判例検索β > 平成28年(行ウ)第250号
不当労働行為救済命令取消請求事件
事件番号平成28(行ウ)250
事件名不当労働行為救済命令取消請求事件
裁判年月日平成29年10月2日
法廷名大阪地方裁判所
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主1文
大阪府労働委員会が,大阪府労働委員会平成27年(不)第35号事件について平成28年10月14日付けでした原告に対する不当労働行為救済命令のうち主文第1項を取り消す。

2
訴訟費用のうち,
補助参加によって生じた費用は被告補助参加人の負担
とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2
1
事案の概要
被告補助参加人及びA労働組合(以下両組合を合わせて「本件組合ら」という。
)は,原告が,被告補助参加人又はA労働組合の組合員である英語指導助手らが組合活動を行ったことから,同人らがX市立小学校(以下「市立小学校」という。
)の卒業式に参加することを認めなかったこと及びX市議会本
会議の答弁において本件組合らの組合活動を中傷したことがそれぞれ不当労働行為に当たるとして,大阪府労働委員会(以下「処分行政庁」という。)に
対し救済を申し立てた(以下「本件救済申立て」という。
)ところ,処分行政
庁は,被告補助参加人の申立てについては上記いずれも不当労働行為に当たるとして救済命令(以下「本件救済命令」という。
)をし,A労働組合の申立
てについては棄却した。
本件は,原告が,被告に対し,本件救済命令の取消しを求める事案である。
2
前提事実(争いのない事実及び後掲証拠等により容易に認定できる事実)(1)当事者等
ア(ア)原告は,地方公共団体であり,平成6年より毎年,姉妹都市であるオーストラリア連邦クイーンズランド州B市(以下「B市」という。)
から,親善大使として,任期1年の国際交流員(以下「本件国際交流
員」という。
)を受け入れていた。
本件国際交流員は,原告滞在中,原告が設置し,X市教育委員会(以下「市教委」という。
)が管理する市立小学校において,英語指導助手
(以下「本件英語指導助手」という。
)として活動していた。
(イ)平成26年度は,本件国際交流員として8名のB市民が原告に滞在し,市立小学校41校において,本件英語指導助手として活動していた。
(ウ)原告は,B市と合意の上,平成27年度より,本件国際交流員の受入れを休止した。

被告補助参加人は,雇用形態や国籍を問わない個人加入の労働組合であるところ,平成26年度の本件国際交流員8名のうち5名が被告補助参加人に加入していた。


C,D(以下両名を合わせて「本件組合員2名」という。
)及びEは,
いずれも平成26年度の本件国際交流員であり,本件当時被告補助参加人の組合員であった。

(2)本件救済申立てに至る経緯

Cは,X市立M小学校(以下「M小学校」という。
)の,Dは,X市立
N小学校(以下「N小学校」という。
)の,Eは,X市立O小学校(以下
「O小学校」という。
)の卒業式に出席することを希望し,平成27年3
月9日頃,その旨を各校の教諭又は校長に伝えた。M小学校の校長は,市教委教育指導課に問い合わせた上,
Cの卒業式への出席を断り,
N小学校
の校長は,
市教委教育指導課に問い合わせた上,
Dの卒業式への出席を断
った。


本件組合らは,処分行政庁に対し,平成27年3月11日,(a)組合員の直接雇用を廃止するための偽装派遣・偽装委託の入札を中止すること,(b)組合員の労働者性を否定する発言を撤回し,組合員に対する労災保険
加入等の労働法適用についての妨害を止めること,(c)組合員に対し,被告が指定した住宅への居住強制を行わず,かつ転居を理由とした雇用契約更新拒否を行わないことを内容とする不当労働行為救済申立てを行った(平成27年(不)第13号。以下「別件救済申立て」という。甲1)。

平成27年3月18日,X市議会本会議(以下「本件本会議」という。)
において,英語指導助手の卒業式への出席に関して質疑が行われ,市教委のF教育指導部長(以下「F部長」という。
)は,保護者に対して署名
活動やビラ配布を依頼するといった動きがあったこと,本件英語指導助手が大阪府労働委員会に救済申立てを行ったこと等を挙げ,英語指導助手を卒業式にお招きすることが何らかの混乱を生じさせることになるといった憂慮について完全に排除することはできないなどと答弁(以下,本件本会議におけるF部長の答弁を「本件答弁」という。
)した(乙A1。
以下において,乙号証とその他の号証の双方に同内容の証拠がある場合は,乙号証の証拠番号のみ記載する。。



平成27年3月19日,全ての市立小学校の卒業式が行われ,Eは,O小学校の卒業式に出席した(以下,同日に行われた市立小学校の卒業式を総称して「平成26年度卒業式」という。。



本件組合らは,平成27年6月17日,処分行政庁に対し,本件救済申立てをした(乙C1)


(3)本件救済命令の発出
処分行政庁は,平成28年10月14日,被告補助参加人の申立てについて,別紙記載の主文による救済命令を発し(本件救済命令。以下において,本件救済命令に係る命令書を「本件救済命令書」という。甲1)
,A労働組合
の申立てについては棄却した。
本件救済命令の理由は,要旨次のとおりである。

平成26年度卒業式に出席を希望し予定していた本件英語指導助手が出
席を認められないことになれば,同人らは精神的苦痛を被ると推認でき,かかる精神的苦痛が不利益である。
市教委教育指導課の指導主事からM小学校及びN小学校の校長らに対する回答は,事実上校長らに対して平成26年度卒業式への出席を認めないよう指示したものとみるのが相当であり,本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったのは原告の判断によるものといえる。そして,原告が本件組合員2名の平成26年度卒業式への出席を認めなかったことは合理的理由があるとはいえず,当該判断は被告補助参加人の組合活動への対応としてなされたものといえるから,労働組合法(以下「労組法」という。
)7条1号本文前段及び3号の不当労働行為に
該当し,また,不当労働行為救済申立てを行ったことを理由になされた不利益取扱いといえるから労組法7条4号の不当労働行為に該当する。イ
本件答弁は,公開の場において,被告補助参加人の組合活動について,正当な理由なく,また具体的かつ現実的な事実に基づくことなく,本件英語指導助手らが出席することにより平成26年度卒業式に混乱が生じることを懸念させるものである旨発言したものであるから,被告補助参加人の組合活動を中傷したものといえ,労組法7条3号の不当労働行為に該当する。

(4)訴えの提起
原告は,平成28年11月15日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
3
本件の争点

(1)本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことが原告による労組法7条1号本文前段,3号及び4号の不当労働行為に該当するか(争点1)

本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことが「不利益な取扱い」に該当するか(争点1-1)


原告が,本件組合員2名が労働組合の組合員であることの故をもって,あるいは不当労働行為救済申立てをしたこと理由として
「不利益な取扱い」
をしたといえるか(争点1-2)


本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことが原告による労働組合への支配介入に当たるか(争点1-3)

(2)本件答弁が労働組合への支配介入に当たるか(争点2)
4
争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことが原告による労組法7条1号本文前段,3号及び4号の不当労働行為に該当するか)について

争点1-1(本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことが「不利益な取扱い」に該当するか)について

【被告の主張】
(ア)本件救済命令書記載のとおり,
平成26年度卒業式に出席を希望し予
定していた本件英語指導助手が出席を認められないことになれば,同人らは精神的苦痛を被ると推認でき,かかる精神的苦痛が不利益である。原告は,労組法7条1号及び4号の「不利益」か否かの判断においては,法律上の権利義務又は法律上保護に値する利益が存在することが前提になる旨主張するが,そのように限定解釈する理由はない。(イ)市教委教育指導課の指導主事は,M小学校及びN小学校の校長らからの問合せに対し,
「慎重に対応するように」と回答したところ,当該回答
は事実上校長らに対して平成26年度卒業式への出席を認めないよう指示したものとみるのが相当であり,本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったのは原告の判断によるものといえる。【被告補助参加人の主張】
本件英語指導助手の歴史の中で,卒業式への出席を希望しながら拒まれ
た者は皆無であった。本件英語指導助手たちは,1年間,担任教師と共に教壇に立ち,誠実に英語指導を行った。その教えた子どもたちの新しい旅立ちを祝福したいと思うことは当然であって,卒業式への出席を拒むことは,本件英語指導助手たちの1年間の努力を否定することに等しく,人格と名誉と誇りとを傷つける残酷な行為である。
【原告の主張】
(ア)a本件英語指導助手は,学校教育法37条の教職員に該当しない上,本件英語指導助手の活動は平成27年3月12日に終了し,卒業式への出席は予定されておらず,卒業式に出席する権利はないし,義務もない。
なお,地方公務員法には,国家公務員法2条7項にあたる条文がないため,地方公共団体が雇用契約を締結することにより勤務者を採用することは認められていない。また,原告は,本件英語指導助手に対して任用行為を行っていない。よって,本件英語指導助手は,原告の地方公務員ではないし,原告に勤務する者でもない。原告と本件英語指導助手との間の契約関係は,英語指導助手が国際交流活動の一つとして市立小学校の外国語活動に協力し,原告が報奨金を支払うという特殊な形態の契約(無名契約)である。
b
また,本件英語指導助手が市立小学校の卒業式に出席する慣例・慣習があったわけでもなく,過去の出席実績も,平成22年度,平成24年度,平成25年度及び平成26年度に毎年度1名出席していたに止まり,出席自体がまれである。

c
卒業式に誰を招待するかは,校長の専決事項であり,その裁量に任されている。

d
そうすると,本件英語指導助手には,平成26年度卒業式に出席する権利・義務もないし,平成26年度卒業式に出席することについて
法律上保護に値する利益もないから,本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことは
「不利益な取扱い」
に該当
しない。
(イ)本件英語指導助手には,最後の活動日時に,児童とのお別れをする機会があてられるのが通常であり,児童との交流が突然(お別れの機会もなく)断たれるわけではない。
また,市立小学校の卒業式は同じ日に行われるところ,各本件英語指導助手が担当する5校のどこに出席するのか,という問題もある。イ
争点1-2(原告が,本件組合員2名が労働組合の組合員であることの故をもって,
あるいは不当労働行為救済申立てをしたことを理由として
「不
利益な取扱い」をしたといえるか)

【被告の主張】
本件救済命令書記載のとおり,原告が本件組合員2名の平成26年度卒業式への出席を認めなかったことは,本件英語指導助手の出席により混乱が生じることを懸念させるような具体的かつ現実的な事実が存在したといえないので合理的理由があるとはいえず,当該判断は被告補助参加人の組合活動への対応としてなされたものといえるから,
労組法7条1
号本文前段の不当労働行為に該当し,また,不当労働行為救済申立てを行ったことを理由になされた不利益取扱いといえるから労組法7条4号の不当労働行為に該当する。
【被告補助参加人の主張】
原告が主張する「卒業式に混乱が生じる懸念」は虚構あるいは非論理的妄想である。
本件英語指導助手の歴史の中で,卒業式への出席を希望しながら拒まれた者は皆無であったのに,本件組合員2名は,労働組合員の組合員であることとその活動を理由に平成26年度卒業式から排除されたのであり,不
当労働行為である。
【原告の主張】
(ア)M小学校及びN小学校では,
平成26年度卒業式間近の時期において,
被告補助参加人と歩調を共にするA労働組合の組合員が署名活動を依頼したり,Cが職員室内で校長に断りなくビラを配布するといった出来事があった。そこで,本件組合員2名から卒業式出席の申入れを受けたM小学校の教頭及びN小学校の校長は,市教委に助言を求め,市教委は,前記出来事を要因として,小学校の全課程を修了した児童に卒業証書を授与するという重要な式典という意義・目的を持つ卒業式に何らかの混乱が生じることが憂慮されたので,
「慎重に対応するように」と助言・指
導し,これを受けて,両校の校長は,本件組合員2名を卒業式に招待しなかった。
以上のとおり,市教委は,卒業式に混乱が生じることを憂慮して「慎重に対応するように」と指導・助言したのであり,本件組合員2名が被告補助参加人の組合員であることの故をもって,あるいは本件組合員2名が不当労働行為救済申立てをしたことを理由として指導・助言をしたのではない。
(イ)被告補助参加人の組合員であるEは,
O小学校の平成26年度卒業式
に参加しているが,これは,同校ではM小学校やN小学校のような出来事が起こっておらず,O小学校の校長が同人の出席を認めたからであり,このことからも,被告補助参加人の組合員であることの故をもって,あるいは不当労働行為救済申立てをしたことを理由としたのではないことは明らかである。そもそも,各校長は,8名の本件英語指導助手のうち誰が組合員であるかは知らない。

争点1-3
(本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められ
なかったことが原告による労働組合への支配介入に当たるか)

【被告の主張】
本件救済命令書記載のとおり,原告が本件組合員2名に平成26年度卒業式への出席を認めなかったことは,被告補助参加人の組合活動を萎縮させるもので,労組法7条3号に該当する不当労働行為である。【被告補助参加人の主張】
本件英語指導助手たちの卒業式からの排除は,
「市に対して異を唱える
とこうなる」という報復的見せしめによって組合活動を萎縮させようとするものである。
【原告の主張】
支配介入に関し,処分行政庁の審理において,被告補助参加人は具体的な主張立証をしていないし,処分行政庁も,被告補助参加人がどのように萎縮したのかについて何ら事実認定をしておらず,本件命令は違法である。
(2)争点2(本件答弁が労働組合への支配介入に当たるか)
【被告の主張】
本件救済命令書記載のとおり,本件答弁は,市議会という公開の場において,被告補助参加人の組合活動について,正当な理由なく,また具体的かつ現実的な事実に基づくことなく,本件英語指導助手らが出席することにより平成26年度卒業式に混乱が生じることを懸念させるものである旨発言したものであるから,被告補助参加人の組合活動を中傷したものといえ,労組法7条3号の不当労働行為に該当する。
【被告補助参加人の主張】
本件答弁は,被告補助参加人とその正当な活動への中傷であって,客観的には組合活動を萎縮させる役割を持つ発言である。
【原告の主張】

市議会において,市議会議員から本件英語指導助手の卒業式への出席
を認めない経緯について質問があった場合,これに答弁することが市教委教育指導部長の責務であり,F部長が,市議会において5点の懸念要因を答弁したことは正当な職務行為である。処分行政庁は,本件答弁が被告補助参加人の組合活動を中傷したものと推認せざるを得ないと判断したが,
「中傷」とは,
「根拠のないことを吹聴すること」であるところ,
被告補助参加人の活動自体は現実に生じた出来事であるから,同事実を答弁することは中傷に該当しないし,F部長は,同事実を違法・不当な行為として非難しているものでもない。

また,支配介入に関し,処分行政庁の審理において,被告補助参加人は具体的な主張立証をしていないし,処分行政庁も,労組法が義務付ける客観的かつ合理的な事実認定をしておらず,本件命令は違法である。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前記前提事実及び当事者間に争いのない事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)平成26年度以前における本件英語指導助手による市立小学校の卒業式への参加状況は,平成22年度,平成24年度及び平成25年度にそれぞれ1名ずつであった。また,平成26年度以前において,本件英語指導助手が市立小学校の卒業式への参加を希望して断られたことはなかった。(弁論の全趣旨)
(2)被告補助参加人は,平成26年11月12日,原告に対し,「労組X市教
委支部結成通告書」
「要求書及び団交申入書」により,本件組合員2名らに
よって被告補助参加人X市教委支部を結成したことを通告するとともに,団体交渉を申し入れた(甲2)

(3)原告と被告補助参加人は,平成26年12月12日,団体交渉を開催した。同団体交渉には,被告補助参加人の組合員として,本件組合員2名及
びEらが出席していた。
(4)原告と本件組合らは,本件組合らの申入れにより,平成27年2月3日,団体交渉を開催した。同団体交渉には,被告補助参加人の組合員として,本件組合員2名及びEらが参加していた。また,A労働組合の組合員として,本件英語指導助手のスーパーバイザー業務(本件国際交流員に対する生活支援や英語指導助手として活動するに当たっての指導等の業務)に従事していたGが出席していた。
(5)Gの依頼を受けた保護者は,平成27年2月3日,N小学校の校長に対し,署名活動の依頼をした(乙B6,C8)

(6)平成27年2月から3月にかけて,N小学校,X市立P小学校,X市立Q小学校等において,本件国際交流員やGが,校長や教諭らに対し,自分の話を聞いてほしい,自分の紹介状や推薦状を書いてほしいなどの依頼をした(乙B6,C8)

(7)本件英語指導助手らは,平成27年2月17日に原告市庁舎前で,同月21日及び22日にJRS駅前で,
「なんで廃止にするの?」
「姉妹都市オ
ーストラリア・B市からの英語指導助手は廃止ではなく継続を,AETスーパーバイザーの不当雇い止めは撤回を!」などの文言や,被告補助参加人の連絡先等が記載されたビラ(以下「本件ビラ」という。
)を配布した(乙
B1,B6)

(8)平成27年2月18日午後4時50分頃,X市立R小学校で行われたX市教育研究会小学校英語部会の開催中,Gが前に出て,自らの主張を述べた上,同部会の終了後,本件ビラを参加教員に配布した(乙B1,B6)。
(9)Cは,平成27年2月19日,M小学校の職員室内で,校長に断ることなく,本件ビラを配布した(乙B1,B6)

(10)N小学校の児童の保護者数名は,平成27年2月26日,同校の校長に対し,Gから依頼されたとして,本件ビラの配布や,PTA常任委員会へ
同人を出席させて説明させてほしいなどの依頼をした。
(11)Cは,平成27年3月9日,M小学校の教諭に対し,同校の卒業式への出席を希望する趣旨のメールを送付した。同校の教頭は,市教委教育指導課のH指導主事に対し,同日,対応について問合せを行った。これに対し,H指導主事は,本件英語指導助手の卒業式への出席については慎重に対応するよう回答した。同教頭から報告を受けた同校の校長は,上記メールを受けた教諭を通じ,Cに対し,卒業式への出席を断る旨回答した。(乙B6)
(12)Dは,平成27年3月9日,N小学校の教諭に対し,卒業式に出席できるか尋ねた。同校の校長は,同月11日,H指導主事に対し,対応について問合せを行い,H指導主事は,本件英語指導助手の卒業式への出席については慎重に対応するよう回答した。同校の校長は,上記教諭に対し,Dが同校の卒業式に出席することを認めない旨を伝えた。
(乙B6)
(13)Eは,平成26年3月9日頃,O小学校の校長に対し,同校の卒業式への出席を申し入れ,同校長はこれを許可した(乙B6)

(14)I市議会議員は,平成27年3月18日,本件本会議において,本件英語指導助手が卒業式に出席することが市教委によって実現できなくなった,なぜ卒業式に出席すること拒否されたのか,と質問した。これに対し,F部長は,N小学校とM小学校の校長から本件英語指導助手が卒業式への出席を希望しているがどのように対応したらよいかという相談があった,市教委としては,学習指導要領に定められている卒業式の意義,この間の本件英語指導助手をめぐる状況((a)当該小学校区において広範囲の家庭に来年度の英語教育について保護者等に不安を与えかねないような内容のビラがポスティングされた,同ビラには事実でない内容も記載され,原告や市教委への批判も主張されている,同様のビラが本件英語指導助手により
同校内で配布された,(b)同校において保護者に対して署名活動やビラ配布を依頼する動きがある,(c)当該本件英語指導助手は,先週,原告市庁舎前で抗議行動を起こし,原告や市教委の施策について批判を行っている,(d)当該本件英語指導助手は,現在,原告を相手に処分行政庁に救済申立てを行っている,(e)このような状況が新聞各紙で報道され,現在も原告や市教委への取材が続いている)を総合的に判断して,卒業式への出席については慎重に対応するよう指導,助言をした,上記状況を鑑みれば,当該本件英語指導助手を卒業式にお招きすることが何らかの混乱を生じさせることになるという憂慮について完全に排除することはできない,市教委としては,卒業式へのご招待について慎重に対応するよう指導助言することは卒業式の意義,目的を踏まえれば当然のことであると認識している旨答弁した(本件答弁)

(乙A1)
(15)Eは,平成26年3月19日,O小学校の卒業式に出席した。2
争点1(組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことが原告による労組法7条1号本文前段,3号及び4号の不当労働行為に該当するか)について
(1)争点1-1(本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことが「不利益な取扱い」に該当するか)について
原告は,本件英語指導助手には,平成26年度卒業式に出席する権利・義務もないし,平成26年度卒業式に出席することについて法律上保護に値する利益もないから,
本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認めら
れなかったことは「不利益な取扱い」に該当しない旨主張する。

労組法7条は,労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし,これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止するものであるから,同条1号本文前段及び同条4号にいう「不利益な取
扱い」に当たるかどうかは,当該取扱いが当該職場における労働者の一般的認識に照らしてそれが通常不利益なものと受け止められ,それによって労働者らの組合活動意思が萎縮し,そのため組合活動一般に対して制約的効果が及ぶようなものであるか否かという観点から判断されるべきであり,このような不利益取扱いは,当該取扱いが当該労働者の権利や法律上保護に値する利益を侵害する場合に限られるものではなく,また,広く精神的待遇等について不利益な差別的取扱いをなすことをも含むものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに,平成26年度以前においては,本件英語指導助手が市立小学校の卒業式への参加を希望して断られたことはなかったのに(上記認定事実(1))
,本件組合員2名は,平成26年度卒業式
への出席を希望して断られたところ,たとえ参加を希望した卒業式に出席する卒業生が,本件組合員2名にとって,本件英語指導助手として関与した児童の一部にすぎないものであったとしても,1年間関わった児童らが小学校の教育課程を修了し,新たな門出を祝う式典に参加することが叶わないことを意味するのであるから,当該取扱いは,市立小学校における労働者の一般的認識に照らして通常不利益なものと受け止められるし,このような取扱いを受けるとすれば,労働者らの組合活動意思が萎縮し,そのために組合活動一般に対して制約的効果が及ぶようなものであると認められる。


したがって,本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことは,
労組法7条1号本文前段及び4号の
「不利益な取扱い」
に該当すると認めるのが相当であり,この点に関する原告の主張は採用できない。



争点1-2(原告が,本件組合員2名が労働組合の組合員であることの故をもって,あるいは不当労働行為救済申立てをしたこと理由として「不利益
な取扱い」をしたといえるか)について

上記前提事実(第2の2(2)イ)並びに上記認定事実(11)及び(12)のとおり,本件組合らが,処分行政庁に対し,別件救済申立てを行ったのは平成27年3月11日であるところ,市教委のH指導主事が,M小学校の教頭とやり取りを行ったのは同月9日であり,N小学校の校長とやり取りを行ったのは同月11日であると認められ,これらの事実からすると,市教委は,当該やり取りの時点において,本件組合らによる別件救済申立てを知らなかったと推認され,その後,本件組合員2名に平成26年度卒業式への参加を断るまでの間に,各校の校長が,本件組合らによる別件救済申立ての存在を知ったと認めるに足りる的確な証拠は認められない(なお,F部長は,同月18日の本件本会議において,本件英語指導助手をめぐる状況として,当該本件英語指導助手は,現在,原告を相手に処分行政庁に救済申立てを行っている旨答弁しているが[上記認定事実(14)]
,このことは,上記認定を妨げない。。

以上の点に鑑みれば,原告が,本件組合員2名が不当労働行為救済申立てをしたことを理由として「不利益な取扱い」をしたとはいえない。

上記認定事実(14)のとおり,市教委が,本件英語指導助手の卒業式への出席について慎重に対応するよう指導・助言をする際考慮したのは,本件英語指導助手による本件ビラのポスティングや小学校における配布,署名活動及び市庁舎前での抗議行動並びに新聞報道であると認められるところ(なお,本件救済申立てについては,上記アのとおり,
「不利益な
取扱い」の際に考慮されていたとはいえない。,実際に,N小学校にお)
いては,Cが職員室内で本件ビラを校長に断ることなく配布するという事態が起きていたのであるから(上記認定事実(9))
,これらがM小学校
及びN小学校の平成26年度卒業式の前後あるいは最中に行われ,児童らが小学校の教育課程を修了し,新たな門出を祝う式典という児童が主
役である卒業式の意義が損なわれることを懸念するということには相応の理由が存在するというべきである。
一方,上記認定事実(2)ないし(4)のとおり,原告と被告補助参加人は,団体交渉を行うなど一定の対立状況があったこと及び原告は本件組合員2名が被告補助参加人の組合員であることを認識していたことが推認されるが,仮に原告が,本件英語指導助手の一部が被告補助参加人の組合員であることを理由に平成26年度卒業式から排除することを企図したということであれば,原告としては,あらかじめ全市立小学校の校長にその旨指導・助言をしなければ達成し得ないと考えられるところ,原告がそのような行動に出ていないことは,
EがO小学校の卒業式への参加を許可さ
れたこと(上記認定事実(13))から明らかである(なお,処分行政庁は,F部長が,本件本会議において,
「現状から懸念する要因」としてO小学
校に関する点を言及しなかったことから,同校の校長が卒業式への出席を許可した時点では,原告は,Eが組合活動をしているとは認識していなかったものと推認することができる旨判断しているが[本件救済命令の事実及び理由第5の1(2)イ(イ)d]
,同人は,平成26年12月12日
及び平成27年2月3日に開催された団体交渉に参加しているのであるから[上記認定事実(3),(4)]
,原告は,N小学校の校長がEの卒業式へ
の出席を許可した時点で,同人が組合活動をしていることを認識していたものと推認される。。

以上の点を総合的に勘案すると,原告が,本件組合員2名が被告補助参加人の組合員であることの故をもって「不利益な取扱い」をしたとまで認めることはできない。


争点1-3(本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことが原告による労働組合への支配介入に当たるか)について確かに,上記(1)のとおり,本件組合員2名の平成26年度卒業式への出
席を断ったことは,このような取扱いを受けるとすれば,労働者らの組合活動意思が萎縮し,そのため組合活動一般に対して制約的効果が及ぶようなものであるとも考えられる。
もっとも,上記(2)イで認定説示したとおり,市教委による指導・助言は,本件英語指導助手による本件ビラのポスティングや小学校における配布,署名活動及び市庁舎前での抗議行動並びに新聞報道がM小学校及びN小学校の平成26年度卒業式の前後あるいは最中に行われ,児童らが小学校の教育課程を修了し,新たな門出を祝う式典という児童が主役である卒業式の意義が損なわれることを懸念して行われたものであり,また,被告補助参加人の組合員であることを理由に平成26年度卒業式から排除することを企図したとは認められない。以上の点に鑑みれば,本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認められなかったことが原告による労働組合の結成又は運営への支配介入に当たるとまでは認められない。


小括
以上によれば,本件組合員2名が平成26年度卒業式への出席を認めら
れなかったことが,原告による労組法7条1号本文前段,3号及び4号の不当労働行為に該当するとはいえない。
3
争点2(本件答弁が労働組合への支配介入に当たるか)について
上記認定事実(14)のとおり,F部長は,本件英語指導助手による本件ビラのポスティング,小学校における配布,署名活動,市庁舎前での抗議行動及び救済申立て並びに新聞報道の各事実を挙げ,本件英語指導助手を卒業式にお招きすることが何らかの混乱を生じさせることになるという憂慮について完全に排除することはできない旨答弁したところ,上記認定事実(9)のとおり,実際に,N小学校においては,Cが職員室内で本件ビラを校長に断ることなく配布するという事態が起きていたのであるから,本件英語指導助手による本件ビラの配布等の行為が,M小学校及びN小学校の平成26年度卒業
式の前後あるいは最中に行われ,児童らが小学校の教育課程を修了し,新たな門出を祝う式典という児童が主役である卒業式の意義が損なわれることを懸念するのには相応の理由が存在するというべきである。また,そもそも本件答弁は,F部長が,市議会議員からの質問に対し,原告の対応及びその根拠を答弁したというものにすぎず,被告及び被告補助参加人が主張するように,本件答弁が被告補助参加人の組合活動を中傷したものとは認め難い。以上によれば,本件答弁は,原告による労働組合の結成又は運営への支配介入に当たるとは認められず,
原告による労組法7条3号の不当労働行為に該
当するとはいえない。
4
結論
以上の次第で,原告の本件請求は理由があるのでこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部

裁判長裁判官

内藤裕之
裁判官

甲斐雄次
裁判官

大寄悦加
別紙

被申立人は,申立人Jに対し,下記の文書を速やかに手交しなければならない。記年月日
J
委員長

K様
X市
市長

L
当市が行った次の⑴及び⑵の行為は,大阪府労働委員会において,それぞれ,労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後,このような行為を繰り返さないようにいたします。



平成27年3月19日にX市立M小学校及び同N小学校において行われた卒業式について,貴組合員であるC氏及び同D氏の出席をそれぞれ認めなかったこと。
(労働組合法第7条第1号,第3号及び第4号該当)



平成27年3月18日に行われたX市議会本会議での答弁において,当市教育委員会教育指導部長が,同月19日にX市立M小学校及び同N小学校において行われる卒業式について,貴組合員であるC氏及び同D氏の出席をそれぞれ認めないことに関連して,貴組合が不当労働行為救済の申立てをしたことや貴組合及び組合員らが行ったビラ配布,要請行動等の活動を批判する発言を行ったこと。
(労働組合法第7条第3号該当)

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