判例検索β > 平成29年(わ)第55号
過失運転致死傷
事件番号平成29(わ)55
事件名過失運転致死傷
裁判年月日平成30年1月25日
法廷名岐阜地方裁判所  多治見支部
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主文
被告人を禁錮3年2月に処する
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,平成29年8月30日午後1時46分ころ,大型貨物自動車を運転し,岐阜県多治見市A地内中央自動車道西宮線上り線Bキロポスト先道路の第一通行帯をCインターチェンジ方面からDインターチェンジ方面に向かい進行するに当たり,同所は工事のため,第一通行帯規制が実施され,その最高速度が50キロメートル毎時と指定されていた上,同通行帯上に矢印板が設置されるなどして,Cインターチェンジ方面から進行してくる車両を第二通行帯を進行するように誘導していたのであるから,前記最高速度を遵守することはもとより,進路前方左右を注視し,前記誘導に従って進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,携帯電話機の画面を脇見して,前方左右を注視せず,進路前方の工事規制に気付かないまま,漫然時速約90キロメートルで第一通行帯を進行した過失により,前記矢印板に自車前部を衝突させ,その衝撃により同矢印板を同所付近で作業中のE(当時55歳)に衝突させると共に,折から,同通行帯上に前記工事のために自車前方に停止していた中型貨物自動車を前方約28.3メートルの地点に迫ってようやく認め,右転把したが間に合わず,同車後部に自車左前部を衝突させ,その衝撃により,前記中型貨物自動車をその前方に押し出し,同所で作業中のF(当時47歳),G(当時45歳)及びH(当時28歳)に同車前部をそれぞれ衝突させ,自車を制御不能に陥らせて路肩を走行した上,同路肩に前記工事のために停止していた普通貨物自動車後部に自車左前部を衝突させ,その衝撃により,前記普通貨物自動車をその前方に押し出し,同所で作業中のI(当時40歳)に衝突させ,更に,自車をガードレールに衝突させた衝撃により自車に積載していたプラスチックシートロール4本等を高架下に落下させ,折から,高架下道路を東から西に向かい進行してきたJ(当時55歳)運転の普通乗用自動車及びK(当時31歳)運転の普通乗用自動車にそれぞれプラスチックシートロールを衝突させると共に中央分離帯フェンスにもプラスチックシートロールを衝突させ,折から,前記高架下道路を西から東に向かい進行してきたL(当時60歳)運転の普通乗用自動車に破損した前記中央分離帯フェンスを衝突させ,よって,前記Iに開放性脳挫傷の傷害を負わせ,即時同所において同人を前記傷害により死亡させたほか,前記Eに加療約2週間を要する腰部打撲等の傷害を,前記Fに加療約20日間を要する頭蓋骨骨折等の傷害を,前記Gに加療約1か月間を要する顔面骨骨折等の傷害を,前記Hに加療約10週間を要する多発肋骨骨折等の傷害を,前記Jに加療約2週間を要する胸骨骨折等の傷害を,同人運転車両の同乗者M(当時19歳)に加療約10日間を要する頸部挫傷等の傷害を,前記Kに加療約1週間を要する頸部挫傷等の傷害を,前記Lに加療約16日間を要する腰椎捻挫等の傷害をそれぞれ負わせた。
(量刑の理由)
本件は,大型車両の運転手として稼働する被告人が,大型車両にプラスチックシートロール等の積荷を積んで高速道路を走行中,携帯電話機の画面に脇見して前方左右を注視しなかったために高速道路上の工事規制が行われていることに気付かず,工事規制を知らせる矢印板や作業中の車両に自車を衝突させ,更にこれらの衝突の衝撃により自車の積荷を高架下道路に落下させて,高架下道路を走行していた車両にこれらの積荷を衝突させるなどして,上記工事作業員1名を死亡させ,上記工事作業員,高架下道路の走行車両の運転者及び同乗者合計8名を負傷させた重大事案である。
被告人は,携帯電話機の画面に脇見した理由について,降りるべきインターチェンジを失念し,目前に迫っているNインターチェンジが降りるべき場所であるかを確認するため,携帯電話機の地図アプリケーションを起動させようとしていたと供述するが,高速道路を走行する車両の運転者がこのような行為に及ぶことは禁忌であり,積荷を含めた総重量が20トンを超える大型車両を運転しているという自覚に欠けた運転態度である。したがって,被告人の過失が重大であることは言うまでもない。他方,被害者らのうち,工事作業員らは工事規制がされた場所で作業に従事していただけであるし,高架下の道路を走行する車両の運転者やその同乗者にしても,高速道路から本件事故により落下したような積荷が落ちてくることを予測することはおよそ不可能であって,被害者らには何の落ち度も認められない。そして,被告人は,本件事故により9名を死傷させ,特にIの死亡という,取り返しのつかない重大な結果を発生させた。死亡したIは,一家の大黒柱として,また,よき夫,よき父として,家族と共に幸せな生活を送っていたにもかかわらず,突如,無念の死を遂げたもので,その苦痛は察するに余りある。また,被告人の運転行為の内容やIの遺体の損傷が激しかったことなどから,Iの遺族は,被告人に対し峻烈な被害感情を抱いている。更に,Iの同僚であった被害者らの多くが厳しい被害感情を述べ,また,高架下道路を走行していた車両の運転者の中にも,厳しい被害感情を述べる者がいるが,以上にみた本件事故までの経緯,本件事故の態様及び結果をみるに,被害者らやその遺族がこのような被害感情を述べるのは当然のことといえる。
そうすると,被告人の刑責は重く,被告人は相当期間の実刑を免れない。しかし,他方,被告人が事実を認め,被害者及びその遺族に謝罪と反省の気持ちを書いた手紙を送付するなどして反省の態度を示していること,被告人の勤務先からIの遺族に対し一定の慰謝の措置が行われており,また,被告人の勤務先が加入している保険により被害者らの受けた損害は金銭的には全て補償される見込みがあること,被告人の父による監督が期待できること,被告人の勤務先が今後も被告人を雇用する意思を有していること,被害者らの中にはそれほど厳しい被害感情を抱いていない者もいることなど,被告人にとって酌むべき事情もあるので,これらの事情をも考慮の上,主文のとおり,その刑を量定した。
(求刑

禁錮4年)

平成30年1月25日
岐阜地方裁判所多治見支部
裁判官鈴木雄輔
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