判例検索β > 平成28年(ワ)第1532号
損害賠償等請求事件
事件番号平成28(ワ)1532
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日平成29年11月27日
法廷名大阪地方裁判所
戻る / PDF版
主1文
被告らは,原告Aに対し,連帯して,55万円及びこれに対する平成28年1月4日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

2
原告Aのその余の請求及び原告会社の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,
原告Aに生じた費用の全部と被告らに生じた費用のうちの5分の
4との合計を16分し,その15を原告Aの,その余を被告らの負担とし,その余の費用は全部原告会社の負担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1
1
請求
被告らは,原告Aに対し,連帯して,880万円及びこれに対する平成28年
1月4日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2
被告らは,原告会社に対し,連帯して,220万円及びこれに対する平成28
年1月4日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3
被告会社は,原告A及び原告会社に対し,E全国版朝刊社会面に別紙1記載の
謝罪広告を別紙2記載の掲載要領にて1回掲載せよ。
第2

事案の概要

1
事案の要旨

本件は,原告らが,新聞紙上でその名誉を毀損されたことを前提に,当該新聞を発行する被告会社及びその記者である被告B及び被告Cに対し,被告B及び被告Cに対しては不法行為に基づき,被告会社に対しては使用者責任に基づき,損害賠償金(原告Aにつき880万円,原告会社につき220万円)及びこれに附帯する不法行為日(新聞掲載日)である平成28年1月4日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,被告会社に対し,名誉を回復するのに
適当な処分として,新聞への謝罪広告を求める事案である。
原告らは,名誉毀損の根拠として,当該新聞紙上に,原告Aが,当時理事を務めていた社会福祉法人について不明朗な土地取引を主導し,
同法人に4700万円の損害
を与えたとする内容の記事が掲載された旨主張する。
これに対し,被告らは,原告らの名誉が毀損された事実自体を争うとともに,当該記事の内容が名誉毀損にわたるものであったとしても,いわゆる真実性又は相当性の抗弁が成立し,名誉毀損行為の違法性又は責任が阻却されるものと主張する。2
前提事実(認定根拠を掲げた箇所を除いて,当事者間に争いがないか,弁論の
全趣旨により容易に認められる。

(1)

当事者等
原告Aは,平成22年9月10日から平成26年1月25日まで,神戸市a区
に主たる事務所を有し,特別養護老人ホームの経営等を目的とする社会福祉法人Dの唯一の理事であった者である(甲3,乙4の2)


原告会社は,大阪市内に本店を有し,投資業,不動産の売買及び不動産活用に
関するコンサルタント業,医療コンサルタント業等を目的とする株式会社であり,その代表取締役は,平成22年11月22日から現在まで原告Aがこれを務めている(甲1)


被告会社は,全国紙である日刊新聞Eの発行及び販売を行う株式会社である。

被告B及び被告Cは,被告会社大阪本社編集局社会部の記者として,Eに掲載
する記事の取材及び執筆等を行う者である。
(2)
掲載された新聞記事の内容

平成28年1月4日,被告会社は,E全国版朝刊社会面(31頁)に別紙3記載の記事(以下「本件記事」という。
)を掲載した(甲5,乙25。別紙3は原寸大の本件
記事と概ね一致する。。なお,以下,本件記事に記載された平成23年4月18日付)
けの不動産会社から金属部品会社,金属部品会社からDへの各土地売買取引を併せて「本件土地取引」と,上記不動産会社を「F」と,上記金属部品会社を「G」と,同
取引の対象となった土地(尼崎市b通c丁目d番e,同所d番f,尼崎市g通f丁目h番e,同所h番iの4筆を指す。甲6の1ないし甲6の4,乙15)を「本件土地」という。
本件記事の取材及び執筆等の担当者は被告B及び被告Cである。
3
(1)

争点及び当事者の主張

原告Aに対する名誉毀損の有無

(原告らの主張)

記載内容に人物の実名等が示されていない場合であっても,当該人物の属性等
について一定の知識や情報を有している者らが当該記載を読めば,当該記載に示された人物の属性等を総合することによって当該人物を特定することが可能であるときは,その者らから対象を特定の上不特定多数の第三者に伝播する可能性があれば,名誉毀損における対象の特定としては十分である。

しかるところ,本件記事は,原告Aの実名の記載はないものの,以下の記載を
含んでいる。すなわち,
(ア)「Dは23年4月18日に…土地を購入した」との,土地取引が行われた年月日等を特定した記載
(イ)

この土地取引について「当時の理事長」がEの取材に対して回答した内容の
記載
(ウ)

「Dの内部関係者が法人に損害を加えた疑い」との記載
したがって,上記土地取引当時,原告AがDの理事を務めていたという属性を
知る者のほか,当時Dと取引をしたことがある者やDが運営する老人ホームの職員,利用者などは,上記「当時の理事長」が原告Aであることを容易に把握でき,これらの者から第三者にそのことが伝播される可能性も十分にあった。したがって,本件記事において,原告Aは名誉毀損の対象者として特定できる。

その上で,本件記事は,別紙4記載の内容を含んでいる。そうすると,一般読
者の普通の注意と読み方を基準とした場合,本件記事は,原告Aが,Dにおいて違法は又は不当な土地取引を行い,
Dに4700万円もの損失を発生させたとの印象を与
えるものであって,原告Aの社会的評価を低下させることが明らかである。オ
以上の次第で,本件記事は,原告Aの名誉毀損にわたるものということができ
る。
(被告らの主張)

匿名記事の対象者が特定できるか否かは,一般読者の普通の注意と読み方を基
準として考えるべきであり,ここでいう「一般読者」とは,報道の自由の実質的保障の見地に照らし,とりわけEのように全国に約400万人の読者がいると推定される新聞については,対象とされている人物と親族関係,友人関係,雇用関係,取引関係などの人的関係,金銭的利害関係のある者を除外した不特定多数の公衆と解すべきである。


しかるところ,本件記事には原告Aの実名は記載されておらず,本件土地取引
を主導し実行したのがDの当時の理事長であるとの記載もない。そのほか,別紙4記載の本件記事の内容を原告らと人的関係及び金銭的利害関係を有しない一般読者の普通の注意と読み方を基準に解釈すると,対象者として原告Aが特定できるとはいえない。したがって,本件記事は,原告Aの社会的評価を低下させない。(2)

原告会社に対する名誉毀損の有無

(原告会社の主張)

原告会社は原告Aが代表取締役を務める法人であり,
原告Aを知っている者で

あれば,その多くが,原告会社は原告Aによる実質的な個人企業として同人と一体性を有するものと認識している。したがって,本件記事によって原告Aが対象者であると特定できる以上,原告会社についても特定されているといえる。イ
争点(1)について指摘したとおり,本件記事は,原告AがDにおいて違法は又
は不当な土地取引を行い,Dに4700万円もの損失を発生させたとの印象を与えるものであるところ,原告会社は原告Aと一体性を有することからすれば,本件記事は原告会社の社会的評価も低下させる。実際に,原告会社の完全子会社である株式会社Hにおいては,そのスポンサーが,本件記事の掲載を理由に融資を中止する事態となり,これによって同子会社は破産申立てを余儀なくされた。
(被告らの主張)

争点(1)について述べたとおり,本件記事の対象者が原告Aであると特定でき
ない以上,原告会社に対する名誉毀損が成立する余地はない。

また,本件記事が原告会社に何ら言及しておらず,個人の名誉と同人が代表取
締役を務める会社の名誉とは別個のものであるから,本件記事によって原告会社の社会的評価は低下しない。Hは,本件記事の掲載前から他の原因で経営が悪化していたのであり,本件記事とその経営悪化との間に因果関係はない。仮に,Hのスポンサーが本件記事の掲載を理由に融資を中止したとしても,当該スポンサーは「一般読者」に含まれないから,本件記事の対象者として原告会社が特定できたことを意味しない。
(3)

違法性阻却又は責任阻却事由の有無(真実性又は相当性の抗弁の成否)
(被告らの主張)
本件記事は,社会福祉法人であるDが土地取引によって多額の損失を出している疑いがあるというものであるから,公共の利害に関する事実について,もっぱら公益を図る目的で報道されたものである。
そして,次のとおり本件記事のうち重要な部分は真実であり,少なくとも被告B及び被告Cがこれを真実であると信じたことにつき相当の理由があるから,被告らは名誉毀損の責任を負わない。また,仮に真実でないとしても,本件記事は,公益性のある団体に関する疑惑報道であるから,その疑惑として合理的な根拠があれば違法性を欠くと解すべきである。


重要な部分

本件記事のうち重要な部分は,不明朗な土地取引によって社会福祉法人に約4700万円の損失が生じた疑いがあること,不動産会社の幹部が被告B及びCの取材に対し,
「D側の意向で金属部品会社を経由して売却した」と述べたこと等である。イ
真実性又は相当性

本件記事の公表に先立つ被告B及び被告Cの取材によれば,Dは,FからGが本件土地を買い受けたのと同じ日に約4700万円も高い代金額でGから本件土地を購入しており,Dに約4700万円の損失が生じた疑いがある。そして,Fの幹部は,被告B及び被告Cの取材に対し,
「D側の意向で金属部品会社を経由して売却した」
と述べた。
したがって,本件記事のうち重要な部分はいずれも真実であるか,仮にそうでないとしても,合理的な根拠に基づく疑惑であって,少なくとも被告B及び被告Cが真実であると信じたことにつき相当な理由がある。
(原告らの主張)
本件記事の重要部分について真実であるとも,また被告B及び被告Cが当該部分を真実と信じた点に相当性があるとも,到底言うことができないから,被告B及び被告
Cの名誉毀損行為について違法性又は責任が阻却される余地はない。ア
重要な部分

本件記事の重要な部分は,Dの当時の理事であった原告Aが,過去に多額の損失を発生させたのと同様に,平成23年4月18日に行われた本件土地取引によっても,Dに対し,約4700万円もの多額の損失を被らせたことである。イ
(ア)

真実性又は相当性
Dは,Gから本件土地を2億7920万円で購入した後,同土地をFに2億
7000万円で再売却しているのであるから,その差額は920万円にすぎず,本件土地取引によって約4700万円の損失が生じたとの事実は,それ自体として既に真実ではない。
(イ)

本件で約4700万円の「損失」が発生したというためには,本件土地取引
当時,DがFのGに対する売却額を認識していたこと,及び,DがFから本件土地を直接(FとGとの間で成立した売買価格で)購入できる関係にあったことが前提となる。しかし,原告Aは,本件土地取引以前にはFと関係を有しておらず,本件土地取引の際にもFとの間でやり取りを一切行っていなかったから,DがFから直接本件土地を購入できる関係にもなかった。
したがって,
F・G間で成立した売買価格と,
G・
D間で成立したそれとを比較し,後者が前者よりも多額であったからといって,それは「損失」と評価されるべきものではなく,
「損失」が生じたとの事実は真実ではな
い。
(ウ)

本件土地取引に係る各売買価格が本件土地の適正価格に比していずれも低
額であれば,実質的にみて本件土地取引によりDに「損失」が生じたとは評価できないところ,被告B及び被告Cは,本件土地の適正価格を調査しておらず,ほかに上記の意味における
「損失」
の発生を窺わせる根拠は何もないから,
この意味においても,
「損失」が生じた旨の事実は真実ではない。
(エ)

被告B及び被告Cは,本件記事の公表に先立つFに対する取材の過程で,原
告Aの都合により本件取引にGを経由させたという事実に関する具体的な内容を何ら確認しておらず,
原告AがFとGとの間の代金額を知っていたことについても確証
を得ていない。さらに,原告ら訴訟代理人I弁護士が原告A側に対する取材について窓口として関与するようになってからは,十分な取材を行うことなく,短期間で取材を終了するに至った(被告B及び被告Cが初めてI弁護士と会ったのは平成27年12月22日であり,この日は,同弁護士において,本件記事に先立ちE紙上に掲載さ
れた原告らに関係する記事について,その裏付け取材の不十分性を指摘するとともに,今後原告らに関する記事を掲載するに当たり,十分な裏付け取材をされたい旨抗議したのである。ところが,本件記事は,この日から間もない平成28年1月4日に掲載された。。加えて,被告B及び被告Cは,原告AがDに損失を生じさせたといえるか)
否かについて極めて重要な意味を持つところのGに対する取材も十分に行っていな
い。
したがって,被告B及び被告Cにおいて,原告Aが過去に多額の損失を生じさせたのと同様に,本件土地取引によってもDに約4700万円の損失を生じさせた点につき,これを真実であると信じたことには,相当の理由がない。
(4)

原告らの損害

(原告らの主張)

慰謝料について
本件記事を掲載したEは,いわゆる主要5紙の一つであり,原告らを知る多くの者の目に触れるものであり,原告Aは,本件記事による名誉毀損行為により多大な精神的苦痛を被ったところ,これに対する慰謝料は800万円が相当である。原告会社は,本件記事により信用の失墜という無形損害を被ったところ,これに対する損害賠償金は200万円が相当である。

弁護士費用について

原告らは,本件記事による名誉毀損と相当因果関係を有する弁護士費用として,原告Aにつき80万円,原告会社につき20万円の各損害を被った。ウ
謝罪広告について

原告らは,本件記事が掲載されたEの発行及び販売によって,その社会的評価を著しく低下させられた。本件記事が掲載されたEが主要5紙の一つであることも考慮すれば,原告らの社会的評価を回復するためには損害賠償だけでは不十分であり,謝罪広告が不可欠である。
(被告らの主張)

原告らの損害に関する主張はいずれも否認する。
第3
1
(1)

争点に対する判断
争点(1)について
本件記事に以下の記載が含まれていることは,前提事実のとおりである。兵庫県内で特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人「D」(神戸市a

区)

Dは平成23年4月18日に…土地を購入


Dの内部関係者が法人に損害を与えた疑いもある


当時の理事長が…Eの取材に対して代理人を通じ
「Dと金属部品会社の間の取

引は把握しているが,金属部品会社と不動産会社との関係は分からない」と回答オ
Dは4年の設立で,神戸市内などで老人ホームなど5施設を運営


平成25年には…6千万円もの不可解な損失…県は同年12月,6千万円の「穴埋め」を当時の理事長に行わせるようDに指示

理事長が22年に交代


当時の理事長は現在,すべて退任している。

(2)
上記(1)の各記載を一般読者の普通の注意と読み方を基準として読めば,本件
記事にいう「D」を特定できることはもちろん,本件記事の報じる不明朗な土地取引に関与した「当時の理事長」とは,平成22年から少なくとも平成25年12月までの間,Dの理事長に相当する地位にあった者を指していることが分かる。そうすると,原告Aと親族,友人等の個人的な人的関係のある者,当時Dと雇用関係,取引関係のあった者,Dが運営する老人ホームの利用者のほか,少なくとも兵庫
県内の他の社会福祉法人等,本件記事の読者として想定される者のうち,一定の社会的特徴によって区別され得る,一定の社会的広がりをもった範囲内に属する多くの人々が,本件記事から原告Aを特定できたと認められる。したがって,本件記事の対象者は原告Aであると特定されているというべきである。
これに対し,被告らは,とりわけEのような全国紙においては,特定性判断の基準
となる「一般読者」から匿名記事の対象者と親族関係,友人関係,雇用関係,取引関係及び金銭的利害関係を有する者を除外すべきであると主張するが,上記のとおり一般読者として想定される者のうち,ある社会的特徴によって区別され得る一定の社会的広がりをもった範囲内の多くの者により匿名記事の対象者が特定できる以上,当該記事によって社会的評価が低下するという事態(さらには,そのような事態を機縁と
して,低められた評価がより広範に伝播するという事態)は生じ得るというべきであり,
そのような広がりの範囲内に属する者の社会的特徴を捨象した一般読者のみを基準に特定性を論じ,
それを前提に名誉毀損に当たるか否かを判断することは相当とは
いえない。
(3)

さらに,上記(1)の記載内容のほか,本件記事の「不動産会社側は『D側の意
向で金属部品会社を経由して売却した』と証言した」「
,『D』をめぐっては,不適切な
運営がたびたび問題視されてきた。
」などの記載を一般読者の普通の注意と読み方を
基準として併せ読めば,本件記事は,Dの当時の理事であった原告Aが主導して違法又は不当な土地取引がされ,
Dに約4700万円もの多額の損失が生じた疑いがあり,
原告Aが社会福祉法人の理事たる地位を利用して違法又は不当な行為を行っているとの印象を与えるものであり,原告Aの社会的評価を低下させるものといえる。(4)

以上によれば,本件記事の表現は原告Aの名誉を毀損するものであると認め
られる。
2
争点(2)について

一般に会社とその代表取締役個人とは異なる法主体として社会活動を行うものであって,その社会的評価は個別に観念することができるから,本件記事によって原告Aの社会的評価が低下したとしても,そのことから当然に原告会社の社会的評価が低下したということはできない。そして,本件記事中に,原告会社について明示的に言及した記載は存在しない上,原告会社は,大阪市内に本店を置き,投資業,不動産の売買及び不動産活用並びに医療コンサルタント業等を目的とする会社であって(前提
事実(1)イ)このような事業目的等を含む原告会社の素性を知る人々の集団に限局し,

ても,本件記事の内容は,そのような人々をして原告会社が本件土地取引に関与したと推測させるものということはできない。
さらに,上記1に説示したとおり,本件記事の対象者が原告Aであると特定することが可能であるような,一定の社会的広がりをもった範囲に属する人々を観念することは可能であると考えられるところ,そのような範囲に属しつつ,しかも同時に,原
告会社が原告A個人と密接な関係を有していることを推知しうる人々(本件記事は,そのような人との関係では原告会社の社会的評価を低からしめる可能性を持つであろう。
)が一定の社会的広がりをもって存在すると断定するに足りる証拠はない。以上によれば,本件記事によって原告会社の名誉が毀損されたと認めるには足りないと判断される。

3
争点(3)について

本件記事は社会福祉法人における不明朗な土地取引の存在及びそれによって社会福祉法人に多額の損失が生じた疑惑を指摘するものであり,
公共の利害に関する事実
について,もっぱら公益を図る目的で報道されたものと認められる。そこで,本件記事につき原告Aに対する名誉毀損行為の違法性又は有責性が阻却されるか否かは,本件記事の重要な部分について真実であるか否か,
真実とは認められなかったとしても,
被告Bあるいは被告Cにおいて,
当該重要な部分を真実と信じたことについて相当性
が認められるか否かによって決せられる。
(1)

本件記事の重要な部分
本件記事の重要な部分が何であるかについては,一般読者の普通の注意と読み
方を基準として判断すべきである。

新聞記事において一般読者がまず目を通す場所は見出しであり,次いで目を通
すのはリードであると考えられるところ,本件記事は,
「社福法人4700万円損失
か」
との大見出しの後に,
「兵庫

不明朗な土地取引」
との小見出しがあることからす

れば,一般読者は,本件記事は,兵庫県内の社会福祉法人において不明朗な土地取引があり,それによって同社会福祉法人に4700万円の損失が生じた疑いがあることを報じるものであるとの予測のもとに本件記事を読み進めるものと推認される。そして,本件記事のリードには「県はDの内部関係者が法人に損害を与えた疑いもあるとして調査に乗り出す方針」と記載されていることからすれば,一般読者は,社会福祉法人に多額の損失が生じたのは内部関係者のせいではないか,との疑いがあるとの理解のもと,本件記事をさらに読み進めるであろうことが推認される。そして,リード
に続いて,本件記事中には「Dは…金属部品会社から2億7920万円で…土地を購入したと県に報告していた」「しかし…この土地はもともと大阪府内の不動産会社が,
所有。金属部品会社は,Dに売却したのと同じ日に不動産会社から2億3195万円で購入し,約4700万円を上乗せした価格で売っていた」「不動産会社側は『D側,
の意向で金属部品会社を経由して売却した』
と証言した」
と記載されている。
加えて,

本件記事の中央部には小見出しとして「疑惑の取引

過去にも6000万円」と記載

されているところ,同小見出しに続き「社会福祉法人『D』をめぐっては,不適切な運営がたびたび問題視されてきた。
」との記載があり,さらに当該過去の取引におい
て「県は…6千万円の『穴埋め』を当時の理事長に行わせるようDに指示」と記載されていることに照らせば,一般読者は,通常,本件記事によって,社会福祉法人であるDにあっては,
不明朗な土地取引によって約4700万円もの多大な損失が生じた疑いがあるが,それは同土地取引当時の理事が主導したものであるとの疑いが高いとの理解をするものと考えられる。
そして,本件記事の中央左側には「Dの不動産取引をめぐる構図」との見出しのもと,本件土地取引に関する図が記載されており,同図内には大阪府内の不動産会社から金属部品会社に本件土地が売却され,同土地がDに売却されたこと,それに対応し
て売却代金がそれぞれ支払われたことが図示されているほか,大阪府内の不動産会社と金属部品会社との取引を示す部分の絵を囲み
「兵庫県に報告せず」
と記載しており,
「金属部品会社」との単語の左側に矢印を記載し,矢印の先には「約4700万円外部流出か」との記載がある。
以上のことを踏まえると,被告B及び被告Cが本件記事によって公表しようとした
内容の主要な要素は,
「社会福祉法人であるDにおいて,当時の理事長に相当する地
位にあった者の主導により違法又は不当な本件土地取引がされ,
それによってDに約
4700万円もの多額の損失が生じた疑いがあること」であると理解することができる。

ところで,本件記事は,本件土地取引の仕組みやその経過の不自然さを指摘す
るとともに,上記のとおり,大見出しで「4700万円損失か」と記載されているほか,上記構図内にも「約4700万円外部流出か」と,関連する小見出しにも「過去にも6000万円」と各記載されており,その一方で,Dが本件土地取引によって取得した本件土地を再売却したことも指摘している。本件記事の重要部分の確定に当たり,この再売却に関する部分がいかなる意味を持つかが問題である。
検討するに,前段に説示したとおり,本件記事は,その損失額の大きさをことさら強調するよう内容となっているところ,
「損失」
の意味は様々であり得るが,
ある出来
事の前後における客観的な財産状態の減少として理解するのが比較的一般的であって,かつ,
「損失」が発生したとの言明は,反対趣旨を述べる特別の言及がない限り,そのような財産の減少という状態が現時点においてなお維持されていることを含意するものというべきである。
そして,本件土地がDから不動産会社に再売却された事実については,本件記事の右側部分の記事(
「兵庫

不明朗な土地取引」との小見出しに続く記事)において,

「県によると,Dは尼崎市の公募に応じ,この土地に特別養護老人ホームを建設しようとしたが,24年3月に提案が不採択となって頓挫。土地は25年9月,この不動産会社に再売却した。
」と記載されているにとどまり,その再売却価格は記載されて
いないこと,また,同記載には本件記事全体の紙面のうち約30分の1程度の紙面しか割かれていない上,単なる事実経過として記載されているだけであり,一読しただけでは再売却があった事実を見逃してしまうような記載になっていることに鑑みると,これらの記載を読んだ一般読者は,あたかも不動産会社と金属部品会社との間の売買価格が本件土地の適正価格であったかのように理解し,本件土地取引によってD
に約4700万円もの客観的な財産状態の減少が確定的に生じ,そのような状態がなお維持・継続しているとの印象を受けるものといえる。このことは,「県調査へ」との
記載がリードとそれに続く記事の間に見出しとして設けられていることに照らせばなおさらのことであって,一般読者は,Dに現在においても多額の損失が生じ,この状態が解消されていないとの疑い,又は,Dに確定的に多額の損失が生じている疑い
があるとの印象を受けるものと認められる。

以上によれば,一般読者の普通の注意と読み方を前提とする限り,本件記事の
重要な部分は,①社会福祉法人であるDにおいて,当時の理事長に相当する地位にあった者の主導により違法又は不当な疑いのある不明朗な本件土地取引がなされた疑いがあること,及び,②この本件土地取引によって,Dに,本件記事掲載時点においてなお,客観的な財産状態の減少として約4700万円もの多額の損失が生じている疑いがあることの2点であると認められる。したがってまた,Dが本件土地を不動産会社に再売却した事実(そのことによって4700万円の損失の全部又は一部が圧縮された可能性があることを示す事実)等は,本件記事の重要部分には属さないものというべきである。
(2)
本件記事に関する事実の認定

各掲記の証拠のほか,証拠(原告A,被告B及び被告C)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

平成23年4月18日,FがGに対し,本件土地を2億3195万1000円で売却した(乙15)



同日,GがDに対し,本件土地を2億7920万円で売却した。なお,登記記録上は,
平成23年7月6日にFからDに直接所有権が移転した形となっている
(甲6の1ないし4)


平成25年10月10日,DがFに対し,本件土地を2億7000万円で売却した(甲6の1ないし4)



被告Cは,その取材先からDに不透明な資金疑惑があることを聞き,DがFやGとの間で不可解な不動産売買や賃貸借取引を繰り返したことにより,Dに多額
の損失が生じている疑いがあることを把握し,被告Bとともに,F及びその親会社に対する取材を行った。そして,F及びその親会社の経営幹部から,本件土地売買の手続は,FとD前理事長の原告Aとの間で行われたこと,D側,すなわち原告Aの意向でGを経由して本件土地をDに売却したこと,Gは営業実態がない会社であることなどを聞いた。


被告B及び被告Cは,
取材及び関係資料の調査によって上記アないしウの事実
を把握した。


被告B及び被告CがGの会社登記簿上の本店所在地の建物を調査したところ,1階は店舗で,2階以上は住居用アパートであり,Gの本社,事務所,工場は存
在せず,Gの表札及び看板が一切ないことが判明した(乙32の1ないし3)ほか,支店所在地も営業所としての実態はなかった。

被告Bは,原告Aに対して取材の申込みを行ったところ,I弁護士を通じて取材に応じる旨の応答があり,
被告B及び被告Cが平成27年12月22日にI弁
護士の事務所を訪れたほか,
同月25日に被告CがI弁護士に電話取材をし,
「D
とGの間の取引は把握しているがGとFの関係は分からない」

「Gの関係者がA

の知人。Gのほうから購入を打診された。
」旨の回答を得たものの,
「今日で仕事
納めなのでこれ以上の年内の取材には応じない」と言われた。
(3)

真実性又は相当性

上記(2)によれば,
被告B及び被告Cは,
本件記事執筆当時,
①Gを経由させる客観
的必要があるとは認められないにもかかわらず,Fが直接Dに本件土地を売却するのではなく,Gを経由して,FからGに本件土地を売却したその日に,GがDに本件土地を売却することになっており,しかもその売却価格の差額が約4700万円もの多額に及んでいるという事実を取材によって聴取していたこと,②Gを経由したのは原告Aの意向であったことをFの幹部から聞いていたこと,③実地調査を行ったがGに営業実態があるとは認められなかったこと,④原告Aの代理人を通じても本件土地の
取引に関して速やかに積極的な弁明を得ることはできなかったことからすれば,本件記事のうち,Gを経由したことは原告Aの意向によるものであって,原告Aが主導して違法又は不当な土地取引を行った疑いがあることについては,少なくともその疑惑を裏付けるだけの相当の理由があったというべきである(なお,原告らは,I弁護士によって取材の在り方につき一定の指導を受けた後に本件記事の掲載があったこと
から,上記取材及び調査では不十分である旨主張するが,被告B及び被告Cが把握した各事実に照らせば,原告Aの意向によって本件土地取引が違法ないし不当な態様をもって行われたのではないかとの相当程度大きな疑念を抱くことはやむを得ないというべきであって,被告B及び被告Cが原告A側に対し,この点に関する取材はこれ以上行う必要がないと判断したとしても,これを不相当なものということはできな
い。。

しかしながら,被告B及び被告Cは,DがGから本件土地を購入した後に,DがFに対し,本件土地を2億7000万円で売却した事実を把握していたのであるから,本件記事掲載現在,Dに約4700万円の損失が生じているわけではなく,その損失は約920万円にとどまる事実を知っていたはずである。したがって,本件記事のうち,本件土地取引によってDに約4700万円の損失すなわち客観的な財産状態の減少が生じ,
そのような状況が本件記事掲載時点でなお維持されている疑いがあること(上記のとおり,一般人の通常の読み方を前提とすれば,本件記事はそのような趣旨のものと受け取ることができるものである。
)を報じる部分については,真実である
とはいえないし,被告B及び被告Cにおいて当該部分が真実であると信ずべき相当の理由があったとも認められない。

なお,この点に関し,被告B及び被告Cは,DからFへの本件土地の再売却は,当初は予定されていなかった出来事であることから,FからG,GからDへの本件土地の売却という一連の出来事とは切り離して検討すべきであり,したがって,再売却の事実があっても,本件土地取引によって約4700万円の損失がDに生じたことに変わりはない旨供述するが,
そうであるならば,
本件記事に再売却の価格を明確に記し,

その上で自身の供述する上記見解を記載すれば足りるのであって,本件記事が再売却の価格を記載しないどころか,上記のとおりDに多額の損失が生じたことをことさら強調するかのような記事となっていることに鑑みれば,本件記事が名誉毀損と評価され,かつ,その違法性ないし責任が阻却されない結果となってもやむを得ないというべきである。

(4)

小括

以上によれば,被告B及び被告Cは本件記事の作成に実質的に関与しており,本件記事内容の確定に当たって他人の名誉を毀損することがないように注意すべき注意義務を怠ったと認められるから,本件記事の掲載につき原告Aに対して不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
そして,
被告会社は被告B及び被告Cの使用者であるから,
本件記事の掲載に関し,使用者責任を負う。
4
争点(4)について
(1)

慰謝料について

名誉毀損による慰謝料額は,名誉毀損による被害の範囲及びその程度,報道の必要性,真実性の程度等を総合考慮して算定すべきである。
本件記事は,原告Aがその理事を務める社会福祉法人において違法又は不当な土地取引を行い,社会福祉法人に約4700万円もの多額の損失を生じさせたことを内容とするものであり,
それ自体は,
原告Aの社会的評価を著しく低下させるものである。
しかしながら,上記のとおり,本件記事の重要な部分のうち,原告Aが違法又は不当な土地取引を行ったことについては,その疑惑を裏付ける相当な理由があり,本件記事による名誉毀損のうち,それが違法視され,被告らが責任を負うべきであるのは,
Dの約4700万円という損失額を強調した点に限られる。また,本件記事が掲載された新聞が主要5紙の1つであるものの,前記のとおり本件記事は匿名記事であって,その対象者が原告Aであることを特定できたのは一般読者のうちの一部にとどまるから,原告Aが受けた被害の範囲が広いとはいえない。そして,本件記事があくまで疑惑報道であり,損失が生じたことを確定的に報じるものではないこと,しかも,匿
名報道とされていることからすれば,その疑惑の程度も実名報道時と比べて弱いということが一般読者において理解できることからすれば,本件記事の掲載後,原告Aが本件記事に対する複数の問合せを受けたとしても,その被害の程度が大きいとはいえない。
以上の事情に鑑みれば,原告A主張の慰謝料額は過大であって,本件記事による原
告Aの精神的苦痛を慰謝するには,50万円の支払をもってするのが相当である。(2)

弁護士費用について

上記慰謝料額に照らせば,本件記事による名誉毀損と相当因果関係を有する弁護士費用はその1割である5万円と認めるのが相当である。
(3)
謝罪広告について

上記のとおり,本件記事は匿名記事であり,しかも,本件記事の対象者が原告Aであると特定することが可能な者は想定される読者の一部に限られていることやその被害の程度が大きいとはいえないことに照らせば,原告Aに,金銭による損害賠償のみでは填補され得ない損害が生じたとまではいえず,謝罪広告を命じる必要性があるとは認められない。
第4
結論

したがって,原告Aの被告らに対する請求は,55万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを一部認容し,原告Aのその余の請求及び原告会社の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第18民事部

裁判長裁判官

大島雅弘
裁判官

石上興一
裁判官

村島裕美
トップに戻る

saiban.in