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業務上失火
事件番号平成29(わ)68
事件名業務上失火
裁判年月日平成29年11月15日
法廷名新潟地方裁判所  高田支部
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平成29年(わ)第68号

業務上失火被告事件

平成29年11月15日

新潟地方裁判所高田支部判決

主文
被告人を禁錮3年に処する
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,新潟県糸魚川市a町b丁目c番d号所在の木造瓦葺2階建店舗において,ラーメン店「A」の経営者として火気を使用して各種料理を調理する業務に従事していたものであるが,平成28年12月22日午前9時40分頃,同店の厨房において,竹の子及び水の入った中華鍋をガスコンロの火にかけて加熱するに当たり,そのまま放置すれば,水分が蒸発して同鍋が高温状態となり,同鍋内の内容物及び周囲の油かす等の可燃物が発火し,周囲の壁等に燃え移って火災が発生するおそれがあったのであるから,同所を離れる際にはガスコンロの火を確実に消し,その消火を確認してその場を離れるべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,同鍋をガスコンロの火にかけて加熱していたことを失念して,そのまま同所を離れて帰宅した過失により,遅くとも同日午前10時23分頃までの間に,同鍋の加熱により上記内容物等を発火させて燃え上がらせた上,その火を同鍋付近の壁及び換気ダクト等に燃え移らせ,さらに,その火を同店に隣接するBほか1名が現に住居に使用する木造瓦葺2階建店舗兼住宅等合計147棟に順次燃え移らせ,よって,上記各建物のうち現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物並びに現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない他人の所有に係る建造物合計146棟をそれぞれ焼損した(焼損床面積合計3万0077.65㎡)ほか,上記各建物のうち現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない自己の所有に係る建造物を焼損して(焼損床面積合計135.80㎡)公共の危険を生じさせた。

(量刑の理由)
本件は,ラーメン店の店主である被告人が,厨房内で開店準備のための仕込み作業中,鍋に火をかけたまま店を離れたため,鍋の内容物等が発火して壁や換気ダクトに燃え移り,その結果,自己の店舗及び周辺の店舗住宅等合計147棟の建物を焼損した業務上失火の事案である。
本件犯行によって,被害発生地としては過去最大規模といえる火災が発生し,広範囲にわたって多数の住民の生命身体財産に対する極めて大きな公共の危険が発生するとともに,現に多数の家屋等が焼損しており,その被害の程度は甚大である。このように,本件犯行の結果は大災害ともいうべき重大なものであり,この点は最も重視されなければならない。また,被害者らは,何らの落ち度もないのに,突然の火災により,生活の本拠である住居や営業のための店舗等を失ったものであって,その心情は察するに余りある。一方,これを引き起こした被告人の過失の内容は,鍋を火にかけたままその場を離れるというものであって,料理人としてはもちろん,火気を扱う者としてごく基本的な注意義務に反しており,このこと自体あってはならないことである上,以前にも,火元から離れたことで鍋の底に穴を空けることがあったというのであるから,火元から離れれば火災となりかねないものと容易に予想することができたというべきであって,その注意義務違反の程度は著しく,本件のような重大な結果は,まさに起こるべくして起こったものといわざるをえない。以上からすれば,被告人の責任は相応に重い。
もっとも,本件犯行によって上記のような重大な結果となった要因としては,被告人の過失以外にも,折からの強風により飛散した火の粉が延焼範囲を広げたことなどの当時の気象状況に基づく偶発的な事情の存在も挙げることができ,この点は量刑の上でも十分に考慮する必要がある。
以上の犯情に加えて,被告人が罪を認めていること,被告人の妻が出廷し,今後の監督を誓約していること,被告人に前科前歴がないこと及び本件が大きく報道され,一定の社会的制裁を受けたことなどの被告人に酌むべき事情も考慮すれば,被
告人に対しては,主文の刑を科してその刑事責任が重大であることを明らかにした上で,執行猶予期間を法律の上限である5年間と定め,改めて自らの罪の重さを十分自覚させ,社会内における償いと更生の機会を与えるのが相当であると判断した。(求刑

禁錮3年)

(裁判長裁判官

石田憲一

裁判官

北川幸代

裁判官

尾島祐太郎)

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