判例検索β > 平成29年(う)第12号
住居侵入、窃盗
事件番号平成29(う)12
事件名住居侵入,窃盗
裁判年月日平成29年11月6日
法廷名名古屋高等裁判所
結果破棄自判
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主文
原判決を破棄する
被告人を懲役3年に処する
原審における未決勾留日数中80日をその刑に算入する。
理1由
控訴趣意は控訴趣意書(検察官作成)のとおりであり,答弁は控訴答弁書,
弁論要旨(弁護人作成)のとおりである。論旨は事実誤認(被告人の犯人性をいうもの)の主張である。
2
公訴事実は「被告人は,金品窃取の目的で,平成28年6月9日午前零時頃
から同日午前6時30分頃までの間に,三重県四日市市A町B番C号甲方に,その1階勝手口ドアの施錠を外して侵入し,その頃,同所において,同人ほか1名所有又は管理の現金約7万5002円,商品券1枚(額面1000円)及び腕時計等33点(時価合計45万3100円相当)を窃取したものである。
」というのである。
3(1)

争点は犯人性である(公訴事実のとおり住居侵入・窃盗被害[犯行]が
あったことは証拠上明らかである。。

(2)

原判決は,①被告人が本件窃盗の被害発生から最大で約36時間45分後
に被害品の一部(腕時計)を所持していた事実は,被告人が本件窃盗の犯人であることを相当程度強く推認させるが,本件窃盗以外の方法で入手した可能性が直ちに否定できるほど高い推認力はないとした上,②被告人が本件腕時計の入手経緯等について述べる内容の全てを信用することは困難であるが第三者から換金を頼まれたという被告人の供述は虚偽であることが明白とはいえず,上記①事実の推認力を飛躍的に高めるとはいえないとし,③被告人が被害現場から近いホテルに偽名で宿泊していた事実,④本件窃盗を行うことのできる道具を本件窃盗の約20日後に所持していた事実はいずれも被告人が本件窃盗の犯人であると推認させる力は(極めて)弱いとし,結局,上記①事実のみでは本件窃盗を行った第三者から換金を依頼されて本件腕時計を渡されたなど本件窃盗以外の方法で入手した可能性を否定できないとして無罪を言い渡した。
4(1)

原判決の上記判断は論理則経験則違反があるというほかなく,破棄を免
れない。
(2)

上記3(2)①

被告人は本件犯行の被害品たる腕時計を四日市市内での被害発生(平成28年6月9日午前0時頃から同日午前6時30分頃までの間)の約1日半後(同月10日午後0時45分頃)に名古屋市D区内で所持していたもので(その頃被告人において同区内の質店で換金)
,その時間的場所的近接性に照らし本件腕時計が第三者を
介して流通した可能性はかなり低く,いまだ窃盗犯人の手中にあった蓋然性が高いと考えるのが経験則に合致し,被告人の本件犯行の犯人性が相当強く推認される。(3)

上記3(2)②
本件腕時計の入手経緯に係る被告人の弁解は具体性に乏しく(換金依頼者で
あるGなる人物の素性は全く不分明で実在性すら疑わしい。換金を依頼されたというだけで,その具体的な条件[換金価格,時期,被告人の報酬等]に全く言及がない。,不自然不合理である(Gと被告人間に連絡手段はない上,換金後の待ち合わ)
せ日時場所の取り決めもなく,換金利益を回収するための段取りがあらかじめ講じられていない。たまたま遭遇した人物から換金依頼を受け,その数日後たまたま同人と遭遇して現金を渡したなどというのは御都合主義にもほどがある。。虚偽とい)
うほかはない。

原判決は被告人の弁解の全てを信用することは困難であるが第三者から換金
を頼まれたという弁解は虚偽であることが明白とはいえないとし,その根拠として①被告人が普段からGに盗品等の換金を依頼されてこれを行うなど上記のような段取りを格別講じる必要がないほどの深い関係があり,これを隠している可能性なども否定できない,②被告人が本件腕時計を換金したことで盗品等に関する罪に問われることを危惧し,そのため本件腕時計を渡した者やその者との連絡方法等について曖昧又は虚偽の供述をしている可能性などを否定する事情はないという。①について。被告人の弁解でも被告人とGとの間に特段の深い関係はうかがわれない(被告人はGの具体的な素性を知らず,相互に連絡先を把握していないという。。被告人は住居侵入・窃盗犯として起訴されているのであるから(前科関係に)
照らし有罪ならば相当期間の服役必至である。,自らが処罰されるリスクを犯して)
まで換金依頼者の情報を秘匿するなど考えにくい(秘匿しなければならない何らかの事情[例えば,脅されている等]があればその旨言うはずであるが,そのような供述もない。。②について。そもそも被告人は住居侵入・窃盗犯として起訴されて)
いるのであるから,一般に犯情より軽いと目される盗品等に関する罪(取り分け被告人の場合前科関係に照らし住居侵入・窃盗罪であればより重く処罰されること明らかである。
)に問われる可能性を慮って曖昧虚偽の供述に終始するなど本末転倒で合理性を欠く。
結局原判決の説示は,証拠に基づかない(被告人が供述してもいない)抽象的可能性の存在を合理的な根拠もなく疑い(憶測し)
,これを基に被告人の虚偽弁解の
意味を理解判断するものというべく,重大な論理則経験則違反がある。以上のとおり,上記3(2)①事実(その評価は上記4(2)のとおり)のほか,被告人が本件腕時計の入手経緯について虚偽の弁解をしていることが明らかであり,これらによれば被告人の本件犯行の犯人性は極めて強く推認されるところ,原判決のいう「本件窃盗を行った第三者から換金を依頼されて渡されたなど,本件窃盗以外の方法で入手した可能性」
(5頁)は合理的な疑いといえず,被告人の犯人性は優
に認定できる(以上のみをもっても原判決には明らかに判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があり破棄を免れないところ,原判決には更に後記4(4),(5)のとおりの論理則経験則違反がある。。

(4)

上記3(2)③
関係証拠によれば,被告人は家賃や電気料金を滞納するほど困窮していなが
ら,当時の自宅(名古屋市E区F所在)からさほど遠くない四日市駅近辺のホテル(本件住居侵入・窃盗被害は同ホテル付近の民家で発生した。
)に前日予約の上予
約どおり平成28年6月7日から同月10日まで代金合計2万1000円を前払いして偽名で3連泊した(上記3(1)のとおり本件住居侵入・窃盗はその間の同月9日の深夜から明け方にかけて敢行された。
)ことが認められる。

原判決は,被告人に本件窃盗が十分可能であったとしつつ,本件窃盗発生時
に被害現場周辺に居て犯行可能であった者は多数に上る上,偽名で連泊したことなども直ちに窃盗の目的を推認させるものではないとして,上記4(4)アの事実の被告人の本件窃盗の犯人性に係る推認力は弱いという。
同事実は単に被告人に本件住居侵入・窃盗の犯行の機会があったことを示すにとどまるものでない。被告人がかかる不可解な行動(経済的困窮下気分を変えて普段と違う店でパチンコをするため[あるいは三重県のパチンコ店は名古屋よりも営業時間が1時間長いため-原審公判では宿泊の理由として述べていた。-]わざわざ他県の店にパチンコをやりに行ってホテルに宿泊し,自分の本名が好きではないから偽名を使ったというけれども,甚だ不合理である。虚偽というほかはない。)を
とったことが本件住居侵入・窃盗犯人であることとよく整合する(被告人が本件犯行時間帯に犯行に及ぶにはかかる宿泊が必要となるし,同種前科を有すること等から偽名を用いる必要性も高い。
)のである。原判決は上記4(4)アの事実の意味を適
切に評価していない点で論理則経験則違反がある。また,上記4(4)アの事実はそれのみでの被告人の本件住居侵入・窃盗の犯人性に係る推認力は強くないものの,窃盗被害品近接所持という強い推認力を持つ間接事実の存在(更には同品の入手経緯に係る被告人の虚偽弁解)を前提にこれと相まってこの推認を更に強める事情と評価できる。原判決は上記4(4)アの事実の推認力を他の間接事実から切り離して評価し,それ自体のみでは十分な推認力を持たないとして被告人と本件犯行とを結び付ける事情ではないとした点でも論理則経験則違反がある。
(5)

上記3(2)④
関係証拠によれば,被告人は本件住居侵入・窃盗被害の約20日後,宿泊先
ホテル(四日市市内所在)に置かれたボストンバッグ内にターボライター(強風下でも安定して点火が可能なもの。本件被害者方勝手口の網戸[犯人は同網戸を焼いて穴を空け,勝手口ドアの鍵を解錠して被害者方に侵入した。
]と同種の網戸を焼
いて穴を空けることが可能なことが確認されている。,ミニライト,マルチツール)
(ドライバー,ナイフ,はさみ等が備わったもの)
,軍手(ターボライター,ミニ
ライト,マルチツールはこの軍手にくるまれていた。,プラスドライバー(以上は)
本件住居侵入・窃盗の犯行を敢行するに適する道具ということができる。)を併せ
持っていたことが認められる。

原判決は,これらの道具はいずれも窃盗以外の目的で所持する可能性があり
容易に入手できる物ばかりであるから,これらを併せて所持していたことをもっても被告人が本件窃盗の犯人であると推認させる力は極めて弱いと説示した。被告人が弁解する各道具の用途(ターボライターはたばこ吸引用[なお被告人はたばこと別のライターを一緒に携帯所持していた。,軍手はパチンコ用[コインを]
触る際の手の汚れ防止用]
,ミニライトはかばん内照射用,マルチツールはささく
れ切断用)は,それぞれ別個の機会に使うことが前提であり,上記4(5)アの保管形態(ターボライター,ミニライト,マルチツールは軍手にくるまれて一緒に保管されていた。同一機会での利用が強く推認される。
)と相容れない。上記弁解は虚
偽というほかはない。各道具の使い道,保管形態(更には上記のとおりの道具の用途に係る被告人の虚偽弁解)に鑑み本件犯行のような侵入盗に使う目的で保管していたことは明らかである。原判決は上記4(5)アの事実の意味を適切に評価していない点で論理則経験則違反がある。また,このように被告人が本件犯行日からさほど離れていない時期に本件住居侵入・窃盗の犯行を敢行するに適する道具を併せ所持していた事実は,それのみでの被告人の本件住居侵入・窃盗の犯人性に係る推認力は強くないものの,窃盗被害品近接所持という強い推認力を持つ間接事実の存在(更には同品の入手経緯に係る被告人の虚偽弁解)を前提にこれと相まってこの推認力を更に強める事情といえる。原判決は上記4(5)アの事実の推認力を他の間接事実から切り離して評価し,それ自体のみでは十分な推認力を持たないとして切り捨てた点でも論理則経験則違反がある。
(6)

以上のとおり,①本件住居侵入・窃盗の被害発生から約1日半後というか
なり近接した日時に四日市市内と名古屋市内という近接した場所で被害品たる本件腕時計を所持していたことから被告人の本件犯行の犯人性が相当強く推認され,これに②被告人が本件腕時計の入手経緯について虚偽の弁解をしていることを併せ考えると被告人の犯人性が極めて強く推認され,これらのみをもっても被告人の犯人性は優に認定できるところ,更には,③被告人の本件住居侵入・窃盗被害の日時をまたぐ付近のホテルでの偽名での連泊という不可解な行動は被告人が本件犯行の犯人であることとよく整合すること,④被告人が本件犯行日からさほど離れていない時期に本件住居侵入・窃盗を敢行するに適する道具を侵入盗使用目的で併せ所持していたことを併せ考慮すると,上記の推認はより強固なものとなり,これらの事実が偶然に重なり合う可能性は著しく低く,被告人が犯人でないとすれば説明が極めて困難なものといえるから,被告人の犯人性が優に認定できることに疑いの余地はない。被告人を無罪とした原判決には明らかに判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があり,破棄を免れない。論旨は理由がある(刑訴法397条1項,382条,400条ただし書適用)

5
自判

(罪となるべき事実)
被告人は,金品窃取の目的で平成28年6月9日午前0時頃から同日午前6時30分頃までの間に三重県四日市市A町B番C号甲方にその1階勝手口ドアの施錠を外して侵入し,その頃同所で同人ほか1名所有又は管理の現金約7万5002円,商品券1枚(額面1000円)及び腕時計等33点(時価合計約45万3100円相当)を窃取した。
(証拠)
(省略)
(累犯前科)
1
事実
(1)

平成20年5月2日津地方裁判所四日市支部で住居侵入,窃盗,道路交通
法違反罪で懲役2年6月4年猶予(平成22年11月4日猶予取消し),平成27
年5月27日刑執行終了
(2)

平成22年2月2日名古屋地方裁判所で住居侵入,窃盗,建造物侵入罪で
懲役3年,平成25年1月26日刑執行終了
2
証拠

前科調書(乙8)
(法令の適用)
1
罰条

(1)

住居侵入の点

(2)

窃盗の点

2
刑法130条前段

刑法235条

科刑上一罪の処理

刑法54条1項後段,10条(1罪として重い窃盗罪の

刑で処断)
3
刑種の選択

懲役刑

4
累犯加重

5
未決勾留日数(原審)の算入

刑法21条

6
訴訟費用(原審当審)の処理

刑訴法181条1項ただし書(不負担)

刑法56条1項,57条(前記各前科との関係で再犯)

(量刑の理由)
侵入盗である。
深夜から朝方までの間に被害者方に1階勝手口ドア鍵付近の網戸を焼き切って施錠を外して侵入し,現金7万5000円余,商品券1枚(額面1000円)及び腕時計等33点(時価合計約45万3100円相当)を窃取した。手馴れた悪質な犯行である。被害も多額に上る。平成20年5月住居侵入,窃盗(侵入盗3件),道
路交通法違反(無免許)罪で懲役2年6月4年猶予に,平成22年2月住居侵入,窃盗,建造物侵入(侵入盗11件,自転車盗1件,金品窃取目的での事務所侵入1件)罪で懲役3年に各処せられ,上記猶予が取り消されてこれらで引き続いて服役した(いずれも累犯前科)のに,最終刑執行終了後1年1か月を経ずして本件に及んだ。盗癖,規範意識の鈍麻は顕著である。不合理な弁解に終始し反省の態度はみられない。刑責はゆるがせにできない。
被害金品の一部(現金のほとんど等を除いたもの)が還付されていることなどの酌むべき事情を考慮しても,主文の刑が相当である。
(検察官江幡浩行出席)
平成29年11月6日
名古屋高等裁判所刑事第1部

裁判長裁判官

山口裕之
裁判官

大村陽一
裁判官

近藤和久
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