判例検索β > 平成28年(許)第43号
仲裁判断取消申立て棄却決定に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
事件番号平成28(許)43
事件名仲裁判断取消申立て棄却決定に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
裁判年月日平成29年12月12日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別決定
結果破棄差戻
原審裁判所名大阪高等裁判所
原審事件番号平成27(ラ)547
原審裁判年月日平成28年6月28日
判示事項1 仲裁人が当事者に対して仲裁法18条4項にいう「自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある」事実が生ずる可能性があることを抽象的に述べたことは,同項にいう「既に開示した」ことに当たるか
2 仲裁人が,当事者に対して仲裁法18条4項にいう「自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある」事実を開示しなかったことについて,同項所定の開示義務に違反したというための要件
戻る / PDF版
平成28年(許)第43号仲裁判断取消申立て棄却決定に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
平成29年12月12日第三小法廷決定

主文
原決定を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
抗告代理人寺澤幸裕,同佐藤恭子,同國峯孝祐の抗告理由について1
本件は,抗告人らと相手方らとの間の一般社団法人日本商事仲裁協会(以下
「JCAA」という。)大阪11-02号仲裁事件(以下「本件仲裁事件」という。)において3人の仲裁人の合議体である仲裁廷がした仲裁判断(以下「本件仲裁判断」という。)につき,抗告人らが,仲裁法(以下「法」という。)44条1項6号所定の事由があるなどとして,その取消しの申立てをした事案である。2
(1)

記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
平成14年10月,米国法人である相手方プレム・ウェアハウス・エルエ
ルシーは,三洋電機空調株式会社及びシンガポール法人サンヨー・エアー・コンディショナーズ・マニュファクチュアリング・シンガポール・ピーティーイー・エルティーディー(以下「SACMS」という。)との間で,空調機器の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
本件売買契約には,当事者間に生じた紛争の解決を,JCAAの定める商事仲裁規則に従って,仲裁地を大阪府として3人の仲裁人に委ね,かつ,その判断に服する旨の約定がある。
(2)

抗告人三洋電機株式会社は,平成16年4月,本件売買契約上の三洋電機
空調の権利義務を承継し,シンガポール法人である抗告人サンヨー・アジア・ピーティーイー・エルティーディーは,平成21年1月,本件売買契約上のSACMS
の権利義務を承継した。
(3)

抗告人三洋電機は,平成23年4月,パナソニック株式会社の完全子会社
となった。
(4)

抗告人らは,相手方らを被申立人として,平成23年6月,JCAAに対
し,本件売買契約等につき,抗告人らには契約上の義務違反がない旨を宣言する等の仲裁判断を求めて,本件仲裁事件に係る仲裁手続の開始を申し立てた。(5)

本件仲裁事件の仲裁人として,平成23年9月20日までに,Aほか2名
が選任された。Aは,キング・アンド・スパルディング法律事務所(以下「K&S」という。)のシンガポールオフィスに所属する弁護士である。Aは,同日付けで,「K&Sの弁護士は,将来,本件仲裁事件に関係性はないけれどもクライアントの利益が本件仲裁事件の当事者及び/又はその関連会社と利益相反する案件において,当該クライアントに助言し又はクライアントを代理する可能性があります。また,K&Sの弁護士は,将来,本件仲裁事件に関係しない案件において,本件仲裁事件の当事者及び/又はその関連会社に助言し又はそれらを代理する可能性があります。」との記載のある表明書(以下「本件表明書」という。)を作成し,これをJCAAに提出した。
(6)

弁護士であるBは,Aが本件仲裁事件の仲裁人に選任された時点ではK&
Sに所属していなかったが,遅くとも平成25年2月20日以降,K&Sのサンフランシスコオフィスに所属している。
(7)

Aほか2名の仲裁人の合議体である仲裁廷は,平成26年8月11日,本
件仲裁判断をした。
Aは,本件仲裁判断がされるまでに,本件仲裁事件の当事者である抗告人ら及び相手方らに対し,抗告人三洋電機と同じくパナソニックを完全親会社とする米国法人パナソニック・コーポレーション・オブ・ノース・アメリカ(以下「パナソニック・ノース・アメリカ」という。)を被告として米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に係属する訴訟においてK&Sに所属するBがパナソニック・ノース
・アメリカの訴訟代理人を務めている事実(以下「本件事実」という。)を開示しなかった。
3
原審は,本件事実が法18条4項にいう「自己の公正性又は独立性に疑いを
生じさせるおそれのある」事実(以下「法18条4項の事実」という。)であるとした上で,要旨次のとおり判断して,本件仲裁判断を取り消した。(1)

仲裁人が仲裁手続の進行中,当事者に対して,既に開示したものを除いて
法18条4項の事実の全部を遅滞なく開示すべき義務を負うのは,仲裁人を忌避するかどうかの判断資料を当事者に提供するためのものであるから,その対象となる事実は,具体的に特定することができるものでなければならない。Aは,本件表明書において,将来,利益相反関係が生ずる可能性があることを抽象的に表明したにすぎず,これによって本件事実を開示したことにはならない。
(2)

仲裁人は,法18条4項の事実を知らなかったというだけで,当事者に対
してこれを開示すべき義務を負わないとはいえず,手間をかけずに知ることができる事実について開示のために調査すべき義務を負うべきである。そして,本件事実については,Aが所属する法律事務所であるK&Sにおいて利益相反関係の有無を確認する手続を行うことによって,特段の支障なく調査することが可能であったといえる。本件においてこのような調査が実施されたか否かは明らかでないが,これが実施されなかったために本件事実が開示されなかったとしても,Aはこれを開示すべき義務に違反したというべきである。法18条4項所定の開示すべき義務が仲裁手続及び仲裁人の公正を確保するために必要不可欠なものであることを考慮すると,上記の義務違反は,法44条1項6号所定の事由に当たる。
4
しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の
判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。(1)

仲裁人は,仲裁手続の進行中,当事者に対し,法18条4項の事実の全部
を遅滞なく開示すべき義務を負う(法18条4項)。その趣旨は,仲裁人に,忌避の事由である「仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由」(同条1項
2号)に当たる事実よりも広く事実を開示させて,当事者が忌避の申立てを的確に行うことができるようにすることにより,仲裁人の忌避の制度の実効性を担保しようとしたことにあると解される。仲裁人は,法18条4項の事実が「既に開示したもの」に当たれば,当該事実につき改めて開示すべき義務を負わないが(同条4項括弧書),仲裁人が当事者に対して法18条4項の事実が生ずる可能性があることを抽象的に述べたというだけで上記の「既に開示した」ものとして扱われるとすれば,当事者が具体的な事実に基づいて忌避の申立てを的確に行うことができなくなり,仲裁人の忌避の制度の実効性を担保しようとした同項の趣旨が没却されかねず,相当ではない。
したがって,仲裁人が当事者に対して法18条4項の事実が生ずる可能性があることを抽象的に述べたことは,同項にいう「既に開示した」ことには当たらないと解するのが相当である。
これを本件についてみると,Aは,本件表明書において,Aと同人以外のK&Sに所属する弁護士との間に利益相反関係が生ずる可能性があることを抽象的に述べたにすぎず,このことは,同項にいう「既に開示した」ことには当たらないというべきである。原審の上記3(1)の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することができる。この点に関する論旨は採用することができない。
(2)

ところで,上記のとおり,仲裁人は,当事者に対し,法18条4項の事実
の全部を開示すべき義務を負うところ,仲裁人が法18条4項の事実を認識している場合にこれを開示すべき義務を負うことは明らかである。そして,上記のような法18条4項の趣旨に加え,同項は開示すべき事実を仲裁人が認識しているものに限定していないことに照らせば,仲裁人は,当事者に対し,法18条4項の事実の有無に関する合理的な範囲の調査により通常判明し得るものをも開示すべき義務を負うというべきである。
また,同項は,仲裁人が法18条4項の事実を開示すべき義務を負う時期につき「仲裁手続の進行中」とするのみで他に限定をしていない上,「既に開示したも
の」のみを開示すべき事実から除外しているにとどまることからすれば,仲裁人は,仲裁手続が終了するまでの間,当事者からの要求の有無にかかわらず,同義務を負うというべきである。
したがって,仲裁人が,当事者に対して法18条4項の事実を開示しなかったことについて,同項所定の開示すべき義務に違反したというためには,仲裁手続が終了するまでの間に,仲裁人が当該事実を認識していたか,仲裁人が合理的な範囲の調査を行うことによって当該事実が通常判明し得たことが必要であると解するのが相当である。
しかるに,原審までに提出された資料に照らしても,本件仲裁判断がされるまでにAが本件事実を認識していたか否かは明らかではない。また,K&Sにおいて本件事実が認識されていたか否かや,K&Sにおいて,所属する弁護士の間の利益相反関係の有無を確認する態勢がいかなるものであったかについても判然としないことからすれば,本件仲裁判断がされるまでにAが合理的な範囲の調査を行うことによって本件事実が通常判明し得たか否かも明らかではない。上記の各点について確定することなく,Aが本件事実を開示すべき義務に違反したものとした原審の上記3(2)の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいう限度で理由がある。
5
以上によれば,その余の抗告理由について判断するまでもなく,原決定は破
棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官
山崎敏充

戸倉三郎

裁判官


裁判官

景一)

岡部喜代子

裁判官

木内道祥

裁判官

トップに戻る

saiban.in