判例検索β > 平成29年(う)第1261号
強盗殺人、強盗強姦未遂
事件番号平成29(う)1261
事件名強盗殺人,強盗強姦未遂
裁判年月日平成29年12月1日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成27合(わ)307
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平成29年12月1日宣告

東京高等裁判所第11刑事部判決

平成29年(う)第1261号

強盗殺人,強盗強姦未遂被告事件

主文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中120日を原判決の刑に算入する。
理1由
本件事案と控訴の趣意
本件は,被告人が,自分の将来を悲観して自暴自棄になっていたところ,死ぬ前に,首を絞められて苦しむ女性の姿を見て性的興奮を得たいと思い,かつてのアルバイト先の同僚であった被害者(当時17歳)を殺害して現金を強奪するとともに強姦しようと考え,被害者を言葉巧みに誘い出し,当時の被告人方で,殺意をもって,被害者の背後から頸部を右腕で絞め上げ,さらに,頸部を両手で絞め付けるなどして,被害者を頸部圧迫による窒息により殺害した上,強姦しようとしたものの,その陰部に自己の陰茎を挿入することができなかったため,強姦の目的を遂げず,被害者の財布から現金約7500円及び生徒証1枚を抜き取り強奪したという強盗殺人と強盗強姦未遂の事案である。本件控訴の趣意は,弁護人大嶋勇樹作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書記載のとおりであり,論旨は,法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。

2
法令適用の誤りの主張について
所論は,原判決は,原判示の罪となるべき事実を認定し,被告人の行為は強盗殺人罪と強盗強姦未遂罪に該当するとしているが,強姦罪の保護法益は「人」の性的自由であり,「人」が死亡した以上はその保護法益はなくなるのであるから,被害者の生存中にこれを姦淫しようとしたが,その前に死亡させてしまったので死体を姦淫したという場合はともかく,当初より,被害者の殺害後に死体を姦淫する意思であった場合は,死体損壊罪
として論ずべきであるから,被告人には,死体損壊罪が成立し,強盗強姦未遂罪は成立しないと主張する。
確かに,被告人が,被害者の首を両手で絞め付け,心臓の鼓動音を聞くなどしてその死亡を確認した後,姦淫行為に着手していることからすると,被告人は,当初から,被害者を殺害した後に姦淫行為に及ぶ意思であったと認められるが,被害者の死亡と時間的場所的に接着した段階においては,被害者の性的自由はいまだ保護されていると解されるから,当初から,被害者の死亡直後に姦淫する意思であった場合でも,強盗強姦未遂罪が成立すると解すべきである。なぜなら,殺害後に姦淫する意思であったとはいえ,被害者を姦淫するために暴行を加えているのであるから,生存中に姦淫する意思で暴行を加えた場合と別異に解する理由がない上,所論のように「人」が死亡した以上はその保護法益はなくなると解すると,強姦目的で暴行を加えて姦淫しても,死亡したと誤解していた場合は,生存中に姦淫されても強姦既遂罪が成立しないこととなり,不合理だからである(最判昭和36年8月17日・刑集15巻7号1244頁参照)。
法令適用の誤りの論旨は理由がない。
3
量刑不当の主張について
原判決の量刑判断
原判決は,本件は,強盗殺人に強盗強姦未遂を伴う重大な事案であるとした上,被告人は,背後からいきなり被害者の首を絞め上げて失神させ,心臓の鼓動音を確認しつつ更に首を絞め付けており,執拗で残忍であって,殺意は強固であるとした。そして,被告人が,被害者の殺害後,直ちにその服を脱がせたり切り裂いたりして全裸にした上,姦淫行為に及ぼうとしたことや,犯行に先立って,元アルバイト先の勤務表を見て被害者を待ち伏せし,若年の被害者を言葉巧みに騙して被告人方に誘い込むなど,計画性も認められることを指摘した上,被害者が受けた身体的・精神的苦痛は
計り知れず,被告人の欲望のために理不尽にも17歳で将来を絶たれた無念の思いは察するに余りあり,遺族が被告人に極刑を望む心情も十分に理解できるとした。また,被告人が首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を有していたこと,被害者を自宅に誘い込み,絞殺した後すぐに強姦行為に着手していること等からすれば,本件犯行の主たる目的は被害者を絞殺して強姦することにあったと認められ,その犯行動機は身勝手極まりないとした。そして,被告人が本件犯行を決意し,実行に移した背景には,成育歴に起因する心理的側面からの影響があった可能性も否定できないが,そのことで被告人に対する責任非難の程度がさほど低下するとはいえないとし,以上によれば,被告人の刑事責任は,同種強盗殺人事案の中でも比較的重い部類に属するとした。
また,被告人が自首したことについては,それは,警察の捜査が被告人自身に迫っていることを知った後のものである上,自首した後も強姦未遂につき否認したり供述を変遷させたりしているから,自首したことを量刑上大きく考慮することはできないとするとともに,本件犯行に至った原因に関する被告人の考察には,なお他罰的な傾向が見られ,自分自身の問題性についての深まりは不十分であるとした。
その上で,原判決は,本件は,刑の減軽をした上で有期懲役とすることが相当な事案であるとはいえないとし,他方,本件の被害者が複数ではないこと,自首が成立していること,前科前歴がないこと等を考慮すると,極刑を選択することがやむを得ない場合であるということはできないとして,被告人を無期懲役に処した。


所論と当裁判所の判断
原判決の量刑判断は,考慮した事情及び評価ともに相当であり,当裁判所も首肯することができる。
これに対し,所論は,①原判決は,本件を計画的犯行とするが,被告人
が犯行の5日前に本件を計画した時は,自殺するか事件を起こして死刑になるかという,選択的かつ空想的な計画に過ぎず,具体的な殺害のプロセスは考えていなかった上,本件前日に被害者を待ち伏せし,翌日の面会を約束した時も,確定的な犯行計画や殺意を抱いていたわけではなく,被告人は,被害者が思いがけず誘いに乗ってくるなど,予想外に事がうまく運んで空想が現実化したため,「ここまできたらやるしかない」との観念にとらわれ,若干の逡巡をしながらも本件犯行に至ったもので,本件は突発的,偶発的犯行である。②自首が刑の減軽事由となるのは,犯罪の捜査を容易にし,無実の者を処罰する危険を避ける点にあり,被告人を犯人と同定する捜査がどこまで進んでいたか,自首の前に被告人が捜査をかく乱するような言動をしていなかったかどうかが問われるべきで,自首の動機は問題にならない

原判決は,被告人が供述を変遷させていること

を理由に量刑に大きく反映させないとしているが,被告人が犯人であることや実行行為の態様などについての供述は一貫しており,少なくとも,強盗殺人の捜査をかく乱するような供述は一切していない上,供述を変遷させていることが反省悔悟を否定的に受け取る要素となるとしても,自首は犯人が反省悔悟の念で行ったか否かを要求していないから,原判決の判断は誤っている

原判決は,警察の捜査が被告人に迫っていることを知っ

てからの自首であるとしているが,被告人は,行方不明者の捜索として事情を聞かれていたにすぎないから,犯人と同定されていたとは言い難い上,逃亡しようとすれば十分にできたはずであるから,逃亡せずに自首したことは量刑上十分に考慮されるべきである。③被害者遺族は,被告人に対して刑事損害賠償命令の申立てを行っているが,このまま無期懲役刑が確定すると,被告人の社会復帰が事実上不可能となり,刑事損害賠償命令も意味がなくなるのであるから,刑事損害賠償命令を少しでも奏功させるには被告人を有期懲役刑にすることが必要であり,被告人を無期懲役刑に処す
ることは刑事損害賠償命令を申し立てた被害者遺族の意思にも反する上,臓器ドナー,骨髄提供といった被告人の社会貢献への道を閉ざし,被告人の更生意欲をそぐことになる。以上によれば,被告人を無期懲役に処した原判決は重過ぎて不当であると主張する。
しかしながら,①(突発的,偶発的犯行)は,記録によれば,被告人は,本件犯行の前日に,元アルバイト先の勤務表を見て被害者を待ち伏せし,化粧品の新商品のサンプルが多量にあるので貰ってくれないかなどと虚偽の事実を申し向け,被害者を言葉巧みに騙して翌日に会う約束をし,犯行当日に被害者が待ち合わせ場所に来ると,そのままタクシーを利用するなどして被告人方に誘い入れ,被害者が被告人方に入るや,直ちに本件犯行に及んでいるのであるから,本件犯行には計画性が認められるとした原判決の判断に誤りはない。また,被告人のこれら一連の行為は,本件犯行を確実に実行するためのものと認められ,少なくとも,本件犯行前日に被害者を待ち伏せした時点では,被告人の犯行計画は確定的なものであったと認められるから,本件は,予想外に事がうまく運んで空想が現実化したため実行されたもので,突発的,偶発的犯行であるとする所論は理由がない。そして,将来を悲観して自暴自棄になっていたとはいえ,被告人は,死ぬ前に,首を絞められて苦しむ女性の姿を見て性的興奮を得たいと思い,自分と全く無関係な被害者を殺害した上で姦淫し,自分も死のう,あるいは死刑になりたいなどと考えて本件犯行を行ったもので,その動機は身勝手極まりなく,犯情は極めて悪質である。原判決が,被告人の刑事責任は,同種強盗殺人事案の中でも比較的重い部類に属すると評価したことは正当であり,同種事案の量刑傾向を踏まえて無期懲役刑を選択したことは誠に相当である。②(自首)は,自首が刑の減軽事由とされている理由は所論指摘のとおりであるが,自首は任意的減軽事由に過ぎない上,原審甲53によれば,捜査機関は,本件犯行の翌日である平成27年11月13日に
被害者の行方不明者届を受理すると,直ちに,被害者の携帯電話機に位置探索を実施するなどしてその捜索に着手し,翌14日には防犯カメラの解析により被害者が行方不明になる前に接触した人物を被告人と特定し,被告人の祖母に電話をして所在を尋ねたり,被告人の勤務先に聞き込み捜査を実施して被告人の住居を確認し,さらに,被告人方を訪問するなどしてその行方を追っていたところ,祖母から警察が被告人を探しているということを聞いた被告人が,同日午後5時7分頃に,警察に電話して自首したもので,被告人が自首した時点では捜査も相当進捗していたと認められる上,被告人は,自首した後も,強姦未遂を否認したり供述を変遷させたりしていたのであるから,自首による捜査への貢献の程度はそれほど大きくなく,また,被告人がどれだけ本件について反省悔悟しているのかについても疑問が残るから,自首したことを量刑上大きく考慮することはできないとした原判決の判断に誤りはない。③(遺族の意向等)は,所論の趣旨は必ずしも明らかではないが,刑事損害賠償命令が奏功するかどうかは量刑に無関係である上,被害者遺族が刑事損害賠償命令の申立てをしたことが,有期刑を望んでいることを意味するものでもなく,また,臓器提供等の社会貢献への道が閉ざされることになってもやむを得ないことであるから,所論は理由がない。
以上によれば,原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえず,量刑不当の論旨は理由がない。
4
よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中120日を原判決の刑に算入し,当審における訴訟費用については刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。
(検察官松山佳弘出席)
平成29年12月1日

東京高等裁判所第11刑事部

裁判長裁判官

栃木力
裁判官

佐藤
晋一郎

裁判官

日野
浩一郎

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