判例検索β > 平成29年(行ケ)第10029号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10029
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成29年12月26日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成29年12月26日判決言渡
平成29年(行ケ)第10029号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成29年11月7日
判決原告
長春石油化學股份有限公司

原告
長春ジャパン株式会社

上記両名訴訟代理人弁理士

能章浪一郎松告田藤被町島純也
日本合成化学工業株式会社

同訴訟代理人弁護士

飯友良浩山航洋清水紘武濱田百北島健次横1郷森主秀大
同訴訟代理人弁理士

田川晃志合子文
特許庁が無効2016-800013号事件について平成28年9月13日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求

主文同旨
第2

事案の概要

本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,①新規性の有無,②進歩性の有無,③実施可能要件違反の有無,④サポート要件違反の有無,⑤明確性要件違反の有無である。
1
特許庁における手続の経緯

被告は,平成15年7月16日,発明の名称を「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群及びその用途」とする発明につき,特許を出願し(特願2003-275196号)
,平成22年9月3日,設定登録(特許第4580627号)
を受けた(請求項の数3。甲30。以下「本件特許」という。。

原告らは,平成28年2月2日,本件特許の請求項1~3に係る発明について特許無効審判請求をした(無効2016-800013号。以下「本件審判請求」という。甲31。。

特許庁は,平成28年9月13日,
「本件審判の請求は,成り立たない。
」との審
決をし,その謄本は,同月26日,原告らに送達された。
2
本件発明の要旨

本件特許の請求項1~3に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲30。以下,これらの発明を「本件発明1~3」といい,これらの発明を併せて「本件発明」という。本件特許の明細書〔甲30〕を「本件明細書」という。。)
【請求項1】
(本件発明1)


32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微紛(判決注:
「微粉」の誤記と

認める。以下「微紛」とあっても「微粉」と表記する。
)の含有量が0.1重量%以
下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群。」

【請求項2】
(本件発明2)


エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物が,エチレン‐酢酸ビニル共重合体ケ
ン化物に対してホウ素換算で0.001~1重量%のホウ素化合物を含有していることを特徴とする請求項1記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群。

【請求項3】
(本件発明3)


請求項1または2記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群を
成形してなる層を少なくとも一層含有することを特徴とする積層体。」
3
審判における請求人(原告)らの主張
(1)

本件特許の請求項1の「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微
粉」の技術的意義が記載されていないから,本件発明1~3の意義を理解するために必要な事項が記載されておらず,特許法36条4項1号が定める経済産業省令の定めるところに記載したものであるという要件(以下「委任省令要件」という。)を
満たしていない。
また,篩分けの方法,条件等が,本件特許の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されておらず,本件特許のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群を製造することができないから,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を満たしていない。
(2)

篩分けの方法,
条件等が,
本件特許の発明の詳細な説明に記載されておら

ず,特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の記載を超えており,本件特許の出願時の技術常識を参酌しても,発明の詳細な説明に開示された内容を特許請求の範囲に拡張ないし一般化することができないから,本件特許の特許請求の範囲の記載は,サポート要件を満たしていない。
(3)

本件発明1~3の内容及び範囲が不明確であり,
また,
特許請求の範囲に

特定された「微粉」及び「群」の意味が不明確であるから,本件特許の特許請求の範囲の記載は,明確性要件を満たしていない。

(4)

本件発明1及び3は,
甲1に記載された発明
(以下
「甲1発明」
という。


であるから,新規性を欠く。
(5)

本件発明1~3は,
甲1~3に記載された発明,
設計事項及び周知慣用技

術に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く。
(6)
4
本件発明1は,出願前に公然実施された発明であるから,新規性を欠く。
審決の理由の要点
(1)

委任省令違反の有無について

「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下,EVOHと略記する)のペレット群及びそれを用いた積層体」
(本件明細書【0001】
)の技術分野において,
「各種積層体に適用したときには押出機へのフィードの不安定性等によりEVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する恐れがある」
(本件明細書
【000
5】
)との未解決の課題があり,それを「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下」【請求項1】

)として解決したことが発明の
詳細な説明中に記載されているから(本件明細書【0006】【0007】【00,

15】及び【0036】~【0045】,本件発明がどのような技術上の意義を有)
するかを理解できる。
(2)

実施可能要件違反の有無について
EVOHペレット及び微粉の粒径,形状等について

本件明細書の発明の詳細な説明には,EVOHペレット単体の粒径(寸法),平均
粒径及び粒径分布については記載されていないが,本件明細書【0036】【00,
37】の記載から,各種材料及びその量比,ケン化度や温度条件,製造順序等が明らかであるから,EVOHペレット群及びEVOHペレット群を用いた多層フィルム自体を作ること,使用することができる。
そうすると,当業者は,過度の試行錯誤なく,本件発明に係るEVOHペレット群や積層体を作ることができ,使用することができるような記載が発明の詳細な説
明にあるといえる。
また,ポリマーのペレットとは,
「直径あるいは1辺が2~5mmくらいの円柱,
球状などにペレタイザーを用いて造粒された成形材料」をいい(乙6),EVOHペ
レットのサイズの例示が「長さ3.0mm,直径2.5mm」であることも踏まえると(乙1)
,発明の詳細な説明にEVOHペレット単体の粒径(寸法)
,平均粒径
及び粒径分布について記載されていなくとも,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき,当業者が本件発明に係るEVOHペレット群や積層体を作ることができ,使用することができるといえる。

EVOHペレット群が製造不可能であること

「得られたEVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)の篩を通して分別し,32メッシュオンのEVOHペレット100部と32メッシュ通過EVOHペレット0.
03部
(0.
03%)
を混合して本発明のEVOHペレット群を得た。

(本件明細書
【0036】との記載から,

「32メッシュオンのEVOHペレット」

「32メッシュ通過EVOHペレット」
を混合したものが本件発明のEVOH
「ペ
レット群」に含まれると解するのが自然であり,これを用いて,多層フィルムが作製され(本件明細書【0037】,
)「EVOH層の乱れによるゲルの発生状態」が評
価されている(本件明細書【0038】。

そうすると,当業者は,過度の試行錯誤なく,本件発明に係るEVOHペレット群や積層体を作ることができ,使用することができるような記載が発明の詳細な説明にあるといえる。
(3)

サポート要件違反について
篩分けについて

本件発明の課題は,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する」
(本件明細書
【0005】ことであって,

これを解決するために
「32メッシュ
(目
開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群」
(本件明細書【0006】
)とすることが発明の詳細な説明に記載されてい

る。
また,
「32メッシュ
(目開き500μ)
篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%
以下であるEVOHペレット群」が上記課題を解決することが実施例として確認されている(本件明細書【0036】~【0044】。

そうすると,当業者は,開示される篩分けの方法(本件明細書【0016】)を参
考にしながら,
篩の目開きを500μにして,
この篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下であるEVOHペレット群を多層フィルムの作製に供して(本件明細書【0037】,上記課題を解決することができるといえる。


積層体の材料について

積層体を製造するに当たり,共押出の場合の相手側樹脂の好ましいものが本件明細書【0029】に開示されている。
そして,実施例として,
「EVOHペレット(I)
,ナイロン-6〔三菱エンジニ
アリングプラスチックス社製「NOVAMID1022-1」(II)〕,ポリプロピレ
ン〔日本ポリケム社製「FL6CK」(III)及び接着性樹脂〔三井化学社製「AD〕
MERQF500」
,無水マレイン酸変性ポリプロピレン〕
(IV)を,フィードブロ
ック式共押出多層フィルム成形機(グンゼ産業社製)に供給して,(II)/(I)/
(IV)/(III)=10/10/10/120(μm;厚み)の層構成を有する多層フィルム」が例示されている(本件明細書【0037】。

そうすると,当業者は,本件明細書【0037】に例示される多層フィルムを参考にしながら,樹脂の組合せを変えた多層フィルムを作製して,上記課題を解決することができると認識できる。

微粉の数値範囲について

EVOHペレットに混合される32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の割合につき,実施例1では0.08%,実施例2では0.03%,実施例3では0.08%,実施例4では0.02%とし,このようなEVOHペレットの成形性が良好であること,すなわち上記課題が解決されていることを確認している(本
件明細書【0044】。

そうすると,当業者は,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の割合を0.2%とする比較例との対比において(本件明細書【0042】,)「32メッ
シュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下」とすることにより,上記課題を解決することができると認識できる。

ホウ素の数値範囲について

「ホウ素化合物の含有量は特に限定されないが,EVOHに対してホウ素換算で0.001~1重量%(さらには0.001~0.2重量%,特には0.02~0.1重量%)
になるように含有させることが好ましく,
かかる含有量が0.
001重量%
未満では添加効果に乏しく,逆に1重量%を超えると成形物中にゲルやスジが発生する傾向にあり好ましくない。(本件明細書【0019】

)との記載から,ホウ素化
合物の含有量は,従来公知の課題である「成形物中にゲルやスジが発生」を抑制するものであることが理解できる。
そうすると,本件発明2は,本件発明1に更に「ホウ素化合物」を含有することで,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する」
との本来の課題に加
え,従来公知の課題も併せて解決するというものである。本件明細書の発明の詳細な説明において,たとえホウ素化合物の含有量が0.03重量%のみの開示に止まるとしても,当業者は,上記本来の課題解決することができると認識できる。(4)

明確性要件違反について
発明の範囲が不明確であることについて

「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」との記載は,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過できない微粉は含まれないという意味で微粉の大きさが明確に理解できる。
また,EVOHペレットを32メッシュ

(目開き500μ)
の篩を通して分別し」
(本件明細書【0036】
)との記載からも,同様に理解でき
る。加えて,
「JIS

K
6726

ポリビニルアルコール試験方法

3.10

粒度」
(乙7)との技術常識に従い,当業者は,32メッシュ(目開き500μ)篩
を通過する事実上全ての微粉の量を測定することができる。

篩分けの特定について

「メッシュ」とは,25.4mm間にある線の数,または網目の数をいい,「目開
き」
とは,
線径とメッシュの組合せにより決まるものであるから,
「32メッシュ
(目
開き500μ)も客観的に定まるものであって,

「32メッシュ
(目開き500μ)
篩を通過する微粉」も明らかである。また,
「EVOHペレットを32メッシュ(目
開き500μ)の篩を通して分別し」
(本件明細書【0036】
)との記載からも,
32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉であることは理解できる。加えて,
「JIS

K
6726

ポリビニルアルコール試験方法

3.
10

粒度」
(乙

7)との技術常識に従い,当業者は,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する事実上全ての微粉の量を測定することができる。
そうすると,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。

製造方法が記載された発明について

「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」は,単に「微粉」の状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎず,製造に関して経時的な要素の記載がある場合,製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合及び製造方法の発明を引用する場合のいずれにも該当しないから,「その物の製造
方法が記載されている場合」に該当しない。

「微粉」の意味について

「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下である」
(請求項1)
との記載及び
「得られたEVOHペレットを32メッシュ
(目
開き500μ)の篩を通して分別し,32メッシュオンのEVOHペレット100部と32メッシュ通過EVOHペレット0.03部(0.03%)を混合して本発明のEVOHペレット群を得た。

(本件明細書
【0036】との記載から,

「微粉」
は,EVOHペレットから生じる微粉を意味すると解するのが自然であり,上記記
載を踏まえ技術常識に照らしても,
添加物やその他のゴミは含まれないと解される。

「群」の意味について

「群」とは,
「あつまり」をいうところ,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を
通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下である」請求項1)

との記載だけでなく,
「得られたEVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)の篩を通して分別し,32メッシュオンのEVOHペレット100部と32メッシュ通過EVOHペレット0.03部(0.03%)を混合して本発明のEVOHペレット群を得た。」
(本件明細書【0036】
)との記載を考慮すると,本件発明1~3の「群」とは,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」とこれを通過しないEVOHペレットの「あつまり」と解するのが相当である。
そして,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下である」
(請求項1)との記載から,
「群」を100重量%とした場合の「微
粉」量を特定したと考えるのが技術常識にかなうから,本件発明1~3は,「群」の
量自体ではなく,
「群」に対する「微粉」量に着目したものと解される。
そうすると,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。
(5)

甲1発明を引用例とする新規性について
甲1発明

「酢酸水溶液に浸漬後,回分式塔型流動層乾燥器で窒素ガスに接触させて得たエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット25kgを,
ブレンダーに入れて,
室温で10時間回転させて得られた内容物を取り出し100μmのふるいにかけ,該ふるいを通過した微粉の重量が0~2g未満(0~0.008重量%未満)であるエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット。(甲1【0001】【00」

03】【0011】【0018】【0022】【0026】~【0032】【00,




38】~【0040】。


対比

本件発明1と甲1発明は,
「149メッシュ(目開き100μ)篩を通過する微粉
の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群」の点で一致し,本件発明1は,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下」であるのに対して,甲1発明は,
「149メッシュ(目開き100μ)篩を通
過」せず,かつ「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量」が不明である点で相違する(以下「相違点1」という。。


判断

甲1には,
「149メッシュ(目開き100μ)篩を通過」せず,かつ「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」
(以下,
「100μm以上500μm未
満の微粉」という。
)の含有量についての記載も示唆もなく,また,当該含有量が自
明であるとも技術常識から明らかであるともいえない。
そして,甲1の全ての記載に照らしても,100μmのふるいを通過した微粉及び100μm以上500μm未満の微粉の合計量が0.1重量%以下であるといえる根拠を見いだすことができない。
そうすると,甲1発明において,100μmのふるいを通過した微粉及び100μm以上500μm未満の微粉の合計量,
すなわち32メッシュ
(目開き500μ)
篩を通過する微粉が0.1重量%以下であるとまではいえない。
したがって,本件発明1は,甲1発明と同一であるとはいえない。また,本件発明3と甲1発明は,少なくとも上記相違点1で相違するから,本件特許発明3は,甲1発明と同一であるとはいえない。
(6)

甲1発明を主引用例とする本件発明1の進歩性について
甲1発明の認定

前記(5)アのとおり。

対比

本件発明1と甲1発明は,
「篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下である
EVOHペレット群」の点で一致し,篩に関して,本件発明1が「32メッシュ(目開き500μ)であるのに対して,

甲1発明が
「149メッシュ
(目開き100μ)

である点で相違する(以下「相違点2」という。。


判断
(ア)
a
甲1発明及び設計事項について
本件発明の課題と解決手段

本件発明の課題は,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する」

とを抑制することにある(本件明細書【0005】【0006】。,

これに対して,
「EVOHを溶融成形して各種成形品に加工するにあたっては,

の成形時にEVOHのゲルや焼けが発生して成形物(特にフィルムやシート等)のロングラン性や外観性が低下することがある。(本件明細書【0003】」
)及び「上
記の特許文献1~3に開示の方法では,溶融したEVOHの熱安定性は改善されてロングラン成形により発生するゲルや焼けについては抑制されるものの,各種積層体に適用したときには押出機へのフィードの不安定性等によりEVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する恐れがあることが判明した。(本件明細書【0」
005】
)との記載から,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」とは別個の
従前の課題である「ロングラン性や外観性が低下すること」
(以下「従前の課題」と
いう。
)が認定できる。
そして,本件発明は,新たな課題である「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」を解決するために,
「32メッシュ(目開き500μ)
」という数値を選択し
て,
「32メッシュ(目開き500μ)
」の篩と特定したものである。
b
EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制と「32メッシュ
(目開き500μ)
」という数値の結びつき
甲1の「EVOHペレットの輸送に当たっては,通常アルミ内袋などによって防湿されたクラフト紙などに包装されるのであるが,かかる輸送時の温度変化や荷積みの状態,振動などによっては,該ペレットが融着を起こしたり,割れ,欠け,微粉が発生したりして,その結果安定した溶融成形が困難になってしまうという問題が発生することがあった。(本件明細書【0003】,

)「本発明では,酢酸(a)の
含有量をコントロールする方法も弾性率調整の方法として好ましく,該含有量を5~5000ppm,更には20~500ppmが好ましい。かかる範囲外ではペレットの融着,割れ,欠け,微粉の発生等物性面への悪影響が顕著となり,製膜(成形)時の押出安定性が悪くなったり,成形されたフィルムの外観特性が悪くなり好ましくない。(本件明細書【0011】,

)「かくして得られたEVOHペレットは,
輸送時のペレットの融着がなく,割れ,欠け,微粉の発生が少なく,更に溶融成形時のトルク変動や吐出量変化が少なく,更には厚みの均一性に優れたフィルムやシート等の成形物を得ることができるという溶融成形性に優れ,該ペレットはペレット,フィルム,シート,容器,繊維,棒,管,各種成形品等に成形され,又,これらの粉砕品(回収品を再使用する時など)やペレットを用いて再び溶融成形されることが多い。(本件明細書【0018】

)及び

【表2】
(ニ)
トルク変動
実施例1

(ホ)

(ヘ)

吐出量変化









膜厚変化

(ト)
フィルム外観



2










3








比較例1

×

×

×

×

×

×

×

○」



2
(本件明細書【0039】
)との記載から,甲1発明の課題は,
「EVOH層の界面
での乱れに起因するゲルの抑制」にあるのではなく,むしろ従前の課題又はこれに近い課題であると解するのが相当である。
そうすると,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」
との新たな課題
に対する認識がない以上,甲1発明において,当該課題を解決するために「32メッシュ(目開き500μ)
」という数値を選択する動機付けがあるとはいえない。
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」との課題を認識していない甲1発明において,篩を「149メッシュ(目開き100μ)
」から「32メッシュ
(目開き500μ)に単に変更したに過ぎないものとはいえず,

当該変更が設計事
項であるとはいえない。
c
本件発明1による効果は,EVOH層の界面での乱れに起因するゲ「

ルの抑制」であって,甲1発明から当業者が予測し得た程度のものとはいえない。d
以上のとおり,本件発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)
a
甲1発明及び甲3について
「本件特許発明の課題と解決手段」及び「EVOH層の界面での乱
れに起因するゲルの抑制と「32メッシュ(目開き500μ)
」という数値の結びつ
き」については,前記(ア)a及びbのとおりである。
b
甲3には,
「FEM2482の対象となる微粉は,粒子サイズが500μ

m以下の粒子の断片」「プラスチックのペレット化プロセス(押し出し・切断)お,
よびその後の取扱手順(空気輸送,混合,保存,投与,スクリーニング,フィーディング,
袋詰め)
において,
プラスチックペレットの劣化が生じることがあります。
この劣化は,微粉,ストリーマー(
「微細」と呼ばれることもある)およびミスカッ
トもしくは破片の三サイズに分類され,それぞれの面積・サイズは非常に異なります。
・・・上記のすべての劣化が原因となり,プラスチックペレットから最終製品への変換に深刻な影響を及ぼします。ほとんどのポリマーメーカーでは,最終製品の質を向上させるため,
ペレットクリーンシステムを採用しています。と記載されて

いるから,粒子サイズが500μm以下の粒子の断片がプラスチックペレットから最終製品への変換に深刻な影響を及ぼすことは理解できる。
しかし,
「深刻な影響」は,抽象的な記載であって,その具体的な内容が不明であり,
「深刻な影響」から直ちに本件発明の課題である「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」が導き出せるとはいえない。
したがって,甲3には,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」との
新たな課題を解決するために「32メッシュ(目開き500μ)
」という数値を選択
する動機付けがあるとはいえない。
そうすると,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」
との新たな課題
を認識していない甲1発明及び甲3の記載事項に基づいて,当業者が篩として「32メッシュ
(目開き500μ)という数値を選択することが容易であるとはいえな」
い。
c
本件発明1による効果は,
「EVOH層の界面での乱れに起因する

ゲルの抑制」であって,甲1発明及び甲3の記載事項から当業者が予測し得た程度のものとはいえない。
d
以上のとおり,本件発明1は,甲1発明及び甲3の記載事項に基づ
いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。(7)

甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。
)を主引用例とする本

件発明1の進歩性について

甲2発明の認定

「EVOHの微粉を含んだEVOHペレット群。


対比

本件発明1と甲2発明とを対比すると,
両者は,
「EVOHの微粉を含んだEVO
Hペレット群」の点で一致するものの,本件発明1は,
「32メッシュ(目開き50
0μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下」であるのに対して,甲2発明は,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が不明である点で相違する(以下「相違点3」という。。


判断
(ア)

甲2発明及び設計事項について

a
前記(6)ウ(イ)aのとおり。

b
甲2には,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」
との
新たな課題は記載も示唆もされておらず,むしろ,従前の課題が記載されているに止まる。
そうすると,
甲2発明において,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑
制」との新たな課題を解決するために,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量を特定する動機付けがなく,このような特定が単なる設計事項であるとはいえない。
c
本件発明1による効果は,EVOH層の界面での乱れに起因するゲ「

ルの抑制」であって,甲2発明から当業者が予測し得た程度のものとはいえない。d
以上のとおり,本件発明1は,甲2発明に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)
a
甲2発明,甲1及び甲3について
甲1~3には,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」

との新たな課題及びこれを解決するために,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量を特定することが記載も示唆もされていない。そうすると,甲2発明に甲1及び3に記載された事項を組み合わせる動機付けに欠けるから,
甲2発明において,EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」「
との新たな課題を解決するために,当業者が甲2発明に甲1及び3に記載された事項を組み合わせて「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下である」と特定することが容易であるとはいえない。b
本件発明1による効果は,EVOH層の界面での乱れに起因するゲ「

ルの抑制」であって,甲2発明,甲1及び3に記載された事項から当業者が予測し得た程度のものとはいえない。
c
以上のとおり,本件発明1は,甲2発明,甲1及び3に記載された
事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。(ウ)
a
甲2及び周知慣用技術について
甲3~11の記載から,EVOHペレット群の微粉を減らすことが周知慣用技術であるとはいえるものの,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲ
ルの抑制」との新たな課題及びこれを解決するために,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量を特定することは記載も示唆もされていない。そうすると,
甲2発明において,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑
制」
との新たな課題を解決するために,
当業者が
「32メッシュ
(目開き500μ)
篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下である」と特定することが容易であるとはいえない。
b
本件発明1による効果は,
「EVOH層の界面での乱れに起因する

ゲルの抑制」であって,甲2発明及び周知慣用技術から当業者が予測し得た程度のものとはいえない。
c
以上のとおり,本件発明1は,甲2発明及び周知慣用技術に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(8)

本件発明2及び3の進歩性について

本件発明2及び3と甲1発明は,少なくとも上記相違点2で相違するところ,本件発明1について説示した理由と同一の理由で,本件発明2及び3は,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(9)

新規性(公然実施)について
原告が本件特許の出願日よりも前に株式会社クラレより購入していたと
するEVOHペレットとSGS社が篩検査したEVOHペレットとの同一性について
原告は,
本件特許の出願日よりも前の平成13年11月15日に,
「エチレン酢酸
ビニル共重合体:EP-F101A」
(株式会社クラレ社製)を日本の旭電化工業株
式会社から購入(輸入)し,
甲15~17の購入番号「23R4110114」の製品
に対して,
「KURARAY

EVAL

クラレ

エバール

TYPE

F101

A」
の篩検査を第三者機関であるSGS社に依頼して行った
(甲18)
旨主張する。
しかし,甲15~17の購入番号「23R4110114」の製品と甲18の篩検査の対象が同一のものであるとはいえない。

SGS社が実験したEVOHペレットの経時変化及び甲15~17の製
品が改質していないことについて
(ア)

原告らは,甲15~17の製品を平成13年11月15日に購入し,
平成25年1月9日に検査を行ったから,検査時には,甲15~17の製品の製造日から既に11年余以上も経過していることになる。
エバール樹脂のペレットは,たとえ未開封であっても12か月を超えると,所望の吸湿防止が果たせなくなると解される(乙1)

そうすると,製造日から,保存可能期間の限度である12か月をはるかに超える11年余以上も経過した製品において,たとえ「厳重な防湿包装」されていたとしても,微粉量の観点で,SGS社が実験したEVOHペレットには経時変化が生じていないとはいえない。
(イ)

原告らは,甲19及び20に示された甲15~17の製品の検査結果
と,甲21に記載されているクラレ社製のEVALの性質を「対比表(公然実施)」
にまとめ,甲15~17の製品は購入時からほとんど改質していない旨主張する。しかし,
「対比表(公然実施)
」の「メルトフロートレート」につき,
「クラレ社製
のEVAL」は「1.60」であるのに対して,甲15~17の製品は「1.41」であり,同じく「ガラス転移温度」につき,
「クラレ社製のEVAL」は「69.0
0」であるのに対して,甲15~17の製品は「62.01」であり,それぞれ10%以上も変化している。
そうすると,対象製品アが改質していないとまではいえない。

以上から,本件発明1は,本件特許の出願前に公然実施された発明であ
るとはいえない。
第3
1
原告ら主張の審決取消事由
新規性について
(1)

対比の誤り
審決は,
「本件発明1と甲1発明は,
『149メッシュ(目開き100μ)篩を通
過する微粉の含有量が0.
1重量%以下であるEVOHペレット群』
の点で一致し,
本件発明1は,
『32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%』であるのに対して,甲1発明は,
『149メッシュ(目開き100μ)篩
を通過』せず,かつ
『32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量』
が不明である点で相違する
(請求人の主張どおりである。
以下,相違点1」

という。」

と判断したが,当該対比は誤りである。

甲1発明で不明な点があるのであれば,それは「不明点」であって,本
件発明1と対比できるものではない。

原告らは,
「甲1発明は,
『149メッシュ
(目開き100μ)
篩を通過』

せず,かつ『32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量』が不明である点で相違する」という主張はしていない。
原告らは,主張において,本件発明1と甲1発明とは,文言上で相違する部分はあるが,両者は実質的に同一であるため,
「仮に・・・文言上の相違点・・・」と前提条件
を付したにもかかわらず,審決はこの前提条件を付さずに対比している。(2)

判断の誤り

審決は,本件発明1及び3を100μm以上500μm未満の微粉が必ず存在することを前提として判断しているが,本件発明1及び3は,32メッシュ(目開き500μ)の篩を通過することだけを特定したものであって,100μm以上500μm未満の微粉が必ず含まれることを特定したものではない。
本件特許の出願時の技術常識に照らすと,
EVOHペレット群を32メッシュ
(目
開き500μ)の篩にかけた際に,発生した微粉の粒径に偏りが生じることも当然に考えられるから,発生した微粉の粒径が全て100μm未満で0.1重量%であることは起こり得る。篩分けをして発生した全ての微粉が100μm未満で0.1重量%以下であるEVOHペレット群は,
本件発明1及び3の権利範囲に含まれる。
審決は,本件発明1及び3が100μm以上500μm未満の微粉が必ず存在すると誤認したものであるから,誤った対比・判断に基づいて本件発明1及び3の新規性を認めるものである。
(3)

原告の主張

本件発明1及び3は,例えば,粒径が100μm未満の微粉の含有量や,粒径が100μm以上500μm未満の微粉の含有量をそれぞれ数値限定するなどして特定すれば,甲1発明との相違点が明確になるが,そのような特定にはなっていないため,両者は実質的に同一である。
2
進歩性について
(1)

甲1発明及び設計事項
本件発明1と甲1発明の対比の誤り
(ア)

前記1(1)イのとおり。

(イ)

本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は,後記ウ(ア)のとおりで
ある。

判断の誤り
(ア)

審決は,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」を「新た

な課題」と認定するが,次のとおり,これは「新たな課題」ではない。a
甲1には,下記図1の「共押出工程」に入る前(フィードブロック
に入る前)に,EVOH単層の表面にフィッシュアイが発生する旨記載されているから,当業者は,EVOH単層をフィードブロックに供給して「共押出工程」を行う際に,EVOH層の界面にフィッシュアイやゲル等の欠陥が発生することは容易に想像がつく。下記図1の「共押出工程」では,EVOH層に他の樹脂層を重ねているだけであるから,EVOH単層の表面に形成されたフィッシュアイやゲル等の欠陥はそのままEVOH層と他の樹脂層との界面に残存する。
「EVOH層の界面
での乱れに起因するゲルの抑制」
をするということは,EVOH単層の表面

(外観)
のゲルを抑制」することと同義である。
したがって,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」
するという課題
は甲1に実質的に記載されている事項であるから,本件特許の出願時において「新たな課題」ではない。
b
「EVOHペレット群を用いてEVOH層を含む積層体を成形する
際に,
『EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制』をすること」(以下「技術常識1」という。)及び「EVOHは,成形時の耐熱性が不安定であって,ゲルなどのトラブルが発生しやすいこと」(以下「技術常識2」という。)は,本件特許の出願時において,EVOHペレット群を用いて樹脂成形を行う分野における技術常識である(甲33~40)

(イ)

審決は,
「本件特許発明1による効果は,
『EVOH層の界面での乱れ

に起因するゲルの抑制』であって,甲1発明から予測し得た程度のものとはいえない。
」としたが,次のとおり,本件特許の出願時において,本件発明1の「EVOH層界面の乱れに起因するゲルの抑制」という効果は,甲1発明から当業者が容易に予測し得た程度のものである。
a
前記(ア)bの技術常識及び「EVOHペレット群を用いてEVOH層
を含む積層体を成形する際に,EVOHペレット群の微粉を減らして成形性を向上させること」という周知技術(以下「周知技術1」という。
)から,EVOHペレッ
ト中の粒径の小さい微粉を減らせばEVOH界面のゲルが減少するという効果は,当業者が容易に予測できる。
b
前記(ア)aのとおり,甲1によると,
「EVOH単層の成形工程」でE

VOH単層の表面にフィッシュアイが形成されるのであるから,当業者は,EVOH単層をフィードブロックに供給して「共押出工程」を行う際に,EVOH層と他の樹脂層との界面にフィッシュアイやゲル等の欠陥が発生することは容易に予測がつく。
また,甲1には,EVOHペレットの微粉が多いと,成形性に悪影響(ゲルやフィッシュアイの発生など)を及ぼすことが記載されている。したがって,EVOH層を含んだ積層体を成形する際に,粒径の小さい微粉の量を少なくすればEVOH層と他の樹脂層との界面のゲル等の欠陥の発生を抑えられるであろうことを,当業者は容易に予測することができる。

原告の主張
(ア)

対比

甲1には,100μmの篩を通過する微粉の含有量がEVOHペレット25kgに対して0~2g未満(重量%換算で0.008%未満)であることが記載されていることから,甲1発明における32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の合計量は,0.1重量%を大きく上回ることはないと推察される。100μmの篩を通過する微粉と100μm以上500μm未満の微粉との合計量が0.1重量%以下の場合,本件発明1に甲1発明に対する新規性がない。100μmの篩を通過する微粉と100μm以上500μm未満の微粉との合計量が0.1重量%を上回る場合については,甲1発明に関して,甲1に記載されているに等しい事項又は本件特許の出願時の当業者によく知られた事項として,「3
2メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.2重量%程度」であることが認定できる(甲41,43,乙3,4)

「500μ」との数値は,EVOHペレット群に含まれる微粉に関して従来認識されていた大きさを示すにすぎず,JIS規格に定められる一般的な目開きの尺度でもある(甲41)から,篩の目開きを「500μ」とすること自体に,技術的意義はないといえる。
そうすると,本件発明1と甲1発明との実質的な一致点及び相違点は,次のようになる。
【一致点】
「目開き100μmの篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であり,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.2重量%以下であるEVOHペレット群」である点。
【相違点】
「32メッシュ
(目開き500μ)
篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下」
である点。
(イ)
a
相違点の判断
甲1に触れた当業者が,前記の技術常識1及び周知技術1の少なく
とも一方を動機付けに100μm篩を500μm篩に置換することは当業者の当然の創作能力の発揮の範囲である。
すなわち,甲1に接した当業者が,EVOH層を含む積層体を成形する際に,EVOH層の界面のゲルを減らすべく,目開き100μm篩以外の他の目開きの篩でも試験を試みることは通常の創作能力の発揮である。
また,微粉の粒径を100μmよりも大きく設定して効果を確認することや,より良い効果の発揮を期待してより大きな粒径の微粉で試験を行うことも,当業者の通常の創作能力の発揮である。
b
本件発明1は,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉
の含有量が0.1重量%以下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群。
」であり,用途も機能も特定されていない。また,
「32メ
ッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」についても,その機能は特定されていない。
目視観察による評価で確認することができるのは,多層フィルムの外観に現れるゲルの存在であって,その発生個所が「EVOH層の界面」であることまでは,目視観察によっては確認することができない。
したがって,本件発明1に関して,当業者にとって解決が把握可能に開示された課題は,目視により認識可能な,多層フィルムの外観に現れるゲルの抑制というべきであり,この課題は,甲1発明と共通する。
そうすると,
甲1発明に触れた当業者が,
「EVOH層の界面の乱れに起因するゲ
ルの抑制」というような課題に接しなくとも,外観に現れ,目視により認識可能なゲルを抑制することを目的として,ゲルの発生に対する影響が既に知られ,明らかでもあった微粉の含有量をさらに削減すべく,微粉の含有量を従来の0.2重量%から0.1重量%以下に半減させる程度のことは,設計事項にすぎない。c
引用発明との相違点が数値限定のみにあり,課題が共通する発明に
進歩性があるといえるためには,限定された数値範囲の内と外とで効果に量的に顕著な差異があること(数値限定の臨界的意義)が求められるところ,本件明細書には,実施例の記載により「微粉の含有量が0.2重量%未満の場合に,含有量が少なくなるにつれて漸減的にゲルの発生が抑制される」程度のことが示されているにすぎず,
外観に現れるゲルの抑制という意味で幾分かの改善が認められるとしても,「0.1重量%以下」という数値範囲の内と外とで効果に量的に顕著な差異があると認めることはできず,数値限定に臨界的意義があるとはいえない。d
甲1発明について,仮に「32メッシュ(目開き500μ)篩を通
過する微粉の含有量が0.2重量%程度」である点を認めることができないとしても,甲1発明は,輸送時のペレットの融着,割れ,欠け,微粉の発生を抑えることで,溶融成形性を向上させ,成形後のフィルムにおけるフィッシュアイの数を減らし,EVOHフィルムの外観特性を改善するものであるといえるから,フィルムの外観特性の更なる改善のため,フィッシュアイの発生をより一層抑制すべく,輸送時における微粉の発生をさらに抑制しようとすることは,当業者が日々の研究活動のなかで行う通常の創作能力の発揮にすぎない。
そして,100μmの篩を通過する微粉が減少すれば,それに伴い100μm以上500μm未満の微粉も減少するのであるから,
32メッシュ
(目開き500μ)
篩を通過する微粉も減少する。
したがって,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量を0.1重量%以下にする程度のことは,何ら困難性がない。
(ウ)
a
効果
本件発明から得られる効果は,EVOH界面に発生するゲルを抑制
するというものであるが,当該課題は本件特許の出願時に既に知られているし,本件発明も甲1発明も,単にゲルやフィッシュアイ等の欠陥が減るという効果を奏するものであるから,異質な効果とはいえない。
また,
本件発明は,
同質な効果であるが際立って優れた効果を有するともいえず,
当該効果は本件特許の出願時の技術水準から当業者が予測することができたものにすぎない。
すなわち,本件特許の明細書に記載された多層フィルムにおけるゲルの発生状況を目視観察により評価した結果のうち,0.2重量%の場合(比較例1)と0.08重量%の場合(実施例3)とを比較すると,微粉の含有量を制限したことによるゲルの抑制効果が1個ということになる。この程度の効果に顕著性があるとはいうことができず,評価の方法が目視観察である以上,効果に何ら異質性があるともいえない。
また,この結果からでは,ゲルの個数の減少が「0.1重量%」を境界として生じているのかを確認することができず,微粉の含有量が0.09重量%の場合にゲルの個数が減少するのかを確認することができず,効果が「0.1重量%以下」の全ての部分で満たされていると認識することもできない。
b
仮に微粉の含有量を「0.1重量%以下」に制限することで「EV
OH層の界面での乱れに起因するゲル」を抑制することが可能であるとしても,微粉を減らす動機付けが存在し,目視により認識可能なゲルの抑制というより広義の観点から「0.1重量%」という数値が得られる以上,
「EVOH層の界面での乱れ
に起因するゲルの抑制」が可能であることは,単なる効果の追認にすぎず,周知事項等に基づく動機付けにより進歩性なしとする結論に何ら影響を及ぼすものではない。

小括

以上のとおり,本件発明1は,甲1発明の単なる設計事項であり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

被告の主張について
(ア)

被告は,本件発明1と甲1発明との相違点として,
「甲1発明は,14

9メッシュ(目開き100μ)篩を通過する微粉の含有量を0.008重量%未満とするものの32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量を0.1重量%以下とするものではない」
点を主張するが,
甲1発明は,
「149メッシュ
(目
開き100μ)篩を通過する微粉の含有量を0.008重量%未満」とするものであり,
「目開き100μm篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下であるEV
OHペレット群」に含まれるから,被告の主張は,失当である。
仮に,
両者の相違がこの点にあったとしても,
前記ウ(ア)の
「合計量が0.
1重量%
以下の場合」及び「合計量が0.1重量%を上回る場合」の場合分けによる議論がそのまま該当する。
(イ)a

本件発明の課題及び作用効果等の解釈において,本件特許の発明の
詳細な説明に記載されていない「不完全溶融ゲル」「不完全溶融EVOH」という,
概念を追加して説明することは失当であり,これらの概念に基づく取消事由1~4についての主張も全て失当である。
本件発明の課題には,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」
としか記載さ
れておらず,本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づかずに,本件発明の課題を「不完全溶融EVOHに起因する界面での乱れに基づいて生じ,相手側樹脂層に突出するような形状を呈する不完全溶融ゲル」に限定する被告の主張は誤りである。b
被告の主張によると,不完全溶融EVOHがゲル化に至る原因は,
相手方樹脂と合流する前に既に発生している。
そうすると,被告の主張する「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」は,EVOH層と隣接する相手側樹脂と合流する前に既に形成されていたゲルであって,「界面の乱れ」
に起因して発生したゲルではないから,
被告の主張は,
失当である。
また,下図Aのイ,
ロ,ハに示すように,EVOHの単層成形工程で発生した「熱
架橋ゲル」が,EVOH界面付近に接近し,相手側樹脂と合流した際にEVOH界面において乱流を発生し,相手側樹脂に突出するようにしてゲルが発生する場合も考えられる。熱架橋ゲル」

が界面に乱流を起こすため,
熱架橋ゲルの周囲が滞留し,
劣化し,ゲルとなると考えられる。これはまさに,
「EVOH層の界面での乱れに起
因するゲル」である。

本件発明の課題である「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」とは,「界面
での乱れ」というゲルの発生要因を満たせばよいのであって,不完全溶融に限定する理由やEVOHに限定する理由はなく,
熱架橋ゲル由来のものを除く理由もない。
(ウ)

本件特許の実施例では,本件発明の課題である「EVOH層の界面で
の乱れに起因するゲル」が減少したか否かはわからないから,本件発明の効果を立証できていない。
(2)

甲1発明及び甲3
本件発明1と甲1発明の対比の誤り

前記1(1)イのとおり。

判断の誤り
(ア)

前記(1)イ(ア)のとおりであって,審決の進歩性の判断における「新たな
課題」の認定には,誤りがある。
(イ)

審決は,
「本件特許発明1の課題が,
甲第1号証及び甲第3号証に記載

されていないから数値を選択する動機付けがない」
とするが,
①技術分野の関連性,
②課題の共通性,③作用,機能の共通性,④引用発明の内容の示唆という各要因については一切触れずに,
「本件特許の課題が,引用文献から認識できるか否か」に拘
泥するものであり,引用発明同士を組み合わせる際の動機付けの判断手法に誤りがある。
引用発明同士を組み合わせる上で,課題が共通することは,動機付けが存在することを肯定する有力な要因であるが,①技術分野の関連性,②課題の共通性,③作用,機能の共通性,④引用発明の内容の示唆のいずれか一つが可能であれば足り,課題の関連性が動機付けの唯一の要因ではない。
甲1発明と甲3の技術は,
「樹脂ペレットから樹脂製品を成形する」
という技術分
野で共通する。また,甲1発明と甲3の技術は,
「微粉が多いと樹脂製品の成形性に
悪影響がある」という課題が共通する。さらに,甲1発明と甲3の技術は,「微粉を
減らして樹脂製品の成形性を向上させる」という作用,機能が共通する。そうすると,甲1発明に甲3の技術を適用することに動機付けが存在するから,甲1の「目開き100μm篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群」という発明に,甲3の「微粉の定義が500μm以下」という技術を適用して「目開き500μm篩」とすれば,本件発明1に容易に想到する。(ウ)

審決は,
「甲第3号証には,
『EVOH層の界面での乱れに起因するゲ

ルの抑制』との新たな課題を解決するために『32メッシュ(目開き500μ)』と
いう数値を選択する動機付けがあるとはいえない。
」としたが,次のとおり,この判
断は誤りである。
a
甲1及び3に本件特許の課題が記載されておらず,かつ,仮に,甲
1の課題と甲3の課題とが相違していても,技術常識1に基づいて,甲1の発明に甲3の技術を適用する動機付けは存在する。
b
EVOHフィルムの外観に悪影響を招くゲルは,EVOH単層フィ
ルム成形の際に既に発生したものであり,製造工程において,EVOHフィルム単層の成形後にEVOHフィルム単層にゲルが存在しないのに,多層フィルムを貼り合って成形させる際にゲルが発生することは,あり得ない。
微粉を除去すると,多層フィルムのゲル問題及び単層フィルムのゲル問題を同時に解決できるはずであり,
「EVOHの微粉含量は少なければ少ないほど良い」
及び
「微粉によるゲルの発生により,フィルムの外観欠陥に導く可能性がある」というのは,本件発明の出願時における周知の技術である。
微粉の除去は,本件発明に属する技術分野で周知の知識と手段であり,微粉の除去がゲルの減少や消去に導くことも周知である上,減少または消去されるゲルは,「界面でのゲル」であろうか「単層フィルム中のゲル」であろうか,実際に差異が存在しない。
甲3の記載に接した当業者は,成形性に影響を及ぼすプラスチックペレットの劣化に微粉があり,その粒子サイズは,500μm以下であると理解することができる。そして,EVOHがプラスチックのなかで最高レベルのガスバリヤー性を有する機能性樹脂として知られ(甲40)
,プラスチックの一種であることから,甲3に
具体的に記載されている分離方法を採用するには至らないまでも,成形性の評価の対象とする微粉の大きさの目安を得るためにプラスチックペレットの劣化(微粉)という観点で共通する甲3を参酌することは,十分にあり得る。
甲1発明において,荷積み又は振動により生じる割れ,欠けと微粉とを振り分けるため,プラスチックペレットの劣化という観点で技術分野が共通する甲3に着目し,微粉の発生状況の確認を目的として,目開き100μmの篩に代えて目開き500μmの篩を採用することは,当業者にとって容易になし得ることである。甲1では,
篩の目開きを100μmとする具体的な根拠は示されていないのであるから,篩の目開きとして500μmを選択することを阻害する要因は,
存在しない。
また,
甲46及び47にも,微粉除去の際に,スクリーン(篩)の目開きを500μmにすること,スクリーンの選択については,欧州規格FEM2482に基づくことが記載されており,樹脂ペレット群に対する微粉除去に際し,甲3の欧州規格FEM2482に基づき,目開き500μmの篩を採用することは通常行われていることである。
そうすると,当業者が,甲1の「目開き100μm篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群」という発明に甲3の微粉の定義(「微
粉の定義が500μm以下」を適用し,
「目開き500μm篩」を選択し,甲1発明
に甲3の技術を繰り入れて本件発明1とすることは容易である。
c
本件特許の明細書【0015】


【0016】に基づき,

当業者は,

篩,風力などのドライ方式以外に,水や他の溶剤などのウェット方式により微粉を除去可能であると理解することができ,微粉の含有率は少ないほどよくなるため,欧州規格FEM2482のウェット規格により分離することに,
障害は存在しない。
甲3の記載によると,欧州規格FEM2482の試験基準に記載されるプラスチック粒子があくまで例示であり,特定のプラスチック粒子に限定されるわけではなく,洗浄液の限定もなく,その例示のプラスチック粒子は,所定のプラスチック粒子に適用する洗浄液の種類を参考として提供するだけであり,場合に応じて製品と洗浄液との組合せを確認しなければならない。熱加工におけるエチレンビニルアルコール系樹脂のバリア性の内容に基づき,甲3の欧州規格FEM2482の試験基準は,PA膜(Nylon

6)に適用するだけではなく,平均水含有量がPAに

近いEVOH膜(L171)及びより少ないEVOH膜(EF-XL)に適用することができる。
甲3の欧州規格FEM2482には,EVOH及びPAの吸水後における体積変化の公式が記載されておらず,洗浄液による体積変化によりEVOH及びPAに対する適用を排除する客観的な根拠がない。欧州規格FEM2482によると,PAペレットに対して水やエタノールを洗浄液として使用可能であることが明白に教示されるのであって,欧州規格FEM2482がPA等のプラスチック粒子には適用可能であるものの,EVOHペレット群とその微粉に適用可能でないとの被告の主張は,事実と異なる。
(エ)

審決は,
「本件特許発明1による効果は,
『EVOH層の界面での乱れ

に起因するゲルの抑制』であって,甲1発明及び甲第3号証の記載事項から当業者が予測し得た程度のものとはいえない。
」としたが,当該判断は,前記(1)ウ(ウ)のと
おり,誤りである。
(3)

甲2発明及び設計事項
判断の誤り
(ア)

前記(2)イ(ア)のとおり,審決は,本件特許の出願時の「新たな課題」を
誤認し,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量を特定する動機付けがなく,この特定が単なる設計事項であるとはいえないとの誤った判断をした。
(イ)

審決は,
「本件特許発明1による効果は,
『EVOH層の界面での乱れ

に起因するゲルの抑制』であって,甲2発明から予測し得た程度のものとはいえない。
」としたが,誤りである。
甲2には,EVOHペレット群から樹脂成形を行う際に,EVOHの微粉が原因となって融着を引き起こし,成形工程でフィッシュアイ(ゲル)が発生することが記載されているから,甲2に接した当業者は,前記の技術常識2及び周知技術1から,EVOHペレット群中の粒径の小さい微粉を減らせばEVOH界面のゲルが減少するであろうことは容易に予測できる。
したがって,本件発明1の「EVOH層界面の乱れに起因するゲルの抑制」という効果は,甲2発明から当業者が容易に予測し得た程度のものである。イ
原告の主張
(ア)

甲2発明

甲2には,次の甲2発明が記載されている。
「EVOHの微粉を含んだEVOHペレット群」
(イ)

対比

本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。【一致点】
「EVOHの微粉を含んだEVOHペレット群」である点。
【相違点2】
「32メッシュ
(目開き500μ)
篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下」
である点。
(ウ)

相違点の判断

甲2には,EVOHペレット群の中に微粉が含まれていると,フィルム等の積層体を成形する際に,フィッシュアイ等の欠陥が発生することが記載されている。そうすると,甲2発明の技術的思想の延長線上において,フィルム等の積層体の成形工程においてフィッシュアイ等の欠陥が発生しないようにするために,微粉の含有量を極力少なくすること及び含まれる微粉の粒径を極力小さくすること,つまり,
『32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下』とすることは,単なる設計事項である。
また,前記の技術常識1から,甲2発明に触れた当業者が,
「32メッシュ(目開
き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下」とすることの動機付けは存在する。
したがって,本件発明1は,甲2発明及び設計事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
(4)

甲2発明,甲1及び甲3
対比の誤り

審決が,本件発明1について,
「甲1発明,一致点及び相違点の認定は,上記[そ
の1]
(主引例:甲第1号証+設計事項)で説示したとおりである。
」としたのは,
誤りである。
当該箇所は,
「甲2発明,一致点及び相違点の認定は,上記[その3]
(主引例:
甲第2号証+設計事項)の(2)で説示したとおりである。
」が正しい。

判断の誤り
(ア)

前記(2)イ(ア)のとおり。

(イ)

前記(3)ア(イ)のとおり,本件発明1の効果は,甲2発明から予測し得た
程度のものである。
(ウ)

審決は,本件特許の出願時の「新たな課題」を誤認し,甲2発明に甲
1及び3に記載された事項を組み合わせる動機付けに欠けるから本件発明1のように特定することは容易であるとはいえないとの誤った判断をし,さらに,本件発明1の効果は甲2発明,甲1及び3から予測し得た程度ではないとの誤った判断をした。

原告の主張

甲2には,EVOHペレット群の中に含まれる微粉が,乾燥処理や樹脂組成中において融着を起こしたり,溶融成形工程においてフィッシュアイが形成される傾向がある旨が記載されている。
甲1には,EVOHペレット群を100μmの篩で篩分けすること及び発生した微粉の含有量が0.1重量%であったことが記載されている。
甲3には,プラスチックペレット群のうち,その粒子サイズが500μm以下の粒子を「微粉」と定義していることが記載されている。
したがって,甲1~3に接した当業者は,甲2発明において,甲2に記載された周知の課題(微粉がフィッシュアイの原因となること)を動機付けとして,EVOHペレットに含まれる微粉について,甲1に記載された微粉の含有量及び甲3に記載された500μmの粒径に設定して,相違点2とすることは容易である。また,本件特許の出願時において,前記の技術常識1から,甲2発明に,甲1発明及び甲3の技術を適用することに動機付けは存在する。
そうすると,本件発明1は,甲2発明,甲1及び3に基づいて当業者が容易に発明できた。
(5)

甲2及び周知慣用技術
判断の誤り
(ア)

前記(2)イ(ア)のとおり。

(イ)

前記の技術常識1及び2並びに周知技術1から,EVOHペレット中
の粒径の小さい微粉を減らせばEVOH界面のゲルが減少するであろうことは当業者であれば容易に予測できる効果である。
そうすると,本件発明1の「EVOH層界面の乱れに起因するゲルの抑制」という効果は,甲2発明及び周知慣用技術から当業者が容易に予測し得た程度のものである。
(ウ)

審決は,甲2発明において「新たな課題」を解決するために本件発明
1のように特定することは容易であるとはいえないとの誤った判断をし,さらに,本件発明1の効果は甲2発明及び周知慣用技術から予測し得た程度ではないとの誤った判断をした。

原告の主張
(ア)

前記の周知技術1及び技術常識1から,微粉の含有量や粒径を本件発
明1のように設定することは当業者の通常の創作能力の域を出ない。(イ)a

甲3には,プラスチックペレットが具体的にEVOHペレットであることは明示されていないものの,EVOHは,プラスチックの一種に分類され,EVOHペレットは,微粉による最終製品への影響を抑制するため,ペレットクリーンシステムを必要とする点で甲3記載のプラスチックペレットと共通する。したがって,甲3に接した当業者は,EVOHペレットの微粉コンテント(粒子サイズが500μm以下の粒子の断片)通常の状況下で10~2000ppm,が,
例えば,質量1kgのペレットサンプルに対して質量10~2000mg(重量%換算で0.001~0.2%)程度含まれるとの大まかな目安を得ることができる(甲41,43,乙3,4)

そして,
「EVOHペレット群の微粉を減らすことが周知慣用技術である」である
から,甲2発明において,甲3の記載から目開きが500μmの篩を採用したうえで周知慣用技術を適用し,微粉の含有量を0.2重量%から減らしていくことは,当業者であれば容易になし得ることである。
b
本件発明1の効果は,甲2発明(目開き500μの篩を通過する微
粉を0.2重量%程度含む)の効果と比較して僅かに有利であるといえても,ゲルの抑制により外観性を改善するという意味で異質であるとまではいえず,「EVO
H層の界面での乱れに起因するゲル」が抑制されることにより多少際立った効果が得られたとしても,実施例の記載から把握することのできる効果が目視観察により認識される範囲のものであるという限りにおいて,何ら顕著なものではなく,甲2発明から予測可能の域を出ない。
c
したがって,本件発明1は,甲2発明及び周知慣用技術に基づき,
当業者が容易に想到し得たものである。
3
委任省令要件違反及び実施可能要件違反
(1)

委任省令違反

ア(ア)

本件特許の課題は「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生
を抑制する」ことである(本件明細書【0005】。

本件特許の出願時において,
EVOHペレット群中に含まれる微粉が少ないほど,
EVOH単層及びEVOH層を含んだ積層体を成形する際にゲル,フィッシュアイ,
サージング等の不具合を減らすことができるのは本件特許の出願時において,技術常識であった。
本件発明1の「0.1重量%以下」という数値は,EVOHペレット群中に,微粉が全く無いか,又はなるべく少ない方が良い,という程度の意味である。したがって,本件発明1の技術的意義については「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」の意義,すなわち,
「粒径を特定した意義」の理解が重要と
なる。
しかし,本件明細書【0006】【0007】【0015】【0036】~【0,


045】には,微粉の粒径「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」(

が,課題解決にどのような作用をもたらすものであるのかその関連性が記載されていないから,本件特許の技術的意義(技術的貢献)が理解できない。(イ)

本件特許の実施例では,
「32メッシュ(目開き500μ)篩」以外の

篩では試験を行っておらず,EVOHペレット群全体の粒径分布及び平均粒径が記載されていない。

本件特許の課題は,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」

であるが,次のとおり,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」とはどのよう
なものを含み得るのか不明であるから,当業者は本件発明の技術的意義を理解できない。
(ア)

本件特許の発明の詳細な説明には,発生位置,ゲルの大きさ,形状等
については記載されていない。
本件特許の実施例におけるゲルの発生位置は図2のパターンが考えられる。①EVOH層の真ん中付近にゲルが発生する場合
②EVOH層の表面側にゲルが発生する場合
③EOHV層の表面に接するようにゲルが発生する場合④EVOH層と他の樹脂層との間にゲルが発生する場合⑤他の樹脂層の表面に接するようにゲルが発生する場合⑥他の樹脂層の表面側にゲルが発生する場合
⑦他の樹脂層の真ん中付近にゲルが発生する場合
本件特許の「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」は上記の①~⑦のどのゲルが該当し,又は該当しないのかが不明である。また,実施例ではどの程度の大きさのものをゲルとして計測したのかも不明である。ゲルとゲル以外の不具合についてはどのように判別したのかについても不明である。さらに,EVOH層界面だけでなく,EVOH層の内部又は隣接する他の樹脂層の内部にもゲルは発生したと考えられるが,EVOH界面のゲルとそれ以外のゲルとをどのように判別したのか不明である。
この点について,本件明細書【0038】には,(成形性)


上記の製造で48

時間後に得られた多層フィルムから10cm×10cmの大きさのフィルムを採取して,EVOH層の乱れによるゲルの発生状態を目視観察して以下のように評価した。
」と記載されているにすぎず,本件発明の課題として「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」とより限定された課題を掲げているにもかかわらず,その実体的な内容については記載されていないため,
技術的意義を理解することができない。
(イ)

本件特許の実施例(本件明細書【0035】~【0044】
)で形成

された積層体(多層フィルム)は,図3に示すような層構成を示す。
図3:多層フィルム断面図【実施例】
実施例のEVOH層は,厚さが10μmである。また,隣接するナイロン-6層及び接着層の厚さも10μmである。人の分解能(2点を2点として見分けられる限界)は200μmといわれている。本件明細書【0038】では,「目視観察」に
よってゲルの個数を計測したと記載されている。
また,
本件審判の答弁書
(甲41)
でも,被告は「目視観察で十分に評価することができる」と主張している。しかし,人の分解能を勘案すると,数10μmのゲルが目視で観察できるとは考え難い。仮に,数10μmのゲルが見えたとしても,ゲルが「EVOH層界面」に発生したかどうかまでは判別することはできない。一方,人が目視で観察できるゲルであるならば,ゲルが数百μmである場合と考えられるから,もはや積層体(フィルム)全体に亘るようなゲルであって,
「EVOH層界面」に発生するゲルではな
い。
(ウ)a

本件特許の課題は,
「界面での乱れに起因しないゲル」
は課題解決の

対象としていない。
しかし,
「界面での乱れに起因するゲル」とは何を含み,又は含まないのか,本件明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。
上記図1のとおり,
本件特許の実施例に係る積層体の成形方法では,
「EVOHペ
レットの製造工程」「EVOHペレットの投入工程」「EVOH単層の成形工程」,


「共押出工程」を行う(本件明細書【0036】~【0045】。)「EVOH層単層
の成形工程」は,EVOHペレットを溶融,圧縮してEVOH単層を成形する工程である。
「共押出工程」は,フィードブロックの内部においてEVOH単層を他の樹脂層で挟んで,積層体を成形する工程である。
「界面での乱れに起因するゲル」とは,各層を積層させなければ生じえない概念であるから,おそらくは,共押出工程中に発生するゲルのことを意味すると推察される。しかし,EVOHは成形段階においてゲルが発生しやすい性質があるから,EVOH単層の成形工程中にもゲルは発生する。しかし,このようなゲルは,EVOH単層の成形中に発生したものであるから,EVOH層の界面に発生したとしても「界面での乱れに起因する」ゲルではない。
b
「界面での乱れに起因するゲル」と「界面での乱れに起因しないゲ
ル」が存在するのであれば,それらをどのように判別するのか,本件明細書の発明の詳細な説明には記載されていないし,本件特許の出願時の技術常識でもないから不明である。
c
本件特許に記載された実施例では「EVOH層の界面での乱れに起
因するゲル」の意味を担保するような試験は行っていないから,当業者は本件特許発明の技術的意義を理解できない。

本件発明1は,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含

有量が0.1重量%以下であること」から,微粉の含有量が0重量%又はその近傍である場合を包含するが,そのような形態のものは,本件明細書に開示されておらず,どのようにして0重量%を達成するかも不明である。

(2)

したがって,本件特許は,委任省令要件違反に該当する。
実施可能要件違反
本件特許の実施例に係る積層体の成形方法では,図1に示すように,E
VOHペレットを作製した後に,成形機を用いて「EVOHペレットの投入工程」,
「EVOH単層の成形工程」「共押出工程」を行う。

「共押出工程」については本件明細書【0037】に「フィードブロック式共押出多層フィルム成形機(グンゼ産業社製)に供給して・・・」と記載されているにすぎない。フィードブロック式共押出多層フィルム成形機内では,EVOHペレットが溶融し,層状に成形されるものであるから,積層体(多層フィルム)が成形されるように条件を整えるのは困難である。
例えば,
共押出多層フィルム成形機の型式,
スクリュ形状,
スクリュの回転速度,
成形温度等を設定することは困難であるが,本件特許の発明の詳細な説明にはこのような条件については記載されていない。
したがって,当業者は,過度の試行錯誤をしなければ積層体を成形することができない。

IS

篩分けの方法は,世界中で数多くの規定があるが,その中の一つに「J
K
6726(ポリビニルアルコール試験方法)

3.10

粒度」がある

(乙7)
。しかし,本件特許の実施例の方法では,乙7の方法を用いただけでは本件特許発明のEVOHペレット群を製造することはできない。
EVOHペレットの性質上,篩分けを行っている間中,EVOHペレット同士が擦れ合って微粉は発生し続ける。
「JIS

K
6726」では15分間篩分けを行っても,篩分けの前から存在

していた微粉及び篩分けによって発生した全ての微粉がすべて通過するとは限らない。ペレットに付着する微粉もあるし,静電気によって帯電して篩を通過しない微粉も存在する。
本件明細書【0036】【0040】の実施例の記載のように,篩を通過した微,
粉を32メッシュオンのEVOHペレット群に戻せば,32メッシュオンのEVOHペレット群に残存していた500μm未満の微粉も加算されるので,500μm未満の微粉の含有量は増加する。本件明細書【0040】の場合には,500μm未満の微粉が0.1重量%を超えることも起こり得る。
したがって,当業者は,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群を製造するには,本件特許の発明の詳細な説明では製造することが不可能であり,過度の試行錯誤を要する。ウ
本件明細書には,微粉の含有量が0.02重量%であるEVOHペレッ
ト群に関する開示があるものの,微粉の含有量が0.02重量%未満であるEVOHペレット群に関する開示はなく,その製造方法の説明もない。
甲1には,
「149メッシュ(目開き100μ)篩を通過する微粉の含有量が0.008重量%未満であるEVOHペレット群」が記載されていることから,微粉の含有量が0.008重量%又はその近傍であるEVOHペレット群であれば,これを製造し,使用することは可能であると推察される。しかし,このことは,微粉の含有量が0.02重量%である実施例の開示をもって微粉の含有量を0重量%とするEVOHペレット群が実施可能であるとする根拠とはならない。微粉が少ないほどフィルムの成形性が向上することは,本件特許の出願時における技術常識であるところ,実施可能性が担保されているとはいい難い発明(微粉の含有量が0.02重量%に満たず,特に0重量%であるEVOHペレット群)に特許を付与することは,発明開示の代償なく他社のより優れた製品を排除可能となることに帰結し,不当な結果を招来しかねない。
エ4
したがって,本件特許は,実施可能要件違反に該当する。

サポート要件違反
(1)

篩分けに関する記載について

本件発明1の
「32メッシュ
(目開き500μ)
篩を通過する微粉の含有量」
は,
「目開き500μmの篩によって篩分けして得られた微粉の含有量」と解釈されるべきであるから,その篩分けの方法及び条件については発明の詳細な説明に記載されるべき事項である。
EVOHペレットは樹脂性のペレットであるため,
例えば,
篩分けの時間や温度,
一回の篩分けで用いられるEVOHペレット群の量等によって微粉の発生量は全く異なる。したがって,篩分けの方法及び条件については,本件発明の作用効果を奏する上で重要な意義を有するとともに本件特許発明を特定するものであるため,本件特許の発明の詳細な説明に記載すべき事項である。
本件特許発明の篩分けの方法及び条件については,下記の項目を記載すべきである。
a)一回の篩分けでEVOHペレット群を何kg(g)篩にかけるのかb)EVOHペレット単体の粒径及び形状
c)篩分けを行った雰囲気の温度・湿度
d)篩分けを行った時間
e)篩分けの装置を用いたのか又は手動なのか,篩分けの装置であれば何社製なのか
f)何社製の篩を用いたのか
g)篩を振る回数(タップ/分)はどの程度なのか
h)例えば,
「JIS

Z
8815」などの規格があるが,どのような規格の篩分

け方法を採用したのか
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,篩分けに関する具体的な方法及び条件が記載されていないから,本件発明の「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」をどのように篩分けして得るのか不明である。
したがって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない。(2)

積層体の材料について

本件明細書の実施例(
【0036】~【0045】
)では,EVOH層に隣接する
層としてナイロン-6層及び接着層(無水マレイン酸変性ポリプロピレン)以外の材料については試験を行っていない。本件明細書【0029】に記載された材料を用いて積層体を成形すること自体は可能かもしれないが,本件特許の課題を解決できるという根拠は皆無である。また,本件特許の出願時の技術常識を参酌しても,発明の詳細な説明に開示された内容を特許請求の範囲に拡張又は一般化することができない。
したがって,
「樹脂の組合せを変えた多層フィルムを作成して,
上記課題を解決す
ることができると認識できる。
」とした審決の判断に誤りがある。
(3)

微粉の含有量の数値範囲について
特許請求の範囲で特定される数値範囲は,その数値範囲の全域において
効果を奏する必要がある。
本件特許の実施例(本件明細書【0036】~【0045】
)では,下限値は0.
02重量%であり,上限値は0.08重量%である。したがって,本件発明の下限値及び上限値(臨界値)及び臨界値の近傍については根拠がない。また,本件発明の技術的範囲内においては,0.02重量%,0.03重量%及び0.08重量%の3ケースしか試験を行っていないため,
「0.1重量%以下」の全範囲において本
件発明の効果を奏するのか不明である。また,臨界値の近傍の内外で本件発明の効果に違いがあるのかも不明である。
したがって,本件発明は,本件特許の発明の詳細な説明に記載されていない。イ
本件明細書では,実施例として,微粉の含有量が0.08重量%(実施
例3)
,0.03重量%(実施例1,2)
,0.02重量%(実施例4)のもの,比
較例として,微粉の含有量が0.2重量%(比較例1)のものが開示され,それぞれについて,フィルムにおけるゲルの発生状況を目視観察により評価した結果が示されている。
しかし,この結果からでは,ゲルの個数の減少が「0.1重量%」を境界として生じているのかを確認することができない。
微粉の含有量が0.2重量%の場合(比較例1)と0.08重量%の場合(実施例3)とを比較すると,前者のゲルの発生個数が「11個以上」であるのに対し,後者のゲルの発生個数は「5~10個」である。そうすると,微粉の含有量を0.2重量%から0.08重量%に減少させた効果が僅かに1個なのであるから,その効果が得られるか否かの境界が0.08重量%であるのか,0.09重量%であるのか,0.1重量%であるのか,本件特許の出願時における技術常識を参酌しても当業者にとって理解し得るものではない。
そうすると,
微粉の大きさと含有量とが本件発明が定める範囲にあれば,
「EVO
H層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」という課題を解決し,所望の性能を有するEVOHフィルムを製造可能であることが,上記四つの実施例により裏付けられていると認識することは,本件特許の出願時の技術常識を参酌しても不可能である。

本件明細書に「不完全溶融EVOH」
,すなわち,微粉の不完全溶融に関

する説明を見いだすことはできない。
本件明細書にあるのは,
「成形時にEVOH層界面での乱れに起因するゲル」

【0
001】,
)「押出機へのフィードの不安定性等によりEVOH層の界面での乱れに起因するゲル等」

【0005】,

「成形物に溶融成形したときにEVOH層界面での
乱れに起因するゲル」【0007】,

)「本発明のEVOHペレット群は,かかるペレ
ットを用いて溶融成形する際に,
得られる成形物にゲルが発生しない」

【0027】,

「EVOH層の乱れによるゲルの発生状態」【0038】

)だけである。
これらの記載から読み取ることができるのは,①微粉を含むEVOHペレット群の溶融成形時に,②押出機へのフィードの不安定性等によりEVOH層の界面に乱れが生じ,③この乱れに起因して,成形フィルムにゲルが発生すること,が限度である。
上記②の
「フィードの不安定性」
が具体的に何を意味するのかが分からなければ,
これに付随する上記②の「層界面の乱れ」及び上記③の「フィルムのゲル」についても理解できないところ,
「フィードの不安定性等」との記載からでは,
「EVOH
の不完全溶融」
との現象を認識し,
「EVOHの微粉が不完全溶融の状態にとどまる
ことが原因で,多層合流時の界面での流動不安定(乱流)を生じること」を理解することは,本件特許の出願時の技術常識を考慮しても当業者にとって容易なことではない。
また,本件明細書からでは,本件発明1が抑制対象とする「層間ゲル」が何であるか,具体的には,実際に得られた成形フィルム上で「層間ゲル」がどのような外観形態をもって現れ,何を基準に「層間ゲル」であると判断すればよいかを,当業者が理解することができない。
そうすると,実際の成形フィルムについて,層間ゲルを識別し,フィッシュアイ等の従来のゲルと区別して,その発生状況(例えば,層間ゲルの個数)を評価することは,困難であったといわざるを得ず,本件明細書の記載は,本件発明1の課題の解決を当業者が把握することができるように記載されたものとはいえない。(4)

ホウ素の数値範囲について

本件明細書【0019】には,
「EVOHに対してホウ素換算で0.001~1重
量%」という記載がある。

上記の「本件特許の実施例対比表」に示すように,実施例では,実施例1,3,4及び比較例1ともホウ素化合物の含有量は0.
03重量%
(ホウ素換算)
である。
したがって,0.001~1重量%のうち,0.03重量%以外の数値については本件発明2の効果が得られるか不明である。実施例2ではホウ素を混入していないにもかかわらず,
「成形性」の判定は実施例1と同じ「◎」であり,上記の実施例では,ホウ素が本件発明の課題に寄与するか否か不明である。
したがって,本件発明2は,本件特許の発明の詳細な説明に記載されていない。(5)

粒径について
本件発明1は,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含

有量が0.1重量%以下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群。
」である。当該EVOHペレット群は,0~500μm未満の粒
径の微粉が0.1重量%以下であることが特定されているが,500μm未満の微粉以外のEVOHペレットの粒径については何ら特定されていない。また,本件特許の明細書等にも,篩分けを行った後,積層体を成形する前のEVOHペレット群全体の粒径分布,平均粒径等については記載されていない。

篩分けを行った後,篩に残存するEVOHペレット群の中には,500
μmを超える粒径の微粉や,割れ,欠け,ペレットなど様々な形状,大きさのものが含まれていると考えられる。
例えば,表1のパターンは,本件発明の技術的範囲に含まれる形態を粒径と含有量に分けてまとめたものである。
表1のNO.1~3に示すように,
「篩を通過しない微粉,割れ,欠けなど」が0
重量%である場合も考えられる。一方,NO.4~6に示すように,「501μmの
微粉が50.0重量%」である場合のように,500μmを超える微粉が非常に多く含まれる場合も本件発明の技術的範囲の中に含まれる。しかし,微粉の粒径が1μm~2μm異なるだけであり,含有量も多量であるならば,NO.4~6においてEVOH界面にゲルが発生する蓋然性は極めて高い。技術常識に鑑みると,微粉の含有量とゲルの発生に相関関係があるのであるから,
EVOHペレット群のうち,
残りの99.9重量%以上のEVOHペレット群の粒径,含有量等がEVOH界面のゲルの発生に全く寄与しないということはあり得ない。
「粒径500μmの微粉が0.1重量%以下だとEVOH界面のゲルが抑制できたという結果」に加え,
「粒径500μmを超える約99.9重量%以上のEVOH
群の粒径及び含有量はEVOH界面のゲルの発生に何ら寄与しない」ということが実施例で立証されない限り,本件発明の技術的な根拠は認められない。ウ
32メッシュオフの微粉の平均粒径が100μm前後の場合と400μ
m前後の場合とでは,前者の場合は,微粉のほぼ半分が100μmよりも小さな粒径であり,EVOH層の界面での乱れに影響しない一方,後者の場合は,大半が100μmよりも大きな,500μmに近い粒径であり,EVOH層の界面での乱れに影響を与えることになる。
例えば,32メッシュオフの微粉の含有量が0.08重量%の場合を考えると,平均粒径によっては実施例3で確認された所望の効果が得られないこともあり得る。実施例3では微粉の平均粒径が小さかったから(換言すれば,100μm未満の微粉を多く含んでいたから)
ゲルの抑制効果が得られたとすると,
同じ0.
08重量%
の含有量のものであっても微粉の平均粒径が実施例3よりも大きく,500μmに近い粒径の微粉を多く含んでいたならば,より多くの微粉がEVOH層の界面での乱れに影響を及ぼすこととなり,所望の効果が得られなくなる。
そうすると,
「32メッシュ
(500μ)
篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%
以下」でありさえすれば,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」とい
う本件発明の課題が解決されることの裏付けが発明の詳細な説明にあるとはいえない。

(6)

したがって,本件特許は,サポート要件違反に該当する。
材料について
本件発明1において,EVOHペレット中のエチレン含有量,ケン化度
及びMFR(メルトフローレート)は,数値限定されていない。
しかし,前記「本件特許の実施例対比表」によると,本件特許の実施例は,「エチ
レン含有量」については「32モル%」「40モル%」「ケン化度」については「9,

9.6モル%」「99.4モル%」「MFR」については「3g/10分」「15,


g/10分」のみである。本件特許の出願時の技術常識を参酌しても,発明の詳細な説明に開示された内容を特許請求の範囲に拡張又は一般化することができない。したがって,本件発明1~3がサポートされているのは,上記の実施例の数値のみということになる。

エチレン含有量及びケン化度とも好ましい数値範囲があることは本件特
許の出願時には知られていたことであり(甲35)
,エチレン含有量,ケン化度及び
MFRについては,
全ての数値範囲内で
「EVOH界面でのゲルの発生を抑制する」
ということはできない。

本件特許を基礎として台湾で登録された台湾特許(I356069号。
以下「本件台湾特許」という。
)は,請求項1において,
「エチレン含有量15~6
0モル%,ケン化度90モル%以上であり」と数値限定されている点で,本件発明1と相違する(甲44)
。本件台湾特許は,請求の範囲の記載が広すぎて,発明の詳
細な説明によってサポートされておらず不明確であるという理由により拒絶理由通知を受け,
「エチレン含有量を15~60重量%」「ケン化度90%以上」と数値限,
定することにより,権利化されたものである(甲45)


したがって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明を超えて請
求するものであり,サポート要件を満たさない。
(7)

「界面の乱れに起因」について
本件発明の課題は,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制」

することであり,EVOH層を含んだ積層体において「ゲルの発生原因」を限定して設定している。
しかし,
本件明細書の発明の詳細な説明には,
「EVOH層の界面での乱れに起因
するゲル」に関する記載がない。
「界面での乱れに起因するゲル」又は「界面での乱
れに起因しないゲル」はどのようなものを意味するのか,どのように区別するのかについては記載されていない。

「EVOH単層の成形工程」では,EVOH単層にゲルが発生する。し
たがって,前記図1の工程において共押出工程を経た積層体のEVOH層の界面にゲルがあるとすれば,それは「EVOH単層の成形工程」で形成されたものであって,
「EVOH層の界面での乱れに起因」して発生したゲルではない。本件特許の実施例(本件明細書【0038】
)で評価したゲルも,
「EVOH単層
の成形工程」で成形されたものであって,
「EVOH層の界面での乱れに起因」して
発生したゲルではなく,本件特許の実施例は,本件発明の作用効果を裏付けるものではない。

仮に,
「EVOH層の界面での乱れに起因」
するゲルを評価したというの

であれば,
「EVOH単層の成形工程」
で発生したゲルをどのようにして除いたのか
(区別したのか)ゲルの大きさ,

ゲルと界面との距離等の条件を説明すべきである
が,そのような説明は一切ない。
本件発明1には,EVOHペレットからEVOHの単層を成形する場合もEVOH層を含む積層体を成形する場合も含まれる。しかし,EVOHペレットからEVOHの単層を成形しても課題を解決することはできないし,本件特許の実施例にもEVOH単層での試験結果は記載されていないから,本件特許は,請求項に係る発明が,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える。

したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の作用効果
を裏付ける根拠がなく,サポート要件違反である。
5
明確性要件違反

あるEVOHペレット群(以下「対象製品」という。
)が本件発明の技術的範囲に
含まれるか否かを判断する場合に篩分けを行うと,篩分けの前に存在する微粉に加え,
篩分けの最中にEVOHペレット同士が擦れ合って新たな微粉が発生するから,篩分けを行う前のEVOHペレット群と,篩分けを行った後のEVOHペレット群とは同一ではない。
したがって,
対象製品のEVOHペレット群の微粉の含有量は,
篩分けでは正確に測定できない。対象製品が本件発明の技術的範囲に含まれるか否かの判定を,篩分けで行うことは誤りである。
したがって,本件発明の「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」は不明確であり,本件明細書の発明の詳細な説明に測定方法の記載もないから,第三者に不測の不利益を及ぼすものである。
以上より,本件発明1は,明確性要件違反に該当し,本件発明2及び3は,本件発明1の従属項であるから,同様に明確性要件違反に該当する。
第4
1
被告の主張
新規性について
(1)

対比の誤りについて

本件発明1と甲1発明の相違点は,
「本件発明1は,32メッシュ(目開き500
μ)
篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下であるのに対して,
甲1発明は,
149メッシュ(目開き100μ)篩を通過する微粉の含有量を0.008重量%未満とするものの,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量を0.1重量%以下とするものではない点。
」である。
審決の認定のように,
「149メッシュ(目開き100μ)篩を通過する微粉の含
有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群」である点で一致しているとすることはできない。
(2)

判断の誤りについて

審決の判断に誤りはない。
(3)

原告の主張について

甲1発明が,
「酢酸水溶液に浸漬後,
回分式塔型流動層乾燥器で窒素ガスに接触さ
せて得たエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット25kgを,ブレンダーに入れて,室温で10時間回転させて得られた内容物を取り出し100μmの篩にかけ,該篩を通過した微粉の重量が0~2g未満(0~0.008重量%未満)であるエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット。であることは,」
当事者
間に争いがなく,原告がこれと異なる発明を主張するのは許されない。甲1には,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過するエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレットの重量
(重量%)
について何ら記載されていないから,
本件発明1は新規性がある。
2
進歩性について
(1)

甲1発明及び設計事項について


本件発明1と甲1発明の対比の誤りについて

本件発明1と甲1発明の対比は,次のとおりである。
【一致点】
エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物の微粉を含んだエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群である点。
【相違点】
前記1(1)のとおり。

判断の誤りについて
(ア)a

EVOHの微粉の挙動は,
概ね,
次の①~⑤のように想定される
(乙

5)

例えば,①EVOHペレットを下図のようなスクリュー式押出機のホッパーに投入して,押出機内にEVOHペレットを供給し,これを圧縮溶融してダイから押し出す工程において,投入するEVOHペレットに所定条件の微粉が一定量以上混入すると,微粉が局在化する確率が高くなる。


押出機内において,EVOHペレットはせん断摩擦熱によって溶融するが,局
在化した微粉は,EVOHペレットと比較して圧縮効果が不十分であり,圧縮部で十分に溶融することができない。


圧縮部で十分に溶融できなかった微粉は,溶融樹脂中を浮遊する状態となる。
当該浮遊する微粉は,周囲の溶融樹脂からの熱伝導のみで溶融する(以下このように溶融したものを「不完全溶融EVOH」という。。せん断摩擦熱によって溶融し)
たペレットは,分子鎖がほぐれた状態であるのに対し,
「不完全溶融EVOH」は,
高分子鎖がからまった状態の粘度が高い状態で溶融EVOH中に浮遊している。このため,溶融EVOHは均質化されない状況のままダイに押し出される。④

ダイの管内を流れる溶融EVOHの流速分布は,管壁面付近が遅く中央部が速
いため,管壁面付近を浮遊する「不完全溶融EVOH」は,そのまま管壁面付近に存在する。


前記管壁面付近に存在する「不完全溶融EVOH」は,多層合流時の界面での
流動不安定(乱流)の原因となり,下の断面顕微鏡写真のとおり,界面乱れに起因するゲルを発生させる。

桜内雄二郎「プラスチック成形読本」209頁(1985年)。ただし,「供給部」「圧縮部」「計量部」の名称は,被告が追記した。
上記のとおり,
「不完全溶融EVOH」
が原因で多層合流時の界面での流動不安定
(乱流)が発生し,EVOHの積層フィルム中に点状に分布する透明な粒がEVOHの一部から他の樹脂層に突出するような形態で存在することがある。b
このことは,それまで知られていなかったものであり,被告は,被
告の顧客から指摘されて初めてこれを知ったのであって,EVOHの積層フィルム中に点状に分布する透明な粒の発生を抑制するという目的は,この時初めて成立したものである。
EVOHの積層フィルム中に点状に分布する透明な粒は,EVOH層からその一部が接着樹脂層に突出するような形態であることから,EVOH層における界面の乱れ(乱流)に基づくものであると結論づけられ,EVOH層界面での乱れに起因するゲル(以下「不完全溶融ゲル」という。
)の発生を抑制するという課題が,これ
までにない斬新な課題として定立された。
「不完全溶融ゲル」は,EVOHとは屈折
率等の物性に差異はないから,フィルムに成形された後のEVOH中の不完全溶融EVOHは,目視できない。また,EVOH単層フィルムを形成したときは,界面が存在しないため,
「不完全溶融ゲル」も発生せず,外観上問題になることはない。
「不完全溶融ゲル」は,EVOH層内に生成される熱架橋物であるゲル(EVOHが,加熱されることにより,次のような熱架橋反応を起こし,生成される異物。以下「熱架橋ゲル」という。
)とは別異の物である。熱架橋ゲルは,
(-(CH=CH)
n-)
を有するため,
フィルムに成形された場合,
茶色に焼けたような状態を呈する。
これを「焼け」「フィッシュアイ」などとも称する。


酸化

脱水素

酸化部分
1710cm-1にピーク
着色部分
架橋部分

c
以上のとおり,本件発明1は,新たな課題を解決するものである。
甲1には,フィッシュアイの発生場所は記載されていない。フィッシュアイは,EVOHにおける熱架橋反応に起因するゲル及び焼けであって,
「EVOH層の界
面の乱れに起因するゲル」ではない。
甲1に記載されたゲルやフィッシュアイは,EVOHを積層してフィルム成形した際にEVOH層の界面での乱れに起因して発生したゲルを意味するものではなく,従来の課題であった「EVOH自体が高温で過熱されて生成される架橋物に起因するゲルやフィッシュアイ」のことである。
フィッシュアイは,EVOHの層中に発生するものであって,EVOH単層の表面に発生するものではないから,甲1に記載されているフィッシュアイがEVOH単層の表面に発生することは,技術的な見地からも通常考えられない。また,このフィッシュアイは,多層合流時の界面での流動不安定(乱流)の原因とならず,界面乱れに起因するゲルを発生させることはない。
これに対し,
「不完全溶融EVOH」は,EVOHの高分子鎖がほぐれていない状態のものにすぎず,多層合流時の界面での流動不安定(乱流)の原因となり,界面乱れに起因するゲルを発生させるものと考えられる。
原告の主張は,この両者の相違を無視するものであって,誤りである。(イ)a「EVOHペレット群を用いてEVOH層を含む積層体を形成する際に,
『EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制』をすること」(技術常識
1)は,技術常識ではなく,これが存在することを前提とする原告の主張は,誤りである。
仮に「技術常識1」が本件特許の出願日前に技術常識であったとしても,甲1には,
「EVOHペレット群を用いてEVOH層を含む積層体を形成する際に,『EV
OH層の界面での乱れに起因するゲルの抑制』をすること」という事項の記載はなく,示唆もないから,これに技術常識1を適用する余地はなく,甲1に技術常識1を適用したとしても,本件発明に至ることはない。
b
「成型時の耐熱性が不安定であって,ゲルなどのトラブルが発生し
やすいこと」
(技術常識2)は,抽象的なものであって,本件発明1の新たな課題解決に向けて寄与しない。
c
「周知技術1」については,原告がその根拠として指摘する甲3~
11をみても,微粉の含有量とEVOH層を含む積層体の成形性の関係について具体的に開示した記載はなく,周知技術1は読み取れない。

原告の主張について
(ア)

対比について

a
前記アのとおり。

b
甲1発明は,149メッシュ(目開き100μ)篩を通過する微粉
の含有量を0.008重量%未満とするものであるから,この量について「0.1重量%を大きく上回ることはないと推測される」根拠はない。
また,篩の目開きを「500μ」とすること自体に,大きな技術的意義があり,それにより初めて新たな課題が解決されたものである。
(イ)
a
相違点の判断について
原告が主張する相違点(前記第3の2(1)ウ(ア))は,微粉の定義の基
準となる微粉の定義の基準となる篩のメッシュ値を変更することが容易であるとするものにすぎず,甲1発明及び本件発明1の技術思想を考慮しない不当なものである。
甲1において100μmの篩を使用しているのは,特定の貯蔵弾性率を有するEVOHペレットの物性評価をするためであって,EVOHペレット群に占める特定の大きさの微粉及びその含有量と溶融成形性の関係性については何ら着目していない。また,甲1は,溶融成形性として,単層フィルムに従来の課題であった「EVOH自体が高温で過熱されて生成される架橋物に起因するゲルやフィッシュアイ」が存在することを評価しているにとどまる。
したがって,甲1には,EVOHペレット群に含まれる特定の微粉を特定量以下に抑えることによって,成形物に溶融成形したときのEVOH層界面での乱れに起因するゲル発生を抑制できることを示唆するような技術思想は開示されておらず,甲1には,EVOH層の界面乱れを減らすべく,目開き100μm篩以外の他の目開きの篩の数値を選択する動機付けの記載も示唆もない。
b
本件発明1が把握した課題及びその解決手段は,2~3mm程度の
ペレットに対して,粒径500μm(0.5mm)未満の微粉の含有量を0.1重量%以下に制御すること(解決手段)により,
「不完全溶融EVOH」に起因する界
面での乱れによるゲル(EVOHの一部が他の樹脂層に突出するような形態で,点状に分布する粒状のゲル)の発生(課題)を抑制することができる(課題解決効果の奏効)というものであり,相違点1に係る構成は,甲1発明から容易に想到することはできない。
(2)

甲1発明及び甲3について
本件発明1と甲1発明の対比の誤りについて

前記2(1)のとおり。

判断の誤りについて
(ア)

前記(1)イ(ア)のとおりであって,審決の「新たな課題」の認定に誤りは
(イ)

原告の主張は,
「新たな課題」がないことを前提にするものであり,そ

ない。

の前提には誤りがあるから,成り立たない。
甲3に記載されている,粒子サイズが500μm以下の断片がプラスチックペレットから最終製品への変換に深刻な影響を及ぼすことがあるとしても,本件発明1が示した「新たな課題」を明示も示唆もしておらず,また,その量についても何ら記載も示唆もしていないから,甲3の記載を適用して,2~3mm程度のペレットに対して,粒径500μm(0.5mm)未満の微粉の含有量を0.1重量%以下に制御すること(解決手段)により,
「不完全溶融EVOH」に起因する界面での乱
れによるゲル(EVOHの一部が他の樹脂層に突出するような形態で,点状に分布する粒状のゲル)の発生(課題)を抑制することができる(課題解決効果の奏効)という本件発明1の解決手段に容易に想到するとすることはできない。甲1には,EVOHペレット群に含まれる特定の微粉を特定量以下に抑えることによって,EVOHの溶融成形性を向上できることを示唆するような技術思想は開示されていない。
また,甲3の「微粉の定義」の項で「微粉」が粒子サイズ500μm以下のものと定義されている趣旨は,甲3記載の試験方法の適応の有無を判断するために,微粉を他のストリーマー等の粒子断片と区別するために設けられたものであり,甲3は,製品に含まれる微粉・ストリーマーの量を測定して製品の質を確認したり,性能を評価する際の試験方法を提案したものにすぎない。
したがって,
甲1及び3の記載を踏まえて,
「甲第1号証の発明に甲第3号証の技
術を適用することに動機付けが存在する」と認定することはできない。(ウ)

甲3には,微粉・ペレット間の粘着力を削減してペレットから微粉を
分離するために,洗浄液として水やエタノールを用いるウェットプロセスを採用することが提案されている。EVOHは,分子構造中に多数のヒドロキシル基(-OH)を有しているため,水やエタノールとの親和性が高く,これら液体と接触すると吸収し,膨潤して体積が大きくなる(乙8)
。それと同時に,柔らかくなるという
物性の変化が生じる。そのため,EVOHペレット群及びそれを用いた積層体の技術分野における当業者は,甲3に記載されているウェットプロセスでは,EVOHペレットから微粉を正確に分離することはできないと考えて,甲3の記載内容を参酌することはしないから,甲3の記載を元に粒子サイズが500μm未満のEVOHの微粉を除去しようと想到することはない。
また,
甲46及び47が本件特許の出願日前に公知となっていたかは不明であり,甲46及び47の記載を踏まえて,
「樹脂ペレット群に対する微粉除去に際し,
甲3
の欧州規格FEM2482に基づき,目開き500μmの篩を採用することは通常行われている」と認定することもできない。
したがって,甲1発明に甲3の記載を適用して本件発明1に容易想到であるとすることはできない。
(エ)

本件発明1の効果は,甲1発明及び3の記載事項から当業者が予測し得た程度のものとはいえないという審決の判断に誤りはない。
(3)

甲2発明及び設計事項について
判断の誤りについて

審決の判断に誤りはない。

原告の主張について

甲2には,含水率が60重量%を超える樹脂組成物が微小なフィッシュアイの原因となることが記載されているにすぎず,ここでいうフィッシュアイは,従来の課題であった「EVOH自体が高温で過熱されて生成される架橋物に起因するフィッシュアイ」のことである。
したがって,甲2には,本件発明が着目した「不完全溶融EVOH」によるEVOH層の界面での乱れに起因するゲルについての記載はなく,EVOHペレット群に含まれる特定の微粉を特定量以下に抑えることによって,微小なフィッシュアイ(熱架橋ゲル)の発生を抑制できることを示唆するような技術思想も開示されていないから,甲2の技術思想の延長上に本件発明1があるとする原告の主張は,誤りである。
(4)

甲2発明,甲1発明及び甲3について
対比の誤りについて

甲2に記載された発明は,EVOHの微粉を含んだEVOHペレット群」「
である。
甲1発明は,
「エチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット25Kgを所定の操作後に100μmの篩にかけ,該篩を通過した微粉の重量が0~2g未満(0.008重量%未満)であるエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレットである。

したがって,
甲2発明と甲1発明とは,
「EVOHの微粉を含んだEVOHペレッ
ト群」で一致し,甲2発明と本件発明1との相違点は,甲1発明と本件発明1との相違点を把握すれば足りる。
そうすると,
審決が甲2発明を主引例とする
[その4]
の検討に際し,
「甲1発明,
一致点及び相違点の認定は,上記[その1]
(主引例:甲第1号証+設計事項)で説
示したとおりである。
」と説示した点に何ら問題はない。

判断の誤りについて

審決の判断に誤りはない。

原告の主張について

甲2は,
微少なフィッシュアイ
(熱架橋ゲル)
に関するものである。
甲1発明は,
前記1(3)のとおりであり,100μm未満の微粉が0.1重量%以下と記載しているものではない。
本件発明1の新たな課題を甲2も甲3も何ら開示していないから,原告の主張は成り立たない。
(5)

甲2発明及び周知慣用技術について

本件発明1は,熱架橋ゲルに関するものではなく,
「不完全溶融EVOH」に起因
する界面での流動不安定に基づいて生じる「不完全溶融ゲル」の抑制に関するものであるから,甲2発明に「技術常識1」「技術常識2」

,及び「周知技術1」を適用
しても,本件発明1には至らない。
3
委任省令要件違反及び実施可能要件違反について
(1)

委任省令違反について
本件発明1は,本件明細書【0003】において,EVOHのゲルや焼
けが発生して成形物(特にフィルムやシート等)のロングラン性や外観性が低下することを開示し,特許文献1~3が当該EVOHのゲルや焼けを抑制する対策が採られていることを記載している。その上で,本件明細書【0005】において,EVOHの「ゲルや焼け」
(熱架橋ゲル)とは異なる「EVOH層の界面での乱れに起
因するゲル等」の発生(不完全溶融ゲル)を課題とすることを明記している。そして,本件明細書【0006】において,
「EVOH層の界面での乱れに起因す
るゲル等」の発生を抑制する解決手段を開示している。
発明は,技術的課題についての具体的解決手段として成立するものであり,当該解決手段によって技術的課題を解決するという作用効果を奏するものである。この具体的解決手段としての発明について,特許法は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを要求している(特許法36条4項1号)のであり,その解決原理や解決メカニズムを明らかにすることを要求していない。特定された発明の構成によって,所望の効果が得られるところに発明が成立するからである。
本件発明1は,32メッシュ

(目開き500μ)
篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群。と特定される発明であり,

当業者にとってこれを実施することが技術的に
困難であるとする事情は何もない。当業者が本件発明1を実施するに当たり,その解決原理や解決メカニズムを理解しないと実現できないようなものではない。イ(ア)

原告の主張は,本件発明の出願前に周知慣用技術が存在したことを主
な根拠とするものであって,次のとおり,誤りである。
(イ)

本件発明1は,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の

含有量が0.1重量%以下」とすることにより「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル等」の発生を抑制するという作用効果を得ることができることが本件明細書に記載され,その技術的意義があることが発明の詳細な説明に明記されているから,審決に誤りはない。
(ウ)

ゲルの発生位置の特定は,積層体を形成される場合に生じるEVOH
層の界面での乱れに起因するゲル等として説明されているから十分である。発明の特定事項として「EVOH層の界面での乱れ」が規定されているわけではないから,EVOH界面のゲルとそれ以外のゲルとの判別が必要であるとの原告主張は成り立たない。
(エ)

例えば,拡大鏡,光学顕微鏡等の手段によって観察することができる
ものは,いずれも「目視観察」ということができ,原告はその用語を「肉眼観察」と誤解している。
(2)

実施可能要件違反について
EVOHを含む可溶性樹脂を共押出により多層フィルム成形をする条件を整えることは,古くから確立した技術であって,これが明細書に開示されなければ当業者が実施できないというのは,誤りである。
当業者は,
開示される篩分けの方法
(本件明細書
【0016】を参考にしながら,

篩の目開きを500μにして,過度の試行錯誤なく,本件発明1に係るEVOHペレット群を作ることができる。そして,本件発明1に係るEVOHペレット群を用いて積層体を作ることも本件発明の出願前に確立した技術である。4
サポート要件違反について
(1)

篩分けに関する記載について

本件発明においては,発明の詳細な説明として,本件明細書【0036】~【0044】に,実施例1~4及び産業上の利用可能性が具体的にかつ実質的に記載されているから,サポート要件違反があるとすることはできない。
原告は,篩分けの具体的な方法及び条件が記載されていないと,なぜ発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになるのかの根拠を示していない。
当業者は,
開示される篩分けの方法
(本件明細書
【0016】を参考にしながら,

篩の目開きを500μにして,この篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群を多層フィルムの作製に供して
(本件明細書
【0037】,

本件発明を実施することができる。
(2)

積層体の材料について

原告の主張は,全ての場合についての実施例を明細書に記載しなければならないとする点で,誤りである。
本件明細書では,共押出の場合の相手側樹脂として明細書に記載された樹脂(本件明細書【0029】
)の中から,層構成をするに当たり代表的な樹脂(ナイロン-
6)と接着性樹脂とを用いて,実施例において実証しているので(本件明細書【0037】,本件明細書に記載された他の樹脂を用いた場合にも同様に,本件発明の)
課題を解決することができることは,当業者であれば十分に認識し得る。(3)

微粉の含有量の数値範囲について

本件発明は,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下」であると規定している点において,数値限定発明である。本件発明は,粒径500μm(0.5mm)未満の微粉の含有量を0.1重量%以下に制御すること(新規な解決手段)により,
「不完全溶融EVOH」に起因する
界面での乱れによるゲル(点状に分布する透明な粒状のゲルであり,極端な場合にはEVOHの一部が他の樹脂層に突出するような形態)の発生(斬新な課題)を抑制することができる
(新規課題解決効果の奏効)
という特別な効果を得るのである。
この意味において,この数値の限定による効果が,公知のEVOHペレット群と異質のものであり,かつ,その効果も予測が困難なものであって,進歩性が認められる。
そして,本件発明の課題が従来技術においては認識されていなかった新たな課題であって,その効果が,
「不完全溶融EVOH」に起因する界面での乱れによるゲル
(不完全溶融ゲル)の発生を抑制するという全く異質なものであるから,数値限定に臨界的な意義を要しない。
(4)

ホウ素の数値範囲について

本件発明2は,32メッシュ

(目開き500μ)
篩を通過する微粉の含有量が0.
1重量%以下」という数値限定及び「ホウ素換算で0.001~1重量%のホウ素化合物」という数値限定を伴うものである。
本件発明2は,本件発明1が奏する作用効果とは別異の,従来知られていた「成形物中のゲルや焼けの発生」を併せて解決するために好ましいというものである。本件明細書の実施例1~4には,
「ホウ素換算で0.
001~1重量%のホウ素化
合物」というクレームの数値範囲のホウ素化合物を含有する例が記載されており,サポート要件を満たすものとして十分である。
(5)

粒径について
本件発明は,粒径500μm(0.5mm)未満の微粉の含有量を0.1重量%以下に制御すること(新規な解決手段)により,
「不完全溶融EVOH」に起因する
界面での乱れによるゲル(点状に分布する透明な粒状の不完全溶融ゲルであり,EVOHの一部が極端な場合には他の樹脂層に突出するような形態)の発生(斬新な課題)を抑制することができる(新規課題解決効果の奏効)という特別な効果を得る発明であるから,残りの約99.9重量%以上のEVOH群の粒径,含有量を特別に限定する必要はない。
(6)

材料について

甲35の「20%モル未満ではゲルが生成しやすい」とは,熱架橋ゲルの発生に関するものであって,本件発明が対象とするEVOHの界面の乱れに起因するゲル(不完全溶融ゲル)の発生とは関係がない。
また,原告は,甲44による台湾特許出願に言及してサポート要件を論じるが,本件発明とクレームも異なり,何ら参考になるものではない。
(7)

「界面の乱れに起因」について

「界面の乱れに起因するゲル」は,不完全溶融ゲルである。
本件発明は,
「界面の乱れに起因するゲル」
の発生を抑制することを目的とするも
のであって,
「界面の乱れに起因しないゲル」は,本件発明とは関係がない。
5
明確性要件違反について

本件発明は,
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下」と規定して,微粉の定義をするとともに採用されるべき微粉の粒子径の測定方法を規定しているから,
明確性要件を具備しないとすることはできない。
本件特許権の侵害論に関する技術的範囲属否における篩い分けの正確性についての原告の主張は,失当である。
第5
1
当裁判所の判断
本件発明について

本件発明は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲30)には,次のとおりの記載がある。
(1)


技術分野

本発明は,エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下,EVOHと略記す
る)のペレット群及びそれを用いた積層体に関し,さらに詳しくは,成形時にEVOH層界面での乱れに起因するゲルの発生が抑制された成形性に優れたEVOHペレット群及びそれを用いた積層体に関する。(
」【0001】

(2)


背景技術

一般にEVOHは,透明性,ガスバリア性,保香性,耐溶剤性,耐油性などに
優れており,かかる特性を生かして,食品包装材料,医薬品包装材料,工業薬品包装材料,農薬包装材料等のフィルムやシート,或いはボトル等の容器などに成形されて利用されている。(
」【0002】



そして,かかるEVOHを溶融成形して各種成形品に加工するにあたっては,
その成形時にEVOHのゲルや焼けが発生して成形物(特にフィルムやシート等)のロングラン性や外観性が低下することがある。
かかる対策として,
EVOHに金属塩を配合することが試みられている。
例えば,
EVOHに周期律表第2属の金属塩とpka3.5以上で定圧下の沸点が120℃以下の酸性物質を特定量配合して,
EVOHの粘度挙動をコントロールする方法
(例
えば,特許文献1参照。
)やEVOHにホウ酸,酢酸ナトリウム及び酢酸マグネシウ
ムを特定量含有させる方法
(例えば,
特許文献2参照。等があり,

また,
一方では,
ホウ酸カリウムやホウ酸カルシウムなどのホウ酸化合物をEVOHに配合することも検討されている(例えば,特許文献3参照。」【0003】
)(


【特許文献1】特開昭64-66262号公報
【特許文献2】特開平11-60874号公報
【特許文献3】特開平11-43572号公報」【0004】


(3)


発明が解決しようとする課題

しかしながら,上記の特許文献1~3に開示の方法では,溶融したEVOHの熱安定性は改善されてロングラン成形により発生するゲルや焼けについては抑制されるものの,各種積層体に適用したときには押出機へのフィードの不安定性等によりEVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する恐れがあることが判明した。【0005】


(4)


課題を解決するための手段

そこで,本発明者は,かかる現況に鑑みてEVOHペレットのフィード部分で
の挙動について鋭意研究を重ねた結果,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群が上記のようなゲルの発生を抑制できることを見出して本発明を完成するに至った。なお,本発明においては,EVOHがホウ素化合物を含有していること,また,EVOHが融点200℃以下の酸性物質(A)及びアルカリ金属(B)を含有し,かつその含有重量比
(A/B)
が1~50であること等が望ましい実施態様である。


【0006】

(5)


発明の効果,産業上の利用可能性

本発明の,
EVOHペレット群は特定の微粉を特定量以下に押さえているため,
成形物に溶融成形したときにEVOH層界面での乱れに起因するゲルの発生がなく,良好な成形物が得られ,多層フィルムとして有用で,食品や医薬品,農薬品,工業薬品包装用のフィルム,シート,チューブ,袋,容器等の用途をはじめとして,各種成形用途に非常に有用である。(
」【0007】【0045】


(6)

実施の形態


本発明のEVOHペレット群は,32メッシュ(目開き500μ)
篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であることが必要で,かかる含有量が0.1重量%を越えるときには本発明の目的を達成することができないもので,かかるEVOHペレットに成形されるEVOHとしては,エチレン含有量が5~70モル%(さらには15~60モル%,特には20~55モル%,殊に25~50モル%)のものが好ましく,かかるエチレン含有量が5モル%未満では高湿時のガスバリア性が低下する傾向にあり,逆に70モル%を越えると通常のガスバリア性や耐油性・耐薬品性等が低下する傾向にあり好ましくない。(
」【0008】




該EVOHは,エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化によって得
られ,該エチレン-酢酸ビニル共重合体は,公知の任意の重合法,例えば,溶液重合,懸濁重合,エマルジョン重合などにより製造され,エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。(
」【0011】



本発明で用いるEVOHペレットは,通常,エチレンと酢酸ビニルとをアル
コール溶媒中で共重合させて,アルカリ等でケン化され,メタノール/水の凝固浴にストランド状に析出させた後切断されて得られる。(
」【0013】




そして,該EVOHペレットは,次に水洗されるのであるが,該水
洗は,10~60℃の水槽中で実施される。かかる水洗によりオリゴマーや不純物が除去され,また,後述する酸性物質(A)とアルカリ金属(B)の含有量もこの水洗で調整することが可能である。通常かかる水洗は,EVOHペレット100重量部に対して200~1000重量部
(好ましくは300~600重量部)
の水で,
20~50℃(25~35℃)で,0.5~5時間,1~5回(好ましくは1回)実施される。【0014】





その後,公知の流動乾燥及び/又は静置乾燥等の方法により乾燥さ
れてEVOHペレットとして実用に供されるのであるが,本発明においては,上述のようにかかるEVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)篩を通過させて,
通過する微粉の割合が全体の0.
1重量%以下
(さらには0.
05重量%以下,
特には0.03重量%以下)とすることを最大の特徴とするもので,かかる微粉の割合が0.1重量%を越えるときは本発明の目的を達成することが困難となる。なお,かかる微粉の割合の下限は特に限定されないが,成形時のペレット同士の滑り性等を考慮すれば,0.0005重量%(さらには0.001重量%)とすることが好ましい。(
」【0015】




上記のように32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉を0.1重量%以下にするにあたっては,通常の方法で得られたEVOHペレットを篩にかけてかかる微粉を除去する方法,サイクロン等による風力分級する方法,溶剤で洗浄・乾燥して微粉を除去する方法,水を吹き付けた後に高温乾燥して微粉を融着させる方法等が挙げられる。(
」【0016】




かくして,本発明のEVOHペレット群が得られるのであるが,本
発明では上記のEVOHペレット中に,ホウ素化合物を含有していること,あるいは融点200℃以下
(さらには0~130℃,
特には0~65℃)
の酸性物質
(A)
及びアルカリ金属(B)を含有していることが本発明の作用効果をさらに顕著に得られる点で好ましく,これらを含有させる方法について説明する。(」【0017】




かかるホウ素化合物の含有量は特に限定されないが,EVOHに対
してホウ素換算で0.
001~1重量%(さらには0.001~0.2重量%,特には
0.02~0.1重量%)になるように含有させることが好ましく,かかる含有量が0.001重量%未満では添加効果に乏しく,逆に1重量%を超えると成形物中にゲルやスジが発生する傾向にあり好ましくない。(
」【0019】



EVOHにホウ素化合物を含有させるにあたっては,上記で得られたEVO
Hペレットをホウ素化合物の水溶液に接触させることで含有させることができ,通常は該水溶液に上記のEVOHペレットを投入して撹拌しながら,ホウ素化合物を含有させることが好ましい。(
」【0020】




また,融点が200℃以下の酸性物質(A)としては,酢酸(融点
17℃)アジピン酸

(融点28℃)リン酸

(融点42℃)安息香酸

(融点122℃)

クエン酸(融点153℃)
,コハク酸(融点185℃)等を挙げることができ,中で
も酢酸やリン酸が好適である。(
」【0021】



さらに,アルカリ金属(B)としては,ナトリウム,カリウム等のアルカリ
金属やマグネシウム,カルシウム等のアルカリ土類金属を挙げることができ,EVOHに含有させるにあたっては,酢酸,プロピオン酸,酪酸,ラウリル酸,ステアリン酸,オレイン酸,ベヘニン酸等の有機酸や硫酸,亜硫酸,炭酸,リン酸等の無機酸の金属塩として含有させればよい。(
」【0022】



かかる酸性物質(A)の含有量は,EVOHに対して0.001~0.05
重量%
(さらには0.
001~0.
03重量%,
特には0.
002~0.
01重量%)
とすることが好ましく,かかる含有量が0.001重量%未満では添加効果に乏しく,逆に0.05重量%を超えると成形物中にゲルやスジが発生する傾向にあり好ましくない。(
」【0023】



また,アルカリ金属(B)の含有量は,EVOHに対して0.001~0.
5重量%(さらには0.001~0.05重量%)とすることが好ましく,かかる含有量が0.001重量%未満では添加効果に乏しく,逆に0.5重量%を超えると着色の恐れがあり好ましくない。(
」【0024】



さらに,上記の酸性物質(A)とアルカリ金属(B)との含有重量比(A/
B)を1~50(さらには1~20,特には1~10)とすることが好ましく,かかる重量比が1未満では成形時に熱分解による異臭が発生する恐れがあり,逆に50を越えると成形機内のスクリューやダイ内での腐食発生の恐れがあり好ましくない。(
」【0025】




かくして得られた本発明のEVOHペレット群は,かかるペレット
を用いて溶融成形する際に,得られる成形物にゲルが発生しないという作用効果を有するもので,溶融成形方法としては,押出成形法(T-ダイ押出,インフレーション押出,
ブロー成形,
溶融紡糸,
異型押出等)射出成形法が主として採用される。

溶融成形温度は,150~300℃の範囲から選ぶことが多い。
また,該EVOHペレットは,積層体用途に多用され,特にEVOHからなる層の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を積層してなる積層体として用いられる。【0」

027】



該積層体を製造するに当たっては,EVOHの層の片面又は両面に他の基材
を積層するのであるが,積層方法としては,例えば該EVOHのフィルム,シートに熱可塑性樹脂を溶融押出する方法,逆に熱可塑性樹脂等の基材に該EVOHを溶融押出する方法,該EVOHと他の熱可塑性樹脂とを共押出する方法,更には本発明で得られたEVOHのフィルム,シートと他の基材のフィルム,シートとを有機チタン化合物,イソシアネート化合物,ポリエステル系化合物,ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法等が挙げられる。(」【00
28】

(7)

実施例
「実施例1

エチレン含有量32モル%を,
ケン化度99.
6モル%,
MFR3g/10分
(2
10℃,荷重2160gでの測定)のEVOHを水/メタノール(1/1重量比)混合溶媒に均一に溶解させた後に,10℃水の凝固液中にストランド状に押出し析出させ,カッティングしてEVOHペレット得て(判決注:
「を得て」の誤記と認め
る。,該ペレットを酢酸0.03%と酢酸ナトリウム0.04%含有させた水溶液)
に浸漬させ,さらにホウ酸の0.013%溶液に浸漬させて,EVOHに対してホウ酸をホウ素換算で0.03%,酢酸を0.045%,酢酸ナトリウムをナトリウム換算で0.015%(酢酸/ナトリウム=13/1)それぞれ含有するEVOHペレットを得た。
ついで,得られたEVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)の篩を通して分別し,32メッシュオンのEVOHペレット100部と32メッシュ通過EVOHペレット0.03部(0.03%)を混合して本発明のEVOHペレット群を得た。(
」【0036】




得られたEVOHペレット群を用いて,以下の要領で多層フィルム
を作製して,以下の成形性の評価を行った。
〔多層フィルムの作製〕
上記のEVOHペレット(I)
,ナイロン-6〔三菱エンジニアリングプラスチッ
クス社製「NOVAMID

1022-1」(II)

,ポリプロピレン〔日本ポリケム

社製「FL6CK」(III)及び接着性樹脂〔三井化学社製「ADMER〕
QF50

0」
,無水マレイン酸変性ポリプロピレン〕
(IV)を,フィードブロック式共押出多
層フィルム成形機(グンゼ産業社製)に供給して,
(II)/(I)/(IV)/(III)
=10/10/10/120
(μm厚み)

の層構成を有する多層フィルムを得た。


【0038】



(成形性)

上記の製造で48時間後に得られた多層フィルムから10cm×10cmの大きさのフィルムを採取して,EVOH層の乱れによるゲルの発生状態を目視観察して以下のように評価した。
◎・・・ゲルの発生が4個以下
○・・・



5~10個

×・・・



11個以上」【0038】




「実施例2

EVOHとして,エチレン含有量40モル%,ケン化度99.4モル%,MFR15g/10分(210℃,荷重2160gでの測定)を用いて,実施例1に準じてEVOHペレットを得た後,該ペレットを酢酸0.05%と酢酸ナトリウム0.03%含有させた水溶液に浸漬させて,EVOHに対して酢酸を0.06%,酢酸ナトリウムをナトリウム換算で0.013%(酢酸/ナトリウム=20/1)それぞれ含有するEVOHペレットを用いた以外は同様に行って本発明のEVOHペレット群を得て,同様に評価を行った。(
」【0039】


「実施例3

実施例1において,EVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)の篩を通して分別し,32メッシュオンのEVOHペレット100部と32メッシュ通過EVOHペレット0.08部(0.08%)を混合して本発明のEVOHペレット群を得て,同様に評価を行った。(
」【0040】


「実施例4

実施例1において,EVOHの水/メタノール溶液をアンダーウェーターカット(判決注:
「アンダーウォーターカット」の誤記と認める。
)して球状のEVOHペ
レットを得た以外は同様に行って,32メッシュ(目開き500μ)の篩を通過する微粉の割合が0.02%の本発明のEVOHペレット群を得て,実施例1と同様に評価を行った。(
」【0041】


「比較例1

実施例1において,32メッシュの篩で分別せずにEVOHペレット群の評価を行った。なお,かかるEVOHペレット群の32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の割合は0.2%であった。(
」【0042】


「実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。(
」【0043】



〔表1〕
成形性
実施例1





2




3




4


比較例1
2
×」【0044】


取消事由3について

事案に鑑み,
まず,
原告ら主張の取消事由のうち,
取消事由3~5から検討する。
(1)

委任省令違反について
本件明細書には,前記1(3)のとおり,
「上記の特許文献1~3に開示の

方法では,溶融したEVOHの熱安定性は改善されてロングラン成形により発生するゲルや焼けについては抑制される」
との記載がある一方,
「各種積層体に適用した
ときには押出機へのフィードの不安定性等によりEVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する恐れがある」【0005】

)と記載されている。

本件明細書には,
前記1(7)のとおり,
EVOH層の界面での乱れに起因

するゲルの発生状態は,目視観察でき,10cm×10cmの大きさのフィルムにおいて,
「◎・・・ゲルの発生が4個以下
○・・・



5~10個

×・・・



11個以上」【0038】



というように,個数を数えられ,実施例1~4においては,これがいずれも10個以下であり,比較例1では11個以上であって,10個以下であれば,成形性が良好である旨評価されている(
【0044】
)ことが認められる。

前記1(2)のとおり,
本件明細書に背景技術として記載されている特許文

献1(特開昭64-66262号公報,乙15)には,
「その間フィルムにすじ状物
の発生はなく,肉眼でみえるゲル状ブツ(ブツとはフィッシュアイの如き小さい塊状の欠点を指す)は,0.1~0.3個/m2で,経時的に増加の傾向は認められなかった。
」と記載されている(甲30【0004】
,乙15の7頁左下欄下から8行
~4行)


前記アのとおり,
本件明細書には,
「EVOH層の界面での乱れに起因す

るゲル」は,ロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生するゲルであると記載されているものの,
本件明細書には,
「EVOH層の界面での乱れに起因
するゲル」が,乙15における「ゲル状ブツ」の原因となるゲルと,その形状,構造等がどのように異なるのかを明らかにする記載は見当たらない。また,本件明細書においては,前記イのとおり,
「EVOH層の界面での乱れに起
因するゲル」
は,
目視観察できるものであるとされ,
乙15における
「ゲル状ブツ」
は,前記ウのとおり,肉眼で見ることができるものとされているところ,本件明細書には,
「目視観察」の定義は見当たらず,後者は肉眼で見分けられ,前者は肉眼で見分けられないものを含む旨の特段の記載はないから,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」と背景技術(乙15)における「ゲル」を,観察方法において区別することができるとは,理解できない。
このように,本件明細書には,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」は,本件特許出願前の技術により抑制することができるとされているロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生する旨の記載があるものの,その記載のみでは,ロングラン成形により発生するゲルと区別できるかどうかは,明らかでないというほかない。
この点について,
被告は,不完全溶融EVOH」

が発生する機序について主張し,
これは,従来から知られていた「熱架橋ゲル」とは異なる旨主張する。しかし,本件明細書には,被告が本訴において主張するようなことは何ら記載されておらず,被告が本訴において主張するような技術常識が存したとも認められないから,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」が被告が本訴において主張するようなものと認めることはできない。
そうすると,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」の意義は明らかでないというほかなく,
本件特許出願時の技術常識を考慮しても,
「成
形物に溶融成形したときにEVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生がなく,良好な成形物が得られ」
るという本件発明の課題は,
理解できないというほかない。

したがって,本件明細書の記載には,本件発明の課題について,当業者
が理解できるように記載されていないから,
「特許法第三十六条第四項第一号の経
済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。
」と定める特許法施行規則24条の2の規定に適合するものではない。(2)

以上のとおり,本件発明についての本件明細書の発明の詳細の説明の記
載は,特許法36条4項1号の規定に適合しないから,審決のこの点に係る判断には誤りがあり,取消事由3には理由がある。
3
取消事由4について
(1)

判断基準

特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
(2)

判断

前記2(1)オのとおり,本件明細書には,本件発明の課題について,当業者が理解できるように記載されていないから,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであると認めることはできないし,
発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも,
当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるとも認められない。
この点について,被告は,
「本件発明は,粒径500μm(0.5mm)未満の微
粉の含有量を0.1重量%以下に制御すること(新規な解決手段)により,『不完全
溶融EVOH』に起因する界面での乱れによるゲル(点状に分布する透明な粒状の不完全溶融ゲルであり,EVOHの一部が極端な場合には他の樹脂層に突出するような形態)の発生(斬新な課題)を抑制することができる(新規課題解決効果の奏効)という特別な効果を得る」ものであると主張するが,前記2(1)のとおり,この課題は,本件明細書及び技術常識から理解することができない。
したがって,本件発明についての審決のサポート要件の判断には誤りがあり,取消事由4には理由がある。
4
取消事由5について

原告は,篩分けの最中に新たな微粉が発生するから,対象製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かの判定を篩分けで行うことができない旨主張する。しかし,本件特許請求の範囲の記載は,明確であり,篩分け中に新たな微粉が発生するとしても,本件発明の技術的範囲に属するかどうかを判別できないということはないから,原告の上記主張を採用することはできない。
したがって,取消事由5には理由がない。
5
取消事由1について
(1)

甲1発明
甲1(特開2000-63538号公報)には,次のとおりの記載があ
る。
(ア)


発明の属する技術分野

本発明は,エチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物(以下,EVOHと略
記する)ペレットに関し,更に詳しくは輸送時においてペレットの融着や割れ,欠け,微粉の発生が極めて少なく,溶融成形性に優れたEVOHペレットに関するものである。(
」【0001】

(イ)


発明が解決しようとする課題

しかしながら,EVOHペレットの輸送に当たっては,通常アルミ内袋など
によって防湿されたクラフト紙などに包装されるのであるが,かかる輸送時の温度変化や荷積みの状態,
振動などによっては,
該ペレットが融着を起こしたり,
割れ,
欠け,微粉が発生したりして,その結果安定した溶融成形が困難になってしまうという問題が発生することがあった。(
」【0003】

(ウ)


発明の実施の形態

本発明のEVOHペレットは,20℃における貯蔵弾性率が8×107~1
×109(更には9×107~5×108)Paのもので,該貯蔵弾性率が8×107Pa未満では輸送時にペレット間の融着が起こりやすくなり,逆に1×109Paを越えると輸送時にペレットの割れ,欠け,微粉が発生しやすくなるので不適当である。(
」【0005】



尚,かかる貯蔵弾性率とは,10Hzの振動を与えた時に測定される値で,
DMA(Dynamic

Mechanical

Analyzer)等で測定することができ,本発明におい
ては,EVOHペレットを10~50℃まで,3℃/minの速度で昇温しながら,該DMAで連続的に貯蔵弾性率を測定して,20℃における測定値をEVOHペレットの貯蔵弾性率とした。(
」【0006】

(エ)


実施例等

以下,実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。尚,例中,
「部」とあるの

は,
「重量部」を意味し,
「%」とあるのは,特に断りのない限り「重量%」を意味
する。
実施例1
エチレン含有量40モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体の40%メタノール溶液1,000部を耐圧反応器に入れ,撹拌しながら110℃に加熱した。続いて水酸化ナトリウムの6%メタノール溶液40部及びメタノール2,500部を連続的に仕込むと共に副生する酢酸メチル及び余分のメタノールを系から留出させながら2.5時間ケン化反応を行ない,酢酸ビニル成分のケン化度99.0モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物溶液を得た。次に含水率30%のメタノール水溶液600部を該溶液に共沸下で供給し,
100~110℃,
圧力3kg/cm2G
で該溶液中の樹脂分の濃度が40%になるまでメタノールを留出させ,透明なメタノール/水均一溶液(溶液中のメタノールは40%)を得た。該ケン化物のメタノール溶液をノズルより水槽にストランド状に押出した。凝固終了後,ストランド状物をカッターで切断し,直径4mm,長さ4mmの白色のペレット(1)を製造した。該ペレット(1)のメタノール含有量は38%,酢酸(a)含有量は3000ppm,
酢酸ナトリウム
(b)
含有量は15000ppmであった。【0027】





次いで,得られたペレット(1)100部を30℃の温水400部に投入し
て,約60分間撹拌して水洗し,水洗後1%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットの,メタノール含有量は5000ppm,酢酸(a)含有量は2500ppm,酢酸ナトリウム(b)含有量は500ppmであった。回分式塔型流動層乾燥器により,窒素ガスを120℃雰囲気中で22時間接触させて,メタノール含有量100ppm,酢酸(a)含有量200ppmで,酢酸ナトリウム(b)含有量500ppm〔
(a)/(b)=0.4(重量比)
〕のEVOHペレットを得た。
かかるEVOHペレットの20℃における貯蔵弾性率は1×108Paであった。(
【0028】



得られたEVOHペレットについて,以下の要領でペレットの評価及び該ペ
レットを用いたEVOHフィルムの成形性の評価を行った。
・・・
(ロ)

ペレットの割れ,欠け

EVOHペレット25kgを,ブレンダーに入れて,室温で10時間回転させ,取り出して目視で以下のとおり評価を行った。
○・・・ペレットの割れ欠けが全く見られず。
△・・・1~10個の割れ欠けが見られる。
×・・・11個以上の割れ欠けが見られる。
(ハ)

微粉の発生

上記の方法で,室温で10時間回転させて得られた内容物を取り出し100μmのふるいにかけ,該ふるいを通過した微粉の重量を測定し,以下のとおり評価した。○・・・0~2g未満
△・・・2~10g未満
×・・・10g以上」【0029】


「一方,得られたEVOHペレットをTダイを備えた単軸押出機に供給し,厚さ40μmのEVOHフィルムの成形を96時間連続的に行って以下のとおり評価を行った。単軸押出機による製膜条件は下記の通りとした。
・・・」【0030】



(ニ)トルク変動
連続製膜中の押出機モーター負荷(スクリュー回転数40rpm)でのスクリュートルクA(アンペア)の変動により求めて,以下のとおり評価した。○・・・±5%未満の変動
△・・・±5~±10%未満の変動
×・・・±10%以上の変動
(ホ)

吐出量変化

連続製膜中の押出機(40rpm)での吐出量の変動を求めて,以下のとおり評価した。
○・・・±5%未満の変動
△・・・±5~±10%未満の変動
×・・・±10%以上の変動」【0031】



(へ)

膜厚変化

MD(長手)方向のフィルムの厚みを1時間毎に測り,変動比を求めて,以下のとおり評価した。
○・・・±5%未満
△・・・±5~±10%未満
×・・・±10%以上
(ト)

フィルム外観

フィルム100cm2
(10cm☓10cm)
当たりのフィッシュアイの数を測定し
て,以下のとおり評価した。
〇・・・0~3個
△・・・4~20個
☓・・・21個以上」【0032】


「実施例2
実施例1と同様にして,ケン化度99.0モル%のEVOHを得た。次に含水率30%のメタノール水溶液600部を該溶液に共沸下で供給し,100~110℃,圧力3kg/cm2Gで該溶液中の樹脂分の濃度が40%になるまでメタノールを留出させ,
透明なメタノール/水均一溶液
(溶液中のメタノールは40%)
を得た。
該ケン化物のメタノール溶液をノズルより水槽にストランド状に押出した。凝固終了後,ストランド状物をカッターで切断し,直径4mm,長さ4mmの白色のペレット(1)を製造した。該ペレット(1)のメタノール含有量は38%,酢酸(a)含有量は3000ppm,酢酸ナトリウム(b)含有量は15000ppmであった。
次いで,
得られたペレット
(1)
100部を30℃の温水400部に投入して,
約60分間撹拌して水洗した。水洗後0.3%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットの,メタノール含有量5000ppm,酢酸(a)含有量1000ppm,酢酸ナトリウム(b)含有量は500ppmであった。回分式塔型流動層乾燥器により,窒素ガスを118℃雰囲気中で20時間接触させて,メタノール含有量120ppm,酢酸(a)含有量300ppmで,酢酸ナトリウム(b)含有量500ppm〔
(a)/(b)=0.6(重量比)
〕のEVOHペレットを得た。
かかるEVOHペレットの20℃における貯蔵弾性率は9×107Paであった。か
かるEVOHペレットを用いて,同様に評価を行った。(
」【0033】

「実施例3
エチレン含有量30モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いた以外は実施例1に準じて実験を行い,白色のペレット(1)を製造した。該ペレット(1)のメタノール含有量は20%,(a)
酢酸
含有量は3000ppm,
酢酸ナトリウム
(b)
含有量は15000ppmであった。(
」【0034】

「次いで,得られたペレット(1)100部を30℃の温水700部に投入して,約60分間撹拌して水洗した。水洗後1%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットの,メタノール含有量4000ppm,酢酸(a)含有量2300ppm,酢酸ナトリウム(b)含有量は400ppmであった。回分式塔型流動層乾燥器により,窒素ガスを120℃雰囲気中で20時間接触させて,メタノール含有量80ppm,酢酸(a)含有量200ppmで,酢酸ナトリウム(b)含有量400ppm〔
(a)/(b)=5(重量比)
〕のEVOHペレットを得た。かかるEV
OHペレットの20℃における貯蔵弾性率は2×108Paであった。かかるEVO
Hペレットを用いて,同様に評価を行った。(
」【0035】

「比較例1
実施例1において,EVOHペレット(1)100部を30℃の温水100部に投入して約60分間攪拌し水洗ペレットを得た。水洗後1%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットのメタノール含有量は7000ppm,酢酸(a)含有量は2500ppm,酢酸ナトリウム(b)含有量は700ppmであった。次に回分式塔型流動乾燥器により,
窒素ガスを105℃雰囲気中で16時間接触させて,
メタノール含有量2000ppm,酢酸(a)含有量300ppm,酢酸ナトリウム(b)含有量700ppm〔
(a)/(b)=0.73(重量比)
〕のEVOHペ
レットを製造した。かかるEVOHペレットの20℃における貯蔵弾性率は5×107Paであった。かかるEVOHペレットを用いて,同様に評価を行った。(」【0
036】

「比較例2
実施例1において,EVOHペレット(1)100部を40℃の温水600部に投入して約60分間攪拌し水洗ペレットを得た,
(判決注:」の誤記と認める。
「。
)水
洗後2%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットの,メタノール含有量4000ppm,酢酸含有量3000ppm,酢酸ナトリウム含有量は20ppmであった。回分式塔型流動乾燥器により,窒素ガスを135℃雰囲気中で36時間接触させて,メタノール含有量0.01ppm,酢酸(a)含有量10ppm,酢酸ナトリウム(b)含有量20ppm〔
(a)/(b)=0.5(重量比)
〕のEV
OHペレットを製造した。かかるEVOHペレットの20℃における貯蔵弾性率は3×109Paであった。かかるEVOHペレットを用いて,同様に評価を行った。実施例及び比較例の評価結果を表1,2に示す。(
」【0037】


【表1】
」【0038】



【表2】
(ニ)

(ホ)

(ヘ)

(ト)

トルク変動

吐出量変化

膜厚変化

フィルム外観









実施例1


2










3








比較例1

×

×

×

×

×

×

×





2



【0039】

(オ)


発明の効果

本発明の,EVOHペレットは特定の物性値を有しているため,ペレットの輸
送時の温度変化や荷積みの状態,振動などによっても,該ペレットが融着を起こしたりせず,また,割れ,欠け,微粉の発生が少なく,溶融成形性にも優れ,溶融成形時のトルク変動や吐出量変化が少なく,更には厚みの均一性に優れたフィルムやシート等の成形物を得ることができ,食品や医薬品,農薬品,工業薬品包装用のフィルム,シート,チューブ,袋,容器等の用途に非常に有用である。(」【0040】


以上の記載によると,甲1発明は,以下のとおりのものであると認定で
きる。


酢酸水溶液に浸漬後,回分式塔型流動層乾燥器で窒素ガスに接触させて得たエ
チレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット25kgを,
ブレンダーに入れて,
室温で10時間回転させて得られた内容物を取り出し100μmの篩にかけ,該篩を通過した微粉の重量が0~2g未満(0~0.008重量%未満)であるエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット。

(2)

判断

甲1発明においては,
「100μmの篩にかけ,該篩を通過した微粉の重量」しか
規定されておらず,目開き500μmの篩を通過する微粉の含有量については,規定されていない。
そして,目開き100μmの篩を通過できない微粉が,すべて目開き500μmの篩を通過しないことを裏付けるに足りる証拠はなく,目開き100μmの篩を通過できない微粉の量から,目開き500μmの篩を通過する微粉の含有量を推計することができることを裏付けるに足りる証拠もない。
そうすると,甲1発明において,目開き500μmの篩を通過する微粉の含有量が規定されているということはできないから,
「32メッシュ(目開き500μm)
篩を通過する微粉の含有量が0.1重量パーセント以下であることを特徴とする」本件発明1が,新規性を欠くものということはできない。
また,本件発明3は,
「請求項1・・・記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン
化物ペレット群」を構成要素とするものであるから,本件発明1が新規性を欠くものということができない以上,本件発明3も,新規性を欠くものということはできない。
(3)

原告の主張について

原告は,篩分けをして発生した微粉の粒径が全て100μm未満で0.1重量%であることは起こり得るのであって,篩分けをして発生した微粉の粒径が全て100μm未満で0.1重量%であるEVOHペレット群は,本件発明1及び3の権利範囲に含まれる旨主張する。
確かに,篩分けをして発生した微粉の粒径が全て100μm未満で0.1重量%であれば,本件発明1は新規性を欠くことになるが,そのような条件は,甲1には記載されておらず,当該条件が本件特許出願時において技術常識であったことを認めるに足りる証拠はないから,当該条件が充足されていることを前提に新規性の有無を判断することはできない。
したがって,原告の上記主張は,理由がない。
(4)

小括

したがって,取消事由1には,理由がない。
6
取消事由2について
(1)

対比

本件発明1と甲1発明とを対比すると,次の一致点で一致し,次の相違点で相違する。
【一致点】
所定の篩を通過する微粉の割合が所定値より少ないEVOHペレット群。【相違点】
本件発明1では,篩が「32メッシュ(目開き500μ)
」であって,前記「所定
値より少ない」「0.
が,
1重量%以下」
であるのに対して,
甲1発明では,
篩が
「1
49メッシュ(目開き100μ)
」であって,前記「所定値より少ない」が「0.0
08重量%未満」である点。
(2)

甲3に記載された事項
甲3「プラスチックペレットにおける微粉・ストリーマーの詳細を測定(

するための試験方法」欧州物流機械産業連盟(FEM)
)には,次のとおりの記載が
ある。
(ア)

タイトル(訳文1頁)

「プラスチックペレットにおける微粉・ストリーマーの詳細を測定するための試験方法」
(イ)

趣旨(訳文1頁)

「本書の趣旨は,
プラスチックペレットの空気輸送,
混合,
投与,
スクリーニング,
保存などのプロセスにおいて生じ得る微粉,ストリーマー(エンゼルヘア),製品劣
化量の分析法の決定・基準設定を行い,これらの問題の原因を究明することです。上記基準の目的は,設計者・エンドユーザ双方の観点から,これらの問題を検討する際の客観的な基準ベースを設定することです。
本基準のベースとなる分析法により,微塵の詳細について現実的なデータが確実に提供されることが実証されています。本目的のために他の特別機器の使用または生産が行われた場合,当該メーカーは,本書に基づいてその機器の機能を正確に確認しなければなりません。

(ウ)

はじめに(訳文1頁)

「プラスチックのペレット化プロセス(押し出し・切断)およびその後の取扱手順(空気輸送,混合,保存,投与,スクリーニング,フィーディング,袋詰め)において,プラスチックペレットの劣化が生じることがあります。この劣化は,微粉,ストリーマー(
「微細」と呼ばれることもある)およびミスカットもしくは破片の三サイズに分類され,それぞれの面積・サイズは非常に異なります。製品の劣化は,主に,製品グレードの種類によります。すべてのプラスチック材にはミスカットや微粉がありますが,その一方で,ストリーマーは,ポリエチレンやポリプロピレンなどの一定のポリマーが劣化したときに生じます。上記のすべての劣化が原因となり,プラスチックペレットから最終製品への変換に深刻な影響を及ぼします。ほとんどのポリマーメーカーでは,最終製品の質を向上させるため,ペレットクリーンシステムを採用しています。

(エ)

微粉の定義(訳文2頁)

「FEM2482の対象となる微粉は,粒子サイズが500μm以下の粒子の断片と定義されています。この断片の下限はダウンストリームプロセスが必要か否かにより,次の表から選択しなければなりません。

(オ)

ストリーマーの定義(訳文2頁)

大きさが500μm以上の粒子断片で,通常のペレット形状と異なるものをストリーマーコンテント(例

ストリーマー,エンゼルヘア,フィルム,フォイル)

といいます。
過小ペレット,ミスカットまたは500μm以上破損ペレットは,本分析法の対象ではありません。

(カ)

分離メカニズム(訳文2~3頁)

「本書に示す分析プロセスでは,前項で定義した塵粉とストリーマー断片の粒子をすべて認識することを目的としています。分離メカニズムは,以下のとおりです。粒子サイズがペレットの直径をかなり上回る場合,ストリーマーコンテントは,ドライスクリーニングによって決まります。
気相において微粉・ペレット間の粘着力(ファンデルワールス力,静電気力)が強いため,ペレット表面からの微粉分離が非常に困難となります。ただし,液相においてはこういった粘着力を克服するのがかなり容易となるので,この分類段階ではウェットプロセスが有効です。
全プロセスは,次の段階から構成されています。
1.固体間の粘着力の削減
2.懸濁液中の固体を効果的に分散
3.ペレットから微粉を分離
4.液体から微粉を分離
・上記1液体を加えることで達成
・上記2液体流により流動化(液体の密度が試験品より高い場合)または空気注入による浮上

上記3分離する粒子の異なるストークス速度または懸濁液流中のシーブにより実施
・上記4フィルター,シーブもしくはシーブ一式により実施」
(キ)

サンプル採取(訳文3頁)

「プラスチックペレットの微粉コンテントは,通常の状況下において10~2000ppm(判決注:0.001~0.2質量%)の範囲内であることがあります。プラスチックペレットにおいては,1リットル以上のサンプルから信頼できる結果を得ることができます。
主にストリーマー(エンゼルヘアー)劣化についての測定を行う場合,ストリーマー群の影響を最小限にとどめるため,サンプルのサイズは最低50リットルでなければなりません。
ただし,本分析の第一段階に特に注意を払い,サンプルの充填,荷揚げおよび搬送の際に塵埃コンテントの分離プロセスが起こらないようにする必要があります。例えば,質量1kgのペレットサンプルでは,質量10mg~2000mgの微粉が生じることがあります。この少ない絶対質量を測定しなければなりませんが,塵埃群,塵埃塊などの影響は非常に大きくなります。したがい(判決注:
「したがって」の誤記と認
める。,生産に変化があったかもしくは絶対量が決定されているかにより,サンプ)
ル採集の見方が異なります。こういった場合のサンプル採集法は工場の環境に依存するところが大きく,機械工学プロセスの知識によってのみ適切に習得することができます(FEM2481を参照)」

(ク)

微粉コンテント測定用の試験装置の概要(訳文3頁)

「以下に述べる測定器(図1を参照)の目的は,試験用サンプルのペレットからすべての塵埃を分離させることです。この測定器は,洗浄液を再循環モードで流して作動します。
上記の測定器の構成は,以下のとおりです。
カラムC1

塵埃で汚染された製品に使用
カラムC2

洗浄液から塵埃を分離

カラムC1とカラムC2を上部で接続する排水管
絞り弁を備えたポンプおよびC2とC1を下部で接続する流量計
C1内の洗浄液中にあるペレットを分散させることにより,塵埃がペレットから分離し,洗浄液と共に排水管を通ってC2に送られます。その後,測定した微粉断片により,孔サイズが並の吸水性樹脂の保水剤によって,塵埃が洗浄液から分離されます(セクション3の種類A~Cを参照)」

(ケ)

浮上による分散(訳文5頁,6頁)

「ペレットから塵埃を確実に分離させペレットをC1に保持するには,カラムC1上部にシーブを設ける必要があります。このスクリーンは,分離する断片が大きめの場合これを許容するために選択しなければなりません(500μm,セクション3を参照)」

「以下の表は,分散モード,製品の種類および洗浄液の組み合わせの内,適切とされているものの概要を示すものです。


(コ)

図1(訳文13頁)

以上の記載によると,甲3には,微粉の定義を,粒子サイズが500μ
m以下の粒子の断片とすること,全てのプラスチック材には,微粉があること,それにより,ペレットから最終製品への変換に深刻な影響を及ぼすことが,記載されていると認められる。
(3)

相違点の判断
前記5(1)アによると,
甲1には,
微粉の発生が極めて少ないEVOHペ

レットは,
溶融成形性に優れ【0001】0003】0029】【0040】,(






溶融成形時のトルク変動や吐出量変化が少なく,厚みの均一性に優れたフィルムやシート等の成形物を得ることができること(
【0040】
)が記載されており,甲1
発明の課題は,ペレット群における微粉を所定値以下に保つことにより,EVOHペレットをフィルムに成形する際に,膜厚の変化等の影響をなくし,厚みの均一性に優れた成形物を得ることであると認められる。
前記(2)及び弁論の全趣旨によると,
甲3には,
すべてのプラスチックペレットに
つき,微粉が生じ,微粉の存在が原因となり,プラスチックペレットから最終製品への変換を行うに当たり,
最終製品の質に深刻な影響を及ぼすこと
(前記(2)ア(ウ))

ペレットから粒子サイズが500μm以下の粒子の断片である微粉を分離することにより,適切な質の製品を製造することができること(同(エ),(カ)~(ケ))が記載されているといえるのであって,
甲3には,
ペレットから微粉を取り除くことにより,
プラスチックペレットから成形される最終製品の品質を向上させることが,課題として記載されていると認められる。そして,弁論の全趣旨によると,EVOHはプラスチックの一種であり,フィルムは,甲3における「最終製品」に含まれると認められるので,甲1発明と甲3に記載された事項は,最終製品の質の向上という点で,課題が共通するといえる。
そして,甲3には,粒子サイズが500μm以下の粒子の断片である微粉を,500μmのシーブ(篩)を用いて分離することが記載されている(同(ケ))ところ,粒子サイズが500μm以下であることが,欧州物流機械産業連盟の定めた規格であり(同(エ))
,欧州物流機械産業連盟は,欧州の当該分野における会社の80%以上(1000社以上)が加盟する非営利事業者団体であると認められる(甲28,29,32)ことを考え合わせると,本件発明1の微粉を,甲3に記載された事項である「32メッシュ(目開き500μ)
」の篩を用いて分離すること,すなわち,
相違点のうち,甲1発明における「149メッシュ(目開き100μ)」の篩を,
「3
2メッシュ(目開き500μ)
」の篩にすることには,動機付けがあるといえる。
また,甲3には,上記のとおり,プラスチックペレットから微粉を取り除くことにより,成形される最終製品の品質を向上させることが,課題として記載されていると認められ,粒子サイズが500μm以下の粒子の断片である微粉を,500μmの篩を用いて分離することが記載されている。さらに,甲3には,プラスチックペレットの微粉コンテントは,通常の状況下において10~2000ppm(0.001~0.2質量%)の範囲内であること,例えば,質量1kgのペレットサンプルでは,質量10mg~2000mg(0.001~0.2質量%)の微粉が生じることがあること(前記(2)ア(キ))も記載されている。
そうすると,甲3の記載事項から,プラスチックペレットから微粉を取り除くことにより,成形される最終製品の品質を向上させること,500μmの篩を用いて分離されるプラスチックペレットの微粉コンテントは,通常の状況下において0.001~0.2質量%程度であることが理解できるから,成形される最終製品の品質を考慮して,
プラスチックペレットの微粉コンテントを0.
001~0.
2質量%
の範囲内で設定することが可能であり,当業者が適宜採用する設計事項であると認められる。
したがって,甲1発明に甲3に記載された事項を組み合わせて本件発明1の構成に至る動機付けがあるということができる。

前記1(5)によると,本件発明1の効果は,EVOHペレット群を「成形
物に溶融成形したときにEVOH層界面での乱れに起因するゲルの発生がなく,良好な成形物が得られ,多層フィルムとして有用」であることである(【0007】

ところ,前記2のとおり,
「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生」の意
義について被告が主張するように理解することはできないから,この点についての本件発明1の効果は,
「成形物に溶融成形したときに」「良好な成形物が得られ,多

層フィルムとして有用」という程度のことしか理解できない。表面に乱れがない単層フィルムは,その外観が良好になるはずであり,EVOH層を含む多層フィルムは,単層の表面の乱れがそのまま多層との界面に残存するといえるから,他の条件が全く同じであれば,EVOH層の表面に乱れがなければ,EVOH層の表面に乱れがある場合よりも,全体としてその外観が良好になるはずである。また,本件明細書において,EVOH層の乱れによるゲルの発生(目視観察)に関し,実施例1~4(微粉の割合0.02~0.08質量%)は,比較例1(微粉の割合0.2質量%)よりもゲルの発生が少ないことが記載されているが(本件明細書【0042】~【0044】,上記で述べたとおり,

「EVOH層の乱れによる
ゲルの発生」の意義を理解することができないうえでの目視観察であるから,本件発明1の効果を検討するに際し,これを参酌することができない。したがって,前記の本件発明1の効果は,当業者が予測可能なものであり,格別のものであるとはいえない。

そうすると,本件発明1は,甲1発明及び甲3に記載した事項から当業
者が容易に発明をすることができたと認定することができ,本件発明1は,進歩性を欠くものということができる。
(4)

被告の主張について
被告は,
「甲3は,製品に含まれる微粉・ストリーマーの量を測定して製

品の質を確認したり,性能を評価する際の試験方法を提案したものであって,甲3には,EVOHペレット群に含まれる特定の大きさの微粉を特定量以下に制御することは記載されていない」旨主張する。
しかし,甲3には,前記(2)ア(イ)のとおり,
「本書の趣旨は,プラスチックペレッ
トの空気輸送,混合,投与,スクリーニング,保存などのプロセスにおいて生じ得る微粉,ストリーマー(エンゼルヘア)
,製品劣化量の分析法の決定・基準設定を行
い,これらの問題の原因を究明することです。
」との記載があり,甲3は,微粉の基
準設定を行うことも目的としているといえ,甲3の作成者が,欧州物流機械産業連盟(FEM)であることを考え合わせると,甲3は,エンドユーザー側が微粉量の上限値を製造者に指定することを想定して作成されたものであると解される。したがって,被告の上記主張は,理由がない。

被告は,
「EVOHは,分子構造中に多数のヒドロキシル基(-OH)を

有しているため,水やエタノールとの親和性が高く,これら液体と接触すると吸収し,膨潤して体積が大きくなる(乙8)
。それと同時に,柔らかくなるという物性の
変化が生じる。
そのため,
当業者は,
甲3に記載されているウェットプロセスでは,
EVOHペレットから微粉を正確に分離することはできないと考えて,甲3の記載内容を参酌することはしない」旨主張する。
EVOH(エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物)であるところのエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は,吸湿性であり,ポリアミド樹脂と同様の吸湿防止のための注意が必要であると認められる
(乙1)前記(2)ア(カ)及び(ケ)のとおり,
が,
甲3に記載されているウェットプロセスの対象製品には,ポリアミド樹脂(PA)が含まれているから,ポリアミド樹脂と同様の吸湿防止のための注意が必要とされているエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂を含むEVOHにつき,一般に,甲3のウェットプロセスを含む記載内容を適用できないとはいえない。(5)

小括

以上のとおり,本件発明1についての審決の進歩性に係る判断には誤りがあるから,取消事由2には理由がある。
第6

結論

以上の次第で,原告の主張する取消事由2~4には理由があるから,審決は,取消しを免れない。
よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
森義之
裁判官
永田早苗森岡礼子
裁判官
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