判例検索β > 平成29年(行コ)第6号
求償権行使懈怠違法確認等請求控訴事件、同附帯控訴事件
事件番号平成29(行コ)6
事件名求償権行使懈怠違法確認等請求控訴事件,同附帯控訴事件
裁判年月日平成29年10月2日
法廷名福岡高等裁判所
原審裁判所名大分地方裁判所
原審事件番号平成27(行ウ)6
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主文1
本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の,附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)
らの,
当審において補助参加によって生じた費用は控訴人
(附
帯被控訴人)補助参加人の各負担とする。
事実及び理由

第1
1
控訴の趣旨及び附帯控訴の趣旨
控訴の趣旨
(1)
(2)

2
原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴部分を取り消す。
上記取消部分に係る被控訴人
(附帯控訴人)
らの請求をいずれも棄却する。

附帯控訴の趣旨
(1)

原判決を次のとおり変更する。

(2)

控訴人(附帯被控訴人)が,控訴人(附帯被控訴人)参加人及びAに対し
て有する求償金2755万6519円及びこれに対する平成25年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員の請求を怠ることが違法であることを確認する。
(3)

控訴人
(附帯被控訴人)
は,
控訴人
(附帯被控訴人)
参加人及びAに対し,

2755万6519円及びこれに対する平成25年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を連帯して支払うよう請求せよ。
第2

事案の概要

1(1)

本件は,
大分県が,
大分県立高校の生徒が部活動中に倒れ救急搬送された

が死亡した事故につき国家賠償法1条1項に基づき同県に対して遺族への損害賠償金の支払を命じる確定判決に従い遺族が受領を拒否した上記賠償金を供託したところ,同県の住民である被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)らが,同県の長である控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)に対し,控訴人は,上記部活動の指導をしていた教員であり,上記確定判決において加害公務員と認定された控訴人参加人(以下「参加人B」という。)及びA(以下「A」といい,参加人Bと合わせて「参加人Bら」ということがある。)に対して同条2項に基づき求償権を行使すべきであるにもかかわらず,これを行使しないことが違法に財産の管理を怠るものであると主張して,地方自治法242条の2第1項3号に基づき上記求償権(供託金額相当の2755万6519円及びこれに対する供託日の翌日である平成25年5月2日を起算日とする年5分の割合による遅延損害金請求債権)の行使を怠る事実の違法確認及び同項4号に基づき参加人Bらに対する同求償権行使(連帯支払請求)の義務付けを求める住民訴訟である。(2)

原審は,Aにおいては国家賠償法1条2項にいう重過失が認められない
が,参加人Bにおいてはそれが認められ(争点(1))
,上記供託金に対して,
当時,県が締結していた施設賠償責任保険等による保険金による充当をしても200万円の損害が残り(争点(2))
,信義則上その2分の1の限度に求償
が制限される(争点(3))とした上,この求償権を行使しないことが違法な怠る事実に当たる(争点(4))として,①控訴人において参加人Bに対して有する求償権100万円及びこれに対する供託の日の翌日である平成25年5月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の請求を怠ることが違法であることを確認する,②控訴人において,参加人Bに対し,100万円及びこれに対する平成25年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよとの判決をした。
(3)

これに対し,
控訴人は,
参加人Bについて国家賠償法1条2項の重過失を

認め(争点(1))
,参加人Bの責任について保険金を優先的に充当することを
認めず
(争点(2))信義則上の求償権の制限が2分の1にとどまり

(争点(3))

求償債権を行使しないことが違法な怠る事実に当たる
(争点(4))
としたこと
を不服として控訴をし,被控訴人らは,Aについて国家賠償法1条2項の重過失を認めず(争点(1))
,参加人Bの責任について保険金の充当を認め(争
点(2))
,さらに,求償権を信義則により2分の1に制限したこと(争点(3))を不服として附帯控訴をした。
2
前提事実は,次のほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決4頁14行目の「県」を「大分県(以下「県」という。)」と改め,
同行目から15行目にかけての「り,Cの両親であ」を削り,同17行目の「C」を「C(以下「C」という。)」と,同行目から18行目にかけての「D高校」を「大分県立D高校(以下「D高校」という。)」とそれぞれ改め,同18行目の「剣道部」の後に「(以下,同校の剣道部を「本件剣道部」という。)」を,同行目の「主将」の前に「同部の」を,同19行目の「本件事故」の前に「後記」を,同行目の「死亡した」の後に「(生年月日につき甲1)」をそれぞれ加え,同行目の「本件当時」を「同日」と改め,同20行目の「していた」の後に「(甲4)」を,同21行目,同5頁初行及び同5行目の各「剣道部」の前にいずれも「本件」を,同5頁初行及び同5行目の各「本件事故」の前にいずれも「後記」を,同2行目「していた」の後に「(担当科目につき乙前B4)」を,同5行目「である」の後に「(担当科目につき乙前C4)」をそれぞれ加え,同7行目ないし9行目を削る。(2)

同5頁11行目の「本件当日」を「平成21年8月22日」と,同13
行目の
「熱射病」「熱中症

(救急搬送前の熱中症の重症度は争いがある。」

と,同行目の「E病院」を「E病院(以下「E病院」という。)」とそれぞれ改め,同15行目の「同日」の後に「搬送から約6時間が経過した」を,同行目の「甲1」の前に「以下,以上の出来事を「本件事故」という。」をそれぞれ加え,同17行目から同18行目にかけての「乙前DA2」を「甲前19」と改める。
(3)

同5頁18行目と19行目の間に次を挿入する。

「(3)

参加人Bらに対する懲戒処分(甲前13,乙33,弁論の全趣旨)平成21年12月28日開催の県教育委員会臨時会において,
本件事
故に関し,参加人Bに対し停職6か月,Aに対し停職2か月の懲戒処分を行う旨の議案が承認された。この際,教育長は,提案理由の中で,参加人Bは,Cの体調不良に気付くのが遅れ,午前11時55分頃意識が朦朧となり倒れるまで練習を継続した,参加人Bは,適切な予防措置を怠り,体調に異常が生じた後も練習を継続しようとし,緊急の対応が必要な熱中症に対する救護措置が遅れた,参加人Bは,Cの動きが悪いなどの理由でCの腰の横を蹴り,頬を平手で複数回叩くなどしており,これらの行為は学校教育法11条に禁止されている体罰に該当する,Aは,
Cの体調不良に気付くのが遅れ,適切な予防措置を怠り,体調に異常が生じた後も練習を継続しようとし,
緊急の対応が必要な熱中症に対する
救護措置が遅れた,Aは,副顧問として練習中の危険防止への配慮及び生徒の体調の変化に十分注意し,
顧問に進言すべき等の義務があったに
もかかわらず,それが不十分であった旨述べた。
県教育委員会は,同日,参加人Bに対し停職6か月,Aに対し停職2か月の懲戒処分をした。
停職中参加人Bが支給を受けなかった給与は約
360万円である。」
(4)

同5頁19行目の「(3)」を「(4)」と,20行目から21行目にかけての
「県及び豊後大野市らに対し,前訴を提起した。」を「大分地方裁判所に対し,参加人Bら,県及びE病院を設置する豊後大野市を被告として,本件事故におけるCの死亡は参加人Bらの過失(Cが本件剣道部の練習中,熱中症又は熱射病を発症したにもかかわらず,直ちに練習を中止し,医療施設に搬送し,あるいは冷却措置を実施するなどの措置を執らなかったなどの過失)及びE病院の医師の過失による旨主張して,損害賠償を求める訴え(同裁判所平成22年

222号。以下「前訴」という。)を提起した(前訴にお

ける被控訴人らの主張につき甲1)。」とそれぞれ改め,同22行目の「要旨」の前に「前訴において,」を加え,同6頁3行目の「その余の請求を棄却した。」を「県及び豊後大野市に対するその余の請求をいずれも棄却し,参加人Bらに対する請求をいずれも全部棄却した(甲1)。」と改め,同4行目の「本件」の後に「事故」を加え,同21行目の「ついては」を「おいては」と改め,同7頁初行の「とした」の後に「が,参加人Bらは個人責任を負わないとした」
を加え,
同2行目の
「後,から同3行目末尾までを

「中,
被控訴人らの県及び豊後大野市に対する各請求についての部分に対しては当事者双方とも控訴しなかったため確定したが,
被控訴人らの参加人Bら個
人に対する請求についての部分に対しては,被控訴人らにおいて,福岡高等裁判所に控訴し,
同裁判所がこれを棄却したことについても上告したものの,
上告棄却及び上告不受理の決定がされ,確定した(甲2,乙1,弁論の全趣旨)。」と,同4行目の「(4)」を「(5)」とそれぞれ改め,同行目の「甲2」の後に「,乙35,36,弁論の全趣旨」を加え,同24行目の「(5)」を「(6)」と改め,同8頁4行目の「重大な過失」の前に「国家賠償法1条2項の」を加え,同8行目の「当裁判所に」を「大分地方裁判所に対し,控訴人を被告として,」と改める。
(5)


同8頁12行目末尾の後に改行して次を加える。
(以上は本件記録上明らか)
(7)

熱中症(甲前9,11の2,21,30,49,弁論の全趣旨)
熱中症とは,高温多湿環境下での過度の労作・運動の結果として脱水を伴って生ずる病態をいう。


一般に,体温上昇を伴わない熱けいれん,体温上昇を伴う熱疲労及び熱射病に分類される(後記認定のとおり,熱中症を症状等に応じてⅠ度ないしⅢ度に分類する見解があり,概ね,熱けいれんがⅠ度,熱疲労がⅡ度,熱射病がⅢ度に対応する。)。
このうち,熱疲労は,37度ないし40度の体温上昇と著明発汗による高度脱水(臨床的脱水症状としての頻脈,起立性低血圧),電解質異常(高ナトリウム血症),末梢血管拡張による循環不全及び神経学的徴候として頭痛,めまい,全身倦怠感・疲労感,筋力低下,易怒性等の全身症状を呈するが,通常,意識障害は認めない。
熱射病は,体温調節機能の破綻によって生命が危機的状態にある緊急病であり,40度以上の体温上昇,低血圧,頻脈,頻呼吸,意識障害を認める。熱射病の予後は不良で,死亡率を10パーセントないし75パーセント若しくは80パーセントとする文献がある。ただし,発症から20分以内に体温を下げることができれば,確実に救命できるとする文献がある。」
3
主な争点及び争点に対する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」欄の第2の3,4に各記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決9頁13行目の
「熱中症を発症した」「熱射病を発症したと疑われる」

と改め,
同18行目の「内容」の後に「(熱射病にかかった場合には意識障害が起こるとされ,足のもつれ・ふらつき・転倒,不自然な言動など少しでも意識障害がある場合には熱射病を疑い,
すぐに救急車を要請し,
同時に応急手当を行う。」

を,同20行目の「Cが」の前に「見当識障害を生じているのであり,」を,同21行目の「むしろ,」の後に「少しでも意識障害がある場合には熱射病に由来するものと疑われる(甲前11の2)のであって,」を,同24行目の「した」の後に「と疑われる」を,同末行の「重過失」の前に「国家賠償法1条2項の」を,同10頁初行末尾に「なお,参加人Bらの求償債務は不真正連帯債務であり,両者の間における負担割合は,参加人Bの負担割合が7割を下回ることはない。」を,同16行目の「認識」の前に「招く熱中症Ⅲ度(熱射病)を発症したと」を,同17行目末尾に「すなわち,Cが熱射病に起因する意識障害に陥っていたかは疑問があるし,仮に,これが肯定されたとしても,参加人Bにおいて,Cが致死的な熱中症Ⅲ度(熱射病)であったと認識できたとはいえないから,予見可能性はない。」を,同12頁25行目の「否認」の前に「本件保険金が本件供託による県の損害を填補することは認めるが,その余は」を,同14頁5行目の「以上の」の前に「そして,参加人Bは,本件事故に関して6か月の停職処分を受け,その期間中,約360万円の経済的損失を受けている。加えて,本件事故は,参加人Bのほかに,共同不法行為者が存在するのであり,これらの者との過失割合(寄与度)が考慮されて,分割されるべきところ,Cの死亡という結果発生には,参加人Bの寄与は,直接的・重大なものではない(医療上の過失行為こそが,直接的,重大な原因である。)。」を,同6行目の「べきであ」の後に「り,ごくわずかにとどま」を,同15頁17行目の「本件において」の後に「前訴において,参加人Bに過失があることが指摘されたものの,重過失とは認定されていないことなどの経過を踏まえ,」をそれぞれ加える。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人らの請求は,原判決主文第1項及び第2項の限度で理由があるものと判断する。その理由は,以下のとおり補正し,2項において控訴人の主張に対し,
3項において被控訴人らの主張に対し,
それぞれ補足
的判断を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の第3の1ないし5に認定説示するとおりであるからこれを引用する(後記2項及び3項各記載以外の当事者双方の当審における主張については,引用の原判決認定説示のほかに補足的判断の必要を認めない。)。
(1)

原判決16頁4行目の「3,」の後に「6,」を,同5行目の「4」の後
に「,44,45,乙前B4,乙前C4」を,同7行目及び同16行目の各「剣道部」の前にいずれも「本件」を,同18行目の「本件」の後に「事故」をそれぞれ加え,同24行目から同25行目にかけての「防具(面)」を「面及び小手」と,同17頁13行目の「見極め」から同14行目の「などした」を「『どこがよかったというんだ。』と怒鳴り,座っていたパイプ椅子を左前方に投げた(上記パイプ椅子は床に落ち,誰にも当たっていない。)」とそれぞれ改め,同14行目の「14,」の後に「17,45,」を加え,同18行目の「もの」を「大技の打ち込み」と改め,同24行目の「2人元立ち」の前に「小技の」を加え,その後の括弧書を削り,同18頁初行の「いた」を「現れた」と,同3行目の「そして」から同4行目の「ことになり」までを「参加人Bは,有効打突を取り合格と判定した部員を打ち込み稽古から外すこととし,まず女子部員2人を合格と判定してこの2人を元立ちに固定し,その後,C以外の3人が合格し,元立ちが1人となって」とそれぞれ改め,同6行目の「乙3」の後に「,乙前B4」を加え,同10行目の「乙前甲16」を削り,同12行目の「かつ」の後に「,腕を絞らずに(絞れずに)打ち込んだため」を加え,同13行目の「る程の強い力で打ち」及び同末行の「このような」から同19頁3行目末尾までをいずれも削り,同5行目及び同23頁25行目の各「横腹」をいずれも「胴」と,同19頁5行目及び同23頁25行目の各「前蹴りし」をいずれも「右足裏で蹴り」とそれぞれ改め,同19頁17行目の「平手打ち」の前に「激しく」を,同20行目の「していた」の後に「が,この間,参加人Bらが部員に面を取って水分補給及び休憩をさせることはなかった」をそれぞれ加え,同20頁4行目の「救急出動記録票」を「救急出場記録票及び傷病者搬送記録票」と,同行目の「救急車搬入」を「救急搬送」とそれぞれ改め,同行目の「について,」の後に「体温37.1度,意識レベルJCS200,」を,同5行目末尾の後に「E病院搬入当時のCの体温は39.3度,全身状態不良,意識レベルは半昏睡から昏迷であった(乙前DA1)。」をそれぞれ加える。(2)

同20頁18行目の「中に,」の後に「熱中症は症状等に応じてⅠ度・熱
失神,熱けいれん,Ⅱ度・熱疲労,Ⅲ度・熱射病(重症)に分類され,熱射病に関し」を加え,同22頁初行の「前記認定事実等によると」を「解剖所見によると,Cの死亡原因は熱中症の中でも重症度の高い熱射病と認められ(前提事実(2)),救急搬送中のCの意識レベルがJCS200(刺激しても覚醒しない。
痛み刺激で手足を動かしたり,
顔をしかめたりする
(乙34))

であり,救急隊員が重度の熱中症と判断したことからすると,Cは,救急搬送開始時点では熱射病であったものと優に認められる(搬送中の体温は37.1度であったが,E病院到着時点で39.3度であったことからすると,救急搬送前の冷却措置により一時的に測定される体温が低くなったものと推測される。)。そして,上記認定のとおり,打ち込み稽古において,Cのみが合格と参加人Bに判定されず,打ち込みを繰り返す中,Cは,腕を絞らずに(絞れずに)面を打ち,参加人Bに「もう無理です。」などと述べ,元立ちに竹刀を払い落とされても竹刀を構える仕草を続けるという異常な行動に及び,他の部員らが注意しても気が付かない状態になったことからすると,この時点で,Cに見当識障害が現れ,意識が朦朧となる意識障害が発現していたと認められ,既に熱射病に至っていたか,少なくともその可能性が高いというべきである。」と改め,同初行の「本件」の後に「事故」を加え,同2行目の「こと」を「し」と,同5行目の「こと,」を「。」と,同6行目の「Cが」から同12行目の「のとおり,」までを「上記のとおり,Cに異常な言動が見られ,意識が朦朧となっていることを」とそれぞれ改め,同行目の「,熱射病」から同15行目の「といえる」までを削り,同20行目,同末行及び同23頁16行目から同17行目にかけての各「としての」をいずれも
「と疑われる」
と改め,
同22頁23行目及び同23頁4行目の各
「本
件」の後にいずれも「事故」を加え,同6行目から同7行目にかけての「関係各証拠に照らしてみても,」を削り,同9行目の「そうすると」を「職員朝礼で配布され,参加人Bが内容を把握し自ら剣道場に貼付した『熱中症対策(部活生指導)』に,意識が朦朧としている,言動が不自然など少しでも意識障害がある場合には熱射病を疑い,すぐに救急車を要請し,救急車到着までの間,体を冷やすなどの応急手当をするよう指示していることからしても」と改め,同24頁初行の「またがり,」の後に「Cの異変を察知して近づこうとしたAに対して,『演技じゃけん,心配せんでいい。』などとこれを制止し,Cに対し,」を,同2行目の「平手打ち」の前に「激しく」を,同10行目の「直ちに」の後に「救急車を要請し,その到着までの間,」を,同行目の「ばかりか,」の後に「熱中症を疑い,これを確認しようとするAの対応を妨げているのである。」をそれぞれ加え,同11行目を削り,同12行目の「前蹴りをしたり」を「胴を蹴ったり」と,同15行目の「既に」から同18行目の「だけの」までを「剣道がその競技の特質上,熱中症が起こりやすいといわれていることに加え,本件事故当日,気温が上がる中で,午前10時25分頃から防具を付けた状態で1時間以上休むことなく剣道場で練習をしていた生徒に対し,
その健康状態,
体調に注意を向けて,
生命,
身体の安全確保を優先的に図るべき立場にあるにもかかわらず,既に熱射病由来の可能性の高い意識障害を生じ,それが疑われる異常行動を見て取ることができるCに対し,体調はどうか,熱中症の兆しはないかといった観察や確認をすることなく,かえって,合理的な理由もなく,Cの異常行動を熱中症によるものではないと断定し,通常と異なるCの様子に気が付いた他の者の関与を妨げているのであり,生徒の生命,身体に対する安全確保をおろそかにし,危険にさらしたものというほかなく,学校教育における生徒の安全確保の施策に明確に反する態度であって,」と,同21行目から同22行目にかけての「であること,ひいては」を「あるいはその疑いがあること,熱中症であればこれを」と,同行目の「高いこと」を「あり,迅速に対応すべきこと」と,同25行目の「単に」から同25頁初行の「ので」までを「求められる職責とは正反対の対応をしているので」と,同23行目の「としての」を「と疑われる」と,同行目の「であること,ひいては」を「あるいはその疑いがあること,熱中症であればこれを」と,同24行目の「高い」を「ある」と,同26頁23行目の「異常行動で」を「異常行動の疑いが」と,同行目の「ひいては」を「熱中症であれば」と,同行目の「高い」を「ある」と,
同27頁10行目から同11行目にかけての
「関係各証拠から窺われる」
を「,」とそれぞれ改め,同16行目の「すぐに」の前に「これに戸惑い,」を加え,同17行目の「こと」から同18行目の「いない」までを「ものの,Cの様子を窺うなどしていた」と,同25行目の「地方自治法」から同28頁18行目末尾までを「証拠(乙35,36)及び弁論の全趣旨によれば,本件保険は,被保険者(県教育委員会(すなわち県))が他人の身体の障害(障害に起因する死亡を含む。)について法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害のうち,被保険者が所有等する施設の用法に伴う学校管理下の部活動等に起因する損害を填補する責任保険であり,県教育委員会の任命する教員の重過失を免責事由としていないことが認められる。上記認定事実によれば,本件保険金の支払により,県がCの遺族に対して損害賠償義務を負担することにより被る損害(本件供託により被る損害)のうち2555万6519円が填補されたというべきである(被控訴人らも,本件保険金が本件供託による県の損害を填補することは争わない。)。」とそれぞれ改め,同29頁25行目の「13」の後に「,23,24」を加え,同31頁3行目の「る。」から同10行目の「その」までを「,本件事故の」と改め,同12行目末尾に改行の上「さらに,証拠(甲1,乙31)及び弁論の全趣旨によれば,Cが搬入された医療機関において適切な医療行為がされていないという医師の過失も競合して死の結果に至ったという経過も認められる。」を,同13行目の「に照らすと,」の後に「参加人Bの行為は,生徒の生命,身体の安全を優先的に確保するという職務行為を逸脱したというものではあるが,」をそれぞれ加え,同14行目から同15行目にかけての「においてのみ」を「で」と,同33頁6行目の「そのような判断」を「重過失がないとする判断」とそれぞれ改め,同19行目の「そして,」の後に「関係人の過失の有無や程度,損害額が明らかではないような事案とは異なり,参加人Bに重過失を認める合理性があり,損害額も確定している本件においては,」を加える。
2
控訴人の主張(参加人Bにおける国家賠償法1条2項の重過失の有無)について
(1)

控訴人は,Cが熱射病に起因する意識障害に陥っていたかは疑問がある
し,仮に,これが肯定されたとしても,参加人Bにおいて,Cが致死的な熱中症Ⅲ度(熱射病)であったと認識できたとはいえないから,予見可能性はなく,国家賠償法1条2項の重過失はない旨重ねて主張する。
(2)

しかしながら,前記引用の原判決説示(補正後のもの。以下同じ。)のと
おり,Cは,救急搬送開始時点で熱射病であったと優に認められるところ,同説示のとおり,Cが,打ち込みの練習中,竹刀を払い落とされたにもかかわらず,これに気付かずに竹刀を持たないまま構えをとり,これを注意されても気づかないままであったのであるから,そして,その後,歩行中にふらつき剣道場の壁面に頭部を打ち付けて転倒し傷を負っているのであるから,これらの時点で,Cには見当識障害があったものということができることなどからすると,当時,既にCが熱射病に至っていたか,少なくともその可能性が高い。そして,上記時点で,参加人Bにおいて,熱射病に起因する意識障害を疑うべき状況にあったものと認められる。予見可能性の点からこれを敷衍すると,熱中症が重篤化すると死に至る危険があることは参加人Bも当然了知していたと考えるべきところ,予見可能性の有無は,結局,熱中症Ⅲ度(熱射病)を発症したCについて,熱射病と疑われる言動を認識できたか否かによることとなるところ,熱中症は,軽度のもの(熱痙攣)から中程度のもの(熱疲労),そして高度のもの(熱射病)までに分類されるが,前記引用の原判決説示のとおり,足がもつれる・ふらつく・転倒する,突然座り込む・立ち上がれない,意識が朦朧としている,言動が不自然など,少しでも意識障害がある場合には,熱射病を疑い,すぐに救急車を要請し,同時に応急手当てを行う対応をすべきものとされているのであるから,これによれば,Cの上記行動を認識していた参加人Bにおいて,死に至る危険性のある熱射病に起因する意識障害及び熱射病自体を疑うことができたのであり,熱中症により死に至ることの予見可能性もあったものと認められる。(3)

控訴人は,Cが熱中症Ⅲ度(熱射病)であることを認識できなかった旨主
張するが,医師の資格がない(弁論の全趣旨)参加人Bが熱射病であるか否かを正確に判断できるものではなく,重過失の要件として参加人Bにおける熱射病の認識を要求するのは不合理である。上記のとおり,熱射病と診断されたCについて,当時,高度の熱中症(熱中症Ⅲ度(熱射病))を認識できたか否かというのではなく,熱射病を疑う症状を認識できたか否かが問題とされるべきである。
これを本件についてみると,Cの上記動作は,大会が迫り,顧問の指導を受ける中で,剣道の心得のある者として極めて不自然な態度というほかなく(その前後に,Cと参加人Bを含む周囲の者との間で,理解可能な応答等がされているとしても,上記認定は左右されない。),ここにおいて予見可能性があることは明らかである。
(4)

そして,前記のとおり,参加人Bは,熱射病による意識障害,したがって
熱射病自体を疑うべき事態であるにもかかわらず,また,熱射病ではないと断定する合理的な事情はないにもかかわらず,これを演技だと決めつけて指導を続けたというのであるから,生徒の安全確保を図るべき教諭の立場にありながら,生徒の状況を見守ることなく,また,僅かな注意をすれば有害な結果の発生を容易に予見することが可能であったのにそれをすることもなくいたのであって,自らの職務上の立場において負うべき注意義務の内容範囲に照らして,重大な過失があるといわざるを得ない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
3
被控訴人らの主張(Aにおける国家賠償法1条2項の重過失の有無)について
(1)

被控訴人らは,Aについても,
Cが熱射病を発症していたことを容易に予

見し得たのであるから,参加人Bと同様に,国家賠償法1条2項の重過失があると認めるべきものと,当審においても重ねて主張する。
(2)

なるほど,Aは,Cにおいて,熱中症の症状を呈していることを察知して
いるから,Aは,本件剣道部の副顧問として,早期にこれに対応すべきであったのであり,Aにおいて過失があることは明らかである。
しかしながら,Aは,参加人BがD高校に赴任して以降,本件剣道部の練習計画の策定に参与せず,
本件剣道部の練習に参加する回数も限られており,
また,参加人Bとの関係においても,同人が体育教諭であり,剣道7段の資格を有するのに対して,Aは,剣道5段の資格を有していたが,理科教諭であって,参加人Bの意向に反することは困難であったといえ,さらに,Cの行動に不審な点を感じ取り,熱中症の疑いを心配して倒れたCに駆け寄った際,参加人Bから,Cの動作が演技である旨断定的な口調で制止され,戸惑ったというのであって,このような状況において,Aが,参加人Bの強い意向に逆らって対応すべきことをしなかったからといって,国家賠償法1条2項の重過失があるとまでいうことはできない。
したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
第4

結論
よって,原判決は相当であって,本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないからこれらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。福岡高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官

佐藤
裁判官

足立明正佳
裁判官

佐藤康平
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