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債務不存在確認請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10081
事件名債務不存在確認請求控訴事件
裁判年月日平成29年12月25日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)25969
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平成29年12月25日判決言渡
平成29年(ネ)第10081号

債務不存在確認請求控訴事件(原審:東京地方裁

判所・平成28年(ワ)第25969号)
口頭弁論終結日

平成29年11月27日
判控訴人
同訴訟代理人弁護士


オリオン電機株式会社

小倉秀夫
合併前会社ワイラン・インク訴訟承継人
被控訴人
クォーターヒル・インク

同訴訟代理人弁護士

田中
伸一郎

同佐竹勝一同山本飛翔主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人が控訴人に対し米国特許第6359654号に係る米国特許権(以下「本件米国特許権」という。)の侵害による損害賠償請求権を有しないこと
を確認する。
第2
1
事案の概要(略語は原則として原判決の例による。)
本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人に本件米国特許権侵害に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求める事案である。被控訴人は,本件訴えにつき,日本の裁判所は国際裁判管轄を有しないとして争っている。
原審は,本件訴えにつき,日本の裁判所に国際裁判管轄があるとは認められないし,その点を措くとしても,民事訴訟法(以下,単に「民訴法」という。)3条の9にいう「特別の事情」があるとして,本件訴えを却下する判決をした。そこで,控訴人は,これを不服として,本件控訴を提起した。
2
前提事実
以下のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」第2,1に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決2頁11行目から12行目にかけての「連邦裁判所」を「連邦地方裁判所」に改める。
原判決2頁18行目冒頭から19行目末尾までを「本件の口頭弁論終結時において,控訴人にも別件米国訴訟の訴状が送達されており,共同被告である控訴人ら全員との関係で同訴訟が係属している(弁論の全趣旨)。」と改める。
3
争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点及びこれに対する当事者の主張は,原判決6頁22行目の「デラウェア」の後に「地区」を加え,後記4のとおり,当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2,2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。

4
当審における当事者の補充主張

(1)争点1(国際裁判管轄の有無)について
(控訴人の主張)

民訴法3条の3第8号に基づく管轄について
米国特許法では,米国国外での製造,販売行為が米国国内での直接侵害をもたらす場合は,積極的誘因行為として米国特許権を侵害するとされている。
別件米国訴訟の訴状においても,控訴人による積極的誘因行為を主張しているかのような記載があり,別件米国訴訟の対象行為が米国国内における製造,販売,販売の申出,米国への輸入に限定されているとはいえない。そして,控訴人は,米国国内に拠点を有しておらず,米国国内でこれらの行為を行うことはあり得ないのであるから,別件米国訴訟においては,控訴人の日本国内での行為が本件米国特許権の侵害行為に該当すると主張されていると理解することは正当である。
被控訴人は,「不法行為があった地」とは,日本法の下での不法行為があった地と解すべきであると主張するが,出訴裁判所に国際裁判管轄があることが決まった後に当該法廷地国の準拠法ルールに基づいて準拠法が定まることからすると,この被控訴人の主張は誤りである。


民訴法3条の3第3号に基づく管轄について
消極的確認訴訟については,平成23年の民訴法改正においても国際裁判管轄について明示的なルールが定められたとまでは言い切れず,条理に基づいて判断する必要がある。そして,積極的給付請求訴訟について日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる場合,それに対応する消極的確認訴訟について日本の裁判所に国際裁判管轄が認められたとしても,権利者の予測可能性を別段害しているとはいえないこと,国内管轄に関するもので
あるが,消極的確認訴訟にも民訴法5条9号が適用される旨の最高裁判例(最高裁平成16年4月8日第一小法廷決定・民集58巻4号825頁)があることに鑑みると,積極的給付請求訴訟について民訴法3条の3各号により日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる場合には,それに対応する消極的確認訴訟についても,同号の適用又は類推適用,もしくは条理に基づき,日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるべきである。
そして,民訴法3条の3第3号の趣旨は,日本に生活の本拠を有しない者に対する権利の実行を容易にすることだけに限定されるわけではないから,金銭債権の被疑債務者が日本に生活の本拠を有していない場合にのみ援用可能な規定ではない。被疑金銭債務者が,日本国内で執行可能な債務名義を取得されないという地位を確保し,日本国内にある自己の財産を守るためにも,同号の規定に基づいて,日本の裁判所に金銭債務の不存在確認請求訴訟を提起することは許されるべきである。
(被控訴人の主張)

民訴法3条の3第8号に基づく管轄について
被控訴人は,別件米国訴訟においても,それ以外の場においても,日本国内における控訴人の行為を,本件米国特許権侵害の対象行為とするという主張はしていない。
別件米国訴訟の訴状には,本件米国特許権を侵害する不法行為が日本国内で行われたと主張する記載も,そのような主張をしていると解される記載もない。訴訟の対象は米国内の行為に限定されていないなどといった控訴人の主張は,別件米国訴訟において,被控訴人からそのような主張がされる可能性があるという抽象的可能性を指摘するだけのものであり,それを根拠として不法行為地が日本であったと認定されるべきではない。
日本国内における控訴人の行為が,米国特許法271条(b)が定める積極的誘因行為に該当するという主張がされているとしても,日本法上,かかる行為は適法とされているから,このような行為が「加害行為」であるとして,日本を民訴法3条の3第8号が定める「不法行為があった地」とすることは,日本法の解釈としてできない。
したがって,日本の裁判所は,民訴法3条の3第8号に基づく管轄を有しない。

民訴法3条の3第3号に基づく管轄について
民訴法3条の3第3号が,訴えが金銭の支払を請求するものである場合に,差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるときに日本の裁判所に管轄を認めた趣旨は,債権者である原告が債務名義を得てその財産に対し強制執行をすることができるようにするのが相当であると考えられることにある。金銭債権の債務不存在確認請求訴訟においては,債権者である被告から債務者である原告に対し債務名義に基づく強制執行という事態は生じ得ず,上記の趣旨は当てはまらないから,同号は適用されず,類推適用もされるべきではない。

(2)争点2(「特別の事情」による却下の可否)について
(被控訴人の主張)
本件訴訟の訴訟物は,米国特許権の侵害に基づく損害賠償請求権であるから,米国国内において流通する控訴人製品の構成,控訴人製品の本件米国特許権に係る発明への技術的範囲の属否及び本件米国特許権の有効性等といった事項が主な争点になることは明らかである。
米国国内で事業活動を行っていた主体が誰か,損害賠償義務を負うべき者は誰か,債務を負わない旨の登記上の記載の存在・有無等がどのように考慮
されるかは米国の賠償法上の問題であるから,控訴人が主張するところは本件訴訟の本案審理における主たる争点ではないし,日本で審理することが相当な事項であるということもできない。
(控訴人の主張)
本件において想定される争点は,①

控訴人が「オリオン電機」の商号を

譲り受けた後,被控訴人の特許権に係る被疑侵害商品に関し,控訴人が米国国内又はデラウェア地区内で事業活動を営んでいたのか否か,②
当該事業

活動を営んでいたのが上記商号の譲渡人のみであった場合,その損害賠償義務を控訴人が承継するのか否かである。
米国国内において流通する控訴人製品の構成,控訴人製品の本件米国特許権に係る発明への技術的範囲の属否及び本件米国特許権の有効性等といった事項が争点となるのは,上記①及び②の各争点について具体的な主張,立証がされた後である。それにも拘わらず,米国国内において流通する控訴人製品の構成,本件米国特許権に係る発明への技術的範囲の属否及び本件米国特許権の有効性などの事項が争点となることを重視すると,米国の裁判所に特許権侵害訴訟が提起されてしまうと,米国国内で事業活動を営んでいたことが具体的に主張,立証されなくとも,米国で高額な弁護士報酬を負担してこれに対抗するか,十分な応訴ができず巨額の賠償金の支払を命じられるか,という究極の選択を純粋な国内企業が迫られることになるが,これこそが当事者間の衡平を害するものというべきである。
なお,事業譲渡の際に債務を負わない旨の登記上の記載がどのような効果を有するのかは,事業譲渡という法律行為の効力に関するものであるから,当事者による準拠法の選択がないときは,最密接関係地法が準拠法となる。旧オリオン電機も控訴人も,日本国内において設立された会社であり,本件
事業譲渡に関してその時点で最も密接に関連する地は日本であるから,その効力については日本法が準拠法となる。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,原審と同様に,本件訴えを却下すべきと判断する。その理由は以下のとおりである。

2
事実認定
前記前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)当事者等
控訴人は,平成26年12月26日に設立された,電気機械器具の研究及び開発,電気機械器具の製造販売等を目的とする株式会社(資本金の額は1億2500万円)である。控訴人は,平成27年3月31日,旧オリオン電機から商号及び事業を譲り受け,その後,譲渡会社である旧オリオン電機の債務を弁済する責任を負わない旨の登記をした。(弁論の全趣旨)控訴人は,現在,本店所在地に本社を構えているほか,少なくとも,大阪市内及び台湾台北市内に事務所を設けている(なお,登記記録上,東京都港区内に支店を設けている。)。また,生産拠点として,タイ王国に関連会社の工場を有し,液晶テレビ,LEDテレビ等を製造している。(弁論の全趣旨)
別件米国訴訟の共同被告であるSANSUI
c.及びORION

AMERICA,In

AMERICA,Inc.は,それぞれデラウェア州

法及びイリノイ州法に基づいて設立された法人である(甲1)。ORIONAMERICA,Inc.は,旧オリオン電機の製品を米国において販売する目的で設立された(弁論の全趣旨)。

被控訴人は,カナダ法人であり,日本国内に支店や営業所等を有していない。(弁論の全趣旨)
(2)別件米国訴訟
合併前会社ワイラン・インクは,平成28年1月15日,米国デラウェア地区連邦地方裁判所に対し,控訴人らを相手方として,控訴人らによる控訴人製品の販売等が本件米国特許権を侵害する行為であるとして,損害賠償及び上記行為の差止め等を求める別件米国訴訟を提起した。
別件米国訴訟の訴状は,控訴人を含む共同被告全員に送達済みであり,先に送達を受けていたSANSUI
N
AMERICA,Inc.及びORIO

AMERICA,Inc.との関係では,既に審理が進められている。
(弁論の全趣旨)
被控訴人は,別件米国訴訟の訴状において,以下の主張をしている。(甲1)
「17.

…被告(注:共同被告全員の総称である。以下同じ。)は訴訟対象
の特許が取り扱う基盤技術を組み込んでいるディスプレイ製品を米国内で製造し,使用し,使用されるようにし,売り出し,販売しており,米国に輸入している(またはいずれか1つ)。…特許を侵害しているディスプレイ製品はデジタルTVを含む。一例として,原告は訴訟対象の1つ以上の特許を侵害している製品としてSansui

SLED3900およびSansui

SLED6520というデジタルTVを確認している。」
「18.

訴訟対象の特許が取り扱う基礎的な発明を組み込むことにより,被
告はノンインタレースのディスプレイにおけるインタレース動画の精密な表示を含む(ただしこれに限定されない)各種機能を有する改良された製品を製造することができる。」

「19.

…被告は本地区を含めて米国でオリオン電機ならびに第三者の製造
業者,販売店,および輸入業者(またはいずれか1つ)により製造される,使用される,使用されるようにしている,売り出される,販売される,または米国に輸入される特許を侵害しているディスプレイ製品を購入している。」
「24.

…被告は,文言上の侵害か均等論による侵害かを問わず,合衆国法
典第35編第271(a)条に基づいて直接654号特許(注:本件米国特許権。以下同じ。)を過去も現在も侵害しており,合衆国法典第35編第271(b)条に基づく明確な意図のもとでの誘発により間接的に同特許を過去も現在も侵害している(またはいずれか一方)。」
「28.

…被告は,合衆国法典第271(b)条(注:原文ママ)に基づい
て,第三者の製造業者,販売店,輸入業者,および消費者(またはいずれか1つ)が654号特許の1つ以上の請求範囲に直接侵害するよう積極的に仕向けた。…被告は,とりわけディスプレイ製品の特許を侵害する使用を促進する広告を作成する,これらの製品を米国内に入れるためおよび米国内で扱うため定着した流通経路を作り出す,これらの製品を購入する,米国の法規制に従ってこれらの製品を製造する,これらの製品を保証する,これらの製品向けに利用可能な説明書かマニュアルを購入者および見込み購買者に配布もしくは作成する,ならびにこれらの製品向けの技術サポート,交換部品,もしくはサービスを米国のこれらの購買者に提供することによって,侵害を誘発するための積極的な措置を講じてきた。」
「42.

原告は,当該裁判所が自身に有利で被告に不利な判決を下すこと,
および当該裁判所が原告に以下の救済を与えることを丁重に要求する。A.

直接か間接かを問わずかかる特許の侵害の誘発を介して被告が本書
で主張されている通り訴訟対象の特許に侵害したという判決
B.

被告により侵害行為の結果として原告が被ったすべての損害の賠償
金を計算する判決

D.

被告…が合衆国法典第35編第283条に基づく訴訟対象の特許の
直接または間接的な侵害を禁止する恒久的差し止め命令」
なお,別件米国訴訟の訴状において,「日本」又は日本国内の地名が明示されている箇所は,控訴人の主たる事業所の住所地及び控訴人が日本の法律に基づいて設立された法人であると指摘する部分のみである。
3
検討
(1)2,(2)において認定した別件米国訴訟の訴状によると,被控訴人は,別件米国訴訟において,控訴人らが米国国内で控訴人製品を製造,販売することなどにより,
本件米国特許権を侵害
(文言侵害及び均等侵害)
するとともに,
いわゆる積極的誘因行為を行うことにより本件米国特許権を侵害していると主張しているものであるところ,その中で問題にされているのは,あくまでも,控訴人らによる米国国内における行為であって,日本国内における行為ではないことが認められる。このことは,原判決8頁15行目冒頭から同9頁15行目末尾までに記載のとおりであるから,これを引用する。控訴人は,米国国内に拠点を有しない控訴人が,米国国内において本件米国特許権の侵害行為を行うことはあり得ないから,別件米国訴訟において問題にされているのは控訴人の日本国内における行為であるとしか考えられないという趣旨の主張をするが,別件米国訴訟の訴状の記載が,控訴人の米国国内における行為を問題としているものと認められることは既に指摘したとおりである。控訴人の主張は,本案において審理判断されるべき事柄の結論
を先取りするものに等しく,採用することはできない。
また,民訴法3条の3第8号に基づく管轄権が認められるかどうかは,あくまでも,訴え提起時(なお,管轄権違いの治癒が問題となる場合には,口頭弁論終結時を含む。)を基準として判断されるべきものであるから,仮に将来において,控訴人の日本国内における行為が問題にされる可能性が完全には排除されていないとしても,現状において,控訴人の日本国内における行為が問題にされているとは認められない以上,同号に基づく管轄権を肯定することはできないものといわざるを得ない。
(2)控訴人は,民訴法3条の3第3号に基づく管轄権の存在も主張する。そして,同号に基づき,いわゆる消極的確認の訴えの管轄権が認められるかどうかは議論の余地があり得るところであるが,仮に同号所定の管轄権を認めることができるとしても,
本件においては,
同法3条の9にいう
「特別の事情」
が存するものと認められるから,結局のところ,日本の裁判所の管轄権を肯定することはできない。その理由は,次のとおりである。

本件は,被控訴人が控訴人に対して主張する本件米国特許権侵害に基づく損害賠償請求権の不存在確認を求めるものであるところ,消極的確認訴訟という訴訟の性質上,その争点や,取り調べるべき証拠等は,積極的給付請求訴訟である損害賠償請求訴訟のそれと同一になるものと考えられる。
そして,積極的給付請求訴訟である別件米国訴訟の訴状の記載に照らすと,被控訴人は,控訴人らが控訴人製品を米国国内で製造,販売することなどにより本件米国特許権を侵害(文言侵害及び均等侵害)している上,いわゆる積極的誘因行為により本件米国特許権を侵害しているとして,控訴人に対し損害賠償を求めていると認められることは既に認定したとおり
である。そうすると,本件訴訟の本案審理においては,米国国内において流通する控訴人製品の構成,本件米国特許権に係る発明の技術的範囲に属するか否か(文言侵害及び均等侵害),本件米国特許権の有効性,積極的誘因行為該当性,被控訴人に生じた損害の額といった特許権侵害訴訟における典型的な争点が主たる争点となり,また,その前提として,控訴人が控訴人製品を米国国内で製造,販売したり,積極的誘因行為(に当たるべき具体的行為)を行ったかどうか(この中には,旧オリオン電機ではなく,控訴人自身が行った行為も当然に含まれる。)が争点となることが当然に予想される。そして,これらの各争点を判断するに当たって証拠となるであろう被疑侵害品である控訴人製品,これらの製造,流通,保守等に関する資料,被控訴人の損害額算定の基礎となる資料などは主に米国に所在することが当然に予想されるのであるから,証拠調べの便宜等の観点から見て,日本の裁判所での審理には阻害事由が存することは否定することができないところである。
そして,別件米国訴訟が既に提起されている以上,日本の裁判所で本件訴訟を審理判断することは,米国,日本の2つの裁判所において実質的には同一の訴訟を審理判断するという無駄を生じるものである上,日本国内に支店や営業所等を有していないカナダ法人である被控訴人にとっても,このような二重の訴訟に対応しなければならないことは無駄であり,負担であることは明らかである。
以上のように,本件訴訟は,積極的給付請求訴訟である別件米国訴訟と同様,米国の裁判所において審理をするのにふさわしい事案であるといえる上,被控訴人の応訴の負担や,証拠の所在からしても,日本の裁判所において審理判断することには当事者間の衡平を害し,また,適正かつ迅速
な審理の実現を妨げる事情が存するものというべきである。

控訴人は,本件訴訟の本案審理においては,控訴人が米国国内又はデラウェア地区内で事業活動をしていたかどうかや,控訴人が旧オリオン電機の損害賠償義務を承継するかどうかが先行して主張,立証されることになるから,その後に争点として具体化するにすぎない特許権侵害訴訟における典型的な争点の存在を重視すべきでないと主張する。しかし,(控訴人の米国国内又はデラウェア地区内での事業活動の有無やその内容は,むしろ米国の裁判所において審理判断されるのにふさわしい事柄ではないかという疑問はさておき),控訴人の上記主張は,その主観的判断に基づくものといわざるを得ないのであって,特許権侵害訴訟の客観的性質や,別件米国訴訟の訴状の記載内容等に基づく前記判断を左右するに足りるものではない。
また,控訴人は,米国の裁判所に特許権侵害訴訟が提起されてしまうと,米国国内で事業活動を営んでいたことが具体的に主張,立証されなくとも,多大な負担の下で応訴を余儀なくされるというのは,当事者間の衡平を害すると主張する。しかし,米国国内において本件米国特許権侵害行為(積極的誘因行為を含む。)が行われていると主張して訴えが提起され,その訴訟について米国裁判所の管轄権が認められる以上,控訴人が米国での訴訟について応訴しなければならないのはやむを得ない事柄であるといわざるを得ない(控訴人は,被控訴人の現状における主張が抽象的なものであることを問題にしているようにも見られるが,この点は,今後別件米国訴訟において具体化されていくべきものである。)し,別件米国訴訟において予想される争点や証拠の所在等からしても,別件米国訴訟が,米国の裁判所において審理されるのにふさわしいものであることは既に説
示したとおりである。したがって,控訴人が米国での訴訟に応訴しなければならないことにより当事者間の衡平が害されるということはできないから,控訴人の主張を採用することはできない。

このほか,控訴人と被控訴人の会社規模の差異や旧オリオン電機からの本件事業譲渡の経緯に関する証拠の所在など,控訴人が主張する諸事情を考慮しても,本件訴えについては,民訴法3条の9が定める「日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情」があると認められるから,その全部を却下するのが相当である。

第4

結論
以上によれば,その余の点について認定,判断するまでもなく,控訴人の本件
訴えを却下した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

鶴岡稔彦杉浦正樹
裁判官

裁判官

間明宏充
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