判例検索β > 平成29年(わ)第512号
関税法違反
事件番号平成29(わ)512
事件名関税法違反
裁判年月日平成29年12月13日
法廷名福岡地方裁判所
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主文
被告人4名をそれぞれ懲役2年6月に処する
被告人4名に対し,未決勾留日数中各120日を,それぞれその刑に算入する。
被告人4名に対し,この裁判確定の日から4年間,それぞれその刑の執行を猶予する。
被告人4名から,福岡地方検察庁で保管中の現金7億3522万円(領番号は別紙第1ないし第4記載のとおり)及び金地金6塊(同庁平成29年領第1973号の符号1ないし3,5ないし7)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
第1

被告人4名は,E及びFこと氏名不詳者らと共謀の上,大韓民国から金地金を輸入するに当たり,これに対する消費税及び地方消費税を免れようと考え,Eが,平成29年4月13日(現地時間),大韓民国所在の仁川国際空港において,ティーウェイ航空291便に搭乗する際,金地金6個(合計約6キログラム。福岡地方検察庁平成29年領第1973号の符号1ないし3,5ないし7。以下「本件金地金」という。)を隠匿携行し,同航空機により,同日午前11時9分頃,福岡市博多区所在の福岡空港に到着し,同日午後零時45分頃,同空港内門司税関福岡空港税関支署入国旅具検査場において,入国に伴う税関検査を受けるに際し,同支署職員に対し,本件金地金を輸入する事実を秘し,その申告をしないまま同検査場を通過しようとし,もって税関長の許可を受けないで本件金地金を輸入しようとするとともに,不正の行為により保税地域から引き取られる課税貨物である本件金地金(課税価格合計2753万0281円)に対する消費税173万4300円及び地方消費税46万7900円を免れようとしたが,同支署職員によって本件金地金を発見されたため,その目的を遂げなかった。
第2

被告人4名は,合計金額が100万円相当額を超える現金等の貨物を輸出するには,その種類及び金額その他必要事項を税関長に書面で申告し,当該貨物につき必要な検査を経てその許可を受ける必要があるのに,その許可を受けないで現金合計7億3522万円(以下「本件現金」という。)を輸出しようと考え,Fこと氏名不詳者らと共謀の上,同月20日,福岡市博多区所在の福岡空港から中華人民共和国香港国際空港に向かう香港エクスプレス639便に搭乗するに当たり

1
被告人Aが,本件現金のうち1億8000万円(領番号は別紙第1記載のとおり)をキャリーバッグ内に入れて手荷物として携帯して福岡空港ターミナルビル手荷物検査場を通過した上,同ターミナルビル門司税関福岡空港税関支署税関出国検査場において,同支署職員に対し,同現金を輸出する旨その他必要な事項を申告せず,同税関出国検査場を経て出国審査を通過し,もって税関長の許可を受けないで同現金を輸出しようとしたが,同支署職員に同現金を発見されたため,その目的を遂げず

2
被告人Bが,本件現金のうち1億8522万円(領番号は別紙第2記載のとおり)をキャリーバッグ内に入れて手荷物として携帯して同手荷物検査場を通過した上,同税関出国検査場において,同支署職員に対し,同現金を輸出する旨その他必要な事項を申告せず,同税関出国検査場を経て出国審査を通過し,もって税関長の許可を受けないで同現金を輸出しようとしたが,同支署職員に同現金を発見されたため,その目的を遂げず

3
被告人Cが,同手荷物検査場において,本件現金のうち1億8000万円(領番号は別紙第3記載のとおり)を入れたキャリーバッグを手荷物として携帯し,同空港の保安検査員に対し,同キャリーバッグを検査品として提出し,もって税関長の許可を受けないで同現金を輸出しようとしたが,同保安検査員に同現金を発見されたため,無許可輸出の予備にとどまり

4
被告人Dが,同手荷物検査場において,本件現金のうち1億9000万円(領番号は別紙第4記載のとおり)を入れたキャリーバッグを手荷物として携帯し,同保安検査員に対し,同キャリーバッグを検査品として提出し,もって税関長の許可を受けないで同現金を輸出しようとしたが,同保安検査員に同現金を発見されたため,無許可輸出の予備にとどまった。
(事実認定の補足説明)
1
関係証拠によれば,判示第1のとおり,Eが本件金地金の密輸入の実行に着手したがこれを遂げなかったことが優に認められるところ(以下「本件密輸入」という。),各弁護人はいずれも,各被告人とE及びFこと氏名不詳者らとの間の本件密輸入に係る共謀等について,合理的な疑いを超えた立証はされていないから無罪である旨主張するが,当裁判所は,関係証拠に照らし判示第1のとおり事実を認定したので,その理由を必要な限度で補足して説明する。

2
Eの本件密輸入への関与の経緯等及びその検討


関係証拠(甲58)によれば,Eは,①平成29年4月初め頃(以下,日付は「平成29年」を指す。),金塊を日本に持ち運べば報酬を得ることができるとのインターネット上の書き込みを見て,これに表示された案内に従い,金塊の運び屋を教育・指導する場所として指定された場所に行き,そこにいた金塊の密輸に関係すると思われる者と接触して,以後連絡を取り合っていたところ,本件密輸入の数日前に,同月13日(以下,本補足説明においては「本件当日」という。)明け方に仁川空港に来るように指示されるとともに,ティーウェイ航空291便(以下「本件航空便」ともいう。)のチケット画像が送信されてきたこと,②同日,同空港に行き,そこで声を掛けてきた男から,中に入って待つよう指示され,同チケット画像で航空券の発券を行うなどして出国手続を終え,搭乗口に行ったところ,そこで若い男から本件金地金及びこれを隠匿するためのポーチ2個を渡され,「日本に入国する際,金塊を持っていることを申告しないでいい」,「日本に無事入国してゲートを出たら,暗号を言う人に本件金地金を渡してください」などと言われた後,判示第1のとおり本件密輸入に及んだことが認められる。


検討
前記のEの本件密輸入に至る経緯等からは,本件密輸入には,本件金地金を韓国から日本に持ち込んで本件密輸入を実行する同人のほか,同人に対し,本件密輸入の具体的実行方法等につき指示を与えたり,その航空券を手配したり,本件金地金等を渡したりする者,更にはEから本件金地金を回収する者など,複数名が関与したことが推認される。

3
被告人Bと本件密輸入との結び付きを示す画像データの存在及びその検討⑴

関係証拠(甲58,63,122,136)によれば,①被告人Bから差し押さえたスマートフォン内に,次のアないしウのデータが保存されていたこと,②同データは,いずれも日本時間の4月12日から本件当日にかけて,同被告人のスマートフォンに他者から送信されたものであることが認められる。ア
「<4月13日

木曜日>」との表題で,1から30までの通し番号順に3

0名の氏名及びその性別が記載され,各人の「連絡先」欄には8桁の数字が,「出発時間」欄には航空機の便の略称と出発時刻を意味すると思しき「KE787(08:00)」等が,さらに,上記氏名等が記載された欄の上部に「KE787(1陣

6名

08:00)」等と記載された韓国語表記の一

覧表(以下「本件一覧表」という。)
なお,本件一覧表の番号20の欄には,「E(男)」と記載され,「連絡先」として「3291(略)」,「出発時間」として「TW291(10:05)」と記載されているところ,Eの携帯電話の番号は「010-3291-(略)」であり,同人が搭乗した航空機の便は前記のとおりティーウェイ航空291便であって,上記記載と合致するものである。

冒頭に「・・・福岡空港の外にいる・・・場所で指定された回収者にだけ物件を渡すことを約束します。万一,指定された回収者ではない人に物件を渡したときにはそこに発生するすべての被害に対する民・刑事上の責任を負います。本人は上記内容を正確に熟知したのなら下にこれを確認するサインをいたします。日付:2017年4月13日」と記載され,その下に1から30までの通し番号順に「氏名」,「数量」,「物件サイン」,「円貨サイン」の各欄が設けられ,「氏名」欄には本件一覧表と同じ番号順に同一の氏名が記載されており,このうち番号5,19及び26以外の27名について,その対応する「数量」,「物件サイン」及び「円貨サイン」の各欄に手書きの記載がされた韓国語表記の一覧表(以下「本件誓約書」という。)なお,本件誓約書の番号20の「氏名」欄には「E」と記載され,「数量」欄には手書きで「6」と記載されているところ,前記のとおりEが密輸入した本件金地金の個数は6個である(甲49,51)。また,本件誓約書の番号12,13,15,21,23及び24の「氏名」欄及び「数量」欄の各記載は,本件当日,税関検査で金地金を発見された6名の韓国人の氏名及び所持に係る金地金の個数(各6個)と一致している(甲63)。ウ
本件誓約書の番号5,19及び26を除く27名を1ないし2名ごとにその容姿を撮影し,その画像上に氏名,本件一覧表の番号に対応する「出発時間」欄の記載及び本件誓約書の番号に対応する「数量」欄の記載が印字された写真画像
なお,その中には,Eの容姿を撮影した写真に「TW291」「10時5分」「E6」と印字されたもの(以下「本件写真」という。)がある。


検討

前記のとおり,本件誓約書には,Eの氏名に加え,同人が本件密輸入により日本に持ち込もうとした本件金地金の個数と一致する数字が記載され,さらに,本件当日に税関検査で金地金を発見された6名の韓国人の氏名及びその所持に係る金地金の個数と一致する数字が記載されており,さらに,前記3⑴イの冒頭の記載内容を併せ見れば,本件誓約書は,金地金を韓国から日本に持ち込んで密輸入を実行する者らの氏名が印刷され,これをEを含む同実行者らの面前に示して,同人らに必要な記載をさせることで,同人らが確実に本件金地金を事前に指示された者に渡すように仕向けるために作成されたものであることが強く推認される(実際,Eは,取調官から本件誓約書を示された際,本件密輸入関係者から指示された場所とは異なる場所に行ってしまったためか,同書を実際に見たことはないが,同書番号20の「数量」欄の「6」との記載は,自分が本件密輸入により日本に持ち込もうとした金塊の個数のほかに心当たりはなく,同書冒頭の「物件」とは金塊の意味以外に考えられない旨述べている。甲58)。イ
また,前記のとおり,本件写真は,Eの容姿と氏名だけでなく,航空機の便の略称や本件金地金の個数を示すと思しき本件誓約書の「数量」欄の記載の数字を併せて明らかにするものであることからすると,Eを本件密輸入の実行犯であると把握する者が,Eの容姿とその所持に係る本件金地金の個数を確認できるようにするために作成されたものであることが強く推認される。


そして,本件誓約書及び本件写真は,その内容に照らし,Eが本件密輸入の実行行為に至るまでにEと接触した者又はこのような者からEに関する情報を提供された者が作成したことが推認されるところ,上記の本件誓約書及び本件写真の作成目的に加え,本件密輸入が犯罪行為であることにも照らすと,これらの画像データが本件密輸入と全く無関係の者に提供されることは考え難いといえる。このことは,Eの氏名,性別,携帯電話番号の一部という個人識別情報に加え,本件航空便の略称やその出発時刻という本件密輸入と関係する情報が記載されている本件一覧表についても,同様である。
そうすると,これらの画像データを被告人Bのスマートフォンに送信した者及びこれを受信した被告人Bは,本件密輸入に関係する者であり,被告人Bは,本件密輸入について氏名不詳の共犯者らと意思を通じ合っていたことが推認される。
4
被告人D及び同Aと本件密輸入との結び付きを示す画像データの存在及びその検討
関係証拠(甲120,126,136)によれば,①被告人Dから差し押さえたスマートフォン内に,本件一覧表及び本件写真の各画像データ並びに本件誓約書類似の韓国語表記の一覧表(「氏名」欄と「数量」欄の間に「会社」欄が設けられ,「KE787(08:00)」等の記載があること及び日付や手書きの記載がないこと以外は,本件誓約書と概ね同内容である。)の画像データが保存されていたこと,同データは,いずれも日本時間の本件当日に,同被告人のスマートフォンに他者から送信されたものであること,②被告人Aから差し押さえたスマートフォン内にも,本件一覧表の画像データが保存されていたこと(なお,同画像データは粗く,一部判読困難な部分があるが,他の判読可能な部分や文書の体裁の同一性に照らすと,同データは,被告人Bのスマートフォン内に保存された本件一覧表と同一であると認められる。),同データは,本件当日に,同被告人のスマートフォンに他者から送信されたものであることが認められる。そうすると,被告人B
画像データを被告人D及び被告人Aのスマートフォンに送信した者並びにこれらを受信した両被告人も,本件密輸入に関係する者であり,両被告人も,本件密輸入について氏名不詳の共犯者らと意思を通じ合っていたことが推認される。
5
被告人Cと本件密輸入との結び付きを示すメッセージの存在及びその検討⑴

関係証拠(甲67)によれば,被告人Cは,被告人Bに対し,本件当日午前11時17分頃,スマートフォンで「今,4次のティウェイ航空着陸したんだけど」などのメッセージを送信し,これに対し,被告人Bは,「引率者向かわせて」などと返信したことが認められる。
Bのスマートフォン内に保存された本件一覧表
には「TW291(4陣

6名

10:05)」との記載があるところ(甲
122),この記載を併せ見れば,被告人Cの上記メッセージは,本件航空便が福岡空港に到着したことを被告人Bに伝えるものであることが強く推認
人Bが,上記メッセージを受け,被告人Cに対し,本件航空便に搭乗した者を引率する者を向かわせるよう指示したものと見られる返信をしたことに照らすと,被告人Cもまた,本件密輸入に関係する者であり,本件密輸入について被告人B及び氏名不詳の共犯者らと意思を通じ合っていたことが推認される。


また,関係証拠(甲95)によれば,被告人Cは,本件当日午後零時40分頃,Gこと氏名不詳者に対し,自己のスマートフォンのアプリケーションソフトを用いて,「今日の入管,税関の状況は最悪です」,「現時点,7チーム捕まって」とのメッセージを送信し,さらに,同日午後零時59分頃,「7名」,「総42個」とのメッセージを送信し,これに対し同人から「あ
Eほか6名が,本件当日に金地金合計42個を税関職員に発見されており,この事実を併せ見れば,被告人Cの上記メッセージは,Eらが金地金の密輸入に失敗したことをGこと氏名不詳者に伝えるものであると強く推認され,このことは,前記5
6
本件密輸入の前日から当日にかけての被告人4名の行動及びその検討関係証拠(甲59)によれば,被告人4名は,本件密輸入の前日夜,福岡市博多区内のホテルに共に入ってチェックインし,本件当日朝は,共に同ホテルを出て,同じタクシーに乗って移動したことが認められるところ,前記のとおり被告人4名は,いずれも本件密輸入について氏名不詳の共犯者らと意思を通じ合っていたことが推認され,このような被告人4名が本件当日の前後に上記被告人Bと被告人Cとの間
のメッセージの内容を併せると,被告人4名は,本件密輸入を共通の目的として,行動を共にしていたことが推認される。このことは,本件当日に先立ち,被告人4名のために,本件当日の夕方に福岡空港を出発予定の航空便の航空券が同時に予約されていたこと(甲61),被告人Bが,被告人Cに対し,本件当日午後零時12分頃,この予約内容を明らかにする画像データを同人のスマートフォンに送信したこと(甲67)を併せ見ると,尚更である。7
結論
以上を総合すれば,被告人4名が,本件密輸入につき,E及びその他の共犯者らと意思を通じ合い(なお,被告人Cが,本件当日午後4時48分頃,「F代表」と登録した者に対し,スマートフォンで「回収終わりました?」,「回収終わった!」とのメッセージを送信したこと(甲71)も併せ見ると,被告人4名がFこと氏名不詳者とも本件密輸入につき意思を通じ合っていたことも認められる。),また,被告人4名相互間でも意思を通じ合った上で,本件密輸入につき,実行犯であるEを出迎え,これを監視・誘導するなどした上,本件金地金を回収するという役割等を担っていたと認められる。
以上のとおりであり,各弁護人が種々主張するところを子細に見ても,共謀を含
め判示第1のとおり認めることができ,事実を認定するには合理的疑いが存するという各弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)(被告人4名共通)


第1
税関長の許可を受けず貨物を輸入しようとしたが遂げなった点
刑法60条,関税法111条3項,1項1号,67条
消費税を免れようとした点
刑法60条,消費税法64条1項1号
地方消費税を免れようとした点
刑法60条,地方税法72条の109第1項
第2
各税関長の許可を受けず貨物を輸出しようとしたが遂げなった点(1及び2)いずれも刑法60条,関税法111条3項,1項1号,
67条
各税関長の許可を受けず貨物を輸出しようとしてその予備をした点(3及び4)
いずれも刑法60条,関税法111条4項,1項1号,
67条
包括一罪(第2)

刑法10条(混合した包括一罪として刑及び犯情の最も
重い2の貨物無許可輸出未遂罪の刑で処断)

科刑上の一罪の処理(第1)
刑法54条1項前段,10条(1罪として刑及び犯情の
最も重い消費税法違反の罪の刑で処断)
刑種の選択(第1及び第2)
いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(重い第1の罪の
刑に法定の加重)

未決勾留日数の本刑算入

刑法21条

刑の執行猶予

刑法25条1項


刑法19条1項1号,2項本文(本件金地金は第1の犯


罪行為を,別紙第1ないし第4記載の各現金は第2の1
ないし4の各犯罪行為をそれぞれ組成した物)
訴訟費用(不負担)

刑事訴訟法181条1項ただし書

(没収の補足説明)
検察官が刑法19条に基づき本件金地金及び本件現金の没収を求刑したのに対し,各弁護人は,本件現金は,①同条1項1号の犯罪組成物件に該当せず,②同条2項本文の「犯人以外の者に属しない物」にも該当しない,③仮に,同条1項1号,2項本文に該当するとしても,本件現金を没収するのは,裁量の範囲を逸脱して違法であり許されないなどと主張して,その没収について争うが,当裁判所は,本件現金を同条により没収することとしたので,その理由を必要な限度で補足して説明する(なお,判示第1の事実について無罪主張をした各弁護人は,本件金地金の没収について特段の主張をしてはいないが,事案の内容に鑑み,本件金地金を没収する理由のうち,②の点については併せて言及することとする。)。1
①(犯罪組成物件該当性)について
各弁護人は,判示第2の各貨物無許可輸出未遂ないし予備(以下これらを併せて「本件密輸出」という。)において実質的に処罰される行為は,申告して許可を受けなかったという義務違反行為であり,本件現金は同義務違反行為を組成する物ではなく,ひいては刑法19条1項1号の犯罪組成物件に該当しないと主張する。
しかしながら,関税法111条1項1号の規定から,同条が処罰対象として定めているのは「許可を受けるべき貨物について当該許可を受けないで当該貨物を輸出」する行為であることは明らかであり(さらに,同条3項によりその未遂が,同条4項によりその予備が処罰される。),本件現金は本件密輸出の犯罪行為を組成するといえ,そのほか各弁護人が主張するところを検討しても,犯罪組成物件に該当しないとの主張は採用の限りではない。

2
②(「犯人以外の者に属しない物」の要件該当性)について⑴

金地金等の密輸出入組織の存在について

4月13日の金地金の密輸入の状況
被告人4名は,判示第1のとおり,E及び氏名不詳者らと共謀して,本件密輸入に及んだことが認められ,さらに,(事実認定の補足説明)3⑵アで検討したとおり,本件誓約書は,密輸入実行者の氏名及びその密輸入に係る金地金の個数を記載したものと推認されることから,4月13日には,Eを含む27名を実行犯とした金地金の密輸入が計画・実行され,同7のとおり,同日午後4時48分頃に被告人CがFこと氏名不詳者に「回収終わった!」とのメッセージを送信していること等に照らし,摘発されたEほか6名以外の者については,金地金合計122個の密輸入を遂げた(以下「本件密輸入等」という。)ものと推認される。

本件密輸入等後の状況
関係証拠によれば,次の事実が認められる。
被告人B及び同Dは,4月13日午後4時40分頃,福岡空港から同一航空便で香港国際空港に向けて出発した(甲61,78)。両被告人とも,100万円を超える現金の輸出について,特段申告はしていないところ(甲133),被告人Bのスマートフォンには,同日午後8時21分頃(香港時間),香港国際空港付近で,現金約5億3100万円を置いた状態で撮影した写真が保存されていた(甲115)。
さらに,被告人Bのスマートフォンには,①同日午後9時58分頃(日本時間),男が合計約5億3100万円の一万円札の束を数えながら,キャリーバッグに詰め込む様子を撮影した動画(甲117)及び②同日午後10時6分頃(前同)に撮影された,「Mic
17

日本円で531,000,000円受け取り

7日の月曜日に,116キログラムを渡す

13/04/

2017年4月1

Michael」などと記

載されたメモ(在香港のホテル名が印字)の写真(甲116)が保存されていた。
なお,被告人Cは,同月18日,自己のスマートフォンのアプリケーションソフトを用いて,Gこと氏名不詳者らに対し,「香港に到着して。金を直接購入しに注意しながら移動」,「とりあえず,日本円を持ってきたら,香港ドルに換金して,金の購買可能」,「今,香港本島で174,000,000円両替中」,「両替所で円を両替して,金の会社に入金すれば,その後,金の会社に行って,金を受け取ればいい」などのメッセージを送信し,また,Gこと氏名不詳者からの「円から香港ドルに両替して,金塊をマイケルから購入する?それとも,他のところで購入する?」とのメッセージに対し,「マイケルの方で両替をして,金を買ってもらうというシステム」と返信等している(甲102)ところ,前記メモ及び前記メッセージの内容並びに名の同一性等に照らし,被告人Cのいう「マイケル」と前記「Michael」は同一人物と目される。

検討
以上によれば,被告人4名及びその共犯者らは,4月13日,適宜役割を分担して,大量の金地金を日本に密輸入(本件密輸入等)した直後,多額の現金を香港に密輸出し,同現金を元手に香港において金地金を買い付けようとしており,そこからすると,本件密輸入等に係る金地金の換価金そのものを同日密輸出したとまでいえるかは措くとしても,金地金の密輸入と現金の密輸出を循環させていることが推認される。
このことは,他日ではあるものの,被告人Cのスマートフォンにインストールされたアプリケーションソフトで,①1月25日,Hこと氏名不詳者が「今日はお金の回収があると必ず伝えてください」,「GB(金塊)回収後円回収だけよろしくお願いします」というメッセージを「(引率者)」と付記された氏名不詳者に送ったり(甲82),②4月1日,被告人Cが,「日本から香港に現金を持って出国するとき,入管で現金に対する出所を聞かれることがあります。現金に対する出所を話せる程度には,準備してください」との内容の添付ファイル(「(香港チーム)」と付記された氏名不詳者が送信元のもの)をGこと氏名不詳者らに送ったり(甲91)していること等からも裏付けられる。
そして,このように金地金の密輸入と現金の密輸出を循環させる動機としては,密輸入に係る金地金を換金する際,支払を免れた消費税等相当額を上乗せして,不当な利益を得,それを重ねることにあると強く推認できる。
そして,被告人らのスマートフォンには,異なる日付が記載された本件一覧表類似の一覧表等が多数保存されている上,複数日にわたり,氏名不詳者らがアプリケーションソフトを通じて,客の搭乗,到着,入管通過状況,客からの「回収」状況等を報告し合う多数のやりとりがされていること(甲79ないし96,120,122,124ないし127)に照らせば,被告人らがそのすべてに関わったかは措くとしても,被告人らが関係する組織が,多数回にわたって金地金の密輸入を行ったことが推認され,ひいては,大規模に前記2⑴
を行ったものと推認することができる。


本件現金についての分析


とは容易に推認できる(付言すると,本件密輸入についても同様である。)ところ,実際,①被告人らが,本件密輸出当日にも,自ら「1次総36個持ってラウンジで待機中」,「2次5名29個回収完了」などと金地金を回収したとみられるやりとりをした(甲109)後,本件密輸出に及んでいること,②被告人A及び同Bが本件密輸出の際に所持していた現金には,4月19日にa銀行本店営業部が作成・封印した一千万円束全9個のうちの5個が含まれるところ,同9個は同日から翌20日にかけて現金を引き出した福岡市博多区内の株式会社bc支店(金などの貴金属を取り扱う古物商)従業員にすべて交付され,そのうちの5個は,同日,金地金20キログラムの売却代金として男性に交付されているが(甲20,25,45,46),その個数に照らし,被告人A及び同Bが所持した前記一千万束5個と前記売却代金との同一性が肯定されることは,いずれも上記推認を強めるものといえる。

被告人らが意思を通じていた氏名不詳者らは,

相当期間にわたって,組織的に金地金の密輸入及び現金の密輸出を大規模かつ多数回にわたって繰り返していたと推認できるところ,密輸入及び密輸出のいずれも国境を跨ぐ違法行為であって,摘発されれば大量の金地金や多額の現金を失う危険がある中,数億円にも及ぶ巨額の現金等を情を知らない者から募り,大量の金地金ないし多額の現金を密輸入及び密輸出により循環させるのは困難とみるべきで,そのような循環を繰り返していたという状況自体,その密輸に係る金地金及び現金が被告人ら又は共犯者らに属し処分可能なものであること,ないし,情を知った者から被告人ら又は共犯者らに託されたものであることを推認させ,そのことは前記循環の一環と推認される本件現金についても妥当するといえる(さらには本件金地金についても同様である。)。
この点,各弁護人はいずれも,本件現金につき,被告人4名の属する組織外の第三者が適法に運用されると思って資金提供している可能性があるなどと主張するが,本件全証拠によってもそのような可能性を窺わせる事情は見出せず,前記のとおり,金地金の密輸入及び現金の密輸出の循環の規模の大きさ,相当期間にわたり反復されていることに照らし,各弁護人指摘の可能性は抽象的なものにとどまるというべきである。

以上によれば,本件金地金及び本件現金のいずれも,「犯人以外の者に属しない物」と認められる。

3
③(本件現金の没収の相当性)について
各弁護人は,㋐被告人らから本件現金を没収することは,関税法上の必要的没収規定(同法118条)の改正(昭和42年法律第11号。従前,輸入禁制品の密輸入犯,関税ほ脱犯,無許可輸出入犯及び贓物故買犯に係る貨物は,善意の第三者の所有物である場合を除き,すべて必要的没収・追徴とされていたのを,没収対象貨物を犯則貨物のうち輸入制限貨物等に限ることとし,社会・公共の秩序に有害なもの及び不正輸入が我が国の産業経済に非常に悪影響のあるもののみを必要的没収の対象とすると改めたもの)の趣旨に照らして許されない,㋑刑法19条の趣旨や,罪刑の均衡及び責任主義の要請から,犯罪行為と没収を含めた刑罰との均衡が図られなければならず,本件において,本件現金の没収を行えば,実質的に関税法が定める罰金額の上限を上回る刑罰を科すことになり,許されないなどと主張する。
しかしながら,㋐については,同改正は,犯則貨物を常に関税法118条による必要的没収の対象とすると過酷な場合があること等を慮ってなされたものと解されるところ,同改正によっても,必要的没収の対象外とされた貨物について刑法19条の適用を排除する規定は設けられておらず,同改正の趣旨を踏まえても,もとより同条による任意的没収が妨げられるものではない。そして,㋑については,そもそも刑法19条1項1号が犯罪組成物件を没収の対象としたのは,同物件を没収することなく犯人に戻した場合,再度それを基に犯罪に及ぶことを防止する趣旨も含むと解されるところ,本件密輸出は,前記2で検討したとおり,組織による金地金の密輸入,換金,現金の密輸出,金地金の購入という循環の一部を構成し,大規模な消費税等のほ脱の準備行為としてなされた組織犯罪の側面を有しており,本件現金を没収しなければ,まさに同組織によって,再度これを基にした同種犯罪が敢行される可能性が高いといえ,没収の必要性は高度に認められる。そして,本件密輸出の規模の大きさ及び計画性の高さに基づく事案の重大性・悪質性に鑑みれば,これを没収することが犯罪行為との均衡を欠くとはいえない。加えて,近時,金地金の密輸入事案が増加し,本件同様,金地金の密輸入及び現金の密輸出を循環させる者も存在すると目される中,一般予防の観点からも本件現金を没収するべきである。
この点,各弁護人は,現金はそもそも禁製品には該当せず,本件密輸出は,単に本件現金の輸出の申告をして許可を受けなかっただけの極めて軽い部類の事案という趣旨の主張をするが,国際的な資金洗浄やテロ資金供与対策として支払手段の不正な輸出入に係る取締りの強化がされる中,前記のとおり本件密輸出がまさに循環型の犯罪スキームの一環としてなされ,送金による不都合回避の意図も含んでいると目されることに照らせば,本件密輸出が極めて軽い部類の事案などといえないことは明らかである。そのほか各弁護人が種々主張するところを検討しても,本件現金の全部を没収することが相当性を欠くとはいえない。
4
結論
以上の次第で,当裁判所は,本件現金を没収することとする。

(量刑の理由)
本件は,被告人らの共犯者において約6キログラムの金地金を密輸入してこれに対する消費税及び地方消費税を免れようとしたが未遂に終わった事案及び被告人4名において合計7億3000万円余の現金を密輸出しようとしたが一部につき未遂に,残余につき予備にとどまった事案である。いずれも,大量の金地金をインターネット等で募った報酬目当ての末端の実行犯らに指示して密輸入させ,その際消費税等の支払いを免れ,日本国内において上記実行犯らから同金地金を回収し,消費税等相当額を上乗せした価額で換金し,これにより得た多額の現金を密輸出し,同現金を元手に香港において大量の金地金を買い付け,再びこの金地金を密輸入することを繰り返すことにより,消費税等相当額の利益を得るという大規模なスキームの一環として行われたものであり,組織性,計画性の顕著な,悪質な犯行といえる。本件で被告人らが免れようとした消費税及び地方消費税額は少なくなく,密輸出しようとした現金は極めて高額であり,いずれも途中で犯行が発覚したことにより未遂ないし予備にとどまっているとはいえ,通関秩序を害した程度は大きいといえる。被告人らは,本件現金を実際に運搬しているほか,金地金の回収や買付け等も担うなど,組織に深く関与していることが窺われ,単なる運び屋などとは異なる上位の地位にあったといえる。以上によれば,本件の犯情は悪く,被告人らの刑事責任を軽視することは到底できない。
他方で,本件では,証拠上,被告人らよりも上位の首謀者の存在が窺われ,被告人らが組織を運営し,本件を主導したとまでは認められないこと,いずれも本邦における前科がないことなども考慮するとともに,前記のとおり本件が消費税等相当額の利益を得るという大規模なスキームの一環として行われた悪質なものであるとはいえ,あくまでも起訴された事実についての刑責を問うことを考えた場合,被告人らについて,直ちに実刑に処するのは躊躇を覚えるところである。そこで,被告人らに対しては,主文のとおりの刑に処した上,今回に限り,いずれもその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑

全被告人につき懲役4年,主文同旨の没収)

平成29年12月20日
福岡地方裁判所第2刑事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官


(別紙省略)

喜史川省吾野静香
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