判例検索β > 平成29年(行ケ)第10072号
特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10072
事件名特許取消決定取消請求事件
裁判年月日平成29年12月21日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨判決年月日 平成29年12月21日 担
当 知的財産高等裁判所 第2部
平成29年(行ケ)10072号 部
事 件 番 号
○ 特許取消決定における引用発明の認定の誤りを認めた 事例。
(関連条文)特許法29条
判 決 要 旨
1 本件は,特許異議申立人が申し立てた特許異議申立てに基づく特許取消決定に対する
取消訴訟である。争点は,新規性及び進歩性の有無についての判断の当否である。
2 本判決は,以下のとおり,決定は引用発明の認定を誤ったとして,これを取り消した。
(1) 甲1文献の実施例1において用いたポリメチルシルセスキオキサン粉末は,「甲5
文献記載の方法により得た平均粒子径5μm」のものである。決定は,甲4実験は,甲1
文献の実施例1を追試したものであり,甲4実験のポリメチルシルセスキオキサン粒子は,
シラノール基量が0.08%であること,及び,撥水性の程度が「水及び10%(v/v)
メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度」
であることを示していると認定した上で,引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粒子
のシラノール基量及び撥水性を認定した。
しかし,甲1文献の実施例1にいう,甲5文献記載の方法によることが,甲5文献の実
施例1によることで足りるとしても,以下のとおり,甲4実験は甲1文献の実施例1を再
現したものとは認められない。
(2) 甲5文献の実施例1を含む甲1文献の実施例1の方法と,甲4実験とを比較する
と,少なくとも,①攪拌条件,及び,②原料メチルトリメトキシシランの塩素含有量にお
いて,甲4実験は,甲1文献の実施例1の方法を再現したとは認められない。
ア 攪拌条件について
真球状ポリメチルシルセスキオキサンの粒子径をコントロールするために,反応温度,
攪拌速度,触媒量などの反応条件を選定すること,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子
の製造方法として,オルガノトリアルコキシシランを有機酸条件下で加水分解し,水/ア
ルコール溶液,アルカリ性水溶液を添加した後,静止状態で縮合する方法において,弱攪
拌又は攪拌せずに縮合反応させることによって,低濃度触媒量でも凝集物を生成しない粒
子を得ることができるが,粒径が1μm以上の粒子を製造するのに不適切であることが本
件発明の従来技術であったことからすると,ポリメチルシルセスキオキサン粒子の製造に
おいては,攪拌条件により,粒子径の異なるものが得られるものといえる。
甲5文献の実施例1には,攪拌速度は記載されておらず,甲4実験においても,攪拌速
度が明らかにされていない。したがって,実験条件から,得られたポリメチルシルセスキ
オキサン粒子の平均粒径を推測することはできない。加えて,甲4実験においては,甲5
文献の実施例1で追試して得られたとするポリメチルシルセスキオキサン粒子の粒径は計
測されていない。したがって,甲4実験において甲5文献の実施例1を追試して得られた
-1-
とするポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均粒子径が,甲1文献の実施例1で用いら
れたポリメチルシルセスキオキサン粉末と同じ5μmのものであると認めることはできな
い。
イ 原料メチルトリメトキシシランの塩素含有量について
甲5文献記載の発明は,塩素原子の含有量が少ないポリメチルシルセスキオキサンの製
造方法を提供するものであり,塩素原子を中和するためにアンモニア又はアミン類を用い
るものである。そして,アンモニア及びアミン類の使用量は,アルコキシシラン又はその
部分加水分解縮合物中に存在する塩素原子を中和するのに十分な量に触媒量を加えた量で
あるが,除去等の点で必要最小限にとどめるべきであり,アンモニア及びアミン類の使用
量が少なすぎると,アルコキシシラン類の加水分解,さらには縮合反応が進行せず,目的
物が得られない。実施例1~5及び比較例1~3においては,原料に含まれる塩素原子濃
度並びに使用したアンモニア水溶液の量及びアンモニア濃度が記載されている。以上の点
からすると,塩素原子の中和に必要な量でありかつ除去等の点で最小限である量のアンモ
ニア及びアミン類を使用するために,塩素原子の量とアンモニア及びアミン類の量を確認
する必要があり,そのために,甲5文献の実施例1においては,用いたメチルトリメトキ
シシランのメチルトリクロロシランの含有量が塩素原子換算で5ppmであることを示し
たものと理解される。
ところが,甲4実験で甲5文献の実施例1の追試のために原料として用いたメチルトリ
メトキシシランの塩素原子含有量は計測されていない。したがって,甲4実験で用いられ
たメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量と甲5文献の実施例1で用いら
れたメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量とが同一であると認めること
はできない。そうすると,甲4実験において,甲5文献の実施例1と同様にアルコキシシ
ラン類の加水分解,縮合反応が進行したと認めることはできず,その結果,得られたポリ
メチルシルセスキオキサン粒子が,甲5文献の実施例1で得られたものと同一と認めるこ
とはできない。
(3) 以上より,甲4実験で用いたポリメチルシルセスキオキサン粒子は,甲1文献の実
施例1で用いられたものと同一とはいえないから,甲4実験で得られたポリメチルシルセ
スキオキサン粒子のシラノール基量及び撥水性を,甲1文献の実施例1のそれと同視して,
引用発明の内容と認定することはできない。
-2-
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平成29年12月21日判決言渡
平成29年(行ケ)第10072号
口頭弁論終結日

特許取消決定取消請求事件

平成29年12月5日
判原決告
コーロンインダストリーズインク

同訴訟代理人弁護士

小陽藤野睦子山下託嗣堀川か合
同訴訟代理人弁理士

松路裕介沼泳朴被特守安加藤友也藤原浩子板谷玲子智
特許庁が異議2015-700324号事件について平成28年11
訴訟費用は被告の負担とする
事実及び理由

第1

官文
月16日にした決定を取り消す。
2長り
同指定代理人

1庁お郎告主許一
請求の趣旨

主文同旨

第2

事案の概要

本件は,信越化学工業株式会社(以下,
「特許異議申立人」という。
)が申し立て
た特許異議申立てに基づく特許取消決定に対する取消訴訟である。争点は,新規性及び進歩性の有無についての判断の当否である。
1
特許庁における手続の経緯

原告は,名称を「ポリアルキルシルセスキオキサン粒子」とする発明についての特許(特許第5739965号。以下,
「本件特許」という。
)の特許権者である(甲
6)

本件特許の請求項1~4に係る特許についての出願は,平成20年5月20日を国際出願日とする出願である特願2010-510202号(パリ条約による優先権主張

平成19年5月28日(以下,
「本件優先日」という。,同年11月12日


共に韓国)の一部を平成25年10月3日に新たな特許出願としたものであって,平成27年5月1日に特許の設定登録がされた(甲6)

特許異議申立人は,平成27年12月17日付けで本件特許の請求項1~4に係る特許に対し特許異議の申立てをした(異議2015-700324号。甲7)。特
許庁は,
平成28年11月16日,
「特許第5739965号の請求項1ないし4に
係る特許を取り消す。
」との決定をし,同決定謄本は,同年11月25日に原告に送
達された。
2
本件発明の要旨

本件特許の請求項1~4に係る発明
(以下,
それぞれ
「本件発明1」
「本件発明2」
などといい,まとめて「本件発明」という。
)は,次のとおりである。
【請求項1】
シラノール基を1.3%以下の量で有する球状粒子であり,水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度の撥水性を備えることを特徴とするポリアルキルシルセスキオキサン粒子。

【請求項2】
前記シラノール基が,前記球状粒子の表面にあることを特徴とする,請求項1に記載のポリアルキルシルセスキオキサン粒子。
【請求項3】
前記ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径が10~30μmであることを特徴とする,
請求項1または2に記載のポリアルキルシルセスキオキサン粒子。【請求項4】
400℃での熱重量変化率が2.7%以下であることを特徴とする,請求項1~3の何れか1項に記載のポリアルキルシルセスキオキサン粒子。
3
決定の理由の要旨
(1)

取消理由
取消理由1

本件発明1,2及び4は,本件優先日前の平成元年7月24日に頒布された特開平1-185367号公報(甲1。以下,「甲1文献」という。)に記載された発明(以下,「引用発明」という。)であるから,特許法29条1項3号に該当し,その特許は取り消すべきものである。

取消理由2

本件発明3は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,その特許は取り消すべきものである(2)

取消理由1について
引用発明の認定

「温度計,還流器および攪拌機のついた四つ口フラスコに,ヘキサメチルジシラザン1000部と,
メチルトリアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解物を,
アンモニア及び/又はアミン類の水溶液中で,加水分解し,縮合させることにより得た平均粒子径5μmのポリメチルシルセスキオキサン粉末1000部を仕込み,
25℃で攪拌し,15時間保持した後,処理物をろ紙で吸引ろ過後,200℃の乾燥器中で乾燥させ,表面処理された,メタノールを60重量%含むメタノール水における沈降重量百分率が3%である,真球状のポリメチルシルセスキオキサン粉末。」

本件発明1について
(ア)

本件発明1と引用発明との対比

(一致点)
「球状粒子であり,撥水性を備えるポリメチルシルセスキオキサン粒子。」(相違点1)
本件発明1は,粒子が「シラノール基を1.3%以下の量で有する」のに対し,引用発明は,粒子が有するシラノール基の量が不明である点。
(相違点2)
粒子の撥水性について,本件発明1は「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度」であるのに対し,引用発明は粒子の撥水性が「メタノールを60重量%含むメタノール水における沈降重量百分率が3%である」点。
(イ)

判断

実験成績証明書(甲4。以下,「甲4証明書」といい,甲4証明書に記載されている実験を「甲4実験」という。)には,甲1文献に記載された実施例1を追試した結果,
「引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粒子は,シラノール基量が0.08%」であることが示されている。したがって,相違点1は,実質的な相違点ではない。
甲4証明書には,甲1文献に記載された実施例1を追試した結果,引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粒子は,撥水性の程度が「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度」であることが示されている。したがって,相違点2は,実質的な相違点では
ない。
以上より,本件発明1は,引用発明である。

本件発明2について

本件発明2は,本件発明1にさらに「前記シラノール基が,前記球状粒子の表面にあること」を特定するものである。
甲1文献には「本発明で用いる上記式で示される有機ケイ素化合物は,ポリメチルシルセスキオキサン粉末表面のシラノール基を減少させ,さらにトリオルガノシリル基を結合させる作用をするものであり,これにより,ポリメチルシルセスキオキサン粉末の撥水性を向上させることができる。」(2頁右下欄10行~15行)ことが記載されており,有機ケイ素化合物により撥水性を向上させた後のポリメチルシルセスキオキサン粒子の表面にもシラノール基があると解することが相当である。
したがって,本件発明2は,引用発明である。

本件発明4について

本件発明4は,本件発明1にさらに「400℃での熱重量変化率が2.7%以下であること」を特定するものであり,本件発明4と引用発明とは,さらにこの点で相違している。
甲4証明書には,甲1文献に記載された実施例1を追試した結果,引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粒子は,400℃での熱重量変化率が2.1%であることが記載されている。
したがって,本件発明4は,引用発明である。
(3)

取消理由2について

本件発明3は,本件発明1又は2にさらに「前記ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径が10~30μmであること」を特定するものであり,本件発明3と引用発明とは,本件発明1又は2との相違点に加え,さらにこの点で相違している。

甲1文献には,ポリメチルシルセスキオキサン粉末の平均粒子径について「とくに制限されないが,0.1~20μmであることが真球状の粉末を得やすいことから好ましい。」(3頁右上欄8行~10行)と記載されており,その粒子径は特定の範囲に限定されていない。そして,ポリメチルシルセスキオキサン粉末の平均粒子径を用途等に応じて適切な範囲に定めることは当業者であれば適宜なし得ることであり,本件優先日においてポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径を10~30μmとすることが技術的に困難であったとする格別の事情も見当たらない。さらに,本件特許の明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。)の記載をみても,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径を請求項3に記載された範囲とすることにより,本件発明3が当業者が予期し得る程度を超える格別の効果を奏するものとはいえない。
したがって,
本件発明3は,
引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものである。
第3
1
原告主張の決定取消事由
取消事由1(引用発明の認定の誤り)

(1)

決定が認定した引用発明の構成のうち,
表面処理前のポリメチルシルセス

キオキサンの製法に関しては,
甲1文献の実施例1では,
「特開昭60-13813
号公報(判決注:甲5。以下,
「甲5文献」という。
)により得た」としか開示され
ていない。そして,決定は,引用発明における製法に関して,
「メチルトリアルコキ
シシラン及び/又はその部分加水分解物を,アンモニア及び/又はアミン類の水溶液中で,加水分解し,縮合させることにより得た平均粒子5μmのポリメチルシルセスキオキサン粉末」と特定するが,
「メチルトリアルコキシシラン」
「その加水分
解物」には膨大な種類があり,加水分解するのは「アンモニア及び/又はアミンの水溶液中」とあるのみで,加水分解や縮合の条件も特定されておらず,その組合せは天文学的な数である。また,
「平均粒径」が数平均粒径なのか体積平均粒径なのか
も特定されていない。さらに,甲5文献には,可能性のある様々な製造方法が幅を
もって記載されている。
このように,決定が認定した引用発明は,極めて抽象的な,上位概念の製造方法で記述された発明であって,実施不可能であり,新規性の根拠となるような具体的な発明が特定されているとはいえない。
(2)

以下のとおり,甲4実験は引用発明の正確な再現としての追試ではない。甲1文献の実施例1には,
「特開昭60-13813号公報」
としか記載

されておらず,甲1文献の実施例1が甲5文献の実施例1の方法により得られた粒子を使用したとは限られない。したがって,甲4実験は,甲1文献の実施例1の再現とはいえない。

甲5文献の実施例1には,①「4つ口フラスコ」には,丸底フラスコと
二重のジェケット式フラスコが存在するところ,
どちらが用いられたか不明である,
②28%の濃度のアンモニア水溶液の製造者,品番等が不明である,③塩素原子換算で5ppmのメチルトリクロロシランを含有するメチルトリメトキシシランの製造者,品番,グレード等が不明である,④攪拌速度が不明である,⑤滴下漏斗による滴下か,定量ポンプによる滴下か,滴下穴のサイズ等が不明である,⑥冷却後の温度及び冷却速度が不明である,⑦具体的な捕集方法が記載されていない,⑧水洗回数,乾燥温度,乾燥時間も,具体的な方法が明記されていない,といった不明な条件があり,甲4実験でどのように設定されたかも不明である。
甲1文献の実施例1においては,⑨「4つ口フラスコ」には,丸底フラスコと二重のジェケット式フラスコが存在するところ,どちらが用いられたか不明である,⑩ヘキサメチルジシラザンの製造者,品番等が不明である,⑪平均粒子径は,体積平均粒子径か数平均粒子径かが不明である,⑫攪拌速度が不明であるほか,25℃で攪拌し混ざり合った状態で15時間近く静止保持したのか,攪拌を継続した状態で15時間保持したのか不明である,⑬乾燥時間が不明である,といった不明な条件があり,甲4実験でどのように設定されたかも不明である。

甲4実験の実験方法は,甲1文献記載の方法と多くの点で異なり,甲1
文献の実施例1の再現ではない。
特に,①メチルトリメトキシシランのメチルトリクロロシラン含有量の違い,②ポリメチルシルセスキオキサン粒子の塩素含有量の違い,③表面処理前のポリメチルシルセスキオキサンの平均粒子径の違い,④表面処理前のポリメチルシルセスキオキサンの自由流動性・形状の違い,⑤粉砕工程の有無(甲4実験では,表面処理前のポリメチルシルセスキオキサンが塊状であったため,甲1文献の実施例1にはない「ジェットミルによる粉砕工程」が追加されている。,⑥表面処理前のポリメ)
チルシルセスキオキサン製造時の攪拌速度,滴下速度,滴下方法(1滴当たりの滴下量,滴下速度)の設定,⑦乾燥温度,乾燥時間,水洗の有無は,「粒子形状,撥水
性,シラノール基量,熱量重量変化率」といった,本件発明の発明特定事項とされている特性に影響を及ぼす可能性がある。

甲4証明書の「5.実験方法及び結果」欄には,甲1文献,甲5文献及
び本件明細書の文章の引き写しが記載されており,実験条件及び実験結果としての基礎データ等が具体的に記載されていない。
例えば,①28%濃度のアンモニア水,メチルトリメトキシシラン及びヘキサメチルジシラザンといった原料に関するメーカー名,商品名,品番,グレード,②アンモニア水溶液にメチルトリメトキシシランを攪拌しながら滴下する際の攪拌速度,滴下穴の形状,滴下方法,冷却速度,③ポリメチルシルセスキオキサン粒子の塩素原子含有量の測定方法,④ヘキサメチルジシラザンとポリメチルシルセスキオキサン粒子を攪拌する際の攪拌速度,攪拌状態,⑤得られた試料の写真,撥水性を評価した際の分散状態の写真等が全く開示されていない。
特に,撥水性評価の指標としての分散状態に関して,甲4証明書では,撥水性について,〇,△を記載しているだけであって,実際の分散状態がどうであったか不明であるし,どういう状態を〇とし,どういう状態を△としたかも不明である。また,甲4実験が,甲1文献の実施例1の再現であることを確認するために,甲1文献で測定されている沈降重量百分率を評価すべきところ,
評価がされていない。


甲4証明書には,
シラノール基量について,
「グリニャール試薬を用いた

活性水素定量法により測定した」と記載されている。
しかし,具体的にどのように測定したのか不明である。シラノール基量を測定する方法としては,熱重量測定法(TGA法)が一般的であり,グリニャール試薬を用いた活性水素定量法は知られていない。
したがって,甲4実験によるシラノール基量は,評価方法の点からも,正確ではない。
(3)

以下のとおり,引用発明を「真球状」と認定するのは誤りである。決定が引用発明を
「真球状」
と認定したのは,
甲1文献の請求項2に
「真

球状」という構成要件があるためである。しかし,明細書の実施例が,請求項1に係る発明の構成を具備しているからといって,請求項2に係る発明の構成を具備しているということにはならない。

決定の認定した引用発明の構成は,
前記(1)のとおり,
膨大な種類の製造

方法を含んでおり,得られる物の形状は特定できないから,引用発明が真球状とする根拠はない。

甲1文献の実施例1~4においては,本件明細書の比較例を大幅に上回
る,約57倍もの有機ケイ素化合物を使用しているから,甲1文献に記載された発明では,得られるものが凝集しており,非球状である蓋然性が高い。甲1文献の実施例1を追試したところ,
凝集しており,
独立した粒子は見られなかった
(甲14)


甲4証明書には,表面処理に供されたポリメチルシルセスキオキサン粉
末の平均粒径の記載がないことから,実際に得られた粉体は,球状ではなく,凝集していたと考えられる。
2
取消事由2(本件発明1と引用発明との相違点の認定の誤り)
(1)

前記1(3)のとおり,引用発明は,
「真球状」とはいえない。したがって,

「球状粒子であること」を相違点としなかった本件決定の認定は,誤りであり,「球
状粒子であること」を相違点3とすべきである。

(2)

決定は,甲4実験を根拠に,引用発明を「シラノール基量が0.08%で
ある」と認定した。しかし,甲4実験は,甲1文献の実施例1を正確に再現した追試ではなく,甲4実験で用いられているシラノール基量測定方法も一般的な方法ではない。したがって,引用発明の「シラノール基量が0.08%である」との決定の認定は誤りであり,相違点1は実質的な相違点とすべきである。(3)

決定は,
本件明細書の記載を理由として,
シラノール基量と撥水性との間

に一定の関係があると後知恵的に仮定し,シラノール基量さえ同じであれば撥水性が同じであるとの誤った認識のもと,かつ,甲4実験を根拠に,引用発明のシラノール基量が0.08%であるとの前提に立ち,引用発明のシラノール基量が0.08%であるから,引用発明の撥水性は,本件発明1と少なくとも同程度であろうという結論を導いている。
しかし,このような仮定的推論には理由がなく,しかも,決定が根拠とする甲4実験は引用発明の正確な再現としての追試ではなく,シラノール基量の測定方法も一般的な方法ではないから,引用発明のシラノール基量が0.08%であるとの前提にも誤りがある。相違点2を,実質的な相違点とすべきである。3
取消事由3(本件発明2と引用発明との相違点の認定の誤り)
(1)

決定は,
本件発明2と引用発明とに相違点がないと判断したが,
前記2の

とおり,両者は,相違点1~3において相違する。加えて,甲1文献の実施例1には,
「表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粉末」の「シラノール基」に関する記載も,それによる効果に関する記載もない。したがって,
「前記シラノール基
が,前記球状粒子の表面にある」点で,本件発明2と引用発明とは相違する(相違点4)

(2)

決定は,甲1文献の「・・・有機ケイ素化合物は,ポリメチルシルセスキ
オキサン粉末表面のシラノール基を減少させ・・・撥水性を向上させることができる。(2頁右下欄10行~15行)との記載に基づき,有機ケイ素化合物により撥」
水性を向上させた後のポリメチルシルセスキオキサン粒子の表面にもシラノール基があると解することが相当であるから,本件発明2は,甲1文献に記載された発明であるとした。しかし,甲1文献の記載によると,粉末表面のシラノール基を減少させるとなっているだけで,
「シラノール基を1.3%以下の量」で,
「球状粒子の
表面」に存在させることの開示はない。また,引用発明は,前記1(1)のとおり,膨大なパターンの製造方法で特定されているところ,シラノール基が表面に存在する粒子であるという根拠はない。
したがって,相違点4に関して,決定の判断には誤りがある。
4
取消事由4(本件発明4と引用発明との相違点の認定の誤り)

決定は,
本件発明4と引用発明とに相違点がないと判断したが,
前記2のとおり,
両者は,相違点1~3において相違する。加えて,甲1文献には,「400℃での熱
重量変化率が2.7%以下である」という構成も,それに係る効果に関する記載もない。したがって,
「400℃での熱重量変化率が2.7%以下である」点で,両者
は相違する(相違点5)

決定は,
甲4証明書を根拠に,
引用発明の
「400℃での熱重量変化率が2.
1%
である」としたが,前記1(2)のとおり,甲4実験は,甲1文献の実施例1の正確な再現をした追試でもなければ,引用発明の追試でもない。したがって,相違点5に関して,本件決定の判断には誤りがある。
5
取消事由5(本件発明3の容易想到性の判断の誤り)

決定は,本件発明3と引用発明とに,平均粒径の点以外には,相違点がないと判断している。しかし,前記2及び3のとおり,両者は,相違点1~4において相違する。
甲1文献の実施例1には,得られた表面処理後のポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均粒子径の記載はない。甲1文献の実施例1では,表面処理前のポリメチルシルセスキオキサンの平均粒子径は,5μmとされており,仮に,このような原料粒子が凝集等せずに,独立した状態で表面処理されたとするならば,表面処理後のポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均粒子径は,5μmをそれほど大きく超えるものではないと推定される。甲4証明書には,得られた表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒径は,5.7μmであるとされている。したがって,
本件発明3は,
「ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径が1
0~30μmであること」という構成を有するのに対して,引用発明は,平均粒径5μm付近であるから,そのような構成において相違する(相違点6)。甲1文献に「その平均粒子径はとくに制限されないが,0.1~20μmであることが真球状の粉末を得やすいことから好ましい」という記載があることを加味しても,本件発明3の平均粒径の下限は10μmであり,甲1文献に記載されている下限値に比べて100倍も大きく,両者は異なる。
甲1文献の上記記載によると,甲1文献当時の技術では,真球状の粉末を得るためにはある程度小さい粒径にせざるを得なかったと考えられるところ,本件明細書【0014】には,本件発明3は,従来よりも大きい粒径を有し,含水率が低く,はっ水性が大きいので,
保管中の吸湿性が低いという優れた効果が記載されており,
【0035】【0039】の記載に照らしても,本件発明は,比較的大きな粒子を,
製造することに成功したといえる。
したがって,
「本件優先日においてポリアルキル
シルセスキオキサン粒子の平均粒径を10~30μmとすることが技術的に困難であったとする格別の事情も見当たらない」
とか,
「本件発明3が当業者が予期し得る
程度を超える格別の効果を奏するものとはいえない」とした決定の判断は,引用発明が未解決であった課題を本件発明3が解決したこと,両者の発明の技術的思想が異なることを見落とし,本件発明3の構成の特徴及び効果を誤って理解したものである。
本件明細書【0008】では,甲1文献の実施例1で使用されている撥水性付与剤「ヘキサメチルジシラザン」に関して,
「・・・日本国特開平3-244636号
公報・では,
・・
水中でシルセスキオキサン粒子の表面をヘキサメチルジシラザン・・・
で処理する方法を提示している。しかしながら,これらの方法で得られたシリコン粒子は,はっ水性の改善が十分でなく,保管中の吸湿性が高くなるので,製品保管の際に取り扱いに留意しなければならないという問題があった。としている。」
した
がって,本件発明は,甲1文献の実施例1記載の撥水性付与方法では,解決できていなかった課題を解決したものであり(本件明細書【0011】,技術的思想自体)
が異なる。
相違点が四つ又は五つもあり,発明の技術的思想自体が異なるのであるから,引用発明から,本件発明3に想到することは,困難である。
第4
1
被告の主張
取消事由1について

(1)

甲1文献の実施例1が再現可能なものであること

甲1文献及び甲5文献の記載によると,
「メチルトリアルコキシシラン」や「アン
モニア及び/又はアミンの水溶液中」の種類や反応条件を理解することができ,十分に実施可能なものである。
特に,
甲5文献に記載の各実施例
(実施例1~6)
は,
引用発明における
「メチルトリアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解物を,アンモニア及び/又はアミン類の水溶液中で,加水分解し,縮合させる」に包含されることが明らかであるが,これらの各実施例は,いずれも具体的なものであり,十分に実施可能といえる。
また,本件異議申立ての審理手続中に,原告は,引用発明が実施可能で,かつ,再現可能なものであることを前提に,自ら甲1文献の実施例1の追試を2回行い,実験成績証明書(甲12,13)を提出していることからも,引用発明は,十分に実施可能なものといえる。
(2)

甲4実験は甲1文献の実施例1の再現であるといえること
少なくともヘキサメチルジシラザンとポリメチルシルセスキオキサンと
の仕込み時の量比や,撹拌温度,撹拌時間,処理物の乾燥温度といった多くの項目で,甲1文献の実施例1と甲4実験とに差異がない。

甲5文献の実施例1と甲4実験とでは,少なくとも,アンモニア水の濃
度,アンモニア水中に滴下されたメチルトリメトキシシランの総量及び滴下時間,滴下の際の反応温度,その後の還流温度及び還流時間の点といった主要な項目で両者に差異がない。甲4実験に関する記載と甲13の実験に関する記載とに実質的な差異はない。
ウ(ア)

甲1文献の実施例1を再現するには,
甲5文献に記載された具体例で

ある実施例に着目し,明細書においては,実施例の最初に代表的な例が記載されるから,甲5文献に代表的な例として記載されている実施例1を選択して行った甲4実験は,甲1文献の実施例1を再現したものといえる。
(イ)

明細書に記載されている実施例が必ずしも全ての条件を開示してい
るわけでないから,明細書に示される実施例を追試するに際しては,記載が省略されたり簡略されたりしている条件を技術常識で補うことは,普通に行われている。したがって,特許公報に記載されている実施例について,記載が省略されたり簡略されたりしている条件を技術常識で補って行われた実験も,その実施例を再現したものと解して差し支えない。また,そのような条件は,その出願に係る発明の実施に直接関係しないか,関係性が低い事項と解されるから,これらを全て記載していないからといって,その実験内容の信用性が疑われるものでもない。甲4実験の記載は,甲1文献の実施例1の記載及び甲5文献の実施例1の記載に沿ったものであって,反応系に加える化合物の量比や反応温度など多くの点で両者に差異はない。そして,甲5文献の記載から,甲1文献の実施例1で使用する「28%の濃度のアンモニア水溶液」や「メチルトリメトキシシラン」の製造者や品番などを特定することは必ずしも必要でないこと,
「攪拌速度」
,滴下方法,
「冷却後の温度及び冷却
速度」
,生成物の「捕集方法」「水洗回数」「乾燥温度」「乾燥時間」等は,甲5文,


献に記載された発明の実施に直接関係しない,あるいは関係性が低い事項と解されるから,技術常識を考慮して実施すればよいことも理解できる。
「4つ口フラスコ」の種類(丸底フラスコ,二重のジャケット式フラスコ)によって,異なる反応が起きるわけではないから,どのような「4つ口フラスコ」を採用するのかは,その実施に際し当業者が適宜決定する程度の事項にすぎないし,平均粒子径については,
「体積平均粒子径」を意味すると解するのが通常であるから,
甲4実験では,平均粒子径の値として広く知られている体積平均粒子径による値を採用したにすぎないものである。
したがって,甲4実験の実施に際し,甲1文献の実施例1(甲5文献の実施例1を含む。では不明である各種条件を技術常識の範囲で補い,

これらの条件が甲4証
明書に記載されていないことをもって,甲4実験は甲1文献の実施例1を正確に再現するものではないとする理由はない。
(ウ)

甲5文献の
「本発明においては,
アルコキシ化反応によって得られた

メチルトリアルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物中に副生する塩化水素または未反応のメチルクロロシランとして存在する塩素原子の量は,特に限定されるものではない。(2頁左下欄6行~10行)との記載によると,原料のメチルト」
リメトキシシラン中のメチルトリクロロシランの含有量は本質的な事項ではなく,甲5文献に記載された発明の実施に直接関係しないか,関係性が低い事項であることが理解できるから,その違いにより,生成するポリメチルシルセスキオキサンの特性等が大きく異なることはない。そして,原料のメチルトリメトキシシランとして塩素含有量が高いものを使用すれば,生成物であるポリメチルシルセスキオキサンの塩素含有量が高くなることも当然である。
そうすると,
「メチルトリメトキシシ
ランのメチルトリクロロシラン含有量の違い」や「ポリメチルシルセスキオキサン粒子の塩素含有量の違い」があるからといって,甲4実験は甲1文献の実施例1を再現していないとはいえない。
(エ)

甲1文献の実施例1では
「平均粒子径5μmのポリメチルシルセスキ

オキサン」としているのに対して,甲4実験では,平均粒子径の記載がない「ポリメチルシルセスキオキサン」を使用しているが,甲4実験において,甲5文献に即して「ポリメチルシルセスキオキサン」を製造している以上,同程度の平均粒子径となっていると考えられる。また,甲4実験では,表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粒子については,体積平均粒径(5.7μm)を測定しており,表面処理に伴う粒子径の増加がそれほど大きくないと考えられることを考慮すると,表面処理前のポリメチルシルセスキオキサンの平均粒子径は,概ね5μm程度であったと考えるのが自然である。したがって,表面処理前のポリメチルシルセスキオキサンの平均粒子径を計測していなかったことを理由に,甲4実験は甲1文献の実施例1を再現していないとはいえない。
(オ)

自由流動性のあるポリメチルシルセスキオキサン粉末を得るために
は,最終段階に解砕工程を伴うことが通常である。甲5文献においても「自由流動性に優れた粉末状のポリメチルシルセスキオキサン」を得る工程の最終段階で,実際には粉砕が行われているものの,その結果に本質的な影響を与えないと判断されたために,
記載しなかったにすぎないから,
甲4実験で
「粉砕工程」
があることで,
直ちに異なる条件で実験が行われているとはいえない。
(カ)

甲4実験の撥水性の評価基準の記載自体明瞭であって,
撥水性の基準

は明確である。そして,表1において,10%(v/v)メタノール水溶液を使用し,
強撹拌
(300rpmで1分間)
した後の撥水性を評価しているのであるから,
甲4実験で得られた粒子が,本件発明の撥水性を満たすものか否かを判断するのに十分な試験であるといえる。また,本件発明における「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度の撥水性」という撥水性の基準に照らすと,そもそも撥水性の程度を写真で示す必要性が全くないことは明らかである。
甲1文献の実施例1の再現であることを確認するためには,実験手法が再現されているかを確認すれば十分であって,実験手法が再現されていれば,得られたものは甲1文献実施例1と同様のものと考えられるから,
「沈降重量百分率」
のデータが
示されていないことをもって,甲4実験が甲1文献の実施例1の再現でないこととなるわけではない。

シラノール基の測定方法として,グリニヤール試薬を使用する方法は広
く知られている。
(3)

引用発明を「真球状」と認定することができること


引用発明を「真球状」と認定することができることは,決定で判断した
とおりである。

本件明細書には,本件発明における「球状」の定義は特段説明されてい
ないし,
「球状粒子」の各々の関係についての記載もない。一方で,本件明細書の比較例5及び比較例6に「形態は真球状ではなく不定形の粒子であった」の記載がある。
したがって,本件発明における「球状粒子」とは,厳密な意味の真球(どの方向で計測しても均一の直径の値を示す球)
であることが求められているわけではなく,
球と見える程度の形状を備えていれば十分なものと解釈することができる。本件明細書では,得られた粒子の直径の値を複数方向から計測して,差がないことを示しているわけでもない。
そして,
「球状粒子」
それぞれが独立しているのか結合しているのか等を特段定め
ているものでないことも明らかである。本件明細書においても,
「場合によっては,
例えば乾燥時に粒子が凝集された場合には・・粉砕工程を行うのが好ましい。【0・


036】,

「乾燥物をジェットミルで粉砕して,
白色粉末形態のポリメチルシルセス
キオキサン粒子を得た。(
」【0043】
)と記載されている。

粒子同士の凝集と融着と粒子の形状とは無関係であって,球状粒子が凝
集や融着していても粒子が球状であることに変わりはない。
2
取消事由2について
(1)

「球状粒子である」
(相違点3)について

前記1(3)のとおり,引用発明で「真球状」と認定したことに誤りはなく,本件発明1と「球状」の点で一致するものであるから,原告が主張するような相違点の看過はない。
(2)

「シラノール基量を1.3%以下の量で有する」
(相違点1)について

甲4実験は,引用発明を正確に再現した追試であり,甲4実験のシラノール基量測定方法も一般的な方法である。甲4証明書によると,引用発明でのシラノール基は0.08%であることを理解できるから,引用発明を「シラノール基量が0.08%である」とした決定の認定に誤りはない。
(3)

「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1
分間攪拌後において,粒子が分散しない程度」の撥水性(相違点2)について甲4実験は,引用発明を正確に再現した追試であり,甲4実験のシラノール基量測定方法も一般的な方法である。
甲4証明書によると,引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粉末は,撥水性の程度が「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度」であることを理解できるから,引用発明を「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度の撥水性を備える」とした決定の認定に誤りはなく,原告が主張するような相違点の看過はない。
3
取消事由3について

決定において,引用発明と本件発明1との相違点として認定した相違点1及び相違点2は,実質的な相違点ではないとしたことに誤りがなく,原告が主張するような相違点の看過がないことは,前記2のとおりである。また,原告が主張する「球状粒子である」
(相違点3)についても,原告が主張するような相違点の看過がないことも,前記2のとおりである。
したがって,引用発明と本件発明2との相違点は,本件発明2で「前記シラノール基が,
前記球状粒子の表面にあること」相違点4)

を特定している点のみである。
そして,
この相違点が実質的な相違点でないことは,
決定で判断したとおりである。
4
取消事由4について

決定において,引用発明と本件発明1との相違点として認定した相違点1及び相違点2は,実質的な相違点ではないとしたことに誤りがなく,原告が主張するような相違点の看過がないことは,前記2のとおりである。また,原告が主張する「球状粒子である」
(相違点3)「前記シラノール基が前記球状粒子の表面にある」

(相
違点4)についても,いずれも原告が主張するような相違点の看過がないことも,前記2,3のとおりである。
したがって,引用発明と本件発明4との相違点は,本件発明4で「400℃での熱重量変化率が2.
7%以下であること」相違点5)

を特定している点のみである。
甲4実験は,引用発明を正確に再現した追試であり,甲4実験のシラノール基量測定方法も一般的な方法である。
甲4証明書によると,
引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粉末は,
400℃
での熱重量変化率が「2.1%」であることを理解できるから,引用発明を「400℃での熱重量変化率が2.1%である」とした決定の認定に誤りはなく,原告が主張するような相違点の看過はない。
5
取消事由5について
(1)

決定において,
引用発明と本件発明1との相違点として認定した相違点1

及び相違点2は,実質的な相違点ではないとしたことに誤りがなく,原告が主張するような相違点の看過がないことは,前記2のとおりである。また,原告が主張する
「球状粒子である」
(相違点3)

「前記シラノール基が前記球状粒子の表面にある」
(相違点4)についても,いずれも原告が主張するような相違点の看過がないことは,前記2,3のとおりである。
したがって,引用発明と本件発明3との相違点は,本件発明3で,(前記)ポリ「
アルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径が10~30μmであること」相違点(
6)を特定していることのみである。
甲1文献の「本発明で用いられるポリメチルシルセスキオキサン粉末は,特開昭60-13813号公報または特願昭61-247345号明細書に記載の方法により製造することができる。このようにして得られるポリメチルシルセスキオキサン粉末としては,その形状が各々独立したほぼ真球状であり,その粒度分布において80%以上が平均粒子径の±30%の範囲であるものが好ましく,その平均粒子径はとくに制限されないが,0.1~20μmであることが真球状の粉末を得やすいことから好ましい。(3頁左上欄最終行~右上欄10行)の記載に接した当業者」
は,甲1文献で使用する「ポリメチルシルセスキオキサン粉末」として平均粒子径が20μmまでの粉末を利用できると理解するのが普通である。そして,甲1文献に記載されている引用発明は,平均粒子径5μmのポリメチルシルセスキオキサン粉末を用いるものであるが,甲1文献のこのような記載に接した当業者にとって,これを甲5文献に記載の方法で製造することができるとされている平均粒子径20μmまでのポリメチルシルセスキオキサン粉末に替えることは普通に検討することにすぎないし,そのようにして引用発明から得られた「真球状のポリメチルシルセスキオキサン粉末」の平均粒子径は,本件発明3で特定する「平均粒径」と重複するものである。そして,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径が10~30μmであることによって,当業者に格別の予想外の効果を奏するものとも認めることができない。
(2)

甲1文献の記載から,
「ある程度小さい粒径にせざるをえなかった」とは

いい難い。また,本件明細書【0014】
【0035】
【0039】の記載は,従来
よりも大きい粒径としたことにより,含水率が低くなり,撥水性が大きくなり,保管中の吸湿性が低くなったという記載ではなく,また,撥水性については1~30μmをひとまとめにして記載しており,10μm以上の粒子を使用した場合の特別の効果について言及しているわけではない。
(3)

本件明細書
【0008】
で述べられている
「はっ水性の改善が十分でなく,

保管中の吸湿性が高くなるので,製品保管の際に取り扱いに留意しなければならないという問題」のある撥水性付与方法は,アンモニア水溶液中においてシルセスキオキサン粒子の表面をヘキサメチルジシラザンで処理する方法である。一方,甲1文献でヘキサメチルジシラザンによる撥水性付与方法として具体的に示されているのは,ポリメチルシルセスキオキサン粉末を流動状態に保持しながら前記有機ケイ「
素化合物を混合,接触させることにより処理する方法(特公昭56-41263号公報参照)またはポリメチルシルセスキオキサン粉末を前記有機ケイ素化合物とともに攪拌しながら常温から300℃の温度で混合し,接触させることにより処理する方法」であって(3頁右上欄17行~左下欄4行)
,アンモニア水溶液中において
シルセスキオキサン粒子の表面をヘキサメチルジシラザンで処理する方法ではない。第5

当裁判所の判断

1
本件発明の概要
(1)

本件明細書(甲6)には,以下の記載がある。

【技術分野】
【0001】
・・・本発明は,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子
に関し,より詳しくは,含水率が低く,表面のシラノール基の含有量が少なくて,拡散剤および各種添加剤に使用されるポリアルキルシルセスキオキサン粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】ポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,緻密な3次元網状構造で架橋構造を有するので,
有機系ポリマーに比べて比重が低く,
約400℃
まで重量変化が殆どないばかりか,熱溶融しない優れた耐熱特性および流動性を有している。
【0003】
・・・このようなポリアルキルシルセスキオキサンは,RSiO3/2の実験式を有する全ての化合物を通称するものであって,ここで,Rは水素,任意のアルキル,アルキレン,アリール,アリレン,またはこれらを含む有機官能誘導基(organicfunctionalderivative)である。【0004】従来のシリコンレジンパウダーとしてよく知られているポリアルキルシルセスキオキサン粒子の製造方法としては,オルガノトリクロロシランまたはオルガノトリアルコキシシランなどの3官能性シランを加水分解縮重合反応させる方法が提案されている。
【0006】韓国公開特許第1993-0006260号公報・・・には,オルガノトリアルコキシシランを有機酸条件下で加水分解し,水/アルコール溶液,そしてアルカリ性水溶液を添加した後,静止状態で縮合する方法が開示されている。このような方法は,弱攪拌または攪拌せずに縮合反応させることによって,低濃度触媒量でも凝集物を生成しない粒子を得ることができるが,粒径が1μm以上の粒子を製造するのに不適切である。
【0008】上記の諸問題を解決するために,日本国特開平2-150426号公報・・・では,ポリメチルシルセスキオキサン粒子の表面をポリフルオロアルキル基を含むシリル化剤で処理する方法を開示しており,日本国特開3-244636号公報・・・では,水中でシルセスキオキサン粒子の表面をヘキサメチルジシラザンおよび/またはジビニルテトラメチルジシラザンで処理する方法を提示している。しかしながら,これらの方法で得られたシリコン粒子は,はっ水性の改善が十分でなく,保管中の吸湿性が高くなるので,製品保管の際に取り扱いに留意しなければならないという問題があった。
【0010】このように,従来の技術によって製造されたポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,各種ゴム,プラスチックに配合されて使用される場合,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の表面に存在するシラノール基によって,はっ水性が低く,含水率が高いので,保管中の吸湿性が高くなるという問題をもたらす。【課題を解決するための手段】
【0011】本発明者は,ポリアルキルシルセスキ
オキサン粒子の保管中に吸湿性が高くなる問題を抑制するために鋭意研究した結果,トリオルガノシリル基を含むアルコキシトリアルキルシランを添加して,球状のポリアルキルシルセスキオキサン粒子の表面に存在する少量のシラノール基(SiOH)をアルキル基でエンド-キャッピング(end-capping)することによって,はっ水性が高く,含水率が低くて,保管中の吸湿性が低い,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子を製造することができることを発見して,本発明を完成した。
したがって,本発明は,保管中の吸湿性が改善されたポリアルキルシルセスキオキサン粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】上記目的を達成するために,本発明の一態様では,下記の化学式4で表示されるポリアルキルシルセスキオキサン粒子を提供する。
(化学式4)
RSiO(4-m)/2
(上記の式で,
Rは非加水分解性基であって,炭素数1~20のアルキル基,
(メタ)アクリロイル
オキシ基またはエポキシ基を有する炭素数1~20のアルキル基,炭素数2~20のアルケニル基,炭素数6~20のアリール基,または炭素数7~20のアラルキル基であり,
mは0ないし3の整数である。

【0013】
加水分解反応性を考慮すれば,
ポリアルキルシルセスキオキサンは,
下記の化学式4-1を平均単位式とするメチルシルセスキオキサンからなる球状粒子であるのが好ましい。
(化学式4-1)
CH3SiO3/2
【0014】本発明のポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,表面にシラノール基を有するポリアルキルシルセスキオキサン粒子の懸濁液または乾燥後の再分散液にアルコキシトリアルキルシランを添加して,表面のシラノール基をエンド-キャッピングさせることによって得ることができる。このように得られた球状のポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,従来より大きさが大きい1μm以上の粒径を有し,含水率が低く,はっ水性が大きいので,保管中の吸湿性が低いという優れた特徴がある。
【0015】本発明の他の態様では,下記の段階を含むポリアルキルシルセスキオキサン粒子の製造方法を提供できる:
下記の化学式1で表示されるアルキルトリアルコキシシランを加水分解反応させて,下記の化学式2で表示されるアルキルシラントリオールまたはその部分加水分解物を製造する第1段階;
上記アルキルシラントリオールまたはその部分加水分解物を縮重合反応させて,表面にシラノール基を有するポリアルキルシルセスキオキサン粒子を製造する第2段階;および
上記ポリアルキルシルセスキオキサン粒子に下記の化学式3で表示される化合物からなる群より選択されたアルコキシトリアルキルシランを添加して,上記シラノール基をアルキル基でエンド-キャッピング(end-capping)させる第3段階。
(化学式1)
R-Si-(OR1)3
(化学式2)
R-Si-(OH)3
(化学式3)
R2O-Si-(R3)3
(上記の式で,
RおよびR3はそれぞれ非加水分解性基であって,炭素数1~20のアルキル基,(メタ)アクリロイルオキシ基またはエポキシ基を有する炭素数1~20のアルキル基,炭素数2~20のアルケニル基,炭素数6~20のアリール基,または炭素数7~20のアラルキル基であり,
R1およびR2はそれぞれ加水分解性基であって,炭素数1~6のアルキル基である。

【0017】
(第1段階)
本発明で,第1段階は,上記化学式1で表示されるアルキルトリアルコキシシランに水性媒体を添加して均一な水性溶液に製造した後,有機酸触媒存在下で加水分解反応させることによって,上記化学式2のアルキルシラントリオールまたはその部分加水分解物を得る工程である。
【0018】
・・・上記化学式1の化合物は特に限定されないが,メチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシランを使用することができ,特にメチルトリメトキシシランが反応性が高いので好ましい。
【0019】上記化学式1のアルキルトリアルコキシシランの使用量は,加水分解時の水性媒体の量,有機酸,塩基触媒の種類,および濃度によって異なる。具体的には,第1段階の反応に利用された水性媒体100重量部に対してアルキルトリアルコキシシランを100重量部以下,より好ましくは1.0~90重量部,最も好ましくは5.0~80重量部で使用する。アルキルトリアルコキシシランの含有量が90重量部を超える場合には,使用の際に粒子どうしの凝集または融着が発生しやすく,1.0重量部未満である場合には,水溶液中に最終的に生成されたシリコン粒子の濃度が低すぎて,生産効率が悪い。
【0024】
(第2段階)
第2段階は,上記第1段階で得られた上記化学式2で表示されるアルキルシラントリオールまたはその部分加水分解物を塩基触媒下で縮重合させて,表面にシラノール基を有するポリアルキルシルセスキオキサン粒子を製造する段階である。【0025】本発明で使用される塩基触媒は,化学式1のアルキルトリアルコキシシランの部分加水分解物の有機酸触媒を中和する役割と共に,縮重合反応のための触媒として使用される。
【0026】上記塩基触媒の例としては,水酸化カリウム,水酸化ナトリウム,水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム,水酸化バリウムなどのアルカリ土金属水酸化物;炭酸カリウム,炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;モノメチルアミン,ジメチルアミン,モノエチルアミン,ジエチルアミン,エチレンジアミン,およびアンモニアなどのアミン類;からなるグループから選択された1種または2種以上を組み合わせて使用することができるが,水に対する溶解性および触媒活性が優れており,毒性が少なく,除去が容易であり,特に値段が安いアンモニアを使用するのが好ましい。
【0027】上記塩基触媒の使用量は,第1段階で得られたアルキルシラントリオールまたは部分加水分解物100重量部に対して0.05~3重量部であるのが好ましい。
【0028】上記塩基触媒を添加した後の水溶液のpHは9.0ないし13.0であり,最も好ましくは9.5ないし12.0である。この時,pHが9より低い場合には,縮重合反応速度が低下し,粒子が互いに凝集および融着しやすく,水性懸濁液がゲル化され,pHが13.0より高い場合には,オルガノトリアルコキシシランの縮重合反応速度は向上するが,投入量に対する反応効率が低下して,不定形ゲルが生成されるので,収率が低くなる。
【0030】
(第3段階)
本発明の第3段階は,第2段階で得られた表面にシラノール基を有するポリアルキルシルセスキオキサン粒子の表面に上記化学式3で表示されるアルコキシトリアルキルシランを添加して,上記シラノール基をアルキル基でエンド-キャッピング(end-capping)させることによって,表面のシラノール基の含有量を5%以下,好ましくは0.5ないし5%に減らしたポリアルキルシルセスキオキサン粒子を得る工程である。
【0032】上記化学式3のアルコキシトリアルキルシラン化合物としては,炭素数1~20のアルキル基または炭素数2~20のアルケニル基を有するアルコキシトリアルキルシランを使用するのが好ましい。アルコキシトリアルキルシランの例は上記化学式3で表示され,より好ましくは,トリメチルメトキシシラン,トリメチルエトキシシラン,トリメチルプロポキシシラン,トリメチルイソプロポキシシラン,トリメチルブトキシシラン,トリメチルペントキシシラン,トリエチルメトキシシラン,トリプロピルエトキシシラン,トリエチルエトキシシラン,トリプロピルメトキシシラン,
トリブチルメトキシシラン,
トリフェニルメトキシシラン,
トリフェニルエトキシシラン,トリビニルメトキシシラン,トリビニルエトキシシラン,およびビニルメチルメトキシシランからなるグループから選択された1種または2種類以上を併用することができる。この中でも,反応性を考慮して,トリメチルメトキシシランおよびトリビニルメトキシシランが好ましく,特にトリメチルメトキシシランであるのが好ましい。
【0033】上記化学式3のアルコキシトリアルキルシランの使用量は,アルキルトリアルコキシシランの種類および量によって異なる。具体的には,アルコキシトリアルキルシランの使用量は,化学式1のアルキルトリアルコキシシラン100重量部に対して10重量部以内であり,
より好ましくは0.
1~10重量部であり,
最も好ましくは0.5~5重量部である。この時,化学式3のアルコキシトリアルキルシランの使用量が10重量部を超える場合には,エンド-キャッピング効果を現わすための使用量より多量に投入されるので,アルコキシトリアルキルシランどうしがダイマー形態のような副反応が発生しやすく,粒子どうしで凝集または融着が発生して,粒径分布が広くなる。また,その使用量が0.1重量部未満である場合には,エンド-キャッピングが効果的に行われない。
【0034】また,本発明において,各段階の反応温度は,使用する有機シラン化合物の種類および量などによって左右されるが,好ましくは0~50℃の範囲である。ここで,反応温度が0℃より低い場合には,水性媒体が凍結して,重合が難しくなり,50℃を超える場合には,アルコキシドが揮発して,収率が低くなる。【0035】また,上記反応温度範囲を調節して,所望の大きさのポリアルキルシルセスキオキサン粒子を製造することができる。つまり,粒径10~30μm程度の比較的大きな粒子を製造する時には5~30℃の温度で反応を実施するのが好ましく,粒径1~10μm程度の比較的小さな粒子を製造する時には30~40℃で反応を実施するのが好ましい。
【0036】また,本発明において,特にアルキルトリアルコキシシランの使用量が多い場合には,加水分解および縮重合反応の際に,攪拌が強すぎると粒子どうしの凝集または融着が発生する傾向があるので,できる限り温和な条件で攪拌を行うのが好ましく,このように製造された球状のポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,反応終了後に,ろ過分離して洗浄した後,乾燥して得られる。場合によっては,例えば乾燥時に粒子が凝集された場合には,ジェットミル,ボールミル,またはハンマーミルなどの粉砕機で粉砕工程を行うのが好ましい。
【0037】
上記方法によって得られたポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,表面にシラノール基を5%以下の量で有する。このようなシラノール基の含有量の範囲を満たす本発明の粒子は,吸湿性が低くて,保管中の安定性が高く,また,目的とする組成に配合する際に,例えば拡散板や拡散フィルムなどに配合する時に,吸湿性が高くて発生する問題,
例えば表面にエンボスの発生などの短所が殆どなく,
最終製品の作動時にも悪影響を及ぼさない。
【0038】また,表面に存在するメチル基に対するシラノール基の含有量が低くなるので,上記シラノール基の含有量の範囲を満たす本発明の粒子は,400℃における熱重量変化率が2.
7%以下である。
この時,
上記熱重量変化率が2.
8%
以上である場合には,200℃以上の温度で高耐熱性が要求される物質に適用する時に,粒子の耐熱性が悪くなって,製品の物性に影響を与えるので好ましくない。【0039】本発明によるポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,含水率が低く,はっ水性が高く,保管中の吸湿性が低くて,体積平均粒径が1~30μmであるので,ディスプレイ素材分野のバックライトユニット(BLU)の光拡散フィルムおよび光拡散板の光拡散剤,コーティング素材分野の表面潤滑性,はっ水性,はつ油性,およびプラスチックフィルムのブロッキング防止剤,塗料,および化粧品添加剤に使用するのに適している。
【0040】
【図1】実施例1のポリメチルシルセスキオキサン粒子の粒子構造を示した写真である。
【図2】実施例5のポリメチルシルセスキオキサン粒子の粒子構造を示した写真である。
【図3】実施例6のポリメチルシルセスキオキサン粒子の粒子構造を示した写真である。
【図4】実施例1のポリメチルシルセスキオキサン粒子のFT-IRスペクトルを示した写真である。
【発明を実施するための形態】
・・・
【0043】
<実施例1>
以下の段階を経て,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子を製造した。(第1段階)
2Lの丸底フラスコにイオン交換水950重量部,酢酸0.3重量部を加えてpHが2~4になるように溶解した後,メチルトリメトキシシラン600重量部を添加した。窒素を5分間パージした後,200rpmで攪拌した。この混合溶液の内部温度は3分後に42℃に上昇し,約3時間後にメチルトリメトキシシランは完全に溶解して,均一な溶液からなるアルキルシラントリオールまたは部分加水分解物を得た。
このアルキルシラントリオールまたは部分加水分解物の数平均分子量をテトラヒドロフラン(THF)溶媒を利用してWater

model

150GPCで分

析した結果,数平均分子量は430であった。
(第2段階)
第1段階で得られたアルキルシラントリオールまたはその部分加水分解物500重量部を,イオン交換水700重量部,29%アンモニア水溶液20重量部を加えて調製したpH9~12の水溶液に一度に添加した。この時,反応温度は35℃,5分間150rpm攪拌速度で攪拌して,白濁になれば3時間静置した後,縮重合反応を実施して,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子を生成した。(第3段階)
上記第2段階で生成されたポリアルキルシルセスキオキサン粒子の白色懸濁液にトリメチルメトキシシラン3.8重量部を添加した。12時間放置後,ワイヤーメッシュ(Wire

mesh)である200メッシュに通過させた後,メタノール

で数回水洗および洗浄して,脱水したケーキ状態の粉末を得た。これを熱風循環乾燥機で105℃で4時間乾燥し,乾燥物をジェットミルで粉砕して,白色粉末形態のポリメチルシルセスキオキサン粒子を得た。
この重合で得られた粒子の収率は99.
7モル%であり,
平均粒径
(d50)
は2.
3μmであり,粒径の変動係数(CV:Coefficient
ation)は20.5%であった。
of

vari

【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】上記の表1および表2の結果から,本発明の実施例の場合が,アルコキシトリアルキルシランを利用してエンド-キャッピングしない比較例の評価結果に比べて,含水率が低く,表面のシラノール基の含有量が少ないことが分かる。【0066】<実験例:はっ水性テスト>
疎水性ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の分散性が有機溶剤の濃度によって変化する性質を利用して,粒子のはっ水性を評価した。つまり,表4に示した濃度の水/メタノール水溶液に実施例および比較例で製造されたポリメチルシルセスキオキサン粒子を添加して,弱攪拌(100rpmで1分間)および強攪拌(300rpmで1分間)
してはっ水性テストを実施して,
その結果を下記の表4に表した。
【0067】
【表4】
【0068】上記の表4の結果から,本発明の実施例の場合が,比較例に比べてはっ水性が優れていることが分かる。
【図1】

【図2】
【図3】
【図4】

(2)

以上から,本件発明は,以下のとおりのものと認められる。

本件発明は,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子に関する(
【0001】。

従来の技術によって製造されたポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,各種ゴム,プラスチックに配合されて使用される場合,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の表面に存在するシラノール基によって,撥水性が低く,含水率が高いので,保管中の吸湿性が高くなるという問題があった。本件発明は,保管中の吸湿性が改善されたポリアルキルシルセスキオキサン粒子の提供を目的とする。【0010】(

【0011】

本件発明のポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,球状のポリアルキルシルセスキオキサン粒子の表面に存在する少量のシラノール基(SiOH)をアルキル基でエンド-キャッピング(end-capping)することによって,撥水性が高く,含水率が低くて,保管中の吸湿性が低いものとなっている(【0011】。

本件発明によるポリアルキルシルセスキオキサン粒子は,含水率が低く,撥水性が高く,保管中の吸湿性が低くて,体積平均粒径が1~30μmであるので,ディスプレイ素材分野のバックライトユニット(BLU)の光拡散フィルム及び光拡散板の光拡散剤,コーティング素材分野の表面潤滑性,撥水性及び撥油性,プラスチックフィルムのブロッキング防止剤,塗料,並びに化粧品添加剤に使用するのに適している(
【0039】。

2
引用発明の認定
(1)



甲1文献には,以下の記載がある。

特許請求の範囲

(1)一般式;
(R3Si)aZ
(式中,Rは非置換の一価炭化水素基を表し,aは1または2を表し,Zはaが1のとき水素原子,ハロゲン原子,水酸基,-OR′,-NR′X,-ONR′2または-OOCR′を表し,aが2のとき-O-,-N(X)′-または-S-を表す。ただし,ここでR′は炭素原子数1~4個のアルキル基を表し,Xは水素原子またはR′と同様のアルキル基を表す)
で示される有機ケイ素化合物で表面処理されていることを特徴とするポリメチルシルセスキオキサン粉末。
(2)
ポリメチルシルセスキオキサン粉末の形状が各々独立したほぼ真球状であり,その粒度分布において80%以上が平均粒子径の±30%の範囲である請求項第1項記載のポリメチルシルセスキオキサン粉末。
(1頁左下欄5行~右下欄3行)


〔発明の技術分野〕

本発明は,表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粉末に関し,さらに詳しくは,その撥水性が優れている表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粉末に関する。
(1頁右下欄11行~15行)


〔発明の目的〕

本発明は,撥水性が優れているポリメチルシルセスキオキサン粉末を提供することを目的とする。
(2頁左下欄7行~10行)


〔発明の構成〕

本発明者らは,上記の目的を達成すべく研究を重ねた結果,官能基を1個有する有機ケイ素化合物で表面処理することにより,撥水性の優れたポリメチルシルセスキオキサン粉末が得られることを見い出し,本発明を完成するに至った。すなわち,本発明のポリメチルシルセスキオキサン粉末は,一般式;(R3Si)aZ
(式中,Rは非置換の一価炭化水素基を表し,aは1または2を表し,Zはaが1のとき水素原子,ハロゲン原子,水酸基,-OR′,-NR′X,-ONR′2または-OOCR′を表し,aが2のとき-O-,-N(X)′-または-S-を表す。ただし,ここでR′は炭素原子数1~4個のアルキル基を表し,Xは水素原子またはR′と同様のアルキル基を表す)
で示される有機ケイ素化合物で表面処理されていることを特徴とする。本発明で用いる上記式で示される有機ケイ素化合物は,ポリメチルシルセスキオキサン粉末表面のシラノール基を減少させ,さらにトリオルガノシリル基を結合させる作用をするものであり,これにより,ポリメチルシルセスキオキサン粉末の撥水性を向上させることができる。
・・・
かかる有機ケイ素化合物としては,
・・・トリメチルメトキシシラン,トリメチル
エトキシシラン,ヘキサメチルジシラザン・・・などを例示することができるが,生成物の撥水性とその除去の容易さからヘキサメチルジシラザンが好ましい。本発明で用いられるポリメチルシルセスキオキサン粉末は,特開昭60-13813号公報または特願昭61-247345号明細書に記載の方法により製造することができる。
このようにして得られるポリメチルシルセスキオキサン粉末としては,その形状が各々独立したほぼ真球状であり,その粒度分布において80%以上が平均粒子径の±30%の範囲であるものが好ましく,
その平均粒子径はとくに制限されないが,
0.
1~20μmであることが真球状の粉末を得やすいことから好ましい。(2頁左
下欄11行~3頁右上欄10行)


〔発明の効果〕

本発明の表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粉末は,優れた撥水性を有しており,合成樹脂や合成ゴムなどに配合することによりその撥水性を大きく向上させることができる。
(3頁左下欄18行~右下欄2行)


〔実施例〕

以下,本発明を実施例を掲げて説明する。なお,実施例中の「部」はすべて「重量部」を表す。
実施例1
温度計,還流器および攪拌機のついた四つ口フラスコに,ヘキサメチルジシラザン1000部と,特開昭60-13813号公報に記載の方法により得た平均粒子径5μmのポリメチルシルセスキオキサン粉末1000部を仕込み,25℃で攪拌し,15時間保持した。次いで,処理物をろ紙で吸引ろ過後,200℃の乾燥器中で乾燥させ,表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粉末を得た。得られた前記ポリメチルシルセスキオキサン粉末の撥水性について次の方法で試験し,評価した。
まず,2つの容器中に,それぞれメタノール60部とイオン交換水40部からなる混合溶液またはメタノール80部とイオン交換水20部からなる混合溶液を14部ずつ添加した。次いで,各容器中に表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粉末3部を添加したのち,振とう,分散させ,その後,900r.p.m.で5分間遠心沈降処理を行った。次いで,沈降したポリメチルシルセスキオキサン粉末を採り出し,200℃の乾燥器中で1時間乾燥させたものの重量を測定した。このようにして求めた沈降したポリメチルシルセスキオキサン粉末重量と試験前の表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粉末重量から,次式;
沈降重量百分率(%)=(沈降したポリメチルシルセスキオキサン粉末重量/試験前の表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粉末重量)×100に基づいて算出した沈降重量百分率により撥水性を評価した。すなわち,沈降重量百分率が小さいほど撥水性が優れていることを表す。
結果を表に示す。
(3頁右下欄3行~4
頁右上欄1行)


(2)

以上から,
少なくとも,
以下のとおりの引用発明を認定することができる。

「温度計,還流器及び攪拌機のついた四つ口フラスコに,ヘキサメチルジシラザン1000部と,特開昭60-13813号公報(甲5文献)に記載の方法により得た平均粒子径5μmのポリメチルシルセスキオキサン粉末1000部を仕込み,25℃で攪拌し,15時間保持した後,処理物をろ紙で吸引ろ過後,200℃の乾燥器で乾燥させ,表面処理がされた,ポリメチルシルセスキオキサン粉末」3
取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
(1)



甲5文献記載の発明
甲5文献には,以下の記載がある。

特許請求の範囲

(1)メチルトリアルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物を,アンモニアまたはアミン類の水溶液中で,加水分解・縮合させることを特徴とするポリメチルシルセスキオキサンの製造方法。
(1頁左下欄4行~8行)


[発明の技術分野]本発明はポリメチルシルセスキオキサンの製造方法に関
するものであり,特に優れた自由流動性を示す粉末状のポリメチルシルセスキオキサンの製造方法に関するものである。
(1頁右下欄3行~7行)


[発明の目的]本発明は,塩素原子の含有量が少なく,さらにアルカリ土類
金属やアルカリ金属を含有せず,自由流動性の優れた粉末状のポリメチルシルセスキオキサンの製造方法を提供することを目的とする。2頁左上欄19行~右上欄3(
行)
④[発明の概要]
・・・本発明においては,アルコキシ化反応によって得られた
メチルトリアルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物中に副生する塩化水素または未反応のメチルクロロシランとして存在する塩素原子の量は,特に限定されるものではない。
本発明によるアンモニアまたはアミン類は,メチルトリアルコキシシラン中に残存する塩素原子の中和剤であり,かつ,メチルトリアルコキシシランの加水分解および縮合反応の触媒である。
・・・
これらアンモニアおよびアミン類の使用量は,前記アルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物中に存在する塩素原子を中和するのに十分な量に触媒を加えた量であるが,除去等の点で必要最小限にとどめるべきである。アンモニアおよびアミン類の使用量が少なすぎると,アルコキシシラン類の加水分解,さらには縮合反応が進行せず,目的物が得られない。
アンモニアおよびアミン類の水溶液の使用量は前記アルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物のアルコキシ基,もしくは未反応のクロロシランの塩素原子を加水分解するのに必要な理論量の2倍以上の水を含む量があればよい。特に上記アミン類の水溶液の使用量に上限はない。しかし,水溶液の使用量が多くなると,反応工程上不利であり,反応時間も長くなる。逆にあまり使用量が少なくなりすぎると,副生するアルコールにより加水分解反応が阻害されて反応時間が長くかかり,また自由流動性に優れた粉体が得られない。
本発明の加水分解・縮合反応は,アンモニアまたはアミン類の水溶液中にメチルトリアルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物を攪拌しながら滴下することによって行なう。滴下後,数時間攪拌すれば目的物は得られるが,加熱により短時間で加水分解反応と縮合反応を行なうことにより,容易に目的物を得ることができるので,加熱を行うことが好ましい。その温度は,前記アルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物の量およびアンモニアまたはアミン類の水溶液の量により異なるが,その反応物の還流温度でよい。反応時間は,70~90℃で約1~2時間である。
(2頁右上欄4行~3頁左上欄13行)


[発明の実施例]以下本発明の実施例について説明する。実施例中,部はす
べて重量部を表わす。
実施例1
温度計,還流器および攪拌機のついた1lの4つロフラスコに,水500部と28%の濃度のアンモニア水溶液50部とを仕込み,このアンモニア水溶液中に,塩素原子換算で5ppmのメチルトリクロロシランを含有するメチルトリメトキシシラン200部を,攪拌しながら約40分かけて徐々に滴下した。反応温度は10℃からスタートし,滴下終了時には30℃に達した。次にマントルヒーターで加熱して84℃で還流させ,この温度で約1時間攪拌を続けた。冷却後フラスコ内に析出した生成物を捕集し,水洗して乾燥したところ,自由流動性に優れた粉末状のポリメチルシルセスキオキサンが得られた。この生成物の塩素原子含有量は0.1ppm以下であった。
(3頁右上欄11行~左下欄8行)


実施例2~5

第1表に示すメチルトリメトキシシランとアンモニア水溶液を用いて,実施例1と同様の操作を行なった。
・・・

実施例6
1重量%の塩素原子を含むメチルトリエトキシシラン178部に水9部を添加し,80℃で約2時間加熱してその部分加水分解化合物を得た。これをエチレンジアミンの3重量%水溶液500部中に滴下し,実施例1と同様の条件下で加水分解・縮合させたところ,
粉末状のポリメチルシルセスキオキサンが得られた。
(3頁左下欄
9行~4頁左上欄8行)

以上より,甲5文献記載の発明は,ポリメチルシルセスキオキサンの製
造方法に関するものであり(前記ア②)
,塩素原子の含有量が少なく,アルカリ土類
金属やアルカリ金属を含有せず,自由流動性の優れた粉末状のポリメチルシルセスキオキサンの製造方法を提供することを目的とし
(前記ア③)アンモニアまたはア

ミン類を,
原料であるメチルトリアルコキシシラン中に残存する塩素原子の中和剤,並びに,メチルトリアルコキシシランの加水分解及び縮合反応の触媒として用いるという製造方法を採用したものである(前記ア④)と認められる。(2)

引用発明の粉末のシラノール基量及び撥水性を甲4実験に基づき認定した点について

甲1文献の実施例1において用いたポリメチルシルセスキオキサン粉末
は,
「甲5文献記載の方法により得た平均粒子径5μm」のものである。決定は,甲4実験は,甲1文献の実施例1を追試したものであり,甲4実験のポリメチルシルセスキオキサン粒子は,シラノール基量が0.08%であること,及び,撥水性の程度が「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,
粒子が分散しない程度」
であることを示していると認定した上で,
引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粒子のシラノール基量及び撥水性を認定した。
しかし,甲1文献の実施例1にいう,甲5文献記載の方法によることが,甲5文献の実施例1によることで足りるとしても,以下のとおり,甲4実験は甲1文献の実施例1を再現したものとは認められない。

甲5文献の実施例1を含む甲1文献の実施例1の方法と,甲4実験とを
比較すると,少なくとも,①攪拌条件,及び,②原料メチルトリメトキシシランの塩素含有量において,甲4実験は,甲1文献の実施例1の方法を再現したとは認められない。
(ア)

攪拌条件について

真球状ポリメチルシルセスキオキサンの粒子径をコントロールするために,反応温度,攪拌速度,触媒量などの反応条件を選定すること(乙2

489頁左欄6行

~11行)ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の製造方法として,,
オルガノトリ
アルコキシシランを有機酸条件下で加水分解し,水/アルコール溶液,アルカリ性水溶液を添加した後,静止状態で縮合する方法において,弱攪拌又は攪拌せずに縮合反応させることによって,低濃度触媒量でも凝集物を生成しない粒子を得ることができるが,粒径が1μm以上の粒子を製造するのに不適切であることが本件発明の従来技術であったこと(本件明細書【0006】
)からすると,ポリメチルシルセ
スキオキサン粒子の製造においては,攪拌条件により,粒子径の異なるものが得られるものといえる。
甲5文献の実施例1には,攪拌速度は記載されておらず,甲4実験においても,攪拌速度が明らかにされていない。したがって,実験条件から,得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均粒径を推測することはできない。加えて,甲4実験においては,甲5文献の実施例1で追試して得られたとするポリメチルシルセスキオキサン粒子の粒径は計測されていない。したがって,甲4実験において甲5文献の実施例1を追試して得られたとするポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均粒子径が,甲1文献の実施例1で用いられたポリメチルシルセスキオキサン粉末と同じ5μmのものであると認めることはできない。
(イ)

原料メチルトリメトキシシランの塩素含有量について

甲5文献記載の発明は,
前記(1)イのとおり,
塩素原子の含有量が少ないポリメチ
ルシルセスキオキサンの製造方法を提供するものであり,塩素原子を中和するためにアンモニア又はアミン類を用いるものである。そして,アンモニア及びアミン類の使用量は,アルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物中に存在する塩素原子を中和するのに十分な量に触媒量を加えた量であるが,除去等の点で必要最小限にとどめるべきであり,アンモニア及びアミン類の使用量が少なすぎると,アルコキシシラン類の加水分解,さらには縮合反応が進行せず,目的物が得られない(前記(1)ア④)
。実施例1~5及び比較例1~3においては,原料に含まれる塩素原子濃度並びに使用したアンモニア水溶液の量及びアンモニア濃度が記載されている(前記(1)ア⑤⑥)
。以上の点からすると,塩素原子の中和に必要な量でありかつ除去等の点で最小限である量のアンモニア及びアミン類を使用するために,塩素原子の量とアンモニア及びアミン類の量を確認する必要があり,そのために,甲5文献の実施例1においては,用いたメチルトリメトキシシランのメチルトリクロロシランの含有量が塩素原子換算で5ppmであることを示したものと理解される。ところが,甲4実験で甲5文献の実施例1の追試のために原料として用いたメチルトリメトキシシランの塩素原子含有量は計測されていない。したがって,甲4実験で用いられたメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量と甲5文献の実施例1で用いられたメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量とが同一であると認めることはできない。そうすると,甲4実験において,甲5文献の実施例1と同様にアルコキシシラン類の加水分解,縮合反応が進行したと認めることはできず,その結果,得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子が,甲5文献の実施例1で得られたものと同一と認めることはできない。

以上より,甲4実験で用いたポリメチルシルセスキオキサン粒子は,甲
1文献の実施例1で用いられたものと同一とはいえないから,甲4実験で得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子のシラノール基量及び撥水性を,甲1文献の実施例1のそれと同視して,引用発明の内容と認定することはできない。エ
被告の主張に対する判断
(ア)

被告は,
甲1文献の実施例1と甲4実験とでは,
主要な実験条件に差

異がなく,記載が省略されている実験条件は発明の実施に関係しないか,関係性が低い事項であるから,技術常識で補って実験を行うことができるから,甲4実験において甲1文献の実施例1
(甲5文献の実施例1を含む。では不明である条件を技

術常識の範囲で補い,
これらの条件が甲4証明書に記載されていないことを理由に,
甲4実験が甲1文献の実施例1を正確に再現するものではないとはいえない,と主張する。
しかし,前記ア及びイのとおり,攪拌条件はポリメチルシルセスキオキサン粒子の粒子径に関係し,原料メチルトリメトキシシランの塩素含有量は,目的物を得るためのアルコキシシラン類の加水分解や縮合反応に関係するから,甲1文献の実施例1の実施に対して関係性が低いとはいえず,これらを特定することなく甲4実験が甲1文献の実施例1を再現したものと認めることはできない。
(イ)

被告は,甲4実験において,甲5文献に即してポリメチルシルセス
キオキサンを製造しているから,甲4実験で用いたポリメチルシルセスキオキサン粉末は,平均粒子径5μm程度となっている,と主張する。
しかし,前記アのとおり,攪拌条件がポリメチルシルセスキオキサン粒子の粒径に関係し,甲4実験が甲5文献の実施例1と同じ攪拌条件を用いたものと認めることはできないから,甲4実験で用いたポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均粒子径が5μm程度と認めることはできない。
(ウ)

被告は,
甲4実験で表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粒

子の体積平均粒径は5.7μmであり,表面処理されたポリメチルシルセスキオキサン粒子の表面処理に伴う粒子径の増加はそれほど大きくないから,表面処理前の平均粒子径は5μm程度である,と主張する。
しかし,表面処理に伴う粒径の増加の程度が被告主張の程度であることを示す証拠はない。
(エ)

被告は,
甲5文献の
「アルコキシ化反応によって得られたメチルトリ

アルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物中に副生する塩化水素または未反応のメチルクロロシランとして存在する塩素原子の量は,特に限定されるものではない。との記載を理由に,

原料のメチルトリメトキシシラン中のメチルトリクロロ
シランの含有量は本質的な事項ではない,と主張する。
しかし,仮に,塩素原子の量を幅をもって限定する必要がないとしても,前記イのとおり,甲5文献記載の発明においては,原料のメチルトリメトキシシラン中の塩素原子は,アンモニア又はアミン類で中和すべきものであり,塩素原子の中和に必要なアンモニア又はアミン類の使用量を確定するためには,塩素原子の量を特定する必要がある。したがって,原料のメチルトリメトキシシラン中のメチルトリクロロシランの含有量は本質的な事項ではないとはいえない。
(3)

したがって,
その余の点を判断するまでもなく,
決定の引用発明の認定は

誤っている。取消事由1には,理由がある。
4
第6

よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求には理由がある。結論

以上のとおり,取消事由1には理由があるから決定を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
森義之早苗
裁判官
永田古庄
裁判官

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