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損害賠償請求控訴事件
事件番号平成28(ネ)273
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日平成29年11月28日
法廷名広島高等裁判所
結果その他
原審裁判所名広島地方裁判所
原審事件番号平成25(ワ)756
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平成29年11月28日判決言渡し
平成28年(ネ)第273号

損害賠償請求控訴事件

(原審・広島地方裁判所平成25年(ワ)第756号)

主1文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人に対し,金11万円及びこれに対する平成24年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。控訴人のその余の請求を棄却する。

2
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを6分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

3
この判決は,1項

に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1
1
当事者の求めた裁判
控訴の趣旨
原判決を取り消す。
被控訴人は,控訴人に対し,金60万円及びこれに対する平成24年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
仮執行宣言

2
控訴の趣旨に対する答弁
本件控訴を棄却する
控訴費用は控訴人の負担とする。
仮執行免脱宣言

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,広島拘置所(以下「拘置所」という。)に勾留されていた被告人(以下「A」という。)の弁護人であった控訴人が,Aに対し同人の母親から預かったA宛ての手紙(以下「本件書類」という。)を窓口で差し入れようとしたところ,拘置所の職員が,その差入れを拒否したのは違法(違憲の主張を含む)であるとして,国家賠償法1条1項に基づき,被控訴人に対し,慰謝料等60万円及びこれに対する本件書類を差し入れようとした日である平成24年4月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決が控訴人の請求を棄却したところ,控訴人が本件控訴を提起した。2
関係法令の定め
(添付省略)

3
前提事実
括弧内掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)。
当事者等

控訴人は,広島弁護士会に所属する弁護士であり,平成24年3月23日,Aの,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律違反被告事件(以下「本件被告事件」という。)における第1審の国選弁護人に選任された者である。


被控訴人は,拘置所を設置運営している国である。
Bは,平成24年4月11日当時,拘置所総務部会計課長であった者である。
Cは,平成24年4月11日当時,拘置所総務部庶務課長であった者である。
控訴人とAの母との面会
控訴人は,Aの国選弁護人に選任された後,自らの事務所でAの母と面会した。その際,本件書類(甲2)を封筒(甲4。以下「本件封筒」という。また,本件書類が本件封筒に収められた状態のものを「本件封書」という。)に入れ,これをAに渡すよう控訴人に依頼した。控訴人は,その場で,封を開け,本件書類を閲読した上で,Aの母の依頼を受諾し,本件封書を預かった(甲2,4,7,控訴人本人)。
控訴人とAとの面会
控訴人は,平成24年4月11日午後3時24分,拘置所に来所し,同日午後3時35分から同日午後4時5分までAと面会した(乙1,2。以下,この面会を「本件面会」という。)。
控訴人は,本件面会中,本件書類を見ながらその要旨をAに伝え,面会後に本件封書を差し入れて帰る旨告げた(甲7,証人C,控訴人本人)。控訴人による本件封書の差入れの申入れ及び窓口職員の対応
控訴人は,本件面会を終えた後である同日午後4時5分頃から同20分頃までの間に,拘置所内待合室に設けられている会計課事務室の差入窓口(拘置所内待合室と会計課事務室は隣接しており,その仕切りの壁に差入窓口が設けられている。)で,差入物品受付票の品目欄に「手紙」と記入して,本件封書(開封されたもの。以下同様。)の差入れを申し入れた。
窓口職員は,控訴人に対し,窓口で手紙を差し入れることはできないと述べた。控訴人は,窓口職員に対し,なぜ窓口での手紙の差入れができないのかと理由を問い質した。
応接室でのやり取り

拘置所会計課事務室で執務していたBは,控訴人に対する対応を窓口職員から引き取り,控訴人に対し,別室で話をするよう促し,拘置所内1階応接室に案内した。


控訴人は,応接室において,Bに対し,本件封書につき,Aの母がAに渡すよう控訴人に依頼して託した手紙である旨の説明をし,窓口での手紙の差入れが認められない理由を尋ねた。これに対し,Bは,被告人宛ての信書は郵便でなければ受付できない旨回答した。

Bが,信書であっても裁判資料であれば窓口での差入れを受け付ける旨発言したところ(なお,「裁判資料」という言葉を控訴人とBのどちらが先に述べたかについては

争いがある。),

控訴人は,本件封書は,本件被告事件において情状証拠とする予定であるから裁判資料である旨述べた。

控訴人は,最終的に,窓口での本件封書の差入れを断念し(なお,控訴人が窓口での差入れを断念した経緯については,後記

とお

り,争いがある。),応接室から退室した。
そして,控訴人は,同日午後5時5分頃から同20分頃の間に,拘置所から退所した(乙1)。
広島弁護士会刑事弁護センター委員会のメーリングリストへの投稿控訴人は,拘置所を出た約2時間後である平成24年4月11日午後7時27分頃,広島弁護士会刑事弁護センター委員会のメーリングリスト(以下「本件メーリングリスト」という。)に対し,「拘置所の対応について」との件名を付して,同日の拘置所における,窓口での本件封書の差入れの申入れからこれを断念して退所に至る顛末を報告する別紙1(添付省略)のメール(以下「本件報告メール」という。)を投稿した(甲6,7,控訴人本人)。
本件封書の郵送
控訴人は,本件面会の翌日である平成24年4月12日,本件封書をAに宛てて特定記録郵便で発送し,翌13日,拘置所に配達された(甲7,乙3,控訴人本人)。
なお,控訴人は,上記郵便を発送した同月12日,Aからの「母の手紙を送って下さい今週もう一度会いたいです。」との電報を受け取った。本件被告事件における本件書類の取調べ請求及びその取調べ
平成24年4月24日,本件被告事件の第1回公判期日が開かれた。その冒頭手続において,A及び控訴人は,公訴事実はいずれもそのとおり間違いない旨述べた。そして,控訴人は,「被告人の母が被告人に手紙を送ったこと」との立証趣旨で本件書類を証拠請求し,検察官がこれに同意したため,採用され,取調べられた(甲3)。
広島弁護士会から拘置所に対する照会及びその回答
広島弁護士会会長及び同刑事弁護センター委員会委員長は,平成24年9月11日付けで,拘置所長に対し,平成24年4月11日の控訴人による本件封書の窓口差入れに対する拘置所の措置に関し,①控訴人に対する差入れ拒否の措置は,拘置所の統一した運用に基づくものか,それとも,一部職員が独断で行ったものであるのか,②仮に,上記差入れ拒否が,拘置所の統一した運用であれば,その運用はいつから,どのような法令上の根拠により開始されたものであるのか,を照会した(乙9)。
これに対し,拘置所長は,同月20日付けで,上記①については,拘置所としての運用である旨,上記②については,法136条が準用する法130条1項及び規則80条2項に基づく運用である旨回答した(乙10)。4
争点及び当事者の主張の要旨
本件封書が法130条1項(法136条による準用。以下同様。)及び規則80条2項の「信書」(以下「法上の信書」という。)に該当することを前提とした場合,窓口職員及びBが,控訴人による窓口での本件封書の差入れを拒否したことは国家賠償法上の違法行為となるか(争点1)
(控訴人の主張-後記争点2の主張と選択的)

違法性について
弁護人が拘置所収容中の被告人に対して行う書類の差入れを制限することは,憲法34条,国際人権規約14条3項(b)及び刑訴法39条に違反する。したがって,窓口職員及びBが本件封書の差入れを拒んだ措置が,仮に,法130条1項及び規則80条2項を根拠とするものであるとしても,以下に述べるとおり,これらの規定は弁護人である控訴人に適用される限度において違憲であるから,窓口職員及びBの上記措置は国家賠償法上も違法である。
憲法34条を具体化した刑訴法39条2項は,被告人又は被疑者の逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐ目的に限定して,法令により弁護人による書類又は物の差入れを制限することを認めている。しかし,法130条1項及び規則80条2項の規制目的は,刑事施設の限られた人的制約の中での業務の円滑な実施である。したがって,法130条1項及び規則80条2項は,憲法34条が許容しない目的による規制を定めたものであるから違憲である。
仮に,憲法34条が,刑事施設の限られた人的制約の中での業務の円滑な実施という目的に基づく接見交通権の制限を許容しているとしても,その制限は必要かつ合理的な限度にとどめなければならないところ,弁護人による書類の窓口差入れを認めても,事務量が有意に増大するおそれがあるとは認められない。すなわち,法130条1項及び規則80条2項による制限の必要性及び合理性を支える立法事実は何ら立証されていないから,これらの規定による制限は,不必要かつ不合理な制限として違憲というべきである。

故意・過失について
拘置所においては,平成24年4月11日以前から,弁護人が,郵便法上の信書に該当する住民票の写し,請求書,民事事件の委任状等を窓口で差し入れることが許容されていた。すなわち,平成24年4月11日の時点において,弁護人による信書の差入れについては,規則80条2項を適用せず,窓口での差入れを認める運用が行われていた。
そして,上記同日に控訴人に対応した窓口職員及びBは,上記運用を認識していたにもかかわらず,上記運用に反して,規則80条2項を根拠として窓口での本件封書の差入れを拒んだものであるから,国家賠償法1条1項の故意又は過失が認められる。仮に,上記運用を認識していなかったとしても,拘置所職員として当然に認識しておくべき運用を認識せず,これに反して窓口での本件封書の差入れを拒んだことについては,上記故意又は過失があるというべきである。
(被控訴人の主張)
以下に述べるとおり,法130条1項及び規則80条2項を根拠として弁護人による法上の信書の窓口差入れを制限することは違憲ではなく,控訴人の主張は失当である。

憲法34条,刑訴法39条は,いずれも書類又は物の授受の具体的方法等について定めたものではないから,法でその方法を定めたとしても,未決拘禁者が弁護人から援助を受ける機会を侵害するものではない限り,憲法34条,刑訴法39条に違反しない。


法130条1項及び規則80条2項は,刑事施設が限られた人的制約の中で,信書の発送・受領のための業務を円滑に実施するために,発受の方法を一定の方法に限定することができる旨規定しているところ,これを限定しないと円滑な処理に支障が生じる上,仮に限定したとしても,規則80条2項に規定する方法があるのであるから,被収容者が弁護人から援助を受ける機会を侵害しない。
Bは,控訴人が窓口で本件封書を本件被告事件での取調請求予定証拠とし
て差し入れるのを拒否したか(争点2

),仮にこれが認められた場合,B

の行為は,国家賠償法上の違法行為であるか(争点2
(上記争点1の主張と選択的)

争点2

に関する控訴人の主張


Bは,「裁判資料であれば差し入れできますが。」と言い,同席していたCも同様の発言をしたので,控訴人は,「裁判資料です。差入れを認めてください。」と言った。
さらに,控訴人は,本件書類が情状証拠であることを丁寧に説明したのみならず,本件封筒から本件書類を取り出し,テーブルに置き,本件書類を読んでもらってかまわないとも言った。
しかし,Bは,「裁判資料というのは完全な裁判資料という意味です。この手紙は裁判資料ではありません。」と述べ,窓口での差入れを拒否した。さらに,控訴人は,Bに対し,「完全な裁判資料」という言葉の意味を尋ねたが,Bからは,「完全といったら完全です。」という無内容の回答しか得られなかった。
弁護人が,取調請求予定の証拠として窓口で差し入れる書類は,仮にそれが郵便法上の信書に該当するとしても,法の適用においては,法44条3号の「物品」(以下「法上の物品」という。)に該当すると解すべきであるから,危険物等の混入の有無を確認するための簡単な外形的検査を行った上で,これを受け付けるべきである。
にもかかわらず,Bは,「完全な裁判資料」という概念を持ち出し,本件封書を情状証拠として取調請求予定である旨の控訴人の説明を聞き入れず,物品としての窓口差入れを拒否した。

争点2

に関する被控訴人の主張

控訴人は,本件封書の窓口差入れができないことに納得せず,「根拠はあるのか,裁判資料も受け付けられないのか。」などと発言したため,Bは,根拠として内規があること,裁判資料であれば窓口でも受け付けることを説明した。
これに対し,控訴人は,「それじゃあ,これは裁判資料だ。」,「Aの母親から預かった手紙をよく見ると,情状証拠に使えるため,これは裁判資料だ。」などと発言した。また,このとき,控訴人は,Aの母親が現在シェルターにいてA本人と会えない状態であり,かつ,Aに住所を知られたくないので,手紙をAに渡すよう控訴人に依頼したことなどを説明した。
Bは,そもそも眼前のテーブルに置かれた本件封筒の中身が手紙かどうかは分からなかったので,それを確認する必要があったことや,控訴人の発言どおり情状証拠として使用できるものか否かについて,手紙の内容を確認し,処遇部門において裁判関係の出廷等の業務を行っている職員から情報を得た上で,拘置所長に最終的な対応について判断を仰ごうと考えたことから,控訴人に対し,本件封筒の中身を見せるように求めた。
しかし,控訴人は,テーブルの上に置かれていた本件封筒を手で押さえ付けて覆い,「見せられない,見せる必要性がない。」と発言した。そして,控訴人は,「差入れを受け付けないのなら,もういい。」などと発言し,本件封書をかばんに入れて退室した。
Bが「完全な裁判資料」なる言葉を用いたことはなく,また,控訴人が本件封筒の中身を抜き出し,テーブルに置いた事実もない。
このように,控訴人は,差入物品受付票に自ら「手紙」と記入した上,窓口においては,本件封書を指して「手紙」と言い続けていたにもかかわらず,応接室では,裁判資料であれば窓口でも差入れを受け付ける旨のBの説明を聞くや,本件封書を「裁判資料」として使用する旨申し立てたのである。
仮に裁判資料であれば,法44条3号の検査の対象となるから,Bとしては,控訴人の申出内容の変容の状況に鑑み,本件封筒の内容物が本当に手紙であるのか,裁判資料としての「物品」に該当するのか,物品として差入れ可能なものか等を判断するため,法44条3号の検査の前提として,控訴人に対し,本件封筒の中身を確認させるよう協力を求めたが,上記のとおり,控訴人は,本件封筒の中身を見せることを拒否し,退席した。
したがって,控訴人は,物品として差入れする場合に当然必要となる確認作業に協力せず,一方的に腹を立てて退席したものであるから,Bが物品としての差入れを拒否したとはいえない。

争点2

に関する控訴人の主張

控訴人は,本件書類を閲読した上で,本件被告事件の情状証拠として使えると判断し,その旨Bに告げた。本件書類が本件被告事件における情状証拠となり得るか,換言すれば,本件書類の記載内容と本件被告事件との関連性,Aに与える感銘力及び立証趣旨についての証明力の有無・程度に加え,その証拠能力の有無についての判断は,Aの弁護人である控訴人が,本件被告事件の内容や手続の経緯を踏まえ,法的知識を活用して初めてなし得るものである。少なくとも,拘置所の職員は,その判断を行うための知識・能力を有しておらず,また,その判断を行うべき立場にもない。
したがって,Bとしては,本件封書を本件被告事件における情状証拠として取調請求予定であるとの控訴人の判断を尊重しなければならず,本件書類の記載内容を閲読して控訴人の上記判断に容喙すべき立場にはない,すなわち,本件封書を法44条3号の物品として受け付けなければならなかったにもかかわらず,控訴人が差入物品受付票の品目欄に「手紙」と記入したことに拘泥し,本件封書は法上の信書であるから窓口での差入れは許されないとの誤った考えにとらわれ,本件封書を法上の物品として受け付けることを拒否した。
なお,控訴人は,弁護人が裁判資料としての書類を差し入れる場合であっても,拘置所において,書類であること,危険物や法禁物が混入していないことを確認する限度での外形的検査が実施されることを認識していたのであるから,控訴人が本件封筒の中身を見せること自体を拒否したとの事実はない。
このように,Bが窓口での本件封書の差入れを拒んだ措置は国家賠償法上の違法性を有する。
また,Bは,①弁護人からの裁判資料の差入れが,刑訴法39条1項により接見交通権として保障された権利であること,②拘置所においては,弁護人が窓口で裁判資料を差し入れるのを受け付ける運用が行われていたことを認識していたのであるから,国家賠償法1条1項の故意又は過失も認められる。

争点2

に関する被控訴人の主張

上記イで主張したとおり,Bは,本件封書の窓口差入れを拒んでいない。
控訴人が被った損害(争点3)
(控訴人の主張)
控訴人は,本件面会の直後に窓口で本件封書を差し入れるのを拒否された結果,Aに宛てて郵送することを余儀なくされた。
控訴人は,Aとの間で,本件接見後に本件封書を差し入れると約束をしていたところ,これを守ることができなくなり,弁護人としての職務を全うすることができず,また,Aから弁護人としての誠実性を疑われ,Aとの間の信頼関係が損なわれるおそれが生じた。控訴人は,改めて郵送する手間がかかった上,再びAと接見して郵送することになった経緯を報告することを余儀なくされるなど,事務処理の段取りが狂った。
以上のように,控訴人は耐え難い精神的苦痛を受けたので,これを慰謝するための慰謝料としては50万円が相当であり,また,本件封書の窓口差入れが拒否されたことと相当因果関係のある弁護士費用は10万円である。(被控訴人の主張)
事実は否認し,主張は争う。
なお,控訴人の主張する精神的苦痛等は,仮にそのようなものがあったとしても,それは専ら,法令の定めや信書の窓口差入れが認められていない拘置所の運用を知らないまま,Aに対して本件封書を差し入れておく旨約束し,また,本件封筒の内容物の確認依頼を拒否して,一方的に拘置所応接室から退席した結果であるから,控訴人自身の落ち度により生じたものにすぎない。
第3
1
当裁判所の判断
郵便法上の信書(同法4条2項),法上の信書及び法上の物品の関係郵便法上の信書がすべて法上の信書に該当するわけではなく,法上の信書に該当するものと法上の物品に該当するものに分かれる。
法上の信書は法135条所定の検査を,法上の物品は法44条の検査を受ける。この両方の検査を受ける物の範疇は存在しない。すなわち,仮に,法上の物品の範疇に属する物が郵便法上の信書としての性質を有するとしても,法135条所定の検査を経ることはなく,法44条所定の検査のみを受ける。本件の各当事者が「裁判資料」なる言葉をいかなる定義に基づいて使用しているのかは判然としないが,弁護人が取調請求予定の書類を勾留中の被告人に差し入れる場合は,それが郵便法上の信書であっても,法上の物品に該当する。
上記の限度においては,当事者の主張は一致している。
そこで,以下,上記解釈を前提として検討する。

2
本件面会後の拘置所応接室での出来事
①Bが,裁判資料は窓口での差入れを受け付ける旨発言したこと,②控訴人が,本件封書はAの母から託されたA宛ての手紙であり,本件被告事件の情状証拠として請求する予定であるから,裁判資料として差し入れる旨発言したこと,③結果的に,本件封書が窓口で差し入れられることはなかったことについては,当事者間に争いがない。
控訴人は,本件面会において,Aに対し,本件書類の記載内容の概要を説明し,同面会後に本件封書を差し入れて帰る旨伝えた(上記前提事実
甲7,控訴人本人)。

一般に,弁護人は,職業的使命感や倫理意識から,このような状況において,被告人との約束を果たすことを最優先に考える,換言すれば,面会における被告人との約束が果たせなくなる事態が生じることを避ける必要を常に念頭に置いている,ものと推認される。とりわけ,本件においては,控訴人は,本人尋問において,孤立感や不安感を弁護人に強く訴えてくるのがAの特質であると感じており,Aとの信頼関係の維持に通常以上に気を遣っていた旨,そして,本件面会の翌日の面会において,Aから,「先生,手紙を差し入れて帰ると言ってたのに約束が違うじゃないですか。」と言われた旨供述しており,この供述は,Aが,平成24年3月29日から同年5月14日までの約1か月半の間に,控訴人に対し,「至急拘置所にたずねて下さい」,「今週中,面会に来て下さい」,「先生会いたいです」,「今日会いたいです。」等合計8通の電報(上記前提事実の電報は,この中の1通である。)を送信して面会を求めたこと(甲5の1ないし8)によって裏付けられており,その信用性は高いといえる。

上記ア,イの認定説示に照らせば,控訴人は,拘置所の応接室においてBと話をしている間,何とか本件封書の差入れを受け付けてもらいたいとの強い気持ちを有していたと推認される。
この点,被控訴人は,上記


被控訴人の

主張のとおり,控訴人が本件封筒の中身を見せることを拒んだ旨主張し,証人B及び証人Cはこれに沿う証言をする。

しかし,控訴人が,平成24年4月11日の時点において,①拘置所に勾留されている被疑者・被告人に物を差し入れようとする場合,危険物や法禁物が混入していないかという観点での外形的検査を経る必要があること,②弁護人が被疑者・被告人に対して直接差入物を交付することはできず,拘置所職員の手を経て被疑者・被告人に届けられること(すなわち,眼前のBに対して本件封筒の中身を秘匿したところで,Aの手に渡るまでのいずれかの時点で,拘置所職員に本件封筒の中身を見られてしまうこと)を理解ないし認識していたことに鑑みれば,控訴人が,裁判資料すなわち法上の物品としての窓口差入れの実現可能性を断念してまで,眼前にいるBに対して本件封筒の中の本件書類を秘匿する動機,理由があったとは考えられない。
確かに,控訴人は,本件報告メールに,Bに対し,本件書類を読んでもらっても構わないが,裁判資料としての当否について何か言うのは弁護権の侵害になる旨述べたと記載しており,これは,Bが本件書類を読むこと自体を牽制する趣旨の発言とも解されなくもない。しかし,控訴人の上記発言は,危険性や異物混入の有無の観点から行われる検査を拒否する趣旨とまでは認められない。また,本件被告事件がいわゆる自白事件であり(甲3),本件書類が情状証拠であることに照らせば,控訴人が,本件書類を拘置所の職員に読まれることをどうしても避けたいと思っていたとも考え難い。


そうすると,控訴人が,一方で,本件封書を取調請求予定の情状証拠として差し入れることを申し出ておきながら,他方で,Bから本件封筒の中身を見せるよう促されてもこれを拒否した旨のB及びCの各供述は,その不合理性に照らし,採用できないというべきである。


他方,本件報告メールは,控訴人が拘置所を退所した約2時間後に作成したものであること,そして,本件メーリングリストのメンバーの属性に照らせば,控訴人が,拘置所の扱いにつき抱いた不満を,できる限り記憶に忠実に記したものといえる。細かい記憶違いはあるにせよ,少なくとも,控訴人が本件報告メールで訴えたかった事柄の中核,すなわち,本件封書の窓口差入れが拒まれたこと,そして,拘置所職員がそれを拒んだ理由については,記憶が鮮明なうちに再現されているといえる。また,控訴人において,本件報告メールを作成するに際し,存在しなかった出来事や発言を捏造して記載する動機も見当たらない。
したがって,本件報告メールのまとめ部分の「「完全な裁判資料」という不明瞭な基準を用いて差し入れを拒んだこと」との記載の信用性は高いというべきである。
これに対し,被控訴人は,Bが「完全な裁判資料」やそれに類する表現を用いた事実はない旨主張(上記第2の4


)し,B及びCは

これに沿う証言をする。
しかし,以下に述べるとおり,この点に関するBの証言は信用性が低く,また,この点に関する限り,Cの証言はBの証言とは独立の信用性を有しないというべきである。
a⒜

Bは,証人尋問において,「D弁護士さん(控訴人)がその当時
言われてましたように,情状証拠として使えると考えておれば,裁判書類なんじゃないかということも考えておりました。」(尋問調書30頁),「(裁判資料かどうかっていうのは,弁護人がそう説明すれば,一応それで裁判資料だと認めるわけですね,との質問に対し)言われればそうかもしれませんが,それを受け付けるかどうかは,拘置所の判断になると思います。」「裁判資料であるかどうかというのを,判断が私たちにはちょっとつきかねますので。差入れを受け付けるがどうかの判断になります。」(同32頁)と述べている。すなわち,Bは,裁判資料か否かの判断は弁護人に委ね,拘置所職員としては,物品としての受入可能性の判断(危険性や異物混入の有無を確認)を行うにとどめるかのような証言をしてい
る。
しかし,Bは,他方で,「本当に情状証拠として使えるのであれ
ば,当所の処遇部門のほうへ行って,裁判関係の出廷とかに行っとる職員から情報を得て,その情報をもとに所長に最終的な判断を仰ごうと考えておりました」(同18頁)とも証言する。すなわち,ここでは,情状証拠の該当性につき,弁護人の申告内容だけでな
く,拘置所が有している情報も併せて,拘置所として判断するかのような証言をしている。
Bの証言は,弁護人が差し入れようとする書類が物
品としての裁判資料に該当するか否かを判断するに際し,拘置所
が,弁護人の申告内容を尊重するのか,それとも拘置所が独自に収集した情報も併せて判断するのかにおいて,食い違っている。
また,被控訴人は,平成29年5月9日付け準備書面において,
「弁護人が信書について,「裁判資料である」と述べた場合,当該申述に基づいて,物品(厳密には「書籍等」に該当する。)としての裁判資料として,法44条に基づく検査を行うことになる。法44条の検査により,当該信書が明らかに裁判資料になり得ないような書面の場合には,物品としての裁判資料には当たらないとして,その差入れを拒否することもあり得る」と主張しているが,Bの上被控訴人の上記主張とも齟齬している。
b
上記a

Bの証言どおり,拘置所が,弁護人の申告内容とは別

に,独自に情報を収集した上で,物品(裁判資料)としての窓口差入れの可否を判断するとすれば,ある書類を裁判資料として差入れを申し込んでから,受け付けられる(受付印が押された差入物品受付票が差入人に交付される)までに,相当の時間を要することになり,窓口が停滞したり,差し入れようとする書類の量や性質によっては,その日のうちに受付の可否の判断ができなかったりすることも想定される。しかし,広島弁護士会所属弁護士の陳述書(甲13の4・5,甲16)に照らし,そのような事態が生じたとは認められない。
この点においても,上記a

Bの証言は,信用性が低いというべ

きである。
c
さらに,

Bの証言の信用性をさておくとしても,Bは,

証人尋問において,控訴人に対して裁判資料は受け付けますと答えた際,裁判資料に該当する書類として,供述調書や訴状の類を想定していた旨証言する。
この証言を前提とすれば,Bは「裁判資料」として,その書式,体裁等から,一見して裁判に関係する書類であることが明らかなものを念頭に置いているといえる。すなわち,Bは,窓口で受け付けることができる「裁判資料」は,裁判に関係する書類であることが外形上明白で,拘置所として,「裁判資料」該当性につきそれ以上の検討を要しない書類に限られ,「裁判資料」該当性につき,拘置所が弁護人の申告内容の他に情報を収集して検討しなければならないような書類は,即時に受付の可否の結論が出せないので,窓口差入れは認められないと考えていたことになる。
したがって,仮に,Bが,平成24年4月11日当時,「裁判資
料」該当性の判断につき
とすれば,その書式や体裁から一見して裁判に関係する書類とは判断できず,他の資料による補完を要する書類という意味で,本件封書は「完全な裁判資料ではない」と言って,窓口差入れを拒んだ可能性を裏付けるものになるというべきである。

上記アないしエの認定説示に照らせば,控訴人がBに対して本件封筒の中身を示すことを拒んだとは認められず,また,Bが「完全な裁判資料」という概念を持ち出して本件封書の窓口差入れを拒んだ旨の本件報告メールの記載の信用性は,B及びCの各証言によって減殺されないといえるから,控訴人が本人尋問及びその陳述書(甲7)で述べるとおり,①控訴人は,本件書類をテーブルの上に広げ,読んでもらっても構わないと言った,②しかし,Bは,本件書類を読むことなく,本件書類は完全な裁判書類ではないとの理由で,窓口での差入れを認めない旨発言した,との事実が認められるというべきである。

3
争点2

(Bは,控訴人が窓口で本件封書を本件被告事件での取調請求予定
証拠として差し入れるのを拒否したか)及び争点2

(控訴人が窓口で本件封

書を本件被告事件での取調請求予定証拠として差し入れようとしたのを拒否したBの行為は,国家賠償法上の違法行為であるか)について
上記2で認定説示したとおり,Bは,平成24年4月11日,控訴人が窓口で本件封書を本件被告事件での取調請求予定証拠として差し入れるのを拒否したと認められる。
Bの行為は,裁判資料に該当する書類は物品として窓口
差入れを認めるという拘置所の法解釈及び運用に反して,本件書類を本件被告事件の情状証拠として請求する予定である旨の控訴人の説明を疑うべき事情はない(少なくとも,本件書類を閲読すれば,本件被告事件の内容を知らずとも,情状証拠となり得るものであることは認識できる。)にもかかわらず,本件封書の窓口差入れを拒否したものであるから,国家賠償法上の違法性を有し,また,少なくとも過失があったと認められる。
4
争点3(控訴人が被った損害)について
上記前提事実,上記2の認定説示に加え,控訴人本人尋問の結果によれば,①Aが早く本件書類を読みたがっていたにもかかわらず,控訴人は,本件封書を差し入れて帰る旨のAとの約束を果たすことができなかったこと,②そのため,控訴人は,一時的であれ,Aから弁護人としての誠実性や能力を疑われ,通常以上に気を使っていたAとの信頼関係(上記2

イ)の回復,維持に再度

Aに面会して事情の説明を行うなど意を尽くし骨を折らねばならなかったことが認められるから,上記拘置所職員の違法行為により弁護士としての控訴人が被った精神的苦痛は,金銭によって慰謝される程度に達しており,その額は10万円をもって相当とするというべきである。
また,事案の性質及び弁論の全趣旨に照らし,本件封書の窓口差入れが拒否されたことと相当因果関係のある弁護士費用として1万円を認める。第4

結論
以上説示したとおり(なお,争点1に関する控訴人の主張については,争点2
に関する主張と選択的であるから,判断を要しない。),控訴人の請求
は11万円及びこれに対する本件封書の窓口差入れ拒否の日である平成24年4月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がない。
よって,これと異なる原判決を上記の限度で変更することとして,主文のとおり判決する(仮執行の免脱は相当でないから,これを付さない。)。広島高等裁判所第2部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

々長上友之本正道丈博
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