事故のリスク認知
1987年(昭和62年)までにスロヴィックがアメリカ人を対象に行った調査
によれば,
「原子炉事故」は,恐ろしさ因子,未知性因子とも高いものとされている(甲C9・213頁,甲C52・58頁,証人中谷内40~43頁)。なお,調査の
正確な日時は不明であるが,1979年(昭和54年)のスリーマイルアイランド原発事故の際には,数日以内に原子炉で水素爆発が起きる危険性があるとか,大量の放射性物質が大気中に放出される可能性があるといった憶測を含んだセンセーショナルな報道が周辺住民や世界中の人々の恐怖心を煽り,1986年(昭和61年)のチェルノブイリ原発事故の際も,
「死者数千人!」といった見出しによって原

発事故による壊滅的な被害の記憶を人々に鮮明に焼き付け,原子力に対するリスク認知を高めたとされており(甲C52・143頁)
,このようなスリーマイルアイラ
ンド原発事故,チェルノブイリ原発事故の報道が,恐ろしさ因子を高めた可能性がある。
1991年(平成3年)までに別の研究者が日本人を対象に行った調査によれば,
「原子炉事故」は,恐ろしさ因子は高いが,未知性因子は低い(自動車事故」より「
は高いが,
「鉄道事故」よりも低い)ものとされている(甲C9・212頁,証人中谷内41頁)

本件事故後に,本件事故のリスク認知に関する調査が行われているわけではないが,心理学者である中谷内一也は,本件事故後のリスク認知にとって影響が大きい
のは低線量被曝のリスクであるが,恐ろしさ因子,未知性因子とも高いものとしている(甲C9・214~216頁,甲C52・58~59頁,甲C55・8頁,証人中谷内18~22,54~56頁)

このことは,原告らが被曝した追加被曝線量が客観的にみればそれほど高くなく,健康影響に与えるリスクが小さいとしても,だからといって,原告らの不安が不合
理なものであるとか,およそ賠償に値しない単なる不安感であるとかいうことはできないことを示している。

もっとも,原告らの抱いた不安が社会心理学的に説明が付くとしても,その不安が賠償に値するかどうか,賠償に値するとしてその額が「中間指針等による賠償額」を超えるかどうかはまた別の問題であり,上記各問題が健康被害やそのリスクだけで決まるものでないのと同様,社会心理学的な合理性だけで決まるものでもない。
(7)

ストレス調査等
「震災を踏まえた子育て環境に関する調査研究」

福島県が,平成25年11月から平成26年1月にかけて,福島県に住民票を置く,①18歳未満の子供がいない20~70歳未満の者1800名,②就学前児童を持つ世帯の保護者1800名,③小学校児童を持つ世帯の保護者1800名の合計5400名を対象にアンケート調査を行ったところ(回答者数1805名),震災
による子供への影響に対する心配として,
「放射線による健康被害」を挙げた者が6
1.7%,
「外遊び・自然体験の不足」を挙げた者が57.9%,
「運動不足」を挙
げた者が35.3%,震災体験が子どもの心に与える影響」を挙げた者が「

29.1%,
「放射線に不安を感じることによるストレス」を挙げた者が24.6%(甲C190の2・2-10頁)
,上記のうち,子供のいる世帯の保護者に対するア
ンケートにおいて,子育てで不安を感じることとして「環境汚染や食品の安全性への心配(放射線の影響などを含む)
」を挙げた者が36.2%(甲C190の2・2
-15~2-16頁)等であった。
福島県が,県内の小学5年生1380名,中学2年生1380名,高校2年生5
00名の合計3260名を対象に行ったアンケート調査の結果(回答数1372名)
,震災後,
「不安を感じることが多くなった」者が21.9%(甲C190の3・3-21頁)等であった。
(甲C190の1~3)

「福島子ども健康プロジェクト」
ソンウォンチヨル

中京大学教授成元哲らが組織する「福島子ども健康プロジェクト」が,平成2
5年1月(第1回調査)
,平成26年1月(第2回調査)
,平成27年1月(第3回
調査)
,平成28年1月(第4回調査)に,福島県中通り9市町村(福島市,郡山市,二本松市,伊達市,桑折町,国見町,大玉村,三春町,本宮市)に住民票を置く平成20年度出生児の保護者6191名を対象にアンケート調査方式で第1回調査を行い(回答数2628名)
,その後,第1回調査回答者を対象とした第2回調査(回
答数1605名)
,第2回回答者を対象とした第3回調査(回答数1207名)
,第
3回回答者に第1回回答者のうち第3回未回答者を加えた第4回調査(回答数1015名)を行った。その結果,
「放射能の健康影響についての不安が大きい」に
「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した者は,第1回アンケー,

ト時点で「原発事故直後」を振り返って95.2%,
「事故半年後」を振り返って
91.3%,
「この1ヶ月間」
(平成25年1月回答時点,本件事故約2年後)で
79.5%,平成26年1月時点(約3年後)で63.7%,平成27年1月時点(約4年後)で58.5%,平成28年1月時点(約5年後)で51.4%(甲C57・16頁,甲C191・6頁)等であった。

母親(回答者のうち,母親以外の者,震災時に対象市町村に不在であった者,調査時点で対象市町村に居住していない者を除いた者。
)の精神的健康度をK6(ケス
ラーが一般人口中の精神疾患のスクリーニング尺度として開発した6項目の指標)を用いて評価した結果,精神的に不良であるとされる9点以上の者は,本件事故直後で68.6%,半年後で48.1%,2年後で18.0%(甲C57・18~2
0頁)であり,SQD(ScreeningQuestionnaireforDisasterMentalHealth。12項目からなる災害精神保健に関するスクリーニング質問票)を用いて評価した結果,うつ症状(医学概念と異なり,専らSQDの12項目の回答から判定されたもの)を示した者は,本件事故直後で52.0%,半年後で41.3%,2年後で28.5%(第3回調査回答者中では25.7%)
,3年後で28.5%,4年後で

26.0%であり,PTSD症状(PostTraumaticStressDisorder,心的外傷後ストレス障害。医学概念と異なり,専らSQDの12項目の回答から判定されたもの)
を示した者は,本件事故直後で51.2%,半年後で39.4%,2年後で25.7%(第3回調査回答者中では23.3%)
,3年後で15.5%,4年後で
13.9%(甲C63・87頁,甲C191・9頁。それぞれ2年後の数値は,第1回調査のうち2411名を対象とした甲C63・87頁と,第3回調査回答者1005名を対象とした甲C191・9頁で異なっている。
)等であった。
また,子供の問題行動をSDQ(StrengthsandDifficultiesQuestionnaire。子供の社会性の発達や行動を25項目の質問で評価するための国際的標準の尺度)を用いて評価した結果,
「支援の必要性が高い」児童は,総合得点で,2年後(4歳児,年少)で16.7%,3年後(5歳児,年中)で15.5%,4年後(6歳児,年
長)で14.4%(4~12歳児日本標準値9.5%)「行為」のみでみると,2,
年後で21.9%,3年後で18.8%,4年後で15.6%(日本標準値7.1%)
(甲C191・14頁。2年後の数値は,第1回調査のうち4歳児2159名を対象とした甲C67・2頁と,第3回調査回答者を対象としたと思われる甲C191・14頁で異なっている。
)等であり,子供の「行為」と,母親の「うつ症

状」との間には有意な関連があるとされた。
(甲C46~51,53,57~64,67,68,191,証人成)ウ
いわき市民調査
いわき明星大学の高木竜輔らが,平成26年1月にいわき市平地区,小名浜地区
の681名(対象数1500名,回答数681名)に行った調査の結果,「放射能の
健康影響への不安がある」と回答した者は46.7%等であった(甲C65,証人成②16~17頁)


福島市民調査
まつたにみつる

中京大学の松谷満らが,平成26年3月に福島市民3510名を対象に行った調査の結果(回答数1354名)「放射能の健康影響に対する不安が大きい」と回答,
した者は44.9%等であった(甲C66,証人成②16~17頁)。

子どもストレス調査

福島大学教授筒井雄二らが組織する,福島大学子どもの心のストレスアセスメントチーム(平成26年4月から福島大学災害心理研究所。甲C196・75頁)が,平成23年6月中旬から7月下旬にかけて,福島市,郡山市の小学校(1210名)
,幼稚園・保育園(660名)に通学・通園する合計1870名を対象にアンケート調査を行った結果(回答数1322名)によると,①児童・園児の保護者では,子供が小さいほど放射線に対する不安が強く,放射線に対する知識と情報獲得に熱心である,父親に比べ,母親の方が放射線に対する不安が強い,②児童・園児の保護者では,子供が小さいほど精神的ストレスが強い,父親に比べ,母親の方がストレスが強い,③子供のストレスは,年齢が低いほど強い,④母親のストレスの強さ
と子供のストレスの強さに関連性があるなどとされた(甲C194)。
その後の福島大学災害心理研究所の調査結果によると,福島県で生活している母親の放射線に対する不安や心理的ストレスは,平成23年の震災直後が最も高く,時間経過とともに減弱しつつあるが,福島県以外に居住する母親と比較すると,平成27年1月段階でも不安やストレスが明らかに高い状態が続いており,近年では
不安やストレスの低下が鈍りつつあり,平成26年から平成27年にかけて不安やストレスはほとんど低下していない,3歳児から小学6年生までの子供も,他県と比べて高いストレスが震災直後から現れ,母親と同様,時間経過とともに減弱しつつあるが,他県との差はいまだに大きいなどとされた(甲C195,196)。

NHK/WIMAアンケート
日本放送協会(NHK)仙台放送局と早稲田大学災害復興医療人類学研究所(W
IMA)が,平成27年1~3月に福島県の仮設住宅,みなし仮設住宅居住者1万6686世帯を対象にアンケート調査を行い(回収数2862世帯),対象を5グル
ープに分けて,改訂出来事インパクト尺度(IES-R,ImpactofEventScaleRevised)でストレス度を評価した結果,平均得点(高いほどストレスが高く,25点以上だとPTSDの可能性が高くなる。
)は,①帰還困難・居住制限区域グループ
で25.9点,②避難指示解除準備区域グループで22.9点,③旧緊急時避難準
備区域グループで19.8点,④区域外避難(自主的避難)グループで24.9点,⑤原発事故以外の避難グループで21.1点であり,グループ①と③,①と⑤,③と④の間に有意な差が認められるとされた。
また,この調査では,強制避難者については,科学リテラシーの低い者(放射線と放射能が「同じものである」「まったくわからない」と回答した者)のストレス,
度が高く,科学リテラシーの高い者(違っており明確に区別できる」と回答した「
者)のストレス度が低かったのに対し,自主的避難者においては科学リテラシーの高低とストレス度との関連は見いだせなかった。
(甲C70,201)


放射能に関する福島市民意識調査
福島市が,平成24年5月,平成26年5月に福島市民及び福島市外へ避難して
いる者(第1回調査対象数5500名,第2回調査対象数3500名)にアンケート調査を行った結果(第1回調査回答数2972名,第2回調査回答数1507名)
,本人の外部被曝による健康不安が「大いに不安である」「やや不安である」と,
回答した者は,1年後(第1回調査)で81.1%,3年後(第2回調査)で70.7%,家族の外部被曝による健康不安を感じる者は,1年後で89.4%,3年後で80.5%,本人の内部被曝による健康不安を感じる者は,1年後で83.3%,3年後で70.5%,家族の内部被曝による健康不安を感じる者は,1年後で90.9%,3年後で81.1%等であった(甲C19~21,206,
207)


双葉8か町村災害復興実態調査
福島大学災害復興研究所が,平成23年9~10月に,双葉8町村(浪江町,双
葉町,大熊町,富岡町,楢葉町,広野町,葛尾村,川内村)の全2万8184世帯にアンケート調査を行った結果(回答数1万3576世帯)
,現在の生活困難として
「放射能の影響が心配」と回答した者は57.8%,今後の生活上の困難として,「避難の期間がわからない」と回答した者は57.8%,
「放射能の影響が不安」と

回答した者は47.4%等であった(甲C26)

5
社会的事実等

(1)

水の汚染

本件事故による水源の汚染により,福島市の水道水から,3月16日に放射性ヨウ素177Bq/kg,放射性セシウム58Bq/kgが,3月19日に放射性ヨウ素33Bq/kgが,3月21日に放射性ヨウ素23Bq/kgが,それぞれ検出された。福島県災害対策本部及び厚生労働省健康局水道課は,原子力安全委員会の定める飲料水の暫定指標値である放射性ヨウ素300Bq/kg,放射性セシウム200Bq/kgを下回っており,摂取制限が必要なレベルではないなどとして
いた(甲B1の1本文編315頁,甲C130,139,甲C157資料2,3,5,丙B62)

飯舘村(4月22日に計画的避難区域に指定されるまで,30km圏外には避難指示は出ていなかった。
)の水道水から,3月20日に,暫定指標値を超える放射性
ヨウ素965Bq/kg,3月21日に放射性ヨウ素492Bq/kgが検出され,
3月21日から4月1日まで水道水の摂取が制限された(甲C133,134,甲C157資料6,丙B62)

厚生労働省は,3月21日,水道水の放射性ヨウ素が100Bq/kgを超える場合には乳児による摂取を控えるよう求め(甲C132,甲C157資料6),
100Bq/kgを超える放射性ヨウ素が検出された飯舘村(3月21日から5月
10日まで。965Bq/kg)
,伊達市(3月22日から3月26日まで,3月2
7日から4月1日まで。120Bq/kg)
,川俣町(3月22日から3月25日ま
で。3月17日308Bq/kg,3月18日293Bq/kg,3月21日130Bq/kg)
,郡山市(3月22日から3月25日まで。150Bq/kg)

南相馬市(3月22日から3月30日まで。220Bq/kg)
,田村市(3月22

日から3月23日まで,3月26日から3月28日まで。3月17日348Bq/kg,3月19日161Bq/kg,3月24日107Bq/kg),いわき

市(3月23日から3月31日まで。103Bq/kg)
,茨城県(3月23日から
3月27日まで。188.7Bq/kg)
,千葉県(3月23日から3月27日まで。
130Bq/kg)
,東京都(3月23日から3月24日まで。210Bq/kg)

栃木県(3月25日から3月26日まで。110Bq/kg)の,それぞれ対象水道地域の乳児に対する摂取制限が行われた(甲C133,134,甲C157資料6~9,11,12,丙B62,丙C185,186)
。放射性セシウムが200
Bq/kgを超過して乳児に対する摂取制限が行われたことはなく,また,飯舘村を除き,成人に対する摂取制限が行われたことはない(甲C133)。
厚生労働省は,平成24年4月1日以降,水道水の放射性セシウムの管理目標値
を新たに10Bq/kgと設定し,放射性ヨウ素については,半減期が短く周辺環境においても検出されていないことから,新たな目標を設定する必要はないとした(甲C136)

このように,水道水の汚染は,成人の健康に影響を及ぼすようなレベルではなく,成人に対する摂取制限のなされた飯舘村及び摂取制限の対象となった乳児のいる家
庭を除けば,独立して賠償の対象となるような権利侵害(水質汚濁)とまではいえないにしても,原告らは,人の生活に不可欠な水道水にまで放射能汚染が及んでいることを知り,本件事故による放射線被曝に対する不安をいっそう強めることになった。
(2)

食品の汚染

厚生労働省は,3月17日,原子力安全委員会の定めた暫定規制値(放射性ヨウ素につき,飲料水,牛乳・乳製品につき300Bq/kg,野菜類(根菜,芋類を除く。
)につき2000Bq/kg,放射性セシウムにつき,飲料水,牛乳・乳製品につき200Bq/kg,野菜類,穀類,肉・卵・魚・その他につき500Bq/kg)を上回る食品について食品衛生法6条2号に当たるものとして販売等
を規制することとし,複数の自治体の食品から,暫定規制値を上回る放射能が検出された。

3月20日,福島県の乳牛の原乳から,最大5200Bq/kgの放射性ヨウ素が検出され,福島県は,同日,県内の全酪農家に対し,原乳の出荷自粛を要請した。原災本部は,原災法20条3項に基づき,3月21日,福島県,茨城県,栃木県及び群馬県において産出されたホウレンソウ及びカキナ,福島県において産出された原乳について出荷制限を行い,その後も,多数の品目について出荷制限が行われた。平成28年12月26日時点においても,牛肉等については会津地域を含む全域で出荷が制限され(一定の要件を満たせば出荷は可能である。,青森県,岩手県,)
宮城県,山形県,茨城県においても出荷制限が継続している食品が存在する。このほか,各県において独自の摂取・出荷・収穫等自粛の要請が行われた。
厚生労働省は,平成24年4月1日以降,年間線量の上限を5mSv/yとして設定されていた放射性セシウムの暫定規制値(飲料水,牛乳・乳製品につき200Bq/kg,野菜類,穀類,肉・卵・魚・その他につき500Bq/kg)を,年間線量の上限を1mSv/yとした基準値(飲料水につき10Bq/kg,牛乳につき50Bq/kg,一般食品につき100Bq/kg,乳児用食品につき50
Bq/kg)に改定した。
米については,放射性セシウム濃度に応じて,作付けの制限が行われた。本件事故後に検査対象自治体(青森県,岩手県,秋田県,宮城県,山形県,福島県,茨城県,栃木県,群馬県,千葉県,埼玉県,東京都,神奈川県,新潟県,山梨県,長野県,静岡県)から出荷された食品については,地方自治体により放射性物
質検査が行われ,暫定規制値を超えて汚染された食品が流通しないための措置が講じられている。
(甲B1の1本文編310~320頁,甲B1の2本文編260~267頁,甲B52の12・13・15,甲C137~139,141~155,157,158,乙B173・65~126頁,丙B56~61,丙C35,191~198(枝番
を含む。,丙C129,133,134,149,187~189,199~20)
1,丙C240の1・2,丙C264)

これら食品や農作物の汚染により,農業や畜産業を生業としていた原告らは大きな打撃を被り,それ以外の原告らも,これまで福島県内の豊かな自然から享受してきた果樹,農作物,きのこ,山菜,川魚,野生鳥獣などの自家消費ができなくなった。
(3)

海の汚染

本件事故により,福島県沖及び周辺海域が放射性物質により汚染され,多くの海産物も出荷制限を受けることとなった(甲C154,157,159)。
本件事故により,福島県内の全ての沿岸漁業,底引き網漁業は3月12日以降の操業を自粛し(甲C164・3頁)
,この操業自粛は本件口頭弁論終結時現在も継続
している(甲C164~168,弁論の全趣旨)

平成24年6月から,放射能が基準値以下であったミズダコ,ヤナギダコ,シライトマキバイについて,福島第一原発から20km圏内(以下,
「圏内」
「圏外」と
あるのは全て福島第一原発からの距離を示す。
)を除く福島県沖で試験操業が実施さ
れ,その後,少しずつ試験操業対象の魚種は増えていったが,平成29年2月8日
時点で97魚種であり(本件事故前に福島県相馬市に所在する相馬原釜漁港に水揚げされていた魚種は約120~170魚種であった。,その漁業規模も本件事故前)
の規模にはるかに及ばない現状にある(甲C165~170,甲T1の1の2,丙C204,原告T-1)

これにより,漁業や海産物販売を生業としていた原告らは大きな打撃を被り,そ
れ以外の原告らも,これまで福島県内の豊かな漁場から享受してきた魚介類を従前のように食べることができなくなった。
(4)

教育施設の汚染

福島県は,4月5日から4月7日までに,20km圏外の福島県内1648(甲C175資料5)の小中学校,幼稚園,保育園等の空間線量率を調査し,福島市,本宮市,二本松市,伊達市,郡山市,相馬市の52校で3.7μSv/h(19.3mSv/y相当)以上の空間線量率(地上1m)が計測された(甲C8
5,171,172,174,175。なお,計画的避難区域指定(4月22日)前の浪江町で最大23.0μSv/h(120.8mSv/y相当),飯舘村で最大
14.0μSv/h(73.5mSv/y相当)の空間線量率が計測されているが,これらの施設は使用されないということであった。甲C85,甲C157資料20,甲C174,丙B24の1)

文部科学省は,4月14日に,4月5日~4月7日の調査で3.7μSv/h以上であった52校を対象に再調査を実施し,福島市,郡山市,伊達市の13校で3.8μSv/h(20mSv/y相当)の空間線量率(地上1m)が計測された(甲C171,172,175)


文部科学省は,4月19日,
「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における
暫定的考え方について」
(丙B11)を発出し,再調査により校庭等で3.8
μSv/h(幼稚園,小学校,特別支援学校については50cm高さ,中学校については1m高さ)以上の空間線量率が測定された学校については,当面,校庭等での活動を1日当たり1時間程度にするなど,学校内外での屋外活動をなるべく制限
することが適当である,3.8μSv/h未満の空間線量率が測定された学校については,校舎・校庭等を平常どおり利用して差し支えない,などとし,保育所等(認可外保育施設を含む。
)を管轄する厚生労働省も,同日,同旨の通知を発出した
(甲B1の1本文編320~322頁,甲B1の2本文編267~269,386~388頁,甲C86,丙B11)


これに基づき,上記13校につき屋外活動の制限が行われ,他の教育施設においても,それぞれの自治体や施設運営主体による独自の措置として,屋外活動の制限などの被曝回避措置が取られた(甲C89~91,175,179,185~187,丙C228,229,原告T-867,原告T-3166,中通り検証の結果)


文部科学省は,5月27日,
「福島県内における児童生徒等が学校等において受け
る線量低減に向けた当面の対応について」
(甲B381)を発出し,平成23年度,

学校において児童生徒等が受ける線量について,当面,1mSv/y以下を目指す,校庭等の空間線量率が1μSv/h以上の学校について,設置者に対し放射線量の低減策を講じるための財政的支援を実施する,などとし,6月20日には,福島県外においても,校庭等の空間線量率が1μSv/h以上の学校には福島県内と同様に財政的支援を実施することとした(甲C171,172)

その頃から平成23年8月頃にかけて,各自治体において校庭等の除染が行われた(例えば,福島市では,空間線量率が3.8μSv/h以上であった26施設の除染を平成23年6月末までに,市立小中学校全72校の除染を平成23年8月末までに実施した。丙C122の5~8)
。その結果,5月12日以降,3.8

μSv/h以上の空間線量率が計測された教育施設はなく,8月25日の測定の最大値は0.8μSv/hであった(甲B1の1本文編322~323頁)。
文部科学省は,8月26日,
「福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について
(通知)(甲C177)を発出し,夏季休業終了後,学校において児童生徒等が受」
ける線量については原則1mSv/y以下とし,これを達成するため,校庭等の空
間線量率については,児童生徒等の行動パターンを考慮し,1μSv/h未満を目安とする,学校内において比較的線量が高いと考えられる場所については,校内を測定して当該場所を特定し,除染したり,除染されるまでの間近づかないように措置することが重要と考えられる,などとした。
これら本件事故に由来する放射性物質による教育施設の汚染により,福島県やそ
の周辺県内の教育施設に通学していた原告らは,成人に比して放射線感受性が強いとされる子供として放射線被曝に対する不安を感じ,また,自由な外遊びができなくなるなど,本件事故前に比して学習環境,生育環境を制限された。(5)

除染

除染特措法に基づき,除染特別地域(避難指示区域が指定されている。)の除染は
被告国が(25条,30条)
,汚染状況重点調査地域(その地域及びその周辺の地域
において検出された放射線量等からみて,その地域内の事故由来放射性物質による
環境の汚染状態が「汚染廃棄物対策地域の指定の要件等を定める省令」(平成23年
環境省令第34号)4条で定める0.23μSv/h未満であるという要件に適合しない,又はそのおそれが著しいと認められ,汚染の状況について重点的に調査測定をすることが必要な地域。福島県に加え,岩手県,宮城県,茨城県,栃木県,群馬県,埼玉県,千葉県を含めた104市町村が指定され,平成27年9月までに5市町村の指定が解除されている。
)の除染は市町村が(32条,35条,38条)

それぞれ行うこととされ,それぞれの実施主体の定めた除染実施計画に基づき,除染が実施されてきた。
しちかしゆくまち

宮城県では,白石市,角田市,栗原市,七ヶ宿町,大河原町,丸森町,亘理町,山元町の8市町が汚染状況重点調査地域に指定され,石巻市が汚染状況重点調査地域の指定を解除されている。
福島県は,福島市,郡山市,いわき市,白河市,須賀川市,相馬市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,国見町,大玉村,鏡石町,天栄村,会津坂下町,湯川村,会津美里町,西郷村,泉崎村,中島村,矢吹町,棚倉町,鮫川村,石川町,玉川村,
平田村,浅川町,古殿町,三春町,小野町,広野町,新地町,田村市,南相馬市,川俣町,川内村の36市町村が汚染状況重点調査地域に指定され,昭和村,三島町,矢祭町,塙町,柳津町が汚染状況重点調査地域の指定を解除されている。りゆうがさきし

茨城県は,日立市,土浦市,龍ケ崎市,常総市,常陸太田市,高萩市,北茨城市,取手市,牛久市,つくば市,ひたちなか市,鹿嶋市,守谷市,稲敷市,つくばみらい市,東海村,美浦村,阿見町,利根町の19市町村が汚染状況重点調査地域に指定され,鉾田市が汚染状況重点調査地域の指定を解除されている。栃木県は,鹿沼市,日光市,大田原市,矢板市,那須塩原市,塩谷町,那須町の7市町が汚染状況重点調査地域に指定され,佐野市が汚染状況重点調査地域の指定を解除されている。

(甲C122,123の1~3,124,221,乙B173・142~144頁,丙B25,36,丙B37の1~10,丙C48,74,78,80,87,93,
96,101,103,104,106,169,173,181,208~210,丙C214の1・2,丙C246,262,264,285,292)これら除染特措法に基づき実施した除染の費用は,原子力損害として,実施主体から,あるいは,復興予算として被告国が負担した後に被告国から,被告東電に求償される(除染特措法44条,45条。丙C162・23頁)

なお,除染の合理性と平穏生活権侵害の成否とは別個の問題であるから,旧居住地が汚染状況重点調査地域として除染特措法による除染の対象となっており,市町村の負担した除染費用が原子力損害となるからといって,当然に,そこから避難し,又はそこに滞在する原告らに賠償に値する精神的損害が発生していることになるも
のではない。
(6)

避難及び帰還の状況

福島県の推計によれば,3月15日時点で,福島県内からの避難者総数(強制避難者,自主的避難者の双方を含み,県内への避難,県外への避難の双方を含むが,自主的避難者数は主に県内避難所へ避難した人数。
)は10万2648名,うち避難
指示等対象区域からの強制避難者が6万2392名,福島県内の避難指示等対象区域外からの自主的避難者(ここでは本件地震・本件津波による避難者を含む。)が4
万0256名(39.1%)であった(甲C27,丙A23,丙C92)。
3月15日時点で,人口に占める自主的避難者の割合が高かったのは,相馬市の11.8%(4457名)
,国見町の9.8%(986名)
,いわき市の4.5%

(1万5377名)等であり,自主的避難者の人数が多かったのは,いわき市の1万5377名(人口比4.5%)
,郡山市の5068名(人口比1.5%)
,福島市
の3234名(人口比1.1%)等であった(甲C27,丙C92)。
自主的避難者の数は,3月15日から4月22日にかけてはいったん減少を示したものの,その後また増加に転じ,9月22日時点で最大5万0327名であった
(甲C27,丙A26,丙C92)

福島県内からの避難者総数は,平成24年5月の16万4865名をピークとし
て,その後減少を続け,平成28年11月時点で8万4289名となっている(丙C264・3頁)

平成28年10月24日時点で,福島県からの避難者総数は約8万6000名,平成28年7月12日時点の強制避難者が約5万7000名であるから(丙C262・18頁)
,福島県内からの自主的避難者は差し引き約2万9000名程度となる。避難指示が解除された旧避難指示等対象区域については,順次,帰還者の受入れが進んでいるが,いまだ多数の者が引き続き避難を継続している。ひろのまち

旧緊急時避難準備区域(9月30日解除)であった広野町では,3月11日時点での人口5490名に対して,平成29年1月5日時点での帰還者は2897名(52.8%)である(丙C255)

村の一部が旧居住制限区域(平成26年10月1日避難指示解除準備区域に再編,平成28年6月14日解除)
,旧避難指示解除準備区域(平成26年10月1日解
かわうちむら

除)
,大半が旧緊急時避難準備区域(9月30日解除)であった川内村では,3月11日時点での人口3038名に対して,平成29年1月1日時点での帰還者は1878名(61.8%)である(丙C258)

市の一部が旧避難指示解除準備区域(平成26年4月1日解除)
,一部が旧緊急時
避難準備区域(9月30日解除)
,その余は自主的避難等対象区域であった田村市で
は,3月11日時点での人口4万1662名(うち旧避難指示解除準備区域人口380名,旧緊急時避難準備区域人口4117名)に対して,平成28年12月31
日時点での避難者は874名(人口比2%)である(丙C259)。
市の一部が帰還困難区域,一部が旧居住制限区域,旧避難指示解除準備区域(平成28年7月12日解除)
,一部が旧緊急時避難準備区域(9月30日解除)
,その
余が旧一時避難要請区域(4月22日解除)であった南相馬市では,3月11日時点での人口7万1561名(小高区1万2842名,原町区4万7116名,鹿島
区1万1603名)に対し,平成29年3月2日時点の居住者は5万6512名(小高区1198名(帰還率9.3%。帰還困難区域旧居住者含む。,原町区4万)

3120名(帰還率91.5%。小高区などからの避難者受入れ等を含む。,鹿島)
区1万2194名(帰還率105.1%。小高区,原町区などからの避難者受入れ等を含む。)である(甲C235,236,丙C260,261))

ならはまち

町の大半が旧避難指示解除準備区域(平成27年9月5日解除)であった楢葉町では,3月11日時点での人口8011名に対して,平成29年1月4日時点での帰還者は767名(帰還率9.6%)である(甲C232,233,丙C257)。
村の一部が帰還困難区域,一部が旧居住制限区域(平成28年6月12日解除),
かつらおむら

大半が旧避難指示解除準備区域(平成28年6月12日解除)であった葛尾村では,3月11日時点での人口1567名に対して,平成28年12月1日時点での帰還者は102名(帰還率6.5%)である(甲C234)

6
旧居住地が帰還困難区域,大熊町又は双葉町である原告らについて
(1)

帰還困難区域の概要

帰還困難区域は,旧避難区域及び旧計画的避難区域のうち,長期間,具体的には5年間を経過してもなお,年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある,平成23年12月26日時点で年間積算線量が50mSv超の地域であり(丙C1いいたてむら

3・11頁)
,南相馬市の一部(平成24年4月16日再編)
,飯舘村の一部(平成
おおくままち

24年7月17日再編)
,大熊町の半分以上(平成24年12月10日再編)

かつらおむら

とみおかまち

葛尾村の一部(平成25年3月22日再編)
,富岡町の一部(平成25年3月25日
なみえまち

ふたばまち

再編)
,浪江町の半分以上(平成25年4月1日再編)
,双葉町の大半(平成25年
5月28日再編)が指定されている(丙C28,29)

(2)

帰還困難区域旧居住者の受けた被害

帰還困難区域を旧居住地とする原告らについて,各原告の受けた被害はそれぞれの状況に応じて様々であるが,概ね,次のような被害を被っていると認められる。ア
居住・移転の自由の制限
帰還困難区域においては,基本的に立入りは禁止され,一時立入りにも様々な制
限がある(丙C13・12頁,丙C34・5頁)


帰還困難区域の大半は旧警戒区域であり,そうでない区域も避難区域又は計画的避難区域であった区域であって,強制避難の対象であった。
原災法20条3項に基づいて指定された避難区域,計画的避難区域,避難指示区域への立入りには罰則はないが,原災法(平成24年法律第47号による改正前のもの)28条2項,災害対策基本法63条1項に基づいて指定された警戒区域への立入りは,10万円以下の罰金又は拘留という刑事罰をもって禁止されていた(災害対策基本法116条2号)

このように,帰還困難区域に生活の本拠を有していた原告らは,罰則の有無にかかわらず,生活の本拠において居住を継続する権利(居住及び移転の自由)を制約
されたものである。

旧居住地の汚染
帰還困難区域は,平成23年12月26日時点において空間線量率が50
mSv/yを超える地域であり,社会システム工学者である沢野伸浩が平成25年11月19日第8次航空機モニタリングの結果を計算処理した結果によれば,平成25年11月19日時点においても,双葉町において最大42.23μSv/h(甲B97,379から逆算し,大地からの自然放射線分0.04μSv/hを減じてから0.19で割ると222.05mSv/y相当。甲B97,379の計算式どおり,
(42.23-0.04)×(8+0.4×16)×365で計算すると221.75mSv/y相当となる。以下,年間追加被曝線量相当値は,0.04
を引いて0.19で割り,小数点以下3桁で四捨五入する簡易な換算方式で表記する。株式会社環境総合研究所による推計では最大39.00μSv/h(205.05mSv/y相当)となっている(甲B400の1・2)。以下,基本
的に航空機モニタリングの結果からの推計値は,沢野による推計値のみを記載する。,浪江町において最大39.96μSv/h(210.11mSv/y相当))


大熊町において最大37.04μSv/h(194.74mSv/y相当)といった,100mSv/yを超える空間線量率が現れている(甲B203別表2)。

このような放射性物質による旧居住地の汚染は,単に旧居住地の土地建物の経済的価値を毀損しているだけでなく,旧居住地への帰還を困難にさせて,帰還困難区域旧居住者に多大な精神的苦痛を与え続けているものというべきである。ウ
日常生活の阻害
そして,帰還困難区域に居住していた原告らは全員が避難を強いられたところ,
自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害された。原告らの中には,未だ仮設住宅等における避難生活を強いられている者もいるほか,新たに住居を構えた原告らにおいても,生活の糧とななりわい

る生業の変更を余儀なくされるなど,避難前と同様の日常生活が回復できているとはいえず,原告らの属性にかかわらず,日常生活の阻害は長期化しているものといえる。

今後の生活の見通しに対する不安,帰還困難による不安
本件事故から6か月が経過した後の平成23年10月1日時点においても,避難
区域・警戒区域(飯舘村及び南相馬市の一部の帰還困難区域においては計画的避難区域)としての指定が継続し,避難指示区域の見直しまで今後の生活の見通しが立たない不安が増大する状況にあり,平成23年12月16日から平成25年8月8日までの間に避難指示区域が見直された後も,帰還困難区域として長期間にわたり帰還が不可能な状況となったことによる不安が継続した。このことは,原告らの被った精神的苦痛が,必ずしも時の経過とともに低減されたわけではないことを示
している。

生活費の増加
また,帰還困難区域からの避難者は,避難生活によって多かれ少なかれ生活費が
増加したと思われるところ,個別に相当因果関係の立証が可能なものについては積極損害として別途賠償されるべきであるが,個別に相当因果関係の立証が困難なものも多数発生していると認められ,そのことは慰謝料の増額要素として考慮するのが相当である。

(3)

帰還困難区域旧居住者の損害
損害額

上記(2)のとおり,帰還困難区域を旧居住地とする原告らは,生活の本拠であった旧居住地から転居し,長期にわたる不自由な避難生活を余儀なくされるとともに,旧居住地への帰還が困難なまま,かつ,将来にわたる不安を抱えながら生活せざるを得なくなったものであって,これを総合的に評価すれば,まさに平穏生活権を侵害されたものというべきであり,賠償に値する精神的苦痛を被ったものと認められる。
積極損害(避難費用など)
,消極損害(営業損害など)
,生命・身体的損害(本件

事故に起因する疾病・自死による損害など)
,財物損害(不動産の損害など)は別途
賠償されること,生活費増加分は慰謝料の増額要素として考慮することを前提に,平穏生活権侵害に基づく慰謝料の額を算定すると,その額は,1か月につき10万円と評価するのが相当である。
「中間指針等による賠償額」も同様に月額10万円と
されている(丙A2・18,21頁,丙C67)



原告らの主張について
原告らは,政府による避難等の指示により避難を余儀なくされた避難者原告にお
いては,本件事故直後における避難生活の過酷さや,避難により「生存と人格形成の基盤」から切り離された結果として,ふるさとの自然やその中での生活を享受でなりわい

きなくなったこと,生きがいとしてきた生業を奪われたこと,家族・親族の離散や,近隣住民等との人間関係の崩壊など,
「日常の幸福追求による自己実現」の機会を奪
われるという損害を被ったものであり,その損害は,
「中間指針等による賠償額」を
控除しても月額5万円を下回るものではない,などと主張する(原告ら最終準備書面(第4分冊)142~161頁,原告ら主張要旨95頁)

当裁判所は,原告らの主張する上記事情の存在を否定するものではないが,帰還
困難区域旧居住者の共通損害として認められるべき賠償額は上記のとおり認定するのが相当であり,これを超える損害額を認定することはできない。

被告東電の過失について
被告東電に過失がある一方で,故意があったとは認められず,過失の程度も重過
失までは認められないことは,上記第4の3で判示したとおりであるが,被告東電にそのような過失があることを考慮しても,上記損害額は左右されない。(4)

損害賠償の終期
包括賠償によって継続的賠償を終了させ得ること

帰還困難区域の旧居住者が継続的に精神的苦痛を被っていることは上記のとおりであるが,帰還困難区域への帰還は相当長期間にわたって困難であり,社会通念上帰還不能となったものといって差し支えないと認められるところ,このような場合に,帰還可能となるまで精神的損害の賠償を長期にわたって継続させるよりも,社会通念上帰還が不能となった後の一定の時期をもって,平穏生活権侵害による継続的損害の賠償は終了し,帰還不能による損害に包括評価して定額の賠償を行うことによることも許されるというべきである(このことは,交通事故による入通院慰謝料が症状固定により後遺症慰謝料として包括評価され,以後,入通院が継続しても
別の損害とは評価されないことと対比することもできる。。


中間指針等による継続的賠償の終期
中間指針第四次追補は,
「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間

にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」の一括賠償として,帰還困難区域からの避難者に対し,中間指針第二次追補の一人600万円に一人1000万円を加算し,上記600万円を月額に換算した場合の将来分(平成26年3月以降)の合計額(ただし,通常の範囲の生活費の増加費用を除く。
)を控除した金額を賠償することとしている(丙A5・4~7頁)。
平成26年3月以降の将来分を控除するということは,中間指針第二次追補の600万円は60か月分の日常生活阻害慰謝料の一括払いであり,その日常生活阻害
慰謝料の発生は平成26年3月1日から1000万円の帰還困難慰謝料として包括評価されるものとみているものといえるから,平成23年3月から平成26年2月
までの日常生活阻害慰謝料(36か月分360万円)は本件訴訟でいう平穏生活権侵害に対応し,帰還困難慰謝料1000万円は本件訴訟でいう「ふるさと喪失」損害に対応するものとみて,それぞれその「中間指針等による賠償額」を超える損害が発生しているか判断するのが相当である。
自主賠償基準では一括賠償金額を700万円としている(丙C17)が,これは,
上記に述べたところと対比すると,中間指針第四次追補の1000万円から,第2期の始期を平成24年6月とした場合の600万円を月額に換算した場合の将来分(通常の範囲の生活費の増額分を除く。
)として300万円を控除した額と解される。
したがって,損害費目との対応としては,日常生活阻害慰謝料を平成26年2月分まで360万円,帰還困難慰謝料を1000万円,生活費増加分を90万円としているものとして,平穏生活権侵害では360万円を超える損害が,「ふるさと喪失」
では1000万円を超える損害が生じているかを判断することとする。ウ
継続的賠償の終期は平成26年4月とすべきこと
前記イのとおり,中間指針第四次追補は平成26年2月を継続的賠償の終期とし
ていると解されるところ,その根拠は,中間指針第四次追補策定後,被害者の被告東電に対する損害賠償請求が可能になると見込まれる時期を平成26年3月とみて,それ以降の日常生活阻害慰謝料を帰還困難慰謝料に包括評価することが可能であるとみたことによるものと認められ(丙A5・6頁,丙A8・6頁,丙A20・4頁)
,第3期の始期(避難指示見直しの時点)や中間指針第四次追補の作成時(平成
25年12月)ではなく平成26年2月としたことに,それ以外の理由(例えば,本件事故から3年という期間に特別の意味を込めたといった事情)は見いだし難い。ところで,帰還困難区域旧居住者は,避難指示見直しによって旧居住地が帰還困難区域に指定された時点(南相馬市につき平成24年4月16日,飯舘村につき平成24年7月17日,大熊町につき平成24年12月10日,葛尾村につき平成2
5年3月22日,富岡町につき平成25年3月25日,浪江町につき平成25年4月1日,双葉町につき平成25年5月28日)で,旧居住地への帰還が相当長期に
わたって困難となったことを確定的に認識したものと認められるが,上記のとおり避難指示見直しの時期は市町村によって異なっていた上,中間指針等による日常生活阻害慰謝料の賠償も継続しており,仮に,一括賠償を被告東電に請求していたとしても,被告東電としてこれに応じていたとは考えられないことからすると,個別の避難指示見直しの時期をもって継続的賠償の終期とするのは相当でない。中間指針第四次追補が出された後,請求者において請求可能な金額を具体的に認識でき,被告東電に対する損害賠償請求が実質的に可能な状態になった段階で,平穏生活権侵害による継続的賠償を確定的,不可逆的損害(ふるさと喪失」損害)に「
包括評価させて終了させることが可能になるというべきである。

そして,実際に被告東電が中間指針第四次追補に対応する自主賠償基準(丙C18)を策定し,従前,自主賠償基準において,中間指針上の「第2期」の始期にかかわらず,帰還困難区域旧居住者に対する包括賠償を平成24年6月1日から平成29年5月31日までの60か月分600万円としていたこと(丙A16)に対応して,帰還困難慰謝料も,中間指針上の「第2期」の始期にかかわらず,中間指針
第四次追補の例示する700万円に統一して支払うことを明らかにしたのは,平成26年3月26日であり,請求書類発送の受付を開始したのは平成26年4月14日であった(丙C18)

そうすると,帰還困難区域旧居住者の平穏生活権侵害による継続的損害を確定的,不可逆的損害(ふるさと喪失」損害)としての包括評価を可能とする時期は,確定「

的損害として請求可能な金額を具体的に認識でき,被告東電に対する損害賠償請求が実質的に可能な状態となった平成26年4月14日以降とみるのが相当である。したがって,平成26年3~4月分については月額10万円(合計20万円)の平穏生活権侵害による精神的損害の賠償を認めるのが相当である。その結果,「中間
指針等による賠償額」を超える損害として20万円を認める。

(5)

大熊町・双葉町の居住制限区域・避難指示解除準備区域の取扱い

大熊町及び双葉町は,町の大半(人口の96%の居住していた区域)が帰還困難
区域であって,人口,主要インフラ及び生活関連サービスの拠点が帰還困難区域に集中しており,居住制限区域又は避難指示解除準備区域であっても,帰還困難区域の避難指示が解除されない限り住民の帰還は困難であるため,中間指針第四次追補において帰還困難区域と同様に扱われており(丙A5・4~6頁,丙A8・5頁),
自主賠償基準においても同様である(丙C17)

原告H-122の旧居住地は,双葉町大字中浜の避難指示解除準備区域である(甲H122の1,丙C29)

大熊町の居住制限区域・避難指示解除準備区域を旧居住地とする原告はいない。双葉町は大半が帰還困難区域であって,避難指示解除準備区域の放射線量が低下
したとしても,主要インフラや生活関連サービスが復旧するまで帰還は困難であると認められるから(甲C35,丙C69)
,帰還困難区域と同様に扱うのが相当であ
り,帰還困難区域と同様,平成26年4月までは月額10万円の平穏生活権侵害による精神的損害の発生を認め,その後は確定的,不可逆的損害(ふるさと喪失」損「
害)として包括評価されるものと認めるのが相当である。

したがって,帰還困難区域旧居住者と同様,
「中間指針等による賠償額」を超える
損害として20万円を認める。
(6)

原告H-201について

原告H-201の旧居住地について,原告らは,浪江町の帰還困難区域であると主張するのに対し,被告東電は,南相馬市原町区の旧緊急時避難準備区域であると主張している(被告東京電力準備書面(33)。

同原告の住民票所在地は浪江町であり(甲H201の2)
,その陳述書(甲H20
1の1)でも,旧居住地は浪江町であり(1頁)「自宅又は家族が一軒家を所有」,
であり(4頁。南相馬市の住所はアパートの一室である。,旧「警戒区域」)
,現「帰
還困難区域」である(6頁)「自宅は井戸水だった」

(11頁)「帰還困難区域なの


で,帰れないんだろうと思う。不安」
(19頁)と記載している。
これらを総合すると,同原告の旧居住地は浪江町の帰還困難区域であったと認め
るのが相当である。
同原告が,旧居住地を南相馬市として賠償請求をし(丙H201の1),平成11
年から南相馬市のアパートを賃借し(丙H201の2)
,本件事故前の平成23年1
~2月時点で,南相馬市のアパートの電話料金,ガス料金,電気料金を支払い,その請求書を南相馬市のアパートで受領していたこと(丙H201の3~5)は,「仕
事の都合で南相馬市でアパートを借り,実家のある浪江町と行き来して生活していた」
(平成29年3月21日第23回口頭弁論調書)とすれば,生活の本拠が浪江町にあったことと矛盾するものではなく,上記認定を左右するものではない。したがって,同原告の旧居住地は,浪江町の帰還困難区域と認め,「中間指針等に

よる賠償額」を超える損害として20万円を認める。
(7)

原告兼亡T-1370承継人T-1369について

亡T-1370の旧居住地は富岡町の帰還困難区域であったが,亡T-1370は平成25年5月16日死亡しているため,平成26年3~4月分の「中間指針等による賠償額」を超える損害は発生していない。
したがって,原告兼亡T-1370承継人T-1369については,「中間指針等

による賠償額」を超える損害として,原告T-1369につき生じた20万円のみを認める。
(8)

帰還困難区域旧居住者の損害のまとめ

以上によれば,帰還困難区域及び双葉町を旧居住地とする原告らにつき,平穏生活権侵害による「中間指針等による賠償額」を超える損害として20万円を認める。7
旧居住地が居住制限区域(大熊町を除く。
)又は旧居住制限区域である原告らに

ついて
(1)

居住制限区域の概要

居住制限区域は,旧避難区域及び旧計画的避難区域のうち,年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり,住民の被曝線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる地域であり,除染や放射性物質の自然減衰などによって,
年間積算線量が20mSv以下であることが確実であることが確認された場合には避難指示解除準備区域に移行することが予定されている(丙C13・10頁)。
本件口頭弁論終結時(平成29年3月21日)現在,飯舘村の半分以上(平成24年7月17日再編,平成29年3月31日解除予定)
,大熊町の一部(平成24年
12月10日再編。自主賠償基準では帰還困難区域と同様に扱う。,富岡町の一部)
(平成25年3月25日再編,平成29年4月1日解除予定)
,浪江町の一部(平成
25年4月1日再編。平成29年3月31日解除予定)
,川俣町の一部(平成25年
8月8日再編,平成29年3月31日解除予定)が指定されている(丙C28,29,159,161~163,216,236,237,301)。

居住制限区域においては,宿泊は禁止されるが,住民の一時帰宅,通過交通,公共目的の立入りなどは可能である(丙C13・10頁,丙C34)。
(2)

居住制限区域指定中の損害

居住制限区域においても,①生活の本拠において居住を継続するという当然の権利(居住及び移転の自由)を制約されていること,②避難生活において正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたこと,③本件事故から6か月が経過した後も,避難指示区域の見直しまで今後の生活の見通しが立たない不安が増大する状況にあり,避難指示区域が見直された後も,いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が継続したこと,④空間線量も居住できるほど低くはないこと,⑤生活費が増加していること,は帰還困難区域と同様又はそれに類するもので
あるから,その精神的苦痛に対する慰謝料も,帰還困難区域と同様,月額10万円と評価するのが相当である。そして,
「中間指針等による賠償額」も同様に月額10
万円とされている(丙A2・18,21頁,丙C67)

そうすると,平成23年3月11日から本件口頭弁論終結日まで,「中間指針等に
よる賠償額」を超える損害は認められない。

(3)

旧居住制限区域の取扱い

葛尾村の一部(平成25年3月22日再編,平成28年6月12日解除),川内村

の一部(平成24年4月1日再編,平成26年10月1日避難指示解除準備区域に再編,平成28年6月14日避難指示解除)
,南相馬市の一部(平成24年4月16
日再編,平成28年7月12日解除)は,居住制限区域に指定されていたが,その指定は解除された(丙C159,160,238,239)

居住制限区域の指定が解除されたとしても,直ちに旧居住制限区域旧居住者の不
安が解消されるわけではなく,相当期間が経過して合理的な不安が解消されるに至るまでは精神的苦痛が継続すると考えられるところ,中間指針は解除後相当期間経過後までは月額10万円の日常生活阻害慰謝料の継続を認め(丙A2・12,14,23頁)
,自主賠償基準(丙C67)は,平成30年3月まで月額10万円の精神的損害の賠償の継続を認めている。
この賠償は少なくとも本件口頭弁論終結時において継続されているところ,居住制限区域指定解除から本件口頭弁論終結時まで,
「中間指針等による賠償額」を超え
る損害は認められない。
(4)

居住制限区域旧居住者の損害のまとめ

以上によれば,居住制限区域(大熊町の居住制限区域を除くが,同区域を旧居住
地とする原告はいない。
)及び旧居住制限区域の旧居住者につき,
「中間指針等によ
る賠償額」を超える損害は認められない。
8
旧居住地が避難指示解除準備区域(大熊町,双葉町を除く。
)又は旧避難指示解

除準備区域である原告らについて
(1)

避難指示解除準備区域の概要

避難指示解除準備区域は,旧避難区域及び旧計画的避難区域のうち,年間積算線量20mSv以下となることが確実であることが確認された地域である。電気,ガス,上下水道,主要交通網,通信など日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスが概ね復旧し,子供の生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗した段階で,県,市町村,住民との十分な協議を踏まえ,避難指示を解除することが予定されている(丙C13・8頁)


本件口頭弁論終結時(平成29年3月21日)現在,飯舘村の一部(平成24年7月17日再編,平成29年3月31日解除予定)
,大熊町の一部(平成24年12
月10日再編。中間指針等では帰還困難区域と同様に扱う。,富岡町の一部(平成)
25年3月25日再編,平成29年4月1日解除予定)
,浪江町の一部(平成25年
4月1日再編,平成29年3月31日解除予定)
,双葉町の一部(平成25年5月2
8日再編。中間指針等では帰還困難区域と同様に扱う。,川俣町の一部(平成25)
年8月8日再編,平成29年3月31日解除予定)が指定されている(丙C28,29,159,161~163,216,236,301)

避難指示解除準備区域においても,宿泊は禁止されるが,住民の一時帰宅,通過
交通,公益目的の立入りなどは可能である(丙C13・8~9頁,丙C34)。
(2)

避難指示解除準備区域指定中の損害

避難指示解除準備区域においても,①生活の本拠において居住を継続するという当然の権利(居住及び移転の自由)を制約されていること,②避難生活において正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたこと,③本件事故から6か月が経過した後も,避難指示区域の見直しまで今後の生活の見通しが立たない不安が増大する状況にあり,避難指示区域が見直された後も,いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が継続したこと,④空間線量率も必ずしも継続的な居住を容認できるほど低くはないこと,⑤生活費が増加していること,は帰還困難区域,居住制限区域と同様又はそれに類するものであるから,その精神的苦痛に対
する慰謝料も,帰還困難区域,居住制限区域と同様,月額10万円と評価するのが相当である。
「中間指針等による賠償額」においても同様に月額10万円とされている(丙A2・18,21頁,丙C67)

そうすると,平成23年3月11日から本件口頭弁論終結日まで,「中間指針等に
よる賠償額」を超える損害は認められない。

(3)

旧避難指示解除準備区域の取扱い

田村市の一部(平成24年4月1日再編,平成26年4月1日解除),川内村の一

部(平成24年4月1日再編,平成26年10月1日解除。居住制限区域から避難指示解除準備区域に再編された区域については旧居住制限区域として扱う。,楢葉)
町の一部(平成24年8月10日再編,平成27年9月5日解除),葛尾村の一部
(平成25年3月22日再編,平成28年6月12日解除)
,南相馬市の一部(平成
24年4月16日再編,平成28年7月12日解除)は,避難指示解除準備区域に指定されていたが,その指定は解除された(丙C28,29,丙C30の1~3,丙C31の1・2,丙C159,160,235,238)

避難指示解除準備区域の指定が解除されたとしても,直ちにこれらの区域を旧居住地としていた原告らの不安が解消されるわけではなく,相当期間が経過して合理
的な不安が解消されるに至るまでは精神的苦痛が継続すると考えられるところ,中間指針は解除後相当期間経過後までは1か月10万円の日常生活阻害慰謝料の継続を認め(丙A2・12,14,23頁)
,自主賠償基準において平成30年3月まで
月額10万円の精神的損害の賠償の継続が認められている(丙C67)。
この賠償は少なくとも本件口頭弁論終結時において継続されているところ,避難
指示解除準備区域指定解除から本件口頭弁論終結時までについても,「中間指針等に
よる賠償額」を超える損害は認められない。
(4)

避難指示解除準備区域旧居住者の損害のまとめ

以上によれば,避難指示解除準備区域(大熊町,双葉町の避難指示解除準備区域を除く。
)及び旧避難指示解除準備区域の旧居住者につき,
「中間指針等による賠償
額」を超える損害は認められない。
9
旧居住地が旧特定避難勧奨地点であった原告らについて

(1)

特定避難勧奨地点の概要

特定避難勧奨地点は,本件事故発生後1年間の積算線量が20mSvを超えると推定される特定の地点であり,住居単位で指定され,避難が強制されるものではないが,その住民に対して注意喚起,自主的な避難の支援・促進を行うこととされ,りようぜんまち

つきだてまち

ほばらまち

じさばら

伊達市霊山町,月舘町,保原町の117地点128世帯,南相馬市鹿島区橲原,原
おおがい

たかのくら

おしがま

町区大原,大谷,高倉,押釜,馬場,片倉の142地点153世帯,川内村下川内の1地点1世帯が指定されていた(丙C10,丙C11の1・2・4~6,丙C27,丙C33の1,丙C298,299)
。伊達市及び川内村の特定避難勧奨地点は
平成24年12月14日に,南相馬市の特定避難勧奨地点は平成26年12月28日に,それぞれ解除された(丙C11の3,丙C33の1,丙C77,300)。
(2)

特定避難勧奨地点指定中の損害

中間指針(丙A2)は,特定避難勧奨地点からの避難者に月額10万円の賠償を認め,自主賠償基準は,避難の有無を問わず同様の賠償を認めている(丙C19,弁論の全趣旨)

特定避難勧奨地点指定中は,これら「中間指針等による賠償額」を超える損害は
認められない。
(3)

特定避難勧奨地点指定解除から3か月後までの損害

中間指針第二次追補は,特定避難勧奨地点からの避難者につき,特定避難勧奨地点指定解除から3か月間は月額10万円の賠償が継続されるものとし(丙A4・9頁)
,自主賠償基準は,避難の有無を問わず同様の賠償を認めている(丙C19,弁論の全趣旨)

この3か月間についても,これら「中間指針等による賠償額」を超える損害は認められない。
(4)


特定避難勧奨地点指定解除後4か月目以降の損害
平成27年4月以降の特定避難勧奨地点の状況

伊達市及び川内村の旧特定避難勧奨地点を旧居住地とする原告は本件訴訟にいない。
原告らのうち,原告H-142,143の旧居住地は南相馬市原町区大原の,原告H-362~365,T-1528,1530(なお,原告T-1529は,特定避難勧奨地点指定中の平成25年11月12日に死亡しているから,平成27年4月以降の損害を判断する必要はない。
)の旧居住地は南相馬市原町区片倉の,それ

ぞれ特定避難勧奨地点であるから,南相馬市の特定避難勧奨地点の指定が解除された平成26年12月から3か月経過後である平成27年4月1日以降につき,賠償すべき損害が認められるか検討する。
福島県が測定した(以下,特に断らない限り,空間線量率の値は福島県の測定によるもの)
,南相馬市原町区片倉に所在する南相馬市馬事公苑の平成27年4月1日の空間線量率は0.17μSv/h(0.68mSv/y相当)
(丙C71の5・6
7頁)であり,追加被曝線量1mSv/y相当値を下回っていた。たかのくら

南相馬市原町区高倉字吹屋峠に所在する高の倉ダム助常観測所の平成27年4月1日の空間線量率は1.33μSv/h(6.79mSv/y相当),原町区馬場字
五台山に所在する鉄山ダムで2.12μSv/h(10.95mSv/y相当),原
町区馬場字滝に所在する横川ダム管理事務所で0.40μSv/h(1.89mSv/y相当)
,原町区高倉字尻掛に所在する高倉ダム(高倉ダム管理事務所)で0.60μSv/h(2.95mSv/y)であるが,非生活圏の山林の除染が未了であること(丙C87)を考えると,非生活圏であるダム付近の空間線量率を
もって生活圏である旧特定避難勧奨地点の状況の参考とすることはできない。平成25年11月19日第8次モニタリング結果から計算した原告H-142,143,362~365,T-1528,1530の旧居住地の空間線量率は0.96~1.03μSv/h(4.84~5.21mSv/y相当)であった(甲B203別表1の8,21頁)が,特定避難勧奨地点指定中の数値であるから,
平成27年4月1日以降の同原告ら旧居住地の状況の参考になるとはいえない。南相馬市原町区の公共サービス,生活関連サービスは,平成27年4月1日までには概ね復旧していたものと認められる(丙C42,64,81~87,丙C125の1~3,丙C175,223~229,246,260,261)。

平成27年4月以降の南相馬市の旧特定避難勧奨地点旧居住者の損害上記アの事情を総合すると,南相馬市の旧特定避難勧奨地点の空間線量率は,平
成27年4月以降は十分に低くなっていたものと認められ,公共サービス,生活関
連サービスも概ね復旧し,生活に大きな支障はない状況に至っていたものと認められるから,南相馬市の旧特定避難勧奨地点の旧居住者について,平成27年4月1日以降,賠償すべき精神的損害が発生しているとは認められない。(5)
旧特定避難勧奨地点旧居住者の損害のまとめ

以上によれば,旧特定避難勧奨地点旧居住者につき,
「中間指針等による賠償額」
を超える損害があるとは認められない。
10
(1)

旧居住地が旧緊急時避難準備区域であった原告らについて
緊急時避難準備区域の概要

緊急時避難準備区域は,避難が強制されたものではないが,常に緊急時に避難のための立退き又は屋内待避が可能な準備を行うこととされ,自主的な避難が求められていた区域であり,広野町,楢葉町,川内村,田村市及び南相馬市の各一部が指定されていた(丙C8,27,68)が,平成23年9月30日に一括して解除された(丙C9)

(2)

緊急時避難準備区域指定中の損害

旧緊急時避難準備区域から現に避難した原告らについては,帰還困難区域と同様に正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたものであり,旧緊急時避難準備区域に滞在を続けた原告らについても,今後の本件事故の進展に対する不安,いつ避難を強いられるか分からない不安,生活による被曝の不安等を感じたものと認められ,その精神的苦痛は,避難者であるか滞在者であるかを問わず,
1か月10万円と評価するのが相当である。避難者については中間指針(丙A2)において,滞在者については自主賠償基準(丙C19,20,88)において同様であり,
「中間指針等による賠償額」を超える損害は認められない。
(3)

緊急時避難準備区域指定解除から11か月後までの損害

緊急時避難準備区域の指定が解除された後も,直ちにこれらの区域を旧居住地としていた原告らの不安や生活の支障が解消されるわけではなく,相当期間が経過して合理的な不安や生活の支障が解消されるに至るまでは精神的苦痛が継続すると考
えられるところ,中間指針第二次追補は解除の11か月後である平成24年8月31日まで(楢葉町の旧緊急時避難準備区域については,楢葉町の避難指示解除後相当期間経過後まで)1か月10万円(累計180万円)の日常生活阻害慰謝料の継続を認め(丙A4・7~8頁)
,自主賠償基準においても同様である(丙C19)

さらに,自主賠償基準では,平成24年9月1日時点において高校生以下の者(中学生以下の者,高校在学中であって15歳以上18歳以下の者)について,平成24年9月1日から平成25年3月31日まで月額5万円(累計215万円)の賠償が認められている(丙C19,144)

平成24年8月までの期間については,
「中間指針等による賠償額」を超える損害

は認められない。
(4)

平成24年9月以降の損害

子供・妊婦以外の者について中間指針等による賠償の対象となっていない平成24年9月1日以降(楢葉町を除くが,旧居住地が楢葉町の旧緊急時避難準備区域である原告は本件訴訟にいない。
)について,賠償すべき損害が発生しているか検討す
る。

広野町
ひろのまち

広野町は全域が旧緊急時避難準備区域であったところ(丙C27),広野町役場を
含む町内18箇所の平成25年4月1日の空間線量率は,0.11~0.22μSv/h(0.37~0.95mSv/y相当)であり,いずれも追加被曝線量1mSv/y相当値を下回っている(丙C71の3)

原告H-522,T-1322の旧居住地は広野町の旧緊急時避難準備区域であるところ,平成24年12月28日第6次モニタリングから平成25年11月19日第8次モニタリングまでの結果から計算した同原告らの旧居住地の空間線量率は0.38~0.60μSv/h(1.79~2.95mSv/y相当)(甲B203

別表1の29,104頁)であり,1mSv/y相当値は上回っていたが,5mSv/y相当値は下回っていた。同期間の広野町内の空間線量率は0.05~
1.80μSv/h(0.05~9.26mSv/y相当)
,平均0.51~
0.58μSv/h(2.47~2.84mSv/y相当)であった(甲B203別表2)が,これは,非生活圏である山林なども含めての数値である。広野町は,政府による避難指示等(3月12日福島第二原発10km圏内である町北端の一部に避難区域指定,3月15日町全域に屋内待避区域指定,4月22日緊急時避難準備区域指定)と別に,3月12日,町全域の住民に対し自主的な避難を要請し,3月13日には独自の避難指示を出し,広野町役場は,3月15日には小野町に,4月15日にはいわき市に移転していたところ,平成24年3月1日には広野町役場を再開し,平成24年3月31日には独自の避難指示も解除し,広野
町の公共サービス,生活関連サービスは,平成24年9月までには概ね復旧していたと認められる(甲B1の1本文編283頁,甲B1の2本文編379~380頁,甲B4・340頁,甲B52の17,甲C36,42,丙C73,255,256)


川内村

(ア)

川内村の概況

かわうちむら

川内村下川内字貝ノ坂,字萩の区域は旧居住制限区域であり,平成26年10月1日に避難指示解除準備区域に再編され(丙C28,丙C30の1~3),平成28
年6月14日に避難指示が解除された(丙C159,160)

川内村下川内地区の一部(20km圏内)は旧避難指示解除準備区域であり,平成26年10月1日に避難指示が解除された(丙C28,丙C30の1~3)。
川内村下川内地区には特定避難勧奨地点があり,平成24年12月14日に解除された(丙C27,77)

川内村のその余の地域は,旧緊急時避難準備区域であった(丙C27)。
(イ)

平成24年9月以降の川内村の旧緊急時避難準備区域の状況
さかしうち

20km圏内であるいわなの郷,保健福祉医療複合施設ゆふね,下川内坂シ内付近,村営バス停留所(貝ノ坂地区)
,五枚沢集会所,毛戸集会所,割山トンネルの電

波時計脇を除いた,川内村役場を含む川内村内8箇所の平成25年4月1日の空間線量率は,0.09~0.52μSv/h(0.26~2.53mSv/y相当)であり,川内村大字下川内字小田代付近と下川内地区農業集落排水処理施設で5mSv/y相当値を,それ以外の6箇所ではいずれも1mSv/y相当値を,それぞれ下回っている(丙C71の3)

川内村も,政府による避難指示等(3月15日屋内待避地域指定,4月22日緊急時避難準備区域指定。丙C27)と別に,3月16日には村全域に独自の避難指示を出し,郡山市に役場機能を移転していたところ,平成24年3月26日までにはこの独自の避難指示も解除して川内村役場を再開し,川内村の公共サービス,生
活関連サービスは,平成24年9月までには概ね復旧していたと認められる(甲B1の1本文編279頁,甲B4・340頁,甲B52の9・17,丙C43,65,77,248,258,319)

川内村の旧緊急時避難準備区域を旧居住地とする原告は本件訴訟にいない。ウ
田村市

(ア)

田村市の概況
みやこじまちふるみち

田村市のうち,20km圏内である都路町古道の一部は避難指示解除準備区域(平成26年4月1日解除)に指定されていた(丙C28,丙C31の1・2)。
ふねひきまちよこみち

ときわまち

概ね30km圏内である都路町,船引町横道,常葉町堀田及び常葉町山根(20km圏内の旧避難指示解除準備区域を除く。
)は,旧緊急時避難準備区域(9月30
日解除)に指定されていた(丙C8,27)

その余の区域は,自主的避難等対象区域である。
(イ)

平成24年9月以降の田村市の旧緊急時避難準備区域の状況

田村市の20~30km圏内の,田村市都路行政局を含む8箇所の平成25年4月1日の空間線量率は0.09~0.48μSv/h(0.26~2.32mSv/y相当)であり(丙C71の3)
,いずれも5mSv/y相当値を下回って
いる。

原告H-231,H-431,432,T-1813,T-3316,3317の旧居住地は,いずれも田村市都路町の旧緊急時避難準備区域であるところ,平成24年12月28日第6次モニタリングから平成25年11月19日第8次モニタリングまでの結果から計算した同原告らの旧居住地の空間線量率は0.65~1.10μSv/h(3.21~5.58mSv/y相当)であった(甲B203別表1の13,24,131,215頁)

同期間の田村市内の空間線量率は0.06~1.70μSv/h(0.11~8.74mSv/y相当)
,平均0.38~0.44μSv/h(1.79~
2.11mSv/y相当)であるが(甲B203別表2)
,これは一方に田村市の

20km圏内の旧避難指示解除準備区域を含み,他方に30km圏外の自主的避難等対象区域を含んだ数値である。
田村市の公共サービス,生活関連サービスは,平成24年9月までには概ね復旧していたと認められる(丙C33の1・3頁,丙C79,259,313~318)



南相馬市

(ア)

南相馬市の概況

南相馬市のうち,小高区の一部は帰還困難区域,小高区,原町区の一部は旧居住制限区域(平成28年7月12日解除)
,小高区,原町区の一部は旧避難指示解除準
備区域(平成28年7月12日解除)であった(丙C28,29,159,160)

じさばら

おおがい

たかのくら

おしがま

鹿島区橲原,原町区大谷,大原,高倉,押釜,片倉,馬場の一部は特定避難勧奨地点(平成26年12月28日解除)に指定されていた(丙C11の4~6,丙C27,丙C33の1,丙C77)

南相馬市のうち,30km圏内である鹿島区の一部と原町区の大半は,旧緊急時避難準備区域(9月30日解除)であった(丙C8,27,68)。
その余の原町区の一部と鹿島区の大半は,旧一時避難要請区域(4月22日解
除)であった。
(イ)

平成24年9月以降の南相馬市の旧緊急時避難準備区域の状況

南相馬市の旧緊急時避難準備区域の,非生活圏である高倉ダム(高倉ダム管理事務所)
,高の倉ダム助常観測所,鉄山ダム,南相馬市横山ダムを除いた,南相馬市役所(福島第一原発から約26km)を含む7箇所の平成25年4月1日の空間線量率は,0.12~0.91μSv/h(0.42~4.58mSv/y相当)であり(丙C71の3)
,いずれも5mSv/y相当値を下回っている。
南相馬市の旧緊急時避難準備区域を旧居住地とする原告らは相当数いるが,例えば,原告T-311の旧居住地は南相馬市原町区中太田の旧緊急時避難準備区域で
あるところ,平成24年12月28日第6次モニタリングから平成25年11月19日第8次モニタリングまでの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は,0.38~0.52μSv/h(1.79~2.53mSv/y相当)であり,1mSv/y相当値は上回っているが,5mSv/y相当値は下回っていた。同期間の南相馬市の空間線量率は0.05~17.00μSv/h(0.05~
89.26mSv/y相当)
,平均1.51~1.70μSv/h(7.74~
8.74mSv/y相当)であるが,これは,一方に小高区の帰還困難区域等を,他方に鹿島区の旧一時避難要請区域を含んだ数値である。
南相馬市原町区の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(丙C42,64,81~87,丙C125の1~3,
丙C175,223~229,246,260,261)


旧緊急時避難準備区域旧居住者の平成24年9月以降の損害について上記ア~エの事情を総合し,平成24年9月以降の旧緊急時避難準備区域の空間
線量率は概ね5mSv/yを下回っていたこと,旧緊急時避難準備区域の旧居住者に対しては,平成24年8月分まで合計180万円が支払われていること,公共サービス,生活関連サービスは概ね復旧していたことなどを考慮すると,空間線量率が1mSv/yを上回っている区域が多く,旧緊急時避難準備区域の指定解除から
11か月が経過した後も旧緊急時避難準備区域旧居住者の放射線被曝に対する不安や生活の支障が完全に解消されたわけではないことを考慮しても,旧緊急時避難準備区域旧居住者に,平成24年9月以降,賠償すべき損害があるとは認められない。カ
子供・妊婦について
平成24年9月1日時点で高校生以下であった者(例えば,原告H-416は,
平成13年4月4日生の子供であった。
)は,自主賠償基準により,平成24年9月
から平成25年3月まで月額5万円の賠償が認められているところ(丙C144),
この「中間指針等による賠償額」を超える損害があるとは認められない。妊婦(例えば,原告H-419は,平成23年11月13日に原告H-422を出産した妊婦であった。
)についても,
「中間指針等による賠償額」を超える損害が
あるとは認められない。
(5)

旧緊急時避難準備区域旧居住者の損害のまとめ

以上によれば,旧緊急時避難準備区域を旧居住地とする原告らにつき,「中間指針
等による賠償額」を超える損害があるとは認められない。
11
(1)

旧居住地が旧一時避難要請区域であった原告らについて
旧一時避難要請区域の概況

南相馬市は,平成23年3月16日,市民の生活の安全確保等を理由として,その独自の判断に基づいて,南相馬市の住民に対して一時避難を要請し,4月22日,一時避難要請区域から避難していた住民に対して,自宅での生活が可能な者の帰宅を許容する旨の見解を示した(丙A2・8頁)

南相馬市のうち,30km圏内は帰還困難区域,旧居住制限区域,旧避難指示解除準備区域,旧緊急時避難準備区域に,30km圏外であっても鹿島区橲原地区の一部は旧特定避難勧奨地点となっており,旧一時避難要請区域はその余の区域(鹿島区の大半,原町区の一部)である。

中間指針は,旧一時避難要請区域から現に避難した者に対し,平成23年7月末まで月額10万円(合計50万円)を賠償することとし(丙A2・14,18,2
3頁)
,自主賠償基準は,避難の有無を問わず,9月30日まで月額10万円(合計70万円)を賠償することとしている(丙C19,20)

(2)

平成23年9月までの損害

平成23年9月までの期間については,
「中間指針等による賠償額」を超える損害
は認められない。
(3)

平成23年10~12月の状況

南相馬市が測定した,鹿島区役所を含む鹿島区内17箇所の9月29日から9月30日までの空間線量率(地上1m)は,0.08~2.89μSv/h(0.21~15.00mSv/y相当)であった(丙C72の2)。
南相馬市の旧一時避難要請区域の,南相馬市役所鹿島区役所(福島第一原発からじさばら

約32km)
,鹿島公民館橲原分館(同約32km)の10月31日から12月31日までの空間線量率は,0.28~1.8μSv/h(1.26~9.3mSv/y相当)であった(丙C91)

南相馬市の旧一時避難要請区域を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,みなみゆぬき
原告T-133の旧居住地は南相馬市鹿島区南柚木の旧一時避難要請区域であるところ,平成23年11月5日第4次モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は,0.31μSv/h(1.42mSv/y相当)であった(甲B203別表1の38頁)

同期間の南相馬市の空間線量率は0.05~24.00μSv/h(0.05~
126.11mSv/y相当)
,平均2.80μSv/h(14.53mSv/y相
当)であるが,これは,小高区の帰還困難区域等を含んだ数値である。南相馬市鹿島区の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(丙C42,64,81~87,丙C125の1~3,丙C175,223~229,246,260,261)


(4)

平成24年1~8月の状況

鹿島区役所,鹿島公民館橲原分館の平成24年1月31日から4月12日までの
空間線量率は,0.28~1.7μSv/h(1.26~8.7mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

南相馬市が測定した,鹿島区役所を含む鹿島区内13箇所の平成24年3月17日から5月23日までの空間線量率(地上1m)は,0.18~2.53μSv/h(0.74~13.11mSv/y相当)であった(丙C125の2・3)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-133の旧居住地の空間線量率は,0.33μSv/h(1.53mSv/y相当)であった(甲B203別表1の38頁)


(5)

平成24年9月以降の状況

鹿島区役所,鹿島公民館橲原分館の平成25年4月1日の空間線量率は,0.25~0.37μSv/h(1.11~1.74mSv/y相当)であった(丙C71の3)

平成24年12月28日第6次モニタリングから平成25年11月19日第8次モニタリングまでの結果から計算した原告T-133の旧居住地の空間線量率は,0.15~0.26μSv/h(0.58~1.16mSv/y相当)であった(甲B203別表1の38頁)

(6)

平成23年10~12月の損害

上記(3)の事情に加え,平成23年10~12月については,鹿島区橲原字地蔵木(坂下橋付近)で10mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていること(丙C72の2)
,収束宣言により福島第一原発の冷温停止状態の達成が確認されたのが平成23年12月16日であること(丙C12)
,自主的避難等対象区域旧居住
者につき,子供・妊婦は平成23年3~12月分が「中間指針等による賠償額」の対象となり(丙A3・6頁)
,子供・妊婦以外の者についても,後記のとおり平成2

3年12月分までの賠償が認められるべきことなどを考慮すると,橲原地区で20mSv/y以上の追加被曝線量が見込まれた地点は特定避難勧奨地点に指定されて
いること,平成23年9月分まで合計70万円の「中間指針等による賠償額」が認められていること,公共サービス,生活関連サービスは概ね復旧していたことなどを考慮しても,旧一時避難要請区域旧居住者が平成23年10~12月に抱いていた放射線被曝に対する不安,今後の本件事故の進展に対する不安は,平成23年9月までと同等の程度とまでは認められないものの,引き続き賠償に値するものと認めるのが相当である。
その額は,平成23年10月1日から12月31日までの3か月間を包括して3万円程度と認めるのが相当である。
(7)


平成24年1~8月の損害について
子供・妊婦以外の者について

上記(4)の事情に加え,平成24年1~8月については,鹿島区橲原字地蔵木(坂下橋付近)においては引き続き10mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていた(丙C125の2・26頁,丙C125の3・22頁)ものの,橲原地区で20mSv/y以上の追加被曝線量が見込まれた地点は特定避難勧奨地点に指定されていること,平成23年9月分まで合計70万円の「中間指針等による賠償額」が認められ,上記(6)のとおりさらに平成23年10~12月分として3万円の賠償が認められること,平成23年12月16日には収束宣言により福島第一原発の冷温停止状態の達成が確認され,今後の本件事故の進展に関する不安も減少していたこと,公共サービス,生活関連サービスは概ね復旧していたことなどを考慮す
れば,子供・妊婦以外の者については,平成24年1月以降,賠償すべき損害があるとは認められない。

子供・妊婦について
他方,子供・妊婦(例えば,原告H-538は,平成21年10月6日生の子供,
原告T-754は,平成17年12月9日生の子供,原告T-755は,平成22年2月2日生の子供,原告T-842は,平成6年10月4日生の子供であった。本件訴訟の原告に,旧一時避難要請区域旧居住者で平成24年1月以降に妊婦で
あった者はいない。
)については,平成24年1月以降の不安が子供・妊婦以外の者
に比べて大きかったであろうこと,旧一時避難要請区域よりも福島第一原発から遠い相馬市などの自主的避難等対象区域旧居住者の子供・妊婦には自主賠償基準により平成24年1~8月分として8万円の賠償が認められていること(丙C24)などを考慮すれば,旧一時避難要請区域旧居住者の子供・妊婦についても,自主的避難等対象区域旧居住者の子供・妊婦と同様,平成24年1~8月分として8万円(中間指針等による賠償額」を超える損害としては,平成23年10~12月分3「
万円と合わせて合計11万円)の賠償を認めるのが相当である。
上記(5)の事情によれば,平成24年9月以降については,旧一時避難要請区域旧
居住者の子供・妊婦について賠償すべき損害があるとは認められない。(8)

旧一時避難要請区域の損害のまとめ

以上によれば,旧一時避難要請区域旧居住者のうち,子供・妊婦以外の者については,
「中間指針等による賠償額」を超える損害として3万円を認める。旧一時避難要請区域旧居住者のうち子供・妊婦については,
「中間指針等による賠
償額」を超える損害として合計11万円を認める。
12
(1)

旧居住地が旧屋内待避区域であった原告らについて
旧屋内待避区域の概況

原災本部長である内閣総理大臣は,3月15日,福島第一原発から30km圏内を屋内待避区域に指定した(丙C5)
。4月22日,屋内待避区域の指定は解除され
た(丙C8,27)

旧屋内待避区域のうち,計画的避難区域にも緊急時避難準備区域にも指定されなかったのは,いわき市のうち福島第一原発から30km圏内の区域(久之浜町,大久町,小川町,川前町の一部)のみである(丙C27)

中間指針は,旧屋内待避区域から現に避難した者に対し,平成23年7月末まで
月額10万円(合計50万円)を,旧屋内待避区域に滞在して屋内待避をしていた者に10万円を,それぞれ賠償することとし(丙A2)
,自主賠償基準は,避難の有

無を問わず,9月30日まで月額10万円(合計70万円)を賠償することとしている(丙C20)

(2)

旧屋内待避区域を旧居住地とする原告はいないこと

旧屋内待避区域を旧居住地とする原告は本件訴訟にいないから,同区域の旧居住者に「中間指針等による賠償額」を超える損害が生じたか否かは判断しない。13
(1)

旧居住地が自主的避難等対象区域である原告らについて
自主的避難等対象区域の概況

中間指針第一次追補は,県北地域,県中地域,相双地域,いわき地域の23市町村(避難指示等対象区域を除く。
)を自主的避難等対象区域と定義している(丙A
3・2~3頁)

中間指針第一次追補は,避難の有無を問わず,自主的避難等対象区域の子供及び妊婦に対し,3月11日から12月31日までの損害として40万円を,子供及び妊婦以外の者に対し,本件事故発生当初の時期(概ね本件事故発生から4月22日頃までの時期が目安となる。
)の損害として8万円を賠償することとし(丙A3・6

~8頁,丙A7・13頁)
,自主賠償基準は,子供及び妊婦に対し,平成24年1月
1日から8月31日までの損害として8万円を追加して賠償することとしている(丙C21,24)

これらは,いずれも中間指針等に定める精神的損害の賠償額と認められるので(丙C24)
,これらの額を超える損害が認められるかを検討する。
このほか,自主賠償基準は,子供及び妊婦で実際に避難した者に20万円,平成
24年1月1日から8月31日までの追加的費用等につき4万円を,それぞれ賠償することとしているが,これらはいずれも追加的費用等に対する賠償であって,精神的損害に対する賠償ではないものと認める(丙C24)

(2)

福島市
平成23年3月の状況
おやまちよう

福島市御山町に所在する県北保健福祉事務所事務局では,3月15日に
24.24μSv/h(127.37mSv/y相当)という,追加被曝線量100mSv相当値を超える空間線量率が計測され,3月27日の空間線量率も3.61μSv/h(18.79mSv/y相当)に達していた(甲C157資料1,丙C122の3)

3月15日に県北保健福祉事務所事務局で計測された24.24μSv/hという値は,この値が24時間365日継続すれば年間追加被曝線量127.37mSv/yにも相当する値であるが,上記の値は一時的なものであり,その後の放射線量の推移によれば,福島市内の積算線量は,3月12日から4月5日までの積算で0.4~2.1mSv,3月12日から平成24年3月11日までの1年間の
積算線量推定値(4月6日以降は4月5日の測定値が継続すると仮定)で2.4~16.8mSv(丙C122の4・2頁)であり,福島市民の実際の追加被曝線量は20mSv/yを超えるものではなかった。
3月15日に計測された上記放射線量は,2号機から放出された放射性物質を含む蒸気雲(プルーム)が風に乗って北北西の方向に流れたためと考えられるが(甲
B1の1本文編268~269頁,乙B173・17頁,丙B41の1・275~276頁,丙B53・21頁)
,そのような情報は事前に住民に伝えられなかったた
め,福島市民が適切な放射線被曝回避措置を取ることは困難であった。すぎつまちよう

3月17日から3月31日までにも,福島市杉妻町で2.0~8.0μSv/hたきのいり

(10.3~41.9mSv/y相当)
,福島市大波字滝ノ入で4.0~18.3
μSv/h(20.8~96.1mSv/y相当)といった,20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測され,福島市荒井字原宿でも0.5~1.0μSv/h(2.4~5.1mSv/y相当)の空間線量率が計測されていた(甲A25)

ごろううちまち

福島市五老内町に所在する福島市役所(福島第一原発から約62km)の3月31日の空間線量率は2.61μSv/h(13.53mSv/y相当),農業総合セ
ンター果樹研究所,福島西インターチェンジ,ふくしま自治研修センターの同日の
空間線量率は0.64~1.93μSv/h(3.16~9.95mSv/y相当)であった(丙C91)

福島市では,本件地震により,14万7000戸の停電,市内全域の断水,大規模な電話の不通,2726戸のガス供給停止などが発生したが,平成23年4月頃までには,福島市内の公共サービス,生活関連サービスは概ね復旧していたものと認められる(丙C122の1~41,丙C266~268)


平成23年4月の状況
福島市役所,農業総合センター果樹研究所,福島西インターチェンジ,ふくしま
自治研修センターの4箇所の4月1日から4月9日までの空間線量率は0.62~2.31μSv/h(3.05~11.95mSv/y相当)
,福島市役所で
1.53~2.31μSv/h(7.84~11.95mSv/y相当)であり(丙C71の1)
,平成23年4月時点では,福島市役所のような市街地においても,10mSv/y相当値を超える線量が計測されていた。
上記4箇所に県北保健福祉事務所事務局を加えた5箇所の4月12日から4月1
4日までの空間線量率は,0.49~1.83μSv/h(2.37~9.42mSv/y相当)であった(丙C122の3)

福島市杉妻町,大波字滝ノ入,荒井字原宿の4月1日から4月29日までの空間線量率は,0.1~3.8μSv/h(0.3~19.8mSv/y相当)であった(甲A25,丙C122の4)


福島市役所の4月30日の空間線量率は1.49μSv/h(7.63mSv/y相当)であった(丙C91)

4月6日から4月29日にかけて第1次航空機モニタリングが実施され,福島市にも1.9~3.8μSv/h(10~20mSv/y相当)の区域が分布していることが確認された(甲B195)


福島市を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-622の旧居住ささきの

地は福島市笹木野であるが,4月29日第1次航空機モニタリング結果から計算し
た同原告の旧居住地の空間線量率は1.10μSv/h(5.58mSv/y相当)
(甲B203別表1の65頁)
,福島市内の空間線量率は0.05~3.20
μSv/h(0.05~16.63mSv/y相当)
,平均0.70μSv/h
(3.47mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
福島市が測定した,福島市役所を含む18箇所の5月2日から5月11日までの
空間線量率は,0.20~2.87μSv/h(0.84~14.89mSv/y相当)であった(丙C122の5)

県北保健福祉事務所事務局の5月12日の空間線量率は,1.45μSv/h(7.42mSv/y相当)であった(丙C122の5)

福島市役所の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.93~1.36μSv/h(4.68~6.95mSv/y相当)であった(丙C91)。
福島市が6月17日から6月20日までに行った全市一斉放射線量測定の結果,1118地点中,0.5μSv/h未満が93件,0.5~1.0μSv/h未満
が214件,1.0~1.5μSv/h未満が321件,1.5~2.0μSv/h未満が309件,2.0~2.5μSv/h未満が134件,2.5~3.0μSv/h未満が33件,3.0~3.4μSv/h未満が8件,3.4μSv/h以上が6件,市内19地区の平均空間線量率は0.26~2.24μSv/h(1.16~11.58mSv/y相当)全市平均で1.33,

μSv/h(6.79mSv/y相当)であった(甲B63,丙C122の28)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-622の旧居住地の空間線量率は,0.81~1.10μSv/h(4.05~5.58mSv/y相当)
(甲B203別表1の6
5頁)
,福島市内の空間線量率は0.05~3.10μSv/h(0.05~
16.11mSv/y相当)
,平均0.58~0.79μSv/h(2.84~
3.95mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成24年1~8月の状況
福島市役所の平成24年1月31日から2月16日までの空間線量率は,
1.06~1.08μSv/h(5.37~5.47mSv/y相当)であった(丙C91)

福島市が平成24年3月8日から3月23日に行った市内2916地点の全市一
斉放射線量測定の結果,783区画中,0.23μSv/h未満が29件,0.23~0.5μSv/h未満が144件,0.5~0.75μSv/h未満が212件,0.75~1.0μSv/h未満が178件,1.0~1.25μSv/h未満が146件,1.25~1.5μSv/h未満が39件,1.5~1.75μSv/h未満が23件,1.75~2.0μSv/h未満が10件,2.0~2.25μSv/h未満が2件,平均0.77μSv/h(3.8mSv/y相当)で,全体の71.9%が1μSv/h未満であり,2μSv/h以上の区画が存在するのは大波地区と渡利地区であった(甲B63,丙C122の18)

福島市内22箇所の平成24年4月1日の空間線量率は,0.04~1.39
μSv/h(0~7.11mSv/y相当)であった(丙C71の2)。
平成24年6月28日第5次航空機モニタリングから計算した原告T-622の旧居住地の空間線量率は0.82μSv/h(4.11mSv/y相当)(甲B20
3別表1の65頁)福島市内の空間線量率は0.05~1.90μSv/h,
(0.05~9.79mSv/y相当)平均0.47μSv/h

(2.26mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
福島市が平成25年3月1日から3月15日までに行った全市一斉放射線量測定
の結果,916区画中,0.23μSv/h未満が48件,0.23~0.5μSv/h未満が389件,0.5~0.75μSv/h未満が258件,0.75~1.0μSv/h未満が175件,1.0~1.25μSv/h未満が
34件,1.25~1.5μSv/h未満が9件,1.5~1.75μSv/h未満が3件,平均0.56μSv/h(2.74mSv/y相当)であり,95.0%が1.0μSv/h未満であった(甲B63,丙C122の28)。
平成25年4月1日から平成29年3月2日までの福島市内22箇所の空間線量率は,0.04~0.63μSv/h(0~3.11mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空モニタリングまでの結果から計算した原告T-622の旧居住地の空間線量率は0.47~0.67μSv/h(2.26~3.32mSv/y相当)(甲

B203別表1の65頁)福島市内の空間線量率は,0.05~1.50,
μSv/h(0.05~7.68mSv/y相当)
,平均0.33~0.41
μSv/h(1.53~1.95mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(3)

二本松市
平成23年3月の状況

二本松市太田では,3月17日から3月31日までに,1.1~5.2
μSv/h(5.6~27.2mSv/y相当)といった,20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていた(甲A25)

二本松市による測定では,平成23年3月,二本松市岩代支所で10μSv/h(52mSv/y相当)
,二本松市役所本庁(福島第一原発から約56km)でも8
μSv/h以上(42mSv/y相当)といった,20mSv/y相当値を大きく上回る空間線量率が測定されていた(丙C276)

二本松市役所,二本松市役所東和支所の3月31日の空間線量率は1.64~3.3μSv/h(8.42~17.2mSv/y相当)であった(丙C91)。
二本松市の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧して
いたものと認められる(丙C119の1~3,丙C276,277)。

平成23年4月の状況

二本松市役所,二本松市役所東和支所の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.77~2.93μSv/h(3.63~15.21mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91,92)

二本松市の測定では,二本松市役所本庁,安達支所,岩代支所,東和支所の4月1日から4月15日までの空間線量率は,0.78~3.11μSv/h(3.89~16.16mSv/y相当)であった(丙C276)。
二本松市太田の4月3日から4月20日までの空間線量率は,0.8~2.2μSv/h(4.0~11.4mSv/y相当)であった(甲A25)。
二本松市を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-1257の旧
居住地は二本松市針道であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は1.20μSv/h(6.11mSv/y相当)
(甲B203別表1の101頁)
,二本松市内の空間線量率は
0.05~3.50μSv/h(0.05~18.21mSv/y相当),平均
1.12μSv/h(5.68mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。


平成23年5~12月の状況
二本松市役所東和支所,二本松市田沢集会場の5月31日から12月31日まで
の空間線量率は,0.4~0.64μSv/h(1.9~3.16mSv/y相当)であった(丙C91)

二本松市が測定した,二本松市役所本庁,安達支所,岩代支所,東和支所の5月1日から5月15日までの空間線量率は,0.59~1.89μSv/h(2.89~9.74mSv/y相当)であった(丙C276)

福島県や二本松市が測定した,二本松市役所東和支所,二本松市田沢集会場,二本松市役所安達支所,二本松市役所岩代支所の6月1日から10月1日までの空間線量率は0.38~1.67μSv/h(1.79~8.58mSv/y相当),原
ぬまがさく

子力災害対策現地本部及び福島県が測定した,二本松市沼ヶ作,坊主滝,針道の7月19日の空間線量率は0.21~3.52μSv/h(0.89~18.32
mSv/y相当)であった(丙C92)

5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-1257の旧居住地の空間線量率は0.76~1.10μSv/h(3.79~5.58mSv/y相当)
(甲B203別表1の1
01頁)
,二本松市内の空間線量率は0.05~3.50μSv/h(0.05~18.21mSv/y相当)
,平均0.96~1.27μSv/h(4.84~
6.47mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
二本松市内の2~17箇所の平成24年1月31日から4月12日までの空間線
量率は,0.22~0.87μSv/h(0.95~4.37mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-1257の旧居住地の空間線量率は0.86μSv/h(4.32mSv/y相当)(甲B203別表1の101頁)
,二本松市内の空間線量率は0.12~1.90

μSv/h(0.42~10.21mSv/y相当)
,平均0.89μSv/h
(4.47mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
二本松市内の18箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間
線量率は,0.07~0.76Sv/h(0.16~3.79mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~6,丙C202,211)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-1257の旧居住地の空間線量率は0.49~0.86μSv/h(2.37~4.32mSv/y相当)(甲B203別表1の101頁)
,二本松市内の空間線量率は,0.05~1.90

μSv/h(0.05~9.79mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(4)

伊達市


伊達市の概況
りようぜんまち

つきだてまち

ほばらまち

伊達市のうち,霊山町上小国,下小国,石田,月舘町月舘,保原町富沢には特定避難勧奨地点に指定された地点があり,平成24年12月14日に解除された(丙C11の1~3)

その余の地域は自主的避難等対象区域である。


平成23年3月の状況
伊達市保原町舟橋に所在する伊達市役所保原本庁舎(福島第一原発から約
61km)の3月31日の空間線量率は,2.25μSv/h(11.63mSv/y相当)であった(丙C91)

伊達市霊山町では,3月17日から3月30日までに,3.6~14.0
μSv/h(18.7~73.5mSv/y)といった,20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていた(甲A25)

伊達市の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(丙C281)


平成23年4月の状況
伊達市役所保原本庁舎の4月1日から4月30日までの空間線量率は,1.21
~2.09μSv/h(6.16~10.79mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

伊達市霊山町では,4月1日から4月29日までに,2.1~4.0μSv/h(10.8~20.8mSv/y)といった,20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていた(甲A25)

伊達市を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告H-16の旧居住地やながわまち

は伊達市梁川町であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.53μSv/h(2.58mSv/y相当)であった(甲B203別表1の1頁)
。伊達市内の空間線量率は0.37~
6.30μSv/h(1.74~32.94mSv/y相当)
,平均1.32

μSv/h(6.74mSv/y相当)であった(甲B203別表2)が,これは,伊達市内の特定避難勧奨地点を含んだ数値である。甲B203別表2の元データは,別表1の原告ら旧居住地のデータに限らず,航空機モニタリングの全データ(特定避難勧奨地点を含む。
)を元にしているものと認められ(甲B203・7頁)
,伊達
市の自主的避難等対象区域を旧居住地とする原告らの中には,4月29日の旧居住地の空間線量率が3.8μSv/h(20mSv/y相当)を超える者はいない(甲B203別表1)

第1次航空機モニタリング結果を色分けした図(甲B195)を見ても,伊達市南東部(霊山町石田,月舘町月舘地区)に,飯舘村から続く,3.8~9.5
μSv/hを示す黄色の領域が広がっている。

平成23年5~12月の状況
伊達市役所保原本庁舎の5月31日の空間線量率は1.06μSv/h
(5.37mSv/y相当)
,小国ふれあいセンター,下小国中央集会所,霊山パー
つきだてあいよし

キング,月舘相葭公民館の6月30日から12月31日までの空間線量率は0.84~2.18μSv/h(4.21~11.26mSv/y相当)であった(丙C91)

5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-16の旧居住地の空間線量率は0.43~0.54μSv/h(2.05~2.63mSv/y相当)であった(甲B203
別表1の1頁)
。伊達市内の空間線量率は0.23~6.80μSv/h(1.00~30.32mSv/y相当)
,平均0.80~1.43μSv/h(4.00~
7.32mSv/y相当)であった(甲B203別表2)が,これは,伊達市内の特定避難勧奨地点を含んだ数値である。

平成24年1~8月の状況
伊達市役所保原本庁舎を含む,伊達市内の4~14箇所の平成24年1月31日
から4月12日までの空間線量率は,0.17~1.59μSv/h(0.68~
8.16mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告H-16の旧居住地の空間線量率は0.46μSv/h(2.21mSv/y相当)であった(甲B203別表1の1頁)
。伊達市内の空間線量率は,0.29~3.90
μSv/h(1.32~20.32mSv/y相当)
,平均0.92μSv/h
(4.63mSv/y相当)であった(甲B203別表2)が,これは,伊達市内の特定避難勧奨地点を含んだ数値である。

平成24年9月以降の状況
伊達市役所保原本庁舎を含む,伊達市内の14~15箇所のモニタリング地点の
平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率は,0.05~0.58μSv/h(0.05~2.84mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-16の旧居住地の空間
線量率は,0.25~0.40μSv/h(1.11~1.89mSv/y相当)(甲B203別表1の1頁)
,伊達市内の空間線量率は,0.15~3.00
μSv/h(0.58~15.58mSv/y相当)
,平均0.58~0.71
μSv/h(2.84~3.53mSv/y相当)であった(甲B203別表2)が,これは,伊達市内の特定避難勧奨地点を含んだ数値である。

(5)

本宮市
平成23年3月の状況

本宮市役所(福島第一原発から約57km)の3月31日の空間線量率は,2.11μSv/h(10.89mSv/y相当)であった(丙C91)。
本宮市の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況

本宮市役所の4月1日から4月30日までの空間線量率は,1.06~2.09μSv/h(5.37~10.79mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

本宮市を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-351の旧居住地は本宮市であるが,4月29日第1次航空機モニタリング結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は1.50μSv/h(7.68mSv/y相当)(甲B
203別表1の50頁)
,本宮市内の空間線量率は0.61~2.20μSv/h
(3.00~11.37mSv/y相当)
,平均1.24μSv/h(6.32
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成23年5~12月の状況
本宮市役所,白沢総合支所,旧白沢総合支所の5月31日から12月31日まで
の空間線量率は,0.52~0.9μSv/h(2.53~4.5mSv/y相当)であった(丙C91)

5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-351の旧居住地の空間線量率は1.00~1.40μSv/h(5.05~7.16mSv/y相当)
(甲B203別表1の5
0頁)
,本宮市内の空間線量率は0.55~3.10μSv/h(2.68~16.11mSv/y相当)
,平均1.02~1.44μSv/h(5.16~
7.37mSv/y相当)であった。


平成24年1~8月の状況
本宮市の2~7箇所の平成24年1月31日から4月12日までの空間線量率は,
0.18~0.65μSv/h(0.74~3.21mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-351の旧居住地の空間線量率は0.84μSv/h(4.21mSv/y相当)(甲
B203別表1の50頁)
,本宮市内の空間線量率は0.48~1.90μSv/h

(2.32~9.79mSv/y相当)
,平均0.98μSv/h(4.95
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
本宮市の7箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率
は,0.07~0.26μSv/h(0.16~1.53mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-351の旧居住地の空間線量率は0.54~0.67μSv/h(2.63~3.32mSv/y相当)
(甲B203別表1の50頁)
,本宮市内の空間線量率は0.30~1.30
μSv/h(1.37~6.63mSv/y相当)
,平均0.58~0.73
μSv/h(2.84~3.63mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(6)

桑折町
平成23年3月の状況

こおりまち

桑折町(測定場所不詳)においては,3月20日から3月22日までに,
3.98~6.33μSv/h(20.74~33.11mSv/y相当)といった,20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていた(丙C135の1)

福島北警察署桑折分庁舎(福島第一原発から約66km)の3月31日の空間線量率は2.1μSv/h(10.8mSv/y相当)であった(丙C91)。
桑折町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(丙C135の1~6)


平成23年4月の状況
福島北警察署桑折分庁舎の4月1日から4月30日までの空間線量率は1.18
~2.02μSv/h(6.00~10.42mSv/y相当)
,桑折町が測定した
桑折町内4箇所(桑折公民館,睦合公民館,伊達崎公民館,半田公民館)の4月2
2日から4月30日までの空間線量率は0.74~1.02μSv/h(3.68~5.16mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C135の3,丙C136)

桑折町を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告H-73の旧居住地は桑折町であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は1.10μSv/h(5.58mSv/y相当)(甲B
203別表1の5頁)
,桑折町内の空間線量率は,0.20~1.70μSv/h
(0.84~8.74mSv/y相当)
,平均1.07μSv/h(5.42
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成23年5~12月の状況
福島北警察署桑折分庁舎の5月31日から12月31日までの空間線量率は
0.67~0.98μSv/h(3.32~4.95mSv/y相当)であった(丙C91)

桑折町が測定した,桑折町内4~5箇所の5月1日から12月28日までの空間線量率は0.44~0.97μSv/h(2.11~4.89mSv/y相当),町
民運動場,桑折テニスコート,ふれあい公園,桑折町内11の児童館,保育所,幼稚園,小中学校の,6月1日から6月14日までの空間線量率(地上50cm)は,0.65~3.28μSv/h(3.21~17.05mSv/y相当)であった(丙C135の4,丙C136)

5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリング
までの結果から計算した原告H-73の旧居住地の空間線量率は0.69~1.20μSv/h(3.42~6.11mSv/y相当)
(甲B203別表1の5
頁)
,桑折町内の空間線量率は0.17~1.90μSv/h(0.68~9.79mSv/y相当)平均0.71~1.05μSv/h(3.53~5.32,
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況

桑折町の1~4箇所のモニタリング地点の平成24年1月31日から4月12日までの空間線量率は,0.19~0.71μSv/h(0.79~3.53mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

桑折町が測定した5箇所の平成24年1月4日から8月31日までの空間線量率は,0.33~0.72μSv/h(1.53~3.58mSv/y相当)であった(丙C136)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告H-73の旧居住地の空間線量率は0.68μSv/h(3.37mSv/y相当)(甲B
203別表1の5頁)
,桑折町内の空間線量率は0.19~1.20μSv/h

(0.79~6.11mSv/y相当)
,平均0.68μSv/h(3.37
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
桑折町の4箇所のモニタリング地点の平成25年4月1日から平成29年3月2
日までの空間線量率は0.05~0.34μSv/h(0.05~1.58mSv/y相当)
,桑折町が測定した5箇所の平成24年9月3日から平成28年7月22日までの空間線量率は0.08~0.53μSv/h(0.21~2.58mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C136,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日
第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-73の旧居住地の空間線量率は0.30~0.57μSv/h(1.37~2.79mSv/y相当)(甲
B203別表1の45頁)
,桑折町内の空間線量率は0.10~1.02μSv/h
(0.32~5.16mSv/y相当)
,平均0.39~0.55μSv/h
(1.84~2.68mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。

(7)

国見町
平成23年3月の状況

くにみまち

国見町役場(福島第一原発から約66km)の3月31日の空間線量率は1.15μSv/h(5.84mSv/y相当)であった(丙C91)。
国見町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
国見町役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.69~1.21
μSv/h(3.42~6.16mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

国見町を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告H-28の旧居住地は国見町であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は1.10μSv/h(5.58mSv/y相当)(甲B
203別表1の2頁)
,国見町内の空間線量率は,0.47~1.50μSv/h
(2.26~7.68mSv/y相当)
,平均0.99μSv/h(5.00
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成23年5~12月の状況
国見町役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.39~
0.55μSv/h(1.84~2.68mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-28の旧居住地の空間線量率は0.62~0.99μSv/h(3.05~5.00mSv/y相当)
(甲B203別表1の2
頁)
,国見町内の空間線量率は0.32~1.40μSv/h(1.47~7.16mSv/y相当)平均0.61~0.96μSv/h(3.00~4.84,
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
国見町役場の平成24年1月31日から4月12日までの空間線量率は,
0.23~0.35μSv/h(1.00~1.63mSv/y相当)であった
(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告H-28の旧居住地の空間線量率は0.52μSv/h(2.53mSv/y相当)(甲B
203別表1の2頁)
,国見町内の空間線量率は0.35~1.20μSv/h
(1.63~6.11mSv/y相当)
,平均0.63μSv/h(3.11
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
国見町役場の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率は,
0.05~0.22μSv/h(0.05~0.95mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-28の旧居住地の空間線量率は0.27~0.40μSv/h(1.21~1.89mSv/y相当)(甲
B203別表1の2頁)
,国見町内の空間線量率は0.20~0.84μSv/h

(0.84~4.21mSv/y相当)
,平均0.36~0.48μSv/h
(1.68~2.32mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(8)

川俣町
川俣町の概況

かわまたまち

川俣町のうち,山木屋地区の一部は居住制限区域,避難指示解除準備区域(平成29年3月31日解除予定)であり(丙C27~29,237)
,その余は自主的避
難等対象区域である。

平成23年3月の状況
川俣町役場(福島第一原発から約47km)の3月31日の空間線量率は1.7
μSv/h(8.7mSv/y相当)であった(丙C91)

川俣町の自主的避難等対象区域(福島第一原発から約47km)において,3月17日から3月29日までに,1.6~6.7μSv/h(8.2~35.1
mSv/y相当)といった,20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていた(甲A25)

川俣町の自主的避難等対象区域の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(丙C131,弁論の全趣旨)。

平成23年4月の状況
川俣町役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.74~1.65
μSv/h(3.7~8.47mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

川俣町の自主的避難等対象区域では,4月4日から4月29日までに,0.6~2.3μSv/h(2.9~11.9mSv/y相当)の空間線量率が計測されていた(甲A25)

川俣町の自主的避難等対象区域を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告H-141の旧居住地は川俣町の自主的避難等対象区域であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は
1.20μSv/h(6.11mSv/y相当)であった(甲B203別表1の8頁)川俣町内の空間線量率は0.79~12.00μSv/h(3.95~。
62.95mSv/y相当)
,平均2.17μSv/h(11.21mSv/y相
当)であるが(甲B203別表2)
,これは,山木屋地区の居住制限区域,避難指示
解除準備区域を含んだ数値である。


平成23年5~12月の状況
川俣町役場の5月31日から12年31日までの空間線量率は0.53~
0.72μSv/h(2.58~3.58mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-141の旧居住地の空間線量率は0.76~1.40μSv/h(3.79~7.16mSv/y相当)であった(甲B203別表1の8頁)川俣町内の空間線量率は0.51~13.00μSv/h。

(2.47~68.21mSv/y相当)
,平均1.61~2.13μSv/h
(8.26~11.00mSv/y相当)であるが(甲B203別表2),これは,
山木屋地区の居住制限区域,避難指示解除準備区域を含んだ数値である。オ
平成24年1~8月の状況
山木屋地区を除く,川俣町の自主的避難等対象区域の1~4箇所の平成24年1
月31日から4月12日までの空間線量率は,0.21~0.57μSv/h(0.89~2.79mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)。
平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告H-141の旧居住地の空間線量率は0.85μSv/h(4.26mSv/y相当)であった(甲B203別表1の8頁)
。川俣町内の空間線量率は0.47~6.60
μSv/h(2.26~34.53mSv/y相当)
,平均1.39μSv/h
(7.11mSv/y相当)であるが(甲B203別表2)
,これは,山木屋地区の
居住制限区域,避難指示解除準備区域を含んだ数値である。

平成24年9月以降の状況
山木屋地区を除く,川俣町の自主的避難等対象区域の4箇所のモニタリング地点
の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率は,0.04~0.28μSv/h(0~1.26mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~6,丙C202,211)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-141の旧居住地の空間線量率は0.53~0.78μSv/h(2.58~3.89mSv/y相当)であった(甲B203別表1の8頁)
。川俣町内の空間線量率は0.29~4.40
μSv/h(1.32~22.95mSv/y相当)
,平均0.88~0.98
μSv/h(4.42~4.95mSv/y相当)であるが(甲B203別表2),

これは,山木屋地区の居住制限区域,避難指示解除準備区域を含んだ数値である。(9)

大玉村


平成23年3月の状況
おおたまむら

大玉村役場(福島第一原発から約60km)の3月31日の空間線量率は1.63μSv/h(8.37mSv/y相当)であった(丙C91)。
大玉村の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
大玉村役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.68~1.58
μSv/h(3.37~8.11mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

大玉村を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-1162の旧居
住地は大玉村であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は1.50μSv/h(7.68mSv/y相当)(甲B203別表1の95頁)
,大玉村内の空間線量率は0.05~1.70
μSv/h(0.05~8.74mSv/y相当)
,平均0.60μSv/h
(2.95mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
大玉村役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.47~
0.62μSv/h(2.26~3.05mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-1162の旧居住地の空間線量率は,1.00~1.40μSv/h(5.05~7.16mSv/y相当)
(甲B203別表1の9
5頁)
,大玉村内の空間線量率は0.05~2.10μSv/h(0.05~10.84mSv/y相当)
,平均0.52~0.71μSv/h(2.53~
3.53mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成24年1~8月の状況
大玉村の1~3箇所の平成24年1月31日から4月12日までの空間線量率は,
0.14~0.42μSv/h(0.53~2.00mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-1162の旧居住地の空間線量率は,1.10μSv/h(5.58mSv/y相当)
(甲B203別表1の95頁)
,大玉村内の空間線量率は0.15~1.60
μSv/h(0.58~8.21mSv/y相当)
,平均0.47μSv/h
(2.26mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
大玉村の2~3箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線
量率は,0.06~0.31μSv/h(0.11~1.42mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-1162の旧居住地の空間線量率は,0.74~0.83μSv/h(3.68~4.16mSv/y相
当)
(甲B203別表1の95頁)
,大玉村内の空間線量率は0.08~1.20
μSv/h(0.21~6.11mSv/y相当)
,平均0.30~0.36
μSv/h(1.37~1.68mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(10)

郡山市
平成23年3月の状況

こおりやまし
郡山市に所在する福島県郡山合同庁舎では,3月15日に8.26μSv/h(43.26mSv/y相当)
,3月24日に4.05μSv/h(21.11
mSv/y相当)といった,20mSv/y相当値を超える空間放射線量が計測されていた(丙C123の1)

おおつきまち

郡山市大槻町の3月26日から3月30日までの空間線量率は,1.3~2.2μSv/h(6.6~11.4mSv/y)であった(甲A25)。
郡山市役所(福島第一原発から約60km)を含む5箇所の3月31日の空間線
量率は,1~2.12μSv/h(5~10.95mSv/y相当)であった(丙C91)

郡山市では,本件地震により,約3万7000戸の断水,約3万6000戸の停電,836戸のガス供給停止などが発生したが,平成23年4月頃までには,郡山市内の公共サービス,生活関連サービスは概ね復旧していたものと認められる(丙C123の1~13,丙C269~271)


平成23年4月の状況
郡山市役所を含む5箇所の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.3
~2.14μSv/h(1.4~11.05mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

郡山市大槻町の4月1日から4月29日までの空間線量率は,0.4~1.4mSv/y(1.9~7.2mSv/y相当)であった(甲A25)。
郡山市を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-1113の旧居住地は郡山市であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した
同原告の旧居住地の空間線量率は0.98μSv/h(4.95mSv/y相当)(甲B203別表1の93頁)
,郡山市内の空間線量率は0.05~1.80
μSv/h(0.05~9.26mSv/y相当)
,平均0.55μSv/h
(2.68mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
郡山市内4~5箇所の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.2
~1.36μSv/h(0.8~6.95mSv/y相当)であった(丙C91)。
郡山市が測定した,市内14箇所の行政センターの駐車場中央及び建物入口の7月14日の空間線量率(地上1m)は,0.21~1.07μSv/h(0.89~5.42mSv/y相当)であった(丙C123の2,丙C270)。
被告国,福島県,郡山市が合同で平成23年7月下旬に測定した郡山市内の道路上の空間放射線量は,0.13~2.81μSv/h(0.47~14.58
mSv/y相当)であった(丙C123の3,丙C271)

郡山市池ノ台に所在する荒池西公園は,平成23年7月26日の放射線量調査で,地上50cmで平均3.5μSv/h(18.2mSv/y相当),部分的に4.2
μSv/h(21.9mSv/y相当)といった20mSv/yを超える空間線量率が計測されたため,公園の利用が制限され,郡山市において除染実証実験が行われた(丙C123の3,丙C271)

郡山市が測定した,市内の道路1077箇所の平成23年8月の空間線量率は,0.13~0.95μSv/h(0.47~4.79mSv/y相当)であった(丙C123の7~13)

5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリング
までの結果から計算した原告T-1113の旧居住地の空間線量率は0.80~1.00μSv/h(4.00~5.05mSv/y相当)
(甲B203別表1の9
3頁)
,郡山市内の空間線量率は0.05~1.80μSv/h(0.05~9.26mSv/y相当)
,平均0.47~0.62μSv/h(2.26~
3.05mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
郡山市内4~28箇所の平成24年1月31日から4月12日までの空間線量率
は,0.06~1.32μSv/h(0.11~6.74mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

郡山市が測定した,市内の道路1077箇所の平成24年8月の空間線量率は,0.10~0.48μSv/h(0.32~2.32mSv/y相当)であった(丙C123の7~13)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-1113の旧居住地の空間線量率は0.66μSv/h(3.26mSv/y相当)
(甲B203別表1の93頁)
,郡山市内の空間線量率は0.05~1.40
μSv/h(0.05~7.16mSv/y相当)
,平均0.39μSv/h

(1.84mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
郡山市内28箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量
率は,0.04~0.94μSv/h(0~4.74mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

郡山市が測定した,市内の道路1077箇所の平成25年8月の空間線量率は0.10~0.34μSv/h(0.32~1.58mSv/y相当),平成26年
6~12月の空間線量率は0.10~0.27μSv/h(0.32~1.21mSv/y相当)であった(丙C123の7~13)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日
第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-1113の旧居住地の空間線量率は0.36~0.54μSv/h(1.68~2.63mSv/y相当)
(甲B203別表1の93頁)
,郡山市内の空間線量率は0.05~0.97
μSv/h(0.05~4.89mSv/y相当)
,平均0.27~0.32
μSv/h(1.21~1.47mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(11)

須賀川市
平成23年3月の状況

須賀川市役所(福島第一原発から約60km)の3月20日から3月31日までの空間線量率(須賀川市による簡易測定参考値を含む。
)は,0.24~1.90
μSv/h(1.05~9.79mSv/y相当)であった(丙C91,117)。
須賀川市役所は,一時,須賀川市体育館に機能を移転していたが,公共サービス,生活関連サービスの提供は概ね継続されていたものと認められる(丙C114~116,278~280)


平成23年4月の状況
須賀川市役所の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.3~0.42
μSv/h(1.4~2.00mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C9
1)

須賀川市を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-459の旧居住地は須賀川市であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.73μSv/h(3.63mSv/y相当)
(甲B203別表1の56頁)
,須賀川市内の空間線量率は0.12~1.40
μSv/h(0.42~7.16mSv/y相当)
,平均0.60μSv/h
(2.95mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
福島県や須賀川市が測定した,須賀川市役所本庁,長沼支所,岩瀬支所の5月1
日から12月31日までの空間線量率は,0.22~1.61μSv/h(0.95~8.26mSv/y相当)であった(丙C91,278~280)。
須賀川市が測定した,市内多数箇所の7月6日から9月20日までの空間線量率は,0.11~2.18μSv/h(0.37~11.26mSv/y相当)であった(丙C278~280)

5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリング
までの結果から計算した原告T-459の旧居住地の空間線量率は0.68~0.87μSv/h(3.37~4.37mSv/y相当)
(甲B203別表1の5
6頁)
,須賀川市内の空間線量率は0.10~1.90μSv/h(0.32~9.79mSv/y相当)
,平均0.54~0.74μSv/h(2.63~
3.68mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
須賀川市内2~11箇所の平成24年1月31日から4月12日までの空間線量
率は,0.11~0.79μSv/h(0.37~3.95mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-459の旧居住地の空間線量率は0.61μSv/h(3.00mSv/y相当)(甲

B203別表1の56頁)須賀川市内の空間線量率は0.13~1.30,
μSv/h(0.47~6.63mSv/y相当)
,平均0.51μSv/h
(2.47mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
須賀川市内11箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線
量率は0.06~0.34μSv/h(0.11~1.58mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-459の旧居住地の空間線量率は0.37~0.44μSv/h(1.74~2.11mSv/y相当)(甲B203別表1の56頁)
,須賀川市内の空間線量率は0.09~1.02
μSv/h(0.26~5.16mSv/y相当)
,平均0.31~0.38
μSv/h(1.42~1.79mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(12)


田村市
田村市の概況
みやこじまちふるみち

20km圏内である田村市都路町古道の一部は避難指示解除準備区域(平成26年4月1日解除)に指定されていた(丙C28,丙C31の1・2)。
ふねひきまち

ときわまち

概ね30km圏内である都路町,船引町横道,常葉町堀田及び常葉町山根(20km圏内の旧避難指示解除準備区域を除く。
)は,旧緊急時避難準備区域(9月30
日解除)に指定されていた(丙C8,27)

その余の区域は,自主的避難等対象区域である。

平成23年3~12月の状況
田村市の30km圏外のモニタリング地点の平成23年3~12月の空間線量率
は,本件証拠上明らかでない。
田村市の30km圏外の平成23年12月28日から平成24年1月6日の空間線量率は,0.2~0.7μSv/h(0.8~3.5mSv/y相当)であった
(丙C70・2頁)

田村市の自主的避難等対象区域を旧居住地とする原告らは相当数いるが,例えば,原告H-533の旧居住地は田村市船引町成田の自主的避難等対象区域であるが,4月29日第1次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は,0.45~0.64μSv/h(2.16~3.16mSv/y相当)であった(甲B203別表1の30頁)
。田村市内の空間線量率は,0.15~9.50μSv/h(0.58~49.79mSv/y相当)
,平均0.78~1.25μSv/h(3.89~
6.37mSv/y相当)であった(甲B203別表2)が,これは,田村市内の
旧避難指示解除準備区域,旧緊急時避難準備区域を含んだ数値である。田村市役所は田村市船引町船引字馬場(福島第一原発から約41km)の自主的避難等対象区域に所在し,平成26年10月に田村市船引町船引字畑添の新庁舎に移転したが,田村市の自主的避難等対象区域の公共サービス,生活関連サービスは,平成23年3月時点でも概ね継続されていたものと認められる(丙C79,259,
313~318)


平成24年1~8月の状況
旧田村市役所駐車場(現田村市図書館)を含む田村市の30km圏外12箇所の
平成24年4月1日から4月12日までの空間線量率は,0.08~0.50μSv/h(0.21~2.42mSv/y相当)であった(丙C71の2)。
平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告H-5
33の旧居住地の空間線量率は0.48μSv/h(2.32mSv/y相当)であった。田村市内の空間線量率は,0.13~2.60μSv/h(0.47~13.47mSv/y相当)
,平均0.58μSv/h(2.84mSv/y相当)
であった(甲B203別表2)が,これは,田村市内の旧避難指示解除準備区域,旧緊急時避難準備区域を含んだ数値である。

平成24年9月以降の状況

田村市の30km圏外12箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率は,0.05~0.39μSv/h(0~1.84mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)。
平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-533の旧居住地の空間線量率は0.27~0.36μSv/h(1.21~1.68mSv/y相当)であった(甲B203別表1の30頁)
。田村市内の空間線量率は0.06~
1.70μSv/h(0.11~8.74mSv/y相当)
,平均0.38~
0.44μSv/h(1.79~2.11mSv/y相当)であった(甲B203
別表2)が,これは,田村市内の旧避難指示解除準備区域,旧緊急時避難準備区域を含んだ数値である。
(13)

鏡石町
平成23年3月の状況

かがみいしまち

鏡石町役場(福島第一原発から約64km)の3月31日の空間線量率は0.49μSv/h(2.37mSv/y相当)であった(丙C91)。
鏡石町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
鏡石町役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.34~0.46
μSv/h(1.58~2.21mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

鏡石町を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-358の旧居住地は鏡石町であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.35μSv/h(1.63mSv/y相当)で
あり(甲B203別表1の51頁)
,鏡石町内の空間線量率は0.26~0.63
μSv/h(1.16~3.11mSv/y相当)
,平均0.40μSv/h

(1.89mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
鏡石町役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.2~
0.29μSv/h(0.8~1.32mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリング
までの結果から計算した原告T-358の旧居住地の空間線量率は0.20~0.33μSv/h(0.84~1.53mSv/y相当)であり(甲B203別表1の51頁)
,鏡石町内の空間線量率は0.15~0.66μSv/h(0.58~3.26mSv/y相当)
,平均0.26~0.39μSv/h(1.16~
1.84mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
鏡石町役場の平成24年1月31日から4月12日までの空間線量率は,
0.15~0.19μSv/h(0.58~0.79mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-3
58の旧居住地の空間線量率は0.18μSv/h(0.74mSv/y相当)であり(甲B203別表1の51頁)
,鏡石町内の空間線量率は0.17~0.40
μSv/h(0.68~1.89mSv/y相当)
,平均0.26μSv/h
(1.16mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
鏡石町役場の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率は,
0.07~0.13μSv/h(0.16~0.47mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~6,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-358の旧居住地の空間線量率は,0.12~0.15μSv/h(0.42~0.58mSv/y相
当)であり(甲B203別表1の51頁)
,鏡石町内の空間線量率は0.10~
0.30μSv/h(0.32~1.37mSv/y相当)
,平均0.15~
0.20μSv/h(0.58~0.84mSv/y相当)であった(甲B203別表2)

(14)

天栄村
平成23年3月の状況

てんえいむら

天栄村役場(福島第一原発から約72km)の3月31日の空間線量率は1.72μSv/h(8.84mSv/y相当)であった(丙C91)。
天栄村の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
天栄村役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は,1.26~1.78
μSv/h(6.42~9.16mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

天栄村を旧居住地とする原告らは複数おり,例えば,原告T-370の旧居住地
は天栄村であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.68μSv/h(3.37mSv/y相当)(甲B
203別表1の51頁)
,天栄村内の空間線量率は,0.33~1.70μSv/h
(1.53~8.74mSv/y相当)
,平均0.82μSv/h(4.11
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
天栄村役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.67~1
μSv/h(3.32~5.05mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-370の旧居住地の空間線量率は,0.66~1.00μSv/h(3.26~5.05mSv/y相当)
(甲B203別表1の5

1頁)
,天栄村内の空間線量率は,0.05~2.00μSv/h(0.05~10.32mSv/y相当)
,平均0.32~1.09μSv/h(1.47~
5.53mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
天栄村役場を含む1~8箇所の平成24年1月31日から4月12日までの空間
線量率は,0.03~0.54μSv/h(0~2.63mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-370の旧居住地の空間線量率は,0.91μSv/h(4.58mSv/y相当)(甲B203別表1の51頁)
,天栄村内の空間線量率は0.05~1.20
μSv/h(0.05~6.11mSv/y相当)
,平均0.35μSv/h
(1.63mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
天栄村内7~8箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線
量率は,0.03~0.30μSv/h(0~1.37mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~6,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-370の旧居住地の空間線量率は,0.41~0.63μSv/h(1.95~3.11mSv/y相
当)
(甲B203別表1の51頁)
,天栄村内の空間線量率は0.05~0.99
μSv/h(0.05~5.00mSv/y相当)
,平均0.27~0.53
μSv/h(1.21~2.58mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(15)

石川町
平成23年3月の状況

いしかわまち
石川町役場(福島第一原発から約60km)の平成23年3月31日の空間線量率は0.21μSv/h(0.89mSv/y相当)であった(丙C91)。

石川町による3月18日から3月31日までの放射能測定結果(測定場所不詳)は,0.19~0.75μSv/h(0.79~3.74mSv/y相当)であった(丙C120の1)

石川町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(丙C120の1・2)


平成23年4月の状況
石川町役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は0.15~0.22
μSv/h(0.58~0.95mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

石川町による4月1日から4月13日までの放射能測定結果(測定場所不詳)は,
0.16~0.22μSv/h(0.63~0.95mSv/y相当)であった(丙C120の1・3頁)

石川町を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-160の旧居住地は石川町であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.18μSv/h(0.74mSv/y相当)(甲
B203別表1の40頁)
,石川町内の空間線量率は0.12~0.51μSv/h
(0.42~2.47mSv/y相当)
,平均0.27μSv/h(1.21
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
石川町役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.1~
0.14μSv/h(0.3~0.53mSv/y相当)であった(丙C91)。
石川町が測定した,町内506箇所の7月20日から8月15日までの空間線量率は,0.10~0.27μSv/h(0.32~1.21mSv/y相当)であった(丙C120の2)

5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-160の旧居住地の空間線量率は0.14~
0.23μSv/h(0.53~1.00mSv/y相当)であり(甲B203別表1の40頁)
,石川町内の空間線量率は0.10~0.54μSv/h(0.32~2.63mSv/y相当)
,平均0.18~0.26μSv/h(0.74~
1.16mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
石川町役場を含む石川町内1~3箇所の平成24年1月31日から4月12日ま
での空間線量率は,0.15~0.19μSv/h(0.58~0.79mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-160の旧居住地の空間線量率は0.17μSv/h(0.68mSv/y相当)であり(甲B203別表1の40頁)
,石川町内の空間線量率は0.11~0.26
μSv/h(0.37~1.16mSv/y相当)
,平均0.18μSv/h
(0.74mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
石川町内3箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率
は,0.05~0.10μSv/h(0.05~0.32mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~6,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-160の旧居住地の空間線量率は,0.12~0.13μSv/h(0.42~0.47mSv/y相当)
(甲B203別表1の40頁)
,石川町内の空間線量率は0.05~0.26
μSv/h(0.05~1.16mSv/y相当)
,平均0.12~0.14
μSv/h(0.42~0.53mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(16)


玉川村
平成23年3月の状況

玉川村役場(福島第一原発から約60km)の3月31日の空間線量率は
0.28μSv/h(1.26mSv/y相当)であった(丙C91)。
福島県が測定した,玉川村に所在する福島空港の3月25日から3月31日の空間線量率は0.19~0.65μSv/h(0.79~3.21mSv/y相当)であった(丙C117)

玉川村の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧してい
たものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
玉川村役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は0.2~0.26
μSv/h(0.8~1.16mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

玉川村を旧居住地とする原告らは複数おり,例えば,原告T-389の旧居住地は玉川村であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.32μSv/h(1.47mSv/y相当)(甲B
203別表1の52頁)
,玉川村内の空間線量率は,0.14~0.59μSv/h

(0.53~2.89mSv/y相当)
,平均0.30μSv/h(1.37
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
玉川村役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.16~
0.2μSv/h(0.63~0.84mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリング
までの結果から計算した原告T-389の旧居住地の空間線量率は,0.16~0.31μSv/h(0.63~1.42mSv/y相当)
(甲B203別表1の5
2頁)
,玉川村内の空間線量率は,0.11~0.73μSv/h(0.37~3.63mSv/y相当)
,平均0.21~0.28μSv/h(0.89~
1.26mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況

玉川村役場を含む玉川村内1~4箇所の平成24年1月31日から4月12日までの空間線量率は,0.07~0.15μSv/h(0.16~0.58mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-389の旧居住地の空間線量率は0.19μSv/h(0.79mSv/y相当)であり(甲B203別表1の52頁)
,玉川村内の空間線量率は0.13~0.53
μSv/h(0.47~2.58mSv/y相当)
,平均0.22μSv/h
(0.95mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
玉川村内4箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率
は,0.05~0.13μSv/h(0.05~0.47mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~6,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-389の旧居住地の空間線量率は,0.12~0.14μSv/h(0.42~0.53mSv/y相当)
(甲B203別表1の52頁)
,玉川村内の空間線量率は,0.08~0.44
μSv/h(0.21~2.11mSv/y相当)
,平均0.15~0.18
μSv/h(0.58~0.74mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(17)


平田村
平成23年3月の状況

平田村役場(福島第一原発から約47km)の3月31日の空間線量率は0.23μSv/h(1.00mSv/y相当)であった(丙C91)。
平田村の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
平田村役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.18~0.23
μSv/h(0.74~1.00mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

平田村を旧居住地とする原告らは複数おり,例えば,原告H-343の旧居住地は平田村であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.29μSv/h(1.32mSv/y相当)(甲B
203別表1の20頁)
,平田村内の空間線量率は0.11~0.86μSv/h
(0.37~4.32mSv/y相当)
,平均0.34μSv/h(1.58
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
平田村役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.15~
0.22μSv/h(0.58~0.95mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-343の旧居住地の空間線量率は0.20~0.28μSv/h(0.84~1.26mSv/y相当)
(甲B203別表1の2
0頁)
,平田村内の空間線量率は0.12~0.91μSv/h(0.42~4.58mSv/y相当)
,平均0.23~0.33μSv/h(1.00~
1.53mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
平田村役場を含む平田村内1~6箇所の平成24年1月31日から4月12日ま
での空間線量率は,0.09~0.15μSv/h(0.26~0.58mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告H-343の旧居住地の空間線量率は0.23μSv/h(1.00mSv/y相当)(甲
B203別表1の20頁)
,平田村内の空間線量率は0.15~0.60μSv/h

(0.58~2.95mSv/y相当)
,平均0.22μSv/h(0.95
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成24年9月以降の状況
平田村内6箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率
は,0.06~0.12μSv/h(0.11~0.42mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日
第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-343の旧居住地の空間線量率は0.17~0.23μSv/h(0.68~1.00mSv/y相当)(甲B203別表1の20頁)
,平田村内の空間線量率は0.10~0.46
μSv/h(0.32~2.21mSv/y相当)
,平均0.15~0.17
μSv/h(0.58~0.68mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(18)

浅川町
平成23年3月の状況

あさかわまち

浅川町役場(福島第一原発から約67km)の3月31日の空間線量率は0.24μSv/h(1.05mSv/y相当)であった(丙C91)。
浅川町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧してい
たものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
浅川町役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.20~0.25
μSv/h(0.84~1.11mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

浅川町を旧居住地とする原告らは複数おり,例えば,原告T-176の旧居住地は浅川町であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.44μSv/h(2.11mSv/y相当)(甲B
203別表1の40頁)
,浅川町内の空間線量率は,0.20~0.58μSv/h

(0.84~2.84mSv/y相当)
,平均0.42μSv/h(2.00
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成23年5~12月の状況
浅川町役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.15~
0.2μSv/h(0.58~0.8mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-176の旧居住地の空間線量率は0.21~0.43μSv/h(0.89~2.05mSv/y相当)
(甲B203別表1の4
0頁)
,浅川町内の空間線量率は,0.17~0.61μSv/h(0.68~3.00mSv/y相当)
,平均0.22~0.41μSv/h(0.95~
1.95mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成24年1~8月の状況
浅川町役場を含む浅川町内1~4箇所の平成24年1月31日から4月12日ま
での空間線量率は,0.08~0.14μSv/h(0.21~0.53mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-176の旧居住地の空間線量率は0.21μSv/h(0.89mSv/y相当)(甲
B203別表1の40頁)浅川町内の空間線量率は,0.14~0.27,
μSv/h(0.53~1.21mSv/y相当)
,平均0.20μSv/h
(0.84mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
浅川町内4箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率
は,0.04~0.11μSv/h(0~0.37mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-176の旧居住地の空間線量率は0.15~0.16μSv/h(0.58~0.63mSv/y相当)(甲B203別表1の40頁)
,浅川町内の空間線量率は,0.11~0.22

μSv/h(0.37~0.95mSv/y相当)
,平均0.14~0.17
μSv/h(0.53~0.68mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(19)

古殿町
平成23年3月の状況

ふるどのまち

古殿町役場(福島第一原発から約56km)の3月31日の空間線量率は
0.24μSv/h(1.05mSv/y相当)であった(丙C91)。
古殿町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
古殿町役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.17~0.23
μSv/h(0.68~1.00mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

古殿町を旧居住地とする原告らは複数いるが,例えば,原告T-603の旧居住地は古殿町であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.46μSv/h(2.21mSv/y相当)(甲
B203別表1の64頁)
,古殿町内の空間線量率は0.17~1.30μSv/h
(0.68~6.63mSv/y相当)
,平均0.47μSv/h(2.26
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
古殿町役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.15~
0.2μSv/h(0.58~0.8mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-603の旧居住地の空間線量率は0.23~0.47μSv/h(1.00~2.26mSv/y相当)
(甲B203別表1の6
4頁)
,古殿町内の空間線量率は,0.05~1.00μSv/h(0.05~5.05mSv/y相当)
,平均0.28~0.45μSv/h(1.26~

2.16mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
古殿町役場を含む古殿町内1~7箇所のモニタリング地点の平成24年1月31
日から4月12日までの空間線量率は,0.07~0.23μSv/h(0.16~1.00mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)。
平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-603の旧居住地の空間線量率は0.24μSv/h(1.05mSv/y相当)(甲
B203別表1の64頁)古殿町内の空間線量率は,0.15~0.68,
μSv/h(0.58~3.37mSv/y相当)
,平均0.26μSv/h

(1.16mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
古殿町内7箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率
は,0.05~0.18μSv/h(0.05~0.74mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日
第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-603の旧居住地の空間線量率は0.16~0.18μSv/h(0.63~0.74mSv/y相当)(甲B203別表1の64頁)
,古殿町内の空間線量率は,0.08~0.57
μSv/h(0.21~2.79mSv/y相当)
,平均0.18~0.20
μSv/h(0.63~0.84mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(20)

三春町
平成23年3月の状況

みはるまち

三春町役場(福島第一原発から約48km)の3月31日の空間線量率は0.53μSv/h(2.58mSv/y相当)であった(丙C91)。
三春町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)



平成23年4月の状況
三春町役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は0.39~0.51
μSv/h(1.84~2.47mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

三春町を旧居住地とする原告らは複数いるが,例えば,原告H-524の旧居住
地は三春町であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.90μSv/h(4.53mSv/y相当)(甲
B203別表1の30頁)三春町内の空間線量率は,0.15~1.10,
μSv/h(0.58~5.58mSv/y相当)
,平均0.52μSv/h
(2.53mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
三春町役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.27~
0.84μSv/h(1.21~4.21mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-524の旧居住地の空間線量率は0.70~0.95μSv/h(3.47~4.79mSv/y相当)
(甲B203別表1の3
0頁)
,三春町内の空間線量率は,0.14~1.20μSv/h(0.53~6.11mSv/y相当)
,平均0.45~0.64μSv/h(2.16~
3.16mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成24年1~8月の状況
三春町役場を含む三春町内1~5箇所の平成24年1月31日から4月12日ま
での空間線量率は,0.15~0.39μSv/h(0.58~1.84mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告H-524の旧居住地の空間線量率は0.73μSv/h(3.63mSv/y相当)(甲
B203別表1の30頁)三春町内の空間線量率は,0.14~0.92,

μSv/h(0.53~4.63mSv/y相当)
,平均0.45μSv/h
(2.16mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
三春町内5箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率
は,0.07~0.32μSv/h(0.16~1.47mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~6,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-524の旧居住地の空間線量率は,0.47~0.64μSv/h(2.26~3.16mSv/y相
当)
(甲B203別表1の30頁)
,三春町内の空間線量率は,0.10~0.73
μSv/h(0.32~3.63mSv/y相当)
,平均0.28~0.35
μSv/h(1.26~1.63mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(21)

小野町
平成23年3月の状況

おのまち

小野町役場(福島第一原発から約39km)の3月31日の空間線量率は
0.19μSv/h(0.79mSv/y相当)であった(丙C91)。
小野町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
小野町役場の4月1日から4月30日までの空間線量率は,0.14~0.18
μSv/h(0.53~0.74mSv/y相当)であった(丙C71の1,丙C91)

小野町を旧居住地とする原告は原告T-2744のみであるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.48μSv/h(2.32mSv/y相当)
(甲B203別表1の183頁)

小野町内の空間線量率は,0.23~0.65μSv/h(1.00~3.21
mSv/y相当)
,平均0.35μSv/h(1.63mSv/y相当)であった
(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
小野町役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.1~
0.13μSv/h(0.3~0.47mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-2744の旧居住地の空間線量率は,0.28~0.47μSv/h(1.26~2.26mSv/y相当)
(甲B203別表1の1
83頁)
,小野町内の空間線量率は0.13~0.72μSv/h(0.47~
3.58mSv/y相当)
,平均0.27~0.34μSv/h(1.21~
1.58mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
小野町役場を含む小野町の1~5箇所の平成24年1月31日から4月12日ま
での空間線量率は,0.08~0.15μSv/h(0.21~0.58mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-2744の旧居住地の空間線量率は0.23μSv/h(1.00mSv/y相当)(甲B203別表1の183頁)
,小野町内の空間線量率は0.15~0.42
μSv/h(0.58~2.00mSv/y相当)
,平均0.22μSv/h

(0.95mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
小野町内5箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率
は,0.05~0.13μSv/h(0.05~0.47mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)

平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-2744の旧居住地の
空間線量率は0.16~0.18μSv/h(0.63~0.74mSv/y相当)
(甲B203別表1の183頁)
,小野町内の空間線量率は0.10~0.34
μSv/h(0.32~1.58mSv/y相当)
,平均0.15~0.16
μSv/h(0.58~0.63mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(22)

相馬市
平成23年3月の状況

相馬市中野寺前(福島第一原発から約42km)の3月17日から3月31日までの空間線量率は,0.7~3.5μSv/h(3.5~18.2mSv/y相当)であった(甲A25)

相馬市役所(福島第一原発から約42km)の3月31日の空間線量率は
0.65μSv/h(3.21mSv/y相当)であった(丙C91)。
相馬市役所南側庁舎が地震により使用不能となるなどしたものの,相馬市の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(丙C143の1~4)


平成23年4月の状況
相馬市中野寺前の4月1日から4月29日までの空間線量率は,0.3~1.1
μSv/h(1.4~5.6mSv/y相当)であった(甲A25)。
相馬市役所の4月30日の空間線量率は0.4μSv/h(1.9mSv/y相当)であった(丙C91)

相馬市を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-1の旧居住地は
相馬市であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.36μSv/h(1.68mSv/y相当)(甲B2
03別表1の31頁)
,相馬市内の空間線量率は0.05~4.00μSv/h
(0.05~20.84mSv/y相当)
,平均1.00μSv/h(5.05
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況

相馬市内1~4箇所の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.15~1.39μSv/h(0.58~7.11mSv/y相当)であった(丙C91)

相馬市内15箇所の7月15日の空間線量率は,0.136~0.767μSv/h(0.51~3.83mSv/y相当)であった(丙C143の3)。
相馬市が測定した,市内応急仮設住宅6箇所,災害廃棄物仮置場3箇所の7月13日の空間線量率は,0.09~0.17μSv/h(0.26~0.68mSv/y相当)であった(丙C143の3)

5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリング
までの結果から計算した原告T-1の旧居住地の空間線量率は0.34~0.44μSv/h(1.58~2.11mSv/y相当)
(甲B203別表1の31頁)

相馬市内の空間線量率は0.05~3.90μSv/h(0.05~20.32mSv/y相当)平均0.88~0.96μSv/h(4.42~4.84,
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成24年1~8月の状況
相馬市内4~14箇所の平成24年1月31日から4月12日までの空間線量率
は,0.12~0.90μSv/h(0.42~4.53mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-1の旧居住地の空間線量率は0.27μSv/h(1.21mSv/y相当)(甲B2
03別表1の31頁)
,相馬市内の空間線量率は0.05~2.10μSv/h
(0.05~10.84mSv/y相当)
,平均0.57μSv/h(2.79
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
相馬市内4~14箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間
線量率は,0.05~0.58μSv/h(0.05~2.84mSv/y相当)
であった(甲C69,丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)。
平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-1の旧居住地の空間線量率は0.16~0.24μSv/h(0.63~1.05mSv/y相当)(甲B
203別表1の31頁)
,相馬市内の空間線量率は0.05~1.50μSv/h
(0.05~7.68mSv/y相当)
,平均0.36~0.45μSv/h
(1.68~2.16mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(23)

新地町
平成23年3月の状況

しんちまち

新地町役場(福島第一原発から約52km)の3月31日の空間線量率は
0.45μSv/h(2.16mSv/y相当)であった(丙C91)。
新地町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(弁論の全趣旨)


平成23年4月の状況
新地町役場の4月30日の空間線量率は0.29μSv/h(1.32
mSv/y相当)であった(丙C91)

新地町を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告H-23の旧居住地は新地町であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.24μSv/h(1.05mSv/y相当)(甲B
203別表1の2頁)
,新地町内の空間線量率は0.17~0.57μSv/h
(0.68~2.79mSv/y相当)
,平均0.31μSv/h(1.42
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成23年5~12月の状況
新地町役場の5月31日から12月31日までの空間線量率は,0.17~
0.21μSv/h(0.68~0.89mSv/y相当)であった(丙C91)。
5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリング
までの結果から計算した原告H-23の旧居住地の空間線量率は0.22~0.35μSv/h(0.95~1.63mSv/y相当)であり(甲B203別表1の2頁)
,新地町内の空間線量率は0.05~0.63μSv/h(0.05~3.11mSv/y相当)
,平均0.30~0.41μSv/h(1.37~
1.95mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年1~8月の状況
新地町役場を含む新地町の1~2箇所の平成24年1月31日から4月12日ま
での空間線量率は,0.16~0.20μSv/h(0.63~0.84mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告H-2
3の旧居住地の空間線量率は0.20μSv/h(0.84mSv/y相当)であり(甲B203別表1の2頁)
,新地町内の空間線量率は0.05~0.44
μSv/h(0.05~2.11mSv/y相当)
,平均0.26μSv/h
(1.16mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


平成24年9月以降の状況
新地町内2箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率
は,0.06~0.15μSv/h(0.11~2.2mSv/y相当)であった(甲C69,丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)。
平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告H-23の旧居住地の空間線量率は,0.14~0.16μSv/h(0.53~0.63mSv/y相当)(甲B203別表1の2頁)
,新地町内の空間線量率は,0.05~0.35
μSv/h(0.05~1.63mSv/y相当)
,平均0.17~0.21
μSv/h(0.68~0.89mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。

(24)

いわき市
いわき市の概況

いわき市のうち,福島第一原発から30km圏内の区域(久之浜町,大久町,小川町,川前町の一部)は,3月15日,屋内待避区域に指定された(丙C27)。
いわき市長は,3月11日,市内沿岸部全域に避難指示を出し,3月13日,30km圏内である久之浜・大久地区,小川・川前地区の一部の住民に対し,自主的な避難を要請した(甲B1の1本文編281頁,丙C272・2頁,丙C273・6頁)
。3月25日には,屋内退避区域において物流が止まるなどし,社会生活の維持継続が困難となりつつあり,また,今後の事態の推移によっては,放射線量が増大し,避難指示を出す可能性も否定できないとして,政府(官房長官)からも屋内退避区域の住民に対し自主的な避難を要請した(甲B1の1本文編271頁)。
いわき市の30km圏内の屋内退避区域の指定は,4月22日に解除され,同区
域は緊急時避難準備区域には指定されなかった(丙C8,27)

いわき市の30km圏外の区域は,自主的避難等対象区域である。イ
平成23年3月の状況
たいら

30km圏外のいわき市平字梅本に所在する福島県いわき合同庁舎駐車場では,3月15日に23.72μSv/h(124.63mSv/y相当),3月21日に
6.00μSv/h(31.37mSv/y相当)といった,20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されている(丙C141の2,丙C273,308)。
いわき市の30km圏外8箇所の3月31日の空間線量率は,0.39~1.46μSv/h(1.84~7.47mSv/y相当)であった(丙C91)。
いわき市では,本件地震により,市内ほぼ全域での断水,2万0670戸の停電,
1万5309戸でのガス供給停止などが発生し,さらに,4月11日の余震により市内ほぼ全域の19万9731戸が停電するなどしたが,いわき市の30km圏外での公共サービス,生活関連サービスは,平成23年4月頃までには概ね復旧していたものと認められる(丙C141の1~4,丙C272~275,308)。

平成23年4月の状況
福島県いわき合同庁舎駐車場の4月1日の空間線量率は,0.69μSv/h
(3.42mSv/y相当)であった(丙C308)

いわき市の30km圏外8箇所の4月30日の空間線量率は,0.11~0.62μSv/h(0.37~3.05mSv/y相当)であった(丙C91)。
いわき市を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-344の旧居住地はいわき市の自主的避難等対象区域であるが,4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.55μSv/h(2.68mSv/y相当)であった(甲B203別表1の50頁)。いわき市内の
空間線量率は0.05~4.50μSv/h(0.05~23.47mSv/y相当)
,平均0.68μSv/h(3.37mSv/y相当)であるが(甲B203別
表2)
,これは,30km圏内の旧屋内待避区域を含んだ数値である。

平成23年5~12月の状況
福島県いわき合同庁舎駐車場の5月1日から12月1日までの空間線量率は,
0.17~0.28μSv/h(0.68~1.26mSv/y相当)であった(丙C308)

いわき市の30km圏外9箇所の5月31日から12年31日までの空間線量率は,0.09~0.59μSv/h(0.26~2.89mSv/y相当)であった(丙C91)

いわき市が測定した,いわき市役所久之浜・大久支所を除く30km圏外の,いわき市役所本庁舎(福島第一原発から約43km)
・支所合計12箇所の6月19日

から8月18日の空間線量率(地上1m)は,0.08~0.41μSv/h(0.21~1.95mSv/y相当)
,福島県いわき合同庁舎駐車場で0.19~
0.24μSv/h(0.79~1.05mSv/y相当)であった(丙C141の2,丙C273,274)

5月26日第2次航空機モニタリングから11月5日第4次航空機モニタリング
までの結果から計算した原告T-344の旧居住地の空間線量率は0.23~0.53μSv/h(1.00~2.58mSv/y相当)であった(甲B203
別表1の50頁)いわき市内の空間線量率は0.05~4.70μSv/h。
(0.05~24.53mSv/y相当)
,平均0.48~0.66μSv/h
(2.32~3.26mSv/y相当)であるが(甲B203別表2),これは,
30km圏内の旧屋内待避区域を含んだ数値である。

平成24年1~8月の状況
いわき市の30km圏外8箇所の平成24年1月31日から4月12日までの空
間線量率は,0.21~0.57μSv/h(0.89~2.79mSv/y相当)であった(丙C71の2,丙C91)

いわき市が測定した,30km圏内を含む市内876地点の平成24年1月26日から2月9日までの空間線量率は,全て0.99μSv/h(5.00mSv/y相当)未満であった(丙C275)

いわき市が測定した,いわき市役所久之浜・大久支所を除く30km圏外15箇所の平成24年8月21日の空間線量率(地上1m)は,0.08~0.22μSv/h(0.21~0.95mSv/y相当)であった(丙C141の3)。
平成24年6月28日第5次航空機モニタリングの結果から計算した原告T-3
44の旧居住地の空間線量率は0.22μSv/h(0.95mSv/y相当)であった(甲B203別表1の50頁)
。いわき市内の空間線量率は0.05~
3.20μSv/h(0.05~16.63mSv/y相当)
,平均0.36
μSv/h(1.68mSv/y相当)であるが(甲B203別表2),これは,
30km圏内の旧屋内待避区域を含んだ数値である。

平成24年9月以降の状況
30km圏内のいわき市末続集会所,志田名集会所,旧戸渡分校,いわき市海竜
の里センターを除く,いわき市の30km圏外51箇所の平成25年4月1日から平成29年3月2日までの空間線量率は,0.03~0.31μSv/h(0~1.42mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の3~5,丙C202,211)


平成24年12月28日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した原告T-344の旧居住地の空間線量率は0.16~0.17μSv/h(0.63~0.68mSv/y相当)であった(甲B203別表1の50頁)
。いわき市内の空間線量率は0.03~
2.65μSv/h(0~13.74mSv/y相当)
,平均0.25~0.27
μSv/h(1.11~1.21mSv/y相当)であるが(甲B203別表2),
これは,30km圏内の旧屋内待避区域を含んだ数値である。
(25)

損害額
自主的避難等対象区域旧居住者の精神的苦痛は賠償に値すること

前記4の低線量被曝に関する知見等,前記5の社会的事実等に加え,上記(2)~
(24)の市町村ごとの状況を総合すると,自主的避難等対象区域旧居住者の抱いた放射線被曝に対する不安や日常生活の阻害による精神的苦痛は,たとえ旧居住地の空間線量率が20mSv/yに達しないとしても,賠償に値するものと認められる(丙A3・5~7頁)


避難者と滞在者の賠償額は同額とするのが相当であること
滞在者であっても放射線被曝に対する不安や放射線被曝を避けるための日常生活
の阻害を被っていること,自主的避難を実行するか否かは,生業の状況,家族の状況,経済的状況など諸般の事情と関連し,必ずしも旧居住地の空間線量率の程度や精神的苦痛の程度に相関しているわけではないことなどから,自主的避難等対象区域からの避難者と自主的避難等対象区域の滞在者の賠償額は同額とするのが相当である(丙A3・7頁)

また,中間指針第一次追補が,福島県全域から線量の比較的低い県南地域と会津地域を除いた,県北地域,県中地域,相双地域,いわき地域の23市町村を自主的避難等対象区域として区分したことには合理性が認められるから,これら自主的避
難等対象区域旧居住者の賠償額は同額とするのが相当である。

平成23年3~4月の損害

そこで,さらに進んで自主的避難等対象区域旧居住者の損害額について検討するに,平成23年3月時点で,福島市,桑折町,川俣町,郡山市,いわき市といった,人口においても面積においても自主的避難等対象区域を代表するといえる地域の放射線モニタリング地点で20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていたこと,平成23年4月時点においても,福島市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,川俣町,郡山市といった地域において,20mSv/y相当値は下回るものの10mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていたことなどからすると,本件事故発生当初の時期(平成23年3~4月)における自主的避難等対象区域旧居住者の抱いた放射線被曝に対する不安,今後の本件事故の進展に対する不安は,
一律に当該地域からの避難や屋内退避を必要とするほどのものではなかったとしても,旧緊急時避難準備区域,旧特定避難勧奨地点,旧一時避難要請区域といった必ずしも避難が強制されるものでない区域の旧居住者の抱いた不安に比して大きく劣るものではなく,避難の必要性や可能性を検討し,実際に避難することもやむを得ない選択の一つであったといえる。同時に,様々な事情により避難するという選択
が困難であった旧居住者もいるところ,そのような選択をすること自体も困難を強いられたものであり,また,避難せずにそのまま居住することも容易な状況ではなかったというべきである。これらの事情に鑑みれば,平成23年3月,4月の2か月につき各8万円(合計16万円)の賠償を認めるのが相当である。このときの比較的高い線量は一時的なものであり,後に見れば客観的に避難等が
不可欠な状況であったとは必ずしもいえないとしても,本件事故発生直後の時期の自主的避難等対象区域旧居住者の抱いた放射線被曝に対する不安,今後の本件事故の進展に対する不安が16万円程度の賠償に値するとの上記判断は左右されない。エ
平成23年5~12月の損害
平成23年5~12月時点においても,福島市,二本松市,伊達市,桑折町と
いった相当の人口,面積を有する範囲において,20mSv/y相当値は下回るものの,10mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていたこと,収束宣言
により福島第一原発の冷温停止の達成が確認されたのが12月16日であること(丙C12)などからすると,平成23年5~12月における自主的避難等対象区域旧居住者の抱いた放射線被曝に対する不安,今後の本件事故の進展に対する不安は,本件事故発生当初の平成23年3~4月時点と同様とはいえないまでも,引き続き賠償に値するものというべきであり,その額は,平成23年5~12月の8か月を包括して8万円(3~4月の16万円と合わせて累計24万円。「中間指針等に
よる賠償額」である8万円を超える損害は16万円)と認めるのが相当である。また,上記事情によれば,自主的避難等対象区域旧居住者の不安が賠償に値するのは,子供・妊婦に限られるものではないというべきである。


平成24年1月以降の損害
平成24年1月以降については,概ね空間線量率も5mSv/yを下回るように
なり,なお福島市役所において5mSv/yを超える空間線量率が計測されていたこと,自主的避難者,滞在者双方において,引き続き放射線被曝に対する不安を抱いていた者が少なくないとうかがわれることなどを考慮しても,子供・妊婦以外の自主的避難等対象区域旧居住者に賠償すべき損害があるとは認められない。カ
子供・妊婦の損害
3月11日から12月31日までの期間に子供・妊婦であった者は,中間指針等
により40万円の賠償が認められている。
上記ウ~エで子供・妊婦以外の者には合計24万円の賠償を認めたところ,子供は成人に比して放射線感受性が強いとされていることから,自主的避難等対象区域を旧居住地とする子供及び妊婦は,放射線被曝に対する不安,今後の本件事故の進展に対する不安により,成人よりも強い精神的苦痛を感じたものと認められ,その賠償額を成人よりも高額なものとすることには合理性が認められるが,その額が「中間指針等による賠償額」である40万円を超えるとまでは認められない。
平成24年1月1日から8月31日までの期間に子供・妊婦であった者(例えば,原告H-298は,平成24年5月7日,原告H-350が福島市から山形県に避
難中に出産した子供であり,原告T-1857は,平成24年1月18日,原告T-1856が出産した子供であった。
)は,中間指針等により8万円の賠償が認めら
れているところ,これを超える損害があるとは認められない(原告H-350,T-1856は,平成23年12月31日の前後を通じて妊娠していたと認められるから,
「中間指針等による賠償額」は48万円であるところ,これを超える損害があるとは認められない。原告T-1515は平成25年3月18日に長女を,原告T-1565)は平成25年2月3日に原告T-1566を,それぞれ出産し,いずれも平成24年8月31日までに妊娠していたと認められ,
「中間指針等による賠償
額」は16万円であるところ,平成23年3~12月分につき「中間指針等による
賠償額」を超える損害として16万円を認める。。

平成24年9月1日以降に妊娠した者(例えば,原告H-343は,平成27年5月13日に長女を,原告H-492は平成26年3月14日に原告H-495を,原告T-46は平成26年3月15日に長男を,それぞれ出産している。)について
は,
「中間指針等による賠償額」は8万円であるところ,賠償額としては子供・妊婦
以外の者と同様の24万円(中間指針等による賠償額」を超える損害は16万円)「
を認め,これを超える損害があるとは認められない。
平成24年9月1日以降に出生した者(例えば,原告H-295は,平成25年6月20日,原告H-74が伊達市から山形県に避難中に出産した子供であり,原告H-495は,平成26年3月14日,原告H-492が田村市から沖縄県に避
難中に出産した子供であり,原告T-1095は,平成24年9月19日,原告T-656が出産した子供であり,原告T-2731は,平成26年5月12日,原告T-3154が出産した子供である。
)については,賠償すべき損害があるとは認
められない(原告H-74は,平成24年8月31日までに妊娠していた期間があれば「中間指針等による賠償額」は16万円,それ以降の妊娠であれば「中間指針
等による賠償額」は8万円であるが,いずれにせよ,
「中間指針等による賠償額」を
超える賠償額として16万円を認める。原告T-656は,平成23年12月31
日の前後を通じて妊娠していたと認められるから,
「中間指針等による賠償額」は4
8万円であるところ,これを超える損害があるとは認められない。原告T-3154は,平成23年12月19日,原告T-2730を出産し,
「中間指針等による賠
償額」は40万円であるところ,これを超える損害があるとは認められない。。)

中間指針第一次追補について
中間指針第一次追補は,子供・妊婦以外の自主的避難等対象区域旧居住者の賠償
額の目安を8万円としている(丙A3・5~8頁,丙A7・12,13頁)。
これは,①賠償時期を本件事故発生当初の時期(3月11日から4月22日頃まで)に限定し,かつ,②旧屋内退避区域滞在者の賠償額を,屋内退避区域解除(4月22日)までの損害として10万円としたこと(丙A2・17~19,23頁)からこの額を事実上の上限として考慮していたこと(丙A29・22~23頁)によるものと認められる。
しかし,上記認定のとおり,子供・妊婦以外の自主的避難等対象区域旧居住者の損害について①の賠償時期を4月22日頃までに限るべきではなく,この点におい
て既に中間指針第一次追補による賠償額の評価は不十分であるといえる。そして,②の点についても,自主的避難等対象区域旧居住者の賠償額が,屋内退避を強いられた旧屋内退避区域滞在者の賠償額を超えないこと自体は是認できるものの,旧屋内退避区域旧居住者の賠償額は,自主賠償基準において,自主的避難の有無を問わず,平成23年3月から9月まで月額10万円の7か月分70万円を認
めているところであるから(丙C19,20)
,旧屋内退避区域滞在者の賠償額が1
0万円であることを前提とする必要はない。
当裁判所の認定によれば,旧屋内退避区域滞在者の損害は少なくとも70万円(子供・妊婦以外の旧一時避難要請区域旧居住者の損害は,前記認定のとおり総額73万円)
,子供・妊婦以外の自主的避難等対象区域旧居住者の損害は総額24万円
であるから,自主的避難等対象区域旧居住者の賠償額は,旧屋内退避区域滞在者の賠償額を超えるものではない。


原告らの主張について
原告らは,①客観的な被曝の程度(地域汚染の程度)とそれによる健康影響リス
クについての科学的知見,②広範な地域汚染により,飲食物の摂取制限など様々な社会的影響の広がりがあること,③将来の健康影響の発現をおそれる心理的メカニズムの存在,④原告らと同様の被曝回避措置を取った住民が多数存在すること,⑤避難等対象区域外(年間20mSvを下回る地域)でも除染特措法による除染が行われ,かつ原子力損害として被告東電が費用負担を行っていること,⑥本件事故惹起について被告らに有責性(悪質性)があり,他方で原告らには何らの帰責性もないにもかかわらず,原告らは望まない被曝,社会的有益性のない被曝を余儀なくさ
れていること(被害の非対称性,非互換性)などを考慮すれば,避難指示等対象区域外の原告らにも,
「中間指針等による賠償額」を超える損害として月額5万円の損
害が発生している,と主張する(原告ら最終準備書面(第4分冊)77~91頁)。
しかし,上記①~⑥の事情の存在(ただし,当裁判所は,①低線量被曝による健康への影響に関して特定の見解を正当なものと判断するものではない。)を考慮して

も,子供・妊婦以外の自主的避難等対象区域旧居住者の損害は24万円程度,子供・妊婦である自主的避難等対象区域旧居住者の損害は48万円程度と認めるのが相当であり,これを超える損害が発生しているとは認められない。(26)

自主的避難等対象区域旧居住者の損害のまとめ

以上によれば,子供・妊婦以外の自主的避難等対象区域旧居住者(平成24年1月以降に妊娠した妊婦を含む。
)については,
「中間指針等による賠償額」を超える
損害として16万円を認める。
子供及び妊婦(中間指針等の対象期間において子供及び妊婦であった者)については,
「中間指針等による賠償額」を超える損害は認められない。
14

旧居住地が県南地域(白河市,西郷村,泉崎村,中島村,矢吹町,棚倉町,
矢祭町,塙町,鮫川村)及び宮城県丸森町である原告らについて
(1)

県南地域,宮城県丸森町の概況

中間指針等では,これらの地域は賠償の対象とされていない。自主賠償基準は,しらかわし

にしごうむら

いずみざきむら

なかじまむら

やぶきまち

たなぐらまち

やまつりまち

はなわまち

県南地域(白河市,西郷村,泉崎村,中島村,矢吹町,棚倉町,矢祭町,塙町,さめがわむら

まるもりまち

鮫川村)
,宮城県丸森町に居住していた子供及び妊婦について,3月11日から12月31日までの精神的損害に対し20万円を,平成24年1月1日から8月31日までの精神的損害に対し4万円を,それぞれ賠償することとしているが,子供・妊婦以外の者は賠償の対象とされていない(丙C22~24)

(2)

県南地域の状況
県南地域の平成23年3月の状況

県南地域である白河市に所在する県南合同庁舎の3月11日から3月14日までの空間線量率は0.06~0.09μSv/h(0.11~0.26mSv/y相当)であったが,3月15日には7.56μSv/h(39.58mSv/y相当)
,3月16日には4.1μSv/h(21.4mSv/y相当)といった,20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていた(甲C157資料1,丙C148の2・8頁)

白河市の県南合同庁舎の3月17日から3月31日までの空間線量率は,
0.80~3.7μSv/h(4.00~19.3mSv/y相当)であった(甲C157資料3・11,丙C148の2・8頁)

県南地域の市町村の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(丙C110の1~10,丙C145,丙C148の1~6,弁論の全趣旨)


県南地域の平成23年4月の状況
白河市の県南合同庁舎の4月1日から4月19日までの空間線量率は,0.67
~0.78μSv/h(3.32~3.89mSv/y相当)であった(丙C148の2・8頁)

鮫川村役場,西郷村役場,泉崎村役場,中島村役場,矢吹町役場,棚倉町役場,矢祭町役場,塙町役場の4月11日の空間線量率は,0.15~0.81
μSv/h(0.58~4.05mSv/y相当)であった(甲C157資料21)

4月29日第1次航空機モニタリングの結果から計算した県南地域の空間線量率は0.05~1.40μSv/h(0.05~7.16mSv/y相当),平均
0.13~0.81μSv/h(0.47~4.05mSv/y相当)であった(甲B203別表2)
。これは,非生活圏である山林などを含んだ数値である。

平成23年5~12月の状況
西郷村が測定した,西郷村役場の5月23日から6月13日までの空間線量率は
0.58~0.65μSv/h(2.84~3.21mSv/y相当)であった(丙C110の4)

おもてごう

たいしん

白河市表郷庁舎,白河市大信庁舎,白河市東庁舎,矢吹町役場,西郷村役場,泉崎村役場,中島村役場,棚倉町役場,塙町役場,矢祭町役場,鮫川村役場の6月9日から12月28日までの空間線量率は,0.10~0.91μSv/h(0.32~3.21mSv/y相当)であった(甲C157資料52・87・94~96・102・105・108・109・113~115・117・119~122・125~127・129・132~135・137~142・144~146・148~150・152・155・156・158・160・164・169・172・176・182・183・185・187)

県南地域を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-2228の旧
居住地は西郷村であるが,5月26日第2次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.48μSv/h(2.32mSv/y相当)
(甲B203別表1の154頁)
,5月26日第2次航空機モニタリングから1
1月5日第4次航空機モニタリングまでの結果から計算した県南地域の空間線量率は0.05~1.80μSv/h(0.05~9.26mSv/y相当),平均

0.11~0.95μSv/h(0.37~4.79mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成24年1~8月の状況
白河市表郷庁舎,白河市大信庁舎,白河市東庁舎,矢吹町役場,西郷村役場,泉
崎村役場,中島村役場,棚倉町役場,塙町役場,矢祭町役場,鮫川村役場の平成24年1月4日の空間線量率は,0.10~0.61μSv/h(0.32~3.00mSv/y相当)であった(甲C157資料190)

白河市役所本庁,大信庁舎,表郷庁舎,東庁舎の平成24年4月1日から平成28年2月1日までの空間線量率は,0.048~0.301μSv/h(0.04~1.37mSv/y相当)であった(丙C147)

原告T-2228の旧居住地の平成24年6月28日第5次航空機モニタリング
の結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.46μSv/h(2.21mSv/y相当)
(甲B203別表1の154頁)
,県南地域の空間線量
率は0.05~1.10μSv/h(0.05~5.58mSv/y相当),平均
0.14~0.47μSv/h(0.53~2.26mSv/y相当)であった(甲B203別表2)



平成24年9月以降の状況
県南地域50箇所の平成24年9月3日から平成29年3月2日までの空間線量
率は,0.05~0.44μSv/h(0.05~2.11mSv/y相当)であった(甲C157資料312,丙C202,211)

原告T-2228の旧居住地の平成24年12月28日第6次航空機モニタリングの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.40μSv/h(1.89mSv/y相当)
(甲B203別表1の154頁)
,平成24年12月2
8日第6次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した県南地域の空間線量率は0.05~0.88μSv/h(0.05~4.42mSv/y相当)
,平均0.10~0.48

μSv/h(0.32~2.32mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
(3)

県南地域旧居住者の損害


平成23年3~12月の損害
県南地域においても,平成23年3月時点で白河市において20mSv/y相当
値を超える空間線量率が計測されていたことなどを考慮すると,県南地域旧居住者の抱いた放射線被曝に対する不安,今後の本件事故の進展に対する不安は,自主的避難等対象区域旧居住者と同様とはいえないまでも,なお賠償に値するものというべきであり,その額は,平成23年3月11日から12月31日までの10か月間を包括して10万円(中間指針等による賠償額」は0円であるから,「
「中間指針等
による賠償額」を超える損害も10万円)と認めるのが相当である。イ
平成24年1月以降の損害
平成24年1月以降については,概ね空間線量率も5mSv/yを下回っていた
ことなどを考慮すると,子供・妊婦以外の県南地域旧居住者に賠償すべき損害があるとは認められない。

子供・妊婦について
自主賠償基準により,県南地域旧居住者で3月11日から12月31日までの期
間に子供・妊婦であった者(例えば,原告H-215は,平成23年12月1日出生した子供であった。
)に対し20万円の,平成24年1月1日から8月31日まで
の期間に子供・妊婦であった者に対し4万円の賠償が認められているところ(丙C22,24)
,これを超える損害があるとは認められない。
(4)

宮城県丸森町の状況
いぐ
まるもりまち

宮城県伊具郡丸森町は,福島県外であるにもかかわらず線量が他の区域と比較して相対的に高いために自主賠償基準において子供・妊婦に対する賠償の対象区域とされたものと思われるが,丸森町の空間線量率が高かったことを示すモニタリング結果は証拠として提出されていない。
宮城県の測定した,丸森町の12月31日の空間線量率は,0.23μSv/h
(1.00mSv/y相当)であった(丙C286)

原告T-1401,T-1950~1956の旧居住地は宮城県丸森町であると
ころ,4月29日第1次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した同原告らの旧居住地の空間線量率は,0.18~0.44μSv/h(0.74~2.11mSv/y相当)(甲B203
別表1の108,139頁)丸森町内の空間線量率は0.09~2.20,
μSv/h(0.26~11.37mSv/y相当)
,平均0.27~0.65
μSv/h(1.21~3.21mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。
これは,非生活圏である山林などを含んだ数値である。
宮城県丸森町の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね復旧していたものと認められる(丙C286,弁論の全趣旨)


(5)

宮城県丸森町旧居住者の損害

自主賠償基準により,宮城県丸森町旧居住者で3月11日から12月31日までの期間に子供・妊婦であった者に対し20万円の,平成24年1月1日から8月31日までの期間に子供・妊婦であった者に対し4万円の賠償が認められているところ(丙C23,24)
,子供・妊婦につき,これを超える損害があるとは認められな
い。
そして,宮城県丸森町の生活圏の空間線量率が概ね5mSv/y相当値を下回っていたことなどからすれば,子供・妊婦以外の者について,賠償すべき損害があるとは認められない。
(6)

県南地域,宮城県丸森町旧居住者の損害のまとめ

以上によれば,子供・妊婦以外の県南地域旧居住者については,
「中間指針等によ
る賠償額」を超える損害として10万円を認める。
子供・妊婦である県南地域旧居住者及び宮城県丸森町旧居住者(子供・妊婦であるか否かを問わない。
)については,
「中間指針等による賠償額」を超える損害は認
められない。

15
(1)

旧居住地がこれらの区域外である原告らについて
会津地域


会津地域の状況
にしあいづまち

ばんだいまち

いなわしろまち

会津地域(会津若松市,喜多方市,北塩原村,西会津町,磐梯町,猪苗代町,あいづばんげまち

やないづまち

みしままち

かなやままち

しもごうまち

会津坂下町,湯川村,柳津町,三島町,金山町,昭和村,会津美里村,下郷町,ひのえまたむら

ただみまち

みなみあいづまち

檜枝岐村,只見町,南会津町)は,中間指針等による賠償の対象とされていない。会津若松市に所在する会津合同庁舎,南会津町に所在する南会津合同庁舎の空間線量率は,3月15日には1.08~1.18μSv/h(5.47~6.00mSv/y相当)であったが(甲C157資料1)
,3月16日には0.09~
0.44μSv/h(0.26~2.11mSv/y相当)に落ち着いていた(甲C157資料2)


南会津町役場南郷総合支所,伊南総合支所,舘総合支所,下郷町役場,只見町役場,檜枝岐村役場の6月1日から10月11日までの空間線量率は,0.05~0.17μSv/h(0.05~0.68mSv/y相当)であった(丙C90の1・2)

会津地域のモニタリング地点の平成24年4月1日から平成29年3月2日まで
の空間線量率は,0.02~0.19μSv/h(0~0.79mSv/y相当)であった(丙C56,丙C71の2~5,丙C202,211)

会津地域を旧居住地とする原告らは相当数おり,例えば,原告T-1592の旧居住地は会津坂下町であるが,平成24年6月28日第5次航空機モニタリングから平成24年12月28日第6次航空機モニタリングまでの結果から計算した同原
告の旧居住地の空間線量率は0.16μSv/h(0.63mSv/y相当)(甲B
203別表1の119頁)
,4月29日第1次航空機モニタリングから平成25年1
1月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した会津地域の空間線量率は0.04~0.74μSv/h(0~3.68mSv/y相当),平均0.06
~0.28μSv/h(0.11~1.26mSv/y相当)であった(甲B20
3別表2)

会津地域の市町村の公共サービス,生活関連サービスは,本件事故直後から概ね
復旧していたものと認められる(丙C138の1~3,弁論の全趣旨)。

会津地域旧居住者の損害
会津地域の空間線量率が,3月15日の最も高かったときでも5mSv/y相当
値をわずかに上回る程度であり,その後は概ね5mSv/y相当値を下回っていたことなどからすると,会津地域旧居住者が被曝による健康影響に対する不安,今後の本件事故の進展に対する不安,被曝回避措置による生活上の支障などを感じていたとしても,賠償すべき損害があるとは認められない。
成人よりも放射線感受性が強いとされる子供・妊婦(例えば,原告T-1592は,12月25日に原告T-1595を出産した妊婦であった。
)についても,上記

状況によれば,賠償すべき損害があるとは認められない。
(2)

宮城県(丸森町を除く。

宮城県の概況

宮城県のうち丸森町は,子供・妊婦のみ自主賠償基準による賠償の対象となっているが,その余の区域は,中間指針(追補を含む。
)でも自主賠償基準でも賠償の対
象とされていない。

宮城県の状況
宮城県仙台市における空間線量率は,平成23年3月11日から平成24年10
月31日まで,1mSv/y相当値(0.23μSv/h)を下回っている(乙B173・18頁)

宮城県の測定した,丸森町を除く宮城県各市町村の平成23年12月1日の空間線量率は,0.06~0.17μSv/h(0.11~0.68mSv/y相当)であった(丙C286)

しろいしし

宮城県白石市内147箇所の3月9日から平成24年5月1日までの空間線量率は,0.09~0.67μSv/h(0.26~3.32mSv/y相当)であった(丙C121の4)
。白石市内168箇所の空間線量率は,平成24年に0.09
~0.70μSv/h(0.26~3.47mSv/y相当)
,平成25年に

0.06~0.44μSv/h(0.11~2.11mSv/y相当),平成26年
に0.06~0.27μSv/h(0.11~1.21mSv/y相当),平成27
年に0.05~0.25μSv/h(0.05~1.11mSv/y相当)であった(丙C121の5・7・8)

原告H-29~31,H-39,T-2747の旧居住地は宮城県仙台市泉区,
原告H-526~529,T-410,T-2387の旧居住地は宮城県仙台市宮城野区,原告T-1866の旧居住地は宮城県仙台市青葉区,原告T-2748の旧居住地は宮城県仙台市太白区,原告T-3190の旧居住地は宮城県仙台市若林わたり

やまもとちよう

区,原告H-320の旧居住地は宮城県亘理郡山元町,原告H-315,H-355の旧居住地は宮城県名取市,原告H-329,T-2386の旧居住地は宮城県しおがまし

おしか

おながわちよう

塩竈市,原告H-471の旧居住地は宮城県牡鹿郡女川町,原告T-238~241,T-244~246,T-892,T-941,T-1433,T-2050,しろいしし

2051,T-2830の旧居住地は宮城県白石市,原告T-1434の旧居住地しばたまち

は宮城県柴田郡柴田町,原告T-1435,T-2746の旧居住地は宮城県柴田おおがわらまち
郡大河原町,原告T-1436の旧居住地は宮城県多賀城市である。例えば,原告T-1433の旧居住地は宮城県白石市であるが,4月29日第1次航空機モニタリングから平成25年11月19日第8次航空機モニタリングまでの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.11~0.32μSv/h(0.37~1.5mSv/y相当)
(甲B203別表1の110頁)


丸森町を除く宮城県内の空間線量率は0.04~1.30μSv/h(0~6.6mSv/y相当)平均0.05~0.39μSv/h(0.05~1.84,
mSv/y相当)であった(甲B203別表2)

宮城県各市町村(丸森町を除く。
)の公共サービス,生活関連サービスは,本件地
震及び本件津波の影響はともかく,本件事故の影響があったとは認められない(丙
C286,弁論の全趣旨)


宮城県旧居住者の損害

宮城県内の空間線量率は概ね5mSv/y相当値を下回っていたことなどを考慮すると,宮城県(丸森町を除く。
)旧居住者が被曝による健康影響に対する不安,今
後の本件事故の進展に対する不安,被曝回避措置による生活上の支障などを感じていたとしても,賠償すべき損害があるとは認められない。

子供・妊婦の損害
成人よりも放射線感受性が強いとされる子供・妊婦(例えば,原告H-529は,
平成19年12月9日生の子供であった。
)についても,上記状況によれば,賠償す
べき損害があるとは認められない。
(3)

茨城県
茨城県の状況

茨城県水戸市に所在する大場固定観測局(地上3.5m)では,3月15日に3.63μSv/h(18.9mSv/y相当)
,3月21日に1.59μSv/h
(8.16mSv/y相当)の空間線量率が測定されていたが,5月16日以降の空間線量率は0.16μSv/h(0.63mSv/y相当)を下回っていた(丙C99)

茨城県北茨城市では,3月16日に15.8μSv/h(82.9mSv/y相当)もの,20mSv/y相当値を大きく超える空間線量率が計測されていたが,3月18日には1.0μSv/h(5.1mSv/y相当)
,3月19日には
0.956μSv/h(4.82mSv/y相当)に落ち着いていた(甲B52の
5・7・10・11,丙C282)

茨城県那珂郡東海村では,3月15日に5μSv/h(26mSv/y相当)という,20mSv/y相当値を超える空間線量率が計測されていた(甲C157資料1)

茨城県が測定した,固定放射線測定局のある水戸市,日立市,常陸太田市,高萩いばらきまち

おおあらいまち

市,北茨城市,ひたちなか市,常陸大宮市,那珂市,鉾田市,茨城町,大洗町,東だいごまち

海村,大子町の,5月11日から7月27日までの空間線量率は,0.070~
0.205μSv/h(0.16~0.87mSv/y相当)
,牛久市,つくば市を
含む他の市町村のモニタリングカーによる同期間の空間線量率は,0.052~0.297μSv/h(0.06~1.35mSv/y相当)であった(丙C283)

原告H-3の旧居住地は茨城県水戸市,原告H-48の旧居住地は茨城県日立市,原告H-60,61の旧居住地は茨城県つくば市,原告H-183~186,T-313,314の旧居住地は茨城県牛久市,原告T-1314の旧居住地は茨城県那珂郡東海村である。
例えば,原告H-3の旧居住地は茨城県水戸市であるが,5月26日第2次航空
機モニタリングから平成24年12月28日第6次航空機モニタリングまでの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.05~0.15μSv/h(0.05~0.58mSv/y相当)
(甲B203別表1の1頁)
,茨城県内の空
間線量率は0.05~0.30μSv/h(0.05~1.4mSv/y相当),平
均0.05~0.24μSv/h(0.05~1.05mSv/y相当)であった
(甲B203別表2)

原告H-3の元夫は,茨城県水戸市に居住し,茨城県日立市で歯科医師業を営んでいたところ,平成24年5月4日~5月5日採取の尿から,放射性セシウム134が0.072Bq/kg,放射性セシウム137が0.12Bq/kg検出された(甲H3の1の2,原告H-3・12~13,23頁)


原告H-186の旧居住地は茨城県牛久市であるが,同原告の旧居住地の平成24年6月28日第5次航空機モニタリングから平成24年12月28日第6次航空機モニタリングまでの結果から計算した同原告の旧居住地の空間線量率は0.18~0.22μSv/h(0.74~0.95mSv/y相当)
(甲B203別表1の
11頁)
,同期間の牛久市の空間線量率は0.11~0.30μSv/h(0.37
~1.37mSv/y相当)
,平均0.19~0.24μSv/h(0.79~1.
05mSv/y相当)であった(甲B203別表2)


茨城県各市町村の公共サービス,生活関連サービスは,本件地震及び本件津波の影響はともかく,本件事故の影響があったとは認められない(丙C111の1~4,丙C151,282)


茨城県水戸市,日立市,東海村旧居住者の損害
茨城県北茨城市や東海村において,3月15日時点で20mSv/y相当値を超
える空間線量率が計測されていたこと,茨城県水戸市においても,3月15日時点で,20mSv/y相当値は下回るものの,これに近い18.9mSv相当の空間線量率が観測されており,これは,本件事故がなければ被曝することがなかった追加被曝であり,このような初期被曝を受忍すべき理由は見当たらないことなどを考慮すれば,これらの空間線量率が一時的なものであったことなどを考慮しても,茨城県水戸市及びそれよりも福島第一原発に近い日立市,東海村の避難者又は滞在者が抱いた被曝による健康影響に対する不安,今後の本件事故の進展に対する不安は,県南地域のそれよりもさらに低いものとみるべきではあるが,なお賠償に値するものというべきであり,その損害額は,3月11日から12月31日までの10か月
間を包括して1万円(中間指針等による賠償額」は0円であるから,「
「中間指針等
による賠償額」を超える損害も1万円)と認める。
平成24年1月以降については,賠償すべき損害があるとは認められない。ウ
茨城県牛久市,つくば市旧居住者について
茨城県水戸市よりも福島第一原発から遠い茨城県牛久市及びつくば市については,
本件事故直後の時期の空間線量率を認めるに足りる証拠はなく,賠償すべき損害があるとは認められない。

子供・妊婦の損害
原告H-185,186は,茨城県牛久市を旧居住地とし,平成15年6月2日,
平成21年5月1日にそれぞれ出生した子供であったが,上記状況によれば,賠償すべき損害があるとは認められない。
茨城県の牛久市以外の市町村を旧居住地とする子供・妊婦は本件訴訟にいないの
で,その損害については判断しない。
(4)

栃木県
栃木県の状況

栃木県における空間線量率は,3月15日には1.68μSv/h(8.63mSv/y相当)が計測されたが,3月16日には0.337μSv/h(1.56mSv/y相当)
,3月18日には0.182μSv/h(0.75
mSv/y)と,3月16日以降は5mSv/y相当値を,3月18日以降は1mSv相当値を,それぞれ下回るようになっていた(甲B52の5・7・10・12・13,甲B157資料1,乙B173・19頁)


すまち

栃木県が測定した,宇都宮市(保健環境センター。地上50cm),那須町(那須
もおかし

おやまし

町立図書館)
,日光市(今市健康福祉センター)
,真岡市(芳賀庁舎)
,小山市(小山
なかがわまち

庁舎)
,那珂川町(山村開発センター)
,佐野市(安蘇庁舎)の,5月13日から6
月1日までの空間線量率は,0.05~0.45μSv/h(0.05~2.16mSv/y相当)であった(丙C289)

原告H-40,T-2505の旧居住地は栃木県宇都宮市,原告T-165の旧居住地は栃木県那須塩原市,原告T-2238~2240,T-2341の旧居住地は栃木県那須郡那須町である。
5月26日第2次航空機モニタリングから平成24年12月28日第6次航空機モニタリングまでの結果から計算した同原告ら(正しい旧居住地が甲B203に現
れない原告H-40,T-2505を除く。
)の旧居住地の空間線量率は,0.29
~0.43μSv/h(1.29~2.05mSv/y相当)であり(甲B203別表1の40,155,160頁)
,栃木県内の空間線量率は0.05~0.87
μSv/h(0.05~4.37mSv/y相当)
,平均0.05~0.38
μSv/h(0.05~1.79mSv/y相当)であった(甲B203別表2)。

栃木県各市町村の公共サービス,生活関連サービスは,本件地震及び本件津波の影響はともかく,本件事故の影響があったとは認められない(丙C292,弁論の
全趣旨)


栃木県旧居住者の損害
栃木県の空間線量率などを考慮すると,栃木県旧居住者に賠償すべき損害がある
とは認められない。

子供・妊婦の損害
子供・妊婦(原告T-2341は,栃木県那須郡那須町を旧居住地とし,平成7
年7月21日生の子供であった。
)についても,上記状況によれば,賠償すべき損害
があるとは認められない。
(5)

区域外の旧居住者の損害についてのまとめ

以上によれば,茨城県水戸市,日立市,東海村旧居住者については,「中間指針等

による賠償額」を超える損害として1万円を認める。
それ以外の者については,
「中間指針等による賠償額」を超える損害があるとは認
められない。
第6
1
「ふるさと喪失」に基づく損害賠償請求について
「ふるさと喪失」損害の賠償を求める訴えの訴訟物について

原告らのうち40名(死亡原告を含み,承継原告を含まない。死亡原告を除き,承継原告を含め,原告兼承継原告を1名として数えると39名)は,原状回復及び平穏生活権侵害に基づく損害賠償を求める訴え(当庁平成25年(ワ)第38号,第175号,平成26年(ワ)第14号,165号)と別個に「ふるさと喪失」損害に基づく損害賠償を求める訴え(当庁平成25年(ワ)第94号,平成26年(ワ)第166号)を提起している。
前記のとおり,両者の請求権は,いずれも本件事故に基づく精神的損害の賠償請求権である点で訴訟物としては同一であるが,原告らは,両者の請求権の関係について,
「生存と人格形成の基盤」そのものの確定的,不可逆的喪失による損害が「ふ
るさと喪失」損害,
「生存と人格形成の基盤」に依拠してそれを活用することによっ
て実現されていた「幸福追求の自己実現」を阻害されたことによる損害が,本判決
でいう「平穏生活権」侵害(原告らのいう「包括的生活利益としての人格権」侵害)であると主張している(原告ら準備書面(被害総論9)9頁,(被害総論17)
9頁,原告ら最終準備書面(第4分冊)141~142頁,原告ら主張要旨94~95,98~99頁)

原告らの主張を合理的に意思解釈すると,原告らは,本件事故により,継続的に
発生する性質の損害(月ごとに発生する損害として認定されるか,本件口頭弁論終結時点で損害の発生が終了しているものとして定額の損害として認定されるかを問わない。また「包括的生活利益としての人格権」「幸福追求の自己実現」として認,
定されるか否かを問わない。
)を「平穏生活権」侵害による損害として,継続的でな
く,一回的に発生する性質の損害(その意味で,確定的,不可逆的に発生する性質の損害であり,提訴時点で確定的,不可逆的に発生していたか,提訴後に確定的,不可逆的に発生したかを問わない。また「包括的生活利益としての人格権」「生存,
と人格形成の基盤」該当性を認定されるか否かを問わない。
)を「ふるさと喪失」に
よる損害として,それぞれ他方の請求を明示的に除外して請求しているものと解さ
れる(したがって,重複訴訟にも当たらない。。

以上の前提を踏まえ,本判決においては,請求の趣旨第3項の損害賠償請求(弁護士費用相当額部分を除く,2000万円の損害賠償請求)の被侵害法益として審理の対象となる権利利益の侵害を,原告らの主張する「包括的生活利益としての人格権」該当性,
「生存と人格形成の基盤」該当性,
「ふるさと」該当性,
「権利」該当

性を問うことなく,またその被侵害法益が完全に喪失したか否かを問うことなく,「ふるさと喪失」と定義し,それによる損害を「ふるさと喪失」損害と呼称する。2
旧居住地が帰還困難区域である原告らについて

(1)

中間指針等による賠償額

帰還困難区域旧居住者に対する賠償につき,帰還が社会通念上不能となった時点において,平穏生活権侵害による継続的損害の賠償を終了させ,帰還不能による損害を定額に包括評価して賠償を終了させることが許されると解されることは前記の
とおりである。
そして,中間指針第四次追補による帰還困難慰謝料1000万円(丙A5)は,確定的,不可逆的に発生した損害であるから,本判決でいう「ふるさと喪失」損害(確定的,不可逆的損害)に対応するものというべきである。
自主賠償基準は,帰還困難区域旧居住者に600万円の包括賠償(丙C16)と700万円の追加賠償(丙C17)を認めているが,後者の700万円は中間指針第四次追補の1000万円から生活費増額分を除く将来分として300万円を控除した額と解されるから,自主賠償基準も,帰還困難慰謝料は1000万円であることを前提としているものと解される。

したがって,本件訴訟における「ふるさと喪失」損害に対応する「中間指針等による賠償額」は1000万円であるから,これを超える確定的,不可逆的損害が発生しているか否かを検討する。
(2)

「ふるさと喪失」損害として1000万円が相当であること

上記のような継続的損害の賠償を終了させるための一括賠償をもって「ふるさと喪失」損害とする場合,その一括賠償とそれまでの継続的賠償とを合計した帰還困難区域旧居住者に対する損害賠償総額は,継続的損害の賠償を継続した場合に帰還困難区域旧居住者が受領する損害賠償総額(帰還不能な状態が10年間継続するとして120か月分1200万円)と比べて遜色のないもので,帰還可能な居住制限区域旧居住者の受領する損害賠償総額(自主賠償基準の平成30年3月までとして
85か月分850万円。丙C67)よりも十分に大きなものとなるべきである。他方,故郷に帰還できないことによる精神的苦痛がいかに大きいとしても,一般の不法行為による被害者死亡時の精神的苦痛よりは小さいというべきである。以上を踏まえ,平成26年4月までは月額10万円(総額380万円)の継続的賠償が認められるべきこと,避難費用,一時帰宅費用,財物損害,営業損害等につ
いては別途賠償されることを前提に検討すると,帰還不能による確定的,不可逆的損害による慰謝料(ふるさと喪失」損害)は,1000万円(当裁判所の認定した「

平成23年3月から平成26年4月までの38か月分380万円の継続的賠償との合計額としては1380万円)と認めるのが相当である。
(3)

1000万円を超える「ふるさと喪失」損害が認められないこと

「ふるさと喪失」損害を請求している原告らのうち,原告H-63(94号-7)
,原告H-88,89(94号-5,6)
,原告H-383~388(166号
-28~33)の旧居住地は双葉町の,原告H-86,126(94号-23,22)の旧居住地は大熊町の,原告H-111(94号-26)の旧居住地は富岡町の,原告H-65,518(166号-39,40)の旧居住地は浪江町の,それぞれ帰還困難区域である。
双葉町,大熊町,富岡町,浪江町の状況,同原告ら旧居住地の状況,同原告らが
避難を強いられ,相当長期間にわたって帰還ができない状態に置かれたことによる様々な被害(甲B203,甲C25,26,35~40,69,72~78,231,甲H63,65,86,88,111,387,丙C36~39,57~60,164~172,254,321(いずれも枝番を含む。,原告H-88,浜通り)
検証の結果)を考慮しても,
「ふるさと喪失」損害として1000万円を超える損害
があるとは認められない。
3
旧居住地が居住制限区域,避難指示解除準備区域である原告らについて
(1)

一括賠償をもって継続的損害の賠償を終了させる必要が認められないこと
中間指針第四次追補は,双葉町,大熊町以外の居住制限区域,避難指示解除準備区域の旧居住者については,避難指示解除後1年間の継続的賠償の継続を認め,確定的,不可逆的損害の発生を認めていない(丙A5)

双葉町,大熊町以外の居住制限区域,避難指示解除準備区域については,既に避難指示が解除され,又は概ね平成29年3月頃までの解除が見込まれており(丙C28,29,159,161~164,216,230,235~239),避難指

示の解除によって直ちに精神的損害の発生が終了するものではないが,解除後一定期間の経過により精神的損害の発生も終了することが見込まれるのであり,一括賠
償をもって継続的賠償の継続を終了させるまでの必要は認められない。(2)

継続的賠償と別途の確定的,不可逆的損害の発生が認められないこと
「ふるさと喪失」損害を請求している原告らのうち,原告H-2,236,237(94号-1~3)
,原告H-82,200,254(94号-10~12)の旧
居住地は浪江町の,原告H-18,346(94号-8,9)
,原告H-94,43
3,434(94号-19~21)
,原告H-442(166号-34)の旧居住地
は富岡町の,それぞれ居住制限区域である。原告H-90(94号-24),原告H
-202(94号-25)
,原告H-220,393(94号-16,17)の旧居
住地は浪江町の,それぞれ避難指示解除準備区域である。原告兼亡H-376承継
人H-95(94号-13)及びその被承継人である亡H-376(94号-15)
,原告H-149(94号-14)
,原告H-336(94号-4)の旧居住地
は楢葉町の,原告兼亡H-101承継人H-100の被承継人である亡H-101(94号-18)の旧居住地,原告H-302~305(166号-35~38)の旧居住地は南相馬市小高区の,原告H-395(166号-27)の旧居住地は
葛尾村の,それぞれ旧避難指示解除準備区域である。
浪江町,富岡町,楢葉町,南相馬市,葛尾村の状況,同原告ら旧居住地の状況,同原告らが避難を強いられたことによる様々な被害(甲B203,甲C25,26,36~41,44,45,69,72,76~78,231~236,甲H2,18,82,90,94,95,101,149,200,202,220,303,
336,376,395,442,丙C36~39,42,47,60,61,64,76,81~87,125,157,158,164~178,212,213,214~235,254,257,321,322(いずれも枝番を含む。,)
原告H-2,原告H-18,原告H-82,浜通り検証の結果)を考慮しても,月額10万円の継続的賠償と別途の確定的,不可逆的損害が発生しているとは認めら
れない。
(3)

原告らの主張について

原告らは,政府による避難等の指示に基づく避難者においては,避難に伴い日常の「幸福追求の自己実現」を阻害されたことに対する日常生活阻害慰謝料とは別個に,本件事故までに形成した「ふるさと」
,すなわち,家族,土地と住,生業・職業,
人間関係形成,自然環境等を重要な要素とする「生存と人格形成の基盤」が破壊・損傷されたこと自体による被害も,独立した損害として評価されるべきである,などと主張する(原告ら最終準備書面(第4分冊)162~175頁,原告ら主張要旨98~99頁)

しかし,原告らの主張する「ふるさと」は,平穏生活権侵害の考慮要素として考慮するならばともかく,個人に帰属する独立した不法行為上の保護法益として認め
るにはその外延が明確でなく,これを平穏生活権侵害の賠償と別個独立の損害として賠償の対象とすることは困難である。
4
「ふるさと喪失」損害についてのまとめ
以上によれば,帰還困難区域旧居住者についても,それ以外の避難指示区域の旧
居住者についても,
「中間指針等による賠償額」を超える確定的,不可逆的損害は認
められない。

第7
(1)

弁済の抗弁
ADR増額

原告H-111は,帰還困難区域旧居住者であり,
「中間指針等による賠償額」を
超える損害として20万円が認められるところ,同原告は,ADRにより「中間指針等による賠償額」を超える賠償として30万円を受領している(争いがない。。)
ADRにより「中間指針等による賠償額」を超えて支払われた精神的損害の賠償額は,当事者の合理的意思解釈により,本訴請求債権の元金に,本件事故時に遡って充当されると解するのが相当であるから,同原告の請求権は,弁済により全て消滅した。

原告H-133は,子供・妊婦でない自主的避難等対象区域旧居住者であり,「中
間指針等による賠償額」を超える損害として16万円が認められるところ,同原告は,ADRにより「中間指針等による賠償額」を超える賠償として98万円を受領している(争いがない。
)から,同原告の請求権は,弁済により全て消滅した。
原告H-370は,子供・妊婦でない自主的避難等対象区域旧居住者であり,「中

間指針等による賠償額」を超える損害として16万円が認められるところ,同原告は,ADRにより「中間指針等による賠償額」を超える賠償として10万円を受領している(争いがない。
)から,同原告の請求権は,10万円については弁済により
(本件事故時に遡って本訴請求債権元金に充当されて)消滅し,残元金は6万円である。

原告H-483は,帰還困難区域旧居住者であり,
「中間指針等による賠償額」を
超える損害として20万円が認められるところ,同原告は,ADRにより「中間指針等による賠償額」を超える賠償として150万円,ADRによる和解後の同種事由による追加賠償として63万円の合計213万円を受領している(争いがない。)
から,同原告の請求権は,弁済により全て消滅した。

原告T-624は,子供・妊婦でない旧一時避難要請区域旧居住者であり,「中間
指針等による賠償額」を超える損害として3万円が認められるところ,同原告は,
ADRにより「中間指針等による賠償額」を超える賠償として14万4000円を受領している(争いがない。
)から,同原告の請求権は,弁済により全て消滅した。
原告T-842は,旧一時避難要請区域旧居住者の子供であり,
「中間指針等によ
る賠償額」を超える損害として11万円が認められるところ,同原告は,ADRにより「中間指針等による賠償額」を超える賠償として90万円を受領している(争いがない。
)から,同原告の請求権は,弁済により全て消滅した。
原告T-2115は,子供・妊婦でない自主的避難等対象区域旧居住者であり,「中間指針等による賠償額」を超える損害として16万円が認められるところ,同原告は,ADRにより「中間指針等による賠償額」を超える賠償として6万円を受
領している(争いがない。
)から,同原告の請求権は,6万円については弁済により
消滅し,残元金は10万円である。
原告T-2119は,子供・妊婦でない自主的避難等対象区域旧居住者であり,「中間指針等による賠償額」を超える損害として16万円が認められるところ,同原告は,ADRにより「中間指針等による賠償額」を超える賠償として8万円を受
領している(争いがない。
)から,同原告の請求権は,8万円については弁済により
消滅し,残元金は8万円である。
原告T-2841,2842は,子供・妊婦でない自主的避難等対象区域旧居住者であり,
「中間指針等による賠償額」を超える損害として各16万円が認められるところ,同原告らは,ADRにより,
「中間指針等による賠償額」を超える賠償とし

て,原告T-2841は154万円を,原告T-2842は84万円を,それぞれ受領している(争いがない。
)から,同原告らの請求権は,弁済により全て消滅した。
(2)

要介護者増額
要介護者増額による弁済の抗弁

被告東電は,原告H-34など,避難指示等対象区域内に生活の本拠を有し,要介護状態等の事情がある者,要介護者を介護している者に対して支払った追加賠償につき,弁済の抗弁を主張している。


要介護者増額は自主賠償基準に含まれること
しかし,この要介護者増額は,被告東電において所定の要件を満たしていると判
断すれば,被告東電の定めた基準に従って支払われるものであって(丙C183),
被告東電の自主賠償基準の一部を構成しているものと認められる。ウ
要介護者増額についての弁済の抗弁についてのまとめ
そうすると,自主賠償基準のとおりの要介護者等による増額は,
「中間指針等によ

る賠償額」の一部を構成し,
「中間指針等による賠償額」を超える部分である本訴請
求債権に充当されるものではなく,被告東電による弁済の抗弁は失当である。(3)

透析賠償
透析賠償による弁済の抗弁

被告東電は,原告T-1732に対し,所定の要件を満たす透析患者に対する追加賠償として支払った4万円について,弁済の抗弁を主張している。イ
透析賠償が自主賠償基準に当たらないこと
被告東電によれば,①本件事故発生日において,透析治療を恒常的に受けていた
こと,②本件事故発生日の生活の本拠が避難指示等対象区域外に該当すること,③本件事故前より,自主的避難等対象区域,避難指示等対象区域,福島県県内地域,宮城県丸森町の医療施設に通院し,本件事故により透析治療の制限等があったこと,という3つの要件を満たす透析患者に対し,本件事故を原因として,透析患者が通常受けている頻度,及び時間の人工透析を十分に受けられない状況に置かれたこと
により,生命の危険を伴うほど健康状態が悪化することへの恐怖と不安を抱き,日常生活の維持・継続が著しく阻害されたために生じた精神的損害に対する追加賠償を行っているが,その賠償額の目安は確定しておらず,個別の事情に基づいて賠償の可否及び金額を決定しているという(被告東京電力準備書面(31)(39)。,

そうすると,透析賠償は,賠償額の目安があらかじめ確定しているものではない
から,自主賠償基準を構成するものということはできない。

透析賠償は生命・身体的損害に伴う精神的損害の賠償であること

しかし,透析賠償は,透析患者が通常受けている頻度・時間の人工透析を十分に受けられない状況に置かれたことにより,生命の危険を伴うほど健康状態が悪化することへの恐怖・不安を抱いたことに着目して支払われるものであり,生命・身体的損害による精神的損害の増額要素(医療費の増加という積極損害が存在しない場合には,生命・身体的損害による精神的損害を独立して認定するための要素)としての性質を有している。
そうであれば,平穏生活権侵害に基づき,
「中間指針等による賠償額」を超える精
神的損害の賠償を請求している(生命・身体的損害に伴う精神的損害を含まない)本訴請求債権には充当されない。


透析賠償についての弁済の抗弁についてのまとめ
したがって,透析賠償は本訴請求債権に充当されるものではなく,被告東電によ
る弁済の抗弁は失当である。
(4)

ペット賠償
ペット賠償による弁済の抗弁

被告東電は,原告H-53等,所定の要件を満たすペットと離別・死別した者に
支払った追加賠償について,弁済の抗弁を主張している。

ペット賠償が自主賠償基準に当たらないこと
被告東電は,本件事故当時に避難指示区域に居住し,避難生活を余儀なくされた
ことにより,哺乳類(犬や猫等)や鳥類のペットと離別又は死別した者に対し,ペットの財産的価値と別個に,精神的損害の追加賠償を行っているが(丙C184)
,その賠償額の目安は確定しておらず,個別の事情に基づいて賠償の可否及び金額を決定しているという(被告東電準備書面(31)(39)。


そうすると,ペット賠償は,賠償額の目安があらかじめ確定してるものではないから,自主賠償基準を構成するものということはできない。


ペット賠償は財物損害に伴う精神的損害の賠償であること
しかし,ペット賠償は,ペットという財物の喪失と同一の原因に着目して支払わ
れるものであり,財物損害に伴う精神的損害の増額要素(一般に,財物損害については価値相当額の賠償によって精神的苦痛も慰謝されるところ,特別の事情により精神的損害を認定するための要素)としての性質を有している。
そうであれば,平穏生活権侵害に基づき,
「中間指針等による賠償額」を超える精
神的損害の賠償を請求している(財物損害に伴う精神的損害を含まない)本訴請求債権には充当されない。

ペット賠償についての弁済の抗弁についてのまとめ
したがって,ペット賠償は本訴請求債権に充当されるものではなく,被告東電に
よる弁済の抗弁は失当である。
第8
1
被告国の責任の範囲
共同不法行為が成立しないこと

被告国の国賠法上の責任の根拠となる規制権限不行使と,被告東電の原賠法上の責任の根拠となる本件事故とは,関連して1個の不法行為を構成するような関係(関連共同性)はなく,被告国の国賠法上の責任と,被告東電の原賠法上の責任は,いわば被侵害法益を共通にする不法行為が競合しているにすぎないものというべきである。
したがって,被告国と被告東電との間に共同不法行為(民法719条)が成立するとはいえない。

2
被告国の責任の範囲

(1)

被告国の責任の範囲は被告東電の責任の2分の1にとどまること

炉規法,電気事業法の枠組みによれば,原子炉施設の安全性を確保する責任は第一次的には当該原子炉を設置する原子力事業者(本件事故においては被告東電)にあり,被告国(経済産業大臣)の責任はこれを監督する第二次的なものにとどまるというべきであるから,被告国が規制権限不行使により国賠法上の責任を負う場合においても,その賠償すべき責任の範囲は,原子力事業者の負う責任に比して限定されるべきである。
被告国が,国策として,被告東電ら原子力事業者と共同して原子力発電を推進し,かつ,広く国民に対して安全性を宣伝してきたとしても,それは安全性の確保を第
一次的に原子力事業者の責任とし,被告国の規制権限はこれを監督する第二次的なものとする炉規法,電気事業法の枠組みの下での推進であり,炉規法,電気事業法の規制により安全性が確保される前提の下での宣伝であるから,その原子力政策の結果として本件事故を引き起こしたことによる社会的責任を負い(原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(平成23年法律第94号)2条1項,除染特措法3条,福
島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)1条,
「東京電力原子力事故によ
り被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支
援等に関する施策の推進に関する法律」
(平成24年法律第48号)3条等参照)

規制権限の不行使が著しく合理性を欠いた場合には国賠法上の責任を免れないとはいえ,その責任が第二次的なものにとどまることに変わりはない。他方,炉規法,電気事業法上,被告国の規制が,原子力発電所の安全性の確保に不可欠なものとして想定されていることからすると,第二次的なものとはいえ,その責任は,水俣病の被害拡大に対し,公共用水域の水質の保全に関する法律及び工場排水等の規制に関する法律による規制権限行使を怠った責任が企業の4分の1とされたこと(大阪高裁平成13年4月27日判決・訟月48巻12号2821頁[水俣病関西訴訟2審]
。最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58

巻7号1802頁の原審)
,じん肺の被害拡大に対し,石炭鉱山保安規則の改正を
怠った責任がじん肺による全損害の3分の1とされたこと(福岡高裁平成13年7月19日判決・判時1785号89頁[筑豊じん肺訴訟2審]
。最高裁平成16年4
月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁の原審)に比して被告国の責任割合は高いものといえ,被告国の責任は,被告東電の負う責任の2分の1程度と
認めるのが相当である(被告らにつき共同不法行為は成立しないものの,両者の責任は被侵害法益を共通にする不法行為責任であるから,被告国の支払うべき賠償額の限度で,被告らの責任は不真正連帯債務関係にある。なお,原賠法は,原子力損害は全額を原子力事業者が負担することを前提としているから,被告東電から被告国に対する求償は許されず,被告国は,賠償した全額を被告東電に原子力損害とし
て請求することができると解される。。

(2)

帰還困難区域旧居住者に対する被告国の賠償額について

当裁判所は,平穏生活権侵害による損害として合計380万円(うち「中間指針等による賠償額」を超える損害は20万円)「ふるさと喪失」損害として1000,
万円(中間指針等による賠償額」を超える損害はない。

)を認めたところ,被告国
の賠償責任は,平穏生活権侵害につき190万円,
「ふるさと喪失」損害につき50
0万円ということになり,
「中間指針等による賠償額」の一部請求からの除外及び弁

済の抗弁を考えなければ,被告国に対してはこの金額を認容すべきことになる。前記のとおり,原告らは「中間指針等による賠償額」を本訴請求債権から除外しているから,これを超える損害のみを考えると,被告東電の責任は20万円であり,被告国の責任はその2分の1である10万円(及びそれぞれに対応する弁護士費用,遅延損害金)となる(仮に,賠償金未請求の原告が,本訴請求債権から除外した「中間指針等による賠償額」である360万円の支払を求める別訴を提起した場合,被告東電に対し360万円,被告国に対し180万円の限度で認容され,「中間指針
等による賠償額」を超える部分は別訴の訴訟物となっていないから,一部棄却部分の既判力は重複しない。この別訴の訴訟物との関係で弁済の抗弁を構成すべき「中
間指針等による賠償額」の範囲内の弁済は,本訴においては,被告国との関係においても弁済の抗弁を構成しない。。

被告東電から,ADR等により「中間指針等による賠償額」を超える弁済があった原告については,超過弁済額を被告国の賠償額から控除することとする。(3)

旧一時避難要請区域旧居住者に対する被告国の賠償額について

旧一時避難要請区域旧居住者のうち子供・妊婦以外の者については,平穏生活権侵害による損害として73万円(うち「中間指針等による賠償額」を超える損害は3万円)を認め,被告国の責任は36万5000円となるが,
「中間指針等による賠
償額」を超える損害についての責任は,被告東電につき3万円,被告国につき1万5000円(及びそれぞれに対応する弁護士費用,遅延損害金)の限度で存続して
いる。
旧一時避難要請区域旧居住者のうち子供・妊婦については,平穏生活権侵害による損害として81万円(うち「中間指針等による賠償額」を超える損害として11万円)を認め,被告国の責任は40万5000円となるが,
「中間指針等による賠償
額」を超える損害についての責任は,被告東電につき11万円,被告国につき5万
5000円(及びそれぞれに対応する弁護士費用,遅延損害金)の限度で存続している。

(4)

自主的避難等対象区域旧居住者に対する被告国の賠償額について

子供・妊婦以外の自主的避難等対象区域旧居住者については,平穏生活権侵害による損害として24万円(うち「中間指針等による賠償額」を超える損害は16万円)を認め,被告国の責任は12万円となるが,
「中間指針等による賠償額」を超え
る損害についての責任は,被告東電につき16万円,被告国につき8万円(及びそれぞれに対応する弁護士費用,遅延損害金)の限度で存続している。原告H-370は,子供・妊婦でない自主的避難等対象区域旧居住者であり,「中
間指針等による賠償額」を超える損害として16万円,被告国の責任として8万円が認められるところ,前記のとおり,同原告はADRにより10万円を受領してい
るから,同原告の被告国に対する請求権は,被告東電の弁済により全て消滅した。原告T-2115は,子供・妊婦でない自主的避難等対象区域旧居住者であり,「中間指針等による賠償額」を超える損害として16万円,被告国の責任として8万円が認められるところ,前記のとおり,同原告はADRにより6万円を受領しているから,同原告の被告国に対する請求権は,6万円が被告東電の弁済により消滅
し,残元金は2万円である。
原告T-2119は,子供・妊婦でない自主的避難等対象区域旧居住者であり,「中間指針等による賠償額」を超える損害として16万円,被告国の責任として8万円が認められるところ,前記のとおり,同原告はADRにより8万円を受領しているから,同原告の被告国に対する請求権は,被告東電の弁済により全て消滅した。
(5)

県南地域旧居住者に対する被告国の賠償額について

子供・妊婦以外の県南地域旧居住者については,平穏生活権侵害による損害として10万円(中間指針等による賠償額」は0円なので,これを超える損害は10万「
円)を認めたところ,
「中間指針等による賠償額」を超える損害についての責任は,
被告東電につき10万円,被告国につき5万円(及びそれぞれに対応する弁護士費用,遅延損害金)である。
(6)

茨城県水戸市,日立市,東海村旧居住者に対する被告国の賠償額について
子供・妊婦以外の茨城県水戸市,日立市,東海村旧居住者については,平穏生活権侵害による損害として1万円(中間指針等による賠償額」は0円なので,これを「
超える損害は1万円)を認めたところ,
「中間指針等による賠償額」を超える損害に
ついての責任は,被告東電につき1万円,被告国につき5000円(及びそれぞれに対応する弁護士費用,遅延損害金)である。

第9
1
弁護士費用等
端数の取扱い

死亡原告につき相続による承継があった関係で1円未満の端数が生じる場合,被告東電関係については1円未満の端数を四捨五入し,被告国関係については,「国等
の債権債務等の金額の端数計算に関する法律」
(昭和25年法律第61号)2条1項
に従い,1円未満の端数を切り捨てた。
2
弁護士費用
認容額につき,それぞれ,基本的には元金の10%相当額の弁護士費用を認め,
弁護士費用を含めた認容額に1万円未満の端数が出る原告については,1万円未満の端数切り上げ分に相当する弁護士費用を増額した。
3
遅延損害金
遅延損害金については,本件事故は平成23年3月11日に起こったものとみな
して,不法行為の日(本件事故日)である平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を付す。
請求を認容した原告らの中に,本件事故後に出生した原告はいない。
第10

結論

よって,
1
原告ら(承継原告を除く。
)の原状回復請求に係る訴えは不適法であるから却下

し,
2
原告ら(承継原告を含む。
)の被告東電に対する平穏生活権侵害に基づく請求に

ついては,
(1)
(2)

一般不法行為に基づく主位的請求は理由がないので棄却し,

(3)
将来請求に係る訴えは不適法であるから却下し,

原賠法に基づく予備的請求につき,


帰還困難区域旧居住者
弁済の抗弁が成立する原告H-111,H-483を除く帰還困難区域旧居住者
については,22万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の(認定した超過損害は平成26年3~4月分として,また月額10万円と評価してのものであるが,その遅延損害金起算日は本件事故時である平成23年3月11日とみるべきであり,原告らは,厳密に対象期間と請求金額を対応させて請求しているものではないと解されるから,平成25年3月11日に提訴された平成25年(ワ)第38号事件,平成25年9月10日に提訴された平成25年(ワ)第175号事件,平成26年2月10日に提訴された平成26年(ワ)第14号事件の原告らについても,原告らに有利に,遅延損害金の付く確定損害額の範囲で認容した。,



旧一時避難要請区域旧居住者

(ア)

弁済の抗弁が成立する原告T-624を除く子供・妊婦以外の旧一時避難要
請区域旧居住者については,4万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,
(イ)
弁済の抗弁が成立する原告T-842を除く旧一時避難要請区域の子供につ
いては,13万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,

自主的避難等対象区域旧居住者

(ア)

弁済の抗弁が成立する原告H-133,H-370,T-2115,T-2
119,T-2841,2842を除く,子供・妊婦以外の自主的避難等対象区域旧居住者については,18万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,
(イ)

原告H-370については,7万円及びこれに対する平成23年3月11日
から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,
(ウ)
原告T-2115については,11万円及びこれに対する平成23年3月1
1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,
(エ)

原告T-2119については,9万円及びこれに対する平成23年3月11
日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,

県南地域旧居住者
子供・妊婦以外の県南地域旧居住者については,11万円及びこれに対する平成
23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,オ
茨城県水戸市,日立市,東海村旧居住者
子供・妊婦以外の茨城県水戸市,日立市,東海村旧居住者については,2万円及
びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,
支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,3
原告ら(承継原告を含む。
)の被告国に対する平穏生活権侵害に基づく請求につ

いては,
(1)

将来請求に係る訴えは不適法であるから却下し,

(2)

その余の請求につき,


帰還困難区域旧居住者
弁済の抗弁が成立する原告H-111,H-483を除く帰還困難区域旧居住者
については,11万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,

旧一時避難要請区域旧居住者

(ア)
弁済の抗弁が成立する原告T-624を除く子供・妊婦以外の旧一時避難要
請区域旧居住者については,2万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,
(イ)

弁済の抗弁が成立する原告T-842を除く旧一時避難要請区域旧居住者の
子供については,7万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,

自主的避難等対象区域旧居住者

(ア)

弁済の抗弁が成立する原告H-133,H-370,T-2115,T-2
119,T-2841,2842を除く,子供・妊婦以外の自主的避難等対象区域旧居住者については,9万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,
(イ)
原告T-2115については,3万円及びこれに対する平成23年3月11
日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,

県南地域旧居住者
子供・妊婦以外の県南地域旧居住者については,6万円及びこれに対する平成2
3年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,オ
茨城県水戸市,日立市,東海村旧居住者
子供・妊婦以外の茨城県水戸市,日立市,東海村旧居住者については,1万円及
びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,
支払を求める限度で理由があるから認容し(被告国の責任は,被告東電の責任と重なり合う限度で不真正連帯債務となる。,その余は理由がないから棄却し,)
4
原告ら(承継原告を含む。
)の被告らに対する「ふるさと喪失」損害の賠償請求

はいずれも理由がないので棄却し,
5
(1)

訴訟費用の負担につき,民訴法61条,64条,65条に基づき,被告らが全部勝訴した原告との関係で生じた費用は原告らの負担(取下原告を
除き,計算の簡便のため,一部勝訴原告,承継原告,
「ふるさと喪失」損害を請求し
ている原告を含め,原告人数で頭割りした平等負担とする。原告兼承継原告は1人と数える。民訴法65条1項)とし,
(2)

被告東電に一部勝訴し,被告国との関係で全部敗訴した原告との関係で,被告
国に生じた費用は原告らの負担とし,原告ら及び被告東電に生じた費用は,(計算の
簡便のため,請求額,認容額にかかわらず)これを20分し,その1を被告東電の,その余を原告らの負担(平等負担)とし,
(3)

被告ら双方に一部勝訴した原告との関係で生じた費用はこれを20分し,その
1を被告らの負担(平等負担)
,その余を原告らの負担(平等負担)とし,
6
仮執行宣言(及びその執行開始時期の定め,仮執行免脱宣言)ついては,相当
でないのでこれを付さない
こととし,主文のとおり判決する。

福島地方裁判所第一民事部

裁判長裁判官

金澤秀樹
裁判官

西村康夫
裁判官

田屋茂樹
別紙1
別紙2

原告目録

別紙3

原告ら代理人目録

別紙4
当事者目録

被告国代理人目録

別紙5

被告東電代理人目録

(いずれも省略)

別紙6

認容金額目録

別紙6認容金額目録は別冊2のとおり。

別紙7

略語・用語一覧表

あとぢえ

後知恵バイアス

物事が起きてから,それが予測可能であっ
たと考える心理的傾向。ハインドサイトバ
イアス(甲C52・41~42頁)


一時避難要請区域

南相馬市が,独自の判断に基づき,住民に
対して一時避難を要請した区域。南相馬市
全域から,避難区域,屋内待避区域,計画
的避難区域,緊急時避難準備区域,特定避
難勧奨地点を除いた区域(丙A2・8頁)


いつすい
溢水

原子力発電所の内部に水があふれること。
津波等の外部事象による外部溢水と,原子
力発電所内の配管・弁の損傷等の内部事象
による内部溢水との総称(甲B132・3
8頁)


溢水勉強会

平成18年1月30日に保安院とJNES
が発足させた「溢水勉強会」
。保安院とJN
ESで構成し,電気事業者(被告東電を含
む。,電事連,原子力技術協会及びメーカ

ーがオブザーバーで参加した。名称は,資
料により「溢水勉強会」「内部溢水,外部


溢水勉強会」などとされている(甲B11,
乙B23~29(枝番含む。)
)。
ウクライナ

ウクライナ。1991年(平成3年)にソ
ビエト連邦から独立した国家。

延宝房総沖地震

延宝5年10月9日(1677年11月4
日)の津波を引き起こした地震(甲B5の

2・21頁,甲B242の1・46頁)

屋内待避区域

政府が原災法に基づいて各地方公共団体の
長に対して住民の屋内退避を指示した区域
(丙A2・6頁)


確率論的安全評価

原子炉施設の異常や事故の発端となる事象
(起因事象)の発生頻度,発生した事象の
及ぼす影響を緩和する安全機能の喪失確率
及び発生した事象の進展・影響の度合いを
定量的に分析することにより,原子炉施設
の安全性を総合的・定量的に評価する方法。

PSA(ProbabilisticSafety
Assessment)とも(甲B1の1本文編40
9頁)

韓国
大韓民国。

帰還困難区域

長期間,具体的には5年間を経過してもな
お年間積算線量が20mSvを下回らない
おそれのある,平成23年12月26日時
点における年間積算線量が50mSv超の
地域として指定された地域(丙C13)


技術基準規則

炉規法43条の3の14の委任に基づく「実
用発電用原子炉及びその附属施設の技術基
準に関する規則」
(平成25年原子力規制委
員会規則第6号)
(乙A18)


技術基準適合命令
経済産業大臣が,事業用電気工作物が省令
62号の技術基準に適合しないと認めると
きに,電気事業法(平成14年当時,平成

18年当時の規制権限との関係では,平成
11年法律第160号による改正後,平成
24年法律第47号による改正前のもの
(乙A4の2・3)
。法令については,当時
施行されていた法令を指し,改正前である

旨の注記を省略することがある。
)40条に
基づき,電気事業者に対し,その技術基準
に適合するように電気工作物を修理し,改
造し,若しくは移転し,若しくはその使用
を一時停止すべきことを命じ,又はその使

用を制限する行政処分。
基本設計

原子炉施設を設置する上において基本とな
る設計。設置許可処分に当たっては,基本
設計に関する事項のみが審査対象となり,
詳細設計には審査が及ばない(最高裁平成

4年10月29日第一小法廷判決・民集4
6巻7号1174頁[伊方原発訴訟]
,最高
裁平成4年10月29日第一小法廷判決・
集民166号509頁[福島第二原発訴
訟]
,最高裁平成17年5月30日第一小法

廷判決・民集59巻4号671頁[もん
じゅ行政訴訟第二次上告審]。被告国のい

う「基本設計ないし基本的設計方針」
(被告
国主張要旨10頁等)と同旨。
旧居住者

その地を旧居住地としていた者。避難を継
続しているか,転居しているか,旧居住地

に帰還しているか,本件事故当時から引き
続き滞在しているかを問わない。
旧居住地

原告ら(ここでは死亡原告を含み,承継原
告を除く。
)が,平成23年3月11日の本
件事故当時において生活の本拠として居住

していた地。本件事故当時は一時的に他の
場所に滞在していたが,生活の本拠として
いた地を含む。平成23年3月11日より
後に出生した原告については,同原告が生
活の本拠として選択した地。多くの場合,

本件事故当時の住民票所在地と一致するが,
生活の本拠としての実態があれば,必ずし
も住民票所在地に限られない。
共用プール建屋

福島第一原発1~6号機の共用としてO.
P.+10m盤上に設けられた運用補助共

用施設。使用済み燃料共用プール,2・4
号機非常用ディーゼル発電機などが配置さ
れていた(甲B1の1資料編3~4頁,乙
B119・8-2-3~8-2-4頁)

居住制限区域

旧避難区域及び旧計画的避難区域のうち,
平成23年12月26日時点からの年間積
算線量が20mSvを超えるおそれがあり,
住民の被曝線量を低減する観点から引き続
き避難を継続することを求めるものとして
指定された地域(丙C13)


緊急時避難準備区域

原災法20条3項に基づき,居住者等に対

し,常に緊急時に避難のための立退き又は
屋内への退避が可能な準備を行うことを指
示した区域(丙C8)

空間線量

ある特定の場所における放射線量。例えば,
屋外の地上1m地点の空間線量は,大地に

由来する放射線,宇宙から降り注ぐ放射線,
周辺の建物などから放出される放射線(自
然放射線及び人工放射線)の総和である。
単位はμSv(マイクロシーベルト)など
(乙B172・46頁)


空間線量率

対象とする空間の単位時間当たりの放射線
量。単位はμSv/h(マイクロシーベル
ト毎時)など(乙B172・46頁)


警戒区域

原災法28条2項,災害対策基本法63条
1項に基づき,緊急事態応急対策に従事す

る者以外の者について,市町村長が一時的
な立入りを認める場合を除き,当該区域へ
の立入りを禁止し,又は当該区域からの退
去を命じた区域(丙C7)

計画的避難区域

原災法20条3項に基づき,居住者等に対
し,概ね1か月以内の計画的な避難を指示
した区域(丙C8)


慶長三陸地震

慶長16年10月28日(1611年12
月2日)の津波を引き起こした地震(甲B

5の2・21頁,甲B242の1・50
頁)


原告ら

別紙2原告目録記載の原告ら(取下原告を除
く。。
)「原告ら」や「各原告」という場合,
特に断らない限り,承継原告を含み,死亡
原告を含まない。

原告ら主張要旨

別紙8の2017(平成29)年3月21
日付け「争点一覧表に対応する原告らの主
張要旨」


原告○○○○

原告本人尋問の結果。参照のために速記録
又は反訳書の頁数を示すことがある。本件
訴訟では,原告35名につき本人尋問を

行った。
原災法

原子力災害対策特別措置法(平成11年法
律第156号。本件事故に関するものは,
平成24年法律第47号による改正前のも
の。。


原災本部

原災法(平成24年法律第47号による改
正前のもの)16条1項に基づき,平成2
3年3月11日内閣府に設置された,
「平成
23年(2011年)福島第一及び第二原
子力発電所事故に係る原子力災害対策本

部」
(平成23年内閣府告示第8号)
。原災
本部長は内閣総理大臣をもって充てる(原
災法17条1項)
(甲B1の1本文編54
頁)

原状回復請求

請求の趣旨第1項に係る請求。第2項の損
害賠償請求を含まない。

原子力安全委員会

原子力基本法(平成24年法律第47号に
よる改正前のもの)4条,原子力委員会及
び原子力安全委員会設置法(昭和30年法
律第188号。平成24年法律第47号に
よる改正・題名変更前のもの)1条に基づ

き,内閣府に(平成13年法律第102号
による改正前は総理府に)設置されていた,
原子力安全委員会。昭和53年10月4日
に原子力委員会から独立し,原子力の研究,
開発及び利用に関する事項のうち,安全の

確保に関する事項について企画し,審議し,
及び決定する任務を有し(原子力基本法5
条)
,原子力利用に関する政策のうち,安全
の確保のための規制に関する政策に関する
こと等を所掌していた(原子力委員会及び

原子力安全委員会設置法13条)
。平成24
年9月19日をもって廃止され,原子力規
制委員会に統合された。
原子力基本法

原子力基本法(昭和30年法律第186号。
平成14年当時の被告国の規制権限との関

係では,平成16年法律第155号による
改正前のもの(乙A1の1)
,平成18年当
時の被告国の規制権限との関係では,平成
24年法律第47号による改正前のもの
(乙A1の2))
。。

原子炉建屋

原子炉格納容器等が設置されている建屋。

福島第一原発1~4号機にはそれぞれ原子
炉建屋がO.P.+10mの地盤上に存在
した(甲B1の1資料編3~4頁)

県南地域

福島県白河市,西郷村,泉崎村,中島村,
矢吹町,棚倉町,矢祭町,塙町,鮫川村の

1市4町4村。中間指針(追補を含む。
)で
は賠償の対象とされていないが,自主賠償
基準により賠償の対象とされている(丙C
22,24,25)

原賠審

原賠法18条1項に基づき文部科学省に設
置された,原子力損害賠償紛争審査会。

原賠法

原子力損害の賠償に関する法律(昭和36
年法律第147号。本件事故に適用される
ものは,平成24年法律第47号による改
正後,平成26年法律第134号による改

正前のもの)

高校
交流電源

高等学校。
交流(一定時間ごとに流れる方向が変わる
電流)を供給する電源。福島第一原発にお
いては,通常運転時は発電機自身から(内

部電源)
,停止時は隣接号機や送電線から
(外部電源)
,これらの供給が停止した非常
時には非常用ディーゼル発電機(非常用電
源)からの交流電源供給が想定されていた
(丙B41の2参考5・15頁)


甲A1

甲A第1号証。書証番号の付け方は,原告

ら提出書証を甲号証,被告国提出書証を乙
号証,被告東電提出書証を丙号証とし,立
証趣旨により以下の符号を付すこととした。
A号証

法令,指針,それらの解釈につい

ての証拠。

B号証

被告らの責任原因についての証拠

(損害との因果関係に関する証拠や,原状
回復請求の適法性に関する証拠も含む。。

C号証

損害総論(損害に関して,原告ら

に共通する証拠)

H号証

原告らがHの原告番号を付した原

告ら(各訴状提出時点で避難していた原告
ら)の損害各論に関する証拠。枝番は原告
番号に対応する。
T号証

原告らがTの原告番号を付した原

告ら(各訴状提出時点で避難していなかっ
た原告ら。避難経験の有無とは必ずしも連
動しない。
)の損害各論に関する証拠。枝番
は原告番号に対応する。
枝番については,初めから枝番として提出

された証拠は「甲B1の1・2」のように
表記し,後から枝番の書証が追加されたも
のは,
「甲T1の1」「甲T1の1の2」の

ように表記し,
「甲T1の1の1」のような
枝番の変更はしなかった。

国賠法

国家賠償法(昭和22年法律第125号)


国会事故調

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会
法(平成23年法律第112号)に基づい
て国会に設置された「東京電力福島原子力
発電所事故調査委員会」
,又は,同委員会が
平成24年7月5日作成した「国会事故調

報告書」
(甲B4)

子供

対象期間において満18歳以下であった期間
がある者(丙A7・11頁,丙C21~2
5)
。胎児を含まない。中間指針第一次追補
の表記(丙A3・6頁)に従い,全部漢字

表記とした。
「東京電力原子力事故により被
災した子どもをはじめとする住民等の生活
を守り支えるための被災者の生活支援等に
関する施策の推進に関する法律」
(平成24
年法律第48号)にいう「子ども」の範囲

(同法2条5項により胎児を含む。
)とは必
ずしも一致しない。別紙6認容金額目録の
「子供・妊婦」欄では,平成23年3月1
1日から本件口頭弁論終結時までに満18
歳以下の期間があった者(平成4年3月1

2日以降に出生した者)に「○」を,平成
23年3月11日から平成29年3月10
日現在までに妊娠期間があった者に「●」
を,両者に該当する者に「◎」を記載して
いる。

佐竹調書

千葉地方裁判所の平成27年10月5日第

10回口頭弁論及び同年11月13日第1
1回口頭弁論における証人佐竹健治の証人
調書。第10回弁論のもの(乙B154)
を「佐竹調書①」
,第11回弁論のもの(乙
B156)を「佐竹調書②」とし,参照の

ために速記録の頁数を付す。
佐竹論文

平成21年4月に(丙B41の1・21頁)
「活断層・古地震研究報告」に発表された,
佐竹健治,行谷佑一,山木滋「石巻・仙台
平野における869年貞観津波の数値シ

ミュレーション」
(甲B14の5)

自主的避難

避難指示等対象区域以外の区域からの,本
件事故に基づく放射線被曝を回避するため
の避難。日常用語における「自主的」の

ニュアンスを含まず,また,避難の必要性,
合理性,本件事故との相当因果関係といっ
た評価を含まない。本判決の定義では,自
主的避難等対象区域以外の区域からの避難
を含み,避難指示等対象区域からの避難指

示発令前の避難,屋内退避区域,緊急時避
難準備区域,特定避難勧奨地点からの避難,
避難指示等解除後の避難継続,専ら本件地
震・本件津波による避難,放射線被曝回避
目的以外の転出,帰還を前提としない移住

を含まないが,自主的避難者を扱った統計
ごとに,その範囲には差がある(丙A3・

1~2頁)

自主的避難等対象区域

中間指針第一次追補において指定された,
福島県の23市町村(福島市,二本松市,
伊達市,本宮市,桑折町,国見町,川俣町,
大玉村,郡山市,須賀川市,田村市,鏡石

町,天栄村,石川町,玉川村,平田村,浅
川町,古殿町,三春町,小野町,相馬市,
新地町,いわき市)のうち,避難指示等対
象区域を除く区域(丙A3・2頁)

自主賠償基準

被告東電が定めた賠償基準。精神的損害に
関するものに限る。中間指針(追補を含
む。
)の範囲内のもの,中間指針(追補を含
む。
)を超えるものの双方を含む(丙C14
~25,67,88,144)
。被告東電の
いう「東電公表賠償額」
(被告東電主張要旨

35頁等)と同旨。
地震本部

地震防災対策特別措置法(平成7年法律第
111号)に基づき,文部科学省(平成1
1年法律102号による改正前は総理府)

に設置された,地震調査研究推進本部(甲
B5の1)
。又は,そのうち,
「長期評価」
を作成した地震調査研究推進本部地震調査
委員会や,
「長期評価」作成に当たってのの
議論を行った地震調査研究推進本部地震調

査委員会長期評価部会海溝型分科会を指し
て「地震本部」と呼ぶことがある。

実効線量

特定の部位への被曝による影響を,全身へ
の平均的な影響として表すために,等価線
量を組織や臓器別の組織加重係数で補正
(重み付け)した値。単位はSv(シーベ
ルト)
(乙B172・35~41頁)


実用炉規則

実用発電用原子炉の設置,運転等に関する
規則(昭和53年通商産業省令第77号。
本件事故当時のものは,平成23年経済産
業省令第11号による改正前のもの)


シビアアクシデント

設計基準事象を大幅に超える事象であって,
安全設計の評価上想定された手段では適切
な炉心の冷却又は反応度の制御ができない
状態であり,その結果,炉心の重大な損傷
に至る事象(甲B1の1本文編407~4
08頁,甲B4・94,545頁,甲B7

6・6頁,甲B81・2頁,甲B149・
207頁)

死亡原告

訴え提起当初の原告が死亡し,承継原告が
訴訟を承継している場合における,死亡し

た当初原告。訴訟委任状作成後,訴え提起
前に死亡した亡H-375,亡T-137
0を含む(最高裁昭和51年3月15日第
二小法廷判決・集民117号181頁)
。原
則として「原告ら」に含まない。ただし,

「原告らの旧居住地」と言った場合,死亡
原告の旧居住地を含み,承継原告の旧居住

地を含まない。
島崎調書

千葉地方裁判所の平成27年7月10日第
8回口頭弁論及び同年8月25日第9回口
頭弁論における証人島﨑邦彦の証人調書。
証人調書には「島﨑」とあるが(甲B31

1,312)
,証人自身の署名(甲B314,
315。甲B354では「島﨑」
)や論文著
者名の表記(甲B7)に従って「島崎」と
表記する。第8回弁論のもの(甲B31
1)を「島崎調書①」
,第9回弁論のもの

(甲B312)を「島崎調書②」とし,参
照のために速記録の頁数を付す。
収束宣言

原災本部が,平成23年12月16日,福
島第一原発の原子炉は「冷温停止状態」に
達し,
「放射性物質の放出が管理され,放射

線量が大幅に抑えられている」という「ス
テップ2」の目標達成と完了を確認し,本
件事故そのものは収束に至ったと判断した
こと(丙C12)

じようがん
じようがん

貞観地震

貞観11年5月26日(869年7月13
日)に東北地方を襲った津波を引き起こし
た地震(甲B12の1)


承継原告

訴え提起当初の原告が死亡し,その訴訟を
承継した原告。訴訟委任状作成後,訴え提

起前に死亡した亡H-375,亡T-13
70の承継人を含む。

ソン

証人成

平成27年1月20日第10回口頭弁論及
び同年3月24日第11回口頭弁論におけ
ソンウォンチヨル

る証人成元哲の証言。第10回弁論にお
ける証言を「証人成①」
,第11回弁論にお
ける証言を「証人成②」とし,参照のため

に速記録の頁数を示す。
たての

証人舘野

平成27年1月20日第10回口頭弁論及
び同年3月24日第11回口頭弁論におけ
たてのじゆん

る証人舘野淳の証言。第10回弁論におけ
る証言(甲B277,平成27年3月13

日付け原告ら上申書(平成27年1月20
日実施舘野淳証人尋問調書の誤記訂正)に
訂正あり。
)を「証人舘野①」
,第11回弁
論における証言(甲B279に訂正あり。

を「証人舘野②」とし,参照のために速記

録の頁数を示すことがある。
つじ
証人都司

平成27年5月19日第12回口頭弁論及
び同年7月21日第13回口頭弁論におけ

じよしのぶ

る証人都司嘉宣の証言。第12回弁論にお
ける証言を「証人都司①」
,第13回弁論に

おける証言を「証人都司②」とし,参照の
ために速記録の頁数を示すことがある。
なかやち

証人中谷内

平成27年9月30日第14回口頭弁論に
なかやちかずや

おける証人中谷内一也の証言(平成27年
11月17日第15回口頭弁論調書に訂正
あり)
。参照のために速記録の頁数を示すこ

とがある。
省令62号

発電用原子力設備に関する技術基準を定め
る省令(昭和40年通商産業省令第62号。
平成14年当時の規制権限との関係では,
平成15年経済産業省令第102号による

改正前のもの(乙A5の1)
。平成18年当
時の規制権限との関係では,平成20年経
済産業省令第12号による改正前のもの
(乙A5の2))
。。平成25年6月28日に
は技術基準規則(乙A18)が制定され,

実用発電用原子炉に適用すべき技術基準の
内容は同規則に引き継がれたが,省令62
号自体は廃止されていない。
昭和39年原子炉立地審査指針

福島第一原発1~4号機の設置許可当時,
原子力委員会における安全審査の指針とさ

れていた「原子炉立地審査指針」と「原子
炉立地審査指針を適用する際に必要な暫定
的判断のめやす」を合わせた「原子炉立地
審査指針およびその適用に関する判断のめ
やすについて」
(昭和39年5月27日原子

力委員会決定)
(乙A13)
。その後,平成
元年3月27日に一部改訂があった(乙A
6)が,本件事故当時まで,大きな変更は
なかった。
除染関係ガイドライン

環境省が策定した「除染関係ガイドライン
(平成25年5月第2版)(甲B90の1


~5)「第1編


汚染状況重点調査地域内

における環境の汚染状況の調査測定方法」
(甲B90の2)「第2編


土壌等の除染

等の措置」
(甲B90の3)「第3編


除去

土壌の収集・運搬」
(甲B90の4)「第4



除去土壌の保管」
(甲B90の5)の4

編からなる。
除染特措法

「平成二十三年三月十一日に発生した東北
地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事
故により放出された放射性物質による環境

の汚染への対処に関する特別措置法」
(平成
23年法律第110号)

浸水深

地盤から津波痕跡までの高さ。例えば,地
盤の高さがO.P.+10m,浸水高がO.
P.+12mだとすると,浸水深は2mと

なる(甲B242の1・24頁)

浸水高

津波によって建物や設備に残された変色部
や漂着物等の痕跡の,基準面(本件ではO.
P.
)からの高さ(甲B242の1・23~
24頁)


水密化

水中に全体が没しても,水位が下がったあ
とすぐに運転可能な仕様にすること(甲B
4・86頁)


スリーマイルアイランド原発事故
1979年(昭和54年)3月28日,米
国ペンシルバニア州のスリーマイルアイラ
ンド原子力発電所において発生した事故

(乙B123)

政府事故調

平成23年5月24日閣議決定に基づき設
置された「東京電力福島原子力発電所にお
ける事故調査・検証委員会」
(甲B1の1資
料編200頁)
。又は,同委員会が平成23

年12月26日作成した「政府事故調


間報告書」
(甲B1の1)及び平成24年7
月23日作成した「政府事故調

最終報告

書」
(甲B1の2)の一方若しくは双方を指
す。

設計基準事象

原子炉施設を異常な状態に導く可能性のあ
る事象のうち,原子炉施設の安全設計とそ
の評価に当たって考慮すべきものとされた
事象(甲B76・6頁,甲B81・2頁)


平成14年当時の設置許可基準であった
「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関
する審査指針」
(平成2年8月30日原子力
安全委員会決定。平成13年3月29日一
部改訂。乙A10)における「設計基準事

象」の定義は,内部事象に起因して原子炉
施設内で発生する「運転時の異常な過渡変
化」及び「事故」のうち,原子炉施設の安
全設計とその評価に当たって考慮すべきも
のとして抽出されたものをいい,自然現象

や外部からの人為事象を含まない概念とさ
れていた(乙A10・8頁)


設置許可基準規則

炉規法43条の3の6第1項4号の委任に
基づく「実用発電用原子炉及びその附属施
設の位置,構造及び設備の基準に関する規
則」
(平成25年原子力規制委員会規則第5
号)
(乙A17)


線量限度告示

炉規法,実用炉規則の委任に基づき経済産
業省が定めた「実用発電用原子炉の設置,
運転等に関する規則の規定に基づく線量限
度等を定める告示」
(平成13年経済産業省
告示第187号。本件事故当時のものは,

平成25年原子力規制委員会告示第10号
による改正前のもの)
。平成27年原子力規
制委員会告示第8号により廃止され,現在
では,実用炉規則の委任を受けた「核原料
物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する

規則等の規定に基づく線量限度等を定める
告示」
(原子力規制委員会告示第8号)が同
様の基準を定めている。
訴状

特に断らない限り,平成25年(ワ)第3
8号事件訴状を指す。特に断らない限り,

準備書面(訴状,答弁書を含む。
)の記載が
後の準備書面や口頭弁論調書により訂正さ
れている場合,準備書面を引用したときは
訂正後のものとして引用したものとする。
遡上高

津波による浸水の最先端が達した地盤の最
も高い位置に到達した箇所の高さ(甲B2

42の1・24頁)

タービン建屋

タービン,発電機,主復水器等が設置され
ている建屋。福島第一原発1~4号機にお
いては,4機の原子炉に対応してそれぞれ
1棟ずつのタービン建屋が,O.P.+1

0mの地盤上に設置されている(甲B1の
1資料編3~4頁)

タービン建屋等

1~4号機非常用ディーゼル発電機及び附
属施設が設置されていた1~4号機各ター
ビン建屋,2号機B系,4号機B系の空冷

式非常用ディーゼル発電機及び附属設備が
設置されていた共用プール建屋,1号機C,
D系の非常用低圧配電盤が設置されていた
1号機コントロール建屋の総称。
耐震バックチェック

保安院が,平成18年9月20日,被告東
電を含む原子力事業者に対して指示した,
改訂された平成18年耐震設計審査指針に
照らした既設発電用原子炉施設等の安全性
評価(丙B42)


チェルノブイリ原発事故

1986年(昭和61年)4月26日,ソ
ビエト連邦のチェルノブイリ原子力発電所
において発生した事故(甲B204の1・
2,乙B64)


中央防災会議
災害対策基本法(昭和36年法律第223
号)11条1項に基づき内閣府に設置され
た,中央防災会議。又は,そのうち,平成

18年1月25日付け「日本海溝・千島海
溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報
告」
(乙B16,乙B16の2)を作成した
「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関
する専門調査会」
(乙B16・4頁,乙B1

6の2・81頁)を指して「中央防災会
議」と呼ぶことがある。
中間指針

原賠審が平成23年8月5日付けで作成し
た「東京電力株式会社福島第一,第二原子
力発電所事故による原子力損害の範囲の判

定等に関する中間指針」
(丙A2)

中間指針第一次追補

原賠審が平成23年12月6日付けで作成
した「東京電力株式会社福島第一,第二原
子力発電所事故による原子力損害の範囲の
判定等に関する中間指針追補(自主的避難

等に係る損害について)(丙A3)


中間指針第二次追補

原賠審が平成24年3月16日付けで作成
した「東京電力株式会社福島第一,第二原
子力発電所事故による原子力損害の範囲の
判定等に関する中間指針第二次追補(政府

による避難区域等の見直し等に係る損害に
ついて)(丙A4)


中間指針第四次追補

原賠審が平成25年12月26日付けで作
成した「東京電力株式会社福島第一,第二

原子力発電所事故による原子力損害の範囲
の判定等に関する中間指針第四次追補(避

難指示の長期化等に係る損害について)

(甲B159,丙A5)
。平成28年1月2
8日,平成29年1月31日にそれぞれ住
宅確保損害に関する部分が一部改定されて
いるが,精神的損害に関する部分には変更

がないため,本判決では改定前のものを用
いる。
中間指針等

中間指針,中間指針第一次追補,中間指針
第二次追補,中間指針第四次追補及び自主
賠償基準を総称したもの。本判決の定義で

は,精神的損害の賠償基準を含まない平成
25年1月30日付け「東京電力株式会社
福島第一,第二原子力発電所事故による原
子力損害の範囲の判定等に関する中間指針
第三次追補(農林漁業・食品産業の風評被

害に係る損害について)
」を含まない。
中間指針等による賠償額

中間指針等が定める精神的損害の賠償額。
中間指針等の定める額は目安であって,個
別事情による増減が許容されているもので
あるが,本判決では,その目安の額をもっ

て「中間指針等による賠償額」と定義する。
中国

中華人民共和国。原告T-1114,原告
T-1117,原告T-1458の本国法
はいずれも中華人民共和国法と認められる

ので,本判決では,専ら中華人民共和国の
略称として使用する。

長期評価

地震本部地震調査委員会が平成14年7月
31日作成した「三陸沖から房総沖にかけ
ての地震活動の長期評価について」
(甲B5
の2)
。平成14年,15年,17年に一部
訂正があった(甲B5の2・1頁)ほか,

平成21年3月9日にも一部改訂が行われ
ている(甲B362,丙B50)
。なお,平
成23年11月25日には「三陸沖から房
総沖にかけての地震活動の長期評価につい
て(第二版)(乙B10)に改訂されてい


るが,本判決でいう「長期評価」に含まな
い。
直流電源

直流(常時同じ方向に流れる電流)を供給
する電源。1~4号機には,直流電源とし
てバッテリー(蓄電池)が設置されていた

(甲B4・139頁,丙B41の2参考
5・19頁)

津波地震

Mtの値がMの値に比べ0.5以上大きい
か,津波による顕著な災害が記録されてい
るにもかかわらず顕著な震害が記録されて

いない地震(甲B5の2・3頁)

津波の高さ

平常潮位から測定した,津波によって海面
が上昇した高さ。津波による水位上昇
(山)と下降(谷)との差(全振幅)を

「波高」と呼ぶ例もある(甲B22・1
頁)が,本判決では,水位上昇(山)と平

常潮位との差(半振幅)として定義し,必
ずしも検潮所や波高計で計測されたものに
限定せずに用いる(甲B22・1頁,甲B
242の1・23頁,甲B242の1・2
3頁)


津波評価技術

土木学会原子力土木委員会津波評価部会が
平成14年2月に作成した「原子力発電所
の津波評価技術」
(甲B6の1~3)
。なお,
土木学会原子力土木委員会津波評価小委員
会により,平成28年9月に「原子力発

電所の津波評価技術2016」甲B3

95,401,乙B184)に改訂され
ているが,本判決でいう「津波評価技
術」に含まない。
電気事業法

電気事業法(昭和39年法律第170号。
平成14年当時の規制権限との関係では,
平成14年法律第65号による改正前のも
の(乙A4の1)
。平成18年当時の規制権
限との関係では,平成18年法律第50号
による改正前のもの(乙A4の2))
。。

電事連

被告東電を含む電力会社で構成される任意
団体である,電気事業連合会。

等価線量

吸収線量を,放射線の種類やエネルギー別
の放射線加重係数で補正(重み付け)した

値。単位はSv(シーベルト)
(甲B4・3
34,545頁,乙B172・35頁)


東電事故調

被告東電に設置された福島原子力事故調査
委員会,又は,同委員会が平成24年6月
20日作成した「福島原子力事故調査報告
書」
(丙B41の1・2)


東電設計

東電設計株式会社。被告東電の子会社であ
り,
「平成20年試算」を実施した(甲B3
02・3頁)


特定避難勧奨地点

本件事故発生後1年間の積算線量が20
mSvを超えると推定される特定の地点で
あり,住居単位で指定され,その住民に対

して注意喚起,自主的な避難の支援・促進
を行うこととされた地点(丙C10)

独立性

2つ以上の系統又は機器が設計上考慮する
環境条件及び運転条件において,共通要因
又は従属要因によって,同時にその機能が

阻害されないこと(乙A7・3頁)
。原告ら
主張要旨14頁では,
「多重性」「多様性」

及び「独立性」をまとめて「独立性」とも
いう,とあるが,本判決でいう「独立性」
には,
「多重性」「多様性」を含まない。


土木学会

土木工学に関する民間の学会である社団法
人土木学会(平成23年4月1日から公益
社団法人土木学会)
。又は,そのうち,
「津
波評価技術」を作成した社団法人土木学会

原子力土木委員会津波評価部会(現・公益
社団法人土木学会原子力土木委員会津波評

価小委員会)を指して「土木学会」と呼ぶ
こともある(甲B1の1本文編375~3
76頁,甲B6の1,甲B162,401,
乙B184)

取下原告

訴えを全部取り下げた原告。別紙2原告目
録の「取下げ等」欄に○印のある原告。特
に断らない限り,
「原告ら」「各原告」に含

まない。

内部溢水

広義では,原子力発電所起源の水漏れ(甲
B132・38頁)
。狭義では,そのうち,

床ドレン排水系で処理できる程度の「漏
水」を上回る,又は上回ると予想される可
能性のある水漏れ(甲B132・14,2
5,38頁)

中通り検証の結果

平成28年6月28日に実施した,福島市
内の原告H-82の現居住地である仮設住
宅,原告T-3166が勤務していたさく
ら保育園,原告T-622の自宅及び果樹
園の検証の結果。

妊婦

対象期間において妊娠していた期間がある
者(丙A7・11頁,丙C21~25)別

紙6認容金額目録の「子供・妊婦」欄では,
平成23年3月11日から本件口頭弁論終
結時までに満18歳以下の期間があった者

(平成4年3月12日以降に出生した者)
に「○」を,平成23年3月11日から平

成29年3月10日現在までに妊娠期間が
あった者に「●」を,両者に該当する者に
「◎」を記載している。
波源域

津波の原因となる海底の隆起や沈降を起こ
した領域。地震の震源(最初に断層のずれ

が始まった点)よりは広く,震源域(断層
のずれが生じた範囲)とは概ね一致するが,
より広くなることもあり得る。
波源モデル

津波の原因となる地震の断層運動を数値で
表現したモデル。断層長さ(L)
,断層幅

(W)
,すべり量(D)等で表される。
「断
層モデル」とも呼ばれる(甲B6の2・1
-59頁,甲B6の3・2-5頁,乙B1
1)

バックチェック

新たな安全基準が作成された際に,それ以
前に作られた原子炉について,新基準に照
らし合わせて調査し直すこと(甲B4・5
45頁)
。平成18年耐震設計審査指針が作
成された際に行われたのが「耐震バック
チェック」
(丙B42)である。

バックフィット

既設原子炉にも最新基準への適合を義務付
ける制度(甲B4・546頁)
。平成24年
法律第47号による改正後の炉規法43条
の3の23は設置許可基準を既設原子炉に

バックフィットさせているが,同改正前の
炉規法,電気事業法においては,バック

フィットは採用されていなかった。
浜通り検証の結果

平成28年3月17日に実施した,浪江町,
富岡町の居住制限区域,双葉町の帰還困難
区域の原告H-82,原告H-88,原告
H-18の各旧居住地自宅検証の結果。

パラメータスタディ

想定津波の不確定性を設計津波水位に反映
させるため,基準断層モデル(波源モデ
ル)の諸条件を合理的と考えられる範囲内
で変化させた数値計算を多数実施すること
(甲B6の2・1-14頁)


比較沈み込み学

プレートの沈み込み方と地震の起こり方と
に相関があると考える理論(乙B35,1
51,乙B154・44~45頁)


被告国主張要旨

別紙9の平成29年3月16日付け「争点
一覧表に対応する被告国の主張要旨」


被告東電

被告東京電力ホールディングス株式会社。
平成28年4月1日変更前の商号は「東京
電力株式会社」
。炉規法上の許可を受けて福
島第一原発の設置,運転等を行ってきた者
として,本件事故に関し,原賠法上の「原

子力事業者」に該当する。
被告東電主張要旨

別紙10の平成29年3月17日付け「被
告東京電力準備書面(40)
(争点一覧表に
ついての被告東京電力の主張の要旨)。


非常用電源設備

外部電源が喪失した場合でも,原子炉を安
全に停止するために必要な電力を供給する

電源設備(平成14年当時の省令62号2
条6号ニ,8条の2,33条2項。平成1
8年当時の省令62号2条8号ホ,8条の
2,33条2項,4項。乙A5の1・2)

福島第一原発1~4号機には,それぞれ非

常用ディーゼル発電機,高圧配電盤,低圧
配電盤が2系統ずつ設置され,2号機B系,
4号機B系は空冷式であったが,他の6系
統は水冷式であり,水冷式非常用ディーゼ
ル発電機にはそれぞれ非常用ディーゼル発

電設備冷却系海水ポンプが設置されていた。
平成13年安全設計審査指針においては
「非常用所内電源系」はバッテリーを含む
概念であったようであるが(乙A7・25
頁)
,本判決でいう「非常用電源設備」は,

バッテリー(平成14年当時の省令62号
33条3項,平成18年当時の省令62号
33条3項,5項。乙A5の1・2,乙A
16・79~80頁)を含まない。
避難区域

本件事故直後に,政府が原災法に基づいて
各地方公共団体の長に対して住民の避難を
指示した区域。本判決でいう「避難区域」
は,避難指示区域見直し後の帰還困難区域,
居住制限区域,避難指示解除準備区域を含

まない,事故当初の区域を指して使用する
(丙A2・6頁)


避難指示解除準備区域

旧避難区域及び旧計画的避難区域のうち,
年間積算線量20mSv以下となることが
確実であることが確認されて指定された地
域。

避難指示区域

避難指示区域見直し後の,帰還困難区域,
居住制限区域,避難指示解除準備区域の総
称。避難指示区域見直し前の「避難区域」
や「避難指示等対象区域」とは区別して使
用する(丙A4・3頁)


避難指示等対象区域

中間指針第3に「対象区域」として掲げら
れている,①避難区域,②屋内退避区域,③計画的避難区域,④緊急時避難準備区域,⑤特定避難勧奨地点,⑥一時避難要請区域の総称。避難指示区域見直し後の「避難指
示区域」とは区別して使用する(丙A2・

6頁~8頁)

ひばく

被曝

放射性物質から放射線を受けること。人体
の外部から受ける外部被曝と,人体内部の
放射性物質から受ける内部被曝とがある。

また,本件事故がなくても宇宙線,大地放
射線,自然放射性物質などから受ける自然
被曝,レントゲン撮影などから受ける医療
被曝,本件事故による放射性物質から受け
る追加被曝がある。本判決では,専門用語

として,引用部分を除き,表外字を用いて
「被曝」と表記する(乙B172・4,2

3~28頁)

フィリピン
福島県沖海溝沿い領域

フィリピン共和国。
日本海溝沿いの津波波源については,沖合
の日本海溝寄りの領域と陸寄りの領域に分
け,さらに陸寄りの領域をいくつかの波源

域に分けて考えられてきたところ,このう
ち福島県沖の領域のうち日本海溝沿いの部
分。大きな既往地震がなく,
「津波評価技
術」等では波源域として想定されていな
かったが,
「長期評価」では波源域として想

定されていた。
福島第一原発

被告東電が設置した福島第一原子力発電所。
1~4号機は福島県双葉郡大熊町に,5,
6号機は双葉郡双葉町に設置されている。
「1号機」「原子炉建屋」「非常用ディー



ゼル発電機」などという場合,特に断らな
い限り,福島第一原発のそれを指す。
福島第二原発

被告東電が設置した福島第二原子力発電所。
福島県双葉郡楢葉町と富岡町にまたがって
位置する。1~4号機が設置されている。

ふるさと喪失

請求の趣旨第3項の損害賠償請求(弁護士
費用相当額部分を除く,2000万円の損
害賠償請求)の被侵害法益となる権利利益。
原告らは「ふるさと喪失」損害において被

侵害法益となる権利を「包括的生活利益と
しての人格権」であると整理している(原

告ら準備書面(被害総論17)8頁)が,
本判決においては,その呼称や原告らの主
張する考慮要素にかかわらず,請求の趣旨
第3項の損害賠償請求の被侵害法益となる
べき権利利益を「ふるさと喪失」
(それによ

る損害を「ふるさと喪失」損害)と定義す
る。請求の趣旨第1項の原状回復請求の根
拠となる権利,第2項の平穏生活権侵害に
よる賠償の根拠となる権利利益と共通する
か否かを問わない。

平穏生活権

請求の趣旨第2項の損害賠償請求(弁護士
費用相当額部分を除く,月額5万円の損害
賠償請求)の被侵害法益となる権利利益。
その呼称や原告らの主張する考慮要素にか
かわらず,請求の趣旨第2項の損害賠償請

求の被侵害法益となるべき権利利益を「平
穏生活権」と定義する。
米国
平成13年安全設計審査指針

アメリカ合衆国。
平成13年3月29日一部改訂後の「発電
用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査

指針」
(平成2年8月30日原子力安全委員
会決定)
(乙A7)

平成18年耐震設計審査指針

発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指
針(平成18年9月19日原子力安全委員

会決定)
(乙A8の2)「発電用原子炉施設

に関する耐震設計審査指針」
(昭和56年7

月20日原子力安全委員会決定,平成13
年3月29日一部改訂)
(乙A8の1)を全
面改訂したもの。
平成20年試算

被告東電から委託を受けた東電設計が,平
成20年4月18日,
「長期評価」の波源,

地震規模に基づいて,
「津波評価技術」の手
法に従って福島第一原発に到来する津波の
高さを推計したシミュレーションである
「新潟県中越沖地震を踏まえた福島第一・
第二原子力発電所の津波評価委託

打合せ資料

資料2

第2回

福島第一発電所

日本海溝寄りの想定津波の検討Rev.
1」
(甲B348)
。原告らのいう「200
8年推計」
(原告ら主張要旨40頁等)
,被
告らのいう「2008年試算」
(被告国主張

要旨27頁等,被告東電主張要旨31頁
等)

平成24年法律第47号

原子力規制委員会設置法(平成24年法律
第47号)
。平成24年9月19日施行され
(一部の規定を除く。,多数の関連法令を


改正し,旧法による処分は新法による処分
とみなすなどとしている。
平成3年溢水事故

平成3年10月30日に発生した,福島第
一原発1号機補機冷却水系海水配管から海

水が漏洩し,1号機原子炉の手動停止に
至った事故(甲B192~194,乙B9

0)

ポアソン過程

その事象が当該期間内に発生する平均回数
のみに着目して,ポアソン分布という確率
分布に従って発生確率を計算する計算方法
(甲B5の2・5頁)


保安院

経済産業省設置法(平成24年法律第47
号による改正前のもの)20条に基づき,
経済産業省資源エネルギー庁の特別の機関
として設置されていた「原子力安全・保安
院」
。平成24年9月19日に廃止され,原

子力規制委員会に統合された。
放射性物質

放射線を発生する能力(放射能)を有する
物質(乙B172・1~2頁)


放射線

電離作用を有する電離放射線(3000兆
Hzを超える周波数を持ち,生体組織の分

子・原子を電離,励起するようなエネルギ
ーを有する電磁波)をいい,電波,赤外線,
可視光線,紫外線等の非電離放射線(30
00兆Hz以下の周波数で,生体組織の分
子・原子を電離,励起するようなエネルギ

アルファ

ーを持たない電磁波)を含まない。α線,
ベータ

β線等の荷電粒子線,中性子線等の非荷電
ガンマ

粒子線,X線,γ線等の電磁波を総称し,
自然環境に存在する自然放射線を含む(乙
B172・14頁)


放射能

原子核が別の原子核に壊変し,放射線を出

す能力。単位はBq(乙B172・1~3,
9頁)

本件事故

本件地震及び本件津波により福島第一原発
1~4号機において発生した事故。本判決
においては,炉心溶融も水素爆発もなく,

放射性物質の大量放出につながっていない,
福島第一原発5,6号機の事故,福島第二
原発1~4号機の事故を含まない。4号機
については,炉心溶融には至っていないが,
4号機原子炉建屋の水素爆発が放射性物質

の大量放出につながっているため,
「本件事
故」に含める。平成23年3月11日の本
件地震,本件津波による全交流電源喪失か
ら,1~3号機の炉心損傷,炉心溶融,1,
3,4号機の水素爆発,放射性物質の大量

放出に至るまでの幅のある概念であるが
(福島第一原発に生じた異常な状態という
意味では,現在に至るまで継続していると
もいえる。,遅延損害金起算日などの関係

では,平成23年3月11日に発生したも

のとして取り扱う。
本件地震

平成23年3月11日午後2時46分に発
生した東北地方太平洋沖地震(余震を含ま
ない。。M9.0,最大震度7(甲B1の1

本文編15頁)


本件津波

本件地震により発生した津波。

マイアミ論文

被告東電の原子力技術・品質安全部が平成
18年7月に米国フロリダ州マイアミで開
催された第14回原子力工学国際会議(I
CONE-14)において発表した「日本
における確率論的津波ハザード解析の開

発」
(甲B10の1・2)

民訴法
民法

民事訴訟法(平成8年法律第109号)

民法(明治29年法律第89号。平成29
年法律第44号(未施行)による改正前の
もの。


明治三陸地震

明治29年(1896年)6月15日の津
波を引き起こした地震(甲B5の2・21
頁,甲B242の1・45頁)

炉規法

核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制
に関する法律(昭和32年法律第166号。

平成14年当時の規制権限との関係では,
平成14年法律第178号による改正前の
もの(乙A3の1)
。平成18年当時の規制
権限との関係では,平成18年法律第50
号による改正前のもの(乙A3の2))
。。

炉心損傷

原子炉炉心の冷却が不十分な状態の継続や,
炉心の異常な出力上昇により,炉心温度
(燃料温度)が上昇することによって,相
当量の燃料被覆管が損傷する状態。保安院

では,燃料が溶融する状態に至る「燃料ペ
レットの溶融」
(炉心溶融)
,溶融物が炉心

下部に落下する「メルトダウン」とは異な
るものと定義していた(甲B1の1本文編
352頁,甲B1の2本文編280頁)

炉心溶融

原子炉の炉心の冷却が不十分な状態が続き,
あるいは炉心の異常な出力上昇により,燃

料が溶融する状態に至ること。保安院では,
「炉心溶融」に替えて「燃料ペレットの溶
融」という用語を使い,溶融物が重力で炉
心下部に落下する「メルトダウン」とは異
なるものと定義していた(甲B1の1本文

編352頁,甲B1の2本文編280頁,
甲B4・546頁)

ADR

原賠法18条2項1号に基づき原賠審の下
に設置された,原子力損害賠償紛争解決セ
ンター。又は,そこで行われる裁判外紛争

解決手続(AlternativeDispute
Resolution)としての和解仲介手続。
BPT分布

BrownianPassageTime分布。更新過程(時
間の経過によって毎年変化する確率を計算

する方法)における確率分布の一つで,ブ
ラウン運動(溶媒中に浮遊する微粒子が不
規則に運動する現象)を説明する確率モデ
ル。津波地震(プレート境界の地震)は,
ランダムに発生する事象であることから,

その活動分布はBPT分布に従うと考えら
れている(甲B5の2・5頁,甲B330,

乙B144・18~19頁)

Bq

ベクレル。放射性物質が放射線を出す能力
(放射能)の単位。1秒間に崩壊する原子
核の数を表す(甲B4・334,546
頁)


Bq/kg

キログラム当たりベクレル。食品などの有
体物に含まれる放射能濃度の単位。

ICRP

国際放射線防護委員会(International
CommissiononRadiologicalProtection)。
1928年に第2回国際放射線医学会議に

より「国際X線・ラジウム防護委員会(I
XRPC)
」として設立され,1950年に
改称した。イギリスの独立公認慈善事業団
体として登録され,科学事務局はカナダの
オタワに設けられている。専門的科学的見

地から放射線防護に関する勧告等を行って
おり,法的拘束力はないが,世界各国の放
射線被曝の安全基準作成の際に尊重されて
いる(甲B39,374,375,乙B6
3,206,丙B8)


JNES

独立行政法人原子力安全基盤機構法(平成
14年法律第179号。平成25年法律第
82号による廃止前のもの)に基づき平成
15年10月1日設立された,独立行政法

人原子力安全基盤機構(JapanNuclear
EnergySafetyorganization)
。平成26年

3月1日,原子力規制委員会に統合された。
M
マグニチュード(気象庁マグニチュード)

地震のエネルギーからみた地震の規模を示
す。Mの値が1大きくなるとエネルギーは
約32倍に,2大きくなると1000倍に

なる関係にある(甲B5の2・3,9頁,
甲B6の2・1-18頁)

m
mSv
メートル。長さ(高さ,距離)の単位。
ミリシーベルト。1Svの1000分の1。

mSv/y

年当たりミリシーベルト。線量率(単位時
間当たりの実効線量)の単位。mSv/y
で示す場合,特に断らない限り,自然被曝
を除外した追加被曝線量を示す。

Mt

津波マグニチュード。津波の大きさからみ
た地震の規模を示す。津波の振幅(又は痕

跡高)及び観測点から震央までの距離から
求められる(甲B5の2・3,9頁,甲B
6の2・1-18~1-19頁)

Mw

モーメントマグニチュード。地震のモーメ
ントの大きさからみた地震の規模を示す。

断層長さ,断層幅,すべり量及び震源断層
付近の媒質の剛性率から求められる(甲B
5の2・3,9頁,甲B6の2・1-18
頁)

O.P.

小名浜港工事基準面(OnahamaPeil)
。小名
浜港の標準水位をもって福島第一原発の設

計津波水位の基準となる海水面を定めたも
の。東京湾平均海面(T.P.の下方

0.727m(甲B242の1・24頁)

Sv

シーベルト。放射線の種類や組織・臓器に
よる人体への影響の違いを考慮し,足し合

わせ可能にした放射線量の単位。等価線量,
実効線量,周辺線量当量,預託実効線量な
どの単位(甲B4・334,545頁)

TBq
UNSCEAR

テラベクレル。1Bqの1兆倍。
1955年の国際連合総会で設置された,原
子放射線の影響に関する国連科学委員会
(UnitedNationsScientificCommitteeontheEffectsofAtomicRadiation)(乙B254の1・2,丙B17,52~54)


V
μSv

ボルト。電圧の単位。
マイクロシーベルト。1Svの100万分
の1であり,1mSvの1000分の1。

μSv/h

マイクロシーベルト毎時。1時間に対象と
する空間が受ける空間放射線量。福島県に

よるモニタリング測定値はμGy/h(マ
イクログレイ毎時)であるが,これは
μSv/hとほぼ等しいため,μSv/h
として表記する(丙C71の1~5,丙C
91)
。μSv/hで表記する場合,特に断

らない限り,自然被曝(バックグラウン
ド)を含む測定値を示し,特に断らない限

り,地上1m地点での測定値を示す。
14

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「1
4」とあるのは,当庁平成26年(ワ)第
14号事件の原告であることを意味する。

165

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「16
5」とあるのは,当庁平成26年(ワ)第
165号事件の原告であることを意味する。

166号

別紙2原告目録の「166号」欄は,当庁
平成26年(ワ)第166号事件で「ふる
さと喪失」損害の賠償を請求していること

を意味する。
175

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「17
5」とあるのは,当庁平成25年(ワ)第
175号事件の原告であることを意味する。

1990年勧告

ICRPが平成2年(1990年)11月
に主委員会で採択した「国際放射線防護委
員会の1990年勧告」(ICRP
Publicatgion60)
(乙B63)


2007年勧告

ICRPが平成19年(2007年)に発
表した「国際放射線防護委員会の2007

年勧告」
(ICRPPublicatgion103)
(甲B3
9,乙B206,丙B8)

2013年福島報告書

UNSCEARが平成25年(2013年)
10月25日第68回国際連合総会第4委

員会において報告した第60回年次会合活
動報告の基盤とした,科学的附属書A「2

011年東日本大震災後の原子力事故によ
る放射線被ばくのレベルと影響」
(丙B5
3)

2015年報告書

UNSCEARが平成27年10月頃に発
表した「東日本大震災後の原子力事故によ

る放射線被ばくのレベルと影響に関するU
NSCEAR2013年報告書刊行後の進
展」
(丙B54)

2016年報告書

UNSCEARが平成28年に発表した
「東日本大震災後の原子力事故による放射

線被ばくのレベルと影響に関するUNSC
EAR2013年報告書刊行後の進展


連科学委員会による今後の作業計画を指し
示す2016年白書」
(乙B254の1・
2)


38

別紙2原告目録の「事件番号」欄に「3
8」とあるのは,当庁平成25年(ワ)第
38号事件の原告であることを意味する。

4省庁報告書

農林水産省,水産庁,運輸省,建設省の4
省庁が平成9年3月に作成した「太平洋沿

岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(甲
B115の1・2)

7省庁手引き

国土庁,農林水産省,水産庁,運輸省,気
象庁,建設省,消防庁の7省庁が平成9年

3月に作成した「地域防災計画における津
波対策強化の手引き」
(甲B21)


94号

別紙2原告目録の「94号」欄は,当庁平
成25年(ワ)第94号事件で「ふるさと
喪失」損害の賠償を請求していることを意
味する。
以上

別紙8

争点一覧表に対応する原告らの主張要旨

別紙9

争点一覧表に対応する被告国の主張要旨

別紙10

被告東京電力準備書面(40)
(争点一覧表についての被告東京電力の主

張の要旨)
は別冊3のとおり。

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