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再生計画認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
事件番号平成29(許)19
事件名再生計画認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
裁判年月日平成29年12月19日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別決定
結果棄却
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成29(ラ)651
原審裁判年月日平成29年5月30日
判示事項小規模個人再生において住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たり無異議債権の存否等を考慮することの可否(積極)
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平成29年(許)第19号

再生計画認可決定に対する抗告審の取消決定に対す

る許可抗告事件
平成29年12月19日

第三小法廷決定

主文
本件抗告を棄却する
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告代理人村上誠,同今朝丸一,同赤尾さやかの抗告理由について1
本件は,抗告人を再生債務者とする小規模個人再生(以下「本件再生手続」
という。)における住宅資金特別条項を定めた再生計画について,民事再生法(以下「法」という。)202条2項4号の不認可事由の有無が争われた事案である。2
(1)

記録によれば,本件の経緯等は,次のとおりである。
税理士である抗告人は,平成25年2月,顧客である相手方から債務不履
行に基づく損害賠償請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起された。(2)

抗告人は,平成25年12月,その所有する土地建物について,抗告人の
実弟であるAの抗告人に対する平成11年10月10日付け金銭消費貸借契約に基づく2000万円の貸付債権(以下「本件貸付債権」という。)を被担保債権とする抵当権を設定した旨の仮登記(以下「本件仮登記」という。)を経由した。なお,上記土地建物には,同土地建物についての住宅ローン債権(以下「本件住宅ローン債権」という。)を被担保債権とする順位1番の抵当権が設定され,その旨の登記が経由されていた。
(3)

別件訴訟の控訴審において,平成28年4月,抗告人に対し,相手方に約
1160万円及び遅延損害金を支払うよう命ずる判決が言い渡され,同判決はその頃確定した(以下,同判決によって確定した損害賠償債権を「本件損害賠償債権」という。)。(4)

抗告人は,平成28年8月26日,本件仮登記の抹消登記を経由した。
(5)

抗告人は,平成28年9月7日,東京地方裁判所に対し,本件再生手続に
係る再生手続開始の申立てをし,同月20日,再生手続開始の決定を受けた。上記申立てに当たり抗告人が提出した債権者一覧表には,本件住宅ローン債権以外に,本件貸付債権及び本件損害賠償債権を含め,再生債権の額又は担保不足見込額の合計が約4027万円となる債権が記載されていた。
(6)

相手方は,債権届出期間内に,再生債権の額を約1345万円として本件
損害賠償債権の届出をした。Aは,上記届出期間内に本件貸付債権の届出及びこれを有しない旨の届出をせず,法225条により,上記債権者一覧表の記載内容と同一の内容で再生債権の届出をしたものとみなされた。
(7)

本件貸付債権及び本件損害賠償債権について一般異議申述期間を経過する
までに抗告人及び届出再生債権者から異議が述べられなかったことから,A及び相手方は,法230条8項により,届出再生債権の額に応じてそれぞれ議決権を行使することができることとされた。
本件再生手続における議決権者は相手方及びAを含む10名であり,議決権者の議決権の総額は約3705万円であった。
(8)

抗告人は,平成28年12月19日,再生裁判所に対し,本件住宅ローン
債権につき住宅資金特別条項を定めた上で,本件住宅ローン債権を除く再生債権につき90%の免除を受け,これを分割返済する旨の再生計画案(以下「本件再生計画案」という。)を提出した。
(9)

再生裁判所は,平成28年12月27日,本件再生計画案を決議に付する
決定をし,相手方のみが同裁判所が定めた期間内に本件再生計画案に同意しない旨の回答をした。本件再生計画案は,同意しない旨を回答した議決権者の数が議決権者総数の半数に満たず,かつ,当該議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないとして,法230条6項により可決されたものとみなされた。(10)

原々審は,平成29年1月19日,上記(9)のとおり本件再生計画案が可決された再生計画(以下「本件再生計画」という。)につき認可の決定(原々決定)をした。相手方は,原々決定に対し,即時抗告をした。
(11)

抗告人は,原審において本件貸付債権の裏付けとなる資料の提出を求めら
れたが,借用証や金銭の交付を裏付ける客観的な資料を提出しなかった。3
原審は,抗告人が実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表
に記載するなどの信義則に反する行為により本件再生計画案を可決させた疑いが存するので,本件貸付債権の存否を含め信義則に反する行為の有無につき調査を尽くす必要があるとして,原々決定を取り消し,本件を原々審に差し戻した。4
所論は,本件貸付債権は法230条8項にいう無異議債権であるから,本件
再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては本件貸付債権が存在することを前提に判断することを要し,本件の事実関係の下において,本件貸付債権の存否について調査をする必要があるとして原々決定を取り消した原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある旨をいうものである。
5
法231条が,小規模個人再生において,再生計画案が可決された場合にな
お,再生裁判所の認可の決定を要するものとし,再生裁判所は一定の場合に不認可の決定をすることとした趣旨は,再生計画が,再生債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図るという法の目的(法1条)を達成するに適しているかどうかを,再生裁判所に改めて審査させ,その際,後見的な見地から少数債権者の保護を図り,ひいては再生債権者の一般の利益を保護しようとするものであると解される。そうすると,小規模個人再生における再生計画案が住宅資金特別条項を定めたものである場合に適用される法202条2項4号所定の不認可事由である「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」には,議決権を行使した再生債権者が詐欺,強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当である(最高裁平成19年(許)第24号同20年3月13日第一小法廷決定・民集第62巻3号860頁参照)。
そして,上記の趣旨によれば,小規模個人再生において,再生債権の届出がされ(法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。),一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当である。6
これを本件についてみると,抗告人は,本件再生手続に係る再生手続開始の
申立てに当たり,債権者一覧表に本件貸付債権を記載して提出し,本件貸付債権は再生債権の届出をしたとみなされたものである。しかしながら,本件貸付債権は,抗告人が本件再生手続に係る再生手続開始の申立てより16年以上前にその実弟であるAから2000万円の貸付けを受けたことにより発生したというものであり,本件仮登記が経由されたのは,別件訴訟の提起後で上記貸付けの時から14年以上を経過した平成25年12月であって,抗告人は,原審において本件貸付債権の裏付けとなる資料の提出を求められながら,借用証や金銭の交付を裏付ける客観的な資料を提出していないなど,本件貸付債権が実際には存在しないことをうかがわせる事情がある。そして,本件貸付債権については一般異議申述期間内に異議が述べられなかったため,Aは議決権の総額の2分の1を超える議決権を行使することができることとなり,本件再生計画案が可決されるに至っている。
以上の事情によれば,本件においては,抗告人が,実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどして本件再生計画案を可決に至らしめた疑いがあるというべきであって,抗告人が再生債務者として債権者に対し公平かつ誠実に再生手続を追行する義務を負う立場にあることに照らすと(法38条2項参照),本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた疑いが存するといえる。しかるに,本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かについて,本件貸付債権の存否を含めた調査は尽くされていない。
7
以上によれば,本件再生計画を認可した原々審の判断は不当であるとして,
原々決定を取り消し,更に審理を尽くさせるため本件を原々審に差し戻した原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官木内道祥の補足意見がある。
裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
1
信義則に反する行為の主体

本件の争点は,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてなされたか否かであるが,法廷意見が再生債務者である抗告人に債権者に対する公平誠実義務があることを指摘しているように,信義則に反する行為の主体が債務者であることが本件の要素であり,一般的に,実体法上存在しない債権によって議決権を行使されて再生計画案が可決されたことをもって信義則違反とするものではない。小規模個人再生においては,債務者による債権者一覧表への再生債権の記載が債権者による債権届出とみなされ(法225条),債権者が再生計画案に不同意を表明しなければ同意として扱われる(法230条6項)ため,債権者の関与がなくても債務者の行為だけによって再生計画案の可決がもたらされることがあり得る。本件はそのような事案であり,抗告人がAの債権を債権者一覧表に記載し,議決権の過半数を占めることとなったAから不同意の表明がなかった結果,本件再生計画案が可決されるに至った。本件は,この点について,抗告人に信義則に反する行為があるといえるか否かを問題とするものである。
2
手続内確定と信義則違反

抗告人の主張は,本件貸付債権は,相手方が異議を述べず手続内において確定しているのであるから,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされたか否かは,本件貸付債権が存在することを前提に判断するべきであるというものである。しかし,手続内で確定していることは,抗告人の債権者一覧表への本件貸付債権の記載などの行為が信義則に反する行為と判定することの妨げとなるものではない。
以下,その理由を述べる。
(1)

手続内確定の意味

通常再生手続では,再生計画の認可,不認可,再生手続の廃止,再生計画の取消しの各場合を通じ,再生債権者表への記載が実体的確定であって,確定判決と同一の効力を持ち,その記載により強制執行をすることができる(法180条,185条,195条6項,7項,189条8項)。これに対して,個人再生手続においてはそのような効力がないために,再生債権の手続内確定といわれているが,手続内確定とされることに積極的な意味が付与されているわけではなく,債権届出(みなし届出も含む),異議申述,評価という手続が設けられており,基準債権(議決権を含む)はその手続によって定まり,それ以上の不服申立手続が設けられていないことをいうにすぎない。抗告人の信義則に反する行為による再生計画案の可決という不認可事由を主張することの可否についてまで,その効力を及ぼすものではない。
(2)

再生計画取消しの事由との関係

再生計画が確定した後に問題となる再生計画取消しの事由として「再生計画が不正の方法により成立したこと」が規定されており(法189条1項1号),これは,再生計画の不認可事由である「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」(法174条2項3号,202条2項4号)と同義である。債務者の行為により存在しない債権による議決権行使がされ,それが不正の方法による再生計画の成立に該当することを事由として再生計画取消しの申立てがされた場合,申立てをした再生債権者がその事由を再生計画認可の決定に対する即時抗告で主張していたり,知りながら主張しなかったりした場合には,その申立ては許されないが,そうでない限り,知った時から1月以内で,かつ,認可決定の確定後2年以内であれば,その事由による再生計画取消しの申立てをすることができる(法189条2項)。ここでは,再生債権者が債権の不存在を知らなかった以上,債権調査で異議を述べなかったことは問題とされない。
再生計画の取消しによって再生計画によって変更された債権は原状に復する(法189条7項)のであるから,再生計画の取消しは「後れてなされた再生計画の不認可」ということができる。債権調査で異議を述べなかった再生債権者も,再生計画取消しの申立てにおいて,債務者の行為による議決権行使が不正の方法に該当することを主張できるのであるから,再生債権者の再生計画の不認可事由があるとの主張を,債権調査で異議を述べなかったことを理由として制限することは相当でない。
(3)

破産手続との関係

債務者が実際には存在しない再生債権を債権者一覧表に記載し,それによって再生計画案の可決がもたらされた場合,その再生計画案が定める債務免除が不正に実現されることになり,その実質は,債務免除の不正取得である。この場合に再生計画不認可の決定をすることは,債務免除の不正取得を許容しないということであり,その趣旨は,破産手続における免責不許可の決定と共通のものである。免責手続では,実在しない債権を債権者名簿に記載して債権者に対する配当を減少させようとする行為は,債権者を害する目的の債権者名簿の虚偽記載として免責不許可事由(破産法252条1項7号)に該当するが,免責許可・不許可について,債権者が虚偽債権に対して債権調査で異議を述べたか否かは斟酌されることはない。債権者との間の権利関係を調整し,債務者の経済生活の再生を図るという共通の目的を持つ破産手続において,債務免除の不正取得に対する免責不許可事由がこのようなものであることも,債務者の信義則に反する行為に基づいて再生計画案が可決された場合にそれが不認可事由に該当するか否かの判断において,勘案されるべきである。
(裁判長裁判官


景一

裁判官

岡部喜代子裁判官

木内道祥

裁判官

山崎敏充

裁判官

戸倉三郎)
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