判例検索β > 平成28年(わ)第1668号
殺人
事件番号平成28(わ)1668
事件名殺人
裁判年月日平成30年1月29日
法廷名福岡地方裁判所
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主文
被告人を懲役18年に処する
未決勾留日数中210日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は,暴力団であるA組組長であったが,同組若頭であった被害者が,賭博による多額の借金を負いながら,なお賭博を止めないなど,自己の意に沿わない言動を繰り返したことに立腹し,被害者を殺害しようと考え,同組組長代行であったB(平成24年7月21日死亡),同組副組長であった分離前の相被告人C,同組本部長であった分離前の相被告人D及び同組組員であった分離前の相被告人Eと共謀の上,平成20年6月21日午前5時頃から同日午前6時30分頃までの間に,殺意をもって,福岡市a区bc丁目d番e号付近路上において,被害者(当時30歳)に対し,Eが,Cに背後から羽交い絞めにされていた被害者の腹部及び背を向けて膝をついていた被害者の背部をペティナイフ様の刃物(以下「本件刃物」という。)で突き刺し,さらに,同所から福岡県糟屋郡f町gh丁目i番j号の駐車場(以下「本件駐車場」という。)までの福岡県内を移動中の自動車(以下「本件車両」という。)内において,Dが,倒れていた被害者の首にコード様のものを巻いて絞め付け,よって,その頃,本件車両内において,被害者を死亡させて殺害した。(争点に対する判断)
1
争点等
本件の争点は,被告人とB,C,D及びE(以下「共犯者ら」という。)との間に被害者を殺害する共謀があったかである。検察官は,被告人が共犯者らに対して被害者の殺害を指示したなどとして,被告人と共犯者らとの間に被害者を殺害する共謀があり,被告人に殺人罪が成立すると主張するのに対し,弁護人は,被告人は共犯者らに対して被害者の殺害を指示しておらず,共犯者らと被害者の殺害について共謀していないとして,被告人に殺人罪は成立しない旨を主張する。
2
前提事実
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。


本件当時,A組における被告人及び共犯者らの序列は,被告人が最も高く,次いでB,被害者,被害者と同格か被害者に次いでC,次いでD,Eの順であった。



被告人は,被害者を高く評価し,A組の若頭としていたが,被害者は,遅くとも平成19年頃には賭博を繰り返して他の暴力団に属する者からも多額の借金をするようになり,被告人は多数回にわたりその肩代わりをし,その金額は合計1億円を超えるに及んだ。被害者は,被告人が再三注意しても賭博を止めず,借金の取立てに来た者に対して,「ないものはない」などと開き直ったり,被告人に対して,借金をした相手のところに火炎瓶を投げ込んでくるなどと言ったりしたことから,被告人は,被害者をどうにかしなければいけない旨を日常的に口にするようになった。



被害者は,平成20年6月20日,A組の上位団体である暴力団の会長の紹介で福岡市a区bc丁目d番e号の病院(以下「本件病院」という。)に入院していたが,被告人は,同日,被害者のもとに借金の取立てに行った他の暴力団に属する者から,電話で,被害者が開き直って暴れた旨を聞いて激怒し,被害者に電話をかけて叱り,C及びBにも電話をかけて,「反省させろ」などと言った。



翌21日明け方,Cは,被告人から電話を受け,自動車で本件病院に向かった。同じ頃,Dは,Bから電話で呼び出され,本件車両でBを迎えに行き,共に本件病院に向かった。その際,Bは,興奮した様子で本件刃物を振り回し,「やらないかん」などと言った。また,同じ頃,Eは,Bから電話で場所を指示され,自動車で本件病院にほど近い同市a区kl丁目m番n号の駐車場(以下「スーパー駐車場」という。)に向かった。


共犯者らは,スーパー駐車場に駐車した本件車両内に集まり,その際,Bは,被告人から電話を受け,興奮した様子で,「被害者はなめとろうが」,「やらないかん」などと言い,Eに対し,「これで刺せ」などと言って,本件刃物を手渡した。



共犯者らは,本件車両で本件病院の南側路上に移動し,その後,Cは,被害者を呼び出し,被害者に謝罪させようとしたが,被害者が反抗的な態度をとったことに立腹し,被害者の腹部を蹴った。これを見たDは,被害者に対し,殴る蹴るの暴行を加え,B及びCもこれに加勢した。そのような中,Cは,被害者を後方から羽交い絞めにし,Bが,「刺せ,刺せ」などと言い,Eは,本件刃物で被害者の腹部を1回突き刺した。さらに,被害者が背を向けて膝をついた際,Bが,「もう1回刺せ」などと言い,Eは,本件刃物で被害者の背部を1回突き刺した(なお,Cは,被害者を羽交い絞めにしたことを否定するが,これは,被害者を2回にわたり本件刃物で突き刺したことなど,自己に不利益な事実も含めて一連の状況を具体的に供述しているEの上記認定に沿う供述に反している上,C自身も,CとDが被害者ともみ合いになっていたことは認めているところ,そのような状況下でEが被害者を的確に刺すのは困難であり,被害者が後方から羽交い絞めにされていたと考えるのが自然であることに照らすと,Cの上記供述部分は信用できない。)。



共犯者らは,上記路上に倒れた被害者を本件車両の2列目座席の足下の床に乗せ,Bが助手席,C及びDが2列目座席に乗り込み,Eが運転する本件車両でスーパー駐車場に向かった。車内で,Dが,声を発していた被害者の首にコード様のものを巻いて絞め付け,被害者はうなだれて声を発しなくなった(なお,Dは,被害者の状態を確認するため,うつ伏せに倒れていた被害者を仰向けにしようと思い,その顎にコードをかけて持ち上げたところ,首を絞めてしまった旨を供述するが,これは,上記認定に沿うE及びCの各供述に反している上,被害者の状態を確認するために被害者を仰向けにする方法としては余りにも不自然な態様であることなどに照らし,Dの上記供述部分は信用できない。)。


その後,本件駐車場に駐車した本件車両内において,Cが,被害者の脈をとってその死亡を確認し,被告人に電話をかけ,その旨を伝えた。

3
被告人からの被害者殺害の指示に関するE,C及びDの各供述


各供述内容
Eは,当公判廷において,前記2⑷の際,被告人から電話を受け,「被害者のことで皆が集まっているから,お前もそこに行け」と言われたこと,前記2⑸の際,被告人から電話を受け,「話,聞いたか」,「早くやれ」,「殺すことになっている」などと言われたこと,同じ頃,被告人からBに電話があり,被告人がBに「早く殺せ」などと言っている声が聞こえ,Bが,「兄貴(被告人)が言うならやるよ」などと言ったことなどを供述する。
また,Cは,当公判廷において,前記2⑷の被告人からの電話で,「B,D及びEを先に行かせている」,「3人には話がこじれたらやれと言った」,「お前も行ってこい」などと言われ,本件病院に向かったこと,前記2⑸の際,被告人からBにひっきりなしに電話があり,Bが,「兄貴(被告人)がやれと言っている」などと言ったこと,「やれ」とは「殺せ」の意味と思ったことなどを供述する。
さらに,Dも,当公判廷において,前記2⑸の際,被告人からBに数回電話があり,Bが,「兄貴(被告人)がやれと言っている」などと言ったこと,「やれ」とは「殺せ」の意味になることなどを供述する。



信用性の判断
E,C及びDは,前記2⑹,⑺のとおり,犯行現場におけるそれぞれの行動については,一部整合していない部分もあるが,被告人及びその指示を受けたBの指示で集合し,被告人及びその指示を受けたBから被害者の殺害を命ぜられた状況については,一致する内容を,突然被害者の殺害を命ぜられて戸惑った心情等も交え,生々しく供述しており,相互にその信用性を高めている。その供述内容も,前記2⑵,⑶のとおり,被害者を殺害する動機となり得る事情があった被告人と異なり,被害者に対する個人的な恨みなどの固有の動機を見出し難いD及びEが被害者の殺害を実行した理由として,説得的なものである。何よりも,所属していた暴力団の最上位者である被告人から被害者の殺害を指示されたという被告人にとって極めて不利な内容の供述をすれば,組織による苛烈な報復や制裁が容易に予想されるのに,その危険を顧みず,上記3名が揃って同様の内容の虚偽の供述をして被告人を陥れるとは考え難い。なお,上記3名が,自己の罪責を軽減するため,上位者の指示に従ってやむなく被害者の殺害に及んだ旨の虚偽の供述をしようとした場合,Bが既に死亡しているから,同人に責任を転嫁することが容易であり,あえて被告人の指示による旨の虚偽の供述をする理由はない。
以上によれば,E,C及びDの上記⑴の各供述部分の信用性は高いといえる。
4
被告人の供述の信用性
被告人は,当公判廷において,平成20年6月20日の深夜,Cに電話をかけ,被害者について,「居直ったら,叩いてでも連れてこい」,「バットで足の脛を折れ」などと言ったこと,Bにも電話をかけたが,Bが酒に酔っていて何をするか分からないため,「変なことをするなよ」,「叩いてもいいけど,傷つけるなよ」と言ったこと,Eには電話をかけていないこと,共犯者らに対して,「やれ」,「殺せ」とは言っていないことなどを供述する。
しかしながら,被告人の供述によれば,共犯者らは,その所属する暴力団の最上位者である組長の被告人から,「傷つけるな」との命令があったにもかかわらず,それに反して,被告人が高く評価し,借金の肩代わりまでして可愛がっていた被害者を殺害したことになるが,暴力団における組長と下位の構成員の絶対的な上下関係に照らすと,このような事態に至ること自体考え難いし,仮にそのような事態になったのであれば,共犯者らが,被告人から何ら追及されず,何らの制裁も受けていないのは不自然である。C,D及びEは,いずれも,被告人から被害者を連れて来るように指示されたとは供述していない上,共犯者らが,被告人が指示したバットなど足の脛を叩くのに適したものを持参したり,被害者を被告人のもとに連れて行こうとしたりした様子も一切見受けられない。以上のとおり,被告人の供述は,上記3名の符合する供述と一致しない,不自然,不合理なものであって,信用することができない。
5
弁護人の主張
弁護人は,①準備された凶器は,本件刃物と折り畳みナイフのみであり,また,共犯者らの間の役割も不明であったこと,②犯行現場は,住宅街にある被害者が入院していた病院付近の路上であること,③犯行後,人目につきにくい場所に移動していないこと,④Eは,片手で持った本件刃物をボクシングのジャブのように刺したに過ぎず,また,被害者にとどめを刺す行動を誰もとっていないことなどを指摘して,共犯者らの行動は,被害者を殺害する目的というには疑問があり,謝罪を求め,痛めつけようとしたものに過ぎない旨を主張する。しかしながら,弁護人が指摘する①ないし③の事情は,いずれも,明け方に被告人から被害者の殺害を突然命令された共犯者らが,それに向けた十分な計画を立てる間もなく,かつ,積極的とはいえない心境で実行に及んだため,場当たり的に行動したことによるものと理解できる上,そのような状況下でも,共犯者らは,犯行に用いる刃物を準備したり,全員に土地鑑があるとの理由で本件駐車場に自動車で向かったりしたことも併せると,共犯者らが被害者を殺害する意思を被告人と通じていたとの認定を妨げるものとはならない。また,④の点も,Eは,身体の枢要部である腹部や背部を刃物で突き刺し,Dも,首をコード様のもので絞め付けたのであるから,いずれも,人の生命を奪う危険性が高い行為であり,被害者を痛めつけようとした行為に過ぎないなどとはいえない。弁護人の上記主張は採用できない。
6
結論
以上によれば,被告人と共犯者らとの間に被害者を殺害する共謀があったと認められる。

(確定裁判)
平成28年8月10日福岡地方裁判所宣告
脅迫罪により懲役1年6月,5年間執行猶予
同月25日確定
(法令の適用)

(量刑の理由)
被害者に対する殺害行為は,刃物で腹部等を突き刺し,コード様のもので首を絞めるといった,死の結果が発生する危険性の高い行為を複数回行ったものであり,綿密な計画性までは認められないものの,刃物を事前に用意するなどの一定の準備をした上で,複数の者により敢行された,暴力団に特有の論理に基づく組織的な犯行である。
本件に至るまでの被害者の言動にも責められるべき面があり,被告人がその対応に苦慮した末に本件犯行に及んだことが認められるが,もとより,被害者の殺害以外に採り得る手段がなかったとはいえず,この点を量刑上大きく考慮することはできない。
被告人は,暴力団の組長という,下位の構成員である共犯者らがその命令に逆らうことが困難である絶対的な立場を利用して,躊躇する共犯者らに対し,被害者の殺害を繰り返し指示し,意のままにこれを遂げたものである。被告人の命令がなければ本件は起こり得なかったのであり,被告人は,犯行を首謀した者として,最も重い責任を負うべきである。
以上を踏まえ,複数の者が,組織的な動機により,刃物類又はひも・ロープ類を用いて殺人罪1件を犯した場合の量刑傾向等を参照し,被告人に粗暴犯等の同種前科がなく,本件前の最終前科も古いものであること,被告人が,事実を認めず,共犯者らに責任を転嫁する供述に終始していることなどの一般情状事実をも併せて考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑

懲役20年)

平成30年1月29日
福岡地方裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

平塚浩司
裁判官

蜷川省吾
裁判官

佐野静香
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