判例検索β > 平成28年(ワ)第1453号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成28(ワ)1453
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日平成29年12月21日
法廷名大阪地方裁判所
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平成29年12月21日判決言渡
平成28年(ワ)第1453号

同日原本交付

裁判所書記官

特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日平成29年10月20日
判決原告
カワタ工業株式会社

同訴訟代理人弁護士

上哲也同河原秀樹
同訴訟代理人弁理士

溝山本被告進
株式会社フジワラテクノアート

同訴訟代理人弁護士

上義隆
同訴訟復代理人弁護士

安井友章
同訴訟代理人弁理士

鈴木
同補佐人弁理士

井加藤主真司文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2守
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
1被告は,別紙被告製品目録記載の製品の製造,販売又は販売の申出をしてはならない。
2被告は,原告に対し,●(省略)●及びこれに対する平成25年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告による別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。
)の製造販売行為は原告が有している方法の特許に係る後記本件特許権の間接侵害(特許法101条5号)に該当する行為であると主張して,被告に対し,同法100条1項に基づきその行為の差止めを求めるほか,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として●(省略)●(弁護士費用相当損害金●(省略)●を含む。)及びこれに
対する不法行為の後の日である平成25年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1
判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論
の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者
ア原告は,醸造用及び食品用機械器具の製造,販売業等を事業目的とする株式会社である。
イ被告は,醸造用機械の製作並びに修理,販売等を事業目的とする株式会社であ
る。
(2)本件特許権
原告は,発明の名称を「固体麹の製造方法」とする発明について,次の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」といい,その明細書を「本件特許明細書」といい,請求項3に係る発明を「本件発明」という。)を有している。
特許第4801443号
固体麹の製造方法

出願日

平成17年12月29日

出願番号

特願2005-380655

登録日
特許番号
発明の名称

平成23年8月12日

特許請求の範囲
第3項
少なくとも製麹工程において,回転ドラムが用いられ,撒水又は浸漬,蒸煮,放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,
前記回転ドラムは,駆動装置により回転される回転ドラム本体と,この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを,少なくとも備え,
種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に,前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を,共に製麹開始温度となるように調節し,
製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間
欠的に攪拌し,
前記製麹原料の攪拌が,
前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面か
らの落下により行われ,
前記回転ドラム本体の回転速度は,1回転/30~90秒に設定されていると共に,前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断
続的に冷却を行い,
温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製
麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ,
前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし,

製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。
(3)構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,
次のとおりである
(以下
「構成要件AないしK」
という。。

A
少なくとも製麹工程において,回転ドラムが用いられ,撒水又は浸漬,蒸煮,
放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,
B前記回転ドラムは,駆動装置により回転される回転ドラム本体と,この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを,少なくとも備え,
C種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に,D
前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を,
共に製麹開始温度となるように調節し,
E
製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔
で間欠的に攪拌し,
F前記製麹原料の攪拌が,
前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜
面からの落下により行われ,
G前記回転ドラム本体の回転速度は,1回転/30~90秒に設定されていると共に,
H前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い,
I
温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前
記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ,
J
前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前
記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし,
K製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。
(4)前件審決取消訴訟の経緯等
ア被告は,本件特許の設定登録後である平成24年11月27日,本件特許の請求項1ないし7について特許無効審判を請求した。
イ原告は,平成25年10月29日,明細書及び特許請求の範囲について訂正請求をした(甲10の1ないし3)
。訂正請求の内容のうち請求項3に係る訂正は,請

求項1及び2を引用する従属請求項であった請求項3を独立請求項に変更するために,訂正前の請求項1及び2の発明特定事項を請求項3に記載することに加えて,以下(ア)ないし(オ)の限定を行ったものである。
(ア)

本件訂正前の請求項2の「回転ドラム」について,
「前記回転ドラムは,駆動

装置により回転される回転ドラム本体と,
この回転ドラム本体の内部に装着された品
温センサを,少なくとも備え」ること。
(イ)

本件訂正前の請求項1の「種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製
麹原料を静置」する工程において,
「前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前
記回転ドラム本体内の温度を,共に製麹開始温度となるように調節」すること。(ウ)

本件訂正前の請求項2の「製麹工程」において,
「前記品温センサが前記品温

の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行」うこと。(エ)

本件訂正前の請求項2の「製麹工程において,回転ドラムが用いられ,製麹
原料の攪拌が,ドラムの回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われる」について,
「温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,
前記回転ドラム本体内の空気に触れること
により熱交換が行われ」ること。
(オ)

本件訂正前の請求項1及び2の「攪拌」について,
「前記攪拌により前記製麹

原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発に」すること。
ウ特許庁は,上記特許無効審判事件(以下「前件無効審判事件」という。)につい
て審理し,
平成26年3月14日,
「請求のとおり訂正を認める。
特許第480144
3号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。特許第4801443号の請求項1,2,4ないし7に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審
決をした。なお,同審決において,進歩性欠如の無効理由において主引例とされたのは,高峰譲吉博士(以下「高峰博士」という。
)が1916年10月17日,米国特許
庁に出願して登録された米国特許1,201,385号の明細書(乙7)である(以
下,同明細書に記載された発明を「乙7発明」という。。

エこれに対して被告は,
平成26年4月21日,
上記審決のうち,
「特許第480
1443号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。
」との部分の取消し
を求めて審決取消訴訟を提起したところ(甲11。平成26年(行ケ)第10103号。以下,この訴訟を「前件審決取消訴訟」という。,知的財産高等裁判所は,平成)
26年12月24日,特許庁の審決を取り消し,本件特許の請求項3に係る発明の有効性を認める判決をした(甲12。以下「前件知財高裁判決」という。。)
オ前件知財高裁判決の確定後,特許庁は,審決が取り消された請求項3に係る発明についてさらに審理した上,平成27年3月10日,
「請求のとおり訂正を認める。
特許第4801443号の請求項3に係る発明についての審判請求は,成り立たない。
」との審決をした(甲13)
。そして,この審判請求を不成立とした審決は確定し,

同年5月14日,特許原簿に登録された(甲7)

(5)

被告の行為

ア被告は,平成24年10月頃,北海道石狩郡当別町中小屋329番地を本店所在地とする食品酵素の製造販売等を事業目的とする株式会社コーケン(以下「コーケン」という。
)から注文を受けて,個別受注生産の製品である被告製品を製造し,これをコーケンに販売した。
イコーケンは,平成25年頃から被告製品をその事業に使用して製麹を行っている。
(6)本件製法
被告製品を使用した固体麹の製造方法(以下「本件製法」という。)は,本件発明の
構成要件A,B,F,Gを充足する。
2争点
(1)被告製品を使用した固体麹の製造方法(本件製法)の特定
(原告の主張)
本件製法は,別紙本件製法説明書の記載のとおりである。

ア本件製法説明書b2(2)についての被告の特定について
被告が自認する●(省略)●という点は,原告がコーケンにおいてした証拠保全により得られた証拠に基づく客観的な事実であるから本件製法の特定において残すべきである。

本件製法説明書c(4)イ[流動工程]の<流動工程開始条件>についての被告の特
定について
被告製品の手順書である「D1~D5号機共通の手順書」
(甲25)には●(省略)
●という条件のみが記載されている。したがって,被告が自認する(あ)の①ないし③のほか,上記の点も本件製法の特定において残すべきである。(被告の主張)
本件製法は,別紙本件製法説明書の記載につき,以下の点を除くほか認める。
ア本件製法説明書b2(2)は,以下のとおり特定すべきである。●(省略)●

本件製法説明書c(4)イ[流動工程]の<流動工程開始条件>は,以下のとおり特
定すべきである。
<流動工程開始条件>
●(省略)●
(2)

本件製法は,本件発明の技術的範囲に属するか(文言侵害による構成要件C
ないしE,HないしKの充足性)
(原告の主張)
本件製法は,以下のとおり本件発明の構成要件CないしE,HないしKを充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。そして,被告製品は,本件発明の使用に用いる物であり,
本件発明による課題の解決に不可欠なものであることは明らかであって,かつ,日本国内において広く一般に流通しているもの,すなわちいわゆる汎用品ではなく,しかも被告は,その発明が特許発明であること,及び,被告製品が本件発明の実施に用いられることを知りながら業として,その生産,譲渡等をしていたことも明
らかであるから,被告が被告製品を製造・販売する行為は,特許法101条5号の間接侵害に該当する。
ア構成要件C「種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置する」の充足性
本件製法は,●(省略)●[静置工程]を行うが,この[静置工程]は,●(省略)●を静置しておく工程である。
したがって,●(省略)●している本件製法は,構成要件Cの「種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置する」を充足することが明らかである。イ構成要件D
「回転ドラムが設置された室内の温度及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度となるように調整し」の充足性
●(省略)●
・●(省略)●:

●(省略)●

・●(省略)●:

●(省略)●

●(省略)●
●(省略)●
●(省略)●
(イ)

本件製法は,[静置工程]において●(省略)●

回転ドラム本体内の温度は,●(省略)●
(ウ)以上より,いずれにしても,本件製法は,
「回転ドラムが設置された室内の温
度及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度となるように調節」しており,構成要件Dを充足する。
ウ構成要件E「常に攪拌」の充足性
構成要件Eは,製麹原料の品温上昇後,製麹原料を「常に・・攪拌」する状態に置くことを規定したもので,
製麹完了に至るまで一度も攪拌を停止しないという要件で
はなく,また,本件特許明細書の段落【0031】の記載を参酌し,ドラムの回転状況が「連続的」と認められるかどうかでその充足性が判断されるべき要件である。
以上を踏まえると,●(省略)●本件製法は,構成要件Eを充足する。エ構成要件H「冷却」の充足性
本件製法は,[流動工程]中,●(省略)●
オ構成要件I「温度及び湿度が任意に調整された」の充足性
自動製麹機の分野では,ドラム内に送り込む空気は,除湿する方向への調整もあり得るし,高湿度を保つ方向への調整もあり得るところ,本件発明の「任意に調整された」の意味は,クレーム上は,除湿する方向への調整であっても,高湿度を保つ方向への調整であっても,
どちらの方向への調整であっても含まれるように
「任意に調整」
と記載しているものである。また,
「任意に調整」であるから,具体的に湿度何%とい
う目標を定めた調整を要しないことも,文言上明らかである。
●(省略)●

そして,被告製品は,以下のとおり,●(省略)●を有している。第1に,被告製品は●(省略)●している(第1の機能)

第2に,被告製品は,●(省略)●としている(第2の機能)

●(省略)●
つまり,●(省略)●

以上より,本件製法は,構成要件Iの「湿度が任意に調整された」を充足する。カ構成要件J
「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし」の充足性
構成要件AないしIの要件を全て充足する本件製法は当然に破精込みが活発になるという本件発明と同じ作用が生じる。

麹菌の菌糸には,原料の栄養を求めて増殖する「基底菌糸」と胞子を造る「気中菌糸」があるが,本件製法のように原料が●(省略)●の場合であっても,原料内部に栄養を求めて基底菌糸が増殖するときに,
α-アミラーゼ等の製麹に有用な酵素が基
底菌糸の先端から産生される。
前件無効審判事件の口頭審理陳述要領書において被告自身が「菌糸が生長するには,
培地から栄養分を摂る必要があり,菌糸が培地の内部に浸蝕しなければ,すなわち破精込みが生じなければ菌糸の成長が不十分になることが理解できます」と認めており,また,
コーケンが本件製法を使用して生産した麹は,
関連会社である玄米酵素により,
麹菌による発酵で産生された各種酵素を摂取できることを目的とした健康補助食品として販売されている。
そもそも,
菌株が同一であれば酵素活性の高い麹ほど破精込みが良いということは技術常識であり,研究からも証明されている。
●(省略)●
したがって,
被告製品を用いた本件製法によりコーケンの要求を満たすアミラーゼ活性の高い麹が得られているというべきであり,
本件製法の流動工程における攪拌が
破精込みを活発にするものであることは明らかである。

キ構成要件Kの充足
本件製法は,所定の工程を経て「製麹を完了」するものであるから,構成要件Kを充足する。
(被告の主張)
本件製法の構成は,以下のとおり本件発明の構成要件CないしE,HないしKを充
足しない。
ア構成要件C,Dについて
「品温が上昇するまで(製麹原料を静置)(構成要件C,D)は,」
「麹菌の発芽によ
り放出される代謝熱を原因として品温が上昇し,
この品温上昇から合理的な時間を限
度として[静置工程]を継続すること」を意味する。

なお,
[静置工程]から[流動工程]への移行時期に関して,本件特許明細書には「製麹原料
(S)
の品温上昇開始に合わせて回転ドラム本体(1)の回転を始め・・」(本件特許明細書の段落
【0027】,

「品温の上昇が始まった約15時間後に,
回転
ドラム本体(1)を60秒に一回転の割合で回転させ・・」
(本件特許明細書の段落
【0033】
)とあるとおり,品温上昇が確認された後,直ちに[静置工程]から[流
動工程]へと移行させる構成のみ開示されており,
「合理的な時間」とは,実際に「品
温が上昇」したことを確認できるまでの時間に限られる。
そして,
「品温が上昇するまで」
(構成要件C,D)の上記解釈に鑑みると,
「製麹開
始温度」
(構成要件C,D)は「製麹原料に播種した麹菌に繁殖を開始させるための室内及び回転ドラム本体内の温度であって,
『品温が上昇』を判別する基準として機能
し得る温度」を意味していることになる。
原告は,●(省略)●が製麹開始に適した温度であると主張するが,●(省略)●が「麹菌の発芽により放出される代謝熱を原因として品温が上昇」に該当することを何ら立証していないから,本件製法は「品温が上昇」
(構成要件C,D)を充足すると
する原告の主張には理由がない。
また,本件製法の[流動工程]において●(省略)●されていることに鑑み,[静置

工程]中に同温度に達した時点で「品温が上昇」
(構成要件C,D)を認めることがで
きたとしても,
本件製法では,(省略)「品温が上昇するまで


(製麹原料を静置)

(構成要件C,D)を充足するものでもない。
●(省略)●は,●(省略)●とするものではなく,また,●(省略)●するものでもない。したがって,本件製法における室内の温度が「製麹開始温度」「調節」,
(構

成要件C,D)を充足することはない。
本件製法の[静置工程]における●(省略)●は,●(省略)●がなされていると解する余地はなく,また,●(省略)●されるものでもない。したがって,本件製法における回転ドラム本体内の温度が「製麹開始温度」「調節」

(構成要件C,D)を充
足することはない。

イ構成要件Eについて
構成要件Eは,
「製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に撹拌し」と規定している。
ここで,
「撹拌」の態様が「常に」又は「1~10分間隔」に該当するかは,製麹原料全体ではなく,個々の塊に着眼して判断すべきものである。

また,
「撹拌」について,構成要件Eは「常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に」行われること,つまり,
「撹拌」の態様として「常に」「間欠的」という二

つのパターンに分けて規定していることに鑑みれば,
「常に・・撹拌」は,
(個々の塊
に着眼して)
[流動工程]
において絶えずかき混ぜる態様を意味しているところ,
本件
製法では[流動工程]において,●(省略)●ではない。
また,本件製法では[流動工程]において,●(省略)●させている。したがって,この2点において,本件製法は「常に・・撹拌」を充足するものではない。
ウ構成要件Hについて
(ア)

原告の構成要件Hの解釈に関する主張

原告は,
前件審決取消訴訟において,
「本件訂正発明3が採用した構成は,
ドラムを
回転させて製麹中にドラム内に温度の低い空気を送り込んで製麹原料を冷却するのではなく,
回転ドラムが設置された室温の温度と回転ドラム本体内の温度差を無くした状態でドラムの回転を開始し,
ドラムの回転を開始した後も品温センサで品温を検
出しながら断続的な送風を行うことで,
蒸発潜熱のみによって熱交換を行う構成を採
用したものである。
」と主張し,品温と温度差の無い空気を用いた蒸発潜熱のみによ

って品温を低下させることが
「冷却」
(構成要件H)
に該当することを明らかにしてい
る。
(イ)

本件製法は「冷却」
(構成要件H)を充足しないこと

原告は,
「本件製法は,
[流動工程]中,●(省略)●が行われている。
」として,本
件製法が「冷却」
(構成要件H)を充足すると主張している。
この点,本件製法の[流動工程]において●(省略)●は,●(省略)●(本件製法説明書[流動工程]
〈自動送風条件〉。つまり,本件製法における[流動工程]にお

いては,●(省略)●を採用しており,●(省略)●によって●(省略)●とは明らかに異なっている。
したがって,本件製法における品温を低下させる構成は「冷却」
(構成要件H)を充

足しない。
エ構成要件Iについて
「温度及び湿度が任意に調整された」とは,
「温度及び湿度が適宜の基準に合わせて
正しく整えられていること」を意味している。
この「適宜の基準」に関連して本件特許明細書には次のとおり記載されている(下線付加)


【0014】

前記製麹原料の攪拌が回転ドラム方式によるものである場合,攪拌は,ドラムの回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われる。そして,温度及び湿度が任意に調整されたドラム内で製麹原料が落下する時に,熱交換が行われ,適切な製麹温度が維持されることになる。
【0015】

この方式の場合,ドラムの回転速度が速すぎると,製麹原料が過度に乾燥し,菌糸の生育に必要な水分が不足する一方,回転速度が遅すぎると,熱交換が不十分になり製麹原料品温が上昇し,適切な製麹温度が維持できなくなると共に,製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育が活発になり,菌糸どうしの過度な絡み合いが発生するので,1回転/30~90秒に設定されていることが好ましい。かかる本件特許明細書の記載に照らせば,
「適宜の基準」に正しく整えられた「温度及び湿度」とは,
(回転
ドラム方式では)
「製麹原料が落下する時に,
熱交換が行われ,
適切な製麹温度が維持
される」ような「温度及び湿度」
,より具体的には,回転ドラムを1回転/30~90
秒に設定した場合に,①「製麹原料が過度に乾燥し,菌糸の生育に必要な水分が不足
する」ことなく,また,②「熱交換が不十分になり製麹原料品温が上昇し,適切な製麹温度が維持できなくなる」ことのない「温度及び湿度」である。」
そして
「温度及び湿度が任意に調整」
(構成要件I)
に関する上記解釈は,(省略)


本件製法の[流動工程]においては,●(省略)●ていない。

つまり,本件製法の[流動工程]においては,●(省略)●
したがって,本件製法の[流動工程]における●(省略)●は,●(省略)●であることから,
構成要件Iが規定するような
「湿度が任意に調整された」
ものではなく,
同構成要件を充足するものではない。
オ構成要件Jについて
構成要件Jが規定する「破精込み」とは,製麹の分野では,菌糸が米粒などの粒状体内部にくいこんでいる状態を意味しており,
製麹原料が粒状体であって,
初めて
「破
精込み」が生じるとされている。
また,製麹原料が粒状体であって,初めて「原料外空中での菌糸の生育の抑制」という作用(構成要件J)を得ることができるところ,本件特許明細書には,粒状体である白米を製麹原料としたわずか1つの実施例のみが記載されているにすぎず,小麦
ふすまや米糠などの粉状体の製麹原料を用いた場合であっても,
製麹の分野の常識と
異なり,
「破精込み」

「原料外空中での菌糸の生育の抑制」
という作用が得られること
について一切検証されていない。
以上から,
「破精込み」

「原料外空中での菌糸の生育の抑制」
という構成要件Jが規
定する作用を得るための製麹原料は,粒状体でなければならないが,本件製法にお
ける原料は●(省略)●
したがって,●(省略)●を製麹原料として用いる本件製法は,
「前記撹拌により前
記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発に」
(構成要件J)
する作用を奏する構成を備えるものでない以上,
構成
要件Jを充足しない。

カ構成要件Kについて
構成要件C,D等を経て製麹を完了することのない本件製法は,構成要件Kを充足するものではない。
(3)本件製法は,本件発明の技術的範囲に属するか(均等侵害による本件発明の構成要件Eの充足性)

(原告の主張)
仮に,本件製法のドラムの回転条件が●(省略)●であるために,本件発明の構成要件Eの「常に・・攪拌し」を文言上充足しないとしても,以下のとおり,その差異は均等論の各要件を充たしている。
ア第1要件(非本質的部分)について
本件特許明細書には,従来,通風方式は,無通風方式と比較すると麹原料層を厚くすることができるので,
単位面積当たりの固体麹の生産量を可及的に大きくできると
いう利点を有しているが,麹原料層に吹き込まれる空気は,麹原料層下層の乾燥防止のために飽和状態に近いかなり湿った空気であることが必要とされることから,いわゆる乾いた麹を製造することが困難で,
「ヌリハゼ型」の水分過多,軟弱,αアミラー
ゼ過多の麹が製造される傾向があったという課題が記載されている(段落【000
4】。

本件発明は,上記課題を解決し,突き破精型の麹を得ることを目的とし,製麹原料表面や原料外空中での菌糸の過度な絡み合いが抑制され,製麹原料中の菌糸の生育が活発になるという作用が得られるものである。したがって,上記作用が得られるための諸条件,すなわち,種麹の接種後,流動工程を開始するための条件,静置工程にお
ける室温等の調整,
流動工程中の回転ドラム内の空気との熱交換を最適なものとする
ためのドラムの回転速度並びに流動工程中の送風制御などが本件発明の本質的部分である。
本件製法のドラムの回転条件である●(省略)●は,
「常に・・攪拌し」と文言上は
違えども,●(省略)●そして,ドラムの回転が「連続的」であれば「製麹原料表面
や原料外空中での菌糸の過度な絡み合いが抑制され,製麹原料中の菌糸の生育が活発になる」
という作用効果が得られるという点は本件特許明細書に記載されている技術思想の範囲内の事項である(段落【0031】。

したがって,
構成要件Eの
「常に・・攪拌し」は,本件発明の本質的部分ではない。
イ第2要件(置換可能性)について

本件製法においても,流動工程中,●(省略)●が行われるから,本件製法は,●(省略)●という作用効果を有する。
したがって,本件発明の構成要件Eの「常に・・攪拌し」を,●(省略)●」に置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を有する。ウ第3要件(置換容易性)について
本件製法の●(省略)●は周知技術に属する。
したがって,本件発明の構成要件Eの「常に・・攪拌」を,●(省略)●に置換することは,被告製品の製造,販売の時点において容易に想到することができたものである。
エ第4要件(容易推考性)について
本件製法が本件特許出願時における公知技術と同一又は当業者が出願時の公知技
術から本件発明の出願時に容易に推考できたものであることを示す事情は何ら存在しない。
オ第5要件(意識的除外等の特段の事情)について
本件特許の審査の過程において,●(省略)●という製法が意識的に除外されたものにあたるなどの特段の事情は存在しない。

カまとめ
以上より,仮に,本件製法のドラムの回転条件が●(省略)●であるために,「常
に・・攪拌し」を文言上充足しないと判断されるとしても,本件製法は本件発明と均等であり,本件発明の技術的範囲に属するものである。
したがって,上記(2)(原告の主張)2文目の事実関係に照らし,被告製品の製造販
売は,本件特許権の間接侵害となる。
(被告の主張)
ア第1要件(非本質的部分)について
本件発明は,
その出願日から約90年も前に出願された高峰博士を発明者とする米国特許の特許明細書(乙14。発行日1913年2月25日。以下「乙14明細書」
という。
)に開示された発明(以下「乙14発明」という。
)と実質的に異なるもので
なく,乙14発明に基づき極めて容易に想到できる発明にすぎないから,本件発明の本質的部分は,乙14発明も参酌して,その特有の技術的思想を構成する特徴的部分として認定されるべきである。そして,本件発明は乙14発明と実質的に同一である以上,本件発明における特有の技術的思想を構成する特徴的部分としては,本件発明の構成要件の全てであると解さざるを得ない。
したがって,
本件製法は本件発明の本質的部分を構成する構成要件Eを充足しないことから,均等の第1要件を充足せず,本件製法が本件発明の均等侵害を構成する余地はない。
イ第4要件(容易推考性)について
本件製法が「常に・・撹拌」
(構成要件E)の点を除いて,本件発明の構成要件を充

足するという原告主張を前提とするならば,乙14発明と本件製法の相違点としては,次の2点となる。
[相違点a:構成要件H関係]
●(省略)●乙14発明では,空気をドラム内に供給して冷却を行うものの,この冷却が断続的に行われているのか,すなわち,供給される空気の流量を0とする制御
が予定されているか不明である点。
[相違点b:構成要件E関係]
本件製法では,●(省略)●に対して,乙14発明では,常に回転する点。まず,相違点aに係る構成については,乙14明細書には,
「空気の流れは,塊の温
度が上昇するにつれて増加するように調整される」
(乙14の訳
(訂正)
の2頁20行

目ないし21行目。以下,乙14明細書の記載を引用するときは,原則として訳(訂正)の頁数,行数のみを記載する。
)と記載されており,かつ,
「35℃ないし38℃の
温度は,最終生成物の品質にも,工程を完結させる時間にも実質的に影響を及ぼさないので,
塊をこの温度付近に維持することが好ましい。とも記載されている」
(2頁2
5行目ないし27行目)すなわち,

乙14発明は,
目標となる品温の下限温度を設け

ることを明らかにしている以上,小麦ふすま[製麹原料]が下限温度である35℃を下回った場合には,
これ以上品温が低下しないようにドラム内に供給する空気の流量
を0とすることを当然に予定していることから,容易に推考することができる。次に,相違点bに係る構成については,乙14発明を前提として,例えば,製麹装置の動作確認,点検等の観点から当業者が適宜設定すれば足りる事項であり,容易推考性が否定される理由はない。
したがって,
本件製法は本件特許の出願日時点において容易に推考できたものであることから,第4要件(容易推考性)を満たすものではない。
ウ第5要件(意識的除外等の特段の事情)について
構成要件Eが
「製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に撹拌」することを規定している技術的意義は,
「製麹原料表面や原料外空中での菌糸の過度

な絡み合いが抑制され,ひいては製麹原料中の菌糸の育成が活発になり,酵素力価の高い固体麹を得ることができる」
からである
(本件特許明細書の段落
【0031】)

つまり,本件特許明細書には,常に回転させておく場合には何らの問題も生じないものの,10分以上に渡り回転ドラムの回転を停止した場合には,製麹原料表面や原料外空中での菌糸の過度な絡み合いが発生し,菌糸の育成を活発にすることができな
いことを開示している。
出願人である原告は,
この点を十二分に認識しながら,
「常に
あるいは10分以下の間隔で間欠的に撹拌」とクレームすることなく,「常にあるい
は少なくとも1~10分間隔で間欠的に撹拌」とクレームしている。つまり,出願人である原告は,
間欠的に撹拌する構成のうち1分未満の間隔のものを特許請求の範囲から意識的に除外し,又は,少なくとも外形的にそのように解されるような行動をと
っている。また,原告の上記行動は,間欠的に撹拌する構成のうち1分未満の間隔の構成について,
「客観的,
外形的にみて,
対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記
載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していた」ということもできる。
したがって,1分未満の間隔で間欠的に撹拌する構成は,本件発明の技術的範囲か
ら意識的に除外されたものといえ,第5要件も満たすものではない。(4)

無効の抗弁その1(進歩性)
(被告の主張)
本件発明は,
乙14発明に本件特許出願当時の周知技術を適用して容易に発明することができたものであるから,
特許法29条2項の規定により特許を受けることがで
きず,
同法123条1項2号の規定に基づき特許無効審判により無効とされるべきものである。
ア乙14発明は,次の構成aから構成kからなる構成を有している。a乙14発明は,製麹工程において,回転するドラムが用いられ,所定量の水の添加,蒸煮(1時間以下の間,蒸気に当てる)
,冷却等の工程を経た小麦ふすま[製麹
原料]
に,
もやし胞子
[種麹]
を接種することにより,
固体麹を製造する方法である。

b乙14発明は,駆動装置により回転されるドラムと,このドラムの内部に装着された小麦ふすま[製麹原料]の温度を計測する装置を有している。c,d乙14発明は,もやし胞子[種麹]の接種後,小麦ふすま[製麹原料]が自己発熱するまで静置し,この静置において,ドラム内を小麦ふすま[製麹原料]が製麹を開始できる温度に調節している。

e乙14発明は,小麦ふすま[製麹原料]の自己発熱の開始後,40~50時間の間,ドラムの回転により小麦ふすま[製麹原料]を常に攪拌する。f乙14発明における小麦ふすま[製麹原料]の攪拌は,ドラムの回転により生じる小麦ふすま[製麹原料]の層の傾斜面からの落下により行われる。g乙14発明におけるドラムの回転速度は,1回転/30~60秒に設定されて
いる。
h乙14発明は,40~42℃になり得る小麦ふすま[製麹原料]の温度が35~38℃になるように,
その温度が高くなるほど流量が増加するように調整された空
気をドラム内に供給して,小麦ふすま[製麹原料]を冷却する。
i乙14発明は,ドラム内の温度及び湿度が任意に調整されており,ドラム内で
小麦ふすま[製麹原料]が傾斜面から順次落下するときにドラム内の空気に触れることで熱交換を行う。
j乙14発明は,上記の攪拌により小麦ふすま[製麹原料]表面や原料外空中での菌糸の育成を抑制して小麦ふすま[製麹原料]への菌糸の破精込みを活発にしている。
k乙14発明は,上記各構成を経て製麹を完了する固体麹の製造方法である。イ乙14発明と本件発明との対比
本件発明の構成要件は,
上記第2の1(3)のとおりであり,
本件発明の構成要件A,
B,E,F,G,I,Jは,それぞれ乙14発明の構成a,b,e,f,g,i,jと一致している。
本件発明と乙14発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(ア)

一致点

少なくとも製麹工程において,回転ドラムが用いられ,撒水又は浸漬,蒸煮,放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,前記回転ドラムは,回転される回転ドラム本体と,この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを,少なくとも備え,種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に,前記回転ドラム本体内の温度を製麹開始温度となるように調整し,製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常に攪拌し,前記製麹原料の攪拌が,前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ,前記回転ドラム本体の回転速度は,1回転/30~60秒に設定されていると共に,前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前
記回転ドラム本体内に送風する空気の流量を増加することによって冷却を行い,温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,
前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行わ
れ,
前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし,製麹を完了することを特徴とする固体麹の製
造方法。
(イ)

相違点1(構成要件D関係)
本件発明では,
前記回転ドラムが設置された室内の温度を製麹開始温度となるように調節しているのに対して,乙14発明では,ドラムが設置された室内の温度を,製麹開始温度となるように調整しているか不明である点。
(ウ)
相違点2(構成要件H関係)

本件発明では,
回転ドラム本体内への送風により断続的な冷却が行われるのに対して,乙14発明では,空気をドラム内に供給して冷却を行うものの,この冷却が断続的に行われているか,すなわち,供給される空気の流量を0とする制御が予定されているか不明である点。
ウ容易想到性

(ア)

相違点1について

製麹工程において,温度は,製麹に影響を及ぼす要素の1つであり,室内にドラム式製麹機を設置した場合,室温及びドラム内の温度はいずれも製麹に影響するから,両者を共に適宜調整することは,周知技術である。また,ドラム内の外壁に近接した部分の温度が製麹機を設置した環境温度の影響を受けることは自明である以上,ドラム内を適正な温度に維持するためには,ドラムを断熱構造にしない限り,室温を適宜調整することは不可欠といえる。
したがって,乙14発明において,ドラム内の温度を製麹開始温度に調整するために,上記周知技術を採用し,その室内の温度を(ドラム内の温度と共に)製麹開始温度となるように調整することは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
乙14発明が室温のみならずドラム内の温度についても調節する構成を開示していないと解した場合であっても(原告主張の相違点2)
,ドラム内及び室内の温度を
適宜調整する構成を乙14発明に適用することは極めて容易である。(イ)

相違点2について

乙14明細書には,
「空気の流れは,塊の温度が上昇するにつれて増加するように
調整される」
(2頁20行目ないし21行目)と記載されており,かつ,
「35℃ない
し38℃の温度は,最終生成物の品質にも,工程を完結させる時間にも実質的に影響を及ぼさないので,塊をこの温度付近に維持することが好ましい。」とも記載されて
いる(2頁25行目ないし27行目)
。すなわち,乙14発明は,目標となる品温の下
限温度を設けることを明らかにしている以上,小麦ふすま[製麹原料]が下限温度である35℃を下回った場合には,これ以上品温が低下しないようにドラム内に供給する空気の流量を0とすることを当然に予定していることから,この点は,実質的な相違点とはならない。
仮に相違点となるとしても,
乙14発明は所定の品温となるように冷却することを
予定しており,また,製麹分野において,製麹原料の品温上昇をセンサで感知して回転ドラム内に「断続的」に送風して冷却を行うことは,本件特許の出願時における技
術常識であることから,
かかる構成を乙14発明に適用することは当業者が極めて容
易になし得たものにすぎない。
エ原告の相違点に関する主張について
(ア)

原告主張の相違点1について

乙14明細書は,
「品温センサ」という文言は明記されていないものの,次のとお
り,塊の温度を積極的に制御することを開示している。
「空気の流れは,塊の温度が上昇するにつれて増加するように調整される。塊の温度は,
40℃ないし42℃に到達することもあるが,
空気の流れが安定的に増加され,
冷たく湿った状態に維持されることで,菌の成長の最適点である30℃付近に下げて維持することが可能である。温度を30℃付近に維持する試みは,しばしば偶発的に
その温度を下回る結果となることがあり,菌の成長を妨げることになるため,35℃ないし38℃の温度は,最終生成物の品質にも,工程を完結させる時間にも実質的に影響を及ぼさないので,塊をこの温度付近に維持することが好ましい。(下線付加。」
2頁20行目ないし27行目)
したがって,乙14発明は,かかる積極的な制御を実現するための構成として,製
麹原料(塊)の温度(品温)を計測する装置(
「品温センサ」
(構成要件B)に相当す
る装置)を当然に開示しているといえる。
乙14発明が
「品温センサ」
を開示するものではないと解した場合であっても,
「品
温センサ」を用いて温度制御を行う構成,並びに,
「品温センサ」を回転ドラム本体内
部に装着する構成は,本件特許の出願時の技術常識であり,乙14明細書の記載に従い,
塊の温度上昇に応じて空気の流れを増加させるという教示をすでに受けている当業者において,乙14発明に「品温センサ」を適用することは,本件特許の出願時点において極めて容易になし得たものにすぎない。
(イ)

原告主張の相違点2,3について

製麹原料は,静置工程において自ら発熱することによって温度(品温)を維持することができない以上,その温度(品温)を「約30℃に維持」するためには,熱を外部から加える必要がある。そして,外部からの熱を加える方法に関して,前件審決取消訴訟において公知技術(乙16,乙17)に基づき前件知財高裁判決が認定したとおり,
「製麹工程において,温度は,製麹に影響を及ぼす要素の1つであり,室内に回転ドラム式製麹機を設置した場合,室温及び回転ドラム内の温度はいずれも製麹に影響するから,
両者を共に適宜調整することは,
周知技術であるといえる」したがって,


製麹原料を
「約30℃に維持」
するために,
これが接する回転ドラム本体内の温度
(空
気)を「約30℃に維持」することは,乙14明細書に当然に記載されていると理解される。
乙14明細書の訳に関して原告被告間には争いがあるものの,同明細書が,16時間ないし20時間にわたり製麹原料の静置が行われることに言及している点につい
ては争いがない。この16時間に及ぶ静置工程を経た時点において,既に,製麹原料は自ら熱くなっており,
品温の上昇が認められることは技術常識である。
したがって,
乙14明細書の問題部分における訳の如何にかかわらず,乙14発明が「品温が上昇するまで製麹原料を静置する」「製麹原料の品温上昇後に・・撹拌し」という構成要,
件CD及びEに係る構成を開示していることは自明である。

(ウ)

原告主張の相違点4(構成要件F関連)について

乙14明細書には「私の発明を実施する際,塊が連続的に攪拌されるようにし,これにより,塊の粒子は,空気に接近させるために,連続的に表面に導かれる。,」「40
時間ないし50時間の間,ドラムの回転及び空気の流れにさらされると,塊全体に菌の成長が行き渡り・・」
(下線付加。1頁32行目ないし33行目,同2頁27行目な
いし28行目)とあって,ドラム(円筒状の機械部品:乙27)が回転することで製麹原料の粒子が「連続的に表面に導かれる」ことが記載されており,技術常識をもとに同記載を理解すれば,
その撹拌はドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面か
らの落下によって行う構成としか理解できない。
(エ)

原告主張の相違点4(構成要件I関連)について

送風される空気の湿度に関して,乙14明細書には「湿った空気」が供給されることによって,ドラム内の湿度が調整されていることが記載されている(ドラム内に吹き込まれる空気について「成長に必要な空気を供給し,ガスが発生するのと同じ速さでガスを除去するために,湿った空気の流れを塊に当てながら,好ましくは1分間当たり1回ないし2回の回転により塊を転回させる空気式麦芽製造ドラムを採用することが好ましい。(2頁4行目ないし7行目)との記載がある。。」


また,
乙14明細書には製麹原料は
「40℃ないし42℃に到達することもあるが,
空気の流れが安定的に増加され,冷たく湿った状態に維持」することが記載されている(2頁21行目ないし22行)
。すなわち,送風される空気は,その供給量の増加に
より製麹原料の品温の低下をもたらすことができるよう,湿度のみならず温度についても調整されていることは自明である。

したがって,乙14発明は,回転ドラム本体内に送風する空気について,温度と湿度が調整されている以上,回転ドラム本体内が「温度及び湿度が任意に調整され」ていることは自明である。
(オ)

原告主張の相違点5について

乙14明細書には,
「この麹は,
糖化力が非常に均一化されており,
静置して原料上
で菌を成長させて製造するよりも明らかに強くなる。と記載されている。」
この
「糖化
力」が「明らかに強」い麹は,
「総破精」「蒸米の表面だけでなく内部にも総体に菌糸

が破精込んでいる」麹)又は「突き破精」
(麹の表面には菌糸の生えていない部分を残
しているが,破精ているところは,盛り上がり,しかも米粒の内部には麹がよく破精込んでいるもの)であり,
「破精込みが活発」になっていることは自明である。
乙14発明がかかる構成を開示していないと解した場合であっても,麹を製造する際に「破精込み」は最も重視されてきた要素であり,また,
「総破精」「突き破精」と

いう「破精込み」を活発にした正常な麹を得られるようにすることは当然の課題でもある。
したがって,乙14発明の開示内容に触れた当業者が「破精込みを活発」とする麹を得るべく温度や湿度などのパラメータの調整を試みることは極めて容易である。
(原告の主張)

乙14発明は,
「もやし胞子を水で湿らせた小麦ふすまの培地と混合し,ドラ

ムを回転させた後,
菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなり始めるであろうとき
のために,約16時間ないし20時間,塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておき,その後に,ドラムを1分当たり1回ないし2回を超えない速度で40~50時間回転させて,麹を製造する方法」である。
イ乙14発明と本件発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。(ア)

一致点

「少なくとも製麹工程において,ドラムが用いられ,撒水又は浸漬,蒸煮,放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,種麹の接種後,ドラムの回転速度を1回転/30~60秒とし40~50時間回転させて,製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法」である点。
(イ)

相違点1(構成要件B関連)

本件発明において,
回転ドラム本体の内部に品温センサが装着されているのに対し
て,乙14発明では明らかでない点。
(ウ)

相違点2(構成要件D関連)
本件発明において,
回転ドラムが設置された室内の温度及び回転ドラム本体内の温
度を共に製麹開始温度になるように調節しているのに対して,乙14発明では明らかでない点。
(エ)
相違点3(構成要件C,E関連)

本件発明において,
「種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静
置すると共に」「製麹原料の品温上昇後に」製麹原料の攪拌を開始するのに対して,,
乙14発明ではこれらの条件がない点。
(オ)

相違点4(構成要件F,H,I関連)

本件発明において,
「品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム
本体内に送風して断続的に冷却を行い」「製麹原料が傾斜面から順次落下する時に空,
気に触れることにより熱交換が行われる」回転ドラム本体が「温度及び湿度が任意に調整された」ものであるのに対して,乙14発明ではこれらの制御がない点。(カ)

相違点5(構成要件J関連)

本件発明が
「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし」ているのに対して,乙14発明は破精込みが活発になっているとは認められず,破精込んでいるかは明らかでない点。ウ被告の主張について
(ア)

構成要件B関連の認定の誤り

乙14明細書の「空気の流れは,塊の温度が上昇するにつれて増加するように調整される。塊の温度は,40℃ないし42℃に到達することもある」や「35℃ないし38℃の温度は,最終生成物の品質にも,工程を完結させる時間にも実質的に影響を及ぼさない」
との記載は,
塊の温度に関する発明者の知見が記載された箇所にすぎず,
本件発明のように回転ドラム本体内に「品温センサ」を設けてドラムの回転を開始する時期を決めたり,
流動工程中に品温が上昇すれば送風するといった制御を行うこと

は何も開示されておらず,
「品温センサ」や「温度を計測する装置」が当然に開示され
ているということはできない。
したがって,
乙14明細書には,
本件発明の構成要件Bに係る構成「品温センサ」


が開示されていない。
(イ)

構成要件D関連の認定の誤り

乙14明細書の「塊の温度を約30℃に維持」との記載は「塊の温度」,すなわち製
麹原料の温度としてしか説明されていないものであり,ドラム内の空気の温度ではない。
乙14明細書には,塊を静置しておく際に,ドラム内の空気の温度をどのようにするのかについての開示はないし,ドラムを設置した室内の温度を製麹の開始に適した温度にすることについても記載がない。

したがって,乙14明細書に本件発明の構成要件D(
「前記回転ドラム本体内の温
度を・
・共に製麹開始温度となるように調整し」が開示されているとする被告主張は)
失当である。
(ウ)

構成要件C,E関連の認定の誤り

乙14明細書は,塊の温度と静置の関係について,一方では「約30℃に維持した状態で静置しておく」と,特定の温度によって規律しておきながら,他方で「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるまで・・静置しておく」との記載もあることになり,どちらが真の条件であるのか不明であるから,本件発明の構成要件Cの「品温が上昇するまで製麹原料を静置」
や構成要件Eの
「品温上昇後に製麹原料を・
・攪拌」
という構成を開示していない。

乙14明細書
(2頁23行目)
には,
「温度を30℃付近に維持する試みはしばしば
偶発的にその温度を下回る結果となることがあり」と記載されており,品温に基づく制御がなされていないことは明らかである。
なお,乙14明細書の「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるまで・・静置しておく」との訳文における「まで」は,米国特許公報の原文に「まで」を意味する
「until」や「till」がどこにもないのに,被告が恣意的に付け加えた不当な訳である。同部分の原文である「whenthemasswillbegintoheatbyitself」との記載における「will」は「begin」にかかるもので未来を意味するものであり,未来において熱くなり始めるという記載であることが明らかであるから,
この部分の記載は,
「将
来,菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなり始めるであろうときのために,約16時間ないし20時間,塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく」ということを説明しているにすぎず,
品温上昇を製麹原料の攪拌を開始する条件とすること
は開示されていない。
したがって,
乙14発明に本件発明の構成要件C及びEに相当する構成が開示されているとする被告主張は成り立たない。
(エ)

構成要件F関連の認定の誤り

乙14明細書の記載は,
「私の発明を実施する際,塊が連続的に攪拌されるように
し,これにより,塊の粒子は,空気に接近させるために,連続的に表面に導かれる」(1頁32行目ないし33行目)
というものであり,
ここに
「ドラム」
の記載はない。
乙14明細書の「40時間ないし50時間の間,ドラムの回転及び空気の流れにさらされる」
(2頁27行目ないし28行目)という箇所に「ドラム」という記載があっ
ても,
乙14明細書には図面がないことから,
辞書の意味である
「円筒状の機械部品」
という意味以上のことは開示されておらず,どのような形状・構造のドラムを使用するのかは不明であり,ドラムをどの向きに配置し,どのように回転させて,どのような機構で塊を攪拌するのか不明である。つまり,乙14明細書は,技術常識をもとに理解しても,ドラムの回転中,製麹原料がどのような状態となるのか不明であり,本
件発明のような傾斜面が生じることは開示されていない。
また,
「空気式麦芽製造ドラムを採用することが好ましい」との乙14明細書の記載(2頁6行目ないし7行)を参酌すると,本件発明との差異は一層明確となる。「空
気式麦芽製造ドラム」
(原文「pneumaticmaltingdrum」
:乙14明細書原文1頁右欄
72行)は,寺本四郎博士著「醸造工学」
(甲68)の第13・7図に掲載されている

カステン-トロンメル製麦装置(Topf形)の図面によると,送風側から供給された空気が原料下部にある多孔板を通して原料層内部を通過した後,排風側に排気される構造の装置である。また,発明の名称を「pneumaticmaltingdrum」(空気式麦芽製造ド
ラム)とし,乙14発明とほぼ同時期の1900年12月24日に出願された米国特許第700842号(甲69)は,
「醸造工学」
(甲68)の第13・6図のGalland
式の装置と考えられるが,これら何れの装置も通風製麴法(原料層自体に空気を通す製法)の装置であって,傾斜面から原料を順次落下させるときに熱交換を行う本件発明とは方式が根本的に異なることが明らかである。
したがって,乙14明細書に構成要件Fに係る構成(
「製麹原料の攪拌が・・原料層
の傾斜面からの落下により行われ」
)が開示されているとする被告主張は失当である。
(オ)

構成要件I関連の認定の誤り

構成要件Iは「温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で」という要件であるから,
ドラム内の温度及び湿度が結果として調整されたものであるかという点が重要である。
乙14明細書は,
「・・湿った空気の流れを塊に当てながら,
・・塊を転回させる空
気式麦芽製造ドラムを採用する・・」
(2頁5行目ないし7行目)というものであり,

「湿った空気の流れ」という限度の開示は認められても,回転ドラム本体が「温度及び湿度が任意に調整された」ものであることの開示はない。
また,乙14明細書には,
「・・塊の温度は,
・・40℃ないし42℃に到達するこ
ともあるが,空気の流れが安定的に増加され,冷たく湿った状態に維持されることで・・」
(2頁21行目ないし22行目)との記載はあるが,ここでいう「冷たく湿っ
た」の「冷たく」は,
「塊」の温度の状態をいうものであるので,やはり乙14明細書
には回転ドラム本体が「温度及び湿度が任意に調整された」ものであることの開示はない。
また,乙14明細書が,ドラムの形状・構造,その配置,回転の態様,攪拌の機構が不明であり,攪拌中の製麹原料の状態も不明であることから,構成要件Iの「・・
前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ」
を開示しているといえないことについては,
上記(エ)
で説明したとおりである。
したがって,乙14明細書に構成要件Iに係る構成(
「温度及び湿度が任意に調整
された」「傾斜面から順次落下する時に・・・熱交換が行われ」

)が開示されていると
する被告主張は成り立たない。
(カ)

構成要件J関連の認定の誤り

乙14明細書には,菌糸の「破精込み」がどのような状態になっているのかという点は何も開示がない。
製麹において重要な意味を持つ諸酵素をバランスよく生成させ
るものでなければ良い製麹とはいえないところ,乙14発明は,糖化力が強いと述べているだけで,
どの酵素がどの程度酵素力価が向上したのかについて一切開示がなく,検証されておらず,示唆する記載もない。
また,英語「thick」の訳は「密に」と訳すべきであることは前件知財高裁判決が認定済みの事項であるから,文脈上は「茂った」という訳が適切となる。そして,乙14明細書の「短く茂った糸状体と非常に多くの数の枝が現れる」との記載は,糸状体の枝の数が増えて原料外空中に向けて茂った状態を示しているのであるから,成長し
たのは空中菌糸であり,乙14発明は,破精込みが活発になることを達成した製麹方法ではない。
乙14明細書には,
「この麹は,
糖化力が非常に均一化されており,
静置して原料上
で菌を成長させて製造するよりも明らかに強くなる」
(2頁32行目ないし34行目)
と記載されている。

しかし,1910年3月10日に乙14発明の特許出願をし,1913年1月28日に乙7発明の特許出願をした高峰博士は,1914年にニューヨークにタカミネ・ラボラトリーを設立し,
1917年にニュージャージー州クリフトンに酵素工場を建
設し,
デトロイトのパークデービス社ではこの頃よりドラム式培養によるタカジアスターゼの試験が行われたが,
実際は,
「NPO法人高峰譲吉博士研究会」
のウェブサイ

トの「タカミネ・ラボラトリーと酵素事業」のページの記述(甲57)によると,高峰博士の製麹方法は「期待するほどの成果は得られなかった」のである。高峰博士の研究は没後,アンダーコフラー博士などに引き継がれ,堆積培養(HeapCulture)
へと進展したものである。
つまり乙7発明,
乙14発明はドラム式の製麹方
法として実用化されなかったのであり,糖化力が均一化されるという効果は極めて疑わしい。
そして,乙14明細書には,確かに「菌の成長が行き渡る」との表現はあるが,そのような表現があっても,
成長したのは空中菌糸であり製麹原料の中に成長する破精
込みではない。すなわち,乙14明細書の「thicker」は,いずれも糸状体の枝の数が非常に増えて糸状体が
「茂った」
状態になっていることを説明しているのであり,
「短
く茂った糸状体と非常に多くの数の枝が現れる」との記載は,糸状体の枝の数が増え
て原料外空中に向けて茂った状態を示しているのであるから,乙14発明は,破精込みが活発になっていること,
すなわち製麹原料の内部に向けて垂直方向に菌糸が破精
込んでいることは何も開示されていない。
前件知財高裁判決においても,乙14発明の高峰博士の糖化物は,「ふすま表面に
十分菌糸が乳白色に発育しているものが好ましい」とされるものと認定されており,
本件発明により製造される固体麹とは,破精込みの態様の点で相違するものである。したがって,乙14明細書に構成要件Jに係る構成(
「破精込みを活発にし」
)が開
示されているとする被告主張は失当である。
エ容易想到性
(ア)

相違点1(構成要件B)について

ドラムの形状・構造がまったく不明な乙14発明を主引例とする場合,ドラム内のどこに,
どのようにして,
いかなるセンサを設けるのか,
想定することが困難であり,
乙14発明に対し,品温センサを適用することが容易想到とはいえない。また,乙14発明には,破精込みを活発にすることを目的とし,ドラムの回転を開始する時期を決定し,
あるいは流動工程中に品温が上昇すれば送風する制御を行うた

めに,本件発明のように回転ドラム本体内に品温センサを設ける動機づけがなく,乙14発明に対し品温センサを適用することが容易想到とはいえない。(イ)

相違点2(構成要件D)について

乙14発明には,破精込みを活発にすることを目的とし,回転ドラムが設置された室内の温度及び回転ドラム本体内の温度を,共に製麹開始温度になるように調節する動機づけがなく,その構成に想到することが容易想到とはいえない。被告は,
「製麹工程において,温度は,製麹に影響を及ぼす要素の1つであり,室内にドラム式製麹機を設置した場合,室温及びドラム内の温度はいずれも製麹に影響するから,両者を共に適宜調整することは,周知技術である」旨主張する。しかし,被告は,乙14発明に静置工程においてドラム内の温度を調整する点の開示があることを前提に立論しているが,実際は,乙14発明には静置工程におけるド
ラム内の温度調整についての開示はなく,被告の主張は前提において誤りがある。しかも,乙14発明は,ドラムが製麹室に置かれているかどうかさえ不明で,まして,室温を製麹を開始するための温度に調整する点の開示はない。
そうすると,公知文献(乙16,乙17)を根拠に「製麹に影響するから」という極めて漠然とした理由を指摘するだけでは,回転ドラムが設置された室内の温度及び
回転ドラム本体内の温度を,
共に製麹開始温度になるように調節する構成に想到する
ことは,いかに当業者といえども容易とはいえない。
また,被告は「ドラム内を適正な温度に維持するためには,ドラムを断熱構造にしない限り,室温を適宜調整することは不可欠といえる。
」とも主張する。
しかし,乙14明細書に装置構成の開示がなく,ドラムが「断熱機構」を有してい
るかどうかは不明な事項である。そうである以上,ドラム内の外壁に近接した部分の温度が製麹機を設置した環境温度の影響を受けることが被告のいうように自明なこととはいえない。
したがって,乙14発明に,回転ドラムが設置された室内の温度及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度になるように調節する点を適用することが容易想到
とはいえない。
(ウ)

相違点3(構成要件C,E)について
そもそも乙14発明はドラム内に品温センサがないため,原料全体の温度を示す原料中心部の温度を計測してドラム回転を開始することが出来ない。ドラムの回転を開始する基準が本件発明とは異なる。
乙14明細書の原文からは「それ自体で熱くなるまで」の「まで」という訳はできないのであり,乙14明細書は,
「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなり始め
るであろうときのために,約16時間ないし20時間,塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく」ことを開示しているにすぎない。したがって,乙14発明では,
「約16時間ないし20時間」
が経過した時点では品温は上昇していないか,
仮に
ごく一部に品温上昇が見られたとしても十分な品温上昇があるとは認められない。
そして,前件知財高裁判決が判示したとおり,菌糸の破精込みの程度は,製麹原料や麹菌の種類,製麹工程における諸条件(相違点3との関係でいえば,攪拌をいつ開始するか)によって異なるものであり,何を課題にするかによって適正な条件の組合せは異なり,
課題に適した条件の組合せは当業者が相当程度の試行錯誤なくして見出すことは困難である。

乙14発明には,破精込み促進を目的とし,そのために品温を上昇させてからドラムを回転させるということについて動機づけを見出すことはできないのであるから,いかに当業者といえども,
乙14発明及び技術常識から相違点3の構成に想到するこ
とは容易ではない。
(エ)

相違点4(構成要件F,H,I)についての容易想到性の判断の誤り
ドラム回転中の温度調整については,前件無効審判事件と同一の副引例の文献は,いずれも原料の撹拌前に温度管理することや原料の攪拌を1度だけする場合の温度管理であって,
本件発明のように常にあるいは間欠的に長時間撹拌をする場合についてのものではない。
いずれの文献の技術も本件発明における温度調整の役割を果たす
ことができない性質のものばかりである。

湿度調整についても同じことがいえ,例えば乾燥防止のための湿度調整の開示があっても破精込みを活発にすることを目的とした湿度調整についての開示があるとはいえない。
また,ドラムの形状及び構造,ドラム内への送風機構が全く不明な乙14発明に対し,
「品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い」という構成を適用することは,当業者といえども容易想到とはいえない。
また,
製麹原料に傾斜面が存在するかどうかさえ不明な乙14発明に対し,「製麹原料が傾斜面から順次落下する時に空気に触れることにより熱交換が行われる」という構成を適用することは容易でない。
(オ)

相違点5(構成要件J)についての容易想到性の判断の誤り

「破精込みを活発にする」という本件発明の作用との関係で重要な点は,麹菌は,製麹において有用な酵素を基底菌糸の先端から出すという事実である。酵素の強さは「酵素力価」
(単位/gこうじ)
を指標として酵素ごとに評価されるものであり,
本件
特許明細書の段落【0035】ないし【0038】記載の実施例においても,上記の4酵素の酵素力価を測定することにより,本件発明の効果が検証されている。他方,乙14発明は,製麹原料として小麦ふすまを使用し,タカジアスターゼの原
料となる糖化物を製造する方法に関する発明であるが,菌糸の破精込みに関する記述は一切ない。
前件知財高裁判決においても,
この糖化物は,
「ふすま表面に十分菌糸が
乳白色に発育しているものが好ましい」と認定されており,本件発明により製造される固体麹とは,破精込みの態様の点で相違するものである。
「破精込みを活発にする」と「酵素力価」とには密接な関係が認められるものの,
乙14には,酵素について何らの検証もなされておらず,どの酵素についてどの程度酵素力価が向上したのかについて一切開示がなく,示唆する記載もない。唯一記載されている「糖化力」という言葉についても,どのような方法で何を確認したのか検証方法の説明がない。
そもそも糖化力が強いとの記載は,グルコシド結合の加水分解率の向上を意味する
だけで,その原因は麹菌が生成した酵素に限られない。
「糖化力」とは,そもそも酵素
との関係を定義したものではなく,糖化力が意味する「グルコシド鎖を加水分解し還元力を生成する活性」
も,
酵素ではなく酸によっても生じうるものであるから,
「糖化
力が高い→グルコアミラーゼ活性が高い→破精込みが活発」という関係は成り立たない。
特に,糖化力が「でんぷん及びその分解物」に関するものであることからすれば,酸性プロテアーゼ,
酸性カルボキシペプチダーゼなどの蛋白質分解系酵素の酵素力価
が向上しているなどとは到底認められないし,グルコシド鎖を加水分解するといっても,ランダムに分解するのか,末端から順番に分解するのかなど,各酵素に固有の機能との関係も一切不明である。このことからも乙14明細書は,酵素との関係を何ら具体的に検証していないことが明白である。

そもそも乙14発明は,原料に対する加水率が極めて高いため,グルコアミラーゼの生成量は極端に少なくなる製法であり,糖化力が高いとの記述があっても,「糖化
力が高い→グルコアミラーゼ活性が高い」と短絡的に認定することはできないし,製麹温度によっても,それぞれの酵素力は別個に影響を受けるため,「糖化力が高い→
グルコアミラーゼ活性が高い→その他活性も高い→酵素力価も高い」という関係は成
り立たない。
したがって,乙14発明に被告が提出したどの副引例を組み合わせようとも,原料外空中での菌糸の生育を抑制して製麹原料への菌糸の破精込みを活発にするという構成要件Jの構成に想到することは容易ではない。
(カ)

小括

以上のとおり,本件発明は,乙14発明とは相違点1ないし5を有しており,その相違点は当業者にとって容易想到とはいえず,特許法29条2項による無効事由は存在しない。
(5)

無効の抗弁その2(サポート要件違反)

(被告の主張)
ア本件発明は,
(製麹原料の)
「品温が上昇」
(構成要件C,D)及び「品温上昇」
(構成要件E)に関する特定が十分になされていないことから,本件特許明細書に記載されている課題(本件特許明細書の段落【0031】【0050】,
)を解決できない
発明が含まれている。
したがって,本件発明には,当業者において発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えた発明が含まれているから,サポート要件(特許法36条6項1号)を満たしていない。
イ品温の上昇について
(ア)

品温の上昇(構成要件C,D及び構成要件E)

本件発明の構成要件C,Dは「種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に,
前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム
本体内の温度を,
共に製麹開始温度となるように調整し,

(下線付加)構成要件Eは

「製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に撹拌し,(下線付加)と規定している。

つまり,本件発明において,
(製麹原料の)品温の上昇は,静置工程から流動工程
(回転ドラム本体を回転させる工程)への移行時を判断するための基準となっている。
ここで,本件発明は,
「品温が上昇」
(構成要件C,D)及び「品温上昇」
(構成要件
E)とのみ特定しており,品温の上昇が生じる原因を限定していないところ,品温上昇の原因は次の二つが存在している。一つ目の原因は,回転ドラム本体内の温度(空気)による熱伝導であり(本件発明においては,製麹原料が静置される回転ドラム本体内は「製麹開始温度」に調整されている。[原因①])
,二つ目の原因は,麹菌の発芽

により放出される代謝熱である[原因②]

なお,
品温上昇が生じる順番としては,
原因①による品温上昇が先に生じ,
その後,
原因②による品温上昇が生じる。このような順番にあることは,原因②の品温上昇は麹菌の発芽を前提とするところ,その発芽には一定程度の時間を要することから自明である。

(イ)

本件特許明細書の記載(本件発明の課題等)

本件発明の課題は,
「複雑な装置を用いたり製麹原料の改質を行ったりすることな
く製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし,酵素力価の高い製麹」を得ることである(本件特許明細書の段落【0010】【0011】。


製麹原料の品温上昇の原因としては,上記のとおり,原因①及び原因②が存するところ,品温の上昇に関する本件特許明細書の記載としては,
「・・製麹原料(S)の品
温上昇開始に合わせて回転ドラム本体(1)の回転を始め,製麹を行う。(段落【0」
027】
)及び「・・品温の上昇が始まった約15時間後に,回転ドラム本体(1)を60秒に一回転の割合で回転させ」
(段落【0033】
)程度にすぎない。
つまり,本件特許明細書には,原因①と原因②の品温上昇を区別することに関する
記載は一切存していない。
(ウ)

品温の上昇と本件発明が解決しようとする課題との関係

原告は,前件審決取消訴訟において,麹菌の発芽に至っていない段階で流動工程に移行すると,麹菌の破精の進行が不良となり,本件発明の目的が達せられないことを明らかにしている。
(エ)

小括

以上のとおり,本件発明は,
「品温が上昇」
(構成要件C,D)及び「品温上昇」
(構
成要件E)とのみ規定しており,本件特許明細書には原因①と原因②による品温上昇の区別に関する記載もないことから,上記「品温が上昇」及び「品温上昇」には,原因②
(麹菌の発芽による代謝熱の放出)
のみならず,
原因①
(回転ドラム本体の温度)
による品温上昇も当然に含まれている。
しかし,上記「品温が上昇」及び「品温上昇」に含まれる,原因①による品温上昇段階で,直ちに流動工程に移行させる場合,麹菌の破精の進行が不良となり,本件発明の課題(
「複雑な装置を用いたり製麹原料の改質を行ったりすることなく製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して製麹原料への菌糸の破精込みを活発に
し,酵素力価の高い製麹」を得ること)を解決できないことは,上記のとおり,原告自身が認めるところである。
したがって,
「品温が上昇」
(構成要件C,D)及び「品温上昇」
(構成要件E)に関
する特定が十分になされていないことによって,課題を解決できない発明(原因①による品温上昇段階で,流動工程に移行させる構成を有する発明)が含まれており,それ故,
本件発明には当業者において発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えた発明まで含まれている。
したがって,
本件発明はサポート要件
(特許法36条6項1号)
を満たしていない。
ウ「品温上昇後」
(構成要件E)について
(ア)

本件発明の構成要件Eは「製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは
少なくとも1~10分間隔で間欠的に撹拌し,下線付加)


と規定している。
つまり,
流動工程への移行は,
「製麹原料の品温上昇後」
とのみ特定されており,
その時間的範
囲に関する限定はなされていない。それ故,
「製麹原料の品温上昇後」には,上記原因
②による品温の上昇開始(ただし,どのようにして,この品温上昇を確認できるかは不明)に合わせて流動工程を開始する構成のみならず,この品温の上昇開始が確認されてから数十時間が経過した後に流動工程を開始する構成も含まれている。
(イ)

しかし,上記原因②による品温の上昇開始から長時間が経過しても流動工程
を開始しない構成は,静置工程にて固体麹を製造する発明に等しく,このような発明では,本件発明の課題(
「複雑な装置を用いたり製麹原料の改質を行ったりすること
なく製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし,酵素力価の高い製麹」を得ること)を解決できないことは,本件特許明細書の段落【0008】に記載されているところである。
なお,本件発明の構成を引き写しただけの記載を除けば,本件特許明細書には,流動工程への移行は品温上昇に合わせて行う構成のみが記載されており「製麹原料(
(S)
の品温上昇開始に合わせて回転ドラム本体(1)の回転を始め,製麹を行う。:段落」
【0027】「品温の上昇が始まった約15時間後に,回転ドラム本体(1)を60,

秒に一回転の割合で回転させ,:段落【0033】,

)「品温上昇後」
(構成要件E)の
時間的範囲について言及した記載は一切存在しない。
(ウ)

そうすると,
「品温上昇後」
(構成要件E)
の時間的範囲に関する特定が十分に

なされていないことによって,課題を解決できない発明(上記原因②による品温の上昇開始から長時間が経過した後に流動工程に移行させる構成を有する発明)が含まれており,それ故,本件発明には当業者において発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えた発明まで含まれている。
したがって,本件発明はサポート要件(特許法36条6項1号)を満たしていないことから,本件特許は,特許法123条1項4号により特許無効審判により無効にされるべきものである。
エ原告の主張について

(ア)

原告は,サポート要件(その1:品温上昇)に関して,構成要件Cの「品温が
上昇」や構成要件Eの「品温上昇」は,麹菌の発芽により放出される代謝熱による温度上昇と解釈されると主張しているが,原告は,属否の議論において,一定時間を経過した時点において「代謝熱による温度上昇」が生じていることを一切明らかにすることなく,本件製法が構成要件C,Dを充足すると主張し,
「品温が上昇」
(構成要件
C,D)について,上記のような解釈を採用するものでない。このように,無効論と属否論において異なる解釈に立つことを前提としてなされる場当たり的な原告の主張が成り立つ余地はない。
(イ)

次に,原告は,サポート要件(その2:品温上昇後)に関して,課題を解決で
きないような,
無意味に長時間放置する実施例の記載が本件特許明細書にないとしても,だからといって,構成要件Dの「品温上昇後」がサポート要件を欠くことになどならないと主張している。
しかし,同主張は,課題を解決することのできない長時間放置する構成が本件発明の構成に含まれていることを自認するものであり,それでもなお,サポート要件違反を争う原告主張の趣旨は不明である。

なお,課題を解決できないような構成は含まれないとする原告の上記主張は,特許請求の範囲に記載された発明は課題が解決できるよう解釈すべきとする原告独自の見解を前提としており,
サポート要件違反を無効理由として規定している特許法の立
て付けに反するものであり,前提において失当である。
(原告の主張)
構成要件Cの「品温が上昇」や構成要件Eの「品温上昇」は,麹菌の発芽により放出される代謝熱による温度上昇と解釈されることは明らかであり,これは,本件特許明細書に記載され,実施例によってサポートされている。
また,構成要件Eの「品温上昇後」については,一例として本件特許明細書の段落【0033】に,白米製麹の実施例で「約15時間後」との記載があるように,本件特許明細書に記載され,実施例によってサポートされている。なお,「品温上昇後」が

無意味に長時間放置する構成を含まないことは明らかであるから,無意味に長時間放置する実施例の記載が本件特許明細書にないとしても,サポート要件を欠くことにはならない。
サポート要件は,
実施例に対応した特許請求の範囲の記載しか許されないという趣
旨の規定ではなく,実施例の記載と明細書の記載の全体から,どの程度に抽象化され
た請求項の記載が許容されるかの問題である。
したがって,特許請求の範囲の文言だけを見れば,具体的な時間などの特定がなく抽象化されているため,形式的には「原因①による品温上昇段階で,流動工程に移行させる構成を有する発明」

「原因②による品温の上昇開始から長時間が経過した後に流動工程に移行させる構成を有する発明」を含んでいるかのように見えても,それで
サポート要件違反ということにはならない。
(6)

無効の抗弁その3(実施可能要件違反)

(被告の主張)
ア本件発明の効果は,本件特許明細書に次のとおり記載されている。【発明の効果】
【0018】
本発明は,種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置し,製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し,製麹を完了する構成を採用しているので,製麹原料を満遍なく製麹室の空気に触れさせ,麹菌の生育に好適な条件を与えることができ,人力による手入れあるいは手入れ機による手入れや,手入れ後のいわゆる盛りを不要とし,製造コストを低減できる。
【0019】
しかも,製麹原料表面や原料外空中での菌糸の過度な絡み合いが抑制され,ひいては製麹原料中の菌糸の生育が活発になり,酵素力価の高い固体麹を得ることができる。【0020】

また,攪拌の速度を,任意に設定できるので,麹菌の種類あるいは製麹原料に応じた最適の麹菌生育環境が作りやすい。
(下線付加)
イこれらの記載に基づけば,本件発明が実施可能要件を満たすためには,本件発明に含まれる全ての発明について,酵素力価の高い固体麹を得るという所期の作用効
果を奏することができなければならないといえる。
しかしながら,本件発明には,上記「品温上昇」の原因①により品温が上昇した段階で流動工程に移行させる発明(
「品温が上昇」
(構成要件C,D)及び「品温上昇」
(構成要件E)を充足)が含まれるところ,これにより固体麹を製造した場合,麹菌の破精の進行が不良となり,
酵素力価の高い固体麹を得るという所期の作用効果を得

ることができない。
したがって,本件発明には,所期の作用効果を奏することができない構成が含まれていることから,実施可能要件(特許法36条4項1号)を満たしておらず,本件特許は,
同法123条1項4号により特許無効審判により無効にされるべきものである。ウまた,本件発明には,品温の上昇開始から長時間が経過しても流動工程を開始
しない発明(
「品温上昇後」
(構成要件E)を充足)が含まれるところ,これにより固
体麹を製造した場合,麹菌の破精の進行が不良となり,酵素力価の高い固体麹を得るという所期の作用効果を得ることができない。
したがって,本件発明には,この点においても,所期の作用効果を奏することができない構成が含まれていることから,実施可能要件(特許法36条4項1号)を満たしておらず,本件特許は,同法123条1項4号により特許無効審判により無効にされるべきものである。
(原告の主張)
本件発明が本件特許明細書の記載に基づいて実施可能であることは,審査段階で特許庁が認めたとおりである。
攪拌開始の実施例については,
本件特許明細書の段落
【0
033】に白米製麹の場合の一例が記載されている。

特許請求の範囲のその部分の文言だけを見れば,具体的な時間の特定がなく抽象化されているから,形式的には,被告がいう極端な例が含まれるように思えても,それで実施可能要件違反ということにはならない。
本件発明の技術的範囲は本件特許明細書に記載された実施例の構成に限定されるものではない。明細書の実施例を単に設計変更したものや,明細書に敢えて記載する
必要がない変形例が含まれることは当然であり,その場合の実施可能要件は明細書の実施例の記載によって充足される。
したがって,被告が主張する実施可能要件違反は認められない。
(7)

無効の抗弁その4(訂正要件違反)

(被告の主張)
構成要件Jは,訂正により追加された発明特定事項であるところ,これが訂正要件を充足するというためには,
この構成要件により訂正前の特許請求範囲の記載に開示
された発明が減縮される必要がある。
そうであるのに,被告は,訂正前の構成要件AないしIを充足すれば,当然に構成要件Jを充足する旨主張するから,
訂正により追加された発明特定事項
(構成要件J)

によって,
特許請求の範囲から取り除かれる構成が技術的に明確でないことを自認するものにほかならず,このような訂正は「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。したがって,構成要件Jを追加した上記訂正は,特許法126条1項1号の訂正要件に違反しており,
同法123条1項8号により特許無効審判により無効とされるさ
るべきである。
(原告の主張)
訂正前の請求項3に係る発明は,
引用する請求項1の記載によって
「種麹の接種後,
製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置し,製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌」すること等のみが特定されていた。
これに対し,訂正後の請求項3に係る発明は,構成要件Jを追加する訂正事項によ
り,
「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発に」する点を特定したものである。本件発明において,製麹原料への菌糸の破精込みが活発になるのは,ドラムを回転させて製麹原料の攪拌を行う流動工程であり,製麹を完了する構成要件Kまでの間に菌糸の破精込みが活発になるのである。

そうすると,この構成要件Jを追加する訂正事項は技術的に明確であり,訂正前の発明から
「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発に」ならないものは,請求項3から除外されたことは明らかである。
したがって,構成要件Jを追加する訂正事項は,特許請求の範囲の減縮を目的とす
るものである。
(8)

原告の受けた損害の額

(原告の主張)
●(省略)●特許法102条1項により,原告の受けた損害の額は同額を下回ることはない。
被告の本件特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は●(省略)●である。
●(省略)●
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1争点(4)について
本件事案に鑑み,争点(4)から判断する。
(1)本件発明について
ア本件発明は上記第2の1(2),(3)のとおりであり,本件特許明細書には,次のとおりの記載がある。

【技術分野】
【0001】
この発明は,発酵,製薬,生化学工業等に用いられる固体麹の製造方法に関する。【発明が解決しようとする課題】
【0010】

上述のように,従来は,製麹中に菌糸を切ることは麹菌の生育を弱めることになるので,数回行う手入れ作業以外は,製麹原料を静置して製麹を行なければならないとされていたものであった。しかし,本出願人は,接種後の製麹原料を従来のように長時間静置することなく行えば,
製麹原料表面や空中での菌糸の過度の生育が抑制され
る反面,製麹原料への菌糸の破精込みが活発になることに思い至ったのである。
【0011】
而して,本発明は,複雑な装置を用いたり製麹原料の改質を行ったりすることなく製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし,酵素力価の高い製麹方法を提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】

【0012】
上記目的を達成するために,本発明に係る固体麹の製造方法は,撒水又は浸漬,蒸煮,
放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置し,
製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも5
~10分間隔で間欠的に攪拌し,製麹を完了する構成を採用する。【0013】
前記製麹原料の攪拌の方式として,回転ドラム方式,コンベア落下方式,製麹棚原料攪拌方式,回転円盤内攪拌方式が採用される。ここにいう「攪拌」とは,製麹原料の固体を隣あう固体と分離させたり,他の固体と接触させたりすることを繰り返す動作を意味するものとして用いることとする。

【0014】
前記製麹原料の攪拌が回転ドラム方式によるものである場合,攪拌は,ドラムの回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われる。そして,温度及び湿度が任意に調整されたドラム内で製麹原料が落下する時に,熱交換が行われ,適切な製麹温度が維持されることになる。

【発明の効果】
【0018】
本発明は,種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置し,製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し,製麹を完了する構成を採用しているので,製麹原料を満遍なく製麹室の空気
に触れさせ,麹菌の生育に好適な条件を与えることができ,人力による手入れあるいは手入れ機による手入れや,手入れ後のいわゆる盛りを不要とし,製造コストを低減できる。
【0019】
しかも,製麹原料表面や原料外空中での菌糸の過度な絡み合いが抑制され,ひいて
は製麹原料中の菌糸の生育が活発になり,酵素力価の高い固体麹を得ることができる。【0020】
また,攪拌の速度を,任意に設定できるので,麹菌の種類あるいは製麹原料に応じた最適の麹菌生育環境が作りやすい。
【実施例】
【0032】
本実施例では,上記回転ドラム(D)を用いて,白米100kgを製麹原料として製麹を行った。
【0033】
回転ドラム(D)が設置された製麹室の室内温度,回転ドラム本体内温度のいずれをも摂氏35度に設定して製麹を開始し,品温の上昇が始まった約15時間後に,回
転ドラム本体(1)を60秒に一回転の割合で回転させ,約25時間回転を続け製麹を完了した。その間,品温設定を摂氏37度とし,品温センサ(4)が品温の上昇を感知すると,送風バルブ(6)を開いて断続的に冷却を行った。
【0034】
上記製麹完了後,国税庁所定分析法(平成3年改正法)に基づいて,グルコアミラ
ーゼ活性,α-アミラーゼ活性,酸性プロテアーゼ活性及び酸性カルボキシペプチダーゼ活性を求めたところ,いずれも従来の固体麹に較べて優れた値が得られた。【0035】
本実施例による,吟醸麹としての固体麹の
グルコアミラーゼ活性は,280単位/gこうじ

α-アミラーゼ活性は,950単位/gこうじ
酸性プロテアーゼ活性は,3158単位/gこうじ
酸性カルボキシペプチダーゼ活性は,6053単位/gこうじ,であり,いずれの活性も従来方式による固麹よりも優れたものであった。
【0036】

すなわち,従来の一般的な静置方式により製造された固体麹の
グルコアミラーゼ活性は,202単位/gこうじ
α-アミラーゼ活性は,743単位/gこうじ
酸性プロテアーゼ活性は,2625単位/gこうじ
酸性カルボキシペプチダーゼ活性は,3430単位/gこうじ,であった。【0037】
また,本実施例による,清酒麹としての固体麹の
グルコアミラーゼ活性は,305単位/gこうじ
α-アミラーゼ活性は,1251単位/gこうじ
酸性プロテアーゼ活性は,3233単位/gこうじ
酸性カルボキシペプチダーゼ活性は,6128単位/gこうじで,あり,いずれの活
性も従来方式による固体麹よりも酵素力価の優れたものであった。【0038】
すなわち,従来の一般的な静置方式により製造された清酒麹としての固体麹のグルコアミラーゼ活性は,215単位/gこうじ
α-アミラーゼ活性は,975単位/gこうじ

酸性プロテアーゼ活性は,2753単位/gこうじ
酸性カルボキシペプチダーゼ活性は,4471単位/gこうじであった。【0039】
また,一般細菌数の比較において,本実施例においては,吟醸麹としての固体麹及び清酒麹としての固体麹のいずれにおいても一般細菌数が,100CFU/g以下で
あるのに対して,従来方式において100000CFU/g以上であり,本発明の製造方法は,
雑菌の少ない清潔な固体麹を製造することができるものであることもわかった。
【図1】

【図2】

イこのように,本件発明は,製麹原料の品温が上昇した後に製麹原料を間欠的に撹拌することで,製麹原料表面や空中での菌糸の過度の生育を抑制し,製麹原料内部への菌糸の破精込みを活発にし,酵素力価の高い製麹方法を提供することを目的としており,それに適合した回転ドラムの回転速度,回転ドラム本体内の温度調整や湿度調整を行い,製麹原料は,傾斜面を順次落下するときに,回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われるものである。
(2)乙14発明について
ア乙14明細書の記載

乙14明細書には,次の記載がある。
「以下の明細書に示される新規かつ有用な糖化物の製造方法を発明したことを証する。
」(1頁9行目ないし10行目)
「私はまた,動きのある製造では,菌糸の成長は異なっており,糸状体は短く厚くなり,多くの枝が大幅に増加し,これにより,もやし胞子の頭を生じさせる多くの端
を成長させることを発見した。私の本発明以前では,培地を緩く広げ,厚さが3ないし4インチを超えないようにし,空気ができるだけ広い表面に到達できるようにすることが慣例になっていた。これは,非常に広い床面積が必要であるだけでなく,空気から沈降した外来の菌及び細菌による塊の感染が不可避となる。トレイ上で培地を広げることによる,装置を設置し動作させる労力と費用もまた,改良が迫られる事項で
あった。
古い方法では塊は厚さが3ないし4インチが最大であり,
この厚さでさえも,
菌の成長は,
厚さ1ないし2インチで行われるのと同じ程度に満足できるものではなかったところ,
私の発明では,
塊は数フィートの厚さ,
すなわち3ないし4フィート,
又はそれ以上でもよい。
私の発明を実施する際,塊が連続的に攪拌されるようにし,これにより,塊の粒子は,
空気に接近させるために,
連続的に表面に導かれる。
しかしながら,
この攪拌は,
塊における菌糸の糸状体の形質を変えることはあっても,菌の成長を実質的に妨げるような激しさはない。この攪拌は,粒子に1周期の動きを遂げさせるようにし,1分間当たり約1回ないし2回を超えないようにし,好ましくは,この攪拌の速度は,適当に増加させてもよいが,私は,1分間当たり10周期に達すると,成長は実質的に妨げられることを見出した。
私は,
攪拌に採用する機械に限定していると理解されることを所望するわけではな
い。しかしながら,成長に必要な空気を供給し,ガスが発生するのと同じ速さでガスを除去するために,湿った空気の流れを塊に当てながら,好ましくは1分間当たり1回ないし2回の回転により塊を転回させる空気式麦芽製造ドラムを採用することが好ましい。
」(1頁20行目ないし2頁7行目)
「麹の製造方法の実施例

約3ないし4フィートの深さを形成するのに十分な培地

がドラム内に導入される。この培地は,ふすま100重量部に対し水が60ないし80重量部以下含まれるように湿らせた小麦ふすまからなるのが好ましい。その後,1時間以下の間,蒸気に当てて培地が殺菌される。ドラムの回転が開始され,塊を冷却するために空気を流す。約30℃に冷却されると,ドラムの回転及び空気の流れが停止され,乾いたふすま1500重量部に対し,ふるいにかけたもやし胞子約1重量部
の割合,又は乾いたふすま200重量部に対し,ふるいにかけていないもやし胞子約1重量部の割合で,541,617の私の出願のもやし胞子が塊に加えられる。胞子と培地とを完全に混合するようにドラムを十分に回転させた後,停止させ,菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるまで,約16時間ないし20時間,塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく。その後,ドラムの回転が再開され,空気の流
れが開始される。空気の流れは,塊の温度が上昇するにつれて増加するように調整される。塊の温度は,40℃ないし42℃に到達することもあるが,空気は流れが安定的に増加され,また,冷たく湿った状態に維持されることで,塊の温度は菌の成長の最適点である30℃付近に下げて維持することが可能である。温度を30℃付近に維持する試みは,しばしば偶発的にその温度を下回る結果となることがあり,菌の成長を妨げることになるため,35℃ないし38℃の温度は,最終生成物の品質にも,工程を完結させる時間にも実質的に影響を及ぼさないので,塊をこの温度付近に維持することが好ましい。40時間ないし50時間の間,ドラムの回転及び空気の流れにさらされると,塊全体に菌の成長が行き渡り,表面には培地を静置したときの菌の成長に観られるような絹状光沢は現われない。しかし,これとは反対に,短く厚い糸状体と非常に多くの数の枝が現れる。このとき,工程は完結し,製造された麹の塊は,ド
ラム内で乾燥させるか,又はドラム内から取り出して乾燥させるようにすればよい。この麹は,糖化力が非常に均一化されており,静置して原料上で菌を成長させて製造するよりも明らかに強くなる。
」(2頁8行目ないし34行目)
イ乙14明細書の記載の補足説明
原告は,上記記載乙14明細書の「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるま
で・・静置しておく」との記載中,
「・・まで」とすることにつき,乙14明細書の原
文に「until」や「till」がないことから,訳として不正確で不当なものであるように主張する。しかし,上記訳文に相当する部分は,要するに,約16時間ないし20時間,塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておくと,菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなり始めることをいっており,これに続く文章では,その後(then),
ドラムの回転が再開されることをいっているから,これらの文章からは,ドラムの回転の再開まで「塊」を「静置」することを特定していると理解される。そして,乙14明細書は,製麹のための一連の工程を特定しているのであるから,ドラムの回転が再開する前段階において,ある一定の静置時間を置くということは,これによる所定の条件が達成されるまでそうすべきことをいっていると理解するのが自然である。そ
して,ここでいう条件は,前後の文脈に照らし,
「塊」が熱くなり始めるとしか理解で
きないから,この趣旨を分かりやすく表現するものとして,原告指摘に係る部分を,「まで・・静置しておく」と訳することは不当ではなく,かえってその趣旨に沿った訳といえるから,この点に関する原告の主張は当たらないというべきである。ウ乙14発明
以上によれば,乙14明細書には,次の発明が開示されていると認められる。「少なくとも製麹工程において,回転ドラムが用いられ,撒水又は浸漬,蒸煮,放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,前記回転ドラムは,駆動装置により回転される回転ドラム本体と,この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを,少なくとも備え,種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に,製
麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し,前記製麹原料の攪拌が,前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ,前記回転ドラム本体の回転速度は,1回転/30~90秒に設定されていると共に,前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して冷却を行い,温度及び湿度が任意に調整された前記回
転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ,製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。

(3)本件発明と乙14発明の対比

本件発明と乙14発明とは,以下の相違点ⅠないしⅢ(被告主張の相違点1,
2及び原告主張の相違点2,4の一部,5)の点で相違し,その余の点で一致する。(ア)

相違点Ⅰ(構成要件D関連)

本件発明では,
回転ドラムが設置された室内の温度及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度になるように調節しているのに対して,乙14発明では明らかでない点。
(イ)

相違点Ⅱ(構成要件H関連)

本件発明では,品温センサが品温の上昇を感知すると,回転ドラム本体内に送風して「断続的に」冷却を行うものであるのに対し,乙14発明では,「断続的に」冷却を
行うものであるか明らかでない点。
(ウ)

相違点Ⅲ(構成要件J関連)

本件発明では,
「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし」ているのに対して,乙14発明では明らかでない点。
イその余の原告主張の相違点について
(ア)

原告主張の相違点1
(構成要件B関連,
上記第2の2(4)(原告の主張)
イ(イ))

について
原告は,本件発明では品温センサが装着されているが,乙14発明ではその点が明らかではないから,その点で相違点がある旨主張する。
しかし,
乙14明細書には,
「塊を冷却するために空気を流す。
約30℃に冷却され
ると,
ドラムの回転及び空気の流れが停止され」
(2頁12行目ないし13行目)

「3
5℃ないし38℃の温度は,最終生成物の品質にも,工程を完結させる時間にも実質
的に影響を及ぼさないので,塊をこの温度付近に維持することが好ましい。(同25」
行目ないし27行目)との記載がある。
すなわち,乙14明細書においては,
「品温センサ」という語は明記されていない
が,以上のとおり,特定の品温を感知すると,塊を冷却するための送風を停止することや,塊の温度を35℃ないし38℃付近に維持することが好ましいことの記載は,
回転ドラム内部に麹原料(塊)の温度(品温)を計測するための装置,すなわち構成要件Bにいう品温センサが設置されていることを前提とするものというべきである。したがって,
品温センサの設置については乙14発明に開示されているというべきであり,この点に相違点はない。
(イ)

原告主張の相違点3(構成要件C,E関連,上記第2の2(4)(原告の主張)イ
(エ))について
原告は,
本件発明では,
「種麹の接種後,
製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を
静置すると共に」「製麹原料の品温上昇後に」製麹原料の攪拌を開始する(構成要件,
C,
E)のに対し,
乙14発明にはその条件がないから,
その点で相違点がある旨主張
する。
しかし,
乙14明細書には,
「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるまで,

16時間ないし20時間,塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく。その後,ドラムの回転が再開され,空気の流れが開始される」との記載があり,平成12年8月発行の「麹学第4版」(村上英也編著)(乙20)には,
「接種した分生子は,環
境の温度が30~35℃,湿度95%以上で3~5時間で発芽し,菌糸は伸長し,8~10時間頃から発熱による品温の上昇が顕著になる。そして,接種後18時間目頃
からは,発熱がますます盛んになり,40℃を越すことになる」との記載がある。このことからすれば,18時間にわたって静置された製麹原料は,自ら熱くなり,品温の上昇が認められることは技術常識というべきである(なお,原告主張に係る乙14の訳文の問題については,上記(2)イのとおりである。。

したがって,当業者にとって,16時間ないし20時間静置した後にドラムの回転
を再開するという乙14明細書の記載が,品温が上昇するまで製麹原料を静置し,品温上昇後に製麹原料の攪拌を開始するという本件発明の構成要件C,Eを開示するも
のであることは明らかであり,この点に相違点はない。
(ウ)

原告主張の相違点4(構成要件F,H,I関連,上記第2の2(4)(原告の主
張)イ(オ))について
原告は,
乙14発明では,
「品温センサが前記品温の上昇を感知すると,
前記回転ド
ラム本体内に送風して断続的に冷却を行う」こと,
「製麹原料が傾斜面から順次落下
する時に空気に触れることにより熱交換が行われる」こと,及び,ドラムが「温度及び湿度が任意に調整された」ものであることが,明らかでないと主張する。この点,
乙14明細書には,
「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるまで,

16時間ないし20時間,塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく。その後,ドラムの回転が再開され,空気の流れが開始される。空気の流れは,塊の温度が上昇するにつれて増加するように調整される。
」との記載に続けて,
「塊の温度は,4
0℃ないし42℃に到達することもあるが,空気は流れが安定的に増加され,また,冷たく湿った状態に維持されることで,塊の温度は菌の成長の最適点である30℃付近に下げて維持することが可能である。温度を30℃付近に維持する試みは,しばしば偶発的にその温度を下回る結果となることがあり,菌の成長を妨げることになるため,35℃ないし38℃の温度は,最終生成物の品質にも,工程を完結させる時間にも実質的に影響を及ぼさないので,塊をこの温度付近に維持することが好ましい。」
(2頁21行目ないし27行目)と記載されており,要するに乙14明細書においては,塊が存在するドラム内に湿った空気が供給されること,その空気の流れは安定的に増
加され,ドラム内が冷たく湿った状態で維持されることにより,塊の温度を30℃付近に下げて維持することが可能であると記載されている。
そうすると,前記(ア)のとおり,乙14発明には,品温センサが設置され,製麹原料の品温が上昇したらドラム内に送風が開始されることが開示されていることから,「品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して」が
開示されているのは明らかである。
次に,
「空気は流れが安定的に増加され,
また,
冷たく湿った状態に維持されること
で」

「塊の温度は菌の成長の最適点である30℃付近に下げて維持することが可能である」との記載からすると,ドラム内に湿った空気が供給され,ドラム内が冷たく湿った状態で維持されること,ドラム内に送風されることにより,塊の温度が30℃付
近にまで冷却されることが読み取れることから,
「ドラム内の湿度が任意に調整され
ている」こと,及び製麹原料の塊の「冷却」が行われていることが乙14発明に開示されているといえる。
そして,塊の冷却のために供給される空気は,塊の温度及びドラム内の温度より低いことは明らかであり,そのような低温の空気の供給によって,
「ドラム内の温度が

任意に調整される」ことも開示されているといえる。
また,
乙14明細書には,
「私の発明を実施する際,
塊が連続的に攪拌されるように
し,これにより,塊の粒子は,空気に接近させるために,連続的に表面に導かれる。」
(1頁32行目)との記載があり,それに続いて,
「私は,攪拌に採用する機械に限定
していると理解されることを所望するわけではない。しかしながら,成長に必要な空気を供給し,ガスが発生するのと同じ速さでガスを除去するために,湿った空気の流れを塊に当てながら,
好ましくは1分間当たり1回ないし2回の回転により塊を転回
させる空気式麦芽製造ドラムを採用することが好ましい。
」との記載があり,このう
ち,
「塊の粒子は,空気に接近させるために,連続的に表面に導かれる」という記載は,塊の粒子の一つ一つが,代わる代わる空気に接触しうる表面に導かれることを示すものというべきであり,当該記載に続いて,ドラムを採用することが好ましいとさ
れていることからすれば,それは,ドラムが回転することにより,製麹原料の塊がドラム内で傾斜面を形成し,その傾斜面から塊の粒子が落下し,表面にある塊の粒子とそれ以外の粒子とが順次入れ替わることを指しているのは明らかというべきである。そして,塊の粒子が落下する際に,その粒子が空気に触れるのはいうまでもないことから,
乙14発明には,
ドラム本体内で製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,

回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換を行うことが開示されているというべきである。
なお,原告は,乙14発明に開示されているドラムが「空気式麦芽製造ドラム」であって原料層自体に空気を通す方式の装置であるとして,回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換を行う方式ではないとも主張するが,乙14明細書記載のド
ラムは回転ドラムであるから,同ドラムが「空気式麦芽製造ドラム」であって原料層自体に空気を通す方式を採用しているものであったとしても,ドラムの回転自体による傾斜面からの麹の順次落下による熱交換も行われることは明らかであって,この点は上記判断を左右しない。
以上より,乙14発明に係る原告主張の相違点4(構成要件F,H,I関連)にお
いては,冷却が「断続的」に行われるか否かが不明であることのみ,本件発明との相違点に当たる
(上記ア(イ))
というべきであり,
その余は開示されているというべきで
ある。
(4)相違点についての判断
ア相違点Ⅰ(構成要件D関連)について
(ア)
本件発明では,回転ドラムが設置された室内の温度及び回転ドラム本体内の
温度を共に製麹開始温度になるように調節しているが,乙14発明では,その点が明らかではない。
(イ)

しかし,乙14明細書には,
「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるま

で約16時間ないし20時間の間,塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく。その後,ドラムの回転が再開され,空気の流れが開始される。空気の流れは,塊の温度が上昇するにつれて増加するように調整される。
」との記載に続けて,
「塊の温
度は,
40℃ないし42℃に到達することもあるが,
空気は流れが安定的に増加され,
また,冷たく湿った状態に維持されることで,塊の温度は菌の成長の最適点である30℃付近に下げて維持することが可能である。温度を30℃付近に維持する試みは,しばしば偶発的にその温度を下回る結果となることがあり,菌の成長を妨げることに
なるため,35℃ないし38℃の温度は,最終生成物の品質にも,工程を完結させる時間にも実質的に影響を及ぼさないので,塊をこの温度付近に維持することが好ましい。
」(2頁の21行目ないし27行目)と記載されているから,乙14明細書においては,塊が存在するドラム内に空気が供給され,その空気の流れが安定的に増加されることにより,
塊の温度を30℃付近に下げて維持することが可能であると記載され
ているというべきである。そして,当該部分において,塊を冷却するためにドラム内に供給される空気は,
ドラムが設置されている場所のドラム外の空気にほかならない
から,ここでは供給される空気が,塊の温度及びドラム内の温度より低いものが予定されているものと理解できる。
すなわち,乙14発明は,ドラム内の温度を調節するために,製麹機が設置され
ている空間の温度が調節されることが前提とされていると解する余地もあり,その解釈によれば,乙14発明は,回転ドラム内に供給される空気の温度(室温)を適宜調節すべきこと,すなわち回転ドラムが設置された室内の温度及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度になるように調節すべきことが開示されていると認められることになるから,相違点Ⅰは,実質的な相違点ではないというべきことになる。
(ウ)

また,上記解釈が採用できないとしても,
「新規製麹機の実用試験」と題す

る信州味噌研究所研究報告第36号(平成7年)に掲載されている論文(乙16)には,温度センサを有する回転ドラムを備えた製麹機をプレハブ式製麹室内に設置し,製麹室の温度を調節することにより麹の温度管理を行うことが記載されている(20頁右欄7行目ないし21頁左欄17行目)
。ここでは,麹が塊となることの問
題点が指摘されるとともに(21頁左欄28行目ないし30行目,22頁右欄25行目)
,室温と品温の差が大きいと麹の水分が奪われることが問題点とされており(22頁左欄16行目ないし18行目)
,麹の温度管理の中には,塊が生じないよう
にすること(この点は,温度管理だけでなく,ドラムの回転数や湿度調整等といった諸条件を調整することによって解決する課題である。,室温と品温の差を小さく)

することが,実質的に含まれているといえる。また,公開特許公報(特開昭51-7192号)(乙17)は,製麹装置に関する発明に係る公開特許公報であって,回転ドラム式製麹機を断熱室内に設置し,断熱室の温度を調節しながら製麹を行うことが記載されている(2頁左上欄7行目ないし10行目)
。ここでも,麹が塊になる問
題点が指摘されている(2頁右欄8行目ないし9行目)


以上によれば,製麹工程において,温度は,製麹に影響を及ぼす要素の一つであり,室内に回転ドラム式製麹機を設置した場合,室温及び回転ドラム内の温度はいずれも製麹に影響するから,両者を共に適宜調整することは,周知技術であるといえるところ,回転ドラム内の外壁に近接した部分の温度が製麹機を設置した環境温度の影響を受けることは自明であるから,回転ドラム内を適正な温度に維持するた
めには,回転ドラムを断熱構造にしない限り,室温を適宜調整することは不可欠といえる。したがって,回転ドラムが断熱機構を備えているか明らかではない乙14発明において,回転ドラム内の温度を管理するために,上記周知技術を採用するのは,当業者が適宜なし得る範囲内のことであるといえる。
イ相違点Ⅱ(構成要件H関連)について
前記のとおり,乙14発明には,ドラム本体内に送風して,塊の温度を最適点である30℃付近,
又は35℃ないし38℃の温度付近に維持することが開示されている。乙14明細書には,
「温度を30℃付近に維持する試みは,しばしば偶発的にその
温度を下回る結果となることがあり,菌の成長を妨げることになる」と記載されているところ,送風することにより塊の温度が最適点を下回った場合に,送風をいったん停止すること,すなわち冷却を断続的な送風により行うことは,当業者であれば適宜
なしうる設計事項にすぎないというべきである。
ウ相違点Ⅲ(構成要件J関連)について
(ア)

乙14明細書には,
「この麹は,糖化力が非常に均一化されており,静置して

原料上で菌を成長させて製造するよりも明らかに強くなる」との記載はあるが,「製
麹原料への破精込みを活発に」するとの記載はない。
(イ)

後掲の各証拠によれば,
破精込み,
糖化力及び酵素力価について,
次のとおり

認められる。
a「破精込み」とは,麹における麹菌の繁殖形態(破精)として,米粒の中心部に菌糸が生育していく程度を意味する(乙40)

b平成16年7月発行の
「増補改訂最新酒造構本」
(財団法人日本醸造協会発行)
には,次のような記載がある(乙28)

「・総破精蒸米の表面だけでなく内部にも総体に菌糸が破精込んでいる麹を総破精麹といい,このような麹は糖化力,たんぱく分解力ともに強く,酵母の栄養になるアミノ酸,ビタミン類等の生産物が多く酒母用として,また粕歩合を減らして酒化率を上げる経済的な酒造りに適している。


突き破精麹の表面には菌糸の生えていない部分を残しているが破精ているところは,盛り上がり,しかも米粒の内部には麹菌がよく破精込んでいるものを突き破精という。この麹も糖化力,たんぱく分解力ともにかなり強いが麹菌の生産物は総破精麹に比べるとやや少なく,
特に味のきれいな高品質酒の醪の掛麹として適している。

c平成7年10月発行の
「麹中のグルコアミラーゼ活性測定法」
と題する論文
(日
本醸造協会誌第90巻第11号)には,
「麹中のグルコアミラーゼ活性測定の目的は
麹のグルコース生成力を把握することにある。したがって,この目的でグルコアミラーゼ活性を測定する場合は,
この糖化力をグルコース生成力の指標として用いてもよ
いものと思われる。
」と記載されている(乙38)

d「国税庁所定分析法」(国税庁作成)においては,固体麹の糖化力はグルコアミラーゼ活性で表示するものと規定されている(乙39)


e
平成2年9月発行の「日本工業規格工業用アミラーゼ」(日本規格協会発行)
の説明には,
「糖化力

でんぷん及びその分解物等に作用して,そのグルコシド鎖を

加水分解し,還元力を生成する活性をいう」と記載されている(乙13)。
f総破精とは,破精が廻っていて破精込みの深いものをいい,酵素力が強い。突き破精とは,破精の廻っていない部分も残っているが,破精が蒸米の中心に向かって食い込んでいる麹をいう(乙40)

g
本件特許明細書の実施例においては,酵素力価の高低は,グルコアミラーゼ,
αアミラーゼ活性,酸性プロテーゼ,及び酸性カルボキシペプチターゼから判定されている(甲8,甲14)

h平成20年3月発行の
「麹学第5版」
(村上英也編著)には,
「乾燥してよく破精
た麹は酵素力が強く,清酒の色も淡く,味も軽い。
」と記載されている(甲58)

i平成14年発行の「酵素活性が麹の破精に与える影響」と題する研究報文(日本醸造協会誌第97巻10号)には,次のような記載がある(甲55)。
「破精歩合と各酵素活性との間には強い相関が認められ,酵素活性は麹の破精に強い影響を与えることが推察できた。しかし,今回使用した5株の菌株間においては,
4つの酵素活性自体に相関があるため,そのうちどの酵素がより破精に影響しているのかは分からなかった。また異なる菌株を用いたので,蒸米水分や相対湿度,温度に対する適性など,
酵素活性以外の菌株特有の性質が破精に影響している可能性も考えられた。

j本件特許明細書の段落【0034】ないし【0038】においては,国税庁所定分析法(平成3年改正法)に基づいて,グルコアミラーゼ活性,α-アミラーゼ活性,酸性プロテアーゼ活性,酸性カルボキシペプチダーゼ活性の値のいずれもが,固体麹と比較して優れていたと記載されている(甲8,甲14)

k平成10年4月発行の「増補改訂清酒製造技術(第8版)
」には,
「破精は,麹
菌の菌体と考えられるので,破精の多い麹はよく菌が繁殖したと考えてよく,一般に麹菌の生産物
(酵素,
DFなど)
も多いと考えてよい。と記載されている

(甲35)


(ウ)

以上より検討すると,上記(イ)bのとおり,
「破精込みが活発」とは,総破精又

は突き破精の状態を指すものであり,総破精及び突き破精状態の場合には糖化力が強いという関係にあるものと認められる。また,上記(イ)c,dのとおり,糖化力の強さとグルコアミラーゼ活性の高さには相関関係が認められるし,それを前提として,糖化力の強さをグルコアミラーゼ活性で表示するものとする規定が国税庁によって置かれている。さらに,上記(イ)f,hのとおり,破精込みの深い麹は酵素力値が高いという関係も明らかになっているし,上記(イ)gのとおり,グルコアミラーゼ活性の高さは酵素力値の高さを測る一つの指標であるとされていることから,酵素力値の高さとグルコアミラーゼ活性の高さにも相関関係が認められる。
以上を総合すると,麹の破精込みが深い(活発である)ことと,麹の糖化力が強い
ということは,
客観的には同じ現象を異なる指標で表現したものにすぎないものであるということができるから,
糖化力が強い麹の製造方法に関して記載された乙14明
細書は,破精込みについて触れるところはないものの,客観的には,破精込みが活発な麹の製造方法を開示しているものと変わりがないということが可能である。したがって,相違点Ⅲは実質的な相違点とはいえないし,また少なくとも当業者は
乙14発明を前提に温度や湿度を適宜調節して,製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制し破精込みが活発な麹の製造方法とすることは容易であるというべきである。
(エ)

原告の主張について

原告は,
「糖化力」とは,そもそも酵素との関係を定義したものではなく,糖化力が意味する「グルコシド鎖を加水分解し還元力を生成する活性」は,酵素ではなく酸によっても生じうること,乙14発明は,原料に対する加水率が極めて高いため,グルコアミラーゼの生成量は極端に少なくなる製法であることに加え,製麹温度によっても,それぞれの酵素力は別個に影響を受けることから,
「糖化力が高い→グルコアミ
ラーゼ活性が高い→その他活性も高い→酵素力価も高い」という関係は成り立たないと主張する。

しかし,そもそも製麹工程において「酸」を用いて糖化力を強めることを示唆する技術文献があるわけではなく,
上記(イ)掲記の糖化力,
破精込み,
酵素力値に関する技
術的知見を総合すると,一般論として,破精込みが活発な麹はグルコアミラーゼ活性が高く,
糖化力が強いという傾向を有していることが客観的な事実であるというべきであるから,原告の主張はいずれも採用できない。

(5)以上のとおり,
本件発明は,
乙14発明に基づいて,
これに周知技術を適用す
ること等により当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるから,本件特許には,特許法29条2項の無効理由があり,同法123条1項2号に基づき特許無効審判により無効とされるべきものと認められるので,原告の被告に対する本件特許権に基づく権利行使は,同法104条の3により許されない。
2以上によれば,原告の被告に対する請求は,その余の点につき判断するまでもなくいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
森崎英二野上誠一大川潤子
裁判官

裁判官

(別紙)
被告製品目録

型式番号FTY-1000の製麹ドラムを使用したドラム式固体培養装置
(別紙)
本件製法説明書

a●(省略)●
g●(省略)●
以上

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