判例検索β > 平成28年(う)第1213号
詐欺
事件番号平成28(う)1213
事件名詐欺
裁判年月日平成29年11月9日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28刑(わ)210
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平成29年11月9日宣告

東京高等裁判所第6刑事部判決

平成28

詐欺被告事件

1213号
主文
本件各控訴をいずれも棄却する

第1


控訴の趣意等

本件控訴の趣意は,検察官作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書記載のとおりであり,これに対する各被告人の答弁は,主任弁護人堀内節郎,弁護人真木泰生作成の控訴趣意書に対する答弁書(被告人甲関係),主任弁護人上岡亮,弁護人小野正典作成の答弁書(被告人乙関係),主任弁護人新穂均,弁護人山田瞳作成の控訴趣意書に対する答弁書(被告人丙関係。以下,同被告人については,「被告人丙」と旧姓で表記する。),主任弁護人橋本吉弘,弁護人佐伯一郎,同永井健三作成の答弁書(被告人丁関係),主任弁護人奥野滋,弁護人井元義久,同木ノ内建造作成の控訴趣意書に対する反論書(被告人戊関係)に各記載のとおりである。論旨は,事実誤認の主張であり,要するに,後記第2記載の本件各公訴事実について,被告人らの詐欺の故意あるいは欺罔行為を否定して被告人らをいずれも無罪とした原判決には,取引社会の常識から逸脱し,論理則,経験則等に反する明らかな事実誤認があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
第2

本件各公訴事実の要旨

本件各公訴事実の要旨は,次のとおりである。
被告人甲はA会社の実質的経営者,被告人乙はA会社の代表取締役,被告人丙はB会社の代表取締役,被告人丁はC会社の取締役,被告人戊はD会社の代表取締役,aはE会社(平成22年3月10日,

会社に商号変更。以下,商号変更の前

後を通じて「E会社」という。)の代表取締役,bはF会社の代表取締役,cはG会社の実質的経営者(平成22年6月7日以降は同社の代表取締役)であったもの
である。
1
C会社事件(平成26年2月6日付け起訴状記載の公訴事実)

被告人甲,同乙,同丙及び同丁は,aと共謀の上,真実は,C会社がH会社からI会社m工場等に設置するLED照明の注文を受けた事実もA会社がLED照明を製造してH会社に納品する意思もなく,J会社(平成22年7月1日,
に商

号変更。以下,商号変更の前後を通じて「J会社」という。)がE会社に代金の一部を先払することを内容とするE会社との売買基本契約に基づいてA会社の製造資金としてE会社に一部先払する代金(以下「前渡金」という。)をE会社の借入金返済等に充てる意思であるのにこれを秘し,平成22年1月13日頃,J会社において,aが,J会社nグループ長dに対し,C会社から近いうちに発注書が出る,E会社がJ会社から受け取った前渡金は全額A会社に支払われ,A会社が製造費に充てる旨うそを言い,同月22日頃,J会社において,被告人丁が,dに対し,H会社から大型電球の注文を受けたのでA会社製品を納品し,I会社m工場を中心に他の工場にも設置するなどとうそを言って,C会社からJ会社に宛てたA会社製投光器等7600点の注文書を交付し,同月25日頃,aが,E会社からJ会社に宛てた同製品の見積書を提出するなどして,d及びJ会社代表取締役eらをして,C会社がH会社から同製品の注文を受けており,J会社がC会社からその注文を受けてE会社に仕入注文をして前渡金を支払えば,A会社がその資金でLED照明を製造し納品するものと誤信させて,J会社からE会社に同製品を仕入注文させ,よって,同月29日,前渡金として6903万5400円をE会社の口座に振込入金させ,さらに,同年3月26日頃,aが,dに対し,同製品の納品が終わった旨うそを言い,dにその旨誤信させ,同月31日,残代金1億6108万2600円をE会社の口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。2
F会社事件(平成26年2月27日付け起訴状記載の公訴事実第1)
被告人甲及び同乙は,a及びbと共謀の上,真実は,F会社がK会社から同社に納品するLED照明の注文を受けた事実もA会社がLED照明を製造してK会社に
納品する意思もなく,J会社がA会社の製造資金としてE会社に支払う前渡金をE会社の借入金返済等に充てる意思であるのにこれを秘し,平成22年3月1日頃,J会社において,aが,dに対し,F会社が開発したLED蛍光管をA会社に製造させてK会社に販売し,同社が在庫として抱えて販売していくなどとうそを言い,同月8日頃,F会社において,bが,dに対し,A会社がK会社にLED蛍光管を直送し,同社が取引先に順次納めていくなどとうそを言い,aが,dに対し,同月10日頃,E会社からJ会社に宛てたLED照明合計3万1000本の見積書を送信するとともに,同月12日頃,F会社からJ会社に宛てた同製品の注文書を交付し,d及びeらをして,F会社がK会社から同製品の注文を受けており,J会社がF会社からその注文を受けてE会社に仕入注文をして前渡金を支払えば,A会社がその資金でLED照明を製造し納品するものと誤信させて,J会社からE会社に同製品を仕入注文させ,よって,同月18日,前渡金として1億2553万5375円をE会社の口座に振込入金させ,同年4月26日頃,aが,dに対し,4月末納期分の納品が終わった旨うそを言って同人にその旨誤信させ,よって,同年5月31日,4月末納期分の残代金3201万9750円をE会社の口座に振込入金させ,同年5月下旬頃,被告人乙が,dに対し,納品が完了した旨うそを言って同人にその旨誤信させ,よって,同年6月30日,5月末納期分の残代金9351万5625円をE会社の口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。3
G会社事件(平成26年2月27日付け起訴状記載の公訴事実第2)
被告人甲,同乙及び同丙は,a及びcと共謀の上,真実は,G会社がL会社からM会社に納品するLED照明の注文を受けた事実もA会社がLED照明を製造してM会社に納品する意思もなく,J会社がA会社の製造資金としてE会社に支払う前渡金を製造費以外の用途に充てる意思であるのにこれを秘し,平成22年3月1日頃,J会社において,aが,dに対し,M会社に鶏ライトを納品することになり,発注書はG会社から出るなどとうそを言い,同月8日頃,G会社において,cが,dに対し,L会社から注文を受けてM会社の鶏舎にLEDの鶏ライトを入れていく
ことになったなどとうそを言い,aが,dに対し,同月10日頃,E会社からJ会社に宛てたLED照明合計10万点の見積書を送信し,被告人丙が,J会社に対し,同月12日頃,G会社からJ会社に宛てた同製品の注文書を送信するなどし,d及びeらをして,G会社がL会社から同製品の注文を受けており,J会社がG会社からその注文を受けてE会社に仕入注文をして前渡金を支払えば,A会社がその資金でLED照明を製造してM会社に納品するものと誤信させて,J会社からE会社に同製品を仕入注文させ,よって,同月18日,前渡金として2億3256万4500円をE会社の口座に振込入金させ,同年4月26日頃,aが,dに対し,4月納期分の納品が終わった旨うそを言ってdにその旨誤信させ,よって,同年5月31日,4月末納期分の残代金4488万7500円をE会社の口座に振込入金させ,同年5月下旬頃,被告人乙が,dに対し,納品が完了した旨うそを言ってdにその旨誤信させ,よって,同年6月30日,5月末納期分の残代金1億2511万8000円をE会社の口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。4
B会社事件(平成26年2月27日付け起訴状記載の公訴事実第3)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,真実は,B会社がN組合等からLED照明の注文を受けた事実もA会社がLED照明を製造してN組合等に納品する意思もなく,J会社がA会社に仕入代金の一部を先払することを内容とするA会社との総販売代理店契約に基づいて製造資金としてA会社に支払う前渡金をA会社の借入金返済等に充てる意思であるのにこれを秘し,平成22年9月13日頃,J会社において,被告人丙が,dに対し,N組合とOに行って注文を取ってきた,その他の会社からも注文が取れたのでまとめて発注することにしたなどとうそを言い,同月14日頃,被告人乙が,dに対し,B会社からJ会社に宛てた,納品先が記載されたLED照明2600点の発注書及びA会社からJ会社に宛てた同製品の見積書を交付し,d及びJ会社代表取締役fらをして,B会社がN組合等から同製品の注文を受けており,J会社がB会社からその注文を受けてA会社に仕入注文をして前渡金を支払えば,A会社がその資金でLED照明を製造し納品するものと誤信させて,
J会社からA会社に同製品を仕入注文させ,よって,同月21日,前渡金として7534万8000円をA会社の口座に振込入金させ,さらに,平成23年1月25日頃,被告人乙が,dに対し,納品が終わった旨うそを言ってdにその旨誤信させ,よって,同年2月28日,残代金7534万8000円をA会社の口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。
5
D会社LED事件(平成26年3月20日付け起訴状記載の公訴事実第1)
被告人甲,同乙,同丙及び同戊は,共謀の上,真実は,D会社がP会社等の関連店舗1650店にLED照明を設置する注文を受けた事実もA会社がそのLED照明を同店舗に納品する意思もなく,J会社がA会社に支払う前渡金の大半を他の会社に対する出資金等の製造費以外の用途に充てる意思であるのにこれを秘し,平成22年8月31日頃,D会社において,被告人戊が,dに対し,D会社はクーレスというシステムで省エネのコンサルを展開している,上記1650店舗の照明をLEDに置き換えることになった,既に種類や本数,設置場所も確定しており,注文は取れているなどとうそを言って,D会社からJ会社に宛てたLED照明86万9050点の注文書を交付し,さらに,同年9月6日頃,J会社において,被告人乙が,dに対し,A会社からJ会社に宛てた同製品の見積書を交付して,製品の開発及び製造に資金が必要であるため,前渡金60億円を9月中には振り込んでほしいなどと言い,d及びfらをして,D会社が上記1650店舗にLED照明を設置する注文を受けており,J会社がD会社からその注文を受けてA会社に仕入注文をして前渡金を支払えば,A会社がその資金で製品を製造するなどして納品するものと誤信させて,J会社からA会社に同製品を仕入注文させ,よって,同年9月30日から平成23年1月31日までの間4回にわたり,前渡金として合計42億2728万5715円をA会社の口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。
6
D会社デマコン事件(平成26年3月20日付け起訴状記載の公訴事実第
2)

被告人甲,同乙,同丙及び同戊は,共謀の上,真実は,D会社がP会社等の関連店舗にデマンドコントロール盤(以下「デマコン」という。)を設置する注文を受けた事実も,デマコンの製造メーカーであるQ会社からデマコンを同店舗に納品させる意思もなく,J会社がデマコン製造資金としてA会社に支払う前渡金の大半をQ会社を介してD会社に送金し,被告人戊の車両購入費等製造費以外の用途に充てる意思であるのにこれを秘し,平成23年2月3日頃,J会社において,被告人乙が,dに対し,被告人丙が同戊から注文書を預かってきたなどと言ってデマコン1200面の注文書を交付し,同年3月2日,被告人乙が,A会社からJ会社に宛てたデマコン1200面の見積書をdに送信し,同月17日頃,被告人戊が,dに対し,Q会社からA会社に宛てた前渡金の請求書及びデマコンの生産計画書を提示し,5月の連休明けから本格的にデマコンの設置工事が始まる予定であり,デマコンとLEDの設置工事は同時に行っていく予定である,明日前金としてQ会社に3億6242万6400円を払ってほしい旨うそを言い,d及びJ会社経営計画部長gらをして,D会社が上記関連店舗にデマコン1200面を設置する注文を受けており,J会社がD会社からその注文を受けてA会社に仕入注文して前渡金を支払えば,Q会社がその資金でデマコンを製造し納品するものと誤信させて,J会社からA会社にデマコン1200面を仕入注文させ,よって,同年3月29日,前渡金として3億6242万6400円をA会社の口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。
第3

原判決の判断の概要

原審において,C会社事件,F会社事件,G会社事件,B会社事件では,各取引が実取引ではなく,循環取引であることに争いはなく,証拠上明らかであるとして,それぞれの取引について,dが実取引と認識していたか(dの錯誤の有無),J会社代表取締役らが実取引と認識していたか(J会社代表取締役らの錯誤の有無),被告人らの詐欺の故意の有無等が争われ,また,D会社LED事件及びD会社デマコン事件では,被告人戊による欺罔行為の有無,d及びJ会社代表取締役ら
の錯誤の有無,被告人らの故意及び共謀の有無等が争われた。
原判決は,各事件について,J会社への製品の発注から代金支払までの経緯や,その中での被告人ら及びdの言動等の事実経過を認定した上,概略,以下のとおり説示して,被告人らには詐欺の故意が認められない(C会社事件,F会社事件,G会社事件,B会社事件),あるいは,欺罔行為が認められない(D会社LED事件,D会社デマコン事件)などとして,各事件につき被告人らはいずれも無罪と判断した(以下,各事件に係る取引について,「C会社案件」などという。また,月日のみの記載は,平成22年の当該月日を指す。)。
1
C会社事件について
dの錯誤の有無について

①dは,C会社案件が2億円を超える大規模なもので,I会社という大
企業をエンドユーザーとする取引であるにもかかわらず,製品の製造や納品が適切に行われるか否かについて取引実行前から納品後まで一貫して関心を示していないことや,②C会社案件についてdが受領した注文書や見積書は,当初のaの説明と比べてJ会社の利益が大きく減少する内容となっており,取引内容に本質的な変更があるにもかかわらず,dが最小限必要な事実確認もせずに取引を実行していることからすると,dは1月22日ないし同月24日の段階において,C会社案件が循環取引であることを知っていたとも考えられる。しかし,dが2月24日頃,aから持ち込まれた新たな取引案件のエンドユーザーであるS会社等8社に対しJ会社の見積書を発送したのは,エンドユーザーが真に発注する意思があると考えていることを前提とした行動である。そして,dは,当時J会社におけるLED事業の責任者として,売上獲得を必要とする切迫した状況にあったことを前提にして,上記のC会社案件の変更後の取引内容でもJ会社に約1100万円の利益が得られること,C会社案件以前にaの関与の下で複数の実取引が行われ,多数の支障が生じたR会社本社へのLED照明の納品はaの努力により完成に向かった経験があったこと,dの顕著な軽率さに鑑みれば,dはC会社案件が実取引である旨のaの説明を
盲信したと考えられる。したがって,dは,C会社案件が実行された1月頃の段階では,C会社案件が実取引であると誤信していたと認められる。

他方,dは2月上旬頃,aからS会社等8社を発注者とする新たな取引
を持ち込まれ,これについてJ会社の取引委員会で承認を得るなどして実行の準備をし,上記のとおり同月24日頃,J会社からS会社宛に見積書を直接送付したところ,S会社から,見積書記載の案件に心当たりがない旨の苦情を受けた。dは,これを受けて,aに事情を尋ねたが,aから「確認してみる。」との不合理な説明を受けたのみで,それ以上の事実調査をしなかった。J会社に発注見込みがある実取引であれば,発注者がその取引案件を知らないことは起こり得ない。S会社案件は発注見込み2000万円の大規模な取引であるから,J会社の担当者としては,そのような苦情を受けた場合,aやS会社に事情を確認し,同社と同時に持ち込まれた他の7社の案件についても取引に異常がないか確認しなければ,J会社が巨額の損失を負う危険があるのに,dは何らの調査をしなかったばかりか,取引内容が著しく不自然,不合理なF会社案件をその頃実行したことからすると,dは,遅くともS会社から苦情を受けた2月24日頃には,aが提案した取引の中には循環取引が含まれていることを知りながら取引を実行したと推認できる。そして,C会社案件では製造や納品に関する検討が行われていないことや,E会社のJ会社に対する見積額が発注の直前に大きく変動したことをdが認識していたことも加味すると,dは,この頃には,C会社案件も循環取引であると認識したものと強く推認することができる。

dは,C会社案件が循環取引であることは,残代金決済の終了に至るま
で全く知らなかった旨証言するが,dの証言には,意図的に虚偽を述べていることが明らかな点が複数あること,dが自身やJ会社の責任回避のために虚偽の証言をする強い動機を有すること,dの証言は,手帳や関係書類といった資料を離れた自身の生の記憶は著しく減退しているとみられることからすると,上記の資料や利害を共通にしない者の供述によって直接裏付けられた部分以外は信用することができ
ない。

以上によれば,dは,1月22日の受注及び同月27日の前渡金支払の
時点では,C会社案件が実取引であると誤信していたと認められるが,2月24日頃以降,すなわち3月から6月にかけて行われた残代金決済時においては,C会社案件は循環取引であるとの認識を有しており,実際に納品がされるとの錯誤があったとは認められない。
J会社代表取締役らの錯誤の有無
J会社は,会社の目的上,金融を行うことは予定されていない上,J会社の取引委員会における関係者の説明内容等からすると,C会社案件が実取引であるとの認識の下,取引が承認されたものと認められ,J会社代表取締役は同委員会の結論を受けてC会社案件の前渡金の支払決裁をしたものである。したがって,少なくともJ会社代表取締役は,C会社案件が実取引であると誤信し,実際に納品がされる旨の錯誤に陥っていたと認められる。
被告人丁のdに対する説明内容及び同被告人の循環取引の認識
C会社案件のエンドユーザーは,被告人乙とaが相談した結果,I会社1社とされ,J会社に対してもI会社をエンドユーザーとすることを前提として説明がされたことは明らかである。
C会社案件がdに持ち込まれるまでの経緯からすると,被告人丁のみがエンドユーザーについて被告人乙らと異なる認識を持っていたとは考えられないし,I会社やH会社からC会社に対する発注がないことを知っていた被告人丁が,C会社案件は循環取引であることを知らなかったとは考えられない。また,被告人丁の述べるC会社案件の商流は,A会社製品の販売代理店であるB会社がC会社やJ会社を介してA会社製品を買うという著しく不自然なものであり,仮に被告人丁がB会社からC会社に対する発注であると説明を受けたとしても,その不自然さから,実取引でないことを察知し得る。加えて,被告人丁は,B会社からの入金の確実性や取引の適法性について,被告人丙から必要な情報を得たものと推認されることにも照ら
せば,C会社案件がJ会社も承知した上での循環取引である旨説明を受けていた被告人丙が,その旨被告人丁に説明しないとは考えられない。
したがって,被告人丁は,1月13日ないし14日に被告人丙と2度にわたって面談した頃,被告人丙から上記の説明を受け,C会社案件が循環取引であると認識したものと強く推認される。
そうすると,被告人丁は,C会社案件が関係者全員の了解の下に行われる循環取引であり,エンドユーザーをI会社m工場等と仮装するものであるとの認識を有していたと認められ,1月22日,dに対し,I会社m工場等に納品するLED照明についてH会社から注文を受けた旨説明したものと認められる。
被告人甲,同乙,同丙及び同丁の詐欺の故意の有無

被告人甲及び同乙の認識

A会社がJ会社及びE会社との循環取引に加わる動機としては,J会社との取引を開始し,J会社のLED照明事業の実績の仮装に協力することにより,J会社との間での将来の実取引による利益を期待したものと見るのが自然である。被告人乙及び同甲はC会社案件が実行された1月当時,aと知り合って2か月程度しかたっておらず,仮にJ会社から金銭をだまし取るという犯罪計画をaから聞かされたとしても,これに応じるとは考え難いこと等からすると,aが被告人乙及び同甲に対し,J会社に実取引であると誤信させて金銭支払を受けることを持ち掛けた旨のa及び被告人甲の各検察官調書における供述は信用できない。J会社に対し架空発注先としてB会社を提案したところ,J会社からより「顔のよい会社」を求められた旨の説明をaから受け,J会社側も循環取引であると知っていると認識していた旨の被告人乙の原審公判供述は排斥し難い。
1月22日の時点では,いまだ循環取引であると認識していなかったdに対して,被告人丁は,あたかも実取引であるかのように装って注文書を交付したと推認され,エンドユーザーがI会社1社とされたのも循環取引を隠蔽する工作ではあるものの,いずれも,その場に同席した被告人乙がJ会社の誤信を認識していたと認めるに足りる事情とはいえない。
被告人乙は,aからA会社の関与を依頼された際,d及びJ会社も循環取引であることを知っていると認識したところ,その時点からC会社案件の残代金決済までの間,製品の製造や納品に関心を示さないdの態度や,S会社等の案件における架空発注の具体的内容を確定する過程でaと被告人乙がやり取りしたメール(顧客と発注金額が決まった後に製品の種類と個数が決まるという,実取引としては不自然な手順を踏むもの)の一部がdにも送信されていることを認識しており,また,S会社等に見積書を送付したことに端を発したトラブルが生じた後もC会社案件を継続し,新規の循環取引を継続したことなど,dも循環取引であることを知っているとの認識を更に強める事情が複数あった。これに対しこの認識に疑いを生じさせる事情はなかったから,被告人乙がd及びJ会社がC会社案件は実取引であると誤信していると認識していたとは認められない。
被告人甲は,A会社の実質的経営者であるが,C会社案件において直接J会社と交渉等をしたことはなく,実務を担当する被告人乙を通じて事情を知るのみであり,被告人乙と認識を異にする事情はない。したがって,被告人甲がd及びJ会社がC会社案件は実取引であると誤信していると認識していたとは認められない。イ
被告人丙の認識

C会社案件において,当初,被告人甲はB会社の代表者である被告人丙に架空発注会社として関与するよう働き掛け,その後,aから「もっと顔のいいところ」を探すよう求められてC会社が架空発注会社となることが決まったという一連の経緯等に照らすと,被告人丙はC会社案件が循環取引であること等一連の事情を熟知していたと認められるが,被告人丙のC会社案件への関与はその限度であり,dらと接触するなど,J会社側の誤信を認識する契機となる事情はなかったと認められる。
そして,被告人乙及び同甲が,aから,C会社案件はJ会社の売上に協力するために行うものであり,J会社も循環取引であることを承知している旨の説明を受けていたことからすれば,被告人甲が,被告人丙に依頼をするに当たり,この点を告げなかったとは考えられない。
したがって,被告人丙は,C会社案件の発注から残代金決済までのいずれの時点においても,d及びJ会社がC会社案件は実取引であると誤信している旨認識していたとは認められない。

被告人丁の認識

被告人丁は,C会社案件は関係者全員の了解の下に行われる循環取引であると認識していたと認められること,被告人丙は,被告人丁に架空発注への協力を求めるに当たり,B会社名義の発注書を交付するなどC会社社内の偽装に協力したことからすれば,被告人丁を説得するため,被告人甲から聞いたJ会社も循環取引であることを知っている旨の説明を被告人丁に伝えたと推認することができることから,被告人丁は,C会社案件の発注から残代金決済までのいずれの時点においても,d及びJ会社がC会社案件は実取引であると誤信していると認識していたとは認められない。
以上のとおり,dは,残代金決済時においては,C会社案件が実取引であると誤信していたとは認められない上,被告人甲,同乙,同丙及び同丁は,いずれも,C会社案件の発注時から残代金決済時まで,d及びJ会社がC会社案件は循環取引であると知っていると認識していたものであるから,詐欺の故意は認められない。
2
F会社事件,G会社事件について
dの錯誤の有無

dは,①C会社案件と同様,F会社案件及びG会社案件について,その
打診があった当初から残代金決済に至るまで,製品及びその製造,納品に関心を有していなかったと認められること,②F会社案件及びG会社案件の発注書の受領に先立つ2月24日頃には,aが提案するA会社製LED照明の売買には架空取引が含まれていることを認識していたところ,F会社案件は,F会社が,自社が製造する製品を他社から買うという奇妙な取引であることを認識したこと,③G会社案件においては,対象製品の発注数が3倍から4倍も増加する本質的な内容変更があったのに,取引内容の変動に応じた対処をすることなく発注を受け,E会社に前渡金を支払っていること,④F会社案件及びG会社案件は,J会社のE会社に対する発注額が合計約2億2000万円の大規模な取引であるにもかかわらず,dは,受注の直前にF会社及びG会社を訪れたものの,両社の概要や発注内容等について説明を受けたのみで,製造や納品について論じられたとは認められないことからすれば,両案件の受注時から,両案件が循環取引であることを認識していたものと強く推認することができる。

F会社案件及びG会社案件の前渡金支払以降,両案件が実取引であると
dが認識する契機になる事情があったとは認められない。むしろ,dは,5月12日にaが別件詐欺事件で逮捕されたことを知ると,その日のうちにE会社の事務所を訪れて同社の以後の体制の協議に参加し,同社と利益相反の関係にあるA会社の被告人乙を新社長に推した上,同月13日のJ会社の緊急会議において,J会社,E会社及びA会社の3社契約の締結を進めることを提言するなど,取引継続のために性急で強引な行動をとっており,このような行動は,dが両案件を実取引であると考えていたこととは整合しない。加えて,dは,6月28日,被告人乙がE会社の社長を解任され,同月30日にE会社がA会社への支払を拒絶した際,E会社に対し,A会社に対する支払を行うよう強く要求した上,E会社の監査役のiを銀行へ連れていき,5億7000万円の振込入金を行わせた。このdの行動は,上記支払がなければF会社案件及びG会社案件の支払が滞り,d若しくはJ会社に実害が生ずるとdが認識していたことをうかがわせる。
これらの経過及びアの事情を併せ考えれば,dは,5月末及び6月末の残代金決済時において,F会社案件及びG会社案件が循環取引であるとの明確な認識を有しており,両案件の残代金の決済が予定どおり行われなければ,金銭が予定どおり還流せずJ会社に対する入金が遅延し,自らも責任を追及されるおそれがあるとの認識から,aの逮捕後もJ会社とA会社及びE会社との取引関係が事情を知る関係者の下で従前どおり継続され,E会社からA会社への入金が滞りなく行われるために必要な行動をとっていたものとみるほかない。

dは,F会社案件及びG会社案件が循環取引であることは,残代金決済
の終了に至るまで全く知らなかった旨証言するが,同証言は証拠によって直接裏付けられていない上,特に,aの逮捕後にE会社とJ会社の取引を継続しようと考えた理由については,J会社の利益になると思った旨の不自然かつ抽象的な証言に終始しており,信用できない。

以上によれば,dは,F会社案件及びG会社案件を受注した当初から,
これらが循環取引であると認識しており,残代金決済時にはその認識の下,J会社の支払を実行させたと認められ,両案件が実取引であるとの錯誤があったとは認められない。
J会社代表取締役らの錯誤の有無
J会社の会社の目的に加え,J会社においてF会社案件及びG会社案件に係る取引が承認されるまでの経過に照らすと,少なくともJ会社代表取締役は,両案件がいずれも実取引であると誤信し,実際に納品がされる旨の錯誤に陥っていたと認められる。
被告人甲,同乙及び同丙(ただし,G会社事件のみ)の詐欺の故意の有無ア
被告人甲及び同乙の認識

被告人乙は,C会社案件について,d及びJ会社が実取引であると誤信している旨認識していたとは認められないところ,C会社案件より後に実行されたF会社案件及びG会社案件について,被告人乙に異なる認識を抱かせるべき事情は見当たらない。むしろ,被告人乙は,2月11日から同月15日までの間,aとの間でやり取りした架空発注の具体的内容を確定するためのメールの一部がdにも送信されていることを認識していた上,a逮捕後もJ会社とE会社及びA会社の取引が継続され,dがそのために積極的に行動していたことなどから,d及びJ会社がF会社案件及びG会社案件は循環取引であることを知った上で取引を行っていると認識したものと推認することができる。
C会社案件の場合と同様に,被告人甲は,被告人乙と同じ認識を有していたと推認できる。
したがって,被告人甲及び同乙は,両案件の発注から残代金決済までのいずれの時点においても,d及びJ会社が実取引であると誤信している旨の認識を有していたとは認められない。

被告人丙の認識

被告人丙は,G会社案件において,被告人甲の依頼を受けて,cに架空発注をするよう依頼したものであって,被告人丙が同案件に関してdらJ会社側と独自に接触したことはなかったと認められるから,被告人甲及び同乙と同様の認識を有していたと推認することができる。
以上のとおり,dは,F会社案件及びG会社案件の受注当初から,両案件がいずれも実取引である旨誤信していたとは認められない上,被告人甲,同乙及び同丙は,いずれも両案件の発注時から残代金決済時まで,d及びJ会社が両案件は循環取引であることを知っていると認識していたものであるから,詐欺の故意は認められない。
3
B会社事件について
dの錯誤の有無

dは,遅くとも6月末の時点で,循環取引であることを明確に認識しな
がらF会社案件,G会社案件等を実行していたと認められるから,9月13日に受注した循環取引であるB会社案件については,それまでのdの認識に変化を生じさせるような事情がない限り,従前の取引の案件と同様に循環取引であるとの認識を有していたと強く推認することができる。
この点,B会社案件の受注準備が行われていた8月から9月上旬にかけては,大型の実取引であるD会社LED案件がJ会社に提案されていたが,D会社LED案件については,dが率いる部署内で,製品の抜取り検査やPL保険への加入といった実取引であることを前提とした議論が行われているのに対して,B会社案件ではそのような議論が行われたとは認められず,dは両案件の取扱いを明確に区別していた。また,6月末の段階でC会社案件,F会社案件及びG会社案件について循環取引であることを明確に認識しながら実行していたdとしては,金員を予定どおり還流させることに強い関心を有していたのであり,8月から9月上旬頃に着手する新たな取引についても,それが実取引であるのか循環取引であるのか,循環取引であればその決済が確実に行われるのか否かについて強い関心を有していたはずである。そうすると,B会社案件と同時期に実取引であるD会社LED案件の提案を受けたからといって,循環取引であるB会社案件についてまで実取引であるとの誤信が生じる状況にはなかったというべきである。このほか,B会社案件が実取引であるとの誤信をdに生じさせる事情は見当たらない。
7月から9月頃,被告人甲,同乙やA会社において,B会社案件により金員を循環させる必要が生じていたとは認められず,これらを併せ考慮すると,B会社案件は,dから,J会社全体の9月期決算における営業成績が良くなく,LED照明事業でこれをカバーする必要があるとして,新たな架空取引を持ち掛けられたことに端を発するものである,との被告人乙の原審公判供述は,これを排斥することができず,むしろ,その概要においては信用することができる。

dは,B会社案件が循環取引であることを残代金決済の終了に至るまで
全く知らなかった旨証言するが,この証言は資料等によって直接裏付けられておらず,信用することができない。

したがって,B会社案件はdが被告人乙に循環取引を持ち掛けたことに
端を発するものと認められ,dは,B会社案件を提案した当初から同案件が循環取引であると認識しつつ,これを受注してJ会社からの支払を実行させたと認められ,dにB会社案件が実取引であるとの誤信があったとは認められない。J会社代表取締役らの錯誤の有無
J会社の会社の目的に加え,J会社社内でB会社との取引が承認されるまでの経過に照らせば,少なくともJ会社代表取締役は,B会社案件は実取引であると誤信し,実際に納品がされる旨の錯誤に陥っていたと認められる。
被告人乙,同甲及び同丙の詐欺の故意の有無

被告人乙の認識

被告人乙は,a逮捕の際のdのE会社に対する対応等から,6月末頃には,d及びJ会社はC会社案件,F会社案件及びG会社案件がいずれも循環取引であることを知った上で取引を行っていると認識していたことからすると,B会社案件と同時期に実取引であるD会社LED案件の提案があったことを踏まえても,d及びJ会社が,B会社案件が循環取引であることを知りつつ,これに加わっているものと認識したものと認めることができる。

被告人丙の認識

被告人丙は,被告人甲及び同乙から依頼を受け,B会社案件と同一内容の架空発注をG会社からするように手配しようとしたところ,dから,B会社からJ会社へ直接発注するよう提案されて,B会社案件の発注を行ったと認められる。被告人丙は,この頃,dとも被告人甲及び同乙とも接触する立場にあったから,被告人甲及び同乙のみならずdも従前のF会社案件,G会社案件等が循環取引であると知っているということを認識していたものと推認することができる。そうすると,同時期に実取引であるD会社LED案件の提案があったことを踏まえても,被告人丙は,被告人乙と同様,d及びJ会社が,B会社案件が循環取引であることを知りつつ,これに加わっているものと認識したと認められる。

被告人甲の認識

被告人甲は,dらJ会社との直接の接触はなく,被告人乙及び同丙を介してB会社案件の進捗を確認していたにとどまるから,被告人乙及び同丙と同様の認識であったと認められる。
以上のとおり,dは,B会社案件の受注当初から,同案件が実取引であると誤信していたとは認められない上,被告人甲,同乙及び同丙は,いずれも,B会社案件の発注時から残代金決済時まで,d及びJ会社が,B会社案件は実取引であると誤信しているとの認識を有していなかったから,詐欺の故意は認められない。4
D会社LED事件について
被告人戊による欺罔行為の有無及びJ会社の錯誤の有無

①被告人戊は,P会社等3社に対してその全店舗に対するLED照明導
入をいまだ提案していなかったにもかかわらず,被告人丙の指示を受け,部下に指示をして,上記3社の全店舗にLED照明を導入する場合の数量や価格を試算させ,これを注文書の形式に整えさせて,dに交付したこと,②D会社LED案件の前渡金の一部がA会社からD会社及びB会社に送金され,D会社に送金された分の一部が更にB会社に送金されており,A会社とD会社の間では,両者間において送金された金員の名目を「報酬」から「経費」に修正するやり取りがされたこと等からすると,被告人戊,同丙及びA会社が意思を通じて,J会社の前渡金を得る目的で,エンドユーザーからの確定注文がないのに,これがあるように装ってJ会社に注文書を交付したという一応の嫌疑が認められないわけではない。イ
しかし,8月31日,被告人戊が同乙,同丙と共にdと会った際,被告
人戊がクーレス事業の内容を説明したことについてはd及び被告人戊が一致して供述しているところ,クーレス事業においては,実験店舗へのテスト導入及び全店舗の調査を経て個々の店舗への省エネ機器導入の契約がされるため,顧客企業の全店舗への導入の発注が当初からされることはない。そして,ア①の注文書は,全ての製品の発注数に1個単位の端数がなく,一見して概算であることを認識し得るものである上,「支払方法:クーレス契約に基づく」との記載があり,dやJ会社にとって「発注」が概算であることを知ることは容易であったし,少なくとも,被告人戊が,確定的な注文を得ている旨誤信させる意図を有していたこととは整合しにくい記載である。その後のD会社LED案件の経過も踏まえれば,それは,クーレス契約によるD会社LED案件の構想の規模を注文書の形式で示したものと見ることも十分可能である。また,被告人丙が作成して被告人乙がdに交付した「生産・納入計画」と題する書面は,D会社LED案件のLED照明製品の生産及び納品について月ごとのスケジュールを示したものであるが,同書面には,開発途上の製品であるマンハッタンも9月から量産を開始する旨の生産計画が含まれており,dは,この書面に記載された納入計画が一見して実現不可能と判断したと認められる。このように,発注及び納入に係る基礎的書面の内容は,確定の発注を受けたことを前提としたものになっておらず,被告人戊らがJ会社に確定的発注を受けたものと誤信させることを意図したものとはいい難い。被告人乙が供述するように,J会社内での会議の際に体裁を整えるためだけに作成された資料に過ぎないものと見る方が自然である。

①d及びJ会社は,8月31日にD会社から注文を受けた製品に開発途
上の製品であるマンハッタンが含まれていることを認識していたのであるから,エンドユーザーは,照度,光の拡散する角度,消費電力及び耐久性等といった製品の品質を前提とした個別店舗ごとの導入結果に関心を抱くため,開発未了の製品を全店舗に導入する旨意思決定して発注するとは考えにくく,仮にD会社が全店舗分の確定的発注を受けた旨説明をしたとしても直ちに納得するとは考え難いのであって,むしろ,クーレス事業によるものとして,いまだ確定的発注に至っていないという前提で理解していたと考えられること,②dは,9月15日付けで作成した社内文書に「事前にモデル店舗に取付けし,各店舗関係者からの承認を得る」旨記載している上,dやJ会社内の関係者も前渡金の一部がA会社からD会社やB会社に調査費として支出されたことを把握しながら,この点を特に問題視しておらず,D会社LED案件の設置先店舗にLED照明を設置するまでに,更に調査や設置先店舗関係者の承認が必要であることを認識していたと推認できること,③dらは,クーレス事業においてはリース会社の関与を必要とすることを認識しながら,リース会社の選定を急いでいないこと,④リース会社が決定後,一部の店舗に先行してLED照明の導入が進められることになったところ,J会社はリース会社との間で個別店舗ごとに改めて見積り,発注,納品,請求の書類を交わしており,他方,8月31日に被告人戊がdに交付したア①の注文書に対応する注文請書はJ会社から発行されていないこと,⑤平成23年1月22日開催のJ会社社内の会議において,被告人戊は,「今御社に提出している発注書は仮発注みたいなもの」と発言しているが,この発言が問題視された形跡はないことなど,その後のD会社LED案件をめぐるJ会社の対応からすると,J会社自身,クーレス事業の内容のとおり,試験設置等を経て個別店舗についての具体的発注を行うという取引方法に沿った行動をしたと認められる。

他方,J会社は,D会社LED案件の前渡金として,A会社に対し,9
月30日に10億円余り,11月26日に17億円余り,12月30日に8億円余り,平成23年1月31日に5億円余りを送金しているが,この時期のマンハッタンの開発状況からすると数億円規模の開発費用を要するとは到底考えられず,また,量産の段階には遠く及ばない状況であったから量産費用とも考え難い。上記の支払は,1回当たり7億円程度というR会社本社の投資委員会が付した条件を大幅に超える額の支払がされる一方,合計額は,J会社が支払うべきとされる発注額の50パーセントを大きく下回っており,算出根拠は全く明らかでない。したがって,上記の金員の支払がD会社LED案件に係るJ会社のA会社に対する発注により生ずる代金支払債務に基づいて支払われた前渡金とは認め難く,8月31日付け発注書の交付はその支払を根拠付けるものではないというほかない。オ
以上によれば,被告人戊は,8月31日,dに対し,クーレス事業の概
要及び契約の手順を説明した上で,クーレス事業によりP会社等3社の全店舗にA会社製のLED照明を導入する事業を進めたい旨の申入れをしたものと認められ,上記3社から全店舗分のLED照明の確定的な発注を既に受けているという説明はしていないと認められる。そして,d及びJ会社も,クーレス事業に則って,試験設置及びエンドユーザーの了解を経て,個々の店舗について発注を受けることとなることを理解していたと認められる。したがって,被告人戊の欺罔行為は認められず,d及びJ会社に錯誤があったとも認められない。
被告人戊以外の被告人らによる詐欺の可能性

被告人甲の検察官調書には,D会社LED案件の大半が架空取引である
ことをJ会社側に秘し,エンドユーザー側から注文を受けた製品の全てを直ちに開発,製造して納品する取引であるかのように装ってJ会社から金員をだまし取ったことを自認する内容の記載があるが,D会社LED案件はクーレス事業による実取引であったことや,大型の循環取引を行えばA会社に多額の差損が生ずることに照らすと,従前の循環取引による差損を埋めて循環取引を終わらせるために大型の架空取引を行うという犯行動機についての供述は明らかに不合理であるから,到底信用できない。

また,D会社LED案件については,J会社内で,製品の抜取り検査や
PL保険への加入等,実取引であることを前提とした議論が行われるなどしていたことに照らせば,dがD会社LED案件は循環取引であるとは認識していなかったことは明らかであり,被告人丙,同乙らが,被告人戊のD会社LED案件の提案に乗じて,これが循環取引であるかのように装って前渡金を詐取したという詐欺の成立も認められない。
以上によれば,D会社LED案件は,被告人戊がJ会社の販売するA会社製LED照明を商材としたクーレス事業の提案をし,これを受けてJ会社及びA会社において開発や検討が行われた際,J会社が取引の進捗に先立ってA会社に趣旨不明の巨額の金員を支払ったものと認めるほかなく,被告人戊による欺罔行為も,d及びJ会社代表取締役らの誤信も認められない。
また,被告人丙,同乙及び同甲が,被告人戊の提案に乗じて前渡金をだまし取った事実も認められない。
5
D会社デマコン事件について
D会社のJ会社に対するデマコンの発注書の交付が欺罔行為であると疑わ
せる事情
①被告人戊は,平成23年1月から3月頃までには,P会社等3社の全店舗に対するデマコンの導入を提案していなかったのに,上記3社の店舗の大半へのデマコン設置数に相当する1200面分の注文書及びQ会社名義の生産計画書を作成して,被告人丙らを介し,あるいは自らこれをdに交付していることからすると,被告人戊がP会社等エンドユーザーから確定の発注を受けたかのように装ったものとも考え得ること,②被告人戊は,平成23年1月から同年2月頃までの時点では,D会社LED案件の製品の量産及びテスト店舗以外への納品は進んでいなかったにもかかわらず,同年1月25日頃,J会社に対し,クーレス導入工事408店舗分12億円余りのLED照明の導入工事等を発注し,その後,D会社デマコン案件の発注書を作成するなどしていることからすると,被告人戊がLEDの納入が迫っているように装ってデマコンの発注等を急ぐ必要があるかのように装ったと解することも可能であること,③A会社は,デマコンを製造していないにもかかわらず,D会社デマコン案件の商流に入っており,このことは,被告人乙らが同戊と共謀して,A会社とJ会社の間の総販売代理店契約の前渡金支払条項に基づく前渡金を取得しようと企てたとも考え得ること,④D会社デマコン案件においてJ会社から支払われた前渡金のうち,2億5578万円がDMX受注コンサルタント費用の名目でQ会社からD会社に送金されており,その時期等に照らして,被告人戊が,Q会社に支払われる前渡金の大部分をD会社において取得しようと考え,Q会社の代表取締役であるjに多額の前渡金を請求させたとも考え得ることなどからすると,被告人戊が,被告人乙らと意思を通じ,A会社とJ会社の総販売代理店契約の前渡金支払条項を利用して,J会社から支払われる前渡金の大半を取得する目的で,エンドユーザーからの注文がないのに,J会社に対し,直ちにデマコンを製造して納品できるかのように装って,dらJ会社に対し前渡金を要求したと一応考え得る。D会社デマコン案件の取引内容とdらJ会社側の認識

被告人戊は,12月頃,Q会社に対し,D会社デマコン案件のためのデ
マコンの製造を依頼し,その後,実際にデマコンが製造されており,D会社デマコン案件がD会社とQ会社による実取引であることは明らかである。D会社がP会社等からデマコンについて具体的に受注した事実は認められないが,被告人戊は,8月31日の時点でdに対し,デマコンの導入について言及しており,その頃からD会社LED案件における対象店舗に,クーレス事業として併せてデマコンも導入することを考えていたと認められる。デマコンは,既存の量産可能な製品を1店舗に1面設置するものであるから,LED照明と異なり,その性能や店舗ごとの数量等を改めて検討するまでの必要はないが,クーレス事業によるのであるから,モデル店舗への設置と顧客の承認,全店舗への設置に向けた調査,製品の設置,顧客の承認を経て個別店舗ごとの契約締結に至る手順を経る必要があることは同じであり,事前に全店舗分の確定的な注文を受けることはできないものである。

このようなD会社デマコン案件の取引経過に鑑みれば,d及びJ会社
が,D会社デマコン案件はD会社LED案件と一体となるクーレス事業によるものであることを知っていたことは明らかである。そして,平成23年1月時点におけるD会社LED案件の進捗状況からすれば,dは,1200もの店舗に対して直ちにLED照明とデマコンを同時に納品することができる状態ではないことを認識していたと認められる。また,J会社は,同年3月上旬,D会社から同年1月25日付けで発注のあった408店舗分のLED照明の導入工事を受注する旨意思決定したところ,これに応じて発行したA会社宛て発注書には,408店舗分の合計発注書として仮に発行するものであり,実際に導入工事を行う際には設置先店舗ごとに発注書を作成する旨記載されているから,直ちにこの導入工事ができる状態にないことを認識していたと認められる。加えて,J会社は,同年3月下旬以降,D会社に代わってJ会社の直接の買主となったリース会社との間で個別店舗ごとにLED照明の売買の契約手続をしたから,dの報告を受けていたJ会社代表取締役らも,それ以前からD会社LED案件の進捗状況について認識していたと認められる。ウ
したがってd及びJ会社代表取締役らは,被告人乙及び同戊から注文書等の交付を受けた同年2月頃から3月頃までの間に,1200店舗についてデマコンを製造すればそれが直ちに納品されるとは誤信していなかったと認められる。A会社を関与させて前渡金を取得する意図の有無
①D会社デマコン案件の前渡金の要求は被告人戊,同丙及び同乙のいずれの者の発案によるものでもなく,Q会社のjの要求に端を発したものである上,被告人戊は,D会社デマコン案件に着手した平成23年1月下旬当時,同案件にA会社を関与させる意図を有していなかったこと,②同年3月17日に被告人戊,同乙及びdが面談をした場で被告人戊がdに対して前渡金を翌日に支払ってほしいと要求し,対応に窮したdが被告人乙に要請したことによりA会社が一旦立替払をするという,他の案件にはない措置がとられたことなどからすると,被告人乙が上記の立替払を了承するまで,上記三者間でA会社の関与の内容は確定していなかったと認められること,③前渡金の額の基礎であるデマコンの発注金額が不自然に高額であるとは認められないこと,④A会社やB会社が前渡金の分配を受けておらず,前渡金相当分のデマコンが実際に製造されたことに照らすと,被告人戊が,J会社からA会社とJ会社の総販売代理店契約に基づく前渡金を不正に取得する目的で,D会社デマコン案件を実行したと認めることはできない。
被告人甲,同乙及び同丙の3名による詐欺の可能性
被告人甲は,平成23年6月頃,Q会社がD会社に送金した前渡金の額及び使途についてjを追及しており,その使途に実質的な関心を有していたことがうかがわ
被告人乙は,J会社宛てのデマコンの見積書の内容変更について被告人丙から指示を受けた旨述べ,被告人戊は,被告人丙から,D会社デマコン案件にA会社を挟むことになった旨告げられた旨述べているが,B会社は,D会社デマコン案件の商流から外れており,前渡金の分配を受けたとも認められず,何らかの利益の生じる立場にあったとは認められないことからすると,被告人丙が,D会社デマコン案件について,J会社に前渡金を支払わせることを企図したというのは抽象的な疑いの域を出ない。
被告人甲の検察官調書には,被告人甲が,D会社デマコン案件はせいぜい数店舗分しか実現可能性のない実質的に架空の案件であるとの認識を有しながら,被告人戊と同丙に前渡金を得させるためにA会社が商流に入ることを容認したとの記載があるが,不合理な内容であって信用できない。
以上によれば,被告人甲,同乙及び同丙が,被告人戊によるD会社デマコン案件の着手に乗じてJ会社から前渡金を詐取したとは認められない。
以上のとおり,被告人戊は,J会社とA会社の総販売代理店契約に基づく前渡金をだまし取る意図で架空の取引が存在するかのように装ったものではなく,Q会社からエンドユーザーにデマコンが納入されるクーレス事業による実取引をdに申し込んだものであって,欺罔行為が認められず,前渡金の詐取について被告人甲,同乙及び同丙と共謀したこともないと認められるから,詐欺罪が成立しないことも明らかである。
第4

原判決に対する評価及び所論に対する判断

原判決の上記判断は,やや飛躍があると思われる説示も含まれているものの,全体として見ればその判断過程及び結論が論理則,経験則等に照らして不合理とはいえず,当裁判所としても是認できる。以下,所論に鑑み,補足して説明する。1
C会社案件,F会社案件,G会社案件及びB会社案件の4件(以下「C会社
案件等4案件」という。)に関する所論について
C会社案件等4案件の本質,実態に関する所論について

所論は,以下のとおり指摘して,C会社案件等4案件の本質,実態は,
被告人らが,自己らの用途に費消するなどの金銭を得る目的で,エンドユーザーが存在する実取引であるかのように欺くなどしてJ会社から金銭をだまし取り,その後の新たな別の詐欺で得た詐取金をJ会社への支払に充てていたもので,J会社がその実態を承知した上で取引に加わるはずがないものである旨主張する。C会社案件等4案件においてJ会社が支払った前渡金又は残金のうち,C会社案件で支払った前渡金及び残金,F会社案件,G会社案件で支払った前渡金及び4月末納期分残金は,いずれもほとんどがE会社やA会社の自己の支払に費消されるなどしており,他方,F会社案件,G会社案件で支払った5月末納期分残金や別の詐欺案件で支払った資金は,関係会社を経由して,F会社案件,G会社案件やC会社案件におけるJ会社への支払に充てられている。
D会社LED案件の実行行為日である8月31日の時点で,C会社案件等4案件を含む同種案件において,J会社が支払った金額は合計約29億6174万円であったのに対し,同日までにJ会社に支払われていた金額はその約49.6パーセントにすぎない合計14億7101万円であり,被告人らは約50.4パーセントもの金員を自己の用途に費消していた。
C会社案件等4案件に参加していたA会社,E会社,C会社,F会社,G会社及びB会社は,いずれも資金力がなく,J会社にとっては,自らの損害を自らの資金で補てんさせられているにすぎなかった。
J会社は,C会社案件等4案件の参加当事者の中で唯一先払による資金提供を行い,大きなリスクを負っているにもかかわらず,自らが支払った資金のその後の動きや回収可能性について一切把握,管理をしていない。これは,各案件において,生産者からエンドユーザーまでの商流が既に確定しており,その商流に介入するだけであると信じていたからである。また,仮に,C会社案件等4案件が売上計上目的の循環取引であったとするならば,循環取引に協力するA会社等の協力会社が自己の用途に費消することが許されるのは,実取引を装うために発生する手数料分についてのみにすぎず,J会社が,支払った資金の大部分を被告人らにおいて自己の用途に自由に費消することを許すはずもない。
以上のとおり,C会社案件等4案件については,J会社が購入代金として支払った資金の大半が被告人らの自由な用途に費消されて商流から流出していた上,A会社等の参加会社に資金力はなく,各案件にはエンドユーザーが存在していなかったことから,新たな案件によるJ会社からの資金供給が止まれば破綻してしまう取引であって,このような各案件の実態を知ってJ会社が各案件に参加することなど考えられない。

検討
まず,C会社案件等4案件に係る公訴事実は,被告人らが,前渡金を
自己らの用途に費消する意思であるのにこれを秘し,各案件がエンドユーザーのいない架空の取引であるのに,実取引であることを装い,dにその旨誤信させたことを欺罔行為と捉えて構成されているものの,欺罔行為及び誤信した内容の中核は,「実取引であること」についての欺罔ないし誤信である。原審においても,実取引であることについてのd及びJ会社代表取締役らの誤信の有無,これらについての被告人らの認識が争点とされているところである。
この観点から見ると,提供した資金を被告人らが自由に費消し,J会社が損失を被ることになるということを認識した上でJ会社が取引に参加することは通常考えられないとの所論の指摘は,その主張内容自体から明らかなとおり,C会社案件等4案件が実取引であっても,循環取引であっても当てはまるものである。すなわち,dやJ会社代表取締役らが,C会社案件等4案件について,エンドユーザーの存在しない循環取引であると認識していた場合であっても,被告人らが提供された資金を本来得ることができる額を超えて自由に費消し,その結果J会社が多額の損失を被ることになるのであれば,それを知りながら同案件等に参加するとは考え難い。そうすると,結局,所論の指摘は,詐欺の結論を先取りして,「損をすることが分かっていながら取引を行う企業はない」という一般論から,本件争点についての結論を飛躍させて導き出しているに等しい。所論は,本件の争点である「J会社が実取引と誤信したか」という点を直接左右するものではないというべきである。また,所論は,J会社が支払った資金を被告人らが自己らの用途に充て,その後の別取引に係る資金を循環させてJ会社に対する支払を行っていたという点を強調し,循環取引ですらないと主張しているものと解される。しかし,C会社案件等4案件がJ会社も承知の上で行った循環取引である場合でも,被告人らが受領した資金そのものを他に費消することが一切許されないわけではない(このことは,A会社の財務状況が芳しくなかったとしても同様である。)。当該循環取引がA会社等に対する金融目的である場合はもとより,J会社の売上仮装目的であるとしても,A会社としては,結局,定められた支払期限に,受領した金銭にJ会社の利益分を上乗せして支払わなければならないが,逆にいえばそれで足りるのであって,現にJ会社への支払はなされている。C会社案件等4案件に係るJ会社への支払原資として他の取引の前渡金等が用いられているとしても,そのような資金の流れ自体から,被告人らがdを欺罔したことや,dやJ会社代表取締役らに誤信があったことまでを直ちに推認させるものではない。
結局,所論は,被告人らがdら
ような使途に用いた多額の資金を得ることはできないということを所与の前提として,「C会社案件等4案件の本質,実態」であると主張しているにほかならず,採用の限りでない。
C会社案件等4案件と一般的な循環取引との比較やJ会社にとってのリスクに関する所論について

所論は,以下のとおり指摘して,C会社案件等4案件は,一般的な循環
取引と異なり,資金回収ができなくなるリスクが極めて高く,他方で,発覚した際の悪影響も大きいことから,J会社がその実態を知った上で参加することなどあり得ない旨主張する。
一般的な循環取引は,大きく分けて売上計上目的と金融目的に分けられるが,例えば,売上計上目的であっても,循環取引を継続すればするほど取引規模が拡大し,協力会社への手数料の支払により資金は目減りするため,通常の商品取引と比べ,協力会社が得る手数料額は低めに抑えられるのが一般的であり,また,金融目的での循環取引であれば,資金提供者は大きな回収のリスクを負うため,取引に当たっては,十分な与信管理,債権管理が行われるはずである。C会社案件等4案件が売上計上目的の循環取引であったのであれば,協力会社が自由に費消できるのは手数料のみであるところ,実際には被告人らは提供された資金のほとんどを費消し,これがJ会社に循環しておらず,資金提供者のリスクを最小限に抑えることもなされていないものであり,一般的な循環取引と比較して,破綻するリスクが高く,特に先払で資金を提供していたJ会社にとっては,その資金を回収できなくなるリスクが極めて高いものであり,J会社が取引の内容を認識した上でこれに参加することはおよそ考えられないものである。
C会社案件等4案件には,売買の目的物であるLED照明が存在せず,他に金融目的をうかがわせる事情もないが,仮に金融目的の循環取引であったのであれば,J会社は,各協力会社について十分な与信審査や債権管理を行うはずであるのに,これを行った形跡もない。
以上のとおり,C会社案件等4案件は,一般的に行われる売上計上目的や金融目的による循環取引とはかけ離れたものであり,J会社がこれらの目的で参加した循環取引とは到底考えられない。
J会社は,R会社の100パーセント子会社であり,その売上高
は,Rグループにおける売上高としては小さなものである。C会社案件等4案件を含む環境ビジネスは,巨額の売上高を誇るRグループにとってそれほど大きなものではなく,売上高の上昇が連結財務諸表に与える影響は極めて限定的である上,Rグループが危ない橋を渡ってまで売上高をかさ上げしなければならない事情は存在しない。これに対して,循環取引が破綻したときのJ会社の経済的損失や,これが発覚した際には,R会社本社も連結財務諸表の虚偽記載を犯したことになり,課徴金納付命令や投資家に対する損害賠償責任,刑事罰や制裁を受けるリスクがある上,企業の社会的信頼が大きく低下するおそれが生じるなど,R会社本社やRグループに多大な悪影響を及ぼすことになる。
平成19年頃からC会社案件等4案件等の一連の取引が行われるまでの間,複数の企業における循環取引が新聞等で報道されるなどしており,循環取引が企業の存続に影響を及ぼしかねない重大な問題に発展する可能性があることはJ会社はもとより,被告人らにとっても周知の事実であった。
したがって,J会社が上記のような事情を承知の上で,一連の取引が循環取引であることを知りつつこれに参加し,しかも先払で資金を提供するという企業として明らかに経済的合理性に反する意思決定をするはずがないことは,論理則,経験則等からも明らかである。現に経済活動に携わっていた被告人らは,このことを当然認識していたといえる。
会社の一従業員や一部門が営業成績を上げたいなどと考えて無断で循環取引に加わることは少なくないが,たとえ取引担当者が循環取引と知っていたとしても,会社代表者まで知っていたと推認することができないことは明らかであり,被告人らが,J会社の代表取締役らもdと同様にC会社案件等4案件が循環取引であることを知っていると認識していたとして,被告人らの犯意を否定した原判決の認定は,論理則,経験則等に照らして不合理である。
この点,原判決は,本件一連の取引は,J会社のLED事業の実績を仮装するためのもので,被告人らに経済的利益はなく,むしろ損失を生ずる内容の取引であると認定しているが,被告人らは現に支払われた資金を自由に費消して十分な経済的利益を得ているし,損益計算上は,A会社が損失を被ることになっているとしても,いずれ一連の取引が破綻したときに実害を被るのは先払により資金を提供していたJ会社のみである。原判決は,本件一連の取引の本質についての誤った理解を前提に,上記の不合理な認定をしたものである。

検討
所論は一般的な循環取引との比較をいうが,循環取引において,資
金提供者に回収リスクが生ずることや,取引を重ねればそれだけ破綻した際の損失も大きくなることは当然であり,それでもなお循環取引を行う例があることは所論が自ら主張するところである。所論は,被告人らが自由に資金を費消したなどとしてこれを破綻のリスクに取り込んで主張しているが,C会社案件等4案件については現にJ会社への支払が行われているのであって,これが他の取引に係る前渡金等を原資としているとの指摘を踏まえても,J会社が参加することがあり得ない取引であると断ずることはできない。
そして,J会社が,当時,LED照明等を中心とした環境事業に力を入れていたのに,その売上が全く目標に届いていない状況であったこと等の原判決が認定する状況を踏まえれば,J会社にとって循環取引によって売上を仮装する動機があることは否定できないのであって,J会社がR会社の子会社であることや,Rグループ全体における利害に関する所論の指摘によっても,上記の動機は否定し得ない。
また,一従業員が循環取引であると認識していたからといって,代表取締役が同様の認識であったことにはならないことは所論が指摘するとおりであるが,代表取締役の認識について被告人らがどのように理解していたかは,一連の取引の経過やその中でのdの言動等,具体的な事実に基づいて検討されるべきものであり,この点に関する原判決の認定,判断が不合理とはいえないことは後述するとおりである。所論は採用できない。
dの行動の評価及び循環取引であることの認識に関する所論についてア
所論は,以下のとおり指摘して,dの行動は,C会社案件等4案件が実
取引であると認識していたことを前提としても不自然ではない旨主張する。J会社は,C会社案件以前である平成21年11月までに,aからLED製品や消費電力に関する情報提供を受けるなどして,R会社本社ビルのLED化を実施しており,dも同工事に当たって製品や設置状況の確認を自ら行うなどしており,その後も,aが関わった取引については,現実にLED製品が納入されて設置され,実取引として問題なく処理されていた。このような経過があって,dは,aに対して信頼を寄せるようになっていたことを踏まえれば,S会社から見積書記載の案件について心当たりがない旨の苦情があった際も,aに対して事情を尋ね,aが「確認してみる」旨の回答をしたことにより,dとしては,何らかの問題が生じていればaが適切に処理し,当初のaの説明と異なる事態となるのであれば,それに対応すればよいと考えたとしても不合理ではない。
そもそも,dの認識に関する原判決の認定によれば,循環取引においては回収のリスクが高いにもかかわらず,dがS会社との取引について,当初は実取引であると考え,後に循環取引であると認識するに至ったのに,何ら対策を講じることなく放置したことになり,それ自体不合理である。
また,原判決は,C会社案件について,R会社本社ビルのLED化工事の際と異なり,dが設置場所や製品の性能等に関する検討や試験設置に関する具体的な情報を入手しないまま取引を実行したことを「無関心」であったことの表れとする。しかし,C会社案件等4案件等の一連の取引では,J会社は別のエンドユーザーの間に介入するだけの立場であって,外形的には売買契約の形をとるが,取引の本質は金融に近いものであり,後から介入した者が製品及びその製造,納品にそれほど関心を持たないことは,経験則上明らかである。J会社が主体となって国に補助金を申請して実施したR会社本社ビルのLED化工事等と比較するのは失当である。したがって,エンドユーザーに対し納品の責任を負うのは,それぞれの案件の直接の売主である上,dとしては,C会社案件以前の取引を経て,aを信頼し,かつ,C会社案件においては,受注業者はC会社という上場企業であるから,なおさら信頼するのが自然である。それでも,dは,納品・検収書の提出を求めるなどの手続を行い,C会社o工場を視察して製造ラインの存在や製造された製品を確認するなどし,さらには,新たな会社との取引に当たっては極力当該会社に行って打合せを行うなどしており,それぞれの取引において,状況に応じ,製品の性能等の内容について情報を収集し,製造する施設等の確保についても自ら確認して,取引を行っているのであって,各案件におけるJ会社の立場を踏まえると,十分な対応である。むしろ,aが実際に台湾から照明器具を仕入れて納品したことがあり,W会社の有力な取引先であると確認していたこと,A会社製の水銀灯代替品の性能を確認していたこと,C会社が上場企業であること等からすると,dが,E会社,A会社,C会社の3社が共謀してJ会社をだまそうとしていることを想定するのは難しいというべきである。
原判決は,F会社案件の商流が奇妙であると指摘するが,F会社が自社開発の製品を他社を通じて購入する商流になったのは,同社が自ら製品の開発はできても製造する施設を保有していなかったこと,A会社がF会社の生産工場となる前提であったこと,J会社がE会社及びA会社と総販売代理店契約を既に結んでいるため,この商流に参加せざるを得なかったことが原因であって,何ら奇妙なことではない。
また,G会社案件において,dが取引内容の変動に応じた対処をしていないとの指摘については,発注数が増加することはdにとって不自然に感じるような事情ではないし,そもそも,J会社は,製造者とエンドユーザーとの間で合意ができた商流に介入して,資金を提供することで利益を得ようとしていたものであって,製造者とエンドユーザーとの商談の結果,発注数が大幅に変更になったとしても,それを受け入れざるを得ない立場にあったというべきである。
dは,aが逮捕された際,自社の顧問弁護士に相談の上,E会社に行って同社の債権者の動向を確認して対処をするようにアドバイスを受け,そのとおり実行したものである。当時のdにしてみれば,aが逮捕された事件の詳細も分からず,aに対する信頼が失われる事態にはなっていなかった上,A会社に対する不信感を抱く状況にもなかった。そして,既にC会社案件,F会社案件,G会社案件に相当の資金を提供して取引に加わっている以上,この取引が頓挫しないため,関係会社の経営が立ち行くように対処するのは当然であり,a逮捕後のE会社の新社長に事情を知っている被告人乙を推すことも何ら不自然ではない。また,dがE会社に対して,A会社への支払を行うよう強く要求し,5億7000万円を振り込ませた点も,A会社に資金力がないことからE会社からの支払が止まれば製造資金が枯渇すること,他からの収入や資金のない会社と取引を継続しようとする以上,前渡金だけでなく残代金分の支払も併せて行わせたことも不合理ではない。
原判決の認定によれば,dは,将来的にJ会社に多大な損害を与える行為に加担していたことになるところ,そもそも,取引相手がエンドユーザーの存在しない架空取引を仕掛けてきた場合に,これに気付きながら,その取引に伴うリスクを考慮せず,自己の営業成績が上がることだけを考えて応じることは通常考え難い。特に,C会社案件等4案件では,J会社が先払で提供した資金の多くを被告人らにおいて自由に費消しているのであって,単に循環取引に介在するだけの場合と比較して,支払済みの資金を回収できなくなる可能性が飛躍的に高く,早晩破綻することが想定されるのであって,相当な動機がなければ,このようなリスクの高い取引に応じるはずがないことからすれば,原判決の認定は論理則,経験則等に反している。
さらに,原判決は,T銀行が保管していたJ会社名義の発注書をaが偽造できるはずがないのにaが偽造したなどとdが明白な虚偽を述べたとして,d証言の信用性を一般的に否定するが,a自身,同発注書を偽造したこと自体は間違いない旨自己に不利な事実をあえて証言しているから,dの上記証言を明白な虚偽と断じ,信用性を一般的に否定することは論理に飛躍がある。

検討
原判決が適切に説示するとおり,dは,S会社からJ会社に発注見
込みがあるとaから聞き,J会社の取引委員会での承認を得るなどして準備を進めていたのであり,S会社案件が発注見込額2000万円の大規模な取引であること,これが実取引であれば,S会社からの打診ないし発注が先行しているはずであり,S会社が同案件について心当たりがないなどということはあり得ないことからしても,S会社から苦情を受けた際に,単にaから「確認してみる」との説明を受けたのみで他に何ら対応をしなかったというのは余りに不自然というほかない。所論は,従前の取引を通じてdがaを信頼していた旨指摘するが,上記のとおり実取引であればあり得ない状況であって,aに対する信頼が大きく揺らぐ事態というべきである上,結局,dは,社内において取締役らが出席する取引委員会で取引の承認まで得たS会社案件について,その顛末に関して具体的な確認をしていないのであり,このようなdの対応は,S会社案件が実取引であるとの認識を前提とした対応とは考え難いというべきである。
なお,原判決は,dが,aが提案したA会社製のLED照明の取引の中には循環取引が含まれていることを認識したのは,遅くとも2月24日頃にS会社から苦情を受けた時点であると認定し,それ以前については,dがS会社等に見積書を送付したことはエンドユーザーが真に発注する意思があると考えていることを前提とした行動である旨説示している。
しかし,エンドユーザーが真に発注する意思がない循環取引の場合であっても,通常の企業であれば,そのことを公然化するわけにはいかず,発注者との間で取引に係る書類を形式的にやり取りすることは十分にあり得ることであり,現に,原判決が,dが循環取引と認識した上で実行したと認定したF会社案件においても,J会社は発注者であるF会社に対し,見積書を交付している。
原判決も指摘するとおり,dが,C会社案件の内容について,当初aから聞いていた発注内容や価格,ひいてはJ会社の利益額等,取引の本質的な内容について,わずか9日後には大きく変更された形で発注がされたのに,内容変更の理由をaから聴取したり,その変更についてJ会社社内で了解を得るなどの行動をとることなくC会社案件を実行したことは,dが1月22日又は24日の段階で,C会社案件が循環取引であることを知っていたと推認させ得る事情であり,dがC会社案件において製品の製造や納品が適切に行われるか否かについて無関心な態度であったことも,上記推認を支える事情といえる。これらの事情を踏まえてみれば,dがS会社等に見積書を送付した行為は,必ずしも,dがS会社案件等を実取引であると認識していたことを前提とするものではなく,例えば,循環取引であることを前提として,関係書類のやり取りをしようとしたものの,何らかの行き違いでaらとS会社等との間で循環取引を行うことの合意が形成される前に送付してしまっただけではないかとの疑いすらあるというべきである。
以上からすると,dがC会社案件が循環取引であると認識した時期は,原判決の認定よりも更に早い段階であった可能性があるというべきであるが,2月24日頃には認識があった旨の原判決の認定自体が誤りとはいえず,いずれにせよ,所論は採用できない。
さらに,仮に,dがS会社への見積書送付に対する苦情を契機に循環取引が含まれていることを認識するに至った場合であっても,LED事業における売上が目標額に全く届かない状況下で,大規模な取引の実現として社内の取引委員会で承認されるまでに至ったのに,それが架空取引であることが判明したとすれば,売上が計上できなくなるだけでなく,パワーハラスメントを理由に降格となった立場から失地回復を図っていたdに対しても,再び責任を追及されるおそれもあったことからすれば,自らの責任回避及び売上高の計上を優先して何らの方策もとらないということも十分あり得るというべきである。dが後になって循環取引と認識するに至りながら何らの方策もとらないことが不自然であるとの所論の指摘は当たらない。所論は,dが製品の製造や納品に無関心であるとの原判決の認定を論難するが,C会社案件において,2億円を超える大規模な取引を行うのはJ会社としては初めてであり,かつ,エンドユーザーがI会社という大企業であること,R会社の子会社であるJ会社の名前で取引に関与する以上,問題が生じることは許されないと通常は考えること等からすれば,dにとって,同案件がJ会社のその後のLED事業や自らの行く末にも関わる重要な取引であることは明らかであり,その実行に当たっては製造や納品が支障なく行われるよう慎重な態度で臨むのが当然である。それにもかかわらず,dは,納品・検収書等の書面を形式的にやり取りするのみで代金支払の手続を行っており,C会社o工場の視察も,休業日で稼働していない工場を視察したのみであり,F会社案件,G会社案件等その後の取引に関しても,dが製品の製造や納品について無関心な態度であったことは,原判決が説示するとおりである。このことは,所論が付加的に主張するaとの取引実績等の事情を考慮しても変わらない。
また,所論は,J会社は既に売主と買主の間で合意に達している取引に,製品の製造資金提供者として介入するだけの立場で,いわゆる商社金融取引を行ったのであり,製品の製造,納品にそれほど関心を持たないことも不自然ではないなどとして,各取引におけるJ会社の立ち位置を強調するが,C会社案件やG会社案件では,注文内容や発注額など,取引の基本的な内容が大きく変動するなどし,また,当初はK会社がJ会社に発注すると言われていたものがF会社からの発注となったり(F会社案件),L会社がJ会社に発注すると言われていたものがG会社からの発注となる(G会社案件)など,商流も変動するような取引であったことからすると,売主と買主との間で合意に達している取引に介在するだけなどとは到底いえず,むしろ,取引の存在自体が疑わしくなる状況であったことは明らかである。しかも,S会社案件では,発注元とされたはずの会社から,心当たりがないとの苦情まで受けているのに,dは,結局C会社案件等4案件の取引を最後まで実行している。このような一連の経緯を踏まえてみれば,dの製品の製造,納品に対する無関心さは,単にJ会社が資金提供者の立場であったからなどという理由で説明できるものではなく,dがC会社案件等4案件について実取引ではないと認識していたことを推認させる事情というべきである。
F会社案件が,自社製品を他社から買うという奇妙な取引であること,G会社案件の発注数の増加に対するdの対応が余りにも不自然であることは,原判決が正当に説示するとおりである。所論のいうように,F会社が自ら製品の開発はできても製造する施設を保有しておらず,かつ,A会社がF会社の生産工場となる前提であったとしても,F会社が商流に入り,自社製品をJ会社に発注することの合理的な理由にはならない。また,G会社案件における発注数の増加は,わずか1日の間に,発注数が3倍余りにもなり,発注額が約1億円増加するというものであり,J会社が提供すべき資金額に大きな影響を与えることはもとより,当該取引が実取引であれば,納期や価格,受注能力等,様々な点で検討が必要になるはずである。dがこのような取引内容の変動に応じた対処をしていないことは,J会社は発注数の大幅な変更があってもそれを受け入れざるを得ない立場であったなどという所論の指摘によっても合理的に説明できるものではない。
aの逮捕後,E会社の他の債権者の動向を確認して対処するようにという顧問弁護士からのアドバイスがあったとのdの証言を踏まえても,E会社の社長に被告人乙を推し,同被告人が社長を解任された後,E会社がA会社に対する支払をしていないことが分かるや,dがE会社の監査役を銀行に連れて行ってまでして,A会社への振込入金を実現させるなど,dの一連の行動は,J会社の一担当者としての行動としてはかなり異常なものというべきである。これらの行動が,dがF会社案件,G会社案件が循環取引であることを明確に認識しており,金銭を予定どおり還流させるとともに,aの逮捕後も事情を知る関係者の下で従前どおり取引を継続するための行動とみられる旨の原判決の評価に何ら誤りは存しない。所論は,この時点ではdのaに対する信頼が失われる状況になかったなどとして種々主張するが,aが逮捕されるまでの間のC会社案件を始めとする各取引経過及びdの行動経過に関して既に述べたところからすれば,aが逮捕された時点では,dが既に各取引が循環取引であることを明確に認識していたことは明らかであり,a逮捕後のdの行動もこれに沿ったものとみるほかないのであって,所論は採用できない。
その他,所論は,dの原審証言が信用できることを前提にるる主張して,dがC会社案件等4案件につき(C会社案件は途中から),循環取引であることを認識していた旨の原判決の認定を論難する。しかし,dがT銀行保管のJ会社名義の発注書についてaが偽造したと証言したこと(これに沿うaの原審証言があるが,動かし難い事実関係に照らし,到底信用できない。)を始め,原審公判で明白な虚偽を証言するなど,その信用性一般に疑問があることは原判決が指摘するとおりである上,dは,循環取引に加担する動機があることは既述のとおりであるし,LED事業の将来について極めて楽観的な見通しを抱いていたとうかがわれ,C会社案件の発覚リスクをどこまで現実のものととらえていたのか疑問が残る。そして,C会社案件等4案件が実取引だと認識していた旨のd証言は,上述のd自身の行動経過にも整合しないものであり,a逮捕後の案件であるB会社案件においては,d自身が架空取引を持ち掛けてきたものである旨被告人乙が供述しており,それまでの経緯に照らしてこの供述が排斥できないことも原判決が説示するとおりである。所論はいずれも採用の限りでない。
被告人らの詐欺の故意に関する所論について

所論は,以下のとおり指摘して,J会社代表取締役らの錯誤の有無につ
いての被告人らの認識に関する原判決の認定は論理則,経験則等に反する旨主張する。
C会社案件等4案件は,いずれもJ会社に損害を生じさせることが想定された取引であり,直接経済的損失を被ることやRグループ全体の社会的信頼をも低下させ,その経済活動を大きく阻害する危険があることからすると,J会社が情を知って取引に関与することなど到底考えられない。また,実績作りとしての循環取引に協力しながら将来の大きな実取引につなげようとしたというのも,その前提として,A会社やその製品に対する信用が必要とされるところ,現実にはその前提が欠けている。したがって,特段の事情がない限り,J会社が本件取引の実情について誤認し,錯誤に陥っていることについて,被告人らが当然に認識していたと推認できるのであり,このような推認過程を踏まなかった原判決は判断手法を誤り,論理則,経験則等に反した不合理な認定をしたものである。
被告人丁の認識について
C会社案件を実取引であると認識していた旨の被告人丁の弁解を原判決が排斥した点は誤りではないが,その理由として被告人丁が同丙からC会社案件が関係者全員の了解の下で行われる循環取引であること等の説明を受けたと推認できるとした点は,本件取引の構造を踏まえると非論理的である。
被告人丁は,C会社案件について,C会社社内で正規の形での意思決定を経ておらず,当時,同案件はC会社社内において正常な取引の一つとして公になっていなかったことからすれば,被告人丁がC会社案件を通常の実取引とは異なるものであると認識していたと推認でき,また,被告人丁は,少なくとも,I会社からのC会社に対する発注が架空のものであることについては認識していたと認められる。原判決は,C会社名義の注文書にk管理部長の押印があることや,1月22日の商談にC会社従業員を同席させていたこと等から,被告人丁が会社に隠れてC会社案件を実行したと認めるべき事情はないとするが,取引を仮装する以上,k管理部長の押印がされた発注書が何らかの方法によって作成されるのは当然であり,従業員が同席したという点も,被告人丁の認識に関する推認を妨げる事情とはならない。また,dに対し,被告人丁を通じて架空取引であることが発覚する危険を避ける意味でも,被告人乙や同丙らが,関係者全員の了解の下に実行する循環取引であるなどと説明するはずがない。
被告人丁がC会社案件について実取引ではないと認識していたのは,あくまでI会社からの受注が架空であると認識していたからであり,原判決のいうように被告人丙から説明を受けていたからではない。
そして,被告人丁がC会社案件を実取引ではないと認識していた以上,J会社が事情を知った上で本件のような様々なリスクがある取引に応じることは通常考えられないことから,被告人丁はJ会社が実取引であると誤信していることを認識していたものと推認できるのであって,これを否定する原判決の認定は論理則,経験則等に反するものである。
被告人乙の認識について
原判決は,C会社案件はA会社にとって経済的利益はなく,J会社との将来の実取引による利益を期待したものとみるのが自然であるなどというが,被告人らは現にJ会社が支払った資金を自由に費消するという経済的利益を得ており,前提を誤っている。そして,当時の資金の流れからすれば,A会社に資金需要があったことは明らかである一方,J会社としては,LED照明事業に力を入れていたとはいえ,多大なリスクを負ってまでして,取引の実績を仮装する理由はない。そもそも,被告人乙らは,支払われた資金を直ちに自己らのために費消しており,早晩破綻することは確実であったことからすれば,将来の実取引を期待したとの原判決の指摘は一連の取引の実態を見誤ったものである。
原判決は,被告人乙及び同甲が,当時,aと知り合って2か月程度しかたっていないこと等から,詐欺の計画に応じるとは考え難いとするが,取引に絡む詐欺事案では,知り合って間もない者同士が共謀して犯行に及ぶことも決して珍しくない。また,原判決は,被告人乙がaから発注元として「顔のよい会社」を求められたと説明を受けたとして,これが被告人乙の弁解に沿う事情の一つであるとするが,仮に,J会社代表取締役らも含めて循環取引であると了解していたのであれば,発注元自体の信用力は問題にならないはずである。発注元がC会社になったことで,J会社側が取引に応じやすくなったのであれば,これは正にJ会社側がC会社案件を実取引と認識し,後に支払を受ける相手として信用力のある業者を関与させたいと考えたからである。
さらに,1月22日の商談で,関係者から循環取引であることをうかがわせる言動が出なかったことは,それ自体,J会社側に実取引と誤信させようとしたことを示している。
以上からすれば,J会社側がC会社案件等4案件が実取引であると誤信している点について,被告人乙が認識しておらず,詐欺の故意も共謀もないとした原判決の認定は,論理則,経験則等に反している。
被告人甲の認識について
被告人甲は,C会社案件等4案件において,J会社側と直接交渉したことがなく,被告人乙を介して事情を知るのみであったものの,C会社案件等4案件の客観的構造について十分理解して取引を指示しており,J会社側が上記のような本件取引の実情について誤認し,錯誤に陥っているかについて,被告人乙と異なる認識を有する特別な事情があったとは認められない。被告人乙の認識は上述のとおりであるから,被告人甲について詐欺の故意及び共謀を否定した原判決には明らかな事実誤認がある。
被告人丙の認識について
原判決は,被告人乙及び同甲が,J会社側が循環取引であることを承知している旨の説明をaから受けており,このことを被告人丙に告げなかったとは考えられないなどと説示するが,被告人乙及び同甲は,上記のとおりJ会社側が実取引であると誤信していることを認識していたのであるから,被告人丙に対しあえて虚偽の説明をしたとは考えられない。また,被告人丙も,C会社案件等4案件の構造は熟知していたと認められ,そうであれば,J会社が様々なリスクのある同案件のような取引に応じることは通常考えられず,実取引と誤信していることを認識していたものと推認できる。
したがって,被告人丙の認識に関する原判決の認定には明らかな事実誤認がある。

検討
所論は,C会社案件等4案件はJ会社に損害を生じさせることが想定
された取引であり,将来の大きな実取引を期待できる現実的可能性もなかったなどとして,特段の事情がない限り,J会社が循環取引であることを前提に取引をするとは考えないはずであるとする。しかし,J会社は,自己資金を還流させることで,LED製品の取引実績を形式的に積み重ねるのみでなく,実際に売上及び利益を計上することができている。また,A会社は,LED製品の専門技術者を雇用し,その一部製品については高い評価を受けていたほか,新たに工場を取得し,製品の開発,量産に関しても他企業と提携を進めるなど,それなりにLED事業の体制を整えようとしていた。さらに,当時は,被告人らだけでなくJ会社側の関係者もLED事業については楽観的見通しを抱いていたとうかがわれる。このような事情に照らせば,被告人甲や同乙らが,J会社らRグループの力を借りればLED事業に関して大きな実取引につながる(それは,結果的にJ会社にとっても利益となる。
)と考えたとしても,一概に不合理,不自然とはいえない。そして,C会社案件を始めとして多くの案件がdを介することによってJ会社内において容易に承認され,dがJ会社内で実取引を装うために細心かつ周到な工作をしている様子もなかった以上,被告人らが,C会社案件等4案件について循環取引であることを認識したからといって,J会社代表取締役が実取引と誤認していると認識することにはならないとした原判決の認定は,論理則,経験則等に反するものではない。被告人丁の認識について
所論は,被告人丁がC会社案件について実取引ではないと認識していたのは,I会社からの受注が架空であると認識していたからであって,被告人丙から関係者全員の了解の下で行われる循環取引であること等の説明を受けたからであるとする原判決の判断は,非論理的であるとする。
この点,原判決は,被告人丁は,被告人丙から,B会社からC会社への支払の確実性や取引の適法性に関する必要な情報を得たものと推認され,その際,少なくとも,C会社案件が関係者全員の了解の下に行われる循環取引であり,資金を循環してC会社に支払をするため入金が確実であることなどの説明を受けたものと推認している。しかし,被告人丙が同丁に対して具体的にどのような話をしたかについては,その詳細を示す証拠はなく,抽象的にいえば,所論のいうように,C会社としては,最低限,C会社への支払がない限りJ会社に支払をしなくてもよい旨の説明を受けてさえいれば,入金の見通しに関する問題は払拭されるともいえる。もちろん,原判決が推認するように,被告人丙が関係者全員の了解の下に行なわれる循環取引である旨を説明した可能性も十分あるものの,そのような説明がされたと断定し得るほどの証拠はなく,原判決の上記推認過程には飛躍があるといわざるを得ない。
しかし,原判決が適切に認定するとおり,aが被告人乙にJ会社の売上に協力するために循環取引への関与を誘い,当初架空発注をする会社としてB会社が検討されたが,もっと「顔のよい会社」として被告人甲が同丙に対しC会社に架空発注の協力を求めるよう依頼したという経過からすると,被告人丁のみが,C会社案件が循環取引であることを知らなかったとは考え難いこと,C会社案件は,A会社の販売代理店であるB会社がC会社やJ会社を介してA会社製品を買うという不自然な商流であること等からすれば,被告人丁がC会社案件について循環取引であると認識していた旨の原判決の認定に誤りはない。
他方,被告人丁の弁護人は,答弁書において,C会社案件は実取引であると認識していた,C会社は商社取引のためにJ会社とB会社の間に入っただけであるとの原審同様の主張をする。そして,被告人丁は,原審公判廷において,B会社とJ会社の間に入るだけであり,B会社の売先となるエンドユーザーについては聞いていない,R会社の子会社が入る取引ということで安心して取引に参加した旨供述している。しかし,そもそも,C会社が商流に入ることになったのは,被告人丁の説明によっても,B会社ではJ会社の与信に堪えられないからだというのであり,実際,C会社のB会社に対する与信枠も500万円であったというのに,C会社案件は約2億円もの取引である。J会社の与信に堪えられないからこそC会社が参加するのに,「J会社が商流に入っているから安心」などと考えるのはいかにも不自然である。被告人丁は,被告人丙から,その説明ぶりの詳細はともかくとして,B会社からの入金やJ会社への支払についての不安がないと納得できるだけの説明を受けたことが合理的に推認できる。単に取引に介入するだけで,エンドユーザーや金銭の流れ等については全く気にしていなかったなどという被告人丁の原審公判供述を信用することはできない。
進んで,所論は,被告人丁が循環取引であることを知っていた以上,J会社代表取締役がそれを承知で取引に加わるはずがなく,実取引であると誤信している旨認識していたと推認できる旨主張する。しかし,C会社案件が架空取引であることの認識があるというのみでは,J会社代表取締役が同案件を実取引であると誤信している旨の認識があったとはいえないことは前述のとおりである。そして,後記

述べるとおり,被告人乙及び同甲は,J会社の売上計上に協力するという意図の下,C会社案件に関与したものと認められることからすると,被告人甲が同丙を介して要請したことを契機に関与することとなった被告人丁が,被告人乙らの上記意図を告げられないまま,J会社から金銭をだまし取るという認識の下で本件に加担していたとは認め難いから,被告人丁の詐欺の故意を否定した原判決の認定に誤りはない。
被告人乙及び同甲の認識について
所論は,被告人らは現にJ会社が支払った資金を自由に費消するという経済的利益を得ているなどと主張するが,被告人らが資金を自由に費消するか否かにかかわらず,A会社としては,結局,J会社が支払った資金にその利益分を上乗せしてJ会社に支払わなければならないのであり,実際にC会社案件等4案件では,J会社に対する支払がされていることからしても,A会社にとって経済的利益のない取引であるとした原判決に誤りはない。この点,所論は,上記のA会社からJ会社に対する支払が,J会社自身が別の取引で提供した資金を原資としてなされているという点を重視しているものと理解できるが,この点を踏まえてみても,結局,J会社は,自己の資金を還流させることで,LED製品の取引実績を形式的に積み重ねるのみでなく,実際に売上及び利益を計上することができている。被告人乙らがこのようなJ会社の実績作りに協力することで将来の実取引を期待したとしてもあながち不合理ではないというべきである。
また,所論は,知り合って間がなくとも,取引に絡む詐欺の犯行に及ぶことはあり得るなどと指摘するが,いずれにせよ,被告人乙らにとって,犯罪行為に及ぶことを承知の上でこれに加担するほどの動機があることが前提となる上,その犯罪が成功し,かつ,犯行後も容易には発覚しないことなどについて納得できない状況下では,被告人乙らが安易にaの誘いに乗るとは考え難い。被告人乙らが実取引を仮装してdらをだますことを策謀したのだとすれば,早晩J会社にこれが発覚して破綻することを被告人乙らも認識し得るのであり,それでもなお被告人乙らがaの誘いに乗るほどの合理的な理由は見いだし難い。
むしろ,被告人乙が述べるように,J会社の実績作りに協力してほしい旨をaから持ち掛けられたという方が,取引に関与する理由としては自然である。そして,その際,dという一従業員個人の実績作りのためであってJ会社社内では実取引として説明するなどという話であれば,dの背任行為に加担することを承知で関与することになり,やはり被告人乙らが安易に参加するとは考え難く,J会社が会社として実績作りを要望している旨理解したからこそ取引に関与したものと考えられる。
次に,所論は,被告人乙がaから発注元として「顔のよい会社」を求められたとする点につき,J会社代表取締役らも循環取引であると承知していたのであれば,発注元自体の信用力は問題にならないはずであるなどと指摘するが,現実に資金が動く以上,信用力の乏しい会社を発注元とすることを避けるのは当然であるし,「実績作り」に当たっては,単に売上の取引実績のみならず,「どこと取引をしたのか」という点も意味を持つであろうことは容易に推察できるところである。さらにいえば,J会社側から,発注元として「顔のよい会社」を要求すること自体,商流の確定している取引に介入するだけであったとの所論がその前提を欠くことを示している。したがって,J会社側から「顔のよい会社」を求めたことは,J会社代表取締役らが実取引と誤信していたことを示す事情とはいえない。
また,1月22日の商談の席で関係者から循環取引をうかがわせる言動がなかったことは,関係者においてその旨の共通認識があったとしても,初対面の者もいる場で安易に公然化することをためらうのは当然であり,その場にC会社のhが同席していたことからそのような言動を避けたと理解することが可能であることも原判決が指摘するとおりであり,この点に関する所論も採用できない。前述のとおり,被告人乙らがC会社案件に関与したのは,J会社の実績作りに協力するためであり,J会社代表取締役らも循環取引であることを承知しているものと認識していたとみるのが合理的であり,その後のF会社案件,G会社案件等の経過やその間のdの言動等は,被告人乙の上記認識を強めこそすれ,J会社代表者らが実取引と誤信していることを認識させるようなものではなかったことは原判決が指摘するとおりである。
以上によれば,被告人乙の詐欺の故意に関する原判決の認定に誤りはなく,また,J会社側と直接接触のなかった被告人甲が同乙と認識を異にする理由がないことも原判決が説示するとおりである。
被告人丙の認識について
被告人乙及び同甲が,J会社代表取締役が実取引であると誤信している旨を認識していたことを前提とする所論は上述したところに照らし採用できない。また,被告人丙が,C会社案件等4案件について循環取引であることを認識したからといって,J会社代表取締役らが実取引であると誤信していることを認識していたとは直ちにいえないことは既述のとおりであり,被告人乙からC会社案件についての意図を告げられていなかったとは考え難い以上,J会社代表取締役の誤信を認識していたはずである旨の所論も採用できない。
2
D会社LED案件及びD会社デマコン案件に関する所論について
D会社LED案件及びD会社デマコン案件の本質,実態に関する所論につ
いて

所論は,以下のとおり指摘して,D会社LED案件及びD会社デマコン
案件の本質,実態は,被告人らが,C会社案件等4案件等により膨れ上がったJ会社への支払資金を確保するとともに一連の詐欺の終結を図るなどのために,より規模の大きい詐欺として,エンドユーザーが存在する実取引であるかのように欺くなどしてJ会社から金銭をだまし取ったというものである旨主張する。すなわち,被告人らは,C会社案件等4案件及びその他の同種詐欺事案により生じたJ会社に対する支払に充てるため多額の資金を必要としており,実際に,D会社LED案件及びD会社デマコン案件においてJ会社が支払った資金は,一部被告人らの意のままに使われているほか,C会社案件等4案件と同種の詐欺案件により生じたJ会社に対する支払のための資金にも充てられていること,D会社LED案件及びD会社デマコン案件において,J会社が多額の資金を支払ったのは,D会社がP会社他2社との間で,多数の店舗にLED照明やデマコンを設置する旨の合意をしているものと誤信していたからこそであること,J会社内における確認会議等での被告人らの言動等に照らせば,被告人甲,同乙,同丙及び同戊は,一定数のLED照明やデマコンを製造しておくことなどにより実取引であることを装った上で,LED照明等の製造の遅れや調査の遅れなどによる民事上の取引の債務不履行にすぎないなどととして刑事事件化を防ぐつもりであったと推認できるというのである。

検討

被告人らが,C会社案件等4案件等により膨れ上がったJ会社への支払資金を確保するとともに,一連の詐欺の終結を図るため,D会社LED案件及びD会社デマコン案件をJ会社に持ち掛けたとする所論は,C会社案件等4案件について被告人らが詐欺行為を行ったもので,J会社にこれが発覚しないまま一連の取引を終結させる必要があったことを前提とするものであり,その前提が誤っていることは,既に述べたとおりである。
C会社案件等4案件について,dは循環取引であることを認識していたと認められ,被告人らもdの同認識を承知していたのであるから,被告人らが従前の取引による支払原資を確保するために資金を必要としたとしても,D会社LED案件について今更dに対して実取引であることを装う必要性は乏しいのであり,所論の見立ては誤りというほかない。
以下,各事件について更に敷衍して説明する。
D会社LED事件に関する所論について

所論は,次のとおり主張する。
J会社は,A会社との間で,同社が開発製造するLED製品の総販
売代理店として,これを同社から購入して販売する立場にあり,D会社LED案件の支払についても,社内における手続を踏まえ,R会社本社における投資委員会での了解を取り付けるなど,A会社からLED製品を購入することを前提とした手続を進めており,支払に当たっては,購入すべき製品の製造状況と関連付け,前渡金の支払を1回見送るなどしていることからすれば,J会社が支払った約42億円の金員は,J会社がD会社LED案件の前渡金として支払ったという評価以外成り立たないというべきである。そもそも,正常な経済活動を行っているJ会社が,納品先であるエンドユーザーの発注数が定まっていないにもかかわらず,A会社に対して大量のLED製品を発注することや,何の理由もなく多額の金銭を支払うことなどあり得ない。
したがって,J会社が趣旨不明の巨額の金銭を支払ったとする原判決の認定は不合理であり,J会社がA会社に対して大量のLED製品を発注したという事実自体から,その前提として被告人らがJ会社に対しエンドユーザーからD会社に対して発注数が定まった発注があり,それに基づいてD会社からJ会社に発注があったと装ったものと推認することができる。
原判決は,8月31日に被告人戊がdに渡した注文書について,P会社等から確定的な発注を受けているという趣旨のものではないとしたが,同注文書には,D会社の社印が押され,担当者や経理担当者の欄にも押印がされており,設置場所として店舗数や設置する製品内容が具体的に表示されており,注文書の体裁で渡されている以上,表示された店舗へのLED照明器具の導入自体は,エンドユーザーとの間で合意が出来ていると考えるのが自然である。また,同注文書には,納入期日として平成23年1月より分納等の記載があり,約4か月後という近接した時期には納入が開始されることが明記されており,取引がある程度進行していることをうかがわせるものである。
また,一般にこの種の取引において,後に発注数が変更されることを見越して,概数の発注数で合意に至ることも十分にあり得るし,クーレス事業であることを前提としても,個別店舗ごとの個別契約がなされる前に,これを含めた店舗全体への導入について合意がなされる可能性もあるのであって,原判決の認定は,これらの取引の実態からかけ離れている。
dは,8月31日に被告人戊からLEDの種類や本数も確定しており,注文は取れているなどと説明を受け,注文書の交付を受けたことで,既にD会社とP会社他2社との間で合計1650の店舗にLED照明等を設置する旨の合意ができており,クーレス事業にいう基本契約たるサービス利用契約も締結されていて,今後,LED照明等の設置が進むとともに個別契約が締結され,売掛金が回収できることが見込まれるものと認識したのである。J会社における会議でも,被告人戊は,「基本契約は締結しています。基本契約中の個別契約を締結するのです。」などと発言しており,クーレス事業を前提としても,個別契約が締結されなければエンドユーザーとの間で契約関係が存在しない旨の説明はしておらず,J会社は,D会社がP会社他2社から1650店舗分相当の発注があることを前提に社内決裁を行っている。さらに,被告人戊は,U会社他408店舗分の工事の注文書をJ会社に提出し,平成23年3月11日には,3月以降に工事を行う予定の店舗の一覧を提出しているところ,現実には,この当時も具体的な工事予定はなく,あくまでエンドユーザーとの間で具体的な設置工事の合意が存在するよう偽装している。納品予定とされたマンハッタンが開発中であった点については,dは,既存の韓国製品があると説明を受けており,営業段階でも韓国製品を使用した実験等は可能であると認識していた上,A会社において早晩新製品が完成すると考えており,開発途中の製品が発注に関する書類に記載されていたとしても,それだけで発注が確定したものではないとの疑念を抱くものではない。
J会社が発注を受けたとする日以降も納入先の調査等が行われ,そのための費用が支出されたことについては,dやJ会社の経理部長であったlは,受注後の調査は,LED照明の設置を検討するためではなく,順調に納品を進めていくための調査であると認識していた。また,原判決は,J会社がリース会社の確定を急がなかった旨認定しているが,この段階ではdは被告人丁にも信頼を寄せており,リース会社との交渉は同被告人に任せていたこと,その中で,同被告人に進捗について報告を求めるなど,具体的なやり取りをしていたもので,J会社やdがリース会社の選定について放置していたとの評価は当たらない。さらに,原判決は,J会社が発注者をリース会社に変更し,リース会社との間で個々の店舗について改めて発注の手続をしたことを指摘するが,与信上の理由から取引主体や商流について変更が加わることは珍しいことではなく,D会社から発注を受けた後に,形式上の発注者をリース会社に変更する旨申し入れることに不自然な点はないし,確定した発注を受けた後に個別の見積りをやり直して修正を行うことも珍しくない事態であり,リース会社が新たに商流に加わった本件では,従前のD会社からの発注の枠組みの中で,形式的に取引に係る書類を再度取り交わすことは当然のことである。原判決が指摘する事情は,いずれも,J会社が当初の発注を正式な発注と捉えていないことを示すものではない。
また,J会社が,D会社に対して注文請書を発行していないのは,dが被告人戊から不要と説明されたからであるし,被告人戊がJ会社における確認会議で「今御社に提出している注文書は仮発注みたいなもの」と発言した点は,J会社の意向を受けて発注者がリース会社に変更になることを説明したにすぎないから,同発言を問題視しないことも何ら不自然ではなく,原判決が指摘するこれらの事情も,J会社が当初の発注を確定的なものと捉えていないことを示すものではない。被告人戊がdに注文書を交付した場に同席した被告人乙及び同丙は,dに対し,マンハッタンの国内生産の検討を急がせる,LED蛍光管は台湾のX会社で製造できるかどうか問い合わせてみるなどと説明しており,これは注文書記載の製品を同記載の納期までに間に合わせることを前提とした言動であり,同人らも,具体的な発注を受けており,製品を直ちに製造してA会社がJ会社に売却することを印象付ける言動をしている。また,被告人丙は,9月6日,A会社からJ会社宛てに「生産・納入計画」と題する書面を作成し,その後,被告人乙が見積書とともに上記書面をdに交付しており,これらの行為も,納品先及び発注数が定まった発注であることを前提とした作業が進んでいることを装ったものと評価するのが自然である。
被告人丙は,9月28日,被告人乙に対し,上記注文書の報酬の前渡金として,A会社からD会社に2億円を支払う内容の確認書をメールで送信して,後に報酬の実態を仮装して「経費」名目の確認書を送付し直しているが,これは被告人らがJ会社から得た詐取金を分配することを予定していたことを示すものである。さらに,被告人丙は,J会社における確認会議で「V会社は全店舗現調が済んでいる。3万本くらいまでなら工事可能である。」旨説明しており,同被告人が被告人戊と通じて,dらJ会社にエンドユーザーとの間で話がついていることを装っていたことは明らかである。
原判決は,被告人甲の検察官調書の供述について信用性を否定するが,A会社に,同社が標榜していた電源内蔵型LED投光器の開発能力がないことは本件各犯行に至る経過や犯行後の経過から明らかであり,他方,架空取引を繰り返していることで,A会社自体が企業としての経済活動を継続することが困難となることは容易に想像できる状況であって,そのような状況下で,被告人甲及び同乙らA会社関係者にとって重要なのは,それまでの架空取引が発覚せず,関係者個人が告訴等を受けないことにほかならず,そのためであれば,更なる差損が生じても大型の架空取引を行い,製造した製品をJ会社に売却しつつ事業からの撤退を目論むのは極めて自然な発想である。被告人甲らにとって,D会社LED案件当時,J会社に支払うべき金額が26億4000万円余りに上っており,その支払資金を確保する必要に迫られていたということからしても,被告人甲が更なる大型の架空取引を行うことを考えたという動機には十分な合理性があり,被告人甲の検察官調書の内容は基本的に信用できる。
以上のとおり,D会社が当時資金繰りに窮している状況で,被告人戊には虚偽の注文書を発行してJ会社から金をだまし取る動機があったこと,被告人戊に注文書を作成させた被告人丙,同乙及び同甲は,それまでにJ会社との間で行っていた架空取引に係る支払ができない状態になっており,これを支払ってこれまでの架空取引による責任を隠蔽することを狙い,D会社LED事件を計画したものであり,各被告人らが共謀の上,同事件を敢行したことは明らかである。これを否定した原判決には,明らかな事実誤認がある。

検討
所論は,J会社がD会社LED案件に関して現にA会社に製品を発
注し,42億円余りを支払ったこと自体からして,被告人戊らがJ会社に対しエンドユーザーからの確定発注があったように装ったものと推認できる旨主張する。この点,原判決は,J会社が送金した合計42億円余りの金銭につき,J会社が取引の準備の進捗に先立ってA会社に趣旨不明の巨額の金員を支払ったものと認めるほかなく,8月31日付け注文書の交付はその支払を根拠付けるものではない旨説示している。
そこで検討すると,J会社が行った上記送金は,いずれも,D会社LED案件に関するA会社からの請求書に応じてなされたものであり,少なくとも形式的には,D会社LED案件の前渡金として支払われたことは明らかである。他方,その支払内容が1回当たり7億円程度を上限とする旨のR会社本社の投資委員会における承認条件を超えるものであることは原判決が指摘するとおりである。この点,A会社は,9月6日,J会社に対し,D会社が発行したJ会社宛て注文書と同内容の製品,数量を記載した見積書を発行しており,この見積書を受けた形で,J会社は,9月22日付けA会社宛ての発注書を発行しているところ(原審甲114-4,6),このJ会社からA会社への発注書では,支払方法として,「発注時約40%支払い

残りは納品完了後翌月末支払い」との記載があるほか,備考欄に「発注時
分は,前渡金として6ヶ月に分けて支払い」との記載がある一方,同日付でA会社がJ会社に発行した発注請書(その体裁からして,J会社の作成した書式にA会社が記名印,社印を押したものと認められる。)では,製品の数量等は同内容であるものの,発注時分の支払については,「前渡金として5ヶ月に分けて支払」とされている。J会社からA会社への発注額は113億7363万円余りであったから,約40パーセントを6回に分けて支払うとのJ会社発行の発注書の当初の記載は,1回当たりの支払額を約7億円程度にとどめるという,R会社本社の投資委員会における承認条件を意識したものと推察されるが,A会社が発行した発注請書では既にこれが変更されており,その変更の経緯は原審証拠によっても明らかではなく,実際に支払われた各回の前渡金の算出根拠も不明である。
上記のように,J会社がなぜR会社本社から付された条件を破ってまで,個々の支払額の算出根拠が不明確な前渡金を,直接の発注者となるリース会社の確定など取引全体の枠組みも定まっていない時期に支払ったのか,ということが根本的な問題であり,原判決は,その支払根拠の不明確さを指摘して,趣旨不明の支払と認定したものと解される。
原審証拠を精査しても,J会社が上記前渡金を支払った理由や根拠を確定的に認定できるだけの証拠はないが,可能性としては,D会社LED案件以前の循環取引に係るJ会社に還流されるべき金銭を確保する目的もあったのではないかと考えられる。すなわち,所論が指摘するとおり,D会社LED案件がJ会社に持ち込まれた当時,それまでの循環取引に関してJ会社に支払われるべき金銭は二十数億円に上っていたのであり,上述のとおり,従前の取引が循環取引であることを知っていたdとしては,D会社LED案件の前渡金の支払によって,従前の循環取引に係る資金の還流に支障が出ないようにする必要があり,そのためには,R会社本社から付された条件に反する金額であり,かつ,リース会社も含めた取引スキームが未確定な時期であっても,新たな取引であるD会社LED案件の前渡金支払を実現しなければならなかったのではないかと考えられるのである(実際,所論も,控訴趣意書において,D会社LED案件及びD会社デマコン案件においてJ会社が支払った資金の一部がC会社案件等4案件と同種の循環取引により生じたJ会社に対する支払原資に充てられている旨を指摘しているところである。)。このような推測は,あくまでも可能性にすぎないが,dが従前の取引を循環取引と認識しつつ継続してきたという前提に立った場合,従前の循環取引の処理も含め,J会社側からA会社側に金銭支払がなされる事情は様々に考え得るのであり,少なくとも,所論がいうように,多額の前渡金を支払ったこと自体から,D会社LED案件について,被告人らが確定的発注を受けた旨J会社を欺罔したことを推認できる,とはいえない。8月31日に被告人戊がdに交付した注文書には,所論が指摘する店舗数や製品内容,納入期日のほか,クーレス契約に基づく旨が明記されているところ,クーレス契約は,原判決が認定するとおり,①店舗調査に基づく省エネ機器の選定,提案,②実験店舗へのテスト導入による経費削減効果の把握及び顧客の承認,③全店舗の調査及び個別店舗ごとの調査結果に基づく導入案の提案,④各店舗ごとの導入工事とその経費削減効果の把握,顧客の承諾を経て,個別店舗ごとに個別サービス利用契約を締結するという流れで行われる取引方法と認められる。そして,同注文書には,当時開発途上であったマンハッタンも発注製品に含まれているが,上記のとおりクーレス事業は試験設置や経費削減効果の把握,顧客の承認等を経て進められるのであるから,未完成の製品については試験設置等ができないことからしても,確定的な発注があったと理解するのは不自然である。更にいえば,クーレス契約による場合でなくとも,そもそも開発途上で市場に出回っていない製品を大量に確定発注すること自体が不自然であり,この点についてdが疑問を持つことなく,確定発注があったものと認識するとは考え難いというべきである。加えて,同注文書上,全ての製品の発注数が概算であることが明らかであること,被告人丙が作成してdに交付された「生産・納入計画」と題する書面では,上記マンハッタンの量産が9月から開始される内容となっていることからすると,一見して実現不可能な生産・納入計画であって,そのことはdも自認しているところであり,被告人らが確定的な注文を受けたものとdに誤信させようと意図したものとは考え難いとした原判決の評価に誤りはない。
また,J会社が発注を受けたとする日以降も納入先の調査等が行われ,そのために費用が支出されたことをJ会社側が把握していること,J会社が直接の発注元となるリース会社の確定を急がなかったこと等のJ会社側の対応や原判決も指摘するJ会社社内での会議の経緯からしても,J会社自身,上記注文書の記載の内容について,D会社がP会社等3社から確定的な発注を受けたものとは考えていなかったことがうかがわれるのであり,原判決が,被告人戊の欺罔行為及びJ会社側の錯誤を否定したことは不合理とはいえない。
所論は,クーレス契約であっても,個別店舗ごとの個別契約がなされる前に,店舗全体への導入について合意がされることはあり得るなどというが,仮にそうだとしても,単に店舗全体に導入するという抽象的な合意がされたのみでは,個々の店舗に導入するLED製品の種類や個数などが決まるわけではないから,所論の指摘は,dが上記注文書の内容が確定発注を受けたものとの誤解を生ずる理由とはならない。また,発注後の調査の意味合いについては様々な解釈があり得るとしても,リース会社との交渉を被告人丁に任せていたなどという所論の指摘は苦しい説明というほかなく,原判決の判断を誤りというには足りない。
J会社社内の会議の記録上認められる,製品を量産しない理由についての被告人丙の説明ぶりや,被告人戊の「今御社に提出している発注書は仮発注みたいなもの」といった発言は,原判決が説示するとおり,J会社が確定発注を受けたものとは受け止めていなかったことを示すものと理解することが可能である。このほかにも,平成23年1月24日の会議では,J会社側から,「1650店舗は変更ありませんか?」と尋ねたのに対し,B会社(被告人丙)が「ありません。むしろ増えるかも知れない状況です。」と答えているところ(原審甲116-107),上記の被告人丙の応答は,1650店舗分の発注があることを前提としているようにも理解できるものではあるが,他方で,J会社が,発注を受けたとされる8月31日からおよそ5か月近く経過した時点においても,1650店舗という納入先店舗数に変更があり得ることを理解していたことを示すものともいえる。このように,原判決が指摘する会議記録の記載も含め,J会社が確定発注を受けたものとは理解していなかったことがうかがわれる記載があるのであり,会議記録の記載に関する原判決の判断を論難する所論は採用できない。
その他,所論は,被告人らが確定発注を受けたものと偽装したなどとして種々主張するところ,原判決も,①被告人戊は,P会社等3社に対してその全店舗に対するLED照明導入をいまだ提案していなかったにもかかわらず,被告人丙の指示を受けて,上記3社の全店舗にLED照明を導入する場合の数量や価格を前提とした内容の注文書をdに交付し,被告人丙は,その後,D会社LED案件のLED照明製品の生産及び納品について月ごとのスケジュールを示した「生産・納入計画」と題する書面を作成してdに交付していることや,②D会社LED案件の前渡金の一部がA会社からD会社及びB会社に送金され,D会社に送金された分の一部が更にB会社に送金されたこと,A会社とD会社の間では,その送金の名目について「報酬」から「経費」に修正するやり取りがされたことなどから,被告人戊,同丙及びA会社が意思を通じて,J会社の前渡金を得る目的で,エンドユーザーとされるP会社等3社からの確定注文がないのに,これがあったように装ってJ会社に注文書を交付したという一応の嫌疑が認められるとしているところである。しかし,従前のC会社案件等4案件を始めとする循環取引が詐欺行為であり,これを隠蔽する必要があったなどとする所論の見立てがそもそも誤っていることは前述のとおりである上,クーレス事業における取引であることを前提とし,注文書等の記載内容に照らせば,被告人戊が確定発注であるかのようにdを欺罔したとするには合理的な疑いが残り,J会社社内における会議の状況,リース会社の選定等に関するJ会社の対応状況等に照らせば,J会社が確定発注を受けたものと理解していたと断定することもできず,現にJ会社が多額の現金を支払ったことを踏まえても,上記の疑いは払拭されない。
被告人戊の欺罔行為及びJ会社の錯誤を否定した原判決に誤りはなく,所論は採用できない。
D会社デマコン案件に関する所論について

所論は,次のとおり主張する。
原判決は,D会社デマコン案件がクーレス事業であることを根拠

に,J会社において発注が確定していると誤信していないとしたが,これはD会社LED案件がクーレス事業の初期段階のもので,各店舗への導入については全く未確定な状態であったことを前提とするものである。しかし,被告人らは,dに対し,D会社とP会社他2社との間でLED照明の導入について合意が出来ている旨説明していたのであるから,原判決は前提を誤っている。
また,dは,D会社LED案件について,J会社において確認会議を実施し,被告人乙や同丙らに対し,同案件の進捗状況について情報提供を求め続け,予定より遅れが生じているものの平成23年3月から随時設置工事を開始できるとの認識であったのであり,設置後の保証やリース会社との契約形態など,発注,設置がなされることを前提とした問題を検討していたから,D会社LED案件の進捗状況についての認識は,dにとって,D会社デマコン案件についての発注が確定しているか否かに疑念を抱く要素とはならない。
他方,被告人戊は,Q会社名義の生産計画書を作成し,これをdに提示して,デマコン1200面の月別導入計画であると説明しているが,納品の目処の立っていない製品について生産計画書を作成,提示することは通常考えられない。被告人戊がQ会社名義の生産計画書を偽造してまでdに提示し,前渡金の支払を迫ったのは,エンドユーザーにおいてデマコン導入が確定していて,生産すれば直ちにそれが納品されるように装っていたことの表れというべきである。
原判決は,J会社がA会社に宛てて発行した408店舗分のLED照明導入工事の合計発注書に「仮に発行するものであり,実際に導入工事を行う際には設置先店舗ごとの発注書を作成する」旨の記載があることを指摘して,J会社がLED照明導入工事が直ちに実施できる状態にないことを認識していたと認定するが,上記記載は,全体で1650店舗あるうちの一部についての発注であって,厳密な意味での「合計」の発注書になっていないことを表すものと考えるのが合理的である。原判決は,D会社デマコン案件の前渡金の支払は,被告人戊,同丙及び同乙のいずれの発案でもなく,Q会社が着手金を要望したことが契機になって支払われることになったことや,A会社やB会社が前渡金の分配を受けていないこと,Q会社において現実にデマコンが製造されていることなどから,被告人戊が前渡金を不正に取得する目的でD会社デマコン案件を実行したとは認められないとしたが,客観的な資金の流れや,本件取引に至る経過を無視した認定である。D会社デマコン案件でQ会社に支払われた前渡金3億6242万円は,その日のうちに,D会社の銀行口座に2億5578万円が振り込まれ,そこから6000万円がB会社の銀行口座に振り込まれ,その他はD会社の支払に充てられて費消したもので,Q会社における製造に充てられた可能性があるのは約1億円余りにすぎず,「前渡金相当分のデマコンが現実に製造されている」との評価は根拠を欠くものである。また,エンドユーザーとされていたP会社他2社とD会社の間では,デマコンの設置については何ら交渉がされておらず,前提となるD会社LED案件も,一部店舗で設置が行われていたものの,その他の店舗に設置する話は提案も協議もされていない状況であった。他方で,A会社の開発能力等からすると,現実にD会社がP会社他2社から1650店舗へのLED照明の設置や1200店舗分のデマコン設置の発注を受けて納品することは不可能であり,被告人らもそのことは認識していた。そして,J会社は,それまでのA会社との取引において,前渡金の支払に応じていたところ,LED照明という新規開発事業の分野での製品開発や製造に一定の費用がかかることから,取引を進めるためには前渡金を支払うこともやむを得ないとJ会社が判断したものと解される。そうすると,取引を行えばJ会社に相当の経済的利益があり,その前提としてLED照明の開発や製造が必要になってくるものと持ち掛ければ,J会社が,経済的利益を確保するため,前渡金の支払を前向きに検討すると予測するのは自然なことである。したがって,前渡金を支払うことになった契機がQ会社からの要望に端を発したもので,当初,dが前渡金の支払に躊躇し,A会社が立て替える結果になっているとしても,D会社デマコン案件を持ち込んで,エンドユーザーが確保されており利益が上がる取引であると思わせれば,J会社から前渡金が支払われることになり,その中から利益を上げられるようになると算段することは十分あり得る。
被告人戊は,D会社LED案件で被告人乙及び同丙に協力する過程で,持ち掛ける取引内容によっては,J会社が前渡金名目で資金を拠出すると認識,予測し,それに基づいてD会社デマコン案件を進めたと考えるのが自然である。D会社は当時資金に窮していたから,被告人戊にはD会社デマコン案件で不正に前渡金を取得しようと考える動機がある。被告人戊は,dに対し,D会社LED案件によるLED照明の設置工事とデマコンの設置工事を同時並行で行わなければ無駄な経費が発生するなどと虚偽の事実を述べ,前渡金の支払を執拗に迫っていること等も,上記の動機を裏付けている。
被告人戊がdに提案したデマコンの設置は,LED照明の設置工事に併せて施工するというものであり,8月30日の段階で,被告人丙にデマコン設置費用を含んだ試算表を送付したことや,同月31日,被告人乙及び同丙も同席する場で,被告人戊がdに対し,将来的にデマコンの設置も検討する旨説明していること,平成23年2月3日,D会社からJ会社宛てのデマコンの発注書が被告人丙から同乙を介してdに提示されていること,Q会社への前渡金の立替払に被告人乙が応じていることなどの事実からすると,D会社LED案件がエンドユーザーのいない架空発注であることを知っていた被告人甲,同乙,同丙が,事情を知らずにデマコン設置の交渉や前渡金の立替払等に関わるとは考えられず,このような客観的な経過からして,同被告人らが事情を知っていたことは明らかである。前述のとおり,Q会社からD会社に振り込まれた資金のうち6000万円がB会社の銀行口座に入金されていることや,被告人甲,同乙,同丙は,それまでの架空取引が露呈して,刑事責任を追及される事態を避けようと考えていたといえること等も踏まえると,被告人甲,同乙,同丙は,いずれも,それぞれの利益のために,被告人戊と意を通じ,共謀の上,D会社デマコン案件を敢行したものと認められる。
原判決は,被告人戊及び同丙に利益を得させるためにD会社デマコン案件を敢行した旨の被告人甲の捜査段階の供述について信用できないとするが,会計上の損益と現実の利害や実利を混同し,取引経過や各法人,個人が被る損得に関する誤った理解に基づく判断であり,誤っている。
以上によれば,D会社デマコン案件について欺罔行為及び共謀を否定した原判決の認定は,論理則,経験則等に反する誤ったものである。イ
検討
所論は,被告人らが,D会社デマコン案件をJ会社に持ち込んで,エ
ンドユーザーが確保されており利益が上がる取引であると思わせれば,J会社から前渡金が支払われることになるとの算段の下,Q会社にエンドユーザーにデマコンを納品させる意思がないのに,J会社をして,J会社がA会社に発注すればQ会社がエンドユーザーにデマコンを納品するものと誤信させて前渡金をだまし取った旨主張する。
しかし,所論は,D会社LED案件がエンドユーザーのいない架空発注であることや,被告人甲,同乙,同丙らが,それまでの架空取引が露呈して刑事責任を追及される事態を避けようとしていたことなどを前提として展開されているところ,そのような前提自体が誤りであることはこれまで述べたとおりである。具体的に見ても,原判決が適切に認定,説示するとおり,D会社デマコン案件の前渡金は,Q会社が製造資金の前渡を要求したことを発端として支払われることになったものである上,その支払に当たっては,急な支払のため,被告人乙がdの要請に応じて,一旦A会社が立替払するという特異な経過が認められることに照らせば,被告人らが,所論のいうような「算段」の下で,共謀の上,J会社に前渡金の支払を要求したとは考え難い。
上記の前渡金支払の経緯のほか,①Q会社が納期に遅れながらも製造のための努力をし,現にデマコン650面が製造されるなど,D会社デマコン案件が実取引であると認められること,②d及びJ会社は,D会社デマコン案件がD会社LED案件と一体となるクーレス事業によるものであることを知っており,D会社LED案件の進捗状況からしても,デマコン1200面を製造すれば直ちに納品される旨誤信してはいなかったと認められること,③前渡金の基礎となったD会社のJ会社に対する注文書におけるデマコンの単価が特に高額に設定されたとは認められないこと等も踏まえて,被告人戊の欺罔行為及び被告人らの共謀を否定した原判決の認定に誤りはない。
所論は,①について,Q会社が製造したデマコンは1億円分にすぎないなどと指摘するが,デマコン1200面分の発注について,発注金額の36パーセントに当たる前渡金の支払を受け,発注数の半分以上である650面のデマコンを製造しているのであるから,原判決が「前渡金相当分のデマコンが製造された」旨認定したことが誤りとはいえない。
また,所論は,②について,D会社LED案件の進捗に関するdの認識はD会社デマコン案件が確定発注か否かとは関わりがないなどというが,被告人戊は,8月31日にD会社LED案件の注文書をdに交付した時点で,既にデマコンの発注があり得ること等についても言及しており,J会社が,D会社デマコン案件はD会社LED案件と一体として進められるクーレス事業であると理解していたことが認められるのであり,所論の指摘は当たらない。また,J会社がA会社に宛てて発行した408店舗分のLED照明導入工事の合計発注書の記載に関する所論についても,合計発注書の記載は,408店舗分を併せた発注書であるが,実際に導入工事を行う際には,その408店舗につき設置店舗ごとの発注書を作成する旨をいうものと理解するのが自然であり,所論のいうように1650店舗中の一部についての発注であることを表すものと読むのは無理がある。
さらに所論は,原判決が,B会社は前渡金から利益を得る立場になく,前渡金の分配を受けていないことを理由に,被告人丙が不正に前渡金を得ることを画策した可能性を否定したことに関し,前渡金のうち6000万円がD会社を通じてB会社に支払われている旨指摘する。
しかし,被告人丙が,J会社からA会社に対して支払われる前渡金を不正に取得する意図で,A会社を商流に入れ,被告人戊を通じるなどして,Q会社に前渡金を請求させたのだとすれば,A会社の関与の内容を事前に確定して,A会社とJ会社の間の総販売代理店契約に基づく前渡金が支払われるような契約スキームとした上,事前に被告人乙がdに対して前渡金が必要である旨を告げるのが自然であるが,A会社が一旦立て替える形となったことなど,上記の前渡金支払の経緯に照らせば,被告人丙が上記のような画策をしたとは認め難いのであって,B会社に前渡金の一部が送金されていることは,原判決の認定を左右するものではない。以上によれば,D会社デマコン案件に関する所論は採用できず,論旨は理由がない。
第5

結論

よって,刑訴法396条により本件各控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
平成29年11月15日
東京高等裁判所第6刑事部

裁判長裁判官

大熊一之
裁判官

景山太郎
裁判官

大橋弘

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