判例検索β > 平成29年(わ)第629号
窃盗
事件番号平成29(わ)629
事件名窃盗
裁判年月日平成29年12月18日
法廷名福岡地方裁判所
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平成29年12月18日宣告
平成29年(わ)第629号,第725号,第849号


窃盗被告事件


被告人を懲役2年に処する
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

被告人の長女(当時14歳)と共謀の上,平成29年1月14日,福岡市a
区bc丁目d番e号のA店において,刑事未成年者である被告人の次女(当時10歳)に指示し,同女をして同店店長B管理に係るランドセル1個(販売価格3万556円)を携帯させて未精算のまま同店から持ち出させ,これを窃取し第2

平成29年4月1日,福岡市f区gh丁目i番j号のC店において,刑事未成
年者である被告人の次女(当時10歳)に指示し,同人をして同店店長D管理に係るアイスクリーム1点(販売価格238円)を携帯させて未精算のまま同店から持ち出させ,これを窃取し
第3

平成29年4月23日,前記C店において,刑事未成年者である被告人の次
女(当時10歳)に指示し,同人をして同店店長D管理に係る餃子の皮1点(販売価格89円)を携帯させて未精算のまま同店から持ち出させ,これを窃取したものである。
(事実認定の補足説明)
第1

争点

被告人は,判示各事実について,いずれも被告人の次女(以下,単に「次女」と記載する。また被告人の長女は「長女」と,被告人の長男は「長男」と記載する。)
が商品を店から持ち出したことは間違いないが,被告人が指示したことはないと供述し,弁護人は,これに基づき,判示各事実についていずれも被告人に窃盗罪は成立せず,無罪であると主張する。
第2
1
次女の供述について
供述の要旨

次女は,判示第1ないし第3のいずれにおいても,被告人の言動から,万引きの指示が出ていると理解して,本当はやりたくなかったが,被告人から怒られたりしたくなかったので,その指示に従って万引きをした旨供述している。そこで以下,その信用性を検討する。
2
本件以前の状況

次女及び長女は,本件以前から,被告人と,近所のスーパーなどに行くと,被告人が商品を指さしたり,元にあった場所から移動させて別の場所に置いたりするので,その商品を万引きしていた,指示されたとおり万引きしないと被告人に怒られたり,
髪の毛を引っ張られたりしたなどと互いに一致する供述をしている。長女は,
本件に先立つ平成28年1月に別件で事情聴取された際にも,店の商品をもらってくるようにとの指示に従わなかったところ,被告人から怒られ髪の毛を引っ張られたことがあり,それ以来,被告人からもらってきてと言われた時には,お金を支払わずにその商品をもらってくるようになったなどと供述していたのであり,万引きをしないと被告人から髪の毛を引っ張られるなどされるという核心部分で一貫しており,その供述の信用性は高いのであり,これと符合する次女の前記供述の信用性も高い。
3
判示第1の1月14日A店での状況
次女がランドセルを持ち出す際に,被告人の関与があったと供述している場
面は,次のように防犯カメラの画像・映像などほかの証拠と内容が符合している。ア
次女は,一人で3階のランドセルコーナーに行き,ランドセル1個を持ち出
し被告人に見せたが,被告人が気に入らなかったので,一緒にランドセルコーナーに行くと,被告人が紺色のランドセルを指さすなどしたので,最初持っていたランドセルを置いていき,新たに紺色のランドセルを持って被告人の後ろに付いて行ったと供述するが,
防犯カメラの画像にはこれに沿う状況が記録されている。
この点,
長女も,次女を含めた三人で一緒にいるときに,被告人がランドセルの一つを指さしてこれと言って,ランドセルを持ち出すことになったなどと次女の供述に沿う供述をしている。長女は,その時の記憶は他の店の時の状況と混同しているかもしれないし,あまり思い出したくないことだから記憶が途切れ途切れになっているとしているものの,ランドセルが大きいこともあり,無理かもしれないが,やらないと被告人から怒られるなどと次女と話した記憶があると,被告人の指示の存在に関して具体的な供述をしており,前記次女の供述の信用性を高めるものといえる。イ
次女は,
万引きしたくなかったので,
長女にランドセルを戻すよう頼んだが,

その後,被告人からなぜ置いてきたのかと怒られたので,急いで,紺色のランドセルを取りに行き,被告人のところに戻ったと供述しているが,防犯カメラの画像には,長女がランドセルを一人で持ってきて陳列棚に戻した場面,その後,次女が一人で陳列棚に来て,2段目から紺色のランドセルを取り出し,持ったまま立ち去った場面が記録されており,これを裏付けている。

次女は,1階で清算をしていないランドセルを手に持ち,お店を出る際,一
緒にいた被告人からあっちから出てと言われて,長女と一緒に被告人とは違う出入口から出て,その後,駐車場で合流したと供述するが,防犯カメラの画像・映像には,被告人,長女,ランドセルを持った次女,長男は1階において同じ方向へと歩いていたが,被告人が右手で,これまで歩いてきた方向を指すような動作をしたことをきっかけに,長女及び次女は,その方向へと戻り,被告人及び長男とは逆方向に歩いていき,出入口から出て行った場面が記録されており,この供述を裏付けている。
以上からすれば,次女の

供述の信用性は高く,ア)次女がランド

セルを持ち出すに至ったきっかけが被告人の指さしという行為であったこと,イ)次女は一度万引きをやめようとしたのに,被告人から怒られて再度ランドセルを手に取るに至っていること,ウ)ランドセルを持った次女がどのように店外に出ていくかについて被告人の指示があったことが認められ,前記2の本件以前の状況も加味すれば,次女は,被告人の指示に従って,ランドセルを店外に持ち出したといえる。
4
判示第2の4月1日C店での状況
次女がアイスクリーム(以下「アイス」と記載する)を持ち去る際に,被告
人の関与があったと供述している場面は,次のように防犯カメラの画像・映像と内容が符合している。

次女は,C店に被告人と一緒に行くと,アイスコーナーで,次女の手が届か
ない上の棚から,
被告人が四角い箱に入ったアイスを手に取って,
これねと言って,
そのアイスを下の棚に置き換えて先に進んだので,このアイスを万引きしなければならないと思ったと供述しているところ,
防犯カメラの画像・映像には,
被告人が,
アイスコーナーで商品が入った上段の冷凍食品陳列棚を開け,選ぶような動作をした上,次女の方をいったん見てから,箱型のアイスを手に取り,下の陳列棚に落としてその場を立ち去ると,すぐに次女が,被告人が落としたアイスを手に持ち,被告人を追いかけて行く場面が記録されている。

次女は,アイスを右手に持って,被告人の後ろに付いて行き,レジの近くま
で行って,被告人がレジでお金を払ったくらいの時に,お金を払った後にかごを置く台のところへ移動した,被告人にアイスを渡すとビニール袋に入れてと言われたので,アイスをビニール袋に入れて被告人に渡したと供述しているところ,防犯カメラの画像・映像によると,次女がアイスを手に持ったまま,レジで清算している被告人に近づき,さらに被告人がサッカー台に移動したのにも付いて行き,精算をしないままのアイスを被告人が購入した商品のすぐそばに置いたこと,被告人が精算した商品を袋詰めなどし,次女と共にサッカー台を立ち去ると,アイスがサッカー台の上からなくなっていることが認められ,次女の供述を裏付けている。各供述の信用性は高く,前記2の本件以前
の状況も加味すれば,
たとえ明示的に持ち出すようにとの指示がなかったとしても,
被告人が,アイスを元にあった場所から移動させて置くことが,これを持ち出してくるようにとの次女に対する指示になっており,その指示に次女が従ったと認めることができる。
5
判示第3の4月23日C店での状況
次女が餃子の皮1袋を持ち去る際に,被告人の関与があったと供述している
場面は,次のように防犯カメラの画像・映像と内容が符合している。ア
次女は,C店に一緒に行った被告人からうどん1袋と餃子の皮1袋を買うよ
うに言われ,うどん1袋と被告人に取ってもらった餃子の皮1袋とを手に取ってレジに向かったが,20円しか被告人から渡されておらず,餃子の皮は買えないことが分かったので途中で置いてきて,うどんだけを買ったと供述しているが,防犯カメラの画像・映像には,次女が,冷蔵食品陳列棚でうどん1袋を手に取り被告人に見せた後,被告人の手により同棚のうどんの陳列場所より上にあった餃子の皮1袋が同棚の下の部分へと置かれると,これを手に取って,被告人の後ろに付いて行った場面,次女が,一人で,餃子の皮1袋を商品の棚に置いてからレジに向かい,うどん1袋のみを購入した場面が記録されている。

次女は,被告人にうどんを買ったことを伝えて,餃子の皮はどうするのか聞
くと,うどんを買った袋に入れてもらうようになどと言われ,餃子の皮1袋をうどんを買ったビニール袋に入れて,お金を払わずにそのまま店の外に出たと供述しているが,防犯カメラの画像・映像によれば,次女が,うどんを購入した後,冷蔵食品陳列棚から餃子の皮1袋を手に取り,これを持ったまま店内を歩いて行き,被告人と会っていること,その後,被告人が一人でレジ付近で店員に話しかけている間に,次女は,持っていた手提げ袋やビニール袋を動かす動作をし,その結果,次女はその肩に手提げ袋がかかっているだけで,手には何も持っていない状態になったことが認められる。
各供述の信用性は高く,前記2の本件以前
の状況も加味すれば,まず,被告人が,餃子の皮1袋を元にあった場所から移動させて置くことが,
これを持ち出してくるようにとの次女に対する指示になっており,その後の餃子の皮を購入したうどんが入った袋に入れてもらうようにとの発言も,同内容の指示であり,これらの指示に次女が従ったと認めることができる。第3
1
被告人の供述について
被告人は,本件以前の状況について,次女や長女に対して商品を移動させる
などして暗に万引きを指示したことや,次女や長女がその指示に従わないときに暴力をふるったことはないと供述し,このような内容を次女や長女が供述している理由については,次女は母親である被告人のせいにすれば許されると思ったのではないか,長女はあえてうそを言って被告人を困らせるという子供ながらのSOSなのかもしれないなどと述べている。しかしながら,これらは被告人の推測に過ぎないものであって,前記検討のとおり,信用性の高い次女及び長女の供述を揺るがすものではない。
2
被告人は,判示第1について,その日はA店にランドセルを下見に行っただ
けで,次女らにも買わないという話をしていたのに,次女がエスカレーターのところにランドセルを持ってきていて,どうしたのと聞いても,もらったと答えるだけで,それ以上理由は追及しなかったなどと供述する。
しかしながら,ランドセルは相応に高額なものなのであり,第三者からもらうということは想定できないところ,被告人は,次女を追及しなかった理由について子供を信用したい部分があった,次女が荒れるかもしれないから追及できなかったなどと曖昧な説明にとどまっている。また,被告人は,当時家から現金2,3万円がなくなったから,これを購入するのに使ったのかもなどと頭の中で結び付けていたのかもしれないなどとも説明しているが,かかる供述は公判廷において初めてされたものである上,もし被告人が述べるとおり頭の中で結び付けていたら,家にあったお金を使って買ったのではないかと次女を追及するのが自然であるのにこれをしたことはうかがえないのであって,およそ信用できない。
3
被告人は,判示第2について,次女から,お母さんがいつも食べているアイ
スはどれというようなことを聞かれて,教えたことはあった,次女がアイスを手にしていることに気付いたのは,レジを過ぎて以降であったなどと供述する。しかしながら,前記のとおり,防犯カメラの画像・映像によれば,被告人が,次女のほうをわざわざ見て,次女が近寄ってくると,その目の前で冷凍食品陳列棚をあけて,手にアイスを取って意識的に下の棚に置いていることが認められるのであり,被告人は,この行動について合理的に説明できていない。また,被告人は,レジで精算のために並んでいる際に,アイスをむき出しのまま手に持っている次女の方向を見ている場面が認められるのであって,レジを通過するまで次女が持ってきたアイスの存在に気付かなかったという被告人の供述も不合理である。4
被告人は,判示第3について,計算の練習のため次女に買い物をさせること
にしたが,頼んだのはうどんだけで,餃子の皮については何も言っていない,家に帰ったらいつの間にか餃子の皮が買い物袋の中に入っていたなどと供述する。しかしながら,前記のとおり防犯カメラの画像・映像から,被告人自身が次女の目の前で餃子の皮の陳列場所を移動していること,次女が,うどんの清算を終えた後に,餃子の皮を隠すことなく手に持った状態で被告人に会っていたことが認められるのであって,被告人の供述は客観的状況に明らかに反しており信用することはできない。
5
第4
1
以上のとおりであり,被告人の前記各供述は信用することができない。結論
以上の検討のとおり,信用性の高い次女の供述及びこれと符合する各店舗に
設置された防犯カメラの画像・映像等からすれば,本件以前より,被告人が,次女に対して商品の万引きについての黙示的なものも含めた指示をしており,これに従わなければ髪の毛を引っ張るなどの暴行を加えていたという状況があり,判示第1ないし判示第3の各犯行においても,被告人が,持ち出すものを指示し,次女が,万引きをしなければ前記のような暴行を加えられるかもしれないとの思いから,その指示に従って商品を持ち出したことが認められる。
2
そして,次女が本件各犯行時10歳であって,その是非弁別能力には限界が
あること,各犯行当時,次女と同居していた大人は被告人のみで,生活をしていくためにはその意向に従わざるを得なかった状況にあったことも加味すれば,母親である被告人が次女を利用して自己の犯罪として各犯行を実現したと認められる。また,判示第1については,前記第2の3のとおり,被告人が長女及び次女の目の前でランドセルの持ち出しを指示したことが認められるところ,長女はこの指示に従って,被告人がレジで別の商品を購入している間に,ランドセルを手に持って清算することなく通過していることからすれば,長女と被告人との間の共謀が認められる。そして,長女は当時14歳であり,犯行時においても,自身の判断でランドセルについていた盗難防止の鈴を外すなどその場の状況に応じた行動をしていることからすれば,被告人と長女との間では間接正犯ではなく,共同正犯が成立するといえる。
3
よって,各判示記載のとおりの事実を認定した。

(法令の適用)


判示第1

刑法60条,刑法235条

判示第2,第3

刑法235条

刑種の選択

いずれも懲役刑を選択

併合罪加重

刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判
示第1の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数

刑法21条

刑の執行猶予

刑法25条1項

訴訟費用

刑訴法181条1項ただし書(不負担)

(量刑の理由)
被告人は,自らの手によることなく,次女を指示に従わせて各窃盗を実現しているのであって,その手段は卑劣というしかない。判示第1についての被害額は約3万円と高く,判示第2及び第3については,被害額自体は低いものの,同一店舗で行われたものであって,与えた影響は小さくない。被告人は,同種事犯を3件繰り返しているのであるが,陳列棚における場所を移すことで持ち出させる商品を黙示的に指示するなど手口が手慣れており,常習性が認められる。また,被告人は,自らの指示の有無について,不合理な弁解をしているのであって,規範意識の低下がうかがえる。
以上からすれば被告人の刑事責任は決して軽くない。
しかしながら,判示第1について被告人の実母の援助を受け全額について弁償していること,判示第3について被害弁償したこと,被告人には前科がないこと,身柄拘束期間が長期に及んでいることなど,被告人のために酌むべき事情が認められる。
そこで,以上の事情を総合考慮して,今回に限り,刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑・懲役2年)
平成29年12月26日
福岡地方裁判所第3刑事部

裁判官

川孝史
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