判例検索β > 平成28年(ネ)第2098号
損害賠償請求控訴事件
事件番号平成28(ネ)2098
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日平成29年12月15日
法廷名大阪高等裁判所
結果その他
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成25(ワ)1620
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主1文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人Aに対し,1億9009万2529円及びこれに対する平成22年4月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,控訴人Bに対し,440万円及びこれに対する平成22年4月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,控訴人C及び控訴人Dに対し,それぞれ110万円及びこれに対する平成22年4月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,第1,2審を通じ,控訴人Aに生じた費用と被控訴人に生じた費用の100分の95を5分し,その1を控訴人Aの,その余を被控訴人の負担とし,控訴人Bに生じた費用と被控訴人に生じた費用の100分の3を5分し,その1を控訴人Bの,その余を被控訴人の負担とし,控訴人Cに生じた費用と被控訴人に生じた費用の100分の1を3分し,その2を控訴人Cの,その余を被控訴人の負担とし,控訴人Dに生じた費用と被控訴人に生じた費用の100分の1を3分し,
その2を控訴人Dの,
その余を被控訴人の負担とする。

3

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人Aに対し,2億3555万5276円及びこれに対する平成22年4月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被控訴人は,控訴人Bに対し,550万円及びこれに対する平成22年4月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4
被控訴人は,控訴人C及び控訴人Dに対し,各330万円及びこれに対する平成22年4月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。5
訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

6
仮執行宣言

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,控訴人らが,被控訴人の設置する高等学校の器械体操部に所属していた控訴人Aが部活動の練習中に鉄棒から落下し頸部を負傷した事故(以下「本件事故」という。)について,当時同部の顧問であった教諭,及び大阪府教育委員会委嘱に係る外部指導者であったコーチには,注意義務違反があり,これによって控訴人らは損害を被ったと主張し,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ損害賠償金(控訴人Aにおいて2億3555万5276円,控訴人Bにおいて550万円,控訴人C及び控訴人Dにおいて各330万円)及びこれに対する本件事故日である平成22年4月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,控訴人らは,これを不服として控訴した。

2
前提事実
次の事実は,当事者間に争いがないか,又は証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨により認めることができる。
当事者等

控訴人A(平成4年x月y日生の男子)は,本件事故日である平成22年4月7日当時,大阪府立E高校(以下「E高校」という。)の3年生であり,器械体操部に所属していた(甲1,14)。
控訴人Bは控訴人Aの母であり,控訴人C及び控訴人Dはいずれも控訴人Aの姉である(甲1)。


被控訴人は,E高校を設置してこれを管理する地方公共団体である。ウ
F(以下「F顧問」又は「F」という。)は,本件事故当時,E高校の教諭であって器械体操部の主顧問であった(乙2,33)。
G(以下「Gコーチ」又は「G」という。)は,本件事故当時,大阪府学校支援人材バンク制度に基づき大阪府教育委員会が委嘱した外部指導者(地方公務員法上の非常勤の特別職に属する地方公務員に当たる。)であり,
E高校の器械体操部に派遣されて実技指導を行っていた
(乙4,
5,
32)。
控訴人Aは,平成22年4月7日,E高校の体育館内において,器械体操
部の活動として,Gコーチの指示に従い,原判決別紙1記載の内容の鉄棒演技(甲3,乙16。以下「本件演技」という。)の通し練習(以下「本件通し練習」という。)を始めたが,演技中に,両逆手で鉄棒を握った状態で鉄棒から手が離れ,落下し,その頭部及び頸部を床面に敷かれたマット上に激突させ,頸髄損傷,第5頸椎前方脱臼の傷害を負った(本件事故。甲2)。なお,具体的な事故態様については,当事者間に争いがある。
本件事故当時,
Gコーチは,
鉄棒から約10メートル離れた位置に立って,
控訴人Aの演技を見ていた。F顧問は,体育館内にいなかった。
控訴人A
月13日までの間,Hセンター,I病院及びJセンターに入院し治療を受けた。
控訴人Aは,平成24年7月13日,上記傷害による両下肢機能全廃,両上肢機能障害及び神経因性膀胱直腸障害の後遺障害を残し,症状固定した(甲7)。
控訴人Aは,平成24年10月24日,損害の塡補として,独立行政法人日本スポーツ振興センターから障害見舞金3770万円の支払を受けた。3
争点及び争点に関する当事者の主張
本件事故の態様,本件事故を防止するための演技者の危険回避方法等(控訴人らの主張)
控訴人Aは,本件通し練習を始め,原判決別紙1記載の区分Ⅴの両逆手蹴上がりを行ったが,蹴上がりに失敗したため,鉄棒にぶら下がった状態になり,再び両逆手蹴上がりから演技をやり直したところ,落下し,頭部・頸部がマットに衝突した。
(被控訴人の主張)
控訴人Aは,本件通し練習を始め,原判決別紙1記載の区分ⅤからⅥ(逆手前方車輪)に入り回転しようとしたが,勢いが足りず,背中側に回転しきらず,回転が途中で止まり,倒立又はそれに近い状態となり,その後,前方車輪とは逆方向(腹側)に回転を始めたが(この時,鉄棒の握り手は,前方車輪を行うための逆手であった。),直ちに鉄棒から手を離してマットに降りることをせず,逆手握りで握り続けていたところ,
原判決別紙2記載の図のように,
前方へ飛び出し,
体が少し回転し,
頭から首の部分を先にして落下し,マットに衝突した。
控訴人らが主張する事故態様であれば,控訴人Aの動きには勢いがなく,本件事故のように,控訴人Aの手が鉄棒から離れて,頭から首の部分を先にしてマットに衝突するとは考えられない。

めたところ,高い位置からの回転であり,また,その時点での控訴人Aの鉄棒の握り方が逆手であったので,回転による遠心力の勢いにより,控訴人Aの手が鉄棒から離れてしまい,前方へ飛び出し,上記のように首から落下する事故が発生したものである。

逆手前方車輪を行い背中側に回転しようとしたが,勢いが足りず回転が途中で止まり倒立にまで持ち込めず,その後,前方車輪とは逆方向(腹側)に回転を始めた場合(以下,上記状況を「本件状況」ということがある。)に関し,次のとおりの知見(以下「本件状況に関する知見」という。)がある。
本件状況になった場合
(別紙1記載の逆手握りで前振りになる場合)

視覚的に落下地点が見えるため容易にマットに降りることができ,別紙2記載のとおり鉄棒から手を離してマットに足から降りる(着地する)ことが最も適した行動である。その理由は次のとおりである。
別紙1記載のとおりの順手握りによる後ろ振り(逆方向への振り戻り)は,身体構造上,腰や肩を屈曲させることにより移動するエネルギーを緩衝することができ,さらに手が離れた後,視覚的に地上が見えることから,落下することの対処が可能となる。一方,逆手握りによる前振り(逆方向への振り戻り)は,身体構造上,腰や肩を屈曲させることが難しく,移動のエネルギーを緩衝することができないから,順手握りによる後ろ振りよりも手が離れる危険性が高い。さらに,勢いを増した状態では手がいつ離れるか分からず,手が離れた後,鉄棒を握っていた関係で後方に回転し,首からの落下を引き起こす可能性がある。また,演技者自身も地上を見る状況ではないので,落下の準備もできない。補助者が下にいたとして,握り手を離さず両逆手握りによる前振りを行った場合,その補助行為により回転を止めて事故を防ぐことは不可能ではないにしろ,相当難しい対処が必要である。演技者が倒立に近い姿勢からの振り下ろしの場合,位置エネルギーや回転の遠心力のエネルギーにより,回転の速度が速く,補助者が適正な補助位置にいても,補助行為の実施は困難となる。
本件状況になった場合における危険回避方法
a
本件状況になった場合,演技者がとるべき危険回避方法は,「すぐに鉄棒から手を離してマットに足から降りる(着地する)こと」,又は「両手又は片手の握り手を順手に握り変えること(以下「逆手を順手に持ちかえる危険回避方法」という。)」である。
b
一方,技術レベルが上がってくると,手首の返し(鉄棒を軽く握った状態で鉄棒のバーを中心に手首を屈曲したり進展させたりする動作)が円滑にできるようになる。そうなると,握り続けて,逆手握りでも前振りが可能となってくる(以下「手首の返しによる危険回避方法」という。また,前記aの鉄棒から手を離して着地する方法以外の危険回避方法(前記aの逆手を順手に持ちかえる危険回避方法及び上記の手首の返しによる危険回避方法)を,以下「他の危険回避方法」という。)。
ただし,倒立に近い姿勢からの振り下ろし(逆回転)の場合,その回転の勢い(位置エネルギーや回転の遠心力のエネルギー)が強いため,最後まで握り続けることは非常に難しく,そのほとんどがその勢いによって,
懸垂を維持できず,
そのまま前で手が離れることになる。
さらに離手後,バーを握っていた関係で後方への回転も加わり,首からの落下が避けられない状況にもなり得る。

Gコーチには,本件状況になった場合に演技者がとるべき危険回避方法の指導につき注意義務違反があったか
(控訴人らの主張)
本件事故の態様が被控訴人主張のとおりであるとすれば,Gコーチには,次のとおりの過失がある。
Gコーチは,控訴人Aら部員(控訴人A,K(以下「K」という。),L(以下「L」という。)及びM(以下「M」という。)の部員4名(以下同じ。))に対し,鉄棒の通し練習では大会本番と同じ気持ちで演技するよう指導し(なお,通し練習以外の練習を「部分練習」という。),さらに,大会では演技の途中で補助が入ると減点になるため,通し練習では大会同様に演技者が途中で失敗しても補助に入らないよう指導していた。
(甲12の2-14頁,甲57ないし60,83,控訴人本人-8・9頁)
そして,Gコーチは,控訴人Aら部員(以下,単に「部員」ということがある。)に対し,大会で止まってしまうと減点になるので,鉄棒の通し練習では途中で失敗しても鉄棒から手を離して降りるのではなく,意地でも最後まで通せ(演技を続けろ)という指導をしていた。Gコーチが,通し練習のとき危険な状況になった場合には鉄棒から手を離して着地するように指導したことはなかった。(甲12の2-8~11頁,甲14-7頁,
控訴人本人-8・9・14・15・22・30・31頁)

本件状況になった場合の危険回避方法は,複数あり,鉄棒から手を離して着地するという方法のほか,逆手を順手に持ちかえる危険回避方法,手首の返しによる危険回避方法があるのであるが,Gコーチは,各人のやりやすいようにすればよいなどと考え,控訴人Aら部員に対し,鉄棒から手を離して着地する危険回避方法をとらなければならないと具体的に指導することはなかった(甲12の2-11頁(Gコーチは「通し練習のときは,降りる方がよいとか,降りない方がよいとかの指導はしていなかった。
本人のやりやすいように任せていた。旨供述している。,


甲57-2枚目(当時の3名の部員(K,L及びM。以下「他の部員」という。)は「逆回転しそうだと思ったときの対処方法としては,演技者の判断により,大きくは,次の3つのうちいずれかの対応をとる。」などと供述している。),証人G-43・44頁)。
そして,Gコーチは,「通し練習では,大会本番の演技をしているときと同じ気持ちで行っているので,演技を続けたいという気持ちは大きかったであろう。控訴人Aが危険性が高いということに対してどのように認識していたのか分からないが,控訴人Aが手を離さずに何とかしたいという思いでいたことは理解できる。外から見るとこの回転の大きさでは手は耐えられないと感じたが,控訴人Aは耐えられると思ったのかもしれない。」,「控訴人Aが鉄棒から手を離さなかった原因については,一番の原因は通し練習だということにある。通し練習だから意地でも通すという感覚でやっていたということがある。通し練習だから『意地でも通したる。絶対降りない。』という気持ちになる。」,「控訴人Aが,本件事故において逆方向に回転し始める状況になったとき,手を離すという選択肢と演技を続けるという選択肢があった。どちらの方法を選択するかは,演技者自身の判断になる。」旨供述している(甲12の2-8・13頁,甲13の2-15頁,乙19-2頁,証人G-43・44頁)。
上記のとおり,Gコーチは,控訴人Aら部員に対し,本件演技の通し練習中に本件状況になった場合,必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導しなかったものである。
これに対し,被控訴人は,Gコーチは通し練習中であっても本件状況になった場合には必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導していた旨主張する。
しかし,被控訴人の主張を前提とした場合,控訴人Aは一体なぜ鉄棒から手を離さなかったというのであろうか。被控訴人は,その理由について全く言及していないのである。
また,E高校作成の事故報告書(乙19)は,「今回事故が生起した原因についての学校としての認識」として,「演技者に対しては,少しでも危険性があると感じた際には無理に演技を続けることなく安全性を優先させるということの徹底が不十分であった。」としている。この趣旨について,Fは,「例えば,車輪をしているときに,逆回転し始めた場合は,もう演技を続けることなく着地しなさいという指導の徹底が不十分であったということだと思う。」,「上記場合に,鉄棒から手を離して着地するようにという指導は,徹底していなかったと思う。」旨供述している(証人F-8・9・16頁)。
控訴人Aが本件通し練習の途中で,本件状況になったときに鉄棒から手を離さなかったのは,Gコーチからの「通せ」という指導に従い,何とかして演技を最後まで通そうとしたからにほかならないのであり,被控訴人の上記主張は失当である。

本件状況に関する知見に照らせば,本件演技中に本件状況になった場合に,演技者が鉄棒から手を離して着地することをせず演技を続けようとすれば,回転による遠心力の勢いにより,演技者の手が鉄棒から離れてしまい,飛び出し,首から下に落下し,受傷することを予見することが可能である。
したがって,Gコーチには,控訴人Aら部員に対し,本件演技の通し練習のときでも,本件状況になった場合,必ず,別紙2記載のとおり,鉄棒から手を離して着地するよう指導すべき注意義務があった。
ところが,G
し,通し練習中に本件状況になった場合,必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導しなかったものである。

(被控訴人の主張)

Gコーチは,平成21年度から,E高校の器械体操部において,技術指導を行っていた。
Gコーチは,指導の初期的段階から,控訴人Aら部員に対し,本件状況になった場合,必ず,別紙2記載のとおり,鉄棒から手を離して着地するよう指導していた。Gコーチは,模範演技を示すなどした上で,本件状況になった場合,その時点で技を中断し鉄棒から手を離してマット上に着地するのが鉄則であることを指導したものである。
Gコーチは,部員に対し,大会の鉄棒演技において演技者が演技途中で鉄棒から降りると減点になることを教えたが,通し練習中に途中で失敗し危険な状態になった場合でも,鉄棒から降りず最後までやり通すよう指導したことはない(なお,控訴人Aは,本件事故以前に,通し練習中に本件状況になった場合に,鉄棒から手を離して着地することがあった(控訴人本人-19・30頁)。このことは,Gコーチが通し練習中に本件状況になった場合でも鉄棒から降りず最後までやり通すよう指導した事実のないことを示すものである。)。
Gコーチは,通し練習でも,初期の頃は,危ないときは鉄棒から降りるよう指導していた。通し練習を相当重ねた段階に至ったとき(部員の技量が向上し,演技の減点要因を減らすことが課題となった段階に至ったとき)は,通し練習の際に危ないときは鉄棒から降りるよう指導することはなくなったが,それは,通し練習を始めるにあたり,危ないときは降りるよう指導することは,その部員の通し練習をするモチベーションを弱めることになることからである。
Gコーチは,指導の初期的段階から,部員に対し,鉄棒演技における補助者の役割について,補助者は,演技者の演技に注目し,危険な状態になれば補助に入らなければならないこと,そして,演技者に抱きつくなど体を張って補助することを指導していた。
そして,
Gコーチは,
部員に対し,
本件演技の通し練習中であっても,
大きな失敗をするなど相当に危険な場合は,補助に入らなければならないと指導していた。通し練習のときは途中で失敗しても補助に入らないよう指導した事実はない。
Gコーチは,控訴人Aら部員に対し,本件
演技の通し練習中であっても,本件状況になった場合,鉄棒から手を離して着地することが鉄則であり,必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導していたといえる(上記の指導がなされていたことは,他の部員が本件事故につき,練習の際の鉄則に反して起こったことであると述べていること(乙17-1枚目)によっても,明らかである。)。
したがって,Gコーチに,本件演技の通し練習中に本件状況になった場合に必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導すべき注意義務の違反があったとはいえない。
Gコーチには,本件通し練習の際に自ら補助者として鉄棒下の適切な位置に立つべき注意義務違反があったか
(控訴人らの主張)
本件事故の態様が被控訴人主張のとおりであるとすれば,Gコーチには,次のとおりの過失がある。

控訴人Aは,本件演技の中でよく失敗する箇所が何か所かあり,Gコーチは,本件事故当時,そのことを認識していた(甲13の2-17頁,証人G-30・31頁)。
Gコーチは,控訴人A
とおり指導していた。
加えて,Gコーチは,本件事故日の午後3時20分頃,体育館に現れると,新入生オリエンテーションで行う演技の練習をしていた控訴人Aに対し,「試合前に何してんねん。早く通しやれ。」と注意し,控訴人Aら部員に緊張が広がっていた。そして,控訴人Aは,それまでしていたウォーミングアップはストレッチや筋力トレーニング程度であり,鉄棒のウォーミングアップはしていなかったのであるが,Gコーチの上記指示に従い,いきなり本件演技の通し練習を始めたものである。したがって,控訴人Aは,本件通し練習において,通常より失敗する可能性の高い状況にあったといえる。


前記アからすれば,Gコーチは,控訴人Aが,本件通し練習の途中で失敗し,本件状況になった場合に,最後まで演技を通そう(続けよう)とする強い気持ちが働き,鉄棒から手を離して着地するという危険回避方法をとらず,他の危険回避方法(逆手を順手に持ちかえる危険回避方法や手首の返しによる危険回避方法)をとることを選択し本件演技を何とか最後まで続けようとする可能性があること,そのとき控訴人Aの技術が未熟なため他の危険回避方法をとることに失敗し(手の持ちかえが遅れるなどの失敗をし)本件事故が発生する可能性があることを予見することができた(予見可能性。証人G-22・23・24・39・43頁)。他の危険回避方法の方が鉄棒から手を離して着地する方法よりも技術として高度であり,控訴人Aが他の危険回避方法をとろうとするとそれに失敗する可能性が高くなるのであるから,Gコーチとしては,控訴人Aが他の危険回避方法をとることに失敗する可能性があることを予見することができたはずである。

補助者が下にいたとして,握り手を離さず両逆手握りによる前振りを行った場合,その補助行為により回転を止めて事故を防ぐことは不可能ではないにしろ,相当難しい対処が必要である。演技者が倒立に近い姿勢からの振り下ろしの場合,位置エネルギーや回転の遠心力のエネルギーにより,回転の速度が速く,補助者が適正な補助位置にいても,補助行為の実施は困難となるとされている(前記の本件状況に関する知見)。
Kは,
当時,
控訴人Aより器械体操の技術レベルが相当低く
(乙6,,
7)
本件事故を防ぐことができるだけの補助技術・能力を有していなかった(補助は,どの時点で補助に入るかというタイミングを見計らうのが一番難しいところで,Kは上記補助技術・能力を有していなかった(控訴人本人-8・28・29頁)。また,上記に関し,Gコーチは,「演技者は,通し練習では,降りながら持ちかえたりするので,一瞬の判断で,それが遅いかどうかなど判断し,補助に入るか入らないか決めなければならない。」などとして,そのような判断はKには無理だと思う旨供述している(甲12の2-15~17頁)。)。また,Kは,Gコーチから通し練習について前記アのとおり指導を受けていたため,控訴人Aが本件通し練習をしていた時,控訴人Aの補助に入ろうという意識を有していなかった(Kは,甲6の図面記載のとおり,補助することのできない位置である,鉄棒の支柱の外側に立っていた。このことは,当時,Kが補助に入ろうという意識を有していなかったことを示すものである。
なお,
甲6の図面は,
E高校が平成22年7月頃に作成したものである。これに対し,乙19-7頁図1(鉄棒の支柱の内側に立っていたとするもの)は,E高校が,本件事故から約2年経過した後に作成したものであり,
信用性に欠ける。。

当時,本件事故を防ぐことができるだけの補助技術・能力を有していたのは,Gコーチのみであった。(甲12の2-15・16・19頁,甲57ないし60,83,証人G-25・26・41・42頁)

したがって,
Gコーチには,
控訴人Aが本件通し練習をするにあたって,
自ら補助者として鉄棒下の適切な位置に立つべき注意義務があったのにこれを怠り,鉄棒から約10メートル離れた位置に立ち,控訴人Aの演技を見ていたものである。

(被控訴人の主張)

控訴人Aは,平成20年4月にE高校に入学して器械体操部に入部し,平成22年4月の本件事故発生までの約2年間,器械体操部に所属していた。
控訴人Aは,器械体操部のキャプテンであり,鉄棒その他の種目において,部員4名の中で,最も高い技量を有していた。
本件演技は,男子2部規定演技であり(乙15-33~38頁),2部規定演技は,大阪高等学校体育連盟が1部規定演技に含まれている難度の高い技や危険性の高い技を除き基本技を中心として作成したものである(乙23)。控訴人Aは,平成21年10月31日の大会において,演技途中で止まり逆回転してしまうという失敗をすることなく,本件演技を終え,8.0(満点9.8)の得点を得た(乙7)。そして,控訴人Aは,本件事故当時,本件演技を成功すること(失敗なく最後まで通すこと)と失敗することがある状態であり,成功と失敗の割合は各50パーセント位であった(甲13の2-17頁)控訴人Aの本件演技の習熟度は,

本件事故当時,
本件演技を2回に1回は成功する状態に到達していたのであるから,本件演技の難易度は控訴人Aの技量の範囲内であったといえる。
Gコーチは,控
訴人Aら部員に対し,本件演技の通し練習中であっても,本件状況になった場合,鉄棒から手を離して着地することが鉄則であり,必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導していた。そして,本件状況になった場合,鉄棒から手を離して着地することは,控訴人Aの技術レベルからすれば容易にできることであった。
控訴人Aは,Gコーチから上記指導を受けていたにもかかわらず,その指導に反し,鉄棒から手を離して着地することをしなかったものであり,Gコーチにとって,控訴人Aが通し練習中に本件状況になった場合に上記指導に反し鉄棒から手を離して着地することをせず鉄棒を握り続ける行動に出ることを予見することはできなかったといえる。Gコーチが上記のとおり指導していたことからすれば,控訴人Aが通し練習中に本件状況になった場合,手を離して着地するというのが当然予測される行動だからである。
したがって,本件事故の発生につき,Gコーチには予見可能性がなかったというべきである。
Kは,副キャプテンで,部員中で,控訴人Aに次ぐ相当の技量の持ち主であり,これまで,補助者として演技者を受け止めた経験が相当回数あり,補助技術・能力を有していた。また,
G
控訴人の主張)のとおりであり,Kは,本件事故当時,補助する意識を持って,鉄棒の支柱の内側(乙19-7頁図1記載の「〇生徒(S)」の位置)に立っていたものである(甲6の図面に記載された,Kが立っていた位置(鉄棒の支柱の外側)は誤っている。上記図面に記載された位置では,補助行為に出ることが不可能であるから,補助する意識を有していたKが上記位置に立つはずがない。)。
Gコーチは,本件事故当時,控訴人Aの演技全体の姿の見える,鉄棒から約10メートル離れた位置(乙19-7頁図1記載の「◎コーチ」の位置)に立ち,控訴人Aの本件演技を注意深く観察していた。本件事故日は,平成22年5月1日及び2日開催予定の大阪高校春季体育大会(以下「本件体育大会」という。)が近かったため,演技全体の出来栄えを確認して指導する必要があった。演技者のリズムと調和,車輪の大きさ,肘の曲がり具合などは,演技者から10メートル程度離れなければ観察することができないため,上記位置に立っていたものである。「事故防止に関し,器械体操の指導者が考えるべきことは,危険な場面になってからどのように補助させるかではなく,危険なことにならないように選手自身に事故回避させるための指導である。危険な状態になってからどうするのかではなく,危険な状態を未然に防ぐことが重要である。状況によっては,補助が入ってもどうしようもない場面もある。」とされており,補助の限界が指摘されている。
事故防止のためには,部分練習であると通し練習であるとを問わず,本件状況になった場合には必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導することが重要であり,前記のとおりGコーチが上記指導をしていた以上,控訴人Aがその指導に反する行動に出ることを予測して,Gコーチが自ら補助者として鉄棒下に立つ必要はない。ウ
前記ア及びイによれば,Gコーチに,控訴人Aが本件通し練習をするにあたって,自ら補助者として鉄棒下に立つべき注意義務があったということはできず,Gコーチに上記注意義務違反はない。
Gコーチ又はF顧問には,
補助に関する注意義務違反があったか
(ただし,

G
原判決4頁20行目から7頁25行目までのとおりであるから,これを引用する(ただし,G
張は除く。)。
ウォーミングアップに関する注意義務違反の有無
原判決8頁18行目から9頁12行目までのとおりであるから,これを引用する。
安全な鉄棒の整備に関する注意義務違反の有無
原判決9頁14行目から10頁7行目までのとおりであるから,これを引用する。
過失相殺をすべきであるか(当審における新たな主張)
(被控訴人の主張)

控訴人Aには,本件事故当時,Gコーチの,通し練習中であっても本件状況になった場合には必ず鉄棒から手を離して着地するようにとの指導に反し,鉄棒から手を離して着地することをしなかった過失がある。したがって,控訴人らの損害額について,大幅な過失相殺がされるべきである。


仮に,Gコーチは通し練習中であっても本件状況になった場合には必ず
人の主張))が認められない場合,次のとおり主張する。
Gコーチは,通し練習中に本件状況になった場合,①鉄棒から手を離して着地する危険回避方法をとるか,又は,②逆手を順手に持ちかえる危険回避方法をとるか,必ず上記いずれかの危険回避方法をとるよう指導していた。そして,控訴人Aは,本件事故当時,上記①の危険回避方法のみならず,上記②の危険回避方法についても,完全に身に付けていた。したがって,
控訴人Aには,
本件事故当時,
Gコーチの上記指導に反し,
上記①及び②のいずれの危険回避方法もとらなかった過失がある。したがって,控訴人らの損害額について,大幅な過失相殺がされるべきである。
(控訴人らの主張)

また,Gコーチが,鉄棒から手を離して着地する危険回避方法をとらない場合には必ず逆手を順手に持ちかえる危険回避方法をとるよう指導していた事実はない。加えて,控訴人Aは,その技術レベルに照らし逆手を順手に持ちかえる危険回避方法をとることに失敗する可能性があった(甲58ないし60,83)。そうすると,上記危険回避方法をとっていないことを過失とすることはできない。
したがって,本件では過失相殺をすべきではない。
控訴人らの損害
(控訴人らの主張)

控訴人Aの損害
控訴人Aは,本件事故によって次のとおり損害を被った。
治療関係費
a
101万7255円

症状固定までの治療関係費
別紙3の「1

6万8250円

控訴人A

症状固定までの治療関

係費」記載のとおり。
b
症状固定後の治療関係費(提訴時まで)2万6835円

控訴人Aは,症状固定後も尿路感染を防ぐために通院治療が必要であり,別紙3の「1

控訴人A

症状固定後提訴時

までの治療関係費」記載のとおり,症状固定後の治療関係費(提訴時まで)として2万6835円の損害を被った。
c
将来の治療関係費
別紙3の「1

92万2170円

控訴人A

将来の治療関係費」記

載のとおり。
d
前記aないしcの合計

101万7255円

入院雑費
別紙3の
「1

121万6500円
控訴人A

入院諸雑費」
記載のとおり。

付添看護費
a
219万0500円

入院付添看護費
別紙3の「1

156万6500円
控訴人A

入院付添看護費」記載

のとおり。
b
自宅付添看護費
別紙3の「1

62万4000円
控訴人A

自宅付添看護費」記載

のとおり。
c
前記a及びbの合計

219万0500円

交通費等
a
112万0641円

I病院での付添看護に要した交通費等
19万2360円
別紙3の「1

控訴人A

I病院での付添看護に

かかった交通費等」記載のとおり。
b
Jセンターでの付添看護に要した交通費等
54万1611円
別紙3の「1

控訴人AJセンターでの付添看

護にかかった交通費等」記載のとおり。
c
控訴人Aが一時帰宅及び退院した際に要した交通費
29万8950円
別紙3の「1

控訴人A

控訴人Aが一時帰宅及

び退院した際にかかった交通費」記載のとおり。
d
弁護士の交通費等
別紙3の「1

8万7720円

控訴人A

弁護士の交通費等」記

載のとおり。
e
前記aないしdの合計

112万0641円

将来の介護費
別紙3の「1

8290万9020円
控訴人A

将来の介護費」記載のとお

り。
装具及び器具購入費等
別紙3の「1

155万7265円

控訴人A

装具及び器具購入費等」記

家屋及び駐車場の改造費

546万4552円

載のとおり。

別紙3の「1

控訴人A

家屋及び駐車場の改造費」

記載のとおり。
自動車購入費・改造費
別紙3の「1

1233万1316円

控訴人A

自動車購入費・改造費」記

載のとおり。
文書料
別紙3の「1

3万6300円
控訴人A

文書料」記載のとおり。

後遺障害逸失利益
別紙3の「1

9918万9910円

控訴人A

逸失利益」記載のとおり。

入院慰謝料

419万9000円別紙3の
「1

控訴人A

入院慰謝料」
記載のとおり。

後遺障害慰謝料
別紙3の「1

4000万円
控訴人A

後遺障害慰謝料」記載のと

おり。
予備校授業料等
別紙3の
「1

12万2200円

控訴人A

予備校代等」
記載のとおり。


2億5135万4459円
2億1365万4459円

=2億1365万4459円
弁護士費用

2136万5445円
2億3501万9904円


控訴人Bの損害
慰謝料
別紙3の「2

500万円
控訴人B

慰謝料」記載のとおり。

弁護士費用

50万円
550万円


控訴人C及び控訴人Dの損害
慰謝料
別紙3の「3

各300万円
控訴人C及び控訴人D

慰謝料」記載

のとおり。
弁護士費用

各30万円
各330万円

(被控訴人の主張)

控訴人らは,控訴人Aの後遺障害につき自賠法施行令2条の後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)別表第1の第1級に該当するものであり,後遺障害逸失利益算定における労働能力喪失割合は100パーセントである旨主張するが,控訴人Aは平成28年2月26日時点で大学3回生として通学しており,大学卒業後,相当の制約を受けるものの頭脳労働に従事でき,労働能力はゼロではないと解される。労働能力喪失割合は80パーセントを上回るものではないというべきである。

仮に控訴人Aの後遺障害が等級表別表第1の第1級に該当するとしても,後遺障害慰謝料は2800万円を上回るものではない。


第3
1
その余の控訴人らの上記主張は知らない。

当裁判所の判断
前記前提事実及び証拠(甲3,9,11ないし15,乙1ないし9,16ないし22,24ないし33,証人G,同F,控訴人A本人,同B本人,後掲のもの。枝番のある書証につき枝番の記載のないものは各枝番を含む(以下同じ。)。)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,Gの供述(乙32,証人G)中,上記認定に反する部分は採用することができない。控訴人Aの体操競技歴等

控訴人Aは,
平成20年4月,
E高校に入学し,
器械体操部に入部した。
控訴人Aは,それまで体操競技の経験はなかった。控訴人Aは,平成21年度にGコーチの指導を受けるようになる前は,先輩部員から体操の演技や補助について教わっていた。


Gコーチは,外部指導者として,平成21年度からE高校の器械体操部に派遣され,控訴人Aを含むE高校の器械体操部の部員を指導するようになった。


本件事故当時,E高校の器械体操部で実質的に活動をしていた部員は,控訴人A,K,L及びMの4名(いずれも3年生)であった。その中で,控訴人Aの技量が最も高く,控訴人Aは器械体操部のキャプテンであった。Gコーチの競技歴等ア

Gコーチは,小学生の頃から器械体操競技を始め,高校及び大学でも器械体操部に所属していた。Gコーチは,高校を卒業した頃から,1か月に3回程度E高校に行き,器械体操部の部員と共に練習したり,部員に対しアドバイスを行ったりしていた。


Gコーチは,平成21年度から,大阪府学校支援人材バンク制度に基づき,大阪府教育委員会から部活動の指導及び助言を行うよう委嘱を受けて,外部指導者として,E高校の器械体操部に派遣され,部員に対し実技指導を行うようになった(乙4)。


Gコーチは,平成22年度も同様にE高校に派遣され,部員に対し実技指導を行った。平成22年度の派遣期間は同年5月1日から平成23年2月末までであり,派遣回数は34回と定められていた(乙5)。
F顧問の関与等
F顧問は,平成21年度から器械体操部の顧問を務め,平成22年度は主
顧問であった(乙1,2)。F顧問は,高校生に対し体操競技の技術指導をした経験はなかった。
控訴人Aの本件演技の習熟度

本件演技は,男子2部規定演技(大阪高等学校体育連盟が1部規定演技に含まれている難度の高い技や危険性の高い技を除き基本技を中心として作成したもの)である(乙15-33~38頁,乙23)。


控訴人Aは,大会で本件演技を行い,平成21年9月5日の大会では10点満点中7.
0点,
同年10月31日の大会では8.
0点を獲得した
(乙
6,7)。


控訴人Aは,本件演技の練習の際,原判決別紙1記載の区分ⅡからⅢにかけて後方浮き支持回転倒立から順手後方車輪1回につなげる箇所で失敗することがあったほか,同別紙記載の区分Ⅴの両逆手蹴上がりの箇所で失敗したり,区分ⅤからⅥに入り逆手前方車輪を行う箇所で失敗したりすることがあった。控訴人Aは,本件事故当時,本件演技を成功すること(失敗なく最後まで通すこと)と失敗することがある状態であり,成功と失敗の割合は各50パーセント位であった(甲13の2-17頁)。
平成22年4月7日(本件事故日)の出来事

控訴人Aら部員は,同日午後1時頃(以下,時刻のみ記載するときは,いずれも平成22年4月7日である。),E高校の体育館で鉄棒の設営を行った。鉄棒の真下には,厚さ約6センチメートルのマットが敷かれ,着地点となる場所に別のマット(厚さ約30センチメートル,長さ約390センチメートル,横幅約185センチメートル)がそれぞれ敷かれた(乙9)。


控訴人Aら部員は,当日GコーチがE高校に来ることは聞かされていなかったが,Gコーチから,ウォーミングアップや筋力トレーニングを行うよう事前に指示されていた。


控訴人Aら部員は,午後3時20分頃までの間,ストレッチや筋力トレーニング,新入生オリエンテーションで行う演技のための練習を行った。控訴人Aは,鉄棒を使った練習はしていなかった。


Gコーチは,午後3時20分頃,E高校の体育館に到着した。Gコーチは,同年5月1日及び2日開催予定の本件体育大会の日が近いのに控訴人Aらが大会のための練習をしていないのを見て,控訴人Aらに対し,「試合前に何やっとんねん。」と言って叱り,5分間ウォーミングアップをしてすぐに通し練習を行うよう指示した。


控訴人Aは,
前記ウの練習を止めて本件演技の通し練習を行うこととし,
プロテクターを付けるなどの準備を行った後,Kに身体を持ち上げてもらって鉄棒につかまり,本件通し練習を始めた。
その時,Gコーチは,鉄棒から約10メートル離れた位置に立って,控訴人Aの演技を見ていた。また,Kは,鉄棒の支柱付近(支柱の外側の位置。甲6)に立って,控訴人Aの演技を見ていた。Kは,それまでGコー
本件状況になった場合でも補助者として補助に入ろうという意識を特に有していなかった(甲57ないし60,83)。
控訴人Aは,本件演技のうち,原判決別紙1記載の区分ⅤからⅥ(逆手前方車輪)に入り背中側に回転しようとしたが,勢いが足りず回転が途中で止まり,倒立に近い状態となり,その後,前方車輪とは逆方向(腹側)に回転を始めた(本件状況になった)。この時,控訴人Aは,鉄棒を逆手(前方車輪を行うための握り手である。)で握っていた。控訴人Aは,上記の逆回転を始めた時,直ちに鉄棒から手を離して着地することをせず,逆手握りで握り続けていたところ,原判決別紙2記載のとおり,前方へ飛び出し,体が少し回転し,首から落下し,マットに衝突した(本件事故。なお,控訴人A
主張)のとおり供述するが(甲14,控訴人A本人),控訴人Aの受傷内容,首から落下したという本件事故態様等と整合しないから,上記供述は採用できない。)。
Gコーチは,控訴人Aが上記のとおり前方車輪とは逆方向に回転を始め水平より下まで振れ戻った時点で,控訴人Aが鉄棒から手を離して降りないと判断し,「補助」と叫んだが,Kが補助に入ることはなく,控訴人AはKの目の前を通り過ぎ,上記のとおり本件事故が発生したものである。カ
本件事故において,控訴人Aの手が鉄棒から離れてしまった原因は,①逆回転が倒立に近い姿勢からの回転(高い位置からの回転)であり,位置エネルギーや遠心力のエネルギーが大きく,回転による遠心力の勢いが強かったため,控訴人Aの手が鉄棒から離れてしまったこと,②逆手握りで前方車輪とは逆方向(腹側)に回転する(逆手握りによる前振りになる)と手が離れる可能性が高いところ,控訴人Aは,本件状況になった時,鉄棒を逆手で握っており,逆手握りによる前振りになったことにある。本件状況に関する知見
逆手前方車輪を行い背中側に回転しようとしたが,勢いが足りず回転が途中で止まり倒立にまで持ち込めず,その後,前方車輪とは逆方向(腹側)に回転を始めた場合(本件状況)に関し,次のとおりの知見がある。ア
本件状況になった場合(別紙1記載の逆手握りで前振りになる場合),視覚的に落下地点が見えるため容易にマットに降りることができ,別紙2記載のとおり鉄棒から手を離してマットに足から降りる(着地する)ことが最も適した行動である。その理由は次のとおりである。
別紙1記載のとおりの順手握りによる後ろ振り(逆方向への振り戻り)は,身体構造上,腰や肩を屈曲させることにより移動するエネルギーを緩衝することができ,
さらに手が離れた後,
視覚的に地上が見えることから,
落下することの対処が可能となる。
これに対し,
逆手握りによる前振り
(逆
方向への振り戻り)は,身体構造上,腰や肩を屈曲させることが難しく,移動のエネルギーを緩衝することができないから,順手握りによる後ろ振りよりも手が離れる危険性が高い。さらに,勢いを増した状態では手がいつ離れるか分からず,手が離れた後,鉄棒を握っていた関係で後方に回転し,首からの落下を引き起こす可能性がある。また,演技者自身も地上を見る状況ではないので,落下の準備もできない。


補助者が下にいたとして,握り手を離さず両逆手握りによる前振りを行った場合,その補助行為により回転を止めて事故を防ぐことは不可能ではないにしろ,相当難しい対処が必要である。特に,演技者が倒立に近い姿勢からの振り下ろし(逆回転)の場合,位置エネルギーや回転の遠心力のエネルギーにより,
回転の速度が速く,
補助者が適正な補助位置にいても,
補助行為の実施は困難となる。ウ

本件状況になった場合における危険回避方法
本件状況になった場合,演技者がとるべき危険回避方法は,「すぐに鉄棒から手を離してマットに足から降りる(着地する)こと」,又は「両手又は片手の握り手を順手に握り変えること(逆手を順手に持ちかえる危険回避方法)」である。
一方,技術レベルが上がってくると,手首の返し(鉄棒を軽く握った状態で鉄棒のバーを中心に手首を屈曲したり進展させたりする動作)が円滑にできるようになる。そうなると,握り続けて,逆手握りでも前振りが可能となってくる(手首の返しによる危険回避方法)。
ただし,倒立に近い姿勢からの振り下ろし(逆回転)の場合,位置エネルギーや遠心力のエネルギーが大きく,その回転の勢いが強いため,最後まで握り続けることは非常に難しく,そのほとんどがその勢いによって,懸垂を維持できず,そのまま前で手が離れることになる。さらに離手後,バーを握っていた関係で後方への回転も加わり,首からの落下が避けられない状況にもなり得る。
本件状況のうち倒立に近い姿勢から逆回転し始めた場合において,演技者
が,鉄棒から手を離して着地する危険回避方法も,逆手を順手に持ちかえる危険回避方法もとらず,両逆手握りで前振りになったときは,回転の速度が速いため補助に入るタイミングの判断が難しく,補助行為の実施は困難である。
控訴人Aが本件事故のように倒立に近い姿勢からの両逆手握りで前振りになった場合(両逆手握りで逆回転をした場合)に,補助行為をして控訴人Aの回転を止め本件事故の発生を防止することができる補助技術・能力を有していたのは,本件事故当時,Gコーチのみであった。
Gコーチが本件事故前までにしていた指導
(甲12の2,甲13の2,甲14,57ないし60,83,乙18,32,証人G,控訴人A本人)ア
Gコーチは,
指導の初期的段階において,
模範演技を示すなどした上で,
控訴人Aら部員に対し,本件状況になった場合,別紙2記載のとおり,鉄棒から手を離して着地することで危険回避をするよう指導した。
控訴人Aら部員は,本件事故当時,本件状況になった場合に鉄棒から手を離して着地する危険回避方法を容易にとることができる技量を身に付けていた。


Gコーチは,控訴人Aの技量がある程度上がった段階で,控訴人Aに対し,本件状況になった場合に,鉄棒から手を離して着地する危険回避方法とは別に,手首を曲げて鉄棒を深く握り込んで鉄棒から手が離れないようにする方法
(手首の返しによる危険回避方法)
について見本を見せて教え,
控訴人Aが上記危険回避方法をとるのを見て,手首の入りが甘いと指導することがあった。

た場合は,手首の返しによる危険回避方法をとったとしても,位置エネルギーや遠心力のエネルギーが大きく,その回転の勢いが強いため,最後まで握り続けることは非常に難しく,そのほとんどがその勢いによって,懸垂を維持できず,そのまま前で手が離れることになる。したがって,本件状況のうち倒立に近い姿勢から逆回転し始めた場合は,手首の返しによる危険回避方法によっては,本件事故のように鉄棒から手が離れて飛び出す事故が発生する危険性があったが,Gコーチは,控訴人Aに対し,上記場合には手首の返しによる危険回避方法をとってはならないとの指導はしていなかった。

控訴人Aは,本件事故当時,本件状況になった場合における危険回避方法として,前記アの鉄棒から手を離して着地する危険回避方法,前記イの手首の返しによる危険回避方法のほか,逆手を順手に持ちかえる危険回避方法を知っていた。上記の逆手を順手に持ちかえる危険回避方法は,鉄棒から手を離して着地する危険回避方法と比べて,技術的に難度が高く,本件事故当時,控訴人Aは,ある程度,逆手を順手に持ちかえる危険回避方法を身に付けていたが,他の部員は上記危険回避方法をとることができる技量を有していなかった。そのため,他の部員は,本件状況になった場合,鉄棒から手を離して着地するようにしていた。そして,控訴人Aも上記危険回避方法を完全に身に付けていたわけではなく,本件状況になった場合に上記危険回避方法をとろうとすれば,逆手を順手に持ちかえるのが遅れるなどして上記危険回避方法をとることに失敗する可能性があった。

Gコーチは,指導の初期的段階において,控訴人Aら部員に対し,鉄棒演技における補助者の役割について,本件状況になった場合など本来の進行方向と逆方向への運動が始まった場合は,補助者の身体を演技者にぶつけて抱きつくなど体を張って補助するよう指導した。


通し練習に関する指導
Gコーチは,控訴人Aら部員に対し,鉄棒の通し練習では大会本番と同じ気持ちで演技するよう指導し,さらに,大会では演技の途中で補助が入って演技が中断すると減点になるため,途中で失敗しても鉄棒から手を離して降りるのではなく,意地でも最後まで通せ(演技を続けるように)という指導をし,また,補助についても,演技者が途中で失敗しても極力補助に入らないよう指導していた。

り,①鉄棒から手を離して着地する危険回避方法,②逆手を順手に持ちかえる危険回避方法及び③手首の返しによる危険回避方法があったが,Gコーチは,通し練習では上記のとおり演技途中で失敗しても鉄棒から手を離して降りるのではなく意地でも最後まで通せ(演技を続けるように)との指導をする一方で,通し練習中であっても本件状況になった場合には必ず鉄棒から手を離して着地する(上記①の危険回避方法をとる)よう指導することはなかった(なお,被控訴人が援用する,他の部員が本件事故につき練習の際の鉄則に反して起こったことである旨述べているとの事実(乙17-1枚目)は,上記認定を左右するものではない。)。そして,Gコーチは,通し練習中に本件状況になった場合,上記①の危険回避方法をとり鉄棒から手を離して着地するか,そうしないで,上記②又は③の危険回避方法をとり演技を続けるかのいずれを選択するかは演技者自身の判断に任せるとの趣旨の指導をしていた。
なお,Gコーチは,控訴人Aら部員が通し練習をする際は,審判の目線で演技全体を見て指導するため,鉄棒から約10メートル離れて演技全体を見るようにしていた。
2
Gコーチには,本件状況になった場合に演技者がとるべき危険回避Gコーチには,本件通
し練習の際に自ら補助者として鉄棒下の適切な位置に立つべき注意義務違反
前記1の事実によれば,次のとおり認定判断することができる。
本件状況になった場合における危険回避方法としては,①鉄棒から手を離して着地する危険回避方法,②逆手を順手に持ちかえる危険回避方法及び③手首の返しによる危険回避方法があるところ,上記①の鉄棒から手を離して着地する危険回避方法は,演技者が容易かつ確実に安全を確保することができる最も適切な方法である。
控訴人Aは,本件事故当時,本件状況になった場合に鉄棒から手を離して着地する危険回避方法を容易にとることができる技量を身に付けていた。
これに対し,上記②の逆手を順手に持ちかえる危険回避方法は,鉄棒から手を離して着地する危険回避方法と比べて,技術的に難度が高く,本件事故当時,控訴人Aは,ある程度は逆手を順手に持ちかえる危険回避方法を身に付けていたものの,完全に身に付けていたわけではなく,本件状況になった場合に上記危険回避方法をとろうとすれば,逆手を順手に持ちかえるのが遅れるなどして上記危険回避方法をとることに失敗する可能性があった。
また,上記③の手首の返しによる危険回避方法は,鉄棒から手を離して着地する危険回避方法に比べて,技術的に難度が高いだけでなく,本件状況のうち倒立に近い姿勢から逆回転し始めた場合は,手首の返しによる危険回避方法をとったとしても,回転の勢いが強いことから,最後まで握り続けることが非常に難しく,そのほとんどが本件事故のように前で鉄棒から手が離れ飛び出すことになるため,上記場合における危険回避方法として安全性を欠き不適切なものであった。そうであるのに,控訴人Aは,Gコーチから,上記場合には上記危険回避方法は安全性を欠くからとってはならないなどの指導を受けていなかった。
Gコーチは,控訴人Aら部員に対し,鉄棒の通し練習では大会本番と同じ気持ちで演技するよう指導し,さらに,大会では演技の途中で補助が入り演技が中断すると減点になるため,通し練習では大会同様に演技者が途中で失敗しても極力補助に入らないよう指導していた。そして,通し練習で演技をするにあたっては,途中で失敗しても鉄棒から手を離して降りるのではなく,意地でも最後まで通せ(演技を続けるように)という指導をしていた。

の①ないし③の危険回避方法があったが,Gコーチは,通し練習では上記のとおり指導する一方で,通し練習中であっても本件状況になった場の危険回避方法をとるよう指導することはなかった。
そして,Gコーチは,通し練習中に本件状況になった場合,上記①の危険回避方法をとり鉄棒から手を離して着地するか,そうしないで上記②又は③の危険回避方法をとり演技を続けるかの選択を演技者自身の判断に任せるとの趣旨の指導をしていた。
G
をすれば,指導を受けた控訴人Aが,通し練習においては途中で失敗してもできる限り鉄棒から手を離して降りるのでなく演技を続けようとする意識が強くなり,通し練習中,本件状況のうち倒立に近い姿勢から逆回転し始めた場合に,鉄棒から手を離して着地する危険回避方法をとらずに,逆手を順手に持ちかえる危険回避方法をとろうとしてそれに失敗したり,手首の返しによる危険回避方法(上記場合における危険回避方法として不適切なもの)をとろうとしたりする可能性を予見することができ,さらに,上記不適切な回避方法をとった控訴人Aが,補助者による補助行為により回転を止められない限り,回転の勢いにより鉄棒から手が離れて飛び出すことを予見することができたといえる。
Aが通し練習中に倒立に近い姿勢から両逆手
握りで逆回転をした場合に,鉄棒から手が離れて飛び出す事故の発生を防止するためには,補助者が補助行為をして控訴人Aの回転を止める必要があったが,上記補助行為は技術的な難度が非常に高く,そのような補助行為をすることができる技術・能力を有していたのは,Gコーチのみであった。
ところが,Gコーチは,控訴人Aら部員が通し練習をする際は鉄棒から約10メートル離れて演技全体を見るようにしていたものであり,前
立つようにするという事故防止対策をとることを予定していなかった。Gコーチは,控訴人Aが本件通し練習をしている時,自ら補助者として鉄棒下に立つことなく,鉄棒から約10メートル離れた位置に立って,控訴人Aの演技を見ていた。

前記アの諸点に照らすと,Gコーチが,控訴人Aに対し,本件演技の通し練習に関する指導をするにあたっては,Gコーチには,控訴人Aが本件状況になった場合に鉄棒から手を離して着地する危険回避方法をとらずに他の不確実な危険回避方法(逆手を順手に持ちかえる危険回避方法や手首の返しによる危険回避方法)をとろうとすることのないように,通し練習のときであっても,本件状況になった場合には必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導すべき注意義務があり,Gコーチには,上記事項を含まない通し練習に関する指導をしたことにつき,注意義務を怠った過失があるというべきである。
また,通し練習中に本件状況になった場合に必ず鉄棒から手を離して着地するようにとの指導を受けていない控訴人Aが,本件通し練習をするにあたっては,Gコーチには,控訴人Aが本件状況になった場合に鉄棒から手を離して着地する危険回避方法ではない他の危険回避方法をとろうとして鉄棒を逆手握りで握り続けたまま前振りになったときに,補助行為によって控訴人Aの回転を止めることができるよう自ら補助者として鉄棒下の適切な位置に立つべき注意義務があり,Gコーチには,自ら補助者として鉄棒下に立つことなく,鉄棒から約10メートル離れた位置に立って控訴人Aの演技を見ていたことにつき,注意義務を怠った過失があるというべきである。
これに対し,被控訴人は,①Gコーチは,控訴人Aら部員に対し,本件演
技の通し練習中であっても,本件状況になった場合,鉄棒から手を離して着地することが鉄則であり,必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導していた,②控訴人Aが通し練習中に本件状況になった場合,手を離して着地するというのが当然予測される行動であるから,本件事故の発生につき,Gコーチには予見可能性がなかった,③Gコーチは,控訴人Aら部員に対し,鉄棒から手を離さない場合,必ず逆手を順手に持ちかえる危険回避方法をとるよう指導し,控訴人Aは,上記危険回避方法を完全に身に付けていたのに,これをとらなかったなどとして,G
いか,少なくとも控訴人Aには重大な過失があるから大幅な過失相殺をすべきである旨主張するけれども,前記で説示した演技の危険性,控訴人Aの技量,指導者の負うべき注意義務等に照らし,いずれも採用することができない。
前記前提事実,前記1の事実及び弁論の全趣旨によれば,Gコーチが,控訴人Aに対し,本件演技の通し練習に関する指導をするにあたって,通し練習のときであっても,本件状況になった場合,必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導していたならば,控訴人Aは本件通し練習中に本件状況になった時点で鉄棒から手を離して着地する危険回避方法をとったことが推認され,そうであれば,本件事故が発生することはなかったものと認められる。また,Gコーチが,控訴人Aの本件通し練習時に,自ら補助者として鉄棒下の適切な位置に立っていたならば,控訴人Aが本件状況になり逆回転してきた時点で補助行為をして控訴人Aの回転を止め,本件事故の発生を防止することができたものと認められる。
そうすると,本件事故は,G
ものであり,被控訴人の公務員であるGコーチの職務を行うについての過失によって発生したということができる。

国家賠償法1条1項に基づき,Gコーチの上記各過失によって生じた本件事故により控訴人らが被った損害を賠償すべき責任があるというべきである。3
損害)について控訴人Aの損害
前記前提事実及び証拠(甲14,15,控訴人A本人,控訴人B本人,後掲のもの)並びに弁論の全趣旨によれば,控訴人Aは,本件事故により次のとおり損害を被ったことが認められる。

治療関係費

45万8815円

症状固定までの治療関係費

6万8250円

(甲16の1・2,甲17)
症状固定後の治療関係費
a
9万7339円

症状固定後の治療関係費(提訴時まで)

2万6835円

控訴人Aは,症状固定後も尿路感染を防ぐために通院治療が必要であり,症状固定後の治療関係費(提訴時まで)として2万6835円を要した(甲18の1・2,甲19ないし21,甲22の1・2,甲23の1~3,甲66の1・2,甲67の1・2)。
b
症状固定後の治療関係費(提訴後,平成28年12月21日まで)7万0504円
(甲68の1・2,甲69の1・2,甲70,71,甲72の1・2,甲73の1~38,甲74ないし76)

c
前記a及びbの合計
将来の治療関係費

a
9万7339円

29万3226円

控訴人Aは,将来にわたって尿路感染を防ぐために通院治療が必要である。
治療関係費の年額は1万5630円((500円+1160円+945円)×年6回)である。
控訴人Aは,平成28年12月21日時点で24歳であり,その平均余命は57年である(平成27年簡易生命表。ライプニッツ係数18.7605)。b

計算式
1万5630円×18.7605=29万3226円
(1円未満切捨て)
45万8815円


入院雑費

121万6500円

1500円(日額)×811日(入院日数)=121万6500円ウ
付添看護費
入院付添看護費

207万円
144万6000円

6000円(日額)×241日(入院付添看護日数)
=144万6000円
自宅付添看護費

62万4000円

8000円(日額)×78日(自宅付添看護日数)
=62万4000円
207万円

交通費等

84万0561円

I病院での付添看護に要した交通費等

0円

として損害額を認めているので,上記入院付添看護費と別の損害とならない。
Jセンターでの付添看護に要した交通費等
54万1611円(甲25ないし29)
控訴人Aが一時帰宅及び退院した際に要した交通費
29万8950円(甲30ないし34)
弁護士の交通費等

0円

上記交通費等は,後記タの弁護士費用においてこれを含むものとして損害額を認めているので,上記弁護士費用と別の損害とならない。84万0561円オ
将来の介護費

5542万2476円

控訴人Aは,両下肢機能全廃,両上肢機能障害及び神経因性膀胱直腸障害の後遺障害により,日常生活を過ごすために常時介護が必要である。介護費
年額292万円(8000円(日額)×365日)
控訴人Aは,症状固定時(平成24年7月13日),19歳であり,その平均余命は61年である(平成24年簡易生命表。ライプニッツ係数18.9803)。
計算式
292万円×18.9803=5542万2476円

装具及び器具購入費等

155万7265円

(甲36の1・2,甲37の1・2,甲38ないし48,甲77の1~15)

家屋及び駐車場の改造費

546万4552円

(甲49の1・2,甲50の1・2,甲51,甲81の1・2,甲82の1~3)

自動車購入費・改造費

1221万4950円

(甲53の1・2,甲54の1~3)
(265万円+105万5430円)×3.2965
=1221万4950円

文書料(甲55)

3万6300円


後遺障害逸失利益

9918万9910円

後遺障害の内容
控訴人Aには,本件事故による受傷により,両下肢機能全廃,両上肢機能障害及び神経因性膀胱直腸障害の後遺障害が残ったところ,これにより,控訴人Aは,①介護者に準備してもらわないと自ら飲食することすらできない,②扉を自ら開閉することもできない,③体勢を崩して横に倒れると自ら起き上がることができないこともある,④排尿や排便の感覚を喪失したため,自分ではこれらを制御することができず,トイレに移動する際に失禁してしまうことも度々ある,⑤普段の生活をするのにも排尿や排便に多大な時間や負担が強いられており,排尿する際には膀胱に直接カテーテルを差し込みその交換をする必要があり,カテーテルを差し込んだ後は30分ほど血圧が安定せずめまいに襲われる,⑥介護者がいないと排便や入浴や更衣をすることができない,⑦排便と入浴だけでもそれぞれ2時間近くかかり,体力の消耗も激しく,入浴は週に2日しかできないという状態である。
控訴人Aに残った上記後遺障害は「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」として,等級表別表第1の第1級に該当する。
基礎収入

年額646万0200円

控訴人Aは本件事故がなければ18歳で大学に進学し22歳で大学を卒業したであろうことが認められる。賃金センサス平成24年男性労働者大学卒の全年齢平均賃金は,控訴人ら主張に係る年額646万0200円を下らないものであるから,基礎収入は上記金額とするのが相当である。
労働能力喪失割合

100パーセント
ば,労働能力喪失割合は1

00パーセントと認めるのが相当である。被控訴人は,頭脳労働につくことは可能であるから,80パーセントを上回るものではない旨主張するが,現時点では明らかとはいえず,仮に就労できたとしても,それは特別の努力によるものというべきであるから,同主張は採用することができない。労働能力喪失期間
控訴人Aは症状固定時19歳であり,労働能力喪失期間は,控訴人Aが大学を卒業する22歳から67歳までの期間である。上記期間に対応するライプニッツ係数は,次のとおり15.354である。
a
48年(67歳-19歳)に対応するライプニッツ係数
18.0772

b
3年(22歳-19歳)に対応するライプニッツ係数
2.7232

c
18.0772-2.7232=15.354
計算式
646万0200円×15.354=9918万9910円
(1円未満切捨て)


入院慰謝料

419万9000円

控訴人Aが本件事故により負った傷害の内容,治療経過等に鑑みれば,入院慰謝料として,上記金額を認めるのが相当である。

後遺障害慰謝料

2800万円

前判示のとおりの控訴人Aの後遺障害の内容等に鑑みれば,後遺障害慰謝料として,上記金額を認めるのが相当である。

予備校授業料等(甲56)

12万2200円


前記アないしスの合計

2億1079万2529円


前記セにつき損害の塡補後の残額

1億7309万2529円

=1億7309万2529円

弁護士費用

1700万円

本件事案の内容,本件訴訟の経過及び認容額等に鑑みれば,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は,上記金額と認めるのが相当である。チ
前記ソ及びタの合計

1億9009万2529円

控訴人Bの損害

慰謝料

400万円

前判示のとおりの控訴人Aの後遺障害の内容等諸般の事情に鑑みれば,控訴人Bの慰謝料として,上記金額を認めるのが相当である。

弁護士費用

40万円

本件事案の内容,本件訴訟の経過及び認容額等に鑑みれば,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は,上記金額と認めるのが相当である。ウ
前記ア及びイの合計

440万円

控訴人C及び控訴人Dの損害

慰謝料

各100万円

前判示のとおりの控訴人Aの後遺障害の内容等諸般の事情に鑑みれば,控訴人C及び控訴人Dの慰謝料として,上記金額を認めるのが相当である。イ
弁護士費用

各10万円

本件事案の内容,本件訴訟の経過及び認容額等に鑑みれば,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は,上記金額と認めるのが相当である。ウ4
前記ア及びイの合計

各110万円

小括
したがって,
被控訴人は,
国家賠償法1条1項に基づき,
①控訴人Aに対し,
損害賠償金1億9009万2529円及びこれに対する平成22年4月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負い,②控訴人Bに対し,損害賠償金440万円及びこれに対する平成22年4月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負い,③控訴人C及び控訴人Dに対し,それぞれ損害賠償金110万円及びこれに対する平成22年4月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うというべきである。第4

結論
以上によれば,控訴人らの本訴各請求は,上記の限度で理由があるからこれらを認容し,
その余は理由がないからこれらを棄却すべきである。
したがって,
これと異なる原判決を主文第1項のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官

佐村浩之
裁判官

大野正男
裁判官

井田宏
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