判例検索β > 平成28年(わ)第327号
覚せい剤取締法、関税法違反被告事件
事件番号平成28(わ)327
事件名覚せい剤取締法,関税法違反被告事件
裁判年月日平成29年11月22日
法廷名福岡地方裁判所
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平成29年11月20日宣告
同第540号

覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事

件判決主文
被告人3名をそれぞれ懲役17年及び罰金600万円に処する
被告人A及び同Bに対し,未決勾留日数中各500日を,被告人Cに対し,未決勾留日数中460日を,それぞれその懲役刑に算入する。被告人3名においてその罰金を完納することができないときは,それぞれ金1万円を1日に換算した期間,
その被告人を労役場に留置する。
被告人3名から,福岡地方検察庁で保管中の覚せい剤109袋(同庁平成28年領第840号符号1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,23,25,27,29,31,33,35,37,39,41,43,47,49,51,53,55,57,59,61,63,65,69,71,73,75,77,79,81,83,85,87,91,93,95,97,99,101,103,105,107,109,113,115,117,119,121,123,125,127,129,131,135,137,139,141,143,145,147,149,151,153,157,159,161,163,165,167,169,171,173,175,179,181,183,185,187,189,191,193,195,197,201,203,205,207,208-1,209,211,213,215,217,219,242ないし248)
及び漁船X丸1隻
(同庁同年領第832号符号28)
を没収する。


(罪となるべき事実)
被告人A,同B及び同Cは,分離前相被告人D及び同Eらと共謀の上,営利の目的で,みだりに,覚せい剤を日本国内に輸入しようと考え,平成28年2月6日,東シナ海公海上において,国籍不明の船舶から,日本国外で積載された覚せい剤約99905.936グラム(福岡地方検察庁平成28年領第840号符号1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,23,25,27,29,31,33,35,37,39,41,43,47,49,51,53,55,57,59,61,63,65,69,71,73,75,77,79,81,83,85,87,91,93,95,97,99,101,103,105,107,109,113,115,117,119,121,123,125,127,129,131,135,137,139,141,143,145,147,149,151,153,157,159,161,163,165,167,169,171,173,175,179,181,183,185,187,189,191,193,195,197,201,203,205,207,208-1,209,211,213,215,217,219,242ないし248はいずれもその鑑定残量)を,被告人B及び同C両名が乗船する漁船X丸(同庁同年領第832号符号28)に積み替え,同月8日,徳之島南東の領海上において,同船に積載された上記覚せい剤を,上記Eらが乗船する漁船Y丸に積み替え,同日,同船を鹿児島県大島郡徳之島町所在の山漁港岸壁東端付近に接岸させ,被告人Aらが,同船に積載された上記覚せい剤を陸揚げし,もって覚せい剤を日本国内に輸入するとともに,関税法に規定する輸入してはならない貨物である覚せい剤を輸入した。(事実認定及び罪数判断の補足説明)
第1

争点

平成29年8月28日付け訴因変更請求書による訴因変更後の公訴事実(以下
「本
件公訴事実」という。
)の要旨は,
「第1

被告人3名は,D及びEらと共謀の上,

営利の目的で,みだりに,覚せい剤を日本国内に輸入しようと考え,平成28年2月6日,東シナ海公海上において,国籍不明の船舶から,日本国外で積載された覚せい剤約99905.936グラムを,被告人B及び同C両名が乗船する漁船X丸に積み替え,同月8日,徳之島南東の領海上において,同船に積載された前記覚せい剤を,前記Eらの乗船する漁船Y丸に積み替え,同日,同船を鹿児島県大島郡徳之島町所在の山漁港岸壁東端付近に接岸させ,被告人Aらが,同船に積載された前記覚せい剤を陸揚げし,もって覚せい剤を日本国内に輸入するとともに,関税法に規定する輸入してはならない貨物である覚せい剤を輸入し,第2

被告人Aは,前

記D及び前記Eらと共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成28年2月10日,鹿児島市城南町の鹿児島新港に停泊中のフェリー内に駐車中の自動車内において,前記覚せい剤を所持し」たというものであるが,本件の争点は,①覚せい剤営利目的輸入及び関税法違反の各罪に関し,被告人3名がいずれも正犯としての刑事責任を負うと評価できるか,あるいは幇助犯の責任を負うにとどまるか,②被告人Aにつき,本件公訴事実第1の覚せい剤営利目的輸入罪とは別に本件公訴事実第2の覚せい剤営利目的所持罪が成立するか否かの2点であり,以下それぞれ検討する。第2

前提事実

関係各証拠によれば,本件犯行の経緯等につき,当事者間に争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実として,以下の事実が認められる。分離前相被告人D(以下「D」という。
)は,a組系暴力団の元幹部組員,分離前
相被告人E(以下「E」という。
)は,b組系暴力団の幹部組員,被告人A及び同C
は,b組系暴力団の組員(犯行当時)
,被告人Bは,a組系暴力団の元組員であり,
被告人A,同B及び同Cは,いずれもEを親分とする親分子分の関係にあった。Dは,知人であるb組系暴力団組長の指示を受け,相当量の覚せい剤を調達するために関係者への指示や連絡をしていたところ,Eとの間で,遅くとも平成27年10月頃までには,Eが用意した船舶で覚せい剤を運搬し陸揚げする方法で覚せい剤を密輸入する計画(以下,この密輸入を「本件密輸入」という。)が立てられた。
被告人Aは,同年11月にEの指示で中国へ渡航し,Dから渡された覚せい剤の密輸入代金の一部である現金700万円とEから渡された海図を中国側の人物に渡し,同年12月にもEの指示で中国へ渡航し,Eから渡された緯度や経度のような数字が記載されたメモを中国側の人物に渡し,代わりに中国側の人物から聞いた日程をDらに伝えるなどし,こうした関わりの中で,覚せい剤を含む違法な薬物等の取引に関わっているかもしれないと認識した。同月頃,被告人Bは,Eから,船に乗って物を取ってくるよう指示され,一方,被告人Cも,EからEの船を高知港から徳之島まで運ぶよう指示され,両名ともEが所有する漁船X丸(以下「漁船X丸」という。
)に乗船することとなった。その後,被告人B及び同Cは,Eから,洋上で荷物を受け取ることのほか,万が一のときには受け取った荷物に重りをつけて海に沈めるよう指示されたため,両被告人は,洋上で受け取るのが覚せい剤を含む違法な薬物等であろうことを認識した。
被告人B及び同Cは,平成28年1月15日,漁船X丸に乗船し,高知県所在の高知港から宮崎県所在の油津港を経て,同月28日頃,鹿児島県所在の枕崎港に入港した。この間,被告人Bは,自らEに依頼して洋上で必要となる衛星電話やGPSのデータなどを入手し,被告人Cも,被告人Bと共に土嚢袋を準備したり,知人を通じて,受け取った物を投棄する際の重りに使用するための砂利を入手するなどした。被告人B及び同Cは,同年2月3日,被告人Bが漁船X丸を操船し,同港を出港して東シナ海公海上の定められたポイントに向かい,同月6日,上記ポイントにおいて,国籍不明の相手船から複数の段ボール箱に入った覚せい剤(以下「本件覚せい剤」という。
)を受け取り,被告人Cが本件覚せい剤を段ボール箱から砂利入
りの土嚢袋10袋(以下「本件土嚢袋」という。
)に移し替えたが,その後,漁船X
丸の機関の故障により,鹿児島本土を目指すという当初の予定を変更して徳之島に向かった。この間,被告人Cは,漁船X丸の船内において,上記行為のほか,Eと衛星電話で連絡をとったり,船の機関の状態の確認や応急措置等を行ったりしていた。被告人B及び同Cは,同月8日,徳之島南東の領海上において,Eらが乗船する漁船Y丸(以下「漁船Y丸」という。
)に本件覚せい剤を積み替えた。そして,E
に命じられて徳之島に来ていた被告人Aは,同日,Eの指示を受け,徳之島の山漁港に接岸した漁船Y丸からEの軽トラックに本件覚せい剤を積み替えて陸揚げし,さらに,これを上記軽トラックから軽自動車(以下「本件レンタカー」という。)に
積み替えた。なお,被告人Bは,徳之島到着後,自らの判断で,漁船X丸の船内に放置されていたメモなどを廃棄し,GPSの航路データも消去した。被告人Aは,同月9日,Eから指示を受け,本件土嚢袋に入った状態の本件覚せい剤を積んだ本件レンタカーを運転してフェリーに乗船し,鹿児島県所在の鹿児島新港に向かった(なお,同港に到着するまでの間,本件レンタカーを停めた場所に人が立ち入ることはできなかった。
)が,同月10日,鹿児島新港に停泊中のフェリ
ー内に駐車中の本件レンタカー内において本件覚せい剤を営利目的で所持したとして現行犯逮捕された。
第3

被告人3名がいずれも正犯としての刑事責任を負うと評価できるか,あるい
は幇助犯の責任を負うにとどまるか(争点①)
1
被告人Aについて

被告人Aは,Eの指示で中国への渡航を重ね,その際に現金や洋上のポイントが記載されたメモを中国側の人物に交付することなどを通じて,自身が覚せい剤を含む違法な薬物等の取引に関与しているのではないかとの認識を持つに至り,その後,
本件密輸入を実行する段階では,本件覚せい剤の陸揚げという密輸入の核心部分の行為を行い,さらに,本件レンタカーに本件覚せい剤を積み替えて,鹿児島新港まで運搬するという役割も担っている。このように,被告人Aは,本件密輸入の計画を具体化する段階から本件犯行に関与し,核心部分の行為等も行っているのであって,本件密輸入において,自分たちの犯罪を犯したといえる程度に重要な役割を果たしたものと認められる。
以上によれば,被告人Aは,幇助犯ではなく正犯としての刑事責任を負うものと評価すべきである。
2
被告人B及び同Cについて
被告人Bは,Eから当初洋上での荷物の受取を指示された時点で,自身が覚せい剤を含む違法な薬物等の密輸入に関与することになるのではないかと認識し,その後徐々にその認識を深めながらも,本件密輸入が発覚した場合に備えて,被告人Cと共に土嚢袋や砂利などを準備した上で,漁船X丸の操船を行うことで本件覚せい剤を国籍不明船から受け取り運搬し,漁船Y丸への積替えも行っている。一方,被告人Cも,Eから洋上での荷物の受取を指示されて以降は,自身が覚せい剤を含む違法な薬物等の密輸入に関与することになるのではないかと認識しながらも,被告人Bと共に出港の準備をした上で,漁船X丸に乗船し,操船以外の船上での作業全般を行い,本件覚せい剤の漁船Y丸への積替えも行っている。被告人B及び同Cによる洋上での本件覚せい剤の受取・運搬等の行為がなければ,本件密輸入が完遂することはなかったのであり,両被告人は,いずれも,自分たちの犯罪を犯したといえる程度に重要な役割を果たしたものと認められる。
以上によれば,被告人B及び同Cは,いずれも幇助犯ではなく正犯としての刑事責任を負うものと評価すべきである。
3
これに対し,各弁護人は,被告人3名は,Eと絶対服従の関係にあり,その
指示を断ることができずにやむを得ず本件密輸入に関与しただけであり,果たした役割も重要ではなかったなどとして,いずれも自分たちの犯罪として本件密輸入を行ったものではないと主張している。確かに,被告人3名は,Eの指示に従って終始行動していたものであるが,被告人A及び同Cは,暴力団組員として活動する中でEと濃密な関係を保ち,被告人Bは,暴力団から脱退した後もEとの関係を継続する中で,いずれも報酬等の何らかの見返りをも期待しつつ,Eの子分として親分であるEと一体となって行動し,それぞれが与えられた役割を果たすことで本件密輸入の犯行を実現させているのであって,各被告人が果たした役割も前述したように重要であったと認められる。したがって,各弁護人の主張は理由がない。第4

被告人Aにつき,覚せい剤営利目的輸入罪とは別に覚せい剤営利目的所持罪
が成立するか否か(争点②)
覚せい剤の密輸入者が密輸入した覚せい剤を所持する場合の両者の罪数関係については,その所持が輸入行為に伴う必然的結果として一時的になされるにすぎないと認められるときは密輸入の罪に吸収されて所持の別罪を構成しないが,その所持が輸入行為の必然的結果を離れて社会通念上別個独立の行為として評価し得る場合には別罪を構成し,両者は併合罪の関係に立つと解すべきである。そこで検討すると,本件覚せい剤はもともと鹿児島本土に陸揚げすることが計画されており,徳之島に陸揚げすることになったのは,漁船X丸の機関の故障という偶発的な事情によること,徳之島に陸揚げされて以降,本件覚せい剤は本件土嚢袋に入れられた状態のままで所持の形態に実質的な変化がなかった上,徳之島から鹿児島新港までのフェリー内では,本件覚せい剤を積んだ本件レンタカーは人の立入りができない場所に停められており,鹿児島新港に到着するまでの間に本件覚せい剤が拡散する現実的危険もなかったこと,本件覚せい剤は,鹿児島新港に停泊中のフェリー内で押収されるに至っており,鹿児島新港に陸揚げすらされていないことなどといった本件の事実関係のもとでは,徳之島から鹿児島までの距離が長距離であり,フェリーでの移動に2日間を要したことなど,検察官指摘の事情を踏まえても,本件覚せい剤の所持は輸入行為に伴う必然的結果として一時的になされたにすぎず,輸入行為の必然的結果を離れて社会通念上別個独立の行為であるとまでは評価することができないので,本件覚せい剤営利目的所持罪は,本件覚せい剤営利目的輸入罪に吸収されて別罪を構成しないと解すべきである。
(量刑の理由)
本件は,b組系暴力団の組員(犯行当時)の被告人A及び同C並びにa組系暴力団の元組員の被告人Bの3名が,b組組員や暴力団関係者らと共謀の上,覚せい剤約100キログラムを船舶で日本国内に密輸入したという事案である。まず,被告人3名に共通の犯情について見ると,本件は,複数の暴力団組員や暴力団関係者らが,船舶や人員,資金などを準備した上で,暴力団組員や関係者らへの指示役,覚せい剤の運び役等といった役割を分担して敢行した極めて組織的・計画的な犯行であり,
結果として覚せい剤が社会に流通することこそなかったものの,
密輸入された覚せい剤は膨大な量にのぼっている。社会に甚大な害悪を拡散させる危険性を有する極めて悪質な犯行といえるし,暴力団組織が本件犯行によって得たであろう利益も莫大である。
次に,被告人3名の個別の犯情について見ると,被告人Aは,本件覚せい剤の密輸入計画を具体化する段階から本件犯行に関与し,本件密輸入を実行する段階においては,本件覚せい剤の陸揚げという密輸入の核心部分の行為を行ったほか,その後の運搬も担うという重要な役割を果たしている。また,被告人B及び同Cは,漁船X丸に乗船して,被告人Bが操船を,被告人Cが操船以外の作業全般をそれぞれ担当し,互いに協力し合いながら,洋上での本件覚せい剤の受取・運搬という本件密輸入を実行する上で欠かすことのできない重要な役割を果たしている。他方で,被告人3名は,いずれもEの指示を受け,密輸入計画の全体像を知らされないまま本件犯行に関与することになったもので,本件犯行における立場がいずれも従属的なものにとどまる点は,非難の程度を低くする事情といえるが,既に述べたように,被告人3名ともにEとの親分子分の関係のもとで,Eから何がしかの見返りないし報酬が得られることを期待して本件犯行に関与したものと考えられるから,この点を量刑上有利に考慮するにはおのずと限度がある。
以上によれば,本件の犯情は,10キログラム以上の覚せい剤を日本国内に密輸入した犯行に従属的立場で関与した事案の中では,相当に重い部類に位置するといえる。その上で,被告人3名の犯情を比較すると,それぞれの役割自体は異なるものの,果たした役割の重要性について有意な差があるわけではなく,本件犯行に関わることになった経緯や本件犯行における立場もおおむね似通ったものといえるから,犯情の重さは基本的に同等とみるべきである。
以上に加え,被告人Aについては,事実を認めて反省していること,姉と内妻が公判廷に出廷し,監督する旨証言していること,所属していた組から絶縁処分を受け,今後暴力団に所属しないと誓っていること,姉の勤務先の法人の理事長が出所後の雇用を約束していること,被告人Bについては,事実を認めて反省していること,母と内妻が公判廷に出廷し,監督する旨証言していること,前科がないこと,暴力団組員らとの絶縁を誓っていること,被告人Cについては,事実を認めて反省していること,内妻が公判廷に出廷し,監督する旨証言していること,所属していた組から絶縁処分を受け,暴力団組員らとの絶縁を誓っていることなど,刑の調整要素となる被告人3名に有利な一般情状を十分に考慮しても,事案の重大性に鑑みると,
被告人3名をそれぞれ主文の各懲役刑に処することとなるのはやむを得ない。また,営利目的で密輸入した本件覚せい剤が膨大な量であり,この種の犯罪が経済的に見合わないものであることを示すため,主文の各罰金刑を併せて科すこととした。
(検察官の求刑:被告人3名に対してそれぞれ懲役18年及び罰金600万円,主文同旨の没収,被告人Aの弁護人の科刑意見:懲役8年,被告人Cの弁護人の科刑意見:懲役7年)
平成29年11月22日
福岡地方裁判所第3刑事部
裁判長裁判官

足立
裁判官

太田寅彦
裁判官

德井隆一勉
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