判例検索β > 平成29合年(わ)第79号
殺人被告事件
事件番号平成29合(わ)79
事件名殺人被告事件
裁判年月日平成29年10月30日
法廷名東京地方裁判所
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事件番号

平成29年

第79号

事件名
殺人被告事件

宣告日
平成29年10月30日

宣告裁判所

東京地方裁判所刑事第16部
主文
被告人を懲役3年に処する
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯行に至る経緯及び罪となるべき事実)
被告人は,平成24年春頃から,音に対して過敏になるなどの統合失調症の精神病症状が出現し,消長がみられた。被告人は,不妊治療を経て,平成28年10月11日,長女Aを出産した。ところが,同年12月頃から,男児の声でA[注・Aの名と同じ発音]と呼ぶ幻聴を生じ,
平成29年1月初め頃からは,
自らの生活音が周
囲に迷惑をかけているため,知らない人がA[注・Aの氏名と同じ発音]と長女の氏名を呼んでいるなどという妄想が生じた。そして,同月11日頃からは,幻聴等の精神病的体験が増悪し,知らない人から長女の名前を呼ばれることが続くと長女が将来生きていけなくなる,長女を死なせてあげないといけないという妄想的な確信が強くなり,追い詰められた状態となった。
このような経緯のもと,被告人は,同月13日午前9時40分頃から同日午前10時頃までの間,東京都世田谷区ab丁目c番d号Bマンションeの被告人方浴室において,長女であるA(当時生後3か月)に対し,殺意をもって,両手に抱きかかえた同人の身体を浴槽内の水中に沈め,よって,その頃,同所において,同人を溺水による窒息により死亡させて殺害した。
なお,被告人は,本件犯行当時,統合失調症による幻覚妄想のため心神耗弱の状態にあった。
(量刑の理由)
被告人は,本来,母として長女を守るべき立場にありながら,生後3か月の長女を2度にわたり,相当の時間,水中に沈め,確実に死亡したか呼吸を確認するなどもしている。このように,犯行の態様自体は悪く,強い殺意も認められる。将来ある長女が生後3か月という短さでこの世を去ったという結果も重大である。しかしながら,被告人が長女の殺害を決意した原因は,統合失調症の幻覚妄想が急性増悪していた中で生じた,長女を助けるためには死なせてあげないといけないとの妄想に強く影響されていたことにあるから,健常者に対するのと同様に強く被告人の責任を非難することはできない。
以上の事情に照らし,同種事案(単独犯,凶器なし,被告人から見た被害者の立場は子)の量刑傾向を参考にすると,本件は,刑の執行を猶予することが十分考えられる部類に属する。そして,被告人は,犯行直後に自首している上,服薬により精神症状が改善傾向にある現時点では,自らの行為の意味を理解しようとする姿勢も認められる。さらに,被告人については,治療の必要性が高く,医療観察法による入通院などが見込まれるところ,適切な治療を受けられるよう夫や母親が協力すると述べている。
そこで,心神耗弱による減軽をした刑期の範囲内で,主文のとおり刑を定め,その執行を猶予することとした。
(求刑・懲役4年,弁護人の科刑意見・執行猶予付きの懲役刑)
平成29年11月2日
東京地方裁判所刑事第16部

裁判長裁判官

島田一
裁判官

島田
裁判官

髙野環将人
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