判例検索β > 平成29年(ネ)第10031号
不正競争行為差止等請求控訴事件、請求異議控訴事件 不正競争 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10031
事件名不正競争行為差止等請求控訴事件,請求異議控訴事件
裁判年月日平成30年1月24日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成26(ワ)1397
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平成30年1月24日判決言渡
平成29年(ネ)第10031号

不正競争行為差止等請求控訴事件,請求異議控訴

事件(原審・東京地方裁判所平成26年(ワ)第1397号,同27年(ワ)第34879号)
口頭弁論終結日

平成29年11月21日
判決
控訴人(一審原告)

有限会社スーパーリアルシステム

同訴訟代理人弁護士


被控訴人(一審被告)

有限会社世靴三國

内雄一
(以下,「被控訴人三國」という。)

被控訴人(一審被告)

Y₁
(以下,「被控訴人Y₁」という。)

上記両名訴訟代理人弁護士

石嵜信憲延増拓郎鈴木宗紹安藤源太横山直樹柳瀬安裕寺正典藥
被控訴人(一審被告)


株式会社たくみ屋

(以下,
「被控訴人たくみ屋」という。)

被控訴人(一審被告)

Y₂
(以下,「被控訴人Y₂」という。)

主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。

3
知的財産高等裁判所が平成29年5月19日にした強制執行停
止決定(知財高裁平成29年(ウ)第10024号)は,これを
取り消す。
事実及び理由

用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほかは,原判決に従う。原判決中の別紙を「原判決別紙」と読み替える。
第1

控訴の趣旨

原判決を次のとおり変更する。
1
被控訴人三國,被控訴人Y₁,被控訴人たくみ屋及び被控訴人Y₂(以下,「被

控訴人ら」という。
)は,原判決別紙物品目録1記載の各木型に化体された控訴人の
800番台・500番台の品番の靴の設計情報を含む木型,プラスチック木型,生産用木型又は靴(原判決別紙物品目録2記載の各木型を含む。
)を使用し,又は第三
者に開示してはならない。
2
被控訴人Y₂は,
控訴人に対し,
原判決別紙物品目録1記載の各木型に化体さ

れた控訴人の800番台・500番台の品番の靴の設計情報を含む木型,プラスチック木型,生産用木型及び靴(原判決別紙物品目録2記載の各木型を含む。)を引き
渡せ。
3
被控訴人三國は,控訴人に対し,原判決別紙物品目録1記載の各木型に化体
された控訴人の800番台・500番台の品番の靴の設計情報を含む木型,プラスチック木型,生産用木型及び靴(同被控訴人が控訴人との製造委託契約に基づき預かり保管していたが,不正に複製した時に倣い旋盤に掛けたため,丸い穴がつま先部分に一か所,かかと部分に二か所開いた同目録記載の木型を含む。)を引き渡せ。
4
被控訴人Y₁は,
控訴人に対し,
1131万0268円及びこれに対する平成

26年4月6日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,全額につき被控訴人Y₂と連帯して,
1131万0268円及びこれに対する同月10日から支払
済みまで年5分の割合による金員の限度で被控訴人たくみ屋と連帯して,296万7586円及びこれに対する同月6日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被控訴人三國と連帯して)を支払え。
5
被控訴人たくみ屋は,控訴人に対し,1131万0268円及びこれに対す
る平成26年4月10日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,全額につき被控訴人Y₁及び被控訴人Y₂と連帯して,296万7586円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被控訴人三國と連帯して)を支払え。
6
被控訴人Y₂は,
控訴人に対し,
1131万0268円及びこれに対する平成

26年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,1131万0268円及びこれに対する同年4月6日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被控訴人Y₁と連帯して,
1131万0268円及びこれに対する同月1
0日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被控訴人たくみ屋と連帯して,296万7586円及びこれに対する同年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被控訴人三國と連帯して)を支払え。
7
被控訴人三國は,控訴人に対し,296万7586円及びこれに対する平成
26年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,296万7586円及びこれに対する同月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被控訴人Y₂と連帯して,
296万7586円及びこれに対する同年4月6日

から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被控訴人Y₁と連帯して,296
万7586円及びこれに対する同月10日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被控訴人たくみ屋と連帯して)を支払え。
8
被控訴人三國及び被控訴人Y₁(以下,
「被控訴人三國ら」という)
。は,原判

決別紙「謝罪文(1)
」記載の謝罪文を靴業界専門誌「フットウェア・プレス」及び
「シューズポスト」に掲載せよ。
9
被控訴人たくみ屋及び被控訴人Y₂(以下,
「被控訴人たくみ屋ら」という。


は,原判決別紙「謝罪文(2)
」記載の謝罪文を靴業界専門誌「フットウェア・プレ
ス」及び「シューズポスト」に掲載せよ。
10

被控訴人三國の控訴人に対する東京高等裁判所平成27年(ネ)第165
5号事件について平成27年10月31日に確定した執行力ある判決の正本に基づく強制執行は,これを許さない。
第2

事案の概要

1(1)

第1事件は,婦人靴の企画・設計・卸売を業とする控訴人が,①被控訴人
三國ら及びA(一審原告。以下,
「A」という。
)は,被控訴人三國が控訴人から預
かっていた本件オリジナル木型を同被控訴人の社外に持ち出して,被控訴人たくみ屋ら及びハマノ木型に対して不正に開示した上,同木型を不正に複製することにより得られた木型を更に改造した木型に基づいて靴の試作品を製作し,それを小売業者に開示するなどし,②その際,控訴人の従業員であった被控訴人Y₂は,控訴人の製造受託業者であった被控訴人三國に対し,被控訴人たくみ屋と取引を行うことを持ち掛け,また,③被控訴人Y₂は,控訴人の取引先であった小売業者に対し,被控訴人たくみ屋と取引するように営業活動を行ったものであり,
(a)上記①については,
本件設計情報は控訴人の営業秘密に該当するから,同情報につき,被控訴人三國ら及びAの行為は不競法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用・不正開示行為に,被控訴人たくみ屋らの行為は同項4号所定の営業秘密の不正取得・不正使用・不正開示行為又は同項8号所定の不正開示行為後の取得・使用・開示行為に,それぞれ
該当し,
(b)上記②については,
本件取引先製造受託業者情報は控訴人の営業秘密に
該当するから,同情報につき,被控訴人たくみ屋らの行為は同項7号所定の営業秘密の不正使用行為に該当し,(c)上記③については,本件取引先小売業者情報は控訴人の営業秘密に該当するから,同情報につき,被控訴人たくみ屋らの行為は同号所定の営業秘密の不正使用行為に該当するものであり,
(d)これらについては,
被控
訴人三國及び被控訴人たくみ屋に会社法350条に基づく責任が生じるほか,被控訴人ら及びAの間で互いに共同不法行為が成立し,
また,
(e)被控訴人三國の上記①
の行為は,同被控訴人と控訴人との間の靴の製造委託契約上の善管注意義務に違反して債務不履行を構成し,(f)被控訴人Y₂が,控訴人在職中に,上記①・②のとおり不正に本件設計情報を取得してこれを拡散させたほか,控訴人と競合する被控訴人たくみ屋を設立するなどした行為,及び控訴人退職後に,被控訴人たくみ屋を代表して控訴人の取引先であった小売業者と取引を行うなどした行為は,控訴人における就業規則及び被控訴人Y₂が原告に差し入れた誓約書に基づく秘密保持義務誠・
実義務・競業禁止義務に違反して債務不履行を構成する旨主張して,(1)被控訴人ら及びAに対し,不競法3条1項に基づき,本件オリジナル木型に化体された控訴人の800番台・500番台の品番の靴の設計情報(本件設計情報)を含む本件木型等の使用及び開示の差止めを,(2)被控訴人Y₂に対しては,同条2項に基づき又は誓約書に基づく返還義務の履行として,被控訴人三國に対しては,同項に基づき又は製造委託契約終了に基づく返還義務の履行として,本件木型等の引渡しを,(3)被控訴人ら及びAに対し,被控訴人三國については不競法4条,会社法350条,民法719条又は債務不履行に基づき損害賠償として,
前記第1の7掲記の金員
(損
害額の一部1070万1515円から後記の本件相殺2の自働債権の額773万3929円を控除した296万7586円及びこれに対する平成26年3月26日付け訴状補正申立書送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金)被控訴人Y₁及びAについては不競法4条又は民法719条に基づき,,
被控訴人Y₂については不競法4条,
民法719条又は債務不履行に基づき,
被控訴

人たくみ屋については不競法4条,会社法350条又は民法719条に基づき,それぞれ損害賠償として,前記第1の4~6掲記の金員(損害額1904万4197円から本件相殺2の自働債権の額773万3929円を控除した1131万0268円及びこれに対する訴状補正申立書送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金)の各支払(互いに重なり合う範囲で連帯しての支払)を,(4)被控訴人ら及びAに対し,主位的に不競法14条に基づき,予備的に民法723条に基づき,謝罪広告を,それぞれ求める事案である。
第2事件は,控訴人が,控訴人と被控訴人三國との間の別件訴訟についての本件債務名義に記載された債権(689万2144円及びこれに対する平成25年10月25日から支払済みまで年6分の割合による金員。遅延損害金について平成27年11月6日までの確定遅延損害金として計算すると,債権額は773万3929円。について,

第1事件における被控訴人三國に対する請求債権を自働債権として相殺したこと(本件相殺2)により消滅した旨主張して,本件債務名義の執行力の排除を求める請求異議訴訟の事案である。
(2)ア

原審は,
以下の行為を不正競争行為,
不法行為又は債務不履行に該当す

るとした。
①本件設計情報は営業秘密(不競法2条6項)に該当し,被控訴人三國が本件設計情報が化体した本件オリジナル木型を社外に持ち出して,
被控訴人Y₂及びハマノ
木型に対して開示した上,これをハマノ木型に複製させた行為は,不競法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用・不正開示行為に該当し,
被控訴人Y₁は被控訴人三
國の上記行為を実際に行った自然人であるから,不法行為責任が認められ,それに対応して被控訴人三國は会社法350条に基づき損害賠償責任を負う。②被控訴人Y₂は,
被控訴人三國が控訴人から本件製造委託契約に基づいて預かっ
ていた本件設計情報が化体した本件オリジナル木型を社外に持ち出して被控訴人Y₂に開示しこれを複製することが被控訴人三國の控訴人に対する同契約上の義務に違反することを知り,又は重大な過失により知らないで,被控訴人三國から営業秘密
たる本件設計情報を取得したと認められるから,
被控訴人Y₂のこの行為は,
不競法
2条1項8号所定の不正開示行為後の営業秘密の使用行為に該当する。③被控訴人たくみ屋が,名進に本件改造木型を持ち込んで預けた行為は,本件オリジナル木型と本件改造木型とで形状・寸法が一致している部分に係る設計情報を名進に開示したものということができ,かつ,被控訴人たくみ屋は,不正開示行為が介在したことを知って,又は重大な過失により知らないで,取得した当該営業秘密を開示したものであるから,不競法2条1項8号所定の不正開示行為後の営業秘密の使用行為に該当する。
④被控訴人三國は,控訴人に対し,本件製造委託契約上の善管注意義務として,同契約に基づいて預かった木型を控訴人との取引以外の目的で使用してはならない債務を負っており,被控訴人三國が本件目的外使用をしたことは,この義務に違反し,被控訴人三國の控訴人に対する債務不履行を構成する。
⑤被控訴人Y₂が控訴人在職期間中に被控訴人たくみ屋を設立してその代表取締役に就任し,控訴人を退職するまで被控訴人たくみ屋の営業行為をしたこと,被控訴人Y₂が本件オリジナル木型をハマノ木型に持ち込んで本件複製木型の作成に用いたこと,
被控訴人Y₂が本件設計情報が化体した本件複製木型を改造することにより本件改造木型を作成したことは,控訴人の就業規則に違反し,控訴人に対する債務不履行を構成する。
⑥被控訴人Y₂が,
名進に対し,
本件設計情報の一部が化体した本件改造木型を持
ち込んで預け,もって当該情報を開示したことは,控訴人の就業規則に違反し,発覚後誓約書の合意に違反するから,控訴人に対する債務不履行を構成する。⑦被控訴人Y₂が,
被控訴人たくみ屋の代表者として,
控訴人の取引先であった小
売業者に対して本件販売を行ったことは,発覚後誓約書の合意に違反し,債務不履行を構成する。

原審は,次の請求を認容し,その余の請求を棄却した。

⑧控訴人の,被控訴人たくみ屋らに対する,不競法3条1項に基づく本件複製木
型及び本件改造木型の使用及び開示の差止請求。
⑨控訴人の,
被控訴人Y₂に対する,
発覚後誓約書中の本件返却合意に基づく本件
複製木型及び本件改造木型の引渡請求。
⑩被控訴人Y₂の前記⑤(被控訴人Y₂が控訴人在職期間中に被控訴人たくみ屋を設立してその代表取締役に就任し,控訴人を退職するまで被控訴人たくみ屋の営業行為をしたこと)
,及び⑦の競業避止義務違反行為に基づく,控訴人の,被控訴人Y₂に対する逸失利益333万5640円及び弁護士費用30万円並びにこれらに対する遅延損害金の支払請求。
(3)

控訴人は,Aを除き,被控訴人らに対して控訴した。なお,請求異議訴訟
に関しては,平成29年5月19日に強制執行停止決定がされた(知財高裁平成29年(ウ)第10024号事件)

2
前提事実(当事者間に争いのない事実,裁判所に顕著な事実並びに掲記の証
拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
原判決12頁6行目及び13頁19行目の「当庁」を「東京地裁」と改め,「被告
A」を「A」と読み替えるほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2,2に記載のとおりである。
3
争点

本件の争点は,
「被告三國ら」を「被控訴人三國ら」「被告ら」を「被控訴人ら」,
と読み替え,原判決14頁7行目を削るほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりである。
4
当事者の主張

当事者の主張は,以下のとおり,原判決を補正し,控訴人の控訴理由とそれに対する被控訴人の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第4に記載のとおりである。
(1)

原判決の補正
「被告ら」を「被控訴人ら」「被告三國ら」を「被控訴人三國ら」と読,

み替える。

原判決18頁8行目「また,被告Aは,
」から11行目末尾までを削る。


原判決18頁21行目~24行目を削る。


原判決29頁5行目「又は被告A」を削る。

(2)

控訴理由
木型に含まれる靴の設計情報は,一体不可分のものとして不競法の営業
秘密として保護の対象にされるべきである。
(ア)

原判決の,
「本件オリジナル木型と本件改造木型とで形状・寸法が一

致していない部分については,本件設計情報を開示したと認めることはできない。」
との結論は,およそ木型における靴の設計情報を不競法の対象外とするのと事実上同一の事態を招来し,靴業界の国際競争力を奪い,国内小規模靴業者を根絶やしにしかねない著しく不当な判断である。営業秘密と認められる木型は,本来第三者の目に触れることがないから,その木型が流出していること自体異常事態である。(イ)

被控訴人Y₂と被控訴人Y₁が本件オリジナル木型をハマノ木型に持ち
込んで複製し,改造したことが不競法の禁止行為に該当するのである。それにもかかわらず,原判決は,市販された靴から木型を再現することはないという靴業界の慣行を看過し,
「市販された靴から木型を再現した場合」
というあり得ない事態を前
提にして,それとの比較を行っている。靴業界の慣行と前提が違うから,「上記相違
が,市販された靴から木型を再現した場合に生じる誤差より狭い範囲に収まっていると認められなければ,営業秘密として保護される設計情報とは言い難い」との結論も不当である。
(ウ)

木型にパテを盛って,形状・寸法を変えることは容易であり,それに
よって靴のオリジナルな設計情報とは別物になったとして,不競法の保護の対象外となるという判断は,どの程度木型を削り,パテを盛れば不競法の保護の対象外となるかという靴業界にとって不毛な議論を誘発し,木型に含まれる靴の設計情報の不正な取得・開示・使用に対し,何ら解決の基準を欠き,木型の保護を事実上欠く
状態に陥ってしまう。
不競法は,模倣と,営業秘密の不正な取得・開示・使用を別類型として規定しているところ,原判決は,営業秘密の不正な取得・開示・使用を認定しながら,販売における営業秘密の不正な開示の認定においては,模倣と同様の形態の同一性を要件に持ち出した。このような要件は,模倣と,営業秘密の不正な取得・開示・使用を別類型として規定した不競法の想定を超えており,不当な要件の付加である。(エ)

被控訴人三國が市販された靴から再現したという木型自体が法廷に顕
出されていないから,再現木型と本件オリジナル木型とを比較検証することができない。仮に顕出されたとしても,被控訴人三國が市販されている靴からの再現であると称する過程を法廷で検証することはできない。
また,控訴人は,控訴人代表者と中田靴モデリストとの会話を証拠として提出し(甲37)市販された靴から木型を再現した場合というのが,

靴の製造過程で存在
しないという事実を立証したから,控訴人が,本件オリジナル木型と本件改造木型との相違が,市販された靴から木型を再現した場合の誤差より実際に下回っているという主張立証もしたと評価できる。

被控訴人Y₂は,
靴製造に関して全くの素人であり,
被控訴人らによる不

正複製に至る経緯,被控訴人らの不正改造の経緯,不正複製・不正改造の発覚に至る経緯,名進における製造及び販売の経緯からすると,本件たくみ屋婦人靴の販売に当たり,控訴人の本件オリジナル木型に含まれる設計情報が被控訴人らによって不正使用されたことは明らかである。

被控訴人三國及び同Y₁が被控訴人Y₂に同調して不正複製及び不正改造
しなければ,製造委託契約に基づき預かっていた木型に含まれる靴の設計情報が,被控訴人たくみ屋らに流出することはなかった。その後,被控訴人三國らは,控訴人に対して不正改造木型であることを申告せず,不正複製・不正改造の全貌の説明はなかったから,
控訴人がY₂から本件複製木型及び本件改造木型の返還を受けた際にも,それが本件複製木型及び本件改造木型の全部なのか一部なのか判別することができなかった。したがって,被控訴人三國らが本件オリジナル木型に含まれている本件設計情報を流出させたことによる因果的影響力が除去されていないから,被控訴人三國らは,被控訴人たくみ屋らと連帯責任を負うべきである。(3)

被控訴人三國らの主張
本件設計情報の営業秘密性について

控訴人が,マスター木型について,中田靴木型に保管させて厳重に管理させていたとはいえない。原判決が根拠とする,控訴人代表者の陳述書及び中田靴木型聞き取り等報告書(甲23,25,33)に記載の事実を基礎付ける客観的証拠は何一つなく,納品書(甲34)は,本件目的外使用が発覚した以降のものであり,木型台数管理表(甲35)は,当該木型の入出庫を把握できるものではなく,作成年月日すら記載されていないものである。中田靴木型の納品書が甲34しか提出されておらず,本件目的外使用が行われた当時又はそれ以前についての納品書が提出されていないことは,当該時点においては,控訴人は,中田靴木型に対して,マスター木型の管理を委託すらしていなかったことを基礎付けるというべきである。本件目的外使用は,生産用木型について行われたものであり,本件設計情報も生産用木型である本件オリジナル木型に化体されていたものであるとする以上,当該情報の秘密管理性は,主に生産用木型の管理状況を考慮すべきである。控訴人は,本件オリジナル木型を含めた生産用木型を被控訴人三國に貸与するに当たって,被控訴人から当該木型の貸与品リスト,受領書,確認書類の提出又は受領を一切行ったことがなく,控訴人においては,被控訴人三國に対して,いつ,どの木型を,どれだけ貸与したのか把握していなかった。また,控訴人は,生産用木型(被控訴人三國が控訴人にその都度返還していた生産用木型を含む。)を控訴人の事務所内やその裏口の屋外に放置することがしばしばあり,生産用木型について特段の管理を行ったことはなかった。
以上より,本件設計情報は,秘密管理性が認められないから,営業秘密に該当しない。

被控訴人三國らが本件販売について責任を負わないこと
(ア)

被控訴人Y₁は,
平成23年8月以降は,
被控訴人Y₂と一切連絡を取

っていなかったことから,
被控訴人Y₂らの動向を関知していなかったが,
被控訴人
Y₂においては,平成23年12月22日,控訴人に対して,謝罪文(甲8)及び発覚後誓約書(甲9)を差し入れるとともに,同月26日,木型番号1T-1E,1T,TA-1E,TAのプラスチック木型及びこれらを用いて作成した見本用の靴を送付していた(甲11,23)。したがって,平成23年8月以降は,被控訴人三國らと被控訴人Y₂らとの間にはいかなる協力関係も存在しておらず,どんなに遅
くとも同年12月下旬頃には,本件目的外使用によって控訴人にもたらされた悪影響は完全に除去されていた。
被控訴人Y₂は,平成24年1月か2月頃,被控訴人たくみ屋の代表者として,名進に対して,本件生産用木型を作成させたうえで,同年10月頃から平成25年1月下旬頃までの間,本件たくみ屋婦人靴を楽歩堂や赤い靴など,当時控訴人の取引先であった靴の小売業者に販売していたようであるが,そのような事業活動は,専ら被控訴人たくみ屋が独自に行っていたものであり,被控訴人三國らは全く関知していない。
(イ)

本件オリジナル木型(T-110)と本件複製木型(1T-E),本
件オリジナル木型(T-0001)と本件複製木型(TA-E)及び本件複製木型(TA-E)と本件改造木型(TA2)について,甲部のライン,接地位置,かかとの高さ等の部分のうち,一致しているのは,あくまで甲部一か所のみであり,その余の箇所については,一致していたと評価できるものではない。二つの木型を比較する以上,ある特定の部位を一致させる必要があることから,甲部一か所のみが一致することとなったのであり,かかとの高さや接地部分等が一致している点も,いずれの木型もかかと(ヒール)のサイズを最も需要のある35mmサイズとし,足囲についても同様のサイズとしたことによる必然的な結果にすぎず,本件設計情報が残存しているからではない。
そして,本件生産用木型については,より一層本件オリジナル木型とは異なる形状をしているであろうことは容易に推察できるところであり,このような相違は,1mm以下でも異なると履き心地が大幅に変わるとされているコンフォートシューズにおいては,仮に本件設計情報の一部と一致する部分があったとしても,そのような靴は,もはや本件設計情報を使用したといえるものではない。ウ
本件原告婦人靴の売上げは減少していないこと

控訴人は,その提出が極めて容易であるにもかかわらず,本件原告婦人靴の売上が減少したことを基礎付ける証拠を何一つ提出していないから,本件原告婦人靴の売上げは減少していない。
(4)

被控訴人たくみ屋らの主張

被控訴人Y₂は被控訴人Y₁との間で完全にオリジナルな木型の作成を計画していたが,被控訴人三國らから取引を断られたため,被控訴人三國らとの関連は白紙に戻された。
本件生産用木型は,被控訴人たくみ屋の完全にオリジナルなつま先の形状設計を忠実に再現してもらうよう名進に依頼し,完全なオリジナル品として完成したものである。
第3

当裁判所の判断

当裁判所は,本件控訴を棄却すべきと判断する。その理由は,以下のとおり,原判決を補正し,当審における主張について判断するほかは,原判決「事実及び理由」欄第5に判示のとおりである。
1
原判決の補正
(1)「被告ら」を「被控訴人ら」「被告三國ら」を「被控訴人三國ら」と読み,

替える。
(2)

原判決34頁11行目「19」を「9」と改める。

(3)

原判決43頁23行目から25行目を削る。

(4)

原判決46頁9行目から21行目を削る。
(5)
(6)
2
原判決47頁20行目「陳述書」を「写真撮影報告書」と改める。原判決50頁5行目から6行目を削る。

控訴理由について
(1)

控訴人は,
木型に含まれる靴の設計情報は,
一体不可分のものとして不競

法の営業秘密として保護の対象にされるべきであるなどと主張する(前記第2,4(2)ア)

しかし,本件設計情報が営業秘密であるから,その営業秘密について不正競争行為が行われたかどうかは,本件設計情報について考えるべきである。そして,上記で原判決を補正・引用して判示したとおり,本件改造木型は本件オリジナル木型の複製物に手を加えたのであるから,本件設計情報の全部が残存しているものではなく,また,本件生産用木型に本件設計情報の一部が残存していることを示す証拠はない。
木型に含まれる設計情報は,その形状や寸法で構成されているものであるから,木型にパテを盛って,形状・寸法を変更すれば,元の設計情報はその部分において失われるといえる。本件生産用木型と本件オリジナル木型との異同を問題にすることは,営業秘密の保護の要件に形態の同一性という要件を付加したものではなく,本件設計情報が形態に関する情報であることから,営業秘密とされる情報が残存しているか否かを判断するためのものである。
その他,控訴人の主張(前記第2,4(2)ア)によっても,原判決の判断が左右されることはない。
(2)

控訴人は,
被控訴人らによる不正複製に至る経緯,
被控訴人らの不正改造

の経緯,不正複製・不正改造の発覚に至る経緯,名進における製造及び販売の経緯からすると,本件たくみ屋婦人靴の販売に当たり,控訴人の本件オリジナル木型に含まれる設計情報が被控訴人らによって不正使用されたことは明らかである,と主張する(前記第2,4(2)イ)

しかし,上記で原判決を補正・引用して判示したとおり,本件生産用木型に本件設計情報が残存しているとは認められない。
(3)

控訴人は,
被控訴人三國らが本件オリジナル木型に含まれる本件設計情報

を流出させたことによる因果的影響力が除去されていないから,
被控訴人三國らは,
被控訴人たくみ屋らと連帯責任を負うべきである,と主張する(前記第2,4(2)ウ)

しかし,上記で原判決を補正・引用して判示したとおり,本件たくみ屋婦人靴には本件設計情報が含まれていないから,被控訴人三國らが本件設計情報を流出させたことと,本件たくみ屋婦人靴の販売に基づいて発生した控訴人の損害との間に,相当因果関係があるとはいえず,その他,上記で原判決を補正・引用して判示したとおり,被控訴人三國らに対する請求は認められない。
第4

結論

よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
森義之早苗
裁判官
永田
裁判官
古庄研
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