判例検索β > 平成27年(わ)第918号
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反、詐欺、恐喝、恐喝未遂
事件番号平成27(わ)918
事件名組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反,詐欺,恐喝,恐喝未遂
裁判年月日平成29年11月29日
法廷名福岡地方裁判所
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平成29年11月29日宣告
組織的な犯罪
の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反,詐欺,恐喝,恐喝未遂被告事件
判決主文
被告人を懲役6年に処する
理由
(罪となるべき事実)
第1

(平成27年10月7日付け起訴状記載の公訴事実。以下「詐欺事件」という。

被告人は,携帯電話機及び通信回線を利用できる契約上の地位をだまし取ろうと企て,A及びBと共謀の上,平成23年10月8日,北九州市a区bc丁目d番e号fの「丙店」において,上記Bが,同店従業員であり,かつ,丁株式会社から,
同社の
「○○○○」
として同社サーバーにアクセスするための
「△
△△△△△」を付与されて同社のために顧客との間における同社提供の通信回線サービスの利用契約締結業務を代行しているCに対し,真実は,通信回線サービスを利用可能な状態の携帯電話機を,あらかじめ同社の承諾を得ることなく,上記B以外の者に譲渡する意図であるのにその情を秘し,上記B自身が使用するかのように装って,同店店長Dの管理に係る携帯電話機1台の購入方を申し込むとともに,同社が提供する通信回線サービスの利用契約締結の申込みをし,上記Cをして,その旨誤信させ,よって,即日同所において,上記Cから携帯電話機1台(電話番号●●●-●●●●-●●●●,販売価格2079円)の交付を受けるとともに,同社が提供する通信回線サービスを利用できる契約上の地位を取得し,もって人を欺いて財物を交付させるとともに財産上不法の利益を得た。
第2

(平成28年4月27日付け起訴状記載の各公訴事実。以下「恐喝・恐喝未遂事件」という。

被告人は,指定暴力団である五代目甲會(以下「甲會」という。
)五代目乙組
(以下「乙組」という。
)組員であったが,

1
Eから紹介されたFが,被告人から借用した金銭の返済を滞らせたことなどに乗じて,Eから,Fに対する貸金の取立名下に金銭を脅し取ろうと考え,平成23年11月下旬頃,北九州市g区h町c丁目i番j号kビル1階戊店内において,E(当時21歳)に対し,
「Fの借金の返済はどうするんか。お前が代
わりに払え。払わんかったら,どげんなるか分かろうが。
」などと語気鋭く申し
向け,さらに,同年12月下旬頃,Eに対し,電話で,
「金払えないんなら,G
のやってる己で働け。そこの日給は6000円やけ,その半分を毎日俺のところに持ってこい。などと語気鋭く申し向けて重ねて金銭の交付を要求し,」
もし
その要求に応じなければ,Eの生命,身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示してEを畏怖させ,よって,平成24年1月初め頃から同年3月24日頃までの間,複数回にわたり,上記kビル前路上等において,Eから現金合計約40万円の交付を受けてこれを脅し取り,

2
被告人からの借金の返済を滞らせたFから金銭を脅し取ろうと考え,平成24年1月7日頃,北九州市g区h町c丁目i番l号mビル前路上において,F(当時32歳)
に対し,
「金,
どうするんか。
嫁さんを風俗に沈めて回収しろ。

などと語気鋭く申し向けた上,同月11日頃,同路上において,Fに対し,「金
を返せ。などと語気鋭く申し向け,

さらに,
同月13日頃,
Fに対し,
電話で,
「お前,
今からさらいに行くぞ。などと語気鋭く申し向けて重ねて金銭の交付」
を要求し,もしその要求に応じなければ,Fの生命,身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示してFを畏怖させて金銭を脅し取ろうとしたが,Fが被告人との接触を断つなどしたため,その目的を遂げなかった。

第3(平成27年7月27日付け起訴状記載の各公訴事実。「元警察官事件」以下
という。

平成24年4月19日当時,被告人は指定暴力団甲會乙組組員,Hは甲會総裁,Iは甲會会長,Jは甲會理事長兼乙組組長,Kは甲會乙組若頭,Lは甲會乙組若頭補佐,Mは甲會乙組筆頭若頭補佐,Nは甲會乙組組長付,O,P及びQはいずれも甲會乙組組員であったものであるが,
被告人は,
上記H,
I,
J,
K,L,M,N,O,P及びQと共謀の上,組織により,元n県警察警察官R(当時61歳)を殺害することになってもやむを得ないと考え,甲會の活動として,上記Hの指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って,いずれも法定の除外事由がないのに,
1
平成24年4月19日午前7時5分頃,不特定若しくは多数の者の用に供される場所である北九州市a区o町p丁目q番r号付近路上において,上記Nが,
上記Rに対し,殺意をもって,所携の自動装てん式けん銃で,上記Rの身体を目掛けて弾丸2発を発射し,同人の左腰部及び左大腿部に1発ずつ命中させ,もって団体の活動として組織により人を殺害しようとしたが,同人に約1か月間の入院及び通院加療を要する左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らず,さらに,引き続き,同所において,上記Nが,所携の上記けん銃で,地面に向けて弾丸1発を発射し,

2
上記第3の1記載の日時場所において,同記載のけん銃1丁を,これに適合するけん銃実包3発と共に携帯して所持した。

(事実認定の補足説明)
第1

争点

弁護人は,判示第1の詐欺事件及び判示第2の恐喝・恐喝未遂事件については事実関係を概ね認め,犯罪の成立を争っていないが,判示第3の元警察官事件については,被告人にはけん銃を使用する殺人の共謀は成立せず,実行犯にも殺意はなかったのであるから,被告人には組織的殺人未遂罪,組織的けん銃発射罪,組織的けん銃加重所持罪のいずれも成立せず無罪であり,仮に何らかの犯罪が成立するとしても,被告人の具体的な関与の程度からすれば幇助犯が成立するにとどまり,共同正犯は成立しない旨主張するので,以下順次検討する。
第2

前提事実

関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
1
甲會

甲會(五代目甲會)は,北九州市内に拠点を置き,平成27年12月時点で800人を超す構成員等を擁し,同市を中心に縄張りを主張する北九州地区最大の暴力団組織である。その組織内の序列は,上から,総裁,会長,会長代行,理事長等と続き,最高顧問を除く会長代行以下理事長補佐までを執行部と称している。平成4年6月,甲會(当時の名称は,二代目甲連合庚一家)は,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に基づき,
n県公安委員会から指定暴力団として指定され,
元警察官事件発生当時もこの指定は続いていた。
乙組(五代目乙組)は,甲會傘下の二次団体の一つであるが,組内での序列は,トップが組長,執行部として,上から,若頭,本部長,幹事長,組織委員長,風紀委員長,筆頭若頭補佐と続き,執行部の下には,若頭補佐,組長秘書,組長付などが役付とされていた。
H,I,J,K,L,M,N,O,P及びQの元警察官事件発生当時の甲會及び乙組内でのそれぞれの立場は,判示第3の冒頭に記載したとおりである。2
被告人と甲會

被告人は,累犯前科の罪により服役し,平成23年7月頃,s刑務所を出所したが,かねてより,乙組組員から甲會に入るよう誘われていたこともあり,出所後すぐにKのもとに赴き,二,三か月の間,Kの付き人として活動していた。そして,被告人は,同年9月か10月頃,甲會乙組の正式な組員となり,以後,平成27年7月頃に脱退するまでの間,同組組員として活動していた。
3
元警察官事件の概要

平成24年4月19日,n県警察の警察官であったRが自宅付近の路上で何者かによって銃撃されるという事件(元警察官事件)が発生した。関係各証拠により認められる元警察官事件の概要,
犯行態様,
周到な準備状況と細分化された役割分担,
推測される犯行動機等に鑑みれば,同事件は,H,I,Jらが共謀の上,組織により,甲會の活動として,Hの指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って遂行されたものと認められ,弁護人もこの点は積極的に争っていない(実行犯であるNの殺意の有無や,被告人に共同正犯が成否するか否かについては,別途検討する。。

第3
1
実行犯であるNの殺意の有無について
認定事実

関係各証拠によれば,NによるRへの銃撃に関し,以下の事実が認められる。平成24年4月19日午前7時2分頃,Rは,通勤のため自宅を出て,最寄り駅であるt駅に徒歩で向かい,
同日午前7時5分頃,
犯行現場に差し掛かった。
一方,
付近の待機場所で原動機付自転車に乗り待機していたNも,Oからの携帯電話機による合図を受けて原動機付自転車を発進させ,自分の方に向かって歩いてくるRの姿を認めると,減速しながら,ゆっくりと進み,Rの左斜め前に至ったところでブレーキをかけ,原動機付自転車を停めたが,犯行現場付近の道路は,Nの進行方向に向かって約2パーセントの下り勾配になっていたので,Nは,原動機付自転車にまたがったまま両足を地面につけて踏ん張る態勢になった。
そして,RがちょうどNの左側に位置する地点まで来たときに,Nは,左側に90度ぐらい体をひねり,上着のポケットから25口径の自動装てん式けん銃(タンホグリオGT27型というイタリア製の真正けん銃)を取り出し,両手で持って構え,至近距離にいるRの左大腿部を狙って続けざまに2回引き金を引いた。その結果,弾丸2発が連続して発射され,Rの左腰部と左大腿部に1発ずつ命中した。Nは,原動機付自転車を二,三メートルほど進ませて,Rの後方の地面に向けて更に1回引き金を引き,弾丸1発を発射すると,スピードを上げてその場から走り去った。
NがRを狙って撃った2発の弾丸のうち,1発は左大腿部からやや下向きに射入して大腿骨大転子部に当たって跳ね返り体外へ排出されたが,もう1発は左腰部からやや下向きに射入して左大腿骨骨頭の背中側部分の大腿動脈から約7センチメートルの位置で体内に遺留した。Rは,本件犯行により約1か月間の入院及び通院加療を要する左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負った。
2
検討

以上の事実関係を前提に,Nの殺意の有無について検討する。
Nは,25口径と比較的小型ではあるが人を殺傷する能力を十分に備えていると認められる真正けん銃を用いて,Rの左腰部及び左大腿部という身体の枢要部に近い部位に2発の弾丸を撃ち込んでいる。弾丸はNのほぼ狙いどおりに命中しているが,そのうちの1発が大腿動脈から約7センチメートルの位置に遺留されていたことからも明らかなように,銃口の向きがほんのわずかそれていたり,Rが今少し体を動かしていたら,弾丸が大腿動脈を損傷して短時間のうちに大量出血したり,あるいは,心臓,肝臓,膵臓等の重要な臓器を損傷したりする可能性は十分にあったのであり,Nによる銃撃がRの生命を奪いかねない危険な行為であったことに疑いの余地はない。原動機付自転車にまたがった不安定な態勢で動く標的を狙うという非常に難易度の高い狙撃方法であったことも考え併せれば,その危険性は一層高いものであったといえ,N自身もそうした危険性を基礎づける諸事情を十分認識していた。以上によれば,NにはRに対する少なくとも未必的な殺意があったと認められる。
この点,弁護人は,Nは,Kから,撃つときは殺さないように股付近に向けて撃てなどと指示され,その指示どおりにRを銃撃したのであるから,NがRに対する殺意を有していなかったことは明らかである旨主張する。しかし,Kの指示内容自体が,人が死亡する危険性が高い行為を行うよう求めるものであるから,Kの指示に従ってRを銃撃したからといって,Nの殺意が否定されるものではない。その他弁護人が弁論で主張する諸点を十分に検討しても,NにはRに対する少なくとも未必的な殺意があったとの上記認定は揺らがない。
第4

被告人に組織的殺人未遂等の共同正犯が成立するか否かについて

1
認定事実

関係各証拠によれば,元警察官事件に至る経緯及びその過程での被告人の関与等について,以下の事実が認められる。
被告人は,平成23年9月か10月頃から,甲會乙組の組員として活動していたところ,同年11月26日,辛建設株式会社の会長を務めていたSが何者かに射殺される事件が発生した(以下,この事件を「辛事件」という。。)
Sは,同月13日から同月26日までの間,n市内のn国際センターにおいて開催されていた大相撲u場所を観戦するため,妻らとともに,ほぼ連日北九州市g区所在の自宅からn国際センターに通っていた。被告人は,同月16日,Kから,突然相撲の観戦に誘われ,K及びOとともに,n国際センターに向かい,大相撲u場所を観戦していたが,その最中に,被告人とOは,Kから,土俵近くにいる白髪の男性の顔を覚えてくるように言われたため,
その男性
(S)
の顔を確認しに行った。
その日の観戦が終わる頃,被告人は,Kから,上記男性のあとをつけるよう指示を受け,K及びOとともに,バスに乗り帰路につく上記男性のあとをつけたが,上記男性がバスを降りv駅の中に入っていったことから,その日の追尾は終了した。Sは,同月26日もn国際センターにおいて大相撲u場所を観戦したが,その帰りに自宅前で車から降りたところを何者かにより銃撃され,死亡した(辛事件)。
被告人は,辛事件が発生して数日後,相撲好きな建設会社の会長が相撲を観戦して帰宅したところをけん銃で射殺されたが,暴力団による犯行の疑いがある,というニュースに接した。その際,被告人は,被害者とされるSの写真を見て,自身が相撲の観戦の際に顔を確認し,その後の行動を観察した男性が銃撃される被害に遭ったことを認識し,
S殺害にKら甲會の組員が関与しているのではないかと考えた。


Kは,平成24年3月末頃,Rの自宅付近でRの行動確認を行ったが,R
の行動が把握できなかったため,同年4月初め頃,Oに対し,Rの行動確認を行うよう指示するとともに,
被告人に対しても,
Oの手伝いをするよう指示した。
また,
被告人は,この頃,Kから,Qの車に積まれている双眼鏡を取ってくるよう指示されたので,同月3日夜,Qを介してQの義兄であるTを呼び出し,同人が運転してきた車の中から双眼鏡を持ち出した。
被告人は,同月4日朝,Oとともに,北九州市a区所在のRの自宅付近の近くのマンションに車で向かい,同マンション7階の階段から,Oが指示する家(Rの自宅)から出てくる人がいないかを肉眼で見張り,一方,Oは,被告人から受け取った双眼鏡を用いて別の場所に停めた車の中から同様に見張りをした。しかし,2時間ほど見張りをしたにもかかわらず,家からは誰も出てこなかった。被告人は,翌5日朝も,Oとともに,2時間ほどRの行動確認をしたが,この日もRの姿を確認することはできなかった。
Rの姿を確認できなかったとの報告をOから受けたKは,Rの顔を知っているLに対して,被告人らの行動確認に同行するよう指示した。Lは,同月12日朝,被告人及びOとともに,t駅付近の高架下に車で向かい,被告人らに対し,Rが60歳くらいの元警察官の男性であることを伝えた。引き続き,被告人らがRの姿を探していたところ,この日は,ジャケットを着て茶色のカバンを持ったRが徒歩でt駅方面に向かっている姿を確認することができ,LがKにその旨報告した。被告人は,同月13日夕方,Oとともに,t駅付近のマンションの砂利の駐車場に車で向かい,Rの姿を探していたところ,この日も前日と同様にジャケットを着て茶色のカバンを持って歩くRの姿を確認し,OがKにその旨報告した。その後,被告人が,Oとともに行動確認をするように命じられていた日に朝寝坊をし,
Rの行動確認に従事できなくなるという出来事があった。
これを知ったKは,
被告人に謹慎を命じ,以後,被告人は,Kの許可なく組事務所から外出することを禁じられた。
同月19日朝,Oは,Rの自宅近くの公園の前に停めた車の中でRが現れるのを待ち受け,Rが通勤のためt駅に向けて歩いている姿を確認すると,犯行現場付近で待機していたNが持つ携帯電話機に電話をかけ,これを合図にNが原動機付自転車を発進させて,前記第3の1記載のとおり,本件犯行現場でRを銃撃した(元警察官事件)

2
けん銃を使用した組織的殺人についての被告人の認識・認容の有無
まず,被告人に甲會によるけん銃を使用した組織的殺人の認識・認容があったか否かについて検討する。
被告人がRの行動確認を行ったのは,被告人が甲會の組員として活動するようになってから半年ほど後の時期であり,下位の組員であった被告人に,行動確認の意図が甲會の上層部から知らされることはなかったと考えられるが,自らが行動確認を行った相手が射殺されるという辛事件に関与させられた経験などから,被告人は,
本件犯行の頃には,甲會が,複数の組員で役割を分担し,ターゲットとなる人物の行動確認等を行った上で,実行犯がけん銃を使用するなどしてその人物を襲撃することをも意に介さない組織であることを認識していたといえる。
こうした中で,被告人は,元警察官事件発生の2週間くらい前から,Kに命じられ,少なくとも4回,Rの自宅や最寄り駅周辺において,Rの行動確認を行っているところ,この行動確認には辛事件と同様にOら複数の甲會の組員らが関与していることを認識したのであるから,
その5か月足らず以前に発生した辛事件のように,
甲會が,組織として,ターゲットとなる人物の行動確認等を行った上で,その人物を銃撃するという事態も当然に想定できたというべきである。
ところが,
被告人は,
行動確認に従事する際に,上位者であるKのみならず,自分と同じような立場にあったOらにも行動確認の目的を尋ねることなく,Kからの指示に従って自らの役割を果たしている。こうしたことから考えれば,被告人は,甲會組員がけん銃を使用してRを銃撃するような事態をも想定し,これを容認した上でRの行動確認に従事したものとみるほかはなく,被告人には甲會によるけん銃を使用した組織的殺人の少なくとも未必的な認識・認容があったものと認められる。
この点,弁護人は,若頭であるKが直々に被害者の行動確認を行っていた辛事件とは異なり,被告人のような平組員が行動確認を任されていた上,対象者は元警察官であったので,対象者を襲撃するなどという事態を被告人は想定しておらず,被告人にはRを銃撃するという認識がなかったことは明らかであるなどと主張する。しかし,被告人は,Kの指示でRの行動確認を行っているのであるし,元警察官事件の際は少なくとも4回にわたりRの行動確認を行っており,行動確認が入念なものであることを被告人も当然に認識していたことからすれば,被告人において,辛事件と同様に対象者であるRが銃撃されるという事態を全く想定できなかったとは考えられず,弁護人の指摘する点を踏まえても,被告人に未必的な認識・認容があったという上記認定は揺らがない。
3
被告人に共同正犯が成立するか否か

進んで,被告人に元警察官事件について組織的殺人未遂等の共同正犯が成立するか否かについて検討する。
被告人は,前記のとおり,甲會の組員であるOらとともにRの行動確認を複数回にわたり行ったものであり,そこから得た情報などを基にして,甲會の上層部が犯行計画を組み立て,その計画に基づき実行犯のNが犯行を遂行したものと考えられる。実際に,被告人らが行った複数回にわたる行動確認によって,Rは,朝の時間帯に,ジャケットを着用して茶色のカバンを持ち,t駅に歩いて向かうことが確認されており,茶色のバッグを持った年輩の男性というRの特徴は,KからNに伝えられていた。本件犯行が実行された場所やその時間帯などから考えても,被告人らが行った行動確認によって得られ,又は確認された情報が犯行計画の策定及び実行に当たって活用されたことは明らかである。そうすると,被告人らが従事したRの行動確認は,本件犯行の遂行に当たり不可欠な準備行為であったということができる。
以上のように,被告人は,甲會によるけん銃を使用した組織的殺人を未必的に認識・認容しつつ,本件犯行の遂行に当たり不可欠な準備行為である対象者の行動確認を組織の一員として担ったものであるから,被告人には組織的殺人未遂等の共同正犯が成立する。
この点,弁護人は,①被告人は,共犯者の中で一番立場が下の者であり,犯行の詳細についても何ら知らされず,ただKの指示どおりに動いたにすぎないこと,②被告人の犯罪への寄与度は皆無ないし微少なものにすぎず,少なくとも対象者の行動確認等の被告人の行為が本件犯行に不可欠のものであったとは到底いえないこと,③被告人は,本件犯行に対する報酬ないし対価を甲會関係者から一切受け取っておらず,そのような話もなかったことから,被告人が共同正犯でないことは明らかであり,万が一何らかの犯罪が成立するとしても,幇助犯の成立にとどまる旨主張する。
しかし,①については,確かに甲會内での被告人の地位や立場は低く,被告人が犯行の詳細を知らされることなく,上位者の指示に従って行動していたことは事実であるが,前記認定のとおり,被告人は,甲會によるけん銃を使用した組織的な殺人を未必的に認識・認容していたのであるから,犯行の詳細を知らされていないとしても,そのことだけで正犯性が否定されることにはならない。②については,対象者の行動状況について把握していなければ,組織的な襲撃計画を策定し,実行することはそもそも不可能であって,対象者の行動確認は,凶器や移動手段等の準備とともにこの種組織的犯行を遂行する上で不可欠の準備行為といえる。それ故,被告人の犯罪への寄与度が皆無ないし微小なものにすぎないとの指摘は当たらない。さらに,③については,本件は甲會による組織的な犯行であり,被告人も甲會の組員として甲會という組織のために犯行に加担していたのであるから,被告人が個人として報酬を得ていないとしても,正犯性が否定されるものではない。なお,被告人は,本件犯行が実行される数日前にKから謹慎を命じられ,Kの許可なく組事務所から外出することができなくなったが,被告人が使用する携帯電話機の犯行前日夕方の発信履歴における発信地がRの自宅付近となっていることから,謹慎以後も何らかの形で本件犯行に関わっていた可能性は否定できない。少なくとも,Kから謹慎を命じられたことが,それまでの行動確認を通じて被告人が本件犯行の実現に及ぼした影響力を解消するような事情とはいえず,また,被告人を除いた共犯者らが被告人の謹慎後に新たに共謀を遂げたりしたといった事情も証拠上認められないから,この点が共同正犯の成立を妨げるものではない。その他弁護人が弁論等で主張する諸点を十分に検討しても,被告人に判示第3の各犯行について共同正犯が成立するとの上記判断は揺らがない。
第5

結論

以上の次第であるから,被告人には組織的殺人未遂罪,組織的けん銃発射罪,組織的けん銃加重所持罪のいずれについても共同正犯が成立する。なお,元警察官事件に係る公訴事実は,
Rの身体を目掛けて弾丸3発を発射したという事実をもって,
組織的殺人未遂罪及び組織的けん銃発射罪を構成するものとされているところ,既に認定したとおり,Nは,最初の弾丸2発はRの身体を目掛けて発射しているが,最後の弾丸1発は地面に向けて発射しているから,弾丸3発を発射した行為については,包括して組織的けん銃発射罪1罪が成立するが,そのうち,最初の2発の発射については,組織的殺人未遂罪の実行行為と評価でき,その限度で両罪は観念的競合の関係に立つものと解される。
そこで,罪となるべき事実第3記載のとおり認定した。
(量刑の理由)
1
元警察官事件について
まず,量刑上最も重視すべき元警察官事件について見ると,甲會,中でも乙組に
属する複数の組員らが,あらかじめ被害者の行動確認を繰り返して,その出勤の時刻,
経路等を調べるなどして犯行計画を策定した上,
犯行に使用するけん銃や実弾,
原動機付自転車等を調達するなど準備を重ね,組織の指揮命令系統に従い,けん銃で被害者を狙撃する実行役,その送迎役,証拠品の処分役,被害者の行動確認役など,各人が細分化された役割を忠実に果たすことで犯行を実行に移しており,組織性及び計画性が顕著な犯行といえる。犯行動機は,甲會の事件捜査に長年従事してきた被害者の言動等への反発にあると推察されるが,もとより酌量の余地はなく,警察権力への挑戦という意味合いを含む極めて反社会性の強い犯行である。その犯行態様は,十分な殺傷能力を有する真正けん銃で至近距離から被害者の左腰部及び左大腿部に銃弾2発を撃ち込むという危険かつ凶悪なものであった。被害者は,現在でも股関節に痛みが残るなどし,後ろからバイクの音が聞こえたりすると恐怖心がよみがえるというのであり,被害結果は重大である。暴力団組織が警察OBに銃口を向けるという前代未聞の犯行が社会に与えた衝撃も量刑判断に当たって考慮せざるを得ない。
そして,被告人自身は,共犯者らとともに,少なくとも4回にわたり被害者の行動確認を行うという本件犯行計画を策定実行する上で不可欠な役割を担っている。・
一方で,被告人は,甲會や乙組内での立場や地位が共犯者中では最も低く,上位者らの意のままに使われたという面があり,犯行に関与することになった経緯には一定程度酌むべき事情がある。また,被告人は,行動確認の指示を受けていた日に朝寝坊をして,Kの怒りを買いその後謹慎処分を受けていることから,自らの役割をそれほど積極的・能動的に果たしていたともいい難い。
そうすると,元警察官事件の犯情は非常に悪いものの,同事件における被告人の刑事責任は,共犯者らの中では最も軽いものと評価すべきである。2
詐欺事件及び恐喝・恐喝未遂事件について
詐欺事件については,被害品は販売価格約2000円の携帯電話機1台にとどま
っているとはいえ,被告人が甲會の組員となるに当たり,警察に把握されない携帯電話機を入手したいという動機からの犯行であり,動機に酌むべき点はなく,被告人は,共犯者に携帯電話機の入手を指示するなど,中心的役割を担っている。恐喝・恐喝未遂事件については,借金返済が滞ったことに因縁をつけ,被害者らを執拗に恐喝したもので,暴力団員特有の手口といえ,被害金額も合計約40万円に及んでいる(なお,被告人は,Eから受け取った現金は合計20万円程度である旨供述し,弁護人もこれに沿う主張をするが,E及び関係者の各供述によれば,喝取金額が合計約40万円に及ぶことは優に認められる。。詐欺,恐喝を含む罪によ)
り服役し,出所後ほどなくして同種犯行に及んでいることに照らし,順法精神の欠如も明らかである。
3
被告人の量刑の検討
以上検討した犯情,とりわけ元警察官事件の犯情を中心として定まる量刑の大枠
の中で,被告人が,本件各犯行の事実関係自体は概ねこれを認め,甲會を脱退した上で,本件各犯行に対する後悔と反省の弁を述べるなどして,被害者らに対する謝罪の意思を示していること,被告人の養父と実母が公判廷に出廷し,社会復帰後の被告人の更生に協力する旨述べていることなどの被告人に有利な一般情状を調整要素として考慮し,さらには,本件各犯行と刑法45条後段の併合罪の関係にある前記確定裁判が存在しており,本件と同時に審理された場合との刑の均衡も踏まえて検討した結果,被告人を懲役6年に処するのが相当であると判断した。(求刑

懲役8年)

平成29年12月4日
福岡地方裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

足立
裁判官

松村一成井隆一
裁判官


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