判例検索β > 平成29年(行ケ)第10110号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10110
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成29年11月27日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成29年11月27日判決言渡
平成29年(行ケ)第10110号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成29年9月25日
判原決告
株式会社もりもと

訴訟代理人弁理士

川慎悟小被佐林基子告特
指定代理人

松浦
裕紀子

大森健司板谷玲子主1庁長官文
原告の請求を棄却する。

2許
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
特許庁が不服2016-5215号事件について平成29年3月29日にした審決を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,商標登録出願に係る拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,商標法3条1項4号該当性の有無及び同条2項該当性の有無である。

1
特許庁における手続の経緯等
原告は,平成27年5月26日,別紙「本願商標」のとおりの本願商標につき商標登録出願(商願2015-49869号)をしたが,平成28年1月8日付けで拒絶査定を受けたので,同年4月8日,拒絶査定に対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2016-5215号事件として審理した上,平成29年3月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年4月12日原告に送達された。
原告は,平成29年5月12日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。
2
審決の理由(要旨)
審決の理由は,別紙審決書写し記載のとおりであり,その要旨は次のとおりである。
(1)商標法3条1項4号該当性について
本願商標は,ありふれた氏である「森本」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というのが相当であるから,同号に該当する。(2)商標法3条2項該当性について
請求人が,平成14年10月頃には本願商標の使用を開始したこと,本願の指定商品中「フルーツゼリー菓子,ケーキ,チーズケーキ,クッキー,ペストリー(菓子),プリン,アイスクリーム,洋菓子,もち菓子,あずきを使用した菓子,和菓子,菓子,パン」について,宣伝広告活動を継続して行っていることが認められるが,これらの活動によって,請求人の名称が北海道内で相当程度広く知られるものとなっているとしても,請求人の本願商標を使用した商品の地域別販売数量,売上高及び市場占有率等について,具体的な証拠が提出されておらず,本願商標が,請求人がその指定商品に使用する商標として,需要者の間で認識されているとまでは認められない。そうすると,請求人の提出する証拠によっては,本願商標が使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っているものと認めることができないから,本願商標は,同項に該当しない。第3
1
原告主張の取消事由
商標法3条1項4号該当性について
(1)本願商標の構成に関し
審決は,本願商標の書体は,いずれも文字の角を丸めたやや太めの書体であって,
格別特異なところはなく,
また,
本願商標は二段書きの上段の
「r」
の文字の下部と下段の「t」の文字の上部とが接しているものの,その表示方法は,取引において一般的に用いられる範囲を超えるほど特殊なものとはいえないとする。
しかし,本願商標は,アルファベット小文字の横書きの「mori」と「moto」とを上下二段で書して成るところ,その構成文字はいずれもエッジをなくして強い丸みを帯びたFontworks社のスーラEBの丸ゴシック書体で強調して書かれている。この書体は,暖かく優しい表情を持ち,文字組みしたときの美しさが特徴の書体である。また,商標の構成中,上下二段の配列においては「mori」と「moto」の共通する語頭文字「m」と2番目の「o」の欧文字が上下段でピタリと一致するように配置されており,かつ,「moto」の「t」の文字と「mori」の「r」の文字の縦画がつなげられているため,本願商標は,全体として横長の長方形内にまとまりよく収まるような極めて洗練されたデザインから成る独創的なロゴとなっている。
(2)「ありふれた氏」に関し
審決は,二段書きされた欧文字を称呼するに当たっては,上段の左の文字から読み,次に下段の左の文字から読むのが一般的であり,本願商標は,その構成文字に相応して「モリモト」と称呼されるといえるところ,当該称呼は,ありふれた氏の「森本」の読みを容易に連想,想起させるものであるとする。
しかし,「モリモト」と読まれる語としては,インターネットで検索すれば明らかであるように,「森本」のほか,「森元」,「守本」,「盛本」などの氏もあり,必ずしも「森本」が一義的に想起されるものではない。しかも,本願商標は,「mori」と「moto」が二段に表され,なおかつ,「t」の文字と「r」の文字の縦画がつながった特徴あるデザインを有しており,単なる欧文字の「morimoto」の表記とは趣を異にするものであって,一義的に姓氏を連想させるものではない。
このように,本願商標は複数の意味合いを想起させ,若しくは,その複数の意味合いについても直ちにこれといった特定の語の意味合いを想起させない欧文字より成るものであるから,「森本」のみを認識させるものとはいえない。
(3)「普通に用いられる方法」に関し
審決は,本願商標が,ありふれた氏を「普通に用いられる方法」で表示するにすぎないと認定しているが,氏をローマ字で表す場合には,横一段に表すのが一般的であり,「森本」に由来するローマ字を普通に用いられる方法で表示する場合は,
「morimoto」
と横一段に表すのが通常であって,
本願商標のように「mori」と「moto」を二段に表した態様は,氏を普通に用いられる方法で表示したものとはいえない(審決は,氏を表記する際に,その読みをローマ字で表すことが一般的に行われており,商標を,商品の包装や広告等のスペースの都合などにより,複数の段にして表示することも一般に広く行われているとするが,欧文字で表された「氏」,すなわち欧文字の一つの単語を,本願商標のように,複数の段に,しかも左右の端をそろえた態様で表示する方法は決して普通に用いられる方法ではない。「商標を,商品の包装や広告等のスペースの都合などにより,複数の段にして表示すること」は,正に商品の出所識別機能を有する「商標」の表示方法であって,氏の一般的な表示方法ではない。)。
しかも,
本願商標は,
「mori」「moto」

に共通する
「m」「o」

の欧文字が語順も同じくして並んでいるため,前記のとおり,「mori」の「m」の文字の真下に「moto」の「m」の文字,「mori」の「o」の文字の真下に「moto」の「o」の文字を配置することで,その特徴をより印象付けており,かつ,語順の3番目にある「r」と「t」の欧文字は縦長線を共通に備えているため,「t」と「r」の文字の縦画をつなげることにより,一層一体感が強調されている。
以上のとおり,本願商標は,菓子メーカーらしく優しさ暖かみ,美しさを感じるフォントを採用しつつ,更に二段に分けて欧文字の共通性を印象付ける配置に構成することにより,強い一体感と斬新性を与える印象的なデザインのロゴである。
加えて,本願商標が装飾などのパターンとしても使用できるようにデザインされていることも考慮すれば,本願商標は,本願指定商品に関する業界においては,装飾のモチーフとしても使用される高度にデザインされたものであって,普通に用いられている域を脱していると評価するのが相当である。(4)以上によれば,本願商標は,ありふれた氏である「森本」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ではなく,商標法3条1項4号に該当しない。
2
商標法3条2項該当性について
本願商標については,次のとおり,平成14年から約15年にわたって,本願商標を使用した大規模かつ継続的な広告宣伝活動及び全国的な商品の販売がなされており,これによれば,本願商標は既に原告が菓子,パン等に使用するブランド名として全国の取引者,需要者間に認識されて,十分に自他商品の識別標識としての機能を果たしていることが明らかである。
したがって,仮に本願商標が商標法3条1項4号に該当するとしても,同条2項に該当するというべきである。
(1)原告の営業規模
原告は,創業66年の北海道を代表する老舗の菓子・パンの製造小売業者であり,現在,北海道内において,千歳,札幌,小樽,恵庭,室蘭,苫小牧,江別,旭川,滝川の各地域に合計27店舗を展開している(甲1の1ないし1の4,甲72の1・2)。
原告は,闇雲に全国に店舗数を展開する戦略ではなく,北海道ブランドを効果的に活用する戦略を採っており,道産食材にこだわり,優秀なパティシエを育てて高品質の洋菓子とパンを提供し続けることにより希少性を高め,北海道民はもとより,全国及びアジア各地から訪れる多くの観光客にも喜ばれる商品作りに徹している。特に新千歳空港は全国有数の観光の窓口として著名であって全国各地から観光客やビジネスマンが訪れる場所であるところ,原告は新千歳空港内に自社の専門店をオープンしているとともに,空港内にある大多数のお土産店に商品を卸して販売している。
このような新千歳空港での販売等における本願商標の使用は,全国各地から訪れる観光客やビジネスマンによって見られ,
商品の購入につながるため,
道内に限らず全国的な周知性を取得することに寄与しているといえる。また,新千歳空港以外の店舗についても自社の路面店だけでなく,多数の人が集まるイオンモール内に積極的に出店しており,より集客力が高い店舗における使用により,
本願商標が知られる機会が多いといえる
(甲72の2)

さらに,原告は,実店舗以外の販売システムを備えており,例えばオンラインショップによる菓子等の販売(甲2の1・2),カタログによる通信販売(甲74の1ないし74の88)も行っている。
さらにまた,原告は日本全国の百貨店等における北海道物産展に年100回以上出展し,本願商標を使用した商品を販売している(甲1の5,甲47ないし60,75の1ないし75の46)ほか,本願商標を使用した商品は全国の生協等でも販売されている(甲76の1ないし甲79)。
(2)本願商標の使用開始時期,使用期間及び使用地域
本願商標は,
平成14年に原告のCI
(コーポレート・アイデンティティ)
として導入され(甲4),以来,約15年にわたり,原告を示すブランド名として,菓子等の商品パッケージ(原告の商品「ハスカップジュエリー」のパッケージにおいて本願商標が使用されている。同商品は,昭和59年に全国菓子大博覧会で内閣総理大臣賞を受賞し,百貨店における催事,生協における販売や通信販売でも人気の高い商品,原告を代表するロングセラー商品の一つである。),紙袋,店舗の看板(本願商標は全国有数の観光の窓口として著名な新千歳空港内の店舗等において原告を示す商標として使用されている。)及び広告に継続的に使用されている(甲6ないし8,73の1ないし73の11,
105の1ないし105の5,
106の1ないし106の3)

よって,周知性を獲得するための期間としては充分な期間といえる。また,本願商標の使用地域としては,実店舗は北海道内であるが,オンラインショップや通信販売,全国の物産展,全国の生協等での販売を行っているため,北海道の地域を越えて日本全国に商品が流通されており,本願商標の全国的な周知性獲得に寄与しているといえる。

通信販売
原告は,年に数回,本願商標を使用したカタログを発行し,カタログによる通信販売を行っている(甲74の1ないし74の88)。カタログによる通信販売は少なくとも平成15年から開始されており,その利用者は関東地域を中心に全国各地に延べ約10万人に上る(甲74の1)。このことから,本願商標を使用したカタログが全国の利用者に配布されるとともに,本願商標を使用した商品が通信販売を通じて全国の消費者に販売されることにより,更なる全国的な周知性獲得に寄与しているといえる。

催事への出展
原告は,年に100回以上,全国の百貨店等における北海道物産展に出展し,本願商標を使用した商品を販売している(甲1の5,原告が自ら出店した催事〔消化催事〕につき甲47ないし60,甲75の1ないし75の46,百貨店等が商品を買い取って行った催事〔買取催事〕につき甲94の1ないし103の26)。
北海道物産展は全国各地で非常に人気の高い催事であり,出展者は集客力のある有名店に厳選されるところ,原告は,関東,関西,東海を中心とする全国各地の有名百貨店で開催される数多くの北海道物産展に出展し,高い評価を得ている。北海道物産展のチラシには,原告の商品や本願商標が掲載されるなど,既に原告及び本願商標が全国的に周知であって,原告の商品が北海道物産展の目玉として取り扱われていることが分かる。

生協等での販売
原告の商品は,生協の宅配パルシステムにおいて販売されているほか,九州,神戸,東海などの生協が発行するカタログに掲載され,日本全国の生協組合員に販売されている(甲76の1ないし76の101)。生協は取扱商品について食品添加物や微生物の基準などの厳しい基準を設けているが,原告の商品はその厳しい基準をクリアして生協の取扱商品に採用されているのである。
また,原告の商品は,全日空の飛行機内,阪急・阪神百貨店グループの食品宅配サービス,北海道の代表的な人気の高い土産物を取り扱う北海道キヨスクの通販でも販売されている(甲77ないし79)。
このことから,原告の商品は品質の高い,北海道を代表とする土産物として認識されており,原告の商品が全国の需要者に販売されていることが分かる。

(3)広告宣伝
原告は,一年間に9000万円ないし1億3300万円をかけて,販売促進活動を行うとともに,大手広告代理店複数社に依頼し「菓子」を中心とする商品に関する新聞広告,テレビCM等の広告宣伝活動を展開しており,平成26年には本願商標が使用された広告が広告電通賞を受賞し,極めて高い広告効果が得られていることが分かる(甲80の1・2)。
ほぼ全ての広告物には本願商標が記載されており,本願商標は原告を示す商標として使用されている。中でも新聞やテレビCM(甲11,81の1ないし81の149ほか)においては,原告を示す表示は本願商標のみのものも多く,本願商標は既に需要者・取引者により原告を示す商標として認識,把握されていることが分かる。

新聞広告
本願商標を使用した広告が,北海道新聞,朝日新聞,読売新聞等にほぼ毎月掲載されている(甲9の1ないし9の4,甲81の1ないし81の149ほか)。


雑誌
本願商標を使用した広告が,全日空及びAIRDOの機内誌等に掲載されている(甲82の1ないし82の6)。


ポスター,チラシ等
本願商標を使用したポスターが,毎年,季節などに合わせて作成され,店舗や札幌市営地下鉄等の多数の需要者が目にしやすい場所に掲出されている(甲15の1・2,甲83の1ないし83の9ほか)。
また,原告は,新聞の折り込みチラシやダイレクトメールなどを多数作成して配布している(甲85の1ないし85の28)。


テレビCM等
テレビCMは,平成24年12月から平成27年9月までの2年半の間に民報5局で300回以上放映されている(甲11,38,84)。また,世界フィギュア選手権や日本ハムファイターズ戦のテレビ番組のスポンサーなど,全国的に注目度の高いイベントに対して積極的な広告宣伝活動が行われている(甲41)。
(4)新聞,雑誌,インターネット掲載等による紹介
原告ないし原告の商品は,日本経済新聞等の全国紙に記事として取り上げられているほか,全国で販売されている人気女性誌や観光ガイドブックで紹介されたり,北海道の土産物ランキングの上位の商品として新聞やインターネット記事で紹介されたり,テレビ番組で紹介されたりしている(甲45,46,86の1ないし86の158,87の1ないし87の29,104の1ないし104の8)。

新聞
原告の地元で発行されている千歳民報や北海道全域に発行されている北海道新聞のほか,全国紙である日本経済新聞や日経MJ等にも,原告の商品の紹介記事等が掲載されている(甲86の1ないし86の158)。

雑誌,ガイドブック
全国で16万部以上発行されている人気女性誌「Mart」や,東海エリアで販売されている「東海ウォーカー」,北海道の旅行者をターゲットとする北海道の観光ガイドブック等において原告の商品が掲載されている(甲87の1ないし87の29)。


インターネット掲載
原告の商品が,新千歳空港のおすすめ土産ランキングで3位,北海道の名産品ランキングで6位になったことが記載されている
(甲45,
46)



テレビ
原告の商品は,全国ネットで放映されている人気長寿番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」(フジテレビ)において芸能人御用達お土産の4位として「太陽いっぱい真っ赤なゼリー」が紹介されているほか,関西,広島,九州など全国各地で放映されているテレビ番組において,遅くとも平成13年頃から紹介されている
(甲104の1ないし104の8)

このようにテレビ番組において原告の商品が紹介されている事実は,現実に,原告が周知・著名であり,本願商標も原告を示す商標として周知・著名となっていることを示すものである。
(5)受賞歴など
原告の商品又は原告所属のパティシエが下記のとおり,数多くの賞を受賞しており,原告の商品の品質の高さ及び原告の技術力の高さが評価されている。これらの事実は,最終消費者のみならず,同業者や取引者にも本願商標が注目される機会となり,全国的な周知性獲得に寄与している。

昭和59年

全国菓子博覧会

内閣総理大臣賞受賞(甲88の1・2)


さっぽろスイーツ2013グランプリ(甲89)


平成26年度北海道新技術・新製品開発賞

優秀賞受賞(甲90の1・

2)

第12回キリクリームチーズコンクール2015

銅賞受賞(甲91)


ROLL-1
(ロールワン)
グランプリ/第5回スイーツコンテスト


優勝(甲92)

北のハイグレード食品S

2017(甲93)

(6)売上高
販売数量や売上高の詳細は営業秘密ともいうべきものであるため,積極的にこれを開示することはできないが,特に本願商標の全国的な周知・著名性に寄与すると思われる千歳空港,催事,通信販売,生協等における売上げに関する資料を提出する(甲107の1・2)。
原告の売上高は54億円(2016年7月決算)であるところ,同決算期の千歳空港にある店舗の売上げは約2億円,千歳空港にある土産物店における売上げは約5400万円である。また,全国の百貨店で開催される催事における売上げは,消化催事,買取催事合わせて約2億1000万円,生協における売上げは約1億1000万円,オンラインショップやカタログによる通販の売上げは約5000万円である。
このように,中小規模が多い生菓子業界において,原告は大手クラスの規模を備えており,市場占有率等も低くない。
3
以上のとおり,審決の認定判断には誤りがあり,違法として取り消されるべきである。

第4
1
被告の反論
商標法3条1項4号該当性について
(1)本願商標の構成に関し
本願商標は,別紙「本願商標」のとおりの構成から成るところ,文字の角を丸めたやや太めの書体で表されているものの,
「mori」
の欧文字と
「m
oto」の欧文字を,上下二段に横書きして成るものと容易に看取,把握されるものといえる。
また,本願商標は,その上段に書された「mori」の欧文字と下段に書された「moto」の欧文字が,それぞれに独立して単独の語として把握され,2つの要部から構成されるものとみるべき事情が見いだせない。そして,二段に横書きされた欧文字については,上段の左の文字から右に向かって読み,次に下段の左の文字から右に向かって読むのが一般的であるといえる。
そうすると,本願商標は,全体として,「morimoto」の欧文字から構成されるものといえる。
(2)「ありふれた氏」に関し

本願商標が氏の「森本」を表したものと理解させること
本願商標は,その構成文字全体から「モリモト」の称呼が自然に生じるものであり,その称呼に照応する語である氏の「森本」を表したものと理解させるということができる。このことは,「モリモト(もりもと)」について,一般の辞書には氏の一つである「森本」のみが掲載され,他の意味が挙げられていないこと(乙1,2),以下のイのように当該氏の者が全国に多数存在することから裏付けられる。

「森本」がありふれた氏であること
氏の「森本」は,上記アのとおり,一般の辞書に掲載があるほか,①「全国名字大辞典」によれば,奈良県の10位を筆頭に13府県でベスト100に入っており,全国で139番目に多い氏であること(乙3),②「姓名分布&ランキング」のウェブサイトによれば,全国で約2万6660件存在し,
141番目に多い氏であること
(乙4)
及び③
「名字由来net」
のウェブサイトによれば,全国で約14万人存在し,145番目に多い氏であること(乙5)から,ありふれた氏といえる。


以上によれば,本願商標は,氏の「森本」を表したものと理解され,当該氏はありふれた氏というべきであるから,本願商標は,ありふれた氏を表示するものといえる。

(3)「普通に用いられる方法」に関し

ローマ字表記について
前記(2)のとおり,本願商標は,氏の「森本」を理解させるといえるところ,氏をローマ字で表記することが一般に広く行われており,商取引においても,例えば創業者・代表者などの氏に由来する商号が採択されることなどにより,氏のローマ字表記に相当する標章が採択,使用されている上(乙6ないし15),本願の指定商品に含まれる「菓子」を取り扱う業界(菓子業界)においても,パティシエの氏をローマ字で表記するなど,氏をローマ字で表記することが一般に行われているといえる(乙16ないし20)。


書体及び二段書きについて
商取引においては,標章のデザイン化が一般に広く行われており,その類型として,標章の構成文字について,ややデザイン化した書体で表示することや(乙6,7,9,10,21),商品の包装や広告等における表示スペースに合わせたり,標章の表示上のバランスを取ったりするためなどから,
複数の段にして表示することが行われている
(乙22ないし29)

これを本願商標についてみると,本願商標が使用するような,ややデザイン化した文字の角を丸めたやや太めの書体も,菓子業界を含め一般に使用されているといえ(乙25,30ないし34),また,本願商標の二段書きした構成態様にしても,上記のとおり,商取引において,一般に用いられる範囲のものといえる。
そうすると,本願商標を構成する文字を,ややデザイン化した書体で二段書きしたからといって,本願商標に接する取引者,需要者が本願商標から把握,理解する称呼(モリモト)及び観念(氏の「森本」)が変わるものとはいえない。そして,構成文字(語)自体に自他商品の識別力があるものは格別,本願商標のように構成文字(語)自体に自他商品の識別力がないものをややデザイン化した書体で二段書きしたとしても,そのことをもって自ずと自他商品の識別力が生じるものとはいえない。

以上からすると,本願商標のようなローマ字表記をややデザイン化した書体及び二段書きによる標章の表示方法は,一般に用いられるものであって,商標全体としても特殊な構成態様とは認められないというべきであるから,本願商標は,普通に用いられる方法で表示する範囲内のものというべきである。

(4)小括
以上によれば,本願商標に接する取引者,需要者は,これを,ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示したものと理解,認識するにとどまるといえる。
したがって,本願商標は,ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきであるから,商標法3条1項4号に該当する。
(5)原告の主張について

原告は,本願商標は,アルファベット小文字の横書きの「mori」と「moto」を上下二段で書して成るところ,その構成文字は,いずれもFontworks社のスーラEBの丸ゴシック書体で強調して書かれている旨,また,その構成中,上下二段の配列においては,「mori」と「moto」の共通する語頭の「m」の文字と2番目の「o」の文字が上下段でピタリと一致するように配置されており,
かつ,
「moto」「t」

の文字と「mori」の「r」の文字の縦画がつなげられ,全体として横長の長方形内にまとまりよく収まるような極めて洗練されたデザインから成る独創的なロゴであると主張する。
しかしながら,本願商標は,「mori」の文字と「moto」の文字を,上下二段に横書きしたものと容易に看取,把握されるところ,前記(3)のとおり,商取引においては,標章のデザイン化が一般に広く行われ,標章の構成文字についても,①ややデザイン化した書体で表示することが行われていること,②商品の包装や広告等における表示スペースに合わせたり,標章の表示上のバランスを取ったりするためなどから複数の段にして表示することが行われていること,といった実情があることに照らすと,本願商標に接する取引者,需要者は,これを「morimoto」の文字を,普通に用いられる方法で表示したものと認識するにとどまるものといえる。
そして,原告が本願商標の書体として採用したFontworks社のスーラEBの丸ゴシック書体は,既製の書体である「スーラ」シリーズの「スーラEB」であるところ,同シリーズはDTP(デスクトップパブリッシング)の代表的な丸ゴシックとして人気の書体とされ(乙35),近年多くの場所で使用されているものであるから(乙36),当該書体を採用することによって,本願商標のデザインの独創性が高まるものとはいえない。
また,「morimoto」の文字が8文字から成ることから,これらの文字を,「mori」と「moto」の4文字ずつに分け,上下二段に配置すれば,必然的に「mo」の文字部分が上下一致し,上段の「r」の文字と下段の「t」の文字の縦画が接することになるのであり,モノグラムといえるほどに構成各文字が一体となって図案化されているともいえないものである。
したがって,本願商標が独創的な態様から成るものとはいえず,原告の主張は,失当である。

原告は,
氏をローマ字で表す場合には,
横一段に表すのが一般的である,
欧文字で表された氏,
すなわち欧文字の一つの単語を,
本願商標のように,
複数の段に,しかも,左右の端をそろえた態様で表示する方法は,決して普通に用いられる方法ではない,「商標を,商品の包装や広告等の表示スペースの都合などにより,複数の段にして表示すること」は正に商品の出所識別機能を有する「商標」の表示方法であって,氏の一般的な表示方法ではない,などと主張する。
しかしながら,商取引においては,標章のデザイン化が一般に広く行われており,標章の構成文字について,商品の包装や広告等の表示スペースに合わせたり,標章の表示上のバランスを取ったりするためなどから,複数の段にして表示することが行われていることは,
前記(3)のとおりであり,
加えて,氏のローマ字表記に相当する文字の二段書きを構成中に有する標章が実際に存在する(乙37,38)ことに鑑みれば,本願商標が氏を上下二段に表示したものであるからといって,そのことのみを理由に,本願商標に接する取引者,需要者が,その構成態様が,商取引において一般的に使用される範囲にとどまらない特殊なものであると認識するとはいえない。
したがって,原告の主張は,失当である。

原告は,本願商標が,装飾などのパターンとしても使用できるようにデザインされていることも考慮すれば,本願の指定商品に関する業界においては,本願商標が装飾のモチーフとしても使用される高度にデザインされたものであって,普通に用いられている域を脱していると評価するのが相当であると主張する。
しかしながら,本願商標が商標法3条1項4号に該当するか否かは,別紙(本願商標)のとおりの構成態様から成る本願商標について判断すべきものであり,本願商標が装飾などのパターンとしても使用できるようにデザインされたなどという経緯は,本願商標に係る同号の該当性の判断に何ら影響しないといえる。
したがって,原告の主張は,失当である。


原告は,
「モリモト」
と読まれる語としては,
「森本」
のほか,
「森元」

「守本」,「盛本」などの氏もあり,必ずしも「森本」が一義的に想起されるものではないと主張する。
しかしながら,前記(2)のとおり,「モリモト」の称呼(読み)に照応する語としては,一般の辞書に「森本」のみが掲載され,また,「全国名字大辞典」などに「森本」が全国順位の上位にある氏として掲載されているのに対し,原告主張の「森元」,「守本」,「盛本」は,「森本」に比して全国順位の下位にある氏として掲載されている(乙3,乙39ないし44。なお,乙3に「盛本」の掲載はない。)ことからすれば,本願商標から生じる「モリモト」の読みは,氏の「森本」を認識させるものといえる。なお,原告代表者の氏が「森本」であること(甲1の2)から,本願商標に接する需要者が氏の「森本」を一義的に想起しても,何ら不自然な点はないといえる。
したがって,「モリモト」と読まれる氏として,「森元」,「守本」,「盛本」などもあることをもって,本願商標がありふれた氏「森本」を表示するものであるという判断を否定することはできず,原告の主張は,失当である。
2
商標法3条2項該当性について
原告の主張は争う。
原告は,①本願商標と同一の構成態様で表して成る商標(甲3等)に加え,②「mori」の欧文字と「moto」の欧文字を上下二段に横書きして成るもの(本願商標と同様の構成態様から成るもの)の上部に小さい「PATISSIER」の文字が付された構成態様から成る商標(甲9の1等)を使用しているところ(以下,合わせて「使用商標」という。),その使用に係る商品は,本願の指定商品の一部に限られ,本願の指定商品と同一とはいえない。そして,原告は,全国的に商品を販売し,大規模かつ継続的な使用商標を使用した広告宣伝活動を行っていると主張するが,原告の商品の販売活動及び広告宣伝活動において使用商標が使用された地域は,北海道を中心に限定的といえるものである。
また,原告の示す売上高や広告宣伝活動に要した費用には,(本件訴訟で追加提出されたものを除き)その数値の根拠となる資料の提示がなく,使用商標を使用した商品販売活動及び広告宣伝活動に係るものであるのかを客観的に証明する証拠もない。加えて,使用商標を使用して販売した商品の販売数量も不明である。
以上のとおりであるから,本願商標は,使用をされた結果,その使用に係る商品(「菓子,パン」の範ちゅうに含まれる商品)について,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとはいえない上,その他の指定商品についてはなおさら,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとはいえない。
したがって,本願商標は,商標法3条2項に該当しない。
3
以上のとおり,原告の主張は,いずれも失当であって,本願商標が,商標法3条1項4号に該当し,かつ,同条2項に該当しないものであるとした審決の認定判断に何ら違法な点はなく,これが取り消されるべき理由はない。
第5
1
当裁判所の判断
商標法3条1項4号該当性について
(1)「ありふれた氏」を表示するものであるか否かについて

本願商標は,別紙「本願商標」のとおり,「mori」と「moto」なる文字を上下二段に横書きして成るものであるところ,その構成態様からして,「モリモト」なる称呼が生じることは明らかである(この点は原告も積極的に争っていない。)。また,同じ読みを持つ「森本」なる語は,日本人の姓氏の一つであり(顕著な事実),我が国の代表的な国語辞典である広辞苑(第6版)や大辞林(第3版)にも掲載されていること(乙1,2)を踏まえれば,同称呼から「森本」なる姓氏を連想,想起し得ることもまた明らかといえる。
ところで,「森本」姓については,上記のとおり広辞苑等の一般的な辞書に掲載されているほか,例えば,①森岡浩編「全国名字大辞典」(東京堂出版)においては,関西から,中国・四国地方にかけて集中している名字であり,
奈良県の10位を筆頭に13府県でベスト100に入っており,
全国でも139番目に多い氏として紹介されていること(乙3),②姓名分布や名字の出現数のランキングなどを紹介する複数のウェブサイト(乙4,5)においても,全国で約2万6660件存在し,141番目に多い氏である(ただし,平成19年10月までに発刊された全国の電話帳に掲載されている約2338万世帯の情報を基にしたものである。)とか,全国で約14万人存在し,145番目に多い氏であるなどとして紹介されていることを踏まえれば,「森本」は同種の氏が多数存在するありふれた氏といってよい。
そうすると,本願商標は,その称呼観念から,ありふれた氏である「森本」を想起,連想させるものといえ,したがって,「ありふれた氏」を表示するものといえるから,この点に関する審決の認定判断に誤りがあるとは認められない。

原告の主張について
これに対し,原告は,①「モリモト」と読まれる語としては,「森本」のほかにも,「森元」,「守本」,「盛本」などの氏もあり,必ずしも「森本」が一義的に想起されるものではないこと,②本願商標は,その特徴ある構成文字の配置やデザイン(「mori」と「moto」が二段に表され,なおかつ,「t」の文字と「r」の文字の縦画がつながった特徴あるデザインを有していること)からして,一義的に姓氏を連想させるものではないことを理由に,
本願商標は,
複数の意味合いを想起させ,
若しくは,
その複数の意味合いについても直ちにこれといった特定の語の意味合いを想起させない欧文字より成るものであるから,「森本」のみを認識させるものとはいえないと主張する。
しかしながら,上記①の点については,たとえ同じ読みを有する他の姓が存在するとしても,前記のとおり,「森本」姓が,広辞苑等の一般的な辞書にも掲載される氏であり,関西や中国・四国地方を中心に同姓者が多数存在するとされていることからすれば,「森本」姓がありふれた氏であることや,「モリモト」の読みを持つ姓の代表格が「森本」であること自体は争いようがなく(広辞苑や大辞林の「もりもと」の項に「森本」以外の姓は掲載されておらず,また,例えば,前記乙3の「全国名字大辞典」においては,「森元」は1000位台,「守本」は4000位台と,「森本」に比して全国順位が明らかに低く,「盛本」に至っては掲載すらされていない。),そうである以上,本願商標がありふれた氏の「森本」を連想,想起させるとの認定自体が誤りであるとはいえない。
また,上記②の点についても,本願商標における構成文字の配置やデザインが姓氏以外の観念を生じ得るほどに特徴的であるといえないことは後記(2)のとおりであるし,原告は,結局のところ,本願商標から想起される姓氏以外の意味(観念)として何があるかを具体的に主張立証していないから,本願商標が姓氏以外の何かを想起させる(複数の意味合いを想起させる)ということもできない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(2)「普通に用いられる方法で表示する」標章に当たるか否かについてア
次に,本願商標の表示方法について検討するに,本願商標は,前記のとおりありふれた氏である「森本」と同一の称呼観念を有する語をローマ字表記にした上,「mori」と「moto」を上下二段に分けて配置したものであり,その字体も,文字の角を丸めたやや太めの書体を採用したにすぎないものである(Fontworks社のスーラEBという特定の書体を採用した点についても,同社のウェブサイト〔乙35,36〕において,同書体がDTP〔デスクトップパブリッシング〕の代表的な書体であり,近年多くの場所で使用されている旨謳われていることからすれば,格別特徴的であるとはいえない。)。
商取引において,氏や名称をローマ字で表記することは,一般的に行われていることであるし,標章の構成文字を複数の段に分けることや,構成文字の書体をある程度デザイン化することも特段珍しいことではなく,表示上格別の工夫を凝らしたものであるとはいえない(これらのことは逐一立証するまでもない公知な事実であり,被告提出の乙6ないし34からも明らかといえる。なお,これらの書証の中には,必ずしも原告と同じ業界でないものの例も含まれているが,複数の業界を跨いで同じような例があるということは,それだけ一般的に行われていることを示すものといえるから,これらの証拠を総合して取引の実情を認定したとしても何ら差し支えない。)。
したがって,上記の程度の表示態様(外観)では,いまだ「森本」の氏とは別の称呼観念が生じ得るほどに(すなわち,独占の弊害を生ずるおそれがないといい得るほどに)特徴的であるということはできず,本願商標は,外観上も,ありふれた氏を「普通に用いられる方法」で表示する域を出ないものと評価するのが相当である。
よって,この点に関する審決の認定判断に誤りはない。

原告の主張について
これに対し,原告は,本願商標は,①「mori」と「moto」を二段に表した点(氏をローマ字で表す場合には,横一段に表すのが一般的であり,「森本」に由来するローマ字を普通に用いられる方法で表示する場合は,「morimoto」と横一段に表すのが通常である。),②構成文字の書体としてFontworks社のスーラEBの丸ゴシック書体で強調して書かれている点,③「mori」と「moto」に共通する「m」と
「o」
の欧文字が語順も同じくして並んでいるため,
「mori」「m」

の文字の真下に「moto」の「m」の文字,「mori」の「o」の文字の真下に「moto」の「o」の文字を配置することで,その特徴をより印象付けている点,④語順の3番目にある「r」と「t」の欧文字は縦長線を共通に備えているため,「t」と「r」の文字の縦画をつなげることにより,一層一体感が強調されている点,⑤全体として横長の長方形内にまとまりよく収まるようデザインされている点,⑥本願商標が装飾などのパターンとしても使用できるようにデザインされている点などで特徴的であるから,本願商標については,普通に用いられる域を脱していると評価するのが相当である旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,必ずしも氏をローマ字で表す場合に横一段に表すのが一般的であるとはいえず(乙22ないし29にも同様の例が示されている。),その前提自体に誤りがあるというべきであるし,上記②の点についても,つまるところ,文字の角を丸めたやや太めの書体を採用したにすぎず,(スーラEBという特定の書体を採用した点を含めても)格別特徴的といえないことは前記のとおりである。
上記③及び④の各点についても,「mori」と「moto」が共にアルファベット4文字から成る以上,これを上下二段に配置すれば,(文字の大きさが同じである限り)各文字がそろうことは当然であり,1番目の「m」と2番目の「o」が上下段で一致することも当然であるから,他に格別の工夫がない以上,それだけで文字の共通性が強く印象付けられるとはいえない。また,「moto」の「t」の文字と「mori」の「r」の文字の縦画がつながっている点も,文字の配置上,上段と下段の間隔を狭めていけば,自ずとそのようになるのであるから,それだけで特に一体感が強調されるとか,格別目を惹くということもできない。
上記⑤の点についても,前記のとおり,上段も下段も共に4文字のアルファベットから成る以上,端をそろえればそのような形に収まるのは当然であって,やはり格別特徴的な工夫がなされているとはいえない。上記⑥の点についても,要するに,本願商標を並べたり,反転して使用したりすれば,装飾としても使用できるというにすぎず,本願商標の構成(表示方法)自体に装飾としての使用という観点から格別の工夫がなされているとまでは認められない。
以上のとおり,原告が主張する点は,いずれも格別特徴的であるとまではいえず,結局のところ,本願商標の構成は,ありふれた表現の域を出ないものといわざるを得ない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(3)本願商標は,
「mori」と「moto」の文字のみから成る標章であり,
他の構成要素を含むものではない。したがって,他の構成要素と結合して識別力を有するということもできない。
(4)以上によれば,本願商標は,商標法3条1項4号が規定する「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に当たるというべきであり,同号該当性を認めた審決の認定判断に誤りがあるとは認められない。
2
商標法3条2項該当性について
(1)商標法3条2項は,「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であっても,使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できるに至った場合,すなわち,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができるものと規定するところ,当該商標が同項に該当するか否かについては,使用に係る商標ないし商品,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当である(その場合,使用に係る商標ないし商品等は,原則として,出願に係る商標及び指定商品と同一であることを要する。)。また,上記「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できるに至った場合」に該当するというためには,永年使用されることにより,特定の者の出所表示としてその商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されるに至っている(すなわち特別顕著性が認められる)ことを要するものと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに,後掲の各証拠(枝番号があるものは枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事情が認められる。

原告は,北海道千歳市を本店所在地として昭和35年に設立された菓子の製造販売等を目的とする株式会社であり,資本金1000万円,従業員数800名余り(平成26年7月31日現在),売上高約56億円(平成26年7月決算)程度の企業規模を有する(甲1)。

原告は,現在,北海道内において,千歳,札幌,小樽,恵庭,室蘭,苫小牧,江別,旭川及び滝川の各地域に合計27店舗を展開している(これには,新千歳空港やイオンモールなどのショッピングモールへの出店が含まれる。)が,北海道外には常設の店舗を置いていない。これは,北海道ブランドを効果的に活用するとの原告の企業戦略による(甲72,弁論の全趣旨)。


原告は,上記の店舗販売のほかに,オンラインショップによる販売(甲2)や,カタログによる通信販売(甲74)を行っている。
また,原告は,全国の百貨店等で開催される北海道物産展等に年100回以上出店して商品の販売を行っている(甲1,47ないし60,75,94ないし103)ほか,原告の商品は,生活協同組合(コープさっぽろ等)や,航空会社の機内販売,北海道キヨスクの通信販売等でも取り扱われている(甲76ないし79)。


原告の主力商品としては,昭和59年に全国菓子大博覧会で内閣総理大臣賞を受賞した「ハスカップジュエリー」や,テレビのバラエティ番組において芸能人御用達のお土産として取り上げられた「太陽いっぱい真っ赤なゼリー」などが存する(甲88,104)。これらの商品は,日本経済新聞等の全国紙や,雑誌,ガイドブックなどでも,北海道土産の人気商品などとして紹介されている(甲45,46,86,87など)。
ほかにも,原告の商品ないしパティシエは,さっぽろスイーツ2013グランプリ(甲89),平成26年度北海道新技術・新製品開発賞(優秀賞)
(甲90)
,第12回キリクリームチーズコンクール2015銅賞(甲
91),ROLL-1(ロールワン)グランプリ第5回スイーツコンテスト準優勝(甲92),北のハイグレード商品S2017(甲93)などの受賞歴が存する。

本願商標は,平成14年に原告のCI(コーポレート・アイデンティティ)として導入されたものであり(甲4),以来,約15年にわたり,原告を示すブランド名として,商品の包装,紙袋,店舗の看板,広告等で継続的に使用されているものと推認できる(甲6ないし8,73など)。もっとも,使用態様としては,もともと,字体が同じでも「mori」と「moto」を横一列に表示するものや,「mori」の上部に小さな文字で「PATISSIER」と表示するものなどが想定されていたほか(甲4),現実には,全く異なる字体で「morimoto」ないし「MORIMOTO」と表示するものや(甲3,10),平仮名や漢字で「もりもと」ないし「森もと」と表示するもの(甲3,75)なども存在しており,原告の商品の包装,紙袋,店舗の看板等において,(上部に小さな文字で「PATISSIER」と表示するものを本願商標に含めたとしても)必ずしも本願商標のみが統一的に使用されているわけではない。

原告は,年間9000万円から1億3300万円程度の資金をかけて販売促進活動を行っており,ほぼ全ての広告物に本願商標が記載されていると主張して,多数の新聞広告の写し(甲9,14ないし36,81など)や,雑誌,ポスター・チラシの写し(甲15,82,83,85など)を証拠として提出している。
しかし,新聞広告を例に取れば,そもそも北海道新聞などの北海道を対象とする地方紙に掲載されたものが圧倒的多数を占めており,全国紙であっても掲載された版が判明するものはいずれも道内版であって,北海道以外の地域で広く広告宣伝が行われたことを示す証拠はない。上記雑誌やポスター・チラシの写しも然りであって,広く全国各地において広告宣伝が行われたことを示すものではない(原告主張の広告電通賞を受賞した新聞広告〔甲80の1・2〕も,飽くまで北海道地区の地区賞にとどまるものであって,直ちに全国的な周知性に寄与するものではない。)。
また,原告は,多数のテレビCMを行ったり,世界フィギュア選手権やプロ野球日本ハムファイターズ戦などの全国的に注目度の高いイベントに対して積極的な広告宣伝活動を行ったりしているとも主張するが,その具体的内容や広告宣伝の規模,態様等を認定するに足りる証拠は提出されておらず,全国的な宣伝がなされたと認めるには足りない。
(3)以上によれば,原告及び原告の商品は,原告の地道な企業努力(商品開発や広告宣伝活動等)によって,北海道内においては,ある程度の周知性を獲得しているものと推認できるが,本願商標それ自体は必ずしも周知であるとはいえず,ましてや,全国の需要者(消費者や取引者)の間で本願商標それ自体が原告の出所表示として周知になっている(すなわち特別顕著性を獲得している)とは認められない。
この点,原告は,①北海道の空の玄関口である新千歳空港での販売,②全国の百貨店等における北海道物産展(催事)への出展,③通信販売及び生協等における販売が,特に本願商標の全国的な周知・著名性に寄与すると主張し,その売上高に関する資料(甲107の1・2)を提出するが,上記①及び②は,結局のところ,一地方空港での販売や,季節ごとの臨時出展にとどまるものであって,それのみで特別顕著性を獲得するには足りないというべきであるし,上記③についても,それのみで全国で周知になったといえるほどの爆発的な人気,売上げを記録したことを認めるに足りる証拠はない(原告の企業活動の軸足が飽くまで北海道内にあることは,前記認定の諸事情からも明らかであり,それにもかかわらず,本願商標について特別顕著性を認め得るほど,
上記①ないし③の点が有力な事情であるとは認められない。。)
その他,原告が種々主張するところは,いずれも本願商標について特別顕著性の獲得を認めるには足りず,いずれも採用の限りではない。
(4)したがって,本願商標は商標法3条2項に該当するとはいえず,この点に関する審決の認定判断に誤りがあるとは認めらない。
3
結論
以上の次第であるから,原告の主張はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦寺田利彦
裁判官

裁判官大西勝滋は,転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官
鶴岡稔彦
(別紙)
本願商標
指定商品:
第30類「フルーツゼリー菓子,ケーキ,チーズケーキ,クッキー,ペストリー(菓子),プリン,アイスクリーム,洋菓子,もち菓子,あずきを使用した菓子,和菓子,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,
もち,
穀物の加工品,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,
シャーベットのもと,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,茶飲料,茶,チョコレート飲料,コーヒー飲料,コーヒー,ココア飲料,ココア,コーヒー豆,氷,砂糖,はちみつ,その他の調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,パスタソース,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用グルテン,食用粉類」
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