判例検索β > 平成28年(ワ)第8468号
特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成28(ワ)8468
事件名特許権移転登録手続等請求事件
裁判年月日平成29年11月9日
法廷名大阪地方裁判所
戻る / PDF版
平成29年11月9日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成28年(ワ)第8468号

特許権移転登録手続等請求事件

口頭弁論終結日平成29年9月1日
判決
P1こと

原告
P2

同訴訟代理人弁護士

本同福永同山草深充彦
同補佐人弁理士

石川大輔被告健策聡
株式会社岡田製作所

同訴訟代理人弁護士

冨宅恵同西村啓主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実

及び理由
第1請求
1(1)主位的請求
被告は,原告に対し,別紙「特許目録」記載の特許権について,移転登録手続をせよ。
(2)予備的請求
被告は,原告に対し,別紙「特許目録」記載の特許権のうち,持分2分の1について,移転登録手続をせよ。

2
被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成28年10月4日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,(1)主位的に,別紙「特許目録」記載の特許権(後記本件特許権)は,被告の冒認出願により設定登録されたとして,特許法74条1項に基づき,同特許権について移転登録手続をすることを求め,予備的に,同特許権に係る発明は原告と被告代表者が共同発明したものであり,原告が少なくともその持分2分の1を有しているとして,同項に基づき,同特許権のうち持分2分の1について移転登録手続をすることを求めるとともに,(2)被告が同特許権に係る発明を利用した機器を研究開発するために補助金の支給を受けたとして,不当利得
返還請求権に基づき,被告が支給を受けた補助金に相当する利得の返還及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成28年10月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2
前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により容易
に認められる事実。なお,本判決における書証の掲記は,枝番号の全てを含むときはその記載を省略する。)
(1)当事者等

原告は,平成18年にP1を設立し,平成19年ころから,ロボット便
座を始めとする高齢者用の福祉機器の設計開発を行うようになった(甲5)。イウ
被告は,自動車部品等の製造販売を主たる業とする株式会社である(乙2
P3(以下「被告代表者」という。)は,平成19年当時から被告の代
4)。

表取締役を務めている(甲4)。
(2)本件技術提携契約等の締結及び解除並びに本件覚書の締結

原告と被告は,平成19年3月1日,次の内容の技術提携契約(以下
「本件技術提携契約」という。
)を締結した(なお,以下では,甲4における「甲」
を「原告」「乙」を「被告」とそれぞれ読み替えて記載する。甲4),

(ア)「原告は,原告の開発した別紙①(注:第34回国際福祉機器展に伴う開発品目一覧。ベッド用品やトイレ用品等が列記されている。
)に上げる商品につ
いて,被告がすべての権利を有するとともに,原告の従業員ならびに外注業者にいかなる権利も発生しないことを確約するとともに,その製品(以下「本製品」という)を使用及び販売することを許諾する。(1条)

(イ)「被告は,前条の許諾の対価として,次の一時金及び実施料を原告に支払う。(以下省略)

(2条)

被告と原告は,同年9月20日,被告の業務の委託に関し,次の内容の
業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。
)を締結した(なお,以下では,
乙19及び20における「甲」を「被告」「乙」を「原告」とそれぞれ読み替えて,
記載する。。なお,以上の各契約の下では,臀部拭き取り装置の製造,販売を被告)
が担当することが前提とされていた(甲5,35,乙19)

(ア)「被告は,次に定める業務…の全部または一部を原告に委託し,原告はこれを受託する。(2条)



被告「の新商品開発に伴う事前調査に付随する一切の業務」



被告「の社内コンピューター(個人管理)のセキュリティ管理なら
びにそれに付随する業務」


「その他被告原告協議の上決定された業務」
「被告または原告は必要があるときは委託業務の内容,実施方法等
の変更および追加等を行うことができるものとする。この場合,被告原告協議の上,委託業務の内容,実施方法,業務委託料などを改めて決定するものとする。」
(イ)「被告は委託業務に係る業務委託料を原告に支払うものとし,その金額については,月額50万円とする。(5条柱書)

(ウ)「被告は商品開発に関連して原告が開発したものに関する特許等の権
利について,被告が権利者であることを確認する。(6条)

(エ)「被告および原告は本契約期間中であっても,3か月前の予告期間をもって本契約を解約することができるものとする。(12条1項)」

原告はその後,上記各契約に基づき,体位変換エアマットや臀部拭き取
り装置であるロボット便座等を設計開発し,平成24年春ころにまでに,被告に対し,臀部拭き取り装置を合計3台納品した。この装置は,温水洗浄便器を用いた後に臀部に残った水滴を拭き取りアームに取り付けたトイレットペーパーによって拭き取るものである。そして,当時,設計開発されていた装置では,便器と便座の間(便座の下)に拭き取りアームを差し込むのに便座を上昇させるために,便座昇降機を利用していた(以下,便座昇降機を利用する装置を「従来の臀部拭き取り装置」という。(甲5,乙24)




被告と原告は,平成22年2月1日,本件業務委託契約に関し,同日付
けをもって下記のとおり契約内容を変更することを合意した(乙20)。

「被告は委託業務に係る業務委託契約について社内コンピューターシステムの管理及び付随する業務内容の縮小により外部委託を解除する。
被告は委託業務に係る業務委託契約料を原告に支払うものとし,その金額については,月額28万円とする。


被告と原告は,平成24年8月20日,同日付けをもって本件技術提携
契約を解除するとの合意をするとともに,同年10月末日付けをもって本件業務委託契約を解除するとの合意をした(甲7,乙21)


原告と被告は,同年8月20日,本件技術提携契約の解除にあたり,次
の事項について確認し合うとともに,今後も引き続き,臀部拭き取り装置の開発・販売について協力関係を維持すべく,次のとおり協力関係を締結するとして,覚書(以下「本件覚書」という。
)を交わした(なお,以下では,甲6における「甲」を
「原告」「乙」を「被告」とそれぞれ読み替えて記載する。甲6),

(ア)確認事項
「今後,原告が臀部拭き取り装置及びその部品並びにそれらの関連製品について,新たなアイデアを着想したり,新たな製品を開発した場合,原告は,原告自らの名義によって,特許出願,実用新案登録出願,及び意匠登録出願を国内外問わず行うことができる事をお互い確認し合った。(3項)

(イ)今後の協力関係
a
「今後,原告が臀部拭き取り装置及びその部品並びにそれらの関連
製品について,新たなアイデアを着想したり,新たな製品を開発した場合,原告は,最初に,被告に対して,当該アイデア及び当該製品を紹介しなければならない。」
(1項)
b
「被告は,原告から紹介された当該アイデア及び当該製品に関して,
各種権利の実施許諾又は買取等について,他社に先んじて優先的に交渉することができる。(2項)

c
上記a及びb「における被告の優先的交渉権は,原告から被告に紹
介がなされてから1ヶ月間とする。(3項第1文)

(ウ)秘密保持義務
a
「原告及び被告は,臀部拭き取り装置及びその部品並びにそれらの
関連製品について,お互いに開示し合った秘密情報に関して,双方,秘密として管理し,秘密を保持しなければならない。ただし,既に公知の情報に関しては,秘密保持義務からは除外されるものとする。(1項)

b
「秘密保持義務が課される期間は,相手方から開示されてから1年
6ヶ月間とする。(2項)

(3)原告及び被告による特許の出願及びその登録

原告は,平成24年9月25日,発明の名称を「便座固定型臀部水分自
動除去装置」とし,特許請求の範囲,明細書及び図面を別紙「原告第1出願における明細書等の記載」のとおりとする特許の出願(以下「原告第1出願」という。)を
した(特願2012-228407。甲9,25)


被告は,同年10月9日,発明の名称を「臀部拭き取り装置」とし,特許請求の範囲を次のとおりとする特許の出願(以下「本件基礎出願」という。)をし
た(特願2012-224278号。甲1ないし3)

【請求項1】
紙を取り付けることができる拭き取りアームと,
前記拭き取りアームを駆動させる拭き取りアーム駆動部と,
便座と便器との間に設けられた嵩上げ部とを備え,
前記拭き取りアーム駆動部は,前記嵩上げ部に設けられたくり抜き部分から前記拭き取りアームを挿入して,拭き取り動作を行うことを特徴とする,臀部拭き取り装置。
【請求項2】

紙を取り付けることができる拭き取りアームと,
前記拭き取りアームを駆動させる拭き取りアーム駆動部と,
嵩高い便座とを備え,
前記拭き取りアーム駆動部は,前記便座に設けられたくり抜き部分から前記拭き取りアームを挿入して,拭き取り動作を行うことを特徴とする,臀部拭き取り装置。ウ
原告は,同月10日,発明の名称を「臀部の水分自動ふき取り装置」と
し,特許請求の範囲,明細書及び図面を別紙「原告第2出願における明細書等の記載」のとおりとする特許の出願(以下「原告第2出願」という。
)をした(特願20
12-238350号。甲17,26)


被告は,同年12月27日,本件基礎出願に基づき,特許法41条1項
による優先権の主張を伴う特許の出願(以下「本件優先権出願」という。)をし(特
願2012-284749号)
,前記イの請求項に加え,くり抜き部分を閉じるため
の閉手段をさらに備えることを特徴とする臀部拭き取り装置に係る請求項を追加した(甲1,2,乙13,14)


原告は,原告第1出願について,特許庁長官から手続補正指令書を送付
されたにもかかわらず,手続補正書を提出しなかった。そのため,原告第1出願については,平成25年2月4日,却下するとの処分がされた(甲25)。

原告は,同年3月26日,原告第2出願に基づき,特許法41条1項に
よる優先権の主張を伴う特許の出願をし(特願2013-63379号),さらに同
年4月30日,その出願に基づき,再度同項による優先権の主張を伴う特許の出願をした(特願2013-95062号)
。そして,その出願に基づき,平成27年1
月9日,次の特許に係る特許権が登録された(甲26)

特許番号

第5671738号

発明の名称
特許権者

臀部の水分自動ふき取り装置

発明者

原告


原告

同年3月13日,本件優先権出願に基づき,次の特許(以下「本件特許」
といい,その特許に係る発明を「本件特許発明」という。また,請求項1に係る特許を「本件特許1」と,その特許に係る発明を「本件特許発明1」と,請求項2に係る特許を「本件特許2」と,その特許に係る発明を「本件特許発明2」という。)
に係る特許権(以下「本件特許権」という。
)が登録された。本件優先権出願の願書
に添付された明細書及び図面(補正後のもの。以下「本件特許明細書」という。)の
記載は,本判決添付の特許公報のとおりである(甲1,2)

特許番号

第5709177号

発明の名称
特許権者

発明者

臀部拭き取り装置
被告

被告代表者

特許請求の範囲

本判決添付の特許公報のとおり

本件特許発明の構成要件は,次のとおり分説される。
【請求項1】

1A紙を取り付けることができる拭き取りアームと,
1B前記拭き取りアームを駆動させる拭き取りアーム駆動部と,
1C便座と便器との間に設けられた嵩上げ部とを備え,
1D

前記拭き取りアーム駆動部は,前記嵩上げ部に設けられたくり抜き部分から
前記拭き取りアームを挿入して,拭き取り動作を行うことを特徴とする,1E臀部拭き取り装置。
【請求項2】
2A前記くり抜き部分を閉じるための閉手段をさらに備えることを特徴とする,2B請求項1に記載の臀部拭き取り装置。
(4)被告による開発補助事業の申請と研究開発費の支給

被告は,平成27年,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下
「機構」という。
)に対し,次の内容で同年度のロボット介護機器開発・導入促進事業(開発補助事業)の申請(以下「本件補助申請」という。
)をした。この申請に係
る開発機器は,水洗浄後,拭き取りアームを予め紙を掴んだ状態で移動させるのではなく,拭き取りアームとは別に,紙送り部が紙を拭き取りアームの上に供給し,下から拭き取りアームが紙を押し上げて,臀部を拭く機能を有するものとされてい
た(乙16)

(ア)研究開発計画名

水洗後の水分の拭き取り機能付きロボットポータブ

ルトイレットの開発
(イ)重点分野名

排泄支援

機構は,同年6月30日,審査実施の結果,本件補助申請を一定の条件
を付して採択することを決定した。そして,被告は,機構から5000万円ないし1億円の研究開発費の支給を受けた(甲22,24,乙17)

3争点
(1)本件特許発明1の発明者は原告か(争点1)
(2)本件特許発明2の発明者は原告か(争点2)

(3)本件特許発明は原告と被告代表者が共同発明したものか(予備的請求関係。争点3)
(4)原告から被告に対して本件特許発明に係る特許を受ける権利が承継されたか(争点4)
(5)不当利得の成否,原告の損失の有無及び額,被告の利得額等(争点5)4争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件特許発明1の発明者は原告か)について
(原告の主張)

原告は,平成24年9月初旬には,便座と便器の間に3cm程のスリッ
トを作り出し,そのスリットから拭き取りアームを便器内に挿入する新規臀部拭き取り装置を発明した(以下,この発明を「原告第1発明」という。。)

発明の時期

従来の臀部拭き取り装置には,使用の度に便座を昇降させる必要があるために不便かつ危険であり,便座昇降機が嵩張るため一般住宅等の便所内に置くには不向きであるという問題点があった。
原告は平成24年6月ころ,被告から従来の臀部拭き取り装置について商品化のための製造外注先を選定する段階に入っていることを聞き,今後被告からその設計開発の依頼を受けることができなくなると考えた。そこで,原告は新たな構成を備えた臀部拭き取り装置の開発テーマを模索し,前記問題点を解消した便座昇降機を利用しない臀部拭き取り装置の設計開発の検討を開始した。
そして,原告は,遅くとも同年8月初旬から中旬ころまでには,便座昇降機を利
用しない臀部拭き取り装置として,便座と便器の間に何らかの構造物を設け,当該構造物に設けられた空間を利用してアームによる拭き取り動作を可能とする構成を着想し,3次元で作図して具体化した。
しかしながら,アームの駆動が上下動によるものであるため,そのような装置には,便座と便器の間の構造物をそれほど薄くできないという問題があり,原告はヘ
ッド及びアームの構造を中心にさらに試行錯誤を行い,わずか3cm程のスリットを通すことができるヘッドを備えた拭き取りアームを開発した。そして,原告は同年9月初旬には,便座と便器の間に薄型の構造物を設け,当該構造物の中をアームを通すことによって拭き取り動作を可能とすることを着想し,具体化することで原告第1発明を発明した。原告第1発明の本質的部分は,
「便座と便器の間に設けられ,
水洗式洗浄型便座の高さを高くする構成」
(別紙「原告第1発明の構成(原告の主
張)
」の1c)及び「紙つかみヘッドが,上記構成に設けられたスリットから差し込まれて拭き取り動作を行う」構成(同1d)であり,上記着想を得た時点で発明として完成したといえる。
そして,原告はこの着想をより具体化するために,図面や原告第1出願の明細書の作成等を2週間程で行い,同月25日にはそれらが全て完成し(したがって,原
告が原告第1発明を行ったのは,遅くとも同日であった。,原告第1発明について)
特許を受けるために,同日,原告第1出願を行った。

原告第1発明と本件特許発明1の同一性

原告第1発明は,別紙「原告第1発明の構成(原告の主張)
」記載のとおりの構成
を有し,全て本件特許1の構成要件と一致するため,原告第1発明と本件特許発明1は同一の発明である。
原告第1発明は,便座昇降機を不要とする代わりに,通常の便座よりも便座の高さを2cm高くして,便座と便器の間に隙間(機械のスリット)を設け,そこからアームを露出させることを着想し,原告第1出願の明細書でも便座を2cm高くすることが発明の内容であることが明らかにされている。他方で,本件特許発明1は,
補高便座を用いて嵩上げ部を設けて便座を高くすることによって,補高便座のくりぬき部から拭き取りアームを露出させることを特徴としており,便座を高くする構造物を設けて,便座と便器の間からアームを露出させることができるようにするという本質において,原告第1発明と同一である。

原告の被告代表者に対する開示

被告が原告に対して本件技術提携契約の解除を申し入れたところ,原告は平成24年8月中旬ころには,便座昇降機を不要とする臀部拭き取り装置について試行錯誤を行っていたので,被告代表者に対し,便座昇降機を不要とする臀部拭き取り装置を設計開発中であることを伝えた。そして,これを聞いた被告代表者が協力関係を維持したい旨を原告に申し入れ,本件覚書で今後の協力関係が明記された。原告は以上のやりとりを受け,同年9月初旬ころ以降,同月25日までの間,被告代表者に対し,ゴルフ等を通して定期的に会っていた際に,原告第1発明を発明したことや,その着想を伝えることで,原告第1発明を開示した。これは,原告第1発明に関連してこれと同時に完成したヘッドとアームの構造に関する発明が根幹部分であり,それ以外の構成であれば開示しても差し支えないと考えたためである。また,原告は,被告代表者に対し,同月24日午後5時から打合せを行った際,
原告第1発明の内容をより詳細に開示したほか,同月25日,別紙「甲10の2の画像」を添付したメールを送信して,同発明の構成をより具体的に開示するとともに,同発明の買取りを求めた。上記画像によると,ヘッド部が確認でき,このヘッドが便座に着座した使用者の臀部にアクセスするために,便座の高さを高くするとともに,便器との間が中空でくり抜きされていることが当然に理解され,既に原告
第1発明の内容の開示を受け,当業者である被告代表者であれば,上記画像の便座が上記イの原告第1発明の本質的部分の構成を有していることを具体的に把握することができた。
さらに,原告は,同月末ころ,被告の事務所を訪問の上,被告代表者に対して試作品及び写真資料を提示して,原告第1発明に係る新規臀部拭き取り装置の構成に
ついて説明を行った。
以上のように,原告は被告代表者に対して原告第1発明を開示し,被告が本件基礎出願をしたのはその後であった。
なお,本件において原告は請求原因として,自らの発明と本件特許発明の同一性を主張立証する必要があるが,原告が被告代表者に対して原告第1発明を開示し,
被告がそれを本件特許発明1に利用したことまで主張立証する必要はないと解すべきである。また,被告のその余の主張は否認し,争う。

以上より,本件特許発明1について特許を受ける権利は原告が有してお
り,被告は原告からその権利の承継を受けていない。したがって,被告は冒認出願を行ったのであり,本件特許1は本件特許発明1について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされた。
(被告の主張)

原告の主張のうち,従来の臀部拭き取り装置では便座を昇降させる必要
があったこと,原告が被告代表者に対して平成24年9月25日に別紙「甲10の2の画像」を添付したメールを送信したこと,原告が原告第1出願を行ったこと,本件特許発明1の内容は認め,その余の主張は不知又は否認し,争う。イ
被告代表者は,平成24年9月某日,従業員から障害者用に販売されて
いる補高便座という商品が存在しているとの報告を受け,これを利用すれば便座昇降機を使用しなくても臀部拭き取り装置を作ることができることを着想し,これを具体化して本件特許発明1を完成した。このように,本件特許発明1は被告代表者が原告とは無関係に着想,具体化して完成したものであるから,原告はこれに係る特許を受ける権利を有しておらず,被告による本件特許1の出願は冒認出願ではない。

別紙「甲10の2の画像」からは,原告第1発明の内容,構造を理解す
ることはできず,そのメールの文面からも原告が主張する改善手段の内容を読み取ることはできない。
原告が主張する原告第1発明の内容の理解は困難であるが,同発明は臀部拭き取り装置の紙つかみヘッドに関する発明であって,便座の高さを高くすることはその内容ではなく,ましてやその本質部分ではない。すなわち,本件特許発明1は,補高便座を用いて便座を高くすることによって,補高便座のくり抜き部分から拭き取りアームを露出させるという点に特徴を有するものであるのに対し,原告第1発明
は,1cm程まで紙つかみヘッドを限りなく薄くすることなどの改良により,通常と変わらない便器の高さでの使用を可能にした点に特徴を有する。このように,便座を高く(厚く)する本件特許発明1と便座の高さを維持する原告第1発明は,その本質において,方向性を全く異にする(真逆の)ものである。
(2)争点2(本件特許発明2の発明者は原告か)について
(原告の主張)

原告は,平成24年9月初旬には,新規臀部拭き取り装置本体の開口部
を閉める閉手段である防水シャッターを設けることを発明した(以下,この発明を「原告第2発明」といい,原告第1発明と合わせて「本件原告発明」という。。)

発明の時期

原告は,便座昇降機を使用した臀部拭き取り装置を設計開発していたときから既に,便座を昇降して使用する場合に,便座と便器の間に隙間が生じるため,紙つかみヘッドが汚物や水分等により汚れたり,機械の中に汚物が入ったりするなどの問題点があることを認識していた。この問題を解消するためには防水シャッターを設けることが有効と考えてはいたが,便座昇降機を使用するタイプでは便座と便器の間の隙間が大きく,防水シャッターを設けることは困難であった。
ところが,原告第1発明によると開口部は小さなものであるため,原告は同発明を発明した当初から上記問題点を解消するための防水シャッターが有効であると着想していた。そして,原告第2発明は原告第1発明の本体開口部に防水シャッターを設けるという非常に簡易な構成であるため,発明の着想を得た時点で具体化され,発明として完成した。

したがって,原告第2発明は,原告第1発明と同じく平成24年9月初旬に完成した。そして,原告は遅くとも同年12月17日までには,別紙「甲20の1の図面」のとおり,閉手段である防水シャッター付きの臀部拭き取り装置の図面を作成したところ,この図面には防水シャッターが明確に示されている(したがって,原告は,遅くとも同日までに原告第2発明を行った。。



原告第2発明と本件特許発明2の同一性

原告第2発明は,別紙「原告第2発明の構成(原告の主張)
」記載のとおりの構成
を有し,全て本件特許2の構成要件と一致するため,原告第2発明と本件特許発明2は同一の発明である。

原告の被告代表者に対する開示

原告は,平成24年9月初旬ころ以降,同月25日までの間,被告代表者とゴルフ等を通して定期的に会っていた際に,原告第2発明の内容も開示していたし,同月24日午後5時に被告代表者と打ち合わせ際にもこれを開示した。また,原告は同年12月18日,被告代表者に対し,スリットの開口部を閉じることができる防水シャッターを新規臀部拭き取り装置に設けることを伝え,原告第2発明の構成を開示した。被告のその余の主張は否認し,争う。


以上より,本件特許発明2について特許を受ける権利は原告が有してお
り,被告は原告からその権利の承継を受けていない。したがって,被告は冒認出願を行ったのであり,本件特許2は本件特許発明2について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされた。
(被告の主張)

原告の主張は不知又は否認し,争う。


被告代表者は,平成24年9月26日の時点で,防水処理が必要である
と着想し,同月27日には,図面によってくり抜き部の防水処理について具体的に構想していた。そして,本件基礎出願の明細書には,本件特許発明2の実施例が記載されているところ,それは同年10月5日時点の原稿に記載されていた。このように,本件特許発明2は被告代表者が原告とは無関係に着想,具体化して,遅くとも同日までには完成したものであるから,原告はこれについて特許を受ける権利を有しておらず,被告による本件特許2の出願は冒認出願ではない。むしろ,原告は,被告代表者から指示を受け,本件特許発明2を前提として,具体的な設計提案を行ったというのが実際の経緯である。


別紙「甲20の1の図面」から防水シャッター等の閉手段の存在を認識
することはできず,本体開口部を閉めておくことができるか否かも不明である。(3)争点3(本件特許発明は原告と被告代表者が共同発明したものか)(予備的
請求関係)について
(原告の主張)

上述したとおり,原告は,本件原告発明のうち,少なくとも従来の技術
的課題の解決手段に係る「便座と便器との間に設けられた嵩上げ部」(本件特許1の
構成要件1C)及び「前記嵩上げ部に設けられたくり抜き部分」
(同1D)の構成を
完成させた上で,これらの構成を被告代表者に開示した。そして,原告と被告代表者との間では,本件覚書で規定されている協力関係を否定するような課題の認識の相違は何ら認められない。したがって,仮に原告が本件特許発明を単独で発明した
とは認められないとしても,原告はその特徴的部分の完成に現実的に寄与したから,原告は本件特許発明の共同発明者である。

原告は,本件特許発明についての特許を受ける権利について,少なくと
も2分の1の持分を有しているところ(民法250条参照)
,被告は原告からその持
分の譲渡を受けていない。それにもかかわらず,被告は原告と共同せずに単独で本件特許の出願を行ったから,本件特許は特許法38条の規定に違反してされた。(被告の主張)
上述したとおり,被告代表者は,原告の関与なく本件特許発明を完成させたから,原告はその発明に関して一切の関与をしていない。そもそも,原告と被告代表者とでは,課題の認識自体が異なり,その共有すらできていないのであるから,両者が
共同発明することは不可能である。したがって,原告の主張は否認し,争う。(4)争点4(原告から被告に対して本件特許発明に係る特許を受ける権利が承継されたか)について
(被告の主張)

仮に原告が本件特許発明の発明者であったとしても,本件業務委託契約
は平成24年10月末まで継続しており,同契約の6条によれば,原告が同日までに開発していたものの特許等の権利はすべて被告に帰属することになる。原告は本件に同条が適用されないと主張しているが,本件業務委託契約は,原告・被告間の新商品開発の全体的な運用を規律するものであり,同条は具体的な新商品開発や製品化に進まなくても適用されることが当然に予定されている。イ
また,本件覚書では本件業務委託契約の取扱いについては規定されてお
らず,本件覚書によってその内容が変更されたと解することはできない。そして,被告は平成24年10月まで原告に対して業務委託料を支払い,本件業務委託契約に基づく義務を履行したから,それに対応する成果は被告に帰属させなければならない。
仮に本件覚書によって本件業務委託契約の6条の内容が変更されるという前提に
立ったとしても,原告の主張によれば,本件原告発明は本件技術提携契約及び本件業務委託契約の契約期間中に,これらの契約を利用してなされた成果であり,本件覚書の「新たなアイデア」や「新たな製品」には当たらないから,本件業務委託契約6条が適用されることになる。
(原告の主張)

被告の主張のうち,本件業務委託契約が平成24年10月末まで継続し
ており,被告が同月まで業務委託料を支払ったことは認め,被告のその余の主張は否認し,争う。

そもそも本件業務委託契約は,新商品開発そのものに当たっての合意事
項を規定したものではなく,その前段階である市場調査や事業としての実現可能性の調査といった事前調査に関しての合意を規定したものにすぎないから,新商品開発自体は本件業務委託契約の適用外である。また,原告と被告は,便座昇降機を利用しない臀部拭き取り装置について,商品開発段階に進むことを何ら合意していない。
したがって,平成24年9月初旬に発明された本件原告発明には,同契約の6条
は適用されない。

仮に新商品の開発段階に進む前に本件業務委託契約の6条が適用されるとしても,本件覚書は原告が開発した便座昇降機を利用しないものを含めた臀部拭き取り装置に係る特許を受ける権利等が原告に帰属することを前提としたものであり,同条の内容は本件覚書によって変更された。そして,原告が本件原告発明を完成したのは平成24年9月初旬であるから,同契約の6条は適用されず,同発明に係る特許を受ける権利等は原告に帰属する。
(5)争点5(不当利得の成否,原告の損失の有無及び額,被告の利得額等)について
(原告の主張)

被告は,新規臀部拭き取り装置を商品化するための資金不足を解消する
ために,機構に対して本件補助申請をし,補助金として1億円の支給を受けたところ,同申請に係る開発機器は本件特許発明を具現化したもので,本件特許発明を利用している。そして,本件特許発明は,本件原告発明を冒認したものであるから,本来,補助金は原告に帰属すべきものであり,被告の冒認がなければ,原告が申請して補助金の支給を受けることができた。


被告は,本件特許1の「紙を取り付けることができる拭き取りアーム」
という構成要件(1A)の意義を争っているが,
「取り付ける」という一般的な文言
解釈からも,本件特許発明の作用効果の観点からも,必ずしも対象物を強く把持することに限定されないと解すべきであり,本件特許明細書の内容からもそのように解される。そして,本件補助申請に係る開発機器のアームは,
「紙を取り付けること
ができる拭き取りアーム」に相当するものであるから,同申請に際して本件特許発明が利用された。

したがって,被告の冒認により原告の損失及び被告の利得が生じたから,
原告は被告に対し,不当利得返還請求をすることができる。なお,被告は悪意の受益者である。
(被告の主張)

被告が本件補助申請をして補助金の支給を受けたことは認めるが,原告のその余の主張は否認し,争う。

原告は本件特許発明について何らの権利も有していないし,被告が本件
原告発明を冒認したこともない。また,補助金の性質からすると,補助金は当然被告に帰属すべきものである。
また,本件特許発明の構成要件の「紙を取り付ける」とは,紙を掴むという意味であるが,本件補助申請に係る開発機器では,拭き取りアームには紙を取り付けず,紙載せガイドから給紙される専用紙を下からヘッドで持ち上げ,肛門付近に密着させることで拭き取り動作を行うから,同機器は本件特許発明を利用していない。第3当裁判所の判断

1
前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。
(1)従来の臀部拭き取り装置の開発及びその課題

原告と被告は,平成19年以降,本件技術提携契約等に基づき,臀部拭
き取り装置の設計開発等を進め,被告は発明の名称を「臀部拭き取り装置」などとする複数の特許を出願し,特許登録がされた(甲5,6,14ないし16,32,35)


従来の臀部拭き取り装置では,便座と便器の間(便座の下)にトイレッ
トペーパーを取り付けた拭き取りアームを差し込むのに,便座を上昇させる必要があったため,便座昇降機を利用せざるを得ず,その設置及び利用に伴う課題のほか,コストもかかるという課題があった(甲2,5,9,17,25,35)。

原告は,平成24年8月20日に本件技術提携契約及び本件業務委託契
約が解除された後も臀部拭き取り装置関連の開発を進め,同年9月7日,開閉によってトイレットペーパーを掴む紙つかみヘッドの構造に係る特許の出願をした(特願2012-213129号)
(甲35)

(2)原告第1出願から原告第2出願に至る経緯

平成24年9月24日夕方,原告と被告代表者との打合せが行われた(甲37)


原告は,翌25日,原告第1出願をした。


被告代表者は,同日午前,P4弁理士(以下「P4」という。
)と打合せ

をした。
その後の同日午後0時28分,被告の従業員が,被告代表者に対し,市販されているTOTO株式会社の補高便座やウォームレット付補高便座等のカタログをメールに添付して送信し,被告代表者は,同日午後1時,P4に対し,「先ほどは有難う
ございました。参考までに,かさ上げ便座部品の記載されたカタログを送付させて頂きます。
」として,上記メールを転送した(乙2)



原告は,同日午後6時,被告代表者に対し,
「新型ふき取りきについて」

との件名のメールを送信して,その本文において,
「FAXありがとうございました。
注意して話を進めていきます」「今回の改造点を案内します」として,下記内容,
(原告第1出願の明細書の【0010】の一部を抜粋したもの)を記載し,その開発に係る権利の買取りを検討するよう求めた。また,このメールには,別紙「甲10の2の画像」が添付されていた(甲10)


「この発明はヘッドの形状と*****することで,3cmの隙間からトイレットペーパーを掴んだヘッドの使用を可能にしたものであり,これにより通常と変わらない便器の高さでの使用を可能にしたのである。実際の取り付けは,標準でつい
ている便座の1cmのゴム足を除去して,取り付けるため便座の高さは2cmの高くなるだけである。


原告は,翌26日,東京ビックサイトで開催された第39回国際福祉機
器展において,便座昇降機を利用しない自動式臀部水滴ふき取り機について発表した。そして,その際に使用した資料にも,別紙「甲10の2の画像」が掲載されていた(甲5,12,26)


被告代表者は,上記エのメールの内容を確認し,同日午前9時53分,原告に対し,
「興味は,十分に有りますが,どんなものか詳細が見えないので,御返事のしようが有りません。具体的な図面,模型等を見ての話とさせていただきたいとます。どの部分が新規の特許申請で,その可否も重要です。
」というメールを返信
した(甲11)


P4は,同日午後4時48分,被告代表者に対し,メールで,被告がし
た特許出願に補高便座を意識したものはなく,防衛的な観点から補高便座を利用した臀部拭き取り装置について特許出願した方がよいと伝えた。そして,P4は,補高便座にも色々な物があり,特にアームがどこから出てくるのか明確にしたいとして,具体的な構造を図示するよう求めた。なお,P4は,併せて,アームの構造等は従前のものを使うと思うし,特許の請求項として,具体的にアームの構造を特定しなくてもよいとの考えも伝えた(乙3)


被告代表者は,上記キのメールを踏まえ,同日午後5時07分,P4に
対し,
「イメージとしては,補高なのでその一部を切り取るか,構造によっては中をくりぬいて,最大6センチメートルのすき間でアームを出入りさせたらと,考えています。防水処理は必要です。補高便座も便座の一種とは思っています。」というメ
ールを返信した。
これに対し,P4は,その直後の午後5時17分,被告代表者に対し,単にくり抜いてしまうと,便座が尻の荷重で傾いてしまわないか心配であるとして,それも踏まえて,どのようにくり抜くのか図を書くよう求めるメールを送信した。
そして,被告代表者は,補高便座の一部を切り取り,又はくり抜いた手書きの図面(本件基礎出願の願書に添付された図3や本件特許明細書の図3と同様のもの)を作成し,翌27日午前10時39分,P4に対してファックス送信し,これにも補高便座の切り取り,又はくり抜いた部分に防水処理が必要であることを記載した(甲3,乙4,5)



被告代表者は,同年10月1日,P4に対し,便座が厚くなって,便座
そのものに装置が付いている構造についても特許出願したいと伝えた(乙6,24)。

P4は,同月5日までには特許出願の願書やこれに添付する明細書等の
原稿を作成し,
「P2様がどのような内容で出願しているのか不明ですが,限り急ぎということで,内容は,簡単なものとなっています。
」として,被告代表者にその確
認を求めた。この原稿における特許請求の範囲は,本件基礎出願に係る特許請求の範囲と同一のものであった。
また,P4は,具体的な構造がより明確になった段階で,特許法41条1項による優先権の主張を伴う特許の出願をすることも考えていた(甲3,乙7)。

被告代表者は,同月9日,P4に対し,上記コの原稿の内容に問題がな
いとして,本件基礎出願の手続をとるよう依頼し,本件基礎出願がされた。その明細書では,請求項1は,補高便座を利用するなどして便座と便器の間に嵩上げ部を設けるもので,請求項2は,嵩上げ部を設ける代わりに,ウォームレット付補高便座等の通常の便座よりも嵩高い便座を用いるものと説明されていた。なお,請求項2は,上記ケを踏まえたものであった(甲2の【0012】【0014】,
,乙8)


他方で,原告は,原告第1出願の明細書の内容を書き換えたり,新たな
図面を作成したりするなどし,同月10日に原告第2出願をした。(3)原告第2出願後の経緯

原告は,平成24年10月15日,被告代表者と面談し,その後,被告
代表者に対し,原告第2出願に係る特許請求の範囲及び明細書の【0004】【0,
005】並びに図面と同様のものをメールで送信し,その買取り等について同年11月15日までに回答するよう求め,同年10月22日には,被告に対して新型の臀部拭き取り装置の試作費等の見積書を発行した(甲18,乙10)。

被告が同年11月15日までに原告に対して買取り等の回答をしなかっ
たため,原告は他社にも新型の臀部拭き取り装置についての営業を開始した(甲5,19)


被告は,同年12月27日,本件優先権出願をし,上記第2の2(3)エの
とおり,本件特許2に相当する請求項を請求項3に追加した(乙13,14)。

被告は,平成25年1月18日までの間に,原告に対し,平成24年1
0月12日に購入したTOTO株式会社の補高便座(50mmタイプで,便座の高さを52mm高くすることができるもの)を渡した。そして,原告は,平成25年1月18日,被告に対し,補高便座を使った臀部拭き取り装置の提案をした。この提案資料には,衛生面に関する現状の問題点として,ヘッドに汚物がついていないか,機械の中に汚物が入っていないか,ノロ対策などはできているかということが記載され,その対策として,
「ウオシュレットなどの処理中は本体開口部を閉めてお
くことができます」などと記載されるとともに,補高便座を使った(補高便座の上に便座を設置した)装置の画像が添付されていた(甲21,乙2,9,15,24)。


その後,本件基礎出願は特許法42条1項により取り下げたものとみな
され,また本件優先権出願の請求項2(本件基礎出願の請求項2と同じ内容のもの)は取り下げられた。
2争点1(本件特許発明1の発明者は原告か)について
(1)特許法74条1項の特許権の移転請求制度は,真の発明者又は共同発明者がした発明について,他人が冒認又は共同出願違反により特許出願して特許権を取得した場合に,当該特許権又はその持分権を真の発明者又は共同発明者に取り戻させる趣旨によるものである。したがって,同項に基づく移転登録請求をする者は,相手方の特許権に係る特許発明について,自己が真の発明者又は共同発明者であることを主張立証する責任がある。ところで,異なる者が独立に同一内容の発明をし
た場合には,それぞれの者が,それぞれがした発明について特許を受ける権利を個別に有することになる。このことを考慮すると,相手方の特許権に係る特許発明について,自己が真の発明者又は共同発明者であることを主張立証するためには,単に自己が当該特許発明と同一内容の発明をしたことを主張立証するだけでは足りず,当該特許発明は自己が単独又は共同で発明したもので,相手方が発明したものでな
いことを主張立証する必要があり,これを裏返せば,相手方の当該特許発明に係る特許出願は自己のした発明に基づいてされたものであることを主張立証する必要があると解するのが相当である。そして,このように解することは,特許法74条1項が,当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者であることと並んで,特許が123条1項2号に規定する要件に違反するときのうちその特許が38条の規定に違反してされたこと(すなわち,特許を受ける権利が共有に係るときの共同出願違反)又は同項6号に規定する要件に該当するとき(すなわち,その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたこと)を積極的要件として定める法文の体裁にも沿うものである。
(2)そこで,まず本件特許発明1の内容等について検討する。

前提事実及び本件特許明細書(甲2)によれば,本件特許発明1は,次
のとおりと認められる(以下,引用するのは同明細書の段落番号又は図面である。。)
すなわち,従来の臀部拭き取り装置においては,トイレットペーパーが取り付けられた拭き取りアームを,便座上面と便器との間隙に挿入して,臀部を拭き取ることが多く,典型的には,便座昇降装置を用いて,便座を持ち上げて,便座上面と便器との間隙を生じさせていたが(
【0002】,コストを抑えつつ,便器上面と便座


との間に間隙を設ける簡易な手段の開発が望まれていた(
【0004】前段)
。そこ
で,本件特許発明1は,請求項1記載のとおり,紙を取り付けることができる拭き取りアームと,拭き取りアーム駆動部と,便座と便器との間に設けられた嵩上げ部とを備える臀部拭き取り装置であって,拭き取りアーム駆動部は,嵩上げ部に設けられたくり抜き部分から拭き取りアームを挿入して,拭き取り動作を行うことを特
徴とするものであり(
【0005】,嵩上げ部を用いてくり抜き部を形成し,そこか

ら,拭き取りアームを挿入して臀部を拭き取るようにすることにより,コストを抑えつつ,便器上面と便座との間に間隙を設ける簡易な手段が提供されるものである(
【0008】【0021】。



また,本件特許発明1の実施形態は次のものである。すなわち,図2の
とおり,便座7と便器9との間に嵩上げ部8が設けられており,嵩上げ部8は,便座7の上面を高くするために設けられるものであり,車いすから移乗しやすいようにしたり,足腰の弱い者が立ちやすくしたりするための器具としても機能する。嵩上げ部8は,いわゆる補高便座に限定されるものではなく,例えば,嵩上げ部として,複数の支柱状の器具が用いられてもよい(
【0012】。

また,図3のとおり,嵩上げ部8には,拭き取りアーム3が挿入可能な程度の大きさのくり抜き部6が形成されている。拭き取りアーム駆動部2は,くり抜き部6の間から拭き取りアーム3を挿入し,拭き取りアーム3を前後左右上下に動かして,臀部の水分や汚れを拭き取る(
【0013】。

なお,くり抜き部6の形状や大きさ等は,拭き取りアーム3の形状(なお,図8は従来技術である甲15の図9と同じである。上記1(2)キも参照)や移動経路に合
わせて,適宜設計され,図面に示した形状や大きさ等に限定されるものではない(
【0020】。


以上のことを踏まえると,本件特許発明1は,便座昇降機を不要とする
課題を解決するために,使用時に便座を上昇させるのではなく,予め便座と便器の間に嵩上げ部を設けて便座の位置自体を高くしておき,その嵩上げ部にくり抜き部を形成し,そこから拭き取りアームを挿入して臀部を拭き取るようにすることによって,使用時の便座昇降機による便座の上昇を不要としたものと認められる。そして,このような課題解決方法に照らせば,本件特許発明1は,便座昇降機が必要とされていた理由を,便座の位置が低く,便座と便器の間に拭き取りアームを挿入する隙間がない点に求め,便座の位置を高くして,便器との隙間を生み出すことによ
って,課題を解決しようとしたものであると認めるのが相当であり,そのために,次に述べる原告第1出願の明細書の記載に見られるような便座と便器の間の隙間を小さくしたり,拭き取りアームの厚さを薄くしたりすることについて特段の記載はされていない。
そして,以上の本件特許発明1について,本件優先権出願の明細書及び図面には,
本件基礎出願の明細書図面と同一の内容が記載されていると認められる。(3)以上を踏まえ,本件特許発明1の発明者について検討する。原告は,平成24年9月初旬に完成したという原告第1発明と本件特許発明1は同一の発明であり,原告第1発明について特許を受けるために原告第1出願を行ったと主張し,これに沿う陳述をしていることから,まず,原告第1出願に係る発明について検討する。

別紙「原告第1出願における明細書等の記載」によれば,原告第1出願
に係る発明は,次のとおりと認められる(以下,引用するのは同明細書の段落番号又は図面である。。

従来の「臀部ふき取り装置」では,トイレットペーパーを臀部の下に差し込むため便座を15cm程昇降する必要があり,そのため便座に座る人は,足下が床から浮くため,不安定な状態になり,手摺などで体を固定する必要があった(【000
2】。そこで,紙つかみヘッドを限りなく薄くして,3cm程の隙間でも容易に臀)
部の下に差し入れることができるようにすることで,従来必要であった昇降機を除去できるようにするとともに,紙つかみヘッドが水平状態で機械の3cmのスリットから差し込まれた後,臀部のふき取り位置あたりで,80度ほど回転することで,
臀部を拭くための高さを確保し,回転の量を調整することで臀部に当たる力を簡単に調整できるため,臀部に完全にフィットしたふき取りが容易になるようにしたものである(
【0006】。

この装置は,水洗式洗浄型便器と一体で提供するか,水洗式洗浄型便座と便器の間において使用する。装置は3軸のサーボモーター(2)とリエア・アクチュエー
ター(5)を組み合わせた4軸型可動型装置であり,トイレットペーパーを(4)の位置に置くと紙つかみヘッド(3)がトイレットペーパーを挟み込み,ガイド板(6)の中を移動することで,便座下部の汚れを避けながら,トイレットペーパーを臀部の下部に清潔に移動することができる(
【0009】
,図2)
。実際の取り付け
は,標準でついている便座の1cmのゴム足を除去して,取り付けるため便座の高
さは2cm高くなるだけであり,これにより,トイレ使用者は一般のトイレの使用時と変わることのない着座位置で,トイレ使用後の水滴をトイレットペーパーでふき取ることができる(
【0007】【0010】。


そして,図2の「便座を含む装置全体図」では,上段に斜視図,中段に平面図,下段左側に左側面図,下段右側に正面図が描かれ,そこでは,便器は図示されていないものの,サーボモーター(2)とリニア・アクチュエーター(5)を組み合わせた4軸型可動型装置が便座の脇に設けられ,同装置の前端には紙つかみヘッド(3)とトイレットペーパー置き台座(4)が設けられ,同装置から便座側に延設された薄いガイド板(6)
(なお【0012】では「トイレットペーパーが移動する
ときに便座上下部の汚れがつかないようにするための保護ガイド」とされている。)
が便座の下部に設けられている。


以上からすると,原告第1出願において原告が着想した発明も,従来の
臀部拭き取り装置が便座昇降機を利用するものであったことに伴う課題を解決しようとするものであったと認められる。
そして,上記の原告の発明に係る臀部拭き取り装置では,紙を取り付けることができる紙つかみヘッド(3)が本件特許発明1の「拭き取りアーム」に該当し,紙つかみヘッドを移動させる4軸型可動型装置が本件特許発明1の「拭き取りアーム駆動部」に該当すると認められる。
他方,本件特許明細書によれば,本件特許発明1の「嵩上げ部」は,便器と便座との間に設けられ,便座全体を上げて便器との間に間隙を設ける部材を意味すると解され,補高便座のほか複数の支柱状の器具も想定されているところ,原告第1出
願に係る装置は,
「水洗式洗浄型便座と便器の間において使用する」【0009】


もので,その図2の左側面図及び正面図によれば,便座の下部に薄いガイド板ないし保護ガイド(6)が設けられ,
「実際の取り付けは,標準でついている便座の1c
mのゴム足を除去して,取り付けるため便座の高さは2cmの高くなるだけ」【0(
010】
)であるから,少なくともガイド板ないし保護ガイドの部分においては図示
されない便器と便座の間に3cmの隙間が設けられることになる。しかし,それだけでは便座全体がどのように上げられるのかが明らかでないから,原告第1出願に係る明細書や図面において「嵩上げ部」に該当する部材が記載されていると認めることは困難である。
もっとも,原告第1出願に係る発明においては,便座全体を3cm持ち上げることを想定していると解するのが合理的であるから,原告においては,ガイド板ないし保護ガイド単体又はそれと組み合わせて何らかの形で便座全体を上げることを想定していた可能性があり,その場合には,その構造が「嵩上げ部」に該当し,ガイド板ないし保護ガイド内の紙つかみヘッドの移動空間が「嵩上げ部に設けられたくり抜き部分」に該当する可能性もあり得るところである。
そうすると,原告は,原告第1出願がされた平成24年9月25日の時点で,原
告第1出願に係る発明により,本件特許発明1を完成させていた可能性があるというべきである。

もっとも,原告第1出願に係る発明は,同時に,臀部拭き取り装置にあ
るトイレットペーパーの紙つかみヘッドを限りなく薄くし,3cm程の隙間でも,容易に臀部の下に差し入れることができるようにすることにより,トイレ使用者が一般のトイレの使用時と変わることのない着座位置となるようにして,便座昇降機の除去を可能としたものとされている。また,併せて,トイレットペーパーを掴んだ紙つかみヘッドを臀部のふき取り位置あたりで80度ほど回転させることで,臀部にフィットさせるものとされている。
以上のことを踏まえると,原告第1出願に係る発明は,ヘッドを限りなく薄くし
て,ヘッドを臀部の下に差し入れるのに要する隙間を少なくするとともに,ヘッドを回転させることでヘッドが薄くても臀部にフィットするようにし,使用時の便座昇降機による便座の上昇を不要としたものと認められる。そして,このような課題解決方法に照らせば,原告第1出願に係る発明は,便座昇降機が必要とされていた理由を,ヘッドの形状やその動作の仕方に求め,それらを工夫することによって,
課題を解決しようとしたものであると認めるのが相当である。そうすると,原告第1出願に係る発明と本件特許発明1とは,解決しようとしている抽象的な課題は共通していても,その課題の生ずる具体的な原因の捉え方が異なっており,そのために,具体的な課題の捉え方や,課題解決の方向性や主たる手段も異なることになったと認められる。
(4)そこで次に,原告が原告第1出願に係る発明により本件特許発明1を完成させていた可能性があることに鑑み,被告が,原告第1出願に係る発明に基づいて,本件特許に係る特許出願をしたと認められるかについて検討する。この点について,被告は,被告代表者が本件特許発明1を完成したと主張し,被告代表者はこれに沿う陳述をしている。

前記1での認定事実によれば,被告代表者は,平成24年9月25日午
前中に,P4と打合せをしている。この打合せの内容を直接に示す証拠はないが,同日の午後1時に被告代表者がP4に「先ほどは有難うございました。参考までに,かさ上げ便座部品の記載されたカタログを送付させて頂きます。
」として,補高便座
のカタログを送信していることからすると,被告代表者は,同日午前の打合せにおいて,補高便座を用いた発明の説明をしたと推認される。また,翌26日の午後4
時48分にP4が被告代表者にアームがどこから出てくるのか明確にしたいとのメールを送信しており,前日のカタログの送信から本メールまでの間に被告代表者とP4が打合せをしたことは何らうかがわれないことからすると,本メールは,前日25日午前の打合せの際に,被告代表者が補高便座からアームが出る構造の臀部拭き取り装置の発明を説明したのに対して,P4が質問をしたものであると推認され
る。そして,本メールの直後の同日午後5時07分に被告代表者がP4に「補高なのでその一部を切り取るか,構造によっては中をくりぬいて,最大6センチメートルのすき間でアームを出入りさせたらと,考えています。
」と返信していることから
すると,被告代表者は,同月25日午前にP4に対して補高便座からアームが出る構造を説明した時点で,既に補高便座を「かさ上げ便座部品」として利用し,補高
便座を切り取り,又はくり抜いてアームを出すことで便座昇降機を利用しない臀部拭き取り装置の着想を得て,本件特許発明1を完成していたと推認するのが相当であり,このことは,被告代表者の陳述(乙24)は以上の経緯と整合的である。イ
この点について,原告は,被告代表者が,同月25日午後6時の原告か
らのメールを受け取るまでは,本件特許発明1の着想を得ていなかったと主張する。しかし,前記の被告代表者とP4のやりとりの流れからすると,被告代表者が当初にP4に補高便座のカタログを送信したことが,臀部拭き取り装置の開発と関係のないものであったとは考え難いから,被告代表者は,同日午前にP4と打合せをした時点で,便座をかさ上げしてアームを通すものとして補高便座に着目していたと認めるのが相当であり,そうである以上,前記のとおり,同日午前の時点で被告代表者は本件特許発明1の着想を得ていたと推認するのが相当である。

また,原告は,平成24年9月25日までに原告第1出願の明細書を完
成させ,そのうち原告第1発明について同月24日夕刻に被告代表者に対して開示したと主張する。
確かに,原告と被告代表者が会って話をした同日は,原告が原告第1出願をした前日であるから,原告が被告代表者に対して原告第1出願のことを話したと推認される。しかし,その際に原告が被告代表者に対して,原告第1出願の内容について何をどの程度話したのかについては,これを認定し得る的確な証拠はなく,前日といえども出願前であることを考慮すると,単に臀部拭き取り装置に関する新たな発明について特許出願をする旨を話したにとどまる可能性も否定できない。また,原告は,翌25日午後6時に被告代表者に対して送信したメールにおいて,「今回の改

造点を案内します」として,原告第1出願の要旨を説明し,甲10の2の画像を添付しているが,この文面は,初めて原告第1出願の内容を説明する文章として理解するのが自然な文面であり,これ以前に原告が被告代表者に対して原告第1出願の何らかの内容を説明していたのであれば,そのことをうかがわせる文章であってしかるべきである。そして,それに対して被告代表者は,翌26日午前9時53分の
メールで,
「どんなものか詳細が見えないので,御返事のしようが有りません。」と
述べているが,確かにこのメールや甲10の2の画像によっては,便座全体を上げる構造のほか,ヘッドの構造やアームが動く構造についても明確ではないから,この返信メールも,被告代表者が原告第1出願の内容を初めて開示されたのは,前日のメールによってであると考える場合によく理解することができる。以上からすると,同月24日に原告が原告第1出願の内容を説明したとは認め難い。また,被告代表者は最初から補高便座に着目しているのに対し,原告はそれには全く着目しておらず,両者の間には当初から課題解決に向けた着眼点において大きな差異があることからしても,被告代表者が同日までに原告から原告第1出願に係る発明の開示を受けたとは認め難いところである。確かに,被告代表者が補高便座に着目するに至った経緯は必ずしも明らかではなく,同じ時期に偶然に原告と被告
代表者の双方が便座昇降機を用いない臀部拭き取り装置の発明をしたというのも自然とはいい難いから,原告から被告代表者に対して便座昇降機を用いない臀部拭き取り装置を開発するという程度の抽象的な課題の示唆はあったのではないかとも考えられるが,そのような抽象的な課題の示唆をしただけでは原告が本件特許発明1の発明者であるとは認められないし,前記のような両者の課題解決の方向性の相違
からすると,抽象的課題の示唆を超えて課題解決手段の着想までの教示があったとまで認めるのは困難である。そしてまた,従来から臀部拭き取り装置の開発を原告と行ってきた被告代表者の立場からして,被告代表者が独自に本件特許発明1を着想することができないはずであるともいえない。

以上のことを踏まえると,被告代表者の前記陳述を採用することができ
るから,原告が原告第1出願に係る発明により本件特許発明1を完成させていたとしても,被告が原告から原告第1出願に係る発明に基づいて本件基礎出願及び本件優先権出願をしたとは認められない。
(5)また,原告は,原告第1出願以外にも,平成24年9月初旬に,遅くとも同月25日までには,原告第1発明を完成して,ゴルフ等の機会に被告代表者に開
示した旨主張し,その過程で同年8月に作成したものとして甲27及び28の図面を,同年9月21日までに作成したものとして甲8の1及び8の2の図面を証拠提出している。
しかし,甲27及び28の図面やその内容について,原告が被告代表者にその内容を開示したことを裏付ける的確な証拠はない上,原告本人によれば,それらには問題があったために原告第1出願に係る発明をしたというのである(甲35)から,そのような図面やその内容を被告代表者にあえて開示するとも考え難いところである。
また,甲8の1及び8の2の図面については,拭き取りアームが具体的にどこを通過しているのかが判然としない(これらは別紙「原告第2出願における明細書等の記載」の図1に類似しており,便座の内部を通過しているようにも見える。)が,

仮に原告本人が述べる(甲35)とおり原告第1出願のために作成した図面であるとすれば,先に原告第1出願に係る発明について述べたのと同様,原告がそれを被告代表者に開示し,それに基づいて被告が本件基礎出願及び本件優先権出願をしたとは認められない。
さらに,原告は,陳述書(甲35号証)で,平成24年9月初旬に原告第1発明
を完成し,このころからゴルフ等の機会に被告代表者に開示していたと陳述するが,原告は本件訴訟の提起時には,同発明を行ったのは遅くとも同月25日であったと主張し,被告代表者には同日以降にそれを開示したと陳述していた(甲5)。このよ
うな経緯に照らすと,原告の陳述が一貫したものであるとはいえず,発明を完成したという本人の陳述としては不自然ともいえるから,原告の陳述を採用することは
できない。
したがって,原告が同日より前に完成していたとする発明についても,その内容が同日より前に被告代表者に開示されていたとは認められない。
(6)原告はさらに,原告第2出願も原告第1発明について特許を受けるために行った旨主張しているようにうかがわれる。

しかし,原告第2出願は,被告が本件特許発明1を完成した平成24年9月25日よりも後にされたものである。また,そのことを措くとしても,原告第2出願では,紙つかみヘッドを便座の内部に内蔵して,その内部を移動させることや,便座の上に装置を置いて,紙つかみヘッドを便座上部を移動させることとされており(別紙「原告第2出願における明細書等の記載」の【0005】の(ハ)(ニ),

【0006】の(イ)(ロ),図面でも,図3及び図4は「便座上部をカット」し,

た図面とされ,それに対応して,図5及び図6は,便座上部をカットしない図面であると解され,いずれの図面でも便座の中を紙つかみヘッドが移動することとされていると認められるから,本件特許発明1における「便座と便器との間に設けられた嵩上げ部」は記載されていない。また,仮にそれが記載されているとしても,原告第2出願は,原告第1出願と同様に,紙つかみヘッドの厚みを1cmと薄くする
ことによって,2cmの隙間でもそれを容易に臀部の下に差し入れることができるようにするとともに,アームの上下動作を不要にすることによって,便座昇降機を不要としたものとされている(
【0005】の(ト)【0008】の【実施例】

)か
ら,原告第1出願と同様のことが記載されているにとどまる。
以上のことを踏まえると,原告第2出願に係る発明において,少なくとも原告第
1出願に係る発明以上のものがあるとは認められないから,先に原告第1出願に係る発明について述べたのと同様,原告がそれを被告代表者に開示し,それに基づいて被告が本件基礎出願及び本件優先権出願をしたとは認められない。なお,甲8の5ないし8の8の図面は,甲8の9によってもその作成が平成26年10月7日よりも早いことを認めるに足りる証拠はなく,甲18の3の図面につ
いては前記原告第2出願に係る発明について述べたところが同様に妥当する。(7)以上より,本件特許発明1は,原告がその真の発明者であるとは認められない。
3争点2(本件特許発明2の発明者は原告か)について
(1)まず,本件特許発明2の内容等について検討する。


前提事実及び本件特許明細書(甲2)によれば(以下,引用するのは同
明細書の段落番号又は図面である。,本件特許発明2は,本件特許発明1のように,)
嵩上げ部にくり抜き部を設けると,くり抜き部から水が臀部拭き取り装置に侵入する可能性があり,水分等がくり抜き部や本体等に侵入すると,故障や汚れ,不衛生の原因となるから,これを防止する必要がある(
【0008】【0016】【001


9】
)ことを解決課題とし,くり抜き部分を閉じるための閉手段を設けることによって,水分等がくり抜き部分や本体等に侵入することを防止することができる(【00
08】【0019】

)というものであると認められる。

また,本件特許発明2を実施するための形態については,図6及び7の
とおり,くり抜き部6に自動シャッター窓などを設けて,臀部拭き取り時以外は,閉じるようにしておいてもよい(
【0016】。拭き取りアーム3の動作方法に関係

なく,くり抜き部6を閉じる閉手段10を設ければ,水分等がくり抜き部6や本体等に侵入することを防止することができる。閉手段10の構造は,上記の例に限定されるものではなく,電気モータ等で開閉する仕組みを有していてもよいし,上下にスライドして開閉する構造であってもよく,また,左右にスライドして開閉する構造であってもよい(
【0019】。


(2)以上の事実を踏まえ,本件特許発明2の発明者について検討する。原告は,平成24年9月初旬に原告第2発明を完成したなどと主張し,陳述書(甲35号証)でこれに沿う陳述をしている。
しかし,まず,前記認定のとおり,被告代表者は,平成24年9月26日夕方の時点で既に,P4に対し,補高便座の一部を切り取り,又はくり抜くとともに,防
水処理が必要であることを伝えていたから,防水処理の課題を着想していたと認められる。そして,同年10月5日までに作成された本件基礎出願の明細書の原稿には,
「くり抜き部6…から水が臀部拭き取り装置1に侵入する可能性があるので,自動シャッター窓などを設けて,臀部拭き取り時以外は,閉じるようにしておいてもよい。
」と明記されていたから(乙7の明細書の原稿の【0015】,被告代表者は,)

遅くとも同日までには本件特許発明2を完成したと推認することができ,被告代表者の陳述(乙24)は以上の経緯と整合的であるから,これを採用することができる。
これに対し,原告において前記の被告代表者による本件特許発明2がされるより前に,嵩上げ部のくり抜き部分を閉じるための閉手段を設けることを着想し,具体化したことをうかがわせる証拠は見当たらない。
この点について原告は,平成24年12月17日に作成したものとして別紙「甲20の1の図面」を証拠提出し,また,平成25年1月18日,被告に対して補高便座を使った臀部拭き取り装置の提案をし,その際に本体開口部を閉めておくことを指摘したが(前記1(3)エ)
,いずれも前記の被告代表者による発明よりも後のこ
とである。

また,原告は,本件訴訟の提起時には,遅くとも平成24年12月17日までに原告第2発明を行い,被告代表者には同月18日に開示したと主張し,これに沿う陳述をしていたところ(甲5)
,原告の甲35号証の陳述はこれよりも3か月以上前
に同発明を完成し,被告代表者に開示していたというもので,そのような大幅な陳述の変遷が生ずることは不自然である。

以上の経緯に加え,原告の甲35号証の陳述を裏付ける客観的証拠はないことに照らせば,この陳述は,発明の開示に関する部分も含め,採用することはできない。(3)以上より,本件特許発明2は,原告がその真の発明者であるとは認められない。したがって,原告の主位的請求には理由がない。
4
争点3(本件特許発明は原告と被告代表者が共同発明したものか)(予備的請

求関係)について
前記2及び3の認定・判示によれば,本件特許発明は,その一部についても原告の発明に基づいて被告代表者が発明したとは認められない。したがって,原告の予備的請求には理由がない。
5
争点5(不当利得の成否,原告の損失の有無及び額,被告の利得額等)につ
いて
前記2ないし4の認定・判示によれば,被告が機構から支給を受けた研究開発費(原告の主張する補助金)が被告の不当利得になる余地はないから,原告の被告に対する不当利得返還請求には理由がない。
6結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官
髙宏之野上誠一大松門宏
裁判官

裁判官


トップに戻る

saiban.in