判例検索β > 平成29年(ネ)第53号
損害賠償請求控訴事件
事件番号平成29(ネ)53
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日平成29年11月30日
法廷名大阪高等裁判所
結果その他
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成27(ワ)7965
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主1文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人に対し,5万円を支払え。
控訴人のその余の請求を棄却する。

2
訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを100分し,その3を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人に対し,160万円を支払え。

第2

事案の概要(以下,略語は原判決の例による。)
本件は,控訴人が,大阪府情報公開条例(平成11年大阪府条例第39号。以下「本件条例」という。)に基づき,大阪府知事に対し,第16回ピースおおさか展示リニューアル監修委員会配布資料等の公開請求をしたのに対し,大阪府知事から,平成27年2月9日付けで上記配布資料に記録されている情報が本件条例8条1項所定の非公開情報に該当することを理由とする非公開決定を受けたところ,同決定は違法であり,これにより精神的苦痛を受けたと主張して,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料160万円の支払を求める事案である。
原審が控訴人の請求を棄却したので,これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

1
本件条例の定め(乙1)
本件条例3条は,実施機関及び実施法人は,行政文書又は法人文書の公開を求める権利が十分に保障されるように,この条例を解釈し,運用するとともに,行政文書又は法人文書の適切な保存と迅速な検索に資するための行政文書又は法人文書の管理体制の整備を図らなければならない旨規定する。
本件条例6条は,何人も,実施機関(本件条例2条2項に規定するものであり,知事を含む。)に対して,行政文書の公開を請求することができる旨規定し,本件条例7条は,本件条例6条の規定による公開の請求(以下「公開請求」という。)は,行政文書の名称その他の公開請求に係る行政文書を特定するに足りる事項(2号。以下「行政文書特定事項」という。)等を記載した書面を実施機関に提出する方法により行わなければならない旨規定する。
本件条例8条1項は,実施機関(公安委員会及び警察本部長を除く。)は,同項各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)が記録されている行政文書を公開しないことができる旨規定し,非公開情報として,同項1号において,法人その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(以下「法人等情報」という。)を掲げている。
本件条例13条1項は,実施機関は,公開請求に係る行政文書の全部又は一部を公開するときは,その旨の決定をし,公開請求をしたもの(以下「請求者」という。)に対し,その旨及び公開の実施に関し必要な事項を書面により通知しなければならない旨規定し,同条2項は,実施機関は,公開請求に係る行政文書の全部を公開しないときは,その旨の決定をし,速やかに,請求者に対し,その旨を書面により通知しなければならない旨規定する。
本件条例20条は,公開決定等について行政不服審査法(ただし,平成26年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく不服申立てがあった場合は,当該不服申立てに対する決定又は裁決をすべき実施機関は,不服申立てが明らかに不適法であり,却下するとき(1号),決定又は裁決で不服申立てに係る公開決定等を取り消し又は変更し,当該不服申立てに係る行政文書の全部を公開することとするとき(2号本文)のいずれかに該当する場合を除き,遅滞なく大阪府情報公開審査会(以下「審査会」という。)に当該不服申立てに対する決定又は裁決について諮問しなければならない旨規定する。
2
前提事実(当事者間に争いがないか,各項掲記の証拠[書証番号は特に記載しない限り枝番号を含む。以下同じ。]及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
関係者

公益財団法人大阪国際平和センター(以下「本件センター」という。)
は,戦争と平和に関する情報及び資料の収集,保存,展示を行うとともに,平和問題に関する調査研究,学習,普及等を図ることによって,戦争の悲惨さを次世代に伝え,平和の尊さを訴え,平和の首都大阪の実現を目指し,世界平和に貢献することを目的とする(乙14)。
本件センターは,平成元年7月に被控訴人と大阪市が共同して出捐して設立された公益法人(公益財団法人)であり,控訴人による後記情報公開請求がされた平成27年1月当時,業務執行理事のほか,職員は4名(いずれも契約職員)であり,うち1名は平成22年4月採用,その余の3名は平成25年4月採用であった(なお,かつて被控訴人又は大阪市の職員が各5名,本件センター職員に派遣されて勤務していたが,その後徐々に減員され,平成21年度の1名を最後に被控訴人又は大阪市からの職員派遣が終了した。乙14,47,弁論の全趣旨)。

本件センターは,上記目的を実現するための基幹事業として,被控訴人
及び大阪市の補助により,平成3年9月,平和資料館「ピースおおさか」(以下「ピースおおさか」という。)を設置し,以降,ピースおおさかを運営して,常設展示や企画事業及び研究活動,ビデオや展示パネルの貸出し等をしている(甲4,乙14,弁論の全趣旨)。

大阪国際平和センター展示リニューアル監修委員会(以下「監修委員会」という。)は,本件センターの公益財団法人移行前の寄附行為31条に基づいて設置された内部組織であって,ピースおおさかの展示リニューアルについて監修を行う組織であり,同委員会委員はピースおおさかの展示物に造詣の深い学識経験者が就任した。その設置期間は平成24年12月25日から展示リニューアル完成の日までとし,会議は非公開であるが議事録は公開している(乙45,46,弁論の全趣旨)。

ピースおおさか展示リニューアル事業(以下「本件事業」という。)ア
本件センターは,平成25年4月9日,ピースおおさか展示リニューア
ル構想を発表した(乙14,弁論の全趣旨)。

本件センターは,平成25年9月13日,ピースおおさか展示リニューアル基本設計(中間報告)を発表し,同年11月27日,ピースおおさか展示リニューアル基本設計を発表した(乙15,16,弁論の全趣旨)。

本件センターは,平成26年2月4日,上記イの基本設計に基づき,ピースおおさか展示リニューアル実施設計(中間報告)を発表し,同年4月10日,ピースおおさか展示リニューアル実施設計を発表した。なお,同年9月頃には,ピースおおさかのリニューアルオープンの時期が平成27年4月に予定されていた。(以上につき,乙8の26・28・31,乙17,18,弁論の全趣旨)


ピースおおさかは,リニューアルオープン前にリニューアル後の具体的な展示内容を公開することなく,平成27年4月30日,リニューアルオープンした(甲9,乙47,弁論の全趣旨)。
本件非公開決定に至る経緯等


控訴人は,「ピースおおさか」の危機を考える連絡会事務局の肩書で,
平成27年1月27日付けで,大阪府知事に対し,本件条例6条に基づき,行政文書特定事項を「ピースおおさか展示リニューアルに係る次の文書」,「「B.世界中が戦争をしていた時代」のコーナーの映像シナリオ(検討中の文書)」,「「F.私たちの未来を創っていくために」のコーナーにおける自衛隊・集団的自衛権・国際社会における平和貢献に関する展示」,「直近の監修委員会において検討した資料」,「「大阪府の出資法人等への関与事項等を定める条例」により助言等を行うとともに必要な措置を講じることを求めたことを示す文書」として,行政文書の公開請求(以下「本件請求」という。)をした(甲13)。

大阪府知事は,本件請求の対象となる文書を,①出資法人等の事業の実
施状況,経営状況等の評価結果について(通知)と題する文書,②第16回ピースおおさか展示リニューアル監修委員会配布資料(以下,②の文書を「本件文書」という。)であると特定した上,平成27年2月9日付けで,控訴人に対し,上記①の文書を開示する旨の決定をしたが,本件文書については,本件条例8条1項1,3,4号に該当することを理由としてこれを開示しない旨の決定(以下「本件非公開決定」という。)をし,控訴人は,同月12日,上記各決定の通知書を受領した(甲6,7,乙2,3,弁論の全趣旨)。

控訴人は,平成27年3月5日付けで,本件非公開決定を不服として,
大阪府知事に対し,同決定を取り消す旨の裁決を求める旨の異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした(甲7)。

大阪府知事は,ピースおおさかのリニューアルオープン後の平成27年
6月10日付けで,本件非公開決定を取り消した上(以下「本件取消決定」という。),本件文書のうち個人の氏名(既に公開されているものを除く。)を除く部分を公開する旨の部分公開決定(以下「本件部分公開決定」という。)をし,控訴人は,その頃,同決定の通知書を受領した(乙4,弁論の全趣旨)。

大阪府知事は,本件異議申立てについて,本件条例20条に基づく審査
会への諮問を行わなかった(争いがない。)。
本件訴えの提起
控訴人は,平成27年8月11日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。3
争点及び当事者の主張
争点

国家賠償法上の違法性
本件非公開決定の違法性(争点1)
本件取消決定の違法性(争点2)
本件異議申立てにおける手続的違法(争点3)


損害の有無及び損害額(争点4)
争点1(本件非公開決定の違法性)について

(控訴人の主張)
以下のとおり,本件文書には本件条例8条1項1号(以下「本件非公開条項」という。)所定の法人等情報が記録されていないから,本件非公開決定は憲法,情報公開法及び本件条例に違反し,国家賠償法上違法である。ア
本件文書に記載されている情報は,ピースおおさかのリニューアルオープン後に一般に公開される予定の展示内容であるところ,外部公開を予定しない情報とは本来的に異なるものであって,本件センターの経営上の秘密に該当するものではないし,これが公開されたとしても,本件センターにおける率直な意見交換や意思決定の中立性が損なわれるおそれがあるなど,その競争上の地位その他正当な利益を害するとはいえない。なお,当該情報は,「大阪府情報公開条例

解釈運用基準」(乙6)に例示されて

いる競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報のいずれにも該当しない。

被控訴人は,本件文書を公開すれば,市民団体等から要望や批判が寄せられ,マスメディアに報道されることにより,本件センターにおける率直な意見交換や意思決定の中立性が損われるおそれがあり,リニューアルオープンに向けた準備にも支障が生じるなどと主張する。
しかし,多数の意見が提出されることは市民の注目を集める行政分野においては当然あり得ることであり,「意見が寄せられては困るから情報を秘匿する」といった運用が許されるべきではない。むしろ,多くの意見が寄せられるほど市民の関心を集める事項であればあるほど,それに関して知る権利を保障して情報公開を行う必要性は高まる。監修委員会は,被控訴人及び大阪市が出資して設立され,両者から補助金も出されている本件センターの内部組織であるところ,本件センターの唯一の事業拠点であり,中心業務をなすピースおおさかの展示内容を変更しようという目的の監修委員会の議事内容は高度の公共性を帯びており,被控訴人及び大阪市の財政支出の適格性を市民の目に触れさせることにより適正運営を担保する観点からも情報公開請求があれば原則として公開されるべきである。検討段階の情報を公開することは行政運営の透明性を確保し,市民の府政参加を促進する観点から望ましいというべきであるし,市民から寄せられる要望や批判は請願権や表現の自由に基づく正当な活動であって,それが平穏な態様で行われる限り基本的人権として保障され,行政は誠実に処理する責務を負う。控訴人を含む多数の市民が本件事業について請願権の行使や意見表明を重ねてきたが,それらはいずれも平穏な態様で行われてきており,本件文書を非公開とするべき必要性が生じるほど職員の業務に支障を生じるような態様での請願や申入れを行った事実はなく,まして,脅迫的な言論や面会強要といった不当な態様で行われたことはないから,本件センターにおける率直な意見交換や意思決定の中立性を損なうものとはいえない。

本件文書の公開がなされなくても,本件非公開決定の前後を通じて多数の意見が市民から提出されていたのであるから,「本件文書の公開によって多数の意見が提出されてしまう」という因果関係も明らかでない。本件請求後の監修委員会の会議は,平成27年2月28日に1回開催されただけであり,それまでの報道によって本件事業の方向性に対する批判や要望が既に多くの市民から提出されており(乙7),その議事内容(乙41)に照らしても,本件文書の公開によって阻害されたであろう発言や意思決定があるとは到底考えられない。

本件センターの職員が少ないことは,本件センターの正当な利益を害すると認められることの理由とはならない。そのような行政側の事由によって,憲法の保障する知る権利に基づく情報公開請求権が制約されるべきではないし,情報公開に伴う事務量を勘案して適正な人数を配置・増員すればよい。人員不足により本件事業に支障が生じる原因は,ピースおおさかは開館時の事務局が10人で運営されていたのを被控訴人及び大阪市が職員派遣を中止したことによるから,それによって控訴人の情報公開請求権が制約されるのは不合理である。情報公開によって取材や要請への対応が増えるとすれば,それは情報公開制度を実施することによる必要的コストであり,これに対応するために,職員を増やしたり,要請を文書提出のみで受けることにして対応時間を制限するなどの措置をとればよい。本件非公開決定は,本件条例3条に反している。


展示内容の選択や展示前に展示内容をどの程度明らかにするかについて本件センターに裁量権があるとしても,本件条例に基づいて外郭団体に関する情報公開を請求する権利が認められているのであるから,本件センターの上記裁量権の存在は,非公開事由該当性の判断とは無関係である。また,大阪府知事が本件文書を公開することと,「準備や計画に影響を与える」ことの具体的な因果関係も明らかでない。被控訴人は,いかなる準備や計画に対して,いかなる影響を与えるというのか,いかなる態様で「事業運営を損なうおそれがある」といえるのかについて,控訴人の求めにもかかわらず,何ら具体的に示していない。
(被控訴人の主張)
以下のとおり,本件文書には本件非公開条項所定の法人等情報が記録されているから,大阪府知事のした本件非公開決定は国家賠償法上違法であるとはいえない。

本件文書は,平成27年1月23日の監修委員会の会議における配布資
料であって,平成27年4月中にリニューアルオープンが予定されていたピースおおさかのリニューアル後の展示内容,展示位置,展示物等で検討段階のものが詳細に記載されており,本件センターにおいて,ピースおおさかのリニューアルオープン前に公開することは予定していなかった。イ
ピースおおさかのリニューアルについては,展示内容等に関して市民団体等からそれぞれの歴史認識に基づく具体的な要望が出され,マスメディアによる報道もされて,報道機関及び市民団体間で尖鋭な意見対立を生じていた。このような状況下において,リニューアル後の展示内容を詳細に記載している本件文書を公開すれば,自己の要望を採用されなかった市民団体等から展示内容に関する更なる具体的な要望や批判が寄せられ,多数回かつ長時間にわたる応接を余儀なくされたり(乙48),マスメディアからの交付要求や取材対応に追われることが容易に想定された。そして,本件非公開決定がされた平成27年2月9日時点では,本件センターの理事会が展示内容の詳細について検討を行っている段階であり,本件文書を公開すれば,本件文書に氏名が記載されている本件センターの職員や監修委員会の委員が批判を受けることをおそれて,理事会や監修委員会における発言を差し控えることや,展示リニューアルの内容を実質的に決定する監修委員会の委員に対し,本件文書に自己の要望が採用されなかった市民団体等がその採用を直接又は間接に働きかけるなどすることが考えられたから,本件文書を公開することにより,本件センターにおける率直な意見交換や意思決定の中立性が損なわれるおそれがあり,かつ,そのような歪みが生じればその是正がもはや困難な時期にあった。
控訴人から本件請求がなされた平成27年1月27日頃には,監修委員会からピースおおさかのリニューアル後の展示内容,展示位置,展示物等など細部にわたって見直しをするよう要求され,本件センターの4名の職員で細部にわたり誤りのないよう検討を重ねるとともに,繰り返しチェックをする作業やリニューアルオープンの宣伝活動に忙殺されて,平成26年9月から平成27年3月までの間に1198時間もの残業をする程であり,これに加えて,展示内容に関する市民団体等からの要望や批判,マスメディアの報道や取材への対応に追われれば,上記職員らの疲労が限界を超え,上記業務に支障が生じて平成27年4月中のリニューアルオープンが不可能となるおそれがあった。
現にピースおおさかのリニューアルオープン後も,本件センターに展示内容の変更を求める多数の意見や要望が寄せられるとともに,各種団体から話合いの場を設けるように要求され,本件センター4名の職員で,当該要求に対し,面談や回答要求に応じるなどの対応をしなければならない状況にあった。

本件センターは,被控訴人と大阪市の出資による法人であるが,被控訴人とは別の独立した法人であるから,被控訴人はその自律的な運営等に十分な配慮をしなければならない(甲17・大阪府の出資法人等への関与事項等を定める条例3条)。
「公にすることにより,法人等の競争上の地位その他正当な利益を害する」情報に該当するか否かは,当該情報の内容のみではなく,事業者の性格,事業活動における当該情報の位置付け等にも十分に留意しつつ,慎重に判断する必要があり(乙6・大阪府情報公開条例解釈運用基準),被控訴人の機関の情報であっても,率直な意見の交換若くは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれのあるもの(意思形成過程情報)や事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(事務事業情報)が記録されている行政文書を公開しないことができるのであり(本件条例8条1項3,4号),しかも,私人である法人等の自主性・自律性を尊重する趣旨から,公にすることにより,法人等の競争上の地位その他正当な利益を害する情報(本件条例8条1項1号)については,「不当に」とか「著しく」という要件がないのであるから,前記イのとおり,本件文書の公開によって,本件センターの率直な意見の交換若くは意思決定の中立性が損なわれ,また,本件リニューアル事業に直接影響が及ぶことになる以上,本件文書の公開は,被控訴人における意思形成過程情報や事務事業情報よりも抑制的に判断しなければならい。そして,展示内容の選択や展示前に展示内容をどの程度明らかにするかについて本件センターに裁量権があり,そのこと自体が本件センターの正当な利益に該当するから,本件文書を開示することは,上記裁量権を害し,被控訴人が不当な干渉をすることになる。したがって,大阪府知事は本件文書を非公開としなければならなかった。

仮に本件文書が公開されることで控訴人の知る権利が充足され,その意見を展示内容の策定に反映させて府政への参加を実現させるという利益が控訴人に認められるとしても,既知の情報に加えて本件文書の内容を知ることにより得られる控訴人の利益は大きいとはいえない。本件センターが,本件非公開決定がされた時点で,実施設計等の発表を通じてリニューアル後の展示内容に反映させるなどしていたことを考慮すれば,その当時,大阪府知事が本件文書を公開する必要性は低かったといえる。


公務員が行った行政処分が,国家賠償法1条1項の適用上「違法」の評価を受けるのは,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と行政処分をした場合に限られ,そのようにいえるためには,処分当時の社会通念に照らして,行政処分をしたことに相応の理由がない場合であるところ,大阪地方裁判所が控訴人を原告,本件センターを被告とする損害賠いて,本件文書が本件条例
8条1項1号に該当すると認定したこと(乙52)に鑑みれば,本件非公開決定に「相応の合理的根拠」があったというべきである。
争点2(本件取消決定の違法性)について
(控訴人の主張)

本件非公開決定が取り消されたことにより,控訴人は同決定の取消しを
求める訴えの利益を失い,行政事件訴訟法により保障された裁判を受けることができなくなったから,本件取消決定は,控訴人の裁判を受ける権利を侵害するものであり,国家賠償法上違法である。

本件取消決定は,先行する本件非公開決定の違法性についての正当な批
判をかわす目的でおこなわれたものであり,本来であれば迅速になすべき公開決定を遅延させることにより,ピースおおさかのリニューアルオープンに間に合わない形で文書を公開して控訴人が情報公開を求めた目的を達成できない状態に追い込んだものであって,本件非公開決定による違法行為を追認し,これを矮小化しようとするものであるから,憲法,情報公開法,本件条例及び信義則に違反し,国家賠償法上違法である。
(被控訴人の主張)
本件取消決定は,平成27年4月30日にピースおおさかがリニューアルオープンし,本件非公開決定を維持する必要がなくなったことを受けてされたものであり,国家賠償法上違法であるとはいえない。また,控訴人は本件非公開決定に対して異議申立てを行うことなく,同決定の取消訴訟を提起することも可能だったのであるから(行政事件訴訟法8条1項),本件取消決定が控訴人の裁判を受ける権利を侵害したとはいえない。
争点3(本件異議申立てにおける手続的違法)について
(控訴人の主張)
被控訴人が本件条例20条の定める審査会への諮問を遅滞なく行ったとはいえず,条例違反は明らかである。控訴人が本件異議申立て(甲7)をした平成27年3月5日から90日を超えても諮問をせず,そのまま同年6月10日付けで非公開を取り消して本件部分公開決定をしている。大阪府知事が審査会への諮問を行わなかったことは,本件条例20条及び行政不服審査法1条に違反する。
被控訴人は,ピースおおさかのリニューアルオープン後には本件文書を全部公開する予定であったため,本件条例20条2号の規定に基づき,審査会への諮問を行わなかったなどと主張するが,同号の規定は本件文書を全部公開する場合の規定であって,本件のように部分公開決定を行う場合には適用されない。国が作成した指針(乙13)においては,「改めて調査・検討等を行う必要がないような事案」であったとしても諮問しなくてよいとはされておらず,不服申立てから諮問までに「遅くとも30日を超えないようにする」と定めている。さらに,その他の事案であったとしても「特段の事情」がない限り「遅くとも90日を超えないようにする」と定められているところ,本件では,何ら「特段の事情」はない。
異議申立てに対する決定を行うまでには審査会による答申を踏まえた調査検討を要することや,リニューアルオープン前に本件異議申立てに対する決定を行うことは相当に困難な状況であったことを理由として,審査会への諮問を行わない措置を許容する規定も大阪府条例に存在しない。審査会への諮問は,異議申立てをした請求者の権利を保障するために,非公開決定をした行政判断の適否を審査する目的で設けられた手続であり,請求者側の事情を考慮して諮問しないというのであれば格別であるが,行政側の事情に基づいて諮問しなかったという弁解が是認される余地はない。
(被控訴人の主張)

本件異議申立ては平成27年3月5日にされ,大阪府知事は審査会への諮問を行っていない。大阪府知事は,同年4月中に予定されていたピースおおさかのリニューアルオープンが終われば,本件文書を全部公開する予定であったため,本件取消決定をした同年6月10日まで本件条例20条2号の規定に基づき,審査会への諮問を行わなかった。そして,同日以降は,本件取消決定により本件異議申立てが不適法となったため,同条1号の規定に基づき,審査会への諮問を行わなかった。以上の経過に照らせば,大阪府知事が審査会への諮問を行わなかったことが国家賠償法上違法であるとはいえない。


控訴人は,大阪府知事が遅滞なく諮問を行わなかったなどと主張するが,平成27年6月10日まで諮問を行わなかったのは,ピースおおさかのリニューアルオープン後には本件文書を全部公開する予定であったことに加え,本件センターの職員がリニューアルオープンの準備で繁忙であったこと,同年5月初旬に本件文書に個人識別情報が含まれていることが判明し調査に時間を要したことによるものであって,やむを得ない事情があるから,遅滞なく諮問を行わなかったとはいえない。


仮に大阪府知事が遅滞なく諮問しなかったと評価されるとしても,本件異議申立てがされた平成27年3月5日時点では,既に同年4月中にはピースおおさかのリニューアルオープンが予定されていたから,仮に大阪府知事が本件異議申立てを受けて速やかに諮問を行ったとしても,ピースおおさかのリニューアルオープン前に本件異議申立てに対する決定を行うことは相当に困難な状況であったし,本件非公開決定が違法とはいえないことを併せ考慮すれば,大阪府知事において,ピースおおさかがリニューアルオープンした同月30日までに審査会への諮問を行わなかったことが,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったものと評価することはできず,国家賠償法上違法であるとはいえない。
争点4(損害の有無及び損害額)について
(控訴人の主張)

控訴人は,違法な本件非公開決定により知る権利を侵害され,精神的苦
痛を受けた。控訴人は,自己の人生を通して,歴史的加害行為と向き合う生き方を送っており,ピースおおさかの設置理念が加害の歴史に言及し,これを忘れないなどとしていることに深く共感していた。控訴人は,ピースおおさかのリニューアルによって南京大虐殺や朝鮮人強制連行等に関する展示(以下「加害展示」という。)が撤去されるという報道を受け,何としても変更内容を知りたいという思いで本件請求を行ったものの,違法な本件非公開決定を受け,強い精神的苦痛を受けた。
また,控訴人は本件請求により展示内容を知った上で意見表明を行う予定であったところ,本件非公開決定により意見表明を行う機会を奪われ,強い精神的苦痛を受けた。当該損害はリニューアルオープン後に展示内容が公開されたからといって回復されるものではない。

本件取消決定により,控訴人は裁判を受ける権利等を侵害され,精神的
苦痛を受けた。

控訴人は,本件異議申立てに対する諮問をせず,本件取消決定によって
本件非公開決定の違法を隠蔽する大阪府知事の行為により,精神的苦痛を受けた。

上記アからウまでの控訴人の精神的苦痛を慰謝するため,160万円が
支払われるべきである。
(被控訴人の主張)
否認ないし争う。
第3
1
当裁判所の判断
争点1(本件非公開決定の違法性)について
認定事実

本件文書
本件文書は,本件事業に関する本件センターの諮問機関である監修委員
会において配布された検討資料であって,平成27年1月下旬にとりまとめられた(甲6,15,乙3,弁論の全趣旨)。本件文書には,ピースおおさかのリニューアル後の展示内容の詳細が示されており,各展示ゾーンにおける展示物の配置,展示物の寸法,内容,展示方法等(映像についてはキャプチャー画像,字幕の内容,表示方法等も含む。)が明らかにされているほか,これらの根拠となる統計資料や従前の検討資料からの変更点も記載されており,本件センターにおいてリニューアルオープン前にこれらを公開することを予定していなかった(甲15,弁論の全趣旨)。イ
本件事業に関する経緯
ピースおおさかは,戦争の悲惨さを次世代に伝え,平和の尊さを訴え,世界平和に貢献することを目的として平成3年9月に開館し,開館当時から「加害と被害の両面」を展示する方針をとっていた。しかし,開館以来,常設展示のリニューアルがされておらず,近年における歴史研究の進展に照らして展示内容や説明文に変更が必要なものや,より分かりやすい展示物への変更が望ましいものも生じており,特に,入館者の6~7割を占めるようになっている小中学生にとって,展示や説明,見せ方,展示構成が難しいものも多く,彼らに戦争の悲惨さ・平和の尊さをいかにわかりやすく伝えるか,という観点で見直しが必要とされた。また,展示について,開館当時から「加害と被害の両面を展示」と評価する意見がある一方,残酷,偏向,自虐的などといった批判や加害展示が事実に反し不適切との指摘を受け(大阪府議会において議員から偽写真が使われているなどの指摘がされていた。),展示資料の撤去,差替え,説明文の変更等を数回行っていたところ,今回の展示リニューアルの方向性としては,ピースおおさかの目的を「大阪空襲の犠牲者を追悼し,平和を祈念する」「大阪空襲を中心にして「戦争の悲惨さ」「平和の尊さ」を次世代に伝え,平和を願う豊かな心を育む」と再構築するなどとされた(乙14,49)。
本件センターが,平成25年4月9日,ピースおおさか展示リニューアル構想を発表し,それをマスメディアが報道したところ,これらを受けて,本件センターには,市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,別紙1「ピースおおさかの展示リニューアルに対しての要望等(受理日順)」(以下「要望等一覧」という。)の受付番号1から19まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙7,8の2)。本件センターは,平成25年9月13日に展示リニューアル基本設計(中間報告)を発表した。同設計においては,従前まで加害展示を扱ってきた部分を,大阪空襲に至った経緯として日清・日露戦争から太平洋戦争までを概観する内容とすることが示され,各種マスメディアにおいて,旧日本軍による加害行為に係る展示が縮小されることを懸念する旨の報道と偏向展示がようやく正常化に向かったと評価する報道が対立す
15)
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号20から53まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙7)。
本件センターは,平成25年11月27日に展示リニューアル基本設計を発表した。同設計においては,市民団体からの指摘等を踏まえ,上
大阪空襲直前にアメリカ軍が撮影した大阪市街地の航空写真の床面展示を,攻撃側の視点で土足で踏むのかと批判されたことにより取りやめる10,乙16,弁論の全趣旨)
上記発表やこれに関する報道を受けて,本件センターには市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号54から69まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙7)。また,控訴人の所属する市民団体である「『ピースおおさか』の危機を考える連絡会」は,大阪府知事及び大阪市長に対し,計画の見直しを求める6662筆の署名を提出した(乙8の11)。
本件センターは,平成26年2月4日に展示リニューアル実施設計(中間報告)を発表した。同設計においては,「展示に当たっての留意点」として「政府の統一的な見解を踏まえつつ,事実を客観的に展示することを基本とし…」などと記載されたほか,照明・音響等を利用して当時の防空壕を再現することなどが示されたところ,各種マスメディアにおいては,博物館の方針が時の政権に左右される懸念がある,防空壕
に上記留意点を評価する趣旨の報道も行われた。(以上につき,前記前
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号70から74まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙7)。
本件センターは,平成26年4月10日に展示リニューアル実施設計を発表した。上記発表後も,各種マスメディアにおいては,南京事件に関する展示を撤去する方針を撤回する旨の方針が示された旨の報道がされるなど,ピースおおさかの展示内容に関する報道が継続的に行われた。
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号75から93まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙7)。
ピースおおさかは,平成27年4月30日にリニューアルオープンした。その後も,別紙2「ピースおおさかリニューアルオープン以降の要望等一覧(財団)」記載のとおり,本件センターには市民団体等から展示内容に関する批判や変更を求める要請が寄せられた(甲11,乙10,11,19~31)。
検討

本件非公開条項(本件条例8条1項1号)は,非公開情報として,法人
等に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(法人等情報)を掲げている(なお,被控訴人は,当初,本件文書に記録されている情報の非公開事由として本件条例8条1項3号及び同4号を挙げていたが,原審においていずれも撤回し,非公開事由としては本件非公開条項のみを挙げている。)。
被控訴人は,本件文書に記録されている情報は本件非公開条項所定の非公開情報に該当すると主張するところ,本件文書は,本件センターの行う本件事業(ピースおおさか展示リニューアル事業)に関して監修委員会に
ア),本件情報が同条項にいう「法人等に関する情報」に当たることは明らかである。
そこで,以下,本件文書に記録された情報が「公にすることにより,当該法人(本件センター)の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」ものであるか否かについて検討する。

まず,本件文書に記録された情報は,公にすることにより,本件センターの競争上の地位を害するものではないことが明らかであるから,同情報が非公開情報に当たるためには,同情報を公にすることにより,本件センターの「その他正当な利益」を害すると認められることを要する。ここでいう「正当な利益」というためには,例示されている「当該法人等の競争上の地位」に準ずる当該法人等の経済的な利益に限定されるわけではないとしても,これが公にされることにより当該法人の何らかの利益が害される可能性があるというだけでは足りず,その利益が法による保護に値すると合理的に認められる正当なものであり,かつ,公にされることにより,そのような正当な利益を害される蓋然性のあることが具体的に立証されることを要すると解すべきである。
そして,本件条例3条が,実施機関において,文書の公開を求める権利が十分に保障されるように,被控訴人の条例を解釈し,運用することを求めていることを踏まえれば,当該非公開情報が公開されることにより,かかる正当な利益を害すると認められるかどうかは,非公開とされた情報の性質,当該法人等の公共性その他の性格を十分勘案し,上記公開によって本件センターが受ける正当な利益の侵害が,公開による公益的な利益を上回るものであることが立証されているか慎重に判断すべきであり,この点(本件文書に記録された情報が本件非公開条項に当たること)については,被控訴人が主張立証責任を負うことが明らかである。

被控訴人が本件非公開条項に当たる根拠として主張しているのは,主として,次の点である。


本件文書に氏名が記載されている監修委員会の委員が批判を受けることをおそれて,理事会や監修委員会における発言を差し控えることや,展示リニューアルの内容を実質的に決定する監修委員会の委員に対し,本件文書に自己の要望が採用されなかった市民団体等がその採用を直接又は間接に働きかけるなどすることが考えられた。



本件請求がなされた平成27年1月27日頃には監修委員会からピースおおさかのリニューアル後の展示内容,展示位置,展示物等など細部にわたって見直しをするよう要求され,本件センターの4名の職員で細部にわたり誤りのないよう検討を重ねるとともに,繰り返しチェックをする作業やリニューアルオープンの宣伝活動に忙殺されて,平成26年9月から平成27年3月までの間に1198時間もの残業をする程であったのに,これに加えて,展示内容に関する市民団体等からの要望や批判,マスメディアの報道や取材への対応に追われれば,上記職員らの疲労が限界を超え,上記業務に支障が生じて平成27年4月中のリニューアルオープンが不可能となるおそれがあった。

確かに,前記のとおり,本件文書は,平成27年1月下旬にとりまとめられたものであって(上記認定事実ア),ピースおおさかのリニューアル
ウ),かつ,本件文書の内容が詳細にわたっていたこと(上記認定事実ア)に照らせば,本件文書が公開されることにより,リニューアル後の展示内容の詳細が明らかになるものであったこと,そして,ピースおおさかの展示内容については,加害展示の撤去の当否などについて,市民団体や
本設計,展示リニューアル実施設計を発表するたびに展示内容に関する意見や批判,質問に対する回答要求が多数寄せられていて,その内容はリニューアル後の展示内容の詳細が明らかになるにつれて具体性を増していた
このような本件事業をめぐる状況に照らせば,本件センターにおいて公開する予定がなかったリニューアル後の展示内容の詳細を明らかにする本件文書を公開すれば,展示リニューアルの内容を実質的に決定する監修委員会の委員に対し,本件文書に自己の要望が採用されなかった市民団体等がその採用を直接又は間接に働きかけたり,本件センターに市民団体等から更に具体的な展示内容に関する意見,批判,回答要求等が多数寄せられる可能性のあることが否定できず(現にリニューアルオープン後には,本件センターに展示内容の変更を求める多数の意見や要望が寄せられた(上
務に支障が生じる可能性があったことを一概に否定することはできない。オ
しかし,本件文書が記録している情報,すなわち本件事業に係るピースおおさかのリニューアル後の展示内容の詳細をめぐっては,前記認定のとおり,本件センターが展示リニューアル構想や同基本設計,同実施設計等を順次発表する都度,展示内容を政府の統一的な見解を踏まえたものにするかどうか,また,加害展示を撤去することの当否などについて,市民団体や各種マスメディアの間で尖鋭な意見対立が生じていたのであり,マスメディアによる報道に加え,各種市民団体等から極めて多くの意見や要望が寄せられていた。また,このことをめぐって,大阪府議会等においても多数回にわたり議論が重ねられ,ここでも尖鋭な意見対立が生じていたことが認められる(乙49)。以上のとおり,本件事業に係るリニューアル後の展示内容に関しては,先の大戦に対する歴史認識にも深く関わり,各人によって議論が分かれ得る事項であり,その意味で社会的関心が高く公益性の高い事項をその内容としている。したがって,本件文書に記録された情報は,それ自体として,広く一般に公開した上で,これを国民的議論の対象とすることが望ましいものであったということができる。
本件センターは,戦争と平和に関する情報及び資料の収集,保存,展示を行うこと等により,戦争の悲惨さを次世代に伝え、平和の尊さを訴え,世界平和に貢献すること等を目的として,被控訴人と大阪市の共同出捐に大阪市から補助金の支給を受け,かつては被控訴人及び大阪市から5名ずつ現職職員が派遣されたことがあるなど,被控訴人及び大阪市とそれなりに密接な関係があったのであり,上記設立目的に照らしても,高い公共的性格を有しており,その点で一般的な外部の法人と同視することはできないというべきである。
このように,本件文書に記録された情報は,被控訴人と大阪市の共同出捐により設立された公益財団法人で高い公共的性格を有する本件センターが,その設立目的を達成するための本件事業を行うに当たって作成したものであり,その内容も,先の大戦に対する歴史認識にも関わり,多くの国民が高い社会的関心を持つもので,それ自体高い公益性を有するものである。

これに対し,本件文書に記録された情報を公開することによる本件センターの正当な利益の侵害の有無,程度について検討する。
被控訴人は,本件文書に氏名が記載されている監修委員会の委員が批判を受けることをおそれて,理事会や監修委員会における発言を差し控えることや,展示リニューアルの内容を実質的に決定する監修委員会の委員に対し,本件文書に自己の要望が採用されなかった市民団体等がその採用を直接又は間接に働きかけるなどすることが考えられたと主張する(前記ウ①の主張。なお,この主張は,本件条例8条1項3号の非公開事由を主張するものではなく,本件非公開条項にいうところの,公にすることにより当該法人等の正当な利益を害すると認められる事情の一つとして主張するものと位置づけられる。)。しかし,そのような懸念は,本件文書のうち監修委員会の委員の氏名を非公開にすることによって容易に解消することができ,本件文書全体を非公開にすることを直ちに正当化することはできない。また,それまでの報道によって既に本件事業の方向性に対する批判や要望が多くの市民団体等から寄せられていたと認められる(乙7)ところ,被控訴人は,それに加えて本件文書が公開されることにより,従前の状況に比べて,監修委員会の委員がどのような発言を差し控え,また,どのような働きかけを受けるのか,これによって具体的に本件センターのどのような正当な利益をどのように害されると認められるかについて具体的な主張立証をしていない。現に,本件請求後の平成27年2月28日に開催された監修委員会の会議の内容(乙41)において,本件文書が公開されることによって阻害されたであろう発言や意思決定を見出すことができない。
次に,被控訴人は,本件請求がなされた平成27年1月27日頃には監修委員会からピースおおさかのリニューアル後の展示内容,展示位置,展示物等など細部にわたって見直しをするよう要求され,本件センターの4名の職員で細部にわたり誤りのないよう検討を重ねるとともに繰り返しチェックをする作業やリニューアルオープンの宣伝活動に忙殺されて平成26年9月から平成27年3月までの間に1198時間もの残業をする程であったのに,これに加えて,展示内容に関する市民団体等からの要望や批判,マスメディアの報道や取材への対応に追われれば,上記職員らの疲労が限界を超え,上記業務に支障が生じて平成27年4月中のリニューアルオープンが不可能となるおそれがあったと主張し(前記ウ②の主張),これに沿う証拠として,本件センター事務局長の陳述書(乙47)及び元ピースおおさか館長の陳述書(乙48)を提出する。しかし,これらの証拠(陳述書)は,本件センター関係者の供述書面にすぎず,本件センター職員の勤務状況を具体的に裏付ける客観的な証拠(勤務時間管理簿等でこれを立証をすることは極めて容易である。)が伴っていない。また,証拠(乙36~38)によると,本件センター職員は,「ピースおおさかのリニューアルに府民・市民の声を!実行委員会」と称する団体と,平成27年7月19日から同年12月20日までの間に3回,合計6時間15分にわたって応接した事実が認められるが,ピースおおさかのリニューアルオープン後にこの程度の頻度,時間の応接がされたことから直ちに,リニューアルオープン前に本件文書が公開されたときに,これを上回るような許容限度を超える市民団体等からの要望や批判が寄せられ,本件事業に著しい支障を生ずるほどに本件センター職員がその対応に追われたと直ちに推認することはできないし,仮に市民団体等からのリニューアルオープン後を上回る要望や批判が寄せられたとしても,本件センターにおいてこれに一々応接すべき義務があったとはいえないから,これによって,リニューアルオープンが不可能になるほど本件事業に対し著しい支障を生じたとは直ちにいうことはできない(本件センターの本来の業務の支障にならないように,また,同センターの職員が時間外労働を強いられないように,上記要望や批判を聴取する時間帯をあらかじめ決めておき,その時間内に限り応接するということが,通常の業務遂行の在り方として不当とはいえないし,通常はそのような態様で業務遂行がされていると推認される。)。
この点について,上記元ピースおおさか館長は,陳述書(乙48)において,各種団体とは「運営協力懇談会」が設置されていた当時からの関係を引きずっていたことと,各種団体との交渉に真摯に応じなければ,被控訴人及び大阪市から補助金の交付が打ち切られるから,応接に応じざるを得なかったと思うと述べるが,「運営協力懇談会」が設置されていた当時からの関係を引きずっていたからどうして交渉に応じなければならないのかその趣旨が不明であるし,被控訴人自身,大阪府補助金交付規則(乙53)及び大阪市補助金等交付規則(乙54)を提出しながら,同各規則上,本件センターが各種団体との交渉に応じなければ,なにゆえ補助金の交付が打ち切られることになるのか,という点について何ら具体的な主張をしないのである。これらのことに照らすと,元ピースおおさか館長の上記供述によって,そのような本件センターの応接義務を認めることはできない。そして,市民団体等による要望等を聴取するための応接が常態だったというのであれば,1198時間もの残業をしたという平成26年9月から平成27年3月までの間,本件センター職員の勤務時間のうち,本来必要としない事務のための勤務時間(義務のない応接時間など)が相当程度含まれていた可能性も否定できないから,本件文書の公開により,平成27年4月中のリニューアルオープンが不可能となるおそれがあるほど業務に支障が出たと認めることはできず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

被控訴人は,展示内容の選択や展示前に展示内容をどの程度明らかにするかについて,本件センターに裁量権があり,そのこと自体が,本件センターの正当な利益に該当すると主張する。しかし,本件センターに上記のような裁量権を肯定する余地があるとしても,それが本件センターの正当な利益として保護されるためには,本件文書を公開しないことが本件センターの正当な裁量権の行使として是認されることを要すると解すべきである。しかるところ,本件文書に記録された情報の性質や本件センターの高い公共的性格など前記説示に係る諸事情に鑑みると,これを公開することにより害されると被控訴人が主張立証する本件センターの利益の性質及びその内容,程度等を考慮しても,本件文書を公開しないことが本件センターの正当な裁量権の行使として是認されるものとは解されない。


以上のとおり,本件文書の公開により,本件センターに市民団体等から更に具体的な展示内容に関する意見,批判,回答要求等が多数寄せられることが予想され,本件センターの職員4名で行っていたリニューアルオープンに向けた準備等の業務に支障が生じる可能性があったことを一概に否定することができないとしても,そのことによって,本件文書に記録された情報を公開しないことによる本件センターの正当な利益が,これを公開することによる利益を上回るとは到底認められず,本件文書について本件非公開条項にいう非公開事由の存在が立証されたとはいえない(当裁判所は,当審第1回口頭弁論期日において,あえて被控訴人に対し,本件文書に記録されている情報が本件非公開条項に該当することを具体的に主張立証するよう促し,期日を続行した上で,その旨の主張立証の機会を与えたが,結局,上記程度の客観的裏付けを欠く抽象的な主張立証にとどまった。)。
以上によれば,本件文書を公開することにより,本件センターの正当な利益を害すると認められるとして,法人等情報に該当することを理由に本件非公開決定をしたことに相応の合理的な根拠が認められず,本件非公開決定は,大阪府知事が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件非公開決定をした点で,国家賠償法上も違法である。
なお,控訴人を原告,本件センターを被告とする損害賠償請求事件について,大阪地方裁判所は,本件文書が本件センターの情報公開規程上の非公開情報に当たるとして,本件センターが本件文書を公開しない旨の決定をしたことをもって不法行為を構成するような違法性があるとは認めず,控訴人の不法行為に基づく損害賠償請求を棄却したことが認められる(乙52)ところ,被控訴人は,上記判決を根拠に,本件非公開決定に「相応の合理的根拠」があったというべきである旨主張する。しかし,本件は,上記判決の事案とは対象となる非公開決定も非公開事由も異なる。本件において,処分当時の社会通念に照らしても大阪府知事が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件非公開決定をしたといえることは前記説示のとおりであり,上記判決において,本件文書が本件センターの情報公開規程にいう非公開事由に当たると認定判断したことが,当裁判所の上記の判断を妨げるものではない。
2
争点2(本件取消決定の違法性)について
本件取消決定は,ピースおおさかのリニューアルオープンに伴い,本件非
リニューアルオープン前に本件文書が公開されることにより本件センターの正当な利益を害すると認められることを理由としてされたものであるところ,本件非公開決定の当否はともかく,リニューアルオープン後において本件非公開決定を維持しておく理由のないことは明らかであり,大阪府知事において,本件取消決定をしたことが職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とされたものということはできず,国家賠償法上違法であるということはできない。
控訴人は,①本件非公開決定が取り消されたことにより,本件非公開決定の取消しを求める訴えの利益がなくなり,行政事件訴訟法により保障された裁判を受けることができなくなったから,本件取消決定は裁判を受ける権利を侵害する,②本件取消決定は本件非公開決定という違法行為を追認し矮小化するものであるなどと主張する。
しかし,①本件取消決定は,行政事件訴訟法上の取消しの訴えにおいてその請求が認容されるのと同一の法的効果を生じさせるものであって,控訴人が訴訟によって求める本件非公開決定の取消しを実現するものということができるから,本件取消決定が控訴人の裁判を受ける権利を侵害するものとはいえない。また,②大阪府知事が,不服申立てを待つことなく,自発的に本件非公開決定を取り消したことは,大阪府知事の主観的意図はともかく,控訴人からみればこれによって違法状態が解消されることになるのであって,控訴人に法律上の不利益を与えるものといえないことは明らかである。以上の点に係る控訴人の主張には理由がない。
3
争点3(本件異議申立てにおける手続的違法)について
控訴人が,平成27年3月5日,本件非公開決定を不服として大阪府知事に対し本件異議申立てをした後,大阪府知事は,審査会に対する諮問を行わ本件条例20条は,不服申立てを受けた実施機関は「遅滞なく」審査会
会への諮問を行っていないから,「遅滞なく」諮問を行ったということはできない。

もっとも,本件条例20条は,審査会への諮問を要しない場合として,決定又は裁決で,不服申立てに係る公開決定等を取り消し又は変更し,当該不服申立てに係る行政文書の全部を公開することとするときを挙げている。本件非公開決定は,ピースおおさかのリニューアルオープン前に本件文書を公開することが本件センターの正当な利益を害するとしてされたものであって,その当否にかかわらず,ピースおおさかのリニューアルオープン後には,本件文書を非公開とする必要はなく,これを公開する予定であったことは,被控訴人自身が主張しているところである。ただし,実際に本件部分開示決定がされたのは,本件異議申立てがされた平成27年3月5日から3か月以上経過した同年6月10日付けであり,ピースおおさかのリニューアルオープンした同年4月30日からも1か月以上経過した後であり,その間大阪府知事から審査会に対し諮問がされなかった。本件異議申立てにおける上記審理の経過に照らせば,大阪府知事が本件異議申立て後,遅滞なく審査会に諮問しなかったことの正当性には疑問が残るといわざるを得ない。
しかし,審査会において答申を行うためには,本件センターの職員に対する聴き取り等を要し,さらに大阪府知事が異議申立てに対する決定を行うまでには審査会による答申を踏まえた調査検討を要するのであって(弁論の全趣旨),本件異議申立てがされた平成27年3月5日時点では,既に同年4月中にはピースおおさかのリニューアルオープンが予定されてい遅滞なく諮問をしたとしても,ピースおおさかのリニューアルオープン前に本件異議申立てに対する決定を行うことは相当に困難な状況であったということができる(乙44)。また,いずれにしても本件非公開決定を取り消すことが予定されていた以上,審査会に対する諮問をするという手続をとることは無意味であったともいえる。
以上によれば,本件異議申立て後,遅滞なく審査会に諮問しなかった大阪府知事の措置には疑問を差し挟む余地もあるが,同措置をもって国家賠償法上違法なものであるとまでいうことはできない。
4
争点4(損害の有無及び損害額)について
控訴人は,本件非公開決定により,本来公開されるべきであった本件文書の公開を違法に拒絶されたため,ピースおおさかのリニューアルオープン前に本来見ることができた本件文書を見ることができず,よって展示内容に対する意見を述べることができなかったのであるから,これにより控訴人は精神的苦痛を被ったと認められる(甲25,弁論の全趣旨)。もっとも,控訴人は,後日,本件部分公開決定がされたことにより,結局,本件文書の内容を知ることができたこと,仮に控訴人がリニューアルオープン前に本件文書の開示を受けて展示に関する意見を述べたとしても,展示内容の詳細は,最終決定の最終段階に至った後であり,本件センターとしては,控訴人の意見を考慮する余地があったとはいえず,また,その繁忙状況からして控訴人からの意見等について何らかの対応を採ることは困難であったと考えられることなどの事情も認められる。したがって,これら本件に顕れた一切の事情を考慮すると,本件非公開決定により控訴人の被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は5万円が相当である。

第4

結論
以上のとおりであるから,控訴人の請求は,被控訴人に対し,慰謝料として5万円の支払を求める限度で理由がありこれを認容すべきであり,その余は理由がなくこれを棄却すべきである。よって,控訴人の請求を全て棄却すべきものとした原判決は一部相当でないから,上記の限度で原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第14民事部

裁判長裁判官

田中俊次
裁判官

井上一成
裁判官

住山
真一郎

(別紙省略)
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