判例検索β > 平成24年(行ウ)第5号
違法支出金返還請求事件等
事件番号平成24(行ウ)5
事件名違法支出金返還請求事件等
裁判年月日平成29年12月7日
法廷名大阪地方裁判所
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主文1
原告ら及び原告共同訴訟参加人らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用及び補助参加によって生じた費用は原告ら及び原告共同訴訟参加人らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求
被告は,αに対し,96億3000万円及びこれに対する平成24年1月31
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,大阪府の住民である甲事件原告ら及び乙事件原告共同訴訟参加人ら(以下,併せて「原告ら」という。)が,大阪府によるβビルの購入及びβビルへの部局の移転につき,その当時大阪府知事であった被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)が,βビルの耐震性等について十分な調査をすることなく,防災拠点となるべき大阪府庁舎として使用する目的でβビルを購入する旨の契約を締結し,βビル及びその敷地の購入費用(以下「本件購入費用」という。)並びに大阪府の部局の移転に要した費用(以下「本件移転費用」という。)を支出したことは違法であるなどと主張して,被告を相手に,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,補助参加人に対し,不法行為に基づく損害賠償金96億3000万円(本件購入費用の全額及び本件移転費用の一部相当額)及びこれに対する平成24年1月31日(被告に対する訴状及び当事者参加申出書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求をすることを求める住民訴訟の事案である。

2
関係法令等の定め
地方自治法4条

1項

地方公共団体は,その事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは,条例でこれを定めなければならない。

2項
地方自治法4条1項の事務所の位置を定め又はこれを変更するに当っては,住民の利用に最も便利であるように,交通の事情,他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない。


3項
地方自治法4条1項の条例を制定し又は改廃しようとするときは,当該地方公共団体の議会において出席議員の3分の2以上の者の同意がなければならない。
地方自治法施行規程(昭和22年政令第19号)1条
地方公共団体の事務所の現に在る位置は,地方自治法4条の条例で定めた
ものとみなす。
建築基準法(平成26年法律第54号による改正前のもの。以下同じ。)20条
建築物は,自重,積載荷重,積雪荷重,風圧,土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして,次の各号に掲げる建築物の区分に応じ,それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない。
1号

高さが60mを超える建築物

当該建築物の安全上必要な構造方法に

関して政令で定める技術的基準に適合するものであること。この場合において,その構造方法は,荷重及び外力によって建築物の各部分に連続的に生ずる力及び変形を把握することその他の政令で定める基準に従った構造計算によって安全性が確かめられたものとして国土交通大臣の認定(以下「超高層建築物の大臣認定」という。)を受けたものであること。2号から4号まで


建築基準法施行令(特に断らない限り平成25年政令第217号による改正前のもの)81条1項
建築基準法20条1号の政令で定める基準は,次のとおりとする。1号

荷重及び外力によって建築物の各部分に連続的に生ずる力及び変形を
把握すること。
2号

前号の規定により把握した力及び変形が当該建築物の各部分の耐力及
び変形限度を超えないことを確かめること。
3号

屋根ふき材,外装材及び屋外に面する帳壁が,風圧並びに地震その他
の震動及び衝撃に対して構造耐力上安全であることを確かめること。4号

前3号に掲げるもののほか,建築物が構造耐力上安全であることを確
かめるために必要なものとして国土交通大臣が定める基準に適合すること。
なお,上記基準として,高さが60mを超える建築物の構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件
(平成12年建設省告示第1
461号)が定められている。
3
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠(枝番のあるものは特記しない限り全枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
当事者等

原告らは,いずれも大阪府の住民である。


補助参加人は,平成20年2月6日から平成23年10月31日までの間,大阪府知事であった者である(乙74)。
大阪府の事務所の位置
大阪市ζ区ηθ丁目に所在する大阪府η庁舎の本館は,地方自治法施行前
の大正15年に建設された建築物であり,その位置は,地方自治法施行規程
1条により,地方自治法4条1項の条例で定めた大阪府の事務所の位置とみなされている。(以上につき,弁論の全趣旨)
βビル

βビルは,大阪市γ区δ北ε丁目に所在する,高さ256m,鉄骨・鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリート造,地上55階・地下3階建ての建築物である(甲66,乙4,75)。


βビルの建築主である株式会社大阪βビルディング(β社)は,βビルの構造計算につき,平成2年10月30日,建設大臣(当時)から,平成19年政令第49号による改正前の建設基準法施行令81条の2に基づき,構造耐力上安全であることを確かめることができるものである旨の認定を受けた(乙32)。
また,βビル社は,大阪市建築主事から,平成3年1月23日,βビルの建築計画につき建築確認を受け,平成7年3月10日,βビル及びその敷地に係る検査済証の交付を受けた(乙15)。
β社は,平成21年3月26日に会社更生法に基づく更生手続開始の申立てをし,その後,更生手続開始決定を受けて更生会社となり,平成22年3月29日に更生計画案の認可決定を受けた(乙37,弁論の全趣旨)。大阪府によるβビルの購入に至る経緯等


大阪府は,平成17年度において,η庁舎本館の耐震診断を行ったところ,建築基準法が必要としている耐震性を満たしていないことが明らかとなった(乙5)。そして,平成20年2月に大阪府知事に就任した補助参加人は,上記問題の解決策として,大阪府がβビルを購入し,大阪府庁舎をβビルに移転する構想について検討を始めた(弁論の全趣旨)。

βビルを設計したι設計は,大阪府の依頼を受けて,長周期地震動によるβビルへの影響調査(以下「本件調査」という。)を実施し,平成21年1月,本件調査に係るι設計報告書を作成した(乙16の1)。

大阪府は,η庁舎本館の耐震補強をする案(以下「耐震補強案①」という。),η庁舎本館を建て替える案(以下「建て替え案①」という。)及びη庁舎本館からβビルへ移転する案(以下「β移転案①」という。)の3案を比較した結果,β移転案①が最も妥当であると判断し,平成21年2月13日付けで,「庁舎移転構想(案)」(以下「庁舎移転構想」という。)を作成した(乙28)。


大阪府知事(補助参加人)は,平成21年2月,大阪府議会の定例会に,大阪府の事務所の位置をβビルの所在地とする旨の地方自治法4条1項所定の条例案(以下「本件移転条例案①」という。)及びβビルの購入予算を含む平成21年度大阪府一般会計補正予算案を提案した。しかし,大阪府議会は,本件移転条例案①及び補正予算案をいずれも否決した。(以上につき,乙6,弁論の全趣旨)


大阪府と大阪市は,共同で「κの防災機能府市共同検討ワーキンググループ」を設置し,平成21年8月,その検討結果として,「κの防災機能に関する検討報告書」(以下「防災機能検討報告書」という。)を公表した(乙17)。


大阪府は,
耐震補強案①を改訂した案
(以下
「耐震補強案②」
という。,

建て替え案①を改訂した案(以下「建て替え案②」という。)及びβ移転案①を改訂した案(以下「β移転案②」という。)の3案を比較した結果,β移転案②が最も妥当であると判断し,平成21年9月3日付けで,「庁舎移転案」と題する書面(以下「庁舎移転案」という。)を作成した(乙24)。


大阪府知事(補助参加人)は,平成21年9月,大阪府議会の定例会に,本件移転条例案①と同様の条例案(以下「本件移転条例案②」という。)及びβビルの購入予算を含む補正予算案を提案した。大阪府議会は,上記各議案のうち,本件移転条例案②については否決したが,補正予算案につ
いては可決した。(以上につき,乙7,弁論の全趣旨)

大阪府知事(補助参加人)は,平成22年2月,大阪府議会の定例会に,本件購入費用のほか,大阪府の部局が入居するための改修費や移転費などの関係予算を含む当初予算案を提案し,大阪府議会は,同予算案を可決した(乙8)。
本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出等


補助参加人は,大阪府を代表して,平成22年3月26日,β社の更生管財人λとの間で,大阪府議会の議決等を停止条件として,βビル及びその敷地の各一部を代金80億6724万2150円(税込み)で買い受ける旨の契約を締結した(乙1の1)。


補助参加人は,大阪府を代表して,平成22年3月26日,大阪市との間で,大阪府議会の議決等を停止条件として,βビル及びその敷地の各一部(上記アの残部)を代金4億3010万3850円(税込み)で買い受ける旨の契約を締結した(乙1の2。以下,上記アの契約と併せて「本件購入契約」という。)。


大阪府議会は,平成22年5月28日の定例会において,大阪府がβビル及びその敷地を84億9734万6000円で購入する旨の議案を可決した(乙9)。


大阪府は,本件購入契約に基づき,平成22年6月1日に大阪市に対して4億3010万3850円を支払い,同月25日にβ社に対して80億6724万2150円を支払い,βビル及びその敷地の所有権を取得した(乙2,75)。


大阪府知事(補助参加人)は,平成22年6月1日,大阪府κ庁舎管理規則(平成22年大阪府規則第49号)を制定し,βビル及びその敷地のうち同知事の管理に属する部分を「κ庁舎」とした(同規則2条1号。乙14)。

βビルへの部局の移転
大阪府は,
平成22年4月から平成23年5月までの間に,
以下のとおり,
大阪府の一部の部局をβビルに順次移転した(甲9)。

平成22年4月1日

総務部(庁舎管理課分室)


平成22年7月1日

政策企画部(府市共同チーム)


平成22年11月29日

総務部財産活用課


平成22年12月27日

府民文化部(府民文化総務課,私学・大学課,

男女参画・府民協同課,人権室,都市魅力創造局),人事委員会事務局(職員総合相談センター)

平成23年1月17日

教育委員会事務局(文化財保護課)


平成23年2月14日

総務部税務室,収用委員会事務局,府民文化部

(大阪マラソン事務局)

平成23年3月14日

総務部統計課(統計資料室)


平成23年3月22日

商工労働部
(商工労働総務課,
企業誘致推進課,

商工振興室,金融支援課,貸金業対策課,雇用推進室,バイオ振興課),環境農林水産部(環境農林水産総務課,検査指導課,みどり都市環境室,循環型社会推進室,環境管理室,農政室,流通対策室,水産課,動物愛護畜産課),住宅まちづくり部(住宅まちづくり総務課,居住企画課,建築指導室,住宅経営室,公共建築室,タウン推進室(分室)),海区漁業調整委員会

平成23年3月30日


平成23年5月2日

商工労働部(新エネルギー産業課)
住宅まちづくり部(建築振興課)

本件移転費用の支出

大阪府は,平成23年1月28日,μ株式会社から,一般競争入札の方法により,IPテレビ電話35台(以下「本件IP電話」という。)を代金244万2825円(税込み)で購入する旨の契約を締結し,同社に対
して上記金額を支払った(甲51,52,弁論の全趣旨)。

大阪府は,平成23年2月22日,株式会社νから,一般競争入札の方法により,アームチェア等の調度品(以下「本件調度品」という。)を代金483万円(税込み)で購入する旨の契約を締結し,同社に対して上記金額を支払った(甲44,45)。本件調度品は,βビル50階の迎賓応接室(以下「本件応接室」という。)に設置された(甲46)。


大阪府は,
平成22年6月1日から平成23年10月19日までの間に,
本件移転費用として合計11億1830万0744円(上記ア及びイの費用を含む。)を支出した(弁論の全趣旨)。
東日本大震災後の経過


平成23年3月11日,東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)が発生した。βビルは,同地震により約10分間揺れ,短辺方向(以下「Y方向」という。)137㎝,長辺方向(以下「X方向」という。)86㎝の揺れが確認され,内装材や防火戸等の一部で破損が見られたほか,エレベータの停止や閉じ込め現象が発生した(乙3)。


大阪府は,平成23年5月13日,「κ庁舎の安全性等についての検証結果」(以下「大阪府検証結果」という。)を公表した(乙3)。

大阪府は,平成23年6月24日,「κ庁舎の安全性と防災拠点のあり方に関する専門家会議」(以下「本件専門家会議」という。)の第1回会議を開催した。本件専門家会議は,その後,同年7月13日に第2回を,同年8月4日に第3回を,同月9日に第4回を開催し,同日,「κ庁舎の安全性等についての検証結果」(以下「専門家会議検証結果」という。)を取りまとめた。(以上につき,乙18)
補助参加人は,同月18日,本件専門家会議の結果を踏まえて専門家と意見交換を行った。


ξ社は,平成23年8月19日,専門家会議検証結果及び上記ウの意見
交換会に関する記事を,同日朝刊1面で報道した(甲4)。

大阪府は,平成23年8月29日,戦略本部会議において,βビルを防災拠点としては使用しない方針を決定した(乙19)。
監査請求及び訴えの提起


原告らは,平成23年10月19日,大阪府監査委員に対し,本件購入契約の締結並びに本件購入費用及び本件移転費用の各支出に係る住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした(甲1)。


大阪府監査委員は,平成23年12月14日,本件監査請求を棄却した(甲1)。


甲事件原告らは,平成24年1月12日,甲事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。


乙事件原告共同訴訟参加人らは,平成24年1月13日,甲事件に共同訴訟参加する旨の申出(乙事件)をした(顕著な事実)。

4
争点
監査請求期間徒過に係る正当な理由の有無(本案前の争点。争点①)本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出の違法性(争点②)本件移転費用の支出の違法性(争点③)
補助参加人の故意又は過失の有無(争点④)
損害の発生の有無及びその額(争点⑤)

5
争点に関する当事者の主張
争点①(監査請求期間徒過に係る正当な理由の有無)(原告らの主張)

原告らは,本件購入契約の事実を知るだけでは,βビルが十分な耐震性を備えているかどうかを知ることができず,契約締結行為の違法性又は不当性を判断することができない以上,本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出の時点においては,客観的に見て住民監査請求をするに足りる程
度に財務会計行為の内容を知り得たとはいえない。

大阪府は,本件購入契約に先立って,耐震性等に関する調査結果をホームページ上で公表していたが,そもそも上記調査は不十分なものであった上,上記調査が十分なものであったか否かやその調査結果の妥当性を判断するには相当に高度な専門的知識を必要とするのであり,原告らは,上記調査結果のみでは本件購入契約の違法性を覚知できなかった。


原告らは,平成23年8月19日に専門家会議検証結果に関する新聞報道(前提事実

エ)を見て初めて,専門家による検討の結果として,βビ

ルが防災拠点としての耐震性を備えておらず,十分な耐震調査が実施されないまま購入されたことを知った。そして,本件監査請求は同日から2か月後である同年10月19日にされたものであるから,監査請求期間を徒過したことについて正当な理由がある。
(被告の主張)(補助参加人の主張を含む。以下同じ。)

本件購入費用の支出は平成22年6月25日までに終了しており,本件監査請求がされた平成23年10月19日の時点では,既に1年の監査請求期間を徒過していた。


大阪府は,
βビルの購入に先立って耐震性の調査をし,
平成21年2月,
上記調査の結果及び執るべき措置を大阪府議会に説明するとともに大阪府のホームページ上で公表した。また,大阪府は,本件購入契約の締結に先立ち,上記調査結果に基づく装置の設置等に係る対策予算について,大阪府議会の承認を得た。
以上の経過によれば,原告らは,平成22年5月28日にされたβビル購入に係る大阪府議会の議決(前提事実

ウ)の頃には,βビルの耐震性

調査の結果の相当性について疑いを差し挟む余地が全くなかったとはいい難いから,本件監査請求は監査請求期間を徒過したことについて正当な理由があるとはいえない。

したがって,本件訴えのうち,被告が補助参加人に対して本件購入費用相当額である84億9734万円及びこれに対する平成24年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求することを求める部分は,適法な住民監査請求を経ておらず,不適法である。
争点②(本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出の違法性)
(原告らの主張)
βビルは,防災拠点として使用するに耐え得る耐震性を欠いているなど,大阪府庁舎として使用することが不適切な建築物であるにもかかわらず,大阪府は,十分な調査を行うことなく,βビルを大阪府庁舎として使用する目的で本件購入契約を締結した。したがって,本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出は,地方自治法2条14項,220条1項,221条2項,232条の3,232条の4第1項,地方財政法4条1項に反し,違法である。ア
βビルの耐震性について
本件調査をι設計に依頼したことについて
a
大阪府は,ι設計に対して本件調査を依頼したが,ι設計はβビルの建築の際に設計業務を担当した業者であり,調査結果に利害関係を有する。また,大阪府と大阪市は,平成19年5月,ο教授を委員長とする大阪府・大阪市構造物耐震検討委員会を設置し,建築物の耐震設計の基準等について検討を行っていた。したがって,大阪府は,同委員会等の利害関係のない第三者機関又は公的機関に対して本件調査を依頼することができ,また,依頼すべきであったにもかかわらず,これを行わなかった。

b
被告は,ι設計に依頼した理由として,βビルへの大阪府庁舎の移転検討を表明した平成20年8月から平成21年2月の大阪府議会の定例会までの間に,大阪府の考え方を集約する必要があったことを挙げる。しかし,大阪府としては,その頃までに最終的な意見を出す必要はなく,十分な時間をかけ,専門家の意見を十分取り入れて検討する必要があった。また,ι設計以外の業者による耐震性調査に6か月間を要するとしても,平成20年8月に開始すれば調査を終えることができたはずであるし,ι設計に対して資料の提出や情報提供を求めた上で第三者に依頼すれば早期に調査を終えることができたはずである。したがって,被告が主張する上記の事情は,βビルを設計したι設計に対して耐震性調査を依頼する理由にはならない。
c
βビルの大阪府庁舎としての耐震性については,本件専門家会議において専門家から厳しい指摘があり,その検討結果は,制震補強を施しても十分な改善は見られないというものであった。したがって,大阪府が,ι設計以外の専門家に対して上記耐震性について検討を依頼していれば,βビルを購入するという判断には至らなかった。
ι設計が作成した模擬地震波(以下「本件模擬地震波」という。)に
よってβビルの耐震性を判断することの当否等について
a
釜江波,関口波,鶴来波等による検討の要否
βビルは平成7年に竣工した建築物であり,設計時には長周期地
震動に備えた制震や免震構造等は考慮されていなかった。
日本では,
平成15年9月に発生した十勝沖地震を契機に長周期地震動への対策が検討され始め,今なお検討途上である。したがって,大阪府は,βビルの耐震性の検討に当たっては,建築基準法上の要件を満たしているか否かだけではなく,学会における最高水準のあらゆる知見を踏まえて検討すべきであった。
ι設計は,経験的手法(過去の地震の記録の解析結果に基づいて
地震動を推定する手法。以下同じ。)を採用し,中央防災会議や防災科学技術研究所等の公的機関が公表している知見のみを基に,独自の模擬地震波(本件模擬地震波)を作成して検討用長周期地震動に用いた。しかし,模擬地震波の作成手法には経験的手法のほかに理論的手法(理論的に数式を用いて地震波を表現する手法。以下同じ。)があるところ,本件調査時には,理論的手法を採用した模擬地震波である,釜江波,関口波,鶴来波,鈴木波等が公にされていた(甲12,甲26)。また,本件調査時には,ハイブリッド法(経験的手法と理論的手法を組み合わせた手法。以下同じ。)が,模擬地震波を作成する手法として一般的かつ最良の方法と指摘されていた。したがって,本件模擬地震波のみによってβビルの構造安全性を検討することは誤りである。
b
本件模擬地震波につき入力地震動の割増しを行う必要があったか否か
本件購入契約当時,時刻歴応答解析(建築物の安全確認のための構造計算の方法の一つで,地震動による建築物の挙動を時刻歴で詳細に把握する計算方法をいう。)による評価の基準として,官庁施設の総合耐震計画基準(甲15。以下「官庁施設耐震基準」という。)があり,同基準はβビルにも適用された。そして,その解説である「官庁施設の総合耐震計画基準及び同解説」(乙67。以下「官庁施設耐震基準解説」という。)には,特に重要度の高い建築物については,入力地震動について1.
2倍程度割増しをすべきである旨の記載がある。
しかし,本件模擬地震波については,上記割増しがされていない。また,被告は,精緻な想定地震動が作成されていれば上記割増しは不要であると主張するが,官庁施設耐震基準解説にはそのような記載はないし,本件模擬地震波が精緻なものともいえない。

c
本件模擬地震波等の内容が不合理か否か
紀伊半島南東沖地震の観測記録を用いていない点について
本件模擬地震波の作成に際して参考にされた観測記録は,平成1
5年の北海道及び青森県の観測記録であり,その後本件調査までに発生した紀伊半島南東沖地震の観測記録を使用していない。
本件模擬地震波が採用した破壊開始地点について
本件模擬地震波は,与えられた震源域の中で大阪κκから最も遠
い地点を破壊開始地点とすることによって,地震の影響を過小評価した。
本件模擬地震波と建設省告示に基づいてι設計が作成した設計用
地震動(以下「告示波」という。)との比較について
建設省は,平成12年,「超高層建築物の構造耐力上の安全性を
確かめるための構造計算の基準を定める件」(平成12年建設省告示第1461号)において,設計用地震動の告示スペクトルの算定方法を公示した。これ以後,一定の建築構造物の設計者は,この告示スペクトルに基づき設計用地震動を作成することとなり,ι設計も告示波を作成して本件調査をしたが,これはあくまでも設計用地震動の最低限を示すものであり,大規模で社会性の大きな建築物等では,当然,余裕度を持った安全性が確保されなければならない。しかも,βビルの層間変形角の値についてみると,Y方向では,告示波による値が本件模擬地震波による値よりも大きい。
したがって,
本件模擬地震波は,
告示波の定める水準をも満たさないものである。
βビルの構造安全性について
a
保有水平耐力に基づく構造計算の要否
建築基準法は建築を行う際の基準であって,建築された建築物には直接適用されない。しかし,購入時に同じ建築物を建築することが同法上可能か否かは当然検討すべき事項である。また,防災拠点として購入する以上,建築時のみならず購入時点においても同法に適合している必要がある。
βビルは,高さが60mを超える建築物であるから,「当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術基準に適合」している必要があるところ(建築基準法20条1号),上記「政令で定める技術基準」である建築基準法施行令81条1項は,1号で時刻歴応答解析を求め,2号で「当該建築物の各部分の耐力・・・を超えないこと」と定めているところ,ここでいう「耐力」は水平耐力と鉛直体力が含まれる概念であるから,同号は時刻歴応答解析によって把握した力が当該建築物の必要保有水平耐力を超えていないことの確認を求めていると解すべきである。
また,官庁施設耐震基準解説では,高層建築物等の大地震動に対する設計のうち,構造体の目標性能と設計方法について,基礎構造及び上部構造のうち地下階については明示的に
「保有水平耐力を確保する」
とされているところ(乙67),地下階や基礎構造の保有水平耐力を計算するには地上階の保有水平耐力を求めなければならないのであるから,上部構造のうち地上階についても保有水平耐力の検討が必要である。そして,「地震荷重-その現状と将来の展望」(甲59)においても,高層建築物の主体構造に対する動的解析において保有水平耐力が十分であるか否かを検討する必要がある旨の指摘がある。
したがって,購入時の建築基準法及び官庁施設耐震基準によれば,βビルについては,保有水平耐力の確認が必要であったと解すべきである。
b
「建築物の耐震性能評価手法の現状と課題-限界耐力計算・エネルギー法・時刻歴応答解析-」(π学会文書。甲58)に記載された基準への適合性の要否等
π学会は,平成21年2月25日,π学会文書を公表した。π学会文書には,各階の層間変形角が1/150を超えない範囲にある必要があるとの基準を定めており,βビルはその基準を満たしていない。c
時刻歴応答解析建築物性能評価業務方法書
(以下
「性能評価方法書」
という。甲14)の定める基準への適合性
指定性能評価機関であるρが作成した性能評価方法書では,各階
の層間変形角の基準は1/100を越えない範囲であることとされており,ι設計報告書でもこれが採用されている。しかし,これは高さが60mを超える建築物一般についての基準値であり,大阪府庁舎として用いる建築物は更に厳しい基準によって安全性を確認されなければならなかった。
性能評価方法書は,各階の層間変形角が1/100を超えない範
囲にあることを要件としている。しかし,βビルの層間変形角は,最大で,X方向が1/59,Y方向が1/59であり,1/100を大きく上回っている。
なお,被告は,層間変形角は揺れによる構造体の変形のうち,曲
げ変形成分及びせん断変形成分の両方を含んだものであり,構造躯体に影響を及ぼすのはせん断変形成分であるとして,層間変形角はせん断変形成分によって判断すれば足りると主張する。しかし,強い曲げ変形成分が長時間続くと,各フロアの設備や配管が破壊される危険がある。したがって,層間変形角の評価において,曲げ変形成分を除外してせん断変形成分のみで評価することは許されない。そして,仮にせん断変形成分のみで評価するとしても,X方向の層間変形角は1/98であるから,性能評価方法書の定める基準を満たしていない。
性能評価方法書は,層の塑性率(構造躯体の損傷度合いを表す指
標)は2.0を越えないことを要件としている。しかし,βビルの層の塑性率は2.0を超えている。
性能評価方法書は,部材の塑性率(柱や梁等の部材の損傷度合い
を表す指標)が4.0以下であることを要件としている。しかし,βビルの部材の塑性率は,告示波に基づく解析では10.0,本件模擬地震波に基づく解析では6.0であり,いずれも4.0を超えている。
以上のとおり,
βビルは,
ι設計報告書の提出を受けた時点では,
性能評価方法書の要件を満たさない建築物であった。
βビルの地盤の安全性について
βビルは杭基礎で支持されているが,地盤が液状化すると,杭が破損する可能性が生じる。そして,後記イ

のとおり,βビルの敷地及びκ

地区には液状化の可能性がある。また,βビルについては,液状化の可能性を踏まえた杭の安全性の確認がされていない。したがって,βビルは,地盤の液状化により杭基礎が破損するなどして,その支持力を失う可能性がある。
まとめ
以上のとおり,βビルは,官庁建築物としての要件を満たさないし,本件購入契約締結当時の建築基準法の定める要件を満たさない既存不適格建築物であった。

βビルの防災拠点としての適格性等について
βビル立地地点及びκ地区の液状化予測について
地盤の液状化が起こる条件として,一般に,①砂質地盤であること,②地下水位が高いこと及び③地震による揺れ(地震動)の強さが挙げられているところ,βビルの敷地を含むκ地区は,以下のとおり,上記のいずれの条件についても問題がある。
a
①地盤については,埋立層に用いられた材料が浚渫粘土のみであることに疑問があり,砂が用いられている可能性があるし,埋立層の下層は全て粘土で構成されているわけではない。また,大阪府内では2万2000本のボーリングデータが登録されているものの,κ地区に限れば10本から12本のボーリングデータがあるにすぎず,精度の高い液状化予測は困難である。
b
②地下水位については,
κ地区はいまだに地盤沈下が進行しており,
液状化が起こるに足りるだけの地下水を含んでいるといえる。

c
③地震動の強さについては,大阪市及び大阪府は,平成11年に,大阪湾の埋立地の設計地震動について,最大加速度を433ガルとしているが,今後予想される上町断層帯地震や東南海・南海地震による最大加速度を正確に予測することは不可能であり,実際に発生すれば上記設計地震動をはるかに上回る可能性がある。
庁舎移転案において示された災害時における職員のβビルへの参集
経路(以下「参集ルート」という。)の安全性について
a
防災機能検討報告書及びこれを受けて作成された庁舎移転案は,参集ルートとして,①γルート,②σルート及び③τルートの3ルートを想定している。しかし,地震による建築物の倒壊や液状化,津波による影響の大きさが正確に考慮されているとは到底いえない。すなわち,まず,①γルートについては,排水や圧密沈下が完全に終了した地盤ではなく,想定津波水位と比較して低くなっている箇所がある。次に,②σルートは,その工法の特殊性からκトンネル継手部の損傷は避けられない上,同トンネルλλ区側坑口は地震発生時の津波により水没する可能性がある。そして,③τルート上のυ大橋は,耐震性の照査ができておらず,φ大橋及びχトンネルの地盤は排水や圧密沈下が完全に終了した地盤ではない。

b
以上に加え,大阪府は,平成22年5月にβビルを購入した後に対応策を講じているが,これによって同月時点における判断が正当化されるわけではない。また,津波の発生を伴う海溝型地震が発生した場合に,水没する可能性のある橋梁や海底トンネルを通って海岸に近いβビルに職員を参集させるのは非現実的かつ危険な構想である。
c
以上のとおり,参集ルートの安全性が確保されていたとは到底いえない。
なお,大阪府は,平成25年8月に公表した南海トラフ巨大地震による津波浸水想定を踏まえ,βビルに職員を参集させない方針を固め,βビルが防災拠点として機能しないことを自ら認めるに至った。

財政シミュレーションの適否等について
大阪府庁舎の移転等によるη庁舎跡地等の活用に基づく収入(以下「土地活用収入」という。)について
庁舎移転案で示されたβ移転案②の費用は,耐震補強案②及び建て替え案②の費用に比べて少ないとされているが,これは,土地活用収入について,η庁舎からβビルへの全面移転を前提として金額を算出したことによる。しかし,本件移転条例案①が否決された時点で,土地活用収入を得る見込みはなかったといえるから,遅くともその後に公表された庁舎移転案での財政シミュレーションは,上記土地活用収入を考慮した誤りがある。
賃料収入予測について
β移転案②の財政シミュレーションでは,βビルの民間の賃借人の平成21年から平成53年までの平均空室率を50%として,上記賃借人から得られる賃料等が計算されているが,上記平均空室率は,現在のβビルの空室率からみて,著しく予測を誤ったものといわざるを得ない。業務システム移転費及び防災行政無線整備費について
β移転案②の財政シミュレーションでは,業務システムの移転費や防災行政無線の整備費(約88億円)が含まれていなかった。
大規模修繕費について
東京都庁舎の修繕費は,新築工事費の約半額を要することになっていることからすると,
同じく超高層建築物であるβビルの大規模修繕費も,
新築工事費の約半額である約600億円を要する。
(被告の主張)

βビルの耐震性について
地方公共団体がどのような財産を購入するべきかについては,地方自治法96条1項8号が一定の場合に議会の議決を要する旨を定めているほかは,これを規制する法令は存在しない。また,原告らが挙げる各法令は,いずれも,地方公共団体が購入する財産について具体的に規制をするものではない。すなわち,地方公共団体の財産購入契約は,長の裁量に委ねられているというべきであり,長においてその裁量権を逸脱,濫用し,必要性のない財産を,合理的な理由なく購入し,又は著しく高額な対価で財産を取得した場合に限って,当該財産の購入が違法となるものというべきである。
本件調査をι設計に依頼したことについて
a
大阪府は,平成20年8月頃,補助参加人が大阪府庁舎のβビルへの移転検討を表明したことを機に,調査検討及びβビルの所有者である大阪市等との調整に着手したが,大阪市は,同調整の期限を平成21年3月末と設定した。したがって,大阪府は,その頃までにβビルを購入するか否かの判断を行う必要があった。

b
建築基準法では,長周期地震動に関する基準は整備されていなかったので,大阪府は,東南海・南海地震を想定した模擬地震波を独自に作成する必要があった。他方,ι設計は,βビルの設計者であるから,その建築構造を知悉しており,正確かつ迅速に調査等を行うことが見込まれ,βビルへの長周期地震動の影響についても従前から検討していた。
また,本件調査は,東南海・南海地震を想定して作成した本件模擬地震波をβビルの構造モデルに入力し,地震が建築物の構造体や部材に与える影響について時刻歴応答解析を行ったものである。本件模擬地震波は,中央防災会議が平成15年度に公表した東南海・南海地震の震源特性に基づいてι設計が作成したものであって,当時の確定的知見に基づくものであり,その調査・検討の経過に問題はない。
c
ι設計はβビルの設計者であるが,βビルは建築当時の法令及び基準に適合しており,当時は長周期地震動に係る法令等の基準も存在しなかった。したがって,本件調査によって長周期地震動に対する安全性に問題があるとされても,
同社が遡って責任を負うことはないから,
同社が本件調査に対して利害関係があるとはいえない。

d
大阪府が大阪府・大阪市構造物耐震検討委員会に対して委託した業務は,土木構造物等に対する地震動の影響の検討であり,βビルという個別の建築構造物への長周期地震動の影響に関する調査と直接関係するものではなかった。また,大阪市が同委員会に対して委託した業務には建築構造物への影響に関する調査も含まれていたが,同委員会は,建築構造物についての標準地震動の設定には至らなかった。したがって,本件調査を大阪府・大阪市構造物耐震検討委員会に対して依頼すべきであったとはいえない。
本件模擬地震波によってβビルの耐震性を判断することの当否等につ
いて
a
釜江波,関口波,鶴来波等による検討の要否
地震動の特性は,
①震源特性
(地震の規模,
断層面の破壊過程等)

②伝播経路特性(震源から建築物の立地地盤までの間における地震動の強さの変化や減衰の度合い)及び③サイト特性(建築物の立地地盤の特性)の3要素の合成結果として決定される。そこで,ι設計は,本件模擬地震波の作成に当たって,
点の2点に留意し,

作成手法及び

立地地

作成手法については経験的手法を採用し,

立地地点に即した地震動の作成のために,①平成15年に中央防災会議から公表された東南海・南海地震の震源特性に関する知見のほか,②震源からの距離に応じた地震動の減衰についても考慮し,③κ地区の詳細な地盤構造を反映した本件模擬地震波を作成して,コンピュータを用いた時刻歴応答解析をした。
長周期地震動については,本件購入契約当時の法令にはよるべき
基準が存在しておらず,現時点においても,基準として法定されているものはない。そして,模擬地震波の作成手法には経験的手法と理論的手法があるところ,両手法には一長一短があり,優劣はつけ難い状況であった。原告らが挙げる釜江波,関口波,鶴来波,鈴木波等も,理論的手法を採用した仮説の一つにすぎなかったのであるから,これらを用いて検討する義務はない。
b
本件模擬地震波につき入力地震動の割増しを行う必要があったか否か
官庁施設耐震基準解説(乙67)に記載されている入力地震動の割増しは,想定地震動の作成が困難な場合の簡便な方法にすぎず,個別に想定地震動を作成した本件模擬地震波には,割増しの必要はない。
c
本件模擬地震波等の内容が不合理か否か
紀伊半島南東沖地震の観測記録を用いていない点について
本件模擬地震波は,作成に当たって,十勝沖地震の観測記録を採
用し,紀伊半島南東沖地震の観測記録を用いていない。しかし,本件模擬地震波は経験的手法を採用したものであるところ,同手法の性質上,観測記録は特定の地域のものに限られるものではない。また,十勝沖地震の観測記録を用いたのは,本件模擬地震波と地震の特徴を示す値が合致する地震記録であったからである。
本件模擬地震波が採用した破壊開始地点について
本件模擬地震波には,与えられた震源域の中で大阪κκから最も
遠い地点を破壊開始地点としたものがある。しかし,長周期地震動には,ディレクティビティ効果(断層破壊の進行方向に向かって振幅が大きくなり,破壊が遠ざかる側では逆に振幅が小さくなるという地震動が有する物理的性質)という特徴があるところ,上記破壊開始地点は,大阪κκに地震動が向かう方向になるように設定されている。したがって,本件模擬地震波は,長周期地震動による影響を過小評価するような破壊開始地点を採用していない。
本件模擬地震波と告示波との比較について
告示波は,建築物を新たに設計する際の全国一律の基準として告
示された地震波であり,その目的上,工学的基盤における地震動の強さを全国共通に定めたものであって,震源特性,伝播経路特性あるいは深部地盤の特性等を考慮していないものである。これに対して,本件模擬地震波は,上記各特性を考慮した上で作成されたものである。したがって,両者は性質が全く異なる。
また,建築物の揺れ方は,地震動や建築物の特性に応じて異なる
表れ方をするものであるから,一方向の層間変形角の値を比べて模擬地震波の強弱を比較することはできない。したがって,層間変形角の値を用いて,
本件模擬地震波と告示波を比較するという議論は,
意味のないものである。
βビルの構造安全性について
a
保有水平耐力に基づく構造計算の要否
高さが60m以下の建築物については,保有水平耐力計算についての規定があるが(建築基準法20条2号~4号,建築基準法施行令81条2項1号イ,82条~82条の4),高さが60mを超える建築物については時刻歴応答解析によるとされ(同法20条1号,同施行令81条1項各号),保有水平耐力に関する規定はない。
官庁施設耐震基準解説(乙67)は,高層建築物等の大規模地震動に対する設計のうち,構造体の目標性能と設計方法について,基礎構造及び地上階については時刻歴応答解析を行うとしているのであるから,同部分については,時刻歴応答解析によって安全性を確認することが求められており,保有水平耐力計算を行うことは求められていないことが明らかである。また,同基準や「地震荷重-その現状と将来の展望」(甲59)において確認が必要である旨記載されている「保有水平耐力」とは,法令上の用語ではなく,単に水平方向の耐力を意味する一般的な用語である。
したがって,高さが60mを超える建築物であるβビルは,保有水平耐力に基づく構造計算を要しない。
b
π学会文書に記載された基準への適合性の要否等
π学会の文書(甲58)は,層間変形角が1/150を超えないことなどを求めているが,これは法令上の基準ではなく,βビルの構造安全性の基準とはならない。

c
性能評価方法書の定める基準への適合性
性能評価方法書は,
①層間変形角が100分の1を超えないこと,
②層の塑性率が2.
0を超えないこと,
③部材の塑性率が限界値
(上
限は4.0)以下であることを基準としている。
そして,βビルは,上記①から③までの基準のうち,②層の塑性率については,ダンパーによる対応策を実施した後は,検討用長周期地震動の場合で,X方向が1.8,Y方向は1.5であり,基準を満たしていた。また,③部材の塑性率については,ダンパーによる対応策を実施した後は3.0であり,基準を満たしていた。他方,①層間変形角については基準を満たしていなかった。しかし,性能評価方法書は,上記①から③までの基準は,基準値を超える場合を一切不可とするものではなく,
その場合であっても,
その超過する程度に応じて,妥当性等の確認を行うことをもって足りるとしている。
そこで,層間変形角(上記①)の妥当性等について検討したところ,層間変形角のうちせん断変形成分は,Y方向では1/100を超える階はなかった。他方,X方向は,ダンパーによる対応策を実施した後は,層間変形角の値は1/98となり,その余の点を検討した結果,上記妥当性が確認された。なお,層間変形角は,揺れによる構造体の変形のうち,曲げ変形成分及びせん断変形成分の両方を含んだものであるところ,構造躯体やこれに取り付く外装材に影響を及ぼすのはせん断変形成分であるから,上記妥当性等の検討はせん断変形成分によって行った。
以上のとおり,βビルは,本件購入契約当時の法令や性能評価方
法書の基準を満たしており,構造安全性を欠くとは認められない。βビルの地盤の安全性について
βビルは十分な許容支持力を持つ杭基礎で支持されている。
原告らは,
βビルの敷地が液状化しやすいことを前提に,βビルの杭基礎の安全性に問題がある旨主張するが,
後記イ

のとおり,
上記前提は誤りである。

まとめ
以上のとおり,βビルは,当時の知見の及ぶ範囲で想定地震動である本件模擬地震波を用いて時刻歴応答解析を行った結果,性能評価方法書が定める基準を満たしたのであるから,耐震性を欠くとはいえない。イ
βビルの防災拠点としての適格性等について
βビル立地地点及びκ地区の液状化予測について
原告らは,
地盤の液状化が起こる条件として,
①砂質地盤であること,
②地下水位が高いこと,③地震動の揺れが強いことを挙げ,κ地区はいずれの条件も満たしていると主張するが,以下のとおり,κ地区はいずれの条件も満たしていなかったから,κ地区は液状化が起こりにくいといえる。
a
①地盤については,大阪府内では2万2000本もの豊富なボーリングデータが登録されており,κ地区でのボーリングデータは500本を超えており,精度の高い液状化予測が可能であるところ,地盤柱状図(乙18の6)によれば,κ地区の大部分の区画では埋立てに浚渫粘土が用いられている。また,地盤の液状化の可能性を評価するには,地表面からの深度が20mまでの地層を調査することとされているところ,κ地区の大部分は粘土層である。
そして,κ地区の地盤については,造成過程において,ドレーン工法(埋立地内に砂杭を打ち込み,排水路を通じて強制的に水を抜き取る工法。以下同じ。)が施されているところ,この工法には,地盤内部からの強制的な排水を通じて,地盤の強度を高めるとともに,地盤の沈下を早期に終息させる効果が認められており,兵庫県南部地震の被害状況から得られた知見では,同工法のような地盤改良工事が施された埋立地では液状化が起こりにくいと考えられている。

b
②地下水位については,κの埋立層及び沖積層では,埋立土砂の荷重による自然沈下やドレーン工法の実施によって地盤沈下が終息している。

c
③地震動の強さに関し,κ地区の液状化予測図(乙18の6)は,「大阪府自然災害総合防災対策検討(地震被害想定)」報告書(以下「地震被害想定報告書」という。乙31,77)における想定地震動に基づいて作成されたものである。そして,液状化の判定は,地表最大加速度を用いるのが一般的であるところ,
地震被害想定報告書では,
海溝型地震については最大450ガル,内陸直下型地震では最大800ガルの地震加速度を想定しており,
上記想定に誤りは認められない。
参集ルートの安全性について
a
防災機能検討報告書及びこれを受けて作成された庁舎移転案で提案された参集ルートは,いずれも,耐震性等の安全性が確認されたものであるか,安全性等について指摘された問題点については耐震補強工事等の対策を講じることが予定されていた。

b
防災拠点としての位置付けについて,大阪府は,平成21年2月に庁舎移転構想(乙28)を公表した時点では,βビル内に本格的な防災拠点を整備することを想定していた。しかし,同年9月に本件移転条例案②が否決されたことなどを踏まえ,大阪府は,本件購入契約の締結までには,防災センターをη庁舎内で拡充整備し,βビルをそのバックアップ施設とすることとし,関連する予算対応を行った。

c
以上によれば,参集ルートは安全性を欠くものではないし,非現実的なものでもない。
なお,平成25年8月に大阪府が公表した津波浸水被害想定は,東日本大震災後の国の検討を踏まえたものであり,βビル購入時の想定に基づくものではない。


財政シミュレーションの適否等について
土地活用収入について
庁舎移転案で示されたβ移転案②の財政シミュレーションのうち,土地活用収入は,大阪府庁舎がβビルに全面移転することを前提としている。原告らは上記前提が誤りであると主張するが,庁舎移転案公表後に本件移転条例案②が提案されて審議されていることに照らすと,庁舎移転案が提案された時点では大阪府庁舎がβビルに全面移転する可能性があったから,その可能性を前提としたことに誤りはない。
賃料収入予測について
β移転案②の財政シミュレーションでは,βビルの民間の賃借人の平成21年から平成53年までの平均空室率を50%として,上記賃借人から得られる賃料等が計算されているが,上記平均空室率は,平成21年9月時点で民間テナントが使用していた床面積を100%として,その後減少して33年後には全てが退去すると試算したものであり,βビル全体の床面積を基に計算したものではない。
業務システム移転費及び防災行政無線整備費について
β移転案②の財政シミュレーションでは,業務システムの移転費が含まれていなかったが,これは,財政シミュレーションに与える影響が軽微であると考えられたためである。また,防災行政無線の整備費も含まれていなかったが,これは,移転の有無に関係なく必要な費用であったためである。
大規模修繕費について
原告らは,βビルの大規模修繕費は,東京都庁舎と同様に新築にかかる総事業費の半額を要し,
その金額は約600億円であると主張するが,
何ら根拠がない。
争点③(本件移転費用の支出の違法性)
(原告らの主張)

βビルの購入の違法性と本件移転費用の支出の違法性の関係
上記

(原告らの主張)において主張したとおり,本件購入契約の締結

が違法である以上,これを前提とする本件移転費用の支出もまた違法である。したがって,本件移転費用の支出は,地方自治法2条14項,220条1項,221条2項,232条の3,232条の4第1項,地方財政法4条1項,2項に反し,違法である。
また,本件移転費用のうち,本件IP電話及び本件調度品に係る各支出は,それ自体が不必要又は過大な支出として上記各法令に反し,違法である。

地方自治法4条1項所定の条例を定める必要性の有無
地方自治法4条1項と本件移転費用の支出との関係
大阪府は,η庁舎からβビルに部局を移転させるためには,地方自治法4条1項に基づく条例の制定が必要であったが,この条例を制定することなく本件移転費用を支出して上記移転をした。したがって,本件移転費用の支出は同項に反し違法である。
地方自治法4条1項の「事務所」の意義
地方自治法4条1項が「事務所」の位置の変更等を条例事項とするとともに,特別多数決としている趣旨は,地方公共団体の事務所は住民の生活に直結するなど極めて重要であることに鑑み,住民自治の実現及び効率的な行政運営の観点から,住民の意思を尊重する点にある。
そのため,条例制定を要する同項の「事務所の位置…を変更」とは,主たる事務所の位置を全面的に変更する場合に限らず,事務所の多数かつ重要な部局が移転するなど,住民の生活に重大な影響を及ぼす場合もこれに該当するというべきである。
βビルは地方自治法4条1項の「事務所」に該当するか否か
大阪府は,平成21年2月及び同年9月の大阪府議会の定例会において,二度にわたり,大阪府庁の位置をβビルの所在地と定める旨の本件移転条例案①及び同②を提案していたし,庁舎移転案(乙24)は,大阪府庁舎の全面的な移転を目的としていた。また,補助参加人は,平成21年9月及び平成22年5月の大阪府議会の定例会において,βビルに大阪府庁舎を移転させる考えを述べている(甲90~92)。このような補助参加人の言動等からすれば,βビルへの部局の移転は当初から大阪府庁舎の移転を目的としたものであることは明らかであり,少なくとも平成23年8月18日に全面移転を断念するまでの間は,上記の目的に基づいて部局の移転が行われていた。
大阪府では,平成23年5月までに,多数かつ重要な部局がη庁舎からβビルに移転し,これに伴い,大阪府の約5000名の職員のうち,約4割の2000名がβビル(κ庁舎)において勤務している。また,βビルに移転した部局は,来庁者数が極めて多く,住民の生活に密着している部局である。
以上から,η庁舎からβビルへの部局の移転は,条例の不要な分庁舎の設置ではなく,大阪府の多数かつ重要な部局が移転しているのであるから,条例が必要な事務所の位置の変更(地方自治法4条1項)に当たる。
なお,条例が必要な事務所の位置の変更を,主たる事務所の位置を全面的に変更する場合に限ると解しても,上記の事情からすると,βビルは大阪府の主たる事務所に該当する。
また,βビルが分庁舎であるとしても,η庁舎とは約13㎞離れており,公共交通機関による移動で約30分を要するから,相当の距離を越えるものとして,条例が必要である。

βビルの位置は地方自治法4条2項に反するか否か
βビルは,
η庁舎に比べ,
各交通拠点からの所要時間がより長くかかり,
他の官公署からも距離が離れている。したがって,交通事情や他の官公署との関係等について適切な配慮を払ったものとはいえず,地方自治法4条2項に反する。
また,大阪府は,大阪府庁舎の移転を検討するに当たり,各交通拠点や他の官公署からの所要時間の比較等を行っているが,比較検討をすれば足りるのではなく,結果として,住民の利便性を欠いている以上,同項に反する。

東日本大震災後のβビルへの部局移転を中断すべきであったか否か平成23年3月11日に東日本大震災が発生し,それ以後,βビルの耐震性・安全性への不安が露呈した。そのため,補助参加人は,同日以降,βビルの耐震性・安全性に問題がないことが確認されるまでの間,部局の移転を中断すべきであったにもかかわらず,部局の移転は継続された。したがって,本件移転費用の支出のうち,同日以降の移転に関する部分は違法である。
被告は,大阪府は上記地震発生後に超音波探傷調査等を実施したと主張するが,これらの検査は,βビルの耐震面における脆弱性を検討したものにすぎず,βビルが大阪府庁舎としてふさわしい耐震性を備えているかについて検討したものではない。


本件調度品及び本件IP電話の必要性等
本件調度品について
a
η庁舎5階には,迎賓応接室「正庁の間」があり,βビルに本件応接室を設置する必要はなかったし,正庁の間から本件応接室に備品を移転すれば足りたのであるから,本件調度品を購入する必要はなかった。また,本件応接室の利用は,政党の議員団の視察や府市統合本部の会議等で占められ,大阪府庁舎の迎賓応接室としての本来的な利用実績は乏しいから,本件調度品は必要のないものである。

b
本件調度品のうち,アームチェアは1脚28万円,センターテーブルは1台24万5000円,サイドテーブルは1台12万5000円であり,通常の応接室に置かれる椅子や机と比較すれば,いずれも高額にすぎることは明らかである。
本件IP電話について
本件IP電話は,
大阪府庁舎の全面移転を前提とするものであったが,
大阪府議会は本件移転条例案①及び同②を否決したのであるから,本件IP電話は不必要なものである。
また,大阪府の厳しい財政状況に鑑みると,1台につき約7万円もする高価なテレビ電話機を35台も購入することは不相当な経費の支出である。
(被告の主張)

βビルの購入の違法性と本件移転費用の支出の違法性の関係
争う。


地方自治法4条1項所定の条例を定める必要性の有無
地方自治法4条1項と本件移転費用の支出との関係
βビルの購入や移転に関する関係予算については,大阪府議会の議決を得ている上,本件移転条例案①及び同②の上程が上記購入や移転に係る支出の前提行為となるものではない。したがって,本件においては地方自治法4条1項の問題は生じない。
地方自治法4条1項の「事務所」の意義
地方自治法4条1項の「事務所」とは,来庁者数の多寡や住民の生活に密着する部署の多寡等によって定まるものではなく,普通地方公共団体の長の権限に属する事務をつかさどる主要な組織を有する事務所であることを要すると解すべきである。
また,地方自治法は,分庁舎の設置やその位置については何ら規定を設けておらず,同項は分庁舎の設置を禁止するものでもその位置を条例で定めることを求めているものでもない。
βビルは地方自治法4条1項の「事務所」に該当するか否か
補助参加人は,平成22年5月の大阪府議会の定例会において,βビルに大阪府庁舎を移転させる考えを述べているが,大阪府がβビルを大阪府庁舎として購入し,一部の部局が入居する庁舎として使用することと矛盾するものではない。
βビルには,大阪府の職員のうち約4割の職員が勤務しており,来庁者の多い住宅まちづくり部や大阪府市統合本部が配置されているものの,主たる執行機関である知事が常駐しておらず,議決機関である議会の機能も有していない。また,住宅まちづくり部は主たる事務所に置くことが必要不可欠な部局とはいえないし,大阪府市統合本部は大阪府の行政組織そのものではない。他方,η庁舎には,知事や議会を初め,政策企画部,総務部,財務部等の主要な部局が配置されている。したがって,βビルは,大阪府の主たる事務所には該当しない。

βビルの位置は地方自治法4条2項に反するか否か
上記イで主張したとおり,βビル(κ庁舎)は地方自治法4条1項の「事務所」に該当しない以上,同条2項に反すると解する余地はない。βビルとη庁舎はいずれも大阪市内にあり,両庁舎間の距離は約13㎞で移動時間は約30分である。南北約86㎞,東西約60㎞に及ぶ府域全域から住民が両庁舎を訪れることを考えれば,両庁舎間の距離は常識的にみて許容範囲内と考えられる。
なお,大阪府は,平成21年9月,大阪府庁舎の移転を検討するに当たり,各交通拠点や他の官公署からの所要時間の比較等を行っている。また,市町村と都道府県の役割の違いや出先機関への権限委譲,インターネットによる行政情報の提供等により,大阪府の住民が大阪府庁舎を来訪しなくても行政サービスを受けることができる環境を整備しつつある。


東日本大震災後のβビルへの部局移転を中断すべきであったか否か大阪府は,東日本大震災発生前に行った本件調査により,長周期地震動の影響をあらかじめ把握し,
必要な耐震・防災対策を計画的に進めていた。
また,大阪府は,上記地震の発生に伴い,平成23年3月18日,βビルに生じた長周期地震動の影響や程度を確認し把握するための非破壊検査を実施し,建築物の主要構造部分に損傷がないことを確認した上,緊急補修を実施しつつ,当初の計画どおりに部局の移転を進めた。
したがって,本件移転費用に係る支出のうち,東日本大震災発生後の部局移転に伴う部分に違法性はない。

本件調度品及び本件IP電話の必要性等
本件調度品について
a
本件応接室は,βビルに移転した部局が国内外の要人等を迎賓又は応接する居室として利用されており,迎賓・応接機能をβビルに集中させたものではない。他方,η庁舎の「正庁の間」は,年末年始の行事や人事発令等の式典に使用されてきたが,「正庁の間」に設置されている机や椅子は事務用のものであり,応接用の備品ではない。
本件応接室は,所期の目的に照らして想定どおりの役割を果たしている。また,従前はホテル等の外部施設を利用せざるを得なかった迎賓,応接及び会議についても,現在は本件応接室で開催している。
b
本件調度品の価格は,共通仕様書に基づき,一般競争入札により,公正かつ適正に決定されたものである。その内容についても,アームチェアは一般的に高額とされる革張りではなく布張りであり,センターテーブル及びサイドテーブルの材質も一般的に高額とされる一枚板ではなく合板である。
本件IP電話について
本件IP電話は,二庁舎間においてモニター画面を通して会話するこ
とができる機能を用いて,事務的な連絡よりも高度な対応が求められる事案への対応をする目的で設置されたものであり,購入目的には合理性があり,利用実績もある。また,他の自治体においても,複数庁舎間での窓口対応業務につき,来庁者の利便性確保やサービスの向上を目的としてテレビ電話を導入した事例は存在する。そして,本件IP電話の価格は,一般競争入札の結果であり,公正かつ適正に決定された。
争点④(補助参加人の故意又は過失の有無)
(原告らの主張)

βビルは,本件購入契約締結当時,建築基準法の耐震基準すら満たしていない既存不適格の建築物であったし,防災拠点としても機能しない建築物であったから,大阪府が大阪府庁舎として利用する目的で購入したことが違法であることも明らかであった。そして,当時大阪府知事であった補助参加人は,ι設計報告書や防災機能検討報告書をみれば,βビルが既存不適格の建築物であることを当然認識していたし,認識していなかったとすれば過失があったといえる。


庁舎移転案の財政シミュレーションは,耐震補強案②の費用よりもβ移転案②の費用の方が安いとしていたが,実際の内容は逆であった。その原因は,土地活用収入や賃料収入,大規模修繕費等の各予測が誤っていたことであったが,補助参加人は,上記各誤りを知りながら,βビルの取得に向けて世論を不正に誘導した。

(被告の主張)
βビルは,本件購入契約を締結した時点において違法建築物ではなかったし,大規模地震が発生した場合に,大阪府庁舎としての機能を喪失し,防災拠点としての機能を全うすることができないなどとはいえなかった。また,庁舎移転案の財政シミュレーションについても誤りはない。したがって,補助参加人に故意又は過失はない。
争点⑤(損害の発生の有無及びその額)
(原告らの主張)
上記

及び

の(原告らの主張)で主張したとおり,本件購入費用の約8

5億円及び本件移転費用の約11億3000万円はいずれも違法な公金支出であるから,大阪府は上記合計である96億3000万円の損害を被っており,これは上記

(原告らの主張)で主張したとおりいずれも補助参加人の

故意又は過失によるものであるから,補助参加人は大阪府に対し同額の損害賠償責任を負う。
(被告の主張)
争う。
第3
1
当裁判所の判断
争点①(監査請求期間徒過に係る正当な理由の有無)について本件購入契約は平成22年3月26日に締結されたものであり,本件購入費用は同年6月25日までに支出されたものであるから(前記前提事実

~エ),平成23年10月19日にされた本件監査請求は,本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出から1年以上経過した後にされたものである(同

ア)。そうすると,本件監査請求のうち,本件購入契約の締結及び本
件購入費用の支出を対象とする部分は,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」がない限り,不適法である。
そこで,本件監査請求が,上記各財務会計行為から1年以上経過した後にされたことについて「正当な理由」があるといえるかにつき,以下検討する。普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為(当該行為)が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかにより判断すべきである(最高裁判所平成14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁参照)。そして,「監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができた」というためには,当該行為に違法又は不当な点があるか否かを監査請求人自ら判断することが困難ではない程度に,当該行為の具体的な内容を知ることができたことが必要というべきである(最高裁判所平成20年3月17日第一小法廷・集民227号551頁参照)。
これを本件についてみると,確かに,証拠(乙16,17)及び弁論の全趣旨によれば,大阪府は,平成21年1月頃にι設計報告書を受領し,同年2月頃には上記報告書の内容やこれを踏まえた必要な措置について大阪府議会に対して説明するとともに,上記報告書の概要(乙16の2)を大阪府のホームページにおいて公表したことが認められる。
しかし,公表された上記概要においては,βビルの耐震性に特段の問題はない旨の結論が示されたにとどまり,その結論に問題があるか否かを検討するためには,ι設計報告書(概要を含む。)を入手して検討する必要がある。そして,仮に同報告書が公開されていたとしても,その内容は,長周期地震動の高層ビルへの影響等に関する高度に専門的な内容を含むことが明らかである。そうすると,上記の点につき相当高度な専門的知見を有する者でない限り,ι設計報告書の内容及び結論に疑いを差し挟むことは事実上不可能というべきであって,本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出につき違法又は不当な点があるか否かを,原告ら自ら判断することは困難であったといわざるを得ない(なお,原告らが上記の相当高度な専門的知見を有していたと認めるべき証拠はない。)。そうすると,上記概要が大阪府のホームページに公表された時点や,同報告書に基づく説明により大阪府議会がβビルの購入に係る議決を行った時点(平成22年5月28日)において,原告らが,相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて本件監査請求をするに足りる程度に本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出の内容を知ることができたとはいえない。
そして,平成23年8月9日に公表された専門家会議検証結果(乙18の6)には,研究者が公表していた模擬地震波を用いてβビルの構造安全性を検討すると,外装材等に影響が出る可能性がある値が出た旨の記載があり,βビルの耐震性に問題がうかがわれることは,専門家会議検証結果の公表によって初めて明らかになったものといえる。
以上によれば,原告らは,専門家会議検証結果が公表されて初めて,βビルの耐震性に問題があることを知ることができ,本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出につき違法又は不当な点があるか否かを原告ら自ら判断することが困難ではない程度に,上記各財務会計行為の具体的な内容を知ることができたというべきである。そうすると,原告らは,専門家会議検証結果が公表された平成23年8月9日において,上記検証結果を入手して相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて本件監査請求をするに足りる程度に本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出の内容を知ることができたといえるところ,原告らは,同日から70日後の同年10月19日に本件監査請求をしたのであるから(前提事実

ア),専門家会議検証結果もまた高度に

専門的な内容を含むものであることも考慮すると,その公表の時点から相当な期間内に本件監査請求をしたものというべきであり,本件監査請求が監査請求期間を超えてされたことについては,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるというべきである。
よって,本件監査請求は監査請求期間の制限を遵守した適法なものであるから,本件訴えは適法である。
2
争点②(本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出の違法性)について判断枠組み等
地方自治法242条の2第1項4号に基づく原告らの請求は,大阪府を代表して本件購入契約を締結した補助参加人の判断が同法2条14項等に違反することを前提とするものであるところ,地方公共団体の長がその代表者として建築物を購入する契約を締結することは,当該建築物を購入する目的やその必要性,契約の締結に至る経緯,契約の内容に影響を及ぼす社会的,経済的要因その他の諸般の事情を総合考慮した合理的な裁量に委ねられており,地方公共団体の長の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価される場合でなければ,当該契約の締結が地方自治法2条14項等に反し違法となるものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成25年3月28日第一小法廷判決・集民243号241頁参照)。
本件では,原告らは,主として,βビルは大阪府庁舎としての使用に耐えないビルであるから,大阪府庁舎として用いる必要性を欠く上,β移転案①及び同②は前提とする財政シミュレーションに誤りがあることを理由に,本件購入契約を締結した補助参加人の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価されるべきである旨主張する。そこで,以下では,βビルの耐震性(後記

),βビルの防災拠点としての適格性等(後記

政シミュレーションの適否等(後記

),財

)について検討し,その上で,本件購

入契約の締結及び本件購入費用の支出の違法性
(後記


について判断する。

βビルの耐震性について

認定事実
掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。官庁施設耐震基準(甲15)
官庁施設耐震基準は,建設省(その後国土交通省)事務次官が,平成6年12月15日建設省告示第2379号に基づき,官庁施設の地震災害等に対する安全性に関する基本的事項等について定めたものであり,以下の内容の定めがある。
a
官庁施設耐震基準は,官庁施設(国家機関の建築物及びその附帯施設をいう。)に適用する。
b
官庁施設耐震基準は,大地震動に対する構造体の耐震安全性の目標を,Ⅰ類,Ⅱ類及びⅢ類に分類している。このうち,Ⅰ類は,大地震動後,構造体の補修をすることなく建築物を使用できることを目標とし,人命の安全確保に加えて十分な機能確保が図られるものとする。対象施設は,災害応急対策活動に必要な官庁施設等のうち,特に重要な官庁施設とする。

c
高さ60mを超える構造建築物の耐震安全性は,大地震動に対しても,
官庁施設の機能が確保されることを目標とし,
計画に当たっては,
原則として,時刻歴応答解析を行って,振動性状等を確認する。建築非構造部材及び建築設備の機器,配管は,構造体の地震応答に対し,十分に安全なものとする。
官庁施設耐震基準解説(乙67)
官庁施設耐震基準解説は,建設省大臣官房官庁営繕部が監修した,官
庁施設耐震基準の解説書であり,以下の内容の記載がある。
a
国家機関の建築物(上記

a)とは,各省各庁の長が所管する立法,

司法及び行政のための国の所有に属する全ての建築物をいう。
b
高さ60mを超える構造建築物は,時刻歴応答解析を行って,耐震安全性の検討を行う。

c
時刻歴応答解析の解析モデル及び復元力特性は,構造体の実情に合わせ,設計に必要な応答値が,十分に精度よく得られるように設定する。

d
時刻歴応答解析の入力地震動としては,過去の地震記録による波形又はその修正されたもの,あるいは人工的に作成された模擬地震波が考えられる。これらの選定については,敷地周辺の過去の地震活動,地盤条件等を考慮して決定する。
e
入力地震動のレベルとしては,レベル1地震動(建築物の耐用年数中に,一度受ける可能性が大きい地震動)及びレベル2地震動(過去に受けたことのある地震動のうち最強と考えられるもの及び将来において受けることが考えられる最強の地震動)の2段階を採用する。そして,レベル2地震動に対して保有すべき性能は,原則として,層間変形角については1/100以下であり,層の塑性率は2.0以下とする。

f
Ⅰ類に分類される施設のうち,特に重要度が高い建築物は,建設敷地の歴史上の地震資料,付近で発生が予測される地震の規模,地震断層等の地震環境を調査し,その結果,必要に応じて,上記の入力地震動の割増しを適宜行う。割増率としては,1.2程度がひとつの目安と考えられる。
性能評価方法書(甲14)

a
性能評価方法書は,指定性能評価機関が超高層建築物の大臣認定に必要な評価をする際の評価方法,評価基準等について,ρが定めたものであり,上記評価の実務上参照されており,ι設計が本件調査をする際にも参照したものである。(以上につき,甲14,71,証人ψ,弁論の全趣旨)

b
性能評価方法書
(平成19年7月20日付けで変更されたもの)
は,
倒壊,崩壊限界の判断基準を,極めて稀に発生する地震動によって,建築物が倒壊,崩壊等しないことが次の

から

までの方法によって

確かめられていることと定めている(甲14)。
各階の層間変形角が100分の1を超えない範囲にあること。
各階の層の塑性率が2.0を超えないこと。この場合,塑性率を
求める基準となる変形が構造方法及び振動特性を考慮して適切に設定していること。
構造耐力上主要な部分を構成する各部材の塑性率が,その部材の
構造方法,構造の特性等によって設定された限界値(上限は4.0)以下であること。この場合,塑性率を求める基準となる変形が構造方法及び振動特性を考慮して適切に設定していること。(ただし,制振部材にあっては,この限りではない。)
応答値が上記

から

までに示した値を超える場合は,その超過

する程度に応じ,以下の事項(以下,順に「確認事項①」などという。)が確かめられていること。


部材ごとの応答値を算定できる適切な解析モデルを用いて層間
変形角,層の塑性率及び部材の塑性率等の妥当性が確かめられて
いること。



応答解析に用いる部材の復元力特性が,応答変形を超える範囲
まで適切にモデル化され,かつ,そのモデル化が適切である構造
ディテールを有すること。



水平変形に伴う鉛直荷重の付加的影響を算定できる適切な応答
解析が行われていること。

c
上記bのうち,層間変形角,層の塑性率及び部材の塑性率の意義等は,それぞれ以下のとおりである(特記した証拠のほか,弁論の全趣旨)。
層間変形角とは,地震時の各層(階)の変形をその階の階高で割
った値をいう。層間変形角が大きいと,構造躯体(柱,梁などで構成される骨組み)が大きく変形することにより,外装材(外壁材など)等が変形に追従できず,破損,落下等の危険性が高まる。
層間変形角は,せん断変形成分及び曲げ変形成分の各成分に分離
することができる。このうち,せん断変形成分は,層の上部と下部で水平方向に異なる方向の力が働くことによって,建築物が平行四辺形のようにずれて変形する成分をいう。他方,曲げ変形成分は,建築物の一方の軸に対して引っ張られる力が働き,他方の軸に対して縮む力が働くことによって,建築物がしなるように変形する成分をいう。(以上につき,甲28,乙71,証人ψ)
層の塑性率とは,構造躯体の損傷度合いを表す指標であり,地震
時の層の水平方向の変形量が,変形しても元に戻る限界の変形量に対して何倍であるかを表す値をいう。
部材の塑性率とは,柱や梁等の部材の損傷度合いを表す指標であ
り,地震時の部材の変形量が,変形しても元に戻る限界の変形量の何倍かを表す値をいう。
長周期地震動の一般的な特性と模擬地震波の作成上の留意点
a
長周期地震動は,地震動による周期(揺れが一往復するのに要する時間)が長いものをいい,論者によっては,周期2秒以上のものをいい,代表的なものとして,平成15年9月26日に発生した十勝沖地震がある。そして,建築物には,その規模,高さ,構造形式等によって決まる建築物自体の振動周期(以下「固有周期」という。)があり,戸建住宅や低層建築物では1秒以下であるが,300m級の超高層ビルなどでは6秒から7秒となる。地震動の周期と建築物の固有周期が一致した場合には,建築物は,地震動と共振して,より大きな振れ幅を示す現象(以下「共振現象」という。)を示す。(以上につき,甲11,55)

b
地震動の特性は,一般的に,①震源特性(地震の規模,断層面の破壊過程等に関する特性),②伝播経路特性(震源から建築物の立地地盤までの間における地震動の強さの変化や減衰の度合いに関する特性)及び③サイト特性(建築物の立地地盤の特性)の3要素の合成結果として決定される。そこで,構造物の耐震性を評価するに当たっても,上記各特性を適切に考慮した模擬地震波を用いる必要があるとされる。(以上につき,甲11,乙36,50)
模擬地震波の作成方法の種類等
模擬地震波の作成方法については,論者によっていくつかの類型に分けられているが,その概要は以下のとおりである(甲11,12,乙49~51,弁論の全趣旨)。
a
経験的手法は,過去に経験した地震の際に得られた強震記録そのもの又はその統計解析結果に基づいて地震動を推定する手法である。経験的手法を採用した模擬地震波の例として,本件模擬地震波のほか,国土交通省が超高層建築物の大臣認定において要求される構造計算に用いる設計用地震動として平成22年12月に意見公募手続を実施した設計用地震動(以下「パブコメ波」という。)がある(甲41,乙48)。

b
理論的手法は,地震波の発生及び伝播を,理論的に数式を用いて表現し,数値モデル化した震源断層と地盤構造に基づいて地震動を計算する手法である。理論的手法を採用した模擬地震波の例として,釜江波2(南海)がある。

c
半経験的手法は,経験的手法を基に作成した小地震の地震動を,想定する大地震の震源過程に従って重ね合わせることによって大地震の地震動を推定する手法である。半経験的手法を採用した模擬地震波の例として,釜江波(南海)及び鈴木波(東南海)がある。

d
ハイブリッド法は,上記aからcまでの各手法を組み合わせて地震動を推定する方法である。ハイブリッド法を採用した模擬地震波の例として,鶴来波(南海・東南海)及び関口波(南海)がある。
本件模擬地震波の作成

a
震源特性について
本件模擬地震波は,震源特性について,中央防災会議が平成15年度に公表した東南海,
南海地震の提案値を用いたほか,
地震動が持つ,
広範な断層面に沿って地震動が時間差で発生する特性や,断層破壊の進行方向に向かって振幅が大きくなり,破壊が遠ざかる側では逆に振幅が小さくなる特性(ディレクティビティ効果)を考慮することができる計算式を採用した。(以上につき,乙16の1,71,証人ψ,弁論の全趣旨)
また,本件模擬地震波は,東南海地震及び南海地震がそれぞれ単独で発生した場合,連続して発生した場合及び同時に発生した場合の4通りの場合を想定して作成された地震波である(乙16の1,71,証人ψ)。
b
伝播経路特性について
本件模擬地震波は,伝播経路特性について,地震動の強さが震源距離に反比例するという性質のほか,地震の波動が震源距離に応じて分散する性質,断層破壊の進行方向とκ地区との位置関係等を考慮することができる計算式を採用し,
震源からβビルの深部地盤
(深さ約1.
5㎞)に到達する過程で生じた地震動の強さや変化を推計したものである(乙16の1,71)。

c
サイト特性について
本件模擬地震波は,上記a及びbの特徴に合う観測記録を十勝沖地震の北海道及び青森県の観測記録から選択した上で,κ地区の地震基盤(深部地盤の底)に到達した地震動が地表波となる際の強さや周期特性の変化を推計したものである。この推計には,βビルの地盤の浅部地盤(深さ約100mまで)及び深部地盤(深さ約1.5㎞)について調査された各地層の密度等が用いられている。(以上につき,乙16の1,71)
本件調査の耐震性基準及び調査方法
ι設計は,本件調査において,官庁施設耐震基準Ⅰ類(上記

b)を

構造安全性の基本とし,βビルの耐震性の基準として性能評価報告書の判断基準(上記

b)を採用し,本件模擬地震波を用いたβビルの時刻

歴応答解析の結果を用いて検討を行った(乙16の1,71,証人ψ)。βビルに対する時刻歴応答解析の結果
a
本件模擬地震波を用いた結果
ι設計報告書(乙16の1)及び証人ψによれば,本件模擬地震波を用いて本件調査当時のβビルに対して時刻歴応答解析を行った結果の概要は,以下のとおりである。

検討方向

長辺方向(X方向)

短辺方向(Y方向)

1/59(1/70)

1/70(1/118)

1/77(1/98)

(注3)

2.5

1.5

1.8

(注3)

16

23
(注3)

層間変形角

層の塑性率

部材の塑性率
(注1)層間変形角の(

)内は,せん断変形成分の値である。

(注2)各欄下段の数値は,ι設計報告書記載の対応策を実施した場合である。
(注3)注2記載の対応策を実施した場合における短辺方向の調査は行っていない。
b
関口波8(NS)を用いた結果
専門家会議検証結果(乙18の6)によれば,関口波8(NS)を用いてβビルに対して時刻歴応答解析を行った結果の概要は,以下のとおりである。
検討方向

長辺方向(X方向)

短辺方向(Y方向)

1/61

1/83

1/75

1/88

1.9

1.6

1.9

1.8

層間変形角

層の塑性率
(注1)層間変形角の値はせん断変形成分の値であり,専門家会議検証結果では,
層間変形角の目標値は1/70とされている。
(注2)各欄上段の数値は,大阪府が東日本大震災前に策定した制震補強計画を実施した後の場合である。
(注3)各欄下段の数値は,大阪府が本件専門家会議において提案した追加補強計画
(乙18の6)
を実施した後の場合である。

事実認定の補足説明(ι設計報告書全体の信用性について)
原告らは,ι設計は,βビルの建設時においてその設計を行った以上,本件調査の結果に利害関係があり,βビルの耐震性について甘い評価しかしないことが十分予測されるのであるから,ι設計報告書の内容は信用することができない旨主張する。
しかし,βビルは,平成2年10月30日に建築基準法施行令81条の2に基づく構造計算に係る大臣認定を受け,平成7年3月10日に検査済証の交付を受けて建設工事を終えた建築物であるところ(前記前提事実イ),本件調査はその調査時の知見を基に長周期地震動に対するβビルの耐震性を検証するものであるから(乙16の1),βビルの建設に当たってι設計が行った設計の当否を調査するものではないし,ι設計に対する責任追及を行うためのものでもないから,ι設計が本件調査を行うことによって,βビルの耐震性に係る評価がゆがめられる蓋然性があるとは認められない。また,後記において認定判断した内容も踏まえると,ι設計が,本件調査に当たって,βビルの耐震性について不当に評価したとも認められない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

本件模擬地震波によってβビルの耐震性を判断することの当否等について
まず,本件模擬地震波は,経験的手法を採用したものであるところ,経験的手法自体はパブコメ波でも採用されている手法であり(上記認定事実

a),本件模擬地震波の具体的な作成手法に係る考え方は,π学

会の査読を経た論文(甲33~36)に依拠しているものである。以上によれば,本件模擬地震波の作成手法は,特異な手法であるともいえないし,相応の理論的根拠に基づくものであることがうかがわれ,これに反する証拠はない。
次に,本件模擬地震波の具体的な作成過程を見ると,本件模擬地震波は,作成時点において公にされていた東南海地震及び南海地震の震源特性,震源からκ地区までの距離や深部地盤への到達経路等の伝播経路特性並びにβビルの地盤の調査結果に基づくサイト特性を考慮して作成されたものであり(認定事実

),地震動の特性(認定事実

b)を踏ま

えて作成されたものといえるところ,その作成過程及び作成内容について,特に誤りや不合理な点は認められない。
以上に対し,原告らは,本件模擬地震波によってβビルの耐震性を判断することの当否について,以下のとおり主張するが,いずれも採用することができない。
a
釜江波,関口波,鶴来波等による検討の要否について
原告らは,官庁施設耐震基準解説は入力地震動を「将来において
受けることが考えられる最強の地震動」としているから(認定事実e),釜江波,関口波,鶴来波等によってβビルの耐震性の検討
が行われなければならない旨主張する。しかし,官庁施設耐震基準の適用対象は国の所有する建築物(官庁施設)であって(認定事実a,

a),大阪府が所有するβビルには適用されないことが明

らかである。
また,原告らは,βビルを大阪府庁舎として用いる場合は,官庁
施設耐震基準解説を引用する府有建築物総合耐震設計要綱(甲67の2)が適用されるとも主張する。しかし,同要綱は,大阪府が耐震設計を新たに行う場合を対象としており,大阪府が既存建築物を購入する際の耐震性に係る基準を定めたものではないと認められるから,βビルの購入に際して同要綱は適用されないというべきである。
したがって,
原告らの上記主張は,
その前提を誤るものであって,
採用することができない。
原告らは,官庁施設耐震基準がβビルに適用されるか否かにかか
わらず,βビルの耐震性は,経験的手法を採用した本件模擬地震波だけではなく,理論的手法,半経験的手法又はハイブリッド法を採用した釜江波,
関口波,
鶴来波等によっても検討される必要があり,
その検討結果によれば耐震性に問題があった旨主張する。
確かに,原告らが挙げる学術論文(甲38,39)や平成18年
のω学会及びπ学会の共同提言(甲40)には,長周期地震動の推計にはハイブリッド法を用いることが一般的であるなど,原告らの上記主張に沿う内容の記載がある。しかし,平成25年のπ学会の文献(乙49)や平成20年の国土交通省国土技術政策総合研究所の資料(乙50,51)によれば,経験的手法,理論的手法,半経験的手法及びハイブリッド法は,いずれも長所及び短所があるところ,平成22年に作成されたパブコメ波が経験的手法を採用したものであること(認定事実

a)に照らせば,原告らが挙げる上記文
献によって,上記各手法のうちいずれかを一般的に採用すべきであるとはいえないし,逆に,いずれかを採用すべきではないともいえない。そうすると,経験的手法に比べて,理論的手法,半経験的手法又はハイブリッド法のいずれかの手法を採用すべきであるとはいえない。
そして,
上記

で説示したとおり,
本件模擬地震波の作成手法は,

相応の理論的根拠に基づくものであることに加え,証拠(乙71,証人ψ)によれば,本件模擬地震波は,βビルの立地地点の地盤の特徴を考慮したものである一方,釜江波,関口波及び鶴来波は,いずれも上記特徴を考慮したものではないことが認められ,これらの事実に照らせば,釜江波,関口波及び鶴来波との具体的な作成手法の比較において,本件模擬地震波によってβビルの耐震性を検討することは合理的なものといえる。
以上のとおり,本件模擬地震波によりβビルの耐震性を検討する
ことが不合理であったとはいえず,釜江波,関口波,鶴来波等によっても検討されるべきであった旨をいう原告らの上記主張は採用することができない。
b
本件模擬地震波につき入力地震動の割増しを行うべきであったとの主張について
原告らは,官庁施設耐震基準解説には,大阪府庁舎のようなⅠ類
に分類される施設のうち特に重要度が高い建築物は入力地震動の割増しを行うべきとされているから(認定事実

f),βビルの耐震

性は本件模擬地震波に上記割増しをした模擬地震波によって判断されるべきである旨主張する。
しかし,上記a

のとおり,官庁施設耐震基準はβビルには適用

されないから,原告らの上記主張はその前提を誤るものであって採用することができない。
また,上記の点をおくとしても,官庁施設耐震基準解説は,Ⅰ類
に分類される施設の全てについて常に割増しを求めているものではなく,地震環境等に係る調査の結果,必要に応じて入力地震動の割増しを適宜行うものとするにとどまり,割増率1.2もひとつの目安とされているにすぎない(認定事実

f)。そうすると,官庁施

設耐震基準解説を前提としても,それによって直ちに入力地震動の割増しが必要となるわけではないし,その割増率を1.2としなければならないともいえない。そして,証人ψは,本件調査の際,震源特性,伝播経路特性及びサイト特性について調査をした上で本件模擬地震波を作成したことを踏まえて上記割増しを行わなかった旨説明するところ,上記説明が明らかに誤り又は不合理であるとは認められない。
以上によれば,官庁施設耐震基準解説を前提としても,βビルの
耐震性の検討に当たって,本件模擬地震波に1.2倍の割増しをしなければならないとはいえない。原告らの上記主張は採用することができない。
c
本件模擬地震波等の内容が不合理である旨の主張について
紀伊半島南東沖地震の観測記録を用いていない点について
原告らは,本件模擬地震波は,平成15年に発生した十勝沖地震
における北海道及び青森県の観測記録を用いて作成されており(認定事実

c),その後平成16年に発生した紀伊半島南東沖地震の

観測記録を用いていないから,本件模擬地震波は,作成過程において採用した観測記録に問題がある旨主張する。
しかし,上記認定事実

のとおり,本件模擬地震波は,計算式に

よって算出された震源特性及び伝播経路特性の値に合う観測記録を用いて作成されたものであるところ,その観測記録が十勝沖地震の北海道及び青森県の観測記録であったことが認められ,他方,弁論の全趣旨によれば,紀伊半島南東沖地震には上記の値に合う観測記録はなかったことが認められる。したがって,本件模擬地震波の作成過程において,紀伊半島南東沖地震の観測記録を用いなかったことには合理的な理由があるといえる。原告らの上記主張は採用することができない。
原告らは,構造物耐震対策検討業務委託報告書(乙21)におい
て,紀伊半島南東沖地震は東南海・南海地震に対する備えを考える上で重要である旨の記載があることを挙げて,本件模擬地震波が同地震の観測記録を用いていないことは誤りであるとも主張するが,上記説示のとおり,本件模擬地震波が紀伊半島南東沖地震の観測記録を採用しなかったのは,算出された震源特性及び伝播経路特性の値に合う観測記録がなかったからであるから,同地震が東南海・南海地震に対する備えを考える上で重要であるとの指摘があるからといって,本件模擬地震波の作成において同地震の観測記録を用いなかったことが誤りであるとはいえない。原告らの上記主張は採用することができない。
本件模擬地震波が採用した破壊開始地点について
原告らは,本件模擬地震波は,東南海地震又は南海地震の想定震
源域の中で大阪κκから最も遠い地点を破壊開始地点としているから,距離による減衰の分だけ過小評価されている旨主張する。
しかし,上記認定事実

aのとおり,本件模擬地震波は,地震動

が持つディレクティビティ効果(断層破壊の進行方向に向かって振幅が大きくなる特性)を考慮して作成されているところ,ι設計報告書(乙16の1)によれば,本件模擬地震波が想定する①東南海地震及び②南海地震は,いずれも想定震源域のうち大阪κκから遠い地点を破壊開始地点とし,大阪κκの方向に向かって断層破壊が進行するものであったことが認められる。そうすると,本件模擬地震波のうち上記①及び②の場合は,βビルの立地するκ地区では,上記ディレクティビティ効果によってより大きな振幅が生じ得るものといえる(なお,原告らは,公的機関が作成した資料(甲41)には,②南海地震の破壊開始地点を和歌山県潮岬沖としたものがある旨指摘するが,上記資料はκ地区への地震動の大きさを検討することを目的として作成されたものではないから,上記認定判断を左右するものではない。)。
また,上記認定事実

aのとおり,本件模擬地震波は,東南海地

震及び南海地震が③連続して発生した場合及び④同時に発生した場合についても想定されているところ,ι設計報告書(乙16の1)によれば,上記③の場合の東南海地震の破壊開始地点は和歌山県潮岬沖であり,同地震の想定震源域のうち大阪κκに近い地点であるし,上記④の場合はいずれの地震の破壊開始地点も上記地点であることが認められる。
以上のとおり,本件模擬地震波のうち①東南海地震及び②南海地震を想定したものについては,地震動の持つディレクティビティ効果を考慮して破壊開始地点を設定したことが不合理であるとはいえないし,上記各地震が③連続して発生した場合及び④同時に発生した場合については,想定震源域のうち大阪κκに近い地点が破壊開始地点とされているから,いずれの点についても,原告らの上記主張は採用することができない。
告示波との比較について
原告らは,本件模擬地震波を用いて検討したβビルの層間変形角
は,最低限の基準である告示波によって検討したβビルの層間変形角よりも小さいから(乙16の1),本件模擬地震波は告示波よりも過小評価された地震動である旨主張する。
しかし,建築物は,地震動による周期と当該建築物の固有周期が
一致した場合に共振現象が生じて大きな影響を受けるものであるところ(認定事実

a),ι設計報告書(乙16の1)によれば,β

ビルの固有周期でもある5秒以上の周期においては,本件模擬地震波の速度応答値が告示波のそれを上回っていることが認められる。そうすると,
長周期地震動が与える影響の有無という点においては,
本件模擬地震波は告示波よりもβビルに強い影響を与えるものであって,告示波よりも過小評価されたものとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
以上のとおり,本件模擬地震波によってβビルの耐震性を判断することが誤り又は不合理であるとはいえない。

βビルの構造安全性について
そこで,本件模擬地震波を用いることを前提に,性能評価方法書の定める基準(認定事実
果(認定事実
a
b)に本件調査時のβビルの時刻歴応答解析の結

a)等を当てはめた結果は,以下のとおりである。

層間変形角は100分の1以下である必要があるところ,X方向は1/59であり,ι設計報告書記載の対応策を実施した後の数値も1/77であり,上記基準を満たさない。なお,Y方向も1/70であり,上記基準を満たさない。

b
層の塑性率は2.0以下である必要があるところ,X方向は2.5であったものの,
ι設計報告書記載の対応策を実施した後の数値は1.
8であり,上記基準を満たす。また,Y方向は1.5であり,上記基準を満たす。
c
部材の塑性率は4.0以下である必要があるところ,X方向は16であったものの,ι設計報告書記載の対応策を実施した後の数値は3であり,上記基準を満たす。また,Y方向は2であり,上記基準を満たす。
上記

b,cのとおり,層の塑性率及び部材の塑性率は,ι設計報告

書記載の対応策を実施した後は性能評価方法書所定の基準を満たすことが認められ,上記認定事実

c


及び証人ψによれば,層の塑性率

は構造躯体の損傷度合いを表す指標であり,部材の塑性率は柱や梁等の部材の損傷度合いを表す指標であることが認められる。そうすると,上記各指標を満たしたことにより,βビルは,上記対応策を講ずれば構造躯体の安全性が確保されるものといえる。
他方,上記

aのとおり,層間変形角のうち少なくともX方向は同対

応策実施後も基準を満たさないことが認められ,上記認定事実

c及
び証人ψによれば,層間変形角は構造躯体の変形による外装材等の落下等の危険性を表す指標であることが認められる。そうすると,上記危険性の有無については,性能評価方法書所定の確認事項①から③まで(認定事実

b
)に沿って確かめられる必要がある。

そこで,確認事項①について検討するに,まず,証拠(乙16の1,71,証人ψ)及び弁論の全趣旨によれば,ι設計は,本件調査において,βビルの構造躯体を構成する全ての部材を反映した構造解析モデルを用いて層間変形角の解析をしたことが認められ,ι設計報告書の時刻歴応答解析の結果は,部材ごとの応答値を算定し得る適切な解析モデルを用いたものといえる。
次に,上記

を踏まえると,確認事項①では,層間変形角について,
外装材等の落下等の危険性の有無を検討する必要があるところ,(乙証拠
71,証人ψ)によれば,外装材等が梁と柱で構成されるフレームの変形に追従できるかどうかについては,層間変形角のうちせん断変形成分による影響が支配的であることが認められる。そうすると,上記危険性の有無は,層間変形角のうちせん断変形成分によって検討されるべきものといえる。そして,上記認定事実

aによれば,本件調査当時のβビ

ルのせん断変形成分は,X方向で1/70であるが,ι設計報告書記載の対応策を実施した後の数値は1/98となる。他方,Y方向は1/118であり,上記基準を満たす。そして,証拠(乙16の1,71,証人ψ)によれば,βビルの外装材は層間変形角のうちせん断変形成分が1/70以下であれば落下しないと考えられることが認められる。以上によれば,部材ごとの応答値を算定し得る適切な解析モデルを用いてβビルのせん断変形成分を検討したところ,その値は,性能評価方法書所定の基準を満たすものであるか,βビルの外装材が予定する層間変形角を下回るものであったと認められる。したがって,確認事項①所定の層間変形角の妥当性は確かめられたものといえる。
次に,確認事項②について検討するに,ι設計報告書(乙16の1)によれば,本件調査にはι設計が保有する構造計算プログラムが用いられたことが認められる一方,本件全証拠によっても同プログラムが性能評価方法書所定の基準を超える場合に,その値を適切に算出し得ないことをうかがわせる事情は認められない。また,上記認定事実

aのとお

り,本件調査による時刻歴応答解析の結果の値は,性能評価方法書所定の要件を超える値についても算出されたことが認められ,その値等に不自然な点はうかがわれない。以上によれば,本件調査の時刻歴応答解析に用いられた構造計算プログラムは,性能評価方法書所定の基準を超える範囲についても適切に算出し得るものと考えられ,確認事項②所定の事項も満たされているといえる。
そして,確認事項③は,水平変形に伴う鉛直荷重の付加的影響を算定し得る適切な応答解析が行われていることであるところ,証人ψによれば,ι設計は,過去の事例等から構造安全性に対する付加的影響は小さいことがうかがわれたため,補修等によりクリアできるものと判断したことが認められ,専門家会議検証結果を含め,これに反する指摘はうかがわれない。したがって,確認事項③についても特に欠けるところはないといえる。
以上によれば,βビルは,本件模擬地震波を用いた時刻歴応答解析による結果及びこれを踏まえた検討によれば,性能評価方法書の定める基準を満たしており,その構造安全性に問題があるとは認められない。βビルの構造安全性につき,原告らは以下のとおり主張するが,いずれも採用することができない。
a
保有水平耐力を計算する必要があるか否かについて
原告らは,官庁施設耐震基準解説(乙67)には,高層建築物等の大地震動に対する設計のうち,
構造体の目標性能と設計方法について,
保有水平耐力の検討を要する旨の記載があるにもかかわらず,ι設計報告書にはこの点に関する記載がないから,同報告書には重大な誤りがある旨主張する。
しかし,前述のとおり,官庁施設耐震基準はβビルには適用されないから,上記主張はその前提を誤るものであるし,その点をおくとしても,建築基準法及び建築基準法施行令上,保有水平耐力計算による構造計算(同施行令82条~82条の3)は,高さが60m以下の建築物に用いられる基準であるところ(同法20条2号イ,3号イ,同施行令81条2項,3項,82条以下),βビルの高さは256mであるから(前提事実

ア),上記基準はβビルには適用されない。し

たがって,原告らの上記主張は,その前提を誤るものであって,採用することができない。
b
π学会文書に記載された基準を満たしていないとの主張について
原告らは,π学会文書(甲58)には,防災拠点に対して求める基準が示されているところ,βビルは当該基準を満たしていない旨主張する。
確かに,π学会文書は,「適用されるべき建築物の用途例」が「防災拠点,拠点病院など」とされている「特級」のグレードの耐震構造の目標性能設定例には,「極稀に発生する地震動」が生じた場合における「主要機能確保」の層間変形角の目標性能を1/150としていることなどが認められる。しかし,上記目標性能は,法令上の基準であるとは認められないし,この点をおくとしても,上記記載は,耐震設計法の歴史等を解説する中で,
JSCA
(日本建築構造技術者協会)
が建築物の性能目標を定めたことの一例として挙げられたものにすぎず,いかなる構造種別や計算法を前提とした耐震性の目標値であるのかも明らかでない。以上によれば,上記記載がβビルを購入するに当たって遵守すべき目標性能であると解することは困難である。
したがって,原告らが挙げるπ学会文書の記載が,βビルの耐震性の基準となるとは認められないから,原告らの上記主張は採用することができない。

c
層間変形角が基準を超えているとの主張について
次に,原告らは,βビルの層間変形角はι設計報告書記載の対応策を実施しても1/77であるから,同報告書によればβビルは十分な耐震性を有していなかったと主張する。
しかし,上記

から

までで説示したとおり,βビルは,上記層間

変形角の数値を踏まえ,確認事項①から③までの観点から安全性を確認したことが認められるから,原告らの上記主張は採用することができない。
d
層間変形角をせん断変形成分によって評価すべきではないとの主張について
原告らは,層間変形角の評価をせん断変形成分によって行い,曲
げ変形成分を考慮しないのは誤りである旨主張する。
しかし,上記

aで説示したとおり,性能評価方法書所定の層間

変形角の要件(認定事実

b
)の検討に当たっては,せん断変形

成分及び曲げ変形成分の双方からなる層間変形角の値が用いられている。また,上記

で説示したとおり,確認事項①の確認をせん断

変形成分によって行っているのは,そこで検討すべき外装材等の落下等の危険性の有無についてはせん断変形成分が支配的であることによるから,特段不合理なものとはいえない。以上のほかに,βビルの構造安全性の検討に当たって,曲げ変形成分が不当に考慮されていないことをうかがわせる事情は認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
また,原告らは,せん断変形成分のみで層間変形角を検討するこ
とはないとして,確認事項①の確認をせん断変形成分によって行うことは誤りである旨主張し,証人ααはこれに沿う供述をする。しかし,同供述はせん断変形成分と曲げ変形成分を分ける旨を説明する証拠(甲28)に整合するとはいい難いし,学識経験者が関与した専門家会議検証結果においてもせん断変形成分の値を用いて検証をしていること(認定事実

b)とも整合しない。したがって,原

告らの上記主張は採用することができない。
e
せん断変形成分が1/100を超えているとの主張について
原告らは,仮にせん断変形成分のみで評価するとしても,βビルの層間変形角はι設計報告書記載の対応策を実施した後でも1/98であるから,同報告書によればβビルは十分な構造安全性を有していなかったと主張する。
しかし,上記

で説示したとおり,確認事項①は,層間変形角のせ
ん断変形成分の値
(1/98)
だけによって確認されたわけではなく,
βビルの外装材がせん断変形成分1/70以下であれば落下しないことを踏まえて確認されたものである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
なお,上記認定事実

bのとおり,関口波8(NS)を用いて時刻歴

応答解析を行った結果,βビルの層間変形角は,大阪府が東日本大震災前に策定した制震補強計画を前提とした場合及び大阪府が本件専門家会議において提案した追加補強計画を前提とした場合のいずれにおいても,層間変形角のせん断変形成分の値は,X方向及びY方向とも1/90を上回る。しかし,上記ウ

aで説示したとおり,本件調査当時にお

いて本件模擬地震波ではなく関口波8(NS)によってβビルの耐震性を検討すべきであるとはいえないから,上記の値によってβビルの構造安全性が欠けると評価することはできない。
以上のとおり,βビルは,本件購入契約当時,ι設計報告書記載の対応策を実施することによって,性能評価方法書の定める基準を満たすことができるものであったといえるから,当時の知見等に照らし,その構造安全性において欠けるところがあったとはいえない。

βビルの地盤の安全性について
原告らは,κ地区は地盤が液状化する可能性があるから,βビルは液状化によって大きな影響を受ける旨主張する。
しかし,防災機能検討報告書(乙17)によれば,βビルの立地地点の液状化の可能性は「ほとんどなし」又は「程度は小さい」と評価されていることが認められるところ,このような液状化の可能性の評価が誤り又は不合理であることを裏付ける具体的な事実又は証拠は見当たらない(後記参照)。原告らの上記主張は,抽象的な可能性を指摘するものにとどまり,採用することができない。

まとめ
以上のとおり,ι設計報告書において,本件模擬地震波によりβビルの耐震性が判断されたことが誤り又は不合理であるとはいえず,これを前提として検討されたβビルの構造安全性につき,当時の知見等に照らして欠けるところがあったとは認められない。また,βビルの地盤の安全性についても具体的な問題はうかがわれない。
βビルの防災拠点としての適格性等について


認定事実
証拠(乙17,76,証人ββのほか掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
東南海・南海地震による想定地震動
κ地区に影響を及ぼす地震については,内陸断層帯地震である上町断層帯地震等と,海溝型地震である東南海・南海地震が想定されている。このうち,本件購入契約時の東南海・南海地震の想定地震規模はマグニチュード8.6であり,κ地区での予想最大震度は震度5強とされ,一部は震度6弱とされた。(以上につき,乙77)
東南海・南海地震による液状化予測
a
液状化の一般的知見
液状化とは,地震動によって砂の粒子間の地下水(間隙水)の水
圧が急激に上昇して,砂の粒子同士を横にずらそうとする力に対する抵抗力(せん断強度)を失うことをいう。そして,液状化は,①砂が多く含まれる地盤であること,②地下水位が高いこと(砂の粒子間が地下水で満たされていること),③砂の粒子が緩い状態で堆積していることをいずれも満たしている場合に発生するとされている。(以上につき,甲5,6,乙30)
土は,その粒の粒径によって,礫(75㎜~2㎜),砂(2㎜~
0.075㎜),シルト(0.075㎜~0.005㎜)及び粘土(0.005㎜以下)に分類される。そして,礫や粘土は液状化せず,砂が多量に含まれていると液状化しやすくなる。また,シルトそのものは液状化を起こすことはないものの,あまり粘着力がないため液状化することがあり,礫に砂やシルトが混ざっている場合にも液状化することがある。(以上につき,甲5,6)
b
予測の判定指標
PL値
特定の地点における液状化の発生と程度を評価する指標として,
液状化指数であるPL値がある。PL値に対する液状化発生の面積率又は予測的中率と,防災機能検討報告書及び地震被害想定報告書で挙げられている液状化予想の区分の対応は,
以下のとおりである。
(以上につき,乙77)
PL値

液状化発生面積率

液状化予想の区分

0~5

0%

ほとんどなし

5~10

10%

程度は小さい

10~15

25%

15~20

45%

20~25

65%

中程度
激しい

液状化危険度
地震被害想定報告書は,PL値15を液状化発生の閾値とし,各
地点のボーリングデータを基に,当該地点が上記閾値に達する限界加速度を算出し,その限界加速度を以下の表のとおり区分して,各地点の液状化危険度を評価した。以下の表によれば,例えば,「極めて高い」と判定された地点は,海溝型地震の場合に最大加速度が150ガル以下でPL値が15に達して液状化が発生するほどに軟弱な地盤であるから,液状化発生の可能性が極めて高いと判定されたことを意味する。(以上につき,乙77)
液状化危険度

限界加速度(PL値が15に達する値。単位はガル)

(発生の可能性)

海溝型地震

内陸直下型地震

極めて高い

0~150

0~200

高い

150~250

200~400

やや高い

250~350

400~600

低い

350~450

600~800

極めて低い
(発生は局所的)上記以外で,ため池埋め立て地等が存在する微地形条件極めて低い

c
上記以外の山地等の微地形条件

κ地区の液状化予測
想定されている東南海・南海地震(上記

)によるκ地区の液状

化予測(PL値)の結果は,ほとんどの地点で「ほとんどなし」から「程度は小さい」であり,局所的に「中程度」の区分に属する地点が見られた(乙77)。
また,κ地区の液状化危険度の結果は,ほとんどの地点が「極め
て低い(発生は局所的)」であり,一部の地点が「やや高い」又は「低い」の各区分に該当した(乙77)。
潮位及び東南海・南海地震による津波予測
a
潮位
潮位や海抜を表す単位としては,
東京湾平均海面を示す
「T.」
P.
と大阪湾最低潮位を示す「O.P.」があり,T.P.はO.P.よりも1.3m高い。また,満潮位は朔望平均満潮位を用いることがあるが,これは,新月及び満月の日から各5日以内の期間中の最高満潮面の値の平均値である。(乙46,78)。
大阪湾で記録されたこれまでの最高潮位は,昭和9年の室戸台風
の際に観測されたO.P.+4.5mである。また,大阪湾の計画高潮位はO.P.+5.2mである。これは,大潮の満潮時に伊勢湾台風級の台風が室戸台風と同じコースを進んだ場合を想定した潮位であり,具体的には,台風期(7月から10月まで)の朔望平均満潮位の実測値であるO.P.+2.2mに上記想定の場合の偏差3.0mを加えたものである。(以上につき,乙78)
b
東南海・南海地震による津波予測
本件購入契約当時に想定されていた東南海・南海地震(上記

)の

際に予測されるδ及びκ地区周辺の最大津波高分布は1.6~2.2mである。そして,その際の想定津波水位は,上記最大津波高分布に朔望平均満潮位(O.P.+2.1m)を加えることによって算出され,その値はO.P.+3.7~4.3mである(乙44,79)。c
κ地区の地盤高及び護岸高
κ地区の地盤高は別紙2のとおりであり,δ大橋北詰はO.P.+2.9mであるが,それ以外の地点はO.P.+5.3m以上となっている。
災害時の大阪府職員の参集体制

a
大阪府は,平成21年2月時点では,庁舎移転構想において,βビルを防災拠点とし,職員は災害発生時にはβビルに参集することを前提とする防災体制を想定した(乙28)。

b
大阪府は,平成21年9月時点では,庁舎移転案において,βビルに防災情報センターを整備するとともに,η庁舎に防災情報センターの機能に支障が生じた場合に備え,防災バックアップ施設を整備し,職員は,想定内の事象が発生した場合にはβビルに参集し,想定外の事象が発生した場合には上記バックアップ施設に参集することを前提とする防災体制を想定した。
そして,
上記想定外の事象の例としては,
地震により大型車両等が参集ルートを封鎖した場合や,想定を超える高潮によりκに浸水被害が生じた場合が挙げられていた。(以上につき,乙24)
参集ルート
上記

bにおいて想定されていた参集ルートは,γルート,σルート

及びτルートの3つである。各ルートの概要及びルート上の主要構造物の安全性は以下のとおりであり,位置関係及び各ルート上の地盤高は別紙2のとおりである。
a
γルート
γルートは,βの南東に位置する内陸部から,γγ橋及びδδ橋
を順次渡り,δ大橋を渡ってκに入ってβビルに到達するルートを主要参集ルートとし,γγ橋及びδδ橋を渡らずにεε大橋を渡るルート並びにγγ橋及びδδ橋の南側からδδ橋西岸に至るルートをサブ参集ルートとしている。
γルート上の主要構造物のうち,
γγ橋,
δδ橋及びεε大橋は,
本件購入契約時までに落橋防止装置の設置などの耐震対策が施されていた。
他方,δ大橋は,落橋防止装置等の耐震対策が施されていたもの
の,北詰の地盤高(O.P.+2.9m)が想定津波水位(O.P.+3.7~4.3m)より低いことから(上記

b,c),本件購

入契約時には,府庁舎移転時までに人道橋又は津波防御施設を設置することを予定しており(乙24),その後,津波防御施設が設置された。
b
σルート
σルートは,βビルの東に位置する内陸部から,κトンネルを通
過してκに入り,βビルに到達するルートを主要参集ルートとし,サブ参集ルートは設定されていない。
σルート上の主要構造物のうち,κトンネルは,平成21年度に
トンネル継手部(トンネル本体および立坑接続部)の補強工事を終え,トンネル本体も東南海・南海地震の想定地震動によって耐震性が確認された。
c
τルート
τルートは,βビルの北東に位置する内陸部から,υ大橋を渡っ
てμμに入り,φ大橋を渡ってζζに入り,χトンネルを通過してκに入り,βビルに到達するルートを主要参集ルートとし,υ大橋を渡らずにτ大橋を渡るルートをサブ参集ルートとしている。
τルート上の主要構造物のうち,φ大橋は,新耐震基準(平成8
年道路橋示方書所定の基準。以下同じ。)所定の地震波のほか,東南海・南海地震を想定した地震波及び上町断層系による想定地震波を用いた時刻歴応答解析によって耐震性が確認されている。また,χトンネルは,東南海・南海地震の想定地震動によって照査され,耐震性が確認されている。
他方,υ大橋は,上部工は新耐震基準に基づいて築造されている
ものの,下部工(橋脚)は,本件購入契約時には,府庁舎移転時までに耐震性の照査及びこれに伴う必要な補強工事をすることが予定されていたが(乙24),まだ工事は実施されていない。
また,τ大橋は,本件購入契約時では,部分的な耐震補強を要す
るとされ,その後,耐震補強工事を終えた。


想定地震動について
証拠(乙17,76,77,ββ)によれば,κ地区の液状化及び津波の被害予測の前提となる想定地震動は,防災機能検討報告書に基づくものであるところ,これは「大阪府自然災害総合防災対策検討(地震被害想定)報告書」(地震被害想定報告書)で示された予測結果を引用したものであることが認められる。そして,同報告書は多数の学識経験者や公的機関が参加して検討した結果であり,その内容について特に問題はうかがわれない。
これに対して,原告らは,防災機能検討報告書において想定されている想定地震規模は過小評価されている旨主張する。しかし,上記認定事実
のとおり,
上記想定地震規模はマグニチュード8.
6であるところ,

証拠(甲30)によれば,南海トラフでは過去にマグニチュード8.0から8.4の地震が起きたことが認められる。そうすると,上記想定地震規模は過去に南海トラフで起きた地震規模を上回るものであって,過小評価されたものとはいえない。原告らの上記主張は採用することができない。
また,原告らは,防災機能検討報告書は大阪市地域防災計画(乙79)の数値も引用しているところ,同計画の東南海・南海地震の想定地震規模はマグニチュード7.8程度と過小評価されている旨主張する。しかし,同計画において想定地震規模をマグニチュード7.8程度としているのは上町断層帯地震であり,南海トラフでの海溝型地震ではない。また,同計画は四国沖で起きた海溝型地震の想定地震規模をマグニチュード8.6としていることが認められ(乙79),この値は過小評価されたものとはいえない(上記

)。原告らの上記主張は採用することがで

きない。
以上のとおりであるから,κ地区の被害予測の前提となる想定地震動は,本件購入契約時の知見に沿ったものといえ,その内容に誤りは認められない。

液状化予測について
上記認定事実

のとおり,κ地区の液状化予測の結果は,ほとんどの

地点が液状化発生面積率0%~10%の区分であり,液状化危険度も極めて低く,発生は局所的と評価されている。そして,上記イ

で説示し

たとおり,κ地区の液状化予測は,防災機能検討報告書に基づくものであるところ,これは地震被害想定報告書で示された予測結果を引用したものであり,同報告書の内容に特に問題はうかがわれない。
これに対し,原告らは,国内で過去に起きた大地震(甲82~84)に照らすと,地震被害想定報告書の液状化危険度の区分(認定事実
b
)は極めて甘い予測である旨主張する。しかし,地震被害想定報告書の液状化危険度の評価方法は,液状化発生PL値の閾値をはじめ,兵庫県南部地震の液状化を検討した結果等を踏まえた知見によることが示されており(乙31,77),その内容に特に不合理な点は認められない。原告らの上記主張は採用することができない。
なお,原告らは,国内で過去に最大加速度が800ガルを超える地震が複数回発生しているが,これらの値は液状化危険度「低い」に対応する限界加速度「350~450ガル」を大幅に上回るため,上記液状化危険度の区分は誤りである旨主張する。しかし,液状化危険度の区分は当該地点のPL値が15に達する限界加速度によって分けられているものであるから(認定事実

b
),過去に最大加速度の値が大きい地震

があったからといって,液状化危険度の区分が誤りと評価されるものではない。したがって,原告らの上記主張は失当である。
また,原告らは,κ地区の液状化予測の結果によれば,大阪市内のδB・D岸壁(甲81参照)は液状化の発生しにくい区域とされているが,同所は兵庫県南部地震の際には液状化現象が生じたから(甲80),上記液状化予測は誤りである旨主張する。
しかし,
防災機能検討報告書
(乙
17)によれば,δB・D岸壁がある地点の大半では,PL値は15以上であり,液状化発生の可能性は中程度以上と評価されており,液状化の発生しにくい区域とはされていない。したがって,原告らの上記主張は前提となる事実を誤るものであるから,採用することができない。さらに,原告らは,防災機能検討報告書及び地震被害想定報告書によるκ地区の液状化予測では,地震動(地震加速度)の大きさ(最大加速度)のみが考慮され,継続時間の長さが考慮されていない旨主張する。しかし,同報告書(乙77)には,東南海・南海地震の予測では,海溝型地震の継続時間の長い地震動の影響を考慮するために所要の補正係数を入力した旨の記載がある。したがって,上記報告書において行われた液状化予測は地震の継続時間の長さを考慮したものと認められるから,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らは,防災機能検討報告書及び地震被害想定報告書によるκ地区の液状化予測では,前提となるボーリングデータの数が限られているから,予測の精度が高いとはいえないと主張し,これに沿う記載のある文献(甲5)を挙げる。
しかし,証拠(乙29,42,61,77)によれば,同報告書は,関西圏地盤情報データベースなどの地盤情報を用いたものであるところ,同データベースは関西圏で集積されてきた地盤情報を統合したものであり,κ地区についても500本を超えるボーリングデータが登録されている。以上によれば,κ地区の液状化予測は,十分な数のボーリングデータに基づいてされたものといえる。他方,原告らが挙げる上記文献は,地方公共団体が示す液状化マップには十分なボーリングデータに基づかないこともあるという一般的な可能性を述べるにとどまるから,上記認定判断を左右するものではない。したがって,原告らの上記主張は前提となる事実が認められないから,採用することができない。原告らは,液状化に関し,シルト質の粘土層は粘着力がないため液状化することがあるから,κ地区は浚渫粘土で埋め立てられていることをもって液状化が起こりにくいとはいえないと主張する。
しかし,庁舎移転案(乙24)によれば,κ地区は,護岸を除いて主に浚渫粘土で埋め立てられ,サンドドレーン工法等の地盤改良が施されたことが認められる一方,本件全証拠によっても,埋立てにシルトが用いられたことをうかがわせる事情は認められない。
原告らの上記主張は,
βビルの地盤にシルトが含まれているという仮定的な事実を基に,シルトが含まれていれば液状化が発生するおそれがないとはいえないという抽象的なおそれを指摘するものにすぎず(認定事実

a
参照),採用

することができない。
以上のとおりであるから,κ地区の液状化予測の結果は,本件購入契約時の知見に沿ったものといえ,原告らの主張を踏まえて検討しても,その内容に誤りは認められない。

潮位及び津波予測について
上記認定事実

b,cのとおり,κ地区の津波予測の結果はO.P.

+3.7~4.3mであるところ,κ地区の地盤高はδ大橋北詰を除いてO.P.+5.3m以上となっている。そして,δ大橋北詰は,本件購入契約時には,府庁舎移転時までに人道橋又は津波防御施設を設置することを予定していた(認定事実

a
)。そうすると,いずれの地点

の地盤高も,府庁舎移転時までに想定津波水位を上回ることが見込まれたといえる。
そして,証拠(乙76,ββ)によれば,上記津波予測は防災機能検討報告書に基づくものであり,これは,大阪市地域防災計画(乙79)及び同書で引用されている「平成15年度東南海・南海地震津波等対策検討委員会検討成果」
(乙44。
以下
「平成15年度検討成果」
という。

に基づくものであるところ,証拠(乙43,44)によれば,平成15年度検討成果を取りまとめた委員会は,ηη(肩書は当時)を委員長とし,学識経験者及び行政関係者で構成され,1年以上にわたる検討を経て,平成15年度検討成果を取りまとめたことが認められる。以上に説示したところに照らせば,平成15年度検討成果は専門家によって相当期間をかけて検討されたものであるといえ,その信用性に疑問を差し挟む点は認められない。
これに対して,原告らは,平成15年にηη教授が公表した論文(甲29)によれば,想定津波水位は最大で「3.94」mであるから,平成15年度検討成果の津波予測(O.P.+3.7~4.3m)は想定津波水位を過小評価している旨主張する(なお,ηη論文の津波水位の上記値はO.P.又はT.P.のいずれであるか明らかではないが,原告らが主張するT.P.であること(すなわち,O.P.換算で+5.24mであること)を前提に検討する。)。
しかし,上記

で説示したとおり,平成15年度検討成果は,ηη教

授を含む専門家によって相当期間をかけて検討されたものであるといえ,その作成経過等に不合理な点は見当たらないし,平成24年7月に修正された大阪市の「東南海・南海地震防災対策推進計画」における災害想定においても維持されていること(乙45)からすると,その内容面においても確定的な知見を取りまとめたものとして特段の問題がないことが推認される。他方,ηη論文には,東海・東南海・南海地震が同時又は連鎖的に発生した場合の津波の影響を解明することを目的としている旨の記載があることからすると,ηη論文は学術的な見地から未だ解明されていない問題について一つの検討結果を示したものにとどまり,確定的な知見を提供するものではないとみるのが相当である。したがって,ηη論文の内容によって,平成15年度検討成果の津波予測が誤りであるとはいえないから,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らは,防災機能検討報告書に記載されている地盤高は平成15年から平成19年にかけての計測値であり,その後の地盤沈下を考慮していないから,κ地区の地盤高(認定事実

c)は過大に評価されている

旨主張する。
しかし,平成21年10月に作成された防災機能検討報告書の追加提出資料(乙17)によれば,護岸高は全て平成20年度又は平成21年度に計測されたものであり,地盤高は最も古いもので平成17年度に計測されたものであるから,原告らの上記主張はその前提を誤っている。加えて,同報告書には,地盤高については過去及び最近の1年当たりの各地盤高の沈下速度(1年当たり0.5㎝~3.9㎝)が記載され,東南海・南海地震津波等対策検討委員会に向けた議論の中で,地震による地殻変動により,大阪港域では約20㎝沈下するとの想定があることが紹介され,κの今後50年間の累積沈下量の予測(θθ地区で約35~60㎝,ιι地区で約50~60㎝,δ東地区で約20㎝等)が示され,これらを受けて,κの地盤高が想定潮位を下回ることを想定して地盤高と経年的な地盤沈下の傾向に常に注意を払いつつ,その時点に応じた防災対策を講じて埋立地の防災機能を保持することができる旨の検討結果と防災対策の例が記載されている。以上に照らせば,防災機能検討報告書はその時点で入手した護岸高や地盤高の数値を踏まえて将来予測をし,想定する事態に対する対応策やその例を示しているのであるから,将来の地盤沈下を考慮したものといえる。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らは,兵庫県南部地震の際には兵庫県内で液状化による護岸陥没が生じたが(甲79),防災機能検討報告書に記載されている地盤高や護岸高は南海トラフで巨大地震が発生したときの護岸陥没の可能性を考慮していない旨主張する。
しかし,我が国の港湾区域の護岸は,一部の特殊な護岸・岸壁を除き,内陸直下型地震を想定して設計されていないことがうかがわれるところ(乙17),直下型地震である兵庫県南部地震の際に液状化による護岸陥没があったからといって,南海トラフで巨大地震が発生したときに同様の事象が生じるとはいえない。また,防災機能検討報告書は,上記ウで説示したとおり,液状化の危険性について検討しているし,護岸の損傷や液状化の可能性についても検討している。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らは,防災機能検討報告書の津波浸水想定は,津波のエネルギーの特性(甲35参照)や,これにより津波が護岸を越流(遡上)する可能性を考慮していない旨主張する。
しかし,防災機能検討報告書が依拠する平成15年度検討成果(乙44)において示された津波浸水予測図(素案)は,地震被害想定報告書(乙77)の浸水予測結果と同じであることが認められるところ,同報告書によれば,上記浸水予測の計算に当たっては,津波の特性,越流及び遡上を踏まえた計算手法が用いられていることがうかがわれ,防災機能検討報告書の津波浸水想定が,津波の特性,越流及び遡上を考慮していないとは認められない。また,上記認定事実

bのとおり,想定外の

事象によりκに浸水被害が生じた場合は,バックアップ施設への職員の参集等を予定していたのであるから,津波によるκ地区の浸水可能性が考慮されていなかったとも認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
以上のとおりであるから,κ地区の潮位及び津波予測の結果は,本件購入契約時の知見に沿ったものであり,いずれの地点の地盤高も,府庁舎移転時までに想定津波水位を上回ることが見込まれたといえ,原告らの主張を踏まえて検討しても,その内容に誤りは認められない。

参集ルートの主要構造物の安全性等について
γルートについて
原告らは,γルートのうち,γγ橋,δδ橋及びδ大橋は地盤の液状化の可能性を否定することができず,これによる落橋の可能性が高いと主張する。
確かに,防災機能検討報告書(乙17)によれば,γルート上のPL値は,上町断層帯地震を想定した場合には一部で中程度(10~20)の箇所があり,東南海・南海地震を想定した場合には一部で中程度(10~15)の箇所があること,今後50年の地盤沈下予測は1年当たり0.3㎝から0.5㎝とされていることが認められ,液状化のおそれが全くないとはいえない。しかし,同報告書によれば,γγ橋,δδ橋及びδ大橋はいずれも落橋防止装置等の耐震対策が施されていることが認められる。以上によれば,γγ橋,δδ橋及びδ大橋は,液状化の可能性はあるものの,落橋の可能性が高いとはいえない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
σルートについて
a
原告らは,σルートを構成するκトンネルは,沈埋工法という特殊な工法によって作られているため,沈埋函の継手部が地震動によって損傷してトンネルが水没する可能性がある旨主張する。
しかし,原告らは,沈埋工法の内容や地震動が沈埋函の間の継手部に与える影響等について何ら具体的な立証をしていない。また,上記認定事実

b
のとおり,κトンネルはトンネル継手部の補強工事を

終えている。以上によれば,原告らの主張は,抽象的な可能性を指摘するものにとどまるから,採用することができない。
b
また,原告らは,κトンネルの内陸側の坑口付近の地盤高はO.P.+2.0mであり,想定津波水位(O.P.+3.7m~4.3m)よりも低いため,地震発生時の津波により水没する可能性があると主張する。
しかし,防災機能検討報告書(乙17)によれば,上記坑口のあるσ地区には高さO.P.+5.7m~7.2mの防潮堤が設けられていることが認められ,想定津波水位に到達することにより直ちにκトンネルが水没するとは認められない。原告らの上記主張は採用することができない。
τルートについて
原告らは,τルートを構成するφ大橋やχトンネルは地震による液状
化の影響を受けて損傷等する可能性がある旨主張する。
確かに,防災機能検討報告書(乙17)によれば,ζζの今後50年間の地盤沈下量の予測はおおむね150㎝となっているが,ζζの幹線道路における土質調査資料のPL値は,内陸断層帯地震(上町断層帯地震等)の場合で2.13,海溝型地震(東南海・南海地震等)の場合で0.99であることが認められ,これは,液状化予想の区分が,いずれも「ほとんどなし」に区分される値である。また,上記認定事実

c
のとおり,φ大橋及びχトンネルは,いずれも新耐震基準等に基づいて照査され,耐震性が確保されている。したがって,原告らの上記主張は,抽象的な可能性を指摘するにとどまるものであって,採用することができない。
参集ルートの適格性について
a
以上のとおり,原告らは,各参集ルート上の主要構造物が地震によって損傷する可能性がある旨主張するが,いずれも抽象的な可能性を指摘するものにすぎず,採用することができない。そして,上記認定事実

のとおり,その余の主要構造物のうち,耐震性が確認されたも

のについては上記可能性をうかがわせる事情は認められないし,耐震性が確認されていないものについては耐震対策を講じることが具体的に予定されていたことが認められる。以上に加え,上記認定事実


とおり,想定外の事象が発生した場合には災害時のβビルへの職員の参集は予定されていなかったことを併せ考慮すれば,参集ルートが災害時の職員の参集経路として不適格であったとは認められない。
b
これに対して,原告らは,①γルート上のδ大橋北詰交差点(認定事実

a
)及び②τルート上のυ大橋(同c

)は,本件購入契約

当時,耐震性が確保されていなかったのであるから,これを前提とする参集ルートの設定は誤りである旨主張する。
しかし,上記認定のとおり,上記各箇所については,本件購入契約時において耐震対策の実施が具体的に予定されていたし,耐震対策が実施されるまでの期間についても,βビルへの3つの参集ルートが設定されていたことからすると,これらの参集ルートが全て通行不能になる蓋然性が高いとは認められない。そうすると,原告らが指摘する事情を考慮しても,参集ルートが災害時の職員の参集経路として不適格であったとはいえない。原告らの上記主張は採用することができない。
c
また,原告らは,南海トラフにおいて巨大地震が発生した場合,想定を超える規模の地震により,交通や建築物に想定を超える被害が生じる可能性があることを前提に,そのような場合に職員がβビルに参集して,同ビルが防災拠点として機能することは不可能かつ非現実的である旨主張する。
しかし,上記認定事実

bのとおり,参集ルートが封鎖された場合

やκに浸水被害が生じた場合は,職員は,η庁舎のバックアップ施設へ参集することが想定されており,βビルへ参集することは想定されていなかった。したがって,原告らの主張は,前提となる事実を誤るものであるから,採用することができない。

まとめ
以上のとおり,想定地震動,液状化予測,潮位及び津波予測並びに参集ルートの主要構造物の安全性等のいずれについてみても,βビルが,本件購入契約当時の知見等に照らし,予定されていた防災拠点としての適格性を全く欠いていたとは認められない。
なお,大阪府は,平成25年8月,南海トラフ巨大地震による津波浸水想定を定め(乙46),同想定では,南海トラフの想定地震規模をマグニチュード9.1とし,これに基づく津波浸水想定を定めたことが認められる。しかし,同想定は,本件購入契約後に発生した東日本大震災を受け,
想定地震規模を引き上げて作成されたものであって,
上記認定判断を左右するものではない。

財政シミュレーションの適否等について

認定事実
掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
大阪府は,庁舎移転構想において,平成20年から平成53年までの財政シミュレーションを公表した。その概要は,以下のとおりである。(以上につき,乙28)
β移転案①
総支出
土地活用収入


の合計

耐震補強案①

建て替え案①

▲862億円

▲823億円

▲1382億円

447億円

203億円

339億円

▲415億円

▲620億円

▲1043億円

大阪府は,庁舎移転案において,上記

の内容を改訂し,平成21年

から平成53年までの財政シミュレーションを公表した。その概要は,以下のとおりである。(以上につき,乙24)
β移転案②

耐震補強案②

建て替え案②

整備費等支出

▲206億円

▲149億円

▲594億円

土地活用収入

425億円

255億円

353億円



219億円

106億円

▲241億円

管理的経費等

▲387億円

▲514億円

▲363億円

大規模修繕費

▲241億円

▲104億円

▲75億円



▲409億円

▲512億円

▲679億円

上記
a




の合計

の前提条件等は,以下のとおりである(乙24)。

β移転案②の土地活用収入は,η庁舎本館の一部を文化的施設として残し,その余を売却するという内容である。

b
β移転案②の管理的経費等(▲387億円)は,民間の賃借人からの賃料等収入143億円を考慮したものである。そして,同収入の前提条件は,以下のとおりである。
執務室等として使用可能な面積7万3300㎡のうち,5万80
00㎡を執務室等として利用し,残りの1万4800㎡(民間オフィス5100㎡,店舗9700㎡)を当時の民間の賃借人がそのまま引き継ぐ。
上記

のうち,民間の賃借人の平均空室率は50%とする。これ

は,平成21年時点で入居していた全賃借人が平成21年から平成53年までの間に順次退出する一方で,代わりに入る賃借人がいないという仮定に基づくものである。
c
業務システム移転費は,財政シミュレーションに与える影響が軽微であると判断され,
計上されなかった。
また,
防災行政無線整備費
(約
88億円)は,更新時期が近いため,庁舎の位置にかかわらず必要な費用となると判断され,計上されなかった

土地活用収入について
上記認定事実

,aによれば,
庁舎移転案で示されたβ移転案②は,

η庁舎本館のほぼ全てを売却することによる土地活用収入425億円を見込んでいたことが認められる。
これに対して,原告らは,本件移転条例案①が否決された時点で大阪府庁舎がβビルへ全面移転しないことは判明していたから,その後提案された庁舎移転案のβ移転案②において,βビルへの全面移転を前提として土地活用収入を考慮したことは誤りである旨主張する。しかし,前記前提事実

のとおり,庁舎移転案公表後に本件移転条例案②が提案さ
れたことが認められ,同案が可決されればβビルへの全面移転が実現する可能性があったといえる。したがって,原告らの上記主張は,その前提となる事実が認められず,採用することができない。
また,原告らは,本件移転条例案②の否決によってβ移転案②の土地活用収入を得る見込みがなくなり,耐震補強案よりも多額の費用を要することが明らかになったにもかかわらず,補助参加人が本件購入契約を締結したことは著しく不合理である旨主張する。
しかし,庁舎移転案(乙24)によれば,η庁舎は,遅くとも平成元年以降,庁舎の老朽化や執務環境の狭あい化の問題が指摘されていたこと,β移転案②は上記の問題に対応する案であった一方,耐震改修案②は上記の問題には対応することができない案であったことが認められる。そうすると,本件移転条例案②の否決によってβビルへの全面移転の実現ができず,これによる土地活用収入が幾分減少することを考慮しても,β移転案②は,上記各問題を解決するという利点があったといえる。そして,前記前提事実

ウのとおり,大阪府議会は本件移転条例案

②の否決後にβビルの購入に係る議案を可決したものであるところ,これは庁舎移転案に示されている上記利点を積極的に評価したことによる議決であることがうかがわれ,これに反する事情は認められない。以上によれば,補助参加人が,本件移転条例案②の否決後に土地活用収入に係る財政シミュレーションの修正等を行っていないとしても,βを購入する目的やその必要性が欠けるとはいえない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

賃料収入予測について
上記認定事実

bのとおり,β移転案②の民間の賃借人からの賃料等収
入は,平均空室率50%を前提に143億円を見込んでいたところ,原告らは,テナントの空き状況からすれば,上記平均空室率の予測は過小であったと主張する。
しかし,上記認定事実

b
によれば,上記平均空室率は,予測時に入

居していた民間の賃借人が,以後約30年間の間に全て退去するというものであるから,
予測時の入居状況を前提としたものといえる。
したがって,
β移転案②は上記平均空室率を過小評価したものとはいえない。原告らの上記主張は採用することができない。

業務システム移転費及び防災行政無線整備費について
原告らは,β移転案②の財政シミュレーションには業務システム移転費及び防災行政無線整備費が計上されておらず,その分支出額が過小評価されている旨主張する。しかし,上記認定事実

cによれば,これらが計上

されなかったことには相応の理由がある一方,業務システム移転費が高額であったことをうかがわせる事情は認められないし,防災行政無線設備の更新の必要性を疑わせる事情もうかがわれない。したがって,上記各費用が計上されなかったことによってβ移転案②の財政シミュレーションの支出額が過小評価されたとはいえない。原告らの上記主張は採用することができない。

大規模修繕費について
原告らは,β移転案②の財政シミュレーションでは大規模修繕費は241億円とされているが,東京都庁舎と同様に当初建設費の半分である600億円程度の費用を要する旨主張し,これに沿うααの供述及び意見書(甲65)がある。
しかし,ααの供述及び意見書によっても,βビルと東京都庁舎との間には,高さが60mを超える建築物であること及び竣工時期がおおむね同時期であること以外に類似性は認められず,これらの点からβビルの大規模修繕費が東京都庁舎と同様に当初建設費の約半分になるとは認められない。また,ααは,庁舎移転案の改修費が中層建築のモデルを用いて算定されているところ,このモデルは超高層建築には当てはまらない旨を述べるが,上記差異の有無やその程度を的確に明らかにする証拠は見当たらない。以上によれば,原告らの指摘する点を踏まえても,β移転案の大規模修繕費が過小に計上されたとは認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

まとめ
以上のとおり,庁舎移転案の財政シミュレーションに原告らの主張する誤り又は不合理な点は認められない。
本件購入契約の締結及び本件購入費用の支出の違法性について
以上のとおり,βビルの耐震性(構造安全性),βビルを含むκ地区の防
災拠点としての適格性及び財政シミュレーションの適否等の諸点に照らしても,本件購入契約を締結した補助参加人の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったとは認められず,本件購入契約の締結が違法であるとは認められない。また,本件購入契約が違法であるとは認められない以上,同契約に基づく本件購入費用の支出もまた違法であるとは認められない。3
争点③(本件移転費用の支出の違法性)について
本件購入契約の締結の違法性に基づく本件移転費用の支出の違法性について
原告らは,本件購入契約の締結が違法であるから,これを前提とする本件移転費用の支出も違法である旨主張する。しかし,上記2のとおり,本件購入契約の締結に違法性は認められないから,原告らの上記主張は採用することができない。
地方自治法4条1項違反の有無について

原告らは,大阪府の多数かつ重要な部局が平成22年4月から平成23年5月までの間にη庁舎からβビル(κ庁舎)に移転しており,これは地方自治法4条1項所定の事務所の位置の変更に当たるにもかかわらず,同項所定の条例制定手続を経ていないから,上記移転は違法であり,その費用である本件移転費用の支出も違法である旨主張する。


そこで検討するに,地方自治法4条1項は,地方公共団体はその事務所の位置を条例で定めなければならないと定め,同条3項は,同条1項の条例を制定し又は改廃しようとするときは,当該地方公共団体の議会において出席議員の3分の2以上の者の同意がなければならないと定めている。これに対し,同法155条は,地方公共団体の支庁や地方事務所の設置及びその位置等につき,条例で定めなければならないとしているものの,同法4条3項のような特別の議決を必要としていない。このような地方自治法の関係規定の文言や議決要件の差異等に加え,分庁舎の設置及びその位置につき条例で定めることを要しないとする行政実例(乙23)にも照らすと,同法4条1項にいう「事務所」とは,地方公共団体の主たる事務所,すなわち,都道府県については都道府県庁と解するのが相当である。この点に係る原告らの主張は,独自の見解であって採用することができない。これを本件についてみると,
前記前提事実

及び弁論の全趣旨によれば,

大阪府は,平成22年4月から平成23年5月までの間に,η庁舎からβビルへ相当数の部局が移転し,約2000名の職員がκ庁舎において勤務することになったことが認められるものの,η庁舎には,上記移転後もなお,大阪府知事(知事室)が常駐し,大阪府議会が存在するほか,政策企画部,総務部,財務部等の多数の部局が存在し,κ庁舎を上回る約3000名の職員が勤務している。このような事実関係に照らせば,βビルへの部局の移転は,大阪府の主たる事務所を移転するものとはいえない。ウ
これに対し,原告らは,大阪府庁舎の来庁者の約8割を占める部局がβビルに移転したことを考慮すれば,本件でのβビルへの部局の移転は地方自治法4条1項所定の事務所の位置の変更に当たる旨主張する。
しかし,主たる事務所か否かの判断においては,その執行機関(知事)及び議決機関(議会)の所在の有無が第一次的な判断要素になるというべきであり,部局や来庁者の数は判断要素の一つになるとしても,これにより主たる事務所の所在が決まるとは解し難い。原告らの上記主張は採用することができない。
なお,原告らは,本件移転条例案①及び同②が否決されたにもかかわらず,補助参加人が多数の部局をβビルに移転させたことは,同項を無視する行動である旨主張する。しかし,庁舎移転案(乙24)は,大阪府知事及び大阪府議会を含むη庁舎の本庁機能全てがβビルに移転する案であったが,本件移転条例案①及び同②の否決後に実際に移転した部局は,庁舎移転案のそれを下回るものであるし,大阪府知事(知事室)及び大阪府議会もβビルには移転していない。原告らの上記主張は採用することができない。


以上によれば,大阪府庁舎の部局をβビルに移転したことは,地方自治法4条1項所定の事務所の位置の変更には当たらないから,同項に違反する旨の原告らの主張は採用することができない。
地方自治法4条2項違反の有無について
上記

のとおり,βビルへの部局の移転は,地方自治法4条1項所定の事務所の位置の変更には当たらない。したがって,同条2項違反を主張する原告らの主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。東日本大震災以後,βビルへの部局の移転を中断すべきであったか否かについて

原告らは,本件移転費用の支出のうち,東日本大震災発生後に行われた移転に係る部分については,βビルの耐震性や安全性に関する不安が明らかになったにもかかわらず,βビルの安全性を確認せずに移転を実行したものであるから,違法である旨主張する。
しかし,証拠(乙25)によれば,大阪府は,平成23年3月18日,βビルの既存鉄骨溶接部への上記地震による影響を調査するため,専門業者による外観検査及び超音波探傷検査を行ったところ,外観上は割れや破断等はなく,超音波検査による欠陥も認められなかったことが認められる。このように,大阪府庁舎の部局の移転は,東日本大震災後にβビルの安全性が確認された上で行われたものであるから,違法であるとはいえない。


また,原告らは,本件専門家会議は約1か月半の期間でβビルの耐震性に大きな問題があることを明らかにしたのであるから,
大阪府においても,
東日本大震災直後に本件専門家会議が行ったような検討を行い,より早い時期に上記地震後の部局の移転を中止することができた旨主張する。しかし,前記前提事実

及び証拠(乙3,18の1,18の6)によれ

ば,本件専門家会議は平成23年5月13日に公表された大阪府検証結果の内容を精査し,検討を深めるために開催された会議であること,上記検証結果においては,オイルダンパー,非常用発電機,津波防御壁等を設置することにより対応が可能である旨の結果が示されていたところ,本件専門家会議において,上記地震を踏まえて検討用地震動を再検討する必要があるなどの指摘がされたことが認められる。以上のとおり,本件専門家会議は,大阪府検証結果を前提として,これを検討する中でβビルの耐震性等に関する問題点を指摘したのであるから,本件専門家会議の開催期間をもって,同会議と同じ結果をより早い時期に得ることができたとはいえない。原告らの上記主張は採用することができない。
本件調度品及び本件IP電話の購入の適否について

本件調度品について
認定事実
掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
a
本件応接室は,
βビル50階にある収容人数12人の応接室であり,
次長級以上が対応する特別職,外国要人来賓,表敬訪問等の外部応接又は会議の使用に用いることとされており,本件調度品が設置されている(甲44,46,乙53,54)。

b
本件調度品は,アームチェア12台(単価28万円,合計336万円),センターテーブル2台(単価24万5000円)及びサイドテーブル6台(単価12万5000円)であり,購入に際して用いられた仕様書は,別紙3のとおりである(甲44)。
本件調度品が不必要であったか否かについて
原告らは,η庁舎に「正庁の間」という迎賓応接室があるから,βビ
ル(κ庁舎)に迎賓応接室を設ける必要はなく,本件調度品は不必要であったとして,これに係る支出は違法である旨主張する。
しかし,証拠(乙55,56)によれば,正庁の間は,かつては式典等に用いられていたものの,βビルへの移転前の時点では執務室として用いられていたことが認められ(なお,「正庁の間」は,復元工事を経て平成24年1月25日から一部一般公開されている(甲50)。),βビルへの移転前の時点において,迎賓応接室として利用し得る状態であったとは認められない。したがって,原告らの上記主張は,その前提を誤るものであって,採用することができない。
また,原告らは,βビルに迎賓応接室を設けるとしても,正庁の間の備品を移転させれば足りたから,本件調度品は不必要であったとも主張するが,当時,正庁の間は執務室として用いられていたのであり,本件調度品に代わり得るような備品があったとは認められない。原告らの主張は採用することができない。
なお,原告らは,βビルの迎賓応接室の利用実績が乏しいとして,本件調度品は不必要であったとも主張するが,証拠(甲47~49,乙54)によれば,本件応接室は,平成23年4月から平成26年3月までの間,おおむね月に1度以上,外国の大使や公使等の表敬訪問,各種の会議や式典等に利用されており,迎賓応接室としての性質(上記認定事実a)をも考慮すると,迎賓応接室やその備品が全く不必要であるというほどにその利用実績が乏しいとはいえない。
本件調度品が不当に高額か否かについて
原告らは,
本件調度品の購入の際には一般競争入札が行われているが,
入札時の仕様に記載されている素材や参考品番自体が不当に豪奢なものであるし,購入金額も不当に高額であるから,本件調度品の購入は違法である旨主張する。
しかし,本件調度品は本件応接室に設置される目的で購入されたものであるところ,上記認定事実aで認定した本件応接室の使用目的等に照らすと,本件調度品の単価(上記認定事実b)が違法と評価されるほどに高額であるとはいえないし,その素材等が違法と評価されるほどに豪奢であるともいえない。

本件IP電話について
認定事実
掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
a
大阪府は,η庁舎とβビルとの間の連携確保を目的とし,βビルに移転した部局を訪ねてη庁舎を訪れた住民への案内等に活用するため,35台の本件IP電話を購入し,これをη庁舎(本館・別館)とβビルに設置した(甲51,53,乙58)。

b
本件IP電話は,NTT西日本製のIPテレビ電話であり,購入時の単価は6万6471.43円であり,一般の販売価格は7万9800円(消費税を除く。)である(甲51,乙59)。
本件IP電話が不必要であったか否かについて

a
上記認定事実のとおり,本件IP電話は,η庁舎とβビルとの間の連携確保を目的とするものであり,その必要性は十分に明らかであるし,その手段としてIPテレビ電話を利用することが不適当であるともいえない。また,他の地方公共団体においても,異なる庁舎間の意思疎通のためIPテレビ電話が利用された例があること(乙57)に照らしても,本件IP電話が不必要であったとはいえない。

b
これに対し,原告らは,本件IP電話の設置状況(甲53)に照らせば,部局間の平板な連絡等の利用にとどまっていると推測され,そのような用途に本件IP電話は必要ない旨主張する。
しかし,たとい部局間の連絡等の利用にとどまっているからといって,直ちに本件IP電話の購入が違法となるものではない。また,実際の利用件数が少ないからといって,その購入が違法になるというものではないし,平成23年度以降,本件IP電話につき一定数の利用実績があることがうかがわれる(弁論の全趣旨)。原告らの上記主張は採用することができない。
本件IP電話が不当に高額か否かについて
原告らは,本件IP電話は一般競争入札の方法によって購入されてい
るが,1台約7万円もする通信機器は高価にすぎ,地方財政法4条1項に反する旨主張する。
しかし,本件IP電話の購入に当たっては,高額になりやすい随意契約ではなく,一般競争入札の方法が用いられているのであって,競争原理に基づく適正な価格が設定されたものと推認されるし,実際に,大阪府は,
本件IP電話を一般の販売価格よりも低い価格で購入している
(上
記認定事実b)。したがって,本件IP電話が不当に高額であるとはいえず,原告らの上記主張は採用することができない。

小括
以上のとおり,本件調度品及び本件IP電話の各購入契約の締結につき違法な点は認められない。また,その余の備品の購入費用の支出についても違法な点は認められない。
まとめ
以上のとおり,本件移転費用の支出に違法な点があるとは認められない
4
結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官

山田明
裁判官

徳地

裁判官

岩佐圭祐
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