判例検索β > 平成28合年(わ)第94号
道路交通法違反、危険運転致死傷、詐欺被告事件
事件番号平成28合(わ)94
事件名道路交通法違反,危険運転致死傷,詐欺被告事件
裁判年月日平成29年10月17日
法廷名東京地方裁判所
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事件番号

平成28年合

事件名
道路交通法違反,危険運転致死傷,詐欺被告事件

宣告日
平成29年10月17日

宣告裁判所

第94号

東京地方裁判所刑事第7部
主文
被告人を懲役17年に処する
未決勾留日数中350日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

警察官になりすまし,警察官が捜査のために現金を預かるかのように装って現金をだまし取ろうと考え,A及び氏名不詳者らと共謀の上,

1
平成28年1月14日,氏名不詳者らが,複数回にわたり,福島県南相馬市
a区bc番地のdB方にいた同人(当時76歳)に電話をかけ,あるいは,同人に指定した電話番号に電話をかけさせ,同人に対し,電話の相手が警察官等であり,上記Bのゆうちょ銀行の口座が犯罪に利用されるおそれがあるため,上記口座のうち,預金額700万円の定期預金を解約した上で部下であるスズキに渡してもらいたい旨うそを言い,さらに,同日午後1時頃,上記Aが,上記B方において,同人に対し,上記スズキになりすまして,捜査のために現金を預かるものと上記Bを誤信させ,よって,その頃,同所において,同人から現金701万8792円の交付を受け,もって人を欺いて財物の交付を受け,2
同月22日,氏名不詳者が,愛知県高浜市ef丁目g番地hC方にいた同人
(当時87歳)に電話をかけ,同人に対し,電話の相手が警察官であり,捜査している事件の関係で上記C方にあるお札の指紋を採取するため,部下であるスズキに現金を渡してもらいたい旨うそを言い,さらに,同日午後2時10分頃,上記Aが,上記C方において,同人に対し,上記スズキになりすまして,捜査のために現金を預かるものと上記Cを誤信させ,よって,その頃,同所において,同人から現金約2635万円の交付を受け,もって人を欺いて財物の交付を受け,
3
同年2月4日,氏名不詳者が,複数回にわたり,茨城県坂東市内にいたD
(当時71歳)に電話をかけ,同人に対し,電話の相手が警察官であり,上記Dが預金口座から引き出した現金に偽札が混入されたおそれがあるので,部下であるスズキに現金を渡してもらいたい旨うそを言い,さらに,同日午後1時10分頃,上記Aが,上記D方において,同人に対し,上記スズキになりすまして,捜査のために現金を預かるものと上記Dを誤信させ,よって,その頃,同所において,同人から現金301万円の交付を受け,もって人を欺いて財物の交付を受け,
第2

酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを
身体に保有する状態で,同年3月23日午前1時40分頃,東京都世田谷区ij丁目k番付近道路において,普通乗用自動車を運転し,
第3

第2記載の日時頃,第2記載の車両を運転し,第2記載の場所先の信号機に
より交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)をl方面からm方面に向かい直進するに当たり,飲酒運転の発覚等を恐れ,警察車両の追跡から免れるため,対面信号機(以下「本件信号機」という。)の信号表示を意に介することなく,本件信号機が赤色の灯火信号を表示していたとしてもこれを無視して進行しようと考え,本件信号機が赤色の灯火信号を表示していたのに,これを殊更に無視し,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約160キロメートルで自車を運転して本件交差点内に進入したことにより,折から右方道路から信号に従い進行してきたE(当時49歳)運転の普通乗用自動車左側面部に自車前部を衝突させ,その衝撃により上記E運転車両を左前方に旋回逸走させ,同車を左方道路から本件交差点内に左折進入してきたF(当時34歳)運転の普通乗用自動車右側面部に衝突させ,さらに,上記E運転車両との衝突により自車を左前方に旋回逸走させ,上記場所先路上から発進しようとしていたG運転の普通乗用自動車右側面部に自車を衝突させ,よって,上記Eに外傷性胸腔内損傷等の傷害を負わせ,同日午前3時40分頃,東京都目黒区no丁目p番q号H医療センターにおいて,同人を外傷性胸腔内損傷により死亡させたほか,上記Fに加療約4週間を要する外傷性気胸等の傷害を,同人運転車両の同乗者I(当時23歳)に加療約7日間を要する頭部外傷等の傷害を,自車の同乗者J(当時19歳)に全治約1か月間を要する左肋骨骨折等の傷害を,同K(当時18歳)に加療約1週間を要する全身打撲等の傷害をそれぞれ負わせ,
第4

第3記載の日時場所において,第2記載の車両を運転中,第3記載のとおり,
上記Eらに傷害を負わせる交通事故を起こし,もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに,直ちに車両の運転を停止して同人らを救護する等必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,現場にいる警察官に報告しなかった。
(補足説明)
1
争点

危険運転致死傷の事実について,被告人は,本件信号機の存在に気付いておらず,仮に本件信号機の赤色表示を認識していれば車両を停止させるつもりであったと供述し,これを受けて,弁護人も,被告人は赤色信号を殊更に無視したとはいえず無罪である旨主張するので,以下,補足して説明する。
2
認定事実



被告人は,平成28年3月22日の夜,弟及び友人(以下「弟ら」とい
う。)と共に,国道r号線沿いの飲食店で飲酒をした後,翌23日午前1時38分頃,同店前の路上に駐車していた普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)に弟らを乗せ,運転を開始した(以下,被告人が運転を開始した地点を「本件運転開始地点」という。)。その際,パトカーに乗車中の警視庁L警察署の警察官は,被告人車両の左後部尾灯が滅灯状態であるのを確認したため,被告人車両の追跡を開始した。
被告人は,パトカーが被告人車両を追跡し始めたことを知ると,以前に犯した詐欺を理由に逮捕されてしまうかもしれないなどと恐れ,急加速して逃走を開始し,パトカーからの警告を無視して本件運転開始地点から約1.8キロメートル走行した後,対面信号機が赤色であったにもかかわらず本件交差点内に進入し,青色信号に従い右方から進行してきた上記E運転車両左側面部に被告人車両前部を衝突させるなどの交通事故を起こした。


本件運転開始地点から本件交差点に至るまでの国道r号線は,ほぼ直線の片
側3車線で,本件運転開始地点から本件交差点までの距離は約1.8キロメートルであり,本件交差点には信号機が設置され,本件運転開始地点から本件交差点までの間にも4機の信号機が設置されていた。


被告人車両の進行速度は,本件運転開始地点から2番目の信号機を通過して
3番目の信号機との中間辺りを通過した際は時速約98キロメートル,4番目の信号機を通過して本件交差点との中間辺りを通過した際は時速約135キロメートル,本件交差点内に進入した際は時速約160キロメートルであった。3
検討

被告人車両が走行した国道r号線は大規模な幹線道路で,本件運転開始地点から本件交差点の手前までの間には一定の間隔で4機の信号機が設置されており,被告人もこれらの信号表示を確認したと述べていること,被告人がこれまでにも国道r号線を運転したことがあること等からすれば,上記4番目の信号機の先にもそれまでの信号機間の間隔からあまり差のない距離進行した辺りに次の信号機が設置されているであろうことを被告人は当然予測していたはずで,本件交差点に本件信号機が設置されていることを,少なくとも未必的には認識していたと認められる。それにもかかわらず,被告人は,上記認定のとおり,加速を続け,時速約160キロメートルという急停止することがおよそ不可能な高速度で本件交差点内に進入している。
以上,被告人車両が進行してきた道路の状況や被告人の運転状況からすれば,被告人は,本件交差点内に進入する際,本件信号機の存在を確定的に認識していなかったとしても,パトカーの追跡から何としてでも逃れるため,信号機や信号表示を意に介することなく,たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行したものと認められる。
4
被告人の弁解及び弁護人の主張に対する判断

これに対して,被告人は,「当時,赤色信号に気付いていたら止まろうと思っていた。」と供述し,弁護人も,この供述に沿って,被告人としては被告人車両の正確な速度を認識しておらず,時速100キロメートルを超える程度であると認識していたことや,本件交差点に至るまでの各信号機については青色表示であることを確認していたことなどからすれば,被告人は本件信号機そのものや同信号機が赤色だったことは認識していなかったのであり,信号規制に従う意思がなかったとはいえない旨主張する。
しかし,被告人が本件信号機の存在や自車の速度を確定的に正確に認識していたか否かにかかわらず,上記のような道路状況や,アクセルを踏み込んで加速を続け,時速約160キロメートルの高速度で本件交差点内に進入した被告人の運転状況に照らせば,およそ信号規制に従う意思がなかったことは明らかであり,弁護人の主張は採用できない。
5
結論

以上によれば,被告人にはおよそ赤色信号に従う意思がなかったといえ,被告人は,赤色信号を殊更に無視したものと認められる。
(量刑の理由)
1
被告人は,酒気を帯びた状態で,交通量の多い幹線道路上を,指定最高速
度をはるかに上回る高速度で走行した挙句,時速約160キロメートルもの高速度で赤色信号を殊更に無視して本件交差点内に進入したものであり,その運転の態様自体,交通ルールをまるで無視した危険極まりないものである。
このような無謀な運転行為により,青色信号に従い進行中であった全く落ち度のないEを死亡させたほか,4名に傷害を負わせるという重大な結果を生じさせている。とりわけ,妻と共に充実した日々を送っていたにもかかわらず,突然その命を奪われることとなったEの無念は察するに余りある。遺族が今も深い悲しみに暮れ,厳罰を求めているのも当然である。
経緯や動機をみても,被告人は,犯行直前に飲酒し,パトカーに追跡されるや,詐欺事件での検挙や飲酒運転の発覚等を恐れて逃走し,上記危険な運転行為に及んだのであり,甚だ身勝手である。しかも,被告人は,上記のような重大な交通事故を起こしたにもかかわらず,被害者らの身の安危を全く意に介することなく,救護・報告義務を果たさず現場から逃走しており,強い非難に値する。また,警察官になりすまし,3名の高齢者から合計約3600万円もの大金を詐取したという各詐欺の態様も卑劣である。被告人の役割は,詐欺グループの上位者に現金の受取役を紹介するというもので,被告人が受け取った報酬も合計30万円程度にとどまることからすれば,その非難の程度は上位者に比べれば大きいとはいえない。しかし,被告人の行為がなければ各詐欺が完成しなかったという意味では,不可欠な役割を果たしたものと評価できる。
以上からすれば,本件は,赤色信号を殊更に無視して1名を死亡させた危険運転致死事案の中でも,非常に重い事案というべきである。
2
一般情状についてみると,被告人には多数の交通違反歴があり,交通法規を
軽視する態度が認められる。不遇な生い立ちを経たがために犯罪傾向が進んだという面があったとしても,これは被告人の刑事責任を大きく減ずるものではない。また,被告人は,公判の直前になって遺族に向けて謝罪文をしたため,公判廷において反省の弁を述べてはいるが,未だ本件各犯行の重大性を十分に受け止めて深い反省に至っているとまでは認められない。
一方で,自賠責保険による3000万円等の賠償が見込まれること,公判請求を受けるのは今回が初めてであること,被告人が更生への意欲を示していることなど,被告人のために酌むべき事情もある。
3
以上の事情を総合考慮し,被告人に対しては,主文の刑を科するのが相当で
あると判断した。
(求刑

懲役20年)

平成29年10月17日
東京地方裁判所刑事第7部
裁判長裁判官


裁判官


裁判官

本金也直子雅弘茉由
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