判例検索β > 平成29年(行ケ)第1号
選挙無効請求
事件番号平成29(行ケ)1
事件名選挙無効請求
裁判年月日平成30年1月31日
法廷名高松高等裁判所
結果棄却
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平成30年1月31日判決言渡し
平成29年(行ケ)第1号
口頭弁論終結日

同日原本交付

裁判所書記官

選挙無効請求事件

平成29年12月26日
判決主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1
1実及び理由
請求
原告Aの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の徳島県第1区における選挙を無効とする。

2
原告Bの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の徳島県第2区における選挙を無効とする。

3
原告Cの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の香川県第1区における選挙を無効とする。

4
原告Dの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の香川県第2区における選挙を無効とする。

5
原告Eの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の香川県第3区における選挙を無効とする。

6
原告Fの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の愛媛
県第1区における選挙を無効とする。
7
原告Gの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の愛媛県第2区における選挙を無効とする。

8
原告Hの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の愛媛県第3区における選挙を無効とする。

9
原告Iの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の愛媛県第4区における選挙を無効とする。

原告Jの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の高知県第1区における選挙を無効とする。

原告Kの請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の高知県第2区における選挙を無効とする。

第2
1
事案の概要
本件は,平成29年10月22日に施行された衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について,徳島県第1区,同第2区,香川県第1区,同第2区,同第3区,愛媛県第1区,同第2区,同第3区,同第4区,高知県第1区及び同第2区の各選挙区(以下「本件各選挙区」という。)の選挙人である原告らが,衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選挙区割りに関する公職選挙法等の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の本件各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。

2
前提となる事実(文末に証拠の掲記がない事実は,当事者間に争いがない事
実又は当裁判所に顕著な事実である。)


原告らは,本件選挙について,それぞれの請求に係る各選挙区の選挙人である。



平成6年1月,公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第2号)が成立し,その後,同年法律第10号及び同第104号によりその一部が改正され(以下,これらの改正を「平成6年改正」という。),これにより衆議院議員の選挙制度は,従来の中選挙区単記投票制から小選挙区比例代表並立制に改められた。
本件選挙施行当時の選挙制度によれば,衆議院議員の定数は465人で,そのうち,289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とされ(公職選挙法4条1項),小選挙区選出議員の選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出し(同法13条1項,別表第一),比例代表選出議員の選挙については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている(同法13条2項,別表第二)。総選挙においては,小選挙区選挙と比例代表選挙を同時に行い(同法31条),投票は,小選挙区選出議員及び比例代表選出議員ごとに1人1票とされている(同法36条ただし書)。



上記の公職選挙法の一部を改正する法律と同時に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,後記の改正の前後を通じて「区画審設置法」という。)によれば,衆議院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。そして,後記の平成24年法律第95号による改正前の区画審設置法3条(以下「平成24年改正前の区画審設置法3条」という。)は,上記の選挙区の区割りの基準(以下,後記の改正の前後を通じて「区割基準」という。)につき,①1項において,上記の改定案を
作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,②2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当した上で(以下,このことを「1人別枠方式」という。),この1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数と定めていた(以下,この区割基準を「平成24年改正前の区割基準」といい,この規定を「平成24年改正前の区割基準規定」という。)。
平成6年改正以降,小選挙区選挙の選挙区割りについては,次のとおり,3度にわたって改定が行われた。

平成14年7月に成立した公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第95号。以下「平成14年改正法」という。)により,各都道府県の議員の定数につきいわゆる5増5減(5県の選挙区数をそれぞれ1増し,5道県の選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。)を行った上で,選挙区割りの改定が行われた(以下,この改定を「平成14年改正」という。)。

平成24年11月16日に,平成24年改正前の区画審設置法3条2項の削除及びいわゆる0増5減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。)を内容とする「衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び区画審設置法の一部を改正する法律」(同年法律第95号。以下「平成24年改正法」という。)が成立し,その後,平成25年6月24日に,「衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律」
(同年法律第68号。以下「平成25年改正法」という。)が成立して,その枠組みに沿って17都県の42選挙区における選挙区割りの改定が行われた(以下,これらの改定を「平成25年改正」という。)。

平成28年5月20日に,平成32年以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき,都道府県別定数配分をいわゆるアダムズ方式(都道府県の人口を一定の数値で除し,それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選挙の定数と一致する方式のことをいう。)によって行い,各選挙区間の最大較差(日本国民の人口による)が2倍以上にならないようにすること,その附則において,それまでの措置として,平成27年の簡易国勢調査に基づき,いわゆる0増6減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない6県の選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。)をすることなどを内容とする「区画審設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律」(同年法律第49号。以下「平成28年改正法」という。)が成立し,その後,平成29年6月9日に,「区画審設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律の一部を改正する法律」(同年法律第58号。以下「平成29年改正法」という。)が成立して,その枠組みに沿って19都道府県の97選挙区における選挙区割りの改定が行われた(以下,これらの改定を「平成29年改正」といい,同改正後の公職選挙法13条1項及び別表第一を併せて「本件区割規定」という。また,平成14年改正,平成25年改正及び平成29年改正を併せて「本件各改正」という。)。
本件選挙の小選挙区選挙は,平成29年10月22日,本件区割規定の定
める選挙区割り(以下「本件選挙区割り」という。)の下で施行されたものである。
本件選挙において,選挙当日の選挙区間の選挙人数の最大較差(以下,選挙人数を基準とした最大較差を「最大較差(選挙人)」といい,人口を基準
とした最大較差を「最大較差(人口)」といい,これらを併せた最大較差を単に「最大較差」という。)は,最少の鳥取県第1区と最多の東京都第13区との間で1対1.979であった(乙1)。
3
争点及びこれに対する当事者の主張
争点1(本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったか否か)について
(原告らの主張)

主位的主張について
本件選挙区割りに基づく本件選挙は,憲法56条2項の「両議院の議事
は,この憲法に特別の定のある場合を除いては,出席議員の過半数でこれを決し」との定め,憲法1条の「主権の存する日本国民」との定め,憲法前文第1文の「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,」及び「ここに主権が国民に存することを宣言し,」との各定めによって要求される,人口比例選挙によって保障される1人1票の投票価値の平等に違反し,無効である。

予備的主張について
最高裁判所平成22年(行ツ)第207号同23年3月23日大法廷判
決・民集65巻2号755頁(以下「平成23年大法廷判決」という。)は,平成21年8月30日施行の総選挙当時において,「地域性に係る問題のために,殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い」として,「1人別枠方式による選挙区割りは,投票価値の平等という憲法の要求するところとは相容れないものと言わざるを得ない。」,「1人別枠方式を廃止し,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要がある」と判示した。
また,最高裁判所平成25年(行ツ)第209号,第210号,第21
1号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は,平成25年改正について,「1人別枠方式の構造的な問題は最終的に解決されているとはいえない」と判示した。
さらに,最高裁判所平成27年(行ツ)第253号同年11月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下「平成27年大法廷判決」といい,平成23年大法廷判決及び平成25年大法廷判決と併せて「本件各大法廷判決」という。)も,「上記0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県について旧区割基準(平成24年改正前の区割基準)に基づいて配分された定数の見直しを経ておらず,1人別枠方式を定めた旧区画審設置法(平成24年改正前の区画審設置法)3条2項が削除された後の新区割基準に基づいた定数の再配分が行われていない」と判示した。
選挙区割りにおいて,人口以外の要素(すなわち,都道府県,市町村,その他の行政区画,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況等)は,合理性を有しない限り,これを考慮することは許されない。本件選挙では,平成29年改正に基づく0増6減により,全47都道府県のうちわずか6県について配分定数の見直しがされたにすぎず,ある地域の選挙人の投票価値は,他の地域の選挙人の0.51票分の投票価値しか有していない。また,本件選挙当時,平成22年の大規模国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式による都道府県の配分定数の見直しをしていれば,7増13減となっていたことに照らしても,本件区割規定では,12都県について配分定数の見直しがされていないことになる。
そうすると,平成29年改正に基づく本件区割規定による本件選挙区割りは,投票価値の最大較差が2倍未満であるとしても,上記の12都県については,平成23年大法廷判決が憲法の投票価値の平等の要求に反する
と判断した1人別枠方式が維持されていることになる。
したがって,上記の12都県の選挙区割りは,違憲状態の瑕疵を帯びており,各選挙区の有機的一体性の性質からして,全選挙区が違憲状態の瑕疵を有することになるから,本件選挙は,憲法に違反し無効である。(被告らの主張)

原告らの主位的主張について
憲法は,投票価値の平等を要求しているが,投票価値の平等は,選挙制
度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,選挙制度の仕組みの決定については,国会に広範な裁量が認められている(憲法43条2項,47条)。そして,小選挙区制度における具体的な選挙区を定めるに当たっては,種々の政策的な考慮要素を総合的に考慮した上で,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められている。
したがって,選挙制度の合憲性は,国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,その裁量権の行使として合理性を有するか否かによって判断されることになり,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めて憲法に違反することになるものと解すべきである。
よって,本件選挙区割りが,人口比例選挙の要求に反するからといって,憲法の投票価値の平等の要求に反するものではなく,本件選挙が無効であるとはいえない。

原告らの予備的主張について
本件各大法廷判決は,諸般の事情を総合的に考慮して,選挙区間の人口
の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とする,平成28年改正前の区画審設置法3条の規定につき,一貫して,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものと評価し,これを前提として,国会に対し,同条の趣旨に沿った選挙制度の整備を求めてきた。
国会は,平成23年3月以降,本件各大法廷判決に沿って,できる限りの検討と協議を尽くすとともに,地方公共団体等から,人口比例のみに偏った選挙制度に疑問を呈する意見や一連の選挙制度の改正に伴う弊害に関する意見が寄せられる中でも,投票価値の平等の要求に反する状態の是正が最も優先すべき課題であるとの認識の下,投票価値の較差の是正措置に取り組んだ。
本件各改正の結果,選挙区間の最大較差は,2倍未満にまで縮小されるとともに,被災地等の例外なく,全ての小選挙区を通じて較差の縮小が図られたもので,このような選挙区間の較差のみをもってしても,本件区割規定の定める本件選挙区割りが,投票価値の平等の要求に反する状態に至っていないことは明らかである。
また,本件各改正においては,1人別枠方式の廃止,区画審設置法3条の厳格化,人口比例に基づく配分方式や人口の将来推計の導入に加え,過去最大の分割市町村等,都道府県別の議席配分段階及び都道府県内の選挙区割りの決定段階の両段階で,これまでにない踏み込んだ立法的措置が執られており,将来的には,平成32年の大規模国勢調査を踏まえた更なる較差の縮小に向けた立法的措置も予定されている。これらの改正は,十分な合理性を有するものであって,憲法の投票価値の平等の要求に沿うものであることは明らかである。
原告らは,12都県については,なお1人別枠方式が維持されている旨主張するが,本件各改正により1人別枠方式が廃止されていることは明らかであり,本件各改正による0増5減及び0増6減も,1人別枠方式の廃
止を前提として初めてなし得たものである。そして,本件各改正により本件各大法廷判決が指摘したような1人別枠方式の構造的問題も解決されているから,原告らの上記主張は理由がない。
よって,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反していない。
争点2(憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったか否か)について
(原告らの主張)

主位的主張について
定数配分又は選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に
至っていても,憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったとはいえない場合には,憲法の規定に違反するものということはできないという「合理的期間の判例法理」自体が,憲法98条1項の明文に反し,その効力を有しない。

予備的主張について
本件選挙施行の日(平成29年10月22日)の時点で,平成25年大法廷判決が合理的期間の始期と認定した平成23年大法廷判決の日(同年3月23日)から既に6年6月30日間が経過している。したがって,合理的期間は既に徒過しており,本件選挙は,憲法98条1項により無効である。
(被告らの主張)


原告らの主位的主張について
平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決が判示するとおり,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かは,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を
総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が,司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点から評価すべきものと解される。
よって,原告らの主位的主張は失当である。

原告らの予備的主張について
憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったか否かは,裁判所において投票価値の較差が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が違憲状態となったことを認識し得た時期を基準として,上記の諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。
本件各改正は,本件各大法廷判決の趣旨に沿って,1人別枠方式を廃止するとともに,将来的にも選挙区間の最大較差を2倍未満とするための所要の改正を行い,選挙区間の最大較差を2倍未満にまで縮小させたものである。本件区割規定の定める本件選挙区割りの下で行われた本件選挙における選挙区間の最大較差は,衆議院議員の小選挙区選挙上,過去最少の数値であり,小選挙区選挙に関する累次の最高裁判所の判決において合憲とされた最大較差をも相当程度下回るもので,平成23年大法廷判決が投票価値の平等に配慮した合理的な基準であると評価した平成28年改正前の区画審設置法3条の求める2倍未満の較差を正に実現したものである。そうすると,本件各改正は,本件各大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として十分に相当なものであり,国会において,本件選挙までに,本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあるなどということは,全く認識できない状況にあった。よって,本件区割規定の定める本件選挙区割りについて,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえないことは明らかである。

第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前提となる事実に加え,後掲各証拠,弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば,以下の事実が認められる。
平成6年改正により衆議院議員の選挙制度は,従来の中選挙区単記投票制から小選挙区比例代表並立制に改められた。
平成6年改正と同時に成立した区画審設置法によれば,内閣府に置かれた区画審は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。そして,選挙区の改定に関する区画審の勧告は,統計法5条2項本文(平成19年法律第53号による改正前は4条2項本文)の規定により10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされている(区画審設置法4条1項)。
区画審は,平成12年10月に実施された国勢調査の結果に基づき,平成13年12月,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧告を行った。この改定案は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区に関し,平成24年改正前の区画審設置法3条2項に従って各都道府県の議員の定数につき5増5減を行った上で,同条1項に従って各都道府県内における選挙区割りを改めることを内容とするものであった。
上記勧告を受けて,平成14年7月に上記改定案に基づく選挙区割りの改定を盛り込んだ平成14年改正法が成立した。
平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成21年選挙」という。)の小選挙区選挙は,平成14年改正により改定された選挙区割りの下で施行されたものである。平成14年改正の基礎とされた平成12年国勢調査の結果による人口を基に,同改定後の区割規定の下における選挙区間
の人口の較差を見ると,最大較差(人口)は最少の高知県第1区と最多の兵庫県第6区との間で1対2.064であり,高知県第1区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は9選挙区であった。また,平成21年選挙当日における選挙区間の最大較差(選挙人)は,最少の高知県第3区と最多の千葉県第4区との間で1対2.304であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は45選挙区であった。
この選挙区割りに基づいて施行された平成21年選挙に関する選挙無効訴訟において,平成23年大法廷判決は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の最大較差(人口)が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする平成24年改正前の区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,同選挙時において,選挙区間の投票価値の較差が最大で2.304倍に達し,較差2倍以上の選挙区数が45選挙区と拡大していたのは,各都道府県にあらかじめ1の選挙区数を割り当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから,同条に定める区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び同区割基準に従って改定された区割基準規定の定める平成21年選挙の選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。そして,同判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,平成24年改正前の区割基準規定及び区割基準が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に上記の状態を解消するために,できるだけ速やかに同区割基準中の1人別枠方式を廃止し,平成24年改正前の区画審設置法3条1項の趣旨に沿って同区割規定を改定するなど,投票
価値の平等の要請にかなう立法的措置を講じる必要があると判示した。その後,平成23年大法廷判決を受けて行われた各政党による検討及び協議を経て,平成24年11月16日に平成24年改正法が成立した。平成24年改正法は,同改正前の区画審設置法3条2項の削除及び0増5減を内容とするものであった。しかし,1人別枠方式の廃止を含む制度の是正のためには,区画審の審議を挟んで区割基準に係る区画審設置法の改正と選挙区割りに係る公職選挙法の改正という二段階の法改正を要することから,平成24年改正法は,その附則において,同改正前の区画審設置法3条2項を削除する改正規定は公布日から施行するものとする一方で,各都道府県の選挙区数の0増5減を内容とする改正後の公職選挙法の規定は次回の総選挙から適用する(公職選挙法の改正規定は別に法律で定める日から施行する)ものとし,上記0増5減を前提に,区画審が選挙区間の最大較差(人口)が2倍未満となるように選挙区割りを改める改定案の勧告を公布日から6月以内に行い,政府がその勧告に基づいて速やかに法制上の措置を講ずべき旨を定めていた。平成24年改正により,同改正前の区画審設置法3条1項が同改正後の区画審設置法3条(以下「平成28年改正前の区画審設置法3条」という。)。
平成24年改正法の成立と同日に衆議院が解散され,その1か月後の平成24年12月16日に衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」という。)が施行された。しかし,同選挙までに新たな選挙区割りを定めることは時間的に不可能であったため,同選挙は,平成21年選挙と同様に,平成14年改正による区割規定の定める選挙区割りの下で施行されることとなった。平成24年選挙当日における選挙区間の最大較差(選挙人)は1対2.425であり,選挙人が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は72選挙区であった(乙2の2)。
平成24年選挙に関する選挙無効訴訟において,平成25年大法廷判決は,
①上記選挙は,平成21年選挙時に既に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた選挙区割りの下で再び施行されたものであること,選挙区間の較差は平成21年選挙時よりも更に拡大して最大較差(選挙人)が2.425倍に達していたこと等に照らせば,平成24年選挙時において,その選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ない,②しかし,平成24年選挙までに,1人別枠方式を定めた平成24年改正前の区画審設置法3条2項の規定が削除され,かつ,全国の選挙区間の人口較差を2倍未満に収めることを可能とする定数配分と区割り改定の枠組みが定められており,司法権と立法権との関係を踏まえ,考慮すべき諸事情に照らすと,国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったとはいえないから,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,平成24年改正前の区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない,③国会においては今後も平成28年改正前の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。
平成24年選挙の施行後,平成24年改正法の附則の規定に従って区画審による審議が行われ,平成25年3月28日,区画審は,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧告を行った。この改定案は,同附則の規定に基づき,各都道府県の選挙区数の0増5減を前提に,選挙区間の人口較差が2倍未満となるように17都県の42選挙区において区割りを改めることを内容とするものであった(乙3の2,乙5,6)。
上記勧告を受けて,平成25年6月24日に上記改定案に基づく選挙区割りの改定を盛り込んだ平成24年改正法の一部を改正する法律案である平成25年改正法が成立した。
なお,平成25年改正に至るまでには,地方公共団体等から,人口規模の
少ない地方自治体においては住民の声が国に届きにくくなるのではないかという意見や選挙区を定めるに際して市町村の区域を分割しないよう求める意見などが出されていた(乙3の2,乙4,7の1ないし25)。
平成26年11月21日の衆議院解散に伴い,同年12月14日,平成25年改正における0増5減の措置による改定を経た選挙区割りの下で衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)が施行された。平成25年改正により,平成22年の大規模国勢調査の結果による選挙区間の最大較差(人口)は1対1.998となるものとされたが,同国勢調査後の人口変動の結果として,平成25年3月31日現在及び平成26年1月1日現在の各住民基本台帳に基づいて総務省が試算した選挙区間の最大較差(人口)はそれぞれ1対2.097及び1対2.109であり,上記試算において較差が2倍以上となっている選挙区はそれぞれ9選挙区及び14選挙区となっていた。そして,平成26年選挙当日における選挙区間の最大較差(選挙人)は,最少の宮城県第5区と最多の東京都第1区との間で1対2.129であり,宮城県第5区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は13選挙区であった(乙2の3,乙3の2)。
平成26年選挙に関する選挙無効訴訟において,平成27年大法廷判決は,①平成25年改正により改定された選挙区割りにおいて,最大較差(選挙人)が1対2.129に達し,較差2倍以上の選挙区も13選挙区存在するといった投票価値の較差が生じた主な要因は,いまだ多くの都道府県において,新区割基準(平成28年改正前の区割基準)に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されていることにあり,全体として新区画審設置法(平成28年改正前の区画審設置法)3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたとはいえないとし,このような投票価値の較差の状況やその要因となっていた事情などを総合考慮すると,その選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得
ない,②しかし,平成26年選挙までに,2回の法改正を経て,平成24年改正前の区画審設置法3条2項の規定が削除されるとともに,直近の平成22年国勢調査の結果によれば全国の選挙区間の最大較差(人口)が2倍未満となるように定数配分と選挙区割りの改定が行われ,同選挙時の投票価値の最大較差は前回の平成24年選挙時よりも縮小し,更なる法改正に向けて衆議院に設置された検討機関において選挙制度の見直しの検討が続けられているのであって,司法権と立法権との関係を踏まえ,考慮すべき諸事情に照らすと,国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決及び平成25年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったとはいえないから,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,平成25年改正法による区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない,③国会においては今後も平成28年改正前の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。
平成27年大法廷判決の前後を通じて衆議院議院運営委員会議長の諮問機関として設置された衆議院選挙制度に関する調査会において,議論が重ねられ,平成28年1月14日,衆議院議長に対し,答申が出された。その内容は,衆議院議員の定数を10人削減した上で,都道府県への議席配分をアダムズ方式により行い,その配分見直しは,10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基づき行うことなどを内容とするものであった(乙8の1ないし17,乙9,10)。
上記答申を受けて,平成28年5月20日に平成28年改正法が成立した。同改正法は,平成28年改正前の区画審設置法3条の規定を厳格化し,これを「前条の規定による改定案の作成は,各選挙区の人口(最近の国勢調査(統計法第5条第2項の規定により行われる国勢調査に限る。)の結果による日本国民の人口をいう。以下この条において同じ。)の均衡を図り,各選
挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない。」と改めた上,都道府県の区域内の選挙区の数を平成32年以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により配分し,選挙区間の最大較差(人口)が2倍以上にならないようにすること(平成28年改正後の区画審設置法3条1項,2項),平成37年以降の国勢調査の結果に基づく選挙区間の最大較差(人口)が2倍以上になったときは,選挙区の安定性を図るとともに較差2倍未満を達成するため,都道府県の選挙区数を変更することなく,区画審が較差是正のために選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うものとすること(平成28年改正後の区画審設置法3条3項,4条2項),衆議院議員の定数を小選挙区選出議員につき6人,比例代表選出議員につき4人の合計10人を削減すること(平成28年改正後の公職選挙法4条1項)のほか,平成28年改正法の附則において,平成32年の大規模国勢調査までの措置として,平成27年の簡易国勢調査の結果に基づき,選挙区の人口に関し,将来の見込人口を踏まえ,平成32年までの5年間を通じて較差が2倍未満となるよう区割りを行うなどの措置を講じること(平成28年改正法附則2条1項),小選挙区選挙の定数6減の対象県について,上記の簡易国勢調査に基づき,アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象となる都道府県のうち,議員1人当たり人口の最も少ない都道府県から順に6県とすること(同附則2条2項1号),平成28年改正法の施行後においても,全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい選挙制度の在り方については,不断の見直しが行われるものとすること(同附則5条)を内容とするものであった(乙11の1,2,乙13の1,2)。
平成28年改正法において,アダムズ方式の全面的な導入が平成32年の大規模国勢調査からとされた理由については,平成28年改正法の法案提出
者から,古い国勢調査である平成22年の大規模国勢調査の数値を用いる合理性があるとはいえないこと,同調査の結果が出てから既に2回の衆議院議員総選挙を経ているにもかかわらず,これを用いて新たに議席を配分し直すと,それにより従前と異なる議席を配分された都道府県の選挙人を中心に,これら2回の総選挙の正当性や選挙された議員の地位に対し疑念を抱かせることになるという問題があること,4年後には次の大規模国勢調査が控えており,立て続けに都道府県への議席配分の見直しを行うこととなり,選挙制度の安定性に欠けるという問題があることが挙げられていた(乙11の1,乙12の2)。
平成28年改正法の成立後,その附則の規定に従って区画審による審議が行われ,平成29年4月19日,区画審は,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧告を行った。この改定案は,同附則の規定に基づき,各都道府県の選挙区数の0増6減を前提に,平成27年の簡易国勢調査の結果に基づく選挙区間の最大較差(人口)が2倍未満になるようにするとともに,平成32年見込人口に基づく選挙区間の最大較差(人口)も2倍未満になるように,19都道府県の97選挙区において区割りを改め,これにより分割市区町の数も,平成25年改正時には116選挙区88市区町であったところを更に増やして,過去最大の138選挙区105市区町とすることを内容とするものであった。
上記勧告を受けて,平成29年6月9日に上記改定案に基づく選挙区割りの改定を盛り込んだ平成28年改正法の一部を改正する法律案である平成29年改正法が成立した。
平成29年改正により,平成27年の簡易国勢調査による選挙区間の最大較差(人口)は1対1.844となり,当時において推計された平成32年見込人口(平成27年の簡易国勢調査による日本国民の人口に,平成22年の大規模国勢調査から平成27年の簡易国勢調査までの日本国民の人口の伸
び率を乗じて得た人口をいう。)における最大較差も1対1.999となった。他方,分割市区町は,合計138選挙区105市区町まで増加したところ,平成29年改正に至るまでの間にも,地方公共団体等から,人口比例のみに偏った選挙制度の改正に疑問を呈する意見や選挙区を定めるに際して市町村の区域を分割しないよう求める意見などが出され,平成29年改正後も,同改正について,投票価値の較差の是正に伴う様々な弊害等に関する意見が出されるなどしている(乙14の1,乙15の1ないし27,乙18の1ないし6,乙19の1ないし6,乙20の1ないし13)。
平成29年9月28日,衆議院が解散され,同年10月22日,本件区割規定の定める選挙区割りの下で,本件選挙の小選挙区選挙が施行された。本件選挙当日における選挙区間の最大較差(選挙人)は,最少の鳥取県第1区と最多の東京都第13区との間で1対1.979であった(乙1)。2
判断の枠組み
衆議院議員の選挙における投票価値の較差の問題について,累次の最高裁判所大法廷判決は,①定数配分又は選挙区割りが投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているか否か,②上記の状態に至っている場合に,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとして定数配分規定又は区割規定が憲法の規定に違反するに至っているか否か,③定数配分規定又は区割規定が憲法の規定に違反するに至っている場合に,選挙を無効とすることなく選挙の違法を宣言するにとどめるか否かという判断の枠組みに従って検討を行っており,当裁判所も,その枠組みに従って順次判断することとする。

3
争点1(本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているか否か)について
憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶
対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項,47条),選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。
したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めて憲法に違反することになるものと解すべきである(最高裁判所昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁,最高裁判所昭和56年(行ツ)第57号同58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁,最高裁判所昭和59年(行ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1
100頁,最高裁判所平成3年(行ツ)第111号同5年1月20日大法廷判決・民集47巻1号67頁,最高裁判所平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁,最高裁判所平成11年(行ツ)第35号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704頁,最高裁判所平成18年(行ツ)第176号同19年6月13日大法廷判決・民集61巻4号1617頁のほか本件各大法廷判決参照)。
原告らは,主位的に,憲法56条2項,1条,前文第1文の規定から,憲法は厳格な人口比例選挙を保障しており,1人1票の投票価値の平等に反すること自体が許されないと主張する。
しかし,憲法が,国会の両議院の議員の選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量を認めていると解すべきことは前記のとおりであり,国民主権の原理及び代表民主制の統治機構の理念から,原告らが主張するような厳格な人口比例選挙の保障が論理必然的に導き出されると解することは困難である。また,これらの原理等から当然に,憲法が,1人1票の投票価値の平等の要求に反すること自体を容認せず,国会の立法裁量権を著しく限定していると解することもできない。
したがって,原告らの主位的主張は採用できない。
原告らは,予備的に,本件区割規定では,12都県については,平成23年大法廷判決及び平成25年大法廷判決が憲法の投票価値の平等の要求に反すると判断した1人別枠方式が維持されており,平成24年改正前の区画審設置法3条2項に基づいて配分された定数の見直しがされていないことになるから,違憲状態の瑕疵を帯びていると主張する。
しかし,平成23年大法廷判決及び平成25年大法廷判決は,いずれも平成14年改正による区割規定,すなわち,1人別枠方式を定めた平成24年改正前の区割基準規定の定める選挙区割りの下で施行された選挙について判断したもので,選挙当日における最大較差(選挙人)は,平成21年選挙で
は2.304倍に,平成24年選挙では2.425倍に達しており,較差2倍以上の選挙区は,平成21年選挙では45選挙区,平成24年選挙では72選挙区も存在していた。また,平成27年大法廷判決は,1人別枠方式を定めた平成24年改正前の区画審設置法3条2項の規定が削除され,平成25年改正による改定を経た後の選挙区割りの下で施行された選挙について判断したものであるが,選挙当日における最大較差(選挙人)は,なお2.129倍に達しており,較差2倍以上の選挙区も13選挙区存在していた。平成27年大法廷判決は,このような事実関係の下で,投票価値の較差の状況やその要因となっていた事情などを総合考慮して,同選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったと判断したものである。これに対し,本件選挙は,平成29年改正による改定を経た後の本件区割規定及び本件選挙区割りの下で施行されたものである。その改正の内容は,都道府県別定数配分を,平成32年以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき,これまでとは異なるアダムズ方式によって行い,選挙区間の最大較差が2倍未満となるようにする定数配分の仕組みを制度化するとともに,平成32年の大規模国勢調査までの措置として,平成27年の簡易国勢調査の結果に基づき,平成32年までの5年間を通じて最大較差が2倍未満となるように区割りを行うなどの措置を講じること,6減の対象県について,上記の簡易国勢調査に基づき,アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象となる都道府県のうち,議員1人当たり人口の最も少ない都道府県から順に6県とすることなどを定めた上,19都道府県の97選挙区において区割りを改め,分割市区町の数を過去最大となる138選挙区105市区町に増加させたものである。その結果,本件選挙当日における選挙区間の最大較差(選挙人)は,これまでの衆議院議員の小選挙区選挙において最少の1.979倍となり,本件各大法廷判決が対象とした平成21年選挙,平成24年選挙及び平成26年選挙のいずれの選挙時にも存在し
た較差2倍以上の選挙区はなくなった。
国会が具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況といった事情のほか,国政における安定性や連続性の確保を図る必要等の事情を考慮することも許容されているものと解されるところ,国会が,平成29年改正において,選挙制度の安定性等を考慮し,これまでとは異なるアダムズ方式の全面的な導入を平成32年の大規模国勢調査からとした上で,それまでの措置として,各都道府県の選挙区数の0増6減を前提に,平成27年の簡易国勢調査の結果に基づく最大較差が2倍未満になるようにするとともに,平成32年見込人口に基づく最大較差も2倍未満になるように,19都道府県の97選挙区において区割りを改め,分割市区町の数を138選挙区105市区町としたことは,平成23年大法廷判決が投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものと評価した平成24年改正前の区画審設置法3条1項(平成28年改正前の区画審設置法3条)の規定,さらには,これを厳格化した平成28年改正後の区画審設置法3条1項の規定に則したものとして合理性があり,国会の立法裁量権の行使として相当なものということができる。
そうすると,本件選挙の施行当時,本件選挙区割りが,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできない。
したがって,原告らの予備的主張も採用できない。
4
結語
以上の次第で,原告らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。高松高等裁判所第4部

裁判長裁判官

石原稚也坂上文一
裁判官

裁判官

林啓治郎
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