判例検索β > 平成29年(行ケ)第10083号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10083
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成29年12月21日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨判決年月日 平成29年12月21日 担
当 知的財産高等裁判所 第4部

事 件 番 号 平成29年(行ケ)10083号
○ 発明の名称を「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」とする発明について,特許
請求の範囲に製造方法が記載されているとしても,本件発明に係る無洗米のどのような
構造又は特性を表しているのかは,特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に
明らかであるから,明確性要件に違反するということはできないとした事例。
(関連条文)特許法36条6項2号
(関連する権利番号等)特許第4708059号,無効2015-800173号
判 決 要 旨
発明の名称を「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」とする発明に係る特許について,
特許無効審判請求がされたところ,特許庁は,請求項1に係る発明についての特許を無効
とし,請求項2及び3に係る発明についての審判請求は成り立たない旨の審決をした。本
件は,特許権者が,審決のうち請求項1に係る部分の取消しを求める事案である。
審決は,請求項1に係る発明は,明確ではなく,その特許請求の範囲の記載は,明確性
要件を満たさないとして,同発明についての特許を無効とした。
本判決は,以下のとおり,請求項1の記載は明確であって,これが明確性要件に違反す
るということはできないとして,審決のうち,請求項1に係る部分を取り消した。
⑴ 特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によれば,請求項1は全体として,物
の発明である「無洗米」を特定する事項の一部に製造方法が記載されているということが
できる。
⑵ 特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても,当該製造方法が
当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の
記載や技術常識から一義的に明らかな場合には,第三者の利益が不当に害されることはな
いから,明確性要件違反には当たらない。
⑶ 特許請求の範囲請求項1には,本件発明は,玄米粒において,⒜表層部から糊粉細
胞層までが除去され亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出しており,⒝米粒の50%以上に「胚
芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており,⒞糊粉細胞層の中の糊粉顆
粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみが分離除去さ
れてなることを特徴とする,旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の発明であることが記
載されている。
また,本件明細書には,本件発明に係る無洗米の前段階である⒜⒝の米を製造するため
に摩擦式精米機により搗精し,かかる米から⒞の本件発明に係る無洗米を製造するために
無洗米機を用いるということのほかに,摩擦式精米機により搗精される米が⒜⒝以外の構
-1-
造又は特性を有することや,かかる米を無洗米機により無洗米としたものが,⒞以外の構
造又は特性を有することをうかがわせる記載は存在しない。
以上のような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば,請求項1の「摩擦式精米
機により搗精され」という記載は,本件発明に係る無洗米の前段階である⒜⒝の構造又は
特性を有する精白米を製造する際に摩擦式精米機を用いることを意味するものであり, 無

洗米機(21)にて」という記載は,上記精白米から⒞の構造又は特性を有する無洗米を
製造する際に無洗米機を用いることを意味するものであって,(a)ないし⒞のほかに本件発
明に係る無洗米の構造又は特性を表すものではないと解するのが相当である。
そうすると,請求項1に「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21)にて」
という製造方法が記載されているとしても,本件発明に係る無洗米のどのような構造又は
特性を表しているのかは,特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかであ
る。
-2-
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平成29年12月21日判決言渡
平成29年(行ケ)第10083号
口頭弁論終結日

同日原本領収

裁判所書記官

審決取消請求事件

平成29年11月21日
判決原告
東洋ライス株式会社

同訴訟代理人弁護士

平同
弁理士

岡被告
同訴訟代理人弁理士

野1宏健司
幸南食糧株式会社

井内高主和田龍二一文
特許庁が無効2015-800173号事件について平成29
年3月24日にした審決のうち,特許第4708059号の請求
項1に係る部分を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求

主文同旨
第2

事案の概要

1
特許庁における手続の経緯等



原告は,平成17年3月28日,発明の名称を「旨み成分と栄養成分を保持
した無洗米」とする特許出願をし,平成23年3月25日,設定の登録(特許第4708059号)
を受けた
(請求項の数3。
以下,
この特許を
「本件特許」
という。。



被告は,平成27年9月4日,本件特許の請求項1ないし3に係る発明につ
いて特許無効審判を請求し,無効2015-800173号事件として係属した。⑶

原告は,平成28年11月21日,本件特許に係る特許請求の範囲及び明細
書を訂正する旨の訂正請求をした(以下「本件訂正」という。甲24)。⑷

特許庁は,平成29年3月24日,本件訂正を認めるとともに,本件特許の
請求項1に係る発明についての特許を無効とする,請求項2及び3に係る発明についての審判請求は成り立たない旨の別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月1日,原告に送達された。⑸

原告は,平成29年4月22日,本件審決中,本件特許の請求項1に係る部
分の取消しを求める本件訴訟を提起した。なお,被告は,本件審決中,本件特許の請求項2及び3に係る部分の取消しを求める訴訟を提起したが,出訴期間経過を理由に訴えが却下され,確定した(当庁平成29年(行ケ)第10103号)。2
特許請求の範囲の記載

本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲26)。以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。また,本件訂正後の明細書(甲25)を,図面(甲23)を含めて,「本件明細書」という。なお,「/」は,原文の改行部分を示す。
【請求項1】外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,/前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,摩擦式精米機により搗精され,表層部から糊粉細胞層(4)までが除去された,該一層の,マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層
(5)
が米粒の表面に露出しており,
且つ米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており,/更に無洗米機(21)にて,前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみが分離除去されてなることを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米。
3
本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本件発明は,明確ではなく,その特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件(以下「明確性要件」という。)を満たさないから,本件発明に係る特許は無効にすべきである,などというものである。
4
取消事由

明確性要件に係る判断の誤り
第3

当事者の主張

〔原告の主張〕
1
請求項1に製造方法が記載されているとの認定の誤り



本件審決は,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の「前記玄米粒を構成す
る糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,摩擦式精米機により搗精され,
表層部から糊粉細胞層
(4)
までが除去された」
という記載は,
「摩擦式精米機により搗精」という方法により「除去」している旨を特定するものであり,製造に関して技術的な特徴や条件を付す記載であるから,物の製造方法の記載である旨認定した。
しかし,請求項1における「摩擦式精米機により搗精され」という記載は,摩擦式精米機によって搗精するという,能動的な動作を示すものではなく,玄米粒を構成する糊粉細胞層が剥離された状態を示すものである。また,「表層部から糊粉細胞層(4)までが除去された」という記載も,表層部から糊粉細胞層までを除去するという,能動的な動作を示すものではなく,表層部から糊粉細胞層までの肌ぬかが除去された状態を示すものである。これらの記載は,無洗米の構造又は特性を特定しているにすぎないものであり,物の製造方法の記載ではない。⑵

本件審決は,
本件訂正により,
請求項1の
「更に前記精米機による搗精後に,

無洗米機
(21)
に供給し」
という,
物の製造方法に係る記載が削除されたものの,
同訂正は物の製造方法を含む記載に係る技術的意義を拡張・変更していないことからすると,請求項1の全体の記載は,本件訂正前と同様に,製造に関して経時的な要素の記載がある場合,又は,製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当し,物の製造方法が記載されている旨認定した。
しかし,
本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,
無洗米の構造について,
表層部から糊粉細胞層までを除去し,亜糊粉細胞層を外面に残した状態,かつ,糊粉細胞層の細胞壁が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみを分離除去した状態を示すものにすぎず,製造に関する経時的な要素や,製造に関する技術的な特徴や条件によることなく,無洗米の構造又は特性を特定しているものである。


本件審決は,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の「無洗米機(21)に
て,前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」という記載は,「無洗米機(21)にて」という方法により「『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」旨を特定するものであり,製造に関して技術的な特徴や条件を付す記載であるから,物の製造方法の記載である旨認定した。しかし,上記請求項1の記載は,糊粉細胞層の細胞壁が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみを分離除去した状態であることを示すものにすぎない。上記記載は,製造に関する経時的な要素や,製造に関する技術的な特徴や条件によることなく,無洗米の構造又は特性を特定するものであり,物の製造方法の記載ではない。
また,本件審決は,①当業者にとって,摩擦式精米機ではない研削式精米機による搗精によっては,本件発明に係る「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」を製造することが簡単ではないといえたとしても,不可能であるとまではいえないし,精米機によらない搗精についても同様である,②当業者にとって,無洗米機ではない洗米機や人の手によるものによっては,本件発明に係る「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」を製造することが簡単ではないといえたとしても,不可能であるとまではいえない,と認定したが,この点について何ら具体的かつ積極的な根拠を示しておらず,同認定は失当である。
2
本件発明は明確性要件を充足すること

仮に,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21)にて」という記載が物の製造方法の記載であるとする本件審決の認定に誤りがないとしても,以下のとおり,本件発明は,明確性要件を充足する。


最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁が,出
願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すのではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。したがって,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合でも,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から明確であれば,あえて明確性要件との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。


本件明細書によれば,本件発明の課題は,「白米でありながら旨み成分と栄
養成分を保持した無洗米…を提供する」(【0005】)ことであり,「胚盤9や亜糊粉細胞層5には米粒の栄養成分及び旨み成分を多く含有」しており(【0023】),「玄米,分搗き米,胚芽米などの食味がよくないのは,ご飯のおいしさの足を引っ張る物質が残っているせいである。それらが除去されている完全精白米でも,洗米して炊かないと食味が良くないのは,精米過程で発生した糊粉細胞層4の細胞壁4’が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に『肌ヌカ』として付着されている」
(【0015】)ことを解決するものである。
また,本件審決が認定するとおり,摩擦式精米機により搗精され,更に無洗米機にて肌ぬかを除去して無洗米とすることは,
本件特許の出願前に周知のことであった。
そして,本件明細書の記載(【0005】,【0015】,【0017】,【0019】~【0021】,【0023】,【0025】,【0028】,【0031】,【0041】~【0043】)によれば,本件発明に係る無洗米は,「胚盤9や亜糊粉細胞層5には米粒の栄養成分及び旨み成分を多く含有しているのであるから,これを可及的に残すと共に,食味にマイナス作用を与える糊粉細胞層4やそれより表層の物質,
いわゆる糠層成分や,
胚芽7の表面部を可能なかぎり除去」【0

023】)したもの,すなわち,「むら剥離を無くすと共に,可能なかぎり高栄養・良食味の亜糊粉細胞層5と胚盤9か,または,口当たりの悪い胚芽7の表面部を除去した胚芽8を残るように」「亜糊粉細胞層5が表面に露出し」【0028】,し,


「亜糊粉細胞層5は除去されず,肌ヌカが除去され…全米粒のうち,胚盤9または表面部が除去された胚芽8が残存した米粒の合計数が50%以上を占めている」【0(
041】)無洗米であると認められる。
そうすると,本件発明に係る無洗米の構造,特性が,「一層の亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出した状態,
米粒の50%以上に
『胚芽の表面部を削りとられた胚芽』
又は『舌触りの良くない胚芽の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤』が残った状態,糊粉細胞層の細胞壁が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみを分離除去した状態」であることは明確であるから,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,権利範囲についての予測可能性を奪うものではなく,第三者の利益が不当に害されるものでもない。
したがって,本件審決が本件発明は明確性要件を満たさないと判断したことは,誤りである。
〔被告の主張〕
本件訂正後の特許請求の範囲請求項1は,玄米粒,搗精処理された精白米,無洗米処理された無洗米と,明らかに時の経過を伴う製造プロセスを含んだ記載によって無洗米を特定しており,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームとなっている。
また,「無洗米」という物の発明としての権利取得を希望するのであれば,無洗米機により洗米処理された後の,「無洗米の現在ある構造(構成)」のみの記載により,発明を特定しなければならないところ,上記請求項においては,無洗米機による洗米プロセスを経た後の,本来最も長く正確に記載すべき無洗米の構成は,ほとんど記載されておらず,無洗米の発明としての特定に失敗している。したがって,本件発明は,明確性要件を満たしていない。
第4
1
当裁判所の判断
本件発明について

本件明細書には,本件発明について,おおむね以下の記載がある(下記記載中に引用する【図1】,【図6】及び【図7】については,別紙本件明細書図面目録を参照。)。


技術分野

本件発明は,白米でありながら,米粒の亜糊粉細胞層と胚盤を残して,旨み成分と栄養成分を保持した無洗米に関するものである(【0001】)。⑵

背景技術
米は,精米機によって,玄米を1分搗きから完全精白米まで自由に精白度を高められるが,高白度になるほど栄養成分が除去されてしまう。一方,玄米に近い低白度のものほど,栄養的に優れてはいるが,それに反比例して,食味が悪いだけでなく,消化吸収性もよくないため,玄米や分搗き米や胚芽米は敬遠される(【0002】,【0003】)。


発明が解決しようとする課題

本件発明は,白米でありながら旨み成分と栄養成分を保持した無洗米を提供するものである(【0005】)。


発明を実施するための最良の形態


米粒表層部の表皮,果皮,種皮,糊粉細胞層までの層は,澱粉を含まず,食
味上も良くない黄茶色の物質であり,米のおいしさの足を引っ張る物質である。玄米,分搗き米,胚芽米などの食味が良くないのは,おいしさの足を引っ張る物質が残っているせいであり,それらが除去されている完全精白米でも,洗米して炊かないと食味が良くないのは,精米過程において,糊粉細胞層の細胞壁が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に「肌ヌカ」として付着されているからである(【0014】,【0015】)。

一方,【図1】のとおり,糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層より一段深層
に位置する薄黄色をした亜糊粉細胞層5は,その成分は澱粉だけではなく,種々の有益成分を含有し,極めておいしさを感じさせる旨み成分だけでなく,栄養的にも優れたものを含有している。また,【図7】のごとく胚芽7の表面部を除去された胚芽8や,【図6】のごとくそれを更に削り取って胚盤9だけが残ったものは,消化性も良く,甘みもあり,栄養成分も多い。胚盤や亜糊粉細胞層は米粒の栄養成分及び旨み成分を多く含有しているので,これを可及的に残すとともに,食味にマイナス作用を与える糊粉細胞層やそれより表層の物質,いわゆるぬか層成分や,胚芽の表面部を可能な限り除去すればよい【0015】【0016】【0023】。(




従来の精白米は,食べやすいが栄養成分が少ない精白米か,栄養成分が多いが極めて食味がまずいものしかなかった。それを解決するには,摩擦式精米機での精米過程で,これまで気付かなかった,低精白米の状態の時に,脱芽したり,排出されるぬかの中に澱粉が含まれることを可及的に少なくし,つまり,可能な限り中途精米過程での1粒当りの米粒の剥離差を生じなくするとともに,可能な限り高栄養・良食味の亜糊粉細胞層と胚盤か,口当たりの悪い胚芽の表面部を除去した胚芽を残るようにする。その上で,亜糊粉細胞層が表面に露出した時に搗精を終わらせることが必要となる(【0028】)。

精米機で仕上げられたままでは肌ぬかが表面に付着しているため,無洗米機
にて肌ぬかを除去し,無洗米に仕上げる。無洗米機にかけた無洗米は,亜糊粉細胞層は除去されず,肌ぬかが除去され,白度41~45に仕上がっている(【0041】)。

本件発明の無洗米は白度41以上であっても,その表面は亜糊粉細胞層に覆
われている。しかも,全米粒のうち,胚盤又は表面を除去された胚芽が残った米粒の合計数が50%以上も占めている。したがって,その食味は,従来のご飯とは異なったおいしさがある(【0043】)。
2
取消事由(明確性要件に係る判断の誤り)について



明確性要件について

特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うなど第三者の利益が不当に害されることがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。


本件発明について


特許請求の範囲の記載

本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,前記第2の2のとおりであり,本件発明は,玄米粒において,⒜表層部から糊粉細胞層までが除去され亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出しており,⒝米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており,⒞糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみが分離除去されてなることを特徴とする,旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の発明である。イ
明細書の記載

本件明細書には,玄米粒を摩擦式精米機により搗精すること及び搗精した米を無洗米機により無洗米とすることについて,おおむね以下の記載がある。【0025】…これまでの概念では,摩擦式精米機では発生した糠粉を介在しながら,米粒同士を擦れ合わせて米粒の表面を剥離する方式であるから,球形とは異なる米粒表面の凹凸にかかわらず,表面が均等に剥離されていくものと考えられていたがそれは誤りであることが判明した。…完全精白米に精白される直前の高白度分搗き米を1粒当たりで見ても,米粒の全表面の内,胚芽の脱芽だけでなく,深層の亜糊粉細胞層5が削ぎ落とされ,更に,澱粉細胞層6の表面も若干削りとられている過精白部分もあれば,未だ糊粉細胞層4が残ったままの未精白部分も多く存在する…
【0027】胚芽米の製造手段の研削式精米機の場合になると,砥石などで米粒の表面を削る方式であるために,摩擦式の場合より,一層むら剥離が生じ,高白度になると,澱粉細胞層6も削ぎ落とされている個所もあれば,糊粉細胞層4だけでなく,それより表層の糠層が残ったままの部分もあるという状態になる。…【0028】…従来の精白米は,食べやすいが栄養成分が少ない精白米か,栄養成分が多いが極めて食味がまずいものしかなかったのである。
それを解決するには,
摩擦式精米機での精米過程で,これまで気付かなかった,低精白米の状態の時に,脱芽したり排出される糠の中に澱粉が含まれることを可及的に少なくし,つまり,(1)可能な限り中途精米過程での1粒当りの米粒の剥離差を生じなくする,つまりむら剥離を無くすと共に,可能なかぎり高栄養・良食味の亜糊粉細胞層5と胚盤9か,または,口当たりの悪い胚芽7の表面部を除去した胚芽8を残るようにする。
(2)その上で,亜糊粉細胞層5が表面に露出した時に搗精を終わらせることが必要となる。
…この(1)の問題は,…昔から精米業界で常識として行われてきた方式を,次のように変えることで実現できる。…
【0029】能率を向上させるために,従来の摩擦式精米機では精白除糠網筒の内面にイボ状,または線状等の突起を設け,糠層を一度に分厚く剥離していたのをなくし,同網筒の内面を滑面にしたり,更にこれも能率の向上には逆行するが,従来の『ヘの字型』搗精,即ち,精米行程の中間行程が,他の行程のところより集中して精白しているのを変え,全行程で均等に精白したり,非効率的ではあるが,同精米機の回転数を早めることなどが有効である。また(2)については,(1)の完了後に亜糊粉細胞層5が表面に現れた時の白度が35~38(米粒により差がある)となるので,最適の状態に仕上げるような白度計と黄色度計を用いて,試験搗精の上で,対処できる。従って,本発明の精米装置は,次のとおり従来の装置を若干変更するだけで実現できる。
【0030】<実施例の説明>
本発明の装置の1実施例を図3に基づき説明する。玄米張込口11より第1昇降機12を経て,供給された玄米を貯蔵する玄米タンク13からの玄米供給を受ける第1精米機14,及び第2昇降機15から低白度中途精白米の供給を受ける第2精米機16,及び第3昇降機17から高白度中途精白米の供給を受ける第3精米機18と,各装置が連設されて精米装置が構成されている。なお,第1精米機14,第2精米機16,第3精米機18はいずれも摩擦式精米機である(但し第1精米機14のみは研削式にする場合もある。)…本装置のモーター…は3台とも同馬力のものを付設している。
【0031】また,それらの摩擦式精米機の回転数も毎分900回転以上の高速回転で運転される。更にそれらの摩擦式精米機の精白除糠網筒…の内面は,若干微細な凹凸があるものの,従来のものにくらべ,はるかに凸部が低くなっている。そして第3精米機18から排出された精白米は…無洗米機21に供給され,同無洗米機21にて無洗米に仕上げられ…この無洗米機21は肌ヌカを除去出来るものならどれでも良い。…
【0033】…第1精米機14は玄米を僅かに精白するだけであるから,従来のままでも米粒の亜糊粉細胞層5まで削られることはない。(但し,研削式の場合は砥石を60番以上にする必要あり)…第2精米機16…は,(1)精白除糠網の内面がほとんど,滑面状となっているから,(2)また第2精米機16では第1精米機14や第3精米機18と同状の軽負荷しかかけないから,更に,(3)本装置は毎分900回の高速回転をさせているから,それらの作用により精白時に,従来の如く,一度に分厚く糠層が削ぎ落とされたり,ムラ剥離されることはない。また摩擦式精米機特有の胚芽が根こそぎ脱落することもない。
【0035】
そして,
その米を第2精米機16と同一構成の第3精米機18にて,
第2精米機16とほぼ同負荷で搗精することによって,白度35~38に仕上げられるのである。…白度35~38の内のどの白度に仕上げるかは,上記装置のミニチュア機と,白度計と,炊飯器と,黄色度計を用い,そのロットの米はどの白度に仕上げれば良いかを事前に確認しておき,その白度で仕上げる…
【0036】…そのようにして得た白度35~38に仕上がった精白米は,…ほとんど亜糊粉細胞層5も削ぎ落とされていないし,胚芽7の表面部を除去された胚芽8や,胚盤9もかなり残存しているのである。また,亜糊粉細胞層5の表面に未剥離の糊粉細胞層4がほとんど残存していない…
【0041】…精米機で仕上げられたままでは肌糠が表面に付着しているため,それを第4昇降機19にて精白米タンク20に投入し,無洗米機21にて肌糠を除去し,無洗米に仕上げられ,排出口22より排出する。このように無洗米機21にかけるのは,せっかく亜糊粉細胞層5や胚盤9などを残した精白米に仕上がっているのに,これを手作業や洗米機で強くゴシゴシと米を研がれると剥離しやすい亜糊粉細胞層5や胚盤9などが流失してしまうからである。その点,無洗米機21にかけた場合は,排出された無洗米は,亜糊粉細胞層5は除去されず,肌ヌカが除去され,白度41~45に仕上がっている。また全米粒のうち,胚盤9または表面部が除去された胚芽8が残存した米粒の合計数が50%以上を占めているのである。ウ
製造方法の記載の有無

前記イのとおり,本件明細書には,運転条件(搗精の条件)が調整された摩擦式精米装置を適用することによって,本件発明に係る無洗米の前段階である,前記ア⒜⒝の米を製造することが可能である旨(【0028】~【0035】)や,型式(無洗米とする方式)が特定され運転条件が調整された無洗米機を適用することにより,上記無洗米の前段階である米から,前記ア⒞の本件発明に係る無洗米を製造することが可能である旨(【0041】)が記載されている。
そうすると,請求項1における「摩擦式精米機により搗精され」という記載は,本件発明に係る無洗米の前段階である,玄米粒の表層部から糊粉細胞層までが除去され,亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出しており,米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っている米の製造方法を記載したものと解するのが相当である。また,請求項1における「無洗米機(21)にて」とは,上記無洗米の前段階である米から,糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみが分離除去された,本件発明に係る無洗米を製造する方法を記載したものと解するのが相当である。以上のような特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によれば,請求項1は全体として,物の発明である「無洗米」を特定する事項の一部に製造方法が記載されているということができる。
なお,本件審決は,本件訂正により,請求項1の「更に前記精米機による搗精後に,無洗米機(21)に供給し」という記載が削除されたものの,同訂正は物の製造方法を含む記載に係る技術的意義を拡張・変更していないことからすると,請求項1の全体の記載は,本件訂正前と同様に,上記記載と同義と解せる記載がある場合に該当し,物の製造方法が記載されている旨認定した。しかし,本件訂正により上記記載が削除された結果,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1には,これに対応する部分は存在しない。したがって,仮に,上記記載を削除したことによって,本件訂正前の物の製造方法を含む記載に係る技術的意義を拡張・変更していないとしても,そのことを理由に,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に,本件訂正前と同様に,上記記載と同義と解される物の製造方法に関する記載があるとは認められず,本件審決の上記認定判断は誤りである。


本件発明の明確性


物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載さ
れている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう
「発明が明確であること」
という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。しかるに,原告は,本件特許の出願時において上記「無洗米」をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在することについて,主張立証しない。

他方,前記最高裁判決が,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲に
その物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると判示した趣旨は,特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すのではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても,上記一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から一義的に明らかな場合には,第三者の利益が不当に害されることはないから,明確性要件違反には当たらない。

そこで検討するに,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,前記第
2の2のとおりであり,本件発明は,玄米粒において,⒜表層部から糊粉細胞層までが除去され亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出しており,
⒝米粒の50%以上に
「胚
芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており,⒞糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみが分離除去されてなることを特徴とする,旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の発明であることが記載されている。

また,前記1及び前記⑵イのとおり,本件明細書には,①本件発明は,白米
でありながら旨み成分と栄養成分を保持した無洗米を提供することを課題とするものであること(【0005】),②玄米,分搗き米,胚芽米などの食味が良くないのは,おいしさの足を引っ張る物質(米粒表層部の表皮,果皮,種皮,糊粉細胞層までの層)が残っているせいであり,それらが除去されている完全精白米でも,洗米して炊かないと食味が良くないのは,精米過程において,糊粉細胞層の細胞壁が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に「肌ヌカ」として付着されているからであること(【0014】,【0015】),③一方,胚盤や亜糊粉細胞層は米粒の栄養成分及び旨み成分を多く含有しているので,これを可及的に残すとともに,食味にマイナス作用を与える糊粉細胞層やそれより表層の物質,
いわゆるぬか層成分や,
胚芽の表面部を可能な限り除去すればよいこと【0

023】),④従来の精白米に,食べやすいが栄養成分が少ない精白米か,栄養成分が多いが極めて食味がまずいものしかなかったという問題を解決するには,摩擦式精米機での精米過程において,可能な限り亜糊粉細胞層と胚盤又は胚芽の表面部を除去した胚芽を残るようにした上,亜糊粉細胞層が表面に露出した時に搗精を終わらせる必要があるところ,運転条件(搗精の条件)が調整された摩擦式精米装置を適用することによって,本件発明に係る無洗米の前段階である,前記ウ⒜⒝の米を製造することが可能であること(【0028】~【0035】),⑤また,精米機で仕上げられたままでは肌ぬかが表面に付着しているため,無洗米機にて肌ぬかを除去し,無洗米に仕上げる必要があるところ,型式(無洗米とする方式)が特定され運転条件が調整された無洗米機を適用することにより,上記無洗米の前段階である米から,
前記ウ⒞の本件発明に係る無洗米を製造することが可能であること【0(
041】),⑥本件発明の無洗米は,その表面が亜糊粉細胞層に覆われ,全米粒のうち,胚盤又は表面を除去された胚芽が残った米粒の合計数が50%以上を占めているため,従来のご飯とは異なったおいしさがあること(【0043】)が記載されている。
他方,本件明細書には,本件発明に係る無洗米の前段階である前記ウ⒜⒝の米を製造するために摩擦式精米機により搗精し,かかる米から前記ウ⒞の本件発明に係る無洗米を製造するために無洗米機を用いるということのほかに,摩擦式精米機により搗精される米が前記ウ⒜⒝以外の構造又は特性を有することや,かかる米を無洗米機により無洗米としたものが,前記ウ⒞以外の構造又は特性を有することをうかがわせる記載は存在しない。

以上のような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の「摩擦式精米機により搗精され」という記載は,本件発明に係る無洗米の前段階である前記ウ⒜⒝の構造又は特性を有する精白米を製造する際に摩擦式精米機を用いることを意味するものであり,
「無洗米機(21)にて」
という記載は,上記精白米から前記ウ⒞の構造又は特性を有する無洗米を製造する際に無洗米機を用いることを意味するものであって,前記ウ⒜ないし⒞のほかに本件発明に係る無洗米の構造又は特性を表すものではないと解するのが相当である。そして,本件発明に係る無洗米とは,玄米粒の表層部から糊粉細胞層までが除去され,亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出し,米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており,糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」が分離除去された米であるといえる。
そうすると,請求項1に「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21)にて」という製造方法が記載されているとしても,本件発明に係る無洗米のどのような構造又は特性を表しているのかは,特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかである。よって,請求項1の上記記載が明確性要件に違反するということはできない。


被告の主張について


被告は,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1は,いわゆるプロダクト・バ
イ・プロセス・クレームとなっており,また,「無洗米」という物の発明としての権利取得を希望するのであれば,無洗米機により洗米処理された後の,「無洗米の現在ある構造
(構成)のみの記載により,

発明を特定しなければならないところ,
上記請求項に無洗米の構成はほとんど記載されておらず,本件発明は明確性要件を満たしていない旨主張する。
しかし,上記請求項1の記載のうち,「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21)にて」という記載が,物の製造方法の記載であると認められることについては,前記⑵のとおりであるが,これらの記載が,当該物のどのような構造又は特性を表しているのかは一義的に明らかであり,上記請求項1の記載が明確性要件に違反するものではないことについては,前記⑶のとおりである。イ
なお,
被告は,
原告の主張する取消事由に対して反論するほか,
本件訂正は,

本件訂正前の特許請求の範囲請求項1ないし3が「無洗米」という一群の請求項の記載であったものを,「無洗米」及び「無洗米の製造方法」という二つの群の請求項とするものであり,
実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものであるから,
本件訂正を認めた本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,本件訂正は,請求項1の記載を引用する請求項2の記載を請求項1の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正を含むものであり(甲24),かかる訂正が認められるときは,請求項1は請求項2及び3と一群の請求項となるものではない。したがって,本件訂正のうち請求項1に係るものと請求項2及び3に係るものとは,訂正の適否について別個独立に判断するべきものであるところ,請求項1は,本件訂正の前後を通じて「無洗米」という物の発明であることから,被告の上記主張は,
既に確定した請求項2及び3に関するものと解され,
失当である。

また,被告は,本件審決における無効理由2に関する判断,すなわち,本件
訂正後の特許請求の範囲請求項1の㋐「食味上もよくない黄茶色の物質の層」,㋑「該一層の,マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており,」及び㋒「米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており,」との記載が明確性要件を満たすものとした判断も誤りである旨主張する。
しかし,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載(前記第2の2)及び本件明細書の記載(【0014】,【0023】,【0028】,【0041】,【0043】)(前記1⑷,2⑵イ)によれば,上記㋐は,表皮,果皮,種皮及び糊粉細胞層により構成される玄米粒の表層部を,上記㋑は,玄米粒から表皮,果皮,種皮及び糊粉細胞層までの表層部が除去され,マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する一層の亜糊粉細胞層が,
米粒の表面にむき出しになる状態を,
上記㋒は,
摩擦式精米機により搗精された全米粒のうち半数以上に,胚芽の表面部を削りとられた胚芽又は舌触りの良くない胚芽の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤が残っている状態を,それぞれ意味するものであると解するのが相当であり,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないから,明確性要件違反には当たらない。

したがって,被告の上記主張は,いずれも採用できない。また,被告は,そ
のほかにもるる主張するが,いずれも採用できない。


小括

したがって,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は明確であって,これが明確性要件に違反するということはできない。よって,取消事由は理由がある。3
結論

よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

髙部
裁判官

山門優
裁判官

片瀬亮眞規子
別紙
本件明細書図面目録

【図1】

【図7】

【図6】

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