判例検索β > 平成20年(ワ)第2900号
B型肝炎損害賠償請求事件
事件番号平成20(ワ)2900
事件名B型肝炎損害賠償請求事件
裁判年月日平成29年12月11日
法廷名福岡地方裁判所
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平成29年12月11日判決言渡
平成20年

B型肝炎損害賠償請求事件
平成29年7月24日

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別紙1(当事者目録)記載のとおり
主1
裁判所書記官

B型肝炎損害賠償請求事件

平成24年
口頭弁論終結日

同日原本領収


被告は,原告30に対し,1375万円及びこれに対する平成20年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告は,原告403に対し,1300万円及びこれに対する平成24年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
訴訟費用は被告の負担とする。

4
この判決は,本判決が被告に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。ただし,被告が各原告について1250万円の担保を供するときは,当該原告に係る仮執行を免れることができる。

第1

実及び理由
請求
主文同旨

第2

事案の概要
本件は,B型肝炎の患者である原告らが,乳幼児期(0ないし6歳時)に被告が実施した集団ツベルクリン反応検査及び集団予防接種(以下,併せて「集団予防接種等」という。
)を受けた際,注射器(針又は筒)の連続使用によって
B型肝炎ウイルス(hepatitisBvirus。以下「HBV」ということもある。
)に持続感染し,成人になって慢性肝炎を発症したとして,被告
に対し,国家賠償法1条1項に基づき,原告30においては1375万円(包括一律請求としての損害額1250万円及び弁護士費用125万円)の賠償及び同額に対する不法行為の後である平成20年8月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告403においては1300万円(同損害額1250万円及び弁護士費用50万円)の賠償及び同額に対する不法行為の後である平成24年3月30日から支払済みまで上記同様の遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。以下,特に明記しない限り,書証の掲記は枝番号を含む。)


B型慢性肝炎について

B型肝炎は,B型肝炎ウイルス(HBV)に感染することによって発症する肝炎(ウイルスを排除しようとする免疫反応により,自らの肝細胞を破壊し,肝臓に炎症を起こした状態)であり,慢性化して長期化すると,肝硬変,肝がんを発症させることがある。
(甲A6)
免疫反応により肝細胞が破壊されると,
肝細胞内の酵素であるAST
(G
OT)やALT(GPT)が血中に放出される。ALT値等の上昇の持続及びその変動は肝炎の活動性を示唆し,一定期間高値を示し,かつ変動が認められる場合には肝細胞壊死が高度であり,肝炎が活動性である可能性が高い。
(甲A6,14,甲B403-46,乙B403-25,34)


HBVは,主として感染者の血液を介して感染し,感染様式としては,①感染成立後一定期間の後にウイルスが生体から排除されて治癒する「一過性の感染」及び②ウイルスが年余にわたって生体(主として肝臓)の中に住みついてしまう「持続感染」
(HBVキャリア状態)がある。後者の主
な感染経路は,出産時の母子感染(垂直感染)と乳幼児期の水平感染である。
(甲A6,34,甲B403-41,乙B403-3,6,9)


HBVに感染すると,HBVに関連する抗原及び各抗原に対応する抗体が,順を追って血中に出現する。各抗原及び抗体の臨床的意義は,次のとおりである。なお,各抗原及び抗体は,後記エのHBV-DNA等と併せて「ウイルスマーカー」といわれる。
(甲A6,甲B403-20,29,4
1,乙B403-1,3,9,25)
HBs抗原

HBV感染状態(通常HBc抗体も陽性)


HBs抗体

HBV感染既往(多くはHBc抗体も陽性)


HBc抗原

(HBVの芯を構成するタンパクである。外殻に包まれ
HBV粒子内部に存在し,そのままでは検出できない。


HBc抗体

高抗体価:HBV感染状態(通常HBs抗原陽性)

低抗体価:HBV感染既往(多くはHBs抗体陽性)


HBe抗原
HBe抗体

血中のHBV量が多く
(増殖力が強く)感染性が強い。

血中のHBV量が少なく
(増殖力が弱く)感染性が弱い。


HBV持続感染の診断には,
HBs抗原の測定が最も優れている。
また,
HBV活動性の評価には,HBe抗原・HBe抗体及びB型肝炎ウイルス遺伝子(HBV-DNA)量が主に用いられる。HBV-DNA量は,肝細胞でのHBVの増殖状態を反映するものであり,
①7.
0logcopi
es/ml(PCR法による測定値であり,TMA法の7.0LGE/mlに相当する。以下,単位表記は略する。
)以上が高ウイルス量,②4.0
ないし7.
0未満が中ウイルス量,
③4.
0未満が低ウイルス量
(一般に,
肝炎が非活動性であり,感染性も弱い。以下「低値」ということもある。)
であり,
B型肝炎の治療目標は,
HBV-DNA量を低値で安定させること
であるとされている。
(甲A6,甲B403-20,21,29,41,乙
B403-9,18,19)
なお,従前,HBVの増殖状態を反映するものとして,DNAポリメラーゼ(HBVの複製酵素としてウイルス内に存在する酵素の一種)が用いられ,
基準値は30cpm
(以下,
単位表記は略する。未満とされていた。

(甲B403-18(9枚目等)
,乙A5,乙B403-11,18)


B型慢性肝炎とは,HBVの持続感染者(HBVキャリア)に起こる病態の一つであり,臨床的には,6か月以上の肝機能検査値の異常とHBV感染が持続している病態として定義され,HBs抗原陽性(通常HBc抗体高抗体価陽性)で,HBVの増殖を伴うALT値の異常が6か月以上持続すれば,B型慢性肝炎と診断される。
(甲A14,34,甲B403-4
1,乙B403-3,6)
ALT値について,
日本肝臓学会
(肝炎診療ガイドライン作成委員会編)
「B型肝炎治療ガイドライン(第2.2版)(乙B403-6。以下「本」
件ガイドライン」という。
)では,ALT正常値は30U/l(以下,単位
表記は略する。
)以下とされ,31以上は異常とされている(4頁)
。もっ
とも,
「ALTの正常値についての明らかなコンセンサスは存在せず,国内・海外の臨床研究のほとんどがその施設における基準値を正常値と定義している」
(12頁)
。例えば,原告403に係る検査施設では,
「基準値」
(又は
「参考値」について,

①平成8年8月まで35以下又は
「0~35」
とされ,②同年9月以降,男性「10~39」
,女性「8~26」とされ,
③平成17年以降,
男性
「8~42」女性

「6~27」
とされ
(もっとも,
平成22年には「5~30」とする検査施設もあった。,④平成23年9)
月以降,6~30」

とされている
(後記⑸
(別紙5
(原告403時系列表)

参照)


慢性肝炎の症状の重さ等については,A1教授作成に係る平成29年1月18日付け意見書(乙B403-25。以下「A1意見書」という。なお,
A1教授は本件ガイドライン作成委員である。において次のとおり記)
載されている。
慢性肝炎は肝臓に持続的に炎症が起きている状態であるから,新しい線維が次々と発生する。最終的には線維により肝細胞の構造が変化し,肝硬変となる。肝硬変の状態に至ると増生した線維により肝細胞と周囲の脈管(血管及び胆管等)との間,肝細胞同士の間での物質交換ができず,肝再生も悪くなり,その結果肝機能が次第に低下していく。
(6頁)
B型慢性肝炎は炎症が持続する疾患であり,慢性肝炎の病態の重さ(肝硬変にどの程度近いか)は,ウイルス要因(ウイルスの量,活動性の強さ)宿主要因

(主に免疫応答の強さ)
及び環境因子に影響を受ける。
特に,①炎症の程度・重さと,②炎症を起こしていた期間の2点が重要である。上記①(炎症の程度・重さ)は,肝組織所見で確認されるが,肝生検は頻回に実施できないため,
ALT値で評価する
(前記⑴ア参照)

なお,HBs抗原及びHBe抗原(ウイルスの産生する蛋白)並びにHBV-DNAは,
ウイルス量を反映するものの,
炎症の程度を直接反映す
るものではなく,
感染者の病態を直接反映するものではない。
(6及び7
頁)
炎症の持続期間が長い場合,大きな炎症(正常上限の10倍,即ち300IU/L以上が一つの目安である。を伴う場合は,

肝臓の線維化が
進み,肝硬変に至りやすい。
(6頁)


HBV持続感染者の自然経過

HBV持続感染者は,
肝機能が正常である
「無症候性キャリア」
及び
「非
活動性キャリア」
(肝炎の時期を経た後にALT値が正常化したもの)と,
肝機能異常(肝障害)を有する「症候性キャリア」に大別される。(甲A1
4,乙B403-6,9,25)


本件ガイドラインでは,
「持続感染者の病態は,
宿主の免疫応答とHBV
-DNAの増殖の状態により,主に4期に分類される」として,次のとおり記載され,別紙2(HBV持続感染者の自然経過)のとおり図示されている。
免疫寛容期(immunetolerancephase)
乳幼児期はHBVに対する宿主の免疫応答が未発達のため,HBVに感染すると持続感染に至る。その後も免疫寛容の状態(HBe抗原陽性かつHBV-DNA増殖が活発)
であるが,
ALT値は正常で肝炎の活動
性がほとんどない状態が続く(無症候性キャリア)
。感染力は強い。多く
の例では乳幼児期における感染後,免疫寛容期が長期間持続するが,その期間は数年から20年以上まで様々である。
(1頁)
免疫応答期(immuneclearancephase)
成人に達するとHBVに対する免疫応答が活発となり,免疫応答期に入って活動性肝炎となる。HBe抗原の消失・HBe抗体の出現(HBe抗原セロコンバージョン。以下「SC」ということもある。
)に伴って
HBV-DNAの増殖が抑制されると肝炎は鎮静化する。
しかし,
肝炎が
持続してHBe抗原陽性の状態が長期間続くと肝病変が進展する(HBe抗原陽性慢性肝炎)(1及び2頁)

なお,SCについては,A1意見書において,HBe抗原陽性・HBe抗体陰性の状態から,HBe抗原陰性・HBe抗体陽性の状態に変化することを意味し,HBVの一部の遺伝子変異を反映する現象であるとされている(4,5,11及び14頁)

低増殖期(lowreplicativephase又はinactivephase)
HBV持続感染者のうち約9割は若年期にHBe抗原からHBe抗体へのセロコンバージョンを起こす。そして,SCが起こると,多くの場合(約8割の症例において)肝炎は鎮静化し,HBV-DNA量は4.0以下の低値となる(非活動性キャリア)
。しかし,低増殖期に入った症例
(当初HBe抗原陰性の非活動性キャリアと診断された症例)のうち,10ないし20%の症例では,SC後,長期経過中にHBe抗原陰性の状態でHBVが再増殖し,肝炎が再燃する(HBe抗原陰性慢性肝炎)。
また,4ないし20%の症例では,HBe抗体消失及びHBe抗原の再出現(リバースセロコンバージョン(以下「リバースSC」ということもある。
)を認める。
(1,2及び55頁)
HBe抗原陰性肝炎は,
「間欠的にALTとHBVDNAの上昇を繰
り返すことが多く,自然に寛解する可能性は低い」(55頁)そして,。
「HBe抗原陽性例と比較し高齢で線維化進展例が多いため,より進んだ病期と認識すべきである(レベル4,グレードB)」
。(56頁)なお,
エビデンスレベル4は「処置前後の比較などの前後比較,対照群を伴わない研究」を,推奨グレードBは「行うよう勧められる」をそれぞれ意味する。
(目次末尾)
寛解期(remissionphase)
SCを経て,一部の症例ではHBs抗原が消失し,HBs抗体が出現する。寛解期では,血液検査所見,肝組織所見ともに改善する。HBV持続感染者での自然経過におけるHBs抗原消失率は年率約1%と考えられている。
(2頁)
,HBV持続感染者はその自然経過において
HBe抗原陽性の「無症候性キャリア」から,HBe抗原陽性又は陰性の慢性肝炎を経て,肝硬変へと進展し得る。肝硬変まで病期が進行すれば年率5ないし8%で肝細胞がんが発生する。一方,自然経過でSCが起こった後にHBV-DNA量が減少し,
ALT値が持続的に正常化した
HBe抗原陰性の「非活動性キャリア」では,病期の進行や発癌のリスクは低く,長期予後は良好である。
(3頁)


日本肝臓学会
「慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド2016」
(甲B403-49,乙B403-9。以下「本件診療ガイド」という。)において,次のとおり記載されている(10頁)。
HBe抗原陽性慢性肝炎では,HBV排除に働く宿主の免疫反応が起こり,肝炎が惹起される。HBe抗原陽性慢性肝炎が長期に続くと肝硬変へ進行するが,多くの患者ではHBe抗体へSCし,非活動性キャリアとなる。
HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原がSCしてもHBV-DNA量が十分低下せず慢性肝炎が持続する場合や,一旦非活動性キャリアとなった後に肝炎の再活性化が起こる場合がある。
HBe抗原陰性慢性肝炎の特徴では,
HBV-DNA量が
「中等度の範
囲で変動し,間欠的に激しい肝炎を起こす傾向がある」。この肝炎は,HBe抗原非産生変異株(HBe抗原を産生しない変異株)により惹起され,肝硬変や肝細胞がんへ進行しやすいことが報告されている。⑶

B型慢性肝炎の治療方法

現在の治療ではHBVを完全に排除することは困難であり,B型慢性肝炎の治療目標は,宿主の免疫監視又は抗ウイルス薬の投与による,HBVの低増殖状態の維持(肝炎の鎮静化)である。
(甲B403-41,49,
乙B403-9)


抗ウイルス療法として,①インターフェロン(IFN)及び②核酸アナログ製剤が主に使用される。それぞれの薬剤特性及び治療効果等は,次のとおりである。
(甲A6,甲B403-28,49,乙B30-5,乙B4
03-6,23,25)
インターフェロン
(IFN)HBV-DNA増殖抑制作用とともに,
は,
抗ウイルス作用,免疫賦活作用(免疫応答を活性化させる作用)を有する。IFN治療は昭和62年から開始され(従来型IFN)
,平成23年
には,ペグIFNが一般臨床で使用可能となり,治療成績が向上している。IFN治療は,投与期間が限定されており(24週から48週),奏
効例では,治療中止後も効果が持続するものの,注射薬であって投薬が煩雑であり,インフルエンザ様症状(全身倦怠感・発熱・頭痛・関節痛等)などの多彩な副作用が高頻度に発生することなどの欠点がある。なお,IFN治療が奏効し,HBe抗原の陰性化(SC)が見られるのは3割程度である(A1意見書10頁)

核酸アナログ製剤は,
強力なHBV-DNA増殖抑制作用を有し,
ほと
んどの症例で抗ウイルス作用を発揮し,肝炎を鎮静化させる。これまでに,ラミブジン(平成12年)
,アデホビル(平成16年)
,エンテカビ
ル(平成18年)及びテノホビル(平成26年)が保険適用となっている。
現在第一選択薬となっているエンテカビル
(製品名:バラクルード)
及びテノホビルは,
ラミブジンと比較して耐性変異出現率が極めて低く,
高率にHBV-DNA陰性化及びALT値の正常化が得られる。
また,

口薬であるため治療が簡便であり,短期的には副作用もほとんどない。しかし,投与を中止すると高頻度にウイルスが再増殖し肝炎が再燃する」「
(本件ガイドライン33頁)とされ,投与中止による再燃率が高いため長期投与が必要であり,長期投与に伴う薬剤耐性変異株の出現の可能性「
や長期投与における安全性が確認されていない点,ならびに医療経済的な問題がある」
(同44頁)



原告30のHBV感染,慢性肝炎の発症及び治療経過等

原告30(昭和●●年●●月●●日生まれ)は,HBV持続感染者であるところ,別紙3(原告30時系列表)記載のとおり,同年9月9日(0歳)から昭和34年9月16日(1歳)までの間に,ツベルクリン反応検査並びに百日咳及びBCG等の集団予防接種を受けた。原告30は,この集団予防接種等の際,HBVに感染した可能性が高い。もっとも,この感染が上記集団予防接種等によるものか否かについては争いがある。

HBe抗原陽性慢性肝炎の発症及びIFN治療
原告30は,昭和62年12月9日から昭和63年3月14日まで(29歳)
,B病院に入院し,
「B型慢性活動性肝炎」と診断され,IFN治療
(α製剤の連続投与)を受けた。同病院診療録(甲B30-14)には,原告30について,IFN治療により,DNAポリメラーゼ陰性(検出感度未満)
,HBe抗原の陰性化,HBe抗体値上昇が認められ,
「セロコン
バージョンが期待された」旨記載されていた。
(甲B30-14)

HBe抗原陰性慢性肝炎の発症
その後,原告30は,平成19年12月(49歳)
,近医(Cクリニック
ことC医師)での検査で,ALT値が300超となったことから,平成20年1月4日,D病院を受診し,
「B型慢性肝炎の急性増悪」と診断され,
同日から同月12日まで同病院で入院した。同病院医師作成に係る診療情報提供書(退院時要約)
(甲B30-12)には,HBe抗原陰性,HBe
抗体陽性であって,
「セロコンバージョン後であり,HBV-DNA5.6
LGE/mlにて変異株の存在が考えられ」バラクルード

(エンテカビル)
服薬を勧めたものの,
服薬しなかった旨記載されていた。
(甲B30-10,
11)


核酸アナログ製剤治療(エンテカビル投与)
原告30は,
平成20年4月10日
(49歳)ALT値171となって,

同月14日から同月26日まで,E病院で入院治療を受け,その後,Cクリニック及びE病院にて経過観察を受けていた。E病院医師作成に係る同年6月18日付け診療情報提供書(甲B30-11(33枚目)
)には,①
「HBe抗体陽性にもかかわらず,
HBV-DNA高値」
であったため,
「B
型慢性肝炎に伴う肝機能異常と判断した,②抗ウイルス療法の適応と考え,4月18日よりエンテカビルの投与を開始した,③AST値及びALT値は速やかに低下し,
正常値が持続し,
HBV-DNAも検出感度以下となり,
経過は良好と考えられる旨記載されていた。
(甲B30-2,
10ないし1
3,20)


上記イないしエの臨床経過は,別紙3(原告30時系列表)のとおりであり,おおむね別紙4(原告30臨床経過)のとおりである。


原告403のHBV感染,慢性肝炎の発症及び治療経過等

原告403(昭和●●年●●月●●日生まれ)は,HBV持続感染者であるところ,別紙5(原告403時系列表)記載のとおり,昭和●●年●●月●●日(7歳)になるまでの間に,F小学校(以下「本件小学校」という。において,

ツベルクリン反応検査並びにBCG及び種痘の集団予防
接種を受けた。この集団予防接種等においては,注射器(針又は筒)が連続使用されていた。
(甲B403-3,4)
原告403は,0歳からほぼ6歳頃までにHBVに感染した可能性が高い(ただし,母子感染によるものではない。。この感染が上記集団予防接)
種等によるのか,又は(父子感染等の)他原因によるのかについては争いがある。


HBe抗原陽性慢性肝炎の発症及びIFN治療
原告403は,平成3年1月20日から同年3月6日まで(38歳),G
病院に入院し,
「慢性活動性肝炎,HBe抗原陽性」と診断され,IFN治
療(β製剤の連続投与)を受けた。その後,原告403は,平成4年4月16日から同年5月30日まで(39歳)及び平成5年1月7日から同年2月6日まで(40歳)
,Hクリニックにおいて,IFN治療(α製剤の連
続投与)を受けた。さらに,原告403は,平成6年3月29日から同年4月27日まで(41歳)
,G病院に入院し,同年3月30日よりIFN治
療(β製剤の連続投与)を受け,退院後も,同年9月13日まで隔日投与を受けた。
上記各治療中及び治療後,原告403は,一時的にHBe抗原陰性,HBe抗体陽性となったことがあったものの,おおむねHBe抗原陽性,HBe抗体陰性であり,ALTも異常値を示し,正常値で安定することはなかった(別紙5(原告403時系列表)参照)

(以上につき,甲B403-1,8,10,14,15,17,18,乙B403-5)

HBe抗原の陰性化及びALT値等の持続正常化
その後,原告403は,平成10年7月6日(45歳)
,HBe抗原陰性
となった後,同年12月12日(46歳)
,一旦HBe抗原陽性となったも
のの,平成11年8月5日にHBe抗原陰性,HBe抗体陽性となって,その後は同様の状態が続いている。(甲B403-18)
この間,平成12年6月28日(47歳)以降,AST値及びALT値のいずれも持続正常となり,平成16年3月30日(51歳)まで,診療記録上,異常値となることはなかった(別紙5(原告403時系列表)参照)。(甲B403-18)


HBe抗原陰性慢性肝炎の発症(ALT値の再上昇等)
ところが,原告403は,平成16年3月30日(51歳),ALT値が195となり,その後,平成17年12月2日(53歳)には28と正常値内となったものの,平成18年6月23日には56の異常値となり,平成19年1月23日
(54歳)
には329の異常高値となった。
そして,
同年12月25日に37,平成21年11月11日には33と基準値内で推移したものの,平成22年12月20日には再び302の異常高値となった。(甲B403-1,18)


核酸アナログ製剤治療(エンテカビル投与)
その後,原告403は,平成23年9月3日(58歳)より,エンテカビル投与を開始した。同日,ALT値は164であったが,同年11月2日
(59歳)
以降,
正常値内で推移し,
また,
HBV-DNA量についても,
同年10月5日以降,低値で推移している。(甲B403-13,18)

上記イないしオの臨床経過は,別紙5(原告403時系列表)のとおりであり,おおむね別紙6(原告403臨床経過)のとおりである。


被告の過失責任

集団予防接種等において注射器(針又は筒)が連続使用された場合,先行する被接種者にB型肝炎ウイルス感染者がいる場合には,ほぼ確実に後行の被接種者に感染するといえるところ,被告は,遅くとも昭和26年には,集団予防接種等の際,注射器(針又は筒)を連続使用すれば,被接種者間にB型肝炎ウイルスが感染するおそれがあることを予見できた。したがって,被告は,原告らに対し集団予防接種等を実施するに当たっては,注射器(針及び筒)の被接種者1人ごとの交換又は徹底した消毒の励行等を各実施機関に指導してB型肝炎ウイルス感染を未然に防止すべき義務があった。ところが,被告は,原告らが集団予防接種等を受けた昭和27年から昭和34年9月までの間,実施機関に対して,注射器の交換又は徹底した消毒の励行を指導せず,注射器の連続使用の実態を放置し,上記義務を怠った過失がある(なお,上記集団予防接種等は,被告による伝染病予防行政上の公権力の行使に当たる。。



もっとも,被告は,原告らのHBV感染と集団予防接種等との因果関係を否認し,損害賠償責任を争っている。



基本合意書の締結

全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団及び被告は,平成23年6月28日,札幌地方裁判所において,基本合意書を交わし,

B型肝炎訴訟に関する

和解の手続及び内容等については,
「基本合意書
(案)

(以下
「本件合意書」
という。
)のとおりとすること,また,

の解釈・運用について

疑義が生じた場合には,札幌地方裁判所が平成23年1月11日及び同年4月19日に提示した各「基本合意書(案)についての説明」
(以下,同年
1月11日に提示されたもの(甲B403-54)を「本件説明書」という。の記載を十分尊重するものとすることが合意され,

基本合意書を受け
て,特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法(以下「特措法」という。
)が制定され,平成24年1月13日施行された。
(顕
著事実)

本件合意書では,和解の内容(病態等の区分に応じた和解金の支払)として,次のとおり記載されていた。
死亡,肝がん又は肝硬変(重度)

3600万円

肝硬変(軽度)

2500万円
1250万円

慢性肝炎(発症後提訴までに20年を経過したと認められる者のうち,現に治療を受けている者等)

300万円

慢性肝炎(発症後提訴までに20年を経過したと認められる者のうち,150万円
600万円
無症候性キャリア(一次感染者又は出生後提訴までに20年を経過した二次感染者)

50万円

なお,
弁護士費用相当額として,
上記各和解金に対する10%
(ただし,
平成23年1月11日よりも後に提訴された場合には,4%)の割合による金員を支払うものとされていた。

本件説明書(5頁)では,
「慢性肝炎」の病態の区分にある者のうち,
「肝
機能障害が沈静化している者」に係る和解金額について,下記のとおり記載されている(以下「本件記載」という。。
)(甲B403-54・4及び5
頁)

「まず,慢性肝炎について,一般に,B型肝炎ウイルスに持続感染した者は,その後,肝炎を発症しても,ほとんどはやがて沈静化し,中には,肝炎の発症を自覚しない者もいるといわれているが,本人も周囲も肝炎の発症に気付かずに沈静化した場合に,その者が訴訟において過去に慢性肝炎となったことを立証しうるとはいささか考え難いことから,本基本合意案にあたって実際上考慮していたのは,肝炎の発症を自覚した者の受けた苦痛その他の損害に見合う和解金の額のいかんである。
この点,やがて沈静化しうるB型肝炎は,同じウイルス性肝炎であっても,発症後肝硬変等に移行することの多いC型肝炎と同列に論じることはできないが,他方において,肝炎の発症により,感染による損害とは質的に異なる損害,すなわち,少なくとも肝機能障害のある間は継続する死に対する現実的,具体的な恐怖や,発症前を上回る社会生活上の差別的取扱その他の被害による損害が発生するであろうこと,また,沈静化した後においても,一定の率で肝がんとなる危険があることから,たとえ肝機能障害が沈静化したとしても,その損害に見合う和解金の額は,いわゆるC型肝炎救済特別措置法におけるC型肝炎ウイルスの無症候性キャリアに対する給付金の額を下回るべきではないと考えた。



本件訴訟提起及び和解協議の不調

原告30は,平成20年7月30日,また,原告403は,平成24年2月29日,それぞれ本件訴訟を提起した。
(顕著事実)


被告は,原告らが慢性肝炎の発症について,仮に,損害賠償請求権を有していたとしても,除斥期間の経過により消滅しているものの,特措法6条1項7号の「慢性B型肝炎にり患した者のうち,当該慢性B型肝炎を発症した時から20年を経過した後にされた訴えの提起等に係る者」に該当すると判断し,同法に基づき,原告30については330万円(300万円及びこれに対する10%の弁護士費用相当額(特措法7条2項,附則3条),原告403については,312万円(300万円及びこれに対する)
4%の弁護士費用相当額
(特措法7条2項)
を支払う旨の和解を提案した。


これに対し,原告30は除斥期間の起算点は平成20年であるとし,また,原告403は平成16年又は平成19年であるとして,除斥期間は経過していない旨主張し,和解協議は不調に終わった。
(顕著事実)
2
争点


集団予防接種等とHBV感染との因果関係の有無



除斥期間の経過の有無(除斥期間の起算点)

B型慢性肝炎の特質等から,除斥期間の起算点は原告らがHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した時であると解すべきか


正義・公平の観点から,除斥期間の起算点は原告らがHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した時であると解すべきか



損害の発生及びその額
アイ3
包括一律請求の可否
原告らの損害額

争点に関する当事者の主張


争点⑴(集団予防接種等とHBV感染との因果関係の有無)について【原告らの主張】

原告らは,いずれも0歳から6歳頃までにHBVに感染した持続感染者である。そして,①原告らは乳幼児期に集団予防接種等を受け,その際,注射器(針又は筒)が連続使用されていたこと,②原告らの母親は持続感染者ではなく,原告らは乳幼児期に輸血を受けたこともないこと(したがって,
母子感染や輸血が感染原因とは考えられないこと)
などに照らせば,
原告らは,集団予防接種等における注射器等の連続使用によってHBVに感染した蓋然性が高いというべきであり,集団予防接種等とHBV感染との間には,因果関係があると認められる。


なお,原告403について,被告は,同原告が集団予防接種等を受けた時期は本件小学校入学(6歳6か月)以降であって,父子感染等の他原因による感染の可能性が十分考えられるから,因果関係は認められない旨主張する。
しかしながら,まず,原告403の出生当時の予防接種法では,0歳から予防接種を受けることが罰則付きで義務付けられており,同原告についても母親が予防接種を受けさせたことから,同原告は小学校入学以前,乳幼児期に集団予防接種等を受けたものと認められる。

日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁(以下「平成18年判決」という。の見地からすれば,

被告において父子感染等の他原因の存在を示
す具体的事実の主張立証がされない限り,集団予防接種等とHBV感染との因果関係は認められるというべきであるところ,原告403については,被告において父子感染について主張立証はできていない(父親は平成4年に死亡しており,持続感染者であったか否かは不明であり,塩基配列検査の実施も不可能であるから,父子感染によることの立証はできていない。。)
したがって,被告の上記主張は採用できない。
【被告の主張】
不知ないし争う。ただし,原告403との関係では,
【原告らの主張】アの
①及び②の各事実はいずれも認める。そのほか,次のア及びイのとおりである。

まず,原告30について,0歳から6歳頃までに集団予防接種等によってHBVに感染した可能性が高いという限度で認める。


また,原告403について,7歳になるまでの間に本件小学校において集団予防接種等を受けたこと,また,同原告がHBV持続感染者であり,0歳からほぼ6歳頃までに感染した可能性が高いことは認める。しかしながら,同原告の集団予防接種等の時期は,本件小学校入学時以降であり,6歳6か月以上であった可能性が高い。そして,5歳以上での曝露による持続感染の成立率は,通常10%未満であることを踏まえると,集団予防接種等による持続感染成立の可能性は低い
(すなわち,
同原告については,
6歳6か月以上での集団予防接種等によって持続感染する可能性よりも,生後直後から密接かつ継続して接触する可能性のある父親や,保育園・幼稚園等の幼少時の他の感染源からの感染により持続感染が成立した可能性がより高いといえる。。ところが,同原告については,父子感染でないこ)
とについて何ら立証されていない。
したがって,集団予防接種等以外の原因(他原因)によるHBV感染の可能性が十分考えられるのであり,原告403について,集団予防接種等とHBV感染との間の因果関係の存在について高度の蓋然性をもって立証されているとはいえない。


争点⑵ア(除斥期間の起算点-B型慢性肝炎の特質等から,除斥期間の起算点は原告らがHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した時であると解すべきか)について
【原告らの主張】
次のアないしエのとおり,
HBV持続感染者がHBe抗原陽性慢性肝炎
(以
下「陽性慢性肝炎」ということもある。
)を発症し,SC後にHBe抗原陰性
慢性肝炎(以下「陰性慢性肝炎」ということもある。
)を発症した場合(慢性
肝炎が「再発」した場合)には,陰性慢性肝炎の発症による損害は,当該陰性慢性肝炎の発症時に発生し,その時点から上記損害に係る賠償請求権の行使が法律上可能となるというべきである。したがって,上記損害賠償請求権に係る除斥期間の起算点は,陰性慢性肝炎の発症時となる。そうすると,原告30は平成20年に,また,原告403は平成16年(又は平成19年)に,それぞれ陰性慢性肝炎を発症したことから,いずれも除斥期間は経過していない。

除斥期間の起算点の考え方
最高裁平成元年
48巻2号441頁
(長崎じん肺訴訟判決)
(以下
「平成6年判決」
という。

及び最高裁平成13
決・民集58巻4号1032頁(筑豊じん肺訴訟判決)(以下「平成16年判決」という。
)等によれば,加害行為から相当期間経過後に損害が発生
する場合には,除斥期間の起算点は「損害の全部又は一部が発生した時」であるが,
当初発生の損害とは
「質的に異なる」
損害が発生した場合には,
その損害の発生時が新たな起算点となると解される。
そして,
「質的に異な
る」とは,法的な異質性を意味し,当初は未確定であった損害が発生することを意味すると解される。
すなわち,上記各判決は,じん肺という疾病の特質を踏まえて,損害発生の時期をいかに解すべきか(除斥期間の進行を認め,時間の経過によって請求を制限することが,被害者にとって著しく酷であるか,他方,加害者にとって自己の行為により生じ得る損害の性質からみて,相当の期間が経過した後に被害者が現れて,損害賠償の請求を受けることを予期すべきか)という観点から検討を加え,最初の損害発生時点では,未だ発生していると認められない損害(未確定な損害)については,後に初めて損害が発生するとして,それを「質的に異なる」と表現し,当該「質的に異なる」損害が発生した時が新たな起算点となるとした。

B型慢性肝炎の性質・特徴
B型慢性肝炎に係る確立した医学的知見は,以下のとおりである。慢性肝炎を発症した症例の多くの例では,SC後,肝炎は鎮静化し,非活動性キャリアとして経過する。
もっとも,一部の症例では,SC後,再度肝炎を発症する例が存在することが明らかとなり,
「病期」として,HBe抗原陰性慢性肝炎期が位
置付けられた。
HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原陽性慢性肝炎よりも,高齢で発症し,HBe抗原陽性慢性肝炎を経ている点において線維化が進行した症例であり,肝硬変,肝がんへの進展率が高いという意味において予後が悪い。

B型慢性肝炎の「再発」症例における除斥期間の起算点
平成6年判決は,じん肺の病理の特異性(特に,じん肺の進行がきわめて長期にわたり得るものであり,かつ,その進行性の態様が医学上解明されていないという点)を重視し,医学的には量的な進行・拡大であるものを,管理区分を手掛かりとして,法的には「質的に異なる」損害であると評価したものである。これによれば,B型肝炎についても,医学的には量的な進行・拡大であるものを,
「再発」という現象(病変の特
質)を手掛かりに,SC後の陰性慢性肝炎の発症による損害について,最初の陽性慢性肝炎の発症による損害とは法的に「質的に異なる」損害であると評価することは可能である。
そして,上記イ

,最初に慢性肝炎(陽性

慢性肝炎)を発症した時点において,慢性肝炎が再発するかどうか(陰性慢性肝炎を発症するかどうか)は未確定である。このようなHBV持続感染者の自然経過を踏まえると,慢性肝炎の再発(陰性慢性肝炎の発症)に係る損害は,最初の陽性慢性肝炎の発症時点では,未確定な損害であるから,最初の陽性慢性肝炎に係る損害とは「質的に異なる」というべきである。
なお,被告は,慢性肝炎に関しては,医学的に「治癒」し,
「再発」す
るということはない旨主張する。しかしながら,B型慢性肝炎がSCにより鎮静化した場合にも,HBVを完全に排除できないことから,医学的には「治癒」や「再発」とはいえないとしても,例えば,労働者災害補償保険法
(以下
「労災保険法」
という。では,

B型慢性肝炎の
「治癒」
及び「再発」という概念が認められている。そうすると,本件で除斥期間の起算点を検討するに当たって,法的観点から「再発」等を把握することも可能であるというべきである。
また,仮に,被告主張のとおり,損害に対する評価が異なってしかるべき,例外的な事情が認められる場合にのみ,「質的に異なる」損害が発生するとされ,当該損害の発生時点が除斥期間の起算点となると解されるとしても,上記

及び

のとおり,陰性慢性肝炎は,陽性慢性肝

炎とは別の「病期」と位置付けられ,高齢で線維化が進行した症例であり,病態が重篤であって,肝硬変,肝がんへの進展率が高いという意味において予後が悪いことなどに照らせば,陰性慢性肝炎の発症による損害は,当初の陽性慢性肝炎の発症による損害とは「質的に異なる」ものというべきである。
そして,上記

陰性慢性肝炎の発症

による損害の発生を待たずに,陰性慢性肝炎の発症に係る損害賠償請求権についても,最初の陽性慢性肝炎の発症時から除斥期間の進行を認めることは,被害者にとって著しく酷であるし,また,加害者としても,自己の行為により生じ得る損害の性質からみて,相当の期間が経過した後に被害が発生して,
損害賠償の請求を受けることを予期すべきである。

上記アないしウによれば,
HBV持続感染者が,
陽性慢性肝炎を発症し,
SC後,陰性慢性肝炎を発症した場合には,陰性慢性肝炎の発症による損害は,当該陰性慢性肝炎の発症時に発生し,その時点からその損害賠償請求権の行使が法律上可能となるというべきである。したがって,上記陰性慢性肝炎の発症時が上記損害賠償請求権に係る除斥期間の起算点となるというべきである。

【被告の主張】
仮に,原告らの被告に対する損害賠償請求権が発生していたとしても,いずれも民法724条後段所定の除斥期間の経過により消滅している。すなわち,原告らの主張に係る慢性肝炎の「再発」は,医学的には「再燃」というべきところ,次のアないしケのとおり,原告らのいう「再燃」が生じた場合も含め,B型慢性肝炎を発症したことによる損害については,最初の発症時が除斥期間の起算点となるのであり,慢性肝炎の「再燃」によって法的に別個独立の新たな損害が発生したとは評価し得ない。そして,原告30は遅くとも昭和63年3月14日までに,また,原告403は遅くとも平成3年3月6日までにB型慢性肝炎を発症しており,いずれも各発症時点から各提訴日までに20年以上経過している。

B型慢性肝炎の「再燃」症例における除斥期間の起算点
平成16年判決によれば,除斥期間の起算点は原則として加害行為時であり,蓄積進行性又は遅発性の健康被害に係る損害のように,損害の性質上,加害行為が終了してから相当期間の経過後に損害が発生する場合には,例外的に,「当該損害の全部又は一部が発生した時」が除斥期間の起算点となる。そして,最初に発生した損害がその後,進行・拡大したときであっても,最初の損害発生時に,将来の損害を含む全損害が発生し,全損害に係る1個の損害賠償請求権が成立し(最高裁昭和40
1559頁(以下「昭和42年判決」という。
)参照)
,その時点から除
斥期間が進行する。そして,除斥期間の起算点は被害者の認識を問わず客観的に判断されるべきであり,また,蓄積進行性又は遅発性の健康被害に係る損害について,最初に発生した損害が進行・拡大した場合に,別個独立の新たな損害の発生が認められ,当該時点が除斥期間の起算点となるのは,損害に対する評価が異なってしかるべき,例外的な事情が認められる場合に限られるというべきである。したがって,最初の損害がその後,進行・拡大した場合において,予見可能性のない後発損害について全て別個の損害とみるものではないし,後遺症の等級が10級から9級,8級と進行する場合に,その等級ごとに格別の損害が発生するとみるものでもない。
そして,平成18年判決は,慢性肝炎が,その経過が長期にわたり,炎症と鎮静化を繰り返す性質の疾病であることを踏まえ,B型慢性肝炎を発症したことによる損害については,最初のB型慢性肝炎発症時に,B型慢性肝炎に関する将来の損害を含む全損害に係る損害賠償請求権が発生しており,その後,肝炎の症状が悪化したり(ALT値が悪化したり)
,又は一旦その症状が軽快した(ALT値が正常値以下に下がった)後に再度悪化したりした場合であっても,最初のB型慢性肝炎発症時から20年を経過した時点で除斥期間が完成することを当然の前提としている。したがって,原告らのいう「再燃」が生じた場合も含め,B型慢性肝炎の発症による損害は,最初の発症時が除斥期間の起算点となるというべきである。

損害が発生した場合には,その損害の発生時が新たな除斥期間の起算点となり,
「質的に異なる」とは,当初は未確定であった損害が発生した時を意味すると解さ
慢性肝炎を発症するかどうかは未確定であるから,
陰性慢性肝炎の発症
(B
型慢性肝炎の再発)に係る損害は,
「質的に異なる」損害であるといえる旨
主張する。
しかしながら,まず,SC後,炎症が再燃するか否かが未確定であることは,別個独立の損害が発生したとする根拠にならない。すなわち,HBV持続感染者の自然経過は多種多様であり,予測困難であって,ある時点で将来の経過が未確定であることは,あらゆる段階に妥当する。持続感染者には慢性肝炎を発症する者も,発症しない者もおり,慢性肝炎の発症者にも,HBe抗原陽性の状態で初めて発症する者も,HBe抗原陰性の状態で初めて発症する者もいる。また,HBe抗原陽性の状態で初めて発症
間,回数,HBV-

SCするのかな
ど,将来の具体的経過はいずれも確定できない。
このように,慢性肝炎の発症時点では,上記経過は,いずれも未確定で
り上げ,その割合が相対的に高いか低いかのみを根拠に,経過が長期かつ多種多様にわたり炎症と鎮静化を繰り返す疾病である慢性肝炎を発症したことによる損害の一部を切り出し,別個独立の新たな損害が発生したと評価することは,失当である。

また,原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原陽性慢性肝炎とは別の「病期」と位置付けられ,高齢で線維化が進行した症例であり,病態が重篤であって,肝硬変,肝がんへの進展率が高いという意味において予後が悪いとして,陰性慢性肝炎の発症により別個独立の新たな損害賠償請求権が発生する旨主張する。しかしながら,次のエないしクのとおりであり,陰性慢性肝炎が陽性慢性肝炎よりも病態が重篤であり,予後が悪いなどとはいえない。したがって,原告らの上記主張は失当である。

まず,SC後のHBe抗原陰性慢性肝炎がSC前のHBe抗原陽性慢性肝炎より病態が重篤であるとはいえない。
HBe抗原陰性慢性肝炎は,病態が軽い症例が多い。
我が国におけるHBe抗原陰性慢性肝炎の患者の9割は,ALT値の上昇が軽度である。現に,原告30及び原告403についても,原告らがHBe抗原陰性慢性肝炎を発症したと主張している時期以降の同人らのALT値は,いずれも核酸アナログ製剤治療開始前のものを含めてみても,SC前より高いとは言い難く,医療記録上,重篤な壊死性炎症を起こしたことなども認められない。
肝炎の活動性は,HBe抗原陽性の方が高い。
HBe抗原陽性とHBe抗原陰性の状態を比較すれば,一般的にはHBe抗原陽性の方が肝炎の活動性が高い。
これは,
A1意見書において,
「B型肝炎の症例のうち,最も線維化進行速度の速いのはHBe抗原陰性例ではなく,HBe抗原陽性例の中でも増殖力の高い一群である。」(9頁),「HBe抗原セロコンバージョン後の慢性肝炎の中にはALTの比較的大きな変動を見るものがある。しかしながらHBe抗原陽性の慢性肝炎の中にはこれよりもはるかに大きな変動をして短期間に肝硬変に至る症例がある。従ってどちらがより大きな肝炎を起こすか,どちらがより重いかに関して安易に結論することはできない。」(15頁)と記載されているとおりである。
HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原陽性慢性肝炎よりもHBVDNA量が大きく変動し,重篤な病態になるという事実はない。本件診療ガイドには,
HBe抗原陰性慢性肝炎は,
①HBV-DNA量
が「中等度の範囲で変動し」,②「間欠的に激しい肝炎を起こす傾向がある」と記載されている(前提事実⑵ウ



しかしながら,まず,上記①の記載は,SC後の慢性肝炎の中には,ALT値の比較的大きな変動をみるものがあるということを述べたもの
は,陰性慢性肝炎よりもはるかに大きなALT値の変動を起こして短期間に肝硬変に至る症例もある。
また,上記②の記載に関して,肝炎の劇症化や重症化する症例があるとして注視されているのは,プレコア領域又はコアプロモーター領域に変異が生じたHBV変異株に初感染した症例である。したがって,HBV野生株(変異が生じていないウイルス)に初感染した持続感染者が,SC後,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症した場合(これが原告らのいうHBe抗原陰性慢性肝炎である。)には,「激しい肝炎を起こす傾向がある」とはいえない。
近年の治療水準の向上からも,SC後の陰性慢性肝炎が,SC前の陽性慢性肝炎より病態が重篤であるとはいえない。
近時,核酸アナログ製剤の投与によって線維化の進展は止まり,肝硬変への移行がなくなり,肝がん発症も大きく減少するといわれるなど,B型慢性肝炎患者の治療は,着実に進歩・改善している。実際に,原告30は平成20年4月18日から,原告403は平成23年9月3日からエンテカビル服用を開始しており,いずれもALT値は正常値内で推移し,HBV-DNA量は抑制されている。

そして,HBe抗原陰性慢性肝炎患者は,HBe抗原陽性慢性肝炎患者と比較して,肝硬変,肝がんへの進展率は低い。
まず,
本件ガイドラインにおいて,
陰性慢性肝炎は
「より進んだ病期」
と認識すべきであると記載されている(

)。しかしなが

ら,これは,「HBe抗原陰性慢性肝炎の患者は,高齢で,HBe抗原陽性慢性肝炎の段階も含めそれまでに炎症を起こしていた期間が長いことが多いので,線維化進展例が多い」という当然のことを指摘したものにすぎない。そして,このことは,高齢のHBe抗原陽性の持続感染者にも全く同様に当てはまる。
すなわち,上記記載は,陰性慢性肝炎は「HBe抗原が陰性となったから」病態が進展しているとか,「HBe抗原が陰性となった後に再燃したから」病態が進展しているということを指摘したものではない。むしろ,最も線維化進展速度が速いのは,若年者も含めたHBe抗原陽性例にあり(A1意見書9頁),HBe抗原陰性例が特に線維化進展が速いという事実はない。
また,
「HBe抗原が陰性であること」や「HBe抗原が陰性になるこ
と(SCしたこと)
」は,肝硬変・肝がんへの進展リスク要因でない。む
しろ,ウイルス学的要因として「HBe抗原陽性」が危険因子として挙
さらに,HBe抗原陰性慢性肝炎患者全般の肝硬変進展率は,HBe抗原陽性慢性肝炎患者全般と比べて低い(以下,論文の名称は,別紙7(略語一覧)記載のとおり,略記する。。

すなわち,1988年A2論文においては,B型慢性肝炎患者の肝硬変の発症率は,HBe抗原陽性の場合に6.9%(年間発症率2.4%)であるのに対し,HBe抗体陽性(HBe抗原陰性)患者では4.0%(年間発症率1.3%)であるとされており,HBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変発症率が,HBe抗原陽性慢性肝炎患者のそれよりも低いことは明らかである。
上記論文は,平成28年末に我が国で発表された「B型肝硬変」と題する論文(乙B403-31)において引用され,また,同論文では,「B型慢性肝炎における代表的な肝硬変への進行危険因子」として「HBe抗原陽性」が挙げられている(908頁)

なお,原告らは,A2論文の研究対象患者には,非活動性キャリアの患者が含まれ,
同論文におけるHBe抗原陰性の患者の肝硬変進展率は,
「HBe抗原陰性の非活動性キャリアの患者」をも含めた数値であるから,HBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変発症率がHBe抗原陽性慢性肝炎患者のそれよりも低いとの被告主張は誤りである旨主張するが,明らかな誤りである。
同年代で比較しても,HBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変進展率及び肝がん進展率は,HBe抗原陽性慢性肝炎患者より低いこと
A3教授作成に係る平成29年1月18日付け意見書(乙B403-26。以下「A3意見書」という。)によれば,我が国において長期間にわたり,特定地域の日本人の住民を幅広く対象とした大規模調査の結果,①同年代にHBe抗原陽性の慢性肝炎であった群とHBe抗原陰性の慢性肝炎であった群を比較した場合,累積肝硬変罹患率は前者の方が高く,特に男女全体及び男性ではHBe抗原陽性の慢性肝炎であった群の累積肝硬変罹患率が有意に高いことが明らかとなり,②同年代にHBe抗原陽性の慢性肝炎であった群とHBe抗原陰性の慢性肝炎であった群を比較した場合,累積肝がん進展率は前者の方が有意に高い傾向が確認されている(13ないし15頁)

原告らが依拠する2009年A4論文(甲B403-27)及びA4医師作成に係る「HBVキャリアの自然経過について」と題する意見書(甲B403-47。以下「A4意見書」といい,上記論文と併せて「A4意見書等」という。
)の記載から,
「HBe抗原陰性慢性肝炎はHBe
抗原陽性慢性肝炎と比較して類型的に肝硬変進展率が高い」との事実は認められないこと
すなわち,A4意見書等には,肝硬変進展率について,
「HBe抗原陽
性慢性肝炎の場合が2~6%であるのに対し,HBe抗原陰性慢性肝炎の場合が8~10%と報告されている」との記載があるところ(A4論文640頁,A4意見書7頁)
,上記記載は,2006年A5論文を引用
したものである。そして,A5論文には,
「肝硬変の年間発症率は,HB
eAg陽性患者で2%から6%,HBeAg陰性患者で8%から10%と推定されてきている」との記載があるところ(甲B403-35訳文6頁),これも他の研究者による原著論文(A2論文,1988年A6論文,1989年A7論文及び2003年A6論文)の記載を引用したものである。
しかしながら,上記各原著論文の記載によれば,A5論文から「HBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変進展率が,類型的にHBe抗原陽性慢性肝炎患者の肝硬変進展率より高い」との事実は認められない。また,A5論文における上記「2から6%」,
「8から10%」という数字は,
少なくとも「本件と同一の条件で症例を調査した結果,HBe抗原陽性慢性肝炎患者の肝硬変進展率が2から6%で,HBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変進展率が8から10%であったこと」を意味するものでは全くないと解される。したがって,A5論文の記載を引用したA4意見書等の記載に依拠した原告らの上記主張は,明らかに根拠を欠くものである。

変及び肝がんへの進展率は,HBe抗原陽性慢性肝炎患者のそれよりも低いのであり,少なくとも,SC後の陰性慢性肝炎患者の肝硬変及び肝がんへの進展率が,SC前の陽性慢性肝炎患者のそれよりも高いことを認める証拠はない。

原告らの主張は,高齢の持続感染者の病態進展リスクが相対的に高いという一般論を指摘するものに過ぎないこと
上記エ及びオによれば,原告らの上記ウの主張は,結局,高齢の持続感染者の病態進展リスクが相対的に高いという一般論を指摘するものにすぎず,SC後のHBe抗原陰性慢性肝炎発症患者は,SC前のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時よりも,高齢化し,病態進展リスクが相対的に高まったことから,新たに別個独立の「質的に異なる」損害が発生したと主張するものにすぎないのである。
しかしながら,このような主張は,最初に発生した損害がその後進行・拡大したから,新たに別個独立の損害が発生したと主張するものにほかならず,損害賠償請求権の統一的理解(昭和42年判決)と相反することは明らかであり,失当というほかない。


労災保険法に基づく主張が失当であること
原告らは,労災保険法において,B型慢性肝炎の「治癒」や「再発」という概念が認められていることから,除斥期間の起算点を判断する際に,法的観点から「再発」等を捉えることが可能である旨主張する。
しかしながら,労災保険法は,損害の公平な分担を図ることを目的とする不法行為法の解釈(損害の範囲等)を目的とした法律ではない(同法1条)。したがって,「質的に異なる」損害(別個の損害賠償請求権)が新たに発生することの根拠となるものではない。
また,
労災保険上の概念が,
損害の範囲を画する基準となるものでないことは,同法1条にいう「必要な保険給付」の具体的内容をみても明らかである。例えば,「治癒」は,療養補償給付の不支給決定の原因となるところ,「疾病については急性症状が消退し,慢性症状が持続しても医療効果を期待し得ない状態になった場合」には,
「治癒」したものと解されるとされているのであり,上記「治
癒」は,医学的,社会的見地からの制約の範囲内で,労働者の社会復帰の促進,援護,福祉の増進等を図るために,どの労災保険給付を,どこまで行うかという観点から定められた労災保険上の概念にすぎない。
したがって,労災保険上の概念をもって,不法行為法における除斥期間の起算点について,損害の分断評価を行い得るとするかのような原告らの主張は失当である。

原告らの実際の診療経過をみても,一連の慢性肝炎が継続しており,損害の分断評価ができるものではないこと
原告30については,別紙4(原告30臨床経過)記載のとおり,遅くとも昭和63年3月14日までに慢性肝炎を発症したものの,その後は,同日から平成15年11月5日までの16年近くにわたる医療記録すら存在せず,同原告の主張に係る「再発」とする客観的な経緯は不明であるが,仮に,原告30につき,ALT値の一時的な鎮静化があったとしても,上記のとおり,肝炎の増悪と軽快を繰り返す一連の経過の一つであり,別個独立に慢性肝炎の損害が新たに発生したというものではない。
また,原告403は,別紙6(原告403臨床経過)記載のとおり,遅くとも平成3年3月6日までに慢性肝炎を発症した後,肝炎の増悪,軽快(ただし,軽快といっても,多くのALT値は異常高値である。)を繰り返した。その肝炎の活動性は,IFNを4回実施(しかも,4回目は24週間)
しても容易に衰えないなど,
相当高いといえる。
そして,
平成12年頃からは安定的にHBe抗原陰性となり,一般的には肝炎の活動性が低下する状態となったが,ALT値がおおむね基準値以内であった時期も,
HBV-DNA量は少なくとも中ウイルス量が認められてお
り,ウイルスの増殖及び一連の慢性肝炎が継続していることが明らかである。そして,平成12年より後も,ALT値の異常値が数回みられ,肝炎の活動性が高い類型として,HBe抗原陽性のときから引き続き肝炎が継続していることがうかがえる。
各臨床経過からすれば,原告らは,いずれも増悪と軽
快を繰り返すという一連の慢性肝炎の経過をたどっているといえ,その全体が慢性肝炎を発症したことによる損害といえる。

上記アないしクによれば,
原告らについて,
HBe抗原陰性での
「再燃」
も含め,B型慢性肝炎の発症に関する損害評価を分断し,別個の新たな損害の発生を認めるべき例外的事情は認められず,除斥期間の起算点を「再燃」(SC後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症時)

とすべき理由はない。



争点⑵イ(除斥期間の起算点-正義・公平の観点から,除斥期間の起算点は,原告らがHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した時と解すべきか)について【原告らの主張】

最高裁は,除斥を形式的に適用することが正義・公平に反する結果となる事案については,除斥期間の起算点をできる限り繰り下げる解釈をすることによって(平成16年判決及び平成18年判決等)又は終了点をできる限り繰り下げる解釈をすることによって(
同10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1087頁
(以下
「平

第三小法廷判決・民集63巻4号853頁(以下「平成21年判決」という。),除斥の適用を制限し,もって正義・公平にかなう結論を導いてき)
た。

そして,①原告らは被告が行った国策(集団予防接種等)の被害者であること,②被告には重大な過失(注射器の連続使用の継続)があるが,原告らには何の落ち度もないこと,③提訴の遅れは原告らの責任ではなく被告の責任によること,④被告主張のとおり,最初の慢性肝炎発症の時が除斥期間の起算点であるとすると,より早くからより長く苦しんだ者ほど権利が保障されないという結果となり,不条理,不合理であることなどに照らせば,原告らの損害賠償請求権について,除斥期間を形式的に適用し,上記請求権を時の経過によって消滅させ,
被告の責任を免れさせることは,
著しく正義・公平に反する。
したがって,本件においても,再発の慢性肝炎が発症した時を除斥期間の起算点と解し,除斥期間の起算点を繰り下げる解釈をすることによって,除斥の適用を制限すべきである。

【被告の主張】
否認ないし争う。

まず,平成16年判決及び平成18年判決等は,除斥期間の起算点の解釈を示したものであって,正義・公平の観点から除斥期間の適用制限を行ったものではない。また,平成10年判決及び平成21年判決は,本件とは事案が全く異なり,その射程も限定的であって,本件において適用の余地はない。

そして,仮に,除斥期間の効果が制限される場合があるとしても,それは,①時効の停止等のような除斥期間の適用を制限する根拠となる規定があり,かつ,②除斥期間の適用が著しく正義・公平に反する事情がある場合に限られるところ,原告らについて,時効の停止等,除斥期間の適用制限を行う根拠となる規定は全くないし,また,原告らが客観的に提訴できなかった事情は認められず,平成10年判決や平成21年判決のように,除斥期間を適用することが著しく正義・公平に反する事情は存在しない。


争点⑶ア(包括一律請求の可否)及び同⑶イ(原告らの損害額)について【原告らの主張】

本件においては,包括一律請求による損害賠償請求が認められるべきである。すなわち,原告ら集団予防接種等によるHBV持続感染者は,致死性,難治性,進行性の疾患であるHBVに感染したことによって,身体的障害及び精神的苦痛を受けるだけではなく,社会生活,家庭生活,経済生活及び日常生活のあらゆる場面において,広範な被害を受け続ける。原告らのように慢性肝炎を発症した者については,①慢性肝炎の発症の告知による精神的衝撃,②慢性肝炎の症状(全身倦怠,心窩部不快感,食欲不振等)や長期にわたる治療による身体的及び精神的苦痛,③就業や事業の継続が困難になるなどの精神的苦痛や財産的被害,④持続感染者であることによる差別や偏見,⑤肝硬変や肝がんへの進行の不安・恐怖などの被害を受ける。実際,原告らは,B型肝炎ウイルスに感染し,2度にわたり慢性肝炎を発症し,完治困難となったことによって経済的被害,精神的・肉体的被害を受け,人生そのものを大きく狂わされたのである。
ところで,これらの被害は,それぞれ別個独立に存在するのではなく,相互に影響し合って拡大し,しかも,感染から死に至るまで進行を続けるものであるから,このような「総体としての被害」が,本件訴訟の損害賠償の対象となるというべきであり,このような「総体としての被害」を個別具体的積上方式により立証することは極めて困難であることなどに照らせば,原告らの損害額の算定に当たっては,個別具体的積上方式ではなく,包括請求方式によるべきである。そして,B型肝炎というウイルス疾患の特殊性から,原告らには,その進行した肝炎のステージ毎に一定の共通する被害がもたらされたといえるから,ステージ毎に同額の損害を算定することが相当である。したがって,原告らの損害賠償請求については,包括一律請求によることが認められるべきである。

そこで,原告らの各損害額について検討するに,本件合意書では,慢性肝炎の損害額が1250万円であると定められているところ,
これは,
「少
なくとも肝機能障害のある間は継続する死に対する現実的,具体的な恐怖や,発症前を上回る社会生活上の差別的取扱その他の被害による損害が発生するであろうこと,また,鎮静化した後においても,一定の率で肝がんとなる危険があることから,たとえ肝機能障害が鎮静化したとしても,その損害に見合う和解金の額は,いわゆるC型肝炎救済特別措置法におけるC型肝炎ウイルスの無症候性キャリアに対する給付金の額を下回るべきではない」との考えに基づく(本件説明書5頁)。そうすると,上記金額は,B型慢性肝炎を発症した者について最低限度の損害額というべきであり,原告らの損害額としては,それぞれ少なくとも1250万円であると認めるのが相当である。
付言するに,原告らは,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症し,同慢性肝炎が鎮静化した後,HBe抗原陰性慢性肝炎を再発していることから,本件説明書における上記記載内容の損害以上の損害を被っているといえる。すなわち,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症後にHBe抗原陰性慢性肝炎を再発した場合,HBe抗原陰性慢性肝炎の疾病の特徴や重篤性などに照らせば,後者の発症に係る損害のみでも1250万円を下回らないというべきである。

上記イに加えて,原告らは,いずれも被告の不法行為によって被った損害賠償を求めるために本訴提起を余儀なくされた。そして,上記各不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,損害額の10%が相当であるところ,本件合意書で認められた割合を尊重して,原告30につき,損害額の10%相当額である125万円,また,原告403につき,損害額の4%相当額である50万円であると認めるのが相当である。

【被告の主張】
いずれも否認ないし争う。

まず,原告らの包括一律請求は不当である。すなわち,原告ら主張に係る「総体としての被害」が抽象的にも損害項目ごとの積上げを不要とする趣旨であるならば,何ら金銭評価の手懸かりに乏しいばかりか,当事者が攻撃防御を尽くすことができず,殊に被告側の攻撃防御の観点から甚だ不適切であるというべきである。


そして,HBe抗原陰性慢性肝炎による損害のみでも1250万円を下回らないとの主張は失当である。すなわち,まず,HBe抗原セロコンバージョンが起こらずにALT異常値が長期間にわたり継続している慢性陽性肝炎患者の損害が,ALT値の数年にわたる鎮静化が認められる原告らと比較して小さいということはできず,むしろ,ALT異常値が長期間にわたり継続している患者(HBe抗原陽性慢性肝炎の持続患者)の方が損害は大きいと認められる。したがって,SC後のHBe抗原陰性慢性肝炎による損害が1250万円を下回らないとは到底いえない。
実際,財産的損害について,原告らの費用積算根拠は不明である上,医療費助成等をも考慮すると,原告らの主張に係るSC後の「再燃」時点からの治療費用(受診費用,血液検査費用,画像検査費用,治療薬費用等)の自己負担分は,せいぜい20万円前後にとどまる可能性が高いと認められる。さらに,原告らは薬剤耐性変異の少ないエンテカビルの内服開始により,投与開始直後を除いて,ALT値及びAST値がともに正常化し,ウイルス量も低下しており,原告らのSC後の治療経過は,比較的良好に推移しているのであって,原告らの主張に係る「再燃」後に生じた(HBe抗原陰性慢性肝炎の発症に係る)損害が,1250万円を上回るほど大きいとは到底認められない。むしろ,原告両名とも,HBe抗原陽性の時点の方がALT値の異常やALT異常値の継続期間が大きく,HBe抗原陰性となった後は,上記のとおり,投薬によって良好な経過をたどっているのが実情であり,このような実情自体,HBe抗原陰性慢性肝炎の損害が大きいという原告らの主張が実態と乖離したものであることを示すものである。
第3

当裁判所の判断

1
B型慢性肝炎に関する医学的知見
B型慢性肝炎に関して,
主な文献及び論文並びに意見書の記載内容
(以下
「医
学的知見」
という。は,
)以下のとおりである
(なお,
A1意見書等においても,
本件ガイドライン及び本件診療ガイド等の記載内容が誤り又は不正確である旨の指摘はされていない。。



HBe抗原陽性慢性肝炎

本件診療ガイド
HBV持続感染者は,免疫寛容期から免疫排除期(免疫応答期)へ移行し,HBe抗原陽性の肝炎を発症し,85ないし90%の症例は,自然経過でHBe抗原セロコンバージョン,
HBV-DNA量の低下,
肝炎
の鎮静化が起こり,非活動性キャリアとなる。このような経過の症例は予後が良く,治療を必要としないことが多い。
(11頁)
他方,
10ないし15%の症例は,
肝炎の発症後もHBV-DNA量が
十分低下せず肝炎が持続し,肝硬変への進行や肝細胞癌合併の危険性が「
高い」ため,積極的な治療が必要である。
(11頁)

本件ガイドライン
HBe抗原陽性慢性肝炎の治療対象は,
HBV-DNA量4.
0以上,
かつALT値31以上の症例である(レベル6,グレードB)
。なお,エ
ビデンスレベル6は
「専門家個人の意見
(専門家委員会報告を含む)を,

推奨グレードBは「行うよう勧められる」をそれぞれ意味する。
(目次末
尾,53頁)
HBe抗原陽性慢性肝炎のALT値上昇時には,線維化進展例でなく,劇症化の可能性がないと判断されれば,1年間程度治療を待機することも選択肢である。ただし,自然経過でHBe抗原陰性化が得られなければ,
肝炎による肝線維化の進展を阻止するために治療を行う
(レベル6,
グレードB)(53頁)

HBe抗原陽性慢性肝炎のALT値上昇時には,自然経
過でHBe抗原が陰性化する可能性が年率7ないし16%あること,他方,
②HBe抗原陽性とHBV-DNA高値は肝硬変への進展及び発がんの独立したリスクであり,年齢(40歳以上)も肝硬変や肝細胞がんへの進展リスクであることによる。
(11及び52頁)



HBe抗原セロコンバージョン(HBe抗原の陰性化)

A1意見書
HBe抗原セロコンバージョンは,ウイルスに係る「多彩な遺伝子変異」
(代表的なものは,プレコア領域及びコアプロモーター領域の変異)を伴うものであり,
「ウイルスの一部の遺伝子変異を反映する現象」
であ
る。
HBe抗原は,
「プレコア/コア遺伝子からメッセンジャーRNAへ
の転写・さらにアミノ酸への翻訳後,シグナルペプチターゼにより両端が切断され血中に分泌される蛋白」である。HBe抗原が陰性化するのは,“プレコア/コア遺伝子からメッセンジャーRNAへの転写”を抑「
制あるいは停止させる遺伝子変異」
が起きることによる。
「転写を抑制す
るのがコアプロモーター領域の変異」
であり,
「転写を停止させるのがプ
レコア領域の変異」である。
(5,11及び14頁)

B型肝炎はHBe抗原陽性から陰性に変わる際にALT値の上昇を伴う肝炎を多くの症例で起こす。その後ウイルスとALT値の変動を繰り返しながら次第に肝炎が鎮静化していく。このように,SCが起きると,HBV-DNA量,ALT値は次第に低下していくことが多い。もっとも,この理由やメカニズムは明らかではない。
(12及び14頁)

本件ガイドライン
HBe抗原陽性慢性肝炎については,HBe抗原の陰性化により「肝不全のリスクが減少し,生存期間が延長する」ことから,抗ウイルス治療においてまず目指すべき短期目標は,HBe抗原セロコンバージョンであり,最終的な長期目標はHBs抗原の陰性化である。
(53頁)


本件診療ガイド
免疫排除期において,HBe抗原からHBe抗体にセロコンバージョンするとウイルス量は低下し,肝炎が鎮静化する。このため,SCは「B型肝炎の経過の中で大きな意味を持つ現象」
であり,
「重要な治療目標の一つ」
とされている。
(6及び14頁)


A8教授作成に係る平成29年4月5日付け意見書
(乙B403-30。
以下「A8意見書」という。

HBe抗原の陰性化は,
「臨床的に大きな意味を持つ」
。HBe抗原陽
性例(SCによる陰性化が得られない症例)は,HBe抗原陰性例及びHBe抗体陽性例(HBe抗原陰性慢性肝炎も含む。
)に比較して,肝硬
変や肝がんに明らかに進展しやすいことが長期間の疫学的調査で明らかにされているからである。
(2頁)
このように,
「HBe抗原の陰性化は,臨床的に大きな意味を持つ」と
され,
「HBe抗原陰性化を目指した治療」が進められてきた。
(5頁)


HBe抗原セロコンバージョン(HBe抗原の陰性化)後の臨床経過ア
本件ガイドライン
HBV持続感染者のうち約9割は若年期にHBe抗原セロコンバージョンを起こす(


。そして,自然経過又は治療によりSCが起

こると,約8割の症例において非活動性キャリアとなる。もっとも,当初HBe抗原陰性の非活動性キャリアと診断された症例のうち,10ないし20%は長期経過中に肝炎が再燃するため,
「真の非活動性キャリア」
と慢
性肝炎の厳密な鑑別は困難である。
(1及び55頁)

2015年A9論文(別紙7(略語一覧)参照)
HBe抗原陽性慢性肝炎患者の中には,活動性肝炎が持続し,肝硬変に至る症例もある。しかし,
「大半の(majority)
」患者では,
最終的にHBe抗原の陰性化とともに非活動期に移行する。すなわち,SCが起こり,
HBV-DNA量が減少すると,
HBs抗原及び低値のH
BV-DNA量が持続するにもかかわらず,
疾患の活動性が消失する。原

文E45頁,原告訳文2頁,被告訳文1及び2頁)
は「肝炎期から非活動性キャリアへの移行を示
すもの」であり,通常は,HBVキャリアにとって「良性経過」であると考えられているが,自然経過で肝炎が「再活性化」する症例も時折見られる。
(原文E45及び46頁,原告訳文2頁,被告訳文2頁)


A1意見書
HBe抗原が陰性化するということは,“HBe抗原の産生を低下・「
停止させる遺伝子変異を伴うウイルスが増殖し,HBe抗原を産生する前者の「新しいウ
イルスの増殖力が強いと肝炎が持続するし,弱いと肝炎は鎮静化することになる。したがって,

セロコンバージョン後の経過は様々である。
(4
頁)
HBe抗原セロコンバージョン後の臨床経過は,SCに伴う遺伝子「変異の獲得された年齢」
,SC時点での「肝臓の破壊の程度」「獲得さ

れた変異の部位」等によって異なる。そして,自然経過及び治療によるSCのいずれの場合においても,SC後も肝炎は程度の差こそあれ持続しており,予後に関しても一括して取り扱うのは難しい。例えば,SC時点で既に数か月以上の肝炎期を経ており,肝線維化が進んでいる症例も多い(SC後に肝炎が持続する症例の一部には,高度の線維化を有する症例が含まれている。。
)(5,14及び15頁)
また,SCによりHBe抗原が陰性化するまでには,程度や持続期間は様々だが大きな肝炎を経ることがしばしばある。このように,SCによるHBe抗原陰性化前に,ALT値の大幅な上昇がみられた症例はHBe抗原の消失時点で肝臓の線維化がある程度進んでいる。
したがって,
肝炎が持続すると短期間に肝硬変まで進展する可能性がある。
(12頁)
また,IFN治療によるHBe抗原陰性化の症例は,肝炎の活動性が元々高い症例である。したがって,SC後も,ALT値の上昇を伴う肝炎が持続しやすいと考えられ,また,リバースSC(HBe抗原の再出現)により肝炎が再燃することもある。前者に関して,ウイルス量の変動が小さい場合はALT値の上昇はあっても軽度であるが,変動の大きい場合は,肝線維化が急速に進行する可能性がある。
(12頁)
A9論文における調査によれば,
SC後,
「ALT値の変動が見られる
症例が存在するものの,その多くは軽い上昇にとどまっており,ALTが大きく上昇する症例は10%前後であることがわかる。(11頁)」
なお,A1意見書24頁では,A9論文図2(被告訳文4頁)について「ALT平均値」を示すものとして引用されているが,同図は「積分ALT値」の分布を示したものである。


非活動性キャリア

本件ガイドライン
HBe抗原陰性の非活動性キャリアは,肝硬変や肝細胞がんへの進展リスクが低く長期予後が良好であり,
HBV-DNAが陰性化すると年率
1ないし3%でHBs抗原も陰性化する。しかし,当初HBe抗原陰性の非活動性キャリアと診断された症例のうち,10ないし20%は長期経過中に肝炎が再燃する(前記⑶ア参照)(55頁)。
したがって,非活動性キャリアと診断した後でも6ないし12か月ごとの経過観察が必要であり,経過中にALT値が上昇すれば治療適応となる(レベル2b,グレードB)
。なお,エビデンスレベル2bは,
「ラ
ンダム割付を伴わない過去のコントロールを伴うコホート研究」を意味する。
(目次末尾及び56頁)


本件診療ガイド
非活動性キャリアでは,HBVに対する宿主の免疫が優位になり,HBVの増殖は持続的に低下する。その結果,肝炎は鎮静化し,肝発癌率も低い(年0.2%で非活動性キャリアから肝細胞がんに進展する旨図示されている。
)ので予後は良いと考えられている。しかし,自然経過又
は宿主の免疫抑制によりB型肝炎の「再活性化」がみられることがあるので経過観察は必要である。
(11頁)
非活動性キャリアを経過した後,一部ではHBs抗原が陰性化し,寛解期(前提事実⑵
低いとされている。しかし,高齢者や肝硬変のHBs抗原消失例では肝発癌に対する注意が必要である。
(11頁)


A1意見書
「ALT正常」
の状態が持続すると
「非活動性キャリア」
と呼ばれる。
これは,十分な免疫応答が働き,ウイルスの増殖が抑え込まれ,ALT値が正常化した状態である。
「非活動性キャリア」「HBe抗原陰性・
とは
ALT正常」の状態を指すため,肝臓の線維化の程度は,軽い線維化を伴うだけの例から肝硬変まで,症例間で様々である(
「キャリア」とは,
「HBs抗原が持続陽性であり,ウイルスの増殖が体内で持続している状態を指す」)(5,12及び13頁)
。。

ウイルス増殖が抑え込まれた状態が長く続くと,HBs抗原も消失する場合があり,
「治癒期」とされる状態となる。もっとも,この状態でも
肝内では低レベルのウイルス増殖は続いており,免疫抑制療法が行われると,ウイルスが再増殖し,ALTの上昇を伴う肝炎が起きることがある(再活性化)
。したがって,上記「治癒」とはあくまで臨床的な定義で
あり,ウイルスが排除されることを指すものではない。
(13頁)
自然経過の説明であり,抗ウイルス療法を行った場
合は,症例ごとに更に複雑な経過をたどる。この場合も,自然経過の場合と同様であって,HBs抗原消失後も肝内ではウイルスの増殖が持続しており,ウイルスが排除されることはない。
(13頁)
なお,
「病期は必ずしも一方向に進むわけではない。
HBe抗原が消失
して“低増殖期”に入った症例の4-20%でHBe抗原が再出現(リバースセロコンバージョン)して“免疫応答期”に逆戻りする。これは“病態”も同様で,例えば肝硬変に移行した後であっても肝機能正常の状態が年余にわたって持続すれば慢性肝炎に戻ることがある」10頁)。

この点については,他の文献(甲B403-21)においても,基本的に免疫寛容期から始まり,免疫排除期(免疫応答期)
,免疫監視期(低
増殖期ないし寛解期)
と進行するが,
「病期が一時的に戻ることもしばし
ば経験される」とされている(54頁)



HBe抗原陰性慢性肝炎

本件ガイドライン
HBe抗原陰性慢性肝炎は,
「間欠的にALTとHBVDNAの上昇
を繰り返すことが多く,自然に寛解する可能性は低い」「HBe抗原陽。
性例と比較し高齢で線維化進展例が多いため,より進んだ病期」と認識すべきである(レベル4,グレードB)(55及び56頁)

HBe抗原陰性慢性肝炎における治療対象は,HBe抗原陽性慢性肝炎と同様,HBV-DNA量4.0以上,かつALT31以上の症例である(レベル2b,グレードB)(56頁)


本件診療ガイド(

ウ)

HBe抗原セロコンバージョン後,一部の症例では,ウイルス量が十分低下せず,
活動性の肝炎が続く。
このような症例は
「逆に予後が悪い」
ため,
「HBe抗原陰性の慢性肝炎として分類」されている。
(6頁)
-DN
A量が十分低下せず慢性肝炎が持続する場合や,一旦非活動性キャリアとなった後に肝炎の再活性化が起こる場合がある。
(10頁)
HBe抗原陰性慢性肝炎の特徴では,
HBV-DNA量が
「中等度の範
囲で変動し,間欠的に激しい肝炎を起こす傾向がある。また,この肝炎は,HBe抗原非産生変異株により惹起され,肝硬変や肝細胞癌へ進行しやすいことが報告されている。」(10頁)

A1意見書
SC後にALT値が正常化した症例であっても,
「遺伝子変異が起こ
り宿主の免疫でウイルス増殖を抑え込めなくなればウイルスの増殖,引き続いてALTの上昇がみられることになる」これがHBe抗原陰性慢。
性肝炎であり,
「新たなウイルスの感染によるものではない」(15頁)

HBe抗原陰性慢性肝炎は,
「高齢で線維化が進展している事例であ
ることが多いため,予後が不良なことが多い」といわれる(前提事実⑵
線維化が進んでいること,
また,
②HBe抗原陰性での慢性肝炎発症は,
陰性化により「慢性肝炎が治まる場合が多いが,治まっていない」ことを意味し,既にある程度の線維化が進展している状態で肝炎が持続することから,線維化が高度になることによる。
(7頁)
また,HBe抗原陰性慢性肝炎の肝硬変への移行率は,HBe抗原陽性慢性肝炎よりも高いとする報告がある。HBe抗原陽性慢性肝炎の90%の症例はSCを起こし,その20ないし30%がALT異常値を示し,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症するとされている。そうすると,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原陽性慢性肝炎全体の中の18ないし27%に相当することになるから,上記報告のとおり,陰性慢性肝炎の肝硬変への移行率が陽性慢性肝炎より高くなるのは「当然の帰結」となる。
(16頁)

A3意見書

参照)

本件ガイドラインにおいて,HBe抗原陰性慢性肝炎が「より進んだ
SC後の慢性肝炎であり,
「高齢」「HBe抗原陽性経過後」というリス

クを有することによる。すなわち,
「時間の経過と一連の病態の推移」が
考慮され,陰性慢性肝炎が「より進んだ病期」であるとされている。(1
頁)
肝臓は,
「HBVに持続感染した期間が長いほど,
すなわち幼児期から
長期間にわたる炎症反応等が長いほど,より肝癌や肝硬変の発症リスクが高くなることが明らかとなっている。高年齢であることは,それだけで肝癌や肝硬変の発症リスクが高いことを意味する。(3及び4頁)」
「HBe抗体陽性HBV持続感染者は,過去のHBe抗原陽性HBV持続感染の時期に肝線維化等の障害を肝臓に与えたことが累積され,その後,HBe抗体陽性HBV持続感染者となった後(HBe抗原陰性慢性肝炎を発症したものを含む)
に肝硬変肝癌を発症したとも考えられ」



『HBe抗原陽性であったこと』がリスクの一つになる」(4頁)。

A9論文
SCした後,
HBVの再活性化が生じた患者においては,
①HBV-D
NA量及びALT値の上昇並びに②HBe抗原の再出現のない疾患活動を特徴とする別の期に移行し,この病期はHBe抗原陰性B型慢性肝炎と呼ばれている。
(原文E46頁,原告訳文2頁,被告訳文2頁)
この病期においては,
「中等度のHBV-DNA量で,重度のB型肝炎
が生じることがある」HBe抗原陰性慢性肝炎は,

HBe抗原産生能を
欠くHBV変異株によって引き起こされ,HBe抗原陽性慢性肝炎と比べ,
「より高頻度に(morefrequently)
」肝硬変及び肝細
胞がん(HCC)に進展する傾向にあると考えられている。
(原文E46
頁,原告訳文2頁,被告訳文2頁)
通常,
HBe抗原陽性の活動性肝炎は,
SC
(HBe抗原陰性化)
後,
鎮静化するが(前記⑶イ参照)
,かなりの割合の患者において「数年後に
再発」する。そして,このHBe抗原陰性肝炎は,
「肝硬変への進行や肝
細胞がん(HCC)の発症と密接に関連する大きな健康問題」であるから,
「非活動性キャリア期」を維持している患者のうち,SC後にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症する可能性のある患者を特定することが重要である。
(原文E46及び50頁,
原告訳文2頁,
被告訳文2,
6及び7頁)
なお,被告は,原告ら主張に係る慢性肝炎の「再発」は,医学的には「再燃」というべきである旨主張するが,上記のとおり,SC後に活動性肝炎が「再発」する旨説明されていること,また,A2論文では,SCが起こらないHBe抗原陽性持続の症例について,急性増悪が「再発(occuragain)
」する旨記述されていること(乙B403-
27原文495頁,訳文7頁)に照らし,
「再発」という記述が直ちに医
学的に誤りであるとはいえないと考えられる。


核酸アナログ製剤治療(エンテカビル投与)

A1意見書
現在,HBe抗原陽性慢性肝炎及び陰性慢性肝炎に対する治療の主体は,核酸アナログ投与である。核酸アナログ投与により,
「線維化の進展
は止まり,肝硬変への新たな移行はなくなる」ことから,
「肝硬変に至っ
ていない症例であれば肝線維化が退縮していることも示されている」ものの,
「肝細胞癌への移行は,
核酸アナログの投与で大きく減少するがゼ
ロにはできない。(16頁)

「B型慢性肝疾患に罹患した方の肝臓からウイルスを排除することは今のところできず,肝炎・肝硬変・肝細胞癌のリスクをすべての人が多寡こそあれ持ち合わせている。リスクの正確な評価はまだできないが,高リスクの人を選び出すことは少しずつ可能になっている。(18頁)」



A8意見書
最近,治療薬の進歩により,副作用が少なく,経口投与で済む各種新規薬剤(核酸アナログ製剤)が使われるようになった。しかし,これらの経口薬剤は「肝硬変への肝がんへの進展を統計的に有意に抑制するが,HBVの増殖を抑えるだけであり,HBVを感染者の体内から排除できるには至っていない。(5頁)




B型慢性肝炎に関する医学的解明度

A1意見書
B型慢性肝炎は,
「ウイルス要因(ウイルス遺伝子・ウイルスの産生する
様々な蛋白(HBe抗原はその一つにすぎない),宿主要因(年齢・性・)
並存疾患・ウイルスに対する免疫応答に関する遺伝子・線維化や腫瘍の合併を規定する遺伝子など数多い)が複雑に予後に影響を及ぼす疾患である。現在解明されていることはその一部に過ぎない」(17頁)



A8意見書
平均寿命の長寿化や高齢化により,長期間の経過が観察されるようになると,HBe抗原陰性の状態でも,HBVが増殖し,肝炎を再燃することがあることが次第に判明してきた。
(5頁)
しかし,HBe抗原が陰性化した後,どのような場合に肝炎が再燃するかについては,宿主要因,環境要因及びウイルス側要因に関する議論はあるものの,
「詳細は未解明(研究段階)
」である。
(2及び3頁)
2
認定事実(原告30に関するもの)
前提事実並びに証拠(各項に掲記するもの。ただし,以下の認定に反する部分は採用しない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実(以下「認定事実30」という。)を認めることができる。


HBe抗原陽性慢性肝炎の発症及びIFN治療

HBe抗原陽性慢性肝炎の発症
原告30は,大学卒業後,昭和58年からIで勤務し,昭和62年10月頃(29歳)
,J課でKとして稼働中,昼食時に突然座った状態から立て
なくなり,そのまま病院に搬送され,検査の結果,B型肝炎の告知を受けて通院治療を受けるようになった。
(甲B30-101,原告30本人)


B病院におけるIFN治療
原告30は,昭和62年12月9日(29歳)
,B病院に入院し,
「B型
慢性活動性肝炎」との確定診断を受け,IFN治療を受けて,昭和63年3月14日,軽快となり退院した。同入院中の経過等について,B病院の診療録(甲B30-14)には,次のとおり記載されていた。
(甲B30-
101,原告30本人)
入院時,AST(GOT)値66,AST(GPT)値125と,「そ
れほど高くはなかったが」
,肝生検では「活動性(active)
」の所
見であり,DNAポリメラーゼ陽性であったことから,IFNα製剤の連続投与を施行した。
IFN施行開始時より3日間,39度前後の「発熱(fever)」が
出現した。解熱後も,インターフェロン投与中は「疲労感(fatigue)
」が持続していた。この間,DNAポリメラーゼ陰性,HBe抗原の陰性化,
HBe抗体値上昇が認められ,
「セロコンバージョンが期待さ
れた」
。肝機能についても,AST値47,ALT値69等と著明に低下したため,SCは外来での対応に委ね,退院とした。


退院後の状況

自宅療養及び復職
原告30は,昭和63年3月(29歳)
,退院後,自宅療養を経て,同年
4月半ば頃,復職した。原告30は,入院前は午前9時から午後8時頃まで勤務することもあったが,退院後は午後5時頃までに終業できるよう配慮してもらうようになった。
(甲B30-101,原告30本人)


検査状況-ALT値の推移等
原告30は,
退院後も約2年間は毎月,
B病院で通院検査を受けており,
退院後約1年の間に,ALT値が2度600超となり,1度300超を示したことがあったものの,退院後2年目からは,ALT値は落ち着き,退院2年後の平成2年3月頃
(31歳)近医での通院検査でよいと言われた

ことから,Cクリニックで通院検査を受けるようになった。原告30は,最初の約10年間
(平成12年頃まで)
は頻繁に検査を受けていたものの,
同年頃(41ないし42歳)までにALT値等が正常値内になったことから,その後は半年に1回,1年に1回となり,平成19年末頃(49歳),
再度肝炎を発症する前には,
2ないし3年に1回の頻度となっていた。
(甲
B30-11,101,原告30本人)
なお,原告30は,平成15年11月5日(45歳)
,D病院において健
康診断を受けたところ,AST値26(基準範囲:12~33)
,ALT値
39(基準範囲:6~30)
,HBs抗原陽性であり,
「日常生活に注意を
要し,経過観察を必要とします。
」との指導を受けた。
(甲B30-10)

生活状況及び稼働状況
原告30は,平成12年頃までにALT値等が正常値内となった後,平成19年末頃までの間は,
体調は普通に戻っており,
勤務状況についても,
J課等の繁忙部署に配属されていた間は,午後9時頃まで残業したり,休日出勤したりするようになっていた。もっとも,肝炎専門医から,「高カロ
リー,高ビタミンの食事を取って,運動はしてはいけない。酒は飲んではいけない。との指導を受けており,

付き合い程度の飲酒をすることはあっ
たものの,おおむね上記指導に従っていた。この間,原告30は,平成7年3月(36歳)
,結婚し,平成10年には職員旅行にも参加し,配偶者と
ドライブを楽しむなどしていた。
(甲B30-1,11,24,101,原
告30本人)


脳内出血及び抑うつの出現
原告30は,
平成17年9月
(47歳)脳内出血のためG病院に入院し,

1か月間の集中治療室での治療後,2か月間リハビリのため入院していた。同入院以降,原告30には,抑うつが出現し,平成19年6月(49歳)以降,Lクリニックを受診し,通院治療を受けたこともあった。また,原告30は,退院後,復職していたところ,同年秋頃から,倦怠感によって思うように仕事ができなくなり,同僚の一人から詰られるようになって,職場でのストレスが大きくなり,倦怠感の継続も相まってうつ状態が悪化していた。
(甲B30-11(10,12,23,30枚目)
,101,原
告30本人)



HBe抗原陰性慢性肝炎の発症

HBe抗原陰性慢性肝炎の発症及びD病院での入院治療
入院治療を受け退院した後,復職し稼働中,平
成19年12月
(49歳)全身倦怠感からCクリニックを受診したところ,

ALT値が300超(同月18日に326,同月21日に315)となっており,C医師の紹介で,平成20年1月4日から同月12日までの間,D病院において入院治療を受けた。原告30は,同入院中,エンテカビル服用を勧められたものの,
高価な薬であって,
肝炎の発症を抑えるのみで,
一生涯服用を継続しなければならない旨言われたことなどから,服用を躊躇し,肝数値が下がった段階で,一旦退院した。
(甲B30-11(19枚
目)
,12,20,101,原告30本人)

上記アの入院中の状況について,D病院医師作成に係る診療情報提供書(退院時要約)
(甲B30-12)には,次のとおり記載されていた。
傷病名

B型慢性肝炎の急性増悪(以下,略)

症状経過及び検査結果・治療経過
入院時,全身倦怠感を認めていた。血液検査ではAST値72,ALT値155であって,ピークは過ぎていた。後日,血液検査にて,HBe抗原陰性,HBe抗体陽性であって,
「セロコンバージョン後であり,
HBV-DNA5.6LGE/mlにて変異株の存在が考えられた」。抗
ウイルス薬(バラクルード)の適応であり,
「メリット(肝機能の改善,
ウイルス低下)デメリット
(経済面,
耐性ウイルスの存在,
生涯内服)

を説明したが,検討するとのことで服用を開始しなかった。

E病院での入院治療-核酸アナログ製剤治療(エンテカビル投与)原告30は,平成20年4月上旬(49歳)
,全身倦怠感があり,同月1
0日,Cクリニックで検査を受けたところ,AST値91,ALT値171に上昇していた。そこで,同月11日,E病院を受診したところ,AST値107,ALT値194と更に上昇していたことから,同月14日から同月26日まで,同病院内科において入院治療を受けた。同入院中,原告30には,希死念慮も認められ,同月25日,同病院精神科を受診し,適応障害との診断を受けた。
(甲B30-11(12,16,21,23な
いし26枚目)
,原告30本人)

上記ウの入院までの既往歴等について,C医師作成に係る平成20年4月10日付け診療情報提供書(甲B30-11・12枚目)には,次のとおり記載されていた。
昭和62年12月

B病院においてIFN治療で抗体ができたと言

われたが,
「その後,数度GOT,GPTが300~600ぐらいになっ
たとのことです」

平成17年
同年9月

腸閉塞でM病院入院
脳内出血でG病院入院

平成20年1月「GOT,GPT300以上になりD病院入院」
。H
Be抗原陰性,
HBe抗体陽性,
「HBV-DNA5.
6LGE/mlで,
変異株の存在を指摘され」バラクルード服薬を勧められたが,

服薬しな
かった。
同年4月10日の「数日前から全身倦怠があり,本日血液検査でAST91,ALT171」であった。本人がE病院での受診を希望。オ
上記ウの入院中の状況について,同病院医師作成に係る平成20年5月17日付け病歴要約(甲B30-11(28及び29枚目)
)には,次のと
おり記載されていた。
診断(主病名及び合併症)
B型慢性肝炎,2型糖尿病,左第二趾痛,適応障害
主訴

全身倦怠感

現病歴
昭和63年にHBs抗原陽性を指摘され,
B病院でIFN治療施行後,
HBe抗体陽性となった。
「以後,慢性的に肝機能障害は持続し」
,平成
20年1月にはALT異常高値
(300以上)
のためD病院へ入院した。
HBe抗原陰性,HBe抗体陽性,HBV-DNA量5.6で「変異株の存在を指摘され,
エンテカビル内服を勧められたが服薬しなかった。同

年「4月上旬より全身倦怠感を認め,Cクリニックを受診。
」AST値9
1,ALT値171と「軽度肝障害」を認め,E病院を紹介受診後,同月14日に精査加療目的で入院となった。
検査所見
生化学:AST値107,ALT値194
感染症:HBs抗原陽性,HBe抗体陽性,HBV-DNA量6.9肝生検:慢性活動性肝炎。門脈域に中等度のリンパ球浸潤と軽度のインターフェイス肝炎及び肝小葉炎が認められ,また,脂肪沈
着が軽度に認められる。門脈域には炎症に伴う線維化が見ら
れる。悪性所見は認めない。
入院後経過及び考察
(2型糖尿病,
左第二趾痛及び高血圧は略する。

a
B型慢性肝炎
HBe抗体陽性にもかかわらず,
HBV-DNA量が多く,
B型慢性
肝炎の急性増悪と診断。肝不全への進行の可能性は低いと思われた。4月15日の肝生検結果は慢性活動性肝炎の所見であった。肝炎の活動性が高いため,同月18日より,エンテカビルの内服を開始した。今後は外来で肝機能及びウイルス量の経過観察の予定。

b
適応障害
入院時より全身倦怠感が持続し,B型慢性肝炎によるものや精神的なものが原因と考えられた。4月25日に精神科を受診したところ,仕事のストレスが大きく,今後は産業医や職場の上司に相談することが望ましいとのこと。退院後,近医心療内科を受診するよう勧めた。


退院後の状況

原告30は,
平成20年4月26日
(49歳)退院後,

E病院に通院し,
エンテカビル服用を続けている。また,原告30は,体調が回復し,退院後,復職したものの,精神的には厳しい状況が続き,平成26年,早期退職した。原告30としては,経済的に苦しく,預貯金がなくなれば,バラクルード(エンテカビル)の処方を受けられなくなり,
「もう肝硬変,肝が
んへのルートを一直線に行くしかないのか」ということを最も心配しており,また,医師から,エンテカビルは「絶対に効き続けられるものでもない」と言われており(原告30本人調書22及び32頁)
,将来薬効がなく
なる危険性もあることなどについても不安を抱いている。甲B30-10(
1,原告30本人)

退院後の症状経過等について,E

報提供書(甲B30-11(33,36及び37枚目)
)には,次のとおり
記載されていた。
平成20年6月18日付け
4月18日からのエンテカビルの投与開始によって,AST値,ALT値は速やかに低下し,
正常値が持続し,
HBV-DNA量も検出感度以
下となった。経過は良好と考えられる。エンテカビルは中止により肝炎の急性増悪を起こす可能性があるため,
自己中止しないように説明した。
エンテカビルはラミブジンに比べてはるかに耐性ウイルス出現頻度が低いが,まれに耐性ウイルス出現の報告があるので,1ないし2か月ごとにHBV-DNA測定を行うとよい。治療中にうつ状態が増悪したので,通院歴のあるLクリニックに加療を依頼した。
平成20年10月7日付け及び平成21年1月27日付け
エンテカビルの効果によりAST値,
ALT値ともに正常化しており,
経過は良好と考えられる。
3
認定事実(原告403に関するもの)
前提事実並びに証拠(各項に掲記するもの。ただし,以下の認定に反する部分は採用しない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実(以下「認定事実403」という。)を認めることができる。


HBe抗原陽性慢性肝炎の発症

原告403は,大学(N科)卒業後,O県P市内の会社に就職し,Q等の配達,販売等に従事し,昭和53年4月(25歳)
,結婚して二子をもう
け,この間,昭和57年頃(30歳)には,会社を辞めて独立し,Q等の配達,販売事業を立ち上げた。原告403は,同年頃(31歳)までに,近医での血液検査でB型肝炎のキャリアであるとの指摘を受けたことがあったものの,肝炎の症状はなく,夫婦二人三脚で早朝から夜遅くまで懸命に働き,売り上げを伸ばすなどしていた。
(甲B403-5,7,12,1
6(1枚目)
,17(1枚目)
,101,102,原告403本人)


HBe抗原陽性慢性肝炎の発症及びIFN治療(1度目)
原告403は,平成3年1月5日(38歳)
,倦怠感や胃部不快感から
G病院を受診したところ,慢性肝炎の診断を受け,同月20日から同年3月6日まで,同病院に入院した。原告403は,同年1月22日,AST(GOT)値290,ALT(GPT)値544,DNAポリメラーゼ671であって,
「慢性活動性肝炎,HBe抗原陽性」の確定診断を
受けた。医師から,放置すると10年ないし20年後には必ず肝硬変になる旨言われてショックを受け,30%の確率で効くとして,IFN治療を勧められた。
(甲B403-8,14,101,原告403本人)
当時,事業も順調に推移しており,原告403としては,仕事を休み入院治療を受けることに躊躇したものの,幼子二人を遺して死ぬわけにはいかないと考え,IFNβ製剤の連続投与を受けた。治療開始後,偏頭痛や嘔吐,軽度の脱毛等の副作用が発生し,軽度改善が認められたものの,同年7月より,ALT値が300前後に上昇するなど,上記治療は奏効しなかった。なお,平成3年9月,HBe抗原値が低下し,セロコンバージョンの可能性が認められたものの,HBe抗原が陰性化することはなかった。
(甲B403-8,14,17,18,101,原告4
03本人)


IFN治療(2度目ないし4度目)

2度目のIFN治療(α製剤の連続投与)
その後,原告403は,平成4年4月16日から同年5月30日まで(39歳)Hクリニックに入院し,

IFNα製剤の連続投与を受けたも
のの,
偏頭痛や倦怠感などの副作用に苦しんだのみで,
奏効しなかった。
そして,上記入院期間中は仕事ができず,顧客離れや収入減から,退院後,やむを得ず廃業し,妻が介護士の資格を取得し,働きに出て家計を支えるようになった。
(甲B403-16(1枚目)
,17(1枚目)
,1
01,原告403本人)
この間,同年5月12日には,HBe抗原陰性,HBe抗体陽性,DNAポリメラーゼ4(基準値未満)となり,セロコンバージョンが認められたものの,同年6月16日には,再びHBe抗原陽性,HBe抗体陽性となり,DNAポリメラーゼ380となり,同年10月6日に,HBe抗原陽性,HBe抗体(±)
,DNAポリメラーゼ669,同年11
月20日にHBe抗原陽性,HBe抗体陰性,DNAポリメラーゼ215となった。
(甲B403-16ないし18)


3度目及び4度目のIFN治療
さらに,原告403は,平成5年1月7日から同年2月6日まで(40歳)
,Hクリニックにおいて,IFNα製剤の連続投与を受けた。原告403は,同日,HBe抗原陽性,HBe抗体陽性,DNAポリメラーゼ2(平常値)となったものの,同年3月8日にHBe抗原陽性,HBe抗体陰性,DNAポリメラーゼ393となり,それ以降,HBe抗原陽性慢性肝炎の状態が継続していた。
(甲B403-16ないし18)
また,
原告403は,
平成6年3月29日から同年4月27日まで
(4
1歳)
,長期投与目的でG病院に入院し,同月30日より,IFNβ製剤の連続投与を受け,引き続き同年9月13日まで隔日投与を受けた。しかし,その後も,ALT値は59ないし408の間で変動を繰り返し,HBe抗原陽性,HBe抗体陰性又は「±」
(ただし,平成10年1月6
日はHBe抗原陰性,HBe抗体陽性。,HBV-DNA量も,平成6年)
3月9日から平成7年8月29日までの間,一時的に(平成6年4月20日から同年6月22日まで及び平成7年5月30日など)低値を示したことがあったものの,
中又は高ウイルス量であった。
(甲B403-1
5ないし18)


HBe抗原の陰性化等

退院後の状況
原告403は,廃業後,前記⑵イの各入院治療を受けたほか,通院しながら自宅療養を続けていた。この間,原告403は,仕事も楽しみもなくなり,身体が思い通りにならない悔しさ,情けなさ,無為な生活が続く無念さ,虚しさなどから,
「もう何やっても駄目や」と悲観的な後ろ向きの言
葉ばかり発し,いつも苛々しており,物や家族に当たることもあった。また,
IFN治療の失敗後も近医で度々
「強ミノ」
を打ち,
食事療法を続け,

いた。さらに,平成10年頃からは,身体を動かした方が良いかもしれないと考え,月に1ないし2回,親類の営むN業の手伝いを始めるようになった。
(甲B403-8,16,17,101,原告403本人)

HBe抗原の陰性化並びにその後の生活状況及び稼働状況
そうしたところ,
原告403は,
平成12年6月
(47歳)医師から,

肝機能数値が正常値に戻ったとの説明を受け,その後も正常値内を推移するようになり,約9年半ぶりに数字がよくなった喜びで,晴れ晴れとした気持となり,嬉しさの余り,検査データを神棚に飾って拝んだりするほどであって,
苛々することや家族に迷惑をかけることもなくなった。
また,食事療法も止め,N業の手伝いも週3回くらい行うようになり,平成14年(49ないし50歳)には,中古車業を始めるという起業意欲を持てるほど前向きな気持ちになっていた。なお,原告403は,医師から,「完治じゃない」,「一応抑え,治っているけど,・・・またこうぶり返すこともあるよ」との説明を受け,定期的に検査を受けていた。(甲B403-101,原告403本人)
この間,原告403は,平成10年7月6日(45歳)
,HBe抗原陰
性となった後,
同年12月12日,
一旦HBe抗原陽性となったものの,
平成11年8月5日(46歳)にHBe抗原陰性,HBe抗体陽性となって,その後もHBe抗原陰性,HBe抗体陽性の状態が続いている。(甲B403-18)
そして,ALT値は,平成11年8月5日に21となり,同年12月18日に83,平成12年4月7日(47歳)には259の異常高値を示したものの,同年6月28日には31(基準値:男性10~39(前)に低下して持続正常となり,AST値も,同日以降,持
続正常となって,平成15年1月14日(50歳)においても同様であって,平成16年3月30日(51歳)まで,医療記録上,ALT及びASTが異常値を示したことはなかった(別紙5参照)。もっとも,HBV-DNA量は,平成12年7月3日,3.7未満(検出感度未満)であったものの,
平成13年9月5日から平成15年1月17日
(50歳)
まで,4.4ないし5.0(中ウイルス量)であった。(甲B403-18)


HBe抗原陰性慢性肝炎の発症
HBe抗原陰性慢性肝炎の発症
ところが,原告403は,平成16年3月30日(51歳),ALT値が195となり,平成17年12月2日(53歳)には28(正常値内)となったものの,平成18年6月23日には56の異常値となり,平成19年1月23日(54歳)には329の異常高値となった。そして,同年12月25日に37,平成21年11月11日には33と基準値内で推移したものの,平成22年12月20日(58歳)に再び302の異常高値となって,AST値も同様に異常値を示すようになった。
また,
HBV-DNA量は,
平成16年3月30日から平成19年1月2
3日まで,4.2ないし6.8(中ウイルス量)であり,その後,平成21年11月11日(57歳)には3.7となったものの,平成22年12月20日,6.8となっていた。(甲B403-1,18)

核酸アナログ製剤治療(エンテカビル投与)の開始
原告403は,平成16年3月(51歳),Hクリニックにおいて,肝機能数値の上昇を知らされ,数値を抑えておかないと肝硬変や肝がんに移行する旨言われ,「また振り出しか」,「治ってたと思っていただけに,もうほんとまた再度こうもう谷に突き落とされる」というか「何かもう駄目かな」と思った(原告403本人調書20頁)。そして,医師から,ウイルス量の多さから抗ウイルス薬の服用を勧められたものの,一生涯飲まなければならないと言われた上に,医療不信の気持ちもあって,服用を断った。
そして,
再び倦怠感のある日が続いたことから,
食事療法を再開し,
N業の手伝いも週1回程度に減らすなどした。原告403は,その後もエンテカビルの服用を勧められるたびに断っていたが,平成23年9月(58歳),大学病院の医師から,「あなたの年になったらもういつ肝臓がんになってもおかしくない」と言われ,服用を始めることとした。エンテカビルの服用開始後は,ALT値等は下がり,体調も良くなるなど経過は良好である(ALT値は,同年11月2日(59歳)以降,正常値内を推移しており,また,HBV-DNA量についても,同年10月5日以降,低値で推移している。)。しかしながら,原告403としては,過去IFN治療が奏功しなかったこと,一旦治ったと思っていたところ,肝炎が再発したことなどから,再発の不安があり,また,「私なんかもうこんな肝炎であんまり長生きはできないだろう」,人生を振り返って「非常に残念だった」という虚無感,厭世観をも抱いている(原告403本人調書23及び24頁)。(甲B403-18,101,原告403本人)
4
HBV感染との間の因果関係の有無)について


原告30について

原告30はHBV持続感染者であるところ,出生後,満1歳となるまでの間に集団予防接種等を受け,
その際にHBVに感染した可能性が高い
(前

水平感染など,原告30のHBV感染の原因となり得る事情は認め難い。イ
上記アによれば,原告30は,集団予防接種等によってHBVに持続感染したものと認められる。



原告403について

原告403はHBV持続感染者であり,0歳からほぼ6歳頃までにHB

ところで,原告403は,出生後,昭和●●年●●月●●日(7歳)になるまでの間に,本件小学校において,ツベルクリン反応検査並びにBCG及び種痘の集団予防接種を受けていた(前提事実⑸ア)。そして,当時の
予防接種法及び結核予防法においては,種痘は,第1期を1歳以下,第2期を小学校入学前,
第3期を小学校卒業前として定期接種すること,
また,
ツベルクリン反応検査は,生後6月以内に行い,陰性又は疑陽性の者に対しBCGを接種することと定められていたところ,(甲B403-3)証拠
及び弁論の全趣旨によれば,
当時,
予防接種の実施主体
(市町村長等)
は,
住民登録等を基にして予防接種対象者を把握し,予防接種実施日時の一定期間前に接種対象者に通知し,公民館,小学校又は保健所など指定した実施場所に集合させて,集団で予防接種を実施していたこと,原告403の母親は,
「保健所からの指導・告知」によって,同原告に集団予防接種等を受けさせたことが認められ,
これらの事実によれば,
原告403の母親は,
上記各定めに従って,保健所の指導・告知により,本件小学校において,同原告に集団予防接種等を受けさせたものと認められる。
なお,被告は,原告403が集団予防接種等を受けたのは,本件小学校入学後であり,6歳6か月以上であった可能性が高い旨主張するが,上記検討結果に照らして,採用し難いというべきである。

上記イの検討結果に加えて,原告403の父親(平成4年9月24日死亡
(甲B403-12)についてHBV感染に係る資料が残存しておらず,)
父親の感染歴は不明であるものの,原告403のHBV感染が父子感染によることをうかがわせる具体的な事情は認められないことに照らせば,父子感染の可能性は低いというべきである。


上記アないしウによれば,原告403は,集団予防接種等によってHBVに感染したものと認めるのが相当である。

5
争点⑵ア(除斥期間の起算点-B型慢性肝炎の特質等から,除斥期間の起算点は原告らがHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した時であると解すべきか)について


原告らのB型慢性肝炎の発症及び再燃(再発)に至る経緯等

前記4の検討結果に加えて,
原告らのB型慢性肝炎発症に至る経緯等
(前
提事実⑷及び⑸,認定事実30及び同403)によれば,原告らはいずれも乳幼児期に集団予防接種等によってHBVに感染して持続感染者となり,成人に達した後,免疫応答期においてHBe抗原陽性慢性肝炎を発症したものであるところ,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症後の経過(病態の進行及びその態様等)は,次のイ及びウのとおりであると認められる。イ
原告30について
原告30は,昭和62年12月(29歳)でHBe抗原陽性慢性肝炎を発症し,B病院に入院した。入院時のALT値は125であり,それほど高くなく,同年3月までのIFN治療によってHBe抗原の陰性化等が認められ,セロコンバージョンが期待できる状態となって退院した(



そして,退院後の状況(認定事実30⑵アないしウ)によれば,原告
30は,平成2年3月頃(31歳)までにSCによるHBe抗原の陰性化が得られ,平成12年頃(41ないし42歳)からは,ALT値等が持続正常となって,HBe抗原陰性の非活動性キャリア(医学的知見⑷となっていたものと認められる。上記に関し,退院後約1年(昭
和63年3月から平成元年3月)の間におけるALT値の上昇(600超2度,300超1度(

)は,SCによる

HBe抗原の陰性化に伴うもの(医学的知見⑵
付言するに,E病院医師作成に係る病歴要約には,原告30がIFN治療後,
HBe抗体陽性となって
「以後,
慢性的に肝機能障害は持続し」
たとの記載がある(認定事実30⑶オ


。そこで検討するに,上記

IFN治療後,平成2年3月頃からは,C医師が原告30の検査を行ってきたところ(同⑵イ)
,同医師作成に係る診療情報提供書においては,
B病院での検査期間中(昭和63年3月から平成2年3月頃まで)にALT値が300ないし600程度になったとのことである旨記載されているにとどまり,その後,Cクリニックでの検査中(平成2年3月頃から平成19年12月頃)に,ALT異常値や肝機能障害があったとの記載は全くない(同⑶エ)
。なお,平成15年11月の健康診断でのALT
値も基準範囲を超えていたものの39と低値であり,AST値は正常値内であって,経過観察の指導を受けたにとどまること(同⑵イ)から,上記健診結果をもって肝機能障害があったとは認められず,そのほか上記期間において肝機能障害があったことを裏付ける診療記録等は存しない。そして,上記診療情報提供書の記載内容(同⑶エ)に加えて,原告30の退院後の生活状況及び稼働状況(同⑵ウ)などに照らせば,肝機能障害が持続していた旨の上記病歴要約の記載は採用し難く,上記のとおり,原告30は平成12年頃以降,非活動性キャリアとなっていたものと認められる。
ところが,原告30は,平成19年12月(49歳)
,全身倦怠感を覚
え,同月18日にはALT値が300超となっていたこと(認定事実30⑶ア)から,同日頃,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症したものと認められる。そして,①

原告30のHBe抗原陽性慢性肝

炎の発症時(29歳)のALT値は125であって,それほど高くなかったこと

,②自然経過ではなく,IFN治療によってHBe
抗原の陰性化が得られたものであること

,③上記H

Be抗原陰性慢性肝炎の発症時(49歳8か月)には線維化も認められたこと(同

④年齢(40歳以上)や「HBe抗原陽性経過後」,同⑸

エ)我が国における


A1意見書6頁)

ところ,原告30は上記発症時に49歳8か月であったことなどに照らせば,原告30が発症したHBe抗原陰性慢性肝炎は,先に発症したHBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,
より重篤であって,より進んだ病期」

にあることが明らかであるというべきである。

原告403について
原告403は,平成3年1月(38歳)でHBe抗原陽性慢性肝炎を発症し,G病院入院時のALT値は544の異常高値であり,平成6年9月(41歳)までの間に,4度にわたりIFN治療を受けたものの,SCによる持続的なHBe抗原の陰性化を得ることはできなかった(認定事実403⑴イ,同⑵ア及びイ)。
そして,退院後の状況(認定事実403⑶ア及びイ)によれば,原告403において,平成10年7月6日(45歳)から平成11年8月5日(46歳)までの間頃に,セロコンバージョンが生じ,持続的にHBe抗原の陰性化を得ることができたものと認められる。また,退院後のALT値及びAST値の推移
くとも平成12年6月28日(47歳)には,非活動性キャリアとなっていたものと認められる。なお,HBV-DNA量は,平成13年9月5日から平成15年1月17日まで,中ウイルス量であったものの,5.0以下であり,上記期間においてALT値等は持続正常であったことから,この間,原告403は,臨床的に慢性肝炎(前提事実⑴オ)の病態ではなかったものであり,肝炎は鎮静化していたものといえる。
ところが,原告403は,平成16年3月30日(51歳)
,ALT値
が195となり,平成19年1月23日(54歳)には329の異常高値となるなど,平成16年3月30日以降,ALT値が上昇及び大きな変動を始めた。
そして,
同日以降のALT値等やHBV-DNA量の推移
(認定事実403⑷ア)によれば,原告403は,同日又は遅くとも平成19年1月23日には,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症したものと認められる。そして,①上記のとおり,ALT値が300超の異常高値を示し,大きな変動を始めたことから,炎症の程度も重いものと考えられること,②

先行するHBe抗原陽性慢性肝炎の

り患期間は平成3年1月から平成11年8月までの8年以上に及ぶものであり,しかも,この間4度にわたるIFN治療も奏効せず,SCによるHBe抗原の陰性化を得るまでに,同治療後更に約5年の経過を要しており,原告403においては,SCまでに肝線維化が相当程度進行していたものと推認されること
(医学的知見⑶ウ

及び

)③


のとおりであるところ,原告403はHBe抗原陰性慢性肝炎の発症時には51歳を超えていたことなどに照らせば,原告403が発症したHBe抗原陰性慢性肝炎は,先に発症したHBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,より重篤であって,
「より進んだ病期」にあることが明らかである
というべきである。

なお,被告は,原告らの慢性肝炎再燃後のALT値は,SC前より高いとはいい難いこと,近年,治療水準が進歩・改善していることなどを根拠として,原告らの上記再燃後の病態は,最初の陽性慢性肝炎発症時よりも重篤であるとはいえない旨主張するが,上記イ及びウの各
照らして採用し難い。付言するに,近年,治療水準は進歩・改善しているものの,エンテカビルについても「長期投与に伴う薬剤耐性変異株の出現の可能性や長期投与における安全性が確認されていない」
とされており
(前
また,そもそもHBVの増殖を抑えるだけであり,HBV
を感染者の体内から排除できるに至っておらず,原告らは,HBe抗原陽性慢性肝炎例と比較し,高齢でかつ線維化進展例として,肝硬変及び肝細胞がんへの移行リスクを持ち合わせているといえる(医学的知見⑸ア⑹)




除斥期間の起算点

民法724条後段所定の除斥期間の起算点は,
「不法行為の時」
と規定さ
れており,加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には,加害行為の時がその起算点となると考えられる。しかし,身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害されることによる損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきである。このような場合に損害の発生を待たずに除斥期間が進行することを認めることは,被害者にとって著しく酷であるだけでなく,加害者としても,自己の行為により生じ得る損害の性質からみて,相当の期間が経過した後に損害が発生し,被害者から損害賠償の請求を受けることがあることを予期すべきであると考えられるからである・第1196号・同
・第1174号同16年10月15日第二小法廷判決・
民集58巻7号1802頁参照)


そして,HBV持続感染者の自然経過(前提事実⑵)及び原告らのB型慢性肝炎発症及び再燃に至る経緯等(前記

)に照らせば,B型慢性肝炎

を発症したことによる損害は,その損害の性質上,加害行為(集団予防接種等)が終了してから相当期間が経過した後に発生するものと認められるから,除斥期間の起算点は,加害行為の時ではなく,損害の発生の時であるというべきである(平成18年判決参照)



B型慢性肝炎の特質及び実態(病態の進行やその態様等)

ところで,原告らのように乳幼児期にHBVに感染し,持続感染者となった場合,無症候性キャリアの期間が数年から20年以上継続した後,成人に達すると,
免疫応答期に入ってHBe抗原陽性慢性肝炎を発症する
(前
提事実⑵イ,医学的知見⑴ア)



しかしながら,別紙2(HBV持続感染者の自然経過)のとおり,HBV持続感染者の免疫応答(HBe抗原陽性,HBV-DNA高値,ALT上昇)

合には,HBe抗原陰性化(SC)を治療目標として抗ウイルス治療を行うこととなり,①治療によってSCが起こる場合と②起こらない場合が生ずる(医学的知見⑴ア及びイ,同⑶イ及びウ)。

そして,自然経過又は治療介入によりSCが起こる場合(上記イの
場合と,⒝肝炎が鎮静化しない場合,又は当初非活動性キャリアと診断された後,肝炎が再燃(再発)する場合があり(HBe抗原陰性慢性肝炎),
その後,HBe抗原の再出現(リバースSC)を認める場合もある(前提イ,同⑸オ
まず,上記⒜(真の非活動性キャリア)の場合には,肝硬変や肝細胞がんへの進展リスクが低く長期予後が良好であって,HBVの増殖が持続的に低下して肝炎が鎮静化し,
また,
HBV-DNAが陰性化すると年率1な
いし3%でHBs抗原も陰性化して,
「肝不全のリスクが減少し,
生存期間
が延長する」こととなる(前提事実⑵イ

,医学的知見⑵イ及びウ,同⑶

イ,同⑷ア)

また,上記⒝(HBe抗原陰性慢性肝炎)の場合には,中等度のHBV-DNA量で,
重度の肝炎を生ずることがあり,
自然に寛解する可能性は低
く,
「HBe抗原陽性例と比較し高齢で線維化進展例が多い」ため,より高頻度に肝硬変や肝細胞がんへ進展する傾向にあって,
「より進んだ病期」

あると認識すべきもの
いしオ)

もっとも,自然経過又は治療介入によりSCが起こった場合,その後の経過は,①SCに伴う遺伝子変異の獲得された年齢,②SC時点での肝臓の破壊の程度,③
介入によってSCが起こった場合については,
症例ごとに更

。このように,HBe抗原陰
性化の後,どのような場合に肝炎が再燃(再発)するのか(HBe抗原陰性慢性肝炎を発症するのか)については,宿主要因,環境要因及びウイルス側要因に関する議論はされているものの,
未解明
(研究段階)
である
(同
⑺イ)


他方,自然経過及び治療介入のいずれによってもSCが起こらず,HBe抗原の陰性化が得られない場合(上記イの

の場合)には,HBe抗

原陽性肝炎の状態が長期間継続し,肝炎による肝線維化が進み,肝硬変へ
医学的知見⑴ア

,同⑵エ


。それ故に,HBe抗原セロコンバージョン

(HBe抗原の陰性化)「B型肝炎の経過の中で大きな意味を持つ現象」は,
であって,
「臨床的に大きな意味」を持ち,抗ウイルス治療においてまず目
指すべき「重要な治療目標の一つ」とされている(同⑵イないしエ)。

上記アないしエの検討結果によれば,HBV持続感染者が免疫応答期においてHBe抗原陽性の状態で肝炎を発症した場合,当該陽性慢性肝炎の発症時点において

又は治療介入によってHBe抗

原セロコンバージョン(SC)が起こ


,起こら

ないのか(同

った場合,

②)


HBe抗原陰性の非活動性キャリアとなるのか
(上記ウ⒜)肝炎が鎮静化

せず,
又は当初非活動性キャリアと診断された後,
経過中に肝炎が再燃
(再
発)
するのか
(同⒝)さらに,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症した場合,

肝硬変や肝細胞がんに進展するのかなど,HBe抗原陽性慢性肝炎発症後の病態の進行及びその態様等について,現在の医学では未だ解明されておらず,確定することができないことが明らかである。
そして,このようなB型慢性肝炎の特質及び実態(病態の進行やその態様)
に加えて,
HBe抗原セロコンバージョン
(HBe抗原の陰性化)
は,
①「HBe抗原の産生を低下・停止させる遺伝子変異を伴うウイルス」が増殖し,②「HBe抗原を産生するウイルス」に置き換わることであり,HBVの質的変化をも伴うものであって




「B型肝炎の経過の中で大きな意味を持つ現象」であること(同⑵ウ),ま
た,SCは,
「重要な治療目標の一つ」とされており,臨床的にも大きな意
味を持つこと
(同⑵ウ及びエ)さらに,

HBe抗原陰性肝炎の発症は,
「新

前とは質的に異なる「新しいウイルス」の増殖力如何によるものであるこ)などに照らせば,HBe抗原陰性慢性肝炎は,
単に最初のHBe抗原陽性慢性肝炎が量的に進行・拡大したものにすぎないということは困難である。


原告らの損害賠償請求権に係る除斥期間の起算点

原告らは,前記⑴のとおり,いずれも乳幼児期の集団予防接種等によってHBVの持続感染者となり,成人後の免疫応答期においてHBe抗原陽性慢性肝炎を発症し,その後,

原告30は,IFN治療によってHBe

抗原セロコンバージョン(SC)によるHBe抗原の陰性化を得て,平成12年頃から非活動性キャリアとなっていたところ,平成19年にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症したものであり,他方,

原告403は,4度の

IFN治療後の自然経過においてSCによるHBe抗原の陰性化を得て,遅くとも平成12年6月には非活動性キャリアとなっていたところ,平成16年3月又は平成19年1月にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症したものであって,しかも,上記各陰性慢性肝炎は,先行するHBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,より高頻度に肝硬変や肝細胞がんへ進展するリスクがあるなどの意味において,より重篤であり,より進んだ病期にあるものといえる。

そして,前記⑴及び上記アにおいて述べた原告らのB型慢性肝炎の発症及び再燃(再発)に至る経緯等並びに前記⑶において検討したB型慢性肝炎の特質及び実態(病態の進行やその態様等)に照らせば,原告らにおいて,最初にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症した時点において,その後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害をも請求することは客観的に不可能であったというべきである。そして,これは,原告らがSCによってHBe抗原の陰性化を得た時点においても,また,その後,非活動性キャリアとなった時点においても,同様であったものといえる。
上記によれば,原告らにおいて,最初にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症した時点において,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害が既に発生しているとみるのは,B型慢性肝炎という疾病の特質及び実態に反し非現実的であって,このようにその賠償を求めることが不可能な将来の損害をも包含する単一の損害賠償請求権なるものが,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時点において既に実体法上の権利として発生したものと考えることはできないというべきである。

上記イによれば,原告らは,それぞれHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した時点において,先行するHBe抗原陽性慢性肝炎による損害とは質的に異なる新たな損害を被ったものというべきであり,したがって,上記各時点において,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症に係る損害賠償請求権が成立したものと解するのが相当である。そうすると,原告らのHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害賠償請求権に係る除斥期間の起算点は,当該陰性慢性肝炎の発症時であるということになる。



被告の主張について

被告は,原告らがいずれも軽快と増悪を繰り返すという一連の慢性肝炎
ついても,HBe抗原の陰性化後,ALT値がおおむね基準値以下であった時期もHBV-DNA量は中ウイルス量で推移しており,
ウイルスの増殖
及び一連の慢性肝炎が継続していることが明らかであるとし,その全体が慢性肝炎を発症したことによる損害であって,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症した時点で,別個の新たな損害が発生したとはいえない旨主張する。しかしながら,前記⑴イ及びウ

のとおり,原告らは,いずれもH

Be抗原の陰性化の後,非活動性キャリアとして推移していたものであり,また,前記⑷の検討結果のとおりであり,原告らにおいて,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した時点において,その後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害が既に発生していたものとみることは,B型慢性肝炎という疾病の特質及び実態に反し非現実的であって,被告の上記主張は採用し難いというべきである。

また,
被告は,
我が国におけるHBe抗原陰性慢性肝炎の患者の9割は,
ALT値の上昇が軽度であることから,HBe抗原陰性慢性肝炎は,病態が軽い症例が多い旨主張する。
しかしながら,前記⑴イ及びウの各

原告らは,HBe抗原

陰性慢性肝炎発症の際にも,ALTが異常高値を示し,大きく変動していたのであり(別紙3ないし同6参照)
,原告らについては,ALT値の上昇
が軽度であったとはいい難い。
ところで,
上記主張に関して,
A1意見書には,
A9論文を根拠として,
HBe抗原陰性慢性肝炎の患者の「9割はALTの上昇は軽度であり,予後のよい例が少なからず含まれている可能性がある。
」と記載されている
(17頁)

そこで検討するに,まず,A9論文においては,HBe抗原陰性慢性肝炎の予後の悪さについて度々言及され,同論文で発表された研究は,その予後の悪さを前提として,SC後にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症する可能性のある患者の特定が重要であるとした上で
(医学的知見⑸オ)SC後

のALT値の異常の特徴及びHBe抗原陰性慢性肝炎の発症に関連する因子に関する解析を「目的」として行われたものである(原文E45頁,原告訳文1頁,
被告訳文1頁)そして,

同論文の
「考察」
部分等において,
HBe抗原陰性慢性肝炎の予後の悪さに対して何らかの疑義が提示されるということもなく,陰性慢性肝炎の患者には「予後のよい例が少なからず含まれている可能性がある」との結論が導き出されているものでも全くない。そもそもA1意見書においても,上記のような「可能性がある」と記載されているにとどまり,本件ガイドライン等の記載内容(医学的知見⑸アないしエ)に照らせば,A9論文やA1意見書の上記記載を根拠として,HBe抗原陰性慢性肝炎の症例には病態が軽いものが多いと断ずることは困難ではないかと考えられる。

次に,被告は,A3意見書に依拠して,同年代で比較しても,HBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変進展率及び肝がん進展率は,HBe抗原陽性慢性肝炎患者より低い旨主張する。
そして,A3意見書では,
「40歳時点慢性肝炎を起点とした場合,HB
e抗原陽性慢性肝炎群とHBe抗原陰性慢性肝炎群の累積肝発がん率および累積肝硬変罹患率を比較すると,HBe抗原陽性慢性肝炎群の予後は不良,すなわち70歳時点推定の累積肝発がん率および累積肝硬変罹患率が高いことが明らかとなった。
」と記載され,
「HBe抗原陽性慢性肝炎群
とHBe抗原陰性慢性肝炎群の予後を年齢を調整して検討した結果,HBe抗原陰性慢性肝炎群は過去に『HBe抗原陽性HBV持続感染の時期を経験したという《持ち越し効果》
』を有しているにもかかわらず,HBe抗
原陽性慢性肝炎群と比較して不良とはいえない,
と推察された。と結論付

けられている(15頁)

そこで検討するに,前記⑶及び⑷のとおり,B型慢性肝炎の発症による損害賠償請求権に係る除斥期間の起算点を検討するに当たり,
「損害」
の発
生をどのように把握すべきなのかという点については,B型慢性肝炎という疾病の特質及び実態(病態の進行やその態様)が重要であると考えられる。そして,年齢(40歳以上)及びHBe抗原陽性経過歴が肝硬変及び肝細胞がんへの進展リスクであることからすれば
「年齢を調整」すると,検討結果において,各
疾病の特質及び実態並びに患者の実情などが反映されないことになってしまうのではないか,また,各疾病の特質及び実態並びに患者の実情を把握するという観点からは,むしろ「持ち越し効果」及び「年齢」の要素を考慮して検討すべきではないかと考えられる。
この点に関して,
本件ガイドラインにおいて,
「時間の経過と一連の病態
の推移」が考慮され,HBe抗原陰性慢性肝炎について,
「HBe抗原陽性
例と比較し高齢で線維化進展例が多いため,より進んだ病期と認識すべきである」とされているのは(同


,臨床的に意味のある治療等の指針

を提示するという場面においても,疾病の特質及び実態並びに患者の実情が重要であるということによるものと考えられる。
上記のとおりであり,疾病の特質及び実態並びに患者の実情という観点からは,A3意見書に依拠して,HBe抗原陰性慢性肝炎患者がHBe抗原陽性慢性肝炎患者と比較して,肝硬変や肝がんへの進展率が低いと結論付けることは困難ではないかと考えられる。

さらに,
被告は,
A2論文では,
B型慢性肝炎患者の肝硬変の発症率は,
HBe抗原陽性の場合に6.9%(年間発症率は2.4%)であるのに対し,HBe抗体陽性(HBe抗原陰性)患者では4.0%(年間発症率1.3%)であるとされており,同論文によれば,HBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変発症率が,HBe抗原陽性慢性肝炎患者のそれよりも低いことは明らかである旨主張する。
そこで検討するに,A2論文では,HBs抗原陽性の慢性肝炎患者684例を対象に前向きフォローアップ研究を実施したとし(原文493頁,訳文2頁)
,調査結果として,次のとおり記載されている。
調査加入時において,①HBe抗原陽性患者は509例及び②HBe抗体陽性患者は175例であり,上記①(以下「調査加入時陽性患者」という。
)のうち35例(6.9%)及び上記②(以下「調査加入時陰性患者」という。
)のうち7例(4.0%)の合計42例が,加入後6ない
し64か月後に肝硬変を発症した。
(原文493頁,訳文3頁)
調査加入時陽性患者(509例)では,重篤な急性増悪を発症した患者は231例あった。うち187例は3か月以内に自発的HBe抗原セロコンバージョン(SC)を生じたが,他の44例では生じなかった。続発性肝硬変への進展は,前者で低く(7.5%)
,後者で高かった(4
7.7%)(原文494頁,訳文5頁)

肝硬変へ進展した35例(調査加入時陽性患者のうち肝硬変発症者)のうち22例(62.9%)は肝硬変の診断が確定した時点でも,依然としてHBe抗原陽性であった。
(原文494頁,訳文5頁)

うち,⒜187例について重篤な急性増悪後にSCが生じ,HBe抗原陰性の状態で肝硬変を発症した者が14例(187例×7.5%)あったこと,⒝44例については重篤な急性増悪後もSCが起こらず,HBe抗原陽性の状態が持続したまま肝硬変を発症した者が21例(44例×47.7%)であったものといえる。そして,上記合計(14例+21例)が上
Be抗原陽性であったことからすれば,上記14例のうち1例がリバースSC(HBe抗原の再出現)を起こしていたものと考えられる。
ところで,上記⒜の187例(SCによるHBe抗原の陰性化が得られた症例)
のうち,
多くは非活動性キャリアとなり
(医学的知見⑶ア及びイ)

HBe抗原陰性慢性肝炎を発症した者は,
その一部
(10ないし20%
(同
⑶ア)であったはずであり,上記発症率(10ないし20%)によれば,19例ないし37例であったものと考えられる。そうすると,調査加入時陽性患者で,SC後にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した患者(19ないし37例)の肝硬変発症率は37.8ないし73.7%(14例/19例ないし37例)となると考えられる。そして,調査加入時陰性患者(上記
おいてHBe抗原陰性慢性肝炎患者は194例ないし212例(調査加入時陰性患者175例+調査加入時陽性患者のうちSC後にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した患者19例ないし37例)であり,肝硬変発症者は21例(14例+7例)であるから,HBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変発症率は9.
9%ないし10.(21例/194例ないし212例)
8%
となるともいえるのではないかと考えられる。
他方,調査加入時陰性患者は,SC前はHBe抗原陽性であったはずであり,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症していたものと考えられる(前提事実⑵イ参照)
。そうすると,調査対象684例について,それぞれ最初の慢
性肝炎の発症時点では,HBe抗原陽性慢性肝炎患者であったものと考えられ,HBe抗原陽性慢性肝炎患者の肝硬変発症率は,6.1%(42例/684例)であるともいえるのではないかと考えられる。
上記検討結果によれば,むしろHBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変発症率がより高いといえるのではないかと考えられる。そうすると,A2論文によっても,HBe抗原陰性慢性肝炎患者の肝硬変発症率が,HBe抗原陽性慢性肝炎患者のそれよりも低いことが明らかであるとは必ずしもいえないのであり,比較の対象とするHBe抗原陰性慢性肝炎患者の定義の問題ではないか(すなわち,調査加入時陽性患者のうちSCによってHBe抗原陰性となり,その後,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症した者をどう取り扱うかによることになるのではないか)と考えられる。
以上によれば,被告の上記主張は直ちに採用し難いというべきである。⑹

小括

前記⑵ないし⑸の検討結果によれば,原告らのHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害賠償請求権に係る除斥期間の起算点は,それぞれHBe抗原陰性慢性肝炎の発症時となる。したがって,原告30については平成19年12月18日頃,原告403については平成16年3月30日又は平成19年1月23日である。


そして,原告30は平成20年7月30日に,また,原告403は平成
告らの損害賠償請求権について,いずれも除斥期間は経過していない。6
争点⑶ア(包括一律請求の可否)及び同⑶イ(原告らの損害額)について⑴

包括一律請求の適否

前記5⑴のとおり,原告らは両名とも,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症後,頭痛等の副作用に苦しみながらIFN治療を受け,その後,HBe抗原陰性の非活動性キャリアとなり,
肝炎が治ったものと考えていたところ,
HBe抗原陰性慢性肝炎の発症(肝炎の再発(再燃)
)によって,身体的,
精神的苦痛を受けた上,原告30は,肝炎の活動性が高く,全身倦怠感が続いたことから(認定事実30


,また,原告403は,医師から年

齢から「いつ肝臓がんになってもおかしくない」と言われたこと(同403⑷イ)などから,不本意ながらやむを得ず,一生涯にわたる服薬の必要があるエンテカビルの服用を始めるに至ったものである。

しかも,原告らのHBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症及びIFN治療を経たものであって,
より重篤なものであり,
「より
進んだ病期」にあるものといえる

。そして,原

告らは,エンテカビルの服用によって,ALT値等が正常値内で推移し,経過は良好であるものの,エンテカビルについては,長期投与に伴う薬剤耐性変異株の出現の可能性や長期投与における安全性が確認されていない点などが指摘されているとともに,そもそもHBVの増殖を抑えるにすぎず,原告らは,高齢かつ線維化進展例として,肝硬変及び肝細胞がんへの移行リスクを有しているのである(前記5⑴エ参照)。
そして,原告30は,一生涯の服用継続を要するエンテカビルに係る治療費等の金銭的問題,エンテカビルの薬効の継続性に対する不安,金銭的事情によって服用を中止せざるを得なくなった場合における肝硬変や肝がんへの進展の懸念等を抱いており(認定事実30⑷ア),また,原告40
3は,再発の不安のみならず,虚無感や厭世観をも抱いているところである(同403⑷イ)


上記ア及びイによれば,原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症によって,致死性,難治性及び進行性等の点において,先行するHBe抗原陽性慢性より更に進行した重篤な肝炎疾患にり患したものと認められ,原告らは,大きな身体的,精神的苦痛を受けるだけではなく,社会生活,家庭生活,経済生活及び日常生活のあらゆる場面において,広範な被害を受け続けることになったものというべきである。


そして,原告らのHBe抗原陰性慢性肝炎発症前後の状況(認定事実30⑶及び同⑷ア,同403⑷)及びHBe抗原陰性慢性肝炎の特質及び実態(医学的知見⑸)等によれば,上記ウの原告らの様々な被害は,それぞれ別個独立に存在するのではなく,相互に影響し合って,一生涯にわたり続くものといえるから,個別具体的積上方式によることは,損害の金銭評価の方法としては不適切であって,包括一律請求によることには合理性及び相当性があると考えられる。


なお,被告は,包括一律請求によることについて,抽象的にも損害項目ごとの積上げを不要とする趣旨であるならば,
不適切である旨主張するが,
原告らが包括一律請求に関して,事情として,原告らのHBe抗原陰性慢性肝炎の発症(慢性肝炎の再発)による被害等の個別事情を主張するとともに,損害項目ごとの主張をも一定程度行っていることに照らせば,本件において,原告らが包括一律請求によって損害賠償請求を求めることが不適切であるとはいい難い。


原告らの損害額

そこで,原告らの各損害額について検討するに,本件合意書では,慢性肝炎の病態区分にある者に支払う和解金額について1250万円
(以下
「本

,これ
は,慢性「肝炎の発症を自覚した者の受けた苦痛その他の損害に見合う和解金の額」
であるとされ,
「少なくとも肝機能障害のある間は継続する死に
対する現実的,具体的な恐怖や,発症前を上回る社会生活上の差別的取扱その他の被害による損害が発生するであろうこと,また,沈静化した後においても,一定の率で肝がんとなる危険があることから,たとえ肝機能障害が沈静化したとしても,その損害に見合う和解金の額は,いわゆるC型肝炎救済特別措置法におけるC型肝炎ウイルスの無症候性キャリアに対する給付金の額を下回るべきではない」との考えに基づく(本件記載(ウ))。本件記載内容によれば,本件和解金額は,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症し,その後,HBe抗原セロコンバージョンによって非活動性キャリアに至る症例を念頭に置き,非活動性キャリアにおいても肝発がん率が低いとされているにとどまること(医学的知見⑷イ)などを考慮して決定されたものと考えられる。


上記アによれば,本件和解金額は,B型慢性肝炎を発症した者について最低限度の損害額といえるところ

エによれば,
原告らは,

本件記載内容の損害以上の損害を被っているといえる。そうすると,原告らの損害額としては,それぞれ少なくとも1250万円であると認めるのが相当である。

そして,原告らは,いずれも被告の不法行為によって被った損害賠償を求めるために本訴提起を余儀なくされたものであり,上記各不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,損害額の10%が相当である。
したがって,弁護士費用としては,原告ら各請求のとおり,原告30につき125万円(損害額の10%相当額)
,また,原告403につき50万

(損害額の4%相当額)
である50万円であると認めるのが相当である。
7
結論
前記4ないし6のとおりであるから,被告は,原告30に対し,1375万円の賠償及び同額に対する不法行為の後である平成20年8月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務があり,また,原告403に対し,1300万円の賠償及び同額に対する不法行為の後である平成24年3月30日から支払済みまで上記同様の遅延損害金の支払義務があるというべきである。

第4

結語
以上のとおりであるから,原告らの請求は,いずれも理由があるからこれらを認容することとし,主文のとおり判決する。
なお,事案の性質に鑑み,仮執行及びその免脱については,被告に本判決が送達されてから14日が経過した日から仮執行を認めるが,各原告のために1250万円の担保を提供することにより仮執行を免れることができるとすることが相当である。
福岡地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官


裁判官

三昭人井教匡
裁判官

別紙1~7


〔※省略〕

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