判例検索β > 平成28年(わ)第169号
現住建造物等放火(変更後の訴因 現住建造物等放火、殺人)、非現住建造物等放火
事件番号平成28(わ)169
事件名現住建造物等放火(変更後の訴因 現住建造物等放火,殺人),非現住建造物等放火
裁判年月日平成29年10月4日
法廷名岐阜地方裁判所
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主文
被告人を懲役12年に処する
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,平成10年2月頃,実父が死亡したことを契機として,岐阜県海津市内の自宅において知的障害のある実妹のA(以下「被害者」ともいう。)と2人で暮らすようになった。被告人は,平成21年2月頃に無職になり,それ以降,預貯金等を切り崩すなどして生活していたが,その頃から,預貯金等が底を尽いたときには,自殺するしかなく,被害者は1人では生きていけないから同人を道連れにするしかないと漠然と考えるようになり,経済的に困窮していく中でも具体的な就職活動を行わず,
平成26年6月に生活保護の相談のため市役所に1度赴いたほかは,行政機関に相談することもなかった。平成28年3月5日,預貯金が底を尽き,食料と所持金もほとんどなくなったため,
被告人は,
自宅に放火して被害者を殺害し,
自殺することを決意した。
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

岐阜県海津市〔以下省略〕所在の鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建居宅(床面
積合計約100.1平方メートル。以下「母屋」ともいう。)に前記A(当時56歳)と居住していたものであるが,同居宅に放火するとともに,同居宅2階で就寝中の同人を殺害しようと考え,平成28年3月7日午前7時頃,同居宅内において,殺意をもって,ライターで点火した新聞紙の火を同居宅内に堆積していたゴミに燃え移らせて火を放ち,その火を同居宅の柱,天井等に燃え移らせ,よって,同居宅を全焼させて焼損するとともに,その頃,同所において,同人を焼死させて殺害し
第2

自己及び前記Aが共有し,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない岐阜県海津市〔以下省略〕所在の木造瓦葺平家建居宅(床面積約95.62平方メートル。以下「離れ」ともいう。)に放火しようと考え,前記日時頃,同居宅内において,ライターで点火した新聞紙の火を同居宅内に堆積していたゴミに燃え移らせて火を放ち,その火を同居宅の柱,天井等に燃え移らせ,よって,同居宅を全焼させて焼損し
たものである。
(証拠の標目)

(法令の適用)
被告人の判示第1の所為のうち,現住建造物等放火の点は刑法108条に,殺人の点は同法199条に,
判示第2の所為は同法109条1項にそれぞれ該当するが,
判示第1の所為は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重い殺人罪の刑で処断することとし,判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役12年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中400日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
弁護人は,母屋及び離れへの各放火は,1つの犯意に基づき,時間的場所的に近接してなされたものであり,それにより生じた公共の危険も1つであるから,包括一罪の関係にあると主張する。しかし,証拠によれば,母屋及び離れは,所在地こそ同じであるものの,少なくとも約4.65メートル以上離れた別個独立の建物である上,被告人は各居宅それぞれに放火しており,例えば,被告人が母屋の火災が離れにも延焼すると考えていたなどとの,犯意が実質的に1つであったことを示す事情もない。さらに,各居宅がそれぞれ別個独立に燃焼したことからも明らかなように,母屋に放火することにより生じた公共の危険の範囲は,別途離れに放火したことにより生じた公共の危険を包含するようなものではなく,離れへの放火は公共の危険の及ぶ範囲を大幅に拡大させたというべきであるから,公共の危険が1つであるとも認められない。したがって,両者は併合罪の関係にあると考えるのが相当である。
(量刑の理由)
1
本件の量刑判断の中心となる判示第1の殺人の犯行を見ると,被告人は,被害者が母屋の2階で就寝している時間帯を見計らって,母屋1階に堆積していた2箇所の可燃ゴミに火をつけており,その犯行は,逃げ遅れた被害者が焼死する危険性の高いものであった。また,被害者の死亡という結果はもとより重大であるが,被害者の遺体の発見状況等からすると,被害者は,火災発生後に目覚めたが,階下からの出火のために逃げられずに焼け死んだものとうかがわれるのであり,被告人が被害者を苦しませる意図でこのような殺害方法を選択したとまでは認められないものの,被害者に与えた苦痛も極めて大きかったというべきである。
2
さらに,被告人は,所持金等が尽きたために知的障害のある被害者と無理心中を図ったというのであるが,その経緯を見ると,被告人は,無職となった平成21年2月頃以降,経済状態の悪化を認識しつつも具体的な就職活動はせず,生活保護の相談にも1度行っただけで,対策を講じていない。
弁護人は,この点について,被告人の有する統合失調質パーソナリティ障害の影響を指摘するが,同障害は,大多数の者とは異なる特徴を持つ者の一類型で,「性格の偏り」とも言われるものにとどまる上,被告人については,大多数の者からのかい離の度合いが小さいと見てよい部分もあるのであるから,同障害により対策を講じるのが困難となったとは認められないし,被告人が同障害を有することが,被告人に対する非難を特段軽くする事情ともいえない。
犯行に至る経緯には,自身の年齢や知的障害のある家族(被害者)の存在から簡単には仕事が見つからない,あるいは,困窮していく中で頼るべき相手が周囲にいないとか,長年にわたり面倒を見てきた被害者の行く末を案じたとの側面もあることなど,それのみを見れば被告人に同情すべき部分もないではない。しかしながら,それを踏まえても,7年余りもの間,最終的には無理心中することになるかもしれないとまで思い至りながら,対策を講じずに経済的困窮を招いた上,被告人がいなくとも,福祉的な支援を受けて被害者が生活することも可能であったと思われるのに,被告人なしでは被害者は生きていけないなどと十分な根拠もなく思い込み,被害者を殺害した点は,無理心中を回避する努力を長期間にわたってほとんど放棄していたといわざるを得ないものであり,本件の経緯・動機は強く非難されなければならない。
3
以上の犯情を踏まえ,心中を図って1名を殺害したという殺人の類型の量刑傾向(実刑に処せられた事案には,懲役9年を超えるものもあるものの,傾向としては概ね懲役2年を超えて懲役9年以下までの範囲に分布していると見ることができる。)を見ると,本件の殺人は,その上限又はこれを若干超えるところに位置づけられるような犯情の比較的重い事案というべきである。

4
加えて,判示第1及び第2の各放火の犯行についても,それぞれ居宅内に堆積していた可燃ゴミに放火し,母屋及び離れをいずれも全焼させており,東側隣家等への延焼の危険も非常に大きかったものであって,相応の重みがある。
5
以上を踏まえ,さらに,被告人が本件各犯行を認め,被害者への謝罪という形で被告人なりの反省を示していること,被告人に前科前歴がないことなども併せ考え,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(なお,検察官は懲役20年を求刑しているが,本件における殺害方法の残忍さや,放火の各犯行の危険性等をいかに重視したとしても,その求刑は本件の犯情に照らして重過ぎるというべきである。)

(求刑

懲役20年,弁護人の科刑意見

懲役8年)

平成29年10月4日
岐阜地方裁判所刑事部
裁判長裁判官

菅原
裁判官

岩田澄江
裁判官

中村暢明暁
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