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再審請求棄却決定に対する即時抗告申立事件
事件番号平成28(く)149
事件名再審請求棄却決定に対する即時抗告申立事件
裁判年月日平成29年11月15日
法廷名東京高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成26(た)12
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平成29年11月15日
平成28

149号

東京高等裁判所第3刑事部決定
再審請求棄却決定に対する即時抗告申立事件

主文
本件各抗告を棄却する
理由
第1本件再審請求の概要
1本件確定判決が認定した犯罪事実
その要旨は,A,B,Cらが,共同して,昭和32年7月8日午前10時30分頃から午前11時頃までの間に,正当な理由がないのに,アメリカ合衆国軍隊が使用する区域であって入ることを禁じた場所である東京都北多摩郡砂川町所在の立川飛行場内に深さ約4,5mにわたって立入り,Dが,同日午前10時30分頃から午前11時30分頃までの間に,正当な理由がないのに,上記立川飛行場内に深さ約2,3mにわたって立入ったというものである。
2確定審の審理経過の概要
本件元被告人らは,上記犯罪事実とおおむね同一の公訴事実で起訴されたが,昭和34年3月30日,東京地方裁判所は,アメリカ合衆国軍隊の駐留が憲法9条2項前段に違反するものであることを前提に,刑事特別法2条が憲法31条に違反し無効であるとして,無罪を言い渡した。これに対し,検察官は,最高裁判所に跳躍上告を申し立てた。最高裁判所は,大法廷で審理することとした上で,12月16日,憲法9条2項前段等の解釈を誤って刑事特別法2条を違憲無効とした原判決の判断は失当であるとして上記無罪判決を破棄し,東京地方裁判所に差し戻す判決(以下「本件大法廷判決」という)をした。差戻し後の東京地方裁判所は,昭和36年3月27日,上記犯罪事実を認定し,本件元被告人らをそれぞれ罰金2000円に処する有罪判決を言い渡し,東京高等裁判所での控訴棄却判決及び最高裁判所での上告棄却決定を経て,昭和39年1月5日,上記有罪判決が確定した。3本件再審請求の趣旨及び理由
その骨子は,近年米国公文書館において発見された当時の駐日米国大使が本国に発信・発送した電報・書簡3通(以下,これらを「本件電報・書簡」という)によれば,本件大法廷判決を言い渡した最高裁判所大法廷を構成した裁判長裁判官田中耕太郎は,その事件の係属中3回にわたり,被害者であるアメリカ合衆国の駐日大使・公使と密談し様々な裁判情報を伝えていたもので,裁判長裁判官田中には忌避事由である「不公平な裁判をする虞」が認められ,回避すべき義務があったのに回避せず,裁判長として訴訟指揮を執るなどしており,このような裁判長の下での審理及び判決は,憲法37条1項の「公平な裁判所」に違反した裁判であり,差戻し後の東京地方裁判所としては,裁判所法4条に基づきこのような本件大法廷判決に拘束されることになり,公平な裁判所の裁判を行うことができないから,裁判を打ち切るほかなく,「公平な裁判所の裁判」に違反した異常な事態に立ち至ったもので,正義の観点からして,有罪判決を言い渡すのがはばかられる事情に当たるから,免訴を言い渡すべきであったなどとして,刑事訴訟法435条6号に基づき,免訴判決を求めて再審の開始を請求するというものである。
第2原決定の判断の要旨
原決定は,請求人らの主張について,仮に本件大法廷判決が公平な裁判所による裁判でなかったとした場合には,差戻し後の東京地方裁判所が免訴判決をすることの可否及び当否が問題となるが,本件大法廷判決を言い渡した最高裁判所大法廷が「公平な裁判所」を構成していなかったことが前提になっているので,このこととの関係で請求人ら提出の証拠の新規性,明白性について検討するとし,本件電報・書簡のほか,その入手経緯を記した各陳述書やその翻訳文等について,証拠の新規性が認められるとした。
その上で,原決定は,本件電報・書簡から認められる田中裁判官の発言内容は,訴訟関係人に共通して明らかな手続的事項,上告趣意等から明らかな争点や裁判所が判断すべき事項,田中裁判官が独自に考える理想的な評議や判断の在り方についての抽象的な説明であって,評議及び判決の内容やその方向性等を米国側に伝えるなど,一方当事者に偏重した情報提供を行うなどしたとまで推測し得るものとはいえず,田中裁判官が不公平な裁判を行うおそれがあったと合理的に推測することはできないとし,以上のことなどから,請求人ら提出の証拠によって,田中裁判官に不公平な裁判をするおそれがあると認めるに足る事情を合理的に疑わせることはできず,それらの証拠は,本件元被告人らに対して免訴を言い渡すべき明らかな証拠とは認められないとして,本件再審請求を棄却した。
第3本件各抗告の趣旨及び理由
その骨子は,原決定には,①弁護人らが主張方法を変更し,田中裁判官が米国側に伝えた「法廷・評議の内外で生じた裁判に関する事実」「田中裁判官が予測した裁判に関する事実」「田中裁判官の裁判に臨んでいた姿勢」「田中裁判官の裁判に関する考え」が重要であると主張したのに,再審請求書で主張した「田中裁判官の発言」の真偽,趣旨及び効果を検討しており,上記主張について判断しておらず,審理を尽くしていない違法がある,②田中裁判官の発言に関する事実認定に経験則違反の違法がある,③憲法37条1項の「公平な裁判所」の解釈を誤り,それを適用しなかった違法があるから,原決定を取り消し,再審を開始するとの決定を求めるというのである。
第4当裁判所の判断
原決定は,本件再審請求が刑事訴訟法337条に定められた免訴事由以外の事情を理由に免訴を言い渡すべきであったと主張するものであるところ,その事情は再審事由を定めた刑事訴訟法435条6号の免訴を言い渡すべき場合に当たると解されないのに,その点の判断を留保した上で,本件大法廷判決を言い渡した最高裁判所大法廷が憲法37条1項の「公平な裁判所」を構成していなかったことが請求人らの主張の前提になっているとして,請求人らの提出した証拠の新規性や明白性を検討して判断している点で不適切であるが,本件再審請求を棄却した原決定の結論自体に誤りはない。
以下,その理由を説明する。
1
刑事訴訟法337条は,免訴を言い渡すべき場合として,①確定判決を経た
とき,②犯罪後の法令により刑が廃止されたとき,③大赦があったとき,④時効が完成したときと免訴事由を具体的かつ明確に定めており,このことを前提にして,同法435条6号は,有罪の言渡しを受けた者に対し免訴を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したときを再審事由としていることからすると,上記免訴事由は,限定的に列挙したものであると解される。
したがって,刑事訴訟法337条は,請求人らが主張する「正義の観点からして,有罪判決を言い渡すのがはばかられる事情」というような包括的な免訴事由を認めるものであるとは解されず,また,本件大法廷判決を言い渡した最高裁判所大法廷の審理及び判決は憲法37条1項の「公平な裁判所」に違反したものであるとの請求人らの主張する事実が認められたとしても,本件確定判決を言い渡した差戻し後の東京地方裁判所が刑事訴訟法337条により免訴を言い渡すべきであったともいえないから,刑事訴訟法435条6号に基づく本件再審請求は認められない。このように解することは,現行法上,再審請求が主として有罪の確定判決における実体法的事実の認定の不当を救済するために認められていること,公平な裁判所の裁判に関連する再審事由として,裁判官等に職務犯罪があった場合のみが定められていることに照らしても,相当であると考えられる。
2
請求人らは,最高裁昭和47年12月20日大法廷判決・刑集26巻10号
631頁(以下「高田事件最高裁判決」という)は,刑事訴訟法337条を類推適用し,非類型的訴訟条件として「憲法37条1項の迅速な裁判の保障条項に明らかに違反した異常な事態に立ち至った」という免訴事由を認めたものであり,高田事件最高裁判決からすると,同様に「憲法37条1項の公平な裁判所の裁判の保障条項に明らかに違反した異常な事態に立ち至った」という免訴事由も認めることになると主張している。
しかし,高田事件最高裁判決は,憲法37条1項の迅速な裁判の保障条項に反する事態が生じた場合に審理を打ち切る方法について「現行法上よるべき具体的な明文の規定はない」と説示している上,「(刑事訴訟法337条4号を準用して)免訴を言い渡した本件各第1審判決は,結論において正当である」と説示していることからすると,非常救済手段として憲法37条1項を直接の根拠として免訴を言い渡すことを認めたものであって,刑事訴訟法337条を類推適用するなど同条を根拠にした免訴事由を認めたものではないと解される。さらに,「これ以上実体的審理を進めることは適当でないから,判決で免訴の言渡をするのが相当である」とも説示していることからすると,高田事件最高裁判決は,刑事訴訟法337条について,実体的審理を進めることが適当でない場合に免訴を言い渡すことを定めた包括的な規定と解していないといえる。更に言えば,高田事件最高裁判決は,いまだ審理係属中の事件において,非常救済手段として審理を打ち切る方法として,同一の公訴事実について再訴が許されないと解される免訴の言渡が相当であるとしたものと解され,憲法37条1項の迅速な裁判の保障条項に明らかに反する異常な事態が生じていたにもかかわらず,有罪を言い渡した確定判決に対して,刑事訴訟法435条6号により免訴の言渡しを求めて再審請求をすることまで認めたものとは解されない。
また,請求人らは,被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後,訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合,判決で公訴を棄却することができるとした最高裁平成28年12月19日第一小法廷判決・刑集70巻8号865頁も,非類型的訴訟条件を肯定しており,この最高裁判決からしても,非類型的訴訟条件としての免訴事由が認められる旨主張している。しかし,上記最高裁判決は,再審事由になり得ない公訴棄却に関する判断である上,被告人が実質的に欠けて基本的な訴訟構造が成り立たなくなったために,訴訟手続を打ち切るものであることから,刑事訴訟法338条4号に準じて判決で公訴を棄却することを認めたものと解され,同条が公訴棄却事由を例示したものであることを認めたものとも,非類型的訴訟条件としての免訴事由を認めたものとも解することはできない。
3
以上のとおり,請求人らのその余の主張について判断するまでもなく,本件
再審請求は認められず,本件再審請求を棄却した原決定の結論自体に誤りはないから,本件各抗告の申立ては理由がない。
よって,刑事訴訟法426条1項により,本件各抗告を棄却することとする。平成29年11月15日
東京高等裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

秋葉康弘
裁判官

矢数昌雄
裁判官

須田雄

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