判例検索β > 平成29年(わ)第437号
傷害、暴行被告事件
事件番号平成29(わ)437
事件名傷害,暴行被告事件
裁判年月日平成29年12月8日
法廷名宇都宮地方裁判所
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事件番号

平成29年(わ)第437号,第489号
判被告人1氏名甲2氏名乙
公判出席検察官

石決川あき子主文
被告人甲を懲役2年に,被告人乙を懲役2年4月にそれぞれ処する。被告人甲に対し,未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
被告人両名に対し,この裁判が確定した日から4年間,それぞれその刑の執行を猶予する。
理由
【認定事実(罪となるべき事実)】
第1

被告人両名は,共謀の上,平成29年4月15日午後6時頃から同日午後6時40分頃までの間,宇都宮市a町b番地c所在の社会福祉法人丙会丁施設内において,同施設の利用者であるA(当時27歳)に対し,それぞれ,その腰部付近を数回足蹴にし,その左肩付近を手拳で殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治約181日間を要する腹腔内出血,第三腰椎左横突起骨折及び全治約22日間を要する左肩部打撲の傷害を負わせた

第2

被告人乙は,同年8月23日,栃木県栃木市d町ef番地g所在の社会福祉法人丙会戊研修棟1階食堂において,同施設の入所者であるB(当時57歳)に対し,その顔面を平手打ちした上,床に横たわっていた同人の腰部に膝を押し当て体重をかけるなどの暴行を加えた

ものである。
【量刑の理由】
1
本件は,障害者施設において,職員であった被告人両名が,指導に従わない重度の知的障害者Aに対し,厳しく注意するうちに感情を高ぶらせ,その背中を蹴ったり踏みつけるなどの強度の暴力をふるって,重傷を負わせたという傷害の事件(判示第1の事実)と,別の障害者施設において,職員であった被告人乙が,聞こえないふりをして指示に従おうとしない精神障害者Bに対し,床に横たわって動こうとしない同人の腰部に膝を押し当てて体重をかけるなどの暴力をふるったという暴行の事件(判示第2の事実)とからなる事案である。
2
量刑上重大な被害者Aに対する傷害事件を中心に,被告人両名の刑責の重さについて検討する。
まず,行為の危険性や結果の重大性についてみると,被告人両名の暴行は,交通事故や高所から落下した際のエネルギーに匹敵する力で,無抵抗の被害者Aに対し,一方的に,複数回,身体の枢要部である背中を蹴ったり踏みつけるなどしたものと認められ,被害者Aの生命身体に重大な危険を及ぼしかねない行為であった。そして,被害者Aは,第三腰椎左横突起を骨折し,近くの臓器の脾臓付近に小さな損傷を生じ,この損傷個所からの出血がじわじわと続いた結果,1日経過後に出血量が1.5リットルから2リットル程度に達したことで貧血状態となって意識を喪失するまでになり,病院への搬送がさらに遅れていれば命を落としかねない危険な状態に陥ったと認められる。
しかし,出血量がここまで多くなったのは,被害者Aに重度の知的障害があって,周囲に言語で体調の悪化を訴えることができなかったことが影響しているとうかがわれるところであり,通常であればここまで重大な結果が生じることはなかったと考えられる。こうした意味において,被告人両名による暴行の危険性が,当然に致命的な事態を招くほどのものであったとまでいうのは躊躇される。また,被害者Aが救急搬送されて死の転帰を免れ,重篤な後遺障害も残らなかったことは,被害者Aにとっても被告人両名にとっても幸いなことであった。
さらに,動機・経緯についてみると,本件の発端は,重度の知的障害者であって,大声で騒ぐ施設入所者がいると我慢できなくなって当該入所者に暴力をふるう傾向のあった被害者Aが,その日に何度も口で注意されていたにもかかわらず,騒いでいる入所者に再度つかみかかろうとしたことから,被告人両名が,被害者Aを廊下に連れ出し,他の入所者に暴力をふるってはいけない旨説教する中で,被告人乙が,被害者Aの頬を平手打ちしたことに始まる。そして,被告人乙が平手打ちをしたのを見た被告人甲が,この機に被害者Aに暴力をふるって職場に対するイライラを発散させたい気持ちを抑えられなくなり,被告人乙の暴行に加勢する形で,被害者Aの背中を相当な力で蹴るなどの暴行に及び,それにつられて,被告人乙も,自らの暴行の程度をエスカレートさせて,被害者Aの背中を相当な力で蹴るなどの暴行に及んだ。さらにその後,被告人両名は,被害者Aを正座させて様子を見ていたところ,被害者Aが叱られている途中なのにテレビの方を覗きこもうとするので,これに腹を立てて,被害者Aの左肩を手拳で殴打したり,アルコールスプレーを被害者Aの顔面に向けて噴射するなどの暴力をふるった,概ね以上のような経緯であったと認められる。上記の被害者Aの行動は,同人の障害の特性を理解していない者がこれに接すると,腹を立てることもやむを得ない面があったことは否定できず,本件については,施設入所者の障害の特性についてきちんとした教育を受けていなかった被告人両名が,感情の高ぶりを抑えきれなくなったという面があることは否めない。しかし,被告人両名は,障害者施設で働く職員であって,入所者の特性を理解し,これを保護すべき立場にあったのであるから,被害者Aの行動が犯行を誘発したことを量刑上大きく考慮するのは相当でない。結局,この点については,「陰湿な弱い者いじめ」と同列に扱うべき事案ではないという限度で,被告人両名に有利に考慮するにとどめるべきものと考えた。ところで,本件のような施設内での虐待事案は,力で押さえつけたほうが入所者を管理しやすいという安易な考えを背景に,外部の目が入らない中で,暴力がエスカレートしがちであるという特性があるから,一般予防の見地からも厳しい対処が必要である。
以上のとおりで,本件は,施設内の虐待事案である上に,入所者に度外れた厳しい暴力をふるって,現にかなり重い結果を生じさせた事案であるから,軽く扱うことは許されないが,他方で,幸いに重篤な後遺障害は残らなかったことや,動機・経緯にかんがみ「陰湿な弱い者いじめ」と同列に扱うわけにはいかない面もあることを考慮すると,量刑において実刑以外に選択肢がないとまではいえない。
次に,被告人両名の関与の程度等の個別事情について検討する。

被告人甲は,前記したとおり,職場に対するイライラのはけ口を求めて,被告人乙が平手打ちをしたことに乗じて,被害者Aの背中を思い切り蹴るなどの強度の暴力をふるったものであり,しかも,被告人甲が強度の暴力をふるったことが,被告人両名の暴行がエスカレートするきっかけになったことからすると,主体的・主導的に犯行に加担したというべきであり,知的障害があって衝動を抑える力がやや不足していたとみられることを考慮しても,被告人甲の責任が,被告人乙のそれよりも軽いとみることはできない。

被告人乙は,前記したとおり,説教の一環で被害者Aに平手打ちをしたにとどまらず,被告人甲が被害者Aの背中を思い切り蹴ったことに触発されて,自らも被害者Aの背中を思い切り蹴るなどの強度の暴力をふるったと認められるが,知的障害を抱えた被告人甲の暴走を制止するべき立場にあったというべきであるから,被告人甲よりも若干重い責任を負うべきとされるのはやむを得ない。


なお,検察官は,「被告人乙が主導的な立場にあったと認められ,被告人甲に比してその責任は重い」と主張するが,量刑上重視されるべき「被害者Aの背中を思い切り蹴るなどの強度の暴力」に関する限り,「被告人乙が主導的な立場にあった」とみるのは実態にそぐわないというべきであって,流れを主導していたのは,むしろ被告人甲の方であったとみるのが相当である。3
以上を前提に,①被告人両名が日常的に入所者に体罰を加えていたこと,②被告人乙については別の施設での暴行事件(判示第2の事件)が併合審理されていること,③被告人両名の反省状況も併せ考慮し,被告人両名の刑責の重さの程度を踏まえて,それぞれ主文の刑を量定することとした。

(検察官の求刑

被告人甲につき懲役2年,被告人乙につき懲役2年6月)

平成29年12月8日
宇都宮地方裁判所刑事部

裁判官柴田誠
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