判例検索β > 平成28年(ネ)第5884号
事件番号平成28(ネ)5884
裁判年月日平成29年12月8日
法廷名東京高等裁判所
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主文
本件控訴をいずれも棄却する
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
(前注)略称は,原判決の例による(ただし,控訴人らのうち当審で訴訟代理人に委任している者に限って「控訴人Aら」と呼称する。)。
第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人らは,控訴人Aらそれぞれに対し,連帯して100円を支払え。
3
被控訴人らは,選定当事者らに対し,連帯して,選定当事者らのために選定
当事者1人当たり100万円及びこれに対する平成27年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
本件は,控訴人らが,平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震(本件
地震)を契機として発生した東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)における事故
(本件原発事故)
及びその報道等によって精神的苦痛を被ったと主張して,
上記事故を起こした原子炉を製造した被控訴人らに対し,①控訴人Aらは,
製造

物責任法3条若しくは共同不法行為(民法709条,719条)を理由とする損害賠償請求権に基づき,損害(慰謝料)の一部として,又は,

控訴人Aらが東京電

力に対して有する損害賠償請求権を被保全債権として,東京電力が被控訴人らに対して有する求償権(原賠法5条。平成26年法律第134条による改正前のもの。以下同じ。)若しくは債務不履行(ないし不法行為)に基づく損害賠償請求権を代位行使して(民法423条1項),控訴人Aら1人当たり100円の連帯支払を求め,②選定当事者らは,製造物責任法3条又は共同不法行為(民法709条,719条)を理由とする損害賠償請求権に基づき,選定者らのために,損害(慰謝料)の一部として,選定者1人当たり100万円及びその遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
2
原審は,控訴人Aらの債権者代位権に係る訴えを却下し,控訴人Aらのその
余の請求及び選定当事者らの請求をいずれも棄却した。これに対し,控訴人らは,控訴人Aら及び選定当事者らの別にそれぞれ控訴を提起した。
3
基本的事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正す
るほかは,原判決の事実及び理由の第2の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決2頁末行の「福島第一原発には,」の次に「昭和46年から昭和54年にかけて運転を開始した」と加える。
原判決8頁5行目及び9頁13行目の各「憲法29条1項」の次にいずれも「,2項」と加える。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人Aらの債権者代位権に係る訴えは不適法として却下し,
控訴人Aらのその余の請求及び選定当事者らの請求はいずれも理由がないから棄却するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり補正し,次項以下の判断を付加するほかは,原判決の事実及び理由の第3の1から6までに記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決28頁15行目の「憲法29条1項」の次に「,2項」と加える。原判決29頁18行目の
「その法律が憲法に違反して無効でない限り」「そ

の法律の憲法適合性につき裁判上争うことができる以上」と改める。原判決30頁1行目の「憲法」から3行目末尾までを「およそ憲法が保障する控訴人Aらの権利を侵害するものではなく,適用違憲となる余地もないから,控訴人Aらの法令違憲及び適用違憲の主張はいずれも理由がない。」と改める。2
争点1(原賠法の責任集中制度の違憲性)について
ノー・ニュークス権侵害について

控訴人Aらは,ノー・ニュークス権とは原子力の恐怖から免れて生きる権利であり,具体的には「原発事故が発生した後は,被害を生ぜしめた事故原因者(責任主体)に対し完全な被害賠償を求める権利」などと定義し,人格権や環境権によって認められるもので,憲法13条,憲法25条によって保障されているとし,原賠法における責任集中制度はノー・ニュークス権を侵害するもので違憲無効であると主張する。
しかし,控訴人Aらの主張する上記内容のノー・ニュークス権は,これを認める実定法はもとより判例・裁判例もなく,社会的にみても権利として確立しているということはできない。人格権や環境権は上記内容のノー・ニュークス権を認める根拠にならず,憲法13条や憲法25条がノー・ニュークス権を認める根拠となるものでもない。
なお,控訴人Aらは,上記内容のノー・ニュークス権が憲法上保障されていると主張する根拠として,①原発事故の原因を究明して徹底的な対策を促して再発のおそれを払拭させるべきこと,②原子力被害の再発は国家存亡に関わるため,損害賠償制度の制裁的機能が重視されるべきこと,③原賠法の責任集中制度により被控訴人らにおいて顕著かつ重大なモラルハザードが生じており,これを防止すべきこと等を挙げる。しかし,民法(709条等)又は製造物責任法が定める損害賠償制度は,控訴人Aらがノー・ニュークス権を認める意義として主張する上記各種機能を被害者の権利として付与していないと解される(最高裁平成9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁参照)。そうすると,上記各種機能を根拠として,原賠法の責任集中制度が民法又は製造物責任法の定める損害賠償制度について原子力事業者以外の者に対する損害賠償請求を制限するものであることによって,控訴人Aらの法律上の権利を制限したということはできない。したがって,控訴人Aらの上記主張は採用することができない。
憲法29条違反について

財産権に対する規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとし
て是認されるべきものであるかどうかは,規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,規制及び制限の程度等を比較考量して決すべきものであるが,裁判所としては,立法府がした上記比較考量に基づく判断を尊重すべきものであるから,立法の規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか,又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が上記目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって,そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものになる場合に限り,当該規制立法が憲法29条2項に違背するものとして,その効力を否定することができると解される(最高裁昭和62年4月22日大法廷判決・民集41巻3号408頁参照)。

原賠法は,3条1項本文で,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその
損害を賠償する責めに任ずると規定するとともに,4条で,3条の規定による損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は,その損害を賠償する責めに任ぜず(1項),原子力損害については製造物責任法の適用はない(3項)と規定して,責任集中制度を定めている。このように,責任集中制度は原子炉の運転等による損害について損害賠償責任を負う主体を原子力事業者に限定し,原子力事業者以外の者を除外して損害賠償請求権の相手方を制限するものであり,かつ,これに尽きる。そうすると,責任集中制度は,原子力損害に係る損害賠償請求権の相手方を制限するという限りにおいて,被害者の財産権を制限する面があるといえる。そこで,原賠法における責任集中制度の目的についてみるに,同制度は,原子力損害の賠償責任を負う主体を原子力事業者のみに限定し,もって,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合において被害者の保護を図るとともに原子力事業の健全な発達に資する(1条)ことにあると解されるのであって,その立法目的は公共の福祉に合致しているということができる。
次に,原賠法における責任集中制度及びその関連措置についてみるに,同法は,①3条1項で,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずるとし,このような原子力事業者が無過失かつ無限責任を負うことを前提として,同条の規定による損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は,その損害を賠償する責めに任じない(4条1項,3項)こととしているとともに,②このような原子力事業者による損害賠償責任の履行を担保するため,原子力事業者に対し,損害賠償措置を講じていなければ,原子炉の運転等をしてはならず(6条),損害賠償措置として,原子力責任損害賠償保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託の方法が設けられ(7条から15条まで),さらに,③原子力事業者の賠償責任額が,その賠償措置額をこえ,かつ,原賠法の目的を達成するため必要があると認めるときは,政府が必要な援助を行うものとする(16条1項)旨を規定している。原賠法16条の規定する政府の援助は,同法の目的である被害者の保護を図り,また,原子力事業の健全な発達に資するために必要な場合には必ず行うものとする趣旨であると解され,例えば,原子力事業者の能力(資力)のみによったのでは原子力損害を被った被害者の保護を十分に図ることができない場合には,原賠法の目的を達成するために必要があるとして,政府は上限を設けることなく援助を行うこととされている。
以上のとおり,原賠法における責任集中制度は,損害賠償措置及び政府の援助が併用され,政府の援助は被害者の保護を図るために必ず行うものとされており,原子力損害を被った被害者の損害賠償請求権の保護が十全に図られている。そうすると,このような手厚い被害者保護を図る仕組みの併用された責任集中制度が上記立法目的達成のための手段として必要性又は合理性に欠けることが明らかであるということはできず,立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるともいえない。したがって,原賠法の定める責任集中制度は憲法29条2項に違反しないというべきである。

控訴人Aらは,責任集中制度が憲法29条2項に違反するとして種々の主張
をするので,判断する。
控訴人Aらは,
①財産権に係る憲法適合性の審査に際し,
原賠法の目的に
「被
害者の保護」という本来最大限に尊重されるべき人格的価値と「原子力事業の健全な発達」という経済性の問題が並列されていること自体に正当性がないし,また,②現状において原子力事業を過度に保護する必要性はもはや消滅したので,「原子力事業の健全な発達」という目的の正当性はもはや維持できないことを考慮すべきであるとし,そのような目的を掲げる原賠法は違憲無効であると主張する。しかし,上記①について,原子炉の運転等により原子力損害を被った被害者の保護と原子力事業の健全な発達とは両立し得るものであるから,原賠法が両者の調和を図るため双方を当該法律の目的に掲げること自体に正当性がないなどということはできない。また,上記②について,本訴で原賠法の責任集中制度の憲法適合性を判断するに当たり,被控訴人らの原子炉製造後あるいは本件原発事故後の「原子力事業の健全な発達」
に関する社会的評価の変遷等を考慮に入れるべきでないことは,
後記

のとおりである。
控訴人Aらは,財産権に係る憲法適合性の審査に際し,原賠法の被害者保護
の目的を達成する手段としては,原子力事業者に無過失責任を課せば達成できるのであり,責任集中制度は被害者保護の目的を達成する手段として必要性及び合理性がないことを考慮すべきであると主張する。
しかし,原賠法は,原子力事業の健全な発達という目的をも踏まえ責任集中制度を採用しつつ,被害者の保護を図る見地からは,免責事由が極めて限定された無過失責任による原子力事業者の損害賠償責任が確実に履行されるよう制度設計をし,原賠法全体として,民法(709条等)又は製造物責任法による救済よりもむしろ手厚い被害者保護を図ろうとするものである。このような原賠法の制度の全体を見ることなくその一部である責任集中制度のみを取り上げて,その必要性及び合理性を論ずるのは相当でない。
控訴人Aらは,原賠法16条所定の政府の援助は,国の裁量によるもので,また,世論上又は財政上の理由により,被害の回復に必要な援助がされるとは限らないと主張する。
しかし,原賠法16条所定の政府の援助については,原子力損害を被った被害者の保護を図るとの原賠法の目的及び同条の「原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする」との文言に照らせば,政府は必ず援助を行うのであって,国に裁量の余地はなく,世論上又は財政上の理由による裁量も許されないと解される(丙2,3,5,6,8,丁1~3,11)。
また,支援機構は,本件原発事故を受けて制定された原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に基づき設立された法人であるところ(丁5),同法は,原賠法3条により原子力事業者が賠償の責めに任ずべき額が同法7条1項所定の賠償措置額を超える原子力損害が生じた場合において,当該原子力事業者が損害を賠償するために必要な資金の交付その他の業務を行うことにより,原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施等の事業の円滑な運営の確保を図ること等を目的として(1条),支援機構の原子力事業者に対する資金援助の制度を設け(41条以下),国は,支援機構がその目的を達することができるよう,万全の措置を講ずるものとしている(2条)。そして,原審口頭弁論終結日(平成28年3月23日)後の状況をみても,平成28年12月20日付け閣議決定「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針について」(丙14)において,被災者等に対する賠償のため東京電力において必要となる資金繰りは,引き続き,支援機構への交付国債の交付・償還により支援することとされている。このような制度等の下で,現に,東京電力は,平成29年7月26日時点の要賠償額の見通し額9兆7047億0400円とされる(甲118,丙12の5)中で,同年8月23日までに支援機構から合計7兆3651億円の資金援助を受け(丁16),同月25日までに約7兆5249億円の賠償を実行済みである(甲117)。このようなことからすると,現時点において,被害の回復に必要な援助がされない可能性があるということはできない。
控訴人Aらは,このほか,財産権に係る憲法適合性の審査に際し,危険責任・報償責任の考え方の重要性,モラルハザードの防止の必要性等を考慮すべきであるなどと主張するが,いずれも立法政策論の域を出ないものであり,採用の限りでない。
憲法14条違反について
控訴人Aらは,原賠法の責任集中制度は,原発事故の被害者について,原発事故以外の被害者と異なり,事故原因となった製造物の製造者に対する責任追及の道を閉ざすもので,憲法14条に違反すると主張する。
しかし,原発事故の被害者と他の事故の被害者とでは,事故の内容や性質が異なるから,同じ状況にあるとはいえないところ,どのような事故についてどのような救済方法を設けるかは立法政策の問題であって,原賠法が責任集中制度を設けて他の法律と異なる救済方法を定めたことが不合理な差別になるわけではない。しかも,原賠法の責任集中制度は,被害者の保護を図る見地から,法律全体として,民法(709条等)又は製造物責任法による救済よりもむしろ手厚い被害者保護を図る仕組みを併用するものであり,このことに合理性があることは前示のとおりである。
したがって,原賠法の責任集中制度により,原発事故の被害者の救済方法とそれ以外の被害者の救済方法との間に上記の差異が生ずることをもって,憲法14条に違反するということはできず,控訴人Aらの上記主張は採用することができない。憲法32条違反について
控訴人Aらは,原賠法の責任集中制度はノー・ニュークス権,財産権及び平等権を侵害して違憲無効であるのに,同制度によって被控訴人らの民法上又は製造物責任法の責任の有無につき裁判所の判断及び救済を受けられないから,責任集中制度は憲法32条に違反すると主張する。控訴人Aらの上記主張は,原賠法の責任集中制度が違憲無効であるとの主張が排斥されると,
責任集中制度の適用を受ける結果,
控訴人Aらが原発メーカーを相手とする損害賠償請求の訴えを提起しても請求が認められないことになるとし,これをもって憲法32条に違反するというものと解される。
しかし,憲法32条は,訴訟の当事者が訴訟の目的たる権利につき裁判所の判断を求める法律上の利益を有することを前提として,このような訴訟について本案の裁判を受ける権利を保障したものである(最高裁昭和35年12月7日大法廷判決・民集14巻13号2964頁参照)。しかるところ,控訴人Aらは本件訴訟を提起して請求棄却という本案判決を受けており,裁判を受ける権利を享受しているのであって,憲法32条に違反しない。なお,控訴人Aらが原発メーカーを相手とする損害賠償請求が認容されないのは,合憲と判断された責任集中制度が適用されることの結果であり,これをもって憲法32条に違反するということもできない。適用違憲について
控訴人Aらは,当審において,本件原発事故は原子炉の欠陥があってこれを製造した被控訴人らに重過失があり,かつ,被害金額が原賠法の想定を大きく上回る想定外のもので,被害者の人権や権利侵害の大きさ,深刻さがあるとし,原賠法4条が法令として違憲であるといえないとしても,責任集中制度を本件原発事故に適用することは適用違憲となると主張する。
しかし,原賠法における責任集中制度は,損害賠償措置及び政府の援助が併用され,政府の援助については被害者の保護を図るために必ず行うものとされ,原子力損害を被った被害者の保護が十全に図られているところ,これは他の不法行為等の被害者と比較しても手厚い保護が図られたものであり,原賠法の責任集中制度が合憲であることは前示のとおりであって,責任集中制度を本件原発事故に適用する限りで違憲とされる余地もない。したがって,控訴人Aらの適用違憲の主張も理由がない。
立法事実の消滅について
控訴人Aらは,当審において,エネルギー事情における原子力発電需要の低下,原子力発電技術に対する信頼の失墜,被控訴人らの原子力発電事業に対するスタンスの変化等の特に本件原発事故後の立法事実の変遷及び消滅も踏まえて,原賠法の責任集中制度の憲法適合性を判断すべきであるところ,本件原発事故後に責任集中制度を支える立法事実が失われたとし,これをもって本件原発事故に責任集中制度を適用することは違憲になると主張する。
しかし,本件訴訟は,控訴人Aらが昭和46年から昭和54年にかけて運転を開始した福島第一原発の原子炉を製造した被控訴人らに対し,本件原発事故により被った精神的損害について損害賠償を求めるものである。しかるところ,本件原発事故後に責任集中制度を支える立法事実が失われたという事情が本件原発事故後の事情であることはその主張自体から明らかであって,本件訴訟において責任集中制度の違憲性を判断するに当たり,上記事後的な事情を考慮することはできない。まとめ
以上のとおりであって,原賠法における責任集中制度は憲法に違反しない。3
争点6(責任集中制度を主張することの権利の濫用該当性)について
控訴人Aらは,被控訴人らが原賠法の責任集中制度に基づく免責を主張することは,法的利益を漫然と享受するもので権利行使そのものであり,広義の抗弁権の援用として権利の濫用に当たると主張する。
しかし,原賠法の責任集中制度は,被控訴人らの主張の有無を問わず,控訴人Aらの請求原因としての主張自体から当然に適用となり,控訴人Aらの被控訴人らに対する損害賠償請求権の発生を妨げるのであって,被控訴人らが権利を行使したわけでも抗弁を提出したわけでもないから,被控訴人らについて権利の濫用に当たると判断される余地はない。控訴人Aらの主張は,こうした法律構造を度外視して,実質的に権利濫用論に権利創設効果を付与しようとするものであり,一般に承認された権利濫用論とは異なる独自の法律論といわなければならない。したがって,控訴人Aらの上記主張は採用することができない。
4
争点7(債権者代位権に係る訴え)について
控訴人Aらの債権者代位権に係る訴えは,東京電力に対する損害賠償請求権
を有するとする控訴人Aらが被控訴人らに対し,東京電力に代位して,東京電力の被控訴人らに対する求償権若しくは債務不履行(ないし不法行為)に基づく損害賠償請求権を行使するものである。控訴人は,この訴えについて,当審において,①代位権の行使を正当化し得る他の事情が存する場合には,債務者の無資力は要件として必要がない,②仮に保全の必要性として債務者の資力に関する要件が要求されるとしても,債権者が「債権の満足を得られなくなる危険」があれば足りるなどと主張する。
しかし,上記①について,金銭債権を有する者が民法423条1項本文に基づき債務者に属する権利を代位行使するためには「自己の債権を保全するため」であることを要するから,債務者が無資力であることを要すると解される。すなわち,金銭債権を有する者は,債務者の資力が当該債権を弁済するについて十分でない場合に限り,民法423条1項本文の規定により,当該債務者に属する権利を行使することができると解される(最高裁昭和40年10月12日第三小法廷判決・民集19巻7号1777頁参照。被保全債権と被代位債権が関連性を有する場合についての最高裁昭和49年11月29日第三小法廷判決民集28巻8号1670頁参照。・
なお,控訴人Aらが援用する最高裁昭和50年3月6日第一小法廷判決・民集29巻3号203頁は,被代位債権が登記請求権でこれを代位行使する以外に被保全債権たる金銭債権の満足を得る適切な手段がない事案についての判断であり,本件と事案を異にして,本件に適切でない。)。したがって,債権者代位権の行使を正当化し得る他の事情が存する場合であれば債務者の無資力は要件にならないと解することはできない。
また,上記②について,上記のとおり債務者の無資力が要件であって,債権者が「債権の満足を得られなくなる危険」があるだけでは足りないというべきである。したがって,控訴人Aらの上記主張はいずれも採用することができない。しかるところ,東京電力の資力についてみると,東京電力は平成22年以降一貫して資産超過であり,支援機構の東京電力に対する資金交付及び東京電力の被害者に対する損害賠償義務の履行状況,東京電力の貸借対照表・損益計算書の推移は原審で認定したとおりである。これに加え,平成27年度及び平成28年度においても一貫して資産超過の状態にあり,また,平成28年度の単体の決算において若干の損失を計上したほかは一貫して純利益を計上していること
(丙13の6・7)
をも考慮すると,東京電力が債務超過に陥る兆候も認められない。東京電力は,本件原発事故の賠償のために資金を調達し続けているから,現段階において,東京電力の資力が当該債権を弁済するについて十分でないことを認めることはできない。したがって,控訴人Aらの債権者代位権に係る訴えは,債務者の無資力要件を欠くから,不適法であって却下を免れない。
5
控訴人Aらの当審におけるその他の主張について
控訴人Aらは,当審において,原賠法が違憲でないとしても,被控訴人ら原
発メーカーは原賠法が定める責任集中制度によって免責となるわけではなく,被控訴人らは民法709条,製造物責任法上の責任を負うなどと主張する。上記主張は,その趣旨が判然としないが,いずれにせよ,原賠法4条1項及び3項の文言上,原子力損害について原発メーカーである被控訴人らは民法709条の責めに任ぜず,製造物責任法の適用が除外されることが明らかである。控訴人Aらは,被控訴人らが免責されないとする上記主張の根拠として,①日米原子力協定,②原賠法,原子力損害賠償補償契約に関する法律,原子力損害賠償責任保険約款及び原子力損害賠償補償契約約款の構造等を援用し,原賠法の責任集中制度は原子力事業者と関連事業者との間の内部関係の規律であることなどを挙げる。これらの主張も趣旨が不明であるといわざるを得ないが,いずれにせよ原賠法4条1項及び3項の明文に反するものであり,採用することができない。控訴人Aらは,このほかにも原判決につき種々論難するが,いずれも独自の法律的見解又は政策的見解にすぎず,採用することができない。
6
選定当事者らの当審における主張について
選定当事者らは,①原子力発電所の製造・稼働及び輸出そのものが違憲であ
るとか,②原発メーカーと原発事業者との原発ビジネス契約は反社会的で公序良俗に反し,違法・無効な法律行為であるなどと主張する。
しかし,選定当事者らの本件訴訟は,原発メーカーである被控訴人らに対し本件原発事故によって被った精神的損害について損害賠償を請求するものであるから,争点となるのは,原賠法の責任集中制度が憲法に違反するか否か,本件原発事故によって被った精神的損害が「原子力損害」に当たるか否かである。上記①の原子力発電所の製造・稼働及び輸出の違憲に係る主張については,原賠法は原子力発電所の製造,稼働及び輸出の根拠法令ではなく,本件訴訟の訴訟物とは無関係の事柄である。上記②の被控訴人らが締結した契約に無効事由があるか否かは,原賠法の責任集中制度の適用の可否とは無関係の事柄である。したがって,選定当事者らの上記主張はいずれも採用することができない。
選定当事者らは,①反社会的な原子力発電所の存在を前提とする原賠法は違憲である,②仮に原賠法の責任集中制度が違憲でなくとも,民法の不法行為法及び製造物責任法に基づき,被控訴人らは,不安と恐怖による精神的損害に対する損害賠償を支払うべきであると主張する。
しかし,上記①について,選定当事者らの主張は,本件原発事故後の立法事実の変遷等を根拠とするものであるところ,そのような立法事実の変遷等を考慮すべきは,本件原発事故によって被った不
安と恐怖という精神的損害についての主張であるところ,選定当事者らの主張する上記精神的損害は「原子力損害」に当たるから,原賠法4条の責任集中制度の適用を受け,その結果,民法の不法行為法及び製造物責任法の適用が除外される(この適用が除外されるのは不法行為等につき相当因果関係論を採用した結果ではない。)
ことは前示のとおりである。したがって,選定当事者らの上記主張は採用することができない。
7
結論

以上によれば,控訴人Aらの債権者代位権に係る訴えは,不適法であって却下すべきであり,控訴人Aらのその余の請求及び選定当事者らの請求は,いずれも理由がないから棄却すべきである。
よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第20民事部

裁判長裁判官


裁判官


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山池稔一下郎朗
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