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損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)393
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成29年11月30日
法廷名東京地方裁判所
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平成29年11月30日判決言渡
平成29年(ワ)第393号
口頭弁論終結日

同日原本交付

損害賠償請求事件

平成29年10月10日
判原
裁判所書記官

決告
株式会社アロマスペース

同訴訟代理人弁護士

桑被
桐灰化学株式会社

告原勇太
同訴訟代理人弁護士

深井末吉主剛
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1

至文1俊実及び理由
請求
被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成29年2月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,発明の名称を「衣服の汚れ防止シート」とする特許発明について特許出願をし,特許権を有する原告が,被告による別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。
)の製造及び販売を①上記特許出願に係る出願公

開及び被告に対する警告の後に行った,②特許登録後に行ったことが上記特許権を侵害すると主張して,被告に対し,①特許法65条1項に基づき補償金563万1080円,②民法709条,特許法102条2項に基づく損害賠償金の一部2436万8920円及び上記各金員に対する①につき請求の日であり②につき不法行為の日の後である平成29年2月6日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であ
る。
2
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内の証拠及び弁論の全趣旨によれば容易に認められる。



当事者
原告はアロマオイル等の商品の企画販売,雑貨の販売等を業とする株式会社であり,被告は家庭日用品の製造販売等を業とする株式会社である。


原告の特許権

原告は,次の特許権(以下,
「本件特許権」といい,その特許出願の願
書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。
)に係る特許出

願をし,特許査定を受けて本件特許権を有している(甲2)

特許番号
発明の名称

平成19年8月29日(特願2007-221918)

出願公開日

平成21年3月12日

登録日

衣服の汚れ防止シート

出願日
第5450943号

平成26年1月10日

本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。。


「不織布シートに10~100個/cm2という多数の微小孔を形成してメッシュ状に成形すると共に,その表面に吸着・乾燥剤を付着させた保護シートと,この保護シートの裏面に形成した粘着剤層と,この粘着剤層に付着させた剥離シートと,から構成される衣服の汚れ防止シート。」

本件発明は,次の構成要件(以下,個別の構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」などという。
)に分説される。
A
不織布シートに10~100個/cm2という多数の微小孔を形成してメッシュ状に成形すると共に,その表面に吸着・乾燥剤を付着させた保護シートと,

BC


この粘着剤層に付着させた剥離シートと,

D
この保護シートの裏面に形成した粘着剤層と,

から構成される衣服の汚れ防止シート

被告製品の構成
被告製品は,表面にエンボス加工された不織布があり,その裏面にPETフィルム層及びアクリル系粘着剤層が形成されており,上記粘着剤層の裏面に剥離紙が貼付されている。



被告の行為
被告は,平成24年4月から,被告製品の製造,販売を行い,後記⑸の警告書の受領後現在までにこれを取りやめた(弁論の全趣旨)




原告による警告
原告は,被告に対し,平成24年6月13日,特許法65条1項所定の警告を記載した警告書を送付した。

3
争点


被告製品の構成要件充足性
なお,被告は,後記ア~ウ以外の構成要件の充足性について争っていない。ア
構成要件A「微小孔」の充足性


構成要件A「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」の充足性


構成要件B「保護シートの裏面に形成した粘着剤層」及び構成要件D「衣服の汚れ防止シート」の各充足性



本件特許の無効理由(サポート要件違反,実施可能要件違反)の有無

効果不奏功の抗弁の成否

補償金及び損害の額

4
争点についての当事者の主張


争点⑴(被告製品の構成要件充足性)について

争点⑴ア(構成要件A「微小孔」の充足性)について(原告の主張)
被告製品の不織布層は,エンボス加工が施され,これによりおおむね16~25個/cm2の多数の微小孔が形成されているとともに表面に凹凸
が設けられ,メッシュ状となっているから,構成要件Aの「微小孔」を充足する。
(被告の主張)
本件発明の微小孔は,ほこりや汗が衣類に直接付着することを防止するという従来技術の利点を損なうことなく衣服の汚れ防止シート全体に対し
て通気性を付与するものであるから,
「微小」は,ほこりや汗のしずくの
侵入を防ぐ程度に小さいことを意味している。ところが,被告製品は略正方形の形状を有する孔の一辺は約1.5mmであり,ほこりや汗が容易に貫通するから,構成要件Aの「微小孔」を充足しない。

争点⑴イ(構成要件A「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」の充足性)について
(原告の主張)
被告製品は,不織布の表面上に乾燥剤として用いられているシリカが付着している。また,不織布又はこれを加工したものに何らかの物を添加し
なければ,被告製品の包装紙の表面に表示されている「汗を素早く吸収」,
「サラサラ快適に」との効果は奏し得ない。したがって,被告製品は構成要件Aの「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」を充足する。
(被告の主張)
被告製品の製造工程には不織布の「表面に吸着・乾燥剤を付着させ」る工程はないし,被告製品の不織布層表面に観察された物体はインク顔料を含んだ剥離紙の一部であり,吸着・乾燥剤に該当し得る物体は全く観察さ
れなかった。シリカが含まれるとする原告の分析結果(甲5,6)は,不織布以外の部分も試料にしたものであるし,仮に一定量(1.1μg/cm2)のシリカが検出されたとしても,それが吸着・乾燥剤として機能する構造を有するものとは限らないし,上記の量では吸着・乾燥剤といえない。したがって,被告製品は構成要件Aの「表面に吸着・乾燥剤を付着さ
せた」を充足しない。
原告は,被告製品の包装紙の表面の表示を指摘するが,不織布には吸水性があり,これに基づく作用効果を記載したにすぎない。

争点⑴ウ(構成要件B「保護シートの裏面に形成した粘着剤層」及び構成要件D「衣服の汚れ防止シート」の各充足性)について
(原告の主張)
被告製品のPETフィルム層及びアクリル系粘着剤層は,本件明細書の記載(段落【0026】
)に照らし,構成要件Bの「保護シートの裏面に
形成した粘着剤層」を充足する。前記ア及びイの各(原告の主張)のとお
り構成要件Aを充足し,同Cの充足は争いがないから,被告製品は同Dも充足する。
被告は,本件発明における通気性を粘着剤層も有していなければならないと主張するが,本件発明における通気性とは,保護シートの不織布をメッシュ状に形成してその表面に凹凸を作ることによってその表面上に空気
の流れが生じる余地をつくり,熱がこもらないようにするというものである(本件明細書の段落【0007】~【0012】【0032】参照)か,
ら,本件発明における通気性が垂直方向に限るとは解されないし,通気性が確保される必要があるのは保護シートであって衣服の汚れ防止シート全体ではない。また,被告製品の粘着剤層は0.05mmと非常に薄いものであり,保護シート及びシャツの台襟の表面部とほとんど一体化するから,保護シートと台襟の表面部とが接触状態となる。その結果,保護シートの表面部に沿って空気が流通して水平方向の通気性が生じ,その空気が保護シートの微小孔を通って台襟の表面部に流入し,又はPETフィルムに穴が空く若しくはこれが破壊されるなどして,垂直方向の通気性が生じる。したがって,被告の上記主張は失当である。

(被告の主張)
本件発明は,従来の汚れ防止のための不織布シートは高温多湿時に汗を十分に吸収できず保護シートの表面に付着した汗が首筋,手首に接触し,保護シートに熱がこもると共に汗臭くなって着用者が暑苦しさや不快感を覚えることが多かったという課題(本件明細書の段落【0007】【00,

08】
)を解決するためのものであり,不織布シートに10~100個/cm2という多数の微小孔を形成してメッシュ状に保護シートを成形したことにより通気性がよく,高温高湿時にあっても保護シートに熱がこもることはなく,暑苦しさ,不快感を覚えることがないとされている(段落【0012】【0017】【0032】。こうした効果を奏するには,本,



件発明のシートは,保護シートのみならずその裏面に形成される粘着剤層も通気性を有する必要がある。したがって,構成要件Bの「保護シートの裏面に形成した粘着剤層」は,通気性を有することを要する。
ところが,被告製品は,不織布層の裏面にPETフィルム層が形成され,更にその裏面にアクリル系粘着剤層が形成されており,これらはいずれも
通気性を有さないし,穴が空くこともないので,構成要件Bの「保護シートの裏面に形成した粘着剤層」を充足しない。
加えて,上記の本件発明の目的及び効果からすれば,本件発明の「衣服の汚れ防止シート」は通気性を有しない層を含んではならないと解される。ところが,被告製品は通気性を有しない層を含んでいるから,構成要件Dの「衣服の汚れ防止シート」も充足しない。


争点⑵(効果不奏功の抗弁の成否)について
(被告の主張)
前記⑴ウ(被告の主張)のとおり,被告製品には通気性を有しないPETフィルム及びアクリル系粘着剤層が存在するから通気性はない。そうすると,被告製品は本件発明の作用効果を生じないから,その技術的範囲に属しない。(原告の主張)

前記⑴ウ(原告の主張)のとおり,被告製品は垂直方向の通気性があるから,本件発明の作用効果を奏している。


争点⑶(本件特許の無効理由(サポート要件違反,実施可能要件違反)の有無)について

(被告の主張)

仮に通気性のない被告製品も本件発明の技術的範囲に属するとすれば,本件発明はその作用効果を奏さない範囲,すなわち従来技術の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超える範囲を特許請求の範囲に含むことになるから,サポート要件(特許法36条6項1号)に反する。

本件発明には「不織布シート・・・の表面に吸着・乾燥剤を付着させた保護シート」との構成(構成要件A)があるところ,本件明細書には,吸着・乾燥剤として二酸化ケイ素(SiO2)等の吸水性,吸着性を有する無機粉体を採用すること,不織布シートの表面に均一に付着させることしか記載がなく(段落【0012】【0019】【0020】【0031】,,




例えば,二酸化ケイ素を材料とした吸着・乾燥剤を使用する場合に,そうした吸着・乾燥剤として具体的にいかなる物を用い,いかなる量を,本件発明に係る衣服の汚れ防止シートのどの製造過程において,どのようにシートの表面に均一に付着させるのかにつき何らの示唆もないから,これらの点につき当業者は理解できない。したがって,本件発明の詳細な説明は当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したもの(特許法36条4項1号)でない。

(原告の主張)

前記⑴ウ(原告の主張)のとおり,被告製品は垂直方向の通気性があり本件発明の作用効果を奏しているから,被告の主張は前提を欠く。

二酸化ケイ素として用いるべきものは二酸化ケイ素の粉体であり(本件明細書の段落【0020】,吸着・乾燥作用を保有させるために不織布等)

に二酸化ケイ素を添加することは周知であるから,その量も当業者は容易に理解可能であり,その製造工程も周知技術にすぎない。したがって,本件発明の詳細な説明は当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。


争点⑷(補償金及び損害の額)について
(原告の主張)

補償金
前記の警告書を発送した平成24年6月から本件特許の登録日である平成26年1月10日までにおける被告製品の販売個数は14万0777個であり,1個あたりの実施料は販売価格399円の約10%の40円であ
るから,これらを乗じた563万1080円が原告の受けるべき補償金額である。

特許法102条2項に基づく損害
本件特許の登録日から3年間における被告製品の販売個数は25万33
98個であり,1個当たりの利益は販売価格399円の約30%の120円であるから,これらを乗じた3040万7760円が原告の損害である。(被告の主張)
否認し,争う。
第3

当裁判所の判断

1
争点⑴イ(構成要件A「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」の充足性)について
事案に鑑み,争点⑴イから判断する。


被告製品の不織布が構成要件Aの「不織布シート」に当たることは当事者間に争いがないところ,原告は,その表面にシリカ(SiO2)が付着しているから,構成要件Aの「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」を充足すると主張する。



本件発明の特許請求の範囲にはいかなる物が「吸着・乾燥剤」に当たるかは記載されていないが,本件明細書(甲2)には,
「吸着・乾燥剤としては,
二酸化珪素(SiO2)等の吸水性,吸着性を有する無機粉体を採用するのが好ましい。
」と記載されている(段落【0020】
)から,吸水性,吸着性

を有するシリカ(SiO2。証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば,「シリカ」は二酸化ケイ素の通称であると認められる。
)の無機粉体は「吸
着・乾燥剤」に当たり得ると解される。
⑶ア

後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
被告製品の剥離紙をはがしたシートを分析試料とし,約3gを計量後
に硫酸30mlを加えて加熱分解し,硝酸を滴下し,再度加熱して硫酸白煙を発生させ,放冷後にイオン交換水,塩酸を順次加えて撹拌しながら加熱して可溶性塩類を溶解し,放冷後に濾紙を用いて濾過するなどして得たものを計量して試料中の二酸化ケイ素又はケイ素含有量を算出したところ,1cm四方中に1.1μg/cm2,相対比率0.019%
のシリカが検出された(甲5,6)

被告製品の剥離紙をはぎ取り,エチルアルコールに漬けて粘着剤及び粘着剤のついたフィルムを除去し,乾燥してから試料として計量したところ,試験結果は「0.010%未満」とされた。この点について,エチルアルコール処理により不織布からシリカが脱落したことも考えられるとの上記計量試験実施者による考察が付された。
(甲7)
被告製品を顕微鏡で観察したところ,不織布の表面に粒状の物が付着
していることが確認された。当該物等を赤外分光光度計により分析してスペクトルを得たところ,当該物と被告製品中の上質紙に印刷されているインクとでスペクトルがほぼ一致した。
(乙8)

上記ア

の認定事実によれば,剥離紙を除く被告製品に一定量のシリカ

が含まれているということができる。

しかし,前記前提事実⑶のとおり,剥離紙を除く被告製品には不織布以外の層があるところ,上記ア

の計量においては,剥離紙を除く被告製品

全体を試料としているから,不織布の表面以外の部分に含まれるシリカが検出された可能性を否定することができない。加えて,同

の試験におい

ては,被告製品から剥離紙,粘着剤及び粘着剤のついたフィルムを除いた
試料からシリカが検出されることはなかったこと,同

のとおり被告製品

の不織布層の表面において乾燥剤に該当し得ない物体以外のものが検出されなかったことにも鑑みると,被告製品の不織布の表面にシリカが付着していると認めることはできない。また,被告製品に一定量のシリカ(SiO2)が含まれているとしても,それが吸収性,吸着性を有するものとし
て被告製品に存在することを認めるに足りる証拠もない。


原告は,不織布のみでは汗の吸収等の効果を奏し得ないことを前提に,被告製品の包装の表示(
「汗を素早く吸収」「サラサラ快適に」

)に照らせば,
被告製品に何らかの吸着・乾燥剤が含まれていると主張する。しかし,不織
布のみでは汗の吸収等の効果を奏しないことを認めるに足りる証拠はない。むしろ,本件明細書(甲2)によれば,多数の微小孔を形成してメッシュ状に成形した不織布シート及び吸着・乾燥剤はいずれもが表面に付着したほこり,汗等を吸収,吸着するものとされていること(段落【0017】【00,
18】【0020】

)からすれば,上記の不織布シートのみでも一定程度の
汗の吸収,吸着等の効果を奏することがうかがわれ,上記の包装の表示から被告製品の不織布層の表面に何らかの吸着・乾燥剤が含まれていると認める
ことはできない。また,原告は,前記⑶ア

の結果について,同試験のエチ

ルアルコール処理により不織布からシリカが脱落した旨主張するが,仮に脱落の可能性があるとしても,同試験において脱落した事実を認めるに足りる証拠はない。
原告の主張はいずれも採用し難い。



したがって,被告製品は構成要件Aの「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」を充足しない。

2
結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず
れも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官

柴田義明
裁判官

萩原孝基
裁判官

林雅

(別紙)
被1製品
製品名
「熱中対策

2告
エリもとひんやりシート」

発売元
被告

3
JANコード/ISBNコード
4901548703315
目録
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