判例検索β > 平成27年(ワ)第23087号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成27(ワ)23087
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日平成29年12月6日
法廷名東京地方裁判所
戻る / PDF版
平成29年12月6日判決言渡

同日原本領収

平成27年(ワ)第23087号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

特許権侵害差止等請求事件

平成29年10月6日
判決原告
塩野義製薬株式会社

同訴訟代理人弁護士

大野聖二小林英了田村品川落合
同補佐人弁理士

今野被告M
同訴訟代理人弁護士


同訴訟代理人弁理士

SD田乾啓永康智株会社英一郎裕介仁井優中岡起弥知野恵
同訴訟復代理人弁護士


同補佐人弁理士

矢主実及び理2美子由
請求
被告は,別紙物件目録記載の製品を譲渡し,輸入し,又は譲渡の申出をしてはならない。


訴訟費用は原告の負担とする。
事1子
原告の請求をいずれも棄却する。

2
第1

阿代文1介式今敏
被告は,その占有に係る前項記載の製品を廃棄せよ。

3
被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成27年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4
5
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行宣言

第2

事案の概要

1
本件は,名称を「抗ウイルス剤」とする発明についての特許権(請求項の数3。以下「本件特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1ないし3の発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)を有する原告が,①被告が譲渡,輸入又は譲渡の申出を行っている別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)は本件発明1の技術的範囲に属する,
②(①と選択的に)被告製品は原告による訂正後の本件特許(以下,訂正後の特許請求の範囲請求項1ないし3の発明をそれぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)の本件訂正発明2及び3の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の譲渡,輸入又は譲渡の申出の差止めを求めるとともに,同条2項に基づく被告製品の廃棄
を求め,さらに,不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき,実施料相当額16億円のうち1000万円及びこれに対する不法行為の後の日(本訴状送達の日の翌日)である平成27年8月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2
前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠により容易に認定できる事実)
(1)当事者
原告は,医薬品の製造・販売等を業とする株式会社である。
被告は,医薬品の輸入・製造・販売等を業とする株式会社である。
(2)本件特許権
原告は,次の本件特許権を有している(以下,本件特許に係る明細書を
「本件明細書」という。)。
登録番号
発明の名称

抗ウイルス剤

出日
平成21年3月11日(特願2009-57635)

原出願日

平成14年8月8日(特願2003-521202)


第5207392号

平成13年8月10日(特願2001-245071)

願先日
平成13年12月5日(特願2001-370860)
平成14年6月28日(特願2002-191483)
登録日
平成25年3月1日

(3)本件発明1ないし3の内容
本件発明1ないし3に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。ア
本件発明1
「式(I):
【化1】

(式中,
RAは式:
【化3】

(式中,Z1及びZ3はそれぞれ独立して単結合又は炭素数1~6の直鎖
状若しくは分枝状のアルキレン;Z2は単結合,-S-,-SO-,-NHSO2-,-O-又は-NHCO-;R1は置換されていてもよいフェニル,置換されていてもよい5~8員の芳香族複素環式基,置換されていてもよい炭素数3~6のシクロアルキル又は置換されていてもよいヘテロサイクル(「置換されていてもよい」の各置換基は,それぞれ独立
して,アルキル,ハロアルキル,ハロゲンおよびアルコキシから選択される))で示される基;
Yはヒドロキシ;
Zは酸素原子;
RC及びRDは一緒になって隣接する炭素原子と共に5員又は6員のヘテ
ロ原子を含んでいてもよい環を形成し,該環はベンゼン環との縮合環であってもよい;
RC及びRDが形成する環は,式:-Z1-Z2-Z3-R1(式中,Z1,Z2,Z3及びR1は前記と同意義である)で示される基で置換されていてもよく;

さらに,RC及びRDが形成する環は,式:-Z1-Z2-Z3-R1(式中,Z1,Z2,Z3及びR1は前記と同意義である)で示される基で置換されている以外の位置で,アルキル,アルコキシ,アルコキシアルキル,ヒドロキシアルキル及びアルケニルからなる群から選択される置換基により置換されていてもよい。)

で示される化合物,その製薬上許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する,インテグラーゼ阻害剤である医薬組成物。」イ
本件発明2
「RC及びRDは一緒になって隣接する炭素原子と共に5員又は6員のN原子を含む環を形成する,請求項1記載の医薬組成物。」


本件発明3

「RC及びRDは一緒になって隣接する炭素原子と共に6員のヘテロ原子を含む環を形成する,請求項1記載の医薬組成物。」
(4)本件発明1の構成要件の分説
本件発明1を構成要件に分説すると,別紙「本件特許発明と被告製品の対比」の「2

対比」のうち「構成要件」及び「請求項の記載」欄記載のとお

りとなる。
(5)本件特許の訂正
原告は,平成29年4月13日,特許庁に対し,本件特許の特許請求の範囲を別紙「訂正後の特許請求の範囲」記載のとおり訂正する旨の訂正請求をした(以下「本件訂正」という。本件訂正後の本件発明1ないし3が本件訂
正発明1ないし3である。なお,訂正によって追加された記載に下線を付した。)。(甲73)
(6)本件訂正発明1ないし3の構成要件の分説
本件訂正発明1ないし3を構成要件に分説すると,別紙「本件訂正発明1~3と被告製品の対比」記載のとおりとなる。

(7)被告の行為
被告は,遅くとも本件特許の登録日である平成25年3月1日以降現在に至るまで,被告製品を譲渡し,輸入し,又は譲渡の申出を行っている。(8)被告製品の構造
被告製品の構造は,別紙「本件特許発明と被告製品の対比」の「1
製品」記載のとおりである。
3
争点
(1)本件発明1に係る特許権の侵害

被告製品の構成要件充足性


本件発明1に係る特許の無効
(ア)実施可能要件違反

被告

(イ)サポート要件違反
(ウ)拡大先願要件違反
(エ)新規事項追加

本件訂正による対抗主張の成否
(ア)本件訂正による無効理由の解消の有無

(イ)被告製品の構成要件充足性
(ウ)新たな無効理由の存否
(2)本件訂正発明2及び3に係る特許権の侵害(争点(1)と選択的)(3)損害発生の有無及びその額
第3
1
争点に関する当事者の主張
争点(1)ア(被告製品の構成要件充足性)について

〔原告の主張〕
本件発明1と被告製品の対比は別紙「本件特許発明と被告製品の対比」の「2

対比」記載のとおりであり,被告製品は本件発明1の技術的範囲に含ま
れる。

〔被告の主張〕
被告製品が本件発明1の構成要件AないしC及びEないしJを充足することは認め,構成要件Dを充足することは否認する。被告製品中「Y」に相当する箇所はヒドロキシ(-OH)ではない。
2
争点(1)イ(ア)(実施可能要件違反)について

〔被告の主張〕
(1)薬理データ等の不存在
本件発明1は式(I)のRAの部分がNHCO基である構成(構成要件B)を有するものであるところ,そのようなRAの部分がNHCO基である化合物で本件明細書に記載されているものは,「化合物C-71」(本件明細書214頁)のみである。

この点,本件発明1はインテグラーゼ阻害剤(構成要件H)としてインテグラーゼ阻害活性を有するとされているところ,「化合物C-71」がインテグラーゼ阻害活性を有することを示す具体的な薬理データ等は本件明細書に存在しない。すなわち,本件明細書においては「化合物-71」を含む本件特許発明がインテグラーゼ阻害剤としての治療効果を有することについて,十分な説明がされていない。
原告は,本件特許の特許請求の範囲に記載された化合物(以下「本件特許化合物」という。)についての薬理データ等が存在しないとしても,本件特許の優先日(以下「本件優先日」という。)当時の技術常識と本件明細書の
記載を参酌すれば,当業者は,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有することを容易に理解し得たと主張するが,以下のとおり,原告の主張は理由がない。

本件優先日当時の技術常識は,①抗ウイルス活性を有するインテグラーゼ阻害剤としてキレーター構造を有する化合物が有望とされていた,②インテグラーゼ阻害活性を有すると考えられていたある種の化合物は,
そのキレーター構造がインテグラーゼの活性中心に存在する2価の金属イオンにキレートすることにより,インテグラーゼ阻害活性を発現している可能性がある,③HIVのインテグラーゼの活性中心に存在する金属イオンの数は二つである可能性がある,というものにとどまる。イ
本件優先日当時の当業者は,二つの化学構造が類似しているようであっても,それらの間のわずかな相違点が,当該化合物の活性や薬理作用に大きな影響を与えることがしばしばあることを認識していた。特に,インテグラーゼ阻害剤の場合は,強いインテグラーゼ阻害活性と同活性の完全な喪失との間の違いが,わずかに1個の原子や置換基によってもた
らされ得ることが知られていた(甲26,乙11,15,19)。原告は,出願当初の包括的な化合物(以下「本件発明化合物」とい
う。)の基本的な構造を有すれば,それ以外の構造が変わってもインテグラーゼ阻害活性を有すると合理的に予測することができると主張するが,2メタルキレーター構造と末端に環構造を有する置換基を備える化合物でもインテグラーゼ阻害活性を有しないものは多数存在する。例えば,①甲博士の宣誓書(乙11)に記載された化合物17種類は,2メ
タルキレーター構造と末端に環構造を有する置換基を備えたものであるが,このうち15種類(うち#6,7,9~11は,本件特許化合物)はインテグラーゼ阻害活性を示さず,②Hazudaらにより平成9年(1997年)に発表された文献(乙20)に記載された化合物(8)は2メタルキレーター構造であるが,インテグラーゼ阻害活性を示さず,③
Hazudaらにより平成12年(2000年)に発行された文献(甲4の9)に記載された化合物L-731,942は,キレーター構造及び末端に環構造を有する置換基を備えた化合物であるが,インテグラーゼ阻害活性が大幅に劣っており,④国際公開WO01-17968(甲4の11)に比較例として記載されている化合物X-1~3は,いずれもキレータ
ー構造及び末端に環構造を有する置換基を備えた化合物であるが,インテグラーゼ阻害活性を示さなかった。
本件明細書には,本件発明化合物が「2メタルキレータータイプ」のインテグラーゼ阻害剤である旨の記載はない。前記のとおり,インテグラーゼ阻害剤の分野では,わずかな化学構造の違いでもインテグラーゼ
阻害活性の有無に影響をもたらすことが知られていたのであるから,本件特許化合物とは異なるわずか27種類の本件発明化合物について酵素アッセイの試験結果が記載されていたとしても,その試験結果から,当業者が本件特許化合物全て(約1018個)がインテグラーゼ阻害活性を有すると認識したとは考えられない。


原告は,本件特許化合物の具体例である「化合物C-71」の構造は,
本件明細書において薬理データが示されている「化合物C-26」の構造と非常に類似していると主張するが,本件特許化合物が有するアミド中の-NH-の部分は,水素結合可能な基であり,インテグラーゼはタンパク質であり,水素結合可能なサイトを多数有する。このため,水素結合可能な基が導入された本件特許化合物は,このような基を有しない
化合物と異なる態様でインテグラーゼと相互に作用するであろうことは,当業者であれば当然に予測し得る。

原告は,本件特許の原出願(以下「本件出願」という。)後に本件特許化合物の薬理データを提出するが,明細書に薬理試験結果等の客観的な
裏付けとなる記載が全くないような場合にまで,出願後に提出した薬理試験結果等を考慮することは,特許発明の内容を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する。本件発明1の実施可能要件の充足性の判断において,本件特許出願後に示された薬理試験結果を考慮することは許されない。

(2)細胞アッセイの不実施
当業者は,遅くとも本件優先日当時,インテグラーゼ阻害剤の候補となる化合物のHIVインテグラーゼ阻害を意味のある生理条件的に有益な方法で調べるためには酵素アッセイのみならず細胞アッセイも必須であるという認識を共有していた。そして,酵素アッセイは,試験の対象となる化合物を選
択するための出発点にすぎず,同化合物の阻害活性の可能性を調べる上では十分ではないと認識されていた。
しかるに,本件発明1についてみると,本件明細書には酵素アッセイが行われたことは記載されているものの,進んで細胞アッセイが行われたことは全く示されていないため,本件明細書に接した当業者は,そこに記載された
化合物が実際にインテグラーゼ阻害剤である医薬組成物として効果を有するのか判断することもできず,また判断することもなかった。

(3)小括
以上によれば,本件明細書の記載は,本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,本件発明1に係る特許は特許法36条4項1号の規定に違反してされたものである。
したがって,本件発明1に係る特許は特許無効審判により無効とされるべ
きものである(特許法104条の3第1項,123条1項4号)。〔原告の主張〕
(1)薬理データ等の不存在について
被告の主張の根拠は,本件特許化合物の薬理データが本件明細書に記載されていないことにある。
しかし,以下のとおり,本件特許化合物そのものの薬理データは本件明細書に記載されていないものの,本件明細書には,本件発明化合物の薬理データが豊富に存在しており,本件優先日当時の技術常識及び本件明細書全体の記載を参酌すれば,当業者は,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を
有すると理解できた。

本件優先日当時,①HIVインテグラーゼの活性中心に金属イオンを有し,その金属イオンの数は2個であるとの考えが広く知られていた(甲4の5,4の12~15,甲26,28),②インテグラーゼ阻害剤としてキレータータイプが有望であった(甲4の6,4の7,甲25~27),③キレータータイプのインテグラーゼ阻害剤の多くは,キレータ
ー部分に加えて,末端に環構造を有する置換基を有していた(甲4の8~11,甲25),との技術常識が存在した。

こうした本件優先日当時の技術常識をもって本件明細書に接した当業者であれば,本件明細書に開示された種々の本件発明化合物が,背面の環
状構造により配位原子が同方向に連立した2核架橋型3座配位子構造(2メタルキレーター構造)と末端に環構造を有する置換基とを特徴と
して,インテグラーゼの活性中心に存在する二つの金属イオンに配位結合する化合物であることを容易に理解できたものと考えられる。
そして,キレート配位結合の結合力が強力であることも本件優先日当時の技術常識であったから,本件明細書を見た当業者は,背面の環状構造により配位原子が同方向に連立した2メタルキレーター構造と末端に
環構造を有する置換基という本件発明化合物の基本的な構造を有すれば,それ以外の自由度の高い構造が変わってもインテグラーゼ阻害活性を有すると合理的に予測することができた。
これに対し,被告は,2メタルキレーター構造と末端に環構造を有する置換基を備える化合物でもインテグラーゼ阻害活性を有しないものは
多数存在し,そのことは,本件優先日当時の技術常識であったと主張する。しかし,被告が例示するもののうち,①乙11の化合物については,わざわざ活性が出にくい構造を選択して合成したものであり,②乙20の化合物(8)は2メタルキレーター構造であるが,本件発明化合物の基本構造を有しないものであり,③甲4の9の化合物L-731,94
2は,インテグラーゼ阻害活性を示しており,④甲4の11の化合物X-1~3は,1メタルキレーター構造である。このため,被告の主張する上記化合物は,いずれも,2メタルキレーター構造と末端に環構造を有する置換基を備える化合物がインテグラーゼ阻害活性を有することを否定するに足りるものではない。


さらに,本件明細書には,本件特許化合物の実施例について薬理データがないとしても,上記と同様の基本構造を有する本件発明化合物について,薬理データが豊富に存在していた。特に,本件特許化合物の具体例である「化合物C-71」の構造は,本件明細書において薬理データが
示されている「化合物C-26」の構造と非常に類似している。両者の差異は,「化合物C-71」のRAがアミド型であるのに対し,「化合物
C-26」のRAが非置換の窒素原子を含む芳香族複素環である点のみである。「化合物C-71」のアミドと「化合物C-26」の芳香族複素環(具体的には,1,3,4-オキサジアゾール)は,いずれも配位子として機能することが知られており,当業者であれば,「化合物C-71」も「化合物C-26」と同様にインテグラーゼ阻害活性を有すると
理解することができた。
被告は,アミド基C(=O)-NHのうち,-NH-の部分がインテグラーゼの水素結合可能なサイトと水素結合を形成し得るからアミド基中の酸素原子によるキレート結合が失われる可能性があると主張するが,一般にキレート結合を形成する配位結合がイオン結合や水素結合よりも
はるかに強力な結合力を示すことは本件優先日当時の技術常識であった(甲30の1,2)。また,アミドと1,3,4-オキサジアゾールは,バイオアイソスターとして相互に置換可能であることも,本件優先日当時の技術常識であったのであるから(甲67),当業者が被告の主張するような理解をするとは考えられない。


本件発明化合物については,そのインテグラーゼ阻害活性が確認されている。すなわち,本件特許化合物のうち3個については,本件出願の審査経過において薬理データが提出され,更に12個の本件特許化合物について薬理データが提出されている。また,本件明細書に記載された製
造例化合物(248個)に加え,120個の本件発明化合物についての薬理データも提出されている。このように,合計383個の本件発明化合物について,インテグラーゼ阻害活性を有することが確認されており,本件明細書に記載された特徴を備えていれば,多種多様の構造の化合物について共通して活性が得られることは明らかである。これらの薬理試
験データは,本件出願後のものであるが,本件明細書の記載から当業者が容易に理解できる本件特許化合物の薬理作用を実験的に追認するもの
にすぎず,その追認実験も当業者にとって格別の困難を伴うものではないので,実施可能要件を判断する上で参酌することが許される。
(2)細胞アッセイの不実施について
インテグラーゼに対する被験化合物の阻害活性を直接確認できる方法は,本件明細書に記載された酵素アッセイであって,被告が主張する細胞アッセ
イではない。本件発明1はインテグラーゼ阻害剤である医薬組成物に関するものであり,本件発明1の作用効果はあくまでインテグラーゼ阻害であるから,その作用効果を証明するためには酵素アッセイが必須であり,かつ,それで十分である。
(3)小括

以上によれば,本件発明1に係る特許は実施可能要件に違反してされたものではない。
3
争点(1)イ(イ)(サポート要件違反)について

〔被告の主張〕
上記2の〔被告の主張〕と同様の理由により,本件明細書は本件発明1を記
載したものとはいえず,本件発明1に係る特許は特許法36条6項1号の規定に違反してされたものである。
したがって,本件発明1に係る特許は特許無効審判により無効とされるべきものである(特許法104条の3第1項,123条1項4号)。
〔原告の主張〕
上記2の〔原告の主張〕と同様の理由により,本件発明1に係る特許はサポート要件に違反してされたものではない。
4
争点(1)イ(ウ)(拡大先願要件違反)について

〔被告の主張〕
(1)特許要件の判断の基準日
国内優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち,国内優先日を基準と
して新規性,拡大先願要件違反等の特許要件の有無が判断されるのは,その国内優先権の主張の基礎となった出願に係る出願の際の明細書(以下「当初明細書」という。)等に記載された発明に限られる(特許法41条2項)。本件発明1についてみるに,本件発明1は式(I)のRAの部分がNHCO基である構成(構成要件B)を備えるものであるところ,本件発明1に相当する化合物で本件明細書に記載されているものは「化合物C-71」のみである。
しかるに,いずれの基礎出願の当初明細書等にも,「化合物C-71」を含め,RAの部分がNHCO基である構成を有する本件発明1につき,薬理
試験結果はもとより,その製造方法すらも記載されていないのであって,本件発明1は基礎出願の当初明細書等に記載されていたものではない。したがって,本件発明1の特許要件の判断基準日は,国内優先権の主張の基礎となった特許出願の出願日(平成13年8月10日,同年12月5日,平成14年6月28日)に遡及せず,原出願日である平成14年8月8日と
なる。
(2)拡大先願要件違反
本件特許の原出願日の平成14年8月8日より前に出願された米国特許出願60/339,568(以下「米国568出願」という。)の明細書(乙3)にはインテグラーゼ阻害剤としての「化合物18」が開示されていると
ころ,この「化合物18」は,米国568出願を基礎としパリ条約に基づく優先権を主張して行われた国際出願PCT/GB2002/004753の明細書(乙2)にも共通して記載され,本件特許の原出願日以後の平成15年(2003年)5月1日に国際公開WO2003/035077として公開されている。

しかるに,本件発明1は上記「化合物18」に係る発明と同一の発明であるから,本件発明1に係る特許は,特許法184条の13第1項,29条の
2の規定に違反してされたものである。
したがって,本件発明1に係る特許は,特許無効審判により無効とされるべきものである(特許法104条の3第1項,123条1項2号)。〔原告の主張〕
本件の第一基礎出願(特願2001-245071。出願日平成13年8月
10日)に係る明細書には,RAがアミド以外の基である点を除き,本件特許化合物と同様の構造を有する化合物の具体的な製造例,一般製法,出発物質及び中間体化合物が豊富に記載されているのであって,当業者は,平成13年8月当時の技術常識及び上記明細書の記載に基づいて本件特許化合物を製造することができる。

また,上記明細書には,本件発明化合物の特徴と全く同じ内容の記載があり,多種多様な化合物が開示され,その代表的な化合物の阻害活性データが記載されていることから,当業者は上記明細書に記載された化合物がインテグラーゼ阻害活性を有することを理解でき,医薬用途に使用することができる。したがって,本件発明1に係る特許は,第一基礎出願に基づく優先権の利益
を享受することができ,本件発明1の特許要件の判断基準日は第一基礎出願の出願日である平成13年8月10日となるから,平成13年(2001年)10月26日に出願された米国568出願を基礎として出願された上記国際出願は,拡大先願の規定(特許法184条13第1項,29条の2)に基づく先願としての適格性を有しない。

5
争点(1)イ(エ)(新規事項追加)について

〔被告の主張〕
本件特許は,平成24年4月3日付けの手続補正書(乙5)によって特許請求の範囲を補正されている(以下「本件補正」という。)。
本件補正前の特許請求の範囲に係る化合物は,構成要件Bとの関係で,式(I)のRA部分がNHCO基の構成を有する組合せと,NHCO基の構成を
有しない組合せの両方を含むものであったところ,本件補正によりNHCO基の構成を有する組合せのみに限定された。
しかるに,NHCO基を構成要件とする本件発明1に相当する化合物で本件明細書に記載されているものは「化合物C-71」のみであるところ,同化合物を含めた本件発明1の化合物がインテグラーゼ阻害活性を有しインテグラー
ゼ阻害剤として治療効果を有することを示す薬理試験結果等は,当初明細書の実施例等に記載されていない。
したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内のものとはいえず,特許法17条の2第3項に定める新規事項の追加禁止の規定に違反するものであって,本件発明1に係る特許は無効審判によって無効とされるべ
きものである(特許法104条の3,123条1項1号)。
〔原告の主張〕
補正が新規事項追加に当たるか否かは,当該補正が新たな技術的事項を導入するか否かで判断されるべきものであるところ,本件補正前後の化合物はインテグラーゼ阻害剤としての特徴部が同一であるから,本件補正が新たな技術的
事項を追加するものでないことは明らかである。
また,本件補正後の請求項1の全ての構成要件は,本件特許の出願に係る当初明細書(乙7)に明確に開示されており,この点からみても本件補正が新規事項追加に該当しないことは明らかである。
6
争点(1)ウ(ア)(本件訂正による無効理由の解消の有無)について
〔原告の主張〕
本件訂正発明1に係る化合物(以下「本件訂正発明化合物1」という。)に必須の化学構造を具体的に表せば,以下のとおりとなるところ,この化学構造は,本件明細書に薬理データが記載された27個の化合物と極めて類似した構造を有している。

したがって,本件明細書の教示に接した当業者は,本件明細書に薬理データが記載された化合物と同様に,本件訂正発明化合物1もインテグラーゼ阻害活性を示すことを容易に理解できる。
そして,出願経過中又は本件訴訟で原告が提出した薬理データ(甲12,13,33)によると,現に53個もの化合物がRA置換基としてアミド基を有しており,そのうち10個の化合物は本件訂正発明化合物1に該当するところ,その全てが,本件明細書の表1に記載された27個の化合物と同様,優れたインテグラーゼ阻害活性を示している。

したがって,本件訂正発明1が実施可能要件及びサポート要件を充足することは明らかである。
〔被告の主張〕
本件訂正は,実施可能要件違反及びサポート要件違反の無効理由を何ら解消するものではない。

本件訂正によって本件訂正発明化合物1に含まれる化合物の個数は少なくなったものの,その化合物は,なお本件明細書の記載によって十分に裏付けられるものではない。すなわち,本件訂正発明化合物1についても裏付けとなる酵素アッセイの試験結果が本件明細書に開示されておらず,また,本件明細書に
接した本件優先日当時の当業者においては,技術常識を考慮しても,本件訂正発明化合物1がインテグラーゼ阻害活性を示しインテグラーゼ阻害剤である医薬組成物として機能することを理解し得ないことに変わりはない。したがって,実施可能要件違反等の無効理由は本件訂正によっても解消されない。

7
争点(1)ウ(イ)(被告製品の構成要件充足性)について

〔原告の主張〕
被告製品と本件訂正発明1との対比は別紙「本件訂正発明1~3と被告製品の対比」のとおりであり,被告製品は本件訂正発明1の技術的範囲に属する。〔被告の主張〕
後記8の〔被告の主張〕のとおり,本件訂正発明1の構成要件1H中の「式:-Z1-Z2-Z3-R1」は具体的に定まらないから,被告製品が構成要件1Hを充足しているか不明であり,本件訂正発明1の技術的範囲に属しているとはいえない。

8
争点(1)ウ(ウ)(新たな無効理由の存否)について

〔被告の主張〕
本件訂正発明1において,構成要件1Hの「式:-Z1-Z2-Z3-R1」は,同式を具体的に定義する構成要件1C及び構成要件1Gの「式:-Z1-Z2-Z3-R1」と同じ式である。しかるに,構成要件1Cと構成要件1Gとでは「式:-Z1-Z2-Z3-R1」の定義が異なっている。
そのため,構成要件1Hの「式:-Z1-Z2-Z3-R1」が構成要件1Cの同式と構成要件1Gの同式のいずれを指すのか不明であり,構成要件1Hの「式:-Z1-Z2-Z3-R1」を定めることができないので,本件訂正発明1は明確ではない。

したがって,本件訂正発明1に係る特許には新たに明確性要件(特許法36条6項2号)違反の無効理由が認められる。

〔原告の主張〕
本件訂正発明1の構成要件1Hの「式:-Z1-Z2-Z3-R1」とは,構成要件1Gの同式を指しており,このことは構成要件1Hの「式:-Z1-Z2-Z3-R1」がRC/RD環に置換する基であることから明らかである。すなわち,構成要件1Gにおける「式:-Z1-Z2-Z3-R1」はRC/
RD環に置換する基である一方,構成要件1Cの「式:-Z1-Z2-Z3-R1」はアミドに置換している基であるから,構成要件1Hの「式:-Z1-Z2-Z3-R1」が構成要件1Gの同式を指しているという解釈以外はあり得ない。したがって,本件訂正発明1に係る訂正は,明確性要件に違反するものではない。

9
争点(2)(本件訂正発明2及び3に係る特許権の侵害(争点(1)と選択的))について

〔原告の主張〕
被告製品と本件訂正発明2及び3との対比は別紙「本件訂正発明1~3と被告製品の対比」の「2

対比」記載のとおりであり,被告製品は本件訂正発明

2及び3の技術的範囲に属する。
この点に関して被告は本件訂正発明2及び3の無効ないし非充足を主張するが,上記6ないし8の各〔原告の主張〕で述べてきたところと同様の理由により,被告の主張は成り立たない。
〔被告の主張〕
上記6ないし8の各〔被告の主張〕で述べたところと同様の理由により,本件訂正発明2及び3には実施可能要件違反及びサポート要件違反の無効理由があり(上記6参照),被告製品は本件訂正発明2及び3の技術的範囲に属さず(上記7参照),また本件訂正発明2及び3には明確性要件違反の無効理由がある(上記8参照)。

争点(3)(損害発生の有無及びその額)について

〔原告の主張〕
本件特許の登録日である平成25年3月1日から現在までの被告製品の売上げは合計80億円を下らないところ,本件特許に対する実施料率は少なくとも被告製品の販売額の20%が相当であるから,原告は,被告に対し,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権として,少なく
とも16億円を請求することができる。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
第4
1
当裁判所の判断
本件発明1ないし3の意義
(1)本件明細書(甲2)には,次の記載がある。

技術分野
・「【0001】技術分野
本発明は,抗ウイルス剤に関する。特に,α-ヒドロキシ-α,β不飽和ケトンを部分構造として有する化合物,及びそれらを含有するイン
テグラーゼ阻害剤として使用する医薬組成物に関する。」

背景技術
・「【0002】背景技術
ウイルスのなかでも,レトロウイルスの一種であるヒト免疫不全ウイ
ルス(HumanImmunodeficiencyvirus,以下HIVと略す)は,後天性免疫不全症候群(Acquiredimmnodeficiencysyndrome〔判決注:原文ママ〕,以下エイズと略す)の原因となることが知られている。そのエイズの治療薬としては,これまでのところ逆転写酵素阻害剤(AZT,3TC等)とプロテアーゼ阻害剤(インディナビル等)が主流であるが,
腎臓障害等の副作用や耐性ウイルスの出現等の問題が判明しており,それらとは異なる作用メカニズムを有する抗HIV薬の開発が期待されて
いる。
インテグラーゼ阻害剤としては,例えば,WO99/50245,WO99/62520,WO99/62897,WO99/62513,WO00/39086,WO01/00578に記載の1,3-ジオキソブタン酸類,1,3-プロパンジオン類等がある。また別のインテグラーゼ阻害剤としては,WO01/17968に記載のアクリル酸誘導体がある。最近報告されたインテグラーゼ阻害剤としては,例えば,
WO2002/30426,WO2002/30930,WO2002/30931,WO2002/36734に記載のアザまたはポリアザナフタレニルカルボキサミド誘導体等がある。
なお,本発明化合物に近い構造の化合物としては,Eur.J.Med.
Chemical-Chim.Ther.(1979),14(2),189-190に,抗炎症作用を有するN-置換-3-カルボキサミド-4-ヒドロキシ-5-オキソ-3-ピロリン誘導体が開示されている。また,Pharmazie(1997),52(4),276-278に,1-メチル-4-アリールカルバミド-2,3-ジオキソピロリジン誘導体が合成中間体として開示されている。WO92/06954に,アルドース還元酵素の阻害作
用を有するピロリジンジオン誘導体が開示されている。J.Med.Chemical(1976),19(1),172-173には,抗炎症作用を有するN-置換4,5-ジオキソピロリジン-3-カルボキシアニリド誘導体が開示されている。
また,JournalofPhysicalChemistryA(2002),106(11),2497-
2504には,ピリミジン誘導体が開示されているが,医薬用途に関しては記載がない。
一方,T'ai-wanK'oHsueh(1997),31(3-4),130-135に,3-ヒドロキシ-7-(フェニルメトキシ)-2-(2-キノリニル)-4H-1-ベンゾピラン-4オンが開示されている。また,4H-1-ベンゾピラン-4-オン構造を有する
化合物として,[1]J.

Nat.

548,[

Res.

2
]Anticancer

Prod.

(2001),

(2000),

64(4),

20(4),

5462525-

2536,[3]WO98/11889,[4]Pharmazie(1998),53(8),512-517に,抗HIV活性を有するフラボノイド誘導体が開示されているが,作用メカニズムについては記載されていない。

発明が解決しようとする課題
・「【0003】上記の状況下,新規なインテグラーゼ阻害剤の開発が
要望されていた。」

課題を解決するための手段
・「【0004】本発明者らは鋭意,研究した結果,新規な抗ウイルス剤を見出した。すなわち式(I):

【化1】

(式中,RC及びRDは一緒になって隣接する炭素原子と共に環を形成し,該環は縮合環であってもよい。Yはヒドロキシ,メルカプト又はアミノであり;Zは酸素原子,硫黄原子又はNHであり;RAは式:【化2】

(式中,C環は,結合手を有する原子に隣接する原子のうち,少なくとも一つの原子が非置換の窒素原子である含窒素芳香族複素環である。破線は結合の存在又は非存在を表わす。)で示される基又は式:
【化3】

(式中,Xは酸素原子,硫黄原子又はNH;RBは置換基群Aから選択される置換基である。)で示される基であり;
RC及びRDが形成する環,C環又はRBの少なくとも一つが,式:-Z1
-Z2-Z3-R1(式中,Z1及びZ3はそれぞれ独立して単結合,置
換されていてもよいアルキレン又は置換されていてもよいアルケニレン;Z2は単結合,置換されていてもよいアルキレン,置換されていてもよいアルケニレン,-CH(OH)-,-S-,-SO-,-SO2-,-SO2NR2-,-NR2SO2-,-O-,-NR2-,-NR2CO-,-CONR2-,-C(=O)-O-,-O-C(=O)-又は-
CO-;R2は水素,置換されていてもよいアルキル,置換されていてもよいアルケニル,置換されていてもよいアリール又は置換されていてもよいヘテロアリール;R1は置換されていてもよいアリール,置換されていてもよいヘテロアリール,置換されていてもよいシクロアルキル,置換されていてもよいシクロアルケニル又は置換されていてもよいヘテ
ロサイクル)で示される基で置換されており;さらに,
RC及びRDが形成する環,C環又はRBが,上記式:-Z1-Z2-Z3
-R1(式中,Z1,Z2,Z3及びR1は前記と同意義である)で示さ
れる基で置換されている以外の位置で,非妨害性置換基により置換されていてもよい。」
・「【0005】置換基群A:水素,ハロゲン,アルコキシカルボニル,カルボキシ,アルキル,アルコキシ,アルコキシアルキル,ニトロ,ヒドロキシ,アルケニル,アルキニル,アルキルスルホニル,置換されていてもよいアミノ,アルキルチオ,アルキルチオアルキル,ハロアルキル,ハロアルコキシ,ハロアルコキシアルキル,置換されていてもよい
シクロアルキル,置換されていてもよいシクロアルケニル,置換されていてもよいヘテロサイクル,ニトロソ,アジド,アミジノ,グアニジノ,
シアノ,イソシアノ,メルカプト,置換されていてもよいカルバモイル,スルファモイル,スルホアミノ,ホルミル,アルキルカルボニル,アルキルカルボニルオキシ,ヒドラジノ,モルホリノ,置換されていてもよいアリール,置換されていてもよいヘテロアリール,置換されていてもよいアラルキル,置換されていてもよいヘテロアリールアルキル,置換されていてもよいアリールオキシ,置換されていてもよいヘテロアリールオキシ,置換されていてもよいアリールチオ,置換されていてもよいヘテロアリールチオ,置換されていてもよいアラルキルオキシ,置換されていてもよいヘテロアリールアルキルオキシ,置換されていてもよい
アラルキルチオ,置換されていてもよいヘテロアリールアルキルチオ,置換されていてもよいアリールオキシアルキル,置換されていてもよいヘテロアリールオキシアルキル,置換されていてもよいアリールチオアルキル,置換されていてもよいヘテロアリールチオアルキル,置換されていてもよいアリールスルホニル,置換されていてもよいヘテロアリー
ルスルホニル,置換されていてもよいアラルキルスルホニル及び置換されていてもよいヘテロアリールアルキルスルホニルからなる群。)で示される化合物(以下,「本発明化合物」という),そのプロドラッグ,それらの製薬上許容される塩又はそれらの溶媒和物が,インテグラーゼの阻害活性を有することを見出した。

さらに,本発明化合物及びそれらを含有する医薬が,抗ウイルス薬,抗レトロウイルス薬,抗HIV薬,抗HTLV-1(HumanTcellleukemiavirustype1:ヒトT細胞白血病ウイルス1型)薬,抗FIV(Felineimmunodeficiencyvirus:ネコエイズウイルス)薬,抗SIV(Simianimmunodeficiencyvirus:サルエイズウイルス)薬,特に
抗HIV薬,インテグラーゼ阻害剤として有用であることを見出し,本発明を完成するに至った。

本発明は,本発明化合物,そのプロドラッグ,それらの製薬上許容される塩又はそれらの溶媒和物,それらを有効成分として含有する医薬組成物,抗ウイルス薬,抗HIV薬,インテグラーゼ阻害剤,抗HIV用合剤を提供するものであるが,これらは,抗HIV薬としてのみならず,抗AIDS薬,すなわち,エイズ及びその関連臨床的症状,例えばエイズ関連合併
症(ARC),進行性全身化リンパ節症(PGL),カポジ肉種,カリニ肺炎,突発性血小板減少性紫斑病,エイズ関連神経学的症状,例えば,エイズ痴呆症合併症,エイズ脳症,多発性硬化症又は熱帯性不全対麻痺,並びにまた無症候患者におけるものを含めた抗HIV抗体陽性及びHIV陽性症状の治療に特に有用である。」


発明を実施するための形態
・「【0034】次に本発明化合物の使用方法について説明する。本発明化合物は,例えば抗ウイルス薬等の医薬として有用である。本発明化合物は,ウイルスのインテグラーゼに対して顕著な阻害作用を有
する。よって本発明化合物は,動物細胞内で感染時に少なくともインテグラーゼを産出して増殖するウイルスに起因する各種疾患に対して,予防又は治療効果が期待でき,例えば,レトロウイルス(例,HIV-1,HIV-2,HTLV-1,SIV,FIV等)に対するインテグラーゼ阻害剤として有用であり,抗HIV薬等として有用である。・・・」

・「【0036】試験例
本発明化合物のインテグラーゼ阻害作用を以下に示すアッセイ法に基づき調べた。
(1)DNA溶液の調製
アマシャムファルマシア社により合成された以下の各DNAを,KTEバッ
ファー液(組成:100mMKCl,1mMEDTA,10mMTris-塩酸(pH7.6))に溶解させることにより,基質DNA溶液(2pmol/μl)およびターゲット
DNA溶液(5pmol/μl)を調製した。各溶液は,一旦煮沸後,ゆるやかに温度を下げて相補鎖同士をアニーリングさせてから用いた。
(基質DNA配列)
5'-Biotin-ACCCTTTTAGTCAGTGTGGAAAATCTCTAGCAGT-3'3'-

GAAAATCAGTCACACCTTTTAGAGATCGTCA-5'
(ターゲットDNA配列)
5'-

TGACCAAGGGCTAATTCACT-Dig-3'

3'-Dig-ACTGGTTCCCGATTAAGTGA

-5'

(2)阻害率(IC50値)の測定
Streptavidin(VectorLaboratories社製)を0.1M炭酸バッファー液
(組成:90mMNa2CO3,10mMNaHCO3)に溶かし,濃度を40μg/mlにした。この溶液,各50μlをイムノプレート(NUNC社製)のウエルに加え,4℃で一夜静置,吸着させた。次に各ウエルをリン酸バッファー(組成:13.7mMNaCl,0.27mMKCl,0.43mMNa2HPO4,0.14mMKH2PO4
)で2回洗浄後,1%スキムミルクを含むリン酸バッファー300μlを
加え,30分間ブロッキングした。さらに各ウエルをリン酸バッファーで2回洗浄後,NTEバッファー液(組成:1MNaCl,10mMTris-塩酸(pH8.0),1mMEDTA)で50倍希釈した基質DNA溶液(0.04pmol/μl)50μlを加え,振盪下,室温で30分間吸着させた後,リン酸バッファーで2回,次いで蒸留水で1回洗浄した。
次に上記方法で調製した各ウエルに,バッファー(組成:150mMMOPS(pH7.2),75mMMnCl2,50mM2-mercaptoethanol,25%glycerol,500μg/mlbovineserumalbumin-fractionV)12μl,ターゲットDNA(5pmol/μl)1μlおよび蒸留水32μlから調製した反応溶液45μlを加
えた。さらに各ウエルに被検化合物のDMSO溶液6μlを加え,ポジティブコントロール(PC)としてのウエルには,DMSO6μlを加える。次にイ
ンテグラーゼ溶液(30pmol/μl)9μlを加え,良く混合した。ネガティブコントロール(NC)としてのウエルには,酵素希釈液(組成:Hepes(pH7.6),400mMpotassiumglutamete,1mMEDTA,0.1%NP-40,20%glycerol,1mMDTT,4Murea)9μlを加えた。各プレートを30℃で1時間インキュベート後,反応液を捨て,リン酸バッファーで2回洗浄した。次にアルカリフォスファターゼ標識した抗ジゴキシゲニン抗体溶液(ヒツジFabフラグメント:ベーリンガー社製)を100μl加え,30℃で1時間結合させた後,0.05%Tween20を含むリン酸バッファーで2回,リン酸バッファーで1回,順次洗浄した。次に,
アルカリフォスファターゼ呈色バッファー(組成:10mMパラニトロフェニルホスフェート(VectorLaboratories社製),5mMMgCl2,100mMNaCl,100mMTris-塩酸(pH9.5))を150μl加えて30℃で2時間反応させ,各ウエルの吸光度(OD405nm)を測定し,以下の計算式に従い阻害率を求めた。

阻害率(%)=100[1-{(Cabs.-NCabs.)/(PCabs.-NCabs.)}]Cabs.;化合物のウエルの吸光度
NCabs.:NCの吸光度
PCabs.:PCの吸光度
次にIC50値は,上記の阻害率を用いて以下の計算式で求められる。
すなわち阻害率50%をはさむ2点の濃度において,xμg/mlの濃度で阻害率X%,yμg/mlの濃度で阻害率Y%をそれぞれ示す時,IC50(μg/ml)=x-{(X-50)(x-y)/(X-Y)}となる。
阻害率50%に相当する化合物濃度(IC50)を以下の表に示す。表中の化合物No.は実施例の化合物No.を示す。

【表1】

上記に示した化合物以外の本発明化合物も,上記同様,あるいはそれ以上のインテグラーゼ阻害活性を示した。
また,本発明化合物は,代謝に対する安定性が高く,優れたインテグラーゼ阻害剤である。」
・「

」(200頁)
・「

」(214頁)
(2)以上の記載によれば,本件発明1ないし3の意義は次のとおりである。本件発明1ないし3は,α-ヒドロキシ-α,β不飽和ケトンを部分構造として有する化合物を含有するインテグラーゼ阻害剤として使用する医薬組成物に関するものである。

ウイルスの中でも,レトロウイルスの一種であるヒト免疫不全ウイルス(HumanImmunodeficiencyVirus。以下「HIV」という。)は,後天性免疫不全症候群の原因となることが知られており,その治療薬としては逆転写酵素阻害剤及びプロテアーゼ阻害剤が主流であったものの,これらについては腎臓障害等の副作用や耐性ウイルスの出現等の問題が判明していたため,
これらと異なる作用メカニズムを有する抗HIV薬の開発が期待されていた。本件発明1ないし3に係る化合物は,ウイルスのインテグラーゼに対して顕著な阻害作用を有するものであり,動物細胞内で感染時にインテグラーゼを産出して増殖するウイルスに起因する各種疾患に対して,予防又は治療効果を期待することができるものであって,レトロウイルスに対するインテグ
ラーゼ阻害剤として有用なものである。
2
争点(1)イ(ア)(実施可能要件違反)について
事案に鑑み,争点(1)イ(ア)について判断する。
(1)医薬の発明における実施可能要件

特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めると
ころ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかかる物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のものでなければならない。
そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願
時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。
(2)本件の検討
本件についてこれをみるに,本件発明1では,式(I)のRAが-NHCO-(アミド結合)を有する構成(構成要件B)を有するものであるところ,
そのようなRAを有する化合物で本件明細書に記載されているものは,「化合物C-71」(本件明細書214頁)のみである。そして,本件発明1はインテグラーゼ阻害剤(構成要件H)としてインテグラーゼ阻害活性を有するものとされているところ,「化合物C-71」がインテグラーゼ阻害活性を有することを示す具体的な薬理データ等は本件明細書に存在しないことに
ついては,当事者間に争いがない。
したがって,本件明細書の記載は,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されたものではなく,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないというべきであり,以下に判示するとおり,本件出願(平成14年(2002年)8月8日。なお,特許法41条
2項は同法36条を引用していない。)当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌しても,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業
者が理解し得たということもできない。
(3)原告の主張に対する判断
原告は,本件特許化合物として本件明細書に記載されているのが「化合物C-71」のみであり,その薬理データ等が記載されていないとしても,本件優先日当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌すれば,当業者は,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有すると理解できたと主張する。ア
当業者による理解について
そこで,まず,本件出願当時の技術常識について検討する。
(ア)この点に関して,原告は,本件優先日当時の技術常識として,①HI
Vインテグラーゼの活性中心に金属イオンを有し,その金属イオンの数は2個であるとの考えが広く知られていた,②インテグラーゼ阻害剤としてキレータータイプが有望であった,③キレータータイプのインテグラーゼ阻害剤の多くは,キレーター部分に加えて,末端に環構造を有する置換基を有していたと主張する。

その上で,原告は,これらの技術常識を踏まえると,本件明細書に接した本件優先日当時の当業者は,本件特許化合物を含めた本件発明化合物がインテグラーゼの活性中心に存在する二つの金属イオンに配位結合することによりインテグラーゼ活性を阻害する2核架橋型3座配位子(2メタルキレーター)タイプの阻害剤であると理解することができた
旨主張する。
(イ)しかし,原告が「インテグラーゼ阻害剤としてキレータータイプが有望であった」との技術常識(上記②)を裏付けるものとして提出する文献をみるに,これらは,ヒドロキシル化された芳香族化合物についてキレート化が提唱されていたこと(甲4の6。ただし「仮説」とされてい
る。),平面配座の2-ヒドロキシフェニル部分,α-ケト部分,ヒドラジン部分から構成される部位がインテグラーゼの活性中心の金属との
キレート化によりHIV-1インテグラーゼと相互作用できることが提案されていたこと(甲4の7),ヒドロキシル化芳香族化合物に関する一つの可能性のある作用メカニズムとしてキレート化が提案されていたこと(甲26,27)を示唆するものにすぎない。
すなわち,上記各文献からうかがわれる本件優先日当時の技術常識としては,ある種の化合物(ヒドロキシル化芳香族化合物等)がインテグラーゼ阻害活性を示すのは,同化合物がキレーター構造を有していることが理由となっている可能性があるという程度の認識にとどまり,具体的にどのようなキレーター構造を備えた化合物がインテグラーゼ阻害活
性を有するのか,また当該化合物がどのように作用してインテグラーゼ活性が阻害されるのかについての技術常識が存在したと認めるに足りる証拠はない。
(ウ)また,キレータータイプのインテグラーゼ阻害剤の多くは,キレーター部分に加えて,末端に環構造を有する置換基を有していたとの点
(上記③)についても,技術常識として認められるのは,キレータータイプのインテグラーゼ阻害剤の多くが,末端に環構造を有する置換基を有するという事実にとどまる。かかる置換基がインテグラーゼとウイルスDNAとから形成されるポケットに入り,そのことがインテグラーゼ阻害活性に重要であることが明らかにされたのは,平成24年(201
2年)に発行された文献(甲31)であり,本件優先日当時は,その役割やインテグラーゼ阻害活性を示す置換基についての一般的な化学構造に関する技術常識が存在したとは認められない。
(エ)さらに,2メタルキレーターを形成し得る部分構造の背面で5,6員の環状構造を形成することにより,キレート能を有する三つの配位原
子が同方向に連立し,インテグラーゼの二つの2価金属イオンに配位してキレートを形成するのに好条件となることが明らかになったのは,本
件優先日より後のことであり(平成19年(2007年)の文献である甲6参照),本件優先日当時にそのような技術常識が存在したと認めるに足りる証拠はない。
なお,この点につき,原告は当時の技術常識を示す文献としてYvesPommierらにより平成11年(1999年)に発行された文献(甲26)
を提出するが,同文献に図示されているヒドロキシル化芳香族化合物は,一つの分子内に1核2座タイプの配位子として機能する部分を2箇所備える化合物であって,2核架橋型3座配位子(2メタルキレーター)ではない。
(オ)以上の認定は本件優先日当時の技術常識に係るものであるが,その
ほぼ1年後の本件出願時にこれと異なる技術常識が存在したことを認めるに足りる証拠はなく,本件出願当時における技術常識はこれと同様と認められる。このことに加え,そもそも本件明細書には,本件特許化合物を含めた本件発明化合物がインテグラーゼの活性部位に存在する二つの金属イオンに配位結合することによりインテグラーゼ活性を阻害する
2核架橋型3座配位子(2メタルキレーター)タイプの阻害剤であるとの記載はないことや,本件特許化合物がキレート構造を有していたとしても,本件出願当時インテグラーゼ阻害活性を有するとされていたヒドロキシル化芳香族化合物等とは異なる化合物であることなどに照らすと,本件明細書に接した当業者が,本件明細書に開示された種々の本件発明
化合物が,背面の環状構造により配位原子が同方向に連立した2核架橋型3座配位子構造(2メタルキレーター構造)と末端に環構造を有する置換基とを特徴として,インテグラーゼの活性中心に存在する二つの金属イオンに配位結合する化合物であると認識したと認めることはできない。


本件特許化合物以外の本件発明化合物の薬理データについて

次に,原告は,本件明細書には本件特許化合物の薬理データの記載はないものの,本件特許化合物以外の本件発明化合物の薬理データは豊富に記載されており,特に「化合物C-71」の化学構造の一部が異なるにすぎない「化合物C-26」(本件明細書200頁)のデータが存在することを指摘する。
しかし,一般に,化合物の化学構造の類似性が非常に高い化合物であっても,特定の性質や物性が全く類似していない場合があり,この点はインテグラーゼ阻害剤の技術分野においても同様と解されるのであって(甲10,乙17の1ないし3,乙18の1ないし3参照),このこと
は本件出願当時の当業者にとっても技術常識であったというべきである。この点,原告は,「化合物C-71」と「化合物C-26」の構造は非常に類似しており,両者の差異は,「化合物C-71」のRAがアミド型置換基であるのに対し,「化合物C-26」のRAが非置換の窒素原子を含む芳香族複素環である点のみである上,「化合物C-71」のアミドと
「化合物C-26」の芳香族複素環(具体的には,1,3,4-オキサジアゾール)は,いずれも配位子として機能することが知られ,また,アミドと1,3,4-オキサジアゾールは,バイオアイソスターとして相互に置換可能であることも本件優先日当時の技術常識であったのであるから,当業者であれば,「化合物C-71」は「化合物C-26」と
同様のインテグラーゼ阻害活性を有すると理解すると主張する。
しかし,「化合物C-71」のアミドと「化合物C-26」の芳香族複素環がいずれも配位子として機能することが知られ,また,一般的にアミドと1,3,4-オキサジアゾールは,バイオアイソスターとして相互に置換可能であるとしても,インテグラーゼ阻害剤において,RAのア
ミドと1,3,4-オキサジアゾールが配位子として機能し,それらが相互に置換可能であることが本件出願当時の技術常識であったと認める
に足りる証拠はない。かえって,前記のとおり,インテグラーゼ阻害活性を有する化合物の化学構造の類似性が非常に高い場合であっても,特定の性質や物性が全く類似していないことがあることや,本件出願当時は,末端に環構造を有する置換基の役割やインテグラーゼ阻害活性を示す置換基についての一般的な化学構造に関する技術常識が存在したとは
認められないこと,本件特許化合物が有するアミド中の-NH-の部分は,水素結合可能な基であることなどを考慮すると,「化合物C-71」が「化合物C-26」と同様のインテグラーゼ阻害活性を有すると当業者が理解するためには,「化合物C-71」の薬理データが必要であるというべきである。


出願審査段階における薬理試験結果について
原告は,本件特許化合物に含まれる4個の化合物については本件特許の出願審査の段階において薬理試験結果が提出され(甲12),また,12個の化合物については実際にインテグラーゼ阻害作用が確認されて
いるとして(甲13),本件発明1が実施可能要件を有することは裏付けられていると主張する。
しかし,一般に明細書に薬理試験結果等が記載されており,その補充等のために出願後に意見書や薬理試験結果等を提出することが許される場合はあるとしても,当該明細書に薬理試験結果等の客観的な裏付けと
なる記載が全くないような場合にまで,出願後に提出した薬理試験結果等を考慮することは,特許発明の内容を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反するものであり,許されないというべきである(知的財産高等裁判所平成27年(行ケ)第10052号・同28年3月31日判決参照)。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4)小括

以上によれば,本件出願当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌しても,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業者が理解し得たということもできない。
したがって,本件明細書の記載は本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,本件発明1に係る特許は特許法36
条4項1号の規定に違反してされたものであるので,本件発明1に係る特許は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものである。
3
争点(1)イ(イ)(サポート要件違反)について
上記2で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細な説明に本件
発明1が記載されているとはいえず,本件発明1に係る特許は特許法36条6項1号の規定に違反してされたものというべきである。
したがって,本件発明1に係る特許は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものである。
4
争点(1)ウ(ア)(本件訂正による無効理由の解消の有無)について(1)上記2及び3において説示したとおり,本件発明1に係る特許は実施可能要件違反及びサポート要件違反により無効にされるべきものであるから,原告の本訴請求には特許法104条の3の各抗弁が存するものと認められる。ところで,原告は,本件訂正による訂正の再抗弁を主張しているところ,
特許法104条の3の抗弁に対する訂正の再抗弁が成立するためには,①特許庁に対し適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っていること,②当該訂正が訂正要件を充たしていること,③当該訂正によって被告が主張している無効理由が解消されること,④被告各製品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属すること,以上の各要件を全て充たしている必要がある。

本件において,被告は上記③及び④を争っているところ,このうち上記③について検討する。

(2)原告は,本件明細書の教示に接した当業者は,本件明細書に薬理データが記載された化合物と同様に,本件訂正発明化合物1もインテグラーゼ阻害活性を示すことを容易に理解できることになるから,上記(1)の各無効理由は解消される旨主張する。
しかし,本件明細書には,本件訂正発明化合物1がインテグラーゼ阻害剤として機能することを適切に裏付けるような薬理データ等は記載されていないのであって,本件訂正によっても,本件明細書の記載は,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されたものにはならない。
(3)これに対し,原告は,本件訂正発明化合物1に必須の化学構造は,本件明
細書に薬理データが記載された27個の化合物と極めて類似した構造を有しているから,当業者は本件訂正発明化合物1がインテグラーゼ阻害活性を示すことを容易に理解できるなどと主張する。
しかし,前記2(3)イに説示したとおり,一般に,化合物の化学構造の類似性が非常に高い化合物であっても,特定の性質や物性が全く類似していな
い場合があり,この点はインテグラーゼ阻害剤の技術分野においても同様と解されるのであって,このことは本件出願当時の当業者にとっても技術常識であったというべきである。
原告はこの点,原告の上記主張はドラッグデザインに基づくものであるなどとも指摘するところ(甲76参照),確かに,何らかの生物活性を有する
複数の化合物が存在する場合,そのような活性を備える化合物における,部分的な保存された構造を見出そうとする手法は,医薬品の開発の方向性を定める一つの手法とはいえるものの,化合物に共通する部分構造以外の構造に,生物活性に必要な構造が存在する可能性もあるし,逆に,生物活性を喪失させるような構造も化合物に存在することがあり得るのであって,生物活性を
有すると目される複数の化合物に共通して見られる部分構造がある化合物において単に存在することをもって,直ちに当該化合物も必然的にその生物活
性を有するということはできないというべきである。
なお,原告は,本件訂正発明化合物1がインテグラーゼ阻害活性を示すとする薬理データ(甲12,13,33)を引用するが,上記2(3)ウに説示したとおり,本件の判断を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(4)以上によれば,本件訂正発明1はなお実施可能要件違反及びサポート要件違反により無効にされるべきものであるから,本件訂正に係る原告の再抗弁は,前記(1)で説示した③の要件を充たしていないということになる。したがって,原告の主張する訂正の再抗弁は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

5
争点(2)(本件訂正発明2及び3に係る特許権の侵害(争点(1)と選択的))について
上記2及び4で説示したところに照らせば,本件明細書の記載は,本件訂正発明2及び3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,本件訂正発明2及び3に係る特許は特許法36条4項1号の規定に違反し
てされたものであるから,同特許は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものである。
また,上記3及び4で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細な説明に本件訂正発明2及び3が記載されているとはいえず,本件発明2及び3に係る特許は特許法36条6項1号の規定に違反してされたものというべき
であるから,同特許は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものである。
6
結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本訴請求はいずれ
も理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官
佐藤達文
裁判官
瀬孝
裁判官
勝又来未子
トップに戻る

saiban.in