判例検索β > 平成28年(ワ)第39690号
職務発明対価請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成28(ワ)39690
事件名職務発明対価請求事件
裁判年月日平成29年11月30日
法廷名東京地方裁判所
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平成29年11月30日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成28年(ワ)第39690号

職務発明対価請求事件

口頭弁論終結日平成29年9月19日
判決原A
同訴訟代理人弁護士

服部誠同中村閑同大西
同訴訟代理人弁理士

黒川被告
新日鐵住金株式会社

告ひとみ恵
同訴訟代理人弁護士

茂善仁同緒方彰人同三浦聖爾同加青山雄一主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成28年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告の子会社の従業員であった原告が,被告から指揮命令や資源提供を受けて職務発明を行い,
同発明に係る特許を受ける権利を被告に承継したにも
かかわらず,被告から同承継に係る対価を受領していないとして,平成16年6月4日法律第79号による改正後の特許法(以下「特許法」という。)35条に基
づき,被告に対し,同職務発明の相当対価「●(省略)●」のうち1億円(一部請求)
及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成28年12月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(証拠を掲げた事実以外は,当事者間に争いがないか,又は弁論の全趣旨によって認められる。

(1)原告は,昭和43年4月1日,当時の

同社は,被告の前身に当たる会社であり,昭和45年3月31日,当時の富士
は,
平成24年10月1日,
当時の住友金属工業株式会社との合併に伴い,
「新
日鐵住金株式会社」に商号を変更した(以下,これらの会社を「被告」と総称することがある。。被告は,製鉄,エンジニアリング,化学,新素材,システ)
ムソリューションの事業等を営む株式会社である。
(2)

原告は,平成9年7月1日,当時の

0%子会社であった株式会社日鐵テクノリサーチ
(以下
「日鐵テクノリサーチ」

リサーチに転籍した後,平成21年6月30日に定年退職した。
原告は,同年7月1日,日鐵テクノリサーチとの間で期間の定めを1年とする嘱託雇用契約を締結したが,平成22年6月30日の経過をもって期間満了となり,さらに,同年11月30日,当時の日鐵テクノリサーチとの間で雇用期間を1年とするアルバイト契約を締結し,平成23年11月30日,同契約は更新されたが,原告から退職の申出がなされ,同年12月末日をもって,原
告は,同社を退職した。
なお,日鐵テクノリサーチは,平成25年4月1日,当時の住友金属テクノロジー株式会社との合併に伴い,日鉄住金テクノロジー株式会社となった(以下「日鐵テクノリサーチ」も含めて,
「日鉄住金テクノロジー」ということがあ
る。。同社は,被告から分社化設立され,鉄鋼業等における品質保証・研究開)
発支援に関する事業,材料及び製品の調査・解析・評価等に関する事業等を営む株式会社であり,被告の100%子会社である。
(3)被告は,平成20年4月16日,当時の日鐵テクノリサーチとの間で,同社に対し,被告の製鉄所に入港する原料船の喫水検定管理実務について,原料の検量等の業務を委託し,所定の対価を支払う旨の契約(以下「本件委託契約」という。
)を締結し(甲4)
,その後も同様の業務委託が継続した。

(4)原告は,平成21年頃,以下の内容の「●(省略)●」に関する発明(以下「本件発明」という。
)をした(甲3,弁論の全趣旨)

「●(省略)●」
2争点
(1)本件発明は被告との関係で職務発明に当たるか

(2)本件発明に係る特許を受ける権利を被告に承継させる旨の合意が原告・被告間にあったか
(3)特許を受ける権利の承継に係る相当対価額はいくらか
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件発明は被告との関係で職務発明に当たるか)について
【原告の主張】

本件発明が完成した平成21年頃,原告は,日鉄住金テクノロジーの従業員であり,原告と被告との間には直接の雇用契約は存在しなかった。もっとも,特許法35条における使用者は,雇用契約上の使用者に限られない。当該発明がされるに当たり,当該従業者に対する実質的な指揮命令を行
い,発明に寄与する人的物的資源を提供した者が,特許法35条における使用者に該当するものというべきである。そして,被告は,後記ウのとおり,本件発明がされるに当たり,原告に対して直接指揮命令を行い,また,後記エのとおり,開発費用の負担や物的資源の提供を行っていたものであるから,被告は,特許法35条における使用者に該当する。
また,本件発明は,被告の業務の範囲に属するものであり,かつ本件発明をするに至った行為は,原告の職務に属するものであった。したがって,本
件発明は,被告との関係で職務発明に当たり,同条が適用される。イ
なお,日鉄住金テクノロジーが被告から委託を受けていた業務は,両者間の本件委託契約に記載されたとおりであり,
これらの業務はいずれも本件発
明の完成を意図したものではない。同契約所定の「原料の検量」に関わる業
務も,ビルジウェル内の水の量を検量することに関わる業務であって,「●
(省略)●」とは全く関係がない。
また,一従業員であった原告が,その雇用関係に基づき従事する業務と離れて,被告という大企業に対し,個人として進言等をする際に,自ら所属する会社の肩書を付したことを重視すべきではない。


喫水検査の是正管理業務は,本来的に被告の業務であったため,被告は,
原告に対し,同業務の基本方針,計画の策定や実行管理のために必要な報告を求めたり,策定された基本方針等に基づいて必要な指図をするなど,本件発明に関する事項について,原告に対して直接指揮命令を行っていた。また,原告は,35年間以上にわたって被告と直接の雇用関係を有していたため,平成20年頃,当時の被告の役員に対し,直接,原告に喫水検査の是正管理業務を行わせるべきことを説明し,その了解を得た。その結果,被告は,被告の100%子会社であり,かつ,当時原告と雇用関係にあった日鉄住金テクノロジーに対し,上記業務を委託した。このような経緯もあり,被告は,原告に対し,直接指揮命令を行い,また,原告は,本件発明に係る
業務内容やその成果を逐一被告に直接報告していた。
なお,日鉄住金テクノロジーは,その役員・従業員の中に喫水検査の是正管理業務や「●(省略)●」について理解している者はおらず,原告が被告から「●(省略)●」を行うよう直接指示されていることも認識していなかった。

そして,被告は,原告を喫水検査の是正管理業務に従事させるため,当時原告が在籍していた日鉄住金テクノロジーに対し,委託料として年間約50
00万円を支払っていた。この金額は,原告が,業務を遂行し,成果を得るために必要な経費であるとして,被告の担当者と直接交渉して決定した金額であり,被告は,本件発明の開発等に対して投資を行っていた。
このほか,本件発明は,いずれも,原告による数多くの実地試験により完成したものであるところ,当該試験は,被告の許諾のもと,被告が荷主とな
っている石炭や鉄鉱石,石灰石等を輸送する船舶上で行われた。
このように,被告は,本件発明の開発費用を負担し,本件発明の完成に必要な物的資源を原告に直接提供していた。
【被告の主張】

本件発明が完成した平成21年頃,原告は,日鉄住金テクノロジーの従業員であり,原告と被告との間に雇用契約は存在しなかった。
被告は,日鉄住金テクノロジーないし原告から,本件発明について,発明として報告を受けたことは一度もなく,そもそも,被告が喫水検査の是正管理業務に関する報告を受けていたのは,日鉄住金テクノロジーからであって,原告個人からではない。

被告が日鉄住金テクノロジーに対して委託した業務
(本件委託契約の2条
1号,2号,9号)に本件発明に関する業務(
「●(省略)●」
)が含まれて
いたことは明らかである。
また,原告も,原告個人としてではなく,当時の日鐵テクノリサーチの従業員として進言を行っていた。


被告が日鉄住金テクノロジーに対して行っていた指図等は,本件委託契約の当事者間で行われたものにすぎず,注文者が行う指図等であって,これをもって,被告から原告個人への直接の指揮命令に当たるなどとはいえない。また,原告が,従来の手法で行われていた喫水検査の是正の必要を提案した相手方は,当時の日鐵テクノリサーチ君津事業所長であり,被告に対する喫水検査の是正に係る提案も,原告個人ではなく当時の日鐵テクノリサーチ
として行われ,被告は,同社に対し,喫水検査の是正管理業務を委託した。原告は,日鉄住金テクノロジーの従業員であり,同社の包括的な指揮監督を受けていた。

被告と日鉄住金テクノロジーとの間の本件委託契約の委託料は,当時の日鐵テクノリサーチ君津事業所長の関与の下で決定されたもので,被告が,日鉄住金テクノロジーに対し,喫水検査是正管理業務等の対価として支払っていたものであり,
原告の賃金や原告が支出した上記業務の遂行に必要な費用
は全て日鉄住金テクノロジーが支払っていた。
したがって,
被告が日鉄住金テクノロジーに対して上記委託料を支払って

いたことが,被告による「本件発明の開発等」に対する「投資」に当たるとか,被告が「本件発明の開発費用」を負担したものなどとはいえない。(2)争点(2)(本件発明に係る特許を受ける権利を被告に承継させる旨の合意が原告・被告間にあったか)について
【原告の主張】

原告は,被告の指揮命令の下,本来的に被告の業務である喫水検査の是正管理業務に従事しており,その中でした本件発明についても,当然に被告に承継させる意思を当時有しており,被告としても,原告を喫水検査の是正管理業務に従事させ,その中で生じた,喫水管理を適切に行う方法に関する本件発明について,承継を受ける意思を有していた。そして,原告は,本件発明に関する
事項について,被告に直接かつ定期的に報告を行っていた。
以上からすれば,原告が本件発明を行い,これを被告に報告した平成21年頃に,
本件発明に係る権利は,
黙示の合意により,
原告から被告に承継された。
このように,原被告間には,被告・日鉄住金テクノロジー間の本件委託契約とは別の合意があり,これにより,本件発明に係る特許を受ける権利が原告から被告に承継されたものである。
なお,被告も,本件発明の成果を認めており,その後,本件発明等により被
告に年間「●(省略)●」のメリットがもたらされるとの試算も行っていた。【被告の主張】
原告は,本件発明を含む発明について,平成27年8月17日及び平成28年3月15日の二度,
特許出願をした
(いずれも事後的に取下げとなった)
(乙
1,2)
。以上からすれば,原告が,平成28年3月15日までは,原告自身が本件発明に係る特許を受ける権利を有するものと考えていたことは明らかである。そうすると,原告においても,それ以前に,本件発明に係る特許を受ける権利を被告に承継する意思を有していたなどとは到底いえない。また,被告が,本件発明に係る特許を受ける権利について,原告に対して直
接承継を受ける意思を表示したことはなく,かかる意思を有したこともない。以上のとおり,原被告間で,本件発明に係る特許を受ける権利を原告から被告に承継させる旨の(黙示の)合意などないことは明らかであり,被告は,原告から,本件発明に係る特許を受ける権利を承継しておらず,原告に対し,その対価を支払う義務も負わない。

(3)争点(3)(特許を受ける権利の承継に係る相当対価額はいくらか)について【原告の主張】

被告が受けるべき利益
(ア)本件発明の実施によって削減できるコストの額
a
本件発明の実施によって,
「●(省略)●」
,それによって削減できる
コストの額は,(省略)
「●
●」
原材料購入費・輸送費削減分
「●
(省略)
●」+「●(省略)●」による原材料購入費・輸送費削減分「●(省略)●」=「●(省略)●」
(年額)を下回ることはない。
b
本件発明は,平成21年頃に完成したが,少なくとも本訴提起後5年間は秘密性を維持したまま被告により実施されることが想定されることを併せ考慮すれば,本件発明の実施によって削減できるコストの額は,少なくとも「●(省略)●」/年×12年間=「●(省略)●」を下回
ることはない。
(イ)削減されるコストの額を生み出すだけの売上高
被告が,本件発明の実施を同業他社に許諾すると想定した場合,同業他社においても上記のコスト削減効果が期待できるものの,
本件発明はノウ
ハウであって,特許権に比して排他効は弱い。したがって,本件発明の実
施許諾によるコスト削減額は,
上記のコスト削減額の50%である(省
「●
略)●」である。
そして,
製鉄事業等における利益率は10%を上回るものではないと解
されるため,上記コスト削減額分の利益を生み出すだけの売上高は,「●
(省略)●」×100/10=「●(省略)●」となる。

(ウ)仮想実施料率
本件発明が,
同業他社との関係で優位性を保持する上で非常に重要な役
割を果たしていることからすれば,本件発明の仮想実施料率は「他に分類されない製造業・産業の技術」における実施料率のうち最頻値及び中央値(平成4年度~平成10年度のイニシャルなし)
である5%を下回らない。

(エ)小括
以上によれば,本件発明の実施による独占の利益は,
「●(省略)●」×
0.05=「●(省略)●」となる。
なお,後記エ及びオのとおり,本件発明は新規性及び進歩性を有する。イ
使用者貢献度
本件発明は,その着想及びそれがほぼ完成するまでの実験・考察等を専ら原告が独自に行った。
したがって,被告が,本件委託契約に基づく委託料を支払うことで開発資金を負担した時期があったこと等を考慮しても,被告の貢献度が10%を上回ることはない。

相当対価額
以上によれば,
本件発明の相当対価額は,(省略)
「●
●」(1-0.
×
1)
=「●(省略)●」を下回ることはないが,原告は,被告に対し,その一部請求として1億円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成28年12月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

なお,被告の職務発明規程に基づいて対価を支払うことは,策定時の協議の状況や規程の開示の状況に照らし,到底合理的とはいえない。

本件発明が新規性を有すること
被告は,平成26年9月11日頃,原告が自らの運営するウェブサイトに
本件発明の内容の一部を掲載した旨指摘するものの,本件発明は,平成21年には完成し,被告にその報告がなされており,本件発明に係る権利が原告から被告に承継されたのは同年である。
また,本件発明は,被告の営業秘密であるノウハウとして秘匿され続けているから,被告は本件発明の実施を排他的に独占している。すなわち,上記
ウェブサイトの掲載後,上記内容を同ウェブサイトから削除することなどを求める仮処分命令の申立てがされ,その削除を行うことを一内容とする裁判上の和解が成立したことから,原告は,同ウェブサイトにおける本件発明の内容に関わる記載を全て黒塗りにした。原告の黒塗り行為により,本件発明は,
保有者の管理下以外では一般的には入手できない状態が維持されたとい
えるから,本件発明はなお非公知性の要件を充たしている。
このように,本件発明は営業秘密の非公知性の要件を充たしているため,被告は,本件発明の実施を排他的に独占しているものであり,これにより利益を得ているものである。

本件発明が進歩性を有すること
「●(省略)●」は,原告が模擬実験を行うまで認識すらされていなかった。

このほか,乙5,6の記載は,日本検査(JIC)の担当者が原告の問題提起及び提案を受け入れたことを示すにすぎない。
【被告の主張】
争う。なお,以下のとおり,本件発明は,新規性ないし進歩性を欠くから,相当対価請求権は存在しない。

本件発明が新規性を欠如すること
仮に被告が原告から本件発明に係る特許を受ける権利を承継したことがあったとしても,同承継時期が平成26年9月11日以降であるときは,本件発明は以下のとおり新規性を欠き,
特許法29条1項所定の要件を充たさ
ないから,本件発明について原告の相当対価請求権は存在しない。
すなわち,原告は,平成26年9月11日頃,
「●(省略)●」と題する文
書(乙3)を,その運営するウェブサイトで公開したが,同文書には本件発明の内容が記載されている。
このように,本件発明は,インターネットを通じて不特定の者が閲覧できるような状態に置かれていたから,既に新規性が失われていること(特許法
29条1項3号)が明らかである。

本件発明が進歩性を欠如すること
仮に被告が原告から本件発明に係る特許を受ける権利を承継したとされる場合であっても,
本件発明は,
以下のとおり,
発明当初から進歩性を欠き,

独占的利益を生じさせるものではなかったから,本件発明に係る原告の相当対価請求権は存在しない。
「●(省略)●」
このように,本件発明は,
「●(省略)●」進歩性を欠くことが明らかであ
り,特許法29条2項所定の要件を充たさないから,本件発明について原告の相当対価請求権は存在しない。
なお,原告主張の相違点1については,実質的な相違点といえるか疑問で
あり,相違点2については,巻尺等の挿入口の大きさは本件発明の内容とはなっておらず,
本件発明の効果ないし技術的特徴も巻尺等の挿入口の大きさ
に言及するものではないから,この点をもって相違点とはいえない。第3争点に対する判断
1争点(1)(本件発明は被告との関係で職務発明に当たるか)について(1)

前記前提事実(第2,1)に加え,証拠(甲1,4,5,乙1,2)(ただ
し,甲1,4のうち後記認定に反する部分を除く。
)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められる。


原告は,平成9年7月1日,勤務していた被告(当時の新日本製鐵株式會
に転籍した後,平成21年6月30日に同社を定年退職した。原告は,同年7月1日,
同社との間で期間の定めを1年とする嘱託雇用契約を締結したが,平成22年6月30日の経過をもって期間満了となり,さらに,同年11月30日,同社との間で雇用期間を1年とするアルバイト契約を締結し,平成23年11月30日,
同契約は更新されたが,
原告から退職の申出がなされ,

同年12月末日をもって,原告は,同社を退職した。

被告は,平成20年4月16日,当時の日鐵テクノリサーチとの間で,同社に対し,被告の製鉄所に入港する原料船の喫水検定管理実務について,以下の業務等を委託し,所定の対価を支払う旨の本件委託契約を締結し,その
後も同様の業務委託が継続した。
(ア)原料の検量に関わるデータの収集・解析・管理並びにその課題抽出及び改善活動の実施(第2条(1))
(イ)原料の検量に立会同席した上での課題抽出及び改善提案(第2条(2))(ウ)原料の検量等に関する船会社との打ち合せ及び検査会社の指導(第2条(3))
(エ)被告の各製鉄所にて喫水検定項目が適切に行われていることの確認及び
指導業務(第2条(8))
(オ)その他上記各号に定める業務に付帯関連する業務(第2条(9))ウ
バラストタンクは,船舶の安定性を確保するためのバラスト水をためる,船舶内に設置されたタンクである。バラストタンク内のバラスト水の水量は,船舶における貨物の積載量を測定するために用いられており,船舶における
貨物の積載量を正確に算出するためには,バラスト水の水量を正確に測定する必要がある。
原告は,被告に勤務していた頃から,バラストタンク内のバラスト水量を測定する喫水検査に立ち会っており,日鐵テクノリサーチに転籍した後も同様に同業務に関与していたが,
喫水検査に立ち会っている際に,(省略)
「●

●」

なお,原告が平成19年2月20日付けで作成した「豪州定期船における問題点と是正対策の概略(案)
」と題する書面(甲5)は,
「(株)日鐵テクノ
リサーチ君津事業部」名義で作成されている。

(2)

以上の認定事実によれば,
①原告は,
平成16年7月に,
被告の100%子

会社である日鐵テクノリサーチに転籍し,本件発明をした平成21年頃も,同社と雇用契約を締結していたこと,②原告は,日鐵テクノリサーチの従業員として,喫水検査等に関する業務に携わった際に,
「●(省略)●」にも,
「(株)
日鐵テクノリサーチ
君津事業部」との肩書が記載されており,かかる原告の

行為は日鐵テクノリサーチの業務の一環として行われたものといえること,以上の事実が認められる。
これらの事情を総合すれば,原告は,日鐵テクノリサーチが被告から委託を受けた日鐵テクノリサーチの業務について,日鐵テクノリサーチの従業員の職務として,本件発明をするに至ったものと認められるから,本件発明が被告との関係で職務発明に当たるとはいうことはできない。
これに対し,原告は,本件発明に際して,被告が原告に対して直接指揮命令
を行い,また,開発費用の負担や物的資源の提供を行っていたから,被告は,特許法35条における使用者に該当する旨をるる主張するが,上記主張に係る事実を認めるに足りる的確な証拠はない(なお,原告は,被告が本件委託契約に基づき委託料を支払ったことや,原告による実地試験が被告の荷物を輸送する船舶上で行われたことが,物的資源の提供に当たる旨も主張するが,そのような事実は職務発明の認定上考慮すべき物的資源の提供に当たらないというべきである。
)から,上記主張はいずれも採用できない。
(3)

以上によれば,本件発明が被告との関係で職務発明に当たるとは認められ
ない。
2争点(2)(本件発明に係る特許を受ける権利を被告に承継させる旨の合意が原告・被告間にあったか)について
(1)本件全証拠を検討しても,
原被告間において原告が被告に対して本件発明に
係る特許を受ける権利を承継させる旨の合意があったことを認めるに足りる的確な証拠はない。

かえって,証拠(乙1,2)によれば,原告は,平成27年8月17日,本件発明を含む発明につき特許出願
(特願2015-160290号)
をしたが,
その後,同出願を取り下げ,平成28年3月15日にも,本件発明を含む発明につき特許出願(特願2016-050568号)をしたが,その後,同出願を取り下げたことが認められる。このように,原告が,本件発明を含む発明に
ついて,
平成27年及び平成28年に2度も特許出願をしていたことに加えて,上記1(1)認定の事実も併せれば,原告が被告に対し本件発明に係る特許を受ける権利を承継したとの認識を有していなかったことが明らかである。(2)以上によれば,
原告が被告に対して本件発明に係る特許を受ける権利を承継
する旨の原告・被告間の合意があった事実は認められない。
3結論
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,原告の被告に対する請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第47部

裁判長裁判官

沖中康人
裁判官

矢口俊哉
裁判官

髙櫻慎平
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