判例検索β > 平成24年(ネ)第4631号
事件番号平成24(ネ)4631
裁判年月日平成29年10月27日
法廷名東京高等裁判所
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平成24年(ネ)第4631号各損害賠償請求控訴事件
(原審・横浜地方裁判所平成20年(ワ)第2586号,
平成22年(ワ)第2160号)

判決
東京高等裁判所第5民事部


主事目次


文...................................................................................................6実及び理
由...................................................................................................9
第1章

控訴の趣旨...........................................................................................................9
第2章

事案の概要...........................................................................................................9
第1節

事案の要旨.......................................................................................................9
第2節

前提事実.........................................................................................................10
第3節

本件の主要な争点及びこれに対する当事者の主張..................................19
第1

本件の主要な争点.........................................................................................19
第2

石綿関連疾患に関する医学的知見の形成状況(争点1)について......21
第3

被控訴人国の労働関係法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点2)について.................................................................................................21
第4

被控訴人国の建築基準法令に基づく指定・認定行為の違法性の有無(争点3)について.................................................................................................65
第5

被控訴人国の建築基準法令に基づく権限不行使の違法性の有無(争点
4)について.....................................................................................................67第6

被控訴人企業らの共同不法行為の成否(争点5)について..................70
第7

被控訴人企業らに対する控訴人らの請求権の消滅時効の成否(争点6)について..........................................................................................................116
第8

被控訴人国と被控訴人企業との共同不法行為の成否(争点7)について
..................................................................................................................................116第9
第3章
第1節

控訴人らの損害額(争点8)について...................................................117当裁判所の判断...............................................................................................118被控訴人国の権限行使の前提としての医学的知見の形成状況(争点1)について..........................................................................................................118
第2節

被控訴人国の労働関係法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争
点2)..............................................................................................................125第1

建築作業の石綿粉じん曝露の客観的危険性に関連する事実................125
1
我が国におけるアスベスト輸入量の推移...............................................125
2
建材における石綿使用量の推移...............................................................126
3
石綿含有建材の種類・使用状況等...........................................................127
4
電動工具の普及状況...................................................................................129
5
建設作業の状況...........................................................................................130
6
建築作業に伴う石綿粉じん濃度の測定結果等........................................137
7
防じんマスクの着用状況,石綿の危険性の周知度など........................154
8
建築作業従事者の肺疾患等についての労災認定状況............................158
9
建築作業従事者の石綿関連疾患への罹患状況........................................159
建築作業の石綿粉じん曝露の危険性に関するその他の公表資料等....163
粉じん濃度評価基準...................................................................................165
第2

判断..............................................................................................................172
1
労働関係法令に基づく規制権限の不行使について................................172
2
建築作業現場における石綿粉じん曝露の状況........................................174
3
管理使用を前提とした規制権限不行使の違法性について....................178
4
石綿建材の製造等の禁止措置に関する規制権限不行使の違法性について......................................................................................................................220
5
一人親方及び個人事業主は労働関係法令に基づく規制権限不行使による違法について国賠法上の救済を求めうるかについて............................232
6
一人親方及び個人事業主について改正労災保険法34条に基づく規制権限不行使の違法性について.......................................................................236
第3節

被控訴人国の建築基準法令に基づく行為の違法性の有無....................237
第1

被控訴人国の建築基準法令に基づく指定・認定行為の違法性の有無(争点3)について...............................................................................................237
第2

被控訴人国の建築基準法令に基づく権限不行使の違法性の有無(争点
4)について...................................................................................................239第4節

各控訴人の労働者性等...............................................................................241
第5節

被控訴人企業らの共同不法行為の成否(争点5)................................242
第1

総論..............................................................................................................242
1
被控訴人企業らの注意義務違反について...............................................242
2
共同不法行為に関する控訴人らの主張について....................................250
第2

左官を主たる業務とする控訴人4名について........................................267
第3

専ら保温材を主要曝露建材とする控訴人3名について........................271
第4

電工を主たる職種とする控訴人について................................................278
第5

配管工を主たる職種とする控訴人11名について................................284
第6

大工を主たる職種とする控訴人37名について....................................286
第7

塗装を主たる業務とする控訴人4名について........................................302
第8

板金を主たる業務とする控訴人3名について........................................303
第9

解体工・鳶を主たる業務とする控訴人6名について............................303
第10

控訴人番号24(タイル工)について................................................304
第11

鉄骨工を主たる職種とする控訴人番号58について........................305
第12

控訴人番号53について.......................................................................305
第6節

消滅時効の成否(争点6).......................................................................306
第7節

被控訴人国と被控訴人企業との共同不法行為の成否(争点7)........307
第8節

控訴人らの損害額(争点8)...................................................................308
第9節

結論..............................................................................................................316
別紙1(当事者目録)

添付略

別紙2(主文一覧表)

別紙3(請求額等目録)

別紙4(控訴人各論)

別紙5(控訴人の就労及び作業状況等に関する主張一覧)

別紙6別表1(日本における石綿の輸入量)

別表2(統計対象石綿含有建築材料の出荷量の総計)

別表3~6(吹付け材,保温材等の種類,使用時期,含有率等)

別表7(成形板の石綿含有率)

別表8(石綿含有建築材料(成形板)の出荷量)

別表9(電動工具出荷量)

別表10(主要産業別の労働者人口,石綿関連疾患発生件数)

別表11(窯業・土木製品製造業及び建設業の石綿関連疾患発生率)
別紙7別表1(吹付けロックウールのマーケットシェア)

別表2-1~2-3(石綿含有スレートボードのマーケットシェア)
別表3(石綿含有けい酸カルシウム板第1種のマーケットシェア)
別表4(大工が直接取り扱う可能性のある石綿含有成形板の出荷量)
別表5(石綿含有スレートボード出荷量内訳)

平成29年10月27日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

田辺

安希子

平成24年(ネ)第4631号各損害賠償請求控訴事件(原審・横浜地方裁判所平成20年(ワ)第2586号,平成22年(ワ)第2160号)
口頭弁論終結日

平成29年3月14日

当事者の表示


別紙1(当事者目録)

主1
添付略


別紙2の「被控訴人国」「認容額」欄に金額の記載がある各控訴人の被控訴人国に対する控訴について
原判決中,上記当事者に関する部分を,次のとおり変更する。
被控訴人国は,上記各控訴人に対し,各控訴人に対応する上記欄記載の各金員及びこれに対する別紙2の「遅延損害金起算日」欄記載の各年月日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
上記各控訴人の被控訴人国に対するその余の請求をいずれも棄却
する。

2
別紙2の「被控訴人エーアンドエーマテリアル」「認容額」欄に金額の記載がある各控訴人の被控訴人エーアンドエーマテリアルに対する控訴について
原判決中,上記当事者に関する部分を,次のとおり変更する。
被控訴人エーアンドエーマテリアルは,上記各控訴人に対し,うち控訴人(5),同(8),同(14),同(48の1)及び同(48の2)に対しては被控訴人ニチアス及び同エム・エム・ケイと連帯して,各控訴人に対応する上記欄記載の各金員及びこれに対する別紙2の「遅延損害金起算日」欄記載の各年月日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
上記各控訴人の被控訴人エーアンドエーマテリアルに対するその

余の請求をいずれも棄却する。
3
別紙2の「被控訴人ニチアス」「認容額」欄に金額の記載がある各控訴人の被控訴人ニチアスに対する控訴について
原判決中,上記当事者に関する部分を,次のとおり変更する。
被控訴人ニチアスは,上記各控訴人に対し,うち控訴人(5),同(8),同(14),同(48の1)及び同(48の2)に対しては被控訴人エーアンドエーマテリアル及び同エム・エム・ケイと連帯して,各控訴人に対応する上記欄記載の各金員及びこれに対する別紙2の「遅延損害金起算日」欄記載の各年月日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
上記各控訴人の被控訴人ニチアスに対するその余の請求をいずれ
も棄却する。

4
別紙2の「被控訴人エム・エム・ケイ」「認容額」欄に金額の記載がある各控訴人の被控訴人エム・エム・ケイに対する控訴について
原判決中,上記当事者に関する部分を,次のとおり変更する。
被控訴人エム・エム・ケイは,
上記各控訴人に対し,
うち控訴人
(5)

同(8),同(14),同(48の1)及び同(48の2)に対しては被控訴人エーアンドエーマテリアル及び同ニチアスと連帯して,各控訴人に対応する上記欄記載の各金員及びこれに対する別紙2の「遅延損害金起算日」欄記載の各年月日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
上記各控訴人の被控訴人エム・エム・ケイに対するその余の請求をいずれも棄却する。

5
別紙2の「被控訴人神島化学工業」「認容額」欄に金額の記載がある控訴人の被控訴人神島化学工業に対する控訴について
原判決中,上記当事者に関する部分を,次のとおり変更する。

被控訴人神島化学工業は,上記控訴人に対し,上記控訴人に対応する上記欄記載の金員及びこれに対する別紙2の「遅延損害金起算日」欄記載の年月日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。上記控訴人の被控訴人神島化学工業に対するその余の請求を棄却
する。
6
別紙2の「被控訴人国」,「被控訴人エーアンドエーマテリアル」,「被控訴人ニチアス」,「被控訴人エム・エム・ケイ」及び「被控訴人神島化学工業」欄のいずれかが空白である各控訴人の当該被控訴人に対する控訴並びに控訴人らの被控訴人旭硝子,同旭トステム外装,同ウベボード,同永大産業,同クボタ,同ケイミュー,同倉敷紡績,同クリオン,同壽工業,同小松ウオール工業,同JFE建材,同昭和電工建材,同新日鉄住金化学,同住友大阪セメント,同積水化学工業,同大建工業,同大阪ソーダ,同太平洋セメント,同チヨダウーテ,同DIC,同デンカ,同東洋テックス,同東レACE,同LIXIL,同ナイガイ,同ニチハ,同日東紡績,同日本インシュレーション,同日本碍子,同日本化成,同日本バルカー工業,同ノザワ,同ノダ,同福田金属箔粉工業,同フクビ化学工業,同文化シヤッター,同明和産業,同吉野石膏及び同淀川製鋼所に対する控訴をいずれも棄却する。

7
訴訟費用及び控訴費用については,次のとおりとする。
第1項から第5項まで記載の当事者間に関する訴訟費用は,第1,2審を通じて,それぞれに対応する別紙2の「負担割合」欄記載の割合を各被控訴人の負担とし,その余を各控訴人の負担とする。
第6項記載の当事者間に関する控訴費用は,当該控訴人らの負担とする。

8
この判決は,第1項

に限り,

は本判決が被控訴人国に送達された日から14日を経過したときは,仮
に執行することができる。ただし,被控訴人国,同エーアンドエーマテリアル,同ニチアス,同エム・エム・ケイ及び同神島化学工業が,それぞれ,別紙2の各被控訴人に対応する「担保額」欄に金額の記載のある各控訴人に対し,同金員の担保を供するときは,当該被控訴人は,当該控訴人の請求との関係において,その仮執行を免れることができる。事
第1章

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人らは,別紙3(請求額等目録)記載の各控訴人に対し,連帯して,各控訴人に対応する同目録「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する同目録「労災等認定日」欄記載の各年月日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(控訴人(44の1),同(44の2)の請求額は,控訴状提出後に生じた同(44)からの承継を反映させたものである。また,控訴状別紙請求額等目録記載の労災等認定日で別紙3の記載と異なるものは,誤記と認めた。)
第2章

事案の概要

第1節

事案の要旨

控訴人らは,主に神奈川県内において建設作業に従事し,石綿(アスベスト)粉じんに曝露したことにより,石綿肺,肺がん,中皮腫等,石綿粉じん曝露により生ずる疾患(石綿関連疾患)にり患したと主張する者又はその相続人である。本件は,控訴人らが,①

被控訴人国(被控訴人符号乙ア)については,被控

訴人国が,建設作業従事者の石綿含有建材による石綿粉じん曝露を防止するために労働関係法令等に基づく規制権限を行使することを怠ったこと,さらには,石綿含有建材を用いた構造を建築基準法上の耐火構造等として指定又は認定し,石綿含有建材の使用を推進したことなどが違法であると主張して,国家賠償法1条1項に基づき,②

被控訴人旭硝子株式会社外43社(被控訴人符号乙イ,乙ウ,

乙オ~乙ニ,乙ネ~乙ヰ,乙ヲ,乙ン)については,同被控訴人らが,石綿のがん原性が明らかとなった時点以降も,警告表示を付すことなく石綿含有建材を製造・販売した行為等が不法行為に当たるとして,民法709条あるいは製造物責任法3条並びに民法719条1項に基づき,被控訴人ら全員に対し,連帯して,建設作業従事者1人当たり慰謝料3500万円,弁護士費用350万円の合計3850万円(総額28億8750万円)の損害賠償及び遅延損害金を請求している事案である。
原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。控訴人らは,控訴したが,その後,被控訴人日本ロックウール株式会社(被控訴人符号乙ヨ)に対する控訴は取り下げた(その余の被控訴人旭硝子株式会社外42社を,以下「被控訴人企業ら」という。)。また,控訴状提出後の遺産分割協議に伴い,控訴人(46)による請求の拡張及び取下げ前控訴人(46の2~4)による控訴の取下げがあった。以下,労働関係法令の略称は原判決別紙3「略称一覧表」の例によるものとし,省庁名,官職名等はいずれも当時のものである。
第2節
第1
1
前提事実
当事者
控訴人ら
原判決2頁22行目の「別紙4「各被災者個別表」」を「別紙4(控訴人各
論)」と改めるほか,同頁17行目から同頁24行目に記載のとおりであるから,これを引用する(以下,控訴人の被相続人で自ら建設作業に従事した者を「被災者」
と呼ぶが,
自ら建設作業に従事した控訴人と合わせて
「控訴人
(ら)

あるいは「被災者(ら)」ということもある。)。
2
被控訴人企業ら
次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第2節第1の2(同3~11頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。原判決3頁8・9行目の「「石綿(アスベスト)含有建材データベース」」の次に「(以下「国交省データベース」という。)」を,同3頁20行目の「窯業系外装建材事業部門」の次に「(硝子繊維補強強化セメント及び軽量気泡コンクリートパネルに関する事業を除く。)」をそれぞれ加える。同4頁10行目の「株式会社であり,」の次に「平成12年10月に株式会社アスクと浅野スレート株式会社(大正4年2月設立)が合併したものである。株式会社アスクは,朝日スレート株式会社(大正13年3月設立)が,昭和25年12月に朝日石綿工業株式会社と商号変更した後,昭和62年4月に再度商号変更したものである。これらの会社は,」を加え,23行目の「承継した」の次に「が,被控訴人クボタは上記吸収分割に際して控訴人らに対する個別の催告は行っていない」を加える。
同5頁1行目の「昭和38年」から3行目末尾までを「被控訴人クボタの屋根材事業及び外壁材事業のほか,平成15年12月1日を分割期日とする会社分割(吸収分割)により松下電工株式会社の屋根材事業及び外壁材事業を承継した結果,昭和35年から平成15年までの間に両社が製造販売した石綿を含有する住宅屋根用化粧スレート,スレートボード(フレキシブル板),窯業系サイディングに係る権利義務を承継した。」と改め,同5頁16行目の「平成16年」を「平成14年10月」と改め,同5頁19行目の「業務内容であった。」の次に「また,平成14年11月以降も平成16年までは,他社から委託を受けて石綿含有スレートボードの塗装作業を行っていた。」を加える。
同6頁10行目の「被告新日鐵化学」を「被控訴人新日鉄住金化学(旧商号・新日鐵化学株式会社)」と,同6頁14行目の「昭和57年」を「昭和50年」とそれぞれ改め,同6頁15行目の「(昭和50年からは委託による。)」を削除し,同6頁16行目の「押出成形セメント板」を「セメント系中空押出成形外壁材」と,同6頁17行目の「10の2」を「10の1・2」と,同6頁24行目の「被告ダイソー」を「被控訴人大阪ソーダ(旧商号・ダイソー株式会社)」とそれぞれ改める。
同7頁6・7行目の「押出成形セメント板」を「モルタル混和材(販売のみ)」と,同7頁16行目の「被告電気化学工業」を「被控訴人デンカ(旧商号・電気化学工業株式会社)」とそれぞれ改める。
同8頁13行目の「昭和39年」から同8頁14行目の「建材」までを「昭和62年から平成10年までの間に,石綿含有押出成形セメント板,石綿含有窯業系サイディング」と改め,同8頁16行目の「,乙ヘ1」を削る。同10頁25行目の「被告三菱マテリアル建材」を「被控訴人エム・エム・ケイ(旧商号・三菱マテリアル建材株式会社)」と改める。
第2

石綿及び石綿含有建材
原判決12頁18行目「石綿含有建材とは」から同12頁19行目末尾までを
削り,同13頁7行目の「吹付け石綿等」を「吹付け石綿」と改めるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第2節第2(同11~13頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3

建設作業における石綿粉じんの飛散状況等
原判決の「事実及び理由」中第2章第2節第3(同13~15頁)に記載のと
おりであるから,これを引用する。
第4

石綿関連疾患(現在の医学的知見)
次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第2節第4(同
15~19頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
1
原判決15頁25行目の「甲106」を「甲A106」と,同15頁25行目・同16頁1行目の「乙アA44,45,47」を「乙アA44~47,55」とそれぞれ改める。

2
原判決16頁24行目の末尾の次に改行の上,「石綿肺は,一般に石綿の高濃度曝露で発生するため,
断面3~5㎛以下の石綿繊維5~20本/㎖の吸入が
継続的に起こるような環境でなければ発生しないとされており(財団法人産業医学振興財団発行「産業保健ハンドブックⅣじん肺」155頁。乙アA46),その閾値は少なくとも25本/㎖×年以上であると考えられている(森永謙二編
「増補新装版石綿ばく露と石綿関連疾患」107頁。乙アA55)。「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」により平成18年2月にまとめられ,石綿関連疾患の労災認定基準(乙アA44)の基礎となった「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書によれば,臨床における石綿肺の診断は,石綿曝露作業歴の確認とじん肺法に定められる一定の肺線維化所見に基づいて行われるものであって,石綿曝露歴の客観的な情報がなければ,他の原因による肺線維症と区別して石綿肺と診断することは難しいとされている(甲A106・29頁。)。」を加え,同17頁3・4行目の「通常で10年以上,最短でも二,三年以上」を「石綿セメント等の石綿製品製造作業においては5年程度,石綿吹付け,石綿紡織では1年程度でも所見がみられることがあるが,一般的には10年以上」と改める。
3
原判決18頁7行目の末尾の次に改行の上,「平成9年にフィンランドのヘルシンキで開催された石綿関連疾患に関する国際専門家会議において,肺がんの相対危険度は,
累積曝露量が1単位
(繊維数/㎤×曝露年数)
増加する度に0.
5~4%ずつ増大するとの計算に基づき,この範囲の上限を用いて累積曝露量25単位で肺がんの危険度が2倍になるとの基準が確認された(乙アA167。以下,この会議で確認された診断基準を「ヘルシンキ・クライテリア」という。)。前記の「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書においても,ヘルシンキ・クライテリアに依拠して,肺がんについて,喫煙をはじめとして様々な原因が指摘されている中で,石綿を原因とするものとみなせるのは,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める量の石綿曝露があった場合とするのが妥当であり,肺がんの発症リスクを2倍以上にする石綿の曝露量は,累積石綿曝露量25本/㎖×年以上と考えられるとした上で,職業曝露歴等に関連したものとして,胸膜プラーク等の石綿曝露所見が認められ,石綿曝露作業に概ね10年以上従事したことが確認された場合には,
25本/㎖×年以
上の累積曝露があったとみなすことができるとしている(甲A106・28~29頁)。」を加える。
4
原判決18頁17行目の末尾の次に「職業曝露によるものとみなせるのは,概ね1年以上の石綿曝露作業従事歴が認められた場合であるが,曝露状況によっては,
1年より短い石綿曝露作業歴でも発症を否定し得ないとされている。」
を加える。

5
原判決19頁1行目の末尾の次に改行の上,次のとおり加える。
「5

びまん性胸膜肥厚
びまん性胸膜肥厚とは,呼吸機能障害を起こす臓側胸膜の病変である。びまん性胸膜肥厚は石綿以外の様々な原因によっても発症し,石綿粉じん曝露者におけるびまん性胸膜肥厚の発症頻度が3.0%~13.5%であること,一般的に石綿に長期間曝露した者及び最初の曝露から長年経た者の有所見率が高くなること,石綿粉じん作業者の衣服に付着した石綿からの曝露によるもの
(家族曝露)
もあることなどが報告されているものの,
原因不明のものや石綿曝露と無関係のものもあることなどから,びまん性胸膜肥厚のうち,他の原因が否定され,明らかな職業曝露歴がある場合には,石綿によるものと考えてよく,その際の曝露期間として,概ね3年以上の職業による石綿曝露期間が目安となるとされている。
びまん性胸膜肥厚は,肺機能の低下をもたらす拘束性障害を呈し,不可逆性を有する疾病である。」

第5

建築基準法令上の石綿含有建材の扱い
原判決の「事実及び理由」中第2章第2節第5(同19~30頁)に記載のと
おりであるから,これを引用する。
第6

労働関係法令上の石綿及び石綿含有建材に関する施策
次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第2節第6(同30~53頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
1
原判決30頁19行目の「と並んで,」を「又は」と,同頁20行目の「,」を「及び」とそれぞれ改める。

2
原判決31頁15行目の「これら」を「50条及び52条1項」に改め,同頁15・16行目の「,同条3号」を削り,同頁21行目の「章」を「編」に改める。

3
原判決33頁11行目の末尾の次に次のとおり加え,同頁12行目の「48まで」の次に「,194,弁論の全趣旨」を,同頁18行目の「金属鉱山等」の次に「における労働者にみられるように」をそれぞれ加える。
「防じんマスクの規格は,一部の期間を除き,ろじん効率ないし粉じん捕集効率等に応じて複数の種類が定められており,
その経緯は,
次のとおりである。
昭和25年12月26日

第1種90%以上,第2種60%以上

昭和30年

第1種95%以上,第2種90%以上,第3種

1月11日

75%以上,第4種60%以上
昭和37年

5月30日

特級99%以上,1級95%以上,2級80%
以上

昭和47年

9月30日

特級99.5%以上,1級95%以上,2級8
5%以上

昭和58年12月26日

95%以上

平成12年

R1:80%以上,R2:95%以上,R3:

9月11日

99.9%以上
なお,」
4
原判決37頁11行目の「発生源」を「発散源」に改める。

5
原判決38頁2行目の「オ

」を「オ

第二類物質を製造する作業に労働者

を従事させる場合に,」に,同頁23行目の「また,」を「また,旧特化則と旧安衛則との関係につき,両規則の規定が競合する部分については旧特化則の規定が優先し,旧特化則に規定されていない事項については当然に旧安衛則が適用されるものとしている。さらに,」に,それぞれ改める。
6
を加える。
7
原判決40頁2行目の末尾の次に改行の上,「20条から25条までの規定により事業者が講ずべき措置及び26条の規定により労働者が守らなければならない事項は,労働省令で定める(同法27条1項)。」を加える。
8
原判決42頁4行目の末尾の次に改行の上,次のとおり加え,同頁13行目冒頭から同頁14行目末尾までを「

事業者は,第二類物質の粉じんが発散

する屋内作業場については,当該発散源に局所排気装置を設けなければならない。ただし,局所排気装置の設置が著しく困難な場合又は臨時の作業を行うときは,この限りでない(5条1項)。事業者は,前項ただし書の規定により局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設け,又は第二類物質を湿潤な状態にする等労働者の障害を予防するため必要な措置を講じなければならない(同条2項)。」に

安衛令6条18号

の作業(第二類物質を製造する作業)についての」に,それぞれ改める。安衛法57条本文は,ベンゼン,ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は56条1項の物を譲渡し,又は提供する者は,労働省令で定めるところにより,その容器(容器に入れないで譲渡し,又は提供するときにあっては,その包装)に名称,成分及びその含有量,労働省令で定める物にあっては人体に及ぼす作用その他所定の事項を表示しなければならない旨を定めた。安衛法59条1項は,事業者は,労働者を雇い入れたときは,当該労働者に対し,労働省令に定めるところにより,その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行わなければならない旨を,同条2項は,同条1項の規定は労働者の作業内容を変更したときについて準用する旨を,同条3項は,事業者は,危険又は有害な業務で労働省令に定めるものに労働者をつかせるときには,労働省令で定めるところにより,当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行わなければならない旨を,それぞれ定めた。」
9
原判決43頁11・12行目の「石綿の含有量が重量の5%を超える石綿を含有する製剤その他の物」の次に「(以下9項においては,石綿と併せて「石綿等」という。)」を,同頁13行目の「なった」の次に「(安衛令18条第2号の2,第39号,安衛則30条,別表第二第2号の2)」を加える。
原判決44頁2行目の冒頭から同頁4行目の末尾までを次のとおり,同頁6行目の「石綿及び」から同頁7行目の「除く。)」まで及び同頁16行目の「石綿」を「石綿等」に,それぞれ改め,同頁20行目の「従事させるときは,」の次に「石綿等を湿潤することが著しく困難なときを除き」を加える。「イ

石綿等の第二類物質への指定等
石綿のほか,石綿の含有量が重量の5%を超える石綿を含有する製剤その他の物を,第二類物質(管理第二類物質)として特化則5条等の規制の対象に加えた(安衛令別表第三第2号4,37,特化則2条1項第2号,第5号,2項,別表第一第4号)。
また,石綿等を含む特別管理物質については,事業者に対し,これを製造し又は取り扱う作業場における,特別管理物質の名称(1号),特別管理物質の人体に及ぼす影響(2号),特別管理物質の取扱い上の注意事項(3号)及び使用すべき保護具に係る事項の掲示(4号)(38条の3),同作業場において作業に従事する労働者に係る作業の記録の作成・保存(38条の4)を,それぞれ義務付けた。」

原判決45頁17行目の末尾の次に改行の上,次のとおり加え,同頁21行目の「昭和51年通達」を「以下「昭和51年通達」という。」に改める。「

38条の3につき,同条1号から3号までの掲示事項については,安衛法57条に基づく有害物質の統一表示内容を定めた昭和50年3月27日付け基発第170号等の当該部分と同一内容として差し支えないと解説した。」
原判決48頁21行目の「暴露」を「ばく露」に改める。

原判決50頁3行目の「製造者者」を「製造者等」に改める。

原判決52頁8・9行目「第456号」を「第457号」に,同頁21行目の「第21号」から同頁22行目の末尾までを「第21号。以下「石綿則」という。)を定めた。石綿則では,建築物の解体,破砕等の作業につき,石綿等の使用の有無の事前調査(3条),作業計画(4条),所轄労働基準監督署長への届出(5条),作業場所の隔離(6条),他の労働者の立入禁止(7条),発注者から請負人に対する石綿等の使用状況の通知(8条)等が,石綿等が吹き付けられた建築物等における業務につき,吹き付けられた石綿等が損傷,劣化等により粉じんを発散させるおそれがあるときの石綿等の除去,封じ込め,囲い込み等の措置(10条)が,石綿等の切断等の作業につき,石綿等の湿潤化(13条),呼吸用保護具,作業衣の使用の義務付け(14条)が,それぞれ規定された。」に,それぞれ改める。

第7

石綿関連疾患に関する医学的知見の集積状況
次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第2節第7(同
53頁~85頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
1
原判決57頁22行目の「健康相談所資料として公刊された」を「健康保険相談所資料として印刷された」と,同頁24行目の「19の工場」を「14の工場」とそれぞれ改める。

2
原判決78頁21行目の「胸膜中皮腫」を「腹膜中皮腫」と改める。
3
原判決81頁21行目の「石神伸」を「石西伸」と改める。

4
原判決83頁11行目の「ワグナーらの報告」の次に「(ワグナー報告)」を加える。
5
原判決84頁2・3行目の「「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」
(甲A266)の次に(以下,


「専門家会議報告書」
という。」

を加える。

第3節
第1
1
本件の主要な争点及びこれに対する当事者の主張
本件の主要な争点
石綿関連疾患に関する医学的知見の形成状況
石綿肺
肺がん,中皮腫

2
被控訴人国の労働関係法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無規制権限不行使の国賠法上の違法性の判断基準と考慮要素
建築現場の石綿粉じん曝露の実態と被控訴人国の健康被害リスクの認識被控訴人国の講じてきた石綿粉じん曝露対策の合理性

管理使用を前提とした権限不行使の違法性
作業環境管理にかかる措置の不実施(②を除き昭和46年,昭和50年,昭和53年,昭和62年)


個人サンプラーを利用した定期的粉じん濃度測定及び評価の義務

付け


石綿吹付け作業の全面禁止(昭和50年,昭和53年,昭和62年)


集じん機付き電動工具の使用の義務付け



移動式局所排気装置等の義務付け及び全体換気についての措置



プレカット工法の義務付け



吹付け石綿の剥離・除去等に関する措置
作業管理にかかる措置の不実施(昭和46年,昭和50年,昭和53
年,昭和62年)


石綿吹付け作業でのエアラインマスクの全面的使用義務付け



適切な防じんマスクの使用義務付け
健康等管理にかかる措置の不実施(昭和46年,昭和50年,昭和53年,昭和62年)


建材メーカー等に対する警告表示の全面的義務付け



建築作業場における石綿取扱上の注意事項等の掲示の全面的義務
付け



石綿関連疾患についての特別教育実施の義務付け

石綿含有建材の製造等の禁止措置に関する規制権限不行使の違法性(昭和50年,昭和53年,昭和62年,平成7年)
一人親方及び個人事業主は労働関係法令に基づく規制権限不行使による
違法について国賠法上の救済を求めうるか
一人親方及び個人事業主について改正労災保険法34条に基づく規制権限不行使の違法性の有無
3
被控訴人国の建築基準法令に基づく指定・認定行為の違法性の有無建築基準法2条7号ないし9号に基づく昭和47年以降の石綿含有建材の指定・認定行為
建築作業従事者は建築基準法2条7号ないし9号に基づく指定・認定の違法について国賠法上の救済を求めうるか

4
被控訴人国の建築基準法令に基づく権限不行使の違法性の有無
建築基準法2条7号ないし9号に基づき昭和47年以前になした石綿含有建材の指定・認定を取り消さなかった権限不行使
建築基準法90条2項に基づき石綿粉じん曝露防止のための技術的基準を定める政令の制定を昭和47年以降も行わなかった権限不行使
建築作業従事者は建築基準法90条2項に基づく権限不行使の違法について国賠法上の救済を受けることができるか

5
被控訴人企業らの共同不法行為の成否
注意義務違反の有無

石綿不使用義務(時期)


警告義務(具体的内容及び時期)
共同不法行為の該当性


主位的主張
被控訴人企業全社による共同不法行為(民法719条1項前段又は後段)


予備的主張1
直接取扱い建材を製造・販売した被控訴人企業らによる共同不法行為(民法719条1項前段又は後段)


予備的主張2
主要曝露建材を製造・販売した被控訴人企業らによる共同不法行為(民法719条1項後段)

6
被控訴人企業らに対する控訴人らの請求権の消滅時効の成否

7
被控訴人国と被控訴人企業との共同不法行為の成否

8
控訴人らの損害額

第2

石綿関連疾患に関する医学的知見の形成状況(争点1)について
原判決の「事実及び理由」中第2章第3節第2(原判決85~97頁)に記載
のとおりであるから,これを引用する。
第3

被控訴人国の労働関係法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点
2)について
1
控訴人らの主張
規制権限不行使の国賠法上の違法性の判断基準と考慮要素
本件において被控訴人国の責任として第一義的に判断が求められるのは,労働者の生命,身体に対する危害を防止し,その健康を確保することを主要な目的とする労働関係法令に基づく規制権限の不行使であるから,同じ労働安全行政分野における判例である最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁(筑豊じん肺訴訟最判),最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁(泉南2陣最判)が示した「旧労基法及び安衛法がいずれも労働者の身体と生命に対する危害の防止等を目的としていること,旧労基法及び安衛法が規制措置の具体的内容を省令に包括的に委任した趣旨は,事業者が講ずべき措置の内容が多岐にわたる専門的,技術的事項であり,また,その内容をできる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく,適時にかつ適切に行使されるべき」との基準が妥当し,労働大臣等が,その有する規制権限を上記の趣旨で適時にかつ適切に行使していない場合には,その権限の不行使は著しく合理性を欠き,国賠法上も違法となる。その上で,規制権限不行使の違法性を判断するにあたっては,①規制権限を定めた根拠法規である旧労基法,安衛法の趣旨・目的,②被害法益の重大性,③石綿関連疾患に関する医学的知見の集積状況(予見可能性),④石綿粉じん曝露防止に関する技術的知見の集積状況(結果回避可能性)を考慮すべきである。石綿製品の社会的必要性や工業的有用性等を考慮して規制の要否や程度,時期を決することは,旧労基法,安衛法の趣旨・目的から逸脱するものとして許されない。筑豊じん肺訴訟最判,泉南2陣最判は,規制権限の不行使が問題となった時点においてじん肺ないし石綿肺罹患の実情が相当深刻なものであることが明らかとなっていたことを指摘しているが,石綿関連疾患の進行性や潜伏期間が長期であることからすれば,その当時において,石綿関連疾患の罹患状況が深刻である場合のみならず,深刻化ないし広範化することを認識ないし予見可能であれば,できる限り速やかに規制権限を行使し被害の拡大を防止することこそが,上記基準の求めることである。
建築現場の石綿粉じん曝露の実態と被控訴人国の健康被害リスクの認識我が国では,高度経済成長期に石綿の輸入量が急速に増大し,昭和49年には第1次のピークを迎え,輸入された石綿の約7割は建材に使用された。吹付け石綿の施工量は,昭和41年頃から急速に増大し,昭和47年にはピークを迎えた。また,石綿建材が切断,加工されれば大量の石綿粉じんが発生するが,特に高濃度の石綿粉じんを発生させる電動工具が昭和40年以降,急速に建築現場に普及した。その結果,建築作業従事者が建築現場において石綿粉じんに曝露する危険は,1970年代に急速に高まっていた。他方で,建築作業の工程は,多様な職種の建築作業従事者が同時並行的に従事し,様々な粉じん作業を行っているところ,建築現場は,養生シート等で覆われて閉鎖された空間となり,また,屋根・壁が作られれば,屋内作業場と同様の密閉空間となっていることから,その中で建築作業従事者は,直接的・間接的に,また累積的・複合的に石綿粉じんに曝露することとなる。そして,石綿関連疾患の潜伏期間が長く,曝露濃度と曝露期間に応じて罹患率が高まること,高濃度の曝露による石綿肺のみならず,少量曝露によっても肺がん,悪性中皮腫という重篤な疾患が発生するとの医学的知見も形成されていたことからすると,被控訴人国は,将来,相当程度の規模で,建築作業従事者に石綿関連疾患が確実に増大することについての予見可能性があり,また,予見すべきであった。
被控訴人国の講じてきた石綿粉じん曝露対策の合理性

管理使用を前提とした権限不行使の違法性
労働安全衛生を推進していくために講じられる対策である労働衛生管理は,①作業環境管理(作業環境中の有害要因を把握した上で,作業環境から有害要因を除去し,良好な作業環境を維持するための対策であり,有害物質の製造及び使用の禁止,湿潤化,密閉,局所排気装置の使用,関係者以外の立ち入り禁止などの対策が該当する。),②作業管理(作業方法を適切に管理することで,作業環境の悪化を防ぎ,作業者の有害要因への曝露を少なくするための対策であり,作業標準の策定と履行の監督,保護具の使用などの対策が該当する。),③健康管理(健康診断等により個々の労働者の健康状態を的確に把握し,その結果に基づいて必要な措置を講じること,労働者に対して安全衛生教育を実施し,有害要因や対策に関する十分な情報の提供を行うことなどが該当する。)から成り,労働衛生管理を実効あるものとするためには,これらを総合的に実施していくことが必要である。建築現場では,建築産業の重層的下請構造の下で,ゼネコン等の建設事業者らが自発的に建築作業従事者の生命,健康を保護することを期待するのは現実的ではなく,被控訴人国の法令による具体的な安全確保に関する規制が強く求められている。
しかるところ,被控訴人国は,①昭和50年改正特化則によって石綿吹付け作業を原則禁止し,②クロシドライトについて優先的に代替措置を執るよう指導し,③改正特化則によって,石綿等の切断,穿孔,研磨等の作業時に石綿等の湿潤化を義務付けるなど,平成15年に石綿建材の製造等を原則禁止するまで,管理使用を前提とする規制を行ってきたが,①は大幅な例外が設けられ,②も事業者に努力義務を課すに止まる一方,クリソタイルであっても少量の曝露で中皮腫が発症し,③石綿建材の施工作業(切断,穿孔,研磨,加工等)において湿潤化することはできないから,石綿建材の施工に係る規制措置は,実質的に防じんマスクの備え付け義務(平成7年以降は使用させる義務)のみであった。
しかし,建築作業現場における石綿粉じん濃度は屋内作業と比較して低いわけではなく,建築作業現場においても屋内作業場と同様に十分な作業環境管理対策を講じない限り石綿関連疾患の発生を防ぎ得ないことは明らかである。また,防じんマスクは,そもそも粉じん対策の補充的・応急的措置にすぎず作業環境管理対策の代替措置としてはならないことは被控訴人国も十分認識していたところ,その着用はほとんど実施されていなかった。昭和50年代には,石綿は合理的な理由のある場合を除きできる限り使用しないことが要請されていた一方,石綿に関する知見がより一層集積し,集じん機付き電動工具等,粉じん発生を防止する各種工具等の技術的・工学的基盤が備わってきていたから,被控訴人国に対しては更なる厳格な規制が要請されていたのであって,昭和50年以降(特に,専門家会議報告書が労働基準局長に提出された昭和53年,ILO石綿条約が採択された翌年の昭和62年)も,被控訴人国の規制権限不行使が著しく不合理であったことは明らかである。
被控訴人国の規制権限不行使の具体的違法事由は次のとおり。
作業環境管理にかかる措置の不実施
a
個人サンプラーを利用した定期的粉じん濃度測定及び評価の義務
付け
原判決133頁21行目の「昭和42年」を「昭和43年」に改め,次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節第
あるから,これを引用する。
そして,被控訴人国は,昭和46年には,石綿の発がん性を認識して旧特化則において石綿を第二類物質と位置付けており,どれだけ遅くとも昭和50年には,建築現場における石綿による健康障害発生の危険を認識していた。したがって,被控訴人国は,①昭和46年には,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建築現場について個人サンプラーを使用した定期的粉じん濃度測定とその評価を事業者に義務付けるべきであり,②昭和50年の特化則の改正時,昭和53年の専門家会議報告書の提出時,ILO条約締結の翌年の昭和62年には,安衛法65条,安衛令21条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建築現場を,粉じん測定を実施すべき作業場に指定するとともに,昭和52年にNIOSH(米国国立労働安全衛生研究所)が作成した職業的曝露サンプリング法マニュアルを参考に「作業環境測定基準」(昭和51年労働省告示第46号)を改訂し,建築作業現場等屋外作業場において個人サンプラーによる作業環境測定方法を定めるべきであったのに,これらの措置をしなかった。このような被控訴人国の政省令制定権限の不行使は,著しく不合理であって違法である。
b
石綿吹付け作業の全面禁止
次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節
であるから,これを引用する。
被控訴人国が昭和50年改正特化則において石綿吹付け作業を
原則として禁止した趣旨は,石綿吹付け材の飛散性が著しいことから,吹付け作業に従事する労働者が大量かつ高濃度の石綿粉じんに曝露するだけでなく,吹付け作業の周辺で作業する労働者,後続作業に携わる労働者,さらに周辺住民が石綿粉じんに曝露することにより肺がん,中皮腫を発生する危険があるため,これを未然に防止する必要があったからである。


そして,昭和50年の時点においては,石綿代替の吹付け材とし
てロックウールが存在し,実際に使用されていたから,石綿吹付け作業を全面禁止することに何ら障害はなかった。



しかるに,被控訴人国は,昭和50年改正特化則において,石綿
吹付け作業の禁止措置の対象から建築物の鉄骨等への吹付け作業
及び石綿含有量が重量比5%以下の吹付け作業を除外し,その結
果,建築現場ではその後も,重量比5%超の石綿を含有するロックウールの吹付けが行われることがあったほか,5%以下の石綿吹付け材が広く普及して,石綿吹付け作業が行われ,建築作業従事者はこれによって発生飛散する石綿粉じんに曝露することとなったも
のである。


以上によれば,特化側が改正された昭和50年以降の各時点,ど
んなに遅くとも専門家会議報告書が提出された昭和53年,あるいはILO石綿条約締結の翌年である昭和62年において,被控訴人国が,石綿吹付け作業の全面禁止措置をとることなく,吹付け作業の禁止対象から,鉄骨等への石綿吹付け作業及び石綿含有量が5%以下の石綿吹付け作業を除外したのは,著しく不合理であり,かかる規制権限の不行使は違法である。

c
集じん機付き電動工具の使用の義務付け
原判決145頁15行目冒頭から同頁17行目末尾までを「集じん機付き電動工具は,海外では1930年代初頭には開発され相当程度普及し,日本国内でも昭和40年代に製造・販売されていた。」に改め,次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3
りであるから,これを引用する。
建築現場の周囲は養生シート等により密閉されており,電動工具
による加工作業では手工具による加工作業とは比較にならないく
らい大量の石綿粉じんを発生させるところ,電動工具の昭和40年以降の急速な普及により,電動工具による石綿建材の加工作業は,石綿吹付け作業と並ぶ二大発じん源と位置づけられ,労働安全衛生上の規制措置が強く求められる状況となっていた。


電動工具に集じん装置を装着することにより,石綿建材の加工作
業時に発生・飛散する石綿粉じんを少なくとも産業衛生学会の提唱する許容濃度(2本/㎤)未満に抑える可能性があることは実験結果等からも明らかであった。また,集じん装置の有効性を検証する指標としては,
粉じんの吸引能力
(吸い込み仕事率)
と捕集能力
(フ
ィルターによる集じん能力)があるが,これらは遅くとも昭和49年当時の国内電動工具メーカーのパンフレットに掲載されたデー
タやフィルターの普及状況からすれば,昭和50年頃の電動工具及び集じん装置であれば,十分に効果を発揮することができるだけの技術的・工学的基盤があったのであり,現に,昭和51年時点では,石綿建材の加工時に発生する石綿粉じん曝露防止対策として,集じん装置付き電動工具が使用されていた(甲A578)。


他方で,被控訴人国が指摘する二次発じんや身体切断の危険性
は,抽象的な可能性の範囲に止まり,使用時の注意事項を啓蒙することにより対処することが可能であり,これをもって集じん装置付電動工具の使用義務付けの規制を行わないことの理由とはならな
いものである。



以上によれば,被控訴人国は,旧労基法42条,43条及び45
条(昭和47年以降は安衛法22条,23条,27条1項)に基づく省令制定権限を行使して,昭和46年以降のできるだけ早い時期に,特に昭和50年の特化則の改正時,昭和53年の専門家会議報告書の提出時,ILO条約締結の翌年の昭和62年,どんなに遅くとも厚労省が集じん装置付き電動工具の使用を奨励する通達を発
出した平成4年までに,石綿含有建材を取り扱う建築現場におい
て,電動工具(少なくとも電動丸鋸又は電動サンダー)を用いた石綿含有建材(主に板状のもの)の加工作業について集じん機付き電動工具を使用することを事業者に義務付けるべきであったのに,これを怠った違法があることは明らかである。

d
移動式局所排気装置の設置等の義務付け及び全体換気についての
措置
原判決153頁14・15行目の「じん肺法が制定された昭和35年」を「旧特化則が制定された昭和46年」に改めるほか,原判決の
頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
e
プレカット工法の義務付け
原判決149頁15・16行目の「じん肺法が制定された昭和35年」を「旧特化則が制定された昭和46年」に改めるほか,原判決の
頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
f
吹付け石綿の剥離・除去等に関する規制権限不行使の違法
吹付け石綿の剥離作業は,吹付け作業と同様,大量の石綿粉じん
に曝露するものであり,石綿の吹付け材は,建造物の改修・解体時や吹付け石綿の損傷・劣化時に,高濃度・大量の石綿粉じんが発生する。そのため,石綿の吹付け時に曝露防止措置を講じていても,吹付け石綿の剥離時や建物の改修・解体時,吹付け石綿の損傷・劣化時に同様の曝露防止措置を講じなければ,吹付け石綿から生じる粉じんによって建設作業従事者に健康被害が生じることを防ぐこ
とはできない。被控訴人国は,昭和40年には石綿吹付けが多用されるようになり,これらのことを十分に予見し得た。また,以下の規制措置を実施する技術的知見は昭和40年当時において確立し
ていた。
したがって,被控訴人国は,旧特化則を制定した昭和46年の時
点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づく省令制定権限を行使して,①吹付け石綿の剥離作業について,昭和50年改正特化則38条の7で石綿吹付け作業を許容する場合の条件とした,送気マスク又は空気呼吸器及び保護衣の使用を事業者に義務付け,②建築物の改修・解体作業について,石綿等の使用状況の事前調査及び記録,作業計画の定め,所轄労働基準監督署長への届出,作業場所の隔離,他の労働者の立入禁止,発注者から請負人に対する石綿使用状況の通知,屋内作業場における粉じん発散源を密閉する設備・局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の設置,湿潤化,呼吸用保護具・保護衣の使用,作業主任者の選任,特別教育の実施(石綿則3条~8条,12条~14条,19条,20条,27条)等を事業者に義務付け,③吹付け石綿が損傷・劣化した場合に,石綿等の除去,封じ込め,囲い込み等の措置を事業者又は建物貸与者に義務付ける(同10条)べきであった。


昭和50年改正特化則で石綿の吹付け作業が原則禁止されたの
は,吹付け作業に従事する労働者,周辺で作業する労働者,後続作業をする労働者,さらには周辺住民の生命・健康に対する高度の危険性があり,被控訴人国も特別な対策を講じる必要があることを十分認識していたからであるところ,吹付け石綿の危険性は剥離作業時等にも同様に認められるから,被控訴人国はそれらの場合にも特別な対策を講じる必要があることを十分認識していた。したがっ
て,被控訴人国は,昭和50年,昭和53年,昭和62年の各時点以降,安衛法22条,23条,27条1項に基づく省令制定権限を行使して,前記



の規制措置を講ずるべきであった。

以上にもかかわらず,被控訴人国が平成17年に石綿則で規制を
行うまで十分な規制を講じなかったのは,著しく不合理であって違法である。

作業管理にかかる措置の不実施
a
石綿吹付け作業でのエアラインマスクの全面的使用義務付け
原判決155頁19・20行目の「昭和40年」を「旧特化則を制定した昭和46年」と,同156頁2・3行目の「あるのであるから」を「あるところ,吹付け作業中,作業環境の粉じん濃度は極めて高い値となり,しかも,当時の吹付け材にはクロシドライトが多く用いられていたのであるから」とそれぞれ改め,同156頁8行目の「しかるに,」の次に「昭和46年,昭和50年,昭和53年及び昭和62年の各時点以降,」を加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2~156頁)に記載のとお
りであるから,これを引用する。
b
適切な防じんマスクの使用義務付け
建築作業は一時的であり,また発じん源が固定ないし一定せず,さらに,
作業内容も多様で作業場所も移動し,
かつ同時並行作業もある。
そのため,工場のように発じん源や作業場所が一定しており,局所排気装置という抜本的かつ第一時的な防じん対策が存在する作業とは全く異なる。そのため,建築現場においては,防じんマスクによる粉じん対策が,石綿粉じん曝露を防止するために有効かつ重要な方策として位置づけられる。しかも,既に述べたとおり被控訴人国が実施した建築現場における石綿粉じん曝露防止措置に実効性がなかったこと及び微量曝露によっても肺がん,中皮腫等の重篤な疾病を発症させる石綿の特質を考慮すれば,建築現場においては,防じんマスクを着用させることが必要不可欠である。しかも,防じんマスクには通気抵抗や重量,視野障害という着用を阻害する要因が存在するとともに,作業効率の低下を招く可能性も高い。しかも,建築作業従事者は,自分の取り扱う建材に石綿が含有されていることすら認識せず,また,石綿の危険性等について十分な教育や情報提供を受けていないことから,防じんマスクの着用の必要性について認識していなかった。その結果,自主的,自発的な防じんマスクの着用を期待することは困難であり,建設作業現場において事業者により建設作業従事者に対する防じんマスクの着用指示も十分に行われなかったことから,建設作業現場においては,ほとんどの作業員が防じんマスクを着用せずに作業に従事していた。
したがって,防じんマスクの着用を作業者に義務付けるだけでは不十分であって,①労働者が石綿建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業をする際には事業者が責任をもって作業者に呼吸用保護具を着用させるよう罰則を伴って義務付けるとともに,②石綿含有建材への警告表示や作業現場への掲示の内容として,石綿粉じんが肺がんや中皮腫などの重篤な疾患を生じさせるものであることを明示した上で,石綿粉じんを発散させる作業を行う際には必ず防じんマスクを着用するよう明示することを義務付け,③安全衛生教育の内容として,石綿粉じん曝露による肺がんや中皮腫の危険性を盛り込んで,作業者に石綿粉じんの危険性と防じんマスクの着用の必要性を周知徹底させることが必要であった。被控訴人国が,旧特化則を制定した昭和46年,特化則を改正した昭和50年,専門家会議報告書が提出された昭和53年,ILO石綿条約締結後の昭和62年の各時点以降,旧労基法42条,43条,45条(昭和47年以降は安衛法22条,23条,27条1項)に基づく規制権限を行使して,このような規制措置を講じなかったことは,著しく不合理であって違法である。
健康等管理にかかる措置の不実施
a
建材メーカー等に対する警告表示の全面的義務付け
原判決を次のとおり補正し,後記⒝,⒞のとおり加えるほか,原
判決の「事実
~130頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決128頁16行目の冒頭から同頁23行目の末尾まで
被控訴人国は,発がん性があり「微量で有害」な作用を
もたらす石綿の危険性に着目し,石綿を「第二類物質」に指定し
た昭和46年の旧特化則制定時点以降において,石綿含有建材の
有害性等の表示を義務付けるべきであった。」と改める。

め,同130頁7行目の「かえって,」の次に「肺がん等の生命
の危険を伴う重篤な疾患の危険はない,」を加え,同130頁1
0行目の「できない。」を「できず,遅くとも昭和53年以降,
どんなに遅くとも昭和62年以降,上記通達の改正を怠ったこと
は違法である。」と改める。


電動工具による石綿粉じんの大量発生,吹付け作業における石綿
の使用継続,石綿輸入量の増大を前提とすると,含有量5%以下の石綿建材であっても建設作業従事者が大量に曝露するおそれが高
いことは明らかであるから,内閣及び労働大臣が,昭和50年の安衛令,安衛則,特化則の改正に当たり,石綿の含有量が重量の5%以下の製剤等を,安衛法57条に基づく表示義務の対象及び特化則上の特別管理物質から除外したのは違法である。また,昭和53年の時点においては含有量3~4%の建材が大量に製造・販売されるようになり,昭和62年の各時点においては以前に増して含有量
5%を下回る建材が大量に製造・販売されていたから,
昭和53年,
昭和62年における規制権限の不行使も違法である。
被控訴人国は,石綿の含有量が重量の5%以下の製剤等を除外し
た理由として,石綿含有率が5%以下の建材からの発じん量は5%超の建材のそれと比べて相対的に少ないこと,事業者による石綿含有量の測定が困難であることを主張する。しかし,石綿が警告表示等の対象とされたのは発がん性を有するためであるところ,石綿の発がん性については閾値がなく,石綿含有率5%以下の建材から発生する石綿粉じんへの曝露による発がんの危険は全く同じである。他方,石綿含有率5%以下の建材を警告表示等の対象にしたとしても,製品生産者の経済活動を抑制することにはならないのみなら
ず,製品の信頼性を高め商品価値を向上させるという利点すらあ
る。また,製品の製造者は,計画的に各種の材料を一定割合で混合させて石綿建材を製造するのであるから,原材料を重量比で算定することが可能である。したがって,石綿含有率5%以下の建材を警告表示等の対象から除外することについて,合理的理由はない。むしろ,石綿含有率が5%以下であれば健康上問題はないとの誤った認識を植え付けるとともに,発がん性の高い石綿が含まれていることが建設現場の事業者や作業員に知らされず,被害を拡大させる原因にすらなる。


安衛法57条によれば,容器又は包装によって有害物を譲渡する
場合,容器又は包装自体に個別的警告表示をすべきであり(1項),警告表示を記載した文書の交付(2項)によって代えることは許されないにもかかわらず,石綿スレート協会は,業界全体として,文書の交付で足りるという脱法行為を行っていた。被控訴人国は,石綿スレート協会の内部文書(乙アA201)を所持して上記脱法行為を把握しながらこれを容認しており,昭和53年以降あるいは昭和62年以降,違法に監督権限の行使を怠った。

b
建築作業場における石綿取扱上の注意事項等の掲示の全面的義務
付け
原判決を次のとおり補正し,前記a⒝,⒞のとおり加えるほか,原判決の「事実
143頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決141頁25行目冒頭から同142頁14行目末尾まで
被控訴人国は,発がん性があり「微量で有害」な作用をも
たらす石綿の危険性に着目し,石綿を「第二類物質」に指定した昭和46年の旧特化則制定時点以降において,旧労基法42条,43条,45条に基づき,石綿建材を取り扱う建築現場において建築作業従事者に石綿粉じん曝露の危険性及び防じんマスクの着用を始
めとする石綿粉じん曝露防止対策の必要性・重要性を認識することができるよう,事業者に対して警告措置を義務付けるべきであっ
た。」と改める。


42頁24行目の「労働大臣は,」の次に,「昭和50年,昭和53年,昭和62年の各時点以降,」を加える。
c
石綿関連疾患についての特別教育実施の義務付け
次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3
ら,これを引用する。
原判決158頁18行目の末尾の次に改行の上,「安衛法59条
3項の趣旨は,労働安全衛生措置の中には作業効率を低下させるものがあり,職業病は長期間の経過後に発症する場合が少なくなく,労働者が作業の危険性及び職業病の防止措置の重要性を十分理解
しない限り実施されない可能性が高いことから,特に有害で職業病発症の可能性が高い作業について,
作業員に当該疾病の原因,
症状,
予防方法,罹患に対する補償制度等を分かりやすく説明して予防対策の重要性を認識させる内容の教育を,
繰り返し行うことにある。

を加える。


同159頁5行目の「っとも,」の次に「上記教育は,記録の保
存義務がなく,懲役を含む刑罰によってその実施が強制されるものでもないから,法定の特別教育の必要性は否定されず,」を加える。


同159頁6行目の末尾の次に改行の上「昭和47年にはボイラ
ー及び圧力容器安全規則,
クレーン等安全規則,
ゴンドラ安全規則,
高気圧作業安全衛生規則,酸素欠乏症等防止規則,四アルキル鉛中毒予防規則に,昭和50年には電離放射線障害防止規則に,昭和54年には粉じん障害防止規則に,それぞれ特別教育を義務付ける規定が定められたが,これらの作業と比較して,石綿粉じんに曝露する作業の「危険又は有害」の程度が低いことはあり得ない。」を加える。



同159頁10行目の
「じん肺法が制定された昭和35年」「昭

和46年」と,同159頁16行目の「同年」を「昭和50年,昭和53年,昭和62年の各時点」とそれぞれ改める。


石綿含有建材の製造等の禁止措置に関する規制権限不行使の違法性次のとおり加えるほか,原判決118頁5行目の冒頭から同120頁6行目の末尾まで,同120頁10行目の冒頭から同122頁24行目の末尾までにそれぞれ記載のとおりであるから,これを引用する。
安衛法55条の趣旨・目的は,戦前の黄燐燐寸製造禁止法を吸収した旧労基法48条の規定を引き継ぎ,新たな化学物質による職業性疾病,特に職業がんへの対応を図り,作業過程において有害物に曝露することにより健康障害が生じることを防止するため,製造又は取扱いの過程において労働者に重度の健康障害を生ずる物質で,しかも現在の技術をもってしては,それによる健康障害を防止する十分な防護方法がない有害物について製造等を禁止することにある。かかる安衛法55条の趣旨・目的に鑑みれば,①石綿建材が建築作業従事者に重度の健康障害を生じる物質で,②現在の技術をもって,建築現場における石綿関連疾患の発症,特に少量の曝露でも発症する危険性のある中皮腫を防止する十分な防護方法がない,つまり,石綿建材の厳格な管理使用が著しく困難ないし不可能であれば,石綿建材の製造等を禁止することが求められる。安衛法55条に基づく対象物質指定の要否を判断するにあたっては,上記①及び②の認識ないし認識可能性の外に,石綿建材の代替可能性なども一定考慮する必要はあり得るが,保護法益は建築作業従事者の生命・身体及び健康というかけがえのないものであり,上記①及び②以外の要素を殊更に重視して,規制の要否や程度,時期を決することは,労働者の生命,身体に対する危害を防止し,その健康を確保するために適時かつ適切な規制権限の行使を求める安衛法の趣旨・目的から逸脱するものとして許されない。
我が国における石綿の使用量は,昭和50年以降も減少しておらず,1980年代後半に第2のピークを迎えた。建設現場では,1960年代以降,石綿使用量,石綿建材の使用量,建築作業従事者数が確実に増加していた上,電動工具の急速な普及によって,建築作業従事者が高濃度の石綿粉じんに曝露する危険が急速に増加していた。石綿が少量の曝露であっても肺がん,中皮腫を発症する危険があり,その点でクリソタイルをクロシドライト等と別異に扱う理由はなく,昭和61年に採択されたILO石綿条約のほか,平成元年のWHO報告書でも,クリソタイルについても管理使用は不可能又は困難であるとの考え方がとられていた。
昭和46年に制定された旧特化則では,石綿は,少量の曝露でも人体に有害な作用を及ぼすことを前提に第二類物質とされ,微量の曝露であっても許容しないという厳しい規制措置(以下,このような厳しい規制措置を「厳格な管理使用」という。)を講じなくてはならない段階に入っていたが,建設現場では,重層下請構造等,建築業や建築作業の特殊性から,「厳格な管理使用」を徹底することが著しく困難な状況にあった。昭和50年改正特化則による規制は,建設現場における石綿粉じん対策には「厳格な管理使用」の下において初めて石綿建材の使用が容認されるという視点が完全に欠落していた。被控訴人国が建設現場を念頭に置いた石綿粉じんへの曝露防止策を講じるのは,昭和61年9月6日に発出された「建築物の解体又は改修の工事における労働者の石綿粉じんへのばく露防止等について」(同年基発第34号)以降のことでしかなく,その後も通達による指導の指示に止まるものでしかなかった。1970年代初頭においては,石綿を使用しない建材の開発が技術的に可能となっており,石綿建材の代替化の土壌が十分に形成されていたから,石綿建材の製造禁止措置を講ずることが強く求められていた。仮にその時点で代替建材の普及の程度が現実に利用可能な程度にまで達していないというのであれば,最長でも3年の猶予期間を設けて石綿建材の製造等を禁止する措置を講じ,猶予期間内に石綿建材を代替化させる措置を執ることが求められていた。代替建材に発がん性の疑いがあるとの理由で石綿建材の使用を継続することは,安衛法の趣旨・目的に完全に反する。
昭和62年の時点で,石綿の代替化は進んでおらず,建設現場では,防じんマスクの着用等の石綿粉じんへの曝露防止対策も不十分で,建設作業従事者が健康被害を受ける危険性が極めて高い状態にあった。当時,北欧諸国等に全ての種類の石綿の禁止措置を執る国が出ており,1980年代後半には,我が国でも石綿の使用継続の正当性は失われていた。
さらに,欧米諸国では,濃度規制を中心とする石綿粉じん規制の抜本的強化により1980年代に大幅に石綿消費量を減少させ,1990年代前半までに相次いでクリソタイルの使用禁止措置を導入した。石綿建材の代替化は,平成元年頃には技術的には完成し,平成3年時点では,既に多くの石綿建材が無石綿化され,全面的代替化に向けた障害は主に価格面に限られていた。そして,管理使用を前提とした国の石綿粉じん曝露防止策は失敗であった。
以上によれば,昭和50年,専門家会議報告書が提出された昭和53年,ILO石綿条約が採択された翌年である昭和62年の各時点以降において,被控訴人国が安衛法55条に基づき安衛令16条1項を改正し石綿含有建材について製造等を禁止する措置を講じなかったことは違法となる。仮に,昭和62年の時点において,代替建材の普及の程度が現実に利用可能な程度に達していないというのであれば,最長でも3年程度の猶予期間を設けて上記措置を講じるべきであったにもかかわらず,これを怠ったことは違法である。また,どれだけ遅くとも,平成7年時点において,クロシドライト及びアモサイトとともに,クリソタイルを含有する建材についても製造等を禁止すべきであったにもかかわらず,かかる措置を怠ったことは違法である。
一人親方及び個人事業主は労働関係法令に基づく規制権限不行使による違法を理由に国賠法上の救済を求めうるか
原判決115頁19行目及び同116頁4頁の「旧労基法及び安衛法」をそれぞれ「安衛法55条,57条」に改め,次のとおり加えるほか,原判決115頁13行目の冒頭から同117頁15行目の末尾まで,同128頁3行目の冒頭から同128頁5行目の末尾までに記載のとおりであるから,これを引用する。

以下のとおり,旧労基法及び安衛法の趣旨・目的及び規定ぶりに照らせば,これらの法律による規制の保護対象は,事業主に雇用された労働者に限らないというべきである。
旧労基法は,「工場ないし設備」から生じる工場内外の危害を防止することを目的とした工場法を前身としており,旧労基法42条に「労働者」との文言はなかった。労基法から派生した安衛法も,1条において職場における労働者の安全と健康を確保するという目的のほかに,「快適な作業環境の形成を促進すること」を目的として制定され,その後,平成4年の改正によって,その目的は,「快適な職場環境の形成」へと改正された。この改正は職場の安全衛生水準の向上のためには作業環境のみならず,その従事する作業や職場で使用する施設・設備等を含めて職場環境全体を快適なものとしていく必要があるとして,より広く高次の概念として「快適な職場環境の形成」と改正したものであり,それによって保護される者は必ずしも労働者に限らず,労働者に準じて,労働者と同様に職場での作業に従事する者の保護をも予定しているといえる。
安衛法3条2項は,原材料の製造者等がその使用過程(作業過程)における災害の防止に努める責務を負う旨を定めて,広く機械の危険や原材料の有害性から,これらを利用する作業従事者の安全を確保しようとしており,また,20条以下の「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」に関する規定を受けて,具体的規制内容を省令に委ねる27条2項は,省令制定に際して配慮すべき事項として,「厚生労働省令を定めるに当たつては,公害…その他一般公衆の災害で,労働災害と密接に関連するものの防止に関する法令の趣旨に反しないように配慮しなければならない。」と規定し,安衛法が全体として労働災害と密接に関連する災害防止の趣旨をもその目的に含むことを示している。
安衛法31条は,請負人が労働者を使用する場合には,請負人に建築物について管理権がないため,事業者である請負人ではなく注文者に建物の使用過程(作業過程)における災害の防止に必要な措置を講ずる義務を負わせる旨を定めている。
さらに,安衛法55条は重度の健康障害を生じる物の製造等の禁止を,同法57条は健康障害を生じるおそれのある物の譲渡等に際しての表示義務を,それぞれ定めているが,その名宛人は,事業者に限らず,また,その趣旨は,これらの物を取り扱う作業過程から生じる危険を防止することにあることからすると,労働者に限らず,作業従事者を広く保護する規定であると解される。
我が国の建設業において,一人親方等は,重層下請構造の末端に位置付けられた必要不可欠な「労働力」であって,職務上,建築現場に滞在して建築作業に従事する必要があることにおいて,労働者と変わりはなく,就労形態の差異に基づいて石綿被害の救済に差異をもたらすことは実情に合致しない。労働関係法令に基づき作業環境の改善措置が行われていれば,同一の作業環境で働いていた一人親方等も石綿粉じん曝露を免れたことは明らかであり,建築現場の作業環境を改善することができるのは元請業者等に他ならず,
被控訴人国は,
一人親方等との関係でも,
省令制定などの改善措置を実施する義務を負っているというべきである。
したがって,安衛法に基づく規制権限の不行使を理由とする国賠法1条1項に基づく損害賠償によって保護される範囲は,労基法上の労働者に限られず,「職務上,石綿を扱う建築作業現場に一定期間滞在することが必要であることにより建築現場の粉じん被害を受ける可能性のある者」であり,一人親方,自ら建築作業に従事する個人事業主及びその法人化後の代表者(他人の雇用の有無を問わない。)もこれに含まれる。イ
仮に,安衛法第4章は保護対象として労基法上の労働者を想定しているとしても,同法第5章の保護対象となる労働者は,これよりも緩やかな基準によって判断されるべきである。
すなわち,労基法,安衛法,労働契約法の適用に当たって,適用対象となる労働者は各法の趣旨・目的に照らして解釈されるべきであり,労働者性の判断基準は同一である必要はなく,安衛法という単一の法律においても,個々の条文の趣旨・目的,規制手段の違いを踏まえて相対的に解釈することが許されるというべきである。すなわち,安衛法第4章は,労働者を雇用する事業者に対して一定の安全対策措置を義務付けるため,個々の事業者との関係で使用従属関係がなければならないから,個々の事業者と作業従事者との間の使用従属関係の個別立証が必要となる。これに対して,安衛法第5章は,作業過程における有害危険物の使用から,その労働環境のもとで働く者の生命・健康を保護するため,
個々の事業者ではなく,
健康に危険有害な物を製造,譲渡,提供等する者に対して,製造等禁止や警告表示を義務付けるものであるから,個々の事業者との関係で個別的な使用従属関係が厳格に立証される必要はなく,作業過程において労働者と同様に類型的・概括的に使用従属関係にあること,いわば広い意味で使用従属関係があれば足りると解すべきである。その判断においては,労働過程の中で労働者と同様な作業環境で労働に従事することが避けられない立場にあるか否かが重要であり,具体的には,①契約の一方的決定性(契約内容が元請や事業者に一方的に決定されているか),②指揮監督性(広い意味での労務指揮監督性,時間的・場所的拘束性の有無及び程度)によるべきである。
このような観点から,一人親方である控訴人番号1,被災者控訴人番号2,被災者控訴人番号4,被災者控訴人番号6,被災者控訴人番号10,被災者控訴人番号11,被災者控訴人番号17,被災者控訴人番号19,被災者控訴人番号21,被災者控訴人番号22,控訴人番号23,被災者控訴人番号24,被災者控訴人番号26,被災者控訴人番号27,被災者控訴人番号30,控訴人番号31,被災者控訴人番号32,被災者控訴人番号34,被災者控訴人番号36,被災者控訴人番号39,被災者控訴人番号45,被災者控訴人番号50,被災者控訴人番号52,被災者控訴人番号53,控訴人番号57,被災者控訴人番号58,被災者控訴人番号60,控訴人番号62,被災者控訴人番号65,被災者控訴人番号66,被災者控訴人番号69,控訴人番号70,被災者控訴人番号73,被災者控訴人番号75は,安衛法第5章の労働者に該当する。

仮に,安衛法第4章及び第5章も含めて保護対象が労基法上の労働者に限られるとしても,個々の控訴人の労働者性の当てはめについては,以下のように考えるべきである。
すなわち,元請ないし下請業者との間で請負などの役務提供契約を締結して,労働者を使用せず自ら建設作業に従事している者は,事業主と雇用契約を締結していないという法形式のみによって,労働者性を否定されるべきではなく,事業主との間で使用従属関係が認められる場合には,安衛法上の労働者に当たるというべきである。そして,この使用従属関係は,一人親方が元請ないし下請業者との関係で,指揮監督の下に労務を提供していたものか否か(職務中の指揮監督の有無)及び報酬が労務の対価として支払われたものか否か(報酬の労務対償性の有無)によって判断されるべきである。より具体的には,指揮監督下の労働であるか否かは,仕事の依頼や業務に従事すべき旨の指示に対する諾否の自由の有無,業務遂行上の指揮監督の有無,代替性の有無を要素とし,報酬の対償性については,時間給,日給,月給等の時間を単位とする場合は労務対償性を認められるが,出来高で計算する場合であっても労務対償性は否定されないと解すべきである。
このような観点から,一人親方である被災者控訴人番号4,被災者控訴人番号17,被災者控訴人番号19,被災者控訴人番号21,被災者控訴人番号22,被災者控訴人番号24,被災者控訴人番号26,控訴人番号28,被災者控訴人番号30,控訴人番号31,被災者控訴人番号32,控訴人番号33,控訴人番号35,被災者控訴人番号39,被災者控訴人番号40,被災者控訴人番号42,被災者控訴人番号46,被災者控訴人番号47,被災者控訴人番号52,被災者控訴人番号55,被災者控訴人番号66,控訴人番号70は,いずれも安衛法で保護対象となっている労働者に該当する。
一人親方及び個人事業主について改正労災保険法34条に基づく規制権限不行使の違法性の有無
昭和40年の改正労災保険法(法律第130号労働者災害補償保険法の一部を改正する法律)において,従前より行政上の取扱いで行っていた一人親方・個人事業主に関する特別加入制度が法律化された。しかるところ,平成19年に改正された労災保険法(平成19年法律第30号)の1条は「労働者災害補償保険は,…必要な保険給付を行い,あわせて,…労働者の安全及び衛生の確保等を図り,もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする」としており,業務災害等に対する保険給付の実現のみならず,労働安全衛生の確保もその趣旨・目的としている。そして,昭和40年の改正労災保険法34条の14は,特別加入者である一人親方及び個人事業主の「保険給付に関し必要な事項は,労働省令で定める」とせず,あえて「業務災害に関し必要な事項は,労働省令で定める」と規定していることからすると,同規定は,一人親方や個人事業主が業務を遂行するにあたり,適時適切に省令制定を行うことでその安全衛生を確保して業務災害を防止し,一人親方や個人事業主の生命・健康を保護することを求める趣旨であったと解すべきである。
したがって,被控訴人国は,一人親方等の生命・健康の保護をも目的とする労災保険法の趣旨,目的から,労災保険法34条の14を柔軟に解釈してその規制権限を行使し,建設現場において建設作業に従事する一人親方等に対し,呼吸用保護具の着用,集じん機付き電動工具の使用,石綿の固有の危険性等を自ら学習することをそれぞれ罰則付きで義務付け,また,建設現場の元方責任者には,上記各義務を履行しない一人親方等を就労させてはならないことを義務付けるべきであった。
2
被控訴人国の主張
規制権限不行使の国賠法上の違法性の判断基準と考慮要素
規制権限の不行使の違法性の有無は,権限不行使が問題とされる当時の具体的事情に基づき,当該不作為が当・不当の判断を超えて著しく合理性を欠き,裁量権の逸脱又は濫用といえるか否かにより判断されるべきである(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁(宅建業法事件最判),最高裁平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁(クロロキン事件最判))。筑豊じん肺訴訟最判,泉南2陣最判もこれを踏襲している。控訴人らの指摘する「適時にかつ適切に行使されるべき」
との判文は,
筑豊じん肺訴訟最判及び泉南2陣最判のように,
国民の生命,身体,健康等を目的とする法令の規制権限不行使の事案における行政庁の裁量権の行使のあり方等について述べたものではあるが,具体的な違法性判断枠組や判断基準を示したものではない。規制権限行使の違法性の有無は種々の考慮要素を総合的に判断して決せられるべきものであり,泉南2陣最判が明示的に挙げた様々な考慮要素も,あくまでも当該事案における違法事由との関連で重要と考えられた要素に過ぎず,石綿製品の製造禁止措置に関してみると,石綿製品の社会的有用性や代替製品の安全性等が当然に規制権限不行使の違法性の有無の判断にあたって重要な考慮要素となる。さらに,同判決は,被害法益の種類・性質のみならず,規制が問題となる時点で判明していた「被害の実情の深刻さ」をも重要な考慮要素としている。また,労働者の安全に配慮し,その危害を防止する責任が第一次的には事業者に存すること,規制の目的を達するには事業者及び労働者による規制の遵守が必要であり,安衛法等もそのことを前提としていることからすると,規制の不備と規制の不遵守とは明確に区別されるべきであり,国に規制権限不行使の違法が認められるのは,被規制者が既存の規制措置を遵守することが客観的に困難であるとか,規制措置を遵守したとしてもなお被害の発生を防止することができなかったというような事情がある場合に限られるというべきである。
建築現場の石綿粉じん曝露の実態と被控訴人国の健康被害リスクの認識ア
建築現場は,基本的には屋外作業であるところ,たとえメッシュで作られた養生シート等で囲まれた場合であっても,屋内のように密閉された空間となるわけではない。また,養生シートを通した空気の流れによって石綿粉じんの大気への拡散・希釈が行われる。さらに,完成前の建物内部においても開放部から十分な換気が行われやすく,建物完成直前の段階で作業する業種,期間はそれほど多くない。しかも,石綿含有建材は加工しない限り通常そこから石綿粉じんが発生することはなく,1日の作業時間中,建材の加工に充てられる時間は限られている。また,工事工程はそれぞれ独立した期間で行われるのが通常であり,粉じんが浮遊しない方法で清掃が行われていた。したがって,建設労働者の石綿粉じんへの曝露は,間欠的かつ短時間に比較的高濃度に至ることはあっても,平均曝露濃度として換算すれば相当に低く,許容濃度以下に抑制されることが多く,さらに,屋外作業である屋根工,鳶,左官工については,一時的かつ間欠的な石綿粉じんへの高濃度曝露があったとは通常考えられない。
吹付け石綿については,昭和50年の特化則改正で石綿吹付けが原則として禁止されたことにより,使用されなくなり,電動工具の使用についても,屋外で行われることも多く,また,石綿含有建材は予め工場等で切断され,現場で切断される頻度は多くなく,加工作業は短時間かつ間欠的に行われているにすぎず,
石綿含有量も少ないことから,
建築現場において,
高濃度の石綿粉じん曝露が生じていたとはいえない。

政府検証(甲A67の2)によれば,建築労働者に限らず,我が国の中皮腫の労災認定件数は昭和61年当時9名,平成7年当時ですら13名にとどまり,さらに甲A第109号証によると,平成9年に実施した一般検診の胸部レントゲン写真の読影の結果,調査対象者である建築労働者5688名中,「石綿曝露による胸膜肥厚斑の有所見者率は大工で2.46%に認められるものの,石綿による肺実質の繊維化である蜂窩肺を呈するほどの典型的な石綿肺所見を示す者は,空調・保温工などを除くと少ないのが現状である。」とし,甲A第128号証においても,平成17年から平成18年に実施された同様の調査において,調査対象者である建築労働者6268名中,石綿肺Ⅰ型以上は全体の2.94%に認められるに過ぎない。このような調査結果に照らしても,控訴人らが被控訴人国の規制権限の不行使の違法を主張する時期において,建築労働者の石綿関連疾患への罹患の実情が相当深刻であることが明らかとなっていたとはいえない。控訴人らは,昭和46年1月から3月にかけて,石綿取扱事業場(188事業場)を調査した結果,建設業の労働者の3.5%にじん肺所見が認められたこと(甲A82)を指摘するが,上記調査対象のうち建設業で対象となったのは12事業場のわずか134名に過ぎず,かつ吹付作業が含まれていることから,吹付け以外の建築作業全般についての実態を示すものとはいえない。
被控訴人国の講じてきた石綿粉じん曝露対策の合理性


管理使用を前提とした権限不行使の違法性
本件における管理使用に係る規制権限不行使の違法判断は,粉じん対策全般について総合的になされるべきであり,粉じん対策の一部の措置の義務付けのみを取り出して判断すべきではない。被控訴人国は,石綿の発がん性が昭和47年に医学的に明らかになった以降,昭和50年に特化則を改正し,石綿を特別管理物質に定めた上,石綿を取り扱う作業場における掲示(特化則38条の3),石綿吹付作業の原則禁止,石綿等の切断等における湿潤化(特化則38条の8)といった規定を設け,その上で,昭和51年通達を発出して,建設業における石綿作業の実態を把握するとともに,防じんマスク等の対策を講じるよう指示しており,昭和61年には解体等の作業における対策について,更に昭和63年には石綿含有建材の加工時における対策について,それぞれ通達を発出するなどし,加えて,昭和54年には粉じん則を制定し,建設業を含め,作業の面における粉じん曝露防止対策を更に手当てした。被控訴人国は,石綿関連作業に従事する労働者の健康を保護するために,それぞれの時点における知見を踏まえ,事業者等に対し,労働関係法令に基づく規制を適切に行ってきた。そもそも,屋外作業一般についてみれば,屋内作業に比べて石綿粉じん濃度が格段に低い上,通常湿潤化ができないという状況は認められない。また,呼吸用保護具が有害物質からの曝露防止に有効な手段の一つであることは明らかである。
昭和61年のILO石綿条約は全ての石綿についての使用禁止を定めたものではなく,平成初期から平成6年前後であっても,クリソタイルの発がん性のリスクは低く,安全な管理使用が可能であるとの見方が国際的にも有力であった。また,中皮腫発症の危険性の比率は,クリソタイル,アモサイト,クロシドライトについてそれぞれ1:100:500であり,明らかに石綿の種類によって中皮腫発症の危険性は異なるから,まずクロシドライトについて優先的に代替化を進めるなどして使用実態をなくすという対応が著しく合理性を欠くとはいえない。
産業構造や災害発生率の点で,建設業は他業種とそれほど差異はなく,重層下請構造がみられる建設作業現場においても,統括安全衛生責任者の選任等,安全衛生の管理体制が確保されるよう法令上十分な整備がされている。
控訴人らの主張する具体的違法事由に対する反論は以下のとおり。作業環境管理に係る措置の不実施
a
個人サンプラーを利用した定期的粉じん濃度測定及び評価の義務
付け
次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節
これを引用する。
以上のとおり,屋外作業場を対象とした測定を事業者に義務付ける前提となる知見は現在においても存在せず,個人曝露濃度測定制度を導入しなかったことが著しく合理性を欠くということもできないのであるから,昭和50年時点において屋外作業場における個人曝露濃度測定を義務付ける作為義務が認められるはずはない。また,個人サンプラーを用いた個人曝露濃度測定については,労働者の負担になる面があり,建設作業の持つ危険性に鑑みれば,屋内・屋外にかかわりなく,その導入を義務付けることは労働災害の原因になりかねない一方,曝露防止対策としての合理性も認め難いものである。
b
石綿吹付け作業の全面禁止
原判決141頁14行目の
「石綿」
から同頁16行目末尾までを
「石
綿吹付け作業労働者以外の労働者への対策として,安衛則において呼吸用保護具の備え置き及び使用が,特化則において関係者以外の立入禁止等の措置がそれぞれ義務付けられていた」に改め,次のとおり加
判決140・141頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。昭和50年当時,発がん性物質であれば製造等の禁止を要すると
の考え方は,
国際的にも採られていなかった。
また,
石綿含有量5%
程度の吹付け材であれば,防じんマスクの使用によって曝露濃度を昭和50年代の産業衛生学会の許容濃度である2本/㏄未満とすることは可能であり,石綿含有量が5%を超える吹付け材を対象とする規制に石綿粉じん曝露を防止する効果は十分ある。


昭和50年の特化則改正後,特例による条件付きの吹付け作業を
行うことは相当の経費を要することなどもあって少なくなり,吹付け石綿及び石綿を30%程度含有する吹付けロックウールの製造
は中止され,石綿粉じんの飛散性が高いとされる乾式工法の吹付けロックウールも昭和55年より後は石綿を全く含有しない建材に
代替され,業界団体として石綿含有吹付けロックウールの使用は廃止した。このように,昭和50年の特化則改正以降,石綿吹付け作業による石綿粉じん曝露の機会は急激に減少していた。



昭和50年当時,ロックウールを含めた代替製品の安全性に関す
る知見は確立されていない状況にあった。



以上からすると,昭和50年以降,石綿吹付け作業を全面禁止し
なかったことは,著しく不合理とはいえない。

c
集じん機付き電動工具の使用の義務付け
建築現場においては,昭和46年,昭和50年あるいは平成4年
の時点においても,集じん機付き電動工具の使用を直ちに罰則付で義務付けなければならないような深刻な石綿肺等の罹患の実情が
明らかになっていた事実はなく,被控訴人国がそのような状況を認識し,又は認識し得たということもない。


建築現場において建材を電動工具で切断する作業は,屋外で行わ
れることも多く,通常は石綿粉じんを発散する作業自体は短時間であり,建築現場で取り扱う石綿含有建材に含まれる石綿量も比較的低く,石綿吹付け作業に匹敵するほど石綿粉じん曝露濃度が高い作業とは到底いえない。


集じん機付き電動工具は,使い方を誤れば,二次発じんや身体切
断など重大な災害を起こしかねず,粉じん飛散防止の効果とともにその重量や使い勝手に関する事情が,電動工具の性能を評価する上で重要な考慮要素となり得るところ,控訴人らが権限不行使の違法を主張する各時点で,集じん機付き電動工具の使用を義務付けるに足りる実用的な技術的知見は存在しなかった。



屋外作業を中心とし,作業場所も時々刻々と変化していくという
建築現場の特性やこのような建築現場における集じん機付き電動
工具の実効性の程度,二次発じんや工具の重量化等に伴う弊害,防じんマスクや湿潤化など他の規制などを総合的に勘案するならば,集じん機付き電動工具の使用を罰則をもって一律に義務付けずに,平成4年通達により,作業環境の具体的状況に応じて事業者の適切な判断により集じん機付き電動工具の適切な使用を指導・奨励するに止めたことが著しく合理性を欠いたとはいえない。

d
移動式局所排気装置の設置等の義務付け及び全体換気についての
措置
原判決154頁4行目の末尾の次に「通常の局所排気装置についてさえ,昭和46年の旧特化則制定時においてその基盤が整ったというべきである。」を,同頁5行目の「屋外における作業であるところ,」の次に
「粉じん等を発散する場所が屋外作業場である場合には,
常時,
自然に換気が行われるから,排気設備を別途設ける必要性がそもそも乏しい上,」を,同頁10行目末尾の次に「建築現場全般において効果的に局所排気をなし得る局所排気装置の設置が可能であるとはいえないことからすれば,同装置の使用について通達(昭和63年3月30日付け基発第200号)による指導にとどめた被控訴人国の対応は合理的である。」をそれぞれ加えるほか,原判決の「事実及び理由」
から,これを引用する。
e
プレカット工法の義務付け

9・150頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
f
吹付け石綿の剥離・除去等に関する措置
石綿が発がん性物質であるということから,その管理方法が一義的に決せられるわけではなく,その対策は当時の知見に基づくリスクに応じて判断されるべきものである。被控訴人国は,石綿の発がん性に応じた対策として,昭和50年に特化則を改正し,それ以降も適時・適切に法令を改正している。また,建造物の解体・改修については,昭和61年に「建築物の解体または改修の工事における労働者の石綿粉じんへのばく露防止等について」(同年9月6日付け基安発第34号の2)を発出して,湿潤化や呼吸用保護具の着用以外にも,元方事業者が作業現場の状況を把握することや二次発じんの防止を図ることなど,適切な作業方法を指導することとし,昭和63年には「石綿除去作業,石綿を含有する建設用資材の加工等の作業等における石綿粉じんばく露防止対策の推進について」(同年3月30日付け基発第200号)を発出して,建築物の解体,改修等の工事における石綿等の除去,
封じ込め等の作業等,
個別の作業ごとに具体的な対策を挙げ,
指導を行った。
作業管理にかかる措置の不実施

a
石綿吹付け作業でのエアラインマスクの全面的使用義務付け
被控訴人国は,昭和47年にIARC(国際がん研究機構)によ
り石綿の発がん性が指摘されたことなどを背景として,遅滞なく,昭和49年に「有害物等に関する検討専門家会議」を設け,その検討結果等を踏まえ,昭和50年に安衛令,安衛則及び特化則を改正し,石綿吹付け作業の原則禁止等の措置を執ったのであり,エアラインマスク(送気マスクの一種で,圧縮空気を減圧し,中圧ホースを通じて着用者に送気する形式のマスク)の日本工業規格が制定されたのは昭和49年であることも考慮すれば,昭和47年の時点において吹付け工に送気マスクの着用を義務付けなかったことが著
しく合理性を欠くとは到底いえない。


昭和50年改正特化則において石綿含有量の下限値を5%とし
たのは,実質的には石綿含有物のほとんどを上記規制の対象となし得るものであるという当時における石綿の使用実態や石綿含有率
にかかる分析の精度限界等を踏まえての措置である(平成7年に石綿を1%を超えて含有するものを石綿含有物とするよう改正した
のは,石綿含有量にかかる分析精度の向上に加え,建築材料を中心として含有量が5%以下の製品が生産されるようになり,取扱いの方法によっては労働者が高い濃度の石綿に曝露するおそれもある
ことを踏まえてのものである。)。



昭和50年改正特化則においては石綿含有量が重量の5%を超
える吹付け作業が禁止され,禁止後は石綿吹付け作業がなくなると予想されたから,同改正以降,石綿含有量が重量の5%以下の石綿吹付作業にかかる作業員に対して,送気マスクの使用を義務付けなかったことが著しく合理性を欠くとはいえない。

b
適切な防じんマスクの使用義務付け
被控訴人国は,防じんマスク等の呼吸用保護具について,罰則を
もって,①昭和22年の旧安衛則181条等により,使用者に対し呼吸用保護具を備える等の義務を課し,②同規則185条により,労働者に対し就業中の呼吸用保護具の使用義務を課し,③昭和46年の旧特化則32条等により,使用者に対し石綿等を取り扱う作業場に呼吸用保護具を備えるなどの義務を課し,④同規則28条1項3号により,特定化学物質等作業主任者を選任して保護具の使用状況を監視させる義務を課し,⑤昭和47年の安衛則及び特化則でも,上記①ないし④と同様の規制をしたほか,⑥昭和47年の安衛法等により,事業者に対し労働者を雇い入れたとき等の安全衛生教育の実施義務を課していた。また,昭和35年のじん肺法により,事業者に対しじん肺に関する予防及び健康管理のために必要な教
育を実施する義務も課していたのであって,上記の各義務を通じ
て,労働者の防じんマスクの使用は相当程度確保される施策を講じていた。


建築現場における労働者の石綿粉じんの曝露実態及び石綿肺等
の罹患実態は,防じんマスクの使用を一律に義務付けなければならないほど,建設労働者の石綿被害の実情が相当深刻なものであったことが明らかとなっていたわけではない。他方で,建築現場における作業は,職種ごとに多岐にわたり,作業内容が千差万別である。のみならず,作業場所,作業時の労働者の体勢,粉じんの発散場所,発散する方向,作業時の風向きや空気の流れ,作業時間,周囲の状況などに至っては,作業類型のみならず各作業現場の状況によっても変わりうるものである。加えて,建築作業従事者が取り扱っていた石綿含有建材は,一般的にいえば,石綿原料と比較して石綿含有量が格段に低かったし,新たに加工,処理等を施すなどしない限り粉じんが発生することはない。しかも,加工,処理等の粉じんを発散する作業も一時的・間欠的に行われていたに過ぎず,石綿工場における作業と比べれば石綿粉じん曝露濃度は高くなかった。このような事情から,建築現場においては,一律にどのような粉じん曝露防止対策が適切であるかを,現場における判断の余地を捨象して事前に決めておくことには自ずから限界がある。そうすると,このような建築作業現場の実情を踏まえ,一律に防じんマスクの使用を義務付けるのではなく,作業現場ごとの特性を踏まえた個別判断を可能にする余地を残すために,防じんマスクの備え付けに止めたことが,著しく合理性を欠いたとはいえない。


特化則5条は,事業者に対し,第二類物質の粉じんが発散する屋
内作業場について,局所排気装置を設けない場合に「全体換気装置を設け,又は第二類物質を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置」を講ずる義務を課しており,石綿含有建材には昭和50年から同条が適用されたが(安衛令別表第三第二号37,特化則2条2項,別表第一第四号),特化則5条の解釈上,屋内作業場には「作業場の建家の半分以上にわたって壁,羽目板その他のしゃ蔽物が設けられておらず,かつ…粉じんがその内部に滞留するおそれがない作業場」は含まれず,また,「湿潤な状態にする等」の「等」には「臨時の作業を行う場合における適切な労働衛生保護具の使用」が含まれると解されていた。建築作業はいずれも臨時的な作業であるから,建築中あるいは解体中の建物であって
も,少なくとも半分以上に壁等が設けられ,又は,粉じんがその内部に滞留する恐れのあると認められる場合には,特化則5条が適用され,防じんマスクを着用させることを含む「必要な措置」を講ずる義務が罰則をもって事業者に課せられていることになる(安衛法119条1号,22条,27条)。
さらに,昭和54年制定の粉じん則は,事業者に対し,粉じんが
発生する作業に労働者を従事させる場合に,労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる義務を,罰則をもって課している(27条1項本文,安衛法119条1号,22条,27条)。石綿含有建材の切断等を行った際には,当該建材に含有されるコンクリートやセメントも粉じんとして発散し,このような「鉱物」からの粉じんが発生する以上,屋内作業場においては粉じん則が適用され,防じんマスクの使用が罰則をもって義務付けられていたのである。


控訴人らが建築現場において防じんマスクの着用を妨げる事情
として指摘する息苦しさや建設業の特殊性は,防じんマスクの規制の遵守を困難にする事情ではない。現に,控訴人らや同種訴訟の原告らの中にも,防じんマスクを着用し又はその着用を指示するなどした者が複数名存在する。さらに,昭和60年代に入ると,建設作業従事者が石綿の危険性について具体的な認識を有していたこと
を示す客観的な書証が存在する。重層下請構造がとられる造船業を含め,他の業種において防じんマスクの着用が励行されていたことも踏まえれば,建築現場において事業者が防じんマスクに関する規制を遵守し,労働者にその着用を励行することを妨げる客観的な事情は存在しなかった。
なお,平成7年の特化則改正は,解体・改修工事の現場での健康
障害の増加が今後予測されるという当時の具体的状況に照らし,労働者の石綿粉じん曝露防止対策をより徹底させる趣旨で行われた
ものであり,従前の規制が著しく合理性を欠いていたために行われたものではない。

健康等管理にかかる措置の不実施
a
建材メーカー等に対する警告表示の全面的義務付け等
次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節これを引用する。
警告表示は,それ自体労働者への石綿粉じん曝露を防いだり,石
綿関連疾患への罹患を防ぐものではなく,防じんマスク着用等の各種石綿粉じん曝露防止対策をとる必要があることを労働者に認識
させるという間接的な役割を持つに過ぎないものであって,直接的な被害防止対策である防じんマスク等の規制とは別個に,警告表示にかかる対策が独立した違法事由となるものではない。
⒝ⅰ

石綿含有率が5%以下の建材であれば,含有率が低い分,切断
等に伴う石綿粉じんの発じん量も少なくなる。しかも,石綿含有
建材について,含有している石綿の全てが発じんするのではな
く,また,発じんした石綿の全てが吸入性粉じんとなるわけでも
ない。そもそも,石綿含有建材は,切断を行った面や穴をあけた
部分から,切断等を行っている時にだけ発じんするにすぎない。
結局,問題となる吸入性粉じんの発生量は相当限定されるという
べきである。そもそも,石綿粉じんに限らず,建材から発じんし
ていることは,労働者自身も目視で確認し得るから,防じんマス
ク等の対策を講じる契機は存在している。したがって,石綿含有
率5%以下の建材を大量に使用することにより大量曝露すると
の批判は当たらない。


控訴人らは,製造者においては自ら製造した石綿含有製品の材
料比率を正確に把握できると主張するが,特化則38条3による
作業場における警告表示義務を負うのは当該作業場の事業者で
あり,安衛法57条の表示義務を負うのは対象物を「譲渡し,又
は提供する者」であるから,これらの義務を負うものは製造者に
限られない。また,当時の測定技術によって測定できない含有量
のものについて,これらの義務を罰則をもって課したとしても,
規制権者たる国において義務違反の有無を客観的に判断するこ
とはできないのであるから,違反者に対して刑罰を科することが
できず,そのような規制にはおよそ実効性がない。
一般に事業者は,昭和50年から15年を経過した平成2年当
時においてすら,数%の単位の精度でしか石綿含有率を分析する
ことはできなかった。なお,平成7年に石綿を1%を超えて含有
するものを石綿含有物とするよう改正したのは,石綿含有量に係
る分析精度の向上に加え,建築材料を中心として含有率が5%以
下の製品が生産されるようになり,取扱いの方法によっては労働
者が高濃度の石綿に曝露するおそれもあることなどを踏まえて
のものであり,被控訴人国の規制の経緯に何ら不合理な点はな
い。
⒞ⅰ

被控訴人国は,安衛法57条について,監督指導に当たって,
定められた表示がない場合又は不備がある表示を発見した場合
の措置等について定めた昭和49年3月28日基発第138号
「労働安全衛生法第57条に基づく表示制度の徹底について」を
発出するなど,昭和50年以前から適切に監督指導を行っていた
ところ,昭和51年4月14日付け基発第328号「職業性疾病
予防のための特別監督指導計画について」を発出して,安衛法5
7条の表示対象物への指導の強化を指示するなどしている。


控訴人らの指摘する石綿スレート協会が作成した業界内部資
料(乙アA201)は,包装がされていない状態を念頭に置いて
おり,昭和53年に改正された安衛法57条2項に沿った対応を
協会員に依頼するものであることは明らかであり,何ら違法なも
のではない。さらに,被控訴人国が上記資料を入手した時期は平
成23年であり,被控訴人国が上記資料を所持しつつ違法行為を
容認していたなどということはあり得ない。


警告表示は,それ自体が労働者の石綿粉じん曝露や石綿関連疾患
への罹患を防ぐものではなく,労働者に防じんマスクの着用等石綿粉じん曝露防止対策を実行させるための契機を与える役割を持つ
に過ぎない。したがって,警告表示によって防じんマスク等の使用により石綿粉じん曝露を防止する必要性があることが分かれば十
分であるから,それ以上に石綿により引き起こされる石綿関連疾患の具体的な内容,症状等の記載,防じんマスクを着用する必要がある旨の記載を事業者に義務付ける作為義務が被控訴人国に生じる
ことを法令の解釈から導くことはできない。
昭和50年3月27日基発第170号「労働安全衛生法第57条
に基づく表示の具体的記載方法について」により示された「多量に粉じんを吸入すると健康をそこなうおそれがあります」との表示
は,建材メーカーに対して表示内容を法的に義務付けたものではなく,そもそも,安衛法57条に基づく表示の対象物は「労働者に健康障害を生ずるおそれのある物」であるから,上記表示は同条の趣旨に沿う内容であり,また,「少量の粉じんの吸引であれば安全である」との誤解が生ずる余地はない。

b
建築作業場における石綿取扱上の注意事項等の掲示の全面的義務
付け等

判決144頁)
に記載のとおりであるから,
これを引用するとともに,
上記aに同じ。
c
石綿関連疾患についての特別教育実施の義務付け
被控訴人国は,旧労基法及び安衛則に基づく雇入れ時教育,じん
肺法に基づくじん肺教育等,その時々の知見に応じて必要な教育の実施を事業者に義務付けてきた。


雇入れ時教育は,有害物質の危険性等に関するその時々の知見に
応じた教育の実施を事業者に義務付けるものであるから,石綿のがん原性が一般的に認知された後は,当然そのような知見を内容に盛り込んだ教育の実施が事業者に求められることとなる。



特別教育の内容(石綿則27条2項に基づく告示)と雇入れ時等
教育の内容(安衛則35条各号)との間に違いはない。また,特別教育は,法令上「危険又は有害な業務…に労働者をつかせるとき」に実施すべきものとされ(安衛法59条3項),繰返しは義務付けられておらず,他方,雇入れ時等教育は,作業内容を変更したときにも行われる(同条2項)。そもそも粉じん作業における保護具の使用等は,繰り返し教育する必要があるほど複雑な内容ではない。


平成4年1月1日基発第1号の通達において定められた,石綿含
有建築材料の施工業務従事者に対する労働衛生教育実施要領は,石綿に関する正しい認識が得られるような内容であった。
さらに,付け加えれば,昭和50年以降,特定化学物質等作業主
任者は,講習を受けた上で修了試験に合格している者から選ばれるのであって,石綿粉じんに関する十分な知識を有し,建設現場において適正な作業環境を保持する上で重要な役割を果たしており,その活動について労働基準監督機関の監督指導による担保もあるか
ら,石綿の危険性についての知識の伝達はもとより,適切な防じんマスクの使用等石綿の危険性に対する適切な対策に関する知識に
ついて,労働者に周知されるような規制が設けられていたといえ
る。


石綿含有建材の製造等の禁止措置に関する規制権限不行使の違法性次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節第これを引用する。
行政機関が,労働者に重度の健康障害を生ずる物について,安衛法55条の委任に基づき製造等の禁止措置の対象物として指定するか否かを判断するに当たっては,医学的・科学的知見のみならず,技術面,経済面,国情に応じた社会的側面からの諸事情を総合的に考慮して決する必要があり,その判断基準は,控訴人らが主張する,①製造又は取扱いの過程において労働者に重度の健康障害を生ずる物質であること,②現在の技術をもってしては,それによる健康障害を防止する防護方法がない有害物であることの2要件に限定されるものではない。安衛法55条本文は「労働者に重度の健康障害を生ずる物」と規定するのみである。
発がん性物質について閾値がないとされているのは,防護の観点から対策を安全寄りに策定するための一つの考え方であり,石綿粉じん曝露がどんなに少量であってもがんが発症すると断定できるものではない。また,昭和47年のIARC専門家会議でも,石綿の種類ごとに中皮腫の発がんリスクが異なることが指摘されていたのであるから,石綿の種類によって適切とされる規制時期や規制の態様が異なってくることは当然である。
建設作業現場における石綿含有建材の管理使用が技術的に不可能
であるとはいえない。屋外作業における石綿含有建材の管理使用についていえば,被控訴人国は,粉じん作業において防じんマスクの適切な着用を図るとともに,作業工程の管理を通じて同時並行的な作業とならないようにして間接曝露の防止を図っており,特定化学物質等作業主任者により適切な作業管理を行い,事業者が適切に安全配慮義務を履行すれば,製品による難易はあるものの,技術的には管理使用が可能で,石綿関連疾患の発生を十分に防止できたといえる。
平成初期(1980年代末)から平成6年前後(1990年代前半)にかけても,石綿の製造等の全面的な禁止措置を執るだけの知見は集積していなかった。すなわち,①平成元年のWHOの「石綿の職業ばく露限界」の報告は,クリソタイルについては石綿関連疾患のリスクが非常に小さい管理レベルを達成することが可能であるとしており,その使用の禁止までは勧告しておらず,また,1980年代末にワグナーらによって,石綿によるがんの発症などの重大な健康障害は専らクロシドライト,アモサイトなどの角閃石(アンフィボール)系によるものであるとするアンフィボール仮説が発表され,1990年代前半にかけてこれを支持する者と否定する者との間で議論が継続していた。②アメリカ,EU,イギリス,フランスなど先進主要国の多くでは,石綿の全種類について製造等を禁止する措置は執られていなかった。③石綿代替製品の開発が急速に進められ,吹付け材,パーライト保湿剤に加え,ケイ酸カルシウム板については無石綿化に成功し,フレキシブルボード,サイディング材,波型スレート,住宅用屋根材については石綿含有量が低減化され,石綿への職業性曝露が抑止されたものの,石綿含有製品を全て無石綿化するには,なお技術開発のための時間が必要とされていた。④石綿代替物質の発がん性について適切な評価ができるだけの研究に乏しく,いずれの物質についても発がん性が否定できない状況にあった。⑤被控訴人国は,「石綿含有建築材料の施工作業における石綿粉じんばく露防止対策の推進について」(平成4年1月1日付け基発第1号)を発出し,建設業における石綿粉じん曝露防止対策を徹底したほか,使用中止を視野においた代替化の促進,
使用量の削減について指導を継続し,
クロシドライトに加え,
平成5年には関係業界においてアモサイトの使用も中止された。⑥我が国においては,クリソタイルについて適切に管理し安全に使用する可能性を模索する考え方が支配的であり,平成4年12月に国会に提出された「石綿製品の規制等に関する法律案」も厚生委員会に付託されることなく廃案となった。
平成7年前後(1990年代後半)から平成14年前後(2000年代前半)にかけて,石綿の製造等の禁止に係る医学的知見,技術的知見がおおむね集積した。すなわち,①石綿代替繊維として使用されていたグラスウール,ロックウール及びスラグウールについて,平成14年のIARCの専門家会議で「ヒトに対する発がん性については分類できない」と再評価された。②経済産業省から委託された平成12年度無機新素材産業対策調査によれば,建材について無石綿化製品への代替化が数年後に実現する可能性が相当にあることが指摘された。③主要先進国であるフランス,イギリス,EU等が石綿の全面的な禁止の措置を執るに至った。④我が国においても,平成7年にクロシドライト及びアモサイトについて法的に製造等の禁止措置を執るとともに石綿含有物に係る規制を強化した後,クリソタイルを含む全ての石綿について製造等の禁止措置を執ることについて,徐々に社会的なコンセンサスが形成されていった。
そこで,被控訴人国は,平成14年に学識経験者による「石綿の代替化等検討委員会」を設置し,その検討結果を受けて,平成15年に安衛令を改正し,その時点で非石綿製品への代替が困難なものを除き,全ての石綿製品について,安衛法に基づき,その製造等を禁止する措置を執り,その後「石綿製品の全面禁止に向けた石綿代替化等検討会」を設置して更に検討を加え,その結果等を踏まえて,平成18年に石綿含有製品の製造等を全面的に禁止した。このような経緯等に照らせば,被控訴人国が平成18年まで石綿の製造等の禁止措置を執らなかったことに違法はない。
一人親方及び個人事業主は労働関係法令に基づく規制権限不行使による違法について国賠法上の救済を求めうるか
次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節第5の

旧労基法42条の条文には労働者の文言はなかったが,旧労基法1条は,「労働条件は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」と定め,法律の目的が労働条件を確保することで「労働者」の保護を図ることにあることを明文をもって定めており,さらに9条において,「この法律で労働者とは,職業の種類を問わず,前条の事業又は事業所に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。」として労働者を定義づけ,同法の保護対象を明確にしていることからすると,旧労基法42条がこれらの規定を受けて労働者を保護する趣旨の規定であることは明らかである。


安衛法は,1条で,「この法律は、労働基準法…と相まつて,労働災害の防止のための危害防止基準の確立,責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに,快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。」と定め,2条2号で労働者を「労働基準法第9条に規定する労働者」と定義している。その上で,第4章の「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」において,事業者には,労働者の危害を防止する措置の実施を,労働者には,事業者が講じる措置に応じて必要な事項を遵守することを,それぞれ義務付け(20条ないし26条),その具体的内容を省令に委任しているのであって(27条1項),同法が労基法上の労働者の安全・健康の確保等をその目的としていることは明らかである。

安衛法1条によれば,安衛法は労基法と一体のものとして執行され,その目的は,労働災害の防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより実現するものとされており,同法2条1号は労働災害の客体を労働者に限定しているのであるから,同法1条の「快適な作業環境の形成」という文言から,同法が労基法上の労働者に該当しない者も保護の対象としているとはいえない。


安衛法3条2項の規定は,「職場における労働者の安全と健康」の確保を目的とした同法1条,3条1項を前提とするものであり,労働者以外の者にまでその保護範囲を広げる根拠とはならない。


安衛法27条2項に関する控訴人らの主張も,同条1項の委任に基づき省令で定められる事項が,「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」として,安衛法20条以下で規定された内容を具体化したものとの位置づけからすると,同条項は,公害その他一般公衆の災害の防止が他の法令で規定されていることを前提に,厚生省令と他の法令との調整を図るように配慮を求めた規定に過ぎず,安衛法の保護対象を拡大することを趣旨とするものとはいえない。


安衛法31条1項も請負人の使用する労働者を保護するために注文者に義務を課す規定であり,労働者以外の者をも保護する規定ではない。

安衛法57条が安衛法55条,56条と並び規定されていることや,これらの規定のいずれも「労働者に(重度の)健康障害を生ずるおそれのある物」を規制対象と定めていることからしても,安衛法57条も保護の対象は労働者である。
一人親方及び個人事業主について改正労災保険法34条に基づく規制権
限不行使の違法性の有無
控訴人らの主張は争う。
第4

被控訴人国の建築基準法令に基づく指定・認定行為の違法性の有無(争点3)
について
1
控訴人らの主張
次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節第3の1判決97~103頁)に記載のとおりであるから,これを引
用する。
被控訴人国は,建築基準法2条7号ないし9号の建材に指定・認定することにより石綿含有建材を普及,促進させてきたところ,石綿含有建材の生命・健康被害に対する危険性の医学的知見が確立する一方,建築現場においては実効性のある石綿粉じん対策が行われていなかったのであるから,管理使用を継続するのであるならば,争点2において控訴人らが主張したような厳格な管理使用がなされるための実効性のある条件を付して,指定・認定をすべきであるにも関わらず,内閣及び建設大臣が昭和47年以降,石綿含有建材を建築基準法2条7号ないし9号の建材に指定し又は認定する行為を漫然と続けたことは,違法である。すなわち,内閣及び建設大臣が,遅くとも,①石綿の発がん性の国際的コンセンサスが得られた昭和47年,②特化則改正で石綿製品の代替化義務を定めた昭和50年,③石綿による健康障害に関する専門家会議の報告がされ,かつ,石綿製品の代替化が謳われて3年を経過したものの代替化が進んでいなかった昭和53年,④ILO石綿条約が締結され,石綿使用禁止,抑制が世界的な傾向にあった昭和62年の各時点以降,かかる条件を付すことなく漫然と指定・認定を繰り返したことは違法である。

2
被控訴人国の主張
次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節第3の2(原判決106~108頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。控訴人らの主張は,次のとおりいずれも前提に誤りがあり,失当である。ア
建築基準法2条7号ないし9号による耐火構造等への指定等に石綿含有建材を含めるか否かにかかわらず,社会において石綿含有建材の流通,使用が許容されている状況に変わりはない。建材を取り扱う労働者の保護は,別途,労働関係法規による規制とそれを事業者が遵守することによって実現されるべきものである。

耐火構造等への指定等の件数に石綿含有建材に係る指定等が多かったとしても,それは建材製造業者等による申請が多かったことを意味するにすぎない。また,被控訴人国の住宅供給政策や石綿含有建材のJIS規格化などの事情は,他の建材にも当てはまるものばかりである。被控訴人国が他の建材と区別して石綿含有建材の普及を推進した事実はない。

建設大臣は,建物全般における耐火構造の占める割合や耐火構造建築に携わる建築作業従事者の人数について報告を受けておらず,建築作業従事者が石綿粉じんに曝露する割合や頻度を認識,予測してはいない。建築基準法2条7号ないし9号等に基づく耐火構造等の指定等は,建築基
準法及び建築基準法施行令による権限付与の趣旨に沿って行使される必要があるところ,控訴人らが主張するような条件の付与は,建築基準法2条7号ないし9号等による委任の範囲を超えるものであるから,かかる条件を付与しなかったことが違法と評価される余地はない。
第5

被控訴人国の建築基準法令に基づく権限不行使の違法性の有無(争点4)について

1
控訴人らの主張
建築基準法2条7号ないし9号に基づき昭和47年以前になした石綿含有建材の指定・認定を取り消さなかった権限不行使
次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節第4の
引用する。
前記第4の1で主張したところによれば,内閣又は建設大臣が,前記第4の1で主張した各時期(吹付け石綿については,①ニューヨーク市で石綿吹付け禁止を含む条例案が議会に提出されたことが参議院の地方行政委員会・交通安全対策特別委員会連合審査会で採り上げられた昭和45年12月15日,②庁舎仕上げ標準(暫定修正版)の内部仕上げ表から石綿吹付けが削除された昭和48年3月,③特化則が改正された昭和50年)以降に,既にした指定又は認定を取り消さなかったことは,著しく不合理であって,違法である。
建築基準法90条2項に基づき石綿粉じん曝露防止のための技術的基準を定める政令の制定権限の不行使について
原判決113頁6・7行目の「工事関係人等への危害」を「工事関係人や周辺の住民を含め,およそ人の生命身体に対する危害」に改め,次のとおり
判決113頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。

建築基準法90条1項の「危害」が物理的な損壊をもたらす危険に限定されないことは,同項が「地盤の崩落,建築物又は工事用の工作物の倒壊等」と規定し,危害の対象を限定せず「等」を付し,同項2項と相まって,工事方法の進化・発展により新たに発生する危害についても適時・適切に対応する趣旨のものであることから明らかである。さらに,建基令136条の8が防火上必要な措置につき規定しているとおり,火気の使用によって生じる事故を防止するための技術的基準として定められていること,建築基準法90条の2,90条の3には「安全上,防火上又は避難上」などの制限が付されているのに対して,同法90条1項の危害には制限が付されておらず,衛生上,環境上の支障である有害が除去されていないことからも裏付けられる。さらに,同法10条1項は,「そのまま放置すれば著しく保安上危険となり,又は著しく衛生上有害となるおそれがあると認められる場合においては」,行政庁が措置をとれると規定しているところ,「保安上危険」
及び
「衛生上有害」
という二つの概念を統一した概念が
「危
害」と解釈される。そして,衛生上の有害な物質による健康被害は,即時に起こるとは限らず,
後日,
疾病として生じることもあることからすれば,
工事施工の時点で健康被害が生じていないとしても,衛生上の有害物質に曝露することが,建築基準法90条1項の危害から排除されるべきではない。

建設省住宅局監修の「詳解

建築基準法<改訂版>」(平成3年11月

15日発行)によれば,建築基準法90条は,「建築物の建築,修繕,模様替え又は除却のための工事の施工者が危害防止上しなければならない必要な措置について定められたものである。」
「建築工事現場においては,
従業者等の関係人に及ぼす損害のほか,特に市街地にあっては,周囲の第三者(隣地その他近傍の土地,建築物,工作物等を含む)に及ぼす影響が大きいので,工事関係人,一般通行人,隣接建築物,隣接地盤等に関連して危害防止の技術的基準が令第7章の4に定められている。」とされ,さらに「なお,特に現場内の労働者の安全な労働条件の確保に着目して,規制しているものに労働安全衛生法令があるが,建築基準法令の適用が排除されるものではないことに留意する必要がある。」ともされており,建築基準法90条の保護対象に建築作業従事者が含まれることは明らかである。石綿粉じんは,発じん作業場の周囲に飛散するから,石綿粉じん飛散防止措置は,工事関係人のみならず周辺住民を含む,人の生命身体に対する一般的な危害防止に必要な措置である。したがって,石綿粉じん曝露対策を義務付ける政令の制定は,建築基準法90条2項の委任の範囲に含まれると解すべきである。

以上によれば,内閣は,遅くとも昭和50年までに,建築基準法90条2項に基づき,工事の施工に伴う一般的危害である石綿粉じん曝露による危害を防止するため,①石綿粉じん作業場の明示,②発じん場所の密閉措置,③発じん場所に対する局所排気装置あるいは集じん装置の設置,④防じんマスクの着用の義務付けといった技術的基準を政令で定める義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った規制権限の不行使は,著しく不合理であって違法というべきである。
2
被控訴人国の主張
建築基準法2条7号ないし9号に基づく権限の不行使について

れを引用する。
建築基準法90条2項に基づく権限の不行使について
次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第2章第3節第4の
る。
第6章雑則の中に規定された建築基準法90条は,建築物又は敷地それ自体の在り方を規制する単体規定及び集団規定を補充するものであることからすれば,それぞれの建築工事の持つ事故の危険性に着目した規定であり,建築作業従事者といった被害を受ける人の属性に着目した措置を執ることは目的としていないと解される。したがって,建設作業従事者の石綿粉じんへの長期・継続的な曝露による健康被害を防止するための規制を内容とする政令を定めることは,同条2項の委任の範囲を超えるものであり,かかる政令の制定権限の不行使が違法とされる余地はない。
第6
1
被控訴人企業らの共同不法行為の成否(争点5)について
控訴人らの主張
注意義務違反

石綿不使用義務違反とその始期
石綿含有建材の中でも石綿含有吹付け材は,発がん物質で特に飛散性が高く,吹付け工のほか,周辺で作業をする者や吹付け作業後の工程に従事する多くの者も,高濃度の石綿粉じんに曝露する特殊性があり,これを完全に防ぐことは事実上不可能である。石綿吹付け材製造企業は,昭和40年頃から石綿含有吹付け材の危険性や飛散性を認識しており,代替物であるロックウールも既に実用化されていたから,遅くとも,旧特化則で石綿が微量で有害な作用をもたらすため第二類物質に指定された翌年の昭和47年1月1日時点,どんなに遅くとも特化則が改正され石綿吹付け作業が原則禁止された翌年の昭和51年1月1日時点には,石綿の重量比が5%以下のものも含め,吹付け材について石綿不使用義務を負っていた。それ以外の石綿含有建材についても,被控訴人企業らは,特化則で代替化努力義務が課された翌年の昭和51年,その3年後の昭和54年,遅くともILO石綿条約が採択された翌年の昭和62年1月,どんなに遅くとも平成7年時点には石綿不使用義務を負っていた。
したがって,上記時点以降も石綿含有建材を製造・販売した被控訴人企業らには,石綿不使用義務違反がある。

警告義務違反とその始期
警告義務違反
a
石綿粉じんの曝露によって,肺がん,中皮腫という極めて重篤な健康障害を及ぼす危険性があることから,その危険の大きさに応じた適切な内容,すなわち,「危険の内容」として,①当該建材に発がん性の有害物質である石綿が含有されていること,②石綿含有建材を取り扱う作業(吹付けや切断,穿孔,貼付け等の加工)で発生する石綿粉じんに曝露すると肺がん,中皮腫に罹患する危険性があること,③特に中皮腫は少量の曝露でも発症する危険性があること,④肺がん,中皮腫は潜伏期間の長い遅発性の疾患であること,⑤肺がん,中皮腫は重度の健康障害であり,発見されたときは手遅れのことが多く,死に至る可能性があることを,「危険の回避方法」として,⑥国家検定に合格した適切な防じんマスクを作業中は常時,確実に着用する必要があること,⑦石綿含有建材の切断等に当たっては,集じん機付き電動工具を使用する必要があること等を,合理的に予見できる使用者である建築作業従事者が十分に理解できるよう平易かつ具体的に記載して,伝達する必要がある。そして,石綿は容易に変質しないことから,石綿含有建材の新規使用から廃棄までのプロセス全般にわたって実効性のある警告をする必要がある。
b
成形板及び保温材は,取付け作業を行う職種への警告として,個々の包装の上に上記①~⑦の全てを表示する必要があるほか,包装されずに現場に搬入されることがある製品には個々の建材にシールを貼付するなどして少なくとも①を表示し,また,成形板の取付け後の加工,成形板及び保温材の補修・解体工事を行う職種への表示として,個々の建材に少なくとも①を表示することが求められる。吹付け材については,吹付け施工後に曝露する可能性のある者(電工等)への警告として,施工箇所に石綿含有吹付け材が使用されたことを明示する板状のラベルを表示することや,梱包袋などに,元請事業者に対して「吹付け施工後に作業をする建設作業従事者に対しても警告内容を伝える必要がある」旨を表示する必要があり,補修・解体工事従事者に対する警告として,上記の板状の表示などをするほか,施工業者又は元請事業者に対して,「工事発注者(建物所有者)に対し,設計図書など吹付け材施工の記録を保管して,補修・解体工事に際しては工事施工者にその事実を周知する必要があることを伝えるべきである」旨を梱包袋等に記載して伝えるべきである。
混和材については,左官等に対する警告として,梱包袋などに上記①~⑥を表示し,補修・解体工事を行う職種への警告として,吹付け材と同様の警告をする必要がある。
昭和50年基発第170号通達及び石綿スレート協会の指導で定
められた表示内容,いわゆる「a」マーク表示は,いずれも適切な警告表示とはいえない。また,発がん物質である石綿について閾値が認められていないから,石綿が重量比5%以下の建材でも警告義務を免れない。
警告義務違反の始期
石綿関連疾患に関する知見の確立や進展状況,石綿粉じんに関する法令の規制の経過,石綿含有建材の製造・販売量の増大とそれに伴う石綿粉じん曝露の危険性の増大などからすれば,石綿建材企業は,石綿のがん原性(肺がん)の知見が確立した昭和40年,遅くても旧特化則が制定された昭和46年,昭和49年1月1日,特化則が改正,施行された昭和50年10月以降は,外装材のみを製造・販売した企業を含め,警告義務違反の過失がある。
共同不法行為

主位的主張
原判決の「事実及び理由」中第2章
決161~166,169~170頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。


予備的主張(当審における追加主張)
「直接取扱い建材」に基づく主張(予備的主張1)
a
被災者ごとの「直接取扱い建材」及び共同行為者
控訴人らは,国交省データベース平成25年2月版掲載の全石綿含有建材及び混和材から,注意義務の始期以前に製造が終了したもの,製造期間が足かけ3年未満のもの,販売地域,使用目的,特定の施行代理店等の使用など被災者らが取り扱った可能性の低い建材を除外した上で,職種の一般的な作業内容や作業対象に着目して絞込みを行い,
職種ごとに直接取り扱う可能性のある建材を特定した
(別紙5
【別
紙1】。以下,イで参照する別紙別表はいずれも「別紙5」のものである。)。これを前提に,被災者ごとに就労期間と製造期間の関係,作業した建物の種類等の就労実態など個別の事情を踏まえて,被災者が自ら直接取り扱った可能性のある石綿含有建材を特定したが,職種ごとの限定事由により除外された石綿含有建材でも被災者に特別な事情があれば個別に復活させた
(以下,
「直接取扱い建材」
という。。

被災者ごとの直接取扱い建材を製造・販売した石綿建材企業全てが予備的主張1における共同行為者となる(控訴人準備書面【企業18】,【企業23】及び【企業25】の各別冊参照)。
b
民法719条1項前段及び同項後段の該当性
予備的主張1における共同行為は,被災者らが建築作業に従事する際に,加害者として特定された被控訴人企業らが,当該直接取扱い建材を製造・販売して建材市場の流通に置いた行為である。直接取扱い建材からの直接曝露は,高濃度の粉じんへの曝露が長期間にわたり恒常的に繰り返されるから,当該建築作業従事者にとって,総体としての石綿粉じん曝露の主要な部分を占めるものといえ,石綿関連疾患の全部又は主要な原因と評価できる。そして,特定の建築作業従事者に対応した直接取扱い建材を製造・販売した石綿建材企業らは,その製造・販売行為によって,当該建築作業従事者が直接に取り扱う建材全体の中に当該石綿含有建材が相当の比率で含まれているという,損害発生の危険を伴う状態を共同して作出したものといえ,特に昭和50年以降は,特化則による石綿の代替化努力義務及び安衛法57条による警告表示義務を共同して負ったにもかかわらず,各社の石綿含有建材の製造・販売を認識しながら,同時並行的にこれらの義務違反を行った。
そうすると,
各被災者との関係で特定された直接取扱い建材は,
被災者が作業した建築作業現場に到達した相当程度の可能性があり,また,その製造・販売行為には当然に関連共同性が認められるから,民法719条1項前段又は同項後段に該当する。
「主要曝露建材」に基づく主張(予備的主張2)
a
総論
「主要曝露建材」と被災者への到達の高度の蓋然性
各被災者らは,いずれも多数の建築現場で作業に従事した結果,
石綿関連疾患を発症したのであるから,その原因が石綿含有建材にあることが明らかである。それらの種類や製造・販売企業を全て正確に特定することは不可能であるが,前記のとおり特定された直接取扱い建材の中から,さらに被災者の石綿粉じん曝露の主な原因となった建材(以下「主要曝露建材」という。)の種類を絞ることが可能である。そして,この主要曝露建材を製造・販売した企業の中でも高いシェアを有する企業の製造・販売した製品は,長年にわたって建築作業に従事し,多数の現場を経験した当該被災者に対し
て,相当多数回にわたって到達した高度の蓋然性を認めることができる。
すなわち,
次のような方法で,
被災者ごとの主要曝露建材を製造・
販売した石綿建材企業を特定し,その製造・販売に係る主要曝露建材が相当多数回にわたって被災者に到達した高度の蓋然性がある
ことを主張・立証する。第1に,直接取扱い建材の中から,被災者の職種や作業内容により日常的に頻繁に取り扱う可能性があり,かつ主要な石綿粉じん曝露の原因となった主要曝露建材を特定した。第2に,上記の主要曝露建材を製造・販売した企業のうち,概ね10%以上の高いシェアを有する企業を共同行為者に特定した。第3に,製造・販売期間と各被災者の就労期間の重複,被災者が経験した現場数を明らかにして,上記の共同行為者の製造・販売行為(加害行為)は,当該被災者に到達した高度の蓋然性が認められ,しかも相当多数回にわたって到達したと合理的に推測することができ
る。


択一的競合(民法719条1項後段の適用)
ある被災者との関係で共同行為者として特定された石綿建材企
業の各加害行為(主要曝露建材の製造・販売行為)のいずれも又はその一部が,当該被災者に発症した石綿関連疾患についての絶対的曝露と評価できる期間(石綿肺では石綿吹付け作業については1年以上,それ以外の作業については10年以上,肺がんでは10年以上,中皮腫では1年以上)にわたって到達した相当程度の可能性がある場合には,択一的競合の要件を充たし,民法719条1項後段により,損害の発生と上記各行為との因果関係が推定され,石綿建材企業は,自己の行為と発生した損害との間の一部又は全部に因果関係がないことを主張,立証しない限り,その責任の一部又は全部を免れない。



相加的(重合的)競合(民法719条1項後段の類推適用)
ある被災者との関係で共同行為者として特定された石綿建材企
業の加害行為が絶対的曝露に至らず,択一的競合の要件を充たさなくとも,加害行為が相加的(重合的)に累積して石綿関連疾患を発症させているときは,719条1項後段が類推適用されるべきである。また,少なくとも,複数の行為が相加的に累積して被害を発生させていること(客観的共同)と,各行為者が他者の同様の行為を認識しているか,少なくとも自己と同様の行為が累積することによって被害を生じさせる危険があることを認識していること(主観的要件)を要件に,民法719条1項後段が類推適用されるべきである(福岡高裁平成13年7月19日判決・判例時報1785号89頁参照)。被災者が現に発症している石綿関連疾患は,共同行為者の製造・販売した主要曝露建材から発散する石綿粉じん曝露が絶対的曝露と評価し得ないとしても相加的(重合的)に累積することによって発症しており,客観的共同の要件を充足する。加害者として特定された被控訴人企業らは,建築現場で建設作業従事者が自ら製造・販売した石綿含有建材を直接取り扱う作業に従事しその過程で発散する石綿粉じんに曝露すること,石綿粉じん曝露により石綿関連疾患が発症すること,建設作業従事者が長期間にわたり多数の建築現場で建築作業に従事しており他者の石綿含有建材から発散す
る石綿粉じんに曝露する可能性があることを認識していたから,主観的要件も充足する。
以上いずれにせよ,民法719条1項後段が類推適用され,当該
被災者との関係で主要曝露建材を製造・販売した被控訴人企業は,被災者に生じた損害について連帯して損害賠償の責任を負い,減免責を受けるためには,自己の寄与割合を主張・立証する必要があるというべきである。
b
各論(被災者ごとの検討)
左官工
左官を主たる業務としていた被災者は,【別紙左官-1】記載の
4名である。
左官工全員が共通して直接取り扱う石綿含有建材は混和材であ
る。石綿含有吹付け材が使用された鉄骨造建物及び鉄筋コンクリート造建物に従事した者は,それらの壁や天井を塗る際にはみ出した吹付け材を剥がす作業や,塗り作業前の清掃作業で吹付け材に直接接触した可能性があるが,必ずこれらの作業を行うわけではないことから,吹付け材は左官工の主要曝露建材ではない。他方で,混和材は,石綿含有率,飛散性とも高く,左官工がほとんど毎日取り扱ってその粉じんに曝露していたから,いずれの左官工にとっても混和材からの石綿粉じん曝露が主要な曝露原因となっており,混和材の製造・販売行為と上記4名の石綿関連疾患の発症との因果関係は容易に認められる。
そして,【別紙左官-2】のとおり昭和31年から平成3年まで
の35年間,混和材は被控訴人ノザワが製造・販売した「テーリング」しか存在していなかったから,上記4名全員がそれに含まれる石綿粉じんに絶対的曝露していたと評価することができ,他の加害企業の加害行為との関係で,択一的競合の関係に立つから,被控訴人ノザワは民法719条1項後段の適用により上記4名に生じた
全損害を賠償する責任を負う。


保温工
主たる職種が保温工である被災者は,控訴人番号13,同23で
ある。保温工が一般的に常時直接に取り扱う石綿含有建材は,【別紙保温2-3】記載の保温材(被控訴人ニチアス,同エーアンドエーマテリアル,同日本インシュレーション,同神島化学工業ほか全6社,5種類,21製品)である。同12は配管工であるが,主にプラントで就労しており,保温材が石綿粉じん曝露の主要な原因である。
保温材は,上記のとおり製造企業がわずか6社に限定され,飛散
性が特に高いことから,控訴人番号13及び同12の主要な曝露原因となっており,また,上記2名はいずれも【別紙現場数一覧表】のとおり多数の現場を渡り歩いていたから,上記6社が製造・販売した保温材は上記2名に到達した高度の蓋然性がある。また,控訴人番号23は,昭和50年頃までに取り扱った建材の8~9割が被控訴人神島化学工業のダイヤライトであり,同年頃以降は同ニチアスの3製品が2割程度,同エーアンドエーマテリアルの4製品が3~4割程度,同日本インシュレーションの4製品が3~4割程度であったことを記憶しており,その余の製品から曝露した可能性は著しく低い【別紙保温2-2】。そして,上記6社(控訴人番号23は上記4社)の保温材の製造・販売行為は,相加的(重合的)競合における客観的共同の要件及び主観的要件をいずれも充足している
ことは明らかであり,民法719条1項後段が類推適用される。


電工
電工を主たる業務としていた被災者は,【別紙電工-1】記載の
4名である。
上記4名のうち控訴人番号31,同36,同66が直接取り扱っ
た石綿含有建材は,①躯体に吹き付けられた吹付け材の除去・剥離作業や作業中に接触することにより飛散する耐火被覆を用途とす
る吹付け材(吹付け石綿,石綿含有吹付けロックウール,湿式石綿含有吹付け材),②耐火被覆作業時に加工する耐火被覆板各種,③天井や壁などの開口作業時に加工する壁・天井材各種であるが,①吹付け材は,極めて高い飛散性を有し,高濃度曝露をもたらし,曝露作業が長時間に及ぶのに対し,②及び③の板材の切断作業は電動工具を使用せず作業時間も多いとはいえないことから,上記3名の主要曝露建材は吹付け材である。
そして,【別紙電工-2,3】のとおり,石綿含有吹付け材は被
控訴人ニチアス,同エーアンドエーマテリアル,同ノザワ,同太平洋セメント,同日東紡績,同新日鉄住金化学,同ナイガイ,同日本バルカー工業ほか全9社から3種類25製品が製造・販売された
(国交省データベースには,石綿含有吹付けバーミキュライト及び同パーライトも挙げられているが,これらは内装仕上げ材であり,電工の作業内容は内装仕上げ前のものであるから,除外した。)が,共同行為者数が9社と少なく,【別紙現場数一覧表】のとおり電工として数十年にわたり数百から千を超える建築現場で作業に従事
した上記4名は,いずれかの現場において上記9社の製造・販売した石綿含有吹付け材を直接取り扱った高度の蓋然性があり,また,上記9社の行為は,相加的(重合的)競合における客観的共同及び主観的要件をいずれも充足しており,民法719条1項後段が類推適用される。
控訴人番号70については,7割を超えて鉄骨造・鉄筋コンクリ
ート造建物に従事したのが昭和62年以降であることから吹付け
材,耐火被覆板は主要曝露建材とはいえず,相当多数回にわたって到達した高度の蓋然性のある主要曝露建材は,【電工・別表】のとおりエーアンドエーマテリアル,ノザワ,ニチアス,大建工業,エム・エム・ケイの被控訴人5社が製造・販売した石綿含有スレートボード・フレキシブル板,同・平板,石綿含有けい酸カルシウム板第1種及び石綿含有ロックウール吸音天井板であり,上記5社の行為につき民法719条1項後段が類推適用される。


配管工
主たる職種が配管工である被災者は,【配管工・別紙1】記載の
11名である。
配管工は,①鉄骨造建物及び鉄筋コンクリート造建物で,配管の設置作業時に支持金具の取付けのため天井裏で鉄骨に吹き付けら
れた吹付け材を削り落とす作業及び改修工事時における天井裏で
の作業で吹付け材3種類に,②スリーブ工事のため躯体や間仕切り貫通部分に穴を開ける作業で各種内壁材に,③主に鉄骨造建物及び鉄筋コンクリート造建物で保温材を切断・加工して配管に設置する作業で保温材に,④石綿セメント円筒(耐火二層管,石綿二層管,トミジ管ともいう。)を電動工具で切断・加工する作業で石綿セメント円筒に,それぞれ曝露したが,①吹付け材はその飛散性が極めて高く除去作業等には高濃度の曝露が伴うこと,配管工の吹付け材の削り落とし作業では大量の粉じんを直接浴び,改修工事でも狭い天井裏で経年劣化や接触により剥離して飛散・浮遊する石綿粉じんに曝露するなど,高濃度曝露と同視し得る曝露があり,作業時間も相当長いこと,④石綿セメント円筒の切断・加工の頻度も少なくないこと,これに対し,②各種内壁材の切断・加工作業は電動丸鋸を使用せず切断量も多くはなく,③保温材の切断は本来保温工が行うことが多いことから,上記11名の主要曝露建材は原則として吹付け材3種類と石綿セメント円筒であり(ただし控訴人番号64は吹付け材3種類)被災者によっては保温材も主要曝露建材となった。,
そして,上記11名の主要曝露建材はそれぞれ【配管工・別紙2】のとおり限定されており,配管工として【別紙現場数一覧表】のとおり長期間多数の現場で作業に従事した上記11名は,それぞれいずれかの現場で吹付け材,石綿セメント円筒及び保温材を製造・販売した被控訴人企業8社(ニチアス,エーアンドエーマテリアル,ノザワ,太平洋セメント,日東紡績,新日鉄住金化学,ナイガイ,日本バルカー工業)の石綿含有建材を直接に取り扱った高度の蓋然性があり,また,上記被控訴人企業8社は,相加的(重合的)競合における客観的共同要件及び主観的要件を充足しており,民法719条1項後段が類推適用される。
大工
大工を主たる業務としていた被災者は,【別紙大工-1】記載の
合計37名である。
大工は,建物の構造にかかわらず,内壁材や天井材,間仕切り材
などの内装材に必要に応じて切断,穿孔,研磨などの加工を行い,木造建物では,外装材である軒天材などに上記同様の加工を行い,鉄骨造建物及び鉄筋コンクリート造建物では,耐火被覆板の加工と吹付け材を削る作業があった。
大工が一般的に直接取り扱う石綿含有建材の種類は,【別紙1】
大工欄記載の石綿含有吹付け材3種類(①~③),耐火被覆板等2種類(⑪,⑫),ボード類16種類(⑮~㉗,㉙~㉛)の合計21種類であるが,その機会が多いのはボード類16種類であり,このうち11種類(⑮~㉓,㉖,㉗)は電動工具によって加工されることが予定されており石綿粉じんを大量に発散するが,その余の5種類(㉔,㉕,㉙~㉛)は電動工具では加工せず,石綿含有吹付け材の剥離作業や耐火被覆板の加工の機会は格段に少ないから,上記11種類が上記37名の主要な曝露原因である。そして,スレートボードの中で⑮フレキシブル板,⑯平板,㉓けい酸カルシウム板第1種の3種類が占める比率は94%(昭和53年),92.5%(平成2年)と非常に高く,上記11種類の中でも圧倒的に上記3種類が占めているといえるのであって,上記3種類は,上記37名に到達した高度の蓋然性があり,その主要な曝露原因となったものと考えられる。
国交省データベースによれば,上記3種類の製造販売企業と製品
数は,⑮15社82製品,⑯15社47製品,㉓30社122製品であるが,市場占有率は,⑮につき被控訴人エーアンドエーマテリアル(旧浅野スレート,朝日石綿工業),被控訴人ノザワ,被控訴人エム・エム・ケイ(旧三好石綿)の3社で96%(昭和43年),82%(同44年),74%(同45年),⑯につき上記3社で42%(同43年),39%(同44年),62%(同45年)であり,㉓では被控訴人ニチアス(旧日本アスベスト),同エーアンドエーマテリアル,同大建工業,同エム・エム・ケイ(旧三菱セメント建材)の4社で91%(昭和52年)と寡占状態であったから,被控訴人エーアンドエーマテリアル,同大建工業,同ノザワ,同ニチアス及び同エム・エム・ケイの5社が製造・販売した上記3種類が上記37名に到達した可能性は極めて高い。そして,【別紙大工-2】のとおり,上記5社は,短くとも16年間,長いものでは半世紀にわたり上記3種類を製造・販売し続ける一方,
上記37名は,
【別紙現場数一覧表】のとおりそれぞれ長年にわたり数百から千を超える建築現場で作業に従事したから,いずれも上記5社(控訴人番号21については被控訴人大建工業を除く4社)の製造・販売した上記3種類を直接に取り扱った高度の蓋然性があり,また,上記5社(同)の上記3種類の製造・販売行為は,相加的(重合的)競合における客観的共同の要件及び主観的要件を充たしており,民法719条1項後段が類推適用される。
もっとも,上記37名は,建築工事の工程のほぼ全部に関与し,
上記3種類以外の石綿含有建材をも直接取り扱った相当程度の可
能性があることから,一定の寄与率減額はあり得ることであるが,上記5社は上記3種類以外の石綿含有建材の製造・販売企業の多くも占めているから,減額すべき寄与率はわずかである。


塗装工
塗装を主たる業務としていた被災者は,【別紙塗装-1】記載の
4名である。
塗装工の作業内容は,①塗装作業前の清掃作業,②鉄骨等を塗装する際にそこに付着した吹付け材をこそぎ落とす作業,③塗装の下地調整としてモルタル壁やボードの表面を平滑にする作業,④塗り直しのための外壁や屋根のけれん作業などであり,①では前工程で飛散し堆積したボード類や吹付け材の石綿,②では吹付け材の石綿,③では混和材やボード類の石綿,④では外壁材や屋根材の石綿が飛散するが,ボード類,外壁材,屋根材は石綿含有率や飛散性が相対的に高くはない。
上記4名のうち控訴人番号15は,木造建物における作業が8割
を占めていたから吹付け材にはほとんど接触しておらず,昭和31年から平成3年までの35年間被控訴人ノザワが製造・販売していた混和材のテーリングに含まれる石綿粉じんに絶対的曝露してい
たと評価することができ【別紙塗装-2の1】,被控訴人ノザワの行為は択一的競合の要件を充足しており民法719条1項後段が
適用される。このほか,エーアンドエーマテリアル,大建工業,ニチアス,ノザワ,エム・エム・ケイの被控訴人5社が製造・販売した石綿スレート・フレキシブル板,同・平板,けい酸カルシウム板第1種も,同控訴人の主要曝露建材として追加する。
その余の3名は,鉄骨造の建物の作業にも相当程度従事したか
ら,【別紙塗装-2の2】のとおり,前記⒞の石綿含有吹付け材3種類及びテーリング(合計4種類,26製品,メーカーは前記⒞の9社)が主要な曝露原因といえる。上記3名は,【別紙現場数一覧表】のとおりそれぞれ40年以上の就労期間中に渡り歩いた建築現場数が極めて多く,主要な曝露原因となった建材が上記のとおり限定され,それらの製造・販売期間と上記3名の就労期間が相当長期にわたり重複することから,
上記9社が製造・販売した上記建材は,
上記3名がそれぞれ就労していた相当多数の建築現場に到達した
高度の蓋然性があり,また,上記9社の行為は,上記3名との関係でいずれも相加的(重合的)競合における客観的共同の要件及び主観的要件を充たしており,民法719条1項後段が類推適用され
る。


板金工
板金を主たる業務としていた被災者は,【板金工・別紙-1】記
載の3名である。
板金工が一般的に直接取り扱った石綿含有建材は,【別紙1】の
板金工欄記載の建材から,㉟窯業系サイディング,㊱複合金属系サイディングを除外した,㉝住宅屋根用化粧スレート,㊲スレート波板・大波,㊳同・小波,㊴同・その他の4種類186製品である。㉝については,昭和36年から同45年まではクボタが独占的に,昭和46年から平成13年まではクボタと被控訴人ケイミュー(旧松下電工外装)の2社の寡占状態にあり,昭和62年から平成元年までは被控訴人積水化学工業も9.9%~10.2%のシェアを有していた。㊲~㊴については,被控訴人エーアンドエーマテリアル(旧浅野スレート,朝日石綿工業),同ウベボード,同ノザワ,同エム・エム・ケイの4社がそれぞれスレート波板全体の10%前後から40%のシェアを占めていた。【別紙現場数一覧表】のとおり多数の現場で作業した上記3名は,上記被控訴人らの建材を使用して曝露した高度の蓋然性があり(㊲~㊴は,木造家屋工事がほとんどであった被災者控訴人番号65,同75の主要曝露建材から除外する。被控訴人ウベボードの㊲~㊴も,専属のスレート職人しか扱わないとされており,同34がこれに当たるか不明であるので除外する。
【板金工・別紙-2】),また,上記被控訴人らは相加的(重
合的)競合の客観的共同の要件及び主観的要件を充足する。


解体工・鳶
解体工・鳶を主たる業務としていた被災者は,【別紙

解体工-

1】記載の6名である。
解体工・鳶が直接取り扱う石綿含有建材は合計122社,142
9製品となるが,このうち,大気汚染防止法2条12号にいう特定建築材料に該当し,石綿則において解体等の作業の危険度がレベル1,2として規制されている石綿含有吹付け材,石綿含有保温材等(【別紙1】の①~⑭)は,いずれも主要な汚染源であるほか,環境省が設けた「建築物の解体等における石綿飛散防止検討会」(平成17年)の調査結果において高濃度の曝露が報告された石綿含有スレートボードのうち出荷量のほとんどを占めるフレキシブル板,平板(【別紙1】の⑮,⑯),石綿含有けい酸カルシウム板第1種(同㉓)も,発症の原因となった危険性が高い。そして,主に(6割以上)鉄骨造建物の解体を行ってきた者は,特定建築材料に該当する14種類が,専ら木造建物の解体に携わった者は,特定建築材料以外の3種類が,鉄骨造建物での解体が同程度か不明な者については,上記合計17種類が,それぞれ主要な曝露建材となると考えられる。
上記14種類の製造・販売企業で被控訴人となっているのは,被
控訴人エーアンドエーマテリアル,同ノザワ,同ニチアス,同ナイガイ,同新日鉄住金化学,同神島化学工業,同太平洋セメント,同日東紡績,同日本インシュレーション,同日本バルカー工業の10社であり,上記3種類の市場を寡占していたのは,前記

とおり

被控訴人エーアンドエーマテリアル,同大建工業,同ノザワ,同ニチアス,同エム・エム・ケイの5社であり,したがって,上記17種類の製造・販売をした被控訴人企業は,
上記10社に同大建工業,
同エム・エム・ケイを加えた12社となる。そして,各被災者の就労期間,経験した現場数(【別紙現場数一覧表】)や建物の構造・種類に応じて発症原因となった建材の種類と製造・販売企業を限定すると,控訴人番号22は10種類,上記10社に,同19は13種類,上記12社に,同56,同57はそれぞれ3種類,上記5社に,同27は13種類,上記12社に,同番号49は10種類,上記10社に,それぞれ限定され,それぞれの被控訴人企業はいずれも相加的(重合的)競合の要件を充足しており,民法719条1項後段が類推適用される。


被災者控訴人番号24,タイル工
【別紙タイル-1】記載の被災者控訴人番号24は,【別紙タイ
ル-2】
記載のとおり,
昭和60年1月から平成20年12月まで,
タイル工として建築作業に従事したほか,昭和48年4月から昭和52年3月まで,被控訴人エーアンドエーマテリアルの耐火被覆板「ブロベストボード」の切断作業に従事した。
タイル工は,①建物の床や壁に漆喰やモルタルを塗る作業,サッシ周り,土間コンクリートならし,天端ならしなどの作業を行うため,モルタルやプレミックス材を練る際に,混和材を混ぜ合わせる作業,②鉄骨造建物,鉄筋コンクリート造建物の壁や天井を塗る際にはみ出している吹付け材を剥がす作業,塗り作業の前に床に積もった粉じんの清掃作業などに従事するが,前記

の左官工と同様の

理由で,主たる曝露原因は混和材である。被災者控訴人番号24がタイル工として就労していた期間に被控訴人ノザワの混和材であ
るテーリングが到達していることは明らかであり,混和材を製造・販売した被控訴人ノザワ,同太平洋セメント,同日本化成ほか3社は重合的競合の要件を充足していた。
また,被控訴人エーアンドエーマテリアルが製造・販売した耐火
被覆板であるブロベストボードが被災者控訴人番号24に到達し
たことは明らかであるところ,ブロベストボードは,石綿含有率が40%で,含有石綿の種類が茶石綿であるため,混和材と同程度の危険性があって,被災者控訴人番号24の発症に寄与したことは明らかであり,
被控訴人エーアンドエーマテリアルも相加的
(重合的)
競合の要件を充足していた。
したがって,被控訴人エーアンドエーマテリアル,同ノザワ,同
太平洋セメント及び同日本化成は,被災者控訴人番号24との関係で共同不法行為責任を負うべきである。


鉄骨工
鉄骨工を主たる業務としていた被災者は,【別紙鉄骨工-1】記
載の控訴人番号58である。
鉄骨工が一般的に直接取り扱う石綿含有建材は,躯体からの除
去・剥離作業や作業中に接触することにより発じんする各種吹付け材(【別紙1】記載①~③),耐火被覆作業時に加工する同⑪石綿含有けい酸カルシウム板第2種,天井や壁などの開口作業時に加工する壁・天井材・床材各種(同⑮~㉚)であるが,吹付け材が極めて高い飛散性を有していてその除去・剥離作業は石綿粉じんの高濃度曝露をもたらすこと,鉄骨工は溶接・切断作業の際にも吹付け材を除去して溶接部位等を露出させるがその作業が相当長時間に及
ぶこと,溶接・切断作業に伴う天井材・床材の撤去作業は電動工具を用いることは少なく作業時間も比較的限定されることなどから,被災者の石綿関連疾患の発症は吹付け材の除去,剥離作業によるものであることは容易に推認される。
上記吹付け材を製造・販売したのは前記⒞の9社であり,建物新
築から解体までのスパンを20年としても,【別紙鉄骨工-2】記載のとおり各製品の製造・販売開始から20年以降と上記被災者の鉄骨工としての就労期間とが相当長期にわたり重複することから,上記9社が製造・販売した各製品が上記被災者に到達した高度の蓋然性があるというべきであり,また,上記9社が相加的(重合的)競合の要件を充足していることは明らかであるから,民法719条1項後段が類推適用されるべきである。


被災者控訴人番号53
同被災者は,空調用ダクトを組み立て,保温材を切断してダクト
に巻き付け,天井裏に潜り込んで吹付け材を剥がしながら設置作業を行ったほか,修理,解体作業も行っており,耐火被覆材として用いられる吹付け材3種類(【別表1】①吹付け石綿,②石綿含有吹付けロックウール,③湿式石綿含有吹付け材),使用建物がプラント等ではない保温材2種(同⑦石綿含有けい酸カルシウム保温材,⑩石綿保温材)を直接取り扱い,それらの石綿粉じんに直接的に曝露した可能性がある。これらの建材は,石綿粉じんの飛散性が高く主要な曝露原因となっており,その製造・販売企業13社(うち被控訴人企業はエーアンドエーマテリアル,ナイガイ,日東紡績,ニチアス,太平洋セメント,日本バルカー工業,ノザワ,新日鉄住金化学,日本インシュレーション,神島化学工業)が同被災者の関係における共同行為者である。

2
被控訴人企業らの主張
被控訴人企業らの原審以来の主張は,原判決の「事実及び理由」第2章第3節第7の2(原判決170~184頁)記載のとおりであるから,これを引用する。また,控訴人らの予備的主張に対する被控訴人企業らの主張は,民法719条1項後段の適用又は類推適用は,各被災者の作業現場に被控訴人企業の建材が到達したことが要件となり,共同行為者を特定する必要があること,控訴人らの主張する時期に石綿不使用義務はなく,被控訴人企業に警告義務違反もないことなどである。このうち予備的主張2で主要曝露建材の製造・販売企業とされている被控訴人企業らの主張は,次のとおりである。
被控訴人エーアンドエーマテリアル

共同行為者として特定された企業以外の石綿粉じんに曝露して石綿関連疾患を発症した可能性がある限り,択一的競合関係はなく,民法719条1項後段の適用は許されない。また,単独の行為が重合して現実に発生した損害をもたらしているという相加的(重合的)競合が認められるためには,少なくとも共同行為者の製品に係る石綿粉じんが当該被災者に到達したという到達の因果関係が高度の蓋然性をもって証明される必要があるほか,客観的共同と主観的要件も求められるべきである。控訴人らは,自ら直接取り扱った建材以外の建材からの複合的,間接的,累積的曝露という他原因の存在を自認している。


共同行為者の認定に当たっては,石綿非含有建材も含めた競合建材の生産量や出荷量を議論しなければならないはずである。また,建材メーカーにおいても,20年以上前の数値はもちろん,現在の数値であっても正確なシェアを算出することは不可能であり,控訴人らが依拠する資料も推計の根拠は不明である。また,建材が製造工場から建設現場で使用されるまでの間に多数の商社や卸売業者が介在して,それぞれの経営判断によって在庫を増減させたり仕入先や販売先を変更しており,シェアを維持したまま被災者に到達することはない。しかも旧朝日石綿工業では製造したスレート波板(小波,大波)の一定割合(東京では昭和40~50年代で5~6割,大阪では昭和43~45年頃で8~9割,高松では昭和45~51年頃で1~2割程度)を出荷せずに自社で受注した工事に使用していたことが考慮されていないのも誤りである。
被控訴人クボタ,同ケイミュー

民法719条1項後段が適用される択一的競合は,他に疑うべき者がいないなど要件が極めて限定されており,累積的競合や重合的競合は,いずれも到達の立証がされたことを前提とする類型である。マーケットシェアから到達の事実を推認することはできず,各製品の特徴や被災者の曝露歴など個別具体的事実が問題とされるべきである。マーケットシェアは随時変遷するのが通常であって一時期の資料から他の期間を推認するのは不合理である。建材に触れる可能性を議論するとすれば,本来は個別の被災者が取り扱った建材全体を分母としたシェアが議論されなければならない。屋根工が屋根材しか取り扱わなかったとしても,屋根材全体に占める住宅屋根用化粧スレートの割合は,平成14年に17.3%,平成15年に16.2%であり,住宅屋根用化粧スレート市場における旧松下電工外装のシェアは32.8%程度であったから,問題とされるべきマーケットシェアは前者に後者を乗じた5.54ないし5.18%にすぎず,これら全てが石綿を含むものでもなかった。


板金工は建物内外の金属板の加工,取付け作業を行う者であり,住宅屋根用化粧スレートの施工を行うことがあっても例外的である。また,被控訴人ケイミューの住宅屋根用化粧スレートの主要な用途は戸建住宅であり,鉄骨造建物及び鉄筋コンクリート造建物に通常使用される経験則はない。


石綿含有屋根材の施工に伴う石綿粉じんの時間荷重平均曝露濃度は,慶応大学が昭和62年5月に測定した押切カッターによる切断及び葺上作業時の個人曝露濃度を元に保守的に見積もっても,0.0017本/㎖にすぎず,そもそも石綿関連疾患の原因となることは考えられない。上記濃度は,昭和49年から平成9年までの許容濃度2本/㎖,平成13年に承認された最も厳格な評価値0.015本/㎖を下回るから,被控訴人ケイミューには自社製品の危険性につき注意義務の前提となる予見可能性がなく,他社製品からの曝露に起因する石綿関連疾患の発症について注意義務を負うものではない。被控訴人ケイミューの石綿含有屋根材は押切カッターで切断されるものであるが,例外的にサンダーで切断されたとしてもその石綿粉じん濃度測定結果は0.14本/㎖(15分の作業時間)であり評価値の0.15本/㎖を下回っている。

建材を購入するのは建設現場の環境を把握し現場作業者に注意喚起を行うべきビルダーや工務店等であり,控訴人らも建設現場で安全作業を行うことができるよう教育・訓練された専門職人であることも踏まえると,昭和53年以降,専門店・工事店等に対する文書の配布,施工者に対する小冊子の配布,施工説明書による警告及び端面保護材への警告表示によって,被控訴人ケイミューの警告義務は履行済みである。


被災者控訴人番号34は,断熱材,吹付け石綿,鉄道工場における鋳物作業やブレーキ関係作業に由来する石綿粉じんに曝露しており,同65は,けいカル板や石綿含有スレート波板を取り扱っていた。被災者控訴人番号65は,約39年間1日1箱程度喫煙しており,同75の被災者は,約30年間1日20本程度喫煙していたところ,両名の肺がんは医学的に石綿起因性を肯定することができない。したがって,いずれの被災者も被控訴人ケイミューの建材によって発症したと認めることはできない。被控訴人神島化学工業


保温工が曝露する建材には,石綿含有けい酸カルシウム保温材(けいカル保温材)以外に石綿保温材,国交省データベースに記載されていない不定形保温材(水練り(塗り)保温材),布系保温材(石綿糸,石綿織布,石綿リボン)等もあり,これらは石綿含有率が80%以上と非常に高く,保温工により頻繁に用いられていたから,けいカル保温材のみを主要曝露建材とするのは極めて不当である。被控訴人神島化学工業のけいカル保温材「ダイヤライト」は,非常に嵩張り輸送コストがかかるため,四国で製造された製品が首都圏で使用されることはほとんどあり得ず,プラント工事を行ったことのない被災者が使用する可能性もなく,石綿含有率が3%と他社製品より大幅に低い。控訴人らが被控訴人神島化学工業のシェアが昭和52年に19.8%であったことの根拠とする「断熱材市場の全貌」(甲C69)の信用性は乏しい。昭和54年に被控訴人神島化学工業が保温材を無石綿化した後も,他社から石綿含有率の高い保温材が出荷されていた。ビル工事においては一般にけいカル保温材は使用されず,また,ダイヤライトは高温となる築炉には使用されない。
控訴人番号23は,陳述録取書(甲E23の3)で石綿含有パーライト保温材や石綿保温材の使用を認めていたほか,勤務先の明星工業が製造していたけいカル保温材も使用したはずであり,労災申請段階で強調していた炉の解体・補修作業では被控訴人神島化学工業の製品は使用されておらず,昭和58年以降は石綿除去工事にも関与し吹付け石綿に曝露していた。加えて,昭和54年に特定化学物質等作業主任者の資格を取得し保護具の使用状況を監視する職責を有していたにもかかわらず,自らマスクを着用せず上記職責も果たしていなかった控訴人番号23の請求は,権利の濫用として許されないか,少なくとも大幅な過失相殺がされるべきである。同12について,当初の陳述書(甲E12の1)で保温材のメーカー,製品名を日本アスベスト(被控訴人ニチアス)のカポサイト,大阪パッキング製造所(被控訴人日本インシュレーション)のダイパライトと特定している一方,800度から900度の高温になるタービンに安全温度650度の被控訴人神島化学工業のけいカル保温材を使用することはできない。同13については,当初の陳述書(甲E13の1)で,朝日石綿工業(被控訴人エーアンドエーマテリアル)のシリカカバー,シリカボード,被控訴人ニチアスのシリカライト,被控訴人日本インシュレーションのダイパライト,ベストライトカバー,ベストライトボード,三井パーライト保温材を具体的に挙げており,労災申請の際の聴取書3(甲F13の2)では石綿リボンによる曝露を強調していたから,仮に被控訴人神島化学工業のけいカル保温材を使用したとしてもその頻度が大幅に低いことは明らかである。

解体工の石綿関連疾患の原因は,ほぼ吹付け石綿に限られる。被控訴人神島化学工業のけい酸カルシウム板第2種2製品は専ら高層ビルに用いられ,一般家屋の建築で使用されることはない。被控訴人神島化学工業のけい酸カルシウム板第2種の石綿含有量は,けい酸カルシウム板第2種全体のそれの4%程度にすぎず,
さらに,
けい酸カルシウム板第2種よりも,
石綿含有耐火被覆板,さらに吹付け石綿の石綿使用量が大幅に上回っている。


警告義務は,自らの製品として販売する者が負担すべきものであり,製造者が負担するものではない。被控訴人神島化学工業の製品は,いずれも石綿含有率が数%の非飛散系建材であってクロシドライトは使用しておらず,製造等禁止義務や民法709条に基づく警告義務はない。被控訴人神島化学工業のけいカル保温材及び石綿含有けい酸カルシウム板第2種は,昭和50年以降,石綿含有率が5%を超えておらず,安衛法57条に基づく警告義務もない。改修・解体工事において取り扱う作業員については,警告義務違反と損害との間に因果関係がない。石綿関連疾患と過失発生時期以降の石綿曝露との因果関係についての主張立証もない。建設作業現場における石綿粉じん曝露については,ゼネコンや工務店が直接責任を負うべきであり,建設作業従事者も石綿含有建材の存在を十分認識していた。保温作業は,石綿製造会社自ら又はその下請である専門会社が行っており,被控訴人神島化学工業としては,保温作業の現場ではマスク着用等がされているものと期待していた。
被控訴人新日鉄住金化学

被控訴人新日鉄住金化学が製造した吹付け材は,石綿含有吹付けロックウール1種類,製造期間は昭和43年4月から昭和53年3月まで10年間,含有する石綿はクリソタイルのみ,含有率は4~10数%(昭和50年以降は5%未満),使用対象は鉄骨造建物のみである。吹付け石綿の施工量及び吹付けロックウールの生産量の合計に占める上記吹付け材のシェアは,昭和43年から昭和53年まで2.1~10.4%,平均5.8%であり,昭和52年のシェアを4%とする資料もある。被控訴人新日鉄住金化学が販売したエスボードK-1号・同2号は,いずれも石綿含有けい酸カルシウム板第2種であるが,被控訴人日本インシュレーションに製造委託を行っていたもので,市場占有率がごく僅かであることからしても,被控訴人新日鉄住金化学に製造業者としての責任はない。


被控訴人新日鉄住金化学の石綿含有吹付けロックウールに含まれた石綿はクリソタイルのみであり,昭和47年時点で石綿の使用を中止すべきであったとはいえず,昭和62年に肺がん及び中皮腫の発症に閾値がないとの医学的知見が確立したとしても,昭和53年には製造・販売を終了したから,石綿不使用義務違反はなく,昭和50年改正特化則の代替化努力義務に反して製造・販売を拡大した事実もない。


被控訴人新日鉄住金化学が石綿含有吹付けロックウールを販売していた昭和53年以前に警告義務は認められず,仮に認められるとしても,被控訴人新日鉄住金化学は,施工上の要領,衛生管理(粉じん飛散防止のための養生囲いを行うことや防じんマスクの着用の義務付け等)を定めたロックウール工業会作成の標準仕様書に基づく作業マニュアルを作成し,それを徹底するために研修を受けて特約店として認定した事業者(認定特約店。東京では1社,大阪では2社)に対してのみ販売しており,実際に吹付け工はほとんど防じんマスクを着用する等をしており,上記作業マニュアルでは吹付け作業を行っている作業場で他の作業を行わないこと(使用者等においては関係しない者を現場に立ち入らせてはならないこと)も当然の前提とされていたから,警告義務を十分に果たしていた。認定特約店以外の元請事業者,現場監督,吹付け工以外の職種の建設労働者は,建材の包装等に表示された警告表示を確認する機会がなく,認定特約店に元請事業者に対する報告義務もないから,吹付け工以外の職種の建設労働者に対する関係では警告義務について結果回避可能性がない。また,昭和50年当時,被控訴人新日鉄住金化学の製品に含有される石綿は5%未満であったため,安衛法57条の警告表示義務は課されていない。

民法719条1項後段を適用するためには,加害行為が到達する相当程度の可能性を有する行為をした者を共同行為者として特定する必要がある。また,同項後段の類推適用を認めた判例は関連共同性を要件としているとの評価が可能である。被控訴人新日鉄住金化学は,資本金こそ50億円であるが,事業内容は炭素材を中心とするコールケミカルや基礎化学品の製造が中心であって,石綿含有建材の製造・販売はほんの一部を占めるにすぎず,石綿含有建材に関する前記の個別事情も考慮すれば,他の建材メーカーとの関連共同性を認めることはできず,共同行為者から除外されるべきである。


また,主要曝露建材の特定に当たっても,吹付け材は多数の石綿含有建材の一部を占めるにすぎず,被控訴人新日鉄住金化学が製造・販売したのは吹付け材3種類のうちの1種類のみであり,石綿含有率が格段に低く,製造期間が10年に限られ各被災者の就労期間との重なり合いも短いから,各被災者に対する到達の相当程度の可能性はほとんどない。公表されたシェアは不正確な推計値であり,年度が限られ,吹付けロックウールについては石綿含有と石綿非含有の区別がされておらず,シェアから建設現場への到達の蓋然性を認定するのは不合理である。また,クリソタイルしか使用されていないことを考慮すれば,健康被害との因果関係も限りなく0に近い。吹付け材を直接取り扱っていたのは吹付け工のみであり,それ以外の職種の者は曝露態様が全く異なり,接触量もごく微量にすぎない。電工について,吹付け材をハツるのは,事前の養生を行わず,かつインサートが吹付け材に埋もれた場合に,ごく小さい部分にするにすぎず,塗装工についても,吹付け作業時には作業場所を囲む養生がされ,作業場所は吹付け工が作業終了後に清掃している一方,堆積した粉じんにはボード類の切断によるもの等も含まれるから,いずれも吹付け材を主要な曝露原因とするのは誤りである。配管工や鉄骨工についても,被控訴人新日鉄住金化学を主要曝露建材の製造企業とするのは著しく不合理である。

被控訴人新日鉄住金化学が販売した石綿含有けい酸カルシウム板第2種について,具体的な出荷時期や出荷数量について実績記録さえ残っていないことは出荷数量がごく僅少であった証であり,いずれの被災者も就労期間と3年以上の重なり合いが裏付けられておらず,直接取扱い建材から除外されるべきである。
被控訴人積水化学工業


被控訴人積水化学工業は,平成2年に住宅屋根用化粧スレート「セキスイかわら」を非石綿化したが,昭和63年に発表された久永直見による測定結果(甲A368)では,屋根葺き用石綿スレートによる屋根葺きの場合の石綿粉じん濃度は作業者の鼻先であっても0.13本/㎖とされ,当時のクロシドライトを除く石綿粉じんの許容濃度2本/㎖を大きく下回っており,屋根材の石綿粉じん曝露による石綿関連疾患発症の危険性について予見可能性は認められなかったから,セキスイかわらの製造・販売につき被控訴人積水化学工業に警告義務や石綿不使用義務等の注意義務違反が成立することはない。

被控訴人企業らによる石綿含有建材の製造・販売行為に一体性を認める余地はないから,民法719条1項後段の適用ないし類推適用の基礎となるのは,個別の加害行為が権利侵害惹起の現実的危険性を有するとの点になるが,昭和62年から平成元年までのセキスイかわらの製造・販売行為を単独で評価すると,板金工である被災者らの石綿肺又は肺がん発症という結果を一部でも惹起する危険性を有していたとの具体的主張はされておらず,そのような事実関係も認められない。その前提である到達可能性についても,板金工である被災者3名は,被控訴人積水化学工業の指定販売工事店として登録されておらず,労災関係資料等からはセキスイかわらを使用していなかったと推認される。なお,被控訴人積水化学工業のシェアを9.9~10.2%とする資料もあるが,分子である被控訴人積水化学工業の販売量から無石綿製品分を控除し,分母である屋根材全体の販売量はより大きいと考えると,被控訴人積水化学工業のシェアは10%を大幅に下回る。


被災者控訴人番号34の石綿肺及び肺がんには,石綿布やコーキング材からの石綿粉じん曝露という有力な原因があり,危険性の小さい住宅用屋根用化粧スレートを原因と考えることはできない。また,被災者控訴人番号65及び同75の肺がんには,胸膜プラーク等の所見が認められず,有力な他原因である喫煙歴があるから,石綿曝露起因性が否定される。被控訴人大建工業


被控訴人大建工業が製造していたのは,石綿が数%混入され建材の中に固着された非飛散系建材であり,管理使用すれば問題がないとの知見が一般的であり,石綿使用禁止義務はない。また,これらの建材は建築作業従事者の健康にはほとんど影響しないから,被控訴人大建工業は民法709条に基づく警告義務を負っておらず,安衛法57条に基づく警告表示義務違反の事実もない。
改修・解体工事の際に曝露した建築作業員に対しては,
警告義務違反と損害との間の因果関係がない。控訴人企業らに過失が認められる時期以降の製造・販売行為と石綿関連疾患との個別の因果関係も主張立証されていない。そもそも,控訴人らの石綿関連疾患の発症は,現場を管理していたゼネコンや工務店
(一人親方の場合は本人)
の責任である。
建築作業現場で大量の石綿粉じんがあるとすれば,その大部分はクロシドライトが高濃度で飛散する態様で使用されている吹付け石綿の施工によるものであり,吹付け工以外の全ての建築作業従事者に及ぶ。また,混和材の影響も無視できない。
控訴人らは,民法719条1項後段の要件である共同行為者を特定していない。

けい酸カルシウム板第1種について,昭和49年には,被控訴人大建工業が販売していた製品は被控訴人神島化学工業製であったところ,被控訴人神島化学工業のシェアは3.57%であり,昭和53年には,主要メーカーに挙げられていないので,そのうち最下位のメーカーのシェア5.9%を下回ることとなり,昭和54年,55年も同様に5.7%を下回ることから明らかなように,多くても5%程度にすぎない。そして,昭和27年から平成2年までの石綿スレートボードの出荷量は,けい酸カルシウム板第1種と相互に代替可能なフレキシブル板が45%,平板が23%に対し,けい酸カルシウム板第1種が22%にすぎないから,上記ボード3種類における被控訴人大建工業のシェアはわずか5%×22%=1.1%にすぎず,その他大工が用いるスレートボード(軟質板,軟質フレキシブル板),パーライト板,パルプセメント板も加えると更に低くなる(特にパルプセメント板の出荷数量はけい酸カルシウム板第1種のそれと比べ遜色がない。)。また,被控訴人大建工業が販売したけい酸カルシウム板第1種(被控訴人神島化学工業製,商品名「ラックス」「カベサイトF-不燃」「カベサイトL」「カベサイトM」)の石綿含有率は,昭和47年~昭和55年12月は5~15%,昭和56年~平成3年12月は5%以下と,けい酸カルシウム板第1種の標準的な石綿含有率25%程度と比べて極めて低く,その推定石綿使用量9133トンはボード全体の推定石綿使用量160万1056トンの0.57%にすぎない。なお,「セラスター」は,納入先が3か所のトンネルに限られており,本件の被災者らが施工した可能性はない。

ロックウール吸音天井板について,被控訴人大建工業の製造・販売していた製品は,製品自体が柔らかいため,切断には電動工具ではなくボードカッターが用いられ,切断面をやすりがけすることもできないから,施工の際に全く粉じんが発生しない。その石綿含有率が1~4%と低いことからも,建築作業従事者が石綿に曝露する可能性は非常に低い。
被控訴人太平洋セメント


被控訴人太平洋セメントの石綿含有吹付けロックウール「スプレーコート」は,販売期間が昭和46年6月から昭和53年10月まで,石綿含有率は最大15%,昭和50年以降は5%以下である。被控訴人太平洋セメントは,昭和48年3,4月のみ試験的にクロシドライトを輸入したが,品質が悪くほとんど製品として出荷されることはなかった。鉄骨造建物に使用されたが,工場(プラント)や倉庫で使用されることはなく,基本的に耐火建築物の主要構造部のうち柱,梁等を耐火構造とするため使用された。もっとも,耐火被覆材には,吹付け石綿,石膏・バーミキュライト・セラミック等を主原料とする吹付け材,耐火被覆板,マット状のセラミックファイバーやロックウールなどがあり,耐火建築物である鉄骨造建物であっても石綿含有吹付けロックウールが使用されているとは限らない。また,準耐火建築物に使用されることは極めてまれで,天井・床に吹き付けることも圧倒的に少なかった。鉄筋コンクリート造建物でごく少量内装(吸音・断熱)用として使用されることもあったが,非常にまれであった。販売先は,基本的に各都道府県に1社ずつの,系列化された特定の吹付け施工業者に限定された。

被控訴人太平洋セメントの湿式石綿含有吹付け材「スプレーコートウェット」は,販売期間が昭和48年11月から平成元年11月までだが,昭和50年以降はほとんど販売されなかった。クリソタイルのみを使用し,石綿含有率は最大12%,昭和50年以降は5%以下であった。湿式工法は特殊な技術を要するため,施工会社は全国で数社に限られた。湿式工法は原料投入設備が大型で,施工費用も乾式工法の約2倍と高額なため,大型の鉄骨造建物の鉄骨梁,鉄骨柱にしか使用されなかった。


被控訴人太平洋セメントが両製品を販売していた吹付け施工業者は,厳重に防じんマスク等の装備を着用して作業を行い,原則として同じ階で同時並行作業は行わず,施工区画内への立入禁止,施工区画外への漏出防止のための養生,清掃等十分な現場管理を行っていたから,直接曝露,間接曝露等は発生しなかった。被控訴人太平洋セメントには,事業者の安全配慮義務の不履行に予見可能性はなく,建築作業従事者に直接警告する義務はない。包装への警告表示は,吹付け材は施工業者が荷受けをするため元請事業者その他の事業者が視認することはなく,現場監督を通じて吹付け工以外の職種に認識させることもできず,結果回避可能性がない。なお,元請事業者に対し,後続する職種の建築作業従事者や補修・解体工事の工事作業者に警告内容を伝える必要がある旨の警告をすることは,実効性の確保が困難で結果回避可能性が乏しく,法的義務とはいえない。
石綿含有吹付けロックウールは,吹付け直後は湿った状態で,1週間程度で乾くため,吹付け直後に他の職種が掻き落とし作業をしても掻き落とした量は極めて少量であって,石綿が飛散,浮遊する状態ではなく,また,乾燥後は少し体が当たった程度で剥離することもなかった。湿式石綿含有吹付け材は,吹付け作業時に粉じんが舞うことはなく,吹付け後はコンクリート状に凝固するので,他の職種が掻き落とすことは不可能で,体が当たっても剥離することはなかった。したがって,いずれも吹付け工以外の職種の主要曝露原因たり得ない。被控訴人太平洋セメントは,吹付け工以外の職種が両建材を直接取り扱うことを予見できなかった。電工や配管工が吹付け材を剥がしたとすれば,施工順序の誤りや取付け忘れなどにより例外的に行われたものにすぎない。通常は配管や配線を天井に取り付けた後に本天井を設置しており,天井裏での作業は一般的な作業工程とは合致しない。塗装工の曝露原因は,塗料やパテに含まれた石綿と考えるのが自然であり,塗装工の清掃作業の対象となる埃に吹付け材の石綿が含まれていたとしても「直接取り扱った」とはいえない。鉄骨工や解体工についても,改修工事では鉄骨等の躯体は原則として解体の対象とならず,また,平成3年まではスプレーコートが,平成5年まではスプレーコートウェットがそれぞれ使用された建物解体はほとんどされていないと考えられ,さらに被控訴人国の法令又は通達による規制が遵守されることにより石綿関連疾患が生ずるほどの石綿曝露は生じなかった。

被控訴人太平洋セメントの混和材「ニューコテエース」は,販売期間が平成4年4月から平成12年5月まで,鉄筋コンクリート造建物のコンクリート打ち継ぎ面の不陸調整のため薄塗り(厚さ3㎜以下),しごき塗り(同1㎜以下)をする際にコテ滑り(伸び)を良くするための用途でのみ使用され(作業改良材),タイル工がタイル圧着のために使用する貼付けモルタルや下地調整のために使用される下地モルタルには使用されず,タイル工が直接取り扱った建材とするのは誤りである。鉄筋造建物に使用されることもあるが,モルタルを使用する部位はわずかである。木造建物に使用されることはない。採用されたのは大手ゼネコンの物件程度で,シェアは毎年1%程度にすぎなかった。投入量はわずかで,投入後10秒ほどで水と馴染み,粉じんは少量かつ短時間しか立たないから,直接曝露のおそれはなく,練り混ぜは建物外で行われており,間接曝露等のおそれもなかった。被控訴人太平洋セメントは,信頼できる第三者機関にX線解析分析法及び偏光顕微鏡観察による調査を依頼し,石綿が含有されていないことを確認しており,仮に石綿が含まれていたとしてもこれを知り得なかったことに過失はない。

民法719条1項後段が類推適用される事案があるとしても,少なくとも,個別の被災者が従事する建築作業現場において石綿粉じんに曝露する可能性のある状態に置かれた石綿含有建材を製造・販売した企業を共同行為者として原告側が特定する必要がある。国交省データベースは,既に廃業している建材メーカーの製品,建材メーカーの確認がとれていないものなど,データに不正確性があるほか,それぞれの職種で常用する石綿含有建材であっても,建材種別単位で丸ごと捨象されたものが多数あり,国交省データベースに掲載された建材と混和材から主要曝露建材を絞り込んでも,共同行為者の範囲を限定したことにはならない。
被控訴人ナイガイ


被控訴人ナイガイは,吹付け材,耐火被覆材,石綿含有けい酸カルシウム板第2種を自社の施工工事のために製造・販売しており,他社に販売したり市場に流通させたことはない。また,昭和56年4月に被控訴人ナイガイに入社した者によれば,同人の入社当初から被控訴人ナイガイは自社の施工する現場に立ち入る者すべてに対してマスクの着用を義務付けるべく指導を行っており,実際にも施工現場に立ち入る者は皆マスクを着用していたとのことであり,同年1月頃から上記の運用が行われていた可能性が高い。以上からすれば,被控訴人ナイガイが警告義務違反を問われる余地はない。


控訴人らは,被控訴人ナイガイが電工,配管工,塗装工,鉄骨工の主要曝露建材である吹付け材を製造したことにつき,相加的(重合的)競合の場合として民法719条1項後段を類推適用すべきであると主張するが,そのためには,被控訴人ナイガイの建材が各被災者に現実に到達したことまで主張立証されなければならない。被控訴人ナイガイのシェアは,資本金,売上高,従業員数からみて,吹付け材3種の共同行為者とされた8社の中でせいぜい2%程度,場合によっては資本金の比率である0.14%しかない可能性があり,耐火被覆材全体では0.0597%にすぎず,被控訴人ナイガイの建材が各被災者に到達したとは認められない。また,被控訴人企業らは他社の行為を知るべくもなく,少しの石綿曝露でも累積すれば結果を発生させるとの認識もなかったから,相加的(重合的)競合における「主観的要件」も満たさない。少なくとも塗装工は,新築工事時に吹付け材を直接取り扱ったとはいい難い。

被控訴人ナイガイの資本金は2億円,従業員数は130名,売上高は102億5287万円であり,石綿含有けい酸カルシウム板第2種を製造したのは昭和58年から昭和62年の5年間である。石綿含有けい酸カルシウム板第2種は,
本件で被告・被控訴人とされていないイビデン株式会社,
小野田化学工業株式会社によっても製造されていたが,
資本金,
従業員数,
売上高のいずれをみても,前者は被控訴人ナイガイより非常に大規模な会社でシェアも相当高かったものと推測され,後者も少なくとも被控訴人ナイガイと同程度のシェアを有していたものと推測され,製造期間は両社とも被控訴人ナイガイより長いことから,両社の製品が存在した分,被災者が被控訴人ナイガイの製品を取り扱った可能性は低くなる。
被控訴人ニチアス


吹付け工以外の職種が吹付け材に,解体工・鳶がいずれかの建材にそれぞれ曝露するのは,既に設置された建材を剥がしたり壊したりした際の粉じんに曝露するものであり,元方事業者や建物所有者等が対処すべき問題であって警告義務の問題とはいえず,また,当該建材の包装に表示された警告表示に接する機会がなく,仮に警告義務違反があるとしても曝露との間に因果関係がない。

被控訴人ニチアスの保温材(【別紙1】⑥~⑧,⑩)は,専ら工場等における配管に用いられる製品であり,一般の建物建築作業において保温材を扱う職種は使用しない。また,バーミキュライト保温材は粉体の製品であり,成形保温材を前提とした切断・加工作業を伴わないから,主要曝露建材から除外されるべきである。
被控訴人ニチアスの湿式石綿含有吹付け材である「トムウェット」は,採算性の観点から超高層ビル等の大規模な現場において特殊な噴射機を用いなければ施工できなかったこと,被控訴人ニチアスが指定する少数の特定業者しか取り扱うことができない建材であったこと,施工中及び施工後も湿潤化されているためほとんど発じんしなかったこと,また,「ATM-120」も,トムウェットを使用しない現場で用いられることはほとんどないことから,石綿含有吹付け材に曝露したと主張する被災者においてトムウェット,ATM-120に曝露する機会はほぼない。「ミネラックス」は,化粧塗り材であり鉄骨や天井裏の耐火被覆のために用いられるものではない。


配管工は,デッキプレート等のコンクリートスラブに穴を開ける作業に従事するため,コンクリート粉じんに曝露しており,石綿肺ではないけい肺に罹患しやすい。
電工は,鉄筋コンクリート造及び木造の建物では石綿含有吹付け材の粉じんに曝露した可能性はなく,鉄骨造の建物においてもアンカーボルトを探すために天井裏に直接吹付けられた吹付け材を剥がす必要のある現場は多くないことなどから,主として曝露した石綿粉じんは天井材や壁材を切断,加工したことに基づくものであるといえる。
大工の関係で主要曝露建材とされるけい酸カルシウム板第1種は,一般的に,木造住宅では軒天や水回り等に限定されており,鉄骨造又は鉄筋コンクリート造の建物では間仕切り等の内装用途に用いられることがあるもののそれらの大半は石膏ボードである。石膏ボードは,加工時に表面に貼られた石綿紙から発じんすることが考えられ,大量に切断する際には電動工具が用いられることもある。大工が主に曝露するのはけい酸カルシウム板第1種ではなく,主要曝露建材から石膏ボードを除外するのは適切ではない。
塗装工がけい酸カルシウム板第1種から曝露を受けるという清掃作業は,各職種がそれぞれ行うものであるから,塗装工が自らが曝露する量は極めてわずかである。さらに,外装等に用いられるリシンの吹付けは,一般的に多くの塗装工が行っており,吹付けという工法も相まって,空中に飛散したリシンに含まれる石綿粉じんに曝露するのが通常であり,リシンを主要曝露建材としないのは不合理である。
鉄骨工は溶接作業を行うところ,かつて火気養生に用いるシートに石綿布を用いることが一般的であり,非常に埃っぽいものであったため,その切断やその他の取扱いの都度,多量の粉じんが発生しており,溶接工ではこれが主要な曝露場面とされている。

控訴人らが根拠とする国交省データベースは,わが国で石綿含有建材を製造・販売してきた企業の全てを網羅するものではない。また,控訴人らが主張するシェアは,各就労期間のわずか数十分の一に妥当するにすぎない。


被控訴人ニチアスは,昭和50年以降,包装のある建材については「原則として個装,内装,外装にそれぞれに行う」こととし,包装のない建材については「さし込み型又は荷札型の表示ラベル…を付けるか,製品自体に接着型表示ラベルを貼付又は印刷することにより表示を行う。」ものとして,安衛法57条の警告表示を実施した。遅くとも昭和63年当時までには石綿の発がん性をほぼ全ての建築作業従事者が認識しており,実際に防じんマスクの着用や集じん機つき電動工具の使用をしていた者も相当数存在しており,石綿の発がん性や防じんマスク等の対策が必要なことまで警告表示に記載し尽くさなければ知り得ないなどということはあり得ない。「a」マークも,建材を職業的に反復継続して取り扱う建築作業従事者に対する警告表示として,特に解体時等に十分に機能する。なお,被控訴人ニチアスが販売した石綿含有率5%未満のものは湿式石綿含有吹付け材に限られるが,被控訴人ニチアスが指定する少数の特定の業者しか取り扱うことができない建材であるため,本件の被災者らのような一般の建築作業従事者が施工に従事することはなく,その性質上,施工後に表示をすることは不可能であることから,本件の被災者らに対する警告義務は問題とはなり得ない。

労災認定要件は被災者救済という政策的考慮に基づいて設定されており,労災認定要件を充足したことの主張立証では民事損害賠償の要件たる相当因果関係を肯定するレベルには及ばない。喫煙による肺がん発症の相対リスクが大きい場合にはほぼ喫煙によって発症したものと評価することができるから,相当因果関係が否定されるべきであり,少なくとも大幅な過失相殺がされるべきである。
被控訴人日東紡績


昭和36年から昭和50年までの間,被控訴人日東紡績が製造・販売したロックウール吹付け材は,「スプレーテックス(12~20%)」(耐火被覆材,乾式工法)のほか「スプレーテックス(15%)」(断熱・内装材,乾式工法),「スプレーウェット」(耐火被覆材,湿式工法)があり,これらを併せてシェアが算出されていた。したがって,「スプレーテックス(12~20%)」のシェアは,昭和49年はロックウール吹付け材全体のシェアに,耐火被覆材と断熱・内装材との合計のうち耐火被覆材が占める割合40%,耐火被覆材のうち乾式工法が占める割合80%を乗じた3.67%と推定され,昭和51年も,同様の方法で4.6%と推定される。また,「スプレーウェット」のシェアも,昭和49年は上記と同様の方法で0.9%と推定され,昭和52年は0%と推定される。さらに,乾式工法による耐火被覆材は昭和51年以降,乾式工法による断熱・内装材のうち非カラー品は昭和55年以降,同カラー品及び湿式工法による耐火被覆材は昭和63年以降,それぞれ非石綿化されたから,昭和51年以降の石綿含有建材のシェアは非石綿化された製品のシェアを除いた残りとなる。そして,いずれの製品も,被控訴人日東紡績又はその子会社が認定した特定の下請業者のみが取り扱い,一般の吹付け業者は取り扱う可能性はなかった。特に「スプレーウェット」は,工事金額が高額となり,高額かつ特殊な吹付け機械が必要で,高度な技術をもった左官工でないと施工が困難なため,ほとんど市場に流通することがなかった。このほか,クリソタイルのみを使用していたこと,被控訴人日東紡績で石綿含有建材の製造・販売に従事していた従業員のうち中皮腫に罹患した者,石綿関連疾患で死亡した者は現時点で存在しないこと,「スプレーテックス(12~20%)」は吹付け後のコテ押えという作業により表面が平滑で飛散しにくい状態となり,「スプレーウェット」も左官工によるコテ作業により仕上がりがカチカチに硬化し飛散しにくい状態となることなどから,いずれの製品も到達の高度の蓋然性が認められない。

解体工・鳶については,そもそも,警告表示による結果回避可能性がない。また,解体工・鳶では,石綿含有ロックウールのうち断熱・内装材も主要曝露建材とされているが,昭和36年から昭和54年にかけてシェアが約3.2~6.8%程度と推定され,昭和55年から昭和62年にかけてその半分程度にとどまる。このほか,「スプレーテックス(12~20%)」,「スプレーウェット」と同様の事情から,これら3種類のいずれについても到達の高度の蓋然性が認められない。

鉄骨工についても,改修工事の際の解体作業によって石綿に曝露したと主張するのであるから,警告表示による結果回避可能性がない。
被控訴人日本インシュレーション


被控訴人企業が製造・販売した石綿含有建材が被災者の作業現場に到達したことが,加害行為(侵害行為)であり,個別の特定及び証明が必要である。作業現場で使用される建材は元請業者や下請業者の取引関係などから必然的に決まるものであり,シェアや現場数から確率論で証明することはできない。また,「加害者は共同行為者のうちの誰かであり,他に疑いをかけることができる者は1人もいないこと」は,民法719条1項後段の共同不法行為成立のための必須の要件である。控訴人らのいう「相加的(重合的)競合」の客観的共同の要件は,建材が各被災者に到達したことの現実的な可能性の立証がされていない以上該当せず,主観的要件としては,個別の被災者についての被控訴人企業の認識が必要であるが,そのような認識のなかったことは明白である。


保温工及び被災者控訴人番号53の主要曝露建材とされている保温材は,共同行為者として特定された企業の他にも多数のメーカーが,国交省データベースに挙げられていないものも含め様々な建材を製造・販売しており,昭和52年の全保温材における被控訴人日本インシュレーションのシェア(体積換算)は0.838%を下回る。被控訴人日本インシュレーションの保温材は,プラントメーカーが元請となる発電所や石油化学プラントなどのプラント建築物にのみ使用される,石綿含有量が4~10%の成形品であり,基本的に切断・加工が不要で,例外的に加工する際も屋外で手鋸を用いてするため,粉じんの飛散性は低い。控訴人番号13については,長年にわたり船舶内の配管等の修理作業,自動車のブレーキ等の製作作業,ビル等での作業で石綿粉じんに曝露しており,被控訴人日本インシュレーションの製品が主要曝露建材であるとはいえない。控訴人番号23については,そもそも勤務先の明星工業株式会社が自社で製造していたけい酸カルシウム保温材を使用していたはずであり,石綿除去作業の監督業務の際に石綿粉じんに曝露したことも明らかであるのに対し,被控訴人日本インシュレーション(旧株式会社大阪パッキング製造所)の製品は使用した具体的記憶を有しておらず,昭和54年に無石綿化した後のものであった可能性が高い。控訴人番号12については,作業場所や作業方法を具体的にみると,被控訴人日本インシュレーションの製品を使用していないか,少なくとも主要曝露建材に当たらないことが明らかである。被災者控訴人番号53について,被控訴人日本インシュレーションの保温材は同人が専門に行っていた空調用ダクトに係る作業には使用されないものである。

解体工・鳶については,そもそも警告義務に結果回避可能性がない。また,日本全体における石綿含有建材での石綿使用量からみた被控訴人日本インシュレーションの割合は昭和46年から平成13年までの間で0.14%にすぎないこと,被控訴人日本インシュレーションの製品は,木造建物では過去の実験的な数例を除き使用されたことはなく,鉄骨造建物等では被控訴人日本インシュレーションの製品を使用した建物が解体されるのは平成10年以降であり,既に発症している本件の被災者らの石綿関連疾患の原因となったとは考え難く,改修工事では鉄骨を除去しない限り改修工事で取り外されることはないことなどから,いずれの被災者についても被控訴人日本インシュレーションの建材が石綿関連疾患の原因になったとはいえない。なお,煙突用石綿断熱材【別紙1】⑭に分類されている被控訴人日本インシュレーションの製品は,けい酸カルシウムを主原料とし石綿を補強繊維として4.3~8.4%含有する「(石綿含有)けい酸カルシウム煙突用断熱材」であり,煙突用石綿断熱材には該当しない。被控訴人日本化成

被控訴人日本化成は,第三者機関である株式会社ニッテクリサーチ,熊本県工業技術総合センターのX線回析分析法及びSEM/EDAX分析法による判定で石綿非含有が確認された原材料を使用して,混和材2製品を製造・販売していた。平成16年にX線回析分析法ではクリソタイルが含有されているにもかかわらず非含有と判定される場合のあることが発覚し,同年以後,被控訴人日本化成は混和材の製造を中止している。同年以前には微分熱重量法による石綿含有の判定を行うことは期待することができず,被控訴人日本化成には予見可能性がなかった。


被控訴人日本化成の混和材は,九州工場及び関西工場で製造されたもので,流通経路上,関東で販売されることはなかったから,到達可能な企業間の競合関係がなく,民法719条1項後段の類推適用はない。


混和材は,被控訴人ノザワが90%以上のシェアを有しており,他のメーカーは10%未満のシェアの中で製造したにすぎず,責任企業たり得ない。
被控訴人日本バルカー工業


被控訴人日本バルカー工業は,過去に石綿含有建材を製造・販売したことがない。控訴人らが主張する建材は,関連会社である日本リンペット工事株式会社(以下「日本リンペット」という。)が被控訴人日本バルカー工業から付与された実施権をもとに製造,使用したものであるが,両社が密接不可分な関係にあったとはいえない。日本リンペットが昭和35年頃から昭和39年頃まで被控訴人日本バルカー工業から石綿原料を購入していたのは,日本リンペットが事業開始間もないことからにすぎず,日本リンペットが昭和56年頃から被控訴人日本バルカー工業の売上高を増加させるためにその貿易部を経由して石綿原料を輸入したのも,形式的な措置にすぎず,実態は石綿原料の種類,数量,価格等を日本リンペットが直接商社と交渉して決めていたのであり,被控訴人日本バルカー工業が日本リンペットの建材につき責任を負う理由はない。

日本リンペットは,製造した石綿含有建材を自らの工事施工のために使用しており(協力会社を含む),石綿含有建材を販売して流通におくという,控訴人らが主張する加害行為の事実はない。日本リンペットの工事を施工したのは10社程度の下請企業に限られ,被災者らは日本リンペットの従業員ではなく,その下請社員として石綿含有建材を取り扱う業務に従事した事実もないので,日本リンペットの製品により直接石綿の曝露を受けたことはなく,被災者らに対する一般的な警告義務違反を理由とする不法行為責任の主張は誤りである。また,日本リンペットは一般木造建築の施工には全くかかわっておらず,木造建築の割合が高い被災者の疾病と日本リンペットの石綿含有建材とは因果関係がない。


民法719条1項後段の適用又は類推適用をするためには,共同行為者の人的範囲が特定されなければならないが,控訴人らはこの特定をしていない。また,日本リンペットが使用した石綿は,昭和49年を例にとれば年間618トンであり,同年に石綿含有建材に使用されたと推定される石綿輸入量35万トンの7割24万5000トンのうち0.25%にすぎず,吹付け石綿におけるシェアも微々たるものであって,控訴人らに対する責任はないか,微々たる寄与度にすぎない。


被災者のうち,MRI又はCTスキャンを行っていない者,石綿小体等について未検査,不存在又は不明な者,喫煙歴を有して肺がんに罹患した者については,石綿粉じんと疾病との因果関係が十分に立証されなければならない。


石綿粉じん曝露を防止するためには防じんマスクを使用することが最も重要であり,石綿製品の加工等の作業に従事する労働者は旧安衛則が制定された昭和22年から適切な呼吸用保護具の使用が義務付けられていたにもかかわらず,これを使用しなかった被災者には過失があるので,過失相殺として考慮されるべきである。
被控訴人ノザワ

被控訴人ノザワは昭和50年以降,安衛法57条に基づき一定の場合に表示義務を負っていたが,被災者らの石綿関連疾患を発症させる原因力を有する加害行為は雇用主や元請人の安全配慮義務違反であるのに対し,表示義務は譲渡・提供の相手方に対する義務であって事業主やその労働者に対して負うものではなく,被控訴人企業らも雇用主等に対して何らかの影響力を行使し得る立場になく,表示義務違反は安全配慮義務違反に一定程度寄与した可能性があるにとどまることから,安全配慮義務違反を起点として共同不法行為の成否を検討すべきである。したがって,控訴人らは,本来,安全配慮義務違反を特定するため,少なくとも工事の時期,場所,内容等を特定した上で,特定の工事に被控訴人ノザワの石綿含有建材が供給された事実,石綿肺及び肺がんに関しては到達が相当長期間にわたり25本/㎖×年を超える石綿粉じんに曝露した蓋然性が高い事実を主張立証すべきである。


テーリングの使用により発生する石綿粉じん濃度に関し,被控訴人ノザワが,配合及び混合法の異なる3通りの場合について,舟を使いスコップで混練する作業を,30分に1回の頻度で2回繰り返し,1時間測定したところ,作業環境における石綿粉じん濃度は最大でも0.065本/㎖,個人曝露濃度の最大値は0.035本/㎖であった。電気ミキサーで攪拌する場合も,舟とスコップを用いた混練作業に比べて粉じん量が多いとしても,作業時間は短くなるから,上記測定値を参考にすることは不合理ではない。なお,テーリングの石綿含有率は,100%と表示されていた時期があるが,実際には45%であった。上記測定値を前提にすれば,仮に1日8時間,週40時間攪拌作業を行い曝露し続けても,その曝露量は1年間で石綿肺の閾値の約380分の1にすぎない。控訴人番号1の場合,混練作業は午前,午後それぞれ4,5回ずつ,時間は多くて午前,午後各1時間程度であり,防じんマスクを着用せずにテーリングを使用したのは昭和55年頃から昭和60年頃までの5年間程度であること等からすれば,テーリングの使用により曝露した可能性のある石綿粉じんは石綿肺の発症に全く影響を及ぼさないものであり,他の左官であった被災者についても同様であったと考えられる。他方,左官工は,混和材の練上げ作業以外にも,他の直接取扱い建材である仕上塗材や下地調整塗材には茶石綿を含有するものや石綿含有率が40%近いものがあり,これらからの曝露,間接曝露,堆積曝露をしており,左官工の主要な曝露原因は,混和材の使用以外の曝露である。
左官について,
共同行為者の範囲が確定されておらず,
択一的競合関係にあるとはいえない。塗装工は,研磨したモルタルの壁面にテーリングが使用されていたかどうか全く不明であり,タイル工も,左官工に比べ攪拌作業により混和材に曝露する可能性がある機会は相当少なく,
いずれも,
混和材からの曝露が仕上塗材や下地調整塗材からの曝露,
間接曝露などと比して相対的に高いとはいえない。被災者控訴人番号24は昭和61年以前に従事した石綿粉じん作業が肺がん発症の主たる原因である可能性が相当存する。

控訴人らは,フレキシブルボード,平板,スレート波板について,市場占有率に基づく絞込みを試みているが,データが一部の年代についてしかなく,スレート波板に関しては「その他」が40%以上も占めていることから,到達した高度の蓋然性のみならず,相当程度の可能性すら認められない。吹付け石綿のシェアについても,月間生産能力に基づくものがあるなど不合理である。


被災者らが,社会通念上期待される建材の使用者として有する知識,能力を基準にすれば,通常尽くすべき調査により,石綿含有建材の危険性の内容,程度及び取扱い上の注意事項を知ることは十分可能であったことから,被控訴人企業らは被災者らに対して警告義務を負わない。
被控訴人エム・エム・ケイ

民法719条1項後段を適用するためには,被害者は,択一的競合関係にある行為者を特定した上で,それ以外の者によって当該被害者の権利・法益侵害がもたらされたものではないことを主張立証する必要があり,累積的競合等の場合に同項後段を類推適用するには,加害行為が現実に到達したことを主張立証する必要がある。


大工に対する主要曝露建材とその共同行為者の特定は,個々の被災者ごとの事情を検討していない点,鉄骨造建物の建築作業に従事した者には,吹付け材による高濃度の石綿粉じんへの曝露可能性があり,木造建物の建築作業に従事した者についても,一般的な木造の戸建住宅ではボード類の圧倒的多数を石膏ボードが占めていると言われており,カッターで切断されることも多いけい酸カルシウム板と石綿粉じんの飛散可能性に大差がないにもかかわらず,吹付け材や石膏ボードを無視している点,一時期の正確性を欠くデータをもとに市場占有率を算定している点で,合理性がない。上記特定は,予備的主張1において控訴人自らの記憶に基づいてその建材を使用していたと主張している企業を除外する結果となっており,論理的に破たんしている。


被控訴人エム・エム・ケイが製造・販売した石綿含有建材のうち,フレキシブル板について,昭和60年以降,平成4年に千葉工場を閉鎖するまでの間に同工場で生産したものの9割以上は,積水ハウス株式会社関東工場向けの特別仕様のもので,指定されたサイズに全て加工して同工場に納入し,同工場においてパネルに組み立てられて現地に納入されたので,一般の大工が加工することはなかった。また,けい酸カルシウム板第1種については,平成3年以降,無石綿製品を製造・販売しており,平成5年以降は出荷量の9割超を無石綿製品が占めていたから,同年度以降についてはその石綿粉じんに大工その他の建築作業従事者が曝露する可能性は極めて低い。

被控訴人エム・エム・ケイは,他の企業と異なり,建材の包装に安衛法57条所定の警告表示を行ってきた。表示内容は,昭和50年表示通達に従っていたが,建築作業従事者に対する安全配慮義務を負う建設事業主は,建築作業の専門家として各種建材に関する十分な知識を有しており,上記表示内容を見れば防じんマスクの着用を励行すべきことを十分に認識し得るから,適切な警告表示を行ったものといえる。

第7

被控訴人企業らに対する控訴人らの請求権の消滅時効の成否(争点6)について

1
被控訴人企業らの主張
控訴人らは,国交省データベース等から石綿含有建材を製造販売したものを容易に加害者とすることができ,遅くとも労災認定等を受けた時点で石綿が原因で特定の疾患に罹患したとの認識に至っており「損害及び加害者を知った」(民法724条前段)といえる。したがって,控訴人番号6,11,14,15,16,19,20,22,23,34,35,37,40,42,51,53,60,61,71,75の控訴人らについては,労災等の認定日から訴訟提起までの間に既に3年を経過しており,消滅時効が成立する。
2
控訴人らの主張
争う。労災認定等を受けた時点では,「損害及び加害者を知った」とはいえない。

第8
1
被控訴人国と被控訴人企業との共同不法行為の成否(争点7)について控訴人らの主張
本件では,被控訴人国が自ら石綿含有建材を建築基準法2条7号ないし9号の建材に指定・認定し,建築作業従事者の生命・健康に対する危険な状態を積極的に創り出したことを前提とした,違法な行為加担者としての固有の責任が問われている。被控訴人国の指定行為による作為責任が認められる場合はもちろん,規制権限不行使の責任が認められる場合でも,その責任は,後見的な補充責任に止まらない,違法な行為加担者としての固有の責任として成立し,被控訴人企業らとの共同不法行為となる。
2
被控訴人らの主張
民法719条1項前段の共同不法行為が認められるためには,各人の行為が相関連・共同して1個の違法行為をなすこと又は客観的に1個の共同行為があると見られることが必要であり,同項後段の共同不法行為であれば,違法行為の前提となる集団行為に客観的関連共同性が必要である。国が規制のための省令を制定しなかったからといって,規制対象者の責任を免責したものではなく,規制権限不行使との関係で不十分と指摘された規制も,規制対象者の責任や注意義務を減免する性格のものではない以上,国の規制権限の不行使と規制対象者の不法行為は,共同加功して他人に損害を生じさせるような関係にあるとはいえず,関連共同性を認めることはできない。

第9
1
控訴人らの損害額(争点8)について
控訴人らの主張
控訴人らの包括一律請求は,個別の財産的損害の賠償請求を含まず,基本的には,財産的損害の要素を加味して,損害の総体を慰謝料として評価し,社会通念上妥当な範囲内で損害額をある程度区分定額化して算出するものである。石綿関連疾患による健康被害の重大性,被控訴人らの加害行為の悪質性,制裁的慰謝料論,じん肺訴訟判決等における慰謝料額,被控訴人企業らの救済金制度や企業と労働組合とのじん肺補償協定との比較,交通事故訴訟における慰謝料額との比較といった諸要素を考慮すると,控訴人らが被った身体的,精神的苦痛に対する慰謝料は,被災者1人当たり3500万円を下らない。石綿関連疾患に罹患することは死と直面するに等しく,石綿肺は進行性,不可逆性の疾患であるから,死亡被災者と生存被災者,じん肺管理区分で慰謝料額に差を設けるべきではない。控訴人らは,別訴の提起を含め別途財産的損害を請求する予定はなく,被災者1人当たり3500万円(弁護士費用含まず)を請求するのは妥当である。
被控訴人らの主張は争う。喫煙歴は,疾患でも違法でもないから,減額も過失相殺もすべきでない。被控訴人国は損害全部について一次的な責任を負っており,責任範囲を限定する法的根拠もない。被控訴人国の責任期間内の曝露期間の長短により減額される理由もない。
2
被控訴人国の主張
控訴人らが石綿関連疾患に罹患しないよう安全配慮を尽くす責任は第一次的に控訴人らの使用者にあり,被控訴人国の責任は二次的,補充的責任にとどまる。被控訴人国が規制権限を行使していれば控訴人らに生じた損害を全部回避できたとはいえず,被控訴人国の規制権限不行使と控訴人らに生じた全損害との間に相当因果関係が認められるとはいえない。損害の公平な分担の見地からも,被控訴人国の責任は使用者の責任よりも限定された範囲にとどまるというべきである。
控訴人ら及びその使用者が労働関係法令に基づく義務を順守していなかったこと,労災保険給付及び石綿健康被害救済法による給付を受給していること,責任期間内における曝露期間が短く曝露量が少量にとどまる者や長年の喫煙歴を有する者はそれらの事情が,それぞれ考慮されるべきである。
3
被控訴人企業らの主張
防じんマスクを着用していなかったこと,肺がんに罹患した者が喫煙歴を有したことは,過失相殺として考慮されるべきである。

第3章

当裁判所の判断

第1節

被控訴人国の権限行使の前提としての医学的知見の形成状況(争点1)について
第1

被控訴人国の規制権限行使の前提としての求められる医学的知見の程度本件においては,建材からの石綿粉じん曝露により建築作業従事者に生じた健
康被害を防止するために,国が規制権限を行使しなかったことの違法性が争われているところ,その判断にあたっては,規制権限の不行使が違法であると主張されている各時点において,国が把握可能であったリスクの考慮要素として,石綿関連疾患の重篤性,石綿粉じん曝露と疾患発症の因果関係,さらには石綿粉じん曝露量と疾患の発症リスクに関する医学的知見の形成状況が問題となる。規制権限行使の前提として,どの程度の医学的知見の確実性が要求されるかについては,国の規制権限の行使は,規制を受ける者のみならず規制対象となる活動により便益を受ける者も含めて国民に広範な影響を及ぼし得るものであることから,規制の内容及び態様に応じて,権限行使の必要性を合理的に基礎付ける程度の確実性が求められるというべきである。しかるところ,本件において,控訴人らが被控訴人国によって行使されるべきであったと主張する規制内容は,いずれも,それまで社会的有用性が認められて広く使用されてきた建材について,使用禁止も含めて罰則を伴う広範な内容に及ぶものであることから,少なくとも石綿関連疾患の病態,石綿がこれらの疾患の原因物質であることについて,確実といい得る程度に医学的知見が形成されていることが必要であるというべきである(本件において,石綿肺,肺がん,中皮腫が,問題とされる各時点において,重篤な疾患であると認識されていたことについては争いがない。)。この点,控訴人らは,石綿がこれらの疾患の原因となることについて相当程度の蓋然性を示す医学的知見が備わっていれば足りると主張するが,既に述べたところに照らして採用できない。
他方で,
石綿がこれらの疾患の原因物質であることの医学的知見の形成・
確立を前提として,石綿粉じんの曝露量とこれらの疾患の発症リスクとの関係については,その詳細についての医学的知見の形成・確立までは必要なく,規制の内容及び態様に応じて,その必要性を合理的に基礎付ける程度の医学的知見の集積があれば足りると解される。
第2

疫学における特定要因と特定疾患との因果関係の確定プロセスについて原判決の「事実及び理由」第3章第2節第1の2(原判決197~198頁)
に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3

石綿肺についての医学的知見の形成状況
我が国において,石綿肺の罹患の実態,臨床像,石綿粉じん曝露との因果関係,
石綿粉じん曝露量と石綿肺の発症リスクなど石綿肺に関する医学的知見が確立したのは昭和33年3月頃であると認められる。その理由は,原判決199頁5行目の「その結果」から同頁19行目の末尾までを次のとおり改めるほか,原判決の「事実及び理由」第3章第2節第2(原判決198~201頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
「昭和31年度及び昭和32年度の
「石綿肺の診断基準に関する研究」
によって,
石綿肺の罹患の実態,臨床像,石綿粉じん曝露との関係などが明らかとなり,診断基準の設定にまで到達した。
この研究の報告は,
昭和33年3月に発表された。
以上の事実関係によれば,昭和32年度の上記研究報告がされた昭和33年3月頃には,石綿肺に関する医学的知見が確立したと認めるのが相当である。」第4
1
肺がん・中皮腫に関する医学的知見の形成状況
石綿粉じん曝露と肺がん・中皮腫の発症との因果関係についての医学的知見の形成状況
当裁判所も原審と同様に,石綿粉じん曝露と肺がん及び中皮腫の発症との因果関係について医学的知見が確立したのは昭和47年頃であると認める。その理由は,次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」第3章第2節第3の1から3まで(201頁~208頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決205頁3行目の「石神伸」を「石西伸」と,同頁10行目の「第1節6のとおり」から同頁11行目の末尾までを「旧特化則の制定に当たり設置された労働環境技術基準委員会の同月21日付け報告書(乙アB15)では,石綿をがん原性物質と扱っていなかった。」とそれぞれ改める。原判決206頁17行目の末尾に「(甲A148)」を加え,同207頁6行目の「記述している。」を「記述している(甲A29)。」と,同207頁21行目の「石綿に発がん性があること」を「石綿粉じん曝露と肺がん及び中皮腫発症との間に関連性があること」とそれぞれ改める。
2
石綿粉じん曝露量と肺がん・中皮腫発症リスクについての医学的知見の形成状況
石綿粉じん曝露と肺がん・中皮腫の発症との間に因果関係があることについての医学的知見が形成・確立したのは,既に述べたとおり,昭和47年のILO及びIARCを契機としてであるが,その時点以降の石綿粉じん曝露量と肺がん・中皮腫の発症リスクに関する医学的知見の形成状況について,以下のとおり認めることができる。
昭和47年当時

肺がん
昭和47年のIARCの報告書(甲A150の1及び2)は,「全般的展望」として,「一部には過去の粉塵測定法を基にし,また一部には産業内の仕事の種類を基にしている曝露-反応の関連性についての証拠から,職業曝露のレベルが低い場合には,過度の肺がんリスクは検出されないことが示唆されている。」とし,また,「今後の研究に関する勧告」の中で,「石綿への曝露レベルを石綿肺発現のレベル以下にまで引き下げることにより癌のリスクの上昇も除去できるか否かについての研究は,重要であると考えられる。」としており,翌年に刊行されたIARCのモノグラフ集第2巻(乙アA1,101)においては,「肺がんの過剰リスクは過去の強い曝露の結果であることが通常である。肺がんのリスクは石綿肺に関連しているようである。」としていることからすると,当時においては,肺がんを発症させる曝露レベルは石綿肺を発症させる職業的曝露のレベルと同レベルであることが想定されており,これよりも低い曝露レベルにおける肺がん発症リスクの解明が今後の課題とされていたものと認められる。

中皮腫
IARCの報告書は,中皮腫に関して,「全般的展望」として,「クロシドライトの鉱山や様々なタイプの石綿繊維の混合物を使用している工場の近隣では,
中皮腫と大気汚染との関連性を示す証拠が得られている。

としており,職業曝露によらない低レベルの曝露によっても中皮腫が発症する可能性を肯定しているが,クロシドライトのリスクが最も高く,アモサイトはそれより低く,クリソタイルでは明らかに低いとしており,「今後の研究に関する勧告」の中で,石綿の種類ごとに量・反応関係を解明するための種々の研究の必要性が示されている。
以上によれば,昭和47年当時,石綿粉じんの少量曝露によっても中皮腫が発症する可能性があることが医学的に確認されていたが,石綿の種類等による曝露レベルと発症リスクについては未解明の状態にあったということができる。
昭和53年当時
労働省が石綿による肺がん・中皮腫の労災認定基準を検討するため,昭和
51年に設置した「石綿による健康障害に関する専門家会議」の検討結果報告書(専門家会議報告書)は,産業現場における石綿曝露実態,石綿の化学組成及び特性,動物実験の結果,臨床,病理,疫学,肺がん・中皮腫の量・反応関係,環境管理などに関する内外の幅広い文献を検討した結果であり,その時点における科学的知見の到達状況を示すものといえる。

肺がん
専門家会議報告書は,Wagnerが昭和47年に発表した総説には,肺がんは中等度及び高度の石綿肺に併発するとし,IARCのモノグラフ集第2巻においても肺がんは石綿肺と関連があるとされていたが,昭和52年刊行のIARCのモノグラフ集第14巻においては,石綿肺と肺がんとの関連性に関して,両者の間に密接な関連があると科学的に実証された報告は得られていないとし,石綿曝露歴があって石綿肺のX線所見を伴わない集団に肺がん発生の超過危険があるという仮説を支持するEdgeやMartishnigの報告が出されているとしていることなどが紹介され,「石綿肺の進展度と肺がんの合併率の間には直線的な関連はなく,軽度所見や無所見の石綿曝露労働者にも肺がんの発生が認められる。」と結論づけている。また,石綿曝露と肺がん発症に関する量・反応関係を示す海外の研究を紹介の上,「最近の疫学調査結果から,石綿曝露量が大となるにつれて肺がん発生の超過危険が大きくなる傾向がみられ,症例としては石綿曝露歴が概ね10年を超える労働者に発生したものが多い。」としている。
以上によれば,昭和53年の時点で,肺がんは石綿肺よりも低いレベルの石綿粉じんに対する職業的曝露によっても発症するとの医学的知見が形成されつつあったと認められる。なお,同報告書には,石綿曝露と肺がん発生に関しては,石綿繊維の種類如何にかかわらず,一般人口における死亡との相対危険度が有意に高い曝露レベルの範囲においては量・反応関係が存在すると考えられるが,これらの成績はただちに無反応閾値を設定するための濃度水準とはいえないとのNicholsonの見解が紹介されている。イ
中皮腫
専門家会議報告書は,石綿曝露量と中皮腫の発症について,「例数が少ないため石綿曝露との量・反応関係を考察することが難しく,中皮腫の症例報告からみた石綿曝露期間は10年以上の場合が比較的多いが,5年未満といった短い例もある。また,石綿粉じん濃度が低くても中皮腫が発症した例もあり,肺がんを発症するに必要な曝露量よりも少量で発生する可能性もある。」と結論づけている。
以上によれば,昭和53年の時点において,中皮腫は少なくとも職業曝露においては肺がんを発症させる曝露レベルよりも,さらに少量の石綿曝露によっても発症しうるとの医学的知見が形成されつつあったと認められる。
平成元年当時
WHOが石綿に係る職業曝露限度の国際基準を設定することを目的として,平成元年に発表した「石綿の職業曝露限界」と題する報告書(乙アA3の1及び2)は,「現時点での科学的根拠,方法論に問題と限界があるという認識に立って,会合では,30年以上の研究にもかかわらず科学的根拠が未だ不十分であり,それ以下ではリスクがないという石綿曝露レベルがあるとは明言できないという結論に達した。一方,起こり得る石綿関連疾患のリスクが非常に小さい管理レベルを達成することは,特にクリソタイルに関しては可能であるという意見を会合は表明した。この意見は現時点での最良の判断を反映する,科学的根拠の重みと方向性に基づくものである。」とし,「職業曝露限界の結論」では,「それ以下ではがんが起こらないという石綿曝露の閾値が存在するという実質的な証拠はない。」,「現在の疫学モデルでは,曝露レベルと曝露期間の様々な組み合わせに対して,肺がん及び中皮腫の生涯リスクを算出することができる。」とし,「勧告」において,石綿の職業曝露限界を設定し,改訂する際に,技術上そして経済上の考慮とともに,肺がんと中皮腫については,それ以下ではがんが起こらないという石綿曝露の閾値が存在するという実質的な証拠はないことを特に注目すべきこと,クリソタイルについて,健康上の理由のみに基づいて,現在高いレベルの限界値を有している国は作業者個人の職業曝露限界を(8時間荷重平均値として)2本/mlにまで下げるステップを早急にとるべきであり,未だ実施していない国々は,1本/mlあるいはそれ未満に下げる方向に進むことが推奨されること,クロシドライト,アモサイトについては健康という観点から,可能な限り早急に使用を禁止することが推奨され,当面,限定された使用をするのであれば,曝露がクリソタイルで許容されるレベルよりも低いことを確実にするため,注意深く実施することが求められることなどを挙げている。
以上によれば,平成元年当時において,肺がん・中皮腫の発症については石綿曝露に閾値が存在することの科学的証拠が得られていないことから,これが存在しないことを前提に安全対策を立てるべきであるとの考え方が形成されたと認められる。もっとも,同報告書が,職業曝露集団についての疫学調査から得られた量・反応関係に閾値が存在しないとの前提を組み入れた疫学モデルにより,低濃度曝露による生涯リスクを算出し,これを参考として曝露限界を設定することを否定する趣旨ではないことは,その内容に照らして明らかである。
第2節

被控訴人国の労働関係法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点2)

第1
1
建築作業の石綿粉じん曝露の客観的危険性に関連する事実
我が国におけるアスベスト輸入量の推移
我が国は,戦後,使用する石綿は全て輸入によっていた。我が国の石綿輸入量は,別紙6別表1のとおりであり,高度経済成長期に急増し,昭和36年に10万トンを,昭和44年に20万トンを,それぞれ超えて,昭和49年には第1次のピークである35万2110トンに達し,その後も高原状態を続け,昭和63年には第2次のピークを迎えて32万0393トンとなったが,平成元年以降は減少を続け,平成6年には20万トンを,平成12年には10万トンを,それぞれ割り,平成18年以降はゼロとなった。
輸入量のうち石綿の種類による内訳を確定する証拠はないが,クロシドライトについては,昭和58,59年度の時点で,全国427の石綿取扱い事業場のうちクロシドライトを使用する事業場が11にまで減少しており,昭和62年には各企業が自主的にクロシドライトの使用を中止した。アモサイトについては,昭和58,59年度の時点でアモサイトを使用する事業場が52存在したが,平成5年には関係業界においてアモサイトの使用が中止された。(乙アB33,34,弁論の全趣旨)
2
建材における石綿使用量の推移
伝統的に木造建築物が多いわが国では,明治期に近代都市計画が成立して以来,都市防火・防災が都市計画の最重要テーマとされてきた。戦後の経済発展に伴い,住宅等の生活基盤の拡充と,大都市中心部における建築物の大規模化,高層化への要請が高まり,住宅の量産化と建築物の高層化を推進する政策が採用された。このような中で,耐久性,耐火性を有し,安定して量産可能な石綿含有建材は,JIS規格の制定や耐火構造等への指定等も相まって,大量に使用されてきた。(甲A396,甲B7,19の1・2,31の1~3,66,乙アA107~110,乙アB78,弁論の全趣旨)社団法人日本石綿協会環境衛生委員会が平成15年12月に作成した「石綿含有建築材料廃棄物量の予測量調査結果報告書」(甲B24)によれば,関連業界団体で把握していた石綿含有建築材料(吹付け材,保温材等は含まない。)の昭和46年から平成13年までの出荷量及び推定石綿使用量は別紙6別表2のとおりである(なお,上記報告書には,総出荷量には業界に加盟していない業者の出荷量や特殊な石綿含有建材の出荷量等が含まれていないものの,日本全体の9割以上をカバーするものと思われるとの記載がある。)。
これによれば,製品出荷量は,昭和48年の172万4671トンが第1次のピーク,平成2年の186万2501トンが第2次のピークであり,昭和46年から平成11年まで毎年100万トンを超えており,推定石綿使用量も,昭和48年の27万0475トンが第1次のピーク,平成元年の20万9070トンが第2次のピークであり,昭和46年から平成6年までは毎年15万トンを超えており,石綿の輸入量と同様の推移を示している。上記の石綿輸入量と対比すると,我が国に輸入された石綿の約7割が建築現場で使用されたものと認められる。(甲B19の1・2頁参照)
3
石綿含有建材の種類・使用状況等
石綿含有吹付け材
石綿含有吹付け材は,昭和30年頃,我が国に導入され,鉄骨耐火被覆,天井・壁の吸音,天井の結露防止などに用いられたが,著しく発じん量の多い製品である(甲A36・4頁,甲D17・6頁)。
環境省の依頼に基づき社団法人日本作業環境測定協会に設置された「建築物の解体等における石綿飛散防止検討会」が平成17年11月に作成した「建築物の解体等における石綿飛散防止対策の強化について」
(甲A340。
以下「平成17年検討会報告」という。)によれば,石綿含有吹付け材には,吹付け石綿,石綿含有吹付けロックウール(乾式,湿式),石綿含有ひる石吹付け及び石綿含有パーライト吹付けがあり,それぞれの石綿の種類使用時期及び含有率は,別紙6別表3のとおりである。
このうち,吹付け石綿は,クリソタイルのほかクロシドライト及びアモサイトを含み,石綿含有率も60%から70%と高かったが,昭和50年の特化則の改正によって,石綿含有率が重量比5%を超える吹付け材の使用が原則として禁止されたことから,昭和50年以降は使用されていない。吹付け石綿の昭和30年から昭和49年までの施工量は,別紙6別表4のとおりであり,昭和35年に1000トンを,昭和44年には1万トンを,それぞれ超えて増加し,昭和47年に2万0987トンでピークに達し,昭和48年に1万7131トン,昭和49年に9617トンとなった。
吹付けロックウールは,石綿含有量30%以下の乾式と5%以下の湿式とがあったが,ロックウール工業会は,吹付けロックウールの仕様を,昭和53年から石綿含有率(重量比)5%未満に変更し,昭和55年以降は石綿を全く含有しないものに代替した(乙アB98,99)。その結果,ロックウール工業会に加盟していない業者や在庫品の使用等によるものを除き(甲A339),吹付けロックウールで石綿を含有するものは施工されなくなっていった。吹付けロックウール(乾式)の施工面積は別紙6別表5のとおりであるが,石綿を含まない製品の施工面積を含んだものである。
石綿含有保温材等
平成17年検討会報告によれば,石綿含有保温材には,石綿保温材,けいそう土保温材,パーライト保温材,けい酸カルシウム保温材,水練り保温材が,石綿含有断熱材には,屋根折版用断熱材,煙突断熱材が,石綿含有耐火被覆板には,耐火被覆板,けい酸カルシウム板第2種があり,それぞれに使用された石綿の種類,
使用時期及び含有率は,
別紙6別表6のとおりである。
石綿含有保温材は,主にプラント,屋内配管やボイラーなどの保温に使用され,このうち石綿保温材は石綿含有率が90%以上と高い製品であったが,昭和55年以降は使用されていない。石綿含有断熱材は,折版屋根裏の断熱に使用されるものと高温の排気から煙突本体を保護する用途に使用されるものに分類される。いずれも石綿含有率が90%以上の高い製品であるが,屋根折版用断熱材は昭和57年まで,煙突断熱材は昭和62年まで使用されていた。石綿含有耐火被覆板は,基本的には石綿含有吹付け材の耐火被覆と同様に使用されているが,一部に特殊な用途がある。
(甲D17・7頁)
石綿含有保温材等は,
比重が小さく,
発じんしやすい製品とされている
(甲
A36・4頁)。
石綿含有成形板
平成17年検討会報告によれば,調査した石綿含有成形板の種類は,石綿含有スレート波板,同スレートボード,同けい酸カルシウム板第1種,同押出成形セメント板,同パルプセメント板,同スラグせっこう板,同サイディング,同住宅屋根用化粧スレート,同ロックウール吸音天井板,同せっこうボード,同セメント円筒,同フリーアクセスフロア,同ビニル床タイルであり,種類・年代ごとの石綿含有率の代表的な値(推定値)は別紙6別表7のとおりであり,出荷量は別紙6別表8のとおりである。
石綿含有成形板は,
外装材,
内装材等幅広く使用された
(甲D17・7頁)

石綿含有成形板は,発じん性の比較的低い製品とされている(甲A36・5頁)。
その他の石綿含有建材
国土交通省及び経済産業省が過去に製造された石綿含有建材の種類,名称,製造時期,石綿の種類・含有率等の情報を集積して構築した国交省デー
ード,石綿含有壁紙,石綿含有ビニル床シート,石綿含有ソフト巾木,石綿含有ルーフイング,石綿セメント管,石綿発泡体が挙げられている(甲C29)。
4
電動工具の普及状況
建築作業に使用される電動工具には,電動丸鋸,電動サンダー,電動グラインダー,電動ドリルなどがある。電動丸鋸は,内外装の壁材,床材,天井材を切断する作業などに,電動グラインダーは,壁の下地調整,板材の表面仕上げ,角付けといった研磨,研削作業に使用されたほか,盤を取り替えることによって屋根材,給排水管,タイル,石材などの切断作業に使用された。電動ドリルは,内外装の壁材,床材,天井材に穴をあける作業などに,それぞれ使用された。電動工具で建材を加工する場合,手工具に比して,とりわけ電動丸鋸で切断する場合には,多量の粉じんが発散する(甲A35の2,甲D1)。機械統計年報によれば,我が国におけるこれらの電動工具の販売台数は,別紙6別表9のとおりであり,昭和43年に100万台,昭和48年に200万台,昭和52年に300万台,昭和54年に400万台,昭和55年に500万台,昭和58年に600万台,平成2年に700万台まで増加し,その後も数百万台の販売台数を維持した(甲A375の1~10)。
電動工具による発じんの抑制を企図したものとして,駆動部分に粉じんの発散を防ぐための覆いをして集じん容器を接続したものや,さらにホースで除じん装置を接続し強制的に集じんするものなどがある。平成4年通達の「電動丸のこ(ダストボックス付き)」は前者の例であり,「除じん装置付き電動丸鋸」は後者の例である。
5
建設作業の状況
建設業の特徴
一般に,建築作業の特徴として,多品種・単品生産であること,現地屋外で行われ,作業場所が工事ごとに変わるため,作業環境が一定でなく継続的でないこと,関係する人及び物の量と種類が多いこと,生産方式が労働力集約型であること,生産組織が工事ごとに編成されることなどが挙げられる(甲A319(2頁),449)。
建築作業現場と作業状況

木造建物の建築現場及び作業
建築工程等
木造建物の建築工程は,大別すると,基礎工事,躯体工事,仕上工事,設備工事の4つになる。基礎工事は,建物の基礎となる部分を造る工事である。
躯体工事は,
構造材を建物の躯体として組み上げる工事である。
仕上工事としては,屋根工事,外壁工事,内装工事,建具工事の順で行われるほか,必要に応じて左官工事,タイル工事,塗装工事,板金工事などが行われる。設備工事としては,電気設備,給排水・衛生設備などの工事が行われる。これら建物本体の工事以外に,仮設工事,外構工事なども行われる。
躯体工事のうち柱など主な構造材の組立てが行われると,屋根工事がすみやかに開始され,また,1階の床下は床下地の工事が始まると自由に作業ができないため給排水管の工事が行われるなど,躯体工事,仕上工事,設備工事が一部並行して行われる。
工期は,建物の規模等にもよるが,50坪程度の木造2階建住宅の場合,
かつては半年程度,
現在は4か月程度が標準的な工期とされており,
その半ば頃までには屋根,外壁,外部建具の各工事が行われる。
(甲D1,3,15,乙A209~211,原審証人甲)
石綿粉じん曝露作業
屋根工事では,石綿含有住宅屋根用化粧スレートや石綿含有スレート波板が使われることがあり,屋根工が屋根の上でそれらの建材を押切り形の切断工具や電動工具等で切断し,穴を開け,ヤスリで削る際に,石綿粉じんが発散する。屋根工事を行う間,大工が柱の間に筋交い,火打材や間柱を取り付けて接合金具で全体を緊結したり,設備工が1階の床下で配管作業をしたり,鳶が建物の周囲の足場を組み立てたり玄関前ポーチの土台のコンクリート打ちをすることがあり,屋根工のほか大工,設備工や鳶が石綿粉じんに曝露するおそれがある。
外壁工事では,石綿含有スレートボード・フレキシブル板,石綿含有押出成形セメント板,石綿含有サイディングなどを使用することがあり,大工,板金工,屋根工がそれらの建材を電動工具で切断すると石綿粉じんが発散するほか,切り口を平らにするためヤスリで削る際にも石綿粉じんが発散する。また,左官がモルタル仕上げのためのモルタルを作る際にのびをよくするため石綿又は石綿を含有する混和材を加えて攪拌する際に,石綿粉じんが発散する。外壁工事が行われる時には,床工事,建具工事などの内装工事が行われることがあり,大工,板金工,屋根工,左官や建具工が石綿粉じんに曝露するおそれがある。
軒天の工事も外壁工事と並行して行われるが,軒先の下端にはるために石綿含有スレートボード・フレキシブル板,同・平板,石綿含有けい酸カルシウム板第1種が使われ,大工がそれらの建材を電動工具等で切断する際に石綿粉じんが発散する。
内装工事においても,石綿含有床タイル,石綿含有せっこうボード,石綿含有ロックウール吸音天井板,石綿含有けい酸カルシウム板第1種,石綿含有スレートボード・フレキシブル板などが多用され,大工が室内でこれらを切断したり切り口を削る作業をする際に,石綿粉じんが発散する。その間,タイル工事などが行われることがあり,大工のほかタイル工や左官なども石綿粉じんに曝露するおそれがある。このほか,一つの作業を終えた後,清掃をしても石綿粉じんが残る場合があり,次に作業をする者が石綿粉じんを再飛散させて曝露するおそれがある。設備工事でも,電気工や配管工が石綿を含有するボードに穴をあける際に,石綿粉じんが発散し,電気工や配管工が石綿粉じんに曝露するおそれがある。
(甲D1,3,4,17,原審証人甲)

鉄骨造建物
建築工程
鉄骨造建物の建築工程は,仮設工事,基礎工事,躯体(鉄骨)工事,仕上工事,設備工事,外構工事に大別される。仮設工事では,外壁面の作業用に外部足場を設け,外部への物の落下や粉じんなどの飛散防止のため,メッシュ状又は帆布状のシートを張る。躯体(鉄骨)工事では,短期間に鉄骨の柱や梁を組み立てて全体を固定した後,デッキプレート(床板)を溶接し,その上に配筋し,コンクリートを打設して床を作る。その後,仕上工事として,外壁工事,屋根工事(防水工事),建具工事,内装の木工事,タイル・塗装工事などが行われる。外壁工事が行われた後,鉄骨の耐火工事として,成形板の張付け作業や吹付け材の吹付け作業などが行われるが,3階建て程度の小規模な鉄骨造建物では,ほとんど吹付け工法が用いられた。吹付け作業は,多量の粉じんが出るため,周囲で同時並行的に他の作業を行うことは想定されていないが,大規模な現場であれば,他の場所で支障がない限り別の作業も行われることがある。このほか,主に仕上工事と並行して,一部は基礎工事,躯体(鉄骨)工事とも並行して,電気,水道,ガス,エレベーターなど設備工事が行われる。
80坪程度の鉄筋3階建住宅の場合,全体として,5か月ほどの工期が想定され,工事開始から3か月目頃に,外壁工事実施後に吹付け作業が行われる。
(甲A315の1・2,甲A316,319,523,甲D1,3,乙アA216,原審証人甲,当審証人乙)
石綿粉じん曝露作業
外壁工事では,躯体に取り付けられるパネルとして石綿含有押出成形セメント板が使用されたり,共同住宅などで石綿含有サイディングが使用されることがあり,これらの建材を電動工具で切断したり穴あけをしたりする際に,石綿粉じんが発散する。外壁が取り付けられると開口部に建具を取り付ける作業が行われるほか,建物内部で配管工事が行われることがあり,これらの作業に従事する建具工,防水工,左官,設備工が石綿粉じんに曝露するおそれがある。
吹付け工事では,外壁ができた下層階から順に,耐火被覆として鉄骨の柱や梁に吹付け材を吹き付けるが,防音や結露防止等のためデッキプレートの裏側に施工することもある。吹付け作業を行う場合,石綿や岩綿を袋から出すとき,セメントや水を加えてミキサーで攪拌するとき,ノズルから吹付け材を放射するとき,周囲に飛び散って床に落ちた吹付け材が乾いて再飛散するときなどに,多量の粉じんが発散するため,作業者本人は多くの場合マスクや作業用メガネを着用していた。吹付け作業自体のほか,吹付け作業終了後に吹付け材が付着した箇所で行われる床張り作業,天井張り作業,軽天工事,電気配線工事,配管工事及びサッシ・シャッター工事,吹付け作業前に設置された外装材付近の胴縁設置作業や梁との隙間を埋める作業,開放廊下・ベランダにおける防水工事及びタイル工事,外階段での塗装工事,外装材とサッシ枠との間の隙間を埋める作業などでは,大工,電工や設備工が吹付け材を除去したり接触したりすることによって石綿粉じんに曝露するおそれがある。このほか,屋根工事で住宅屋根用化粧スレートを用いる場合に電動工具でそれを切断や穿孔をする際,左官工事で壁にサンダーがけをする際やモルタル煉りをする際,塗装工事で面取りをしたボードの継ぎ目にパテを煉りこみ乾燥した後に研磨紙で凹凸を研磨する際に,粉じんが発散する。
内装工事と設備工事では,給排水管工事で石綿セメント円筒(石綿二層管)を電動工具で切断する際に石綿粉じんが発散するほか,木造建物の場合と同様に,石綿含有建材が使用され,作業者が石綿粉じんに曝露するおそれがある。
(甲A36,315の1・2,甲A316,523,甲D1,3,4,17,原審証人甲,当審証人乙,弁論の全趣旨)

鉄筋コンクリート造建物
建築工程
鉄筋コンクリート造建物の建築工程も,鉄骨造建物と同様に,仮設工事,基礎工事,躯体工事,仕上工事,設備工事,外構工事に大別され,個々の工程も基本的には鉄骨造建物と同様である。
ただし,
躯体工事は,
鉄骨工事がない代わりに,鉄筋工事・型枠工事・コンクリート工事が中心となる。鉄骨造建物においては,工事の比較的初期の段階で全ての階の躯体工事が実施され,全ての階にわたって外部足場が組み立てられ,同時にシートが張られるのに対して,鉄筋コンクリート造建物においては,下層階から上層階へ向けて躯体工事が施工されていくため,外部足場も順次設置される。また,鉄筋コンクリート造建物の躯体工事では,鉄骨の耐火被覆工事は行われないが,鉄骨造と併用される場合のほか,耐火性,防熱性,防音性の向上,結露防止の目的で,吹付工事が行われることもあった。
昭和60年8月に着工した,地上6階建,鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造,建築面積約100㎡の店舗兼個人住宅の場合,仮設工事及び基礎工事完了後,着工後4か月目から6か月目まで,1階から6階に向けて順次躯体工事が行われ,6か月目以降,躯体工事が終了した階から,サッシ・ガラス取付作業を皮切りに仕上工事が行われたほか,一部は基礎工事及び躯体工事と,主には仕上工事と並行して設備工事が行われ,9か月目に竣工した例がある。
(甲A315の1・2,甲A316,320,弁論の全趣旨)
石綿粉じん曝露作業
鉄筋コンクリート造建物についても,仕上工事の内装工事や設備工事で,鉄骨造建物と同様に,複数の職種の作業者が石綿粉じんに曝露するおそれがある。(甲D3,原審証人甲)

建築現場における換気
建物建築作業現場は,作業開始当初は通常の屋外と同様に自然換気が期待でき,周囲に外部足場を設けて養生シートで覆う場合も,天井部分まで覆うことはなく,通気性のあるメッシュシートも用いられることなどから,密閉状態とはいえないが,外壁の取付け,サッシ・ガラスの取付けと作業が進行するにつれ,徐々に屋内と同程度まで気密性が増していき,作業者が粉じんに曝露する危険性も高まっていく。また,建築現場は,一般に臨時の作業場であり,局所排気装置が設置されることはない。(甲A521の2,乙アA206~210,当審証人丙,弁論の全趣旨)

解体工事,改築・改修工事について
解体工事
解体工事は,建物の構造や周囲の状況により工事の方法が異なる。鉄筋コンクリート造建物及び鉄骨鉄筋コンクリート造の建物では,重機をクレーンで建物の上階に揚げて上階から解体する方法や,地上から重機を用いて建物を解体する方法を用いる。鉄骨造建物では,ガスバーナーで鉄骨を切断してクレーンで地上に吊り下す方法や,これに重機を併用する方法を用いる。木造建物では,昭和50年頃から重機を使用して一気に破壊するようになったが,現在でも狭い現場では重機によらない方法で解体する。建物本体の解体作業は,主に解体工,鳶が行うが,その前に電気設備等の撤去作業や内装材の解体作業が行われる。
解体工事では,大きなバール等の道具又は機械を用いて短期間に行うため,多量の粉じんが発散する。
(甲D11の2,33の1~3,原審証人甲,弁論の全趣旨)
改築・改修工事
改築・改修工事の内容は,建物の構造や工事の規模などにより様々であるが,共通する特徴として,既存の建物の一部を破砕,切断,剥離,除去などの作業を行う必要があり,これらの解体作業は,大規模な工事では解体業者(解体工)が行うが,小規模なものでは各職種が行い,既存建物に石綿含有建材が使用されていれば,その時点では製造・販売されていないものであっても,それらの石綿粉じんに曝露するおそれがある。解体作業後に各職種が行う作業内容は,新築工事と基本的に同様であるが,既設の建物内での作業が多く,新築工事以上に石綿粉じんに曝露するおそれがある。
住宅の増改築工事では,大工のほか水道工,ガス工,電気工や屋根工が一緒に作業をすることもある。スレート瓦を撤去するときに,屋根からそのまま地面に落として石綿粉じんを発散させたり,既存の壁や天井にけい酸カルシウム板やフレキシブルボードが,台所の床にビニル床タイルなどが使われていたこともある。
工場の改修工事では,大工のほか鳶,電気工,水道工が同時に作業をしていたことがある。既存の屋根の石綿含有スレート波板のボルト周りを金づちで割って剥がした後に,工場の中に敷いたシートの上に落として破片が飛び散ったり,新しく張る建材を電動工具で切断したりした際に,石綿粉じんが発散したことがある。
店舗や事務所の改築工事では,大工や鳶のほか,水道工,ガス工,電気工が同時に作業をしていたことがある。特に古い店舗等の改築工事では,短期間の工期のものが多く,天井や壁を一気に取り壊したり,床を剥がした後に運搬しやすいよう室内で適当に割ったりして,多量の粉じんを発散させることがある。
(甲D3,4,原審証人甲,弁論の全趣旨)
6
建築作業に伴う石綿粉じん濃度の測定結果等
石綿関係資料(甲A343の2)に掲載された測定結果
昭和51年通達に添付された労働衛生課作成の「石綿関係資料」では,建設工事における石綿吹付け作業中の石綿粉じん濃度に関して,石綿含有量50%の吹付け材について,ローボリウムサンプラーによる並行測定(分粒装置なし)結果が,乾式吹付け作業では37.66~41.76㎎/㎥(15か所平均),湿式吹付け作業では12.11~17.28㎎/㎥(15か所平均)であったとしている(2㎎/㎥=33本/㎤として換算し,石綿含有率50%を乗ずると,それぞれ310.7~344.5本/㎤,99.90~142.6本/㎤となる。)。
なお,我が国における石綿吹付け作業は,乾式吹付け作業が一般的であった(乙ニ13,乙マ1017,乙ム11,当審証人丙)。
英国労働省工場監督庁の測定データ(甲A538の1及び2,609の1及び2)
英国労働省工場監督庁が,昭和48年に,建設業の事業者代表からの要請に応えて指針として示した建築作業における濃度の測定結果は,
次のとおり
であった。これらの濃度は,主にメンブランフィルター法で個人サンプラーにより回収された粉じんを測定したものであって,
30分から1時間くらい
の時間で収集されたサンプルに基づくものである。なお,この測定結果は専門家会議報告書にも掲載されている。

石綿吹付け
推奨されている湿潤化の機器を使用
上記の機器を使用していない

5~10(繊維/㎤)
100以上(繊維/㎤)

なお,工程から20から30フィート(6から9メートル)
離れたところの濃度は,上記のおよそ10分の1である。

解体(保温材をはぐ)
ぬらしながら行う

1~5(繊維/㎤)

水を散布して行う

5~40(繊維/㎤)

乾燥状態で行う

20以上(繊維/㎤)

なお,気中石綿粉じん濃度は,個々の保温材の材質により非
常に変わる。クロシドライトについては厳重な注意が必要であ
る。

石綿セメントのシートとパイプの使用
機械による穿孔

2未満(繊維/㎤)

用手鋸断

2~4(繊維/㎤)

有効な局所排気を用いない場合の機械鋸断
クランク鋸

2~10(繊維/㎤)
丸鋸

10~20(繊維/㎤)

有効な局所排気を用いた場合の機械鋸断

2未満(繊維/㎤)

石綿断熱板の使用
垂直構造物の穿孔(例:被覆した柱)

2~5(繊維/㎤)

頭上の穿孔(例:天井)

4~10(繊維/㎤)

研磨と表面仕上げ

6~20(繊維/㎤)

整合と離断

1~5(繊維/㎤)

用手鋸断

5~12(繊維/㎤)

有効な局所排気を用いない場合の機械鋸断
クランク鋸

5~20(繊維/㎤)

丸鋸

20以上(繊維/㎤)

なお,機械穿孔又は鋸断による粉じん濃度は,粉じんをコ
ントロールする機器を使用すれば2~4本/㎤にまで減少
し得る。
板受け渡しの荷おろし(短時間サンプリング)
切断片

5~15(繊維/㎤)

製品基準の大きさのもの

1~5(繊維/㎤)

木村菊二の測定結果(甲A266,539)
木村菊二は,昭和46年に「作業現場の石綿粉塵」(労働の科学26巻9号)を発表したが,その中で,昭和40~45年頃測定された2,3の工場の石綿粉じん測定結果のうち石綿板切断に係るものとして,以下のとおりであったとしている。この結果については,専門家会議報告書に掲載されている。
工場
石綿粉じん濃度長さ粉じんの総重量濃
5~100μ

個/㎤


㎎/㎥

備考
石綿板製造(Ⅰ)

10.8~16.2

113.3

除じん装置なし

石綿板製造(Ⅱ)

7.4~10.0

33.2

除じん装置あり

注)メンブランフィルター法による測定
木村菊二の測定結果(甲A462の1・2,575)
木村菊二は,昭和51年,第49回日本産業衛生学会・第20回日本産業医協議会における講演
「アスベスト粉塵の測定法についての検討」
において,
最近の2~3年間に測定された幾つかの作業場における石綿粉じん濃度の測定結果のうち石綿板切断に係るものとして,以下のとおりであったとしている。この結果については,専門家会議報告書にも掲載されている。製品

作業条件

濃度範囲(繊維/㎤)

大型の石綿板

電動鋸・吸じん装置

(石綿含有率20作動中

2.89~25.08
~30%,
厚さ22電動鋸・吸じん装置147.03
㎜)

休止中

~391.50

電動丸鋸1・吸じん
装置作動中・切断速

33.74
~90.17
度が速い
電動丸鋸2・吸じん
装置作動中・切断速

13.30

6.63

220.50

55.05

81.70

手動鋸1・吸じん装
0.31~2.55

1.01

0.11~0.38

(石綿含有率約2置なし
5%)

(繊維/㎤)

~391.50
度が速い
小型の石綿板

幾何平均

0.18

手動鋸2・吸じん装
置なし
なお,測定の対象とされた石綿板は,石綿含有けい酸カルシウム板である(甲A508,571)。
専門家会議報告書に掲載された測定値
同報告書には,米国における断熱材取扱作業における気中石綿濃度について,BalzerとCooper(昭和43年),Ferrisら(昭和46年),Nicholson(昭和50年)によれば,昭和43年から昭和46年までの間に調査した結果では3~6繊維/㎤であったとしていること,Nicholson(昭和51年)は昭和40年頃の時間-荷重平均濃度は約8繊維/㎤であったとみられるとしていることが紹介されている。
さらに,
昭和46年に報告されたHarriesの調査
では,英国における断熱材取扱作業については,かなり長期間にわたる測定の平均値で8.9繊維/㎤であり,石綿セメントの混練作業中の濃度は50~100繊維/㎤であったが,時間-荷重平均濃度では5繊維/㎤以下とみられるとしていることを記載している。
桜井治彦らの「一般家屋壁材施工時の発塵状況調査結果」
(乙アA212)
慶応義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室の桜井治彦らは,昭和62年10月18日,2か所(町田,読売ランド)の建築現場(屋外)で,㈱久保田鉄工製防火サイディングを幅30㎝の横方向に10回(2,3分間)切断する作業を,①吸引型集じん機付き電動鋸及び発じん防止用マット(人工芝)を使用した場合,②集じん袋付き電動鋸及び発じん防止用マットを使用した場合,③集じんボックス付き電動鋸を使用し,発じん防止用マットを使用しない場合,④丸鋸を用い,発じん防止用マットを用いない場合の各条件で行の気中石綿繊維濃度を測定した。
測定の結果は,次のとおりである。
作業現場

作業内容

個人曝露発じん点近傍の気
濃度[繊中石綿繊維濃度[繊
維/㏄]
維/㏄]

町田

①吸引型集じん機付き電動鋸+発0.08

0.04

じん防止マット
②集じん袋付き電動鋸+発じん防サンプル0.04~0.08止マット

不良

③集じんボックス付き電動鋸

2.05

0.14~0.50

④電動鋸

1.16

0.3~0.52

読売ラン①吸引型集じん機付き電動鋸+発0.17ド
0.04

じん防止マット
②集じん袋付き電動鋸+発じん防0.27

0.21~0.76

止マット
③集じんボックス付き電動鋸

0.27

0.22~0.72

④電動鋸

0.20

0.27~0.63

また,同報告書には,参考表として,同年9月に練馬で行われた久保田鉄工製石綿含有壁材切断時の発じん状況測定の結果が次のように紹介されている。
個人曝露濃斜め後方1~側面0.5m[繊維/
度[繊維/㏄]3m
[繊維/㏄]㏄]
真空捕集掃除機+マット

0.43

0.21

0.14~0.02

袋式掃除機+マット

1.74

5.82

4.26~0.82

電動鋸

9.22

12.43

12.05~1.35

その上で,測定結果に対する考察として,読売ランドの現場では②~④に差が認められないが,これは曝露を受ける方向に風が向かわず,切断時に壁材の上側に飛散する粉じんを捕集できなかったためであり,風向,風速,作業者の姿勢などが短時間の作業時は大きく影響すると考えられること,練馬の測定結果が絶対値として高い傾向を示したのは,連続切断時間が単位時間当たりで長いことや長い切断ではその間の振動などでいったん付着した粉じんを巻き上げやすいこと等が関連しているものと推測されるとしている。久永直見らの測定結果(甲A368)
名古屋大学医学部衛生学教室講師の久永直見らは,昭和63年,「アスベストに挑む三管理

環境管理と作業管理-建築業の現場を中心に-」と題す

る論文において,石綿含有建材を取り扱う建築現場において,建築作業従事者の鼻先(建材使用後の無人の室内における測定値を除く)の気中石綿粉じん濃度を測定(集じん機なし。位相差顕微鏡を使用して測定。)した結果を以下のとおり公表した。
作業

気中石綿濃度
測定数測定時間
(分)
(本/㎖)

建材丸鋸切断

4
2.5~5

中央値(本
/㎖)

125.1~7147.0
87.0

同上周辺(1.5~2m)3

2.5~5

103.0~6232.4
30.0

ビス,釘打ちドリル穿孔な8

10~1201.3~131.12.3

どによる建材張付けを主と

0
した作業(丸鋸切断含む)
同上周辺(1~10m)

7
10~1190.
9~48.3.0
1
ビス,釘打ちドリル穿孔な8

2.5~110.
3~14.2.5
1
どによる建材張付けを主と

0
した作業(丸鋸切断含まず)
同上周辺(1~4m)

15

建材使用後の室内での作業5

15~1710.1~4.61.6
15~93

(清掃,建具加工など)
0.1~0.50.3

建材使用後の粉じんが床面1

160

0.05



110

0.01



1
12.1



68~93

0.
04~0.―
1
に少量散乱した廊下での石
綿を取り扱わない配管工事
建材使用後の無人の室内の1
中央
ナイフ切断とヤスリ掛け

1
一部で建材使用工事中の現2
場巡回(建材使用箇所より

2
5~30m)
屋根葺き用石綿スレートに1

115

0.13



115

0.05



よる屋根葺き
同上周辺(1~2m)

1
上記測定結果について,以下の考察がなされている。すなわち,特に高い濃度が検出されたのは,建材(天井に張られた石綿セメント板)の電動丸鋸による切断作業時であった。また,ビス,釘打ち,ドリル穿孔などによる建材の張付けを主とした作業でも,間に丸鋸切断を含む場合には,その影響を受けて高い濃度が検出されることがあり,この場合の最高の濃度は131.0本/㎖であるが,これは廊下に防火扉を取り付ける作業中の24分間の測定値で,この間に4回石綿含有厚板(厚さ2.5㎝)の丸鋸切断が行われ,換気不良の幅2mの狭い廊下での作業であったため,10m離れたところでも61分の測定で34.6本/㎖と高濃度であった。丸鋸切断を含まないビス,釘打ち,ドリル穿孔などによる建材張付けの作業では,電動スクリュードライバーがビスをねじ込むたびにモーター回転により空気を噴射し,これが粉じんを飛散させていた。また,石綿含有建材の取扱い後にはしばしば建材片や切り屑,粉じんが床に散乱したままで放置されており,石綿含有建材の取扱い後に同じ場所で別の作業をするものについての曝露濃度測定結果は,0.05~0.5本/㎖であり,二次発じんへの注意の必要性が明らかであった。ナイフ切断とヤスリ掛けの作業では,切断する板に定規用に別の板を勢いよく重ねた時とヤスリ掛けの時の発じんのために比較的高濃度となった。屋根葺き石綿スレート板による屋根葺き作業は,遮るもののない2階建て民家の屋根上での作業であり,
作業者鼻先で0.
13本/㎖であった。
久永直見らの測定結果(甲A367)
久永直見らは,平成元年,「建築業における石綿粉じん曝露とその健康影響に関する研究」において,建設現場19か所で,作業者85名の鼻先の気中石綿粉じん濃度を光顕法(×400)により測定した結果を公表した。その内容は次のとおりである。
作業内容

気中石綿粉じん濃度[f/㎖]

屋内での建材の丸鋸切断が主の作業

6.3~787

その4m以内の作業

3.6~630

建材のビス打ち付けが主の作業

0.6~28.8

その4m以内の作業

0.1~19.2

屋外での作業

0.01~1.2

海老原勇の測定結果(甲A108)
医学博士海老原勇は建築現場において作業環境濃度と作業者の個人曝露濃度を測定し,その結果を,平成19年6月発行の「建設作業者の石綿関連疾患-その爆発的なひろがり-」に掲載した。その報告内容は,次のとおりである。

現場調査の内容,方法等
昭和62年10月及び11月に,東京都内のA,B2箇所の木造住宅建築現場を対象に,それぞれ,クリソタイルを含有する住宅建築用外壁材の切断,運搬,木材の骨組み等への釘による打ち付けを行う作業者各1名に個人サンプラーを装着して,129分から203分を測定時間として,実施した。また,併せて,切断作業を中心とした15分程度の短時間の曝露濃度の個人サンプラーによる測定,電動丸鋸の手元や釘打ち作業の手元などの近くでの石綿粉じん濃度の測定をした。これらの石綿粉じん濃度の測定は,メンブランフィルターを用いて吸引流量1ℓ/㎜で石綿粉じんをろ過吸引し,フィルター上に捕集された5μ以上で長さと幅の比が3:1以上の繊維状粒子を干渉位相差顕微鏡で計数する方法で行われた。

調査結果等
作業者の石綿粉じん平均曝露濃度は,0.94~1.58f/㎖(平均1.19f/㎖,標準偏差0.27)であった。単位時間あたりの切断量と石綿粉じん平均曝露濃度との間には,現場Aでは相関関係は認められなかったが,その理由は,発じん源と風向,風速並びに作業者との位置関係などと関係しているものと推定された。一方,現場Bでは平均曝露濃度と切断量が正の相関関係になっており,これは現場Bではほとんど風がなかったためであると考えられた。
併せて,切断作業を中心とした短時間の曝露濃度の測定結果は,2.3~6.7本/㎤であり,作業者は切断作業などでは比較的短時間に平均曝露濃度の2倍から7倍の曝露を受けていることがわかった。
また,発じん源付近の,最も高い濃度であると思われる位置で石綿粉じん濃度(環境濃度)を測定したところ,その結果は,11.2f/㎖,18.5f/㎖であった。この粉じんに曝露するか否かは発じん源と風や作業姿勢との関係などの影響が大きいが,潜在的な最大曝露を考慮するために必要な測定と考えられた。
改訂石綿含有建築材料の施工における作業マニュアル(甲A183)掲載
の測定結果
建設業労働災害防止協会は,平成4年1月に,平成4年通達で推進された特別教育に準じた労働衛生教育のテキストとして石綿粉じんの発散防止の措置等について解説した「石綿含有建築材料の施工における作業マニュアル」を発行した。平成9年1月に発行された同マニュアルの改訂版(平成9年作業マニュアル)には,石綿含有建材の現場加工における石綿粉じん濃度につき,可搬式電動丸鋸等を使用した屋内作業の場合は石綿の管理濃度(2本/㎤)を超える状況にあり,特に屋内作業であって密閉状態にある場合は管理濃度の数倍~数十倍になることがあるとした上で,参考として次の測定結果が記載されている。(甲A183の29~31頁)

屋内における石綿粉じんの個人曝露測定データ
昭和59年にA社が実施した屋内における石綿粉じんの個人曝露測定データ例
(吸引流量は1ℓ/分で試料を採取,
400倍の位相差顕微鏡にて
吸入性石綿繊維を計数。)は次のとおりである。

作業者番作業概要

採取時間


個人曝露濃度
(本/㎤)

A-1

石膏ボード,石綿けい酸カルシウム板貼り85分

3.09

A-2

石綿けい酸カルシウム板貼り

35分

5.96

A-3

石綿けい酸カルシウム板貼り

30分

6.09

B-1

石膏ボード貼り

93分

1.19

B-2

石綿けい酸カルシウム板貼り

45分

3.55

ここでの作業は,5名の作業者(A-1ないしB-2)による密閉された屋内での耐火間仕切り工事で,石膏ボードを所定の寸法に裁断した後,壁に貼り,次いで石綿けい酸カルシウム板を電動丸鋸(除じん装置なし)で所定の寸法に裁断し,それを既に取り付けられた石膏ボードの上に貼る作業であり,作業者B-1を除き,全て石綿けい酸カルシウム板の裁断時間は試料採取時間の10%程度であった。なお,作業者B-1は,石膏ボード貼りの作業に伴い,床上に堆積した石綿を含む裁断粉が再飛散して上表の結果になったものと推測された。

屋内実験における石綿粉じんの測定データ例
昭和63年にB社が,作業者Aに屋内において実験的にフレキシブルボード5㎜品を電動丸鋸を用いて25分間切断(除じん装置なし)させ,当該切断作業と並行して作業者Bに小運搬を40分間行わせ,作業者Cに施工作業を40分間行わせて,それぞれの石綿粉じんの個人曝露濃度を測定(吸引流量1ℓ/分でフレキシブルボード切断開始後10分が経過してから試料を採取し,400倍の位相差顕微鏡にて吸入性石綿繊維を計数)した結果は,以下のとおりである。

作業者番号

作業概要

採取時間

個人曝露濃度(本/㎤)

A
切断作業

15分

4.46

B
切断作業室内の小運搬作業

30分

4.09

C
切断作業室内の施工作業

30分

3.75


屋外における石綿粉じんの個人曝露測定データ
昭和62年から昭和63年に日本石綿協会が,除じん装置を使用していない屋外の施工現場において石綿粉じんの個人曝露濃度を測定(吸引流量1ℓ/分で試料を採取,400倍の位相差顕微鏡にて吸入性石綿繊維を計数)した結果は,以下のとおりである。

工事名

使用石綿含作業作業概要

採取時個人曝露

有建材


者番

濃度(本/
㎤)

工場屋根大波スレーA

電動丸鋸による切断

32分

葺替

小運搬・葺上げ

1800.01

トA
0.02

分B
バンドソーによる切32分

0.04

B
葺上げ

1800.01

工場屋大波スレーC

91分

0.25

C
葺上げ

78分

0.11

C
電動丸鋸による切断

56分

0.04

けいカル板D

バンドソーによる切84分

0.21

(屋根下

根・外壁

電動丸鋸による切断


ト(屋根)
小波スレー
ト(外壁)

D
小運搬・葺上げ

50分

0.18

D
地)

バンドソーによる切60分

0.02


ビル外装

フレキシブE

電動丸鋸による切断53分

ルボード

(午前)
E
電動丸鋸による切断82分

0.20

0.31

(午後)
F
張付け(午前)

53分

0.09

F
張付け(午後)

97分

0.08

「BKレポート」(甲A537)に掲載された繊維濃度
上記資料は,ドイツにおける労災認定のマニュアルである。「7

石綿へ

の曝露に関する回顧的調査」の章には,建築分野における石綿含有建築材料の処理過程につき,次のとおりの繊維濃度が記載されているが,「全体のまえがき」として,データは傷害保険組合関係の情報源から得たものであること,濃度の値そのものだけでなく,別の測定方法による値をメンブランフィルター法による値に換算するためのファクターについても,安全な側をとるようにした(すなわち,疑わしい場合はより高い方の値を採用した。)ことなどが注記されている。
仕事
繊維濃度評価方
90%-値

法*

[F/㎤]
波板の手挽き鋸(片刃鋸)による処理(1955年末まで)

0.5

S
60

T4S
1.2

S2S
人造スレート敷詰,小サイズ

0.8

S
外壁化粧張り,小サイズ

0.4

S2S5T
6.4

S6S
100

T
12

S1S
被覆石綿セメント製人造スレートの撤去(1991年から)

0.015

S
被覆石綿セメント板の新規被覆(1991年から)

0.015

S
加工(屋FLEX(研削切断機)による切断(1956年から)
根ふき)FLEXによる切断(1956年から)
ドリルによる屋根への敷詰作業(切断を含まな
い)
屋外でFLEXを用いて行う配管工事(1956年から):管の切断-作業直当たり10回の切断-,積上げ,積み下ろし等

AZの波板,
スラブ及び小サイズ板の撤去(取壊)
(全体の取
壊工事とは別に行う)
研磨又は高圧洗浄による風化石綿表面の洗浄
外壁構造,平板,鋸又は切断機による処理
換気装置
-FLEXを用いない切断
-FLEXを用いた切断
閉め切った空間内にいる切断作業者及びそれ以外の要員
に対するわずかな沈降物の継続的影響
石綿波板及び小サイズ板の撤去
石綿セメント製品の積上げ及び積み下ろし(手作業,処理

2T
作業なし)


Tは仕事値
(当該作業中の測定値)
であり,
Sは作業直平均値
(一定時間,
一連の流れの作業を測定した平均値)である(証人丙(当審))。
「石綿含有建築材料の飛散状況」(甲C65)に掲載された測定結果環境省が設置した「建築物の解体等における石綿飛散防止検討会(第5回)」において,平成17年に配布された上記資料には,解体現場における石綿粉じん飛散における文献のうち,施工部位と解体方法が明確なものに絞って整理したところ,作業環境測定値(JAWE法,総繊維数)の平均は,石綿含有スレートボード(石綿含有率10~15%)を散水せずにケレン棒で破砕した場合に2.756~3.840本/㎤,散水してハンマーで破砕した場合に0.228本/㎤,石綿含有セメントけい酸カルシウム板(石綿含有率10~15%)を散水してハンマーで破砕した場合に0.609本/㎤,などとなっていた。
「石綿ばく露歴把握のための手引」(甲A35)に掲載された測定結果厚生労働省が設置した「石綿に関する健康管理等専門家会議」マニュアル作成部会は,相談の場で働く保健師等やエックス線検査等を行う健診機関の職員等を対象に,石綿ばく露歴把握のための手引(以下「平成18年手引」という。)を平成18年10月に発行した。

平成18年手引には,石綿繊維の浮遊と再飛散について,吹付け石綿除去工事後の再飛散に関する実験結果として,高さ2m強にあった2.5㎡の吹付け石綿を除去した翌日に床を箒で15分掃除した際,掃除直後の室内における石綿濃度は,20本/㎖という高濃度であったこと,また,石綿は,空中に留まって浮遊する時間が長いため,床掃除作業4時間後の高さ1.5m地点での石綿濃度は7本/㎖であり,8時間後でも3本/㎖,12時間後には1本/㎖を示し,飛散開始14時間後に床に落下していったこと,床に落下後であっても,実験室内を歩くと,床に落ちていた石綿が再飛散し,
3本/㎖という石綿濃度を示したことが記載されている。
(甲
A35の5頁)

さらに,平成18年手引では,石綿濃度と曝露量の判断について,次の内容の記載がされている。
石綿濃度に影響する要因
石綿製品で最も飛散しやすいのは石綿吹付け材であり,次に飛散しやすいのはフェルト材,煙突材や保温材である一方,石綿含有建材は,経年劣化の論文報告がある波型スレートや同様の指摘の論文がある化粧石綿屋根材を除いては,石綿繊維の飛散は改築解体時以外は稀とされている。
石綿濃度が特に上昇する作業は,「切る」「当てる」より「こする」もしくは「清掃」作業である。石綿製品と接触する面積が広いほど濃度が上昇する。
空間が狭く換気量の少ない場合は石綿濃度が高くなり,空間が広く,窓や局所排気装置が設置され換気量の高い空間では石綿濃度は低くなる。換気量の高い空間で十分な対策がないと,大気に石綿が飛散することにもなる。(甲A35の90頁)
様々な場所での石綿濃度
過去に測定された石綿鉱山,石綿吹付け作業,石綿製品製造工場の石綿繊維濃度は数本/㎖~数百本/㎖が多く,高濃度曝露作業とされてきた。建築現場では,石綿吹付けや電動工具による石綿製品切断時に高濃度となるが,多くは数本/ℓ~数百本/ℓで,これらの作業は中濃度曝露作業に相当する。具体的には,次のとおりである。(甲A35の90~93頁)
(石綿含有吹付け材によるもの)
吹付け石綿除去中
天井を箒で掃く

80~124本/㎖
2.1本/㎖

照明ランプの取替え

0.06~0.17本/㎖

天井にボールを当てる

0.012本/㎖

(石綿含有成形板によるもの)
建材の電気丸鋸による切断

2~20本/㎖

フレキシブル板除去(バールで破砕)
フレキシブル板にドリルで穴空け
Pタイル除去(バールで破砕)
スレートのばらし解体
けいカル板を折る

1~7本/㎖

0.2~2本/㎖
0.06~0.30本/㎖

0.08~0.19本/㎖

0.008本/㎖

(参考)
我が国の大気(平成16年)0.0001~0.0003本/㎖
小括
以上の石綿粉じん濃度の測定結果等によれば,石綿吹付け作業,特に我が国で広く行われた乾式吹付け作業は,100本/
ⅰ),石綿吹付けの除去作業においても,100本/㎤前後の著しく高濃度の曝露を伴うほか,石綿吹付けを箒で掃いても2.1本/㎤,除去作業後の部屋を清掃した後も再飛散により数~20本/㎤が測定されるなど飛散性が高い(前記⒀)。また,保温材の解体(剥ぐ)作業は,保温材の材質にもよるが,乾燥状態で行った場合に20本/㎤以上,水を散布しながら行っても5~40本/㎤というかなり高い濃度の曝露を伴う作業であるほか,断熱材についても,断熱板を丸鋸で切断する作業で20本/㎤以上,
手鋸での切断でも5~12本/㎤,
穿孔も作業者との位置関係に
より2~10本/㎤となっており,
断熱材取扱い作業の長期間にわたる平
均値としても8,9本/
石綿成形板については,英国労働省のデータでは石綿セメント・シートの丸鋸による切断につき10~20本/㎤,
石綿工場における木村菊二の
測定では石綿含有けい酸カルシウム板の電動鋸による切断作業で220.50本/㎤
れば100本/
る実際の作業形態に合わせ切断作業以外も含めた張付け作業全体の測定結果としても,3~十数本/
また,石綿成形板の切断が行われている屋内で,切断作業と並行して小運搬作業や施工作業を行っている者においても,切断作業者と同程度の4本/㎤
あるがナイフ切断とヤスリ掛けで12.
1本/㎤と比較的高濃度の測定結
果が
合に2本/㎤を超える測定結果がある(前記⑿)。もっとも,屋外で行われたことが明らかな外装材取扱い作業の測定結果については,現場の風向,風速,作業者の姿勢等に大きく影響されており,短時間であれば2本/㎤を超えるものもあるが,
大半は2本/

7
防じんマスクの着用状況,石綿の危険性の周知度など
防じんマスクの備付状況
労働省安全衛生部労働衛生課・中央労働衛生専門官である内藤栄治郎が「石綿障害予防対策の現状と関係法規」と題する論文(昭和46年9月発行「労働の科学」26巻9号掲載)で紹介した,昭和46年1月から同年3月までに実施された石綿取扱い事業場の産業別監督指導結果によれば,建設業は,監督事業場数12,石綿取扱い労働者数134について,呼吸用保護具の必要備付数100に対する既備付数が54(備付率54%)であり,鉱業(同100%),製造業(同83%)を下回った(甲A82の30頁)。防じんマスクの着用状況など

久永直見ほか「アスベストに挑む三管理

環境管理と作業管理-建築業

の現場を中心に-」(労働衛生Vol.29.№8,昭和63年)(甲A368)上記記事には,全京都建築労働組合と三重県建設労働組合によるアンケート調査が紹介されており,それによると,石綿粉じんの吸入が「よくある」と回答したのは,京都ではアンケート回答者数6500人(アンケート回答率60%)中8.9%,三重では同7411人(同79.3%)中13.7%であり,「時々ある」と回答したのは京都が29.1%,三重では26.4%であった。そして,石綿粉じんの吸入が「よくある」と「時々ある」と回答した者のうち,粉じん曝露時に防じんマスクを使用する者は,「毎回」が京都で0.8%,三重で2.4%,「時々」が京都で6.8%,三重で7.5%であり,同様に,ガーゼマスクは,「毎回」が京都で0.7%,三重で3.8%,「時々」が京都で8.4%,三重で17.5%,タオル類で代用は,「毎回」が京都で1.3%,三重で7.2%,「時々」が京都で30.1%,三重で24.8%であり,何もしない者が半数以上であった。上記記事は,同調査結果に関して,「呼吸用保護具の使用は根本的な解決ではないが現状では重要である。」と述べている。イ
千田忠男ほか「町場建築のアスベスト作業」
(月刊いのちVol.23.3,平
成元年1月)(乙アA272)
昭和63年に,全建総連東京都連に加盟する組合員のうち同年7月度と
8月度のいずれかに組合の機関会議等に参加する者を調査対象として実施したアンケート(回答者数424名,うち361名分を集計)の結果として,①回答者の大半(352名,97.5%)は,石綿含有建材があることを「よく知っている」又は「少し知っている」とし,この1年間に石綿含有建材を使ったことがあるかについても「ある」とする者が262名(72.6%)と多数に上ったこと,②木造建築で「粉じんの出る所で作業する時にマスクをつけている」と回答した者は157名(47.6%)であったが,着用しているマスクが「防じんマスク」であると回答した者は86名(28.4%)であり,木造建築に従事する者(330名)の約4分の1のみが効果のあるマスクをつけていることになること,③鉄骨建築に従事する者のうち,粉じんの出る所で作業する時にマスクを「いつもつけている」者はわずかに2名(1.9%)であり,「ひどいときだけつける」とする者(33名)とあわせてマスクを着用する者は3割前後であり,
しかも効果のあるマスクをつける者だけをみるとわずか21名
(20.
0%)にしかすぎなかったこと,④石綿粉じんが肺がんの危険因子であることを大半の回答者が知っていることなどが紹介された上,調査結果の特徴として,石綿粉じんを吸入しないようにするための対策をみると,効果のあるマスクを着用する例はわずか2割前後と少なく,大部分は無防備のままで粉じん作業に従事していることが判明した,石綿粉じんの有害性についての認識が広まっているものと考えられるが,煙草を吸う者が半数以上もみられ定期検診を毎年確実に受診する者が約4割にとどまり,正しい保健知識の普及と健康管理活動の強力な推進がなお期待されるなどとしている。
なお,当該アンケートの回答者は全て男性であり,50歳以上が6割前後と高齢層にかたよっており,また,職種は,「大工」が239名(66.2%)と大半を占め,「鳶」が26名(7.2%),「左官」,「塗装」,「板金」の順であったとされ,働き方では,親方が274名(75.9%)と多く,次いで一人親方が115名(31.9%)であり,職人は65名(18.0%)であった。

日本石綿協会安全衛生委員会石綿含有建築材料小委員会「石綿含有建築材料調査報告書(施工現場等における実態調査)」(昭和63年5月,乙ケ5)
上記報告書の「まとめ」では,「切断作業時における防じんマスク(国家検定品)の着用」として,
「これまで切断作業時の防じんマスク着用は,
その必要性が言われながら実際の施工現場において励行されない場合があった。その理由は入手についての問題もさることながら,防じんマスクを着用した場合に伴う息苦しさから着用したがらない施工員がいることもその一因である。」と指摘されている。
なお,同報告書では,「製品毎の実態調査」として,石綿含有建材の区分ごとに製造工程,組成,形状,特徴・特性,用途,流通経路などのほか「作業形態及び標準作業」が記載されており,そこではマスクの着用の有無ないし着用率につき,波型石綿スレート・約90%,住宅屋根用石綿スレート・なし,石綿セメントサイディング・30%,石綿セメント板(内外装材)・90%,パルプセメント板・なし,耐火被覆板(繊維混入けい酸カルシウム板)・70~80%,押出成形セメント製品・約90%,ボード・90%とされており,石綿セメントけい酸カルシウム板(内装材)については記載がないが,具体的な調査対象や調査方法は明らかにされていない。

建設じん肺研究会
「はつり労働者の健康調査-52の事例の解析-」
(平
成15年5月,乙アA271)
平成14年1月時点で松浦診療所に呼吸器症状のために通院している者で,はつり工の職歴を持つ56人のうち52人(いずも男性)を対象とした調査では,保護具の使用状況として,1960年代ではごく一部の職場を除き着用されておらず,1970年代でも着用率は「常時」「時々」「稀」をあわせて過半数に届かない状況であったが,1980年代では着用率は80%と高くなり,1990年代ではほぼ全職場で着用されるに至っていた。1970年代と1980年代の着用率の大きな違いは,1979年に粉じん障害予防規則が施行されて,はつり作業は「粉じん作業」として扱われることになり,事業者に「呼吸用保護具の使用」等が最低義務として課せられたことが影響していると考えられるとしている。

小括
これらの事実を総合すると,昭和60年頃の建設作業現場では,吹付け工や一部のはつり工を除き,大半の労働者は防じんマスクを着用していなかったものと認められ,このことから,昭和50年頃も同様であったものと推認される。被控訴人国は,上記エの調査から,昭和55年以降は多くのはつり工が防じんマスクを着用していたと主張するが,当該調査の対象者は,はつり工の職歴を持つ者に限られており,前記のとおり他の職種の労働者について防じんマスクの着用率が低かったことを示す調査が存在することからすれば,建設労働者の多くが防じんマスクを使用していたと認めることはできない。

8
建築作業従事者の肺疾患等についての労災認定状況
被控訴人国は,産業別の石綿関連疾患発症件数について,平成16年度までは,労災保険法に基づく保険給付等から統計を取っておらず(被控訴人国成17年度分から,「石綿による疾病に関する
労災保険給付などの請求・決定状況まとめ」などとして集計,公表している(甲A332の1~7)。製造業,鉱業及び建設業における昭和45年度から平成16年度分まではじん肺又はじん肺症及びじん肺合併症の,平成17年度分から平成26年度分までは石綿関連疾患(肺がん,中皮腫,石綿肺,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚)の各発生状況は,別紙6別表10のとおりである(乙アA306)。
石綿関連疾患のうち,石綿肺の潜伏期間を10年,肺がんを30年,中皮腫を40年とした上で,石綿製品製造業が属する窯業・土石製品製造業及び建築業における平成20年度以降の石綿肺並びに平成17年度以降の肺がん及び中皮腫の発生件数を,石綿肺については平成10年から平成16年まで,肺がんについては昭和50年から昭和59年まで,中皮腫については昭和40年から昭和49年までの間の両産業分野の労働者数で割った人口1万に当たりの発生率(パーミリオド)を比較すると,別紙6別表11のとおり,石綿肺では,建設業労働者0.07パーミリオドは,窯業・土石製品製造業労働者0.18パーミリオドを明らかに下回る(平成10年から平成16年までの曝露と対応する。)ものの,肺がんでは,建設労働者0.95パーミリオドは,窯業・土石製品製造業労働者0.68パーミリオドを上回り(昭和50年から昭和59年までの曝露と対応する。),中皮腫でも,建設労働者1.22パーミリオドは,窯業・土石製品製造業労働者0.52パーミリオドを上回っている(昭和40年から昭和49年までの曝露と対応する。)。このことは,石綿肺よりも低い石綿粉じん曝露レベルで発症する肺がん及び中皮腫に関して,対応する年代において,建築作業現場の危険性が石綿製品製造工場と比べて遜色のあるものではなかったことを裏付けるものといえる。
さらに,昭和45年度から平成16年度までの建築業労働者のじん肺及びじん肺合併症の件数についてみるに,建築業の中にはずい道工事も含まれることから,この件数が全て石綿肺に当たるということはできないものの,かなりの割合を占めるものと推測されるところ,この発生件数は,昭和49年に200件台を超えた後,昭和50年度から昭和59年度までの10年間の平均は522件,昭和60年度から平成6年度までの平均は392件,平成7年度から平成16年度までの平均は414件と高水準で推移しており,石綿肺の潜伏期間を10年とすると,建築業労働者の人口の変動を勘案するとしても,昭和30年代と比較して,昭和40年以降平成6年までの間,建築作業現場の石綿粉じん曝露の危険性の高い状況に大きな変化がなかったことを物語るものといえる。
9
建築作業従事者の石綿関連疾患への罹患状況
セリコフらは,昭和39年,米国の医学誌に「アスベスト曝露と新生物」と題する論文を発表した。この論文では,建築業の断熱労働者の石綿曝露は比較的軽度で断続的であるが,1943(昭和18)年以前にこの産業に就業した632人について1962(昭和37)年まで追跡調査を行ったところ,米国人白人男性の年齢別・時期別の肺又は胸膜のがんによる死亡率に基づき算出された期待値6.6人に対し,45人が肺又は胸膜のがんにより死亡しており,うち3人は胸膜中皮腫であったこと,このほか腹膜中皮腫も1人あり,255名の死亡者のうち4人が中皮腫であったことは,このような稀な腫瘍の発症率としては非常に高いこと,12名は石綿肺により死亡していたことなどが報告された。(甲A148)
セリコフらは,その後も同様の調査を続け,昭和47年の「米国及びカナダの建設業における断熱作業労働者のがんの危険度」と題する発表では,米国及びカナダの断熱作業労働者1万7800人の1967(昭和42)年1月1日から1971(昭和46)年12月31日までにおける肺がんと胸膜中皮腫による死亡数について,曝露開始からの年数に応じて分析し,①肺がん死亡は曝露開始後15~19年で有意に増加していたこと,②肺がん死亡者数が最も多いのは曝露開始後30~39年の部分であり,曝露開始から少なくとも40年観察しないと石綿曝露による影響を評価するのは困難であることを報告した(甲A334の2・17頁)。
セリコフらの上記論文等は,昭和47年度環境庁公害研究委託費によるアスベストの生態影響に関する研究報告(甲A31・62~65頁),昭和51年通達に添付された石綿関係資料(甲A334の2・15頁)や昭和53年の専門家会議報告書(甲A266・109頁以下)でも紹介されている。昭和45年11月17日の朝日新聞では,国立療養所近畿中央病院の瀬良好澄院長は,大阪市の吹付け工(死亡当時59歳)が48歳から7年間石綿吹付け作業に従事して,昭和39年5月に強い息切れを訴えて石綿じん肺と診断され,昭和42年に入院し,昭和44年10月に死亡したことを突き止めたこと,我が国では石綿製造工場外で発症した例は珍しいが,最近,ビルの断熱材などに吹付け石綿が使われているので,患者は他にもあるのではないかとみていることが報じられている(甲A79の1)。
瀬良好澄は,「石綿作業と肺疾患」と題する論文(昭和46年9月に刊行された「労働の科学」26巻9号に掲載)において,石綿と肺がんに因果関係があることについては今や異論のないところであるとした上で,「石綿製品と原材料」の表の中で,「石綿建材」として吹付け石綿,石綿セメント板,石綿タイルを挙げている。また,近年建築関係等で石綿吹付け作業が盛んに行われているが,作業者39名中6名(15.4%)に石綿肺を認め,1型2名(5年,7年3か月),2型2名(6年,7年),3型2名(3年11か月,5年6か月)であり,比較的短い作業期間で発病することは注目すべきであること,このうち1例は,7年で呼吸困難を訴え,エックス線像2型,以後入院治療したが進展し,5年後呼吸不全で死亡したもので,石綿吹付け作業による我が国最初の死亡例であること,他に6年で2型になった者で1年10か月後に死亡した例もあり,吹付け作業については強力な予防指導を要するものと思われることを述べている。(甲A8)
昭和46年1月から3月までの石綿取扱い事業場の監督指導結果(監督事業場数:鉱業2,建設業12,製造業174,計188,石綿取扱い労働者数:鉱業3,建設業134,製造業3657,計3794)によれば,じん肺の有所見者率は,全体で6.5%であるが,業種別では,製造業6.6%,建設業3.5%,鉱業0%の順となっていた(甲A82の31頁)。富山医科薬科大学の北川正信らは,昭和51年,日本癌学会総会で「本邦における中皮腫例の病理組織学的研究,その発生状況とアスベスト汚染背景について」と題する報告をし,その中で,中皮腫症例のうち,石綿小体が検出され,石綿曝露との関連性が濃厚にみられる職業として,石綿加工業の他では,ブリキ,製缶や管工工事関係,左官や大工,コンクリート工業,鉄道の保線・機械関係が注目されるとした(甲A473)。
北川正信らは,40歳から47歳までボイラー取付け及び水道配管の各作業に従事し,その後の10年間は鉄骨を組み上げる作業に従事した後,昭和55年8月に肺がんで死亡した58歳の男性を解剖した結果,胸膜肥厚斑を認め,石綿粉じん曝露に関連する肺がんであったことを明らかにした(甲A476)。
海老原勇医師らは,昭和58年から昭和62年までの間(第1期),平成9年(第2期),平成17年及び平成18年(第3期)の3回にわたり,首都圏の建設作業従事者が加入する組合の一般健康診断の胸部レントゲン写真を読影した。第1期及び第2期の調査は平成11年(甲A109)及び平成19年の論文(甲A108)に,第3期調査は平成19年の論文に記載されている。
その結果,第1期においては,建設作業従事者5712名中47名(0.82%)に胸膜肥厚斑を認めた。割合が高かったのは,空調工・保温工の5.06%,瓦工・軽天工の4.76%であった。
第2期においては,建設作業従事者5688名中92名(1.62%)に胸膜肥厚斑を認めた。割合が高かったのは,空調工・保温工の7.41%,瓦工・軽天工の5.00%であったが,大工における割合は,第1期の0.99%から第2期では2.46%に増えていた。
第3期においては,建設作業従事者6268名中423名(6.75%)に胸膜肥厚斑を認めた。40歳以上では9.59%,65歳以上では18.17%であり,割合が高かったのは,左官の13.64%,木工・建具の11.72%であった。人数の多い大工では,7.87%であった。また,第3期の対象者のうち,石綿肺Ⅰ型以上の者は,184名(2.94%)存した。
建築作業の石綿粉じん曝露の危険性に関するその他の公表資料等
専門家会議報告書
専門家会議報告書(甲A266)は,石綿曝露作業として,我が国で石綿への曝露労働者数が最も多いのは,石綿の消費量が約4分の3に及ぶ建設業であること,建設業において使用される石綿の多くは石綿セメント,床タイル,屋根ぶき用フェルト及びスレート用などであり,一部は吹付け用の断熱材料,石綿粉末として使用されていること,石綿セメントの混練,断熱材料の吹付け等の作業においては石綿繊維を空気中に発散させやすく,これらの作業に従事する労働者の曝露濃度が労働衛生上問題となるが,一般に一日の作業における石綿曝露作業の時間は短いこと,1日の作業時間のうち比較的長時間継続して石綿粉じんの高濃度曝露を受ける作業として,石綿を原料として取り扱う工程における各種作業があること,以上のほかに石綿曝露作業を有する産業は造船,製鉄,自動車その他多岐にわたっているが,比較的高濃度の石綿粉じん曝露を受ける作業の一つとして各種石綿製品の切削作業があり,ビルの解体作業も不測の石綿曝露を受けることのある作業であるとしている。


AIAによる勧告(昭和54年)
国際アスベスト協会(AIA)は,昭和54年に「石綿セメント製品取扱いに対する勧告」
を公表し,
我が国でもその内容は同年9月25日発行の
「せ
きめん」(社団法人日本石綿協会発行)で紹介された。その概要は,次のとおりである。(甲A580)

勧告が当てはまる製品
全ての石綿製建築材料及びその付属品
こけら板


波形板,切り出し板

平板

例えば,スレート,羽目板又は
パイプ

成形品

押出品

石綿や石綿セメント製品を扱って作業をする場合の基本的要件
石綿作業が健康に及ぼす有害な影響は,過度の量の細かい石綿粉じんを吸入すると起こる。防止方法が効果的であるかどうかは,通常,作業期間を通じての粉じんの平均量を測定して評価するが,実際には,全作業期間を代表するとみなし得るのであれば,1作業日の一部(例えば1時間)に対してこのような粉じん測定を行ってもよい。
技術的に改善を行っても,規定水準を超える濃度が避けられない場合には,作業者に対して保護具を用意しなければならない。
石綿セメント製品では,標準石綿含有量は10~15%の範囲にあり,この石綿は結合材で固着されている。硬質製品から人が吸入し得る遊離の繊維がかなりの数で大気中に放出される唯一の機会は,適切な防止設備もなく高速切断やその他の研磨作業を行う場合である。

勧告を適用する諸作業
切断や機械加工


研磨

穴あけ

やすりがけ

クリーニング

推奨される石綿粉じん防止手段
石綿粉じんを発生させないようにすること。そのため,粗い粉じんやチップだけを生ずるような手工具や低速回転工具を使用する。細かな粉じんを発生させる研磨工具や高速工具を使用する必要がある場合には,これらの工具には石綿粉じん除去装置を付けねばならない。真空クリーニング装置を用いて石綿粉じんやチップを集める。または,粉じん抑制剤を用いて一掃する。
多くの石綿セメント製品は現場での機械加工の必要がないが,大抵の作業ではある程度の現場加工を要し,この場合には石綿粉じん防止策が必要となる。手作業や,野外での低速工具の短時間使用あるいは間欠的使用の場合には,通常,特別な注意は不要である。長時間連続運転を行う場合には,作業場の状態に応じて,機械に除去装置を必ず付けるか,湿式機械加工用工具を使う。石綿業界と器具製造業者とが協力して開発した専用の工具類を,堅実な作業技法と併せて使用すると,規定限界以上の石綿粉じんは発生しない。

適当な装置
アスベスト粉じん除去装置

真空クリーナー

専用工具類

作業員保

護用具
粉じん濃度評価基準
粉じん濃度測定についての考え方
粉じん濃度の評価基準の前提となる粉じん濃度の測定には,作業者の個人曝露濃度を測定する考え方と作業場における粉じん濃度を測定する考え方がある。前者は,1日の作業時間中に労働者が曝露する平均粉じん濃度,すなわち時間荷重平均濃度を知るための測定であり,後記の日本産業衛生学会や諸外国の評価基準は個人曝露濃度の測定を前提とする評価基準である。他方で,後者は,作業場における平均濃度及び位置における違いを知るための測定を前提とするものであり,我が国の規制において採用されている評価基準である。
日本産業衛生学会の勧告する許容濃度(乙アA142,乙ケ1)

昭和40年の勧告
日本産業衛生協会(昭和47年に日本産業衛生学会に名称変更。以下,名称変更の前後を通じて「日本産業衛生学会」という。)許容濃度等に関する委員会は,昭和40年5月11日,初めて石綿の許容濃度を,じん肺性粉じん・第1種粉じんに属するものとして2㎎/㎥
(33本/mlに相当)
と勧告した。許容濃度とは,労働者が有害物に連日曝露される場合に,空気中の有害濃度がこの数値以下であれば,健康に有害な影響がほとんど見られないという濃度であり,その数値は,感受性が特別に高くない労働者が,1日8時間以内,中等労働に従事する場合の,1日の曝露労働時間内の平均濃度である。上記数値は海外で報告された13人の珪肺死の剖検肺に含まれた珪酸量をもとに,20年間吸入して致命的な珪肺を生じさせる粉じん濃度として求められたものである。この勧告は,職場での健康被害を予防するための手引として用いられることを目的としており,安全又は危険の限界を示すものではないとされた。(甲A95)

昭和49年の改訂
日本産業衛生学会は,昭和49年,昭和40年の勧告に示された石綿の許容濃度の数値の改訂を行い,クリソタイル,アモサイト,トレモライト,アンソフィライト及びアクチノライトの気中許容濃度を,時間荷重平均として,
5㎛以上の石綿繊維で2繊維/㎤
(対応する重量濃度0.
12㎎/㎥)

天井値(いかなる時も15分間の平均濃度がこの値を超えてはならない)として,5㎛以上の石綿繊維で10繊維/㎤とし,クロシドライトの許容濃度については,これらの濃度をはるかに下回る必要があるとした。改訂の理由は,石綿肺のみでなく肺及び消化器のがん及び中皮腫が注目されるようになり,日本の現行許容濃度が近年に各国で設定又は改訂された許容濃度と比較すると極めて高い値であることなどが挙げられており,英国労働衛生協会(BOHS)の報告に依拠して定めたものとされている。(乙アA192,193)


昭和56年の改訂
日本産業衛生学会は,クロシドライトについて,昭和55年5月16日には許容濃度暫定値として,
昭和57年4月6日には許容濃度として,
0.
2繊維/㎤と勧告した。これは,米国労働衛生専門官会議(ACGIH)の提案に依拠したものである。(甲A96,98,乙アA194)


平成13年の改訂
日本産業衛生学会は,平成13年4月6日,リスクアセスメントの手法を導入し,石綿を発がん物質と分類した上,過剰発がん生涯リスクレベル10-3,10-4に対応する評価値を,クリソタイルのみのときはそれぞれ0.15繊維/㎖,0.015繊維/㎖,クリソタイル以外の石綿繊維を含むときはそれぞれ0.03繊維/㎖,0.003繊維/㎖とする許容濃度等の勧告をした。この評価値は,①石綿肺の中から肺がんが生じるという考え方が今日では否定的であるため,許容濃度の検討にあたっては,従来の石綿肺ではなく石綿の発がん影響を問題とすること,②低濃度曝露についての十分な疫学研究がない中,安全を重視し,アスベストの発がん影響には閾値がないと想定し,他の物質の例にならい,評価値を求めるレベルを10-3

,10-4とすること,③多くの疫学データに適合度の高い量・反応関係
統計モデルを用いることを基本方針として,決定されたものである。(乙アA195,乙ケ1~3,乙ラ7)
諸外国の評価基準

米国労働衛生専門官会議(ACGIH)
ACGIHは,石綿粉じんの許容濃度として昭和21年から昭和45年まで5mppcf(millionparticlespercubicfoot)を採用していたが,昭和43年及び昭和44年には12[繊維/㎤>5μ]又は2mppcfに下げることを提案し,昭和45年と昭和46年には更に低い濃度5[繊維/㎤>5μ]を提案した(乙アA192)。その後,ACGIHは,石綿粉じんの許容濃度について,
昭和55年にクリソタイルは2本/㎤,
アモサイトは0.
5本/㎤,
クロシドライトは0.2本/㎤に改訂する勧告を行い,さらに,平成3年に勧告値を0.2本/㎤に引き下げる提案をしたが,勧告には至らず,平成10年に勧告値を0.1本/㎤に引き下げた(甲A67の1)。


米国労働省安全衛生局(OSHA)
OSHAは,石綿粉じんの許容曝露限界について,昭和46年12月に8時間荷重平均値を5本/㎤,ピーク曝露レベルを10本/㎤とする緊急暫定基準を公布し,昭和47年にこれを確定基準とし,昭和51年に8時間荷重平均値を2本/㎤とし,その後,昭和58年に同0.5本/㎤とする緊急暫定基準を発表したが,昭和61年に,同0.2本/㎤と改訂した。改訂の理由は,定量的リスクアセスメントの結果に基づき,2本/㎤における肺がん及び中皮腫の1000人当たりの推定過剰死亡数は,20年間曝露により41.21人,45年間曝露により59.70人であるのに対して,0.2本/㎤のもとでは,20年間曝露により4.24人,45年間曝露により6.24人と推定され,2本/㎤の曝露レベルで重大なリスクが生じていると判断したとしている。その上で,0.1本/㎤であっても,アスベスト関連がんによる重大なリスクは依然として存在するが,現在の工学的技術ではそのレベルにまで職場のアスベスト濃度を低減させるのは多くの工程で困難であり,達成可能なレベルのうち最も低い濃度は0.2本/㎤であって,これを許容曝露限界と定めるというものであった。(甲A471,600,601)

英国
英国では,
昭和43年のBOHS
(英国労働衛生協会BritishOccupational
HygieneSociety)の勧告に基づき,昭和44年に石綿濃度基準として,クリソタイル及びアモサイトについて4時間のサンプリング時間で2本/㎤,ク
ロシドライトについては10分間のサンプリング時間で0.
2本/㎤を下回
らなければならないと定められた。BOHSの勧告は,クリソタイルの累積曝露について100本/㎤・年であれば,石綿肺の発症を1%以下に減少させることができるとの考えに基づくものであった。
英国は,
昭和58年,
1日8時間労働を前提としてクリソタイルを1.
0本/㎤,
アモサイトを0.
5本/㎤,クロシドライトを0.2本/㎤とする基準を発効させ,昭和59年には,クリソタイルにつき0.5本/㎤,アモサイトにつき0.2本/㎤へと規制を強化した。(甲A302,587の1,甲A589,592)

我が国の規制の経過
抑制濃度
a
労働省に設置された労働環境技術基準委員会は昭和46年1月2
1日付け報告書において,作業環境内に有害物等が発散することを防止するための施設として局所排気装置等の設置の必要性を指摘するとともに,局所排気装置の吸い込み口付近における有害物の濃度を測定し,その濃度を一定値以下に抑制することによって有害物の濃度の管理をするという抑制濃度の考え方を示し,抑制濃度の値として,当面,日本産業衛生学会が勧告する許容濃度の値等を利用することが適当であるとした。昭和46年の旧特化則で,石綿が規制対象とされ,使用者に対し,局所排気装置の設置(4条),石綿粉じん濃度の環境測定の実施(29条)が義務付けられたが,労働大臣は,同年4月28日,旧特化則6条2項の規定に基づき,石綿局所排気装置に係る局所排気装置の性能要件として,
石綿の抑制濃度を2㎎/㎥
(33本/㎤)
と定めた(同年労働省告示第27号)。(乙アB15,18)
b
その後,昭和47年に安衛法が制定され,同法65条において,事業者に対し,有害な業務を行う屋内作業場等における作業環境の測定が義務付けられた。労働基準局長は,昭和48年7月11日,「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」(同年基発第407号)を発出し,都道府県労働基準局長に対して,当面,石綿粉じんの抑制濃度を,5㎛以上の石綿繊維で5繊維/㎤(対応する重量濃度約0.3㎎/㎥)と指導するよう通達した。通達発出の理由として,作業環境気中濃度基準を繊維数で表示することが医学的により適切であること,最近,石綿が肺がん,中皮腫等を発生させることが明らかとなったこと等により,各国の規制においても気中石綿粉じん濃度を抑制する措置が強化されつつあることが挙げられていた。その後,労働大臣は,昭和50年9月,特化則に基づく告示を改正し,上記通達と同内容の抑制濃度を告示した(同年労働省告示第75号)。(乙アB51,52)
c
労働大臣は,昭和51年5月22日,「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推進について」(同年基発第408号)を都道府県労働局長に対して発出し,最近,関係各国において環気中の石綿粉じん濃度の規制を強化しつつあるとして,当面,2本/㎤(クロシドライトについては0.2本/㎤)以下の環気粉じん濃度を目途とするよう指導するよう通達した(乙アB52)。労働大臣は,同年,安衛法65条に基づき,「作業環境測定基準」(同年労働省告示第46号)を制定し,各有害物質ごとに,測定点,捕集方法,分析方法など測定の具体的な方法を定めた(乙ア80)。
管理濃度

a
労働省に昭和52年に設置された「作業場の気中有害物質の濃度管理基準に関する専門家会議」は,昭和55年,「作業場における気中有害物質の規制のあり方についての検討結果

第1次報告書」を公表

し,その中で,昭和51年の「作業環境測定基準」にいう測定に加えて,労働者の曝露が最大となると考えられる場所と時間における測定を付加し,作業環境の管理状況は両測定の結果により行うこととし,これを管理濃度と呼ぶこととした。第1次報告書は,作業環境測定や評価方法の基本的考え方を示すのみで,各有害物質ごとの具体的な管理濃度の値を検討したものではなかったことから,労働省は,個別物質の管理濃度については,当面,日本産業衛生学会の許容濃度の数値などをもととして,作業環境測定を実施するように指導した。(乙アA33,80,144)
上記専門家会議の結果を踏まえて,労働基準局長は,昭和59年2月13日,通達「作業環境の評価に基づく作業環境管理の推進について」(同年基発第69号)を発出し,安衛法65条の規定に基づく作業環境測定結果についての評価方法及びこれに基づく事業者の自主的対策の進め方について,「作業環境の評価に基づく作業処理要領」を示した。その中で,学会等の示す曝露限界及び各国の曝露の規制のための基準の動向を踏まえつつ,作業環境管理技術の実用可能性その他作業環境管理に関する国際的動向等をもとに,作業環境管理の目的に沿うよう行政的な見地から,管理濃度(有害物質に関する作業環境の状態を評価するために,対象となる区域について実施した測定結果から当該区域の作業環境管理の良否を判断する際の管理区分を決定するための指標)を定め,石綿の管理濃度を5μ以上の繊維につき2本/㎤(許容濃度に換算すると0.8本/㎤)とした。(乙アB54)b
昭和63年法律第37号による安衛法の改正に伴い,65条の2第2項に,作業環境測定の結果の評価を行うに当たっては,労働省令の定める作業環境評価基準に従って行わなければならないとの条項が加えられ,管理濃度に基づく作業環境管理が法制化されたことから,労働大臣は,作業環境評価基準(昭和63年労働省告示第79号)により,石綿及び72の物質の管理濃度を定めた。石綿の管理濃度は,5μ以上の繊維として2本/㎤(クロシドライトにあっては0.2本/㎤)と定めた。(乙アB56,57)

c
厚生労働大臣は,平成14年から平成15年にかけて「管理濃度等検討会」を設置し,その報告等に基づき,作業環境評価基準における管理濃度を変更し,平成16年,石綿の管理濃度を5μ以上の繊維として0.15本/㎤(許容濃度に換算すると0.06本/㎤に相当)に引き下げた(同年厚生労働省告示第369号)(乙アB62)。

d
厚生労働省は,屋外作業場における測定のあり方についての調査検討を行い,その結果を平成16年の「屋外作業場等における測定手法に関する調査研究報告書」(甲A221)としてまとめ,平成17年に通達「屋外作業場等における作業環境管理に関するガイドラインについて」(乙B63)を発出した。同通達は個人サンプラーを用いて作業環境の測定を行い,その結果を管理濃度の値を用いて評価するという手法を示すものである。
第2
1
判断
労働関係法令に基づく規制権限の不行使について
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁,最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁,最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁参照)。
本件においては,安衛法に基づく規制権限の行使が問題となっているところ,
安衛法は,
職場における労働者の安全と健康の確保等を目的として
(1条)

事業者は,労働者の健康障害を防止するために必要な措置(22条)及び労働者の健康・風紀及び生命の保持に必要な措置(23条)を講じなければならず,また,危険又は有害な業務に労働者を従事させるときは安全・衛生のための特別教育を行わなければならない(59条)と定め,その具体的措置等の内容を包括的に労働省令に委任している(27条,59条)が,その趣旨は,具体的措置等の内容が,多岐にわたる専門的,技術的事項であること,また,その内容を,できる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正していくためには,これを主務大臣に委ねることが適当であるとされたことによるものと解される。さらに,安衛法は,労働者に重度の健康障害を与える物の製造等の禁止(55条),労働者に健康障害を与える物への表示義務(57条)を定め,かかる物質の指定を政令に委任しているところ,その趣旨は,かかる規制の影響が事業者及びその使用する労働者を超えて,広範囲に及ぶことから,上記したところに加えて,社会全体の観点からの幅広い考慮を要するため,内閣の総合的な政策的判断に委ねる趣旨と解される。
以上の安衛法の趣旨,目的,上記各規定の趣旨等に鑑みると,労働大臣及び内閣の上記規制権限は,労働者の労働環境を整備し,その生命,身体に対する危害を防止し,その健康を確保することをその主要な目的として,多岐にわたる専門的,技術的諸事情を考慮し,できる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく,適時にかつ適切に行使されるべきものであるというべきであり,旧労基法における同種の規制権限の行使についても同様に解される
(前掲最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決参照)

しかるところ,被控訴人国において規制権限を行使するためには,労働者の安全及び健康に対して生じているリスクを把握し得ることが前提となるが,本件において問題となっている石綿関連疾患は,労働者の生命に影響を与える重篤な疾患であるものの,石綿粉じん曝露から長期間経過後に発症することから,リスクが顕在化する前に対処することが求められるところ,被控訴人国において,石綿粉じん曝露の程度と石綿関連疾患の発症リスクの大きさ,建築作業現場における石綿粉じん曝露の程度とこれに曝されている集団の規模といったリスク判断に必要な事項について,問題とされる時点において,どの程度把握することが可能であったかが問われるべきである。その際,被控訴人国において現実に把握していた事情のみならず,労働基準監督署長及び労働基準監督官を通じて安衛法上の規制の実施を行う監督行政の過程で,当然把握可能であった作業の実態や規制の実効性に関する事情も考慮されるべきである。そのうえで,リスクに対する規制の態様には種々の選択肢があり得ることから,規制自体がもたらす副次的効果や規制の実効性をも勘案の上,把握可能であったリスクの大きさとの見合いにおいて,対応の合理性が判断されるべきである。そこで,このような観点に立って,以下に検討する。
2
建築作業現場における石綿粉じん曝露の状況
建築作業の内容からみた石綿粉じん曝露の危険性について

前記第1の6の石綿粉じん濃度の測定結果等によれば,一般に,石綿吹付け作業,特に我が国で広く行われた乾式吹付け作業は,100本/㎤以上の著しく高濃度な曝露作業である。また,保温材の解体(剥ぐ)作業は,乾燥状態で行った場合に20本/㎤以上,
水を散布しながら行っても5~4
0本/㎤というかなり高い濃度の曝露を伴う作業であるほか,
断熱材につい
ても,丸鋸で切断する作業で20本/㎤以上,断熱材取扱い作業の長期間にわたる平均値としても8,9本/㎤程度の濃度が報告されている。石綿成形板については,
建築現場でも短時間であれば100本/㎤を超える濃度が測
定されており,実際の作業形態に合わせ切断作業以外も含めた張付け作業全体の測定結果としても,3~十数本/㎤と測定されているほか,ナイフ切断とヤスリ掛けで12.1本/㎤との測定結果もある。このほか,解体作業でも散水をせずにケレン棒で破壊した場合に2本/㎤を超える測定結果がある。
ヘルシンキ・クライテリアや平成18年手引きは,いずれも石綿関連疾患の診断を念頭に置いたものであるが,石綿吹付け作業,断熱作業,電動工具による石綿製品切断は高濃度の曝露作業となり,建設全体としても中濃度の曝露作業に位置付けているところ,以上の分類は,前記の建築作業現場における各種測定結果とも概ね符合し,合理的なものであると考えられる。


建築作業や建築作業現場の状況に照らしてみても,建築作業のうち建物の新築作業は,屋外作業として着手されるが,各種建物の建築工程をみても,シート養生がされ,屋根・外壁の取付け,サッシ・ガラスの取付けと作業が進行するにつれ徐々に屋内と同程度まで気密性が増していくのであり,建築作業が屋外作業として着手されるからといって,石綿粉じん曝露の危険が少ないとはいえない。また,改修・改築工事では,屋内作業が主となることは既に認定したとおりである。
建築作業は,一般に一日の作業における石綿曝露作業の時間が短いとされているが,英国労働省のデータは主に30分から1時間かけて採取されたものであるが多くの作業で2本/㎤を上回る濃度が報告されており,平成
9年作業マニュアルで紹介された昭和59年の屋内における個人曝露測定データ例のうち石綿けい酸カルシウム板の電動丸鋸による切断を含むもの(作業者A-1~3,B-1)も,石綿けい酸カルシウム板の電動丸鋸による裁断時間が試料採取時間の10%程度以下であるにもかかわらず,3本/㎤を超える個人曝露濃度が記録されている。さらに,建築現場においては吹付け作業を含め複数の作業が並行して行われ,他の作業員が発散させた石綿粉じんに曝露する場合があるほか,一つの作業を終えた後であっても,清掃作業後に残された石綿粉じんが再度発散して曝露を生じさせる場合があり,平成18年手引にも,吹付け石綿除去工事後の再飛散に関する実験結果として,床掃除作業8時間後や,石綿粉じんが落下した床を歩行する際に,3本/㎤という石綿濃度が報告されており,また,平成9年作業マニュアルにおいては,石綿成形板の切断作業が行われている屋内で,切断作業と並行して小運搬作業や施工作業を行っている者においても,切断作業と同程度の約4本/㎤の曝露濃度が測定されており,これら間接的な曝露による影響もある。
そうすると,石綿含有建材が使用された現場における建築作業は,屋外作業として着手され,一般に一日の作業における石綿曝露作業の時間が短いとされていることを考慮しても,石綿吹付け作業,断熱作業,屋内での電動工具による石綿製品切断は高濃度の曝露作業に当たるほか,その他の切断,穿孔,研磨,施工された石綿建材の解体,粉状石綿の取扱い,清掃による直接曝露,さらには他者の作業によって生じた石綿粉じんによる曝露(間接曝露)も含めると,平均的にみて2本/㎤以上の曝露作業に該当する場面が多かったと認められる。
他方,屋外で行われたことが明らかな外装材取扱い作業の測定結果については,現場の風向,風速,作業者の姿勢等に大きく影響されており,短時間であれば2本/㎤を超えるものもあるが,大半は2本/㎤を下回ってい
というべきである。
年代別の建築作業現場における石綿粉じん曝露の危険性
我が国の建築現場における年代別の石綿粉じん曝露の危険性は以下のとおりであり,これは,既に述べたとおり(前記第1の8),建築作業従事者の石綿関連疾患の発症状況からも裏付けられるというべきである。ア
昭和40年代
我が国の石綿輸入量は,高度経済成長期に急増し,昭和36年に10万トンを超えた後,昭和40年代に入って飛躍的に増加し,昭和44年に20万トンを超え,昭和49年には35万2110トンとなり第1次のピークを迎えたが,石綿含有建材の出荷量及び推定石綿使用量も輸入量の増加に合わせて増加し,昭和48年に第1次のピークを迎え,石綿輸入量の約7割が建築現場で使用された。とりわけ,吹付け石綿は,著しく発じん量の多い製品であり,石綿含有率が60~70%と高く,アモサイト,クロシドライトを含有しており,施工量も昭和35年に1000トンであったのが,昭和44年には1万トンを超えて急増し,昭和47年にはピークの別紙6別表3,4)。
また,石綿含有成形板についても,当時は石綿含有率が25%(けい酸カルシウム板第1種),20%(石綿含有スレートボード)など石綿含有率の高いものが多く用いられていた(同別表7)。この時期に,加工時に多量の粉じんを発散させる電動工具も普及し,その販売台数も,昭和35年には約20万台であったのが,昭和43年に100万台,昭和48年に200万台を超えて急増した。
これらの事実を総合すると,昭和40年代は,石綿粉じん曝露の危険性が最も高い状況にあったものと考えられる。

昭和50年代
昭和50年改正特化則により,5%を超える石綿含有率の石綿吹付け作業が原則として禁止され,また,業界団体は,吹付けロックウールに係る石綿含有率を昭和53年から5%未満に変更し,さらに昭和55年以降は石綿を含有しないものに代替したことから,業界に加盟しない業者や在庫品の使用等を除き,石綿を含有するものは施工されなくなり,石綿吹付け作業による危険性は減少していった。他方で,石綿の代替化は進まず,昭和50年代の石綿輸入量は,約23万トンから約33万トンの間で推移し,昭和40年代の輸入量と大きな変化はなく,その約7割が建築現場で使われるという構図は同じであった。すなわち,石綿含有保温材,石綿含有断熱材では昭和50年代に入っても石綿含有率が90%を超える建材が使用されており,アモサイトを含有するものもあったうえ(別紙6別表6),石綿含有成形板では,石綿含有率の低減は一部を除き進んでおらず,けい酸カルシウム板第1種,押出成形セメント板,サイディング,住宅屋根用化粧スレートでは昭和40年代と比べ出荷量が急増し,推定石綿使用量も昭和40年代と同様に高い水準で推移していた(同別表7)。これに合わせて,電動工具の販売台数が昭和49年の208万0669台から昭和59年の629万3569台へと急増し続け(同別表9),より一層普及が進んだ。また,改修工事では昭和40年代に施工された石綿含有率の高い建材を取り扱うこともあった。
以上によれば,昭和50年代の建築作業現場も,昭和40年代と大差のない石綿粉じん曝露の危険性が高い状況にあったと考えられる。

昭和60年代
昭和60年から平成6年までの10年間をみると,石綿含有成形板については,推定石綿使用量や電動工具の販売台数からみて昭和50年代とさほど変わらない状況にあるものの,石綿含有保温材等では,石綿含有率の高い建材は使用されなくなり(別紙6別表3,別表6,別表7,別表9),従前と比較すれば,新築工事における石綿粉じん曝露の危険性は低下していったものと考えられる。他方,建物の改築工事においては,以前施工された石綿含有率の高い建材を取り扱い石綿粉じんに曝露するおそれがあることは従前と変わらず,昭和30年代に建築された建物が築後30年を迎え解体工事が本格化することからすると,建物の解体工事における石綿粉じん曝露の危険性は高まったものと考えられる。
全体として,昭和40,50年代には及ばないものの,依然として石綿粉じん曝露の危険性の続く状況にあったものと考えられる。

3
管理使用を前提とした規制権限不行使の違法性について
昭和46年時点の規制の合理性について

客観的なリスクの程度
昭和46年当時の建築作業及び建築作業現場の状況は既に述べたとおりであり,石綿粉じん曝露の危険性の高い作業かつ環境にあったといえ,肺がんは石綿肺よりも低い曝露レベルでも発症し,中皮腫も少量曝露でも発症しうること,石綿関連疾患はいずれも生命に関わる重篤な疾患であること,さらには建築業の労働者数が全労働人口の約1割を占めていることを勘案すると,建築作業従事者に対する広汎かつ重大なリスクが現に生じている状況にあったといえる。


被控訴人国による規制及び対応の内容
概要
a
旧安衛則による粉じん防止対策として,労働省労働基準局長は,昭和46年1月5日,「石綿取扱い事業場の環境改善等について」(基発第1号。乙アB23,173)を発出したが,その中で,「最近,石綿粉じんを多量に吸入するときは,石綿肺をおこすほか,肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた。」と指摘した上で,石綿によるこの種の疾病を予防するため,①昭和43年基発第609号に定める以外の石綿取扱い作業についても技術的に可能な限り局所排気装置を設置させること,②作業場内における石綿粉じんの飛散を極力減少させるため,既存の局所排気装置についてもその性能の向上に努めさせること,③局所排気装置には,ろ布式除じん装置等の除じん装置を併せ設置させること,④じん肺健康診断を完全に実施させ,異常者の早期発見に努めさせること,⑤石綿取扱い作業を有する事業場に対しては,粉じん対策指導委員,地方労働衛生専門官等の職員により技術的指導を行うとともに,産業安全衛生施設等特別融資制度の利用を勧奨することに留意して,関連事業場の監督指導を行うことを指示した。
b
また,有害物質の規制について技術的・専門的な事項に関する検討を行うため,労働省に設置された労働環境技術基準委員会は,検討結果を昭和46年1月21日付け「有害物等による障害の防止に関する対策について」(乙アB15)にまとめ,有害物等による障害を防止するには,作業環境内の有害物等の発散を抑制することが重要であり,そのためには,作業環境内に有害物が発散することを防止するための設備の整備を進めるべきであり,それに関連する抑制の濃度が必要となろう,抑制の濃度の値としては,当面,日本産業衛生学会が勧告する許容濃度(労働者が有害物に曝露される場合,当該物質の空気中濃度がこの数値以下であれば,ほとんど全ての労働者に健康被害が見られないという濃度。乙アB16)の値及びこれに定めがないものについては,ACGIH(米国労働衛生専門官会議)等で定める値を利用することが適当であるとの見解を示した(なお,同報告書の中では,
石綿はがん原性のある物質には含められていなかった。
甲A82・
29頁参照)。
c
労働大臣は,上記検討結果等を踏まえ,同年4月28日,旧特化則を定めた。石綿は,じん肺法に基づく石綿肺予防のための規制の対象であったが,旧特化則においても第二類物質として規制対象に指定された。その経緯について,旧特化則の制定当時の担当者は,「石綿が特に特化則の対象物質とされたのは,石綿肺がけい肺に劣らず,重篤な肺疾患であるのみならず,ある種のものは肺がんまたは胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍をおこす疑いがあるため,その解明は,今後の調査研究にまつとしても,予防は有害物質と同等に取り扱う必要があるとされたからである。」としている(甲A82・29頁)。
旧特化則においては,使用者に対し,①石綿粉じんが発散する屋内作業場において局所排気装置を設置し,又は全体換気装置を設け,石綿を湿潤な状態にする等労働者の障害を予防するため必要な措置を講ずる義務(旧特化則4条),②石綿を製造し又は取り扱う作業場への関係者以外の者の立入りを禁止しその旨を表示する義務(同25条),③空気中における濃度を測定し記録する義務(同29条),④休憩室を設置する義務(同30条),⑤洗浄設備を設置する義務(同31条),⑥呼吸用保護具を備え付ける義務(同32,34条)などが課された。このほか旧特化則に規定されていない事項については,旧安衛則が適用され,⑦使用者が屋外又は坑内で著しく粉じんを飛散する作業場において注水その他粉じん防止の措置を講ずる義務(旧安衛則175条),⑧粉じんを発散し衛生上有害な場所における業務の作業に従事する労働者が就業中に保護具を使用する義務(同185条)などが課された。さらに,旧特化則6条2項に基づき,同年労働省告示第27号により,石綿の粉じんが発散する屋内作業場に設けるべき局所排気装置の要件として,そのフードの外側における石綿粉じんの濃度(抑制濃度)につき,日本産業衛生学会により勧告されていた石綿の許容濃度の値である2㎎/㎥(33本/㎤相当)と定められた。建築作業及び建築現場への妥当性
上記のとおり,旧特化則による規制は,局所排気装置による作業環境管理(前記①)を中心としたものであり,主として,石綿製品工場など屋内における高濃度曝露を念頭においた対策であると考えられる。これを建築作業現場に適用した場合,建築作業現場は乱れ気流があり作業場所も移動することなどから有効な局所排気装置を設置することは困難であり(乙アA66・16頁),全体換気装置も,作業者と発散源の位置関係が一定でないときは効果が得られない(乙アA61・4頁)。さらに,新築・改築工事では,建材の汚損,感電のおそれなどから,注水(前記⑦)はおよそ不可能であり,湿潤化措置を行うことも実際上困難といえる。また,関係者以外の立入禁止(同②)は,そもそも発じん作業に従事する者自身の石綿粉じん曝露を抑制する措置ではなく,同じ現場で別の作業に従事する者の立入りを制限する効果を有するかについても疑問がある。さらに,濃度測定(同③),休憩室(同④)及び洗浄設備(同⑤)はそれ自体としては作業中の石綿粉じん曝露を抑制する措置ではない。そうすると,昭和46年当時の規制のうち,建築作業現場に妥当するものは,呼吸用保護具に関するものに限られていたといわざるを得ない。

被控訴人国が把握し得たリスクの程度
昭和46年当時,被控訴人国が把握し得たリスクについてみるに,石綿肺については石綿粉じんの高濃度の曝露によって発症することについての医学的知見は既に確立していた。しかし,石綿のがん原性についての医学的知見が形成・確立したのは,翌年のILO及びIARCを契機としてのことであり,この時点においては,前記労働環境技術基準委員会の検討報告書が石綿をがん原性のある物質に含めておらず,石綿が旧特化則の対象物質に指定された経緯も上記のとおりであって,被控訴人国の認識は,「最近,石綿粉じんを多量に吸入するときは,石綿肺をおこすほか,肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫…が発生するとの説も生まれてきた」
(昭和46年基発第1号)
との程度にとどまっていた。さらに,被控訴人国が抑制濃度の設定に依拠した日本産業衛生学会の石綿の許容濃度(労働者が有害物に連日曝露される場合に,空気中の有害濃度がこの数値以下であれば,健康に有害な影響がほとんど見られないという濃度)の勧告値も,2㎎/㎥(33本/㎤相当)であり,これは石綿肺を想定したものであった。石綿関連疾患についての研究や報告は,大半が製造業や鉱業に関するものであって,建設業に関するものとしては,米国の断熱労働者におけるがん発症リスクに関するセリコフらの論文,大阪市の吹付け工1名が石綿肺発症後に死亡した旨の昭和45年11月17日付け新聞記事がある程度の限定されたものであった。他方で,当時のわが国の建築作業及び建築現場について,石綿粉じん濃度の測定や粉じん曝露の実態に関する調査や研究は行われておらず,吹付け作業が多量の粉じん曝露の危険があることは容易に認識しえたとしても,建築作業は屋外作業であり,石綿粉じんは短時間・間欠的に生じても希釈されるとの想定を超えて,建築作業及び建築現場の一般的な石綿粉じん曝露の状況は把握されていなかった。そうすると,被控訴人国において,建築現場において建築作業従事者が,石綿関連疾患を発症しうる程度の石綿粉じん曝露の危険に広汎に曝されていることを認識し得なかったものというべきである。

規制の合理性
被控訴人国において建築作業及び建築現場について把握可能であった上記のような石綿粉じん曝露による健康被害のリスクの程度を前提とすると,一部の事業所で呼吸用保護具の備付数に不足があったとしても,呼吸用保護具を備え付け,使用に適した状態にしておくことを義務付ける当時の規制内容が著しく不合理であったとはいえない。吹付け作業との関係においても,当時,吹付け工が呼吸用保護具を使用せずに吹付け作業に従事することが一般化していたとは考え難く(甲D3・13頁参照),また,昭和51年通達に添付された「石綿関係資料」によれば,乾式吹付け作業の石綿粉じん濃度の最大値は41.76㎎/㎥×石綿含有率50%=20.88㎎/
集効率95%以上)(前記第2章第2節第6の3)を適切に使用すれば,石綿粉じんの濃度を当時の許容濃度2㎎/㎥以下に抑制することは可能であったと考えられることから,当時の規制が著しく合理性を欠くとはいえない。


結論
以上からすると,被控訴人国が把握可能であったリスクの程度との見合いにおいて,昭和46年当時の規制が著しく不合理であったとは認められない。
昭和50年時点の規制の合理性について


客観的リスクの程度
昭和46年当時と同様に客観的には建築作業従事者に対する広汎かつ重大なリスクが継続している状況にあったと認められる。


被控訴人国による規制及び対応の内容
前記のとおり,昭和47年に定められた安衛則及び特化則では,旧安衛則及び旧特化則の①~⑧とほぼ同様の規制(⑧の義務は,事業者から保護具の使用を命じられたときを要件とするものとなった(安衛則597条)。)がされていたところ,労働省は,昭和50年に安衛令,安衛則及び特化則を改正し,石綿のがん原性に着目し,石綿のほか石綿含有量が重量の5%を超える石綿含有物(石綿等)を第二類物質として規制対象とした上,事業者に対し,⑨石綿等を取り扱う作業について,特定化学物質等作業主任者を選任し,作業方法の決定と労働者の指揮,保護具の使用状況の監視等を行わせる義務(昭和50年改正安衛令6条18号,昭和50年改正特化則28条),⑩代替化の努力義務(昭和50年改正特化則1条),⑪作業場への所定事項の掲示や記録等の特別の管理義務(同38条の3,同条の4),⑫石綿等の吹付け作業の原則的禁止(同38条の7),⑬石綿粉じんを発散しやすい特定の作業に関する湿潤化(同38条の8)などを義務付け,さらに,⑭石綿等を譲渡又は提供する者に対し,安衛法57条所定の警告表示を義務付けた(昭和50年改正安衛令18条2号の2,昭和50年改正安衛則別表第2第2号の2)。
なお,
石綿粉じんの抑制濃度に関して,
労働省は,
昭和48年,
通達
「特
定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」
(同年7月11日付け基発第407号)
を発出し,最近,石綿が肺がん,中皮腫等を発生させることが明らかとなったこと等により,各国の規制においても気中石綿粉じん濃度を抑制する措置が強化されつつあるなどとして,当面,石綿粉じんの抑制濃度を,5㎛以上の石綿繊維で5繊維/㎤(対応する重量濃度約0.30㎎/㎥)と指導するよう指示していた(乙アB51)が,労働大臣は,昭和50年9月30日,
特化則の規定に基づき,
石綿粉じんの抑制濃度を従来の2㎎/㎥
(3
3本/㎤相当)
から5本/㎤に改め
(同年労働省告示第75号,
乙アB52)

通達による指導を法令(告示)による規制へと強化した。

被控訴人国の把握し得たリスクの程度
昭和50年時点までに,被控訴人国が把握していたリスクについてみると,石綿肺に関する医学的知見に加えて,既に認定したとおり,昭和47年のILO及びIARCを契機として,石綿粉じん曝露と肺がん又は中皮腫との間に因果関係があることの医学的知見が形成・確立された。日本産業衛生学会が昭和49年に勧告した許容濃度もクリソタイル,アモサイト等については時間荷重平均で2本/㎤,天井値で10本/㎤とし,クロシドライトはこれらをはるかに下回る必要があるとするものに改訂された。しかしながら,石綿粉じん曝露と肺がんの発症リスクについては,IARC報告書は,職業曝露のレベルが低い場合には過度の肺がんリスクは検出されないことが示唆されているとし,IARCのモノグラフ集第2巻においては,肺がんの過剰リスクは過去の強い曝露の結果であることが通常であり,肺がんのリスクは石綿肺に関連しているようであるとされるなど,石綿肺と同レベルの職業曝露が想定され,これよりも低い曝露レベルにおける肺がん発症リスクの解明は今後の課題とされていた。IARCの報告書は,石綿粉じんの少量曝露によって中皮腫が発生する可能性を認めているが,発症リスクがクロシドライドで最も高いがクリソタイルでは明らかに低いとし,石綿の種類ごとに量・反応関係を解明するための種々の研究の必要性が示されるなど,石綿の種類等による曝露レベルと発症リスクについては未解明の状態にあった。
次に,建設作業及び建築現場の石綿曝露の状況については,昭和46年1月から3月まで行われた石綿取扱い事業場の監督指導の結果,じん肺の有所見者率が製造業に次いで高く,また,同年9月に発表された瀬良の論文では,吹付け作業者39名中6名(15.4%)に石綿肺が認められ,死亡例も報告された。さらに,石綿吹付け作業については,昭和48年までにアメリカ全州で吹付け石綿の禁止措置が取られた。他方,建築作業の一般的な特徴として,現地屋外で行われ,作業場所が工事ごとに変わり,作業環境が一定でなく継続的でないこと,関係する人及び物の量と種類が多いことなどがあり,建築作業現場における石綿粉じん曝露の具体的状況を把握することは容易とはいえないところ,昭和46年1月の石綿取扱い事業場への監督指導結果のうち建設業の監督事業場数は12にとどまっており,瀬良の論文も専ら吹付け作業者に関するものであって,他に建築作業現場一般についての石綿粉じん曝露状況を明らかにするものはなく,この点の把握が課題とされていたことは,昭和51年通達の内容に照らしても明らかである。
そうすると,被控訴人国が当時把握し得たリスクの程度は,石綿のがん原性についての医学的知見が確立し,石綿粉じん曝露の危険性についての認識が強まり,建築現場における主要な発じん源としての吹付け作業の危険性が重視される状況になったとはいえ,建築現場における石綿粉じん曝露の実態は把握されておらず,また,石綿粉じん曝露による肺がん・中皮腫の発症リスクが石綿肺の発症リスクを上回るものであることについて把握し得たとはいえず,建築現場における石綿曝露が建築作業従事者に広汎かつ重大なリスクを生じさせているとの認識はなかったものというべきである。

規制の合理性
昭和50年時点の規制は,石綿粉じん曝露と肺がん及び中皮腫との関係についての当時の医学的知見を踏まえ,石綿が発がん物質であることから,昭和46年時点と同趣旨の規制(前記①~⑧)に加えて,石綿のほか含有率5%超の石綿含有物も規制対象とし,それらについて特別の管理を義務付けた上,石綿粉じんを特に著しく飛散させることが明らかな吹付け作業を原則的に禁止し,それ以外に石綿粉じんを発散しやすい特定の作業については湿潤化を原則的に義務付け,それらの措置が実際に行われ,また必要な場合に防じんマスクその他の保護具が使用されるよう,特定化学物質等作業主任者を選任して作業の指揮や保護具の使用状況の監視に当たらせることとしたものである。上記の規制は,建築作業現場のうち,新築工事や改築工事では,湿潤化により発じんを抑制することは期待できず,保護具についても,それを使用すべき場面が具体的に要件化されておらず,特定化学物質等作業主任者が実際に選任され適切に指揮,監視をすることが前提となるなどの限界があるものである。しかしながら,昭和50年改正による規制は,石綿等を製造し又は取り扱う産業を幅広く対象とするものであるところ,労働省が昭和50年改正を前提に昭和51年度に通達を発出して実施に移した後記の各施策に照らすと,建設業の関係では,吹付け作業の原則禁止等,当面緊急の対応をした上で,今後,建築作業現場についての実態調査や規制の実効性の検証を継続し,建築作業現場の性質に応じた規制が必要であれば速やかに追加の対応をすることを企図したものと評価することができ,このような対応としてみるならば,被控訴人国が当時把握していたリスクに見合う相応の合理性を有するものと評価し得るというべきである。
なお,上記の規制は,石綿含有率が重量の5%以下の石綿含有物については,第二類物質としての管理,吹付け作業の禁止や安衛法57条所定の表示等の対象としていないが,昭和50年当時,製造・販売されていた石綿含有建材の多くは石綿含有率が重量の5%を超えており(別紙6別表3,6,7,乙アA29,31),これらの建材のみを対象とする規制にも相当の実効性が見込まれた上,平成2年当時においても石綿粉じんを定量するには石綿の含有率が数%以上必要である(乙アA32)など,石綿含有率の分析に技術的制約があり,事業者や建材の販売者一般にとって,石綿含有率の低い建材を対象とする規制を遵守することは容易とはいえない状況にあった。また,発じん性の顕著な吹付け材であっても,石綿含有率が5%以下であればその粉じん濃度は,昭和51年通達に添付された「石綿関係資料」における石綿含有率50%の乾式吹付け作業の石綿粉じん濃度の最大値344.5本/
34.45本/㎤以下となり,1級以上の防じんマスク(粉じん捕集効率95%以上)(前記第2章第2節第6の3)を適切に使用すれば,石綿粉じんの濃度を許容濃度2本/㎤以下に抑制することが期待できたといえる。そ
うすると,昭和50年時点において石綿含有率が重量の5%以下の石綿含有物についても5%を超える石綿含有物と同様の規制をしなかったことが直ちに不合理であるとはいえない。

結論
以上のとおり,現時点から振り返ってみると,昭和50年当時,建築作業従事者に対して,石綿粉じん曝露による石綿関連疾患の広汎かつ重大なリスクが存在し,昭和50年改正による対策ではこれに対応するに不十分であったといわざるを得ないが,後知恵を排して見るに,当時の状況においては,石綿粉じん曝露による肺がんの発症は石綿肺と同レベルの高濃度曝露が必要であると考えられていたところ,この時点で建設業におけるじん肺の労災認定の件数が著しく増加し,あるいは他の産業分野に比して発症率が高いという状況はなく,また,中皮腫が少量曝露によっても発症しうることは知られていたものの,石綿の種類等により危険性は著しく異なるとされ,国内における発症件数もわずかであった。さらに,建築作業は一定の工程の中に作業内容の異なる他職種が関わり,作業環境・作業場所も比較的短期間のうちに変わることから,建築作業及び建築作業現場における石綿粉じん曝露の実態が把握されていなかったという被控訴人国の認識状況を前提にすると,
昭和50年改正において,
建築作業については,
建築作業現場における主要発じん源とされ,その危険性が指摘されていた石綿吹付け作業を原則禁止し,従来のマスクの備え付け義務に加えて,特定化学物質等作業主任者による作業の指揮や保護具の使用状況の監視により,マスクの着用をより一層確保することなどにより,当面採り得る対策を講じ,監督行政を通じてその実施の徹底を図りつつ,建築作業現場及び建築作業の実態把握を行うとの被控訴人国の判断には相応の合理性が認められ,その権限の不行使が許容される限度を超えて著しく不合理なものであったとはいえない。
昭和50年以降における規制の合理性について

客観的リスクの程度
既に述べたところによれば,昭和50年以降も建築作業及び建築現場は石綿粉じん曝露の危険性の高い状況にあったと言え,建築作業従事者に対する広汎かつ重大なリスクが継続していたというべきである。


被控訴人国の規制及び対応の内容
労働省は,昭和50年の特化則等の改正を受けて,以下のとおりの施策を行った。
労働省は,都道府県労働基準局長に対し,「昭和51年度労働基準行政の運営について」(昭和51年3月2日付け基発第220号)を発出し,新たに職業がん等の重篤な職業性疾病の問題が発生してきており,職業がんのように遅発性の職業性疾病については,未だ発症をみていない分野においても,基礎的な調査,研究,有効な予防措置等早急な行政の対応が要請されるとの認識を示すとともに,同年度における労働基準行政の主要対策の一つとして,職業性疾病予防対策として,①特別監督指導計画の推進,②有害物質製造・取扱事業場の把握,③作業環境の改善等を挙げ,特に職業がんについては,特別管理物質の製造・取扱事業場に対し可及的速やかに曝露防止措置を講じさせるよう特段に配意すること,職業がんの疑いのあるものを含め職業がんの発生状況等についての情報の収集に努め速やかにその内容を本省に報告することなどを求めた(乙アB161)。
労働省は,上記通達に基づき,都道府県労働基準局長に対して,「職業性疾病予防のための特別監督指導計画について」(同年4月14日付け基発第328号)を発出し,石綿等の製造・取扱事業場については,達成目標として,特化則で定められた,①局所排気装置等の完全設置,②除じん装置の完全設置,③作業主任者の選任及び職務の遂行,④作業環境測定の完全実施,⑤休憩室の完全設置,⑥健康診断の完全実施並びに洗浄設備の完全実施を掲げ,昭和51年度を初年度とする5か年の特別監督指導計画を策定し,管内の実情を勘案のうえ着実な推進に徹底を期し,
監督指導についての評価を行い,
本省に報告するように求めた
(甲
A67の1,乙アB162)。
さらに,労働省は,特に石綿に関して,昭和51年5月22日付けで昭和51年通達を発出し,都道府県労働基準局長に対し,最近,各国における広範囲な労働者についての研究調査の結果,10年を超こえて石綿粉じんにばく露した労働者から肺がん又は中皮腫が多発することが明らかとされ,その対策の強化が要請されているところであるとし,各局において,昭和51年度行政運営方針に基づき,特別監督指導計画の重点対象として,その対策が図られていると思われるが,最近の石綿による肺がん又は中皮腫発生の報告をみるとき環境改善の技術指針をまつまでもなく,早急な作業環境改善等健康障害防止対策の推進が肝要であるとの考えを示し,①関係事業所及び石綿取扱者のは握,②石綿の代替措置の促進,③環気中における石綿粉じんの抑制,④呼吸保護具の使用,⑤清潔の保持の徹底などについて,留意事項を定めて石綿粉じんによる健康障害防止措置を徹底するよう指示した。このうち,①については,建設業,造船業又は化学工業等における断熱工事に係る石綿の使用実態が十分把握されていないので,関係事業場を把握すること,③について,関係各国において環気中の石綿粉じん濃度の規制を強化しつつあることを踏まえ,環気中石綿粉じん濃度について,当面,2繊維/㎤(クロシドライトにあっては0.2繊維/㎤)以下を目途とするよう指導すること,④について,環気中石綿濃度が2繊維/㎤(クロシドライトにあっては0.2繊維/㎤)を超える作業場所で石綿作業に労働者を従事させるときには特級防じんマスクを併用させ常時これらを清潔に保持させるよう指導することとされている(なお,日本産業衛生学会は,昭和49年,石綿粉じんの許容濃度の改訂を勧告し,石綿粉じんのうちクリソタイル,アモサイト,トレモライト,アンソフィライト及びアクチノライトの気中許容濃度を,時間加重平均として,5㎛以上の石綿繊維で2繊維/㎤(対応する重量濃度0.12㎎/㎥),いかなる時も15分間の平均濃度がこの値を超えてはならない天井値として,5㎛以上の石綿繊維で10繊維/㎤とし,クロシドライトの許容濃度については,これらの濃度をはるかに下回る必要があるとしていた
(乙アA192,
193))
。。

労働省は,昭和51年に石綿粉じん曝露による肺がん・中皮腫の労災認定基準を検討するため,「石綿による健康障害に関する専門家会議」を設置し,同会議は,産業現場における石綿曝露実態,石綿関連疾患の臨床,病理,疫学,環境管理などに関する内外の文献を幅広く検討し,昭和53年9月に専門家会議報告書をまとめた。労働省は,同報告書を踏まえて認定基準を策定し,「石綿ばく露作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定について」(昭和53年10月23日付け基発第584号)として発出したが,同認定基準は,石綿曝露作業のひとつとして,「石綿若しくは石綿製品の取り扱い又は石綿製品を被覆材若しくは建材として用いた建造物の修復,解体等の作業過程において石綿粉じんばく露を受ける作業」を示し,業務上外の認定要件の一つとして,石綿ばく露作業従事期間を,原則として,肺がんについては10年以上,中皮腫については5年以上とした。
また,労働省は,従来,作業環境中の石綿を含む有害物質の濃度管理として,局所排気装置の抑制濃度による規制として,大臣告示や通達によって具体的な数値を示してきたが,労働大臣は,昭和51年4月22日,安衛法65条に基づき有害物質を取り扱う屋内作業場に義務付けられる作業環境測定の実施方法について「作業環境測定基準」(同年労働省告示第46号,乙アB53)を定めた。その後,昭和52年から同58年にかけて,労働省が設置した「作業場の気中有害物質の濃度管理基準に関する専門家会議」において,作業環境の評価方法についての検討が行われ,最終的に,濃度管理の規制の基準を設定するには,労働者が働く作業場の気中有害物質の濃度である「作業環境濃度」(管理濃度)を基本とするとりまとめを行った。これを踏まえ,労働省は,「作業環境の評価に基づく作業環境管理の推進について」(昭和59年2月13日付け基発第69号,乙アB54)を発出し,局所排気装置による抑制濃度とは別に,作業場内のほとんどすべての場所で有害物質の濃度を一定の値以下とする,管理濃度による規制を導入することとし,石綿の管理濃度については2本/㎤(許容濃度に換算すると0.8本/㎤相当)とした。

被控訴人国の把握し得たリスクの程度
石綿粉じん曝露と肺がん・中皮腫の発症リスクに関する認識
a
専門家会議報告書は,石綿粉じん曝露量と肺がん・中皮腫の発症リスクに関して,肺がんは石綿肺を発症させるよりも低いレベルの石綿粉じん曝露によって発症し得ること,また,中皮腫は肺がんよりもさらに低い曝露レベルでも発症し得ることについて,医学的知見の形成状況を明らかにしていた

参照)。
b
欧米諸国は,石綿の使用において我が国よりも約20年先行しているところ,米国においては,セリコフらが,建築業の断熱労働者は,石綿曝露が比較的軽度で断続的であるが,肺又は胸膜のがんによる死亡数が期待値を大幅に上回っていたことや中皮腫の発症率が非常に高いこと,肺がん死亡者数が最も多いのは曝露開始後30~39年であることなどを報告しており,このことは昭和51年通達に添付された石綿関連資料,
専門家会議報告書などで既に紹介されていた。
また,
英国においては,中皮腫による死亡が昭和43年に153人,1970年代に200人を超えるなど,石綿による健康障害が多発したことから,石綿による健康障害防止対策の充実を図るため,昭和51年に労働安全衛生庁の上部機関である安全衛生コミッションに特別の委員会(シンプソン委員会)を設け,同委員会は,昭和54年に,クロシドライトの使用禁止など,ILO石綿条約を先取りする内容の勧告をしており,中皮腫の労災認定件数も昭和55年に75件となっていた。さらに,ドイツにおいても,昭和55年の中皮腫の労災認定者数は36人となっていた(甲A67の2)。そして,上記英国及びドイツの情報が記載されている甲A67の2の作成経緯に鑑みれば,労働省において,その時点で上記情報を入手していたものと推認される。
c
昭和51年通達に添付された石綿関連資料では,昭和40年から昭和50年までの間の労働の場における石綿曝露歴のある者における肺がん,中皮腫の発症件数は年間数件程度にとどまっていたが(甲A334の2(10頁)),建設業労働者におけるじん肺等の発生件数は,別紙6別表10のとおりであり,昭和45年度に77件であったのが,昭和49年度に200件台に増え,昭和51年度には400件を超え,昭和54年度に484件,昭和55年度には546件と増加を続けている。もとより,上記件数はじん肺全般に関するものであるが,昭和30年代後半以降,建築作業現場における石綿の使用が広まったことに鑑みると,その増加の主たる要因は石綿粉じん曝露による石綿肺であったと考えるのが合理的である。
d
そうすると,肺がん及び中皮腫は石綿肺よりも低い曝露レベルでも発症し得ること,石綿肺の潜伏期間が10年,肺がんが30年,中皮腫が40年とされていること,さらには,石綿の使用で我が国に先行した欧米における中皮腫等の発症状況を考慮すれば,被控訴人国において,過去の石綿粉じん曝露により,当時発生していたじん肺の発症件数を大幅に上回る肺がん・中皮腫が発生する可能性があり,
さらに,
昭和50年の特化則改正後も建築作業現場における石綿粉じん曝露状況が改善しなければ,その発症が将来的にも継続することが懸念される状況にあることを容易に認識することができたものと認められる。
建築作業及び建築作業現場の石綿粉じん曝露の危険性に関する認識
可能性
a
専門家会議報告書は,石綿曝露作業に関して,我が国で石綿への曝露労働者数が最も多いのは建設業であること,石綿の消費量の約4分の3は建設業で使用されていること,その一部は吹付け材として使用されているが大半は石綿含有成形板として使用されていること,石綿セメントの混練や吹付け作業は石綿繊維を空気中に発散させやすいが一般に石綿曝露作業の時間は短いこと,比較的高濃度の石綿粉じん曝露を受ける作業として石綿製品の切削作業が,不測の石綿曝露を受けることのある作業としてビルの解体作業があることなどを指摘するとともに,吹付け作業のほか,保温材や石綿含有成形板の取扱いに伴う石綿粉じん濃度に係る内外の測定データ(当時の我が国の抑制濃度及び日本産業衛生学会の許容濃度の勧告値2本/㎤を上回る値となっている。)を紹介した上で,ごく最近においても国内外の産業分野で相当の石綿曝露がみられていると総括して,吹付け以外の建設作業についても低いレベルにとどまらない職業曝露が生じていることを具体的に示していた。
b
さらに,AIAによる昭和54年の勧告も,吹付け材以外の石綿含有建材について,適切な防じん設備なしに高速切断や研磨作業を行えばかなりの数の石綿繊維が放出されること,長時間連続運転を行う場合は作業場の状態に応じて機械に除去装置を必ず付けるか,湿式機械加工用工具等を使用すべきことなどを指摘していた。

c
昭和50年改正により吹付け作業が原則として禁止され代替化の
努力義務が定められた後も,石綿含有率90%以上の煙突断熱材を含む石綿含有保温材等の使用が継続され,さらに建築作業現場における石綿の使用の大半を占める石綿含有成形板に使用された石綿の量も減少傾向にはなかった。さらに,多量の粉じんを発する電動工具の販売台数は,昭和48年は200万台であったのに対して,昭和52年には300万台,
昭和54年に400万台,
昭和55年に500万台,
昭和58年に600万台まで急激に普及した。被控訴人国は,電動工具の普及状況については出荷台数として現実に認識しており,石綿含有建材の使用状況についても容易に把握することは可能であった。
d
そうすると,被控訴人国が,昭和53年の専門家会議報告書等を踏まえ,特別指導監督計画や昭和51年通達に基づき,石綿含有建材を使用している建築事業主を把握し,屋内作業場に当たる建設作業現場ではその事業主に対し作業環境測定を実施させるなどして,建設作業現場の実態把握に努めれば,昭和50年代になっても引き続き建設作業現場における石綿粉じん曝露の危険が大きかったことを容易に認識することができたものと認められる。
昭和50年改正特化則等による規制の実効性についての認識可能性a
防じんマスクの使用状況に関する調査結果等によれば,前記のとおり,昭和60年代においても使用状況は低迷しており,このことからして,吹付け工や昭和54年の粉じん則施行後のはつり工を除き,昭和50年代の建築作業現場でも労働者の大半は防じんマスクを着用していなかったものと推認される。労働省は昭和51年以降の特別監督指導計画で石綿等の製造・取扱事業場における防じんマスクの着用を達成目標に掲げていなかったが,特別監督指導計画と連携して実施された昭和51年通達による健康障害防止対策の指導においては呼吸保護具の使用の徹底を掲げていたのであるから,これに従った指導監督を実施し,その結果を本省において集約していれば,当時の建築作業現場における石綿粉じん曝露の状況及びこれに携わる労働者のの大半が適切な防じんマスクを着用していない実態が容易に判明したはずである。

b
昭和50年改正特化則では,
従来の湿潤化ないし注水
(特化則5条,
安衛則582条)のほか石綿粉じんを発散しやすい特定の作業に関する湿潤化(昭和50年改正特化則38条の8)が義務付けられたが,新築工事及び改築工事では建材の汚損や感電のおそれのため湿潤化が現実的でないことは作業の性質から明らかである。また,解体工事についても,昭和53年の専門家会議報告書において保温材の解体作業につき濡らしながら行うときは1~5繊維/㎤,
水を散布して行うと
きは5~40繊維/㎤と,当時の抑制濃度2本/㎤を上回る濃度が報告されているのであるから,被控訴人国においても,上記各規定にかかわらず,建設労働者が石綿粉じんへの曝露を防止するためには防じんマスクを着用することが必要であることを容易に認識することができたというべきである。
c
さらに,特定化学物質等作業主任者を選任して,保護具の使用状況の監視等を行わせる仕組みについても,特定化学物質等作業主任者技能講習の昭和56年度までの受講者は,社団法人東京労働基準協会連合会,建設業労働災害防止協会東京支部を合わせた累計で1万2407人にとどまっており(平成10年時点でも3万3259人にとどまる。)(乙アA152,154),これらの受講者全員がそのまま特定化学物質等作業主任者として稼働していたと仮定しても,東京都内の建設業許可業者数(平成10年3月末時点では5万3582業者。甲A535)に照らして十分なものとは認められず,現に,日本石綿協会安全衛生委員会石綿含有建築材料小委員会による石綿含有建築材料調査報告書が作成された昭和63年5月に至っても,業界全体としてみた場合に施工員の作業主任者資格を有する者の人数は十分ではないとの指摘がされている(乙ケ5の70頁)。
また,特定化学物質等作業主任者技能講習で使用された昭和56年当時のテキスト(乙アA187)や昭和62年頃の修了試験問題(乙アA202)をみても,その内容は,特化則の規定や防じんマスクの一般的説明に終始しており,石綿粉じん曝露が多量とまではいえない場合にも,肺がんや中皮腫の原因となり得ることや,建築作業現場において,石綿含有成形板の切断作業など,吹付け作業以外でも石綿粉じんを発散する作業をする際に,防じんマスクを着用すべきことなどは,説明も出題もされていない。
したがって,建設業全体としてみて,特定化学物質等作業主任者により防じんマスクの着用が確保されることが期待できたとは考え難いところ,昭和51年の特別指導監督計画では,達成目標の一つに作業主任者の選任及び職務の遂行も掲げられており,被控訴人国もこれらの実態を現実に認識していたか又は容易に認識することができたというべきである。
小括
以上によれば,遅くとも石綿の製造・取扱いについての特別監督指導計画の目標期間が満了する昭和55年末頃までには,被控訴人国において,全国の建設作業現場において,少なくとも屋内作業に従事する建築労働者に石綿粉じん曝露により石綿関連疾患を発症させる広汎かつ重大なリスクが現に生じていること,さらに昭和50年改正特化則等による対策が必ずしも建築作業に妥当せず,あるいは実践されていないことを認識し,あるいは容易に認識し得たものというべきである。

規制の合理性
被控訴人国において認識し得た昭和50年代半ば頃の建築作業現場及び建築作業における石綿粉じん曝露の危険性との関係で昭和50年改正後の規制内容をみるに,局所排気装置や湿潤化措置が建築作業現場や建築作業に必ずしも有効とはいえないことからすると,防じんマスク等の呼吸用保護具の使用が不可欠の石綿粉じん曝露対策とならざるを得ない。そこで,事業者に呼吸保護の備え付けを義務付ける規制によって,呼吸保護具の使用の確保に十分であったか否かについて,以下に検討する。
一般的に防じんマスクは通気抵抗,重量,視野障害など着用者への負担を伴い,作業効率も落ちる可能性がある一方(甲A20・13頁,甲A253・46頁),石綿関連疾患は基本的に遅発性のものであり,また,石綿粉じん曝露による肺がん及び中皮腫の発症の危険は比較的新しい知見であることから,労働者がそのリスクを意識せず,あるいはこれを身近に実感しづらいこと,さらには,そもそも自らが取り扱う建材等に石綿が含まれていることの認識がないことなどから,労働者による防じんマスクの自発的な使用は期待し難い面がある。現に建築作業現場では大半の労働者が使用していなかった。事業者においても,同様の事情が当てはまり,石綿粉じん曝露対策として労働者の防じんマスクの使用確保に関する関心は一般的に希薄となりがちであったものと考えられる。事業者による呼吸用保護具の備付義務を前提に,昭和51年通達では呼吸用保護具の使用の指導を徹底するよう指示しているが,それによって建築作業現場における呼吸用保護具の使用が進んだことをうかがわせる証拠はなく,通達に基づく指導に限界のあることも明らかである。
他方で,労働者に防じんマスクを使用させるためには,呼吸用保護具の備付義務よりも一段強い規制として,事業者に対して,労働者に呼吸用保護具を使用させることを罰則をもって義務付けることが考えられるが,かかる規制を行うことによって事業者に過大な負担を強いるものではなく,このことは鉛中毒予防規則(昭和42年労働省令第2号)45条,同(昭和47年労働省令第37号)58条,有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号)32条,33条,粉じん則27条などで同様の規制がされていることからも明らかである。
そうすると,被控訴人国において,建築作業における不可欠の石綿粉じん曝露対策であった防じんマスクの使用を確保するために,従来の規制を強化し,事業者に対し,屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建築作業現場の内部において,石綿含有建材の切断など石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業に労働者を従事させる場合に呼吸用保護具を使用させることを罰則をもって義務付けなかったことは,著しく合理性を欠くといわざるを得ない。すなわち,被控訴人国は,安衛法27条に基づき,労働省令により,事業者に対して,屋内作業場と評価し得る建築作業現場の内部において,①石綿含有建材の切断,穿孔,研磨等の作業,②石綿含有建材を塗布し,注入し,又は張り付けた物の破砕,解体等の作業,③粉状の石綿含有建材を容器に入れ,又は容器から取り出す作業,④粉状の石綿含有建材を混合する作業(上記①ないし④につき,平成7年改正特化則38条の9第1項参照)及び⑤上記の各作業の周囲における作業に労働者を従事させる場合には,呼吸用保護具を使用させることを罰則をもって義務付けるべきであった。
また,防じんマスクの使用を確保するためには,労働者及び労働者を指揮命令する事業者において,当該建設作業現場で現に使用されている建材が石綿を含有しており,防じんマスクを使用しなければ石綿関連疾患を発症するリスクがあることを認識することが前提となる。安衛法57条の定める労働者に健康障害を生ずるおそれのある物に関する表示制度は,労働者が取り扱う物質の成分,その有害性,取扱い上注意すべき点等を事前に承知していなかったために生ずる職業性中毒を防止すること,有害物による曝露に対する手当てが当該物の人体に及ぼす影響や初期の症状が不明のために手遅れになることを防ぐこと等を目的とするものであり,微量でも重篤な急性症状を起こすもの又は時に重篤な慢性中毒を起こすものなどが対象物質とされている(甲A32の2)。このような有害物の表示制度の趣旨,目的に照らすと,表示事項である「人体に及ぼす作用」は必要な手当や治療がすみやかに判明するよう症状や障害を可能な限り具体的に特定すべきであって,抽象的に健康障害を生ずるおそれがある旨を表示するのでは足らず,また「貯蔵又は取扱い上の注意」も健康障害の発生を防止するために必要な注意を表示する必要があると解される。
しかるところ,昭和50年3月27日基発第170号「労働安全衛生法第57条に基づく表示の具体的記載方法について」(乙アB158)で定めた石綿等に係る記載方法は,注意事項として「多量に粉じんを吸入すると健康をそこなうおそれがありますから,下記の注意事項を守ってください。/⒈

粉じんが発散する屋内の取扱い作業場所には,局所

排気装置を設けて下さい。/⒉

取扱い中は,必要に応じ防じんマスク

を着用して下さい。(以下略)」とするものであって,「人体に及ぼす作用」として,症状や障害がおよそ特定されておらず記載がないに等しいのみならず,あたかも粉じんの吸入が多量に至らなければ健康障害のおそれはないとの誤解を生じかねないものであって,昭和50年代半ばにおける医学的知見に適合せず,また,「貯蔵又は取扱い上の注意」としても,石綿粉じん曝露を防止する上で局所排気装置が機能せず呼吸用保護具の着用が不可欠な建築作業現場で使用される建材の表示として不十分といわざるを得ない。同様のことは,上記通達の定める記載方法が容認されていた石綿含有建材を取り扱う建築作業現場における掲示についても妥当する。すなわち,石綿含有建材についての表示内容及び石綿含有建材を取り扱う建築作業現場における掲示内容に関する通達の定めは,安衛法57条及び23条の規制権限の行使として著しく合理性に欠けるというべきであり,被控訴人国は,通達を改正して,石綿含有建材から生じる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫など重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること
作業をする際は必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを表示するよう,指導・監督すべきであった。
さらに,建築作業現場における防じんマスクの使用を確保するためには,事業者及び石綿建材企業に対する上記の義務付けに加えて,労働者に石綿発じん作業に際して防じんマスクを使用することの必要性を周知することが必要であり,そのためには,被控訴人国は,安衛法59条に基づく規制権限の行使として,少なくとも,安全衛生教育の内容として,建材の多くが石綿を含有していること,石綿含有建材を取り扱う上際に発生する石綿粉じんを吸入すると,将
来石綿肺,肺がん,中皮腫など重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること,特に肺がん,中皮腫は,吸入量が多量に至らないときにも発症する危険があること,これらの疾病は治療方法が限られており,症状が悪化して死亡することもあること,このような危険を避けるためには,上記作業を行う際には規格に適合した防じんマスクを必ず着用する必要があることを含めるよう通達で定めて,指導・監督すべきであった。オ
結論
以上のとおり,
昭和50年代半ばにおいても,
建築作業従事者に対して,
石綿粉じん曝露による石綿関連疾患発症の広汎かつ重大なリスクが継続していたところ,
この時点の状況について,
後知恵を排して見たとしても,
①肺がん・中皮腫が石綿肺の発症に必要な石綿粉じん曝露レベルよりも低い曝露レベルにより発症するとの医学的知見が集積され,建設業において過去の石綿粉じん曝露がその原因であると合理的に考え得るじん肺の労災認定件数が急増し,また,我が国よりも石綿使用で先行する諸外国において中皮腫の発症件数が増大していたことから,昭和50年改正特化則等により建築作業現場における石綿粉じん曝露の状況が変わらなければ,将来的に,じん肺発症件数を上回る件数の肺がん・中皮腫の発症が継続することが具体的に危惧される状況となっていたこと,②昭和50年代に入っても建築作業現場における石綿使用量は減少することなく高水準を維持し,石綿吹付け作業が減少したものの,代わって現場における大きな発じん源となる電動工具が飛躍的に普及したこと,③各種建築作業における石綿粉じん曝露濃度について許容濃度を超える内外の測定結果が公表され,建築作業は石綿粉じん曝露の危険性のある職業分野であるとの認識が形成されるようになっていたこと,他方で,④昭和50年改正特化則等の実施の徹底と実態把握を目的とした5年計画の特別指導監督計画をはじめとする監督行政の実施により,建築作業現場及び建築作業における石綿粉じん曝露の実態,防じんマスクの着用が励行されておらず,昭和50年改正特化則等が十分な対策となっていないことを把握可能であったことを前提とすると,被控訴人国において,建築作業従事者に対して,石綿粉じん曝露による広汎かつ重大な健康被害のリスクが生じていることを把握し得たというべきである。そうすると,被控訴人国において,遅くとも昭和56年1月の時点で,昭和50年改正時の構想を見直し,少なくともその実効性を確保するために,前記のとおり,特化則を改正するなどして,事業者に対して,屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建築作業現場の内部において,石綿含有建材の取扱い作業及びその周囲での作業に従事させる労働者に呼吸用保護具を使用させることを罰則をもって義務付けるとともに,これを担保するために通達を定めて,石綿粉じん曝露の危険性及び防じんマスクの使用の必要性に関して,石綿含有建材についての表示内容及び石綿含有建材を取り扱う建築作業現場における掲示内容並びに安全教育の内容を改めなかった規制・監督権限の不行使は,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったと認められる。
昭和56年以降の規制の合理性について

客観的リスクの程度
この間の建設作業現場は,依然として石綿粉じん曝露のおそれがある状況にあったものの,昭和60年から平成6年までの10年間をみると,石綿粉じんの飛散性が特に高い石綿含有吹付け材やこれに準ずる石綿含有保温材等は使用されなくなり,石綿含有成形板についても石綿使用量の減少傾向が定着しつつあり,新築工事の石綿粉じん曝露の危険性は低下し,他方で建物解体工事における石綿粉じん曝露の危険性が高まった。

被控訴人国の規制及び対応の内容
昭和50年改正時点における枠組に加えて,以下の施策が講じられた。被控訴人国は,昭和61年通達を発出し,解体,改修工事について,事業者に対し,湿潤化措置に加えて,石綿等の取扱い作業者の防じんマスク使用,特定化学物質等作業主任者の養成を求め,さらに,昭和63年通達を発出し,改修・解体工事について,上記同様の対策を求めるほか,石綿除去作業に関するマニュアルの活用を求め,建築工事における石綿含有建材の加工やボイラー等の工事における石綿含有断熱材等の除去についても防じんマスクの使用を求めた。
さらに,被控訴人国は,平成4年通達において,石綿含有建材の電動工具を用いた切断等の作業について,除じん装置付きの電動丸鋸の使用,防じんマスクの着用,作業終了後の清掃などの対策を挙げ,安衛法57条に基づく表示や「a」マークにより石綿含有建材を識別できることの周知,特別教育に準じた教育としての石綿含有建材の施工業務従事者に対する労働衛生教育の推進などを指示した。
その上で,被控訴人国は,平成7年には安衛令,安衛則,特化則を改正し,同年4月1日からそれぞれ施行したが,これにより,①アモサイト,クロシドライト及びこれらを1%を超えて含有する物の製造等の禁止,②安衛則及び特化則の規制対象となる石綿含有物の範囲を,重量の5%を超えるものから1%を超えるものへ拡大,③吹付け石綿等の除去作業を行う場合の作業計画の届出義務,④石綿等の切断等の作業(前記に労働者を従事させる場合の,呼吸用保護具,作
業衣等を使用させる義務,⑤解体工事における石綿等の使用状況の事前調査等の義務,⑥吹付け石綿等の除去作業を行う作業場所の隔離等の義務が課されるに至った。

規制の合理性
建材メーカー等による警告表示や建築作業現場における掲示について,昭和50年3月27日基発第170号「労働安全衛生法第57条に基づく表示の具体的記載方法について」で定めた石綿等に係る記載方法が著しく不合理なものであったことは前記のとおりである。もっとも,昭和62年6月頃以降,学校,集合住宅,工場,公共施設等に施工されていた石綿含有吹付け材に関して,発がん物質である石綿の汚染として多数の報道がされ,大きな社会問題となったほか(いわゆる「学校パニック」)(乙マ7~25,乙ラ10の1~19),平成元年には労働省の行政指導を受けて石綿を重量比で5%を超えて含有する個々の建材について「a」マークを表示する制度が導入され,平成4年通達において,安衛法57条に基づく表示や「a」マークにより石綿含有建材を識別できることの周知,特別教育に準じた教育としての石綿含有建材の施工業務従事者に対する労働衛生教育の推進が指示されたことなどによって,石綿ががん原性を有すること,建設作業現場で使用される建材に石綿を含有するものがあることの認識も広まっていたものと考えられ,一般的にみて建設労働者が石綿粉じん曝露の危険性を理解して防じんマスクを着用する環境は整っていったということができ,
同種事件における原告らの供述
(乙アA253~257)
にもこれと符合する部分がある。
さらに,前記のとおり,被控訴人国は,特化則を改正して,平成7年4月1日以降,事業者に対し,屋内・屋外作業を問わず石綿等の切断等の作業に従事する労働者に呼吸用保護具を使用させる義務を課したものであるところ,屋内において石綿含有建材の取扱い作業の周囲での作業に従事する者に呼吸用保護具を使用させることが含まれていないものの,石綿含有建材の石綿含有率の軽減化,代替化をはじめとする建築作業を取り巻く環境変化や被控訴人国の他の施策も勘案すると,かかる者についても現場の状況に応じて呼吸用保護具の使用の確保が期待し得る状況にあったといえるから,被控訴人国の規制・監督権限の不行使は,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまではいえない。
いて認めた昭和56年1月1日以降の被控訴人国の安衛法上の規制・監督権限不行使の違法は,平成7年4月1日以降は解消されたものというべきである。
被控訴人国の主張について

建築作業の石綿粉じん曝露の危険性についての主張
被控訴人国は,建築作業現場における石綿粉じんへの曝露実態について,建設労働者の石綿粉じん曝露は間欠的・短時間であって平均曝露濃度としては許容濃度以下に抑制されることが多く,特に屋根工,鳶,左官工については一時的であっても高濃度曝露があったとは通常考えられないと主張する。
しかしながら,建築作業現場における石綿使用量,建材の石綿含有量,電動工具の普及状況,建築作業は屋外作業から始まるとしても徐々に閉鎖性が高まること,他職種が同時並行的に作業に従事すること等に照らして,
昭和50年代において建築作業現場は石綿曝露の危険性が高く,
また,
建設作業に関する石綿粉じん濃度の測定結果等からみても,平均曝露濃度が許容濃度を超える場合は少なくなかったと考えられるところ,肺がん及び中皮腫は高濃度の石綿粉じん曝露によって発症する石綿肺よりも,低い曝露レベルで発症し,近時の石綿関連疾患の労災認定の件数からも,建設業における発症率は石綿製品製造業と比較しても遜色ないこと(前記第1の8)からして,当時の建設作業現場における石綿粉じん曝露は石綿関連疾患を発症しうる客観的な危険性があったことは,既に認定したとおりである。
もっとも,被控訴人国において,屋外作業における石綿含有建材の取扱いによって石綿関連疾患が発症する危険性を容易に認識し得たとはいえないから,専ら屋外作業従事者は規制権限行使の対象外とすべきは,既に述べたとおりである。その意味では,被控訴人国の主張するとおり,一般的に屋根工は専ら屋外で屋根材の取扱い作業をしており,鳶についても主として仮設の足場等の組立て・解体,建物の土台や柱などの組立てをしていたと考えられることから,通常はこれらの職種の者との関係で被控訴人国の規制・監督権限の行使が違法となるとはいえないが,左官工については,作業場所が専ら屋外であるとはいえず,取り扱う石綿含有建材が被控訴人国の指摘するモルタル混和材のみであるとも認められないから,一般的に左官工に対する関係で被控訴人国の規制・監督権限の不行使が違法とならないとはいい難い。ただし,個々の控訴人との関係では,その職種の名称にとらわれることなく,従事した作業内容に照らして,専ら屋外作業に当たるか否かを判断すべきである。

石綿関連疾患の罹患の実情が深刻ではなかったとの主張
被控訴人国は,昭和50年代半ばに建築作業者一般についての石綿関連疾患の罹患の実情が相当深刻な状況にあることは明らかとなっておらず,被控訴人国においてもこれを認識していなかったことから,規制権限行使の違法性を論ずる前提を欠くと主張する。
しかしながら,肺がんや中皮腫のように石綿粉じん曝露から長期間経過後に発症する遅発性の致死性疾患について,ある時点で現に発症していないとしても,潜伏期間経過後に被害が拡大することが合理的に予測される場合には,被控訴人国にとっても速やかに対策をとるべき深刻な事態といえ,
被控訴人国において,
かかる予測を基礎付けるに足りる情報を入手し,
あるいは容易に入手可能であったことは既に認定したとおりであり,被控訴人国の主張は採用できない。


防じんマスクの着用を義務付ける規制は存在したとの主張
被控訴人国は,建築中や解体中の建物であっても,特化則5条の解釈上,屋内作業場に当たる場合には,「湿潤な状態にする等」の「等」に含まれる措置として防じんマスクを着用させることを含む必要な措置を講ずる義務が罰則をもって事業者に課されたこととなっており,防じんマスクの使用が罰則をもって義務付けられていたことから,重ねて防じんマスクの着用を義務付ける必要はないと主張する。
しかしながら,既に述べたとおり,石綿粉じんが発散する建設作業現場では防じんマスクの着用が不可欠な対策であるとして,着用を義務付ける規制を設ける必要性が認められるところ,特化則5条は防じんマスクの着用を採り得る措置のひとつとして位置付けるのみで,不可欠の措置として防じんマスクの着用を義務付けていないことは文言上明らかであり,また,「特定化学物質等障害予防規則の施行について」(昭和46年5月24日付け基発第399号)は,特化則5条と同旨の旧特化則4条の「屋内作業場」について「作業場の建家の側面の半分以上にわたって壁,羽目板,その他しや蔽物が設けられておらず,かつガス,蒸気または粉じんがその内部に滞留するおそれがない作業場は含まれない」とするにとどまり,建設作業現場の一部が「屋内作業場」に当たる旨の解釈が積極的に示されているものではないことから
(乙アB85)

建築作業現場への適用を想定して,同条が防じんマスクの着用を確保する目的で運用されていたとは考え難く,これをもって既に判示した防じんマスクの使用義務付けの規制が不要であるということにはならない。さらに,被控訴人国は,昭和54年に定められた粉じん則は,27条1項本文で,粉じんを発散させる所定の作業に労働者を従事させる場合に当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる義務を課しているところ,石綿含有建材の切断等を行った際には当該建材に含有される「鉱物」たるコンクリートやセメントも粉じんとして発散する以上,屋内作業場においては粉じん則が適用され,防じんマスクの使用が罰則をもって義務付けられていたとも主張する。
しかしながら,「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び粉じん障害防止規則の施行について」(昭和54年7月26日付け基発第382号。乙アB191)では,粉じん則における「粉じん作業」は,じん肺法に定める「粉じん作業」のうち,特化則において予防措置が規定されている石綿に係る作業を除いたものと同一であるとしており,厚生労働省安全衛生部労働衛生課編「粉じん障害防止規則の解説」(平成14年7月10日第3版第2刷発行。甲A525)においても同様の説明がされていること,昭和61年通達や昭和63年通達でも粉じん則に全く言及されていないことからみても,そもそも建設作業現場における石綿粉じん曝露を防止するための規制権限の行使とはいえず,また,実際上も建築作業現場で石綿含有建材の切断等をする場合に適用されないものとして解釈適用されていたものと考えられ,被控訴人国の主張は採用できない。

規制の不備と不遵守の峻別論に基づく主張
被控訴人国は,労働者の安全に配慮し,その危害を防止する責任が第一次的には事業者に存すること,規制の目的を達するには事業者及び労働者による規制の遵守が必要であり,規制の不備と規制の不遵守とは明確に区別されるべきであって,国に規制権限不行使の違法が認められるのは,被規制者が既存の規制措置を遵守することが客観的に困難であるとか,規制措置を遵守したとしてもなお被害の発生を防止することができなかったというような事情がある場合に限られるとして,被控訴人国はマスクの使用が確保されるための規制を行っており,建築作業現場において事業者が防じんマスクに関する規制を遵守し,労働者にその着用を励行することを妨げる客観的な事情は存在しなかったことから,被控訴人国が事業者に対して労働者に防じんマスクを使用させることの義務付けを行わなかった権限不行使に違法はないと主張する。
しかしながら,事業者に防じんマスクの備付義務を課し,防じんマスクを着用させるよう指導をするのみでは,防じんマスクの着用が確保されにくい構造的要因が存在したことは,既に述べたとおりであり,現に防じんマスクの着用は励行されなかったところ,昭和50年代半ば頃までに被控訴人国において把握可能となったリスクの重大さに比して従前の規制では不十分と評価しうる状況となったのであるから,把握し得るリスクの大きさの変化に対応して,より実効性のある規制として,事業者に対して労働者に防じんマスクを使用させることを義務付けるなどの措置をとらなかったことは違法であるというべきである。
控訴人らの主張について

個人サンプラーを利用した定期的粉じん測定に関する規制権限の行使ついて
定期的粉じん測定に関する関係法令等の定め及び認定事実は,原判決
48頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
控訴人らは,石綿含有建材を取り扱う建築作業現場について,①昭和46年以降,旧労基法の規定に基づき,個人サンプラーを使用した定期的粉じん濃度測定とその評価を事業者に義務付け,②昭和47年以降は,安衛法65条,安衛令21条に基づき,粉じん測定を実施すべき作業場に指定するとともに,昭和51年の作業環境測定基準を改訂して個人サンプラーによる作業環境測定方法を定めるべきであったと主張する。

おり,我が国で現在まで使用されている石綿粉じん用の個人サンプラーが発売されたのは昭和59年が最初であり,それ以前に石綿粉じんを安定的に測定できる個人サンプラーは販売されていなかったから,昭和46年時点でその使用を義務付けるのは相当とはいえない。また,②について,建築作業現場のうちそれが屋内作業場に当たる場合は,安衛法65条,安衛令21条7号により作業環境測定が義務付けられ,それ以外の場合,すなわち屋外作業場である場合には,そもそも風など不規則な自然環境の影響を受けその作業環境が刻々と変化するため,作業環境測定のみならず,その結果に基づいて作業場の環境を改善することも困難が伴う上,建築作業では比較的短期間に作業現場が変わり,同じ作業現場でも作業場たる建築物の形状等が日々変化するのであって(甲A273・12頁参照),屋外作業場たる建築作業現場における粉じん測定を事業者に義務付けるに足りる技術的知見の存在は認められない。また,作業環境測定基準の定める測定方法は,一定のサンプリング方法によって測定して得られたデータがその場で働く労働者の平均的な曝露量を推定する根拠となり得るように,単位作業場所を設定した上で,等間隔に設定した測定点と作業の流れや作業者の作業行動から考えて最も濃度が高くなると考えられる点の双方で測定する(乙アA80・20~23頁)もので,不合理なものとはいえない一方,一般に労働者が行う作業内容や作業現場が短期間に変化する建築作業現場では,個人サンプラーによる測定をしても汎用性に乏しく対策を講じるための有用な情報とはなり難く,常時個人サンプラーによる測定をするのでは,費用や労働者への負担などの点で現実的なものとはいえないなどの問題点があり(甲A273・15~16頁),個人サンプラーによる作業環境測定を定めないことが,許容される限度を超えて著しく合理性を欠くとは認められない。
したがって,控訴人らの主張はいずれも採用することができない。イ
石綿吹付け作業の全面禁止について
控訴人らは,昭和50年改正特化則38条の7において,石綿吹付け禁止措置の対象から,建築物の鉄骨等への吹付け作業及び石綿含有率が重量比5%以下の吹付け作業を除外した点が違法であると主張する。しかしながら,上記の点が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえないことは,次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第3章
から,これを引用する。
控訴人らは,昭和50年改正特化則が5%を超える石綿吹付け作業を許容したことは,周囲で作業を行う労働者に重大な健康被害のリスクを生じさせることから,著しく合理性を欠くという趣旨の主張をする。しかしながら,昭和50年改正特化則の規制により5%を超える石綿吹付け作業を実施するには作業場所の隔離や送気マスクの着用などのコストがかかることから,5%を超える石綿吹付け作業は実施されなくなることが予測され,実際にもそのような経過を辿っていること,石綿吹付け労働者以外の労働者に対しては,石綿吹付け作業を実施している場所には特化則により関係者以外の立入禁止等の措置が,安衛則により呼吸保護具の備え置きによりその使用が確保され得る措置があったことからすると,被控訴人らが指摘する点をもって,昭和50年改正特化則の規定が著しく合理性を欠くものであったとはいえない。
控訴人らは,昭和50年当時,石綿代替吹付け材としてロックウールが存在して実際に使用されていたから,石綿吹付け作業を全面禁止することに支障はなかったと主張するが,当時,石綿吹付け作業に対する速やかな規制が必要とされていたこと,石綿含有率が重量比5%を超える吹付け作業の規制であっても,石綿の粉じんを特に著しく飛散させる作業の規制という昭和50年改正の趣旨には合致すること,さらに,ロックウールを含めた代替製品の安全性に関する知見は確立されていない状況にあったことなども勘案すると,当面の措置として,石綿含有率が重量比5%を超える吹付け作業の規制という手法を用いることに理由がないものではない。また,石綿含有率が特に高い吹付け石綿は昭和50年頃以降は使用されなくなり,その他の石綿含有吹付け材についても,一部では石綿含有率が重量比5%を超える吹付け作業がされたとはいえ,ロックウール工業会が吹付けロックウールの仕様を昭和53年からは石綿含有率(重量比)5%未満に変更し,昭和55年以降は石綿を全く含有しないものに代替したことからすれば,昭和50年改正特化則38条の7の趣旨は相当程度実現したとみることもできる。
これらの点に鑑みると,昭和50年以降の時点において,石綿吹付け作業を全面禁止しなかったことが,許容される限度を超えて著しく合理性を欠くとはいえない。

集じん機付き電動工具の使用の義務付けについて
控訴人らは,昭和40年代後半以降,電動工具が建築作業現場における主要発じん源となったのであるから,被控訴人国において,昭和46年以降のできる限り早い時期,どんなに遅くとも労働省が平成4年通達を発出し,集じん装置付き電動工具の使用を奨励した平成4年までに,集じん機付き電動工具を使用することを事業者に義務付けるべきであったと主張する。
そこで検討するに,集じん機能を有する電動工具は海外では古くから存在したことがうかがわれるものの(甲A376,577),それらの工具の詳細は不明である。昭和49年時点で我が国の電動工具メーカーから吸じん機付きグラインダーや集じん袋付き電動丸鋸が販売されているが(甲A507・12~15頁),吸じん機付きグラインダーは吸じん機の重量が190㎏以上という大掛かりなものであって,一般家屋の建築作業現場での使用には明らかに不向きである。東京労働基準局労働衛生課「建設業における特定化学物質の取扱いに関する調査結果」では,昭和51年暮れの調査依頼に対する大手建設業者からの回答内容の一応の結果の取り纏めとして,石綿成形板の現場での切断作業の量が多い場合に用いる動力丸鋸に「除じん機付局排」を設けているとしているが(甲A578・44頁),具体的な装置は不明である上,特定化学物質の作業内容については実地調査によるものではないから目安にとどめる(同・42頁)など回答内容の正確性に疑問の余地があるとされていることに照らすと,昭和51年時点で吸じん機付き電動工具の実用的な技術的基盤が整っていたと認めることはできない。以上のほか,本件全証拠によっても,昭和58,59年より前に(甲A629の2,631の2,乙アA308,309参照),平成4年通達の「除じん装置付き電動丸鋸」のように,建築作業現場で使用することができる,比較的小型で実用性のある吸じん機付き電動工具が,我が国で販売されていたとは認めることはできない。
また,昭和62年以降,除じん装置付き電動丸鋸を使用した際の粉じん曝露抑制効果を示す測定データが得られているが(甲A183・36~39頁,甲A566・4頁),同年の一般家屋壁材施工時の発塵状況
作業者の姿勢などによっては,防じん効果の乏しい場合もある。
そもそも,電動丸鋸等の電動工具は,堅い建材を切断できる刃などを高速回転させる工具であり,使用方法を誤れば身体の切断等,重大な労働災害を招くものであるところ,電動工具にホースや集じん装置を取り付ければ,電動工具の操作性や作業員の安全性を低下させ,かかる労働災害の危険を増加させる面のあることは否定できず,このことは同種訴訟の原告や原告側証人の供述からも認めることができる(乙アA301の4~8)。
これらの点に鑑みると,集じん機付き電動工具を使用するか否かについては,基本的にそれぞれの建築作業現場や作業員の実情を踏まえた現場の判断に委ねざるを得ないものといえ,被控訴人国において,通達や作業マニュアルで推奨するにとどまらず,法令でその使用を義務付けなかったことが,許容される限度を超えて著しく合理性を欠くということはできない。

移動式局所排気装置等の義務付け及び全体換気の措置について
建築作業現場に適合した移動式局所排気装置ないし移動式集じん機を設置するには様々な問題点があり,昭和47年時点で事業者に対しそれらの設置を義務付けることができるような工学的知見が確立したと認めることができないことは,原判決の「事実及び理由」中第3章第3節第3の9(原判決260~266頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。そして,上記問題点が昭和47年より後に解消されたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,事業者に対し建築作業現場に適合した移動式局所排気装置の設置又は移動式集じん機の使用及び全体換気の措置を義務付けなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。

プレカット工法の義務付けについて
石綿含有建材を扱う建設現場で一律に,控訴人らのいうプレカット工法を義務付けることが困難であることは,原判決259頁20行目の「昭和50年の時点で,」を「昭和46年,昭和50年,昭和53年及び昭和62年の各時点以降において,
旧労基法の規定又は」
と,
同頁24行目の
「昭
和50年の時点」を「上記各時点以降」とそれぞれ改めるほか,原判決の「事実及び理由」中第3章第3節第3の8(原判決258~260頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
したがって,事業者に対し,石綿含有建材を扱う建設現場で一律に控訴人ら主張のプレカット工法を義務付けなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。

吹付け石綿の剥離・除去等に関する措置について
控訴人らは,昭和46年,昭和50年,昭和53年及び昭和62年の各時点以降,吹付け石綿の剥離・除去作業については,昭和50年改正特化則38条の7で石綿吹付け作業を例外的に許容する場合と同様に送気マスク等の使用を,建造物の改修・解体作業等については,平成17年に石綿則で定めたのと同様の各種規制措置を,それぞれ義務付けるべきであったと主張するところ,英国のLumley,K.P.S.ら(昭和46年)によれば,断熱材として石綿が吹付けられた倉庫内での曝露濃度として,落ちた吹付け石綿を乱すと11.89本/㎤,箱の移動で6.2本/㎤がそれぞれ測定されており(甲A541),米国のSawyer,R.N.(昭和52年)によれば,石綿含有吹付け材が施工された建物内における曝露濃度として,書庫の天井への接触で15.5本/㎤,1×2フィートの天井を補修作業時に除去で17.1本/㎤などが測定されている(甲A542)。
もっとも,昭和53年の専門家会議報告書では,上記各測定結果は引用されておらず,ビルの解体作業が不測の石綿曝露を受けることのある作業の一つとして挙げられているにとどまる。そして,昭和30年代に建築された建物の解体工事が本格化する昭和60年以降,被控訴人国は,昭和61年通達及び昭和63年通達を発出して,石綿等の使用状況の事前把握,湿潤化措置,ビニールシート等による隔離など具体的な石綿粉じん曝露対策を指導しており,これらの指導におよそ実効性がなかったとも認められない。そうすると,被控訴人国が当時把握していたリスクに照らして,被控訴人国の対策が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。


建材メーカー等に対する警告表示の全面的義務付け及び建築作業現場における石綿取扱上の注意事項等の掲示の全面的義務付けについて建材メーカー等による警告表示(安衛法57条)及び建築作業現場における掲示(特化則38条3)について,被控訴人国の監督権限の行使が違法であったことは前記のとおりであるが,控訴人らの主張でその余の点に関するものは,次のとおりいずれも理由がない。
控訴人らは,被控訴人国が石綿の発がん性に着目してこれを第二類物質に指定した昭和46年の旧特化則制定時以降,旧労基法の規定に基づき,建材メーカー等による警告表示及び建築作業現場における掲示の対象とすべきであったと主張する。しかしながら,昭和46年当時は,未だ石綿と肺がん及び中皮腫との因果関係に関する医学的知見は確立しておらず,また,石綿が旧特化則において第二類物質に指定された経緯b,c)であり,控訴人らの主張はそ
の前提を欠く。
また,控訴人らは,昭和50年,昭和53年,昭和62年の各時点以降,被控訴人国が,石綿含有量が重量の5%以下の石綿含有建材を建材メーカー等による警告表示及び建築作業現場における掲示の対象から除外したことは,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと主張する。
販売されて
いた石綿含有製品のほとんどは,石綿をその重量の5%を超えて含有していたことから,実質的には石綿含有建材のほとんどが規制の対象とされていたといえる。また,その後,石綿含有率が5%以下の建材の使用が増加したとしても,石綿含有率が5%を超える建材と比較すれば,建材を施工する際の石綿粉じん濃度は低くなることから,相対的に危険性が低いといえる。さらに,当時の測定技術によれば,5%以下の石綿含有率を測定することはできず,特化則38条3による作業場における掲示義務を負うのは事業者であり,安衛法57条の警告表示義務を負うのは対象物を譲渡又は提供する者であり,製造者に限らないことをも勘案すると,作業場における掲示義務及び建材メーカー等による警告表示義務の対象を石綿含有率5%を超える建材としたことにも理由があるというべきである。
そうすると,石綿含有率が5%以下の建材についても,それが5%を超える建材と同様にこれらの義務を課さなかったことが,被控訴人国の規制権限の行使として,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまでいうことはできない。
さらに,控訴人らは,石綿スレート協会の内部資料(乙アA201)に基づき,業界全体として,容器又は包装によって有害物を譲渡する場合にも警告表示を記載した文書の交付で足りるという脱法行為をしており,被控訴人国がこれを容認していたと主張する。
しかし,乙アA201の4頁は「一般には包装ごとにラベルを貼付する」として,安衛法57条1項の定める容器又は包装への表示が原則的方法であることを明らかにしており,また,「販売店へ継続的に納入するような場合には石綿スレート協会で定めた注意文書を相手に交付すればよい。」との部分は,石綿スレート協会発行の注意文書に関する説明(乙アA201・16頁)からは,安衛法57条2項に基づく文書による表示として述べたものと解される。上記部分は,同項が容器又は包装による方法以外の方法による譲渡又は提供を要件とすることを明記していない点で不正確であるものの,容器又は包装による譲渡等の場合にも文書の交付で足りるという脱法行為をしているということはできない。また,上記内部資料が作成された昭和59年3月当時,被控訴人国が上記内部資料の内容を把握してこれを容認していたことを裏付ける証拠もない。
したがって,控訴人らの上記主張も理由がない。

石綿関連疾患についての特別教育の義務付けについて
原判決269頁23行目及び原判決270頁2行目の各「昭和35年」をいずれも「昭和46年」と改め,同頁5行目の「同年」を「昭和35年」と,同頁9行目の「昭和47年の時点」を「昭和50年,昭和53年及び昭和62年の各時点以降」と,原判決271頁9頁の「見当たらない。」を「見当たらず,その後,昭和50年,昭和53年及び昭和62年の各時点において,雇入れ時教育等のみでは不十分となるに至ったと認めることもできない。」とそれぞれ改め,次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理由」中第3章第3節第3の11(原判決268~271頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
控訴人らは,特別教育の趣旨が,特に有害で職業病発症の可能性が高い作業について,作業員に当該疾病について補償制度等を含めわかりやすく説明して予防対策の重要性を認識させる内容を繰り返し行うことにあり,特別教育が義務付けられている他の作業と比較して石綿粉じん曝露作業の危険又は有害の程度が低いことはあり得ないなどと主張する。
しかしながら,特別教育については,記録の作成,保存義務が定められ(安衛則38条),違反行為につき懲役刑を含む罰則が科されているものの(安衛法119条1号),説明の平易さや頻度についてまで定められているものではなく,雇入れ時教育についても,違反行為に対する罰金刑は定められている(同法120条1号)。他方で,平成4年通達では,石綿含有建築材料の施工作業における労働衛生教育につき,実施要領が定められ,実施者,教育カリキュラム,教材などについて具体的に指示されており,上記実施要領に基づく教育が不十分であったとは認められない。もとより,石綿粉じん曝露作業に従事する労働者に防じんマスクの着用を徹底するためには,労働者が石綿粉じんの危険性について正しく理解することが必要であるものの,その教育方法が特別教育でなければ,被控訴人国の規制権限の行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと解すべき事情を認めることはできない。
4石綿含有建材の製造等の禁止措置に関する規制権限不行使の違法性について控訴人らは,安衛法55条の趣旨・目的に鑑みれば,同条に基づき有害物質の製造等の禁止を行うにあたっては,労働者の生命・身体及び健康というかけがえのない法益が危険にさらされていることから,①製造又は取扱いの過程において労働者に重度の健康障害を生ずる物質であること,②現在の技術をもってしては健康障害を防止する十分な防護方法がない有害物であることが特に重視されるべきである。石綿は種類にかかわらず発がん性があり,がんの発症には閾値がないとされていることから,微量の曝露であっても許容しないという厳格な管理使用が求められるところ,建築現場においては,これを徹底することは著しく困難であることから,被控訴人国が,以下の時点において,石綿の製造等を全面的に禁止しなかったことは,著しく合理性を欠き,違法であると主張する。

昭和50年の時点
この時点で,石綿の発がん性が明らかになる一方,石綿の用途に応じたガラス繊維,ロックウール,ポリビニルアルコール繊維,ビニロン等の人造繊維に代替化することは可能であり,これを促進するには,製造等禁止措置が不可欠であった。


昭和53年の時点
この時点で,専門家会議報告書により,建築作業による石綿曝露の危険性が明らかになるとともに,昭和50年改正特化則が石綿の代替化を事業者の責務と定めたにもかかわらず全く進展が見られなかった。


昭和62年の時点
昭和61年に採択されたILO石綿条約は,原則として全ての種類の石綿について使用禁止を定め,クリソタイルについても管理使用は不可能又は困難であるという考え方が国際的にもとられるようになり,石綿の製造等を禁止することは主要先進国にとって当然の施策となっていた。エ
平成7年の時点
1990年代前半までに欧米諸国で相次いでクリソタイルの使用禁止措置を導入しており,わが国においても石綿建材の代替化は平成元年頃には技術的に完成し,平成3年時点ですでに多くの建材が無石綿化され,全面的代替化に向けた障害は主に価格面に限られていたことなどから,どんなに遅くとも平成7年時点において,クロシドライト及びアモサイトとともにクリソタイルを含有する建材についても製造等を禁止すべきであった。
そこで検討するに,安衛法55条は,製造等の禁止の対象物を「黄りんマ
ッチ,ベンジジン,ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で,政令で定めるもの」と定めるのみで,「その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物」のうち,いかなる物質を製造等の禁止の対象物とするかは政令に委任しているところ,その趣旨は,製造等の禁止措置の影響が単に事業者と使用される労働者にとどまらず,広く国民に及び得ることから,専門的・技術的知識のみならず,社会全体における便益やリスクの許容性について幅広い観点からの政策的考慮が必要であるため,内閣による専門的知見を踏まえた総合的な政策判断に委ねたものと解される。しかるところ,ある物質を有害物質として製造等を禁止することを検討するにあたっては,当該物質が健康被害等をもたらすリスクの大きさのみならず,当該物質の製造等を禁止することにより失われる便益(経済面のみならず生命・身体の安全も含まれる。)及び当該物質の代替品が新たな健康被害等を生じさせる可能性といった製造等の禁止措置がもたらすリスク,さらには製造等の禁止措置のコストを勘案する必要があり,当該物質のもたらす健康被害等のリスクを軽減し得る他の選択肢も考慮に入れて,社会全体としてのリスクの許容性に照らして,製造等の禁止措置の当否を判断すべきである。この点,発がん物質に閾値は存在しないという考え方は,安全対策を検討するにあたっての想定であり,発がん物質に閾値が存在しないことから直ちにその製造等が禁止されるべきものではなく,上記のような観点から,どの程度のリスクまで社会的に許容し得るのかが検討されるべきである。そこで,上記のような観点に立って,以下に被控訴人国の規制権限の不行使が著しく合理性に欠けるか否かについて検討する。控訴人らの主張する判断枠組は,規制対象となるリスクのみを強調し,規制がもたらし得るリスクを軽視する点,しかも,規制がもたらし得るリスクが,生命・身体に対する危険という,規制対象となるリスクと同質のものであることを看過する点において,採用できない。
昭和50年から昭和62年までの被控訴人国の規制権限不行使の違法性について

石綿の製造・使用の禁止に関する知見
昭和47(1972)年のIARC報告は,石綿の発がん性を明らかにしたが,石綿の種類によって肺がん及び中皮腫発症のリスクに明らかな差があるとした上で,石綿への曝露のレベルを石綿肺発現のレベル以下にまで引き下げることによりがんのリスクの上昇も除去できるか否かについての研究が勧告されるなどとしていたのであり,IARCの報告をもって,直ちに石綿の製造等の禁止を根拠づけるに足りる知見が示されたものとはいい難く,現実にも,これを受けて石綿の製造等を禁止する規制を行った国は存在しない(乙A106)。
また,昭和61(1986)年に採択されたILO石綿条約は,クロシドライト及びその含有製品の使用禁止(11条)と石綿吹付け作業の禁止(12条)を定めているが,石綿の代替化について,労働者の健康を保護するため必要であり技術的に実行可能な場合を要件とするとともに,石綿の種類を限定した措置も容認されており(10条),石綿が新たに使用されることを前提として,石綿の生産者及び石綿含有製品の製造者並びにその供給者に対し関係のある労働者及び利用者のための表示を義務付けている(14条)ほか,管理使用に関する諸規定(15条,16条,18条,20条~22条)を設けているのであって(甲A267,487,乙アA25),同条約は石綿の種類を問わず使用禁止を義務付けるものでないことは明らかであり,これは当時における国際的な考え方の趨勢を示すものといえる(なお,第95回ILO総会(平成18年)において,同条約を石綿の継続的な利用を正当化又は承認するものとして用いてはならない旨の決議がされているが(甲A247),そもそも同条約が石綿の種類を問わない使用禁止を義務付けていれば,このような決議がされることもなかったものと考えられ,これをもって採択当時の考え方を示すものとはいえない。)。

諸外国における規制の状況
海外の規制状況についてみるに,証拠(甲A67の1・2,乙アA113)及び弁論の全趣旨によれば,原判決194頁24行目の冒頭から同196頁14行目末尾までに記載のとおり認められるから,これを引用する。しかるところ,昭和62年までに全種類の石綿の使用を原則として禁止したのは,北欧4か国(アイスランド,ノルウェー,デンマーク,スウェーデン)にとどまり,主要先進国では,昭和61年に,英国がクロシドライト及びアモサイトについて,ドイツとEUがクロシドライトについて使用等を禁止したにとどまっていた。


国内における石綿の使用状況
国内における石綿の建材への使用状況は既に述べたとおりであり,推定使用量で見ると,昭和48年の約27万トンを第1次ピーク,平成元年の約21万トンを第2次ピークとし,この間,毎年15万トンを上回る水準を示しており,石綿輸入量の約7割が建材に使用された。石綿は,防・耐火性,耐久性,吸音性,断熱性,電気絶縁性,強度,セメントとの親和性など優れた特性を有する上に,安価であることから,都市防火・防災が都市計画の最重要テーマとされてきた我が国において,火災や災害から国民の安全を確保する上で,社会的有用性が認められ,幅広く建材として使用されてきた事実には否定し難いものがある。
なお,
クロシドライト及びアモサイトの使用状況については,
昭和58,
59年度には,全国427の石綿取扱事業場中クロシドライトを使用するものは11(約2%),アモサイトを使用するものは52(約12%)に減少し(甲A67),昭和62年頃までには,関係業界においてクロシドライトの使用が自主的に中止された。

石綿の代替化の状況
平成元年時点で石綿代替繊維として使用され又はその可能性が検討されていたものとして,天然の無機繊維として,ワラストナイト,セピオライト,アタパルジャイト,繊維状ゼオライトなどが,人工の無機繊維として,ガラス繊維,ロックウール,セラミック繊維などが,有機系繊維として,炭素繊維,アラミド繊維,セルロース繊維,レーヨン繊維などが,挙げられていたが,石綿のように優れた特性を多面的に有する単一の材料ではなく,建築材料の分野において石綿の代替製品として使用するためには種々の技術的課題が指摘されていた(乙アA112)。
もっとも,石綿含有吹付け材については,前記のとおり,昭和50年代には吹付け石綿がほとんど使用されず,吹付けロックウールも石綿含有率の高いものが使用されなくなり,石綿含有保温材等についても,株式会社アスク(現在の被控訴人エーアンドエーマテリアル)が昭和53年にけい酸カルシウム保温材の無石綿化を実現する(甲A265・198頁)など,石綿含有率の低減ないし無石綿化が進展した。他方で,建築現場において最も多く使用されている石綿含有成形板については,ガラス繊維強化セメント板が,昭和43年に英国で開発され,わが国でも昭和48年頃に被控訴人旭硝子ほか2社がライセンスを受け(甲A369),被控訴人旭硝子がその後販売をしている(甲A370)が,その具体的な品質や販売実績は不明である。
昭和60年代の代替化の状況について,環境庁大気保全局企画課監修「アスベスト代替品のすべて」(平成元年6月)(甲A268)によれば,石綿スレート,けい酸カルシウム板(けいカル板),屋根ふきスレートなどのうち,主に内装に用いられるけいカル板については,石綿をパルプ繊維,耐アルカリガラス繊維などに置き換え,全く石綿を含まない代替品が各社(浅野スレート,アスク,ノザワ,富士不燃建材,三菱セメント建材,ニチアス)により開発・製造され,昭和61年から販売されていること,石綿スレート協会加盟メーカーの昭和61年度における代替品の製造割合は石綿を含むけいカル板の1%に満たないが今後上昇することが予想されること,代替原料の価格は一般に石綿より高く,また代替原料は石綿と比較してセメントとの親和性が低い,分散性が劣るなどの理由により製造効率が低下することから,代替品の価格は石綿含有製品と比較しておおむね20~50%高くなっていること,外装材については,旭硝子が昭和63年4月にパルプ繊維,耐アルカリガラス繊維を使用するなどして完全無石綿化した製品の生産を開始し,浅野スレートにおいて,大波板及びフレキシブルボードなどをパルプ繊維,耐アルカリガラス繊維又はビニロン繊維を代替原料として無石綿化したものを,それぞれ昭和59年度,昭和61年度から試験生産していること,住宅屋根用スレートについては,大きなシェアを有する久保田鉄工が無石綿化の研究を行っているとされているが販売には至っていないことを指摘した上(同16~18頁),内装用のけいカル板での代替はかなり進んでいると思われるが,外装材及び屋根ふき材については代替化が進行するのはこれからであると思われること,数多い代替分野では,一応代替品が実用されているものの,製造技術面また性能面で問題を抱えている分野が多いこと,代替製品は石綿系より高価となる問題があるが,より優れた代替品の開発と普及が進めば価格の問題は徐々に解決していくと考えられること(同32頁)などを結論としてまとめている。このほか,
「建築物のノンアスベスト化技術の開発」
(建
設省官民連帯共同研究平成元年度研究開発概要報告書,乙アA112)においても,主要な代替繊維ごとに技術面や価格面での問題点を指摘している。

石綿代替繊維の安全性についての知見
昭和47年のIARCによる「人に対する化学物質のがん発生危険の評価」に関する研究グループの報告は,「粒子の大きさと形状が主な因子であることがより可能性が高い(径が0.5ミクロンより小さく,長さが10ミクロンの)細くて長い繊維が腫瘍形成において最も大きいようである」と指摘し,石綿の発がん性が確認された後,同様に繊維状物質である人造鉱物繊維の健康への影響についても国際的に関心が持たれるようになり,昭和50年代から欧米での大規模なコホート調査の結果が発表された(乙アA113)。
IARCは,昭和62(1987)年,コホート調査や動物実験等のデータに基づき,人造鉱物繊維の発がん性をグループ1(ヒトに対してがん原性がある),2A(ヒトに対しておそらくがん原性がある),2B(ヒトに対してがん原性のある可能性がある),3(ヒトに対するがん原性について分類できない),4(ヒトに対しておそらくがん原性がない)の順に分類し,グラスウール,ロックウール,スラグウール及びセラミックファイバーをそれぞれグループ2B(ヒトに対するがん原性のある可能性がある)と評価して,昭和63(1988)年にその旨の報告書を公表した(乙アA4)。

結論
以上によれば,昭和50年,昭和53年及び昭和62年のいずれの時点においても,石綿については,繊維の種類等に応じて曝露濃度についての規制値を設定して管理使用を継続するという考え方が国際的にも趨勢となっており,国内的に見ても,石綿含有建材がもたらす社会的便益に代替し得る製品についての技術的知見及び安全性に関する知見は十分ではなく,石綿含有建材全般について速やかに無石綿化することが可能な技術的・社会的基盤は存在しなかったというべきであるから,被控訴人国において,石綿について管理使用政策を継続し,製造等の禁止措置をとらなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。
昭和63年から平成7年頃までの被控訴人国の権限不行使の違法性につ
いて

石綿の製造・使用の禁止に関する知見
WHOの「石綿の職業曝露限界」報告書(平成元年)は,石綿曝露については,それ以下ではリスクがないという石綿曝露レベルがあるとは明言できないという結論に達したとする一方,起こり得る石綿関連疾患のリスクが非常に小さい管理レベルを達成することは,特にクリソタイルに関しては可能であるという意見を会合は表明したとし,勧告においても,肺がんと中皮腫について,ヒトでの証拠では閾値の存在を示していないことが特に注目に値するとしながら,クリソタイルについては,現在高いレベルの限界値を有している国は作業者個人の職業曝露限界を2本/㎤
(8時間荷
重平均値)にまで下げるステップを早急にとることと,未だ実施していない国々は1本/㎤(同)あるいはそれ未満に下げる方向に進むことが推奨され,クロシドライト,アモサイトについては,可能な限り早急に使用を禁止することが推奨され,当面,限定された使用をするのであれば,曝露がクリソタイルで許容されるレベルよりも低いことを確実にするため注意深く実施することが求められるとしており(乙アA3),クリソタイルについては,明らかに継続的な管理使用を容認するものであって,当時における考え方の趨勢を示すものといえる。
また,石綿は,クリソタイルなどの蛇紋石系とロシドライト,アモサイトなどの角閃石系(アンフィボール)に分類されるところ,1980年代末には,石綿による発がん性など重大な健康障害は専らアンフィボール系のものによるとするアンフィボール仮説をワグナーらが提唱し,以後この考えを支持する者と否定する者との間で激しい議論が戦わされ(乙アA120~124),この論争は,平成14年頃も続いていた(乙アA120)のであり,クリソタイルの発がん性,特に中皮腫の発症リスクは小さいのではないかとの考え方が有力に主張されていた。

諸外国の規制の状況

びその含有製品等の製造及び使用を禁止したが,フランスでは昭和63年にクロシドライトの使用等を原則禁止し,平成6年にクリソタイル以外の石綿の販売等を禁止したにとどまり,クリソタイルを含めた全ての石綿の製造等を禁止したのは平成9年以降(但し,適用除外品があり全面禁止は平成14年)であり,英国においても平成11年以降(適用除外品があり,段階的に禁止を強化),EUとしては平成17年である。他方,米国では,平成元年に行われた段階的規制が平成3年に連邦高等裁判所により無効とされた後,現在まで石綿の使用が全面的には禁止されておらず,カナダは,一貫してクリソタイルは管理して使用すれば安全であるとの立場をとっている。

国内における石綿の使用状況
建材における石綿の推定使用量は,平成2年の21万トンを第2次ピークとして減少傾向にあったが,平成6年までは15万トンを超えており,なお,高水準で石綿が使用されていた。既に述べたとおり,昭和62年頃までには,関係業界においてクロシドライトの使用が自主的に中止されていたが,平成5年にはアモサイトの使用が自主的に中止された(乙アB34)。
被控訴人国は,平成7年に安衛令を改正し,アモサイト及びクロシドライトについて,製造等を禁止し,安衛則及び特化則を改正し,規制対象となる石綿含有物の範囲を含有量が5%を超えるものから,1%を超えるものに改めた。

石綿の代替化の状況
石綿セメント製品メーカーの団体であるスレート協会は,平成元年度において,①主たる内装材であるケイ酸カルシウム板について平成3年度末までに無石綿化する,②主たる外装材であるフレキシブルボード,サイディング材については平成3年度末までに石綿含有量を5%以下とする,③波形スレート,住宅用屋根材については平成5年度末までに石綿含有量5%以下とするとの目標を設定していた(乙アA126)。
平成2年3月12日の新聞記事では,建材メーカー各社が無石綿製品の開発を急いでいるが,開発をしたものの長期にわたる耐候性が確認できず商品化に踏み切れない例のあることや,商品化に踏み切ったものの,同じ強度を持たせるために重量が2倍近くなったり,代替物質が割高で設備改造費用もかかるため製品価格がどうしても高くなったりするため,住宅メーカーなどユーザーが採用を渋り,需要が伸びないことが報じられている(乙アA137)。
平成4年7月30日の新聞記事では,けいカル板では,石綿含有製品の製造を打ち切るメーカーが相次ぎ,同年末の段階で市場に出回る製品の9割が代替品に置き換わるとみられており,フレキシブルボードや波形スレートについては,大手各社が石綿含有率を5%以下に抑えた製品の開発を進めているが,一部メーカーが在来品に比べ強度が低いことを認めているなど品質面での完成度は今一つのようであり,在来品に比べ価格が2,3割高いことも課題であるとされている(乙アA138)。
建築物の解体に係るアスベスト対策検討ワーキンググループが作成した
「建築物の解体・撤去等に係わるアスベスト飛散防止対策について」(平
成8年2月,乙アA125)には,けい酸カルシウム板(厚物:成形品)が平成元年に,同(薄物:抄造品)が平成5年にそれぞれ代替化が完了し,住宅用屋根材(平形屋根スレート),サイディング(外装材),押出成形セメント製品では代替化が一部進むなど,進展もみられるものの,フレキシブルボード,波形石綿スレートでは,製造技術面,性能面(経年劣化の問題等)及び経済性の面で無石綿化は困難であるとされていた。

石綿代替繊維の安全性についての知見
労働省は,昭和63年度より6年間にわたり「石綿代替品の製造に係る労働衛生に関する調査研究」委員会を設け,調査研究を行った(乙アA131)。主任研究者の森永謙二は,平成2年度委託研究報告書「石綿代替物質の生体影響に関する研究」を平成3年3月に発表し,その中で,人造鉱物繊維及び天然鉱物繊維の発がん性についてのIARCやアメリカ環境保護庁EPAの総合評価から判断すると,どの物質も完全に発がん性を否定できるものはないこと,代替物質の発がん性は,当然石綿との発がん力の比較という検討も必要であること,曝露を受ける人口,曝露濃度も含め総合的に把握し,石綿と代替品との様々な利点と欠点を総合的に評価する必要があること,鉱物名のみで判断するのではなく,繊維の大きさ,形状,組成など各地で産出される鉱物の物理・化学的性状をも含めて考慮に入れた検討が必要であることなどを指摘した(乙アA127)。

石綿の製造等の禁止を巡る法制化の動き
社会党と社会民主連合は,平成4年12月3日,石綿製品の製造,輸入,販売等の原則禁止,代替物質の利用等の促進等を内容とする「石綿製品の規制等に関する法律案」を衆議院に提出したが,日本石綿協会の反対を受け,自民党の賛同も得られず,同法案は厚生委員会に付託されることなく廃案となった。社会党は,その後も上記法案の再提出を目指したが,建材メーカーの労働組合の反対を受け,雇用不安を懸念した連合も石綿の使用禁止から管理使用へと方針を転換したことなどから,平成6年9月に法制化を断念した(乙アA130,乙アB100)。


平成7年以降の動き
IARCは,平成13年に至って,特定用途のガラスファイバー及び耐火性セラミックファイバーをグループ2B(ヒトに対するがん原性のある可能性がある),耐熱グラスウール,連続性ガラスフィラメント,ロックウール,スラグウールをグループ3(ヒトに対するがん原性について分類できない)と評価し,平成14年にその報告書を公表したが,それまで国内では石綿代替繊維の安全性に関する議論が続いていた(乙アA5,133,135)。
建材における石綿の推定使用量は,平成6年までは15万トンを超えていたが,平成10年に10万トンを割り,平成13年には6万トン台まで減少した。石綿の輸入量も,平成13年の約8万トンから,平成14年に約4万3000トン,平成15年に約2万5000トンと減少していった。
経済産業省からの委託研究である平成12年度無機新素材産業対策調査(石綿含有率低減化製品等調査研究)は,石綿含有建材のうち,波スレートを除く,平スレート,バルブセメント板,押し出し板,住宅用屋根材及びサイディング剤は,その比率の品種ごとの差はあるものの,無石綿製品との併産若しくは無石綿品のみの生産となり,建材に限定すれば代替繊維による無石綿化への技術移行はここ数年内に相当程度進むと考えられるとしていた(乙ア109)。
被控訴人国は,平成14年に学識経験者からなる「石綿の代替化等検討委員会」を設置し,検討を行った結果,石綿の使用量が9割以上を占める建材のすべてについて,
石綿の使用が不可欠なものではなく,
かつ,
技術的に代替化が可能であるとの結論を得て,平成15年に安衛令を改正し,その時点で非石綿製品への代替が困難なものを除くすべての石綿製品(建材はすべてこれに該当する)について,その製造等を禁止した。ク
結論
以上によれば,平成7年当時において,国際的に見ても,クリソタイルについては管理使用が可能であるとの考え方が,なお支配的であり,国内的にも,石綿含有建材の無石綿化や低減化に一定の進展が見られたものの,石綿含有建材が高水準で使用されており,石綿の代替品については,価格のみならず品質面での課題が残されており,石綿代替繊維の安全性についても,未だ医学的知見が確立されておらず,さらに石綿の全面的使用禁止に向けた社会的なコンセンサスも形成されていなかった。これらの事情を勘案すると,平成7年時点で,クロシドライト及びアモサイトのみならずクリソタイルを含有する建材についても製造等を禁止する措置をとらなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理を欠くと認めることはできない。

5
一人親方及び個人事業主は労働関係法令に基づく規制権限不行使による違法について国賠法上の救済を求めうるかについて
国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決参照)。本件において,既に述べたとおり,被控訴人国には,安衛法22条,57条及び59条に基づく規制権限の不行使の違法性が認められる。
しかるところ,安衛法は,1条において,労基法と相まって,職場における労働者の安全と健康を確保すること等を目的としており,2条2号において,安衛法にいう労働者を「労働基準法第9条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事業所に使用される者及び家事使用人を除く。」)
と具体的に定義した上で,同法第4章「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」に置かれた22条において,事業者に粉じん等による健康障害を防止するための必要な措置を義務付け,第5章「機械等及び有害物に関する規制」の中で,55条において,労働者に重度の健康障害を生じる物の製造等を禁止し,57条において,労働者に健康障害を生ずるおそれのある物を譲渡する場合等に,表示等を義務付け,第6章「労働者の就業にあたっての措置」の中で,59条において,事業者に対して労働者に対する安全衛生教育の実施を義務付けていることからすると,安衛法22条,57条及び59条に基づく規制権限の保護の対象者が安衛法2条2号で定義される労基法上の労働者であることは明らかである。そして,かかる労働者に該当するか否かは,必ずしも労務提供の法形式にとらわれることなく,指揮監督下の労働という労務提供の形態及び報酬の労務に対する対償性の実質からみた使用従属関係に着目して判断されるべきである(甲A188,189参照)。他方で,かかる観点から労働者と認められない控訴人との関係においては,被控訴人国は職務上の法的義務を負担せず,従って,その権限不行使は違法とはならないから,これによる責任を負わないというべきである。その上で,各控訴人の労働者性についての判断は後に述べるとおりである。

控訴人らは,労働者性の認められない一人親方,自ら建設作業に従事する個人事業主及びその法人化後の代表者
(他人の雇用の有無を問わない。

であって,職務上,石綿を取り扱う建設現場に一定期間滞在することが必要であることにより建設現場の粉じん被害を受ける可能性のあるものについては,安衛法に基づく規制権限の保護対象に含まれ,規制権限の不行使を理由とする国家賠償の保護範囲に含まれるとして,①安衛法は,快適な職場(作業)環境の形成を目的として(1条),原材料等の製造者等の災害防止義務を定め(3条2項),労働災害と密接に関連する災害の防止に配慮し(27条2項),請負人が労働者を使用する場合に,注文者に建物の使用過程における災害防止に必要な措置を講ずる義務を課す(31条)など,雇用関係を超えた範囲の規制を予定していること,②安衛法55条は,警察取締目的で大正10年に制定された黄燐燐寸製造禁止法及びこれを吸収した旧労基法48条に由来すること,③一人親方等は,労働者と同様に,労働環境の形成について自由を有しておらず,労働災害の危険にさらされているところ,労働関係法令に基づき作業環境の改善措置が行われていれば,同一の作業環境で働いていた一人親方等も石綿粉じん曝露を免れたことなどから,安衛法に規定される規制権限の保護の対象は労働者に限定されないと主張する。

しかしながら,上記①の点については,安衛法1条が,職場における労働者の安全と健康の確保とともに快適な作業環境の形成の促進を目的としているのは,快適な作業環境の形成の促進を独立の目的とするのではなく,あくまでも,これが究極の目的である職場における労働者の安全と健康の確保に資するとの位置付けによるものであることは,同条の文言のみならず,安衛法が旧労基法の規定の一部を整備し単独法として制定された経緯から明らかであり,快適な職場環境の形成との文言を根拠に,安衛法が労働者を超えて快適な職場環境から利益を受ける者を広く保護対象とするものと解することはできない。安衛法3条2項の規定は,原材料等の製造者等が労働災害の発生の防止に資すべき責務を有することを定めており,労働者を保護対象とするものと解されるし,27条2項も,労働者の危険又は健康障害を防止するための措置として,20条以下で規定された内容の具体化を省令に委任するにあたり,他の法令との調整を図るように配慮を求めるものであり,これをもって保護対象を拡大する趣旨に解する根拠とはならない。さらに,31条1項も請負人の使用する労働者を保護するために注文者に義務を課す規定であり,保護対象を拡大する趣旨には解されない。また,上記②に関しても,黄燐燐寸製造禁止法は,従業者の身体を保護し,併せて国民全体の健康上に遺憾ないことを期したい旨の提案理由で立法化されたものであり(甲A230の1,2),火災防止のための警察目的を含むことは否めないが,その主たる目的は,製造工程に従事する労働者が罹りやすい,りん中毒の防止にあり(甲A228),旧労基法48条も,労働者の生命身体に対する保護の見地から設けられたものであり(甲A184,186),安衛法55条は,「労働者に重度の健康障害を生ずる物」の製造等を禁止する趣旨を条文上明記していることからすると,これをもって,保護対象が旧労基法あるいは安衛法上の他の規制と異なるとは解し難い。さらに,上記③の点については,既に述べたとおり,法形式を問わず,作業従事者の労務提供の実態が労働者と同程度の使用従属関係にあるときは安衛法上の保護対象となるのであり,一人親方等であっても,このような労働者と認められる者とそうでない者との間では,労務提供先からの独立性の点で,作業現場におけるリスクへの対応力には類型的な違いがあるものというべきである。そうすると,労働者の労務提供先との使用従属性に着目してその保護を目的として設けられた規制権限が行使されなかったことから,労働者に当たらない一人親方等が危険を回避することができず,不利益を被ったとしても,その結果を被控訴人国の規制権限の不行使に帰属させることはできないというべきである。すなわち,安衛法上の規制権限行使の責任範囲が,規制権限の保護目的との関係で定められることにより,法の定める権限の適正な行使が担保される関係にあるといえ,控訴人らの主張は採用できない。
控訴人らは,
安衛法第5章に置かれた規制は,
第4章に置かれた規制とは,
趣旨,
目的及び規制手段が異なることから,
その保護対象となる労働者性も
緩やかに解釈されるべきであり,労基法上の労働者とは認められない一人親方であっても,安衛法第5章との関係で保護される場合があるとも主張する。
しかしながら,安衛法は第1章総則に労働者の定義規定を置いている上,安衛法第4章には,33条の機械等貸与者等など事業主以外の者を規制対象とする規定も含まれる一方,
安衛法第5章にも,
45条のように事業者の
義務を定める規定があるから,安衛法第4章と同法第5章とでは構造が異なるとはいえず,安衛法の第4章と第5章とで労働者性の判断基準を区別すべきとの控訴人らの主張は採用し難い。
6
一人親方及び個人事業主について改正労災保険法34条に基づく規制権限不行使の違法性について
控訴人らは,被控訴人国が労災保険法に基づく規制権限を行使して,一人親方等に対する防じんマスクの着用の義務付けその他の石綿粉じん曝露を予防するための措置を執るべきであったと主張する。
しかしながら,
労災保険法は,
業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病等に対する保険給付とこれに付帯する事業を行うことを目的とする法律であって,控訴人らが主張するような規制権限を付与することは基本的に想定されていないといわざるを得ない。控訴人らは,労災保険法1条が「労働者災害補償保険は,…必要な保険給付を行い,あわせて,…労働者の安全及び衛生の確保等を図り,もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。」と定めていることを指摘するが,「労働者の安全及び衛生の確保」と定められたのは平成19年法律第30号による改正後であり,それ以前は「適正な労働条件の確保」とされていたにとどまるから,控訴人らの主張は前提を欠く。この点を措くとしても,労災保険法における労働者の安全及び衛生の確保と関係する規定は,社会復帰促進等事業(上記改正前は労働福祉事業)として行うことのできる事業の一つとして「業務災害の防止に関する活動に対する援助,健康診断に関する施設の設置及び運営,その他労働者の安全及び衛生の確保…を図るために必要な事業」を掲げた29条1項にとどまり,控訴人らが主張するような規制権限を付与する趣旨の規定はない。
また,控訴人らが指摘する昭和40年法律第130号による改正後の労災保険法34条の14は,特別加入制度を定めた第4章の4に置かれており,同条により労働省令で定めることとされた「業務災害に関し必要な事項」も特別加入制度との関係で必要な事項をいうものと解され,同条によって控訴人らの主張する規制権限が付与されたものとはいえない。
したがって,控訴人らの主張は理由がない。
第3節
第1

被控訴人国の建築基準法令に基づく行為の違法性の有無
被控訴人国の建築基準法令に基づく指定・認定行為の違法性の有無(争点3)

について
1
昭和25年に制定された建築基準法は,都市建築物の不燃化を促進することにより,火災を防止し,国民の生命財産の保全を図る観点から,個々の建築物の構造基準を定めた単体規定として,耐火構造等の防火及び防災に関する規定を整備するとともに,都市計画に対応して建築物の配置,配列を規制する集団規定と併せて制定されたものである(乙アB78,86,87)。具体的には,第1章総則では,1条で,建築基準法が,建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とすることを明らかにし,2条の定義規定では,建築物(1号)その他の用語を定義し,5条以下では,建築物の設計及び工事監理,建築物の建築等に関する申請及び確認,建築物に関する検査及び使用承認,違反建築物に対する措置など,建築物の法令適合性を確保するための手続等を定めた上,第2章「建築物の敷地,構造及び建築設備」で具体的な単体規定を,第3章以下で集団規定を,それぞれ置いている。
上記の建築基準法の目的,規定の仕方に鑑みると,建築基準法は,具体的な建築物に着目して,その敷地,構造,設備等について,国民の生命,健康及び財産の保護という目的に照らして最低限必要な基準を定めたものと解される。したがって,建築基準法令に基づく石綿含有建材の指定,認定についても,建築基準法の趣旨,目的に照らして,石綿含有建材を使用した建築物が上記の基準を満たすことになるか否かという点から検討すべきである。
石綿が,燃えずに高温に耐えること(不燃性・耐熱性),熱や音を遮断すること(断熱性・防音性),他の物質との密着性に優れること(親和性)といった特質を有しており,建築基準法2条9号で不燃材料の一つに石綿板(昭和45年の改正後は石綿スレート)が定められていたことからすると,防火,防災上の観点からは,建築基準法2条7号から9号までに基づく石綿含有建材の指定・認定行為は,合理的なものであったと考えられる。もとより,石綿粉じんには発がん性があるものの,控訴人らが違法と主張する昭和47年以降の建築基準法2条7号から9号までに基づく石綿含有建材の指定・認定行為の対象である建材は,吹付け石綿以外の石綿含有成形板など石綿粉じんの飛散性が限定的なものであって,一般的にみて,完成後の建築物からの石綿粉じんの飛散が居住者や近隣住民に石綿関連疾患を発症させるとは考え難く,新築,改築又は解体の際には,作業者に防じんマスクの着用を徹底させるなど,石綿粉じんを適切に管理することができないものであったとも考え難い。また,昭和50年の特化則改正後は石綿含有建材について非含有建材への代替化の努力義務が課せられたが,全面的な代替化をするためには価格面以外にも製造技術的,性能的な問題点があったことは既に検討したとおりである。したがって,建設大臣が昭和47年以降,石綿含有建材を指定,認定した行為が直ちに不合理なこととはいえない。
2
控訴人らは,建築基準法1条,2条7号から9号までの目的に建設作業従事者の生命,
健康の保護が含まれることを前提に,
建設大臣等が昭和47年以降,
耐火構造等を指定,認定するに当たり,建築作業従事者等の生命,健康に有害な影響を与えないか否かを,最新の医学的知見等に照らし判断する義務を負うにもかかわらず,これを怠り,厳格な管理使用のための実効性のある条件を付さなかった違法があると主張する。しかしながら,建築基準法1条,2条7号から9号までの趣旨,目的は,上記1のとおりであって,建設大臣等が耐火構造等を指定又は認定するに当たって,労働大臣等が安衛法上の規制権限を行使する場合と同様の職務上の法的義務を負うとは解されないから,控訴人らの主張は理由がない。
また,控訴人らは,被控訴人国が石綿含有建材の使用拡大に果たした役割が大きかったこと,建築基準法2条7号から9号までに基づく指定,認定行為が建設作業従事者に対し石綿含有建材の使用を事実上強制することになったことを主張する。しかしながら,石綿が建築材料に適した特質を有することは前記のとおりであるから,石綿含有建材を利用した耐火構造等の指定又は認定の数が多くなるのは自然なことである一方,被控訴人国が石綿を含有しない建材を用いた耐火構造等の指定又は認定を不当に拒絶したといった事情もうかがわれないから,控訴人らの上記主張も理由がないといわざるを得ない。
第2

被控訴人国の建築基準法令に基づく権限不行使の違法性の有無(争点4)について

1
建築基準法2条7号から9号までに基づく権限の不行使について
建設大臣等は,建築基準法2条7号から9号までに基づき耐火構造等の指定又は認定をする権限を有しており,同様にそれらを取り消す権限も有していると解される。しかしながら,吹付け石綿以外の石綿含有建材について,耐火構造等の指定又は認定をすることが必ずしも不合理とはいえないことは,前記第1で検討したとおりであり,同様に,それらの取消しをしなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くともいえないというべきである。また,石綿吹付けについてみるに,控訴人らは①昭和45年12月15日,②昭和48年3月,③昭和50年の各時点以降,吹付け石綿の耐火構造への指定を取り消すべきであったと主張する。しかしながら,昭和45年時点では石綿と肺がん及び中皮腫との間の因果関係に関する医学的知見は確立されておらず,ニューヨーク市で石綿吹付け禁止を含む条例案が議会に提出されたことが同年12月15日に開かれた参議院の地方行政委員会・交通安全対策特別委員会連合審査会で採り上げられたのも,自動車のブレーキライニングから発散される石綿粉じんに対する規制の必要性に対する質問の中で言及されたにすぎない(甲A86)。また,昭和47年頃にその医学的知見が確立した後も,建築物の居住者との関係では,平成17年8月に大阪府内の文具店の店主が中皮腫で死亡していたことが公表され,文具店2階に吹付け石綿が露出していたことが原因ではないかといわれるまで,建築物に使用されている吹付け石綿が原因で死亡した例は知られていなかった(乙アB81の2頁)。また,建築作業従事者との関係でも,吹付け工が呼吸用保護具を着用せずに吹付け作業に従事することが一般的であったとは考え難いこと,昭和50年の特化則改正により吹付け作業が原則的に禁止され,その結果,吹付け石綿は昭和51年以降使用されなくなり,石綿含有吹付けロックウールも,業界団体において昭和53年から石綿含有率5%未満のものに変更され,昭和55年以降は石綿を全く含有しないものに代替されて,吹付け材の使用が削減されたことなどからすると,昭和45年12月15日以降の各時点において,被控訴人国が吹付け石綿の耐火構造への指定を取り消さなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くということはできない。
2
建築基準法90条に基づく権限の不行使について
建築基準法の単体規定及び集団規定は,計画段階から完成後の段階にわたり建築物又はその敷地それ自体のあり方を規制するものであり,工事の施工法まで及ばないが,工事の施工に伴い現場周辺の通行人,隣接する敷地や建築物に損害を与える事態も生じ得ることから,建築基準法90条は,建築物の建築,修繕,模様替又は除却のための工事の施工者に対し,当該工事の施工に伴う地盤の崩落,建築物又は工事用の工作物の倒壊等による危害を防止するために必要な措置を講じなければならない旨を定めることで,当該工事現場周辺の通行人,隣接する敷地や建築物に損害を与える事態の発生を防止しようとしたものと解される(乙アB89,92,93参照)。
建築基準法90条の上記趣旨,目的に鑑みれば,同条1項にいう「危害」とは,当該工事の施工自体により,現場周辺の通行人,隣接する敷地や建築物などに生じるおそれのある危害をいうものと解される。これに対し,建築作業従事者の石綿関連疾患は,一般的には,一つの工事現場には数日,長くても数か月しか従事しない建築作業従事者が,複数の工事現場で相当期間にわたり石綿粉じんに繰り返し曝露することによって,発症するものであり,上記「危害」として通常は想定されていない種類のものといわざるを得ない。したがって,同条2項において,同条1項の措置の技術的基準は政令で定めるものとされている趣旨を考慮しても,内閣が同条2項に基づく政令により,控訴人らの主張する建築作業従事者に対する石綿粉じん曝露防止措置を義務付けなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くということはできない。
第4節

各控訴人の労働者性等

前記のとおり,被控訴人国の労働関係法令に基づく規制権限不行使等の違法性が認められるのは,昭和56年1月1日から平成7年3月31日までである。また,被控訴人国の労働関係法令に基づく規制権限不行使等は,労基法9条にいう「労働者」に該当する被災者(専ら屋外作業に従事していた者を除く)との関係で国賠法1条1項の適用上違法となるのであるから,被控訴人国は,専ら屋外作業に従事していた者を除く各被災者が,昭和56年1月1日から平成7年3月31日までの間に労基法9条にいう「労働者」として石綿粉じん曝露作業に従事した期間について,国賠法1条1項に基づく責任を負うこととなる。各控訴人が発症した疾患(石綿肺についてはじん肺管理区分及び合併症),主な職種,石綿粉じん曝露作業に従事した期間,そのうち控訴人が安衛法上の労働者であった期間及び被控訴人国が責任を負うべき期間(以下「被控訴人国の責任期間」という。)は別紙4(控訴人各論)の各該当欄記載のとおりである(争いのあるものについては認定理由欄でそれぞれ証拠等を掲げた。)。
第5節
第1
1
被控訴人企業らの共同不法行為の成否(争点5)
総論
被控訴人企業らの注意義務違反について
警告義務違反について

製品の安全性確保義務について
製品を製造・販売して,流通に置く者は,これによって他人の生命・身体・財産を不当に侵害することのないように,製品が通常備えるべき安全性を確保する義務を負っているものと解される。本件で問題となる石綿含有建材は,建材として,完成建物の一部として使用されている限りにおいては,石綿粉じんが飛散する恐れはほとんどなく,石綿が有する不燃性,耐熱性,断熱性,防音性,絶縁性などの数々の特性を備え,建築物の安全性及び居住性等を高める有用性が認められる一方,切断等の加工,破砕時等に石綿粉じんを飛散させ,人体に有害な影響を及ぼしうることから,石綿含有建材を製造・販売する者は,
製品の安全性確保義務の一態様として,
製品に内在する危険の内容及び回避手段について,利用者に警告する義務があると解される。


警告義務の発生時期及び範囲
吹付け材を除く石綿含有建材
a
警告義務が発生するためには,製品が有する危険性について予見可能であることが前提となるが,自ら製品を製造・販売し,流通に置く者は,製品の安全性を確保するために,最新の科学的・技術的情報を入手し,製品の危険性を幅広く予見する義務があり,特に生命・身体に関わる重大なリスクについては高度の予見義務を負っているものと解される。本件においては,建築作業において石綿含有建材を加工等することにより,建築作業従事者に生じる石綿粉じん曝露による石綿関連疾患の発症リスクが問題となるところ,上記のような観点から,警告義務の発生時期について検討する。

b
前記第1節及び第2節で認定判断したとおり,昭和47年頃には,石綿粉じんの曝露と肺がん及び中皮腫の発症との因果関係について医学的知見が確立し,昭和49年には日本産業衛生学会から石綿粉じんの気中許容濃度をクロシドライト以外の石綿は時間荷重平均として2繊維/㎤,
クロシドライトはこれをはるかに下回る必要がある旨の
勧告がされたことが認められるところ,これらはいずれも公開情報であり,石綿含有建材を製造・販売する者として,当然に入手すべき情報である。さらに,既に認定判断したとおり,石綿含有建材は,吹付け材,保温材など性質上発じん性の高い製品はもとより,成形板など発じん性の低いものであっても,個別性の高い建築物の材料となる製品の性質上,現場の状況等に応じて切断等の加工等がされることにより発じんし,特に電動工具で加工されることにより多量の粉じんを発散すること,個々の発じん作業は比較的短時間で間けつ的であるとしても,作業工程の進捗により現場の閉鎖性が高まり,また,多数の者が同時並行的に作業を行うことから,粉じんが作業現場内に滞留し,建設作業従事者は,自ら取り扱う石綿含有建材からの粉じんのみならず,周囲の作業員が取り扱う建材からの粉じんにも長時間曝露することにより,許容濃度を超える石綿粉じんに曝露する可能性があること,石綿粉じん曝露による肺がん・中皮腫に罹患する危険は,新しい知見でもあり,建築作業従事者の間では必ずしも知られておらず,建築作業従事者は石綿含有建材の加工等を行う際に必ずしも防じんマスクを着用していなかったことなどの石綿含有建材の建築作業における使用状況については,石綿含有建材を製造・販売する者として当然把握しておくべき事情であったというべきである。さらに,昭和50年の安衛令等の改正により石綿等が安衛法57条に基づく警告表示義務の対象となるなど,石綿の発がん性に着目した規制がなされ,関係する安衛令及び安衛則の規定は同年4月1日に施行されたことに鑑みると,石綿含有建材を製造・販売する者は,同日以降,製品に内在する危険を予見し,その安全性を確保するために必要な警告を行うことが可能であったというべきである。なお,この警告義務は,製品を製造・販売する者が製品の安全性を確保するために負担する私法上の義務であり,刑事罰をもって履行が強制される安衛法57条に基づく表示義務とは異なるものであって,石綿含有率が重量の5%以下の建材であっても,その使用者が建築屋内で加工等することにより石綿粉じんに曝露して石綿関連疾患に罹患する危険性のあることが否定されない以上,これに対しても警告義務が及ぶというべきである。c
もっとも,成形板など発じん性の低い製品のうち,その性質上屋外で使用されることが予定されているもの(住宅屋根用化粧スレート,ルーフイング,サイディング(窯業系,複合金属系),スレート波板(各種)。甲C29,甲D17)については,粉じんの測定結果等からみて許容濃度を超えることが少なく,作業中に粉じんが滞留することはなく,外気によって希釈されると考えられることから,建築作業従事者が石綿粉じんに曝露し,更に石綿関連疾患を発症することまでの予見可能性があったとは認め難く,これらの建材については,警告義務は認められない。
さらに,建材への石綿含有の有無について,厚生労働省は,平成16年7月2日,専門家による検討会を設けて検討を行った結果,当時石綿含有の有無の判定に最も広く使われていたX線回析分析法ではクリソタイルの含有が判定されない場合もあり得るとの報告を受けたことを報道発表しており(乙ニ2),それ以前にX線回析分析法の上記問題点が知られていたとは認め難いから,同年以前に第三者機関によるX線回析分析法で石綿非含有が確認された原材料を使用していた被控訴人太平洋セメントの混和材「ニューコテエース」
(乙ニ1,
14),被控訴人日本化成の混和材「NSハイパウダーⅡ」(乙ヤ2,5)については,予見可能性が認められないから,警告義務は生じない。
d
以上によれば,上記の各製品を除く石綿含有建材を製造・販売する石綿建材企業は,昭和50年4月1日以降,使用者が石綿含有建材を適切に使用してその危険を回避することができるよう,製品に必要かつ適切な警告を行う注意義務を負っていたというべきである。

e
控訴人らは,警告義務の発生の時期について,石綿の発がん性の医学的知見が確立した昭和40年以降であると主張するが,既に認定判断したとおり,石綿の発がん性の医学的知見が確立したのは,昭和47年頃と認められるから,控訴人らの主張は前提を欠く。
さらに,控訴人らは,遅くとも昭和46年には警告義務が生じると主張する。石綿の発がん性についての医学的知見が確立したのは,上記のとおり昭和47年頃であるが,日本産業衛生学会から当時の国際的水準を踏まえて石綿粉じんの許容濃度を厳格化する勧告がなされたのが昭和49年であること,石綿含有建材は建築基準法において耐火構造等の指定等を受け,有用な製品として広く使用されていたこと,今日とは異なる企業活動についての当時の時代思潮などに鑑みると,安衛令の改正を待たずに,各企業において石綿の危険性等について警告を行うべきことを期待することは困難であったというべきであり,控訴人らの主張は採用できない。
吹付け材
吹付け作業が高濃度の石綿粉じんを発散させることは明らかであり,昭和46年から昭和47年にかけて,米国全州においてこれを禁止する動きが生じていたこと,昭和47年頃に石綿の発がん性に関する医学的知見が確立したことを勘案すると,吹付け材が建築基準法上の耐火構造等に指定等されていたとしても,
吹付け材を製造・販売する者において,
昭和48年以降,吹付け作業が作業従事者及び周囲の者等に石綿関連疾患を発症させる危険性が高いことを予見し,その安全性を確保するために必要な警告を行う義務が生じたというべきである。

警告の具体的内容
石綿含有建材の使用過程において生じることが予見される危険に対応して,その内容及び回避手段に関する情報が提供されるべきである。このような観点から,吹付け材を除く石綿含有建材については,①当該建材が石綿を含有していること,②当該建材を取り扱う(切断,研磨など)際に発生する粉じんに曝露すると,肺がん,中皮腫など重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること,③そのような危険を回避するためには,当該建材の取扱い作業中は常時適切な防じんマスクを確実に着用する必要があること,④上記②の作業を行う周辺で作業を行う者がいる場合にはその者にも同様に防じんマスクを着用させる必要があることを,明確に情報提供する必要がある。
また,吹付け材については,①石綿を含有しており,作業に伴い,高濃度の石綿粉じんを発散すること,
②石綿粉じんに曝露すると,
肺がん,
中皮腫など重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること,③吹付けに用いる石綿等を容器に入れ,容器から取り出し,又は混合する作業は,隔離された屋内の作業場所で行うこと,④吹付け作業を行う際には送気マスク又は空気呼吸器及び保護衣を使用すること,⑤吹付け作業中は他の者の立入を禁止すること,⑥吹付け作業終了後に吹付け場所で作業を行う者も防じんマスクを着用する必要があることを,明確に情報提供するべきである。
次に,警告義務の履行方法としては,石綿含有建材の直接取扱者との関係では,これを直接認識することができるよう,建築作業現場への通常の搬入方法に応じ,容器に入れられ又は包装された状態で搬入される製品については,個々の容器又は包装の上に,容器に入れられたり包装されたりすることなく搬入される製品については,個々の建材の上に,それぞれ表示される必要がある。他方で,周辺作業者(吹付け材の施工後の後続作業者を含む。)との関係においては,製品の性質上,かかる表示によって伝達された情報を契機に,事業者による安全配慮義務の履行によって危険を回避することが事実上期待されるのであって,周辺作業者との関係において表示の視認性が維持されなければならないというものではない。
控訴人らは,警告表示の内容について,上記①~③以外に,中皮腫は少量の曝露でも発症する危険性があること,肺がん・中皮腫は潜伏期間の長い遅発性の疾患であること,肺がん・中皮腫は重度の健康障害であり発見されたときは手遅れのことが多く死に至る可能性があること,石綿含有建材の切断等に当たっては集じん機付き電動工具を使用する必要があることなども記載すべきであるとするが,情報過多による警告の効果が減殺されるのを避け,必要不可欠な情報を分かりやすく伝達する観点からは,既に述べた範囲で足りるというべきである。
また,控訴人らは,石綿含有建材の新規使用から廃棄までのプロセス全般にわたって実効性のある警告表示をするべく,新規使用を想定した警告表示のほかに,補修・解体工事における撤去・廃棄作業に従事する職種に対する表示をすべきであると主張する。しかしながら,新規使用時に建材が加工され他の建材と一体となって建築物の構成部分となることや,石綿含有建材の出荷から補修・解体による撤去・廃棄まで長期間が経過することなどからすると,石綿建材企業が出荷時に行う警告表示によって,これらの作業者に実効性のある警告をするのは困難である。むしろ,完成後の建築物における石綿含有建材の使用状況は個々の建築物により異なり,複数種の石綿含有建材が出荷時と異なる形態で使用されていることも一般的であると考えられることからすると,通達(昭和61年基安発第34号,昭和63年基発第200号)や平成7年改正後の安衛則,特化則にあるように,補修・解体工事を行う事業者において石綿含有建材の使用状況を調査した上で必要な対策を採るのが実際的であって,石綿建材企業が出荷時に行う警告表示として控訴人らの主張する方法で表示をする義務があるとはいえない。この点,控訴人らは,補修・解体工事に従事する者に対して警告表示を行うことが困難であるならば,当該建材は通常有すべき安全性を欠く欠陥製品であるから,これを製造・販売すること自体が違法であるとも主張する。しかしながら,補修・解体時における安全性の確保は,上記のとおり,個々の企業による出荷時の警告表示ではなく,別途の方法により対応することが効率的であり,補修・解体工事に対する警告表示の実効性がないことをもって,直ちに製造・販売が許されないものとはいえない。
さらに,控訴人らは,成形板の取り付け後に作業する職種に対しても警告表示を行う必要があると主張するが,これは新規出荷時の警告表示によって伝達された情報を契機としつつも,事業者による安全配慮義務の履行によって確保されるべきものであることは既に論じたとおりである。このほか,控訴人らは,吹付け施工後に曝露する可能性のある電工等への警告として,施工箇所に石綿含有吹付け材が使用されたことを明示する板状のラベルを表示することや,梱包袋などに元請事業者に対して「吹付け施工後に作業をする者に対しても警告内容を伝える必要がある」旨を表示する必要があると主張するが,これについても,吹付け材について既に述べた警告義務に基づく情報伝達を契機として,事業者による安全配慮義務の履行によって,周辺作業者の損害回避が図られるべきものであり,その対応も吹付け施工後に電工等が大量に掻き落とす必要のないよう,予め仮ボルトを打つなど,現場の作業に応じて種々あり得るところであり,控訴人らの主張する方法によらなければならないというわけではない。

被控訴人企業らの中には,昭和50年3月27日基発第170号「労働安全衛生法第57条に基づく表示の具体的記載方法について」で定められていた方法での表示を行っていたことを主張する者もいるが,この記載方法が不十分のみならず不合理であることは前記のとおりである。また,「a」マーク制度による表示についても,そもそも石綿含有の事実のみでは石綿含有建材の危険性の表示として不十分である。したがって,これらの表示を行っていたとしても,警告義務を履行したとはいえない。石綿不使用義務違反について
控訴人らは,昭和40年に石綿の発がん性に関する知見が確立したことを
前提に,吹付け材については昭和47年以降,昭和50年以降,それ以外の石綿含有建材については,昭和54年,遅くとも昭和62年以降,どんなに遅くとも平成7年以降,石綿不使用義務を負っていたと主張する。しかし,既に認定判断したとおり,昭和47年頃に石綿に石綿粉じんの曝露と肺がん,中皮腫との因果関係に関する知見が確立した後も,石綿の管理使用は国際的にも容認されており,発じん性の特に高い吹付け材では,吹付け石綿が昭和51年以降施工されず,吹付けロックウールも昭和53年以降は石綿含有率5%未満に,昭和55年以降は石綿を含有しないものとなるなど代替化が進み,クロシドライトの使用禁止を定めたILO石綿条約が締結された翌年の昭和62年には,各企業が自主的にクロシドライトの使用を中止し,アモサイトについても平成5年に使用が中止されるなどしており,代替品の安全性や製造技術上の課題も残存するなか,平成7年時点となってもクリソタイルを含有する建材についても製造等が禁止されるべきであったとは認められない。
したがって,控訴人らの主張する石綿不使用義務違反は理由がない。2
共同不法行為に関する控訴人らの主張について
本件事案の特質及び訴訟の経緯について

本件事案の特質
本件は,長期間にわたり建築作業に従事して石綿関連疾患を発症した点において共通するものの,具体的な就労期間,作業場所や作業内容等が様々に異なる被災者75名
(既に死亡した被災者にあってはその相続人)
が,
過去に石綿含有建材を製造・販売したとして国交省データベースに登録されているものの,製造・販売に係る製品の種類,内容,製造・販売の時期等を異にする企業44社を被告として,不法行為に基づく損害賠償を求めるものである。
すなわち,被告とされた企業が製造・販売した建材には,用途,加工方法,石綿含有量,石綿の飛散性,製造・販売の時期及び期間,出荷量,販売経路及び地域などの点で異なる多種多様の建材が含まれている。既に述べたとおり,我が国で使用された石綿の約7割は建材として使用され,被告とされた企業44社は,総体としてみると,この大部分の製造・販売に関わったといえるが,各社の製造・販売の規模は大小様々である。一方,被災者らは,作業内容を異にする多種多様な職種(控訴人らの分類でも12職種)で構成されており,職種ごとに,作業内容,取り扱う建材の種類,使用方法,作業環境(屋内作業か閉鎖空間での作業かなど)が大まかに類型化されているとはいえ,被災者ごとに,作業に従事した時期及び期間,従事した建築現場の数及び立地状況,対象建築物の種類などが異なる。そして,建築作業現場においては複数の石綿含有建材が使用されることは稀ではなかったことから,石綿粉じん曝露の原因は,自ら取り扱った建材からの発じんによる直接曝露のほか,他の作業者が取り扱った石綿含有建材から発散した石綿粉じんによる間接曝露の可能性もあるところ,実際の石綿粉じん曝露の有無や量は,それぞれの石綿含有建材の石綿含有量,発じん性,取扱い方法に応じて相当異なり得る。さらに,一般的に,建築作業従事者は,建築作業現場を移動しながら作業に従事するところ,建築物の個別性,施主や元請の違いなどから,建築作業現場によって使用される石綿含有建材の種類及び製品やその組合せも当然異なることが想定される。他方で,石綿関連疾患である肺がん及び中皮腫は,いずれも石綿粉じん曝露から発症までに30年ないし40年程度の長期間を要することから,被災者らは,疾患の発症までに多数の建築作業現場において石綿粉じん曝露を受ける可能性がある。
以上のとおり,本件事案は,時間と場所を異にする建築現場において,毎回,組み合わせの異なり得る複数の石綿含有建材による石綿粉じんへの曝露が多数回,繰り返された可能性があることから,各被災者が,各建築作業現場で使用された石綿含有建材及びこれを製造・販売した企業(加害者)を特定し,当該石綿含有建材から発散した石綿粉じんにどの程度曝露したか,さらには,加害行為と疾患の発症との因果関係を立証することが著しく困難な点にこれまでに見られない特質を有するといえる。

本件訴訟の経緯について
控訴人らは,原審においては,被災者ごとに加害企業及びその製造・販売に係る石綿含有建材を特定し,当該建材の各作業現場への到達可能性を個別に論ずることなく,全ての被災者について,控訴取下前の相被控訴人日本ロックウール株式会社を含む被控訴人企業ら44社全てを共同行為者とし,各社がその製造・販売に係る石綿含有建材を流通に置いたことを加害行為と構成して,民法719条1項前段の適用あるいは同条後段の適用又はその類推適用を主張し,当事者間でこれを前提とした攻撃防御が行われた。控訴人らは,当審においては,原審での主張を主位的主張とした上で,新たに,予備的主張1として,被災者ごとに,直接取り扱い,石綿粉じんに曝露した可能性のある建材を直接取扱い建材として特定し,これを製造・販売した被控訴人企業を共同行為者として特定した上で,これらの企業に対して民法719条1項前段及び後段を適用すべきとの主張を追加し(直接取扱い建材に基づく主張),さらに,予備的主張2として,被災者ごとに,直接取扱い建材の中から,主要な曝露原因となった石綿含有建材を主要曝露建材として絞り込み,これを製造・販売した企業のうち市場占有率の高い被控訴人企業を特定した上で,その建材が被災者に到達した高度の蓋然性があるとして,これらの企業に対して,民法719条1項後段の適用又は類推適用をすべきとの主張(主要曝露建材に基づく主張)を追加して,主に予備的主張2に力点を置いた主張・立証活動を行った。
被控訴人企業らは,控訴人らにおいて,原審であえて加害企業を特定しない主張・立証活動を選択しながら,当審に至って,従来の方針を変え,予備的主張1及び2を提出するのは,いずれも時機に後れた攻撃方法であると主張して,それらの却下を求めている。
しかしながら,上述したとおり,本件はこれまでにない新規の争点を含み実体法の解釈自体に争いがある上に,事案が極めて複雑で審理を通じて事案解明が進む面があること,当審において,被控訴人企業からも予備的主張1及び2についての実質的な反論が行われ,人証申請の機会が与えられていることを勘案すると,控訴人らが当審で予備的主張1,2を提出したことについて,時機に後れたものとして,これを却下することは相当ではない。
そこで,控訴人らの各主張の当否について,以下に検討する。
主位的主張(民法719条1項前段の適用)について

控訴人らの主張
控訴人らは,被災者ごとに石綿粉じん曝露による法益侵害の原因となった石綿含有建材を製造・販売した被控訴人企業を特定することなく,控訴取下前被控訴人日本ロックウール株式会社を含む被控訴人企業ら44社に対して,各社がそれぞれ石綿含有建材を製造・販売して流通に置いたことを全被災者に対する加害行為ととらえて,民法719条1項前段の共同不法行為に該当すると主張している。


当裁判所の判断
民法719条1項前段は,数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う旨を定めているところ,これは,数人の共同行為との間に因果関係が認められる場合には,各人の行為との間の個別的因果関係を問わずに,各行為者に対し損害全体について連帯責任を負わせ,各人の個別行為を理由とする減免責の主張を許さない趣旨と解される(大審院大正2年4月26日判決・民録19輯281頁,最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号328頁参照)。このような制度趣旨に鑑みると,複数人の行為を共同行為と評価するためには,相互に損害惹起への意思的関与がある場合か,これを欠く場合にも,各人に個別的因果関係を超えて損害全部について連帯責任を負わせるにふさわしい程度に複数人の行為に一体性が認められることが必要であると解される。
しかるところ,上記44社の製造・販売した石綿含有建材の製造・販売時期,流通経路,出荷量,被災者らの作業内容,建材の飛散性,取扱い方法に鑑みると,被災者ごとに石綿粉じん曝露の原因となった建材及びこれを製造・販売した企業は異なり得るのであって,全ての被災者が一律に上記44社の製造・販売した建材による石綿粉じんに曝露したとは,およそ考え難い。それにも関わらず,全社一律に,全ての被災者との関係で共同不法行為者としての責任があるとすることは,問題とされる全期間を通じて,上記44社の間に,各社の製造・販売する石綿含有建材による石綿粉じん曝露によって石綿関連疾患の発症する危険を認識しながら,あえて警告表示を行うことなく製造・販売行為を継続することに相互拘束力のある合意が存在するか,人的・物的に経営の一体性が認められるような事情でもない限り困難というべきところ,本件全証拠によってもかかる事情を認めるに足りない。控訴人らは,被控訴人企業の石綿含有建材の製造・販売行為は,共同の加害行為として一体性があることの論拠として,①競合的危険状態の作出(使用状況・汚染源作出の一体性),②危険共同体としての一体性(共同の結果回避義務),③業界団体を通じての一体行動,④カルテルによる調整等を通じての製造・販売行為の一体性,⑤利益共同体としての一体性,⑥国による産業保護政策の一体性を挙げるが,いずれも控訴人らの主張を支えるものではないことは,原判決の「事実及び理由」第3章第4節第1の2(原判決273~276頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。以上によれば,控訴人らの主張は失当である。
主位的主張(民法719条1項後段の適用)について

控訴人らの主張
控訴人らは,被災者ごとに石綿粉じん曝露による法益侵害の原因となった石綿含有建材を製造・販売した被控訴人企業を特定することなく,控訴取下前被控訴人日本ロックウール株式会社を含む被控訴人企業ら44社に対して,各社が石綿含有建材を製造・販売して流通に置いたことを加害行為ととらえて,民法719条1項後段が適用されるべきであり,仮に各社の行為が単独で損害を発生させるに足りないものであるとしても,同項後段が類推適用されるべきであると主張する。


当裁判所の判断
民法719条1項後段は,因果関係以外の不法行為の要件を備えた複数の加害者が,いずれも,それのみで権利・法益侵害の結果を惹起しうる行為を行ったが,いずれの行為によって損害が発生したか不明である場合に,因果関係の立証責任を加害者側に転換して,各人が自らの行為と損害との間に因果関係が存在しないことを証明しない限り,加害者らに連帯して損害賠償責任を負わせる趣旨の規定であると解される。このように,民法719条1項後段が因果関係の立証責任を転換し,これを推定する規定を設けたのは,行為者が被害者に生じた権利・法益侵害を発生させる具体的な危険を惹起する行為をした場合,経験則上それだけで両者の因果関係を推定し得るにもかかわらず,たまたま他に同等の危険を生じさせる加害行為をした者がいる場合には,相互に因果関係の推定を妨げ合い,いずれについても被害者による因果関係の証明が不十分となり得る事態が生じることから,被害者を救済する必要があるとともに,加害者側にも権利・法益侵害の具体的危険を惹起させたという事情が備わるため,推定を認めても必ずしも責任主義に反することとならないからであると解される。
そうすると,民法719条1項後段が適用されるためには,各人の行為が,経験則上,それのみで生じた損害との間の因果関係を推定し得る程度に具体的な危険を惹起させる行為であることを主張・立証する必要があると解される。
しかるところ,被控訴人企業の製造・販売した建材が出荷されても,被災者が作業した建築作業現場に到達しなければ,当該被災者との関係で被控訴人企業の行為が具体的な損害発生の危険性を惹起したとはいえず,既に述べたとおり,上記44社の全てが,自ら製造・販売した石綿含有建材を,全ての被災者との関係で,同人らが作業をした建築作業現場に到達させたことを認めるに足りる証拠は全くないから,民法719条1項後段を適用することはできず,同様の理由から同項後段を類推する基礎にも欠けるというべきである。
よって,控訴人らの主張は採用できない。
予備的主張1(直接取扱い建材に基づく主張)について

控訴人らの主張
控訴人らは,国交省データベースに記載されている建材の中から,製造期間が3年経過しないもの,販売地域,使用目的,特定の施工代理店等による使用などの事情から被災者らの取り扱った可能性の低い製品を除外した上で,職種ごとに取り扱う可能性のある建材を選別し,さらに被災者ごとに,就労期間と製造期間の関係,被災者が作業した建築物の種類を考慮して,直接取扱い建材を特定し,各被災者との間で特定された直接取扱い建材を製造・販売した被控訴人企業は,その加害行為が各被災者に到達した相当程度の可能性が認められ,かつ,関連共同性も認められることから,民法719条1項前段又は同項後段によって,因果関係が擬制又は推定されるべきであると主張する。そして,控訴人らは,これらの被控訴人企業による直接取扱い建材の製造・販売行為に関連共同性が認められる論拠として,これらの企業は控訴人が石綿関連疾患に罹患した主要な原因となった危険状態を共同で作出したこと,特に昭和50年以降は,特化則による石綿の代替化努力義務及び安衛法57条による警告表示義務を共同して負ったにもかかわらず,各社の石綿含有建材の製造・販売行為を互いに認識しながら,義務違反行為を同時並行的に行ったことを挙げる。イ
当裁判所の判断
しかしながら,直接取扱い建材は各被災者が取り扱う可能性のあった建材を列挙するものに過ぎず,同種建材の中で石綿を含有しない代替建材も含めた各企業の市場占有率や被災者の就労した現場数も考慮されておらず,これをもって,各建材が各被災者の建築作業現場に現実に到達したことを推認することはできない。このように,直接取扱い建材が各被災者の作業現場に到達したことの主張・立証がない以上,これらの建材を製造・販売した被控訴人企業が製造・販売行為を通じて各被災者に対する損害発生の危険を伴う状態を共同して作出したとはいえず,安衛法や特化則に基づく義務も各企業が個別に負担するものであり,各社の判断を超えて直接取扱い建材の製造・販売企業間で共同履行が要請されるような格別の状況があったとも認め難く,民法719条1項前段の適用要件たる各行為者の法益侵害行為の一体性を認めることはできない。さらに,建材の建築作業現場への到達を前提とする民法719条1項後段も適用することはできないというべきである。
したがって,控訴人らの予備的主張1は,採用することはできない。予備的主張2(主要曝露建材に基づく主張)について


控訴人らの主張
控訴人らは,被災者ごとに,直接取り扱い建材の中から,日常的に取り扱う石綿粉じん曝露の主要な原因となった建材の種類を主要曝露建材として絞り込み,主要曝露建材に当たる製品を製造・販売した企業のうち市場占有率(マーケットシェア)が概ね10%以上の企業を共同行為者として特定した上で,製品販売期間と就労期間の重複及び各控訴人の現場数から,これらの企業が製造・販売した主要曝露建材に当たる製品は,いずれも相当回数,各控訴人に到達した高度の蓋然性があると主張し,これらの企業に対して,到達した建材による石綿粉じん曝露が石綿関連疾患の単独発症力を有する程度に至っている場合には,民法719条1項後段の適用を,一部発症力にとどまる場合には,同項後段の類推適用を,それぞれ求めるものである。

当裁判所の基本的な考え方
建材の到達の立証方法について
a
事案の特質と立証方法
既に述べたとおり,本件事案において,民法719条1項後段を適用,あるいは類推適用するには,いずれも,特定された被控訴人企業の製造・販売した石綿含有建材が特定の被災者に対して到達したことが立証されることが前提となる。
しかるところ,
本件事案の特質において述べたとおり,
被災者らは,
いずれも長期間にわたって多数の現場において建築作業に従事していること,建材には石綿含有の有無を問わず多数の種類の多様な製品があること,使用される建材の種類・製品及び組み合わせも現場ごとに異なること,控訴人らの石綿粉じん曝露の原因には直接曝露のみならず間接曝露の可能性もあること,石綿粉じん曝露から石綿関連疾患の発症までに長期間を要すること,被災者のうち多数の者が既に死亡していることなどから,特定の建材が特定の被災者に到達したこと及びその頻度を直接証明する的確な証拠に乏しい状況にある。
このような事案の特質に鑑みると,他の的確な証拠によることができない場合に,控訴人らが主要曝露建材として特定した建材が,各被災者の職種,作業内容,作業歴,建材の製造期間などからみて,現場において通常使用する建材であることの裏付けがあり,主要曝露建材を製造・販売した企業のマーケットシェアに一応の根拠が認められ,被災者が作業をした現場数が多数である場合には,これらに基づく確率計算に依拠して,建材の到達とその頻度を推定することも,流通経路の偏り等によって,現実の到達と確率計算に乖離を生じさせる具体的事情がない限り,合理性があるというべきである。そこで,以下に基本的な手法について検討する。
b
マーケットシェアに基づく到達確率
主要曝露建材が建築作業において通常使用される種類の建材で
あり,非石綿の代替製品がない場合を前提とすると,これに該当する特定の企業の製造・販売する製品のマーケットシェアをs,特定の被災者が就労した現場数をnとすると,当該企業の製品が特定の被災者が就労した現場に少なくともk+1回到達した確率は,次の式(以下「P式」という。)で求めることができ,特定企業のマーケットシェアが大きくなるほど,また,現場数が多くなるほど,当該製品が被災者の現場に到達する頻度及びその蓋然性は高くなる。𝑘
P=1-∑𝑟=0

𝑛𝐶𝑟
𝑠𝑟(1-𝑠)𝑛-𝑟

控訴人らの主張するとおり,特定企業の製品のマーケットシェア
が10%,20%,30%の場合には,それぞれ20回(1-(1-0.1)20=0.87842),10回(1-(1-0.2)10=0.89263),6回(1-(1-0.3)6=0.88235)の現場数で少なくとも1回は,当該製品が現場に到達する高度の蓋然性があり,上記のP式によるよりも控え目な回数となり得るものの,この割合でみても,現場数が大きくなれば,到達頻度も相当回数に及ぶことが推測される。
なお,マーケットシェアを検討するに当たっては,主要曝露建材
に非石綿も含め代替製品が存在する場合には,以下のとおり,これも考慮に入れて,マーケットシェアを算定する必要がある。
特定企業の主要曝露建材に該当する製品の出荷量
主要曝露建材の総出荷量+非石綿も含めた代替建材の総出荷量

この点,控訴人らは,主要曝露建材に該当する製品の中での各社
のマーケットシェアによるべきであるとするが,これは,各製品の到達を前提とした各社の損害発生に対する寄与度の算定の基礎と
はなり得るが,到達及びその頻度の確率の算定の基礎となるものではない。


被控訴人企業らは,建材が製造工場から出荷され建築作業現場に
到達するまでの間に多数の主体が介在する上に,建築物によって仕様,所在及び予算などが異なることから,製品のマーケットシェアが到達の蓋然性や頻度にそのまま反映されるものではないと主張
するが,一般論としての主張にとどまる限り,現場数が多数である場合には平準化されることとなるから,確率に基づく推定を覆すものではなく,被控訴人企業が販売先や販売地域を限定していたこ
と,被災者が作業をした現場で特定のメーカーの建材が優先的に使用されていたことなど,現実の到達と確率計算に乖離を生じさせる個別事情を具体的に反証する必要があるというべきである。

c
マーケットシェアの認定資料等
控訴人らは建材のマーケットシェアに関する資料(甲C50,5
1,56,61,62,67,69,76,77,80)を提出するところ,被控訴人企業らは,これらの資料について,根拠の不明な推計値であり信用性に乏しいこと,昭和50年代前半以前のものが中心であり長期にわたるシェアを認定することはできないこと
などを主張する。
しかしながら,これらの資料はいずれも統計対象年次に近い時期
に作成されており,当時の公表資料,報道や各社の発表などから,一定の根拠に基づき推計することは可能であったと考えられる。また,マーケットシェアは,時期によって変動する可能性があるが,少なくとも昭和50年代以降は安定成長期にあり短期間でマーケ
ットシェアが激変する事態が一般的であったとは考え難い。そもそも,被控訴人企業らにおいては,控訴人らから提出された資料で推計されている自社のマーケットシェアが過大であれば,公刊されている統計資料と社内資料などに基づいて具体的に反証することは
可能であり,現にそのような立証活動を行った被控訴人企業もあるのであるから,具体的な反証のない場合には,控訴人らから提出された資料に基づいて各社のマーケットシェアを一応推認すること
は可能であるというべきである。


石綿含有建材の種類・製品及び製造・販売企業については,以下
に述べるとおり,具体的な反証のない限り,国交省データベースに依拠することができるというべきである。
すなわち,
国交省データベースは,
国土交通省及び経済産業省が,
建設事業者,解体事業者,住宅・建築物所有者等において,解体工事等に際し,使用されている建材の石綿含有状況に関する情報を簡便に把握できるようにすることを目的として,建材メーカーが過去に製造した石綿含有建材の種類,名称,製造時期,石綿の種類・含有率等の情報の検索システムとして構築し,平成18年12月に公表したものである。登録されている建材情報は,別紙5【別紙1】記載の混和材を除く42種類の石綿含有建材に該当する建材につ
いて,官公庁,関係業界団体,建材メーカー等の公表データや協力が得られた関係業界団体及び建材メーカーが所有するデータ等を
対象として,収集・整理を行い,これを当該建材メーカー等に再度確認を求め,整備したものである。国交省データベースは,データベースの構築に当たっては可能な限り多くのデータの収集に努め
たが,既に廃業している建材メーカーの製品等については,完全な情報整備には至っておらず,実際に存在する石綿含有建材を検索できない場合がある旨注記している。国交省データベースに登録されている建材情報は随時更新されていて,最近のものとしては平成25年2月版,平成26年2月版,平成27年2月版があり,メーカー等からの申告等に基づき登録内容を変更する場合もある。(乙ニ43~45,乙マ1001,弁論の全趣旨)
以上のとおり,国交省データベースは,上記42種類の石綿含有
建材を対象とするものであり,平成18年時点で廃業していた建材メーカーの製品等の情報が含まれないという限界はあるものの,被控訴人国が可能な限りデータの収集に努めたものであり,その後の更新もされていることからすると,上記42種類の建材について
は,具体的な反証がない限り,主要な製品及びそのメーカーをカバーしているものと一応推認することができる。
民法719条1項後段の適用について
次に,上記の手順によって,特定の企業の製造・販売した主要曝露建材が特定の被災者に到達したことが立証された前提で,控訴人らの主張する民法719条1項後段の適用について,検討する。
a
他に加害者となり得る者がいないことの立証の要否について
被控訴人企業の主張
各被災者は,
加害者として特定された企業が製造・販売した主要
曝露建材からの直接曝露以外に,他の企業が製造・販売した石綿含有建材からの直接曝露及び間接曝露を受けているところ,民法719条1項後段を適用するための要件として,被控訴人企業らは,加害者として特定された複数の行為者以外に加害者となり得る者が
いないことも立証する必要があると主張する。


当裁判所の判断

民法719条1項後段の趣旨は,既に述べたとおりであり,他
に加害者となり得る者の存否は,加害者として特定された者の行
為が被害者に生じた損害を発生させる具体的な危険を惹起する
行為であることの評価に関わる事情とはなるが,単に同等の危険
性を有する行為をした第三者が存在することが明らかとなって
も,これにより直ちに因果関係の推定の基礎が崩れるとはいえ
ず,他に加害者となり得る者が存在しないことを同項後段の適用
要件と解することは相当ではない。訴訟における攻撃防御方法と
しての同項後段の機能を考えても,被害者は自らが被った損害を
惹起し得る具体的な危険を生じさせた者に対して,経験則により
因果関係が推認されることを期待して,
不法行為
(民法709条)
に基づく損害賠償請求訴訟を提起することができ,被告におい
て,自己と同程度に危険な行為をした者が他にも存在することを
主張・立証しても,民法719条1項後段の適用によって自らの
行為と結果との間の因果関係が推定されるにとどまり,被告とし
ては自己を上回る危険な行為を行った第三者の存在を主張・立証
して,はじめて免責を受けることできるものと解するのが相当で
ある。


もっとも,中皮腫については,石綿粉じん曝露との間に量・反
応関係の存在を否定できないものの,少量曝露によっても発症し
得るとされていることから,本件のように石綿粉じん曝露に関わ
った加害者が多数存在し得る状況において,加害者として特定さ
れた者が,他に加害行為を行った者が多数存在し,これらの者に
よる石綿粉じん曝露の方が自らの加害行為よりも曝露量が大き
いことを証明したとしても,民法719条1項後段の推定を覆せ
ないとすると,明らかに衡平を失する。その意味では,石綿粉じ
ん曝露による中皮腫については,加害行為が単独惹起力を備える
か否か必ずしも明らかでなく,加害行為の寄与度が不明の場合と
同様に扱うのが相当である。
すなわち,被害者において,加害者全員を特定して,他に加害
者となり得る者がいないことを主張・立証することによって,は
じめて損害全体についての因果関係の推定の基礎が備わり,民法
719条1項後段の類推適用が可能となるというべきである。
控訴人らの主要曝露建材に基づく主張は,中皮腫を発症させた
被災者との関係において,加害者の一部を特定するのみで,他に
加害者となり得る者が存在することが明らかな状況にあるから,
損害全体との関係で同項後段を類推適用して,主要曝露建材の製
造・販売元として特定された被控訴人企業らに,被災者の損害全
体について連帯責任を負わせることはできず,被災者の全体的な
曝露量との関係で,主要曝露建材を製造・販売した企業らの集団
的寄与度を定め,これに応じた割合的責任の範囲内で,民法71
9条1項後段を適用して,連帯責任を負担させるのが相当であ
る。
b
加害者の行為の場所的・時間的近接性の要否について
被控訴人企業らの主張
各被災者は,場所的にも時間的にも離れた各作業現場において主
要曝露建材からの石綿粉じん曝露を受けた可能性があるところ,被控訴人企業らは,民法719条1項後段を適用するためには,特定された行為者らの行為に場所的・時間的近接性が必要であるとも主張する。


当裁判所の判断
しかしながら,加害行為と近接して損害が生ずる通常の事案にお
いては,損害発生の具体的な危険性を惹起させる行為は,自ずと互いに場所的・時間的近接性を有することになるが,加害行為から損害の発生に至るまで長期間を要する事案においても,生じた損害との因果関係を推定しうる程度に具体的危険を惹起させる行為が複
数存在し,そのことによってお互いに推定を妨げ合う事態が想定され,かかる場合には各行為の間に時間的・場所的近接性を欠くといえども,なお同条後段が因果関係の推定を認めた趣旨が妥当するから,場所的・時間的近接性は同項後段の適用要件ではないと解すべきである。

c
加害行為の単独惹起力の有無について
民法719条1項後段が適用されるためには,特定された加害者の行為は,それのみで結果を発生させる危険性を有することが必要である。肺がんについては,疫学調査の結果から,石綿の累積曝露量と肺がんの発症リスクとの間に直線的な量・反応関係があるとされ,ヘルシンキ・クライテリアは,1年当たり1本/㎤の曝露により,肺がんの発症リスクが0.5%から4%増加するとのデータに基づき,25本/㎤×年の累積曝露量で肺がん発症の相対リスクが2倍になるとしており,我が国の労災認定においても,これに依拠した認定基準が用いられていることに鑑みると,加害行為が単独惹起力を有するか否かの判断もこれに基づき判断するのが相当である。また,ヘルシンキ・クライテリアは,石綿肺に臨床例が現れるのは,同等の累積曝露のときであるとしており,石綿肺についても,同様の基準により単独惹起力を判断することとする。他方で,中皮腫については,ヘルシンキ・クライテリアは,低度の石綿曝露の場合でも起こることがあるが,非常に低度のバックグラウンド環境曝露が有する危険性は極めて低いとするのみで,累積曝露量の基準を示しておらず,リスク判断が困難であることから,その扱いについては,上記a(b)ⅱに述べたとおり,到達した建材からの石綿粉じん曝露が単独惹起力を有するか不明であることを前提として,
製造・販売した企業の責任を論ずることとする。
民法719条1項後段の類推適用について
a
加害企業として特定された企業の製造・販売した主要曝露建材からの石綿粉じん曝露が,上記の単独惹起力を有しない場合には,各企業は,原則どおり,各社の損害発生に対する寄与度に応じた割合による分割責任を負うこととなる。

b
この点,控訴人らは,各企業の加害行為が相加的・重合的に競合していることから,民法719条1項後段が類推適用されるべきであると主張する。
しかしながら,既に述べたとおり,加害者として特定された者の行為に単独惹起力がない場合には,すべての加害者を特定して,他に加害者が存在しないことを立証しなければ,損害全体についての因果関係の推定の基礎が欠けるところ,控訴人らは,加害者の一部しか特定しておらず,本件においては他に加害者となり得る者が存在することが明らかであることから,同項後段の類推適用の前提を欠くものというべきである。

c
さらに,控訴人らは,複数の行為が相加的・重合的に累積して被害を発生させていること(客観的共同)及び各行為者が他者の同様の行為を認識しているか,少なくとも自己と同様の行為が累積することによって被害を生じさせる危険があることを認識していること(主観的要件)を要件に,民法719条1項後段を類推適用すべきであると主張するが,控訴人らが依拠する裁判例の事案は,被害者が加害者とされた複数の企業と順次,雇用契約を結んで炭鉱の粉じん作業に従事した事案であり,各企業において,被害者の粉じん作業歴を把握し,退職後の粉じん作業への従事を予測することができた事案であり,本件には妥当しない。
第2
1
左官を主たる業務とする控訴人4名について
主要曝露建材の到達について
被控訴人ノザワは,昭和31年から平成15年9月まで,長期にわたりモルタル混和材「テーリング」を製造・販売していた(甲C86)。モルタル混和材のシェアに関する文献はないものの,左官からは混和材の代名詞のように呼ばれていたこと(甲D28の1(5頁)),平成4年にモルタル混和材の販売を開始した被控訴人太平洋セメントの従業員によれば,参入当時に被控訴人ノザワが9割以上のシェアを有していたと認識され,その後被控訴人太平洋セメントは1%程度のシェアに低迷して平成12年5月に撤退したこと(乙ニ14),日本建築仕上材工業会の調査結果(乙ラ37)でも平成3年までは「モルタル混和材」に関する記載がなく,被控訴人ノザワ以外に有力メーカーが存在したことがうかがわれないことなどからすると,被控訴人ノザワのテーリングは極めて高いマーケットシェアを維持していたものと推認され,これを覆す証拠はない。
もっとも,証拠(乙ラ33の1~12)によれば,全京都建築労働組合に加入する組合員を対象に行った直接取扱建材に関するアンケート結果では,「混和材(テーリング)」の取扱いの有無・頻度に関する左官工12名の回答は,「いつも」1名,「しょっちゅう」2名,「時々」3名,「少ない」2名,「ない」1名,無回答2名であり,取扱いの頻度は個々の左官工により異なる。したがって,左官のうちモルタル混和材を日常的に使用していた者は,現場数にかかわりなく,被控訴人ノザワのテーリングを直接取り扱ったものと推認することができる。
2
被控訴人ノザワの行為の損害惹起力について
被控訴人ノザワのテーリングは,クリソタイル系石綿鉱石を処理精製して回収された短繊維の石綿を主体とする粉状の混和材である。被控訴人ノザワは,テーリングの成分をクリソタイル石綿100%と表示していたが,労働基準監督署の求めにより石綿含有率を測定したところ45%であったため,平成14年2月以降,石綿含有率の表示を45%に改訂した。(甲C86,88の1・2,89の1・2,90,乙ラ45)

株式会社ノザワ技術研究所は,平成元年8月28日,テーリングを使用した左官作業における石綿粉じん濃度に関し,気流の影響を除くため出入り口を封鎖した建物内において,配合及び混合法の異なる3通りの作業(①補修用配合(セメント40㎏,寒水粉30㎏,メトローズ210g,テーリング10㎏,水34ℓ)を,舟(混練作業用の容器のこと)に入れスコップで,空練り5分,水練り10分,混練する。②ノロ用配合(セメント40㎏,テーリング7.5㎏,水20ℓ)を,舟に入れスコップで,空練り3分,水練り5分,混練する。③ノロ用配合を,まず,舟に水11ℓ入れテーリング7.5㎏全量を投入して混合し,次に,セメント40㎏を投入して残りの水9ℓを入れ,既に練り合わせたテーリングと混合する。)を,それぞれ30分に1回の頻度で2回繰り返し,1時間測定したところ,作業環境における石綿粉じん濃度は最大でも0.
065f/cc,
個人曝露濃度の
最大値は0.035f/ccであった(乙ラ18)。
控訴人らは,上記測定結果(乙ラ18)について,前々年の昭和62年に
いわゆる学校パニックが起こり,石綿含有吹付け材による健康への影響が社会問題となった時期に,被控訴人ノザワとして製品の安全性を示す必要に迫られて測定を行ったものであって,虚偽や歪曲が含まれない保証はないとした上で,①モルタルは通常砂にセメントを混ぜて作られ,遅くとも1970年代以降は電動攪拌機を用いることが一般的であったにもかかわらず,砂を混ぜない配合で,舟とスコップを使用するという,あえて一般的でない方法を用いた点,②具体的な作業態様やテーリングの石綿含有率が明記されておらず,できる限りテーリングが飛散しないよう静かにかき回した可能性や,当時販売されていた製品より石綿含有率の低いテーリングを使用した可能性がある点,③石綿繊維の計数に当たり計測者個人の経験,能力に左右されるメンブランフィルター法ないし位相差顕微鏡法を用いている点で,全く信用できないと主張する。
しかしながら,乙ラ18は,作業環境測定法に基づき登録された作業環境測定機関であるノザワ技術研究所が,第1種作業環境測定士により測定を行ったものであり,労働省安全衛生部労働衛生課が編集するガイドブックなどに準ずる方法で実施した技術的事項に関する報告書であって,被控訴人ノザワの社内の研究機関が実施したものとはいえ,外形上,製品の安全性を示すためにことさら虚偽や歪曲をしたものであることをうかがわせるものはない。次に,控訴人らの上記①の指摘のうち,配合方法として砂を混ぜない方法を用いたことについては,そもそも砂を混ぜなければ粉じん濃度が低くなることを示す証拠はなく,そのことを予想して作為的に一般的でない方法を用いたとはうかがえず,また,電動攪拌機を用いなかったとの点も,控訴人番号1自身,昭和55年以前は電動攪拌機を使用していなかったのであり(甲E1の1の2(7頁),甲E1の3(5,6頁)),あえて一般的でない作業方法を用いたとはいい難く,むしろ3条件のうち2条件では水を加えない空練りの時間を設けている点で発じんが多い場合も想定したものとみることもできる。さらに,上記②は,単なる可能性をいうにすぎず,③も,当時一般的であった測定方法に内在する限界を指摘するものにすぎない。もとより,テーリングは粉状の製品であり,改訂後も石綿含有率が45%と相当に高いが,具体的な使用方法としては,控訴人番号1も他の左官職人(甲D28の1)も,袋から出した後に水又は泥状のモルタルに混ぜており,発じんするのは水やモルタルに馴染むまでの短時間に限られ,基本的に湿潤化された状態で用いられている。また,電動攪拌機を使用すれば,使用しない場合と比べ,発じんの程度は高いとしても,攪拌する時間は短くて済む(前記測定では空練り・水練り合わせて条件1では15分,条件2では8分であるのに対し,控訴人番号1本人(原審,調書11頁)によると,ハンドミキサー(手持ちの電動攪拌機のこと)を使用すれば約3,4分で済む。)。これらの点に鑑みると,前記測定結果がおよそ信用できないとする控訴人らの主張を採用することはできず,他にこれに代わる測定結果もない。そうすると,左官がテーリング材による石綿粉じんに曝露するのは,実際には上記のとおり混練作業のための短時間にとどまるが,仮に,警告義務の始期である昭和50年からテーリングの販売終了後の平成16年まで,29年間の就労時間の全てにおいて,防じんマスクを着用せずにテーリング材の混練作業による石綿粉じんに曝露していたとしても,前記測定結果(作業環境濃度の最大値0.065f/cc,個人曝露濃度の最大値0.035f/cc)を前提とすると,
累積曝露量は1.
89本×年/㎤ないし1.
01本×年/㎤となり,
いずれも25本×年/㎤の1割にも満たない。
以上によれば,控訴人番号1(石綿肺),同17(肺がん),同38(肺がん。甲F38によれば,中皮腫は疑いにとどまり,中皮腫であることを認めるに足りる証拠はない。),同46(肺がん)について,いずれも被控訴人ノザワのテーリングからの石綿粉じん曝露は単独で損害を惹起し得る程度には到底及ばないものであった。さらに,被控訴人ノザワのテーリングの損害に対する寄与度についてみるに,控訴人らは,左官の直接取扱い建材として吹付け材3種類を挙げているところ,吹付け石綿除去作業後の再飛散で数本/㎖~20本/
人平田岩男の原審での供述によれば,ほとんどの作業現場で,吹付け作業直後,床に落ちたまま掃き残された吹付け材から粉じんが舞い上がってよどんだ状態でサッシ埋め作業をしていたほか,耐火ボードを切断してやすり掛けをしていたというのであり(原審調書11,12,34,35頁),他の控訴人らの陳述書(甲E17の1,38の1,45の1)も同様に吹付け材に曝露したことが記載されていることも勘案すると,いずれの控訴人についても,被控訴人ノザワのテーリングが具体的寄与度を定め得る程度に損害の発生に寄与したと認めることは困難である。
第3
1
専ら保温材を主要曝露建材とする控訴人3名について
主要曝露建材の到達について
シェアに基づく到達の推認について

プラント等での作業経験を有する保温工が一般的に常時直接に取り扱うとされている建材は,別紙5【別紙1】⑥石綿含有けいそう土保温材,⑦石綿含有けい酸カルシウム保温材,⑧石綿含有バーミキュライト保温材,⑨石綿含有パーライト保温材,⑩石綿保温材であり,国交省データベースに登録されているのは,別紙5【別紙保温2-3】記載の保温材(被控訴人ニチアス,同エーアンドエーマテリアル,同日本インシュレーション,同神島化学工業ほか全6社,5種類,21製品)である。


上記5種類のうち,⑧の建材(被控訴人ニチアスのバーミキュライト保温材)は粉体の保温材である(乙マ1030)のに対し,⑥,⑦のうちTobermolite結晶のもの,⑨及び⑩の各建材は,いずれも板又は筒状の中温用保温材である(株式会社矢野経済研究所「断熱材市場の全貌-断熱材料商の実態と商品競合分析-1978年版」
(甲C69,乙メ8。以下「断
熱材市場の全貌」という。))。そうすると,保温工の主要曝露建材のうち⑥,⑦,⑨,⑩は,基本的に代替性が高く競合関係にあると考えられるから,到達を推認するためには,4種類全体における各社の製品のマーケットシェアを検討する必要がある。上記⑦に関して,「断熱材市場の全貌」
によれば,
これに該当するTobermolite結晶のけい酸カルシウム保温材(プ
ラント用)の昭和50年から昭和52年までの総出荷量は,それぞれ,1万5800t,1万7480t,1万9000tであり,昭和52年の各社のマーケットシェアは,被控訴人ニチアス30%,被控訴人エーアンドエーマテリアル20%,被控訴人日本インシュレーション19.8%,被控訴人神島化学工業19.8%と推計されている(同93~96頁)。他方で,⑨に関して,「断熱材市場の全貌」によれば,昭和52年に「パーライト(保温保冷対火用)」が7万5400㎥出荷されており(同7頁),これは,パーライトの密度200㎏/㎥(同5頁)で換算すると1万5080tに相当するところ,そのマーケットシェアは三井金属鉱業が72.1%を占めるなど(同90頁),⑦とメーカーの構成が全く異なっており,合算すると上記被控訴人企業らのマーケットシェアは⑦でのマーケットシェアの半分近くに低下する。さらに,⑥,⑩について,国交省データベースを前提に⑥は被控訴人ニチアスのみ,⑩は被控訴人エーアンドエーマテリアル及び被控訴人ニチアスのみが出荷していたと仮定しても,それらの出荷量を示す証拠はないから,それらが多量であれば⑦で推計された各社のマーケットシェアを大幅に変動させる可能性がある。さらに,⑦の建材についても,Tobermolite結晶以外のけい酸カルシウム保温材の出荷量及び各社のマーケットシェアも明らかではない。そうすると,上記の証拠によっては,⑥,⑦,⑨,⑩に関する上記被控訴人企業らのマーケットシェアを認定することは困難といわざるを得ない。

次に,⑧の建材について検討するに,控訴人らの主張するプラントでの保温作業は,新設工事ではダクトや配管への保温材への取付け,改修工事では古くなった保温材の解体と新しい保温材の取付け,解体工事では古い保温材の除去が中心となるから(控訴人ら準備書面(企業-43)4頁),主に取り扱うのは成形保温材であると考えられる一方,布系の保温材や水練り保温材などは隙間を埋める詰め物として使用するもので使用頻度が少ないこと(控訴人番号23本人(当審,調書13頁))からすると,粉状の保温材である被控訴人ニチアスの⑧バーミキュライト保温材も同様に使用頻度が少ないと考えられ,かつ競合関係にある布系の保温材等も含めた被控訴人ニチアスのマーケットシェアを確定する証拠もない。エ
その上,プラント等での保温作業は,配管等の劣化状況を定期的に点検するため,いったん保温材を剥がし,点検後,新しい保温材を付けるという定修工事が中心であり(甲E13の6・4頁),作業現場も限定され,取り扱う製品も自ずと限定される傾向にあるといえる。本件でも控訴人3名のうち2名(控訴人番号13,同23)が主要曝露建材を製品レベルで限定していることも,これを物語るものといえる。


以上によれば,プラント等での保温工である控訴人らの主要曝露建材については,被控訴人企業らの製品のマーケットシェアを認定するに足りる証拠はなく,また,プラント等での保温作業の性質上,取り扱う製品が限定される傾向にあることを勘案すると,マーケットシェアと作業現場数によっては,被控訴人企業らの製品が控訴人らに到達したことを認めることはできない。そこで,控訴人らの供述に基づき建材が到達したことの認定が可能か否かを検討する。
控訴人番号23の到達に関する供述について


証拠(甲E23の1・5・6,控訴人番号23本人(当審))及び弁論の全趣旨によれば,控訴人番号23は,昭和38年から平成8年まで,明星工業株式会社(昭和60年以降はその関連会社)に雇用されて,明星工業株式会社が請け負った石油プラントの保温工事などの業務に従事しており,その中では昭和45年頃から昭和60年頃までは専らアジア石油株式会社の横浜工場を担当していたことが認められる。

控訴人番号23は,プラントでの保温作業で主に使用したのは,ボード又はカバー状の石綿含有けい酸カルシウム保温材であり,昭和50年頃まではその8~9割が被控訴人神島化学工業のダイヤライトであったが,昭和50年頃以降は,ダイヤライトは1割程度に減り,被控訴人ニチアス製品(シリカライト,スーパーテンプボード)が少しずつ増えて昭和50年代半ば頃に2割程度となり,同エーアンドエーマテリアル製品(シリカカバー,シリカボード)が3~4割であったと供述する。前記のとおり,プラント等での保温作業は定修工事が中心となるところ,上記アのとおり,控訴人番号23は,長期間,同じ会社に勤務しており,作業をした石油プラントの数も限られていることから,取り扱った製品が限定される傾向にあり,記憶にも残りやすかったということができる。また,控訴人番号23の供述によれば,昭和40年代に被控訴人神島化学工業の製品を取り扱った割合が大きいが,このことは,明星工業が,昭和36年に保温材の生産設備を被控訴人神島化学工業に売却してから昭和47年に浜松工場を建設するまで,被控訴人神島化学工業の保温材を優先購入していた旨の明星工業の社史の記載と符合しており(甲E23の1の3・6頁),昭和50年以降に取り扱った各社の製品の割合も,「断熱材市場の全貌」に記載された各社のシェア(被控訴人ニチアス29.7~30%,被控訴人エーアンドエーマテリアル20%,被控訴人神島化学工業15.6~19.7%)に照らして不自然なものではない。また,明星工業は昭和47年から浜松工場でけい酸カルシウム保温材の生産を開始したが,控訴人番号23が自社製品を使用しなかった事情について,プラント等高温になる箇所が多い現場に適さなかったことなど具体的に挙げており,これを否定すべき理由も認められない。
これらの点に照らすと,控訴人番号23の上記供述内容は信用することができる。
このほか,控訴人番号23は,①被控訴人ニチアスのバーミキュライト保温材,②被控訴人日本インシュレーションのダイパライト(カバー),ダイパライト(ボード),ベストライトカバー,ベストライトボードも主要曝露建材として主張し,その旨供述する。しかしながら,上記
の作業内容に照らして,粉体の製品である①の取扱いは少なかっ
たものと考えられ,これを日常的に使用していたとは認め難い。また,②についても,控訴人番号23が建材の納品チェックや発注作業に関わっていたにもかかわらず,他の被控訴人企業の製品と異なり当初の平成21年1月15日付け陳述書(甲E23の1)に記載がなく,その後も具体的に使用した事実を思い出したのではないこと(控訴人番号23本人(当審,調書49頁))からすると,日常的に使用していたと認めることはできない。

以上によれば,控訴人番号23は,警告義務の始期である昭和50年4月から,石綿含有けい酸カルシウム保温材を,被控訴人エーアンドエーマテリアルの製品は製造期間の終期である昭和53年まで3~4割程度,被控訴人神島化学工業の製品は昭和54年まで1割程度,被控訴人ニチアスの製品は昭和55年まで平均して2割弱程度,それぞれ取り扱い,各社はいずれもこの間,警告義務を怠っていたものと認められる。
控訴人番号12,同13の到達に関する各供述について


控訴人番号12は,就労期間中に取り扱った石綿含有保温材について,そのメーカーや製品名を具体的に供述していない(原審本人尋問調書6,11,15,17,19,21,22頁)から,控訴人番号12の供述に基づく到達の認定をすることはできず,その余の点を検討するまでもなく,控訴人番号12の被控訴人企業らに対する請求は理由がない。

控訴人番号13は,昭和39年から平成17年4月まで保温工として稼働したが,その間は,数年ごとに勤務先を変えていたほか,作業現場も石油化学プラント,発電所,造船所と複数の種類に及んでいて(甲E13の1の2),控訴人番号23と比べもともと製品の限定性が低い状況にあるところ,控訴人番号13は,プラントでの保温作業に使用した主な製品の製品名とそのメーカーを複数挙げるものの,どの製品をどの現場でどの程度の頻度で使用したかについては覚えていない
(甲E13の6)
ことから,
同人の供述に依拠して,直ちにそれらの製品が控訴人番号13の現場に到達したことを認めることはできず,仮にこれを認める余地があるとしても,それらのメーカーごとの損害惹起力や寄与度を認定判断することができないから,被控訴人番号13の被控訴人企業らに対する請求は理由がない。
2
被控訴人エーアンドエーマテリアル,同神島化学工業,同ニチアスの控訴人番号23に対する責任について
証拠(甲E23の1,23の1の2・3,23の3,23の9,控訴人番号23本人(当審))及び弁論の全趣旨によれば,①控訴人番号23が携わった保温工事の割合は,新設2~3割,改修5割,解体2~3割程度であること,
②控訴人番号23が石綿含有けい酸カルシウム保温材を取扱う際に石綿粉じんに曝露する作業は,
シート養生をする場合もあるが基本的には屋外
において,(α)新設又は改修工事における保温材の新規使用として,取付け箇所の形状に合わせて,
主に手鋸で,
量の多いときは電動鋸で切断する作業,
錐などで穿孔する作業,及び,(β)解体又は改修工事において,劣化して脆くなった保温材を剥がす作業であったこと,
③布系の保温材や水練り保温材
なども取り扱ったが,使用頻度が少なかったこと,④控訴人番号23は,昭和50年頃に保温工の作業主任者となった後,
建材の納品チェックや発注作
業にも関わるようになり,
アジア石油横浜工場内の築炉工事の監督業務に従
事していたほか,
昭和62年頃から学校等での石綿除去作業の現場監督業務
にも従事するようになったことが認められる。

乾燥状態で保温材を剥ぐ作業で20繊維/㎤以上と報告されている。また,保温材を切断又は穿孔する作業に関する測定データは認定できないが,英国
労働省工場監督庁の測定データによれば,
保温材と同様に発じんしやすいと
考えられる石綿断熱板について,垂直構造物の穿孔作業で2~5繊維/㎤,用手鋸断で5~12繊維/㎤,クランク鋸による機械鋸断で5~20繊維/㎤,丸鋸では20繊維/㎤以上と報告されている。なお,上記測定データは30分から1時間程度の時間で収集されたサンプルに基づくものであり,時
間平均濃度として一定程度参考となると考えられる。このほか,専門家会議検討報告書で紹介された測定データとして,
米国での断熱材取扱い作業につ
き,昭和43年から昭和46年までの調査で3~6繊維/㎤,昭和40年頃の時間加重平均濃度で約8繊維/㎤,英国ではかなり長期にわたる平均値で8.9繊維/
訴人番号23がした保温材の取扱い作業一般について,
時間平均濃度で10
繊維/㎤程度はあったものと推認され,かかる推認を覆す証拠はない。しかるところ,
被控訴人エーアンドエーマテリアルらの石綿含有けい酸カ
ルシウム保温材による控訴人番号23に対する加害行為は,
期間が4~6年
に限られ,被控訴人エーアンドエーマテリアルら各自の行為は,以下のとおり,
それぞれについて控訴人番号23の石綿肺を単独で発生させる程度の石綿粉じん曝露を生じさせたと認めることはできない。
被控訴人エーアンドエーマテリアル
10本/㎤×4年×0.3~0.4=12~16本/㎤×年
被控訴人神島化学工業
被控訴人ニチアス

10本/㎤×5年×0.1=5本/㎤×年

10本/㎤×6年×0.2弱=12(弱)本/㎤×年

そうすると,本件においては,以下に述べるとおり,他にも加害者となり得る企業が存在することが明らかであるが,控訴人らは,これらの企業を特定していないから,
民法719条1項後段を類推適用するための要件を満た
さず,被控訴人エーアンドエーマテリアルらは,民法709条に基づき,原則どおり,それぞれの行為について,寄与度に応じた割合による分割責任を負うこととなる。そこで,各社の行為の寄与度について検討すると,控訴人番号23の保温作業は基本的に屋外で行われており,
間接曝露の影響は少な
かったと考えられるものの,
築炉工事の監督業務や石綿除去工事の現場監督
業務にも従事しており,それらの業務の際に曝露したことが考えられること,
保温作業自体でも,
頻度は少ないが布系保温材等も取り扱っていたこと,
けい酸カルシウム保温材の取扱いに限っても就労期間の始期である昭和38年から被控訴人企業の警告義務違反が生じる昭和50年までに13年に及ぶこと,
製品の石綿含有率
(被控訴人エーアンドエーマテリアル4~6%,
被控訴人神島化学工業3%,被控訴人ニチアス1~25%)などを考慮すると,被控訴人エーアンドエーマテリアル,被控訴人神島化学工業,被控訴人ニチアスの加害行為の寄与度として,それぞれ20%,7%,20%を認めるのが相当である。
第4
1
電工を主たる職種とする控訴人について
鉄骨造又は鉄筋コンクリート造建物での作業歴のある控訴人3名について控訴人番号31,同36,同66は,鉄骨造又は鉄筋コンクリート造建物における電気配線・配管作業を行う際に,躯体に吹き付けられていた石綿含有吹付け材を除去・剥離したり,作業中に吹付け材と接触したりすることによって発散した石綿粉じんに曝露したとして,耐火被覆を用途とする吹付け材3種類(別紙5【別紙1】①吹付け石綿,②石綿含有吹付けロックウール,③湿式石綿含有吹付け材)を主要曝露建材として主張する。
主要曝露建材の到達について

上記吹付け材3種類は,耐火被覆という施工の目的や吹付け材という建材の形態からみて,代替性が高く,競合性があるものと認められる。イ
石綿含有吹付け材に関する警告義務の始期は昭和48年であるところ,昭和40年代には上記吹付け材3種類が並行して製造・販売されていたから,これらを合算したマーケットシェアを検討する必要がある。吹付け石綿の主要メーカーを立証趣旨とする甲C68,
74,
75についてみると,
まず,甲C74は昭和46年当時の日本アスベスト,朝日石綿工業,日本バルカー工業,ノザワ,浅野スレート,大阪パッキング及び内外アスベストに係る吹付け石綿の生産能力(月間,㎡)を記載したものであり,現実の出荷量を記載したものではなく,吹付け石綿全体の生産能力も記載されていないから,同年における吹付け石綿のマーケットシェアを認定することはできず,従って,同年における吹付け材3種類のマーケットシェアを認定することもできない。また,甲C68(昭和44年10月発行)は当時の日本バルカー工業,日本アスベスト,朝日石綿工業及び野沢石綿セメントにおける月間の生産,施工状況(万㎡)を記載したものであり,甲75には「48年実績」として,日本アスベスト,朝日石綿工業及びノザワの吹付け石綿の数量(トン/月)が記載されているが,両年における吹付けロックウールの出荷量やマーケットシェアを示す証拠はないから,両年における吹付け材3種類のマーケットシェアを認定することはできない。なお,既に認定した別紙6別表4(吹付け石綿の施工量(t))と同5(吹付けロックウール(乾式)の施工面積(千㎡))も単位が異なりそのまま比較することができないため,昭和40年代における到達の事実を推認するために必要な吹付け材3種類における各社マーケットシェアを確定することはできない。
昭和50年以降は吹付け石綿が製造・販売された事実が確認できないことから,石綿含有吹付けロックウールと湿式石綿含有吹付け材を合算したシェアを検討することになる。
ロックウール吹付けの施工量等を立証趣旨とする甲C51の2,62の2,67,76,77は,いずれも石綿を含有しない製品を含めて推計しており,また,甲C51の2,62の2,67は,耐火被覆用と吸音・断熱用,乾式と湿式とを区別せずに推計しているのに対し,甲C77は耐火被覆用に限定して,乾式と湿式とを区別して推計している。これらの内容(甲C77は乾式のみ)をまとめると,別紙7別表1のとおりである。
前記吹付け材3種類の主要メーカーとされた被控訴人企業8社のうち,被控訴人ナイガイは,いずれの証拠にもメーカーとして記載されておらず,また,被控訴人日本バルカー工業は,昭和52年の資料に9.0%のシェアが記載され,被控訴人ノザワは昭和46年の資料に3.3%,
昭和52年の資料に7.
7%のシェアが記載されるにとどまり
(甲
C76,77),他の証拠にはメーカーとして記載されていないことから,上記被控訴人企業3社については,いずれも一定期間にわたり,継続的に一定規模のシェアを有していたと認めることはできない。
次に,被控訴人ニチアスは昭和49年に,被控訴人エーアンドエーマテリアル及び被控訴人日東紡績はそれぞれ昭和50年に,耐火被覆用の石綿含有吹付けロックウールの製造・販売を終了している。これらの控訴人企業3社は,その後も湿式石綿含有吹付け材の製造・販売はしているものの(別紙5【別紙電工-2】【別紙電工-3】参照),湿式石綿含有吹付け材の施工は,一般に,大型の施工設備が必要であり(乙ニ13,乙マ1016,1017,1020,1023~1025,乙ム11),施工費用も高額なものとなる(甲C77・119頁によれば,平均材工1㎡当たり単価は,吹付けロックウール(乾)1900円に対し同(湿)3600円となっている。)ことなどから,実際に施工された現場は相当限定されていて,甲C77によると,昭和52年度の吹付けロックウール(湿式)の施工実績推定(合計590千㎡)は,同年度の耐火被覆目的で施工された吹付けロックウール(乾式)のそれ(合計6820千㎡)の1割にも満たない。そうすると,上記被控訴人企業3社について,昭和50年以降の吹付けロックウールのシェアの大部分は,石綿を含有しない製品によるものであったと考えられ(乙キ11,乙ム11別紙参照),②石綿含有吹付けロックウール及び③湿式石綿含有吹付け材については,一定期間にわたり控訴人らの現場に到達したことを推認するに足りる程度のシェアを有していたと認めることはできない。さらに,被控訴人新日鉄住金化学については,昭和50年代のシェアが,昭和51年12.6%(甲C62の2),昭和52年4.0%(甲C77),昭和53年12.7%(甲C51の2)となっているが,これは,昭和51年と昭和53年のシェアが耐火被覆用,吸音・断熱用を合算して集計されたものであるのに対し,昭和52年のシェアが耐火被覆用に限って集計されたものであることによる相違と考えられる(控訴人ら準備書面(企業-40)14~15頁参照)。しかるところ,そもそも電工の主要曝露建材とされているのは,耐火被覆を用途とする吹付け材であるから(控訴人ら準備書面(企業24)49頁),電工との関係では,被控訴人新日鉄住金化学のシェアとして前記各データのうち昭和52年の4.0%を参照するのが合理的である。加えて,被控訴人新日鉄住金化学においても,昭和53年までに石綿含有吹付けロックウールの製造・販売を終了していること(別紙5【別紙電工-2】【別紙電工-3】参照)からすると,被控訴人新日鉄住金化学についても,一定期間にわたり控訴人らの現場に到達したことを推認するに足りる程度のシェアを有していたと認めることは困難である。
これに対し,被控訴人太平洋セメントについては,昭和40年代から吹付けロックウールを販売しており,昭和50年から石綿含有吹付けロックウールの製造・販売を終了した昭和53年までの間(別紙5【別紙電工-2】【別紙電工-3】参照),吹付けロックウール(乾式,湿式)全体の15%余り,耐火被覆用に限定すれば25%程度のシェアを有していたものと推認することができる。そうすると,控訴人らが主張する電工の作業現場数(1年平均36件)を考慮に入れると,昭和50年から昭和53年までの間に,被控訴人太平洋セメントの吹付けロックウールが控訴人らの作業現場に相当回数到達したことを推認することができるというべきである。なお,被控訴人太平洋セメントも,平成元年まで湿式石綿含有吹付け材「アサノスプレーコートウェット」を製造販売しているが,前記のとおり,湿式石綿含有吹付け材は一般的に施工現場が相当限られる上,特に被控訴人太平洋セメントの場合,昭和50年に吹付け材の大規模な崩落事故を発生させた後は,耐火被覆用の吹付け材としての販売はほとんど行っていなかったことからすると(乙ニ9,16),昭和54年以降はそれ以前と同様のシェアを維持していたと認めることはできない。
被控訴人企業らの注意義務違反について

そこで,被控訴人太平洋セメントの石綿含有吹付けロックウール等に係る注意義務違反の有無についてみるに,ロックウール吹付け材については,平成12年の建築基準法改正まで,ロックウール工業会の通則的指定の制度が採られており,吹付けロックウール耐火被覆材構造標準仕様書において,通則指定会社による責任施工や,吹付け作業者に必ず防じんマスク(国家検定品)を着用させなければならないことなどが定められていた(乙チ6,11,12)。
しかるところ,被控訴人太平洋セメントは,石綿含有吹付けロックウール(スプレーコート)については,売買基本契約や施工管理及び品質保証に関する覚書等を締結して系列化した特定の吹付け施工業者(基本的に各都道府県に1社ずつ)に対してのみ販売し,湿式石綿含有吹付け材(スプレーコートウェット)については,取り扱うのは全国でも数社に限られていたところ,上記吹付け施工業者らは当然上記2製品に石綿が含有されていることを認識していたものと認められる。そして,被控訴人太平洋セメントの指導監督の下,上記吹付け施工業者らは,吹付け工に対しては防じんマスク(労働省検定合格品)の着用等を指示したほか,施工時には施工区画から吹付け材が発散しないようシート等で養生した上,吹付け工以外の施工区画への立入りを禁止し,作業後は清掃するなどしていた(以上につき,乙ニ8,13,16,35,36,42)。この点は,吸音・断熱用吹付けロックウールを含めた場合に相当のシェアを有していた被控訴人新日鉄住金化学においても,同様の対策がとられていた(乙チ7,13~15)。

また,上記吹付け施工業者らに耐火被覆工事を発注した元請建設業者は,吹付け材による耐火被覆工事を施工するために上記吹付け施工業者らに発注していたのであり,また吹付け作業現場はシート等で養生がされ,吹付け工も防じんマスクを着用して作業をするなどしていたのであるから,元請建設業者においても,吹付け材が施工されていること自体を認識していたことは明らかであり,当該吹付け材が石綿を含有することも通常は認識していたものと考えられる。そして,これらの元請建設業者は,建設作業現場で建設作業に従事する者に対し民事上の安全配慮義務を負っているほか,当該建設作業現場で作業をする労働者との関係では安衛法上の規制を遵守する義務を負っており,昭和50年の特化則等改正後はそれらの規制が強化された。


そうすると,被控訴人太平洋セメントらにおいては,石綿含有吹付けロックウールに関し,建材だけが流通することは想定せず,販売先の系列化を図り,自社の石綿含有吹付けロックウールの施工の安全性を確保する態勢をとっていたのであって,このことを通じて元請建設業者の側に安全配慮義務の履行の契機となる情報は伝達されていたものと評価され,警告義務の違反があったとは認められない。
したがって,控訴人番号31,同36及び同66の被控訴人企業らに対する請求は理由がないこととなる。
2
控訴人番号70について
控訴人番号70は,7割を超えて鉄骨造又は鉄筋コンクリート造建物に従事するようになったのは石綿含有吹付け材の販売がほぼ終了した昭和62年6月以降であることを理由に吹付け材3種類に代えて,各室内等に照明器具や電気スイッチ等の電気設備を取り付けるために切断して開口する作業を行う際に使用した,壁・天井材(別紙5【別紙1】⑮,⑯,㉓,㉔)を,主要曝露建材として主張する。しかしながら,この作業は既に他の作業員により施工された壁・天井材を対象とするものであって,建材の新規使用ではないから,控訴人番号70は建材に付された警告表示の対象には当たらず,被控訴人企業らの警告義務違反と控訴人番号70の疾患の発症との間に因果関係を認めることができない。
したがって,控訴人番号70の請求も理由がないこととなる。

第5
1
配管工を主たる職種とする控訴人11名について
配管工を主たる職種とする控訴人11名は,主要曝露建材として,基本的に耐火被覆のための石綿含有吹付け材である別紙5【別紙1】①~③の吹付け材3種類,㊶石綿セメント円筒を主張する(ただし,ガス配管工であった控訴人番号64は,㊶を主要曝露建材として主張せず,控訴人番号30,同76は,保温材の一部を追加している。)。
このうち,吹付け材3種類については,配管の設置作業時に支持金具の取付けのため天井裏で鉄骨に吹き付けられた吹付け材を削り落とす作業によりその吹付け材に,改修工事時における天井裏での作業により剥離して天井裏に堆積した吹付け材に,それぞれ曝露するというのであるが,これについて,控訴人らの特定する被控訴人企業らに対する損害賠償請求が認められない理由は,前記第4の電工である控訴人らの請求において述べたところと同様である。
次に,㊶石綿セメント円筒については,国交省データベース(平成25年版)において,被控訴人エーアンドエーマテリアルの11製品(乙キ1の8の1),被控訴人ニチアスの1製品,その他8社62製品が登録されている。控訴人らは,被控訴人エーアンドエーマテリアルの10製品(8製品は,使用建物の種類を戸建住宅,共同住宅,学校・幼稚園等,店舗・事務所とし,2製品は,共同住宅,店舗事務所,劇場・百貨店等としている)のみを主要曝露建材と主張している。
しかしながら,被控訴人ニチアスの1製品は使用部位が煙突に限られることから主要曝露建材から除外することを首肯し得るとしても,被控訴人エーアンドエーマテリアルの1製品及びその他8社62製品は,建物の種類が戸建住宅となっており(控訴人準備書面(企業-18)別冊1-1),配管工が職種として戸建住宅に従事することがないとはいえないから,主要曝露建材と競合関係にあり(その中には,トーアトミジ㈱という石綿セメント円筒の通称「トミジ管」の由来となったと思われるメーカーもある。),到達の推認をするためにはそれらを含めたマーケットシェアを参照すべきところ,これについての主張立証がされていないから,到達の推認を行う前提を欠き,他に主要曝露建材の到達を認めるに足りる証拠はない。
このほか,控訴人番号30,同76は,建材①~③,㊶のほか,保温材の一部を追加しているが,本来的に保温材の切断は保温工が行うことが多く(甲E33の1の3,62の1の3),保温材からの曝露の機会は吹付け材と比較し少なかった(控訴人ら準備書面(企業-24)67頁,最終準備書面第3編第2分冊153頁)と主張しているから,控訴人番号30については労災資料に保温材を取り扱った旨の記載があるとしても(甲F30の4の「石綿ばく露歴質問票」のチェック),上記控訴人らが保温材を日常的に取り扱ったとは認められず,これらについても,到達を推認することはできない。
2
従って,配管工に関する予備的主張2は,その余の点について検討するまでもなく,理由がないといわざるを得ない。

第6
1
大工を主たる職種とする控訴人37名について
主要曝露建材の到達について
主要曝露建材と競合する建材の有無について

大工を主たる職種とする控訴人らが主要曝露建材として主張する,別紙5【別紙1】⑮石綿含有スレートボード・フレキシブル板,⑯同・平板,㉓石綿含有けい酸カルシウム板第1種は,木造建物,鉄骨造建物,鉄筋コンクリート造建物に共通して,一般的に大工が直接的に取り扱い接触する機会が多い建材である。これらは,防火性や耐火性があり,各種の建築物において,
外装材としては軒天井材などとして,
内装仕上材としては壁材,
天井材として使用され,特に⑮と㉓は浴室,台所など火気,湿気のある部分に使用されることが多い(甲C29,甲D17,26の1,甲E9の1の3・4,25の1の2,28の1の3・5,59の1の2,61の1の2~4,63の1の2,63の3,67の1の2,68の1の2,68の3,控訴人番号61本人(当審),弁論の全趣旨)。


控訴人らは,上記3種類を⑮石綿含有スレートボード・フレキシブル板及び⑯同・平板と,㉓石綿含有けい酸カルシウム板第1種とに二分した上で,それぞれにおける各社のマーケットシェアを主張立証しているが,上記3種類,とりわけ⑮と㉓は,建材の性質,施工部位や使用目的で共通性が高く,到達の推認に当たり,これら3種類を区別してマーケットシェアを検討するのは相当でない。
被控訴人エーアンドエーマテリアルは,スレートボード,けい酸カルシウム板第1種は,建材市場において,スラグせっこう板,せっこうボード(石綿含有・非含有を問わない),ロックウール吸音天井板,ビニル床タイル,タイルなどと常に競合関係にあり,特にけい酸カルシウム板第1種とせっこうボードは内装材として完全に競合すると主張する。また,被控訴人大建工業は,けい酸カルシウム板第1種のシェアに関し軟質板,軟質フレキシブル板,パーライト板,パルプセメント板を考慮すべきと主張し,被控訴人エム・エム・ケイは,せっこうボードを無視すべきでないと主張する。
しかしながら,まず,せっこうボードは,ボードという形状や耐火性の点ではけい酸カルシウム板第1種と共通する面があるものの,軒天を含む外装材や,浴室,厨房,トイレなど湿気の多い部分の内装仕上材として使用される可能性に乏しいことから(甲D17),フレキシブル板やけい酸カルシウム板第1種と代替性があるとはいえず,せっこうボードがけい酸カルシウム板第1種と完全に競合する旨の主張は採用することができない。このほか,タイルは,その形状から考えても,スレートボード及びけい酸カルシウム板第1種と代替性があるとは認め難く,ロックウール吸音天井板及びビニル床タイルも,施工部位が天井ないし床に限られる点で,代替性を欠く。また,被控訴人大建工業が言及するパルプセメント板は,軒天井に使用される例はあるものの耐水性が低いので主として内装材として使われることから(甲C29),直ちにフレキシブル板やけい酸カルシウム板第1種との代替性を認め難く,軟質板,軟質フレキシブル板,パーライト板についても代替性を認めるに足りる証拠はない。
これに対し,石綿含有スラグせっこう板は,表層材の種類によって施工部位や使われ方が異なるものの,内装材,外装材,軒天井材などの各種の製品があり,多くの製品が不燃材料の認定を受けていて火気使用室への施工が可能である(甲C29)など,種類全体としてはスレートボード及びけい酸カルシウム板第1種と相当程度の代替性が認められ,到達の推認の前提となるマーケットシェアの検討に当たり考慮に入れる必要がある。
各社のマーケットシェア及び到達の蓋然性について

上記3種類の建材の各社のマーケットシェアに関する証拠として,甲C51の1,56,61,62の3,67の2,77,80が提出されており,それらの内容をまとめると別紙7別表2-1・2,3のとおりとなる。これらは基本的に推計値であるが,具体的な数値が示され,当時の資料としてシェアを推認する資料となり得るものと考えられる。また,これらの資料は,昭和55年(甲C80)までのものであるところ,既に述べたとおり(前記
アを推認する資料にもなり得るものであるが,その後,㉓で大きなシェアを有している被控訴人ニチアスは,平成4年にその製造・販売を終了しており(【別紙大工-2】),上記3種類の建材を通じて一定のシェアを有している被控訴人エム・エム・ケイも,平成5年に⑯の製造・販売を終了し(同),平成3年以降は無石綿のけい酸カルシウム板第1種の製造・販売を始め,平成5年以降はけい酸カルシウム板第1種の出荷量の9割超を無石綿製品が占める(乙ワ10)など,平成5年以降は,到達の推認の基礎となる,無石綿の代替製品も考慮したマーケットシェア(前記第1の2明らかであ
るから,上記資料に基づき到達の推認をすることができるのは平成4年までに限られるといわざるを得ない。


別紙7別表2-1・2によれば,被控訴人エーアンドエーマテリアルは昭和40年代に⑮,⑯について35~55%という高いシェアを有しており,昭和49年から昭和53年にかけても石綿スレートボードと㉓とを合わせた全体で30%台の安定したシェアを有し,別表3のデータをもとに㉓相当分を除外しても(別紙7別表2-3),その傾向は変わらない。また,昭和49年から昭和53年までのデータは⑮,⑯以外の石綿スレートボードが含まれるが,同別表5のように石綿スレートボードの大半は⑮,⑯が占めていたと考えられることから,⑮,⑯のシェアも同様なものであったと考えられる(なお,昭和53年のデータはドライ製品(カラーベスト)等も含まれているが,被控訴人エーアンドエーマテリアルは屋根材で目だったシェアを有しないから(甲C50),ドライ製品を除いて集計してもシェアが大きく低下することはない。)。
そして,別紙6別表8のデータに基づく昭和50年から平成4年までのスレートボード及び㉓の各出荷量累計(別紙7別表4。65万1753千㎡,38万8250千㎡)と,スレートボード及び㉓それぞれのシェアの最小値(昭和53年32.7%,昭和55年23.3%)に基づき,スレートボード及び㉓を合算したシェアを控えめに推計すると,被控訴人エーアンドエーマテリアルは昭和50年4月から平成4年までスレートボードと㉓を合わせて約30%のシェアを有していたものと推認することができる。
(651,753×0.327+388,250×0.233)÷(651,753+388,250)=0.2919このほか,⑳石綿含有スラグせっこう板につき,国交省データベースによれば被控訴人エーアンドエーマテリアルが平成4年までに製造・販売したことはうかがわれず,
そのシェアがないものとして,
⑳の出荷量累計
(別
紙7別表4。9万8621千㎡)を合算したシェアを推計したとしても次のとおりとなる。
(651,753×0.327+388,250×0.233)÷(651,753+388,250+98,621)=0.2666そうすると,被控訴人エーアンドエーマテリアルは,昭和50年4月から平成4年まで,⑮,⑯と㉓を合わせて約30%,⑳も合わせても25%以上のシェアを有していたものと推認することができ,それらの建材は7回の現場数で少なくとも1回は到達した高度の蓋然性があるといえる。1-(1-0.25)7=0.86651

次に,被控訴人エム・エム・ケイは,昭和45年に⑮,⑯で10%を超えるシェアを有しており(別紙7別表2-1),石綿スレートボードと㉓を合わせたシェアで昭和49年から昭和53年まで11~12%程度のシェアを維持し(同別表2-2),石綿含有スレートボードのシェアもこれと同様であるほか(同別表2-3),㉓のみでも昭和56年まで安定して10%前後のシェアを維持している(同別表3)。そして,被控訴人エム・エム・ケイのスレートボード及び㉓それぞれのシェアの最小値(昭和53年11.6%,昭和51年9.4%)に基づき,前記イと同様の方法でスレートボード及び㉓を合算したシェアを推計すると,昭和50年4月から平成4年までスレートボードと㉓を合わせて約10%のシェアを有していたものと推認することができる。
(651,753×0.116+388,250×0.094)÷(651,753+388,250)=0.1077このほか,⑳石綿含有スラグせっこう板につき被控訴人エム・エム・ケイにシェアのないものと仮定して,前記イと同様の方法でシェアを推計すると次のとおりとなるが,国交省データベースによれば,被控訴人エム・エム・ケイは昭和52年から平成8年まで,先発メーカーとして⑳を販売しており,ある程度のシェアを有していたと考えられるので,結局⑳を含めても約10%のシェアを有していたものと推認することができる。(651,753×0.116+388,250×0.094)÷(651,753+388,250+98,621)=0.0984なお,被控訴人エム・エム・ケイは,⑮フレキシブル板について,昭和60年から平成4年3月まで千葉工場で生産した製品の9割超は積水ハウス株式会社関東工場向けの特別仕様のものとし,それらの製品は同工場でパネルに組み立てられ,一般の大工が現場で切断や穿孔などの加工をすることも通常考えられないものとなったというが(乙ワ10),被控訴人エム・エム・ケイの全出荷量に占める割合などその影響を評価し得る証拠は提出されておらず,直ちに前記推認を覆すものとはいえない。また,前記のとおり,被控訴人エム・エム・ケイは平成3年以降無石綿のけい酸カルシウム板第1種を製造・販売しているが,平成3年時点では無石綿製品の割合は多くなく,平成5年以降に初めて出荷量の9割超となったにとどまるほか(乙ワ10),千葉工場以外の工場では引き続き⑮の製造を続けている(同)のであるから,昭和50年4月から平成4年までのシェアに大きな影響を与えるものとは認められない。
そうすると,被控訴人エム・エム・ケイは昭和50年4月から平成4年まで,⑮,⑯,㉓につき,⑳を考慮しても10%程度のシェアを有していたものと推認することができ,これらの製品は20回の現場数で少なくとも1回は到達した高度の蓋然性がある。

被控訴人ニチアスは,㉓について別紙7別表3のとおり概ね3割以上のシェアを安定して有していたことから,その最小値(昭和52年29.1%)に基づき,同様にスレートボード,⑳及び㉓を合算したシェアを推計すると次のとおりとなる。したがって,被控訴人ニチアスは,昭和50年4月から平成4年まで⑮,⑯,⑳と㉓を合わせて約10%のシェアを有していたものと推認することができ,被控訴人ニチアスの㉓は前記のとおり20回の現場数で少なくとも1回は到達した高度の蓋然性がある。388,250×0.291÷(651,753+388,250)=0.1086388,250×0.291÷(651,753+388,250+98,621)=0.0992

そして,控訴人らは,大工の平均年間現場数(共同住宅では1棟を1現場と数える。)として,本件及び同種訴訟における存命中の大工である原告(控訴人)らからの聴取結果に基づき,年間約16件と主張するところ,大工は,在来軸組工法による木造建物の新築工事では1か月から1か月半程度作業をし(甲D35・3頁),改修工事や応援・手伝いでは総じて作業期間がより短いと考えられること,鉄骨造又は鉄筋コンクリート造建物では,木造建物と比較して建物の規模が大きく全体の工期も長いものの,大工が関わる作業の種類が限定されることなどからすると,新築工事として年6件程度,改修工事や応援・手伝いなど短期間の作業を含めると年16件程度とする限度では,控訴人らの主張は不合理なものとはいえず,他にこれと異なる証拠もない。
そうすると,昭和50年4月以降大工を専業として長期間にわたり建築作業に従事していた控訴人らは,平均して,昭和50年4月から平成4年までの17年余りの間で272件以上(新築工事に限っても102件以上)の現場に従事したこととなる。したがって,控訴人らの主張する控え目な計算方法によっても,被控訴人エーアンドエーマテリアルらの⑮,⑯及び㉓は,上記控訴人らの現場に相当回数(被控訴人エーアンドエーマテリアルでは38回以上,新築工事のみでも14回以上(272×1/7,102×1/7),被控訴人エム・エム・ケイ及び同ニチアスでは13回以上,新築工事のみでも5回以上(272×1/20,102×1/20)。前記P式によると,新築工事のみでそれぞれ少なくとも20回,7回。)にわたって到達した高度の蓋然性があると認めることができる。そして,この期間,各社はいずれも警告義務を怠っていたものと認められる。

以上に対し,被控訴人ノザワは,昭和40年代は石綿スレートボードと㉓を合わせて15%を超えるシェアを有していたものの,昭和50年代にはシェアを5%程度に急減させており,㉓単独では目立ったシェアを有していないことから,昭和50年10月以降にまとまったシェアを有し続けたと推認することはできず,よりシェアの少ない被控訴人大建工業についても,同様である。
2
被控訴人エーアンドエーマテリアル,被控訴人ニチアス及び被控訴人エム・エム・ケイの各行為の損害惹起力について
大工の一般的な作業内容について,証拠(甲D26の1,甲E61の1の2~4,控訴人髙橋本人(当審),弁論の全趣旨)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。
⑮,⑯,㉓は,それぞれ910㎜×1820㎜が標準寸法であり,施工場所に合わせて必要があるときに切断するが,せっこうボードなどと比較して堅い建材であるため,通常,電動丸鋸で1枚ずつ切断し,その際に多量の粉じんを発散する。その後,切断面をやすり掛けした上で,電動ドライバーを使用してビス打ちをするなどして施工場所に張り付けるが,それらの際にも粉じんが発散する。
鉄骨造建物又は鉄筋コンクリート造建物の新築工事における大工の作業は,(α)墨付け(2日程度),(β)天井・内壁・床の各下地工事(3~4日程度),(γ)天井・内壁の各仕上げ工事(20日程度),(δ)床仕上げ工事などがあり,木造建物の新築工事では,㋐土台工事(通常1日),㋑建方(柱,梁などの建込み),㋒屋根下地工事,㋓間柱入れ・胴貫,㋔床下地工事,㋕
日1~1.5部屋),㋛内装下地工事,㋜内装仕上げ工事などがある。このうち,⑮,⑯,㉓を取り扱うのは,(γ)及び㋛のうちそれぞれ主に台所,洗面所,風呂場などの水回り部分と,㋕であるが,(γ)及び㋛は屋内での作業となる。以上のほか,(α)で鉄骨に吹付られた吹付け材を剥がす作業,(γ),㋚及び㋛で,㉕(石綿含有せっこうボード)などの石綿含有成形板を取り扱う作業でも,石綿粉じんが発散する。また,改修工事における解体作業や解体工事において既設の石綿含有建材を破砕する作業での曝露や,他の職種と並行作業する場合などの間接曝露も考えられる。
⑮,⑯,㉓の取扱い作業による時間平均濃度については,前記第2節第1の
るもの
(有効な局所排気を用いずに丸鋸で切断した場合,
10~20本/㎤)


るビス,釘打ちドリル穿孔などによる建材張付けを主とした作業(丸鋸切断含む)の気中石綿濃度(中央値12.3本/㎖),同
ル記載の個人曝露測定データ(石綿けい酸カルシウム板貼り3.55~6.09本/㎖)同


平成18年手引に記載された建材の電気丸鋸による切断
(2

~20本/㎖)
などもある中で,
5本/㎤程度の濃度の石綿粉じんに継続的に曝
露したとみるのが相当である。
そして,鉄骨造建物等の(γ)(天井・内壁の各仕上げ工事)には20日間程度を要し,木造建物の㋛(内装下地工事)については塗装工事を含む内装工事との工程計画として20日程度が予定されること(甲D15・10頁)などからすると,木造建物の㋕(軒天工事)を含め,新築工事1現場当たり20日間程度,累積的曝露も含めた⑮,⑯,㉓からの粉じんに曝露するものと,一応考えることができる。これに対し,改修工事や応援・手伝いなど短期間の作業では,⑮,⑯,㉓を取り扱う場合と取り扱わない場合とがあり,作業期間もまちまちであると考えられることから,このような推計をすることは不可能である。そうすると,平均的な大工における⑮,⑯,㉓からの粉じんに曝露する日数は,新築工事1現場当たり20日程度とみることができる。さらに,被控訴人エーアンドエーマテリアルらの前記各マーケットシェアが認められる昭和50年4月から平成4年までの期間は18年間弱と,相当長期に及んでいる。それらの製品が到達した高度の蓋然性が認められるのは,控訴人らの計算方法によっても,被控訴人エーアンドエーマテリアルでは14現場余り,被控訴人ニチアス及び同エム・エム・ケイでは5現場余りである。そうすると,上記被控訴人らの行為による累積曝露量は,それぞれ次のとおりとなり,25本/㎤×年には至らない(前記P式で求めた新築工事現場数である20現場,7

を用いても同様である。)。

(被控訴人エーアンドエーマテリアル)
5[本/㎤]×20/365[年/現場]×14[現場]=3.84[本/㎤×年]5[本/㎤]×20/365[年/現場]×20[現場]=5.48[本/㎤×年](被控訴人ニチアス,被控訴人エム・エム・ケイ)
5[本/㎤]×20/365[年/現場]×5[現場]=1.37[本/㎤×年]5[本/㎤]×20/365[年/現場]×7[現場]=1.92[本/㎤×年]そうすると,
被控訴人エーアンドエーマテリアル,
同ニチアス及び同エム・
エム・ケイの行為は,肺がん又は石綿肺を発症した控訴人との関係では,いずれも単独惹起力を有するとは認められず,びまん性胸膜肥厚を発症した控訴人についても,単独惹起力を有すると認めることは困難であることから,これらの控訴人については,被控訴人エーアンドエーマテリアルら各自の寄与度に応じた割合による分割責任を検討することとなる。これに対し,中皮腫を発症した控訴人との関係では,既に述べたとおり,いずれも単独惹起力を備えるか否か明らかではなく,加害行為の寄与度が不明の場合と同様に取り扱うこととなるが,加害者全員の特定がされていないため,主要曝露建材(⑮,⑯,㉓)による曝露の集団的寄与度の範囲内で,民法719条1項後段の適用を検討することとなる。
3
主要曝露建材(⑮石綿含有スレートボード・フレキシブル板,⑯同・平板,㉓石綿含有けい酸カルシウム板第1種)からの石綿粉じん曝露量についてまず,大工の作業は,一般に,新築工事における内装工事や改築工事は,屋内での作業となるから,直接曝露のみならず,相当の間接曝露を受けたものと認められる。そして,昭和63年及び平成元年の久永直見らの各測定結作業者の3分の1から同程度の曝露濃度が報告されていること,平成18年手引(同

ア)では,吹付け石綿除去作業の翌日にも掃除直後に20本/㎤と
いう高濃度の石綿粉じん曝露が報告されているなど,間接曝露の影響は長時間に及ぶと考えられることなどから,一般的な大工の場合,石綿粉じんの曝露量全体のうち,半分程度は間接曝露によるものと推認するのが相当であると考えられる。
また,直接曝露に関しては,控訴人らは,大工の直接取扱い建材として,石綿含有成形板等に限っても別紙5【別紙1】⑮~㉗,㉙~㉛の16種類を挙げて,⑮,⑯,㉓以外の成形板等から曝露した可能性のあることを自認しているところ,このうち,⑮~㉔の昭和50年から平成4年までの出荷量は別紙7別表4のとおりであり,⑮~㉔全体の出荷量の75%は⑮~⑲(石綿含有スレートボード)と㉓が占めている。しかるところ,㉔はボードカッターで切断することが想定されており(乙ト1,弁論の全趣旨)発じん量は相対的に少ないと考えられ,⑳~㉒は,⑮,⑯,㉓と同様に電動鋸などで加工され多量の粉じんを発散した可能性があるものの,取扱いの頻度は少ない。また,⑮~⑱のうち⑮,⑯が占める割合は,別紙7別表5のとおりであり,9割程度を占めていたものと認められる(⑰,⑱については統計資料上「その他」に含まれ出荷量が判明しない年度もあるが,出荷量が明らかな年度における⑮,⑯が占める割合についての上記傾向を大きく左右する事情はうかがえない。)。その余の石綿含有成形板等のうち,せっこうボードは,取扱量は⑮,⑯,㉓の合計と同程度かこれを上回っていたことがうかがわれるが(甲E9の1の4・6頁参照),そもそも石綿を含有しない製品も多く,加工方法も複数枚を一度に切断するなどの場合を除き,カッターで切れ目を入れて折るのが一般的であり,曝露量は限られたものであったと考えられる。このほか,⑲,㉖,㉗,㉙~㉛についても,曝露原因となった可能性は否定し難いが,取扱頻度等が明らかでなく,具体的な寄与をしたと認めることはできない。さらに,大工によっては屋根材,サイディング,断熱材を取り扱う者もいるが,屋根材とサイディングは基本的に屋外での作業であったと考えられ,断熱材についても石綿含有の有無・含有率等の詳細は不明であることから,いずれも相対的にみて大きな寄与度を認めることはできない。このほか,前記のとおり,大工は鉄骨造建物で墨付けをする際に鉄骨に吹き付けられている吹付け材を剥がす作業に従事した可能性があるところ,こ
における,
吹付け石綿除去中
(80~124本/㎖)
と同視し得ないとしても,
その態様からすれば,天井を箒で掃く作業(2.1本/㎖)以上の濃度の石綿粉じんに曝露したと考えられる。そして,大工を主たる職種とする控訴人で鉄骨造建物に従事したことがないことを主張する者はいないから,吹付け材からの曝露の影響も一定程度考慮する必要がある。
さらに,被控訴人エーアンドエーマテリアルらの責任が認められるのは,⑮,⑯,㉓のうち昭和50年4月から平成4年までに製造・販売した分についてであるところ,これらの製品は,昭和50年4月より前にも相当量が製造・販売されており,石綿含有率も高かったものの,昭和50年4月以降,長期間にわたり多量に製造・販売が続けられており,多量に粉じんを発散する原因となった電動工具も昭和50年代以降,飛躍的に普及が進んだこと,平成5年以降は,製品の出荷量や石綿含有率が低下する一方,防じんマスクの着用など石綿粉じん曝露対策が浸透していったことからすると,昭和50年4月から平成4年までに製造・販売された分が主要な曝露原因であることも明らかである。
以上の諸事情を勘案すると,長年にわたり大工の一般的な作業を行ってきた控訴人らについて,昭和50年4月から平成4年までの間の主要曝露建材(⑮,⑯,㉓)の直接取扱い作業に伴う曝露量は,直接取扱い建材による曝露量のうち3分の2程度,
曝露量全体ではその3分の1程度
(1/2×2/3=1/3)
であったと認めるのが相当である。
4
肺がん,石綿肺又はびまん性胸膜肥厚を発症した控訴人らに対する寄与度に応じた割合による分割責任について

本件で石綿肺,肺がん及びびまん性胸膜肥厚を発症した控訴人33名のうち25名(控訴人番号2~4,6,7,9,16,20,25,26,28,29,37,41,43,46,47,54,55,59,61,63,67,68,74)は,本人又は関係者の陳述書(甲E),労災関係資料(甲F)及び弁論の全趣旨によれば,別紙4のとおり,昭和50年4月から平成4年までの間,継続して大工を専業として建築現場で作業に従事していたことが認められ,それらの作業が大工の一般的な作業と異なるものであったことをうかがわせる証拠はない。上記控訴人らは,その間に,多数の現場で作業をしたものと認められるから,
とおり,主要曝露建材の直接取扱い作業において,被控訴人エーアンドエーマテリアルらの製品による石綿粉じん曝露を受けたものと推認される。そうすると,上記控訴人らの石綿関連疾患の発症への寄与度として,主要曝露建材からの曝露量は各人の全曝露量の3分の1程度であること,各社のマーケットシェアなどを考慮して,被控訴人エーアンドエーマテリアルについては10%,被控訴人ニチアス及び被控訴人エム・エム・ケイについてはそれぞれ3%を認めるのが相当である。


被控訴人エム・エム・ケイは,上記控訴人らについて,⑮,⑯,㉓以外の建材を取り扱って粉じんに曝露したことや間接曝露を受けたことが容易に想定されるのに対して,⑮,⑯,㉓を使用する機会は極めて限定されていたこと,控訴人らの陳述書や労災関係資料に被控訴人エム・エム・ケイの⑮,
⑯,㉓以外の製品を使用した旨の記載がある一方,被控訴人エム・エム・ケイの⑮,⑯,㉓を使用したことを示す記載がないことなどを主張する。しかしながら,上記控訴人らが長期間にわたり数多くの建材を取り扱ってきたことからすると,陳述書や労災関係資料に他社の製品に関する記載があったり被控訴人エム・エム・ケイの製品に関する記載が具体的にされていなかったからといって,直ちに被控訴人エム・エム・ケイの製品を取り扱わなかったことを推認させるものとはいえない。また,被控訴人エム・エム・ケイの主張は,⑮,⑯,㉓とそれ以外の製品との取扱いの比率等を具体的に明らかにするものとはいえず,前記寄与度の推認を覆すに足りるものとはいえない。

控訴人番号11,21,35,44,51及び73の各控訴人は,次のとおり,被控訴人エーアンドエーマテリアルら3社の前記主要曝露建材のマーケットシェアが確定し得る昭和50年4月から平成4年までの間,継続して,大工を専業として建築現場での作業に従事したとは認められないから,上記の手法により,被控訴人エーアンドエーマテリアルらの主要曝露建材を直接取り扱った事実及びそれらの建材による石綿粉じん曝露の寄与度を推認する基礎を欠き,他にこれらを認めるに足りる証拠はない。控訴人番号11は,遅くとも昭和52年頃以降平成12年8月まで,専ら事務所での見積り等の仕事と現場監督業務に従事していた(甲F11の2(10枚目),乙アE11の2・4)。
控訴人番号21は,昭和50年から平成2年までの間,大工として作業をしていない(別紙5【別紙大工-1】,【別紙大工-2】,甲E21の1,甲F21の3(2005年8月9日付け控訴人番号21名義意見書))。
控訴人番号35は,昭和48年から昭和55年までと平成元年以降は建築現場で大工作業に従事していたが,昭和56年から昭和63年までの8年間は現場監督であった(甲F35の4・平成14年10月15日付け聴取書,粉じん作業歴申立書)。
控訴人番号44は,昭和48年から昭和58年まで,建築一式工事のほか鳶土工工事まで手広く行う一方,昭和58年から平成18年まで,セコムの防犯設備の設置工事等を請け負う株式会社の社長として現場施工管理を行っていた(甲E44の1,甲F44の2・自己申立書,平成21年9月2日付け聴取書)。
控訴人番号51は,昭和48年に有限会社を設立して経営者になってから,自ら現場で大工として働くより,各地の現場の工程管理,材料の過不足の確認,追加材料や作業員の手配,ごみの片付けなど管理の仕事をすることが多かった(甲E51の1)。
控訴人番号73は,昭和41年から平成21年7月まで,ネオンサインや広告物の製作・取付工事,照明設備の取替え等に従事していた電工であって(甲E73の1,控訴人ら控訴審最終準備書面第2編第2分冊145頁),大工ではない。

また,控訴人番号40及び42の各控訴人についても,次のとおり,個別的検討によれば,前記の手法による主要曝露建材の直接取扱い及びこれによる石綿粉じん曝露の寄与度の推認の基礎を欠き,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
控訴人番号40は,①昭和45年頃から昭和59年6月まで,明治製菓株式会社の工場などに常駐して,増改築や解体などの作業を行っており,波形スレート,床材の解体・取付け作業,土間のはつり作業,吹付け石綿の除去作業と再度の吹付け作業,アスベストリボンを巻き付ける作業などに従事しており,後にけい酸カルシウム板の切断や解体をしていたことも分かったが,1か月25日の勤務日のうち17,8日は吹付け作業などを行っており,②同年7月以降は専ら外構工事に従事していた(甲E40の1,乙アE40の1)。そうすると,同月以降は被控訴人エーアンドエーマテリアルらの主要曝露建材を直接取り扱ったとは認められず,同年6月以前も,作業の一部で㉓を取り扱ったことがうかがわれるものの,作業内容は一般的な大工のそれとは異なり,主要な曝露原因は吹付け材であったと考えられ,被控訴人エーアンドエーマテリアルらの行為につき具体的な寄与度を認めることはできない。
控訴人番号42は,①昭和53年から昭和62年3月まで,鉄骨への断熱材の吹付け作業や屋根用断熱材の設置作業などに従事しており,②同年4月から昭和63年3月まで,住宅,店舗等の新築工事や改築工事に従事し,③その後平成2年まで主に解体現場や改築の仕事をしていたものの(甲E42の1,甲F42の1,2),①は主に大工の一般的な作業に従事していたとはいえず,②は期間が短く具体的な作業内容も明らかではなく,③では解体現場での作業も含まれていることなどから,日常的に一般的な大工としての作業をしていたとは認め難く,さらに平成3年以降は古民家の移築作業などに従事し石綿粉じんに曝露したと考え難いこと(同)から,被控訴人エーアンドエーマテリアルらの行為につき具体的な寄与度を認めることはできない。
5
中皮腫を発症した控訴人らに対する民法719条1項後段類推適用に基づく責任について

本件で中皮腫を発症した控訴人は,控訴人番号5,同8,同14,同48の4名であるところ,それぞれ本人又は関係者の陳述書(甲E),労災関係資料(甲F)及び弁論の全趣旨によれば,昭和50年4月から平成4年までの間,継続して大工を専業として建築現場で作業に従事していたことが認められ,それらの作業が大工の一般的なそれと異なるものであったことをうかがわせる事由はない。そうすると,上記控訴人4名は,それぞれ昭和50年4月
被控訴人エーアンドエーマテリアル,同ニチアス及び同エム・エム・ケイが製造・販売した⑮,⑯,㉓の取扱いにより発散した石綿粉じんに曝露したものと推認される。

被控訴人エム・エム・ケイは,上記控訴人4名について,⑮,⑯,㉓以外の建材を取り扱って粉じんに曝露したことや間接曝露を受けたことが容易に想定されるのに対して,⑮,⑯,㉓を使用する機会は極めて限定されていたこと,控訴人らの陳述書や労災関係資料に被控訴人エム・エム・ケイの製品を使用したことを示す記載がないことなどを主張するが,既に述べたとおり採用できない。
そして,

少量の石綿粉じん曝露によっても発症

し得る中皮腫については,加害行為が単独惹起力を備えるか否か必ずしも明らかでなく,加害行為の寄与度が不明の場合と同様に扱うのが相当であるところ,前記3で検討したとおり,長年にわたり大工の一般的な作業を行ってきた控訴人らについて,昭和50年4月から平成4年までの間の主要曝露建材の直接取扱い作業による曝露量は,間接曝露を含めた曝露量全体のうち3分の1程度にとどまり,それ以外の曝露原因による曝露量が大きいといわざるを得ない。そうすると,損害の衡平な分担という観点から,主要曝露建材を製造・販売した被控訴人エーアンドエーマテリアルらについては,主要曝露建材を製造・販売した企業の集団的寄与度である3分の1の範囲内で民法719条1項後段を適用し,上記控訴人ら4名それぞれの損害額の3分の1について連帯責任を負うこととするのが相当である。
第7

塗装を主たる業務とする控訴人4名について
控訴人らは,塗装工の作業内容が,①塗装作業前の清掃作業,②鉄骨等を塗装する際にそこに付着した吹付け材をこそぎ落とす作業,③塗装の下地調整としてモルタル壁やボードの表面を平滑にする作業,④塗り直しのための外壁や屋根のけれん作業などであり,①では前工程で飛散し堆積したボード類や吹付け材の石綿,②では吹付け材の石綿,③では混和材やボード類の石綿,④では外壁材や屋根材の石綿が飛散するとした上で,混和材と,吹付け材3種類又はボード3種類を主要曝露建材として主張する。
しかしながら,上記吹付け材3種類は,前記第4の電工の主要曝露建材とされた耐火被覆を用途とする吹付け材3種類と同じ製品であり,これに関して控訴人らの特定する被控訴人企業に対する損害賠償請求が認められないのは,電工について述べたところと同じである。また,ボード3種類及び混和材は,いずれも各建材の新規使用ではないから,控訴人らは警告表示の対象とはいえず,被控訴人企業らの警告義務違反と控訴人らの疾患の発症との間に因果関係を認めることはできない。
したがって,上記控訴人4名の被控訴人企業らに対する請求は理由がないこととなる。
第8

板金を主たる業務とする控訴人3名について
板金を主たる業務とする控訴人3名は,いずれも屋根材である別紙5【別紙1】㉝住宅屋根用化粧スレートの1種類又はこれに㊲スレート波板・大波,㊳同・小波,㊴同・その他を加えた4種類を主要曝露建材として主張する。しかしながら,これらの屋根材については,石綿関連疾患を発症することの予見可能性を認め難く,警告義務違反を認めることができないから,その余の点について検討するまでもなく,上記控訴人3名の被控訴人企業らに対する請求は理由がないこととなる。

第9

解体工・鳶を主たる業務とする控訴人6名について
控訴人らは,解体工のほか鳶も建築物の解体作業に従事することを理由に,別紙5【別紙1】の①~⑭,⑮,⑯,㉓の17種類の一部又は全部が主要曝露建材であると主張する。
しかしながら,解体作業は,いずれも各建材の新規使用ではないから,警告表示の対象とはいえない。したがって,被控訴人企業らの警告義務違反と控訴人らの疾患の発症との間に因果関係を認めることはできず,その余の点について検討するまでもなく,上記控訴人6名の被控訴人企業らに対する請求は理由がないこととなる。
第10
1
控訴人番号24(タイル工)について
控訴人らは,タイル工を主たる職種とする控訴人番号24は,建物の床や壁
に漆喰やモルタルを塗る作業,サッシ周り,土間コンクリートならし,天端ならしなどの作業を行うため,モルタルやプレミックス材を練る際に,混和材を混ぜ合わせる作業に従事したとして,混和材を主要曝露建材とする。しかしながら,前記第2の1のとおり,混和材の取扱いの有無,頻度は個々の左官により異なり,タイル工についてのみ混和材を日常的に取り扱ったとは考え難いところ,控訴人番号24は労災認定手続において,昭和60年以降タイル工事の仕事に転換してからは仕事で石綿を扱うことはなかったと明言しており(甲F24の4(6丁)),被控訴人ノザワ,同太平洋セメント及び同日本化成の各混和材が控訴人番号24の現場に到達した事実は認められない。2
次に,控訴人番号24は,被控訴人エーアンドエーマテリアルが製造・販売した石綿含有耐火被覆板であるブロベストボードの取扱いによる石綿粉じん曝露を主張するところ,
同控訴人は,
昭和48年4月から昭和52年3月まで,
朝日石綿工業(被控訴人エーアンドエーマテリアル)の下請会社である株式会社杉山の職人として,大規模なビルの建築作業現場などで,朝日石綿工業の石綿含有耐火被覆板ブロベストボードを朝日石綿工業から貸与された切断機で切断して鉄骨に張り付ける作業に従事していた旨を具体的に供述しており(甲E24の1,
24の2の2,
甲F24の4・平成19年10月2日付け聴取書)

この供述は信用することができる。
一般に石綿含有耐火被覆板は発じんしやすい製品であり,国交省データベースによれば,ブロベストボードは,アモサイトを使用し,石綿含有率が40%である。石綿含有耐火被覆板の取扱い作業について,同様に発じんしやすいと考えられる石綿断熱板に関する測定値によると,用手鋸断で5~12(繊維/㎤),有効な局所排気を用いない場合の機械鋸断として,クランク鋸で5~20(繊維/㎤),丸鋸で20以上(繊維/㎤)とあることから,ブロベストボードの切断作業による曝露濃度も少なくとも5
(繊維/㎤)
程度はあったものと考
えられる。しかしながら,控訴人番号24の作業期間が4年,このうち警告義務違反が認められる昭和50年4月以降の期間は2年にとどまることから,控訴人中村が取り扱ったブロベストボードが,石綿肺を単独で惹起する程度の石綿粉じん曝露を生じさせたとは認め難い。
3
そこで,被控訴人エーアンドエーマテリアルのブロベストボードの寄与度についてみるに,控訴人中村は昭和38年5月から昭和41年4月まで,昭和43年5月から昭和44年12月まで4年8か月間,石綿を使用した保温作業に従事していたことが認められる(甲F24の3)。保温材も一般的に発じんしやすい製品であり,保温材を剥ぐ作業では特に高濃度の石綿粉じん曝露が報告されていること

,作業期間は保温作業がより長いこと

などからすると,被控訴人エーアンドエーマテリアルのブロベストボードの寄与度は30%程度,このうち昭和50年4月以降の期間に取り扱った部分の寄与度は15%程度であったとみるのが相当である。したがって,被控訴人エーアンドエーマテリアルは控訴人番号24との関係で寄与度15%に応じた割合による分割責任を負うこととなる。
第11

鉄骨工を主たる職種とする控訴人番号58について
控訴人らは,鉄骨工を主たる職種とする控訴人番号58の主要曝露建材とし
て,躯体からの除去・剥離作業や作業中に接触することにより発じんする,耐火被覆を用途とする吹付け材3種類を主張する。
しかしながら,これらについて,控訴人らの特定する被控訴人企業らに対する損害賠償請求が認められない理由は,電工である控訴人らの請求において述べたとおりである。
第12

控訴人番号53について
控訴人らは,控訴人番号53が,空調用ダクトを組み立て,保温材を切断し
てダクトに巻き付け,天井裏に潜り込んで吹付け材を剥がしながら設置作業を行ったほか,空調用ダクトの修理,解体作業も行っていたとした上で,耐火被覆材として用いられる吹付け材3種類(別紙5【別紙1】①吹付け石綿,②石綿含有吹付けロックウール,③湿式石綿含有吹付け材のうち,主な使用部位に「耐火被覆材」が含まれないもの及び製造販売期間が足かけ3年に満たないものを除いた製品),使用建物がプラント等の保温材を除く保温材2種(同⑦石綿含有けい酸カルシウム保温材,⑩石綿保温材)を直接取り扱いそれらの石綿粉じんに直接的に曝露した可能性があるとして,それらを主要曝露建材として主張する。
しかしながら,吹付け材3種類については,電工である控訴人らの請求において述べたとおりであり,
被控訴人企業らの責任を問うことはできない。
また,
保温材についても,⑦,⑩の2種類に限定されているものの,⑩について出荷量もシェアも明らかではないから,仮に他に競合関係にある保温材がないとしても,⑦,⑩についてのシェアを認定することはできず,到達の推認の前提を欠き,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,控訴人番号53の被控訴人企業らに対する請求は,その余の点について検討するまでもなく理由がないこととなる。
第6節

消滅時効の成否(争点6)
被控訴人企業らは,控訴人らが,国交省データベース等から石綿含有建材を
製造・販売したものを容易に加害者とすることができ,遅くとも労災認定等を受けた時点で,
石綿が原因で特定の疾患に罹患したとの認識に至っており,
「損
害及び加害者を知った」といえる旨主張する。
しかし,民法724条にいう被害者が加害者を知った時とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれを知った時を意味し(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照),被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう(最高裁平成14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)と解するのが相当である。しかるところ,石綿含有建材は多数の石綿建材企業から数多くの製品が販売されており,控訴人らはそれぞれ複数の石綿建材企業から販売された複数の種類の製品を取り扱いそれらから発散する石綿粉じんに曝露した可能性がある一方,石綿関連疾患は一般に長期間の潜伏期間を経た後に発症するものであるから,控訴人らが,一般的に,石綿関連疾患を発症した時点やその後労災認定等を受けた時点において,過去に長期間にわたって取り扱った石綿含有建材とその販売企業の特定をすることは,事実上困難であるといわざるを得ず,国交省データベースに石綿含有建材の種類やその販売企業が登録されていたとしても,上記の特定作業が可能となるものでもない。
したがって,予備的主張その2について,国交省データベースが公開されていたことと控訴人らが労災認定等を受けたことから直ちに,控訴人らが労災認定等を受けた時点で「損害及び加害者を知った」と認めることはできず,被控訴人企業らの上記主張を採用することはできない。
第7節

被控訴人国と被控訴人企業との共同不法行為の成否(争点7)
控訴人らは,被控訴人国の国家賠償法上の責任と被控訴人企業らの不法行為
責任とは,共同不法行為(民法719条1項前段)に当たると主張する。そこで検討するに,本件では,被控訴人国の安衛法上の規制・監督権限の不行使と,被控訴人企業らの警告義務違反行為とが競合しているが,そもそも被控訴人企業らは,製品の安全性確保義務の一態様として,第一次的に,製品の使用者に対する警告義務を負っている。これに対し,被控訴人国は,監督官庁として被控訴人企業らに対し規制・監督権限を行使する立場にあるものの,それらの権限は,刑事罰をもって履行を強制すべき最低限度の警告義務を明らかにするものにすぎず,その不行使によって,被控訴人企業らの私法上の義務や責任を限定するものではなく,また,被控訴人企業らが製品の使用者に対し適切に警告義務を果たしていれば,規制・監督権限を行使する必要もないのであるから,その責任は二次的,補充的なものにとどまる。このように,監督官庁である被控訴人国の規制・監督権限の不行使と規制・監督対象者たる被控訴人企業らの行為とは,共同して他人に損害を生じさせるような一体性があるとはいえず,民法719条1項前段の要件に当たらない。
したがって,被控訴人国と被控訴人企業らとの間に共同不法行為は成立しないというべきである。
第8節
第1
1
控訴人らの損害額(争点8)
包括一律請求に基づく慰謝料額の算定について
包括一律請求の適否について
控訴人らは,石綿関連疾患の被災者らの被害に関し,財産的損害については
新たな訴訟の提起を含め別途請求しないことを明らかにした上で,石綿関連疾患の罹患により被った身体的,経済的,社会的被害等によってもたらされる精神的苦痛を包括した慰謝料として,被災者一人当たり一律3500万円を請求している。もとより,これらの被害等は,被災者各自の具体的症状,経済的状況,社会的環境などによりその内容,程度等を異にし得るものであるが,いずれも建築作業現場における石綿粉じんへの曝露により石綿関連疾患に罹患したという共通の事実関係の存在を前提として,被害の内容,程度において各被災者に共通し又は類似するものがあるから,それらを被災者全員に共通する損害ととらえて,一律にその賠償を請求することもできないものではないというべきであり,その場合,共通する損害について基準となる慰謝料額を算定した上で,個別の事情を増減事由として考慮することによって,慰謝料額を算定するのが相当である。
2
基準慰謝料額について
前記第2章第2節第4のほか,証拠(甲A106,107,乙アA45,47,55)及び弁論の全趣旨によれば,石綿肺,肺がん,中皮腫及びびまん性胸膜肥厚の症状,治療方法,予後は概ね次のとおりである。

石綿肺の初期症状は,軽い息切れと運動能力の低下であり,症状が進行すると慢性気管支炎を併発し,咳や喘鳴が現れ,間質性変化の進行と共に呼吸困難が進行し,重度の息切れ,低酸素症,呼吸不全が起こる。石綿肺による器質的変化は不可逆性のものであり,治療方法は,鎮咳剤,去痰剤などの対症療法が中心で,低酸素症に関しては酸素投与を行う。胸部エックス線所見が悪いほど予後が悪く,他のじん肺患者と比べてもはるかに悪かったとの報告がある。


肺がんの一般的症状は,血痰,慢性的な激しい咳,喘鳴,胸痛,体重減少,食欲不振,息切れなどであるが,進行するまで無症状であることも多い。治療方法は,病期等により外科療法,放射線療法,化学療法などから決定されるが,手術の適応とならない場合も多い。非小細胞がんで手術をした場合は,術後の5年生存率は1期80%,2期60%,3期40%,4期10%未満,
放射線治療の場合はこれより悪くなり,
小細胞がんでは,
限局型で放射線療法と化学療法の合併療法を受けた場合の5年生存率が約25%,進展型で化学療法を受けた場合の3年生存率が約10%とされるなど,予後は不良である。


胸膜中皮腫の一般的な症状は,胸水貯留や気胸による息切れ,胸痛,咳が多く,進行すると胸痛や咳がひどくなったり,肺や心臓を圧迫して呼吸困難を伴うことがある。治療として外科療法,化学療法,放射線療法やこれらの併用が行われるが,標準的な治療方法は確立されていない。予後は不良で,中皮腫の診断確定からの生存期間を7~17か月とする報告や,胸膜中皮腫発生時からの生存期間の中央値を15.2か月,2年生存率29.6%,5年生存率3.7%とする報告がある。


びまん性胸膜肥厚の臨床症状・所見には,咳と痰,呼吸困難,喘鳴,反復性胸痛,反復性の呼吸器感染等がある。びまん性胸膜肥厚に対しての加療はなく,石綿肺同様に徐々に進行して,肺活量,全肺気量,静肺コンプライアンスが低下して拘束性肺機能障害をきたし,慢性呼吸不全状態になれば在宅酸素療法による継続的治療が必要になる。
以上のとおり,石綿関連疾患は,進行性があり,予後は不良で,いずれも重大な疾患であることは医学的に明らかである。
そして,
本件の被災者らは,
じん肺,肺がん,中皮腫又はびまん性胸膜肥厚の労災認定を受けた者であるところ,石綿肺に罹患した被災者については,じん肺法が定める管理区分に応じた慰謝料額を定めるのが相当であり,また,肺がん及び中皮腫は,予後が悪く生存率低下が認められ進展時の苦痛も大きいこと,びまん性胸膜肥厚についても,認定の基準として著しい肺機能障害が必要とされていることに照らすと,それらの疾病に罹患した被災者については,じん肺における管理区分4に準じて考えるのが相当である。
そして,控訴人らの各陳述書,控訴人番号1,同6,同9,同12,同13,同14,同28,同29,同31,同35,同54,同58,同66各本人(各原審)及び弁論の全趣旨によれば,被災者らは,息切れ等の症状に始まる肺機能障害等が次第に重篤化していき,仕事を断念せざるを得ず,また,家族や親族の援助,看護がなければ日常生活を送ることができないようになったり,酸素吸入を必要とするようになったり,呼吸困難の発作が生じて入退院を繰り返したり,家族にかける精神的,経済的,肉体的負担に対する深い負い目に苛まれたりするなか,苦痛のうちに死を迎えた被災者は多く,生存中の被災者である控訴人らも将来に強い不安を感じながら生活していることが認められる。
このほか,本件の被災者らが収入の減少,治療関係費など少なからぬ経済的負担を負っていること自体は認められるものの,他方で労災保険給付等を受給して,平成26年6月末日時点でその合計は21億5325万8976円となっているところ(弁論の全趣旨),これらの事情も慰謝料額の算定に当たっての一要素として斟酌されるべきである。
以上を踏まえると,本件の被災者らについて慰謝料の基準となる額は,次のとおりとするのが相当である。
石綿肺(管理区分2,合併症あり)

1300万円

石綿肺(管理区分3,合併症あり)

1800万円

石綿肺(管理区分4),肺がん,中皮腫,びまん性胸膜肥厚
2200万円
石綿関連疾患による死亡

2500万円

第2

被控訴人国の負担すべき損害額について

1
被控訴人国の責任の範囲を踏まえた修正
職場における労働者の安全と健康の確保は,本来,労働契約上の安全配慮義務を負担する事業者によって行われるべきものであり,事業者は単に安衛法の定める最低基準を遵守するだけでなく,職場の安全・衛生水準の向上・改善のために努力することが期待されている(安衛法3条1項)。また,労働災害の防止には労働者の協力が不可欠であることから,労働者は労働災害防止のため安衛法に定められた必要な事項を守るほか,事業者その他関係者の実施する労働災害防止のための措置に協力するよう努めなければならないとされている(安衛法4条)。被控訴人国の安衛法上の規制権限は,事業者が負担する労働者の健康・安全確保のための第一次的な責任と労働者のこれに協力する義務を前提として,最低限の基準を定め,罰則等をもって,その履行を監督するものであり,第二次的・補完的な責任と位置づけられるものである。同様に,原材料等の供給者は,これを使用する労働者に対して,私法上,製品の安全性確保義務を負担しており,これが適切に履行される限り,被控訴人国の安衛法上の権限行使が不要になるという意味で,被控訴人国の責任は第二次的なものということができる。このような被控訴人国の負担する責任の性質に加えて,本件においては,被控訴人国による規制権限の行使等と建築作業現場における労働者の石綿粉じん曝露及び石綿関連疾患の発症との間には,事業者及び石綿建材企業の行為のほか,労働者自身の行為が介在し,被控訴人国による規制権限の行使があれば,建築作業現場における労働者の石綿粉じん曝露を抑制することにより,石綿関連疾患の発症時期や程度などの点において労働者の被害の発生ないし拡大を相当程度防止することができたとはいえるが,その全てを防止することができたとまでは断じ難い。加えて,被控訴人国は,実効性の点において不十分であったとはいえ,規制権限を行使してきたこと等を勘案すると,損害の公平な分担の観点から,被控訴人国が賠償責任を負うのは被災者に生じた損害の3分の1(端数がある場合は1円未満を切り捨てる。以下同様)を限度とするのが相当である。
2
被控訴人国の責任期間に応じた修正
前記第2章第2節第4のとおり,石綿関連疾患のうち,石綿肺は大量の石綿粉じんに曝露することによって発生する疾病であり,肺がんは石綿粉じん曝露との間に量・反応関係が認められる疾病であり,中皮腫はそのほとんどが石綿粉じん曝露を原因とする疾病であり,びまん性胸膜肥厚も石綿粉じんに一定期間曝露したときに有所見率が高くなることなどが報告されている疾病である。石綿関連疾患に関する国際的な診断基準としてヘルシンキ・クライテリアがあり,これらの医学的知見等を踏まえた専門家による検討(乙ア165)を経て,石綿による疾病の労災認定基準が定められているところ(乙ア44,168),同認定基準によれば,石綿関連疾患の労災認定手続は,X線写真検査を中心に,肺機能検査等の客観的資料や石綿粉じん曝露作業歴に基づき,専門家の審査を経て行われる信用性の高いものということができる。したがって,石綿粉じん曝露作業歴を有し,石綿関連疾患の労災認定を受けた各被災者は,石綿粉じん曝露作業により石綿関連疾患を発症したものと推認することができる。
一般に,石綿肺については,曝露開始から発症まで10年以上とされ,肺がんについても,胸膜プラーク等の石綿曝露所見が認められ,石綿曝露作業に概ね10年以上従事したことが確認された場合には,石綿を原因とする肺がんとみなせる程度の石綿曝露があったとみなすことができるとされていることからすると,被控訴人国の責任期間が10年以上となる被災者については,その期間の石綿粉じん曝露のみでも石綿肺又は肺がんに罹患する危険性が高いということができる。そうすると,石綿肺又は肺がんに罹患した被災者で被控訴人国の責任期間が10年以上であるものについては,その期間における石綿粉じん曝露のみでも各疾患を生じさせるに十分であったということができ,その余の期間において石綿粉じんに曝露していたとしても,被控訴人国の責任が否定されたり,寄与度を限度とするものとして減額されるべきではないというべきである。他方で,被控訴人国の責任期間が10年に満たない者については,被控訴人国の責任期間以外の期間における石綿粉じん曝露も一定の限度で石綿肺又は肺がんの発生に寄与したとみるべきであるから,期間に応じて慰謝料の減額をするのが相当であり,具体的には,被控訴人国の責任期間が10年に満たないときには,1年ごとに1割ずつ減額するのが相当である。さらに,被控訴人国の責任期間が1年に満たないときには,他の期間における石綿粉じん曝露が石綿関連疾患の発症原因となったとみるべきであるから,被控訴人国の規制権限不行使等と石綿関連疾患の発症との因果関係が否定される。

また,中皮腫については,概ね1年以上の石綿曝露作業従事歴が認められる場合に職業曝露によるものとみなされるとされていることからすると,被控訴人国の責任期間が1年以上のときには,被控訴人国の責任期間内の石綿粉じん曝露のみでも中皮腫を生じさせるに十分であったということができ,その余の期間において石綿粉じんに曝露していたとしても,被控訴人国の責任が否定されたり,寄与度を限度とするものとして減額されるべきではない。被控訴人国の責任期間が1年に満たないときには,その余の曝露期間などの事情を勘案して,個別に検討することとせざるを得ないと解される。

さらに,びまん性胸膜肥厚については,概ね3年以上の職業曝露歴を有する場合に,石綿曝露によるものと考えてよいとされていることからすると,被控訴人国の責任期間が3年以上である場合には,その期間における石綿粉じん曝露のみでもびまん性胸膜肥厚を生じさせるに十分であったということができ,その余の期間において石綿粉じんに曝露していたとしても,被控訴人国の責任が否定されたり,寄与度を限度とするものとして減額されるべきではないというべきである。他方で,被控訴人国の責任期間が3年に満たない者については,被控訴人国の責任期間以外の期間における石綿粉じん曝露も一定の限度でびまん性胸膜肥厚の発生に寄与したとみるべきであるから,被控訴人国の責任期間が3年に満たないときには,1年ごとに3分の1ずつ減額するのが相当である。

3
肺がんを発症した被災者の喫煙歴による修正
前記第2章第2節第4で引用した原判決17・18頁に記載のとおり,IPCS(国際化学物質安全計画)は,喫煙歴も石綿曝露歴もない人の発がんリスクを1とすると,喫煙歴があって石綿曝露歴がない人では10.85倍,喫煙歴がなく石綿曝露歴のある人では5.17倍,喫煙歴も石綿曝露歴もある人では53.24倍になると指摘している。もとより,喫煙歴の有無にかかわらず,石綿粉じん曝露による肺がん発症リスクは増加するのであるから,肺がんを発症させ得る程度に石綿粉じん曝露作業に従事した被災者が現実に肺がんに罹患した以上,被災者の石綿粉じん曝露作業と肺がんとの間には因果関係があり,喫煙歴を有することから直ちに石綿粉じん曝露と肺がんの因果関係が否定されることにはならないというべきであるが,喫煙歴が石綿による肺がんのリスクを相乗的に高め,肺がん発症に一定の影響を与えていることは否定し難い。
したがって,損害の公平な分担の見地から,肺がんに罹患した被災者のうち喫煙歴を有する者の慰謝料額を算定するに当たっては,民法722条2項を類推適用し,喫煙歴のあることを斟酌するのが相当である。もっとも,本件で提出されている医学的証拠によっても,喫煙量・喫煙歴の寄与割合を厳密に切り分けることは困難である上に,喫煙すること自体は社会的に許容された嗜好であり,健康に対する警告も一般的なものにとどまっていたことを勘案すると,減額は控えめに,かつ一律に行うのが相当であり,慰謝料額の1割を減額するのが相当である。
4
労働関係法令の不遵守について
労働者の保護具の着用義務は,事業者から使用を命じられることを要件とするものであるところ,控訴人らが事業者から防じんマスクの着用を命じられながらこれを着用しなかったことを認めるに足りる証拠はない。また,控訴人らの使用者による労働関係法令の不遵守は控訴人らの慰謝料額に影響すべきものではない。したがって,労働関係法令の不遵守を理由に控訴人らの慰謝料額を減額すべき理由はない。

5
弁護士費用
控訴人らは,控訴人ら代理人に対し,本件訴訟の追行を委任したところ,本件訴訟の内容,審理の経過,認容額等の諸般の事情を考慮すると,被控訴人国の責任と相当因果関係のある弁護士費用として,それぞれの慰謝料額の1割に相当する金額を認めるのが相当である。

第3
1
被控訴人企業らの負担すべき損害額について
被控訴人企業らの責任
前記第5節で認定判断したとおりである。

2
肺がんを発症した被災者の喫煙歴による修正
前記第2の3のとおり,肺がんを発症した被災者のうち喫煙歴を有する者は,民法722条2項の類推適用により,慰謝料額の1割を減額することとする。
3
防じんマスクを着用しなかったことについて
控訴人らは,被控訴人企業らが警告義務を怠ったことにより,自ら取り扱った建材が石綿を含有していることやその危険性を明確に認識することができなかったのであるから,控訴人らが防じんマスクを着用しなかったことをもって過失相殺をする理由はない。
また,控訴人番号23が特定化学物質等作業主任者の資格を取得したのは昭和54年9月のことであり(甲E23の1の2),被控訴人エーアンドエーマテリアルらの責任が認められる曝露期間の多くはそれ以前のことであるから,控訴人番号23が上記資格を取得していたことをもって権利濫用ないし過失相殺による減免をするのは相当とはいえない。

4
弁護士費用
前記第2の5と同様,被控訴人企業らの責任と相当因果関係のある弁護士費用としては,それぞれ慰謝料額の1割に相当する金額と認めるのが相当である。

第9節
第1
1
結論
以上によれば,控訴人らの被控訴人らに対する請求は,次のとおりとなる。被控訴人国に対する請求
前記第3節,第4節,第8節第2で認定,判断したところによれば,被控訴
人国が責任を負うのは,別紙4の「国の責任期間」欄に1年以上の期間の記載がある控訴人(被災者)についてであるところ,それぞれの発症疾患とその転帰,国の責任期間,肺がんを発症したときは喫煙歴に基づき,被控訴人国が負担すべき慰謝料額は,別紙4の「国の金額」欄の記載のとおりであり,これに弁護士費用,相続・承継を考慮して,控訴人ごとに認容されるべき金額は,別紙2の「被控訴人国」「認容額」欄記載のとおりとなる。
したがって,別紙2の「被控訴人国」「認容額」欄に記載のある各控訴人の同被控訴人に対する請求は,被控訴人国に対し,国賠法1条1項に基づき,それぞれ,各控訴人に対応する上記欄記載の金員及びこれに対する「遅延損害金起算日」欄記載の各年月日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容されるべきであり,その余は理由がないからいずれも棄却されるべきである。また,別紙2の「被控訴人国」欄が空白である各控訴人の被控訴人国に対する請求は,いずれも理由がないから棄却されるべきである。
2
被控訴人企業らに対する請求
被控訴人エーアンドエーマテリアル,被控訴人神島化学工業,被控訴人ニチアス及び被控訴人エム・エム・ケイに対する請求
前記第5節で認定,判断したところによれば,被控訴人エーアンドエーマテリアル,被控訴人神島化学工業,被控訴人ニチアス及び被控訴人エム・エム・ケイが責任を負うのは,別紙4の「企業の責任」欄に当該被控訴人の記載がある控訴人(被災者)についてであるところ,それぞれの発症疾患とその転帰,同被控訴人の責任の種類及び寄与度,肺がんを発症したときは喫煙歴に基づき,
上記各被控訴人がそれぞれ負担すべき慰謝料額は,
別紙4の
「企
業の金額」欄の記載のとおりであり,これに弁護士費用,相続・承継を考慮して,控訴人ごとに認容されるべき金額は,別紙2の各被控訴人企業の「認容額」欄記載のとおりとなる。
したがって,別紙2の各被控訴人企業の「認容額」欄に金額の記載のある各控訴人の当該被控訴人に対する請求は,当該被控訴人に対し,民法709条に基づきそれぞれ(控訴人(5),同(8),同(14),同(48の1)及び同(48の2)においては,同条及び民法719条1項後段に基づき被控訴人エーアンドエーマテリアル,同ニチアス及び同エム・エム・ケイの連帯で),各控訴人に対応する上記欄記載の金員及びこれに対する「遅延損害金起算日」欄記載の各年月日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないからいずれも棄却されるべきであり,また,別紙2の各被控訴人企業の「認容額」欄が空白である各控訴人の当該被控訴人に対する請求は,いずれも理由がないから棄却されるべきである。
その余の被控訴人企業らに対する請求
控訴人らの被控訴人旭硝子,同旭トステム外装,同ウベボード,同永大産業,同クボタ,同ケイミュー,同倉敷紡績,同クリオン,同壽工業,同小松ウオール工業,同JFE建材,同昭和電工建材,同新日鉄住金化学,同住友大阪セメント,同積水化学工業,同大建工業,同大阪ソーダ,同太平洋セメント,同チヨダウーテ,同DIC,同デンカ,同東洋テックス,同東レACE,同LIXIL,同ナイガイ,同ニチハ,同日東紡績,同日本インシュレーション,同日本碍子,同日本化成,同日本バルカー工業,同ノザワ,同ノダ,同福田金属箔粉工業,同フクビ化学工業,同文化シヤッター,同明和産業,同吉野石膏及び同淀川製鋼所に対する各請求は,いずれも理由がないから棄却されるべきである。
第2

よって,別紙2の「被控訴人国」
「被控訴人エーアンドエーマテリアル」
「被

控訴人神島化学工業」「被控訴人ニチアス」「被控訴人エム・エム・ケイ」欄のいずれかに金額の記載のある控訴人らの当該被控訴人らに対する控訴に基づき,原判決中,前記第1と結論を異にする上記当事者間に関する部分を前記第1の趣旨に変更し,上記各欄のいずれかが空白である各控訴人の当該被控訴人に対するいず
れも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。なお,上記の変更に係る部分については,当該控訴人ら申立ての仮執行宣言を付する(被控訴人国については申出によりその執行開始時期を本判決が被控訴人国に送達された後14日経過した時とする。)とともに,被控訴人国,同エーアンドエーマテリアル,同神島化学工業及び同ニチアスの申立て並びに職権により,担保を条件とする仮執行免脱宣言を付することとする。
東京高等裁判所第5民事部

裁判長裁判官

永野厚郎
裁判官

中山雅之
裁判官

筈井卓

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