判例検索β > 平成27年(ワ)第2862号
民事訴訟
事件番号平成27(ワ)2862
裁判年月日平成29年12月25日
法廷名東京地方裁判所
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平成29年12月25日判決言渡
平成27年(ワ)第2862号
口頭弁論終結日

同日原本領収

特許権侵害差止等請求事件

平成29年9月28日
判原
裁判所書記官

決告
ビ-エ-エスエフソシエタス・ヨ-ロピア

同訴訟代理人弁護士

中成志同板井典子同山田同沖
同補佐人弁理士

江同同田徹藤聡明脇明子山告也倉被達口修
バイエルクロップサイエンス株式会社

同訴訟代理人弁護士

山康文同山内真之同大石裕太
同訴訟代理人弁理士

小野
同補佐人弁理士

坪倉道明同城川嵜洋祐主1誠文
被告は,別紙被告製品目録記載2の農薬混合物を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。

2
3
被告は,別紙被告製品目録記載2の農薬混合物を廃棄せよ。
被告は,原告に対し,2億0028万0574円及びうち1億円に対する平成27年2月13日から,うち1億0028万0574円に対する平成29年4月11日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。4
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5
訴訟費用はこれを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

6
この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告が2億円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。
7
原告のために,この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。事
第1
1実及び理由
請求
被告は,別紙被告製品目録記載1の農薬原体及び同2の農薬混合物を製造し,
販売し,譲渡し,貸渡し,輸入し,又は譲渡等の申出をしてはならない。2
被告は,前項の各製品を廃棄せよ。

3
被告は,原告に対し,19億2918万3720円及びうち1億円に対する
平成27年2月13日から,うち18億2918万3720円に対する平成29年4月11日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2
1
事案の概要等
事案の要旨

本件は,発明の名称を「2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン」とする特許第4592183号の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。)を有する原告が,被告に対し,別紙被告製品目録記載1の農薬原体(以下「被告製品1」という。)及び同2の農薬混合物(以下「被告製品2」といい,被告製品1と併せて「被告各製品」という。)は,本件特許の願書に添付したとみなされる明細書(訂正審判事件〔訂正2012-390175〕の平成25年3月14日付け審決〔同月27日確定〕による訂正後のもの。以下「本件明細書」という。なお,本件特許は平成15年6月30日以前にされた出願に係るので,
その明細書は特許請求の範囲を含む〔平成14年法律第24号附則1条2号,3条1項,平成15年政令第214号〕。)の特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1及び3記載の各発明(以下,請求項1記載の発明を「本件発明1」といい,請求項3記載の発明を「本件発明3」という。また,これらを併せて「本件各発明」という。)の技術的範囲に属し,被告が被告各製品を製造し,販売し,譲渡し,貸渡し,輸入し,又は譲渡等の申出をすること(なお,原告は,「販売」と「譲渡」を併記しているが,「譲渡」は「販売」を含む概念であり,また,「譲渡等」とは「譲渡及び貸渡し」を意味する〔特許法2条3項1号〕から,「譲渡等の申出」とは,「譲渡及び貸渡しの申出」を意味すると解される。以下,これらの行為を総称して「製造販売等」という。)は,本件特許権の侵害を構成すると主張して,特許法100条1項に基づく被告各製品の製造販売等の差止
め,並びに同条2項に基づく被告各製品の廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為による損害賠償として,又は,被告製品1に係る損害については,同製品を輸入,販売及び販売の申出(以下「輸入販売等」という。)をする全国農業協同組合連合会(以下「全農」という。)らと被告との共同不法行為による損害賠償(いずれも,対象期間は平成22年9月24日から平成28年9月30日までである。)
として,19億2918万3720円(特許法102条3項により算定される損害額並びに弁護士及び弁理士費用の合計額)及びうち1億円に対する平成27年2月13日(訴状送達の日の翌日)から,うち18億2918万3720円に対する平成29年4月11日(同月7日付け訴えの追加的変更申立書送達の日の翌日)から,各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であ
る。
2
前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認められる事実)


当事者
原告は,農薬及び防疫用薬剤の開発,製造,輸出入及び販売を業とするドイ
ツ連邦共和国の法人である。

被告は,農薬その他化学薬品の製造,輸出入,販売,販売代理業及び問屋業を業とする株式会社である。


本件特許権


原告は,以下の事項により特定される本件特許権を有している。

特許番号
特許第4592183号

発明の名称

2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン

登録日
平成22年9月24日

出願日
平成10年8月5日(以下「本件出願日」という。)


特願2000-507656

出願番
国際出願番号
PCT/EP1998/004634


平成9年8月7日(以下「本件優先日」という。)

先日
優先権主張番号

197

優先権主張国

ドイツ


34

164.0

本件特許については,原告から訂正審判請求(訂正2012-390175)
がされ,平成25年3月14日付け審決において訂正が認められた。同審決は同月27日に確定し,その結果,本件特許請求の範囲の記載は,別紙特許審決公報(写し)の該当欄のとおりとなった。(以上につき,甲2の1・2)


本件特許に関する特許無効審判の経緯

被告は,平成27年3月17日,本件特許の請求項1,3及び4に係る発明についての特許を無効とすることを求めて,特許無効審判(無効2015-800065号事件。以下「本件無効審判」という。)を請求した。
本件無効審判の手続では,同年8月10日付け訂正請求を経て,平成28年5月24日付け審決の予告(以下「本件審決予告」という。)がされた。そこで,原告は,本件明細書を別紙【書類名】全文訂正明細書(以下「訂正明細書」といい,そのうち特許請求の範囲を「訂正特許請求の範囲」という。)のとお
り訂正することを内容とする平成28年8月26日付け訂正請求(以下「本件訂正請求」といい,同請求を構成する訂正事項のうち,請求項1に係る部分を「本件訂正1」と,専ら請求項3に係る部分を「本件訂正3」とそれぞれいい,これらを一括して「本件訂正」という。また,同請求による訂正後の請求項1及び3記載の各発明を,それぞれ「本件訂正発明1」,「本件訂正発明3」といい,これらを併せて「本件各訂正発明」という。)をした。なお,平成27年8月10日付け訂正請求は,取り下げられたものとみなされた(特許法134条の2第6項)。特許庁は,平成28年12月6日,「特許第4592183号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり,訂正後の請求項〔1,3,4〕について訂正することを認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。

本件口頭弁論終結の時点において,本件審決は確定していない。(以上につき,甲16,48,49,54,乙10,47,弁論の全趣旨)


本件各発明の構成要件の分説


本件発明1

本件発明1は,次のとおり,構成要件1Aないし1Fに分説することができる(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件1A」などという。)。1A

式Ia

1B

[但し,R1が,ニトロ,ハロゲン,シアノ,チオシアナト,C1~C6アル
キル,C1~C6ハロアルキル,C1~C6アルコキシC1~C6アルキル,C2~C6アルケニル,C2~C6アルキニル,-OR3又は-S(O)nR3を表し,1C①

R2が,水素,又はハロゲン以外のR1で述べた基の1個を表し,1C②
1C③

nが1又は2を表し,

1D①

Qが2位に結合する式II

1D②
R3が水素,C1~C6アルキルを表し,

[但し,R6,R7,R8,R9,R10及びR11が,それぞれ水素又はC1~C4
アルキルを表し,上記CR8R9単位が,C=Oで置き換わっていても良い]で表されるシクロヘキサン-1,3-ジオン環を表し,
1E

X1が酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまた
はプロピニレン鎖,或いは-CH2O-を表し,
1F
Hetが,窒素,酸素及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を有
する,3~6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は下記の3個の群:窒素,酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択されるヘテロ原子を3個まで有する,3~6員のヘテロ芳香族基,を表し,且つ上述のヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又はR5で置換されていても良
く,R5が水素,ヒドロキシル,メルカプト,アミノ,シアノ,ニトロ,ホルミル,C1~C4アルキルアミノ,C1~C4ジアルキルアミノ,C1~C4アルコキシカルボニル,C1~C4アルキルカルボニル,C1~C4アルキルカルボニルオキシ,C1~C4アルキル,C1~C4ハロアルキル,C1~C4アルキルチオ,C1~C4ハロアルキルチオ,C1~C4アルコキシ,C1~C4ハロアルコキシを表し,且つ上記アルキル基は,そ
れぞれ1個以上の下記の基:シアノ,ホルミル,C1~C4アルキルアミノ,C1~Cジアルキルアミノ,C1~C4アルコキシカルボニル,C1~C4アルキルカルボニル,
C1~C4アルキルカルボニルオキシ,C1~C4アルキル,C1~C4ハロアルキル,C1~C4アルキルチオ,C1~C4ハロアルキルチオ,C1~C4アルコキシ,C1~C4ハロアルコキシで置換されていても良い]で表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はその農業上有用な塩。

本件発明3

本件発明3は,次のとおり,構成要件3A及び3Bに分説することができる。3A

Hetが,窒素,酸素及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を有
する,5員若しくは6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は下記の3個の群:窒素,酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択されるヘテロ原子を3個まで有する,5員若しくは6員のヘテロ芳香族基,を表す
3B

請求項1に記載の式Ⅰaで表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,
3-ジオン。


本件各訂正発明の構成要件の分説


本件訂正発明1

本件訂正発明1は,次のとおり,構成要件1A´ないし1F´に分説することができる。
1A´(構成要件1Aと同じ。)
1B´
1C①´

[但し,R1が,ハロゲンを表し,
R2が,-S(O)nR3を表し,

1C②´(構成要件1C②と同じ。)1C③´(構成要件1C③と同じ。)1D①´(構成要件1D①と同じ。)1D②´(構成要件1D②と同じ。)1E´

X1が酸素により中断されたエチレン鎖または-CH2O-を表し,1F´

Hetが,オキシラニル,2-オキセタニル,3-オキセタニル,2-
テトラヒドロフラニル,3-テトラヒドロフラニル,2-テトラヒドロチエニル,2-ピロリジニル,2-テトラヒドロピラニル,2-ピロリル,5-イソオキサゾリル,2-オキサゾリル,5-オキサゾリル,2-チアゾリル,2-ピリジニル,1-メチル-5-ピラゾリル,1-ピラゾリル,3,5-ジメチル-1-ピラゾリル,または4-クロロ-1-ピラゾリルを表す]で表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はその農業上有用な塩。

本件訂正発明3

本件訂正発明3は,次のとおり,構成要件3A´及び3B´に分説することができる。
3A´

Hetが,2-テトラヒドロフラニル,3-テトラヒドロフラニル,2
-テトラヒドロチエニル,2-ピロリジニル,2-テトラヒドロピラニル,2-ピロリル,5-イソオキサゾリル,2-オキサゾリル,5-オキサゾリル,2-チアゾリル,2-ピリジニル,1-メチル-5-ピラゾリル,1-ピラゾリル,3,5-ジメチル-1-ピラゾリル,または4-クロロ-1-ピラゾリルを表す3B´

請求項1(判決注:本件訂正による訂正後の請求項1)に記載の式Ⅰa
で表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン。


被告の行為

被告は,遅くとも平成22年10月頃から,別紙被告製品目録記載2⑴ないし⑹の農薬混合物を製造し,販売し,販売の申出をしており,また,平成28年4月以降は,同⑺ないし⑿の農薬混合物を販売している(以下,別紙被告製品目録記載2⑴ないし⑿の各製品を,番号順に「被告製品2⑴」などという。)。被告製品2はいずれもテフリルトリオンを有効成分の一つとする農薬混合物であり,被告製品1はテフリルトリオンを主成分とする農薬原体である。(以上につき,
甲12,63,弁論の全趣旨)


テフリルトリオンの構成

テフリルトリオンは,化学名を2-{2-クロロ-4-メシル-3-[(テト
ラヒドロフラン-2-イルメトキシ)メチル]ベンゾイル}シクロヘキサン-1,3-ジオンとする化合物であり,その構造を,本件各発明及び本件各訂正発明における式Ⅰaに対応させ,各構成要件に対比させて分説すると,次のとおりである(以下,符号に従い,「構成1a」などという。)。
(ア)本件発明1及び本件訂正発明1
1a

次の構造を有する2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン。
1b

中央のベンゼン環にカルボニル基(C=O)が結合する位置を1位として,
2位にハロゲンの一種である塩素が結合している。
1c

中央のベンゼン環の4位にSO2CH3が結合している。

1d

左端のシクロヘキサンは,1位に酸素が二重結合し,2位にカルボニル基
(C=O)を介して構造式中央のベンゼン環の1位が結合し,3位に酸素が二重結合し,4位ないし6位に水素が2つずつ結合しているシクロヘキサン-1,3-ジオンである。このシクロヘキサン-1,3-ジオンの1位に酸素が二重結合した状態は,1位と2位の間が二重結合になり,1位に水酸基(OH)が結合する状態と互変異性がある。
1e

中央のベンゼン環の3位に「-CH2-O-CH2-」が結合している。
1f

上記「-CH2-O-CH2-」に,ヘテロ原子である酸素1個を有する,
5員の完全飽和ヘテロシクリル基(2-テトラヒドロフラニル)が結合している。(イ)本件発明3及び本件訂正発明3
3a(構成1fと同じ。)
3b(構成1aないしeと同じ。)
(以上につき,甲3の1,甲4,弁論の全趣旨)

上記アの分説に係るテフリルトリオンの構成に照らすと,本件各発明及び本
件各訂正発明の構成要件のうち,被告が充足性を争っている構成要件1E,3B(ただし,1Eを引用する部分),1E´,3B´(ただし,1E´を引用する部分)以外のものを全て充足すると認められる。
すなわち,本件各発明及び本件各訂正発明のR1に対応する構成はハロゲンの一種である塩素であると認められ(構成1b),構成要件1B及び1B´を充足する。また,本件各発明及び本件各訂正発明のR2に対応する構成はSO2CH3であると
認められ(構成1c),S(O)nR3のR3の部分がメチル(C1アルキル)であり,nの部分が2であるから,構成要件1C①ないし③及び1C①´ないし③´をいずれも充足する。さらに,本件各発明及び本件各訂正発明のQに対応する構成は,構成1dのとおりの構造を有するシクロヘキサン-1,3-ジオンであり,これは式ⅠⅠの構造の互変異性体であると認められ,R6,R7,R8,R9,R10及びR11はい
ずれも水素であるから,構成要件1D①及び②並びに1D①´及び②´をいずれも充足する。また,本件各発明及び本件各訂正発明のHetに対応する構成はヘテロ原子である酸素1個を有する5員の完全飽和ヘテロシクリル基(2-テトラヒドロフラニル)であると認められ(構成1f),構成要件1F及び1F´並びに3A及び3A´をいずれも充足する。
3
争点



被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)



本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認
められるか(争点2)

無効理由1(サポ-ト要件違反)は認められるか(争点2-1)


無効理由2(実施可能要件違反)は認められるか(争点2-2)


無効理由3(乙第1号証を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点2-3)



本件訂正は訂正要件を満たすか(争点3-1)


本件訂正により無効理由が解消するか(争点3-2)


被告各製品は本件各訂正発明の技術的範囲に属するか(争点3-3)


被告製品1についての請求は認められるか(争点4)


被告は被告製品1の製造販売等をしているか(争点4-1)


訂正の対抗主張は認められるか(争点3)


無効理由4(原文新規事項)は認められるか(争点2-4)

被告及び全農らの共同不法行為が成立するか(争点4-2)



原告が受けた損害の額(争点5)

第3
1
争点に対する当事者の主張
争点1(被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】

「酸素により中断された,エチレン…鎖」(構成要件1E)について

次の各理由により,「酸素により中断された,エチレン…鎖」(構成要件1
E)は,「-CH2-O-CH2-」の構造を有するものを意味すると解される。(ア)広辞苑第六版(甲14)において,「中断」が「①とだえること。途中でやめること。」「②中途から切れること。中途でたちきること。」と説明されていることからすると,構成要件1Eの「酸素により中断された,エチレン…鎖」とは,エチレン鎖(-CH2-CH2-)の二つの炭素が連なる構造を酸素によって途中で断ち切ること,すなわち,「-CH2-O-CH2-」の構造を意味すると解される。他方で,被告が主張する「-O-CH2-CH2-」又は「-CH2-CH2-O-」では,酸素がエチレン鎖の外に結合しているだけで,エチレン鎖を中断していない。(イ)構成要件1Eの「酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニ
レンまたはプロピニレン鎖」が,複数の炭素からなる鎖の途中に酸素が位置することを意味することは,本件明細書の方法B(段落【0042】,【0043】)及び方法C(段落【0050】,【0051】)の各反応式にも示されている。なお,C1アルキレン鎖及びC2アルキニレン鎖が酸素により遮断される旨の本件明細書の記載(段落【0002】,【0063】等)は誤記である。(ウ)本件特許の審査過程において,審査官も,「X1の定義における『酸素により中断された,直鎖又は分岐のC2~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖,またはC2~C6アルキニレン鎖』とは,その記載から,両側が炭素原子に挟まれた酸素原子を有するもののみを意図するものと解される」(乙14)との見解を示している。

被告各製品の主成分であるテフリルトリオンは,X1に対応する構成として
「-CH2-O-CH2-」の構造を有しており(構成1e),「酸素により中断された,エチレン…鎖」を有するから,構成要件1Eを充足し,本件発明1の技術的範囲に属する。
また,テフリルトリオンは,「請求項1に記載の式Ⅰaで表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン」であるから,構成要件3Bを充足し,本件発
明3の技術的範囲に属する。


被告の主張について


被告は,本件明細書に記載されていないテフリルトリオンは本件各発明の技
術的範囲に属さない旨主張するが,本件明細書には,テフリルトリオンを含む式Ⅰaの化合物に係る技術思想について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に開示されている。
すなわち,本件明細書には,テフリルトリオンのX1に相当するCH2OCH2及びHetに相当するヘテロシクリル基(2-テトラヒドロフラニル)がそれぞれ記載され(表A,段落【0061】),表Aには,X1がCH2OCH2,Hetが2-オキセタニルという類似性の高い組合せも示されている(【表13】No.46
3)ほか,テフリルトリオンを含む化合物の作用,製造方法,除草剤としての使用方法及び効果等についても,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に開示されている。
したがって,本件各発明の構成要件を全て充足するテフリルトリオンはそれらの技術的範囲に属する。

また,被告は,本件特許の出願経過に照らすと,原告がテフリルトリオンを
含む除草活性組成物について本件特許権を行使することは信義則上許されない旨主張するが,特許権の設定登録の対象となった請求項1及び3と,出願過程において削除された従前の請求項6ないし8(以下「従前の請求項6ないし8」という。)とは別の発明に係るものであり,従前の請求項6ないし8を削除しても,特許権の設定登録の対象となった請求項1及び3に係る発明について特許権による保護を受
ける権利を放棄したものとはいえないから,本件特許権に基づく原告の権利行使が妨げられる理由はない。
【被告の主張】


「酸素により中断された,エチレン…鎖」(構成要件1E)について次の各理由により,「酸素により中断された,エチレン…鎖」(構成要件1
E)とは,「-O-CH2-CH2-」又は「-CH2-CH2-O-」の構造を有するものを意味すると解される。
(ア)構成要件1Eは,「X1が酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖,或いは-CH2O-」であると規定するものの,その文言上,原子間のどの結合が酸素原子によって断ち切られているのか一義
的に明らかでない。
(イ)そこで,本件明細書の記載を参酌すると,段落【0002】,【0063】等において,X1としてC1アルキレン鎖(-CH2-)が選択された場合にも酸素により遮断(「中断」と同義である。)されると一貫して記載されている。加えて,平成25年3月14日付け審決による訂正前の構成要件1Eに,酸素により中断さ
れる化合物として,炭素間の結合を酸素により遮断することが考えられないC2アルキニレン鎖(-C≡C-)が挙げられていたことにも照らせば,構成要件1Eの「酸素により中断された」とは,ベンゾイル基又はHetとX1との結合の間に酸素原子が含まれる構造,すなわち,エチレン鎖の場合であれば「-O-CH2-CH2-」又は「-CH2-CH2-O-」の構造を意味すると解すべきである。なお,原告が主張する本件明細書の方法B及びCの反応式(段落【0042】,【0043】,【0050】,【0051】)は,式Ⅰaの化合物の製造方法を示すものではなく,その上位概念である式Ⅰの化合物のうちの一部についての反応式にすぎないから,式Ⅰaの構造を決定するものではない。
(ウ)X1を構成する炭素原子に酸素原子が挟まれた構成を意味するとする審査官の見解(乙14)は,炭素間の結合を酸素により遮断することが考えられないC2
アルキニレン鎖(-C≡C-)を含む記載について述べられたものであり,誤っている。

被告各製品の主成分であるテフリルトリオンは,X1に対応する構成として
「-O-CH2-CH2-」又は「-CH2-CH2-O-」の構造を有しておらず,被告各製品は,構成要件1Eを充足しないから,本件発明1の技術的範囲に属さない。
また,テフリルトリオンは,「請求項1に記載の式Ⅰaで表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン」ではないから,被告各製品は,構成要件3Bを充足せず,本件発明3の技術的範囲に属さない。


本件明細書に記載されていないテフリルトリオンは本件各発明の技術的範囲
に属さないこと
発明の詳細な説明の記載が不十分な発明に係る特許は,開示の限度で独占的な権利を与えられるにすぎないと解すべきであり,本件明細書に記載されていないテフリルトリオンは,本件各発明の技術的範囲に含まれない。
原告は,本件明細書の表Aの記載等を基にテフリルトリオンと類似性が高い組合
せが示されている旨主張するが,そもそも,表Aに示されているX1及びHetは式Ⅰbの化合物に係るものであり,式Ⅰaの化合物のHetに当てはまらない2-フリル,2-チエニル等が挙げられていることからも,式Ⅰaの化合物についてのものではない。この点を措いても,表Aには,テフリルトリオンのX1(CH2OCH2)とHet(2-テトラヒドロフラニル)とを同時に組み合わせた構造が記載されていない以上,テフリルトリオンの構造を開示したとはいえない。しかも,本件明細書には,テフリルトリオンを含む化合物の作用,製造方法,使用方法及び効果も記載されていない。
テフリルトリオンが本件明細書に記載されていないことについては,本件特許に係る出願の一部を新たな特許出願とした特願2010-160833(以下「本件分割出願」という。)の手続において,特許請求の範囲を,いずれもテフリルトリ
オンではないものの,X1がCH2OCH2であり,Hetが「1個の酸素のヘテロ原子を有する5員の完全飽和へテロシクリル基」であるという点でテフリルトリオンと共通する次の構造を有する化合物A及びB等に限定する内容の補正について,発明の詳細な説明に記載されている範囲を超えるという理由により却下した審決(乙18)からも明らかである。

【化合物A】



【化合物B】

除草活性組成物である被告各製品に対して本件特許権を行使することはでき
ないこと
原告は,除草有効量の本件各発明に係る化合物を含む除草活性組成物,その製法及びそれを用いた除草法に関する従前の請求項6ないし8について,本件明細書に本件各発明に係る化合物の除草活性が記載されていない等とする拒絶理由通知(乙14)を受け,いずれも削除する旨の補正をして特許査定を受けた。このような本件特許の出願経過に照らすと,原告は,本件明細書に本件各発明に係る化合物の除草活性が記載されていないことを認め,除草活性組成物等については特許権による保護を受ける権利を放棄したというべきであるから,テフリルトリオンを含む除草剤組成物について原告が本件特許権を行使することは信義則に反し,許されない。2
争点2(本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべき
ものと認められるか)について


争点2-1(無効理由1〔サポ-ト要件違反〕は認められるか)について
【被告の主張】
本件各発明は,除草作用において特性が改良された化合物を提供することを解決課題として,その解決手段として,マーカッシュ形式で記載された置換基を用いた一般式Ⅰaで表される化学物質(化合物)に概念化し,概念化された範囲内であればいずれの化学物質であっても課題を解決できるとするものであり,一般的に化学物質はその構成や名称から効果を理解するのは困難であるから,本件明細書の発明の詳細な説明には,式Ⅰaで包含される化学物質であれば発明の課題を解決できることを当業者が認識できるための論理的な説明又は具体例が示されていなければ,サポート要件を欠くと解すべきである。

本件明細書の発明の詳細な説明には,式Ⅰaに包含される化学物質(化合物)であれば上記の発明の課題を解決できることを当業者が認識できるための論理的な説明や具体例が示されていないから,本件特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(サポート要件)に違反し,本件各発明についての特許は,同法123条1項4号により無効とされるべきである。

原告が指摘する本件明細書の発明の詳細な説明のうち,式Ⅰの化合物の製造例の記載(段落【0119】,【0130】ないし【0135】)は,化合物の効果が理解できる記載ではなく,本件各発明の式Ⅰaの化合物に包含される全ての化合物の製造方法が記載されているものでもない。また,使用方法の記載(段落【0110】ないし【0112】)は,発明に係る化合物が適用できる作物やその散布方法
等を記載するだけで,そのように散布した際の効果等を理解できるものではなく,使用実施例の記載(段落【0136】ないし【0141】)も,式Ⅰaの化合物に対する除草作用の温室実験において事前法と事後法により評価する旨が記載されているだけで,試験結果が一切記載されていない。いずれも,式Ⅰaに包含される化学物質(化合物)であれば発明の課題を解決できることを当業者が認識できるための論理的な説明や具体例が示されているとはいえない。
これに対して,原告が指摘する実験成績証明書(甲17,18,23,24等)は,いずれも,本件出願日後の実験データであるから,本件明細書の発明の詳細な説明に発明の課題を解決できると当業者が認識するための記載を欠く本件において,サポート要件の適否の判断において考慮されるべきではない(また,甲23,24の陳述者が全ての実験結果を証明しているともいえない。)。仮に,これらを考慮
したとしても,本件各発明の化合物の中には,十分な効果を有さないものが多数含まれており(乙27),いずれにしても発明の課題を解決できるとはいえない。【原告の主張】
本件明細書の発明の詳細な説明には,発明の解決しようとする課題(段落【0003】ないし【0008】),化合物の製造方法(段落【0119】ないし【01
35】。特に,段落【0130】ないし【0135】は製造実施例にほかならない。),出発材料,添加する試薬,材料の添加割合,溶媒,反応温度等(段落【0042】以下),使用方法(段落【0110】ないし【0112】),使用実施例(段落【0136】ないし【0141】)等が記載されており,本件各発明の課題を解決できることを認識できる範囲の記載があるから,本件特許請求の範囲の記載
はサポート要件を満たす。
また,本件明細書のように,発明の詳細な説明に発明の課題を解決できることを認識できる範囲の記載がある場合には,発明の効果(段落【0109】)に関する具体的な例として実験成績証明書で補足することができると解すべきところ,実験成績証明書(甲17,18,23,24,39等)は,本件特許請求の範囲に属す
る種々の化合物が,X1およびHetを変更した場合にも除草効果を有することを示している。実験成績証明書(甲23,32)に加えて,被告の研究者の陳述書等(乙27,甲40)においても,ベンゾイルシクロヘキサンジオン骨格を有するとともにHet環を有することにより除草特性に優れることが示されている。⑵

争点2-2(無効理由2〔実施可能要件違反〕は認められるか)について
【被告の主張】
本件各発明は,除草作用において特性が改良された化合物に関するものであり,一般的に化学物質はその構成や名称から効果を理解するのは困難であるから,本件明細書の発明の詳細な説明が,本件各発明の化学物質(化合物)を生産することができ,かつ,使用することができることを示す実施例を含むものでなければ,実施可能要件を欠くと解すべきところ,次のア,イのとおり,本件明細書の発明の詳細
な説明には,除草作用において特性が改良された化合物を生産することができ,かつ,使用することができることを示す実施例は記載されていないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項(平成14年法律第24号による改正前の規定。以下同じ。)(実施可能要件)に反し,本件各発明についての特許は,同法123条1項4号により無効とされるべきである。


まず,本件明細書の発明の詳細な説明には,段落【0130】ないし【01
35】及び表37に化合物の製造例が記載されているものの,これは化合物のX1がCH2OでありHetが窒素を含む5員のヘテロ芳香族基であるものについてのものであり,本件各発明の化合物のうち,X1が「酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖」(構成要件1E)の化合物の具体的な製造例の記載はなく,また,Hetが「窒素,酸素及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を有する,3~6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基」(構成要件1F)又は「窒素,酸素及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を有する,5員若しくは6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基」(構成要件3A)の化合物の具体的な製造例の記載もない。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された方法B及びC(段落【0042】ないし【0057】)は,反応スキームとその際の試薬や溶媒等の一般的な例示があるだけであるから,それらをどのように制御すれば所望の化合物が生産できるかについて具体的な指針を与えるものではなく,このような本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本件各発明の化合物のうち,段落【0130】ないし【0135】及び表37に化合物の製造例が記載されていないもの,例えば,X1
が原告の主張する「酸素により中断された,プロペニレン…鎖」(-CH=CH
-O-CH2-)の構造を有する化合物を生産することができるということはない。イ
次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,除草作用において特性が改良さ
れた化合物を使用できることを示す実施例が記載されていないことについては,上記⑴【被告の主張】のとおりであり,本件各発明の化合物を生産できると仮定したとしても,これを使用することができるということはない。
【原告の主張】

本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各発明に係る化合物から成る組成
物の調製方法(段落【0119】ないし【0129】),X1がCH2OでありHetがピラゾリルである場合の化合物の合成工程(特に,段落【0130】ないし【0135】は製造実施例にほかならない。),加えて,方法B及びCとして,出発材料,添加する試薬,材料の添加割合,溶媒,反応温度等(段落【0042】以下),除草剤としての使用実施例(段落【0136】ないし【0141】)等が記載されている。
このような本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと,当業者が本件各発
明に係る化合物を生産することができ,かつ,使用することができる程度に明確かつ十分な記載がされているということができるから,実施可能要件を満たす。なお,被告が主張するように,実施可能要件は,発明の詳細な説明に化合物を生産し,使用することができる一つ以上の実験例のデータの記載がなければ満たされないというものではない。


また,本件明細書の発明の詳細な記載に実施例が記載されていない化合物の
実施形態についても,公知文献や当業者の技術常識を考慮すれば,当業者が,方法B及びCに基づき,適宜,製造実施例を参照して,これらを生産することに特に困難性はない。被告が指摘するX1がCH=CH-O-CH2の構造を有する化合物についても,その結合方法が文献(甲34,35)に示されており,当業者が生産することができる(なお,甲34に記載されている反応は,方法Cのとおりの反応である。)。


争点2-3(無効理由3〔乙第1号証を主引例とする進歩性欠如〕は認めら
れるか)について
【被告の主張】
以下のとおり,本件各発明は,特開平8-20554号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)を主引例として当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件各発明についての特許は,特許法29条2項に違反し,同法123条1項2号により無効とされるべきである。

乙1発明の内容

乙1公報には,【請求項1】において,次の一般式で表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物が開示されている。

[式中,R1は水素原子または低級アルキル基を表し,Xは低級アルキル基,低級アルケニル基,低級アルコキシ基,低級アルキニルオキシ基,ハロゲン原子,ニトロ基,トリフルオロメチル基,-COR2基(ただし,基中,R2は低級アルキル基,低級アルコキシ基または低級アルキルアミノ基を表す。),-NHCOR3基(ただし,基中,R3は低級アルキル基または低級アルキルアミノ基を表す。),-S(O)mR4基(ただし,基中,R4は低級アルキル基を表し,mは0または2を表す。),-C(CH3)=NOR5基(ただし,基中,R5は低級アルキル基を表す。)または-(CH2)yCN基(ただし,基中,yは0または1を表す。)を表し,nは0,1または2を表す。]

本件各発明と乙1発明の対比

本件各発明と乙1発明は,以下の点で相違し,その余の点で一致する。(ア)相違点1
本件各発明は,式Ⅰaの中央ベンゼン環の4位に結合するR2がハロゲン以外の基(構成要件1C①,同3B)であるのに対し,乙1発明は,ハロゲンの一種である塩素である点(以下,本件各発明のR2に係る相違点を「相違点1」という。)。
(イ)相違点2
本件各発明は,式Ⅰaの中央ベンゼン環の3位にX1を介して結合するHetがヘテロシクリル又はヘテロ芳香族である(構成要件1F,同3A)のに対し,乙1発明は,フェニル基である点(以下,本件各発明のHetに係る相違点を「相違点2」という。)。


相違点に係る容易想到性

(ア)相違点1
相違点1に係る乙1発明の構成を本件各発明の構成に変更することは,特開平7-206808号公報(乙2。以下「乙2公報」という。)に示唆されている技術的事項であり,当業者が容易に想到できた。
すなわち,乙2公報には,【請求項2】の2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物が開示されているところ,この化合物のベンゼン環の2位はハロゲン原子であり,4位はアルキルスルホニル基であるから,本件各発明の「R1が,…ハロゲン,…又は-S(O)nR3を表し,R2が,水素,又はハロゲン以外のR1で述べた基の1個を表し,R3が…,C1~C6アルキルを表し,nが1又は2
を表し」と同一の技術事項を示している。乙2公報の記載に接した当業者であれば,水田の主要雑草に対して低薬量で優れた除草効果を示す化合物を得ること(乙2公報段落【0010】)を期待して,乙1発明の化合物のベンゼン環の4位に結合している塩素を,本件各発明のアルキルスルホニル基に変更することを明確に動機付けられた。
とりわけ,乙2公報記載の【表6】には,ベンゼン環の4位をハロゲン(比較薬剤C及びE)からアルキルスルホニル基(比較薬剤A及びD)にすることで,稲に対する薬害が低下し,より高い除草効果が得られることが示されているから,この技術的事項を乙1発明に適用することは動機付けられる。
(イ)相違点2
乙2公報記載の【表1】及び【表2】の化合物No.16ないし18及び29な
いし31の化合物は,本件各発明のHetであるヘテロシクリル基を有しており,雑草に対して優れた除草効果を示しているから(【表5】),当業者は,乙1公報の化合物のベンゼン環の3位の置換基に代えて乙2公報記載のヘテロシクリル基を用いることを動機付けられる。
特開平6-321932号公報(乙3。以下「乙3公報」という。)及び特開平
6-271562号公報(乙4。以下「乙4公報」という。)にも,本件各発明のHetを有する2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物が開示されているから,乙1発明の化合物にこの基を結合させることは,当業者が容易に想到できた。
そして,乙1公報に接した当業者であれば,本件優先日当時の技術常識を参酌し
て,Hetがヘテロシクリル基である化合物の製造方法を容易に想到できた。(ウ)本件各発明の効果は格別顕著なものではないこと
以上のとおり,乙1発明の構成を上記相違点に係る本件各発明の構成に変更することにより,優れた除草効果と低い薬害の実現を期待し得るものであり,そもそも,本件明細書に本件各発明の具体的な効果を認識できる記載がないことからしても,
本件各発明の効果は当業者の予測を超える格別顕著なものではない。なお,原告が主張する本件各発明の効果は実験成績証明書1及び2(甲17,18)に基づくものであるが,本件明細書の記載から認識できない事項について出願後の実験データを参酌することは許されない。また,この点を措いても,乙1公報ないし乙4公報に,実験成績証明書1(甲17)記載の化合物より優れた効果を奏する化合物が多数知られていたことが示されていること,クリストファー・ヒュー・ロジンガー博士の陳述書(乙27)に,実験成績証明書2(甲18)の化合物AとHetにしか相違がない化合物5であっても,イネに対して35%もの薬害を生じている旨記載されていることなどからすると,本件各発明に係る化合物の効果が格別顕著なものとはいえない。
(エ)小括(無効理由3)

以上によれば,当業者は,乙1発明等に基づき,本件各発明に係る化合物を容易に発明することができた。
なお,2-ベンゾイルシクロヘキサンジオンと結合する「CH2」と「O」の順序が相違しても除草効果が得られることが知られていたから(乙2公報段落【0007】,【表1】の化合物No.1及び13の化合物参照),いずれの順序にする
かは設計事項にすぎず,本件各発明のX1が「酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖」の化合物も,当業者が容易に想到できた。
【原告の主張】
本件各発明と乙1発明とでは,被告の主張する相違点1及び2があり,これらを
克服することは容易ではない。したがって,本件各発明は進歩性を有している。その理由は以下のとおりである。

相違点1

乙1発明の化合物は,ベンゼン環の3位にフェニル基を有する化合物であるのに対し,被告が主張する乙2公報記載の比較薬剤AないしEは,ベンゼン環の3位に直鎖状の基が結合している化合物であり,フェニル基を含有する化合物よりも除草効果に劣るから,その除草効果についての対比結果を参照して,フェニル基を含有する化合物の除草効果を増大するための動機付けを得ることはできない。この点を措いても,乙2公報の記載から,ベンゼン環の4位にアルキルスルホニルが結合する比較薬剤A及びDが特に優れていることを読み取ることはできないから(【表4】,【表6】,【表8】),ベンゼン環の4位にアルキルスルホニルが結合する化合物を得ようとする動機付けがない。
加えて,乙2公報は乙1発明の従来技術に位置付けられるものであるが,乙1公報において,従来技術の効果は「必ずしも満足すべきものとはいいがたい」(段落【0008】)とされており,乙1発明に適用するには阻害要因がある。イ
相違点2

乙2公報の【表1】及び【表2】の化合物No.16ないし18及び29ないし31のヘテロシクリル含有化合物は特に優れた除草効果を示していないから(【表3】及び【表5】),乙1発明の化合物の除草効果の向上又は作物に対する薬害低下のための示唆は得られず,ヘテロシクリル基を適用する動機付けがない。また,乙1公報及び乙2公報記載の化合物の製造方法等に照らし,乙1公報に記
載されたX1(CH2O)と乙2公報に記載されたHet(ヘテロシクリル)を結合するための化学的根拠を見出せない。

顕著な効果を得られること

本件明細書の段落【0109】等には,本件各発明の効果を認識できる記載があり,また,実験成績証明書1及び2(甲17,18,23,24)において,本件各発明の化合物が除草効果及び栽培植物に対する損傷を低下させる効果において顕著な効果を有することが示されている。
なお,被告は出願後の実験データを参酌することは許されない旨主張するが,本件明細書には本件各発明の効果を認識できる記載があるから,これらを参酌することは許される。


小括(無効理由3)

以上によれば,当業者が相違点1及び2に係る本件各発明の構成を当業者が容易に想到できたとはいえない。
なお,乙2公報の【表1】における化合物No.1及びNo.13のR3はヘテロシクリル等のHetを有しておらず,本件各発明の化合物のX1に該当しないから,X1が「酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖」の本件各発明の化合物は当業者が容易に想到できたものではない。⑷

争点2-4(無効理由4〔原文新規事項〕は認められるか)について
【被告の主張】
本件明細書(本件特許請求の範囲)に記載された「X1が酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖,或いは-CH2O-を表し」(構成要件1E)との事項は,本件特許に係る出願とみなされる国際出願(PCT/EP1998/004634。以下「本件国際出願」という。)の明細書及び請求の範囲(本件出願日〔平成10年8月5日〕におけるもの。以下同じ。)に記載した事項の範囲内にないから,本件各発明についての特許は,特許法184条の18(平成14年法律第24号による改正前の規定。以下同じ。)により読み
替えて準用する同法123条1項5号により無効とされるべきである。ア
すなわち,まず,本件国際出願の請求の範囲(請求項1及び4)には,式Ⅰ
aの化合物のX1の定義として,「einegeradkettigeoderverzweigteC1-C6Alkylen-,eineC2-C6-Alkenylen-odereineC2-C6-Alkinylen-kette,diedurchein
Heteroatom

ausgewählt

aus

der

Gruppe:

Sauerstoff

oder

Schwefel

unterbrochen…」と記載されているところ,冒頭の「eine」から「Alkinylenkette」までの部分は「eine」(冠詞)によって三つの個別の群であることが示されていることなどからすると,「酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により遮断される」を意味する「die」以下の記載は,その直前の「eineC2-C6-Alkinylenkette」(C2~C6アルキニレン鎖)のみを修飾している。
したがって,本件国際出願の請求の範囲には,X1として,直鎖又は分岐C1~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖,酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により遮断されるC2~C6アルキニレン鎖のみが記載されている。なお,原告は,本件国際出願の請求の範囲における請求項5の記載を基に主張しているが,上記の原文の記載とは違うものであるから,原告の主張は失当である。イ
また,本件国際出願の明細書にも,式Ⅰaの化合物のX1として,C1ない
しC2アルキレン鎖及び1個の他の酸素原子を含むC2アルキニレン鎖を表するものだけが記載されている(訳文〔乙8の2〕の段落【0068】)。式Ⅰの化合物についての記載(訳文〔乙8の2〕の段落【0063】)でさえ,「酸素により遮断される,エチレン,プロピレン,プロペニレン又はプロピニレン鎖」とは記載されていない。

なお,本件国際出願の明細書の表Aには,X1として,酸素により中断されたエチレン及び-CH2O-が挙げられているが,表Aは式Ibの化合物についてのものであり,式Ⅰaの化合物のHetに当てはまらない2-フリル,2-チエニル等が挙げられていることからも,式Ⅰaの化合物には当てはまらないものである。ウ
本件特許の構成要件1Eは「X1が酸素により中断された,エチレン,プロ
ピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖,或いは-CH2O-を表し」というものであるところ,これらは,上記ア及びイのとおり,本件国際出願の明細書及び請求の範囲におけるX1の定義に関する記載事項のいずれにも当たらない。エ
また,上記ア及びイのとおり,本件国際出願の明細書及び請求の範囲におい
て,X1の定義として,酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により遮断されるものとして記載されているのはC2~C6アルキニレン鎖のみであるところ,このうち,C2アルキニレン鎖(-C≡C-)は炭素間の結合を酸素によって「中断」することはあり得ないものであることなどからすると,この酸素等による「遮断」とは,当該鎖が酸素を介して他の基と結合する構造を有するものとして記載されていることは当業者に明らかである。

そうすると,本件明細書(本件特許請求の範囲)に記載された「酸素により中断された」(構成要件1E)との事項が,当該鎖が酸素を介して他の基と結合するという意味での「遮断」と異なる意味を有するものと解するのであれば,本件国際出願の明細書及び請求の範囲に記載された事項ではない。
本件国際出願の明細書を審査した欧州特許庁の審査官も,「遮断」の原語である「unterbrochen」について,アルキニレン鎖等の端に酸素が結合したものを表し,アルキニレン鎖等の中に酸素が介入しているものを指すものではないとの見解を示している(乙30)。
【原告の主張】
本件明細書(本件特許請求の範囲)に記載された「X1が酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖,或いは-CH2O-
を表し」(構成要件1E)との事項は,本件国際出願の明細書及び請求の範囲に記載された事項の範囲内にある。

まず,本件国際出願の請求の範囲における請求項1の記載は,「A(gerad
kettigeoderverzweigteC1-C6-Alkylen-),B(C2-C6-Alkenylen-)又はC(C2
-C6-Alkinylen-kette),die(関係代名詞)…」という構成を有するものである
ところ,A(C1-C6-Alkylen-)とB(C2-C6-Alkenylen-)の語尾の「kette」(鎖)は省略され,C(C2-C6-Alkinylen-kette)の末尾の「kette」を参照しており,AないしCは一つの固まりになっているから,「die」以下の記載は,AないしC(直鎖又は分岐C1~C6アルキレン,C2~C6アルケニレン又はC2~C6アルキニレン鎖)を全て修飾している。


また,本件国際出願の請求の範囲における請求項5は,「X1が酸素により
中断された,C1~C3アルキレン,C2~C3アルケニレン又はC3~C3アルキニレン鎖である請求項4に記載の式Ⅰaの2ベンゾイル-シクロヘキサン-1,3ジオン」というものであり,構成要件1Eの「酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖」を包含する記載が存在する。ウ
さらに,「酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンま
たはプロピニレン鎖」(構成要件1E)は,本件国際出願の明細書にも記載されている。
なお,本件国際出願の明細書の表Aは,式Ⅰbの化合物についてのものではあるが,式Ⅰbの化合物と式Ⅰaの化合物とは記載方法のみが異なる同一の構造式の化合物であるから,表Aは式Iaの化合物についての表でもあるといえる。エ
被告は,酸素等による「中断」と「遮断」の意味の違いについて主張してい
るが,いずれも本件国際出願の明細書における原語の「unterbrochen」を訳したものであり,複数の炭素が連なる構成を酸素によって途中で断ち切る構造を有するものを意味することは上記1【原告の主張】⑴で述べたとおりである。本件国際出願を審査した欧州特許庁の審査官も,「unterbrochen」について,炭素によってヘテロ原子(酸素)が挟まれる構造を意味するとの見解を示している(乙30)。
3
争点3(訂正の対抗主張は認められるか)について



争点3-1(本件訂正は訂正要件を満たすか)について

【原告の主張】
本件訂正は,いずれも,本件審決予告で当業者が生産できると判断された化合物に特許請求の範囲を減縮するものであり,新たな技術的事項を導入するものではない。
すなわち,本件訂正1におけるR1,R2及びX1の訂正(構成要件1B,1C①及びEの訂正)は,いずれも択一的に記載されていた発明特定事項を削除して一部
のみとするものであり,また,本件訂正におけるHetの訂正(構成要件1F及び3Aの訂正)は,本件明細書の段落【0061】に記載された具体例,段落【0071】の表Aに記載されたHetの具体例,段落【0131】,【0134】,【0135】及び表37に記載された実施例に基づいて導き出される構成の中から,原料を入手できる範囲で当業者が生産できる旨の本件審決予告の見解を踏まえ,本
件優先日以前に入手可能であった原料(別紙出発物質一覧記載の出発物質)から得られるHetに限定したものである。
このように,本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないから,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項及び同条6項に違反するものではなく,訂正要件を満たす。
【被告の主張】
マーカッシュ形式で記載された請求項において,願書に添付した明細書等に化学物質が多数の選択肢群の組合せで記載されている場合,すなわち,本件のように選択肢群R1,R2,X1及びHet等の組合せで化合物が特定されている場合,個々の選択肢群はその群内のものが一体として一つの概念を形成しているから,選択肢
を削除して請求項に特定の選択肢の組合せが残る訂正をする場合には,残された特定の選択肢の組合せが明細書等の記載に基づいて把握し得るものでなければ,新たな技術的事項を導入するものとして,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものとはいえない(このような解釈が正しいことは,特許庁の特許実用新案審査基準〔乙49〕にも示されている。)。
本件訂正は,選択肢群R1,R2,X1及びHetをそれぞれ限定することで,請求項に特定の選択肢の組合せが残るようにするものであるにもかかわらず,残された特定の選択肢とそれらの組合せが本件明細書等の全体の記載に基づいて把握し得るものであるとはいえないから,新たな技術的事項を導入するものである。具体的には,本件明細書の発明の詳細な説明には,訂正後の「酸素により中断されたエチ
レン鎖または-CH2O-」(構成要件1E´)だけから成る選択肢群の記載や,訂正後の「オキシラニル,2-オキセタニル,…または4-クロロ-1-ピラゾリル」(構成要件1F´)だけから成る選択肢群の記載はどこにもなく(また,訂正後の構成要件1F´及び3A´に記載された特定のHetだけを選択することの根拠もない。),段落【0071】の表Aにさえも,訂正後のX1とHetの組合せ
の全てが記載されていない。
したがって,本件訂正は訂正要件を満たさない。


争点3-2(本件訂正により無効理由が解消するか)について

【原告の主張】

無効理由1(サポート要件違反)及び無効理由2(実施可能要件違反)につ
いて
仮に,無効理由1(サポート要件違反)及び無効理由2(実施可能要件違反)が認められたとしても,以下のとおり,本件訂正によって,これらの無効理由は解消される。
(ア)本件各訂正発明の化合物を生産することができること
本件明細書の発明の詳細な説明には,製造実施例(段落【0130】ないし【0
135】)に加えて,方法B及びCとして,出発材料,添加する試薬,材料の添加割合,溶媒,反応温度等(段落【0042】以下)が記載されていることは上記(2⑴【原告の主張】,同⑵【原告の主張】)のとおりであり,この製造実施例はX1がCH2Oである化合物についてのものであるものの,X1が-CH2-O-CH2-である化合物についても,置換安息香酸誘導体ⅠⅠⅠcを合成するスキーム
である方法Cを参考にして,入手可能なHO-CH2-Hetを用いることにより,製造実施例の工程bに準じて合成できることは,本件審決予告で判断されているとおりである。
加えて,本件訂正による訂正後のX1及びHetを含む化合物を製造するために必要とされる個別のHetを有する出発物質(式ⅤⅠⅠの化合物)は,いずれも本
件出願日以前に公知であるから(甲51),当業者が入手することに何らの試行錯誤は要求されなく,また,個別のHetを有する出発物質を基に式Ⅰaの化合物を形成するための反応条件等についても,本件明細書の段落【0036】ないし【0057】に十分説明がされており,当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤が要求されることはない。

(イ)本件各訂正発明の化合物を使用することができ,発明の課題を解決することができること
生産された化合物の使用方法については,本件明細書の発明の詳細な説明における使用実施例の記載(段落【0136】ないし【0141】)等から理解することができる。とりわけ,ベンゾイルシクロヘキサンジオンには除草作用が認められ,当業者によって色々な化合物の開発が試みられようとしていたのであるから(本件特許明細書の段落【0004】,【0005】,乙16),当業者が本件明細書の記載を見れば,本件各発明の化合物が良好な除草作用を有することを理解し,これを除草剤として使用することができる。
加えて,本件明細書の発明の詳細な説明には本件各訂正発明の効果が十分に記載されているから,実験成績証明書による補足も認められると解すべきところ,本件
各訂正発明は,実験成績証明書(甲23,24,39)で優れた除草効果が証明された化合物及びこれらと構造上類似した化合物のみが記載されたものであるから,本件各訂正発明の化合物は上記の実験成績証明書と同様の除草効果を有するものと推認される。
したがって,当業者は,本件明細書の記載を基に本件各訂正発明の化合物を使用
することができ,発明の課題を解決できることを認識できる範囲の記載がある。イ
無効理由3(乙第1号証を主引例とする進歩性欠如)について

(ア)本件各訂正発明と乙1発明とを対比すると,被告が主張するようにベンゼン環の4位に結合するR2及びX1を介して3位に結合するHetに相違点がある(以下,本件各訂正発明のR2に係る相違点を「相違点1´」といい,Hetに係る相違点を「相違点2´」という。)。
そして,上記2⑶【原告の主張】のとおり,乙1発明に乙2公報記載の化合物の構成を適用する動機付けが存在しないこと,乙1公報及び乙2公報記載の製造方法から本件各訂正発明のX1及びHetの結合を有する化合物は合成できないこと等からすると,相違点1´及び2´に係る本件各訂正の構成を当業者が容易に想到で
きたとはいえない。
したがって,本件各訂正発明は進歩性を有している。
(イ)被告は,乙1発明において,フェノールに代えてヒドロキシオキシラン(甲51)を用いることにより本件各訂正発明に係る化合物を製造できる旨主張するが,乙1公報には,ヒドロキシオキシランについての示唆はなく,フェノールをヒドロキシオキシランに変更する動機付けがない。
【被告の主張】

無効理由1(サポート要件違反)及び無効理由2(実施可能要件違反)につ
いて
仮に,本件訂正が認められたとしても,以下のとおり,無効理由1(サポート要件違反)及び無効理由2(実施可能要件違反)は解消されない。
(ア)本件各訂正発明の化合物を生産することができないこと
本件審決予告に説示されているとおり,そもそも,訂正明細書の発明の詳細な説明には,個別のHetを有する出発物質の入手方法や反応条件等が記載されていないから,出発物質が本件優先日以前に知られていたというだけでは無効理由1(サポート要件違反)及び無効理由2(実施可能要件違反)は解消されない。訂正明細
書の発明の詳細な説明に記載された一般的な合成スキームの範囲内であったとしても,塩基の種類の選択,個別の化合物の反応の実施には,当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤が要求されるというべきである(訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された段落【0132】の合成例と原告の実験成績証明書〔甲32〕の合成例とでも,溶媒,反応温度及び時間等が異なっている。)。

(イ)本件各訂正発明の化合物を使用することができず,発明の課題を解決することができないこと
また,本件各訂正発明の課題は,除草特性が改良された化合物であって,除草剤の有効成分又はその候補化合物となる化合物を提供することであるから,サポート要件との関係では,本件明細書の発明の詳細な説明には,生産された化合物が除草
特性が改良された化合物であることを当業者が理解できる記載がされる必要があり,実施可能要件との関係では,使用方法を理解できる代表的な実施例が記載される必要があると解すべきところ,本件においては,訂正明細書の記載等に基づいて本件各訂正発明に係る化合物を生産することができると仮定しても,それらが必ずしも除草特性に優れるとはいえず,訂正明細書の発明の詳細な説明に,新規化合物である本件各訂正発明に係る化合物が課題を解決できることを裏付ける記載はなく,使用方法を理解できる実施例も記載されていない。実際にも,本件各訂正発明の化合物の中には,十分な効果を有さないものが含まれている(乙27)。したがって,本件訂正によって無効理由1(サポート要件違反)及び無効理由2(実施可能要件違反)が解消されることはない。
なお,本件各訂正発明が訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものであると
いえないことについては,本件各訂正発明と同様に,特定の化学構造を有する個別具体化された化合物に限定しようとした本件分割出願において,特許庁が,特定の化合物A,Bは発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない旨の審決(乙18)をしたことによっても裏付けられている。
(ウ)原告の主張について

これに対して,原告は,本件優先日以後の実験データである実験成績証明書(甲23,24,39)に基づき,本件各訂正発明の化合物もこれらと同様の除草効果を有すると推認される旨主張するが,本件各訂正発明の化合物の使用方法について客観的裏付けとなるような記載が訂正明細書の発明の詳細な説明にされていない本件において,本件優先日以後の実験データが参酌される余地はない。
また,この点を措いても,実験成績証明書(甲23,24,39)には,本件訂正発明1の化合物の多くのものの効果は記載されておらず,構造上類似した化合物であるというだけで同等の効果が期待できるものでもないから,いずれにしても,本件各訂正発明の化合物が優れた除草効果を有するとはいえない。イ
無効理由3(乙第1号証を主引例とする進歩性欠如)について

また,以下のとおり,本件各訂正発明は,当業者が,乙1発明を主引例として,容易に発明をすることができたものであるから,本件各訂正発明についての特許も特許法29条2項に違反し,同法123条1項2号により無効とされるべきである。(ア)乙1発明の内容は,上記2⑶【被告の主張】のとおりであり,本件各訂正発明とは以下の点で相違し,その余の点で一致する。
a
相違点1´

本件各訂正発明では,式Ⅰaの中央ベンゼン環の4位に結合するR2が-S(O)
n
R3(R3が水素又はC1ないしC6アルキルであり,nが1又は2である。構成要件
1C①´ないし③´,同3B´)であるのに対して,乙1発明ではハロゲンの一種である塩素である点。
b
相違点2´

本件各訂正発明では,式Ⅰaの中央ベンゼン環の3位にX1を介して結合するHetが合計18個又は15個の具体的なヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基である(構成要件1F´,同3A´)のに対して,乙1発明ではフェニル基である点。(イ)上記相違点は,以下のとおり容易に克服することができる。除草剤特性を有する化合物において,当該特性を有する既知の化合物のうちの一
部の置換基を変更した種々の化合物を作成し,その効果を確認してみることは当業者に知られていた。
相違点1´については,乙2公報の【請求項2】等に,R2に対応する置換基として「-SO2R4(R4は低級アルキル)」を用いることが記載されているから,本件各訂正発明のR2を乙2公報記載の構成に変更してみる動機付けがあった。
相違点2´についても,本件各訂正発明のHetを,本件優先日前に公知のHetの出発材料に対応する基に変更してみる動機付けがあった。
加えて,本件各訂正発明に係る化合物のうち,X1が-CH2O-であり,Hetがオキシラニルである化合物は,乙1公報記載の製造方法(段落【0032】)に従い,フェノールに代えて,本件優先日に公知であるハイドロキシオキシラン
(甲51)を用いることにより製造することができ,それ以外の化合物の製造も格別困難であったということはできない。
(ウ)また,訂正明細書には,本件各訂正発明に係る化合物の効果は一切記載されておらず,実験成績証明書1,2及び4(甲23,24,39)にも,本件各訂正発明に係る化合物の一部についてしか記載されていないから,本件各訂正発明に係る化合物の効果が当業者の予期しない格別顕著なものとはいえない。クリストファー・ヒュー・ロジンガー博士の陳述書(乙27)においても,本件
各訂正発明に係る化合物の一つである化合物5(X1がCH2OCH2でありHetが3-テトロヒドロフラニルである化合物)につき,十分な除草効果がなかったり,イネに対して35%もの薬害が生じている旨記載されている。
(エ)以上によれば,本件各訂正発明は,当業者が,乙1発明等に基づき,容易に発明することができた。


争点3-3(被告各製品は本件各訂正発明の技術的範囲に属するか)につい

【原告の主張】
被告各製品は,いずれも本件各訂正発明の技術的範囲に属する。
被告各製品が構成要件1E´及び3B´を充足すること,訂正明細書に記載のないテフリルトリオンは訂正訂正発明の技術的範囲に含まれないとはいえないこと,テフリルトリオンを含む除草活性組成物について原告が本件特許権を行使することは信義則に反するとはいえないことについては,上記1【原告の主張】のとおりである。

【被告の主張】
被告各製品は,いずれも本件各訂正発明の技術的範囲に属さない。被告各製品が「X1が酸素により中断されたエチレン鎖」を有しておらず,構成要件1E´及び3B´を充足しないこと,訂正明細書に記載のないテフリルトリオンは本件訂正発明の技術的範囲に含まれないこと,テフリルトリオンを含む除草活
性組成物について原告が本件特許権を行使することは信義則に反することについては,上記1【被告の主張】のとおりである。
4
争点4(被告製品1についての請求は認められるか)について



争点4-1(被告は被告製品1の製造販売等をしているか)について
【原告の主張】
被告は,遅くとも平成22年10月頃から,被告製品1の製造販売等をしている。【被告の主張】
否認する。被告は,被告製品1(テフリルトリオン)を全農から適法に購入している。


争点4-2(被告及び全農らの共同不法行為が成立するか)について
【原告の主張】
被告が被告製品1の製造販売等をしていないとしても,全農の名義による被告製品1の輸入販売等は,テフリルトリオンの共同開発者である被告,全農及び北興化学工業株式会社(以下「北興」という。)が関連共同して行っているものであり,被告及び全農らの共同不法行為(民法719条1項前段)が成立するから,被告は,被告製品1の販売による損害についても損害賠償責任を負う。

被告らの共同不法行為を基礎付ける事情は次のとおりである。

テフリルトリオンの農薬抄録(甲3の1)の各頁のヘッダーには,「本資料
に記載された情報に係る権利及び内容の責任は全国農業協同組合連合会,北興化学工業株式会社及びバイエルクロップサイエンス株式会社にある。」等と記載されているほか,被告,全農及び北興が共同開発者であることが示されているなど,テフリルトリオン原体の製造方法,製造場所及び販売先を被告及び全農らが共同して決定していることが示されていること。

農薬は,登録申請をして農林水産大臣の登録を受けなければ,製造し若しく
は加工し又は輸入することができず(農薬取締法2条1項),農薬登録申請書には,日本で使用する農薬(テフリルトリオン)の製造者,製造場所及び製造方法等を記載しなければならないこと(同条2項)。また,第三者がテフリルトリオンを含有する農薬の登録を受けるためには,農薬登録申請書に記載された農薬原体に関する情報を参照できるように被告らに同意書を発行してもらう必要があること。ウ
農薬のビジネスは,農薬を開発し,薬剤の試験を行い,製造し,販売する関
係者で情報を共有して行われており,第三者が混合剤の農薬(テフリルトリオンに別の成分を追加した農薬)を製造するためには,被告らからテフリルトリオンに関する情報提供を受け,技術指導を受ける必要があること。

被告製品1に不具合があった場合の責任保証は,農薬登録を受けている被告,
全農及び北興が負っていること。

被告が全農から被告製品1の販売利益の配分を受けていること。

なお,被告製品1は,被告自ら使用しないものも含めて被告に販売利益を配分することで輸入されるのであり,被告は,全農を手足として使って被告製品1の輸入販売等をさせている。

被告製品1の輸入販売等に係る商流は被告及び全農らによって独占されてい
ること。

被告製品1の営業行為は被告及び全農らによって共同で行われていること。
【被告の主張】
争う。被告は,全農による被告製品1の輸入販売等について,全農と何ら共同していないから,全農らとの共同不法行為は成立しない。
原告が指摘する事情のうち,農薬抄録(甲3の1)の記載(上記【原告の主張】ア)については,被告製品1の販売過程における被告の関与を示すものではない。
被告は,被告製品1の販売過程において,全農に対して販売先を指示しておらず,また,販売先に対する直接の情報提供等や営業行為もしていない。農薬登録に係る原告の主張(上記【原告の主張】イ)については,そもそも,被告製品1(テフリルトリオン)が農薬の有効成分にすぎず,農薬取締法上の登録が必要な農薬に該当しないから,同法上の登録申請はされていない点で,前提を欠く。
被告が全農から被告製品1の販売利益の配分を受けている点(上記【原告の主張】オ)については,特許第5005852号のテフリルトリオンの物質特許(乙28)を保有する被告に対するロイヤルティの支払としての性質を有するものであり,被告と全農の共同不法行為を基礎付けるものではない。
5
争点5(原告が受けた損害の額)について

【原告の主張】
原告は,本件特許権侵害の不法行為により,又は,被告製品1に係る損害については,被告及び全農らの共同不法行為により,次の⑴ないし⑶の合計19億2918万3720円の損害を被った。


被告製品2について

本件特許の登録日である平成22年9月24日から平成28年9月30日までの原告の損害額は,被告製品2の売上高に実施料率を乗じた実施料相当額(特許法102条3項)であり,以下のとおり,6億7163万5760円である。ア
売上高

公刊されている農薬要覧(甲12,62)及び日本植物調節剤研究会から提供されている「平成28年度
水稲除草剤出荷数量・金額

推定使用面積一覧表」(甲

63。以下,これらを一括して「農薬要覧等」ということがある。)記載の各出荷金額に照らすと,平成22年10月1日から平成23年9月30日までの各農業年度(各年度の前年10月1日から翌年9月30日までの期間)ごとの被告製品2の売上高は別紙被告製品2売上高(原告主張)のとおりであり,この期間の被告製品2の売上総額は83億9544万7000円である。

なお,農薬要覧記載の出荷金額は被告の申告に基づき公表されたものであり,損害額算定の基礎とされるべきものである。
また,被告は,販売代金の一部の返金額(リベート金額)を控除すべきであると主張するが,リベート金額の返金は,被告製品2の販売による特許発明の実施後の事後的な行為にすぎないから損害額算定の基礎となる売上高から控除すべきではな
い。

寄与率
各被告製品2にテフリルトリオン以外の有効成分が含まれているとしても,次の各事情に照らせば,被告製品2の売上に対するテフリルトリオンの貢献度は極めて高く,その寄与率は100%かそれに近いものであるから,寄与率を理由に損害額を減額するのは相当でない。
(ア)被告製品2⑴ないし⑹に含有されるテフリルトリオン以外の有効成分(被告フェントラザミド及びメフェナセット)は,昭和61年又は平成12年に農薬登録された古い成分であり,被告製品2の販売促進に寄与するものではないこと。(イ)被告製品2⑴ないし⑹の技術資料(甲4,5)において,テフリルトリオンの除草作用による効果を製品の主要なポイントとして宣伝されており,被告製品2
はテフリルトリオン含有剤として理解され,販売されていること。(ウ)テフリルトリオンは,稲など作物に対する高い安全性を有しながら,改良された除草作用の特性により,スルホニルウレア抵抗性雑草,難防除雑草,特殊雑草といわれる雑草を含む幅広い雑草に除草性能を有するものであり,近年ではSU抵抗性雑草への効力のない除草剤は顧客による購入は期待できなくなっていること。

実施料率

農薬は,同じような原料,技術で作られ,化学構造も非常によく似ているものが少なくないなどという点で医薬に近いものであるから,本件各発明の特許に対する実施料率を算定するに当たっては,
「バイオ」「医薬」等のロイヤルティ率(甲6

7ないし69)も参考にされるべきである。また,本件各発明は,新規の化学物質の発明であるから,一般的に,比較的に高いライセンス料率が妥当する。さらに,特許法102条3項における実施料率は,ライセンス契約における一般的なライセンス料率よりも高い料率が認められるべきである。
したがって,被告製品2について,本件各発明の特許に対する相当な実施料率は,売上高の8%である。

なお,被告が保有するテフリルトリオンの物質特許(乙28)は,本件特許の後願に当たり,特許法29条の2により無効とされるべきであるから(また,そうでなくても,新規性欠如,進歩性欠如,重複特許の無効理由がある。),第三者がテフリルトリオンを製造・販売する場合には,原告からの実施許諾は必要であっても,被告からの実施許諾は不要である。被告が全農から被告製品1の販売利益の配分を受けているのであれば,原告から実施許諾を受けるためには,それ以上の金額の実施料の支払が必要である。

小括(被告製品2)

以上より,原告の損害額は,被告製品2の売上高83億9544万7000円に8%を乗じた6億7163万5760円である。

被告製品1について

本件特許の登録日である平成22年9月24日から平成28年9月30日までの原告の損害額は,被告製品1の売上高に実施料率を乗じた実施料相当額(特許法102条3項)であり,以下のとおり,11億8754万7960円である。ア
売上高

テフリルトリオン(被告製品1)は日本国内で製造されておらず全て輸入されているから,以下のとおり,テフリルトリオンの総輸入数量から被告製品2の原料として使用されたテフリルトリオンの数量を控除した数量に,テフリルトリオンの推定販売価格(1キログラム当たり万3000円)を乗じた金額が被告製品1の売上総額となる。
(ア)テフリルトリオンの輸入数量

2011年度から2015年度まで(平成22年10月1日から平成27年9月30日まで)のテフリルトリオン(被告製品1)の輸入数量は,合計354.2トンである(甲12,62)。
(イ)被告製品2の原料として使用されたテフリルトリオンの数量2011年度から2016年度まで(平成22年10月1日から平成28年9月
30日まで)の被告製品2の出荷数量は,次表の「合計出荷数量(t,kl)」欄のとおりであり,また,被告製品2のテフリルトリオン含有率は,次表の「テフリルトリオン含有率」欄のとおりであるから,被告製品2の原料として使用されたテフリルトリオン(被告製品1)の数量は,次表の「テフリルトリオン数量(t)」欄のとおり,合計96.0374トンである。
各被告製品2

合計出荷数量(t,kl)

テフリルトリオン
含有率

テフリルトリオン数量(t)

1ボデーガード1キロ粒剤

656.596

3.0%

19.697880

2ボデーガードフロアブル

287.325

5.8%

16.664850

3ボデーガードジャンボ

244.748

7.5%

18.356100

4ポッシブル1キロ粒剤

302.800

3.0%

9.084000

5ポッシブルフロアブル

190.486

5.5%

10.476730

6ポッシブルジャンボ

357.806

6.0%

21.468360

7ボデーガードプロ1キロ粒剤

0.528

3.0%

0.015840

8ボデーガードプロフロアブル

0.310

5.8%

0.017980

9ボデーガードプロジャンボ

0.068

10.0%

0.006800

10カウンシルコンプリート1キロ粒剤

2.508

3.0%

0.075240

11カウンシルコンプリートフロアブル

1.390

5.8%

0.080620

12カウンシルコンプリートジャンボ

0.930

10.0%

0.093000

96.037400

(ウ)売上高
そうすると,被告製品2の原料として使用されたテフリルトリオンを除いたテフリルトリオン(被告製品1)の数量は,258.1626トン(354.2トン-96.0374トン)であり,これに被告製品1の推定販売価格1キログラム当たり2万3000円を乗じた59億3773万9800円が被告製品1の売上総額である。


実施料率

被告製品1について,本件各発明の特許に対する相当な実施料率は,売上高の20%である。

小括(被告製品1)

以上より,原告の損害額は,被告製品1の売上額59億3773万9800円に20%を乗じた11億8754万7960円である。


弁護士費用及び弁理士費用

被告の不法行為(又は共同不法行為)と相当因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用は7000万円を下らない。
【被告の主張】


被告製品2について

否認ないし争う。以下のとおり,原告の被告製品2の製造販売等に係る損害額の計算は誤っており,損害額は●(省略)●を越えることはない。

純売上高

(ア)原告は,農薬要覧等に記載された出荷金額を基に被告製品2の売上高を計算しているが,農薬要覧等に記載された出荷金額は,製品の規格によって製品単価は異なっているにもかかわらず,各製品の出荷総量に最も高額な最小規格の製品単価を乗じて一律に推算した金額である点で,実際の売上高より高額である。また,農薬の流通経路によって製品単価は異なっており,全農を通す経路(系統ルート)よりも全農を通さずに卸売業者を経由する経路(商系ルート)の方が低額であるにもかかわらず,全農が定めた製品単価を用いて計算した金額が記載されている点でも,実際の売上高より高額である。

したがって,農薬要覧等記載の出荷金額を損害額算定の基礎とすることはできず,正確な製品単価に基づき,●(省略)●を控除する必要がある。
(イ)また,被告は,被告製品2の販売代金の一部●(省略)●を事後的にリベート等として返金しているところ,実施料相当額は純売上高を基礎として算定されるべきであるから,被告製品2の純売上高を算定するに当たって,このリベート金額
は控除する必要がある。
(ウ)したがって,被告製品2の純売上高は,原告主張売上総額83億9544万7000円から単価修正額●(省略)●である。
なお,2011年度ないし2016年度(平成22年10月1日から平成28年9月30日まで)の各年度の被告製品2の純売上高は,別紙被告製品2売上高(被
告主張の純売上高)のとおりである。

寄与率
被告製品2にはテフリルトリオン以外の有効成分が含まれており,このテフリルトリオン以外の有効成分が奏する効果も売上に寄与しているから,テフリルトリオンの寄与率は50%を越えることはない。

実施料率

平成21年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書(乙58)において,企業に対するアンケート調査の結果,化学分野における特許権の実施料率の平均値は4.3%とされていること,被告がテフリルトリオンの物質特許(乙28)を保有しており,テフリルトリオンを製造・販売するためには被告から実施許諾を受ける必要があることからすると,本件各発明についての特許の実施料率は4%を超える
ことはない。

小括(被告製品2)

以上より,被告製品2の製造販売等に係る実施料相当額は,被告製品2の純売上高●(省略)●に寄与率50%及び実施料率4%をそれぞれ乗じた●(省略)●を越えることはない。


被告製品1について

否認ないし争う。原告の損害額の計算は,根拠のない推測を主張するものであり,合理性はない。


弁護士費用及び弁理士費用について

争う。
第4

当裁判所の判断

1
本件各発明及び本件各訂正発明について



本件明細書の発明の詳細な説明の記載

本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある(本件訂正請求による訂正箇所を括弧内に付記した。なお,下線部は訂正箇所である。)。

背景技術,発明が解決しようとする課題,式Ⅰの化合物等についての記載
「【0001】
本発明は,式I
【0002】
【化5】

[但し,R1及びR2が,それぞれ水素,メルカプト,ニトロ,ハロゲン,シアノ,チオシアナト,C1~C6アルキル,C1~C6ハロアルキル,C1~C6アルコキシ,C2~C6アルケニル,C2~C6アルキニル,-OR3,-OCOR3,-OSO2R3,-S(O)nR3,-SO2OR3,-SO2N(R3)2,-NR3SO2R3又は-NR3COR3を表し;

R3が水素,C1~C6アルキル,C1~C6ハロアルキル,C2~C6アルケニル,C2~C6アルキニル,フェニル又はフェニルC1~C6アルキルを表し,且つ上述のアルキル基は部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又は1~3個の下記の基:ヒドロキシル,メルカプト,アミノ,シアノ,R3,-OR3,-SR3,-N(R3)2,=NOR3,-OCOR3,-SCOR3,-NR3COR3,
-CO2R3,-COSR3,-CON(R3)2,C1~C4アルキルイミノオキシ,C1~C4アルコキシアミノ,C1~C4アルキルカルボニル,C1~C4アルコキシC2~C6アルコキシカルボニル,C1~C4アルキルスルホニル,ヘテロシクリル,ヘテロシクリルオキシ,フェニル,ベンジル,ヘテロアリール,フェノキシ,ベンジルオキシ及びヘテロアリールオキシ(最後の8個の基は置換されていても良い)
を有していても良く;
nが0,1又は2を表し;
Qが,2位で結合する,置換基を有していても良いシクロヘキサン-1,3-ジオン環を表し;
X1が直鎖又は分岐C1~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖又はC2~C6
アルキニレン鎖{これら鎖は,酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により遮
断されている}を表し(判決注:本件訂正請求により,この「X1が…を表し」の部分は「X1が直鎖又は分岐C2~C6アルキレン鎖,C3~C6アルケニレン鎖又はC3~C6アルキニレン鎖{これら鎖は,酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により中断されている}を表し」と訂正されている。),且つ上述のアルキル,アルケニル又はアルキニル基は,部分的にハロゲン化されていても,及び/又は1~
3個の下記の基:-OR4,-OCOR4,-OCONHR4又は-OSO2R4から選択される基を有していても良く;
R4が水素,C1~C6アルキル,C2~C6アルケニル,C2~C6アルキニル,フェニル又はフェニルC1~C6アルキルを表し,且つ上述のアルキル,アルケニル又はアルキニル基は部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又は1個
以上の下記の基:ヒドロキシル,メルカプト,アミノ,シアノ,ニトロ,ホルミル,C1~C4アルキルアミノ,C1~C4ジアルキルアミノ,C1~C4アルコキシカルボニル,C1~C4アルキルカルボニル,C1~C4アルキルカルボニルオキシ,C1~C4アルキル,C1~C4ハロアルキル,C1~C4アルキルチオ,C1~C4ハロアルキルチオ,C1~C4アルコキシ,C1~C4ハロアルコキシから選択される基
で置換されていても良く;
Hetが,3~6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は3~6員のヘテロ芳香族基{これら基は,下記の3個の群:窒素,酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択されるヘテロ原子を3個まで有する}を表し,且つ上述のヘテロシクリル基又はヘテ
ロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又はR5で置換されていても良く;
R5が水素,ヒドロキシル,メルカプト,アミノ,シアノ,ニトロ,ホルミル,C1
~C4アルキルアミノ,C1~C4ジアルキルアミノ,C1~C4アルコキシカルボ
ニル,C1~C4アルキルカルボニル,C1~C4アルキルカルボニルオキシ,C1~C4アルキル,C1~C4ハロアルキル,C1~C4アルキルチオ,C1~C4ハロアルキルチオ,C1~C4アルコキシ,C1~C4ハロアルコキシを表し,且つ上記アルキル基は,それぞれ1個以上の下記の基:シアノ,ホルミル,C1~C4アルキルアミノ,C1~C4ジアルキルアミノ,C1~C4アルコキシカルボニル,C1~C4
アルキルカルボニル,C1~C4アルキルカルボニルオキシ,C1~C4アルキル,
C1~C4ハロアルキル,C1~C4アルキルチオ,C1~C4ハロアルキルチオ,C1
~C4アルコキシ,C1~C4ハロアルコキシで置換されていても良い]
で表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はその農業上有用な塩に関する。
【0003】
さらに本発明は,式Iの化合物を製造する方法及びそのための中間体,化合物Iを含む組成物,式Iの化合物の使用,並びに有害植物防除用としての化合物Iを含む組成物に関する。
【0004】
2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオンは,文献,例えばEP-A278742,EP-A298680,EP-A320864及びWO96/14285
に開示されている。
【0005】
しかしながら,従来技術の化合物が示す除草特性及びその栽培植物の安全性は,完全に満足できるものではない。
【0006】

本発明の目的は,新規な,特に除草作用において,特性が改良された化合物を提供することにある。
【0007】
本発明者等は,この目的が式Iの2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン及びその除草作用により達成されることを見出した。
【0008】
さらに本発明者等は,化合物Iを含み極めて良好な除草作用のある除草剤組成物を見出した。さらに,本発明者等は,これら組成物を製造する方法及びこの化合物Iを用いて望ましくない植生を制御する方法を見出した。」
「【0014】
Qは2位で結合する式II

【0015】
【化6】

で表され,さらに互変異性体II’及びII”
【0016】
【化7】

も表すシクロヘキサン-1,3-ジオン環である場合の,本発明の式Iで表される化合物が特に重要である:
[但し,R6,R7,R9及びR11が,それぞれ水素又はC1~C4アルキルを表し;
R8が水素,C1~C4アルキル又はC3~C4シクロアルキル{最後の2個の基は1~3個の下記の基:ハロゲン,C1~C4アルキルチオ又はC1~C4アルコキシから選択される置換基を有していても良い}を表し,或いは
テトラヒドロピラン-2-イル,テトラヒドロピラン-3-イル,テトラヒドロピラン-4-イル,テトラヒドロチオピラン-2-イル,テトラヒドロチオピラン-
3-イル,テトラヒドロチオピラン-4-イル,1,3-ジオキソラン-2-イル,1,3-ジオキサン-2-イル,1,3-オキサチオラン-2-イル,1,3-オキサチアン-2-イル,1,3-ジチオラン-2-イル又は1,3-ジチアン-2-イル{最後の6個の基は1~3個のC1~C4アルキル基で置換されていても良い}を表し;

R10が水素,C1~C4アルキル又はC1~C6アルコキシカルボニルを表し,又はR8とR11が合体して,π結合又は3~6員の炭素環を形成し;又は上記CR8R9単位が,C=Oで置き換わっていても良い]。」

式Ⅰの化合物の合成方法についての記載

「【0017】
方法A:
式IIのシクロヘキサン-1,3-ジオンを,好ましくは系内で活性化される活性化カルボン酸IIIa又はカルボン酸IIIbと反応させ,アシル化生成物IVを得,次いで本発明の式Iの化合物に転位させる反応。
【0018】

【化8】

L1は求核置換可能な脱離基であり,例えばハロゲン(例えば,臭素,塩素),ヘテロアリール(例えば,イミダゾリル,ピリジル),又はカルボキシラート(例えば,酢酸,トリフルオロ酢酸)等が挙げられる。
【0019】
活性化カルボン酸を,ハロゲン化アシルの場合のように直接使用することができ,或いは系内で,例えばジシクロヘキシルカルボジイミド,トリフェニルホスフィン/アゾジカルボン酸エステル,2-ピリジンジスルフィド/トリフェニルホスフィン,カルボニルジイミダゾール等を用いて発生させることができる。【0020】
塩基の存在下にアシル化反応を行うことが有利であろう。出発材料及び補助塩基を,等モル量で使用することが有利である。特定の条件では,IIに対して僅かに過剰の,例えば1.2~1.5モル等量の補助塩基が有利であろう。

【0021】
好適な補助塩基は,第三級アルキルアミン,ピリジン又はアルカリ金属炭酸塩である。使用することができる溶剤の例としては,塩素化炭化水素(例えば,塩化メチレン,1,2-ジクロロエタン),芳香族炭化水素(例えば,トルエン,キシレン,クロロベンゼン),エーテル(例えば,ジエチルエーテル,メチルtert-ブチ
ルエーテル,テトラヒドロフラン,ジオキサン),非プロトン性極性溶剤(例えば,アセトニトリル,ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド),又はエステル(例えば,酢酸エチル),或いはこれらの混合物が挙げられる。
【0022】
ハロゲン化アシルを,活性化カルボン酸成分として使用した場合,この反応材料を
添加した際に反応混合物を0~10℃に冷却することが有利である。次いで,混合物を20~100℃,好ましくは25~50℃で,反応が完結するまで撹拌する。後処理は,慣用法で行われ,例えば反応混合物を水に注ぎ,所望の生成物を抽出する。この目的に特に好適な溶剤は,塩化メチレン,ジエチルエーテル及び酢酸エチルである。有機層を乾燥し,溶剤を除去した後,式IVの粗エノールエステルが,
好ましくはクロマトグラフィー処理することにより精製される。或いは,転位反応を行うために,式IVの粗エノールエステルを,さらに精製することなく用いることも可能である。
【0023】
式IVの粗エノールエステルを反応させて式Iの化合物に転位させる反応は,塩基の存在下,また適宜シアノ化合物の存在下,溶剤中,20~40℃で行われることが有利である。
【0024】
使用することができる溶剤の例としては,アセトニトリル,塩化メチレン,1,2-ジクロロエタン,ジオキサン,酢酸エチル,トルエン,又はこれらの混合物である。好ましい溶剤は,アセトニトリル及びジオキサンである。

【0025】
適当な塩基は,第三級アミン(例えば,トリエチルアミン,ピリジン),又はアルカリ金属炭酸塩(例えば,炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム)であり,これら塩基は上記エステルに対して等モル量で,又は4倍量までの過剰量で使用することが好ましい。トリエチルアミン又はアルカリ金属炭酸塩を用いることが好ましい。
【0026】
適当なシアノ化合物は,シアン化ナトリウム,シアン化カリウム等の無機シアン化物,及びアセトンシアノヒドリン,トリメチルシリルシアニド等の有機シアノ化合物である。これらは,上記エステルに対して1~50モル%の量で使用される。アセトンシアノヒドリン又はトリメチルシリルシアニドを使用することが好ましく,
例えば上記エステルに対して,5~15モル%,好ましくは10モル%の量で使用される。
【0027】
特に,アルカリ金属炭酸塩,例えば炭酸カリウムを,アセトニトリル又はジオキサン中で用いることが好ましい。

【0028】
後処理は,それ自体公知の方法で行われる。例えば,反応混合物を希薄な鉱酸(例えば,5%濃度の塩酸又は硫酸)で酸性化し,有機溶剤(例えば,塩化メチレン又は酢酸エチル)で抽出する。有機層を,5~10%濃度アルカリ金属炭酸塩溶液(例えば,炭酸ナトリウム溶液又は炭酸カリウム溶液)で抽出することができる。水層を酸性化し,形成した沈殿を吸引ろ過及び/又は塩化メチレン若しくは酢酸エチルで抽出し,乾燥し,そして濃縮する。」
「【0039】
式IIIa(L1がハロゲン)の化合物は,文献…により知られている類似の方法により,式IIIbの安息香酸を,ハロゲン化剤(例えば,塩化チオニル,臭化チオニル,ホスゲン,ジホスゲン,トリホスゲン,塩化オキサリル及び臭化オキサリ
ル)と反応させて合成することができる。
【0040】
式IIIbの安息香酸は,特に式IIIcの安息香酸エステル(MがC1~C6アルコキシ)を加水分解することにより得ることができる。
【0041】

本発明の式IIIcで表される安息香酸エステルは,下記の例に記載されているように,文献…公知の種々の方法により製造することができる。
【0042】
方法B:
安息香酸エステルVaを適当な求核試薬VIで置換して,本発明の安息香酸エステ
ルIIIcを得る;
【0043】
【化13】

[但し,M,R1及びR2が,それぞれ上記と同義であり,
L2が適当な求核置換可能な脱離基,例えばハロゲン(例えば,臭素,塩素),ヘテロアリール(例えば,イミダゾリル,ピリジル),カルボキシラート(例えば,アセタート,トリフルオロアセタート),スルホナート(例えば,メシラート,トリフラート)等を表し,
X2が,炭素原子が少なくとも1個で,最大5個の,直鎖又は分枝アルキレン鎖,アルケニレン鎖又はアルキニレン鎖{上述のアルキレン基,アルケニレン基又はアルキニレン基は,部分的にハロゲン化されていても,及び/又は1~3個の下記の基:-OR4,-OCOR4,-OCONHR4又は-OSO2R4から選択される基
を有していても良い}を表し,
X3が,最大5個の炭素原子を有する,直鎖又は分枝アルキレン鎖,アルケニレン鎖又はアルキニレン鎖{上述のアルキレン基,アルケニレン基又はアルキニレン基は部分的にハロゲン化されていても,及び/又は1~3個の下記の基:-OR4,-OCOR4,-OCONHR4又は-OSO2R4から選択される基を有していて
も良い}を表し,且つはX2OX3は基X1を形成する]。
【0044】
一般に,出発材料は等モル量で用いられる。しかしながら,過剰量の出発材料又は他の成分を使用することが有利であろう。
【0045】

適宜,反応を塩基の存在下で行うことが有利であろう。出発材料及び補助塩基は,等モル量で用いることが有利である。特定の場合,Vaに対して,過剰量の補助塩基,例えば1.5~3モル等量用いることが有利であろう。
【0046】
適当な補助塩基は,第三級アルキルアミン(例えば,トリエチルアミン,ピリジン),アルカリ金属炭酸塩(例えば,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム),アルカリ金属水素化物(例えば,水素化ナトリウム)である。トリエチルアミン,ピリジン及び炭酸カリウムを用いることが好ましい。
【0047】
適当な溶剤の例としては,塩素化炭化水素(例えば,塩化メチレン,1,2-ジクロロエタン),芳香族炭化水素(例えば,トルエン,キシレン,クロロベンゼン),
エーテル(例えば,ジエチルエーテル,メチルtert-ブチルエーテル,テトラヒドロフラン,ジオキサン),非プロトン性極性溶剤(例えば,アセトニトリル,ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド),又はエステル(例えば,酢酸エチル),或いはこれらの混合物である。
【0048】

一般に反応温度は,0℃~反応混合物の沸点の間である。
【0049】
後処理は,それ自体公知の方法で行われる。
【0050】
方法C:

適当な置換ヘテロシクリルVIIを安息香酸エステルVbで置換して,本発明の安息香酸エステルIIIcを得る;
【0051】
【化14】

[但し,M,R1及びR2が,それぞれ上記と同義であり,
L2が適当な求核置換可能な脱離基,例えばハロゲン(例えば,臭素,塩素),ヘテロアリール(例えば,イミダゾリル,ピリジル),カルボキシラート(例えば,アセタート,トリフルオロアセタート),スルホナート(例えば,メシラート,トリフラート)等を表し,
X2が,炭素原子が少なくとも1個で,最大5個の,直鎖又は分枝アルキレン鎖,アルケニレン鎖又はアルキニレン鎖{上述のアルキレン基,アルケニレン基又はアルキニレン基は,部分的にハロゲン化されていても,及び/又は1~3個の下記の基:-OR4,-OCOR4,-OCONHR4又は-OSO2R4から選択される基
を有していても良い}を表し,
X3が,最大5個の炭素原子を有する,直鎖又は分枝アルキレン鎖,アルケニレン鎖又はアルキニレン鎖{上述のアルキレン基,アルケニレン基又はアルキニレン基は部分的にハロゲン化されてても,及び/又は1~3個の下記の基:-OR4,-OCOR4,-OCONHR4又は-OSO2R4から選択される基を有していても
良い}を表し,且つはX2OX3は基X1を形成する]。
【0052】
一般に,出発材料は等モル量で用いられる。しかしながら,過剰量の出発材料又は他の成分を使用することが有利であろう。
【0053】

適宜,反応を塩基の存在下で行うことが有利であろう。出発材料及び補助塩基は,等モル量で用いることが有利である。特定の場合,VIIに対して,過剰量の補助塩基,例えば1.5~3モル等量用いることが有利であろう。
【0054】
適当な補助塩基は,第三級アルキルアミン(例えば,トリエチルアミン,ピリジン),アルカリ金属炭酸塩(例えば,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム),アルカリ金属水素化物(例えば,水素化ナトリウム)である。トリエチルアミン,ピリジン及び炭酸カリウムを用いることが好ましい。
【0055】
適当な溶剤の例としては,塩素化炭化水素(例えば,塩化メチレン,1,2-ジクロロエタン),芳香族炭化水素(例えば,トルエン,キシレン,クロロベンゼン),
エーテル(例えば,ジエチルエーテル,メチルtert-ブチルエーテル,テトラヒドロフラン,ジオキサン),非プロトン性極性溶剤(例えば,アセトニトリル,ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド),又はエステル(例えば,酢酸エチル),或いはこれらの混合物である。
【0056】

一般に反応温度は,0℃~反応混合物の沸点の間である。
【0057】
後処理は,それ自体公知の方法で行われる。」

式Ⅰの化合物のうち重要とされる化合物についての記載

「【0058】
本発明の式Iで表される以下の化合物が重要である。即ち,基X1が,1個の他の酸素又は硫黄原子を含むC1~C2アルキレン鎖又はC2アルケニレン鎖を表し,Hetが,3~6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は窒素,酸素及び硫黄から選択される3個までのヘテロ原子を有する,3~6員のヘテロ芳香族基{このヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化
されていても,及び/又はR5で置換されていても良い}を表す。【0059】
さらに,本発明の式Iで表される以下の化合物が重要である。即ち,Hetが,5員若しくは6員の部分飽和若しくは完全飽和のヘテロシクリル基,又は窒素,酸素及び硫黄から選択される3個までのヘテロ原子を有する,5員若しくは6員のヘテロ芳香族基{このヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又はR5で置換されていても良い}を表し;R5が水素,ヒドロキシル,メルカプト,アミノ,シアノ,ニトロ,ホルミル,C1~C4
アルキルアミノ,C1~C4ジアルキルアミノ,C1~C4アルコキシカルボニル,
C1~C4アルキルカルボニル,C1~C4アルキルカルボニルオキシ,C1~C4アルキル,C1~C4ハロアルキル,C1~C4アルキルチオ,C1~C4ハロアルキルチオ,C1~C4アルコキシ,C1~C4ハロアルコキシを表し,且つ上記アルキル基は,それぞれ1個以上の下記の基:シアノ,ホルミル,C1~C4アルキルアミノ,C1~C4ジアルキルアミノ,C1~C4アルコキシカルボニル,C1~C4アルキルカルボニル,C1~C4アルキルカルボニルオキシ,C1~C4アルキル,C1~C4ハロアルキル,C1~C4アルキルチオ,C1~C4ハロアルキルチオ,C1~C
4
アルコキシ,C1~C4ハロアルコキシで置換されていても良い。」エ
用語の定義又は例示の記載

段落【0061】には,用語の定義又は例示が示されており,「ヘテロシクリル,及びヘテロシクリルオキシのヘテロシクリル基」について,「酸素,窒素及び硫黄原子から選ばれる1~3個のヘテロ原子を有する3~7員の飽和又部分不飽和の単環もしくは多環ヘテロシクリル」の例として,本件各訂正発明の構成要件1F´又は同3A´に列挙されているHetのうち,「オキシラニル」,「2-テトラヒドロフラニル」,「3-テトラヒドロフラニル」,「2-テトラヒドロチエニル」,「2-ピロリジニル」,「2-テトラヒドロピラニル」が記載され,また,「ヘテロアリール,及びヘテロアリールオキシのヘテロアリール基」について,「炭素環
員とは別に,1~4個の窒素原子,又は1~3個の窒素原子と1個の酸素又は硫黄原子,又は1個の酸素原子,又は1個の硫黄原子をさらに有していても良い芳香族の単環もしくは多環基」の例として,本件各訂正発明の構成要件1F´又は同3A´に列挙されているHetのうち,「2-ピロリル」,「5-イソオキサゾリル」,「2-オキサゾリル」,「5-オキサゾリル」,「2-チアゾリル」,「2-ピリジニル」が記載されている。

式Ⅰの化合物のうち除草剤として使用する観点から好ましい化合物について
の記載
「【0063】
本発明の式Iの化合物を除草剤として使用する観点から,上記記号が,それぞれ単独で又は組み合わせて下記の意味を有することが好ましい:
…X1が直鎖又は分岐C1~C4アルキレン鎖,C2~C4アルケニレン鎖又はC2~C4アルキニレン鎖,特に好ましくはエチレン,プロピレン,プロペニレン又はプロピニレン鎖{これらの鎖は,酸素又は硫黄(好ましくは酸素)から選択されるヘテロ原子により遮断されている}を表し(判決注:この「X1が…を表し」の部分は,本件訂正請求により「「X1が直鎖又は分岐C2~C4アルキレン鎖,C3~C4
アルケニレン鎖又はC3~C4アルキニレン鎖,特に好ましくはエチレン,プロピレン,プロペニレン又はプロピニレン鎖{これらの鎖は,酸素又は硫黄(好ましくは酸素)から選択されるヘテロ原子により中断されている}を表し」」と訂正されている。),且つ上述のアルキレン,アルケニレン又はアルキニレン基は,部分的にハロゲン化されていても,及び/又は1~3個の下記の基:-OR4,-OCO
R4,-OCONHR4又は-OSO2R4から選択される基を有していても良く;R4が水素,C1~C6アルキル,C1~C6ハロアアルキル,特に好ましくは水素,メチル,エチル又はトリフルオロメチルを表し;
R5が水素,ヒドロキシル,メルカプト,アミノ,シアノ,ニトロ,ホルミル,C1
~C4アルキルアミノ,C1~C4ジアルキルアミノ,C1~C4アルコキシカルボ
ニル,C1~C4アルキルカルボニル,C1~C4アルキルカルボニルオキシ,C1~C4アルキル,C1~C4ハロアルキル,C1~C4アルキルチオ,C1~C4ハロアルキルチオ,C1~C4アルコキシ,C1~C4ハロアルコキシを表し,且つ上記アルキル基は,それぞれ1個以上の下記の基:シアノ,ホルミル,C1~C4アルキルアミノ,C1~C4ジアルキルアミノ,C1~C4アルコキシカルボニル,C1~C4
アルキルカルボニル,C1~C4アルキルカルボニルオキシ,C1~C4アルキル,
C1~C4ハロアルキル,C1~C4アルキルチオ,C1~C4ハロアルキルチオ,C1
~C4アルコキシ,C1~C4ハロアルコキシで置換されていても良い。」カ
式Ⅰaの化合物についての記載

「【0067】
R1がベンゼン環の2位に,そしてR2がベンゼン環の4位に結合する式Iaで表される化合物が特に好ましい。
【0068】
【化15】

以下の式Iaで表される化合物が最も好ましい。即ち,置換基R1,R2及びQがそれぞれ上記と同義であり,X1が,1個の他の酸素原子を含むC1~C2アルキレン鎖又はC2アルケニレン鎖を表し(判決注:この「X1が…表し」の部分は,本件訂正請求により,「X1が,1個の他の酸素原子を含むC1~C2アルキレン鎖又はC2アルキニレン鎖を表し」と訂正されている。),そしてHetが,3~6員,好ましくは5員又は6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は下記の3個の群:即ち,窒素,酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄
と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,特に好ましくは以下の2個の群:即ち,窒素,又は酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択される3個まで,特に好ましくは1個又は2個のヘテロ原子を有する,3~6員,好ましくは5員又は6員のヘテロ芳香族基を表し,且つこのヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又はR5で置換されていても良い。
【0069】
さらに,以下の,本発明の式Iaで表される化合物が極めて最も好ましい。即ち,置換基R1,R2及びX1がそれぞれ上記と同義であり,Hetが,5員又は6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は下記の3個の群:即ち,窒素,
酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,特に好ましくは以下の2個の群:即ち,窒素,又は酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択される3個まで,特に好ましくは1個又は2個のヘテロ原子を有する,5員又は6員のヘテロ芳香族基,を表し,且つこのヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても,
及び/又はR5で置換されていても良い。」

【表1】ないし【表36】(表A)の式Ⅰbの化合物についての記載
「【0070】
下記の表1~36の化合物Ibが特に好ましい。」
段落【0071】には,【表1】ないし【表36】の〔表A〕において,920通りのX1とHetの組合せが記載されている。
なお,表中には,X1について,OCH2,CH2O,OCH2CH2,CH2CH2
O,CH2OCH2,CH2OCH2CH=CH,CH=CHCH2O,C≡C-C
H2Oの合計8個が記載されており,Hetについて,本件各訂正発明の構成要件1F´又は3A´に記載されているもののうち,「オキシラニル」,「2-オキセタニル」,「3-オキセタニル」,「2-ピロリル」,「5-イソオキサゾリル」,「2-オキサゾリル」,「5-オキサゾリル」,「2-チアゾリル」,「2-ピリジニル」,「1-メチル-5-ピラゾリル」を含む合計115個が記載されている。(また,本件訂正請求により,表中に「実施例」か「参考例」かを記載する訂正がされた。)
「【0072】
下記の表1~36は,式Ibで表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオンに基づくものである。
【0073】



除草剤用途についての記載

「【0109】
化合物I及びその農業上有用な塩は,異性体混合物,また純粋な異性体の形態で,除草剤として好適である。Iを含む除草剤組成物は,非栽培領域の植生の制御に,特に高い施与率で効果的である。これらの組成物は,オオムギ,米,トウモロコシ,大豆,及び綿花等の作物の中に広範囲に残った雑草及び牧草に対して,栽培植物に損傷を与えることなく作用する(判決注:この「これらの…作用する」の部分は,
本件訂正請求により,「これらの組成物は,オオムギ,米,トウモロコシ,大豆,及び綿花等の作物の中の広葉の雑草及びイネ科の雑草…に対して,栽培植物に損傷を与えることなく作用する。」と訂正された。)。この効果は,主に低施与率で観察される。」
「【0129】

有効化合物(物質)の施与率は,施与目的,季節,対象の植物および成長段階に応じて,1ヘクタールあたり0.001~3.0kgの有効物質(a.s.)の量,好ましくは0.01~1.0kgの量である。」

合成実施例の記載

「【0130】
出発材料と生成物の幾つかの合成を,以下に記載する。
【0131】
{2-クロロ-3-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]-4-メチルスルホニルフェニル}{5,5-ジメチル-1,3-ジオキソ-シクロヘキサ-2-イル}メタノン
工程a:2-クロロ-3-ブロモメチル-4-メチルスルホニル安息香酸メチル
80g(0.3モル)の2-クロロ-3-メチル-4-メチルスルホニル安息香酸メチル,54g(0.31モル)のN-ブロモスクシンイミド及び1.5gのアゾイソブチロニトリルを,76℃で6時間撹拌した。反応混合物をろ過し,そして減圧下に溶剤を除去した。収量:104g;融点:83~85℃。
【0132】

工程b:2-クロロ-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]-4-メチルスルホニル安息香酸メチル
4.3g(44ミリモル)の1-メチル-5-ヒドロキシピラゾール,9.1gの炭酸カリウム及び100mlのテトラヒドロフランを,65℃で1時間加熱した。この混合物に,15g(44ミリモル)の2-クロロ-3-ブロモメチル-4-メ
チルスルホニル安息香酸メチル及び150mlのテトラヒドロフランを添加し,40℃で4時間加熱した。この混合物を,12時間撹拌し,減圧下に溶剤を除去し,酢酸エチルに溶解し,炭酸水素ナトリウム溶液及び水で洗浄し,乾燥し,そして溶剤を除去した。粗生成物を,シリカゲル上で精製した(溶離液:シクロヘキサン/酢酸エチル=1/1)。収量:7.6g;融点70℃。

【0133】
工程c:2-クロロ-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]-4-メチルスルホニル安息香酸
30mlのテトラヒドロフランと30mlの水との混合物中の,6.95g(19ミリモル)の2-クロロ-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]-4-メチルスルホニル安息香酸メチルを,0.93gの水酸化リチウムを用いて室温で12時間処理した。10%濃度塩酸を用いて反応混合物のpHを4に調整し,塩化メチレンで抽出した。有機層を乾燥し,溶剤を除去した。収量:4.3g;融点197℃。
【0134】
工程d:{2-クロロ-3-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]
-4-メチルスルホニルフェニル}{5,5-ジメチル-1,3-ジオキソ-シクロヘキサ-2-イル}メタノン
50mlのアセトニトリル中の,1.0g(2.9ミリモル)の2-クロロ-3-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]-4-メチルスルホニル安息香酸,0.4g(2.9ミリモル)のジメドン及び0.72gのN,N-ジシク
ロヘキシルカルボジイミドを,40℃で4時間加熱した。反応混合物を室温で12時間撹拌させた後,0.87gのトリエチルアミン及び0.57gのトリメチルシリルニトリルを添加した。その後,反応混合物を40℃で6時間加熱し,ろ過し,減圧下に溶剤を除去し,そして残留物をシリカゲル上で精製した(溶離液:トルエン/テトラヒドロフラン/酢酸:100/0/0~4/1/0.1)。収量:0.
25g;融点82℃。」

表37の化合物についての記載

【0135】


使用実施例の記載

「【0136】
式Iで表される置換2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオンの除草作用を下記の温室実験で示した。
【0137】
プラスチック植木鉢を栽培容器として用い,約3.0%の腐葉土を含むローム質砂を培養基とした。被検植物の種子を種類ごとに播種した。
【0138】
事前法…により,水中に懸濁または乳化させた有効成分を,種子を撒いた後に微細散布ノズルを使用して直接撒布した。出芽と成長を促進させるために容器を軽く灌水し,次いで植物が根付くまで透明のプラスチックの覆いを被せた。有効成分により害が与えられない限り,この被覆が被検植物の均一な出芽をもたらす。【0139】
事後法…により,被検植物を,発育型によるが,草丈3~15cmとなった後,水中に懸濁または乳化させた有効成分で処理することのみを行った。この目的のため,被検植物を直接播種し同一の容器で栽培することも,当初は別々に苗として植え,
処理の行われる2~3日前に試験用容器に移植することも可能である。【0140】
各被検植物を種類により,10~25℃または20~35℃に保持し,実験期間を2~4週間とした。この間,被検植物を管理し,個々の処理に対する反応を評価した。

【0141】
0~100の尺度を用いて評価を行った。この尺度において100は植物が全く出芽しないか,或いは少なくとも地上に出ている部分の全てが破壊してしまったことを示し,0は全く被害がなく正常な成長を遂げたことを示す。」


本件特許の出願経過

後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の出願経過について次の各事実が認められる。

本件特許は平成10年8月5日に出願され,平成13年9月11日に国内公
表されたが,平成21年3月6日を起案日とする拒絶理由通知を受け,原告は,同年7月9日,当時の請求項1について,構成要件1Eに対応する部分の記載を,「X1が酸素により中断された,直鎖又は分岐のC2~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖,またはC2~C6アルキニレン鎖,或いは-OCH2-または-CH2O-を表し」(判決注:下線部は補正箇所。以下同じ。)と補正し,当時の請求項6ないし8について,「【請求項6】除草有効量の,請求項1~3のいずれかに記載の式Iaで表される少なくとも1種の2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はIaの農業上有用な塩,及び栽培植物保護剤の調製に慣用される助剤を含む組成物。【請求項7】除草有効量の,請求項1~3のいずれかに記載の式Iaで表される少なくとも1種の2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はIaの農業上有用な塩,及び栽培植物保護剤の調製に慣用される助剤を混合する工程を含む,請求項6に記載の除草活性組成物を製造する方法。【請求項8】除草有効量の,請求項1~3のいずれかに記載の式Iaで表される少なくとも1種の2-
ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はIaの農業上有用な塩を,植物,その生息環境及び/又は種子に作用させる工程を含む,望ましくない植生の制御方法。」と補正する旨の手続補正書を提出した(乙12,13)。

これに対して,審査官は,平成21年8月27日を起案日とする拒絶理由通
知書により,上記アの補正に係る請求項1について,特許法36条6項2号の要件を満たしてないとして,次の事項を指摘した。
「X1の定義における「酸素により中断された,直鎖又は分岐のC2~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖,またはC2~C6アルキニレン鎖」とは,その記載から,両側が炭素原子に挟まれた酸素原子を有するもののみを意図するものと解されるから,CH2OCH2等がこれに該当し,OCH2CH2,CH2CH2O,
CH=CHCH2O等のように,両側が炭素原子に挟まれていない酸素原子を有するものは請求項1及び2の要件を満足しないものと考えられる(補正後の請求項1は,当該判断に基づいて,OCH2,CH2Oを別に規定したものと推察される。)。」(以上につき,乙14)

また,審査官は,上記アの補正に係る請求項6ないし8(従前の請求項6な
いし8)について,上記拒絶理由通知書により,特許法36条4項,同条6項1号の要件を満たしていないとして,次の事項を指摘した。
「出願人は平成21年7月9日付け意見書の【表2】及び【表3】において,除草活性を示すデータを記載し,これにより一般式Iaの除草剤効果は裏付けられた旨主張する。しかし,本願当初明細書の段落【0136】-【0141】には評価方法についての漠然とした記載があるのみで,一般式Iaに記載される広範な化合物のうちどれを除草活性試験に供したのか明らかでないし,【表2】及び【表3】の実験結果に基づく定性的な記載すら本願明細書には何ら見当たらない。また,【表3】に記載されたNo.37.9及び37.10の化合物は,本願当初明細書の実施例において具体的に製造された化合物ではなく,そもそも段落【0071】に例示された化合物ともいえない。そうすると,【表2】及び【表3】の除草活性
試験結果が,本願明細書の記載を敷衍補強するものとは認められない。したがって,意見書における試験結果が,一般式Iaで示される化合物に含まれる一部の化合物の除草活性を示すものであっても,当該試験結果は本願明細書の記載に基づくものではないから,上記試験結果が本願明細書の記載不備を治癒するに足りるものと解することはできない。」(以上につき,乙14)

これに対し,原告は,平成21年12月24日,意見書において,「X1の
規定につきまして,一方の端部に酸素を有する基は酸素により中断された基に当たらないとご指摘を受けまして,前述の本願化合物の好ましい例を記載した表Aに記載されている端部に酸素を有する基を全て,請求項1におけるX1の基として記載しました」と述べ,同日付け誤訳訂正書により,特許請求の範囲の請求項1について,構成要件1Eに対応する部分の記載を,「X1が酸素により中断された,直鎖又は分岐のC2~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖,またはC2~C6アルキニレン鎖,或いは-OCH2-,-CH2O-,-OCH2CH2-,-CH2CH2
O-,-CH=CHCH2O-又は-CH≡CHCH2O-を表し」と補正した
(乙15,弁論の全趣旨)。

また,原告は,上記エの誤訳訂正書により,従前の請求項6ないし8を削除
する旨の補正をした(乙15,弁論の全趣旨)。

その後,原告は,平成22年3月10日を起案日とする拒絶査定を受け,同
年7月15日に拒絶査定不服審判請求をするとともに,同日に誤訳訂正書,同月23日に手続補正書(乙9)をそれぞれ提出し,同年9月24日,請求項1について,構成要件1Eに対応する部分の記載を,「X1が酸素により中断された,直鎖又は分岐のC2~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖,またはC2~C6アルキニレン鎖,或いは-OCH2-,-CH2O-,-OCH2CH2-,-CH2CH2
O-,-CH=CHCH2O-又は-C≡CCH2O-を表し」として特許登録さ
れた(甲2の1)。その後の訂正審判事件(訂正2012-390175)における平成25年3月14日付け審決(同月27日確定。甲2の2)により,この部分の記載は,構成要件1E(X1が酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖,或いは-CH2O-を表し)のとおり訂正された。(以上につき,甲2の1・2,乙9,12)


本件各発明及び本件各訂正発明の意義

上記⑴の本件明細書(訂正明細書)の発明の詳細な説明の記載並びに上記⑵の本件特許の出願経過等に照らすと,本件各発明及び本件各訂正発明の意義は,大要,次のとおりのものであると認められる。
2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物は除草特性を有する化合物として知られていたが,従来技術の化合物が示す除草特性及びその栽培植物の安全性は,完全に満足できるものではなかった(段落【0004】,【0005】)。
そこで,本件各発明及び本件各訂正発明は,新規な,特に除草作用において,特性が改良された化合物を提供することを目的として(段落【0006】),2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物の中でも式Ⅰで表される化合物を見出したものである(段落【0007】)。
そして,本件特許請求の範囲に記載された式Ⅰaの化合物の全体の構造(請求項
1,段落【0068】参照)と式Ⅰの化合物の全体の構造(段落【0002】,【0015】参照)とを対比すると,両者は,式Ⅰaの化合物のR1がベンゼン環の2位,R2がベンゼン環の4位に結合しているのに対して,式Ⅰの化合物のR1及びR2の結合部位が特定されていない点を除いて同一であるから,式Ⅰの化合物は式Ⅰaの化合物の上位概念に当たり,式Ⅰaの化合物は,式Ⅰの化合物の部分構造を特定した特に好ましい化合物として見出されたものである(段落【0067】)。
他方で,式Ⅰの化合物を含む除草剤組成物は,非栽培領域の植生の制御に,特に高い施与率で効果的であり,一方,主に低施与率で,オオムギ,米,トウモロコシ,大豆及び綿花等の作物の中に広範囲に残った雑草及び牧草に対して,栽培植物に損傷を与えることなく作用し,施与率は,施与目的,季節,対象の植物及び成長段階
に応じて,1ヘクタールあたり0.001ないし3.0キログラムの有効物質の量であるとされているものの(段落【0109】,【0129】),化合物の除草効果については,一般的な評価方法を記載するにとどまり,具体的な実験結果は何ら記載されていないから(段落【0136】ないし【0141】,平成21年8月27日を起案日とする拒絶理由通知書〔乙14〕),本件各発明又は本件各訂正発明
に係る化合物が従来技術の化合物と比べて改良された除草作用を有することが示されているとはいえない。
したがって,本件各発明又は本件各訂正発明の課題は,新規な,除草剤の有効成分又はその候補となる化合物を提供することであると認めるのが相当であり,改良された除草作用を有する化合物を提供することを課題とするものとはいえない。2
争点1(被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について


「酸素により中断された,エチレン…鎖」(構成要件1E)について

構成要件1Eは,式Ⅰaのベンゼン環の3位に結合するX1を「酸素により
中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖,或いは-CH2O-」とするものであるところ,この「酸素により中断された,エチレン…鎖」について,原告は,「-CH2-O-CH2-」の構造を有するものを意味すると主張するのに対し,被告は,「-O-CH2-CH2-」又は「-CH2-CH2-O」の構造を有するものを意味すると主張しており,解釈に争いがある。そこで検討すると,上記の構成要件1Eの文言上,「酸素により中断された」ものとして列挙されているのは,エチレン鎖(-CH2-CH2-),プロピレン鎖(-CH2-CH2-CH2-),プロペニレン鎖(-CH2-CH=CH-又は-CH=CH-CH2-)及びプロピニレン鎖(-CH2-C≡C-又は-C≡C-CH2-)であると理解できるところ,これらはいずれも複数個の炭素原子が連なる構造を有するものであり,一般に,「中断」に「①とだえること。途中でやめること。②中途から切れること。中途でたちきること。」(広辞苑第六版〔甲14〕)との字義があることからすると,「酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プ
ロペニレンまたはプロピニレン鎖」とは,複数個の炭素原子が連なって結合する構造を酸素によって途中で断ち切る構造を有するものを意味すると解するのが相当である。
したがって,「酸素により中断された,エチレン…鎖」については,「-CH2-O-CH2-」の構造を有するものを意味すると解するのが相当である。他方で,
被告が主張する「-O-CH2-CH2-」又は「-CH2-CH2-O-」の構造を有するものについては,酸素がエチレン鎖の端部に結合しているだけであるから,エチレン鎖が酸素により中断されているとはいえない。

また,構成要件1Eの「酸素により中断された,エチレン…鎖」を上記のよ
うに解釈することは本件特許の上記1⑵の出願経過によっても端的に裏付けられているということができる。
すなわち,本件特許の出願経過として,原告が平成21年7月9日に提出した手続補正書に記載された構成要件1Eに対応する部分の「酸素により中断された,直鎖又は分岐のC2~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖,またはC2~C6アルキニレン鎖」との文言について,審査官から,同年8月27日を起案日とする拒絶
理由通知書において,「その記載から,両側が炭素原子に挟まれた酸素原子を有するもののみを意図するものと解されるから,CH2OCH2等がこれに該当し,OCH2CH2,CH2CH2O,CH=CHCH2O等のように,両側が炭素原子に挟まれていない酸素原子を有するものは請求項1及び2の要件を満足しないものと考えられる」との見解が示され,原告がこの見解に従って補正をした結果として,本件特許請求の範囲における構成要件1Eのように,端部に酸素が結合する構成については,酸素によって中断されたものと区別して「或いは-CH2O-」などと個別に記載されるに至ったと認められる。
したがって,構成要件1Eの文言上,「酸素により中断された,エチレン…鎖」が「-CH2-O-CH2-」の構造を有するものを意味するという上記アの解釈は,上記の審査官の見解にも合致し,本件特許の出願経過によっても端的に裏付けられ
ているということができる。

これに対して,被告は,本件明細書の段落【0002】,【0063】等に,
炭素間の結合を酸素により遮断することが考えられないC1アルキレン鎖(炭素数が1個の飽和炭化水素鎖〔-CH2-〕)等が選択された場合にも酸素により遮断されると一貫して記載されていることから,構成要件1Eの「酸素により中断された」とは,ベンゾイル基又はHetとX1との結合の間に酸素原子が含まれる構造を意味する旨主張する。
しかしながら,上記1⑴イのとおり,本件明細書の段落【0017】ないし【0028】,【0039】ないし【0057】には,式Ⅰの化合物の合成方法が方法AないしC等として記載されているところ,方法B及びCによって作成される安息
香酸エステルⅠⅠⅠcのベンゼン環の3位及びHetと結合するX1については,「X2(判決注:方法Bにおける安息香酸エステルⅤa及び方法Cにおける安息香酸エステルⅤbのベンゼン環の3位に結合する置換基を意味する。)が,炭素原子が少なくとも1個で,最大5個の,直鎖又は分枝アルキレン鎖,アルケニレン鎖又はアルキニレン鎖…を表し,X3(判決注:方法Bにおける求核試薬ⅤⅠ及び方法
Cにおける置換ヘテロシクリルⅤⅠⅠのHetと結合する置換基を意味する。)が,最大5個の炭素原子を有する,直鎖又は分枝アルキレン鎖,アルケニレン鎖又はアルキニレン鎖…を表し,且つはX2OX3は基X1を形成する」(段落【0043】,【0051】)として,炭素間に酸素が挟まれた構造を有するものが記載されている。
また,上記の安息香酸ⅠⅠⅠcを加水分解することによって合成される安息香酸ⅠⅠⅠb(段落【0040】)を用いて,方法Aによって式Ⅰの化合物を合成する過程で安息香酸ⅠⅠⅠcのX1の構造に変更が加えられることを示唆する記載はない。
加えて,上記1⑶のとおり,式Ⅰの化合物は式Ⅰaの化合物の上位概念に当たり,本件明細書にそれらのX1の構造が異なっていることを示唆する記載も見当たらな
いことにも照らすと,段落【0043】,【0051】の記載は,式Ⅰaの化合物のX1の構造を検討する上でも参考にされるべきである。
このような本件明細書の記載を総合すると,被告が指摘する段落【0002】,【0063】等における酸素によって遮断されるものとしてのC1アルキレン鎖等の記載は誤記であると解釈する余地があり,構成要件1Eの「酸素によって中断さ
れた,エチレン…鎖」の解釈を左右するものとはいえない(なお,上記1⑴ア,オのとおり,本件訂正請求により,段落【0002】,【0063】の「C1~C6アルキレン鎖」,「C2~C6アルキニレン鎖」の各記載は,それぞれ,「C2~C6
アルキレン鎖」,「C3~C6アルキニレン鎖」に訂正されている。)。エ
また,被告は,平成21年8月27日を起案日とする拒絶理由通知書に記載
された審査官の見解は,炭素間の結合を酸素により遮断することが考えられないCアルキニレン鎖(炭素数が2個であり,それらが三重結合する構造〔-C≡C
-〕を有するもの)を含む記載について述べられたものであり,誤っていると主張するが,上記の審査官の見解は,上記アで述べた「中断」の一般的字義に沿ったものであり,一部に炭素間の結合を酸素によって断ち切ることが考えられない構造を有するものが含まれていたからといって,直ちに誤りであるとはいえない。⑵

被告各製品について

被告各製品に含有されるテフリルトリオンは,式Ⅰaの化合物のX1に対応
する部分の構造は「-CH2-O-CH2-」というものであり(構成e),「酸素により中断された,エチレン…鎖」(構成要件1E)に当たる。
したがって,被告各製品は,構成要件1Eを充足し,本件発明1の構成要件を全て充足するものであるから,その技術的範囲に属する。

また,テフリルトリオンは,「請求項1に記載の式Ⅰaで表される2-ベン
ゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン」(構成要件3A)に当たる。したがって,被告各製品は,本件発明3の構成要件を全て充足し,その技術的範囲に属する。


被告の主張について


被告は,発明の詳細な説明の記載が不十分な発明に係る特許は,開示の限度
で独占的な権利を与えられるにすぎないと解すべきであり,本件明細書に記載されていないテフリルトリオンは,本件各発明の技術的範囲に含まれないと主張する。そこで検討すると,確かに,本件明細書には,テフリルトリオンのように,X1が「-CH2-O-CH2-」であり,Hetが2-テトラヒドロフラニルである化合物は記載されておらず,テフリルトリオンの構成が端的に示されているとはいえない。
しかしながら,本件各発明は,特許請求の範囲において,化合物の全体の構造を一般式(式Ⅰa)で示した上で,選択可能な置換基を個別に列挙することで化学構
造を特定し,そのようにして特定された化学構造を有する化合物全てを対象とするものであり,置換基の選択肢が多数列挙されているものの,当業者において,全体の構造や個別の置換基の構造を認識することに困難を生じるようなものとは認められず,テフリルトリオンについても,特許請求の範囲の文言上,全ての構成要件を充足すると判断できるものである。

もとより,本件明細書の発明の詳細な説明の記載等に基づき,当業者において,化合物の製造方法,使用方法及び効果等を認識できるか否かは,実施可能要件等の特許の有効要件の判断において考慮されるべき事情であるというべきであるが,本件においては,本件明細書の発明の詳細な説明の記載等に基づき,当業者において,テフリルトリオンを生産することができず,使用することができなかったといえないことについては,争点3-2に対する判断として後述するとおりであり,被告の主張は,いずれにしても採用することができない。

また,被告は,本件特許の出願経過に照らすと,原告は,本件明細書に本件
各発明に係る化合物の除草活性が記載されていないことを認め,除草活性組成物等については特許権による保護を受ける権利を放棄したというべきであるから,テフリルトリオンを含む除草剤組成物について原告が本件特許権を行使することは信義則に反し,許されない旨主張する。
しかしながら,上記1⑵のとおり,従前の請求項6ないし8は,除草有効量の式Ⅰaの化合物を含む除草活性組成物,その製法及びそれを用いた除草法に関する発明についてのものであり,平成21年8月27日を起案日とする拒絶理由通知書を受けて削除されたものではあるものの,いずれも請求項1及び3に規定された本件
各発明とは別の発明に関するものであり,それらが削除されたことによって,本件各発明に係る特許権の行使が制限を受けるべきものと直ちにはいえない。上記1⑵の本件特許の出願経過に照らしても,原告は,本件明細書に除草作用に関する実験結果等が記載されていない旨の上記拒絶理由通知書の指摘を受け,新規な,除草剤の有効成分又はその候補となる化合物の提供を課題として,本件各発明
の化合物について特許査定を受けることに加えて,本件各発明の化合物を用いた除草剤活性組成物の用途発明等について特許査定を受けることを諦めたというにすぎないから,本件各発明について,実際に除草活性組成物等として使用されるものを除いて特許査定を受けたことが外形的に示されているということはできず,また,第三者がそのように信頼するということもできない。

したがって,除草活性組成物等である被告各製品に対して原告が本件特許権を行使することが信義則に反するということはできない。
3
争点2(本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべき
ものと認められるか)について
事案に鑑み,無効理由2(実施可能要件違反)から検討する。


争点2-2(無効理由2〔実施可能要件違反〕は認められるか)について
被告は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項(実施可能
要件)に反し,本件各発明についての特許は,同法123条1項4号により無効とされるべきである旨主張する。
そこで検討すると,特許法36条4項は,発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと規定しているところ,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(同法2条3項1号),物の発明について実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を生産することができ,かつ,使用
することができる程度の記載があるかによるというべきである。
本件各発明に係る化合物(式Ⅰaで表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はその農業上有用な塩)については,X1が「酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖,或いは-CH2O-」(構成要件1E)と特定されており,この「酸素により中断された,エチレン,プ
ロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖」が複数個の炭素原子が連なる構造を酸素によって途中で断ち切る構造を有するものを意味すると解されることは上記2⑴で述べたとおりであって,X1の具体的な構成として想定されるものは次の①ないし⑩の十種類であるから,実施可能要件を充足するためには,少なくとも,X1
がそのいずれの構造を有する化合物であっても,当業者が,本件明細書の発明の
詳細な説明の記載及び本件出願日(平成10年8月5日)当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,生産することができるものであることが必要であるので,まずこれらの点について検討する(なお,本件優先日当時の技術水準の下では記載要件に適合しないが,本件出願日当時の技術水準の下では適合するに至ったというような場合は,記載要件違反の無効理由ではなく,優先権主張の効果が認められないことに伴う無効理由が問題となるが,本件では,そのような無効理由の主張はされていない。)。
①-CH2OCH2-(酸素により中断されたエチレン鎖)②-CH2OCH2CH2-(酸素により中断されたプロピレン鎖)③-CH2CH2OCH2-(同)
④-CH(CH3)OCH2-(同)

⑤-CH2OCH(CH3)-(同)
⑥-CH2OCH=CH-(酸素により中断されたプロペニレン鎖)⑦-CH=CHOCH2-(同)
⑧-CH2OC≡C-(酸素により中断されたプロピニレン鎖)⑨-C≡COCH2-(同)

⑩-CH2O-

本件明細書の化合物の合成方法に関する記載

本件明細書には,上記1⑴イ,ケのとおり,化合物の合成方法及び合成実施例が記載されている。
証拠(甲53)及び弁論の全趣旨によると,その記載内容は,大要,次のとおりのものであると認められる。
(ア)化合物の合成方法(方法A,同B,同C)
a
方法A(段落【0017】ないし【0028】)

活性化安息香酸ⅠⅠⅠa又は安息香酸ⅠⅠⅠbを出発物質として,シクロヘキサン-1,3-ジオンⅠⅠ(式Ⅰaの化合物のQに相当する。)を反応させてアシル化生成物ⅠⅤを得て,転位反応により式Ⅰの化合物を合成するスキームが方法Aとして記載されている。また,その際に用いられる試薬,添加割合,溶媒,反応温度が記載されている。
加えて,安息香酸ⅠⅠⅠbは,安息香酸エステルⅠⅠⅠcを加水分解することにより得ることができると記載されている(段落【0040】)。
b
方法B(段落【0042】ないし【0049】)

「φ(ベンゼン環)-X2-OH」で表されるHetを有さない安息香酸エステルⅤaと「L2(脱離基)-X3-Het」で表される求核試薬ⅤⅠとを反応させ,「φ-X1-Het」で表される安息香酸エステルⅠⅠⅠcを合成するスキームが方法Bとして記載されている。
また,その際に用いられる試薬,添加割合,溶媒,反応温度が記載されている。
なお,X2及びX3は,それぞれ最大5個の炭素原子を有するアルキレン鎖(飽和炭化水素鎖),アルケニレン鎖(一つ以上の炭素間の二重結合を有する炭化水素鎖)又はアルキニレン鎖(一つ以上の炭素間の三重結合を有する炭化水素鎖)であり,X2OX3がX1を構成すると記載されている。
反応式:「φ-X2-OH」+「脱離基-X3-Het」→「φ-X1(X2OX3)
-Het」
c
方法C(段落【0050】ないし【0057】)

「φ-X2-L2(脱離基)」で表されるHetを有さない安息香酸エステルⅤbと「HO-X3-Het」で表される置換ヘテロシクリルⅤⅠⅠとを反応させて,「φ-X1-Het」で表される安息香酸エステルⅠⅠⅠcを合成するスキームが方法Cとして記載されている。
また,その際に用いられる試薬,添加割合,溶媒,反応温度も記載されている。なお,X2及びX3は,それぞれ最大5個の炭素原子を有するアルキレン鎖,アルケニレン鎖又はアルキニレン鎖であり,X2OX3がX1を構成すると記載されている。

反応式:「φ-X2-脱離基」+「HO-X3-Het」→「φ-X1(X2OX3)-Het」
(イ)合成実施例(段落【0130】ないし【0134】)
本件各発明の式Ⅰaの化合物のうち,R1が塩素,R2がSO2CH3,Qのシクロヘキサンジオン環の置換基R6,R7,R10,R11が水素,R8,R9がCH3,X1がCH2O,Hetが1-メチルピラゾール-5-イルである化合物である{2-クロロ-3-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]-4-メチルスルホニルフェニル}{5,5-ジメチル-1,3-ジオキソ-シクロヘキサ-2-イル}メタノンを工程aないしdの各反応によって合成したことが記載されている。
また,そこには,用いる物質の量,溶媒,塩基,反応速度及び反応時間等の反応
条件や,各工程で得られる化合物の融点及び量が具体的に記載されている。工程aないしdとして記載された合成方法の概要は次のとおりである。a
工程a

反応式:「φ-CH3」(2-クロロ-3-メチル-4-メチルスルホニル安息香酸メチル)→「φ-CH2-Br」(2-クロロ-3-ブロモメチル-メチルスルホニル安息香酸メチル)
b
工程b

反応式:「φ-CH2-Br」(工程aの生成物)+「HO-Het」(1-メチル-5-ヒドロキシピラゾール)→「φ-CH2O-Het」(2-クロロ-3-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]-4-メチルスルホニル安息香酸メチル)
c
工程c

反応式:「φ(-COOCH3を有する)-CH2O-Het」(工程bの生成物)→「φ(-COOHを有する)-CH2O-Het」(2-クロロ-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]-4-メチルスルホニル安息香酸)d
工程d

反応式:「φ-CH2O-Het」(工程cの生成物)→「Q-φ-CH2O-Het」({2-クロロ-3-[(1-メチルピラゾール-5-イル)オキシメチル]-4-メチルスルホニルフェニル}{5,5-ジメチル-1,3-ジオキソ-シクロヘキサ-2-イル}メタノン)

検討

上記ア(イ)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各発明に係る化合物のうち,R1が塩素,R2がSO2CH3,Qのシクロヘキサンジオン環の置換基R6,R7,R10,R11が水素,R8,R9がCH3,X1がCH2O,Hetが1-メチルピラゾール-5-イルである化合物については,工程aないしdに段階を分けて反応条件等が具体的に記載されており,具体的な合成実施例が記載されてい
ると評価できる一方で,それ以外の化合物については合成実施例が記載されておらず,以下のとおり,当業者において,本件明細書の発明の詳細な説明の合成実施例の記載や化合物の合成方法の記載を参照しても,少なくとも,X1が-CH=CHOCH2-の構造を有する化合物については,本件出願日当時の技術常識に基づき過度の試行錯誤を要することなく生産することができたとはいえない。
(ア)すなわち,まず,上記ア(イ)の合成実施例の記載を参照してX1が-CH=CHOCH2-の構造を有する化合物を合成しようとすると,工程aにおいて,「φ-CH=CH2」を出発物質として「φ-CH=CH-Br」を得る必要があるが,本件明細書に「φ-CH=CH2」の入手方法は記載されておらず,本件出願日当時の技術常識としてこの物質が入手可能であったと認めることもできない。また,
工程bにおいて,「φ-CH=CH-Br」と「HO-CH2-Het」とを反応させて「φ-CH=CH-O-CH2-Het」を得る必要があるが,本件明細書の発明の詳細な説明にこの反応が具体的に記載されておらず,本件出願日当時の技術常識に基づきこの反応を達成することが容易であったと認めることもできない。また,上記ア(ア)の方法Cによる化合物の合成方法の記載を参照してX1が-CH
=CHOCH2-の構造を有する化合物を合成しようとすると,「φ-CH=CH-脱離基」と「HO-CH2-Het」とを反応させて「φ-CH=CH-O-CH2-Het」を得る必要があり,また,上記ア(ア)の方法Bによる化合物の合成方法の記載を参照してX1が-CH=CHOCH2-の構造を有する化合物を合成しようとすると,「φ-CH=CH-OH」と「脱離基-CH2-Het」とを反応させて「φ-CH=CH-O-CH2-Het」を得る必要があるものの,本件明細書の発明の詳細な説明にこれらの反応が具体的に記載されておらず,本件出願日当時の技術常識に基づきこの反応を達成することが容易であったと認めることもできない。
したがって,本件各発明に係る化合物のうち,X1が-CH=CHOCH2-の構造を有する化合物については,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照した
としても,本件出願日当時の技術常識に基づき当業者が過度の試行錯誤を要することなく生産することができたとはいえない。
(イ)これに対し,原告は,X1が-CH=CHOCH2-の構造を有する化合物の結合方法が「J.Org.Chem.1991,56,3556-3564」(甲34)及び特開2009-227655の公開特許公報(甲35)に示されており,当業者においてこの構造を
有する化合物を生産することができる旨主張する。
しかしながら,まず,「J.Org.Chem.1991,56,3556-3564」(甲34)には,エポキシアルコールと(E)-(1-フェニルスルホニル-2-クロロ)エテンとを反応させて(E)-ビニルエーテル(-CH=CH-O-CH2-の構造を有する化合物)を得るという反応が記載されているものの,この(E)-(1-フェニルス
ルホニル-2-クロロ)エテンは,エテンとフェニル基とがスルホニル基(-SO2
-)を介して結合する構造を有するものであり,工程bの反応に用いられる「φ
-CH=CH-Br」又は方法Cの反応に用いられる「φ-CH=CH-脱離基」には当たらないものであるから,当業者において,上記文献を参照して,X1が-CH=CH-O-CH2-の構造を有する化合物を作成することが容易であったということはできない。
また,特開2009-227655の公開特許公報(甲35)は,平成21年10月8日に公開されたものであり,本件出願日(平成10年8月5日)当時の技術常識として考慮できるものと直ちに認めることはできない。

小括(争点2-2)

以上のとおり,本件各発明に係る化合物のうち,少なくとも,X1が-CH=CHOCH2-の構造を有する化合物については,当業者において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照したとしても,本件出願日当時の技術常識に基づき過度の試行錯誤を要することなく生産することができたとはいえないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を満たさない。
したがって,本件各発明についての特許は,特許法36条4項に規定する要件を
満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法123条1項4号に該当するから,特許無効審判により無効にされるべきものである(ただし,争点3-2に対する判断として後述するとおり,本件訂正によって同無効理由は解消される。)。


争点2-1(無効理由1〔サポ-ト要件違反〕は認められるか)について
被告は,本件特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(サポート要件)に違反し,本件各発明についての特許は,同法123条1項4号により無効とされるべきである旨主張する。
そこで検討すると,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の
範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

これを本件について見ると,本件特許請求の範囲に記載された式Ⅰaの化合物の全体の構造は本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0068】に記載されており,Qの構造についても式Ⅰaの化合物の上位概念に当たる式Ⅰの化合物について段落【0015】に記載されている。また,本件特許請求の範囲に記載された各置換基についても,本件明細書の発明の詳細な説明において,式Ⅰの化合物について段落【0002】,【0016】等に記載されている。
しかしながら,上記1⑶のとおり,本件各発明の課題は,新規な,除草剤の有効成分又はその候補化合物となる化合物を提供することにあると認められるから,少なくとも,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や本件出願日(平成10年8月5日)当時の技術常識に照らして,当業者が過度の試行錯誤を要することなく本件各発明に係る化合物を生産することができなければ,本件各発明の課題を解決するこ
とはできないことは明らかであって,サポート要件を満たすとはいえない。上記⑴のとおり,本件各発明に係る化合物のうち,少なくとも,X1が-CH=CHOCH2-の構造を有する化合物については,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や本件出願日当時の技術常識に照らして,当業者が過度の試行錯誤を要することなく生産することができたとはいえないから,特許請求の範囲に記載された発
明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
したがって,本件各発明についての特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法123条1項4号に該当するから,特許無効審判により無効にされるべきものである(ただし,争点3
-2について後述するとおり,本件訂正によって同無効理由は解消される。)。⑶

争点2-3(無効理由3〔乙第1号証を主引例とする進歩性欠如〕は認めら
れるか)について
被告は,本件各発明は,乙1発明を主引例として,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件各発明についての特許は特許法29条2項に違反し,同法123条1項2号により無効とされるべきである旨主張するので,以下に検討する。

主引例(乙1発明)及びその他の公知技術について

(ア)乙1公報の記載
本件優先日前に日本国内で頒布された刊行物である乙1公報(特開平8-20554号公報)には,次の記載がある。
「【請求項1】

一般式

【化1】

[式中,R1は水素原子または低級アルキル基を表し,Xは低級アルキル基,低級アルケニル基,低級アルコキシ基,低級アルキニルオキシ基,ハロゲン原子,ニトロ基,トリフルオロメチル基,-COR2基(ただし,基中,R2は低級アルキル基,低級アルコキシ基または低級アルキルアミノ基を表す。),-NHCOR3基(ただし,基中,R3は低級アルキル基または低級アルキルアミノ基を表す。),-S(O)mR4基(ただし,基中,R4は低級アルキル基を表し,mは0または2を表す。),-C(CH3)=NOR5基(ただし,基中,R5は低級アルキル基を表す。)または-(CH2)yCN基(ただし,基中,yは0または1を表す。)
を表し,nは0,1または2を表す。]で示されるシクロヘキサンジオン誘導体。」「【0001】
【発明の目的】
【産業上の利用分野】
本発明は,新規なシクロヘキサンジオン誘導体および該誘導体を活性成分として含
有することを特徴とする除草剤に関する。」
「【0003】
【従来の技術】
本発明のシクロヘキサンジオン誘導体と化学構造上近似の化合物は,次の①~④の文献(判決注:①特表平4-501726号公報,②米国特許第5092919号明細書,③米国特許第5110979号明細書,④PCT特許公開第92/19107号公報)に記載されている。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
これらの①~④の文献に記載の化合物は,後記試験例に示すように,除草効力が不十分であったり,作物に薬害を与えたりすることから,必ずしも満足すべきものとはいいがたい。そのため,このような欠点のない除草剤の開発が望まれている。
【0009】
本発明は,これらの化合物に代わり,優れた除草活性と作物に対する安全性を有するシクロヘキサンジオン誘導体およびそれを含有する水稲および畑作物用除草剤を提供することにある。」
「【0031】

なお,出発原料である一般式(2)で表される化合物は,公知のものであり,試薬として入手できる。また,一般式(3)の出発原料は新規の化合物であり,下記の反応式で示すとおり,公知の方法に準じて合成することができ,その製造例を参考製造例に示した。
【0032】

【化12】

(X,Yおよびnは前記と同じ意味を表し,Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。)」
(イ)乙2公報の記載
本件優先日前に日本国内で頒布された刊行物である乙2公報(特開平7-206808号公報)には,次の記載がある。
「【請求項2】

一般式

【化2】

[式中,R1およびR2は,水素原子または低級アルキル基を表し,R3は,-CH2OR5基(ただし,基中,R5は,低級アルキル基を表す。),-CH2CH2OCH2CH2OR6基(ただし,基中,R6は,低級アルキル基を表す。)または-CH2CH(OR7)2基(ただし,基中,R7は,低級アルキル基を表すか,または環構造を形成する低級アルキレン基を表す。)を表し,R4は,低級アルキル基を表し,Xは,ハロゲン原子を表す。]で示されるシクロヘキサンジオン誘導体を活性成分として含有することを特徴とする除草剤。」

「【0014】

次に,本発明の一般式⑴の化合物の代表的な具体例を表1~2に示す。」「【0016】【表1】

【0017】【表2】


「【0063】【表3】

【0064】【表4】


【0065】
【化12】比較薬剤A;

(特表平4-501726号公報に記載の化合物)」
【0066】
【化13】比較薬剤B;

(特表平4-501726号公報に記載の化合物)」
【0067】
【化14】比較薬剤C;

(特表平4-501726号公報に記載の化合物)」
【0068】
【化15】比較薬剤D;

(米国特許第5092919号明細書に記載の化合物)」
【0069】
【化16】比較薬剤E;
(米国特許第5092919号明細書に記載の化合物)」
「【0072】【表5】

【0073】【表6】


「【0079】【表8】


(ウ)乙3公報の記載
本件優先日前に日本国内で頒布された刊行物である乙3公報(特開平6-321932号公報)には,次の記載がある。
「【請求項2】

一般式

【化2】

(式中,R1,R2,R3およびR4は,水素原子または低級アルキル基を表し,Xは塩素原子または臭素原子を表す。)で示されるシクロヘキサンジオン誘導体を活性成分として含有することを特徴とする除草剤。」
(エ)乙4公報の記載
本件優先日前に日本国内で頒布された刊行物である乙4公報(特開平6-271562号公報)には,次の記載がある。
「【請求項2】

一般式

【化2】

(式中,R1,R2およびR3は水素原子または低級アルキル基を表し,Xは塩素原子または臭素原子を表し,Yは酸素原子または硫黄原子を表し,Zは低級アルキル基で置換されてもよい低級アルキレン基を表し,mは1または2の整数を表す。)で示されるシクロヘキサンジオン誘導体を活性成分として含有することを特徴とする除草剤。」

乙1発明

上記ア(ア)に認定した乙1公報の【請求項1】の記載によれば,乙1公報には,次のとおりの化合物の発明(乙1発明)が記載されているものと認められる。「一般式

[式中,R1は水素原子または低級アルキル基を表し,Xは低級アルキル基,低級アルケニル基,低級アルコキシ基,低級アルキニルオキシ基,ハロゲン原子,ニトロ基,トリフルオロメチル基,-COR2基(ただし,基中,R2は低級アルキル基,低級アルコキシ基または低級アルキルアミノ基を表す。),-NHCOR3基(ただし,基中,R3は低級アルキル基または低級アルキルアミノ基を表す。),-S(O)mR4基(ただし,基中,R4は低級アルキル基を表し,mは0または2を表す。),-C(CH3)=NOR5基(ただし,基中,R5は低級アルキル基を表す。)または-(CH2)yCN基(ただし,基中,yは0または1を表す。)を表し,nは0,1または2を表す。]で示されるシクロヘキサンジオン誘導体。」ウ
本件発明1と乙1発明の対比

(ア)一致点
本件発明1と乙1発明の各化合物の構造を対比すると,構造式左端のシクロヘキサン1,3-ジオンの2位がカルボニル基(C=O)を介して中央のベンゼン環に結合する構造を有する点で共通しており,ベンゼン環のカルボニル基が結合する部分を1位とすると,乙1発明の化合物のベンゼン環の2位及び4位に結合する塩素
は,本件発明1の化合物のR1及びR2に,乙1発明の化合物のベンゼン環の3位に結合するCH2Oは,本件発明1の化合物のX1に,乙1発明の化合物のベンゼン環の3位にCH2Oを介して結合するフェニル基は,本件発明1の化合物のHetに,それぞれ対応すると認められる。また,乙1発明の化合物のシクロヘキサン1,3-ジオンの5位に結合するR1は,本件発明1の化合物のR8及びR9に対
応すると認められる。なお,乙1発明の化合物のシクロヘキサン1,3-ジオンの1位に酸素が二重結合した状態は,本件発明1の化合物の式ⅠⅠで表される,1位と2位の間が二重結合になり,1位に水酸基(OH)が結合する構造の互変異性体であると認められる(本件明細書の段落【0014】ないし【0016】)。したがって,本件発明1と乙1発明は,次の点で一致する。

「式Ia

但し,R1が,ニトロ,ハロゲン,シアノ,チオシアナト,C1~C6アルキル,C~C6ハロアルキル,C1~C6アルコキシC1~C6アルキル,C2~C6アルケニル,
C2~C6アルキニル,-OR3又は-S(O)nR3を表し,
R3が水素,C1~C6アルキルを表し,
nが1又は2を表し,
Qが2位に結合する式II

[但し,R6,R7,R8,R9,R10及びR11が,それぞれ水素又はC1~C4アルキルを表し,上記CR8R9単位が,C=Oで置き換わっていても良い]で表されるシクロヘキサン-1,3-ジオン環を表し,
X1が酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖,或いは-CH2O-を表す]で表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はその農業上有用な塩。」
(イ)他方で,本件発明1と乙1発明とでは,次の点において相違する。a
相違点1
本件発明1は,R2が「水素,又はハロゲン以外のR1で述べた基(ニトロ,シアノ,チオシアナト,C1~C6アルキル,C1~C6ハロアルキル,C1~C6アルコキシC1~C6アルキル,C2~C6アルケニル,C2~C6アルキニル,-OR3又は-S(O)nR3〔構成要件1B〕)の1個」(同1C①)であるのに対し,乙1発明は,対応する基がハロゲンの一種である塩素である点。
b
相違点2

本件発明1は,Hetが,特定の基で置換されていてもよい,特定の,部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基である(構成要件1F)のに対し,乙1発明は,対応する基が,特定の基Xを0,1又は2個有するフェニル基である点。

相違点に係る容易想到性

被告は,①相違点1に係る本件発明1の構成(ベンゼン環の4位にアルキルスルホニル基が結合したもの)が乙2公報の【請求項2】に記載されていること,乙2公報の【表6】に,ベンゼン環の4位をハロゲン(比較薬剤C及びE)からアルキルスルホニル基(比較薬剤A及びD)にすることでより優れた効果が得られることが示されていること等からすると,相違点1に係る乙1発明の構成を本件発明1の構成に変更することは,乙2公報に示唆されている技術的事項であり,当業者が容易に想到できた,②本件発明1のヘテロシクリル基を有する乙2公報の【表1】及び【表2】の化合物No.16ないし18及び29ないし31の化合物が雑草に対
して優れた除草効果を示していること(【表5】),乙3公報及び乙4公報にも本件発明1のHetを有する化合物が記載されていること等からすると,相違点2に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到できたこと,③本件各発明の効果は格別顕著なものではないこと等を主張し,当業者は,乙1発明に基づき,本件発明1に係る化合物を容易に発明できた旨主張する。

しかしながら,そもそも,乙1発明の化合物は,乙1公報の【請求項1】の一般式のとおり,ベンゼン環の2位及び4位にそれぞれ塩素が結合し,3位にCH2Oを介して特定の基Xを0,1又は2個有するフェニル基が結合する構造を有する化合物として特定されたものであるから,乙1発明の化合物から出発して相違点1及び2に係る本件発明1の化合物の構成を採用することが容易であるというためには,乙2公報ないし乙4公報に本件発明1のR2及びHetに相当する部分構造を有する化合物が記載されているだけでは足りず,これらの部分構造を乙1発明に適用する動機付けに係る記載や示唆が必要であるというべきである。
本件においては,乙1公報ないし乙4公報の記載を見ても,ベンゼン環の4位の塩素をハロゲン以外の基にしたり,3位のフェニルオキシメチル(-CH2O-φ)をヘテロ環オキシメチル(-CH2O-Het)に変更することによって,除草効
果や作物に対する安全性が向上することを示唆するものはなく,それらの構成を採用する動機付けとなるものは見当たらない。被告の指摘する乙2公報の記載についても,【表3】ないし【表6】,【表8】に記載された化合物の構造とその除草効果の比較から,ベンゼン環の4位をハロゲン以外の基にしたり,3位にフェニル基を有する構成とすることによって除草効果や作物に対する安全性が向上することが
示唆されているとまではいえない。
とりわけ,相違点2については,乙2公報ないし乙4公報のいずれにおいても,乙1発明のベンゼン環の3位にヘテロ環オキシメチル(-CH2O-Het)を有する化合物は記載されておらず,連結基におけるOとCH2の結合順序が異なるヘテロ環メチルオキシ(-OCH2-Het)又はヘテロ環エチルオキシ(-OCH
2
CH2-Het)が記載されているにすぎない。
そうすると,乙1発明に対し,乙2公報ないし乙4公報記載の化合物の構成を適
用しても,本件発明1に係る化合物のヘテロ環オキシメチル(-CH2O-Het)となることはない。
以上によれば,本件発明1は,乙1発明及び上述した公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

本件発明3について
本件発明3は,本件発明1におけるHetの選択肢を,5員若しくは6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,5員若しくは6員のヘテロ芳香族基に限定し,特定の基で置換されている構成を除外するものにすぎず,化合物の基本的な構造は本件発明1と同様であるから,上記で本件発明1について述べたのと同様の理由により,乙1発明及び上述した公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

小括(争点2-3)

よって,無効理由3は認められない。

争点2-4(無効理由4〔原文新規事項〕は認められるか)について
被告は,本件特許請求の範囲に記載された「X1が酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖,或いは-CH2O-を表し」(構成要件1E)との事項は,本件国際出願の明細書及び請求の範囲に記載した事項の範囲内にないから,本件各発明についての特許は,特許法184条の18により読み替えて準用する同法123条1項5号により無効とされるべきであると
主張するので,以下に検討する。

本件国際出願の明細書及び請求の範囲の記載

本件国際出願の明細書及び請求の範囲には,置換基X1の化学構造等について,次の記載があると認められる(乙8の1・2,弁論の全趣旨。なお,原文〔ドイツ語〕の解釈に争いがない部分については,訳文〔乙8の2〕に基づき日本語で記載した。)。
(ア)特許請求の範囲
a
請求項1

(a)式Ⅰで表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はその農業上有用な塩。

(b)「X1einegeradkettigeoderverzweigteC1-C6-Alkylen-,eineC2-C6Alkenylen-odereineC2-C6-Alkinylen-kette,diedurcheinHeteroatomausgewähltausderGruppe:SauerstoffoderSchwefelunterbrochenist…」b
請求項4

請求項1~3のいずれかに記載の式Ⅰaで表される4-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン。

ただし,置換基R1,R2,Q,X,及びHetが,それぞれ請求項1と同義である。
c
請求項5

X1が酸素により「遮断又は中断」(原文は「unterbrochene」であり,その解釈に争いがある。)される,C1~C3アルキレン,C2~C3アルケニレン又はC2~C3アルキニレン鎖である請求項4に記載の式Ⅰaの2ベンゾイル-シクロヘキサン-1,3ジオン。
(イ)明細書

a
本件明細書の段落【0002】に対応する部分(式Ⅰの化合物についての説明部分)
「X1einegeradkettigeoderverzweigteC1-C6-Alkylen-,eineC2-C6-Alkenylen-odereineC2-C6-Alkinylenkette,diedurcheinHeteroatomausgewähltausderGruppe:SauerstoffoderSchwefelunterbrochenist…」b
本件明細書の段落【0058】に対応する部分(式Ⅰの化合物の重要なもの
についての説明部分)
「…wobeidieGruppeX1entwederfüreineC1-C2-Alkylen-odereineC2Alkenylenkette,dieeinweiteresSauerstoff-oderSchwefe-latomenthält,stehtund」
c
本件明細書の段落【0063】に対応する部分(式Ⅰの化合物の好ましいも
のについての説明部分)
「X1einegeradkettigeoderverzweigteC1-C4-Alkylen-,eineC2-C4-Alkenylen-odereineC2-C4-Alkinylenkette,besondersbevorzugteineEthylen-,Propylen-,Propenylen-oderPropinylenkette,diedurcheinHeteroatomausgewähltausderGruppeSauerstoffoderSchwefel,bevorzugtSauerstoffunterbrochenist…」
d
本件明細書の段落【0068】に対応する部分(式Ⅰaの化合物の最も好ま
しいものについての説明部分)
「…X1füreineC1-C2-Alkylen-odereineC2-Alkinylenkette,dieeinweiteresSauerstoffatomenthält,stehtund」イ
欧州特許庁審査官の見解

証拠(乙30)及び弁論の全趣旨によると,本件国際出願に係る欧州特許出願を審査した欧州特許庁審査官から,平成24年5月11日付けで次のとおりの見解が示されたと認められる。
「審査部は,“eine〔...〕C1-C6-Alkylen-,eine〔...〕C2-C6-Alkenylenodereine〔...〕C2-C6-Alkinylenkette,diedurcheinHeteroatom〔...〕unterbrochenist”の文言中の“unterbrochen”の語句は,ヘテロ原子が鎖の中央部に内包されていて,したがって,例えば,式:-CH2-ヘテロ原子-CH2-の基を形成することを暗示するとの見解である。…上述の表A…の1~460行及び691~920行は,ヘテロ原子が,アルキレン鎖,アルケニレン鎖又はアルキニレン鎖の内部ではなく,端部に存在する架橋員X1を開示している。したがって,本願の請求項1と明細書とは矛盾している…。」

検討

(ア)本件国際出願の請求の範囲の記載について
被告は,本件国際出願の請求の範囲における請求項1の原文(上記ア(ア)a(b))の記載(einegeradkettigeoderverzweigteC1-C6-Alkylen-,eineC2-C6Alkenylen-odereineC2-C6-Alkinylen-kette,diedurcheinHeteroatomausgewähltausderGruppe:SauerstoffoderSchwefelunterbrochen…)について,冒頭の「eine」から「Alkinylen-kette」までの部分は「eine」(冠詞)によって三つの個別の群であることが示されていることなどからすると,「酸素又は硫
黄から選択されるヘテロ原子により遮断される」を意味する「die」以下の記載は,その直前の「eineC2-C6-Alkinylen-kette」(C2~C6アルキニレン鎖)のみを修飾しているとして,本件国際出願の請求の範囲には,X1として,直鎖又は分岐C1~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖,酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により遮断されるC2~C6アルキニレン鎖のみが記載されていると主
張する。
しかしながら,上記の原文の記載における「die」は関係代名詞であり,文法上,二つ以上の名詞を一括して修飾することもあり得るから(甲27),その前の部分が「eine」(冠詞)によって三つの個別の群であることが示されているというだけで,「die」以下が修飾する部分を確定することはできない。

かえって,上記の原文の記載に照らすと,「die」より前の部分は,①「einegeradkettigeoderverzweigteC1-C6-Alkylen-」(直鎖又は分岐C1~C6アルキレン-),②「eineC2-C6-Alkenylen-」(C2~C6アルケニレン-),③「odereineC2-C6-Alkinylen-kette」(又はC2~C6アルキニレン-鎖)と,①及び②については「kette」(鎖)の記載を省略し,③の末尾で一括して記載されていると認められるから,これらの記載は一体的な記載であると評価することができ,「die」以下の記載は,これらを一括して修飾するものと解するのが相当である。
また,本件国際出願の請求の範囲における請求項5には,式Ⅰaの化合物のX1として,いずれも酸素により「遮断又は中断」(unterbrochen)される,C1~C3
アルキレン,C2~C3アルケニレン又はC2~C3アルキニレン鎖が記載されてお
り(上記ア(ア)c),請求項5が請求項4を引用するものであり,請求項4が請求項1を引用するものであって,請求項1は請求項5の上位概念に当たることからすると,請求項1の原文の文言を上記のとおり解釈することは,請求項5の記載と整合するものといえる。
したがって,本件国際出願の請求の範囲における請求項1には,式Ⅰの化合物の
X1として,いずれも酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により「遮断又は中断」(unterbrochen)される,①直鎖又は分岐C1~C6アルキレン鎖,②C2~C6
アルケニレン鎖,③C2~C6アルキニレン鎖が記載されていると認められる。また,本件国際出願の請求の範囲の請求項4において,式Ⅰaの化合物における
X(X1を意味するものと解される。)は,式Ⅰの化合物に関する請求項1と同義であるとされており(上記ア(ア)b),式Ⅰの化合物のX1の解釈は式Ⅰaの化合物についても当てはまる。
(イ)本件国際出願の明細書の記載について
a
次に,本件国際出願の明細書の上記ア(イ)の各記載も,いずれも関係代名詞
「die」を含む構造を有するものであるところ,被告代理人作成の訳文(乙8の2)は,いずれも,「die」以下の記載がその直前の「odereine」から始まる部分の記載のみを修飾することを前提として,記載されているものと考えられる(例えば,上記ア(イ)aの記載であれば,「diedurcheinHeteroatomausgewähltausderGruppe:SauerstoffoderSchwefelunterbrochen」は,その直前の「odereineC2-C6-Alkinylenkette」のみを修飾することを前提として,「X1が直鎖又は分岐C1~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖又は酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により遮断されているC2~C6アルキニレン鎖を表し」と記載しているものと考えられる。)。
しかしながら,上記ア(イ)のいずれの記載についても,上記(ア)で特許請求の範囲における請求項1について述べたのと同様に,「die」以下の記載の直前の部分には,複数の種類の「kette」(鎖)が列挙されているものの,最後のもの以外につ
いては「kette」の記載を省略し,最後のものの末尾に一括して「kette」と記載されていると認められるから(上記ア(イ)aの記載であれば,「einegeradkettigeoderverzweigteC1-C6-Alkylen-,eineC2-C6-Alkenylen-」については「kette」の記載を省略し,最後の「odereineC2-C6-Alkinylenkette」に一括して「kette」と記載されていると認められる。),これらの記載は一体的な記載であると評価する
ことができ,「die」以下の記載は,これらを一括して修飾するものと解するのが相当である。
そうすると,上記ア(イ)の各記載には,X1について,次の(a)ないし(d)の内容が記載されていると認められる。
(a)式Ⅰの化合物のX1

直鎖又は分岐C1~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖又はC2~C6アルキニレン鎖{これら鎖は,酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により「遮断又は中断」(unterbrochen)されている}
(b)式Ⅰの化合物の重要なもののX1
1個の他の酸素又は硫黄原子を含む,C1~C2アルキレン鎖又はC2アルケニレ
ン鎖
(c)式Ⅰの化合物の好ましいもののX1
直鎖又は分岐C1~C4アルキレン鎖,C2~C4アルケニレン鎖又はC2~C4アルキニレン鎖,特に好ましくはエチレン,プロピレン,プロペニレン又はプロピニレン鎖{これらの鎖は,酸素又は硫黄(好ましくは酸素)から選択されるヘテロ原子により「遮断又は中断」(unterbrochen)されている}(d)式Ⅰaの化合物の最も好ましいもののX1
1個の他の酸素原子を含む,C1~C2アルキレン鎖又はC2アルケニレン鎖b
なお,本件国際出願の明細書及び請求の範囲に記載された式Ⅰaの化合物の
全体の構造(請求項4,乙8の2の段落【0068】参照)と式Ⅰの化合物の全体の構造(請求項1,乙8の2の段落【0002】,【0015】参照)とを対比すると,両者は,式Ⅰaの化合物のR1がフェニル環の2位,R2がフェニル環の4位に結合しているのに対して,式Ⅰの化合物のR1及びR2の結合部位が特定されていない点を除いて同一であるから,式Ⅰの化合物は式Ⅰaの化合物の上位概念に当たり,式Ⅰaの化合物は,式Ⅰの化合物の部分構造を特定した特に好ましい化合物として見出されたものである(乙8の2の段落【0067】)。
したがって,上記(a)ないし(c)の式Ⅰの化合物のX1の各記載は式Ⅰaの化合物についても同様に当てはまるものと認められる。
(ウ)「unterbrochen」の解釈について
上記(ア),(イ)のとおり,本件国際出願の明細書(上記ア(イ)a,c)及び請求の範囲(同(ア)a(b))には,X1は,酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により
「unterbrochen」(「unterbrechen」の過去分詞)された,アルキレン鎖,アルケニレン鎖,アルキニレン鎖等である旨記載されているところ,「unterbrechen」には「中断する」と「遮断する」の両方の意味があり(甲26),一般に,「中断」には「①とだえること。途中でやめること。②中途から切れること。中途でたちきること。」という字義があるのに対して,「遮断」には「さえぎり断つこ
と。ふさぎとどめること。」という字義があること(広辞苑第六版〔甲14〕)からすると,本件国際出願の明細書及び請求の範囲における「unterbrochen」は,アルキレン鎖,アルケニレン鎖,アルキニレン鎖等の炭素間にヘテロ原子が結合したものと,アルキレン鎖,アルケニレン鎖,アルキニレン鎖等の端にヘテロ原子が結合したものの両方を意味すると解するのが相当である。
「unterbrochen」が,アルキレン鎖,アルケニレン鎖,アルキニレン鎖等の炭素間にヘテロ原子が結合したものを意味することについては,本件国際出願の明細書においても,方法AないしC等の式Ⅰの化合物の合成方法に関する本件明細書の記載に対応する内容が記載されており(乙8の2の段落【0017】ないし【0028】,【0039】ないし【0057】),上記2⑴ウで構成要件1Eの「酸素による中断」について述べたのと同様に,式Ⅰの化合物の合成過程においてX1が酸
素原子が炭素により挟まれた構造を有するものが記載されていることによっても裏付けられているというべきであり,他方で,炭素間にヘテロ原子が結合することがあり得ないC1アルキレン鎖及びC2アルキニレン鎖についても,ヘテロ原子によって「unterbrochen」されるものとして記載されていることからすると,アルキレン鎖,アルケニレン鎖,アルキニレン鎖等の端にヘテロ原子が結合したものをも意
味するものと解さざるを得ない。
なお,被告は,本件国際出願の明細書を審査した欧州特許庁の審査官が,「unterbrochen」がアルキニレン鎖等の端に酸素が結合したものを表し,アルキニレン鎖等の中に酸素が介入しているものを指すものではないとの見解を示している旨主張するが,上記イのとおり,欧州特許庁審査官から示された見解は,
「“unterbrochen”の語句は,ヘテロ原子が鎖の中央部に内包されていて,したがって,例えば,式:-CH2-ヘテロ原子-CH2-の基を形成することを暗示する」というものであり,被告の主張を裏付けるものではない。したがって,被告の主張は採用することができない。
(エ)小括(争点2-4)

上記(ウ)で述べた「unterbrochen」についての解釈を前提に,上記(ア),(イ)の本件国際出願の明細書及び請求の範囲の記載について見ると,式ⅠaのX1として,少なくとも,いずれも酸素又は硫黄から選択されるヘテロ原子により遮断又は中断された,直鎖又は分岐C1~C6アルキレン鎖,C2~C6アルケニレン鎖,C2~C6
アルキニレン鎖が記載されているということができる。
そして,エチレン鎖がC2アルキレン鎖に当たること,プロピレン鎖がC3アル
キレン鎖に当たること,プロペニレン鎖がC3アルケニレン鎖に当たること,プロピニレン鎖がC3アルキニレン鎖に当たることは公知の事実であるから,本件国際出願の明細書及び請求の範囲の記載には,本件各発明の「酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロペニレンまたはプロピニレン鎖」(構成要件1E)との事項は含まれているということができる。
また,本件国際出願の明細書及び請求の範囲には,酸素により遮断されたC1ア
ルキレン鎖として,「-CH2O-」の構造を有するものも記載されていると理解できるから,本件各発明の「或いは-CH2O-を表し」(構成要件1E)との事項も含まれているということができる。
よって,無効理由4は認められない。
4
争点3(訂正の対抗主張は認められるか)について

前記3において説示したとおり,本件各発明についての特許には実施可能要件及びサポート要件を満たしていない無効理由があるが,前記前提事実⑶のとおり,原告は,本件無効審判の手続において適法に本件訂正請求をし,同請求に基づいて訂正の対抗主張をしているので,以下に検討する。


争点3-1(本件訂正は訂正要件を満たすか)について


本件訂正の内容

本件訂正1による訂正は,請求項1(及び同項を引用する請求項)について,Rの選択肢を「ハロゲン」(構成要件1B´)に限定するもの,R2の選択肢を「-
S(O)nR3」(同1C①´)に限定するもの,X1の選択肢を「酸素により中断されたエチレン鎖または-CH2O-」(同1E´)に限定するもの,Hetの選択肢を①オキシラニル,②2-オキセタニル,③3-オキセタニル,④2-テトラヒドロフラニル,⑤3-テトラヒドロフラニル,⑥2-テトラヒドロチエニル,⑦2-ピロリジニル,⑧2-テトラヒドロピラニル,⑨2-ピロリル,⑩5-イソオキサゾリル,⑪2-オキサゾリル,⑫5-オキサゾリル,⑬2-チアゾリル,⑭2-ピリジニル,⑮1-メチル-5-ピラゾリル,⑯1-ピラゾリル,⑰3,5-ジメチル-1-ピラゾリル,又は⑱4-クロロ-1-ピラゾリル(同1F´)とするものである。また,Hetの選択肢として記載された上記の18個のヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,いずれも訂正前の構成要件1Fにおける上位概念によるHetの記載に含まれるものであると認められる。
本件訂正3による訂正は,請求項3について,Hetの選択肢を,本件訂正1に
よる訂正後のHetの選択肢のうち,初めの三個を除いた15個のヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基,すなわち,2-テトラヒドロフラニル(上記④),3-テトラヒドロフラニル(上記⑤),2-テトラヒドロチエニル(上記⑥),2-ピロリジニル(上記⑦),2-テトラヒドロピラニル(上記⑧),2-ピロリル(上記⑨),5-イソオキサゾリル(上記⑩),2-オキサゾリル(上記⑪),5-オキ
サゾリル(上記⑫),2-チアゾリル(上記⑬),2-ピリジニル(上記⑭),1-メチル-5-ピラゾリル(上記⑮),1-ピラゾリル(上記⑯),3,5-ジメチル-1-ピラゾリル(上記⑰),又は4-クロロ-1-ピラゾリル(上記⑱)に変更するものである。また,これらのヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,いずれも訂正前の構成要件3Aにおける上位概念によるHetの記載に含まれるもの
であると認められる。

検討

(ア)上記アのとおり,本件訂正1によるR1,R2及びX1の訂正は,いずれも,訂正前の特許請求の範囲よりも選択肢を限定するものであり,「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものであって,新規事項を追加するものとはいえない。
(イ)また,上記アのとおり,本件訂正によるHetの訂正は,訂正前の構成要件1F及び3Aの上位概念による記載を改め,本件訂正発明1については合計18個,本件訂正発明3については合計15個の具体的なヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基を記載するものであり,本件訂正によって記載されたヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,いずれも,訂正前の構成要件に含まれるものであると認められる。加えて,上記1⑴エ,キ,コのとおり,本件訂正によって記載されたヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,本件明細書の段落【0061】における「ヘテロシクリル」及び「ヘテロアリール」についての列挙,段落【0071】の表A又は段落【0135】の表37のいずれかに記載されたものである。
すなわち,①オキシラニルは段落【0061】及び表Aに,②2-オキセタニル,
③3-オキセタニルは表Aに,④2-テトラヒドロフラニル,⑤3-テトラヒドロフラニル,⑥2-テトラヒドロチエニル,⑦2-ピロリジニル及び⑧2-テトラヒドロピラニルは段落【0061】に,⑨2-ピロリル,⑩5-イソオキサゾリル,⑪2-オキサゾリル,⑫5-オキサゾリル,⑬2-チアゾリル及び⑭2-ピリジニルは段落【0061】及び表Aに,⑮1-メチル-5-ピラゾリルは表Aに,⑯1
-ピラゾリル,⑰3,5-ジメチル-1-ピラゾリル及び⑱4-クロロ-1-ピラゾリルは表37にそれぞれ記載されたものである。
なお,被告は,表Aについて,式Ⅰbの化合物についてのものであり,式Ⅰaの化合物には当てはまらない旨主張するが,本件明細書の段落【0073】に記載された式Ⅰbの化合物の全体の構造は式Ⅰaの化合物(請求項1,段落【0015】,
【0068】)と同一であり,本件明細書に両化合物の間でHetの構造に差異があることを示唆する記載もないから,表Aに記載されたHetは,式Ⅰaの化合物のHetになり得るものとしても記載されていると認めることができる。したがって,本件訂正におけるHetについての訂正は,いずれも「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものであっ
て,新規事項を追加するものとはいえない。
(ウ)以上のとおり,本件訂正は,いずれも本件明細書(本件特許請求の範囲)に記載した事項の範囲内においてしたものと認められるから,特許法134条の2第9項,126条5項を満たし,訂正要件を満たす。
(エ)これに対し,被告は,マーカッシュ形式で記載された請求項において,願書に添付した明細書等に化学物質が多数の選択肢群の組合せで記載されている場合は,個々の選択肢群はその群内のものが一体として一つの概念を形成しているとして,本件訂正は,選択肢群R1,R2,X1及びHetをそれぞれ限定することで請求項に特定の選択肢の組合せが残るようにするものであるにもかかわらず,残された特定の選択肢とそれらの組合せが本件明細書等の全体の記載に基づいて把握し得るものであるとはいえないから,新たな技術的事項を導入するものである旨主張する。
しかしながら,そもそも,本件明細書には,訂正前の特許請求の範囲に記載された各置換基の選択肢群がそれぞれ一体として一つの概念を形成していることを示唆するような記載は見当たらず,各置換基の選択肢群がいかなる技術的意義を有していたかは明らかでないから,本件訂正によって選択肢を限定したというだけで新たな技術的事項が導入されるものとはいい難い。

加えて,上記アのとおり,本件訂正は,R1,R2,X1及びHetの選択肢を唯一のものとするものではなく,なお選択の余地を残しており,特定の置換基の組合せに限定するものでもない。
したがって,本件訂正は新たな技術的事項を導入するものとはいえず,被告の主張は採用することができない。


争点3-2(本件訂正により無効理由が解消するか)について


無効理由2(実施可能要件違反)の解消について

本件各訂正発明に係る化合物(式Ⅰaで表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はその農業上有用な塩)は,X1が「酸素により中断されたエチレン鎖または-CH2O-」(構成要件1E´)と特定されており,この「酸素により中断されたエチレン鎖」が「-CH2-O-CH2-」の構造を有するものを意味すると解されることは上記2⑴で述べたとおりであるから,本件訂正によって,上記3⑴で述べた実施可能要件違反の無効理由が解消されたというためには,X1が「-CH2O-」と「-CH2-O-CH2-」のいずれの構造を有する化合物についても,当業者が,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願日(平成10年8月5日)当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく生産することができ,かつ,使用することができることが必要であると解される。
そこで検討すると,上記1⑴イ,ケのとおり,段落【0130】ないし【0134】の化合物の合成実施例の記載や,段落【0017】ないし【0028】,【0039】ないし【0057】の化合物の合成方法(方法AないしC等)の記載は訂
正の前後を通じて同一であり,合成実施例が示されているR1が塩素,R2がSO2CH3,Qのシクロヘキサンジオン環の置換基R6,R7,R10,R11が水素,R8,R9がCH3,X1がCH2O,Hetが1-メチルピラゾール-5-イルである化合物以外の化合物について具体的な合成実施例が記載されているといえないことは上記3⑴イで述べたとおりである。
しかしながら,以下のとおり,X1が「-CH2O-」及び「-CH2-O-CH
2
-」のいずれの構造を有する本件各訂正発明に係る化合物についても,当業者に
おいて,訂正明細書の合成実施例の記載や化合物の合成方法の記載を参照して,本件出願日当時の技術常識に基づき過度の試行錯誤を要することなく生産することができたものであり,また,使用することができたものである。
(ア)化合物の生産について
a
X1が-CH2O-である化合物について

上記のとおり,訂正明細書の段落【0130】ないし【0134】の合成実施例は,X1がCH2Oである化合物についてのものであるから,当業者において,同様に,X1がCH2Oである本件各発明に係る化合物を作成するに当たって,この合成実施例の記載を参照することが考えられる。
そうすると,当業者は,訂正明細書の合成実施例の記載を参照して,工程bの出発物質である「HO-Het」の構造を有する化合物を入手できる範囲で,「φ-CH2-Br」と反応させて,X1が「-CH2O-」である「φ-CH2O-Het」の化合物を得ることができると認識することができる。また,工程c及びdの各反応の記載を参照して,「φ-CH2O-Het」の化合物から「Q-φ-CH2
O-Het」の構造を有する化合物を合成することができると認識することがで
きる。
そして,証拠(甲38,51)及び弁論の全趣旨によると,上記の「HO-Het」の構造を有する化合物のうち,少なくとも,Hetが構成要件1F´に記載された合計18個の構造を有する化合物については,本件出願日時点でいずれもCAS登録されていたものであること(各化合物に付されたCAS登録番号及び構造図は別紙出発物質一覧の「X1=CH2Oの化合物を製造するための原料」欄のとおりである。),CAS登録番号は,アメリカ化学会が発行する雑誌に使用されている個々の化合物の識別番号であり,化合物の名称,構造図,登録日等に係る情報とともに管理され,当業者に利用されていたものであることが認められるから,当業
者において,本件出願日当時にこれらを入手することができたと認められる。加えて,訂正明細書の段落【0130】ないし【0134】には,合成実施例の各工程において,用いる物質の量,溶媒,塩基,反応速度及び反応時間等の反応条件や化合物の融点及び量が具体的に記載されており,各工程で個別の化合物を合成するにあたっての反応条件等については,これらの記載を参考にするなどして,当
業者において,決定し得るものと認められる。
なお,X1及びHet以外の置換基(R1ないしR11)については,その選択肢の範囲及び内容に照らし,その変更に過度の試行錯誤を要するとは認められない。そうすると,本件各訂正発明に係る化合物のうち,X1が-CH2O-の構造を有するものについては,当業者において,訂正明細書の合成実施例の記載等を参照
するなどし,本件出願日当時の技術常識に基づき過度の試行錯誤を要することなく生産することができたものと認めるのが相当である。
b
X1が-CH2OCH2-である化合物について

上記のとおり,訂正明細書には,X1がCH2OCH2である化合物についての具体的な合成実施例の記載はないものの,一般的な合成スキームである方法Cにおける「φ-X2-脱離基」と「HO-X3-Het」とを反応させて「φ-X1-Het」を得る反応は,最大5個の炭素原子を有するアルキレン鎖,アルケニレン鎖又はアルキニレン鎖であるX2及びX3を介したものとはいえ,上記の合成例の工程bの「φ-CH2-Br」と「HO-Het」とを反応させて「φ-CH2O-Het」を得る反応に類似するということができるから,当業者において,X1がCH2OCH2である化合物を合成するに当たって,これらの記載を参照することが
考えられる。
そうすると,当業者において,訂正明細書の合成実施例及び方法Cの記載を参照して,各反応の出発物質である「HO-CH2-Het」の構造を有する化合物を入手できる範囲で,「φ-CH2-Br」と「HO-CH2-Het」を反応させて,X1が「-CH2-O-CH2-」の構造を有する「φ-CH2-O-CH2-H
et」の化合物を得ることができる。また,工程c及びdの各反応の各反応の記載を参照して,「φ-CH2-O-CH2-Het」の化合物から「Q-φ-CH2-O-CH2-Het」の構造を有する化合物を合成することができると認識できる。そして,証拠(甲38,51)によると,「HO-CH2-Het」の構造を有する化合物のうち,少なくとも,Hetが構成要件1F´に列挙された合計18個
の構造を有する化合物については,本件出願日時点でいずれもCAS登録されていたものであると認められるから(各化合物に付されたCAS登録番号及び構造図は別紙出発物質一覧の「X1=CH2OCH2の化合物を製造するための原料」欄のとおりである。),上記aと同様に,当業者において,本件出願日当時にこれらを入手することができたと認められる。

加えて,訂正明細書の段落【0130】ないし【0134】には,合成実施例の各工程において,用いる物質の量,溶媒,塩基,反応速度及び反応時間等の反応条件や化合物の融点及び量が具体的に記載されており,段落【0050】ないし【0057】には,方法Cの反応に用いる際の試薬,添加割合,溶媒,反応温度も記載されているから,上記の方法で個別の化合物を合成するに当たっての反応条件等については,これらの記載を参考にするなどして,当業者において,決定し得るものであるといえる。
X1がCH2OCH2である本件各訂正発明に係る化合物については,実験成績証明書3(甲32)において,化合物7(2-[2-クロロ-4-メチルスルホニル-3-(オキセタン-2-イルメトキシメチル)ベンゾイル]-3-ヒドロキシ-シクロヘキサ-2-エン-1-オン)及び化合物10(2-[2-クロロ-4-メ
チルスルホニル-3-(テトラヒドロフラン-2-イルメトキシメチル)ベンゾイル]-3-ヒドロキシ-シクロヘキサ-2-エン-1-オン〔テフリルトリオンに相当すると認められる。〕)として,合成実験の経過が記載されており,そこに示されている出発材料と塩基の添加割合,溶媒,塩基,反応温度等の合成条件は,合成実施例の工程bについての記載と一部が異なるものの,方法Cに関する記載の範
囲内にあると認められる。すなわち,各合成実験において,いずれも,出発材料である3-(ブロモメチル)-2-クロロ-4-メチルスルホニル-安息香酸メチル,補助塩基として,NaH(段落【0054】の水素化ナトリウムに当たる。),溶媒としてDMF(訂正明細書の段落【0055】のジメチルホルムアミドに相当する。)が使用され,また,出発材料よりも過剰量の補助塩基が添加されており(段
落【0053】で,過剰量の補助塩基を用いることが有用であろうとされている。),40度で反応させている(段落【0056】において,0℃~反応混合物の沸点とされている。)といった点で,方法Cに関する記載の範囲内であると認められる。
上記の各合成実験の経過にも照らすと,当業者において,訂正明細書の合成実施
例の記載及び方法Cの記載等を参照して反応条件等を調整することに過度の試行錯誤を要するものとは認められない。
したがって,本件各訂正発明に係る化合物のうち,X1が-CH2OCH2-の構造を有するものについては,当業者において,訂正明細書の合成実施例の記載及び方法Cの記載等を参照して,本件出願日当時の技術常識に基づき過度の試行錯誤を要することなく生産することができたものと認めるのが相当である。(イ)化合物の使用について
そして,訂正明細書の段落【0004】,【0005】に,従来技術の化合物である2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物が除草作用を有することが記載されていること,乙1公報ないし乙4公報(各公報の段落【0003】ないし【0009】)においても,従来技術とされているベンゾイルシクロヘキサン
骨格を有する化合物が除草作用を有することが記載されていることからすると,ベンゾイルシクロヘキサン骨格を有する化合物が除草特性を有することは,本件出願日当時に当業者に知られていたと認めることができ,そうすると,同様にベンゾイルシクロヘキサン骨格を有する本件各訂正発明の化合物についても,除草効果を有するものと推認することができる。

そうすると,本件各訂正発明は,新規の,除草剤の有効成分又はその候補となる化合物を提供することを課題とするものであるところ,当業者は,本件出願日当時の技術常識に基づき,ベンゾイルシクロヘキサン骨格を有する本件各訂正発明に係る化合物は除草作用を有しており,除草剤の有効成分の候補となり得るものであると認識することができると認められるから,本件各訂正発明に係る化合物を生産で
きる限り,少なくとも,除草剤の候補となる化合物として提供して除草剤用途に使用することに過度の試行錯誤を要するものではない。
(ウ)被告の主張について
これに対して,被告は,①訂正明細書の発明の詳細な説明には,個別のHetを有する出発物質の入手方法が記載されていないこと,②訂正明細書の発明の詳細な
説明には,個別のHetを有する出発物質を用いた反応条件が記載されていないこと,また,訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された一般的な合成スキームの範囲内であったとしても,塩基の種類の選択,個別の化合物の反応の実施には,当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤が要求されること,③訂正明細書の発明の詳細な説明には,使用方法を理解できる実施例も記載されていないことなどを挙げて,無効理由2(実施可能要件違反)は解消されない旨主張する。しかしながら,①について,訂正明細書に個別のHetを有する出発物質の入手方法が記載されていないとしても,別紙出発物質一覧記載の各出発物質はCAS登録番号によって管理されており,本件出願日当時,当業者において,同番号を基に入手できると認められることは上記のとおりである。同番号による出発物質の入手を困難とする事情も認められないから,当業者が別紙出発物質一覧記載の各出発物
質を入手することに過度の試行錯誤を要するものではない。
また,②について,訂正明細書に反応条件が逐一記載されていないとしても,当業者において,特定の化合物の合成実施例の記載及び一般的な合成スキームである方法AないしC等に関する反応条件の記載から個別の反応条件についての示唆を得ることはあり得るところであり,実際の合成過程においてはなお相応の試行錯誤を
要するとしても,それが通常期待し得る程度を超える過度のものであったとは認められない。
さらに,③について,訂正明細書に具体的な実験結果に基づき個別の化合物の除草作用が記載されていないとしても,本件各訂正発明のようにベンゾイルシクロヘキサン骨格を有する化合物が除草作用を有することは本件出願日当時には当業者に
知られていたのであるから,これを除草剤の有効成分の候補として除草剤用途に使用することが格別困難であったとは認められない。
(ウ)小括(無効理由2の解消)
以上のとおり,当業者は,訂正明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づき,過度の試行錯誤を要することなく,本件各訂正発明に係る化合物を生産する
ことができたものであり,また,使用することができたものである。よって,訂正明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件各訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり,特許法36条4項に違反するものではないから,実施可能要件に違反することを理由とする無効理由2は解消する。

無効理由1(サポート要件違反)の解消について

(ア)また,サポート要件との関係でも,上記アのとおり,当業者が,訂正明細書の記載及び本件出願日(平成10年8月5日)当時の技術常識に基づき,過度の試行錯誤を要することなく,本件各訂正発明に係る化合物を生産することができ,使用することができたといえる以上,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載により,新規な,除草特性が改良された化合物であって,除草剤の有効成分又はその候補と
なる化合物を提供するという本件各訂正発明の課題を解決することができると当業者が認識できる範囲の記載がされているものといえる。
(イ)これに対して,被告は,本件各訂正発明の課題は,除草特性が改良された化合物であって,除草剤の有効成分又はその候補となる化合物を提供することであるから,訂正明細書の発明の詳細な説明には,生産された化合物が除草特性が改良さ
れた化合物であることを当業者が理解できる記載がされる必要があるが,本件各訂正発明に係る化合物が必ずしも除草特性に優れるとはいえず,実際にも,本件各訂正発明の化合物の中には,十分な効果を有さないものが含まれていること(乙27)などから,無効理由1(サポート要件違反)は解消されない旨主張する。しかしながら,本件各訂正発明は,除草特性が改良された特定の化合物を提供す
ることを課題とするものではなく,被告も主張するように,除草剤の有効成分又はその候補となる化合物を提供することを課題とするものであるから,上記のとおり,ベンゾイルシクロヘキサン骨格を有する化合物が除草特性を有することが本件出願日当時に当業者に知られていたと認められる以上,本件各訂正発明の技術的範囲に属する化合物の中に,栽培作物に対する安全性が十分でないものが一部に含まれて
いたというだけでは,除草剤の有効成分の候補となる化合物を提供するという課題を解決できないことになるものではない。
したがって,被告の主張は採用することができない。
(ウ)以上のとおり,本件各訂正発明は,特許を受けようとする発明が訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものであり,特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に違反するものではないから,サポート要件に違反することを理由とする無効理由1は解消する。

無効理由3(乙第1号証を主引例とする進歩性欠如)について

被告は,本件各訂正発明も,当業者が,乙1発明を主引例として,容易に発明をすることができたものであるから,本件各訂正発明についての特許も特許法29条2項に違反し,同法123条1項2号により無効とされるべきである旨主張するので,以下に検討する。
(ア)本件訂正発明1と乙1発明の対比
乙1発明は上記3⑶イで述べたとおりのものであると認められ,本件訂正発明1との一致点は,上記3⑶ウ(ア)で本件発明3との一致点として述べたのと同様である。

他方で,本件訂正発明1と乙1発明とでは,次の点において相違する。a
相違点1´

本件訂正発明1は,R2が「-S(O)nR3」(構成要件1C①´)であるのに対し,乙1発明は,対応する基がハロゲンの一種である塩素である点。b
相違点2´

本件訂正発明1は,Hetが,オキシラニル,2-オキセタニル,3-オキセタニル,2-テトラヒドロフラニル,3-テトラヒドロフラニル,2-テトラヒドロチエニル,2-ピロリジニル,2-テトラヒドロピラニル,2-ピロリル,5-イソオキサゾリル,2-オキサゾリル,5-オキサゾリル,2-チアゾリル,2-ピリジニル,1-メチル-5-ピラゾリル,1-ピラゾリル,3,5-ジメチル-1
-ピラゾリル,または4-クロロ-1-ピラゾリルである(構成要件1F´)のに対し,乙1発明は,対応する基が,特定の基Xを0,1又は2個有するフェニル基である点。
(イ)相違点に係る容易想到性
しかしながら,そもそも,乙1発明の化合物は,ベンゼン環の2位ないし4位に結合する置換基の構成を発明を特定する事項として規定するものであるから,乙1発明の化合物から出発して相違点1´及び2´に係る本件発明1の化合物の構成を採用することが容易であるというためには,乙2公報ないし乙4公報に本件発明1のR2及びHetに相当する置換基を有する化合物が記載されているだけでは足りないというべきであること,乙1公報の記載を見ても,ベンゼン環の4位の塩素をスルホニル基に変更したり,3位のフェニルオキシメチル(-CH2O-φ)をヘ
テロ環オキシメチル(-CH2O-Het)に変更することによって,除草作用や作物に対する安全性が向上することを示唆する記載はないこと,とりわけ,相違点2´については,乙2公報ないし乙4公報のいずれにも,ベンゼン環の3位にヘテロ環オキシメチル(-CH2O-Het)を有する化合物は記載されていないことなどについては上記2⑶で述べたとおりであり,本件訂正発明1についても,乙1
発明及び上述した公知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
なお,被告は,相違点2´に関し,本件各訂正発明に係る化合物のうち,X1が-CH2O-であり,Hetがオキシラニルである化合物は,乙1公報記載の製造方法(段落【0032】)に従い,フェノールに代えて,本件優先日に公知である
ハイドロキシオキシラン(甲51)を用いることにより製造することができると主張するが,乙1公報にハイドロキシオキシランを用いて化合物を合成することを示唆する記載はなく,そのような動機付けがあったとはいえないから,相違点2´に関する本件訂正発明1の構成を想到することが容易であったとはいえない。(ウ)本件訂正発明3について

本件訂正発明3は,本件訂正発明1において,Hetの選択肢を,はじめの3個を除いた15個に限定したものであるから,上記で本件訂正発明1について述べたのと同様の理由により,乙1発明及び上述した公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ)小括(無効理由3)
よって,本件各訂正発明との関係でも,無効理由3は認められない。⑶

争点3-3(被告各製品は本件各訂正発明の技術的範囲に属するか)につい

被告は,被告各製品は「X1が酸素により中断されたエチレン鎖」を有しておらず,構成要件1E´及び3B´を充足しない旨主張する。
しかしながら,「中断」の一般的な字義や本件特許の出願経過等に照らすと,「酸素により中断されたエチレン鎖」が炭素原子が連なる構造を酸素によって断ち切る構造,すなわち,「-CH2-O-CH2-」の構造を意味することは,上記2⑴で述べたのと同様であるから,これに対応する構成1eを有する被告各製品は,構成要件1E´及び3B´を充足する。
また,被告は,訂正明細書に記載のないテフリルトリオンは本件各訂正発明の技
術的範囲に含まれない,テフリルトリオンを含む除草活性組成物について原告が本件特許権を行使することは信義則に反するなどと主張するが,これらの主張を採用することができないことも上記2⑶で述べたのと同様である。したがって,被告各製品は,本件各訂正発明の構成要件を全て充足し,それらの技術的範囲に属する。
5
争点4(被告製品1についての請求は認められるか)



争点4-1(被告は被告製品1の製造販売等をしているか)について
本件全証拠によっても,被告が被告製品1の製造販売等をしているとは認められない。かえって,弁論の全趣旨に照らすと,被告製品1は日本国内で製造されておらず,全農が輸入販売等をしていると認められる。


争点4-2(被告及び全農らの共同不法行為が成立するか)について
原告は,全農の名義による被告製品1の輸入販売等は,テフリルトリオンの共同開発者である被告,全農及び北興が関連共同して行っているものであり,被告及び全農らの共同不法行為(民法719条1項前段)が成立する旨主張し,被告らの共同不法行為を基礎付ける事情として,①テフリルトリオンの農薬抄録(甲3の1)に「本資料に記載された情報に係る権利及び内容の責任は全国農業協同組合連合会,北興化学工業株式会社及びバイエルクロップサイエンス株式会社にある。」等の記載によって,テフリルトリオンの販売先等を被告及び全農らが共同で決定していることが示されていること,②第三者がテフリルトリオンを含有する農薬の登録を受けるためには,農薬登録申請書に記載された農薬原体に関する情報を参照できるように被告らに同意書を発行してもらう必要があること,③第三者が混合剤の農薬
(テフリルトリオンに別の成分を追加した農薬)を製造するためには,被告らから情報提供を受け,技術指導を受ける必要があること,④被告製品1に不具合があった場合の責任保証は,原体の農薬登録を受けている被告,全農及び北興が負っていること,⑤被告が全農から被告製品1の販売利益の配分を受けていること,⑥被告製品1の輸入販売等に係る商流は被告及び全農らによって独占されていること,⑦
被告製品1の営業行為は被告及び全農らによって共同で行われていること等を挙げている。
しかしながら,まず,原告が引用する農薬抄録の記載(上記①)は,テフリルトリオンを含有する農薬混合剤の共同開発者である被告,全農及び北興において,テフリルトリオンの化学構造,性状,混合剤の組成,生物活性,使用上の注意事項等
の記載内容について責任を負う旨を記載したものにすぎないから,被告製品1の販売先等を被告及び全農らが共同で決定していることを基礎付けるに十分なものではない。
また,被告が全農から被告製品1の販売利益の配分を受けていると認められるとしても(上記⑤),テフリルトリオンの物質特許(特許第5005852号)を保
有する被告又はその関連会社に対するロイヤルティの支払と見る余地があり,これを全農による被告製品1の輸入販売等に被告が具体的に関与していることをうかがわせる事情とはいえない。
さらに,農薬原体である被告製品1が農薬取締法2条所定の農薬の登録が必要な農薬(「農作物…を害する菌,線虫,だに,昆虫,ねずみその他の動植物又はウイルス…の防除に用いられる殺菌剤,殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤,発芽抑制剤その他の薬剤」〔同法1条の2第1項〕)に該当すると認めることはできず,被告らが被告製品1の農薬の登録を受けていることを前提とする原告の主張(上記②及び④)は前提を欠き,採用することができない。

加えて,被告が被告製品1の営業活動や販売先に対する情報提供及び技術指導をしていると認めることもできない(上記③及び⑦)。以上のとおり,被告,全農及び北興の三社はテフリルトリオンを含有する農薬混合物の共同開発者であり,被告は全農から被告製品1の販売利益の配分を受けていると認められるものの,全農による被告製品1の輸入販売等について,被告が具体
的に関与していることを示す事実関係を認めることはできないから,被告らが共同で被告製品1を輸入販売等していると認めることはできず,被告らの共同不法行為は認められない。

6
したがって,原告の被告製品1についての請求は理由がない。
争点5(原告が受けた損害の額)について



被告製品2

原告は,本件特許の登録日である平成22年9月24日から平成28年9月30日までの損害額は,被告製品2の売上高83億9544万7000円に実施料率8%を乗じた実施料相当額(特許法102条3項)である6億7163万5760円であると主張するので,以下に検討する。

売上高

(ア)日本植物防疫協会発行の「農薬要覧-2014-」(甲12)及び「農薬要覧2016年版(平成27農薬年度)」(甲62),日本植物調節剤研究協会作成の「平成28年度

水稲除草剤出荷数量・金額

推定使用面積一覧表」(甲63)

に記載された2011年度から2016年度まで(平成22年10月1日から平成28年9月30日まで)の各農薬年度における被告製品2⑴ないし⑿の出荷金額は別紙被告製品2売上高(原告主張)のとおりであり,その合計額が83億9544万7000円であることが認められる。
しかしながら,他方で,被告は,農薬要覧等に記載された出荷金額は,製品の規格及び流通経路によって製品単価は異なっているにもかかわらず,各製品の出荷総量に最も高額な規格の製品単価を乗じて一律に推算した金額である点,全農を通さ
ずに卸売業者を経由する経路(商系ルート)よりも高額な全農が定めた製品単価を用いて計算した金額である点で,実際の売上高よりも高額であるとして,上記金額から単価修正●(省略)●を控除する必要があると主張しているところ,この被告の主張は,農薬要覧等の記載に基づく売上高の認定について具体的に疑問点を指摘するものと評価できるのに対し,原告から,この疑問点を解消するに十分な主張立
証がされているとはいえないから,被告の主張を排斥することはできない。(イ)また,被告は,被告製品2の販売代金の一部●(省略)●を事後的にリベート等として返金しており,実施料率算定の基礎とされる売上高からこのリベート金額を控除すべきである旨主張するところ,公正取引委員会作成の「平成6年度正取引委員会年次報告」(乙60)の「第7章


経済実態の調査」には,「卸商は,

通常は価格交渉を行うことなく小売商に価格表を示し,当該価格で取引し,期末にリベートで仕入価格を調整するところが多い。」,「農薬の取引においては,系統ルート及び商系ルートともに,実質的な価格競争がリベートにより行われているという側面がみられ,また,メーカーから支払われたリベートは,系統ルート及び商系ルートともに次の取引段階でのリベートの原資として用いられており,順次,次
の取引段階での実質的な取引条件に反映されている。」と記載されており,農薬の取引の実情として,実質的にはリベートによって取引価格が調整され,リベートが取引条件に影響を及ぼしていると認められるから,実施料率算定の基礎となる被告製品2の売上高は被告主張のリベート金額を控除して算定するのが相当である。なお,原告は,リベート金額の返金は,販売による特許発明の実施後の事後的な行為にすぎないから損害額算定の基礎となる売上高から控除すべきではない旨主張するが,上記の農薬の取引の実情に照らし,採用することができない。(ウ)したがって,実施料率算定の基礎となる被告製品2の売上高は,被告が自認する●(省略)●の限度で認められ,これを上回る金額を認めるに足る証拠はない。イ
実施料率

上記で認定,説示したところに加えて,証拠(甲3の1,甲4,5,6の1ないし4,甲7の1ないし3,甲55ないし61,67,68,72)及び弁論の全趣旨によれば,①本件各発明は,新規な,除草剤の有効成分又はその候補となる化合物を提供することを課題として,化合物の一般式及び置換基の組合せを示したものであるものの,発明の詳細な説明においても,発明の技術的範囲に含まれる各化合物の除草特性に関する個別の実験結果が示されていないから,本件各発明の技術的
範囲に含まれる化合物の中から,除草特性及び水稲に対する安全性に優れたテフリルトリオンを見出し,農薬混合物として実用化するには相応の試行錯誤を要すると考えられること,②被告製品2は,いずれもテフリルトリオンに加えてもう一種類の有効成分(被告製品2⑴ないし⑶のフェントラザミド,同⑷ないし⑹のメフェナセット,同⑺ないし⑿のトリアファモン)を含有する農薬混合物であること,③テ
フリルトリオンが幅広い雑草に対する除草効果に優れ,スルホニルウレア抵抗性雑草(ホタルイ類,アゼナ類,コナギ等)に高い除草作用を有しているのに対して,被告製品2に含有されるもう一種類の有効成分はいずれもテフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエに対して優れた除草効果を有しており,テフリルトリオンと相互に除草効果を補完する関係にあるということができること,④被告が作成し
た被告製品2の技術資料やパンフレット等の広告・宣伝上も,二種類の有効成分が含まれた農薬混合物であることによってスルホニルウレア抵抗性雑草及びノビエに対して優れた除草効果を発揮することが一貫して記載されていること(原告が主張するように,テフリルトリオンの優れた除草効果等に係る記載があることをもって,テフリルトリオンだけを強調しているとはいえない。),⑤平成19年に日本で特許出願を行った国内企業・団体のうち,合計出願件数の上位となっている企業・団体に加えて,株式会社帝国データバンク保有データ信用調査報告書ファイルの中からライセンス契約を実施していると判断された企業に対するアンケート調査において,化学分野に係る特許権のロイヤルティ率の平均値は4.3%であるとされていること,他方で,財団法人経済産業調査会発行の「ロイヤルティ料率データハンドブック~特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ~」(甲68)におい
て,上記のアンケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果として,「有機化学,農薬」分野のロイヤルティ率の平均値は5.9%とされていることが認められる。
上記事実関係に照らすと,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に含まれるテフリルトリオンを有効成分の一つとする農薬混合物ではあるものの,本件各発明の
効果が特に顕著であるとみることはできない。また,被告製品2においては,テフリルトリオン以外の有効成分もテフリルトリオンの除草効果を補完する重要な効果を有しており,技術資料等においても二種類の有効成分が含まれた農薬混合物であることが一貫して記載されていることも実施料率を算定するに当たって十分に考慮される必要がある。

加えて,本件各発明についての特許に上記3⑴及び⑵のとおりの無効理由があることからすると,被告が原告との間でライセンス契約を締結することなく被告製品2を製造販売等して本件特許権を侵害してきたことをもって,実施料率をそれ程高額なものと認定するのは相当とはいえない。
以上を総合すると,本件における特許法102条3項所定の損害の額は,被告製
品2の売上高に●(省略)●を乗じて算定するのが相当である。

小括(被告製品2)
被告製品2についての原告の損害の額は,別紙被告製品2売上高(被告主張の純売上高)の「合計(製品別)」欄のとおりと認められる各被告製品の売上高にそれぞれ●(省略)●を乗じた次の金額を合計して算定するのが相当である。(ア)被告製品2⑴
●(省略)●
(イ)被告製品2⑵
●(省略)●
(ウ)被告製品2⑶
●(省略)●

(エ)被告製品2⑷
●(省略)●
(オ)被告製品2⑸
●(省略)●
(カ)被告製品2⑹

●(省略)●
(キ)被告製品2⑺及び⑽
被告は,被告製品2⑺及び⑽を一括して売上高を算定しているため,両製品の売上高の合計額に●(省略)●を乗じた上,原告主張の両製品の売上高の割合で案分して,両製品の損害額を算定した。

a
被告製品2⑺

●(省略)●×135万1000円/776万6000円〔135万1000円+641万5000円〕)
b
被告製品2⑽

●(省略)●×641万5000円/776万6000円〔135万1000円+641万5000円〕)
(ク)被告製品2⑻及び⑾
被告は,被告製品2⑻及び⑾を一括して売上高を算定しているため,両製品の売上高の合計額に●(省略)●を乗じた上,原告主張の両製品の売上高の割合で案分して,両製品の損害額を算定した。
a
被告製品2⑻

●(省略)●×158万6000円/869万7000円〔158万6000円+711万1000円〕)
b
被告製品2⑾

●(省略)●×711万1000円/869万7000円〔158万6000円+711万1000円〕)
(ケ)被告製品2⑼及び⑿
被告は,被告製品2⑼及び⑿を一括して売上高を算定しているため,両製品の売上高の合計額に●(省略)●を乗じた上,原告主張の両製品の売上高の割合で案分して,両製品の損害額を算定した。
a
被告製品2⑼

●(省略)●×59万8000円/883万5000円〔59万8000円+823万7000円〕)
b
被告製品2⑿

●(省略)●×823万7000円/883万5000円〔59万8000円+823万7000円〕)
(コ)小計
●(省略)●(上記(ア)ないし(ケ)の合計額)


被告製品1

上記5のとおり,被告に損害賠償責任は認められない。

弁護士及び弁理士費用

本件事案の内容,経緯,認容額等に照らし,1800万円を相当と認める。⑷

小括(争点5)
以上より,被告は,原告に対し,上記⑴及び⑶の合計2億0028万0574円の支払義務を負う。
7
結論

以上によれば,原告の本件請求は,被告製品2の製造,販売及び販売の申出の差止め(なお,被告は,被告が被告製品2の譲渡〔販売を除く。〕,輸入,貸渡し,譲渡及び貸渡しの申出〔販売の申出を除く。〕をしていることをいずれも否認しているところ,原告は,被告がこれらの行為をしていることを立証せず,そのおそれがある旨の主張立証もしなかった。),被告製品2の廃棄,並びに損害賠償金2億0028万0574円及びうち1億円に対する平成27年2月13日(訴状送達の
日の翌日)から,うち1億0028万0574円に対する平成29年4月11日(同月7日付け訴えの追加的変更申立書送達の日の翌日)から,各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。

なお,主文第2項については,仮執行宣言は相当でないから,これを付さない。また,被告の平成29年12月20日付け上申書記載の事情を含む本件事案の内容等に照らし,職権により,立担保を条件とする仮執行免脱宣言を付することとする。
東京地方裁判所民事第29部

裁判長裁判官


裁判官
末和秀天野研司西山芳樹
裁判官

別紙
被告製品目録

1
被告製品1

テフリルトリオンなる化合物を含む農薬原体
2
被告製品2

下記の製品名の除草剤として用いられる農薬混合物





ボデ-ガ-ドジャンボ
ポッシブル1キロ粒剤



ポッシブルフロアブル



ポッシブルジャンボ



ボデ-ガ-ドプロ1キロ粒剤



ボデ-ガ-ドプロフロアブル



ボデ-ガ-ドプロジャンボ


カウンシルコンプリ-ト1キロ粒剤


カウンシルコンプリ-トフロアブル


ボデ-ガ-ドフロアブル



ボデ-ガ-ド1キロ粒剤

カウンシルコンプリ-トジャンボ
以上

別紙

甲2の2を添付する。

別紙

甲49を添付する。

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