判例検索β > 平成27年(ネ)第1790号
事件番号平成27(ネ)1790
裁判年月日平成29年12月14日
法廷名東京高等裁判所
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平成29年12月14日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成27年(ネ)第1790号各損害賠償等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所
83号,
口頭弁論終結日

平成29年3月17日

当事者の表示


別紙控訴人目録,同控訴人代理人目録並びに被控訴人及び同指定
代理人目録に記載のとおり(添付省略)
主1文
控訴人らの当審における追加請求のうち憲法29条3項に基づく請求に係る訴えをいずれも却下し,その余の当審における追加請求及び本件控訴をいずれも棄却する

2
当審における訴訟費用はすべて控訴人らの負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人ら各自に対し,別紙謝罪文を交付し,かつ同謝罪文を官報に掲載せよ。

3
第1事件について
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第1事件」控訴人番号1から11まで,同13,同14,同16,同18,同21から23まで,同25から同33まで,同35の1,同36の1及び同37から同39までの控訴人らに対し,各金1000万円並びにこれらに対する平成18年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第1事件」控訴人番号12の1の控訴人に対し金333万3334円,同12の2及び同12の3の控訴人らに
対し各金333万3333円並びにこれらに対する平成18年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第1事件」控訴人番号15の1から同15の5までの控訴人らに対し各金200万円及びこれらに対する平成18年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第1事件」控訴人番号17の1の控訴人に対し金600万円,同17の2の控訴人に対し金400万円及びこれらに対する平成18年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第1事件」控訴人番号19の1の控訴人に対し金400万円,同19の2及び同19の3の控訴人らに対し各金300万円並びにこれらに対する平成18年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第1事件」控訴人番号20の1から同20の4までの控訴人らに対し各金250万円及びこれらに対する平成18年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第1事件」控訴人番号24の1から同24の3まで,同24の5及び同24の6の控訴人らに対し各金150万円,同24の4の控訴人に対し金250万円並びにこれらに対する平成18年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第1事件」控訴人番号34の1から同34の4までの控訴人らに対し各金250万円及びこれらに対する平成18年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第1事件」控訴人番号40の1から同40の3までの控訴人らに対し各金250万円,同40の4及び同40の5の控訴人らに対し各金125万円並びにこれらに対する平成18年6月1
0日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
第2事件について
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第2事件」控訴人番号1から同5まで,同7から同20まで,及び同22の控訴人らに対し,各金1000万円並びにこれらに対する平成20年9月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第2事件」控訴人番号6の1から同6の3まで,同6の5及び同6の6の控訴人らに対し各金141万6000円,同6の4の控訴人に対し金292万円並びにこれらに対する平成20年9月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第2事件」控訴人番号21の1及び同21の2の控訴人らに対し各金500万円並びにこれらに対する平成20年9月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
第3事件について
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第3事件」控訴人番号1から同11まで,同12の1,同13,同15から同18まで,同20,同21,同22の1及び同23から同45までの控訴人らに対し,各金1000万円並びにこれらに対する平成21年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第3事件」控訴人番号14の1から同14の4までの控訴人らに対し各金250万円及びこれらに対する平成21年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第3事件」控訴人番号19の1から同19の5までの控訴人らに対し各金200万円及びこれらに対する平成21年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6
第4事件について

被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第4事件」控訴人番号1,同2,同4から同6まで,同8から同10まで,同11の1,同13から同16まで,同18,同19,同21から同26まで,同28から同30まで,同32から同52まで,同53の1及び同54から同81までの控訴人らに対し,各金1000万円並びにこれらに対する平成21年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第4事件」控訴人番号3の1から同3の4までの控訴人らに対し各金250万円及びこれらに対する平成21年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第4事件」控訴人番号7の1及び同7の3の控訴人らに対し各金300万円,同7の2の控訴人に対し金400万円並びにこれらに対する平成21年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第4事件」控訴人番号12の1及び同12の3の控訴人らに対し各金300万円,同12の2の控訴人に対し金400万円並びにこれらに対する平成21年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第4事件」控訴人番号17の1から同17の4までの控訴人らに対し各金250万円及びこれらに対する平成21年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第4事件」控訴人番号20の1の控訴人に対し400万円,同20の2から同20の4までの控訴人らに対し各金200万円及びこれらに対する平成21年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第4事件」控訴人番号27の1及び同27の2の控訴人らに対し各金500万円並びにこれらに対する平成21
年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,別紙控訴人目録記載の「第4事件」控訴人番号31の1から同31の5までの控訴人らに対し各金200万円及びこれらに対する平成21年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2
1
事案の概要
本件は,中華人民共和国国民である控訴人ら(第1事件原告(訴え提起当初は40名であったが,訴訟係属中に10名が死亡して合計34名が本件訴訟を承継し,合計64名となった。),第2事件原告(訴え提起当初は22名であったが,訴訟係属中に2名が死亡して8名が本件訴訟を承継し,合計28名となった。),第3事件原告(訴え提起当初は45名であったが,訴訟係属中に4名が死亡して11名が本件訴訟を承継し,合計52名となった。)及び第4事件原告(訴え提起当初は81名であったが,訴訟係属中に9名が死亡して27名が本件訴訟を承継し,合計99名となった。)の合計243名(各訴え提起時の控訴人合計は188名))が,日本軍が第二次世界大戦中に当時の中華民国の新首都となった四川省重慶市及びその周辺地域において行った爆撃が一般市民に大量の犠牲を生じさせる無差別爆撃であり,これにより控訴人らやその親族多数を殺傷したこと等が当時の国際法(「陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約」(以下「ヘーグ陸戦条約」という。)3条並びに同条約及び「空戦に関する規則案」(以下「空戦規則案」という。)等の内容が国際慣習法となったもの),我が国の民法の不法行為規定,条理,当時の中華民国民法の不法行為規定に違反し,また,同大戦後は,違法な立法不作為により救済のための立法をせず,行政不作為により救済措置をとることを怠り,控訴人ら,承継前控訴人ら又は承継前原告らに精神的損害を与えた旨を主張して,被控訴人に対し,慰謝料(控訴人(訴訟承継があった場合には承継前控訴人又は承継前原告)1名につき1000万円)及びこれに対する遅延損害金(各事件訴状送達日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合によるもの)の支払並びに別紙謝
罪文の交付及び同謝罪文の官報への掲載を求める事案である。
原審は控訴人らの請求をいずれも棄却し,
控訴人らが控訴した。
控訴人らは,
当審において,後記3記載の請求にかかる訴えを追加する旨の訴えの変更をしたが,被控訴人は控訴人らの訴えの変更に同意しないとしている。2
訴訟承継等,当事者の主張及び争点は,次のとおり補正し,後記3に当審における控訴人らの追加請求に関する当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2
び「第4

事案の概要等」の2,「第3

当事者の主張」及

争点」に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決4頁12行目末尾の後に行を改めて,次のとおり加える。


1審原告Aは,訴訟係属中の平成20年12月9日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の配偶者である第1事件控訴人番号12の1,同原告の子である第1事件控訴人番号12の2及び同番号12の3であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各3分の1の割合で1審原告Aの権利義務を承継した。
1審原告Bは,訴訟係属中の平成27年6月27日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の配偶者である第1事件控訴人番号15の1,同原告の子である第1事件控訴人番号15の2,同番号15の3,同番号15の4及び同番号15の5であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各5分の1の割合で1審原告Bの権利義務を相続した。
1審原告Cは,訴訟係属中の平成26年3月12日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第1事件控訴人番号19の1,同番号19の2,同番号19の3であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,第1事件控訴人番号19の1が4割,同番号19の2及び同番号19の3が各3割の割合で1審原告Cの権利義務を相続した。

1審原告Dは,訴訟係属中の平成20年1月2日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第1事件控訴人番号20の1,同番号20の2,同番号20の3及び同番号20の4であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各4分の1の割合で1審原告Dの権利義務を相続した。
1審原告Eは,訴訟係属中の平成20年10月22日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の配偶者である第1事件控訴人番号24の1,同原告の子である第1事件控訴人番号24の2,同番号24の3,同番号24の4,同番号24の5,同番号24の6であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,第1事件控訴人番号24の4が25パーセント,その余の相続人が各15パーセントの割合で1審原告Eの権利義務を相続した。
1審原告Fは,訴訟係属中の平成21年12月24日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第1事件控訴人番号34の1,同番号34の2,同番号34の3,同番号34の4であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各4分の1の割合で1審原告Fの権利義務を相続した。
1審原告Gは,訴訟係属中の平成19年11月25日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の配偶者である第1事件控訴人番号35の1であり,同相続人は,本件請求について,1審原告Gの権利義務を相続した。
1審原告Hは,訴訟係属中の平成20年12月22日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の弟の配偶者である第1事件控訴人番号36の1であり,同相続人は,本件請求について,1審原告Hの権利義務を相続した。
1審原告Iは,訴訟係属中の平成26年2月18日頃死亡した。同原
告の相続人は,同原告の子である第2事件控訴人番号21の1,同番号21の2であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各2分の1の割合で1審原告Iの権利義務を相続した。
1審原告Jは,訴訟係属中の平成24年4月27日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第3事件控訴人番号12の1であり,同相続人は,本件請求について,1審原告Jの権利義務を相続した。1審原告Kは,訴訟係属中の平成27年3月19日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第3事件控訴人番号14の1,同番号14の2,同番号14の3,同番号14の4であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各4分の1の割合で1審原告Kの権利義務を相続した。
1審原告Lは,訴訟係属中の平成24年12月29日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第3事件控訴人番号19の1,同番号19の2,同番号19の3,同番号19の4,同番号19の5であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各5分の1の割合で1審原告Lの権利義務を相続した。
1審原告Mは,訴訟係属中の平成27年1月5日頃死亡した。同原告の相続人は,
同原告の配偶者である第3事件控訴人番号22の1であり,
同相続人は,本件請求について,1審原告Mの権利義務を相続した。1審原告Nは,訴訟係属中の平成26年3月27日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の配偶者である第4事件控訴人番号3の1,同原告の子である第4事件控訴人番号3の2,同番号3の3,同番号3の4であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各4分の1の割合で1審原告Nの権利義務を相続した。
1審原告Oは,訴訟係属中の平成21年9月13日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第4事件控訴人番号7の1,同番号7
の2,同番号7の3であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,第4事件控訴人番号7の2が40パーセント,その余の相続人が各30パーセントの割合で1審原告Oの権利義務を相続した。1審原告Pは,訴訟係属中の平成22年12月17日頃死亡した。同原告の相続人は,
同原告の子である第4事件控訴人番号11の1であり,
同相続人は,本件請求について,1審原告Pの権利義務を相続した。1審原告Qは,訴訟係属中の平成22年9月19日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第4事件控訴人番号12の1,同番号12の2,同番号12の3であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,第4事件控訴人番号12の2が40パーセント,その余の相続人が各30パーセントの割合で1審原告Qの権利義務を相続した。
1審原告Rは,訴訟係属中の平成27年7月2日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第4事件控訴人番号17の1,同番号17の2,同番号17の3,同番号17の4であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各4分の1の割合で1審原告Rの権利義務を相続した。
1審原告Sは,訴訟係属中の平成24年1月14日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の配偶者である第4事件控訴人番号20の1,同原告の子である第4事件控訴人番号20の2,同番号20の3,同番号20の4であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,第4事件控訴人番号20の1が40パーセント,その余の相続人が各20パーセントの割合で1審原告Sの権利義務を相続した。
1審原告Tは,訴訟係属中の平成24年4月29日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第4事件控訴人番号27の1,同番号27の2であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求につい
て,各2分の1の割合で1審原告Tの権利義務を相続した。
1審原告Uは,訴訟係属中の平成26年3月19日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第4事件控訴人番号31の1,同番号31の2,同番号31の3,同番号31の4,同番号31の5であり,同相続人らは,遺産分割協議により,本件請求について,各5分の1の割合で1審原告Uの権利義務を相続した。
1審原告Vは,訴訟係属中の平成23年1月17日頃死亡した。同原告の相続人は,同原告の子である第4事件控訴人番号53の1であり,同相続人は,本件請求について,1審原告Vの権利義務を相続した。」3
当審における控訴人らの追加請求に関する当事者の主張

(控訴人らの主張)
1977年ジュネーブ諸条約第一追加議定書91条に基づく請求

概要
一般に,国際法は,武力紛争時の加害国の国際人道法に違反した行為によって個人に被害が発生した場合,
その被害者への損害賠償を実現する方
法として,①被害者の属する国家が外交保護権を行使して加害国に被害者個人の損害賠償を請求する方法及び②被害者個人が,直接に加害国に対して損害賠償を請求する方法を想定している。
しかるところ,国際法は,初期の段階では,国際人道法違反の行為によって被害を受けた個人への損害賠償について,上記①の方法のみしか認めていなかったが,その後,国際法上の戦争観は、武力紛争時にも極力人権保障の趣旨を及ぼし被害者個人への保護・救済を手厚くする方向に転換してきた。この転換に伴い,上記②の方法も併せて認める考えに変わり,遅くとも1977年にジュネーブ諸条約第一追加議定書(以下「第一追加議定書」という。)に91条の規定が設けられた時点までに,被害者個人への保護・救済を全うするためには上記①の方法だけでは決定的に不十分であるとの認識が行き渡り,国際人道法上は上記②の方法をも併せて認める考え方に転換していた。
第一追加議定書については,日本は,平成16年8月の通常国会で加入が承認され,同年8月31日に加入し,平成17年2月28日に発効している。したがって,控訴人らは,第一追加議定書91条に基づいて,直接,被控訴人に対する損害賠償及び謝罪を請求するものである。イ
第一追加議定書91条の制定経緯等
1949年のジュネーブ諸条約の制定
第二次世界大戦直後の国際人道法改訂で,被害者個人に加害国に対し損害賠償を請求する権利を認めることの必要性は自覚されていたが,より直接的な関心を呼んだのは,民間人の犠牲者が軍隊構成員の犠牲者数と同数になった現実への対策であった。そこで,1949年に赤十字国際委員会が国際人道法の改訂のために開いた「国際条約作成のための外交会議」では,「戦争犠牲者保護」をテーマにして議論がなされ,その結果,同年8月にジュネーブ諸条約が制定された。同条約については,日本は,昭和28年4月21日に加入を通告し,同年7月29日の国会承認を経て,同年10月21日に同条約が発効した。
ジュネーブ諸条約は,第一条約は戦地にある軍隊の傷病者等の改善を定め,第二条約は海戦における犠牲者の増加を考慮に入れて海上にある軍隊の傷病者等の改善を定めた。第三条約は捕虜の待遇について定め,さらに第四条約は戦時における文民の保護について規定した。特に,第四条約は,第二次世界大戦における武器の破壊力の著しい増大を伴った都市への大規模な無差別攻撃,ドイツのユダヤ人虐殺などのホロコーストなどによる民間人犠牲の増大を直接の契機とし,一般住民をいかに戦争の影響から保護するかの課題から,それまで直接的には国際人道法上の明確な保護対象となっていなかった「文民」を保護の対象に加えて,保護範囲を明確化した。また,上記ジュネーブ諸条約は,事実上の戦争にも明示にその適用範囲を拡大した。
第一追加議定書の制定経緯及び同議定書91条の意義
ジュネーブ諸条約成立後も,
実際には武力紛争はあとを絶たず,
第二
次大戦後の50年間に発生した主要な武力紛争は150件を超え,その
死者は4000から5000万人に及び,
負傷者や難民などの犠牲者は
その数倍に達している。
交戦者と一般住民の死亡者の割合は,
朝鮮戦争
の時には,
交戦者16%対一般住民84%と逆転し,
ベトナム戦争にな
ると,実に,交戦者5%対一般住民95%になった。このように戦争の最大の犠牲者は敵対行為に直接参加しない一般住民であるといっても過言ではない状況が発生するに至り,
一般住民の保護と一般住民の被害
者救済の実効性を持たせるための新たな条約が必要になった。
第一追加議定書は,第1編ないし第6編の全102条で構成されているところ,第2編から第4編は,人権の普遍的価値の増進を目指して,住民保護規定の拡充及び戦闘方法の規制を強化し,これらの国際人道法上の人権保障の履行を確保するために第5編において,戦争犯罪者の刑事責任(85条)及び国家の賠償責任(91条)の制度を規定している。
以上のような第一追加議定書の制定経緯及び構成に照らして,第91条は,加害国家に対して敗戦国・戦勝国にかかわらず,国際人道法違反行為によって人が被害を受けた場合,これを国家の外交的保護に委ねるのではなく,その被害者は個人として,加害国に対して直接,賠償請求できることを明確にしたものであることは明らかである。ウ
第一追加議定書91条の定める国家責任
第一追加議定書第91条は,第1文で「諸条約又はこの議定書の規定に違反した紛争当事国は,必要な場合には,賠償を支払う義務を負う。」と規定し,ジュネーブ諸条約及び第一追加議定書に違反した行為に対して加害国に被害者個人への損害賠償義務を負わせた。
第一追加議定書が拡充した最大の点は住民(文民)保護であり,個人の尊重を義務づけた人権法を重視して拡張された。そのため,第91条の賠償対象は被害住民が中心であり,詳細な攻撃対象に対する戦闘方法の禁止を規定し住民の人権保護を拡大したのであるから,実効性を持たせるためには,第91条は当然に被害住民に直接加害国に対して賠償請求する権利を認めた規定と解される。
また,第91条は,第2文で「紛争当事国は,自国の軍隊の一部を構成する者が行ったすべての行為について責任を負わなければならない。」
と規定し,加害者の特定が不可能であっても,「自国の軍隊に属する者が行ったすべての行為」に対して国家に責任を負わせることによって,甚大な損害に対する実効的な事後救済を確保することを目的にしている。
この規定は,被害を受けた国民が個人として損害を回復するために加害国政府に請求する道を簡略化したものであり,被害住民の国の意思にかかわらず,独自に加害国に対する請求権を有していることを前提にしている。

加害国の国内裁判所における救済(第一追加議定書に基づく賠償請求の裁判管轄権)
日本国憲法は,第98条第2項において,「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする」と規定し,国際慣習法のみならず自国が締結した条約を,特段の変型のための措置なくして,一括して国内法秩序の中に受容してそのままのかたちで国内法上の効力を認めている。このような「一括的受容方式」を採用している日本国憲法の下では,条約は締結により国内法上の効力を有するに至る。
日本国政府は,条約の国内的実施には,通常は立法上の手当(新規立法,既存の法律の改正等)を必要とするが,条約の規定がそのままのかたちで国内的に適用し得る性質のもの,すなわち,「国内の裁判所が権利義務関係についての争いの裁定に当たって,裁判の準則として国内法を媒介することなく条約の規定に直接依拠することができるもの」を自動執行力のある条約として取り扱っている。
第一追加議定書は詳細な規定のため,日本が2004年に国会承認する際にも,「国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律」(平成16年6月18日法律第115号)を制定しただけで,同法1条で「国際的な武力紛争において適用される国際人道法に規定する重大な違反行為を処罰することにより,刑法(明治四十年法律第四十五号)等による処罰と相まって,これらの国際人道法の的確な実施の確保に資することを目的とする。」と規定し,国内実施を可能とした。
第一追加議定書は,国内法的効力及び自動執行力を持つことから,同条約に基づいて国家間で,個人の国際法上の権利能力を承認することについて,合意があったことになる。いいかえれば,条約がこのような条件を備えていれば国内裁判所はその条約を適用して判断をなしうるのである。この場合には国際機関ではなく国家機関である国内裁判所が国際管轄権(国際法の執行)の行使を担当することになる。
したがって,日本国の裁判所は,第一追加議定書上の問題に対する管轄権を持ち,同議定書に準拠してこの管轄権を行使することができる。憲法29条3項に基づく損失補償請求

概要
控訴人らは,日本軍の無差別爆撃により死亡または身体もしくは健康に
対する重大な損害を被ったのであるから,憲法29条3項の適用ないし類推適用に基づき,被控訴人に対し正当な補償を請求する。
すなわち,日本は,第一追加議定書に平成16年に加入し,平成17年2月から日本について効力が発生した。日本の場合,条約が日本に効力が発生すれば憲法98条2項の「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする」との規定により,被控訴人は,平成17年以降,第一追加議定書を誠実に遵守する義務を負い,第91条の被害者個人の対日民間賠償請求権についても誠実遵守義務を負うことになる。
したがって,控訴人らは,第一追加議定書等を憲法解釈の法源として,憲法29条3項に基づいて,被控訴人に対する損害賠償及び謝罪請求を主張する。

憲法29条3項の遡及適用等
憲法には29条3項を遡及的に適用する旨の文言はない。しかし,刑罰不遡及の原則と異なり,そのことが同条項の遡及的適用を直ちに否定したり禁止したりすることにはならない。すなわち,現行憲法の制定,施行の前後で日本国という国家の同一性が失われていないこと,旧憲法時代にも恩給法等により軍人軍属に対して補償措置がとられていたこと,援護法が「国家補償の精神」に基づいて憲法施行前に被った戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償措置を講じていること,戦後復活した恩給法が憲法施行前の旧軍人軍属にかかる戦争犠牲について補償措置がなされていることから,憲法は憲法施行前の事項に対する補償措置をとることを認めていると解される。他方で,控訴人らが生命,身体自由を奪われたことによる損失,例えば身体に損傷を受けたり健康を害されたりしたことによる経済的損失,精神的苦痛は,憲法施行後も日々継続して発生しているということができる。
したがって,憲法29条3項は,憲法施行前に生じた生命,身体の自由の侵害に起因する損失についても補償の対象としているというべきである。

第一追加議定書を法源とする憲法29条3項に基づく損失補償請求権第一追加議定書は,第85条で,文民を攻撃対象にし,「過度に死亡,文民の障害または民用物の損傷をひきおこすことを知りつつ文民たる住民または民用物に影響を与える無差別攻撃」が故意におこなわれ,「死亡または身体もしくは健康に対する重大な危害をひきおこした場合には」議定書に対する重大な違反行為と規定し,かつ91条で,「諸条約又はこの議定書の規定に違反した紛争当事国は,必要な場合には,賠償を支払う義務を負う。」と規定し,議定書での規定に違反して個人に損害を与えた場合には,加害国に被害者への賠償を義務づけている。
重慶大爆撃当時,空戦規則案は条約化されていなかったが,国際慣習法化されていた。重慶市及び四川省各都市は空戦規則案で定める無防守都市であり,重慶大爆撃は,市街地への無差別爆撃であるから,当時の国際慣習法に違反する。
しかるところ,第一追加議定書の国際慣習法化及び日本の加入により,憲法98条2項の規定に照らしてこれを誠実に遵守する義務があるので,日本の裁判所は,憲法29条3項の解釈において,第一追加議定書の定めに適合するように解釈しなければならない。被控訴人が加入する第一追加議定書は,第91条で,「諸条約又はこの議定書の規定に違反した紛争当事国は,必要な場合には,賠償を支払う義務を負う。紛争当事国は,自国の軍隊の一部を構成する者が行ったすべての行為について責任を負わなければならない。」と規定し,紛争当事国は,自国の軍隊が行なった違反行為に対して被害者への賠償を義務づけているのであるから,重慶大爆撃被害者の控訴人らには,憲法29条3項に基づき,正当な補償を認められなければならない。
よって,第一追加議定書を憲法前文及び憲法9条とともに憲法解釈の法源として憲法29条3項に基づき,控訴人らが被控訴人に対して正当な補償及び謝罪を求める請求は認められるべきである。

訴えの変更の許容性
控訴人らは,控訴審において,憲法29条3項の損失補償請求を,原審で請求してきた国家賠償法に基づく損害賠償請求に追加的に併合するものであるが,本訴訟には,被控訴人以外の参加行政庁は存在しないから,被控訴人の同意がなくても,控訴人らは上記の訴えの変更を行うことができる。

(被控訴人の主張)
第一追加議定書91条に基づく請求に関して

条約法に関するウィーン条約28条は,「条約は,別段の意図が条約自体から明らかである場合及びこの意図が他の方法によって確認される場合を除くほか,条約の効力が当事国について生ずる日前に行われた行為,同日前に生じた事実又は同日前に消滅した事態に関し,
当該当事国を拘束
しない。」と規定するとおり,条約の効力についての時間的適用範囲については,特別の合意のない限り,遡及しないのであり,このことは,第一追加議定書についても同様である。そして,被控訴人が第一追加議定書へ加入したのは平成16年8月31日,
発効したのは平成17年2月28日
であるところ,控訴人らは,昭和18年までに旧日本軍が行った爆撃により発生した被害について賠償を求めており,これが,第一追加議定書の効力が被控訴人について生ずる前になされた行為であることは明らかである。
したがって,被控訴人が,本件爆撃について,第一追加議定書に基づいて損害賠償責任を負うことはない。


また,個人がその属する国家以外の国から受けた戦争被害については,所属国以外の外交保護権の行使によって当該国家間において処理されるのが原則であり,特別の国際法規範が存在しない限り,個人が加害国に対して直接,損害賠償請求権等の権利を行使することはできない。
そして,第一追加議定書においても,その規定の文言上,国家が責任を負うべき相手方が個人であることを明記したものはなく,
個人が国家に対
して権利内容を実現する方法又は手続にも一切言及していないから,第一
追加議定書91条は,ヘーグ陸戦条約3条と同様,あくまでも国家間の国家責任を定めたものにすぎず,個人が加害国に直接,謝罪請求を含む損害賠償請求をすることを認める特別の国際法規範に当たらないことは明らかである。
憲法29条3項に基づく損失補償請求に関して

控訴人らの,
憲法29条3項に基づく損失補償請求は当審で初めて主張
されたものであり,
原審における国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請
求等に新たに追加的に併合することを申し立てるものである。
損失補償請
求は,相手方の審級の利益に配慮する必要があるから,控訴審における損失補償請求を国家賠償法1条1項の損害賠償請求に予備的,
追加的に併合
する訴えの変更には相手方の同意を要すると解されているところ,被控訴
人は,
控訴人らの当審における上記追加請求に係る訴えの変更に同意しない。したがって,控訴人らの当審における前記追加請求に係る訴えは不適法であり,却下されるべきである。


特別の規定のない限り,
法令を時間的に遡及して適用することができな
いのは当然の事理であり,このことは憲法にも同様に当てはまる。日本国憲法は,昭和21年11月3日に公布され,その100条1項において,「この憲法は,公布の日から起算して六箇月を経過した日から,これを施行する。」と定め,昭和22年5月3日から施行されたものであるが,憲法に遡及適用を認めた規定はなく,
憲法はその施行前の行為について適用
されない。そうすると,被控訴人の行為は,控訴人らが自認するように憲法施行前のものであるから,
被控訴人の行為に対する憲法の適用ないし類
推適用を論じる余地はない。
控訴人らのいう「憲法施行後も日々継続的に発生している」損失は,憲法施行前の行為による因果の流れが戦後にも及んでいることをいうものにすぎず,当該損失が憲法施行後の行為によって生じたものでない以上,当該損失の補償に関して憲法を適用ないし類推適用する前提を欠くことに変わりはない。
また,恩給法,戦傷病者戦没者遺族等援護法,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律が憲法施行前の事実に及ぶのは,
各法が特に定めたからであ
って,
憲法がその施行前の行為に適用されるか否かとは全く次元を異にする問題である。
以上のとおり,憲法はその施行前の行為に適用されないから,憲法29条3項が憲法施行前に生じた生命,
身体の自由の侵害にも適用されるとす
る控訴人らの主張には理由がない。

また,控訴人らが主張する戦争犠牲ないし戦争被害に関する補償は,憲法の全く予想するところではなく,その補償に関しては,単に政策的見地からの配慮が考えられるにすぎないものであり,憲法29条3項に基づく損失補償を認める余地はない。これは確立された判例である。
したがって,控訴人らが主張する爆撃における戦争損害についても,これに対する補償は憲法の全く予想するところではなく,憲法29条3項を根拠とした損失補償が認められる余地はない。


憲法29条3項は,財産権に対する適法な侵害に対する損失補償を定めたものであって,生命・身体に対する侵害について憲法29条3項に基づく損失補償を認めるものではない。仮に,控訴人らが主張するように,生命・身体に対する侵害について憲法29条3項に基づく損失補償を認めると,正当な補償をすれば人の生命・身体を収用できることになりかねず,不当である。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由のないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

2
事実関係
控訴人ら(承継前1審原告を含む。)は,請求原因を基礎付ける事実として,旧日本軍による重慶及びその周辺地域に対する爆撃が無防守都市に対する無差別爆撃であり,その一環として控訴人らに対する加害行為が行われたとして,旧日本軍による爆撃企図や被害の甚大性や悲惨さ等の爆撃行為の全貌についての詳細な事実関係の主張・立証を行っているところ,被控訴人は,控訴人らの請求は法的主張として成り立つ余地はなく,事実関係については認否不要であるとして,控訴人らの主張・立証に対して,何ら反論・反証を行わず,これを争点化することに一貫して反対する姿勢をとっている。
そこで,まず,控訴人らの法的主張の当否の判断の前提として,控訴人らが被控訴人に帰責しうると主張する具体的な権利侵害が生じているか否かについて判断するに,当裁判所も,原審認定のとおり,旧日本軍の爆撃(以下「本件爆撃」という。)により,控訴人らに具体的な権利侵害が生じた事実を認める。控訴人らは,さらに進んで,控訴人らの法的主張の当否を正しく判断するためには,本件爆撃が地上軍による占領企図が全くない中で行われた無防守都市への無差別爆撃であり,非人道的な残虐行為により一般住民に対して著しく悲惨かつ深刻な被害を生じさせたことの実態についての事実認定が必要不可欠であり,原審判決の事実認定はこの点において不十分であると主張し,当審においてかかる事実関係の立証のための人証を申請する。
しかしながら,控訴人らの本件請求の当否は,本件爆撃当時の国際法において,個人が所属する国家以外の国家から戦争被害を受けた場合に,個人が国際法上の法主体として,直接,加害国に対して損害賠償請求権を行使しうるか否か,あるいは,大日本帝国憲法下の法体系のもとで,国家の権力行為により損害を受けた個人が国に対して損害賠償を請求することができたか否か,すなわち国家無答責の法理が採用されていたか否かを中核とする法的主張の当否に懸かっているところ,これらはいずれも,個々の事案を離れた客観的な法の存在及び内容に関する法的問題であるから,その当否の判断に控訴人らの主張するような事実関係の確定は必要でないのみならず,既に述べたとおり,本件においては,一方当事者が争点の論理的関係に照らして,事実関係について確定不要であるとして,あえて何らの反論・反証も行っていないことに照らすと,事実確定のための基礎資料の観点からも,判断に必要な範囲を超えて事実関係の確定を行うことは相当ではないと思料される。
したがって,上記のとおり,被控訴人の行為によって控訴人らの具体的な権利侵害が生じたとの原審判決の認定するところを前提として,控訴人らの法的主張の当否について以下に検討する。
3
争点に対する判断
控訴人らの当審における主張も踏まえて,その法的主張の当否について判断するに,次のとおり補正し,後記4に当審における控訴人らの追加請求に対する判断を付加するほかは,原判決「第5

当裁判所の判断」の2ないし7に記

載のとおりであるから,これを引用する。
原判決92頁18行目「主張するが,証拠(乙9)」を「主張し,当審において意見書(甲1489)を提出し,同意見書は,ハーグ平和会議第2回会議でドイツ代表は「中立の者に損害を与えた交戦国は,彼らに生じさせた不法行為につき,彼らに賠償する義務を負う。・・・敵対国の者に損害を与えた違反の場合は,賠償の問題は和平の締結時に解決されるものとする。」との条文案を提出し,この提案は概ね支持されることとなったが,中立国・敵対国と損害を被った者を分ける規定の仕方について,イギリス,フランスその他から容認できないとする反対論があり,最終的に現在の規定になったのであり,個人の損害賠償請求権については,当時の資料からは紛糾・否定されたとの事実は認められないから,3条に至る審議においては終始,個人の請求権は当然のこととする共通認識があったとみてよいとする。しかしながら,条約の審議経過は条約の解釈の補助的手段に過ぎず(条約法に関するウィーン条約32条参照),ヘーグ陸戦条約3条が条文の文理解釈において国家間の権利義務を定めたものと解釈されることは既に述べたとおりであるが,証拠(甲1471,乙8ないし10)」と改める。
同92頁23行目「その審議の過程で」を「その審議の過程においては,賠償の支払条件や内容の決定及び支払の実施は国家間で行われることを当然の前提とした発言が複数の代表からなされる一方,個人に生じた損害の救済の具体的方法に関する発言は全くなされておらず,」を加える。同93頁16行目「いえない」から同頁17行目末尾までを「いえない。本件において問題となっているのは,ヘーグ陸戦条約3条の規定に基づき個人が直接,加害国家に対して損害賠償請求権を行使しうるか否かであり,個人が所属する国家以外の国家等に対して同条以外の何らかの請求根拠を有する場合に付随争点として当該国家の行為の適法性判断にヘーグ陸戦条約等の国際法規範を援用しうるか否かの問題ではないから,控訴人らの援用する裁判例の存在を考慮に入れても前記の判断は左右されない。」と改める。
同93頁22行目「認められないから,」を「認められず,控訴人らが指摘する前記の各国の国内裁判所の裁判例もこれを基礎付けるものとはいえないから,」と改める。
同94頁7行目冒頭から同頁13行目末尾までを削除する。
同94頁22行目「空戦規則案」から同行末尾までを削除する。
同95頁2行目「原告らの主張は」の次に「,その前提を欠き」を加える。
同95頁2行目末尾に行を改め,以下のとおり加える。


控訴人らは,空戦規則案は国際慣習法化していたとし,旧日本軍が昭和6年9月18日に行った錦州爆撃に対する「国際連盟日華紛争調査委員会」(リットン調査団)の報告書(昭和7年10月)における批判,旧日本軍が昭和12年に行った南京爆撃に対する国際連盟総会の「都市爆撃に対する対日非難決議」の全会一致採択(昭和12年9月30日),旧日本軍の空戦マニュアルが軍事目標主義を採用していたこと,ドゥーリットル隊飛行士に対する日本の軍律法廷の判決,那覇空襲,東京空襲及び原爆投下への日本政府の抗議書などを根拠として挙げる。しかしながら,これらはいずれも,個人が所属国以外の国家による空戦規則案に反する行為により戦争被害を受けた場合に,加害国に対して直接,損害賠償請求権を行使できる取扱いが,国家間に法的確信を伴って一般的な慣行として行われていたことまでを示すものではなく,控訴人らの主張するような国際慣習法が成立していたことを基礎付けるものとはいえないから,上記の判断を左右するものではない。」

同102頁17行目末尾に行を改め,次のとおり加える。


控訴人らは,国家が行う行為が本来的に不法行為である場合には,その行為は保護すべき権力作用ではなく,国家無答責の法理は適用されないとも主張する。しかしながら,大日本帝国憲法の下においては,国家の行為が不法行為に当たる場合であっても権力作用に基づくものである場合には,民法の不法行為の規定の適用が排除され,他に国の損害賠償責任を認める法を有しないという法体系がとられていたことをもって国家無答責の法理と呼ぶに過ぎず,控訴人らの主張は何ら国に対する損害賠償請求権の発生を根拠付けるものではなく,失当である。」
同106頁9行目の「その内容」から同頁14行目末尾までを次のとおり改める。
「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠る場合などにおいては,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである(最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。」
同106頁22行目「2808頁」の次に「,最高裁判所平成4年4月28日第三小法廷判決・裁判集民事164号295頁,最高裁判所平成9年3月13日第一小法廷判決・民集51巻3号1233頁,最高裁判所平成13年11月22日第一小法廷判決・裁判集民事203号613頁,最高裁判所平成16年11月29日第二小法廷判決・裁判集民事215号789頁」を加える。
同107頁2行目の
「憲法の」
から同頁4行目の
「であるから」
までを
「憲
法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠る場合などの例外的な場合にはあたらないから」に改める。
4
当審における控訴人らの追加請求について
第一追加議定書91条に基づく請求

控訴人らは,第一追加議定書91条に基づいて,本件爆撃によって控訴人らが受けた損害について,
個人として直接に加害国たる被控訴人に対し
て,損害賠償請求及び謝罪請求をすることが可能であると主張する。イ
しかしながら,
被控訴人が第一追加議定書へ加入したのは平成16年8
月31日であり,発効したのは平成17年2月28日である。しかるところ,条約法に関するウイーン条約28条は,「条約は,別段の意図が条約自体から明らかである場合及びこの意図が他の方法によって確認される場合を除くほか,条約の効力が当事国について生ずる日前に行われた行為,同日前に生じた事実又は同日前に消滅した事態に関し,当該当事国を拘束しない。と規定しており,

条約の効力は不遡及が原則とされている。
そして,第一追加議定書の文言上,条約の効力についての一般原則とは別異に取り扱う趣旨を読み取ることはできないし,また,日本が第一追加議定書に加入する際に片面的に遡及適用を許容する旨の表明を行った事実もないことからすると,第一追加議定書は,同議定書発効後の事実についてのみ適用があるものと解さざるを得ない。そうすると,控訴人らは,昭和18年までに旧日本軍が行った爆撃により発生した被害について賠償等を求めるものであり,
第一追加議定書の効力が被控訴人について生じる
以前の行為であり,第一追加議定書が適用されることはないから,控訴人らの請求は理由がない。


控訴人らは,ジュネーブ諸条約が定める「重大な違反行為」のように国際社会が看過できない重大な事態の場合には,
被害者への損害賠償が戦争
後に定められたり,慣行が明文化されたりして,それらが実行されることは,これを国際社会が容認する限り許容されていると主張する。しかしながら,
控訴人らの主張を根拠付ける第一追加議定書91条を遡及的に適用する条約若しくは国際慣習法が存在するとは認められないから,
控訴人ら
の主張は採用できない。


以上によれば,
控訴人らの第一追加議定書を根拠とする請求はいずれも
理由がない。
憲法29条3項に基づく損失補償請求

控訴人らは,当審において,本件爆撃による被害について,憲法29条3項に基づく損失補償請求及び謝罪請求を追加する。


しかしながら,控訴審において,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求に憲法29条3項に基づく損失補償請求を追加的に併合請求することは,当該請求が,被告を同じくし,その主張する経済的不利益の内容が同一で請求額もこれに見合うものであり,同一の行為に起因するものとして発生原因が実質的に共通するなど,相互に密接な関連性を有するときは,当該請求の追加的併合は,請求の基礎を同一にするものとして民訴法143条による訴えの追加的変更に準じて許容しうるが,損失補償請求が公法上の請求として行政訴訟手続によって審理されるべきものであることなどを考慮すれば,相手方の審級の利益に配慮する必要があるから,相手方の同意を要するものと解される(最高裁判所平成5年7月20日第三小法廷判決・民集47巻7号4627頁参照)。
しかるところ,被控訴人は,控訴人らの当審における追加請求に係る訴えの変更に同意しないとしている。そうすると,控訴人らの当審における憲法29条3項に基づく追加請求に係る訴えは訴えの追加的変更が許されないことになるから,不適法な訴えであり,却下を免れない。


この点,
控訴人らは,
上記最高裁判決が相手方の同意が必要としたのは,
新たに追加される損失補償請求についての訴訟が,行政事件訴訟における実質的当事者訴訟に当たり,行政庁が訴訟参加できること(行政事件訴訟法41条1項,23条)に照らして,第一審における行政庁の参加の機会を一方的に奪うことは適当でないことを考慮したものであるから,処分または裁決した行政庁以外の行政庁が存在しない場合には,相手方の同意は不要と解すべきであり,本件では,控訴人らに爆撃をしたのは日本軍の陸海航空隊で,その地位を現在引き継いでいるのは被控訴人で,被控訴人以外の参加行政庁は存在しないのであるから,本件においては,被控訴人の同意なく,憲法29条3項に基づく損失補償請求を追加的に併合することが許されると主張する。
しかしながら,行政事件訴訟法上の関連請求の追加的併合の場合には,控訴審における併合に当たっては相手方の同意を要すること(行政事件訴訟法41条2項,19条1項,16条2項参照)との均衡に照らしても,参加行政庁の存否が直ちに被控訴人の審級の利益に反映するとは解し難いことから,控訴人らの主張は採用できない。

なお,日本国憲法は,昭和21年11月3日に公布され,100条1項において,「この憲法は,公布の日から起算して六箇月を経過した日から,これを施行する。」と定め,昭和22年5月3日から施行されたものであるところ,憲法に遡及適用を認めた規定はなく,施行前の行為に適用はないから(最高裁判所昭和23年12月27日大法廷判決・刑集2巻14号1940頁参照),控訴人らの憲法29条3項に基づく請求はそもそも理由のないものである。
控訴人らは,日本国憲法は施行前の戦争被害に対する補償措置をとることを認めているとも主張するが,既に述べたとおり,控訴人らの主張するような戦争損害に対する補償については,憲法の全く予想するところではなく,その補償に関しては,単に政策的見地からの配慮が考えられるに過ぎないものと解されるから,控訴人らの主張は採用できない。さらに,控訴人らは,身体に損傷を受け,健康を害されたことによる経済的損失,精神的苦痛は,憲法施行後も日々継続して発生しているとも主張するが,憲法施行前の行為の結果が残存していることを主張するに止まり,行為が憲法施行後も継続していることを主張するものではないから,採用できない。

5
よって,控訴人らの当審における追加請求のうち憲法29条3項に基づく部分はいずれも不適法であるからこれらを却下し,その余の当審における追加請求及び控訴人らの控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第5民事部

裁判長裁判官

永野
裁判官

見米
裁判官

三浦厚郎正隆志
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