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選挙無効請求事件
事件番号平成29(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日平成30年1月31日
法廷名名古屋高等裁判所  金沢支部
結果棄却
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平成30年1月31日判決言渡
平成29年(行ケ)第1号

名古屋高等裁判所金沢支部

選挙無効請求事件
主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1

実及び理由
請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の富山県第1区ないし第3区,石川県第1区ないし第3区並びに福井県第1区及び第2区における選挙をいずれも無効とする。

第2
1
事実関係
事案の概要
本件は,平成29年10月22日施行の第48回衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について,小選挙区の富山県第1区ないし第3区,石川県第1区ないし第3区並びに福井県第1区及び第2区の選挙人である原告らが,小選挙区選出議員の選挙の選挙区割りを定める公職選挙法13条1項及び別表第1の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して,公職選挙法204条に基づき,選挙の無効を求めた事案である。

2
前提事実
(1)

当事者(争いのない事実)
原告らは,本件選挙の富山県第1区ないし第3区,石川県第1区ないし第
3区並びに福井県第1区及び第2区における選挙人である。
(2)

本件選挙(争いのない事実)
本件選挙のうち小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」とい
う。)は,公職選挙法13条1項及び別表第1の選挙区及び議員定数の規定(以下「本件区割規定」という。)に従って施行された。
(3)

本件選挙に至るまでの公職選挙法の改正経緯,最高裁判決等(甲1ない
し4,7,乙1ないし6,8ないし14,16ないし18,弁論の全趣旨。なお,書証は枝番を含む。)

平成6年公職選挙法改正
昭和25年に制定された公職選挙法は,衆議院議員の選挙制度につき中選挙区単記投票制を採用していたが,平成6年1月に公職選挙法の一部を改正する法律(平成6年法律第2号)が成立し,その後,平成6年法律第10号及び同第104号によりその一部が改正され,これらにより,衆議院議員の選挙制度は,従来の中選挙区単記投票制から小選挙区比例代表並立制に改められた(以下,上記改正後の当該選挙制度を「本件選挙制度」という。)。
本件選挙施行当時の本件選挙制度によれば,衆議院議員の定数は465人とされ,そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とされ(公職選挙法4条1項),小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項,別表第1。以下,後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて「区割規定」という。),比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている(同法13条2項,別表第2)。総選挙においては,小選挙区選挙と比例代表選挙とを同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条,36条)。
上記公職選挙法の一部を改正する法律(平成6年法律第2号)と同時に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,後記の改正の前後を通じて「区画審設置法」という。)によれば,衆議院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関して調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(区画審設置法2条)。また,平成24年法律第95号による改正前の区画審設置法(以下「旧々区画審設置法」という。)3条は,上記選挙区の区割りの基準(以下,後記の改正の前後を通じて「区割基準」という。)につき,①1項において,区画審が改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上にならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,②2項において,各都道府県の区域内の小選挙区選出議員の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(以下,この方式を「1人別枠方式」という。),この1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた(以下,上記①及び②の区割基準を「旧々区割基準」といい,これを定める上記規定を「旧々区割基準規定」ともいう。)。
上記区画審の勧告は,統計法の規定により10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされ(区画審設置法4条1項),区画審は,同項の規定にかかわらず,各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときは,勧告を行うことができるものとされていた(同条2項。ただし,平成28年法律第49号による改正前のもの。)。

平成14年公職選挙法改正
区画審は,平成12年10月に実施された国勢調査(以下「平成12年国勢調査」という。)の結果に基づき,平成13年12月,衆議院小選挙区選出議員の選挙区に関し,旧々区画審設置法3条2項に従って各都道府県の議員の定数につきいわゆる5増5減を行った上で,同条1項に従って各都道府県内における選挙区割りを策定した改定案を作成して内閣総理大臣に勧告し,これを受けて,平成14年7月,勧告どおり選挙区割りの改定を行うことなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第95号)が成立した。平成21年8月30日施行の第45回衆議院議員総選挙(以下「平成21年選挙」という。)の小選挙区選挙は,同法により改定された選挙区割り(以下「旧々選挙区割り」という。)の下で施行されたものである(以下,平成21年選挙に係る衆議院小選挙区選出議員の選挙区を定めた上記改正後の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて「旧々区割規定」という。)。
平成12年国勢調査の結果を前提とすると,旧々区割規定の下における選挙区間の人口の最大較差は,最少の高知県第1区と最多の兵庫県第6区との間で1対2.064(以下,較差に関する数値は,全て概数である。)であり,高知県第1区と比較して較差が2倍以上となっている選挙区は9選挙区であった。また,平成21年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,最少の高知県第3区と最多の千葉県第4区との間で1対2.304であり,高知県第3区と比較して較差が2倍以上となっている選挙区は45選挙区であった。

最高裁平成23年3月23日大法廷判決
このような状況の下で旧々選挙区割りに基づいて施行された平成21年選挙に関する最高裁平成23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成23年大法廷判決」という。)は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする旧々区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,平成21年選挙当時に選挙区間の投票価値の較差が上記のとおり拡大していたのは,各都道府県にあらかじめ1の選挙区数を割り当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから,旧々区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び旧々区割基準に従って改定された旧々区割規定の定める旧々選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。そして,同判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧々区割基準規定及び旧々区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に上記の状態を解消するために,できるだけ速やかに旧々区割基準中の1人別枠方式を廃止し,旧々区画審設置法3条1項の趣旨に沿って旧々区割規定を改正するなど,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。

平成24年公職選挙法等改正
その後,平成23年大法廷判決を受けて行われた各政党による検討及び協議を経て,平成24年6月及び7月に複数の政党の提案に係る改正法案がそれぞれ国会に提出され,これらの改正法案のうち,旧々区画審設置法3条2項の削除及びいわゆる0増5減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の各選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。以下同じ。)を内容とする改正法案が,同年11月16日に平成24年法律第95号(以下「平成24年改正法」という。)として成立した。平成24年改正法は,附則において,旧々区画審設置法3条2項を削除する改正規定は公布日から施行するものとする一方で,各都道府県の選挙区数の0増5減を内容とする改正後の公職選挙法の規定は次回の総選挙から適用する(公職選挙法の改正規定は別に法律で定める日から施行する)ものとし,上記0増5減を前提に,区画審が選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように選挙区割りを改める改定案の勧告を公布日から6月以内に行い,政府がその勧告に基づいて速やかに法制上の措置を講ずべき旨を定めた。上記の改正により,旧々区画審設置法3条1項が同改正後の区画審設置法(以下「旧区画審設置法」という。)3条となり,同条においては,上記ア①の基準のみが区割基準として定められた(以下,この区割基準を「旧区割基準」という。)。

平成24年衆議院議員総選挙
平成24年改正法の成立と同日に衆議院が解散され,平成24年12月16日,第46回衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」という。)が施行されたが,平成24年選挙までに新たな選挙区割りを定めることは時間的に不可能であったため,平成24年選挙は,平成21年選挙と同様に,旧々区割規定及びこれに基づく旧々選挙区割りの下で施行された。

平成24年改正法の改正
平成24年改正法の成立後,同法の附則の規定に従って区画審による審議が行われ,平成25年3月28日,区画審は,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧告を行った。この改定案は,上記附則の規定に基づき,各都道府県の選挙区数の0増5減を前提に,選挙区間の人口較差が2倍未満となるように17都県の42選挙区において区割りを改めることを内容とするものであった。
内閣は,上記勧告を受けて,同年4月12日,平成24年改正法に基づき,同法のうち上記0増5減を内容とする公職選挙法の改正規定の施行期日を定めるとともに,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正事項を定める法制上の措置として,平成24年改正法の一部を改正する法律案を国会に提出し,平成25年6月24日,この改正法案が平成25年法律第68号(以下「平成25年改正法」という。)として成立した。平成25年改正法は,同月28日に公布・施行され,同法による改正後の平成24年改正法中の0増5減及びこれを踏まえた区画審の上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定は,同年7月28日から施行されており,これにより,各都道府県の選挙区数の0増5減とともに上記改定案のとおりの選挙区割りの改定が行われた(以下,上記改正後の公職選挙法13条1項及び別表第1を「旧区割規定」といい,これに基づく上記改定後の選挙区割りを「旧選挙区割り」という。)。
上記改定の結果,旧選挙区割りの下において,平成22年10月1日を調査時とする国勢調査(以下「平成22年国勢調査」という。)の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.998となるものとされたが,平成25年3月31日現在及び平成26年1月1日現在の各住民基本台帳に基づいて総務省が試算した選挙区間の人口の最大較差はそれぞれ1対2.097及び1対2.109であり,上記試算において較差が2倍以上となっている選挙区はそれぞれ9選挙区及び14選挙区であった。

最高裁平成25年11月20日大法廷判決
平成24年選挙に関する最高裁平成25年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は,平成24年選挙時において旧々区割規定の定める旧々選挙区割りは平成21年選挙当時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが,上記エのような平成24年選挙までの間の国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできないから,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧々区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,国会においては,今後も旧区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。

平成25年大法廷判決後の国会の取組
平成25年大法廷判決後,国会において,与野党による本件選挙制度に関する実務者協議が開かれ,その改革について協議が重ねられたが,政党間の意見の隔たりが大きく合意を得るには至らなかった。そこで,平成26年6月19日,衆議院に本件選挙制度に関する調査・検討等を行うための有識者による議長の諮問機関として,衆議院選挙制度に関する調査会(以下「選挙制度調査会」という。)が設置された。
選挙制度調査会に対する諮問事項は,現行制度を含めた選挙制度の評価,各党の総選挙公約にある衆議院議員定数削減の処理,一票の較差を是正する方途及び現行憲法の下での衆参両議院選挙制度の在り方の問題点とされ,各会派は選挙制度調査会の答申を尊重するものとされた。選挙制度調査会は,同年9月11日の第1回会合以降,同年11月20日まで合計4回にわたって会合を開き,一票の較差の是正等について議論が交わされた。

平成26年衆議院議員総選挙
平成26年11月21日,衆議院が解散され,同年12月14日,上記0増5減の措置による改定を経た旧区割規定の定める旧選挙区割りの下で,第47回衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)が施行された。
平成26年選挙当日における選挙区間における選挙人数の較差をみると,選挙人数が最も少ない宮城県第5区と比べて,選挙人数が最も多い東京都第1区との間で1対2.129であり,その他12の選挙区との間で較差が2倍以上となっていた。

最高裁平成27年11月25日大法廷判決
平成26年選挙に関する最高裁平成27年11月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下「平成27年大法廷判決」という。)は,平成26年選挙当時の旧選挙区割りにおいては,いまだ0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県について旧区割基準に基づいた定数の再配分が行われておらず,平成22年国勢調査後の人口変動の結果として,平成26年選挙時における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.129に達し,較差2倍以上の選挙区も13選挙区存在していたものであるが,その主な要因は,いまだ多くの都道府県において旧区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数配分がされていることにあるというべきであり,このような投票価値の較差の状況やその要因となっていた事情などを総合考慮すると,旧区割規定の定める旧選挙区割りは,なお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ない旨判示した。
そして,同判決は,国会において,旧々区割基準中の1人別枠方式に係る部分及び同方式を含む旧々区割基準に基づいて定められた旧々選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていると認識し得たのは,平成23年大法廷判決が言い渡された平成23年3月23日の時点からであったというべきであるところ,これらの違憲状態を解消するためには制度の仕組みの見直しに準ずる作業を要し,国会における合意の形成が容易な事柄ではないにもかかわらず,まず違憲状態の是正が最も優先されるべき課題であるとの認識の下に法改正の作業が進められ,旧々区画審設置法3条2項の規定の削除と選挙区間の人口の較差を2倍未満に抑えるための0増5減による定数配分の見直しが行われ,平成24年改正法及び平成25年改正法の成立によってこれらが実現したものであり,これにより改定された旧選挙区割りの下における選挙区間の投票価値の較差も一定の縮小がみられるとともに,平成26年選挙は,前回の平成24年選挙から約1年11か月後の衆議院解散に伴い,平成25年改正後の平成24年改正法の施行による選挙区割りの改定から約1年5か月後に施行されたものであり,その改定後も国会においては引き続き選挙制度の見直しが行われ,衆議院に設置された検討機関において投票価値の較差の更なる縮小を可能にする制度の見直しを内容とする具体的な改正案などの検討が続けられていることなどを併せ考慮すると,平成26年選挙までの国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決及び平成25年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできず,憲法上要求される合理的期間を徒過したものと断ずることはできないとして,平成26年選挙時の旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,国会においては,今後も,衆議院に設置された検討機関において行われている投票価値の較差の更なる縮小を可能にする制度の見直しを内容とする具体的な改正案の検討と集約が早急に進められ,旧区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。

平成26年選挙後又は平成27年大法廷判決後の国会の取組
(ア)

選挙制度調査会は,上記衆議院の解散により一時中断されたが,平
成27年大法廷判決の前後を通じて議論を重ねた結果,いわゆるアダムズ方式(除数方式という人口比例に基づく議席配分方式の一つであり,各都道府県の人口を一定の数値で除し,それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選挙の定数と一致するように行い,各都道府県の配分議席は,その人口を当該数値(除数)で除した商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数となるもので,フランス等の諸外国でも採用されている。)を採用する方向で意見が集約された。そして,選挙制度調査会は,衆議院議長に対し,平成28年1月14日,①衆議院議員の定数を10人削減すること,②都道府県への議席配分をアダムズ方式により行うこと,③都道府県への議席配分の見直しは,制度の安定性を勘案し,10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基づき行うことなどを内容とする答申(以下「本件答申」という。)をした。もっとも,本件答申ではアダムズ方式の導入をいつの大規模国勢調査から行うかについて言及されていなかったところ,選挙制度調査会の座長は,この点について,衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会における参考人質疑において,「国会の裁量にお任せすべきだろう。」と答弁した。
(イ)

本件答申を受けて,衆議院議長は,各党の意見集約に努め,アダム
ズ方式による都道府県の議席配分の見直しを10年ごとの大規模国勢調査の結果に基づき実施するなどの4項目の指針を示した。その後,複数の政党の提案に係る改正法案がそれぞれ国会に提出されて審議された結果,平成28年5月20日,平成28年法律第49号(以下「平成28年改正法」という。)が成立した。
平成28年改正法は,その本則において,①衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差について,各都道府県の区域内の選挙区の数を平成32年以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により配分した上で,各選挙区間の最大較差(日本国民の人口)が2倍以上にならないようにすること(区画審設置法3条1項,2項,4条1項。なお,以下,これにより改正された区割基準を「新区割基準」という。),②平成37年以降の簡易国勢調査の結果に基づく各選挙区間の最大較差(日本国民の人口)が2倍以上になったときは,選挙区の安定を図るとともに較差2倍未満を達成するため,各都道府県の選挙区を変更することなく,区画審が較差是正のために選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うものとすること(同法3条3項,4条2項),③衆議院議員の定数を10人削減することを規定するとともに,附則において,④平成32年に実施予定の大規模国勢調査(以下「平成32年国勢調査」という。)までの措置として,平成27年に実施された簡易国勢調査(以下「平成27年簡易国勢調査」という。)の結果に基づき,各選挙区間の人口に関し,将来の見込人口を踏まえ,平成32年までの5年間を通じて較差2倍未満となるよう区割りを行うなどの措置を行うこと(同法附則2条1項,3項),⑤小選挙区選挙の定数6減の対象県について,平成27年簡易国勢調査に基づき,アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象となる都道府県のうち,議員1人当たり人口の最も少ない都道府県から順に6県とすること(同法附則2条2項1号),⑥平成28年改正法施行後においても,全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい選挙制度の在り方については,不断の見直しが行われるものとすること(同法附則5条)を内容とするものである。アダムズ方式の導入が平成32年国勢調査からとされたのは,成立した法律をあえて遡及適用することは例外的であり,アダムズ方式を導入するのは平成32年国勢調査以降とするのが自然であること,仮に平成22年国勢調査に基づいてアダムズ方式を導入した場合,平成27年簡易国勢調査の結果に基づいてアダムズ方式を導入した場合とで議席配分結果に違いが生ずるなど,平成22年国勢調査の数値を用いるのは合理性があるとはいえないこと,平成22年国勢調査の結果が出てから既に2回の衆議院議員総選挙を経ているにもかかわらず,同国勢調査の結果を用いて新たに議席を配分し直すとするならば,それにより従前と異なる議席を配分された都道府県の選挙人を中心に,これら2回の総選挙の正当性や選挙された議員の地位に対し疑念を抱かせることになるという問題があること,4年後には次の大規模国勢調査が控えており,立て続けに都道府県への議席配分の見直しを行うことになると選挙制度の安定性に欠けるという問題があることによるものであった。
(ウ)

平成28年改正法の成立後,同法附則に従って区画審による審議が
行われ,区画審は,関係都道府県知事の意見等も踏まえた上で,平成29年4月19日,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧告(以下「本件勧告」という。)をした。本件勧告は,小選挙区選出議員の選挙区数の0増6減を前提に,平成27年簡易国勢調査の結果に基づく選挙区間の最大較差(人口)も2倍未満とするのみならず,平成32年の見込み人口に基づく選挙区間の最大較差も2倍未満となるように,19都道府県の97選挙区において区割りを改めることを内容とするものであり,都道府県間の議員1人当たり人口の較差が1.844倍の中で,過去最大の分割市区数となるなどの是正を行うものであった。
内閣は,本件勧告を受けて,同年5月16日,平成28年改正法に基づき,同法のうち,0増6減を内容とする公職選挙法の改正規定の施行期日を定めるとともに,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正事項を定める法制上の措置として,平成28年改正法の一部を改正する法律案を国会に提出し,同年6月9日,上記改正法案が平成29年法律第58号(以下「平成29年改正法」といい,また,平成24年改正,平成25年改正及び平成28年改正と併せて「本件各改正」という。)として成立した。
平成29年改正法は,同月16日に公布・施行され,平成28年改正法のうち上記0増6減及びこれを踏まえた上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定は,それから起算して1月を経過した同年7月16日に施行された(同改定後の区割規定が本件区割規定であり,これに基づく改定後の選挙区割りを,以下「本件選挙区割り」という。)。
これにより,選挙区間の最大較差(議員1人当たりの人口)は,最少の鳥取県第2区と最多の神奈川県第16区との1対1.956となり(鳥取県第2区の人口数28万3502人と神奈川県第16区の人口数55万4516人との差は,27万1014人である。なお,較差が2倍以上の選挙区は32選挙区から0選挙区に縮小された。),さらに,平成32年見込み人口(平成27年簡易国勢調査による日本国民の人口に,平成22年国勢調査から平成27年簡易国勢調査までの日本国民の人口の伸び率を乗じて得た人口)においても,最少の鳥取県第1区と最多の東京都第22区との1対1.999となるとされている(較差が2倍以上の選挙区は71選挙区から0選挙区に縮小された。)。その一方で,分割市区町は,従前の88から17増加して105となった。シ
本件選挙
平成29年9月28日,衆議院が解散され,同年10月22日,本件区割規定の定める本件選挙区割りの下で本件選挙が施行された。
本件選挙当日における選挙区間の最大較差(議員1人当たりの選挙人)は,最少の鳥取県第1区と最多の東京都第13区との間の1対1.979であり,当該最大較差が2倍以上となった選挙区は0であった。
3
争点
本件区割規定は,本件選挙時において,憲法の規定に違反し無効であるか。
4
争点に関する当事者の主張
(1)

原告らの主張
本件区割規定は,本件選挙時において憲法の規定に違反しているから,憲法98条1項により無効である。

違憲の理由
(ア)

本件区割規定は,次の憲法上の各規定によって要求される人口比例
選挙の保障(国会議員は主権者でなく,立法を可決する過半数の国会議員は過半数の主権者である国民を代表するものでなければならないところ,これを実現するためには,厳格な人口比例の基準に基づいて定められた選挙区割りの下での選挙,すなわち,人口比例選挙を行う以外にあり得ない。)に反する選挙区割りを定めているから,憲法の規定に違反する。


憲法前文の「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」及び「ここに主権が国民に存することを宣言し」との規定



憲法1条の「主権の存する日本国民」との規定



憲法56条2項の「両議院の議事は,この憲法に特別の定めのある場合を除いては,出席議員の過半数でこれを決し」との規定

(イ)

平成23年大法廷判決は,地域性に係る問題のために,殊更にある
地域の選挙人と他の地域の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い旨,旧々区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は,投票価値の平等という憲法の要求するところとは相容れない旨,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内にできるだけ速やかに1人別枠方式を廃止すべきである旨を明確に判示しており,平成25年大法廷判決は,1人別枠方式の構造的な問題が最終的に解決されているとはいえないと判示しており,平成27年大法廷判決は,旧選挙区割りにおいては,いまだ0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の多くの都道府県について旧区割基準に基づいた定数の再配分が行われていないことなどを総合考慮すると,旧選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないと判示した。
しかし,本件選挙では,0増6減の平成28年改正法により,わずか6つの県についての配分定数の見直しがされたにすぎず,41都道府県ではいまだ1人別枠方式が残置されている。仮に平成22年国勢調査に基づいてアダムズ方式を採用すれば足りるとした場合,全面的議席の再配分を前提として残余の再配分は7増13減であり,平成28年改正法による6減を除くとしても,7増7減の対象となる12都県において1人別枠方式の議員定数がそのまま温存されていることになり,不合理な投票価値の不平等が継続している。また,平成28年改正法の本則(区画審設置法3条1項,2項,4条)はアダムス方式の選挙区割りの改正案を定めたものであり,国会自ら,平成28年改正法及び平成29年改正法が1人別枠方式の廃止として十分でない,暫定的な選挙区割りにすぎないことを認めている(平成28年改正又は平成29年改正の時点で,平成27年簡易国勢調査の結果を用いて,アダムズ方式を全面的に導入して選挙区割り案を作成することは可能であったはずである。)。
そうすると,少なくとも本件選挙区割りのうち上記12都県の選挙区割りは,平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決(以下,これらを「本件各大法廷判決」という。)に照らして,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていることは明らかであり,その結果,各選挙区の有機的一体性の性質のため,全選挙区が違憲の瑕疵を有する。
(ウ)

本件各大法廷判決が,1人別枠方式による各都道府県への議員定数
の配分は憲法の投票価値の平等の要求に反し,合理的でない旨,かつ,人口以外の要素については,合理性を有する限り国会において考慮することが許される旨判示していることからすると,人口以外の要素が合理性を有しない場合でも,投票価値の較差が2倍未満であれば違憲の問題は生じない旨の被告らの主張は失当である。
したがって,本件区割規定は,本件各大法廷判決が憲法の要求する投票価値の平等に反するとした1人別枠方式を実質的に廃止していない選挙区割りを定めているから,憲法の規定に違反する。

合理的期間の経過
合理的期間の判例法理は,それ自体が憲法の規定に違反する。
仮にそうでないとしても,本件選挙時において,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決が合理的期間の始期と判示した平成23年大法廷判決の言渡日である平成23年3月23日から6年6か月30日を経過していたのであり,加えて,区画審設置法4条1項が,区画審による改定案の作成及び内閣総理大臣への勧告について,統計法の規定により10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものと定めていること,平成24年改正法の附則が,選挙区割りの改定案に係る区画審の勧告が同法の公布・施行日から6月以内に行われることを予定していること,見直しの対象となる選挙区数が相当数に上ることは特別の事態でないこと等に照らせば,憲法の規定に違反する本件区割規定を是正するための合理的期間を既に徒過したというべきであるから,本件区割規定は,憲法98条1項により無効である。

(2)

被告らの主張
本件区割規定は,本件選挙時において,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえない。


合憲の理由
(ア)

憲法の要求する投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶
対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められているから,選挙制度の合憲性は,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記の憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めて憲法に違反することになると解すべきである。また,本件各大法廷判決は,旧区画審設置法3条(諸般の事情を総合的に考慮して,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満となるように区割りすることを基本とする規定)について,一貫して,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものと評価し,これに抵触する限度で問題にしてきたにすぎないことからすると,選挙区間の最大較差が2倍未満となる区割規定の定める選挙区割りは,国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくした,一般に合理性を有するものであって,憲法の投票価値の平等の要求に反しない。
そして,本件各改正の結果,平成27年簡易国勢調査の結果に基づく選挙区間の最大較差(人口)は,1.956倍(本件選挙当時の選挙人数の最大較差は1.979倍)と2倍未満にまで縮小されたのみならず,被災地等の例外なく全小選挙区を通じて較差の縮小が図られたのであり,このような選挙区間の最大較差のみをもってしても,本件選挙当時,本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていなかったことは明らかである。
加えて,本件各改正においては,選挙区間の較差を2倍未満とするため,1人別枠方式の廃止,区画審設置法3条の厳格化(旧区画審設置法3条にいう,各選挙区の人口のうちその最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを「基本」との部分の削除),人口比例に基づく配分方式や人口の将来推計の導入に加えて過去最大の分割市区町等,これまでにない立法的措置がとられているのみならず,将来的には平成32年国勢調査を踏まえた更なる較差の縮小に向けた立法的措置も予定されていることからも明らかなとおり,十分な合理性を有するものである。
(イ)

原告らは,平成28年改正法では0増6減が行われたにすぎず,4
1都道府県で1人別枠方式が廃止されていないと主張するが,上記のとおり,本件各改正により本件各大法廷判決が指摘していた1人別枠方式の構造的な問題(各都道府県への定数配分の段階で各都道府県間の投票価値にほぼ2倍の最大較差が生じる状況や較差が2倍以上の選挙区が出現し増加する可能性が高いなどという問題)は最終的に解決された。そもそも,どのような配分方式を採ったとしても,必ずしも全都道府県について議席の再配分が必要となるわけではなく,仮に平成22年国勢調査に基づいてアダムズ方式により全面的に議席の再配分をした場合であっても,7増13減(18都県の変動)と試算され,しかも,その13減のうち6減は平成28年改正及び平成29年改正による6減の対象と共通しているため,残余の再配分は7増7減(12都県の変動)にとどまる。また,本件各改正により1人別枠方式が廃止されていることは明らかであり,0増5減及び0増6減も1人別枠方式の廃止を前提として初めてなし得たものであるから,その構造的な問題が残存しているとはいえない。なお,平成29年改正時点でアダムズ方式を全面的に採用した議席配分がされていないことは,前記の理由によるのであり,1人別枠方式の構造的な問題が解決されたことを何ら左右しない。
国会は,本件各改正に当たり,各政党間の合意の形成が困難な状況に加え,関係都道府県等からも様々な意見等が寄せられるなどして,投票価値の較差の是正措置について結論を得ることが困難な状況にあったにもかかわらず,本件各大法廷判決を踏まえ,投票価値の平等の要求に反する状態の是正が最も優先すべき課題であるとの認識の下,平成28年改正及び平成29年改正を達成したのであり,このような国会の努力は十分に評価されるべきである。
(ウ)

平成28年改正法の本則においてアダムズ方式を採用したのは合理
的であること,平成28年改正及び平成29年改正が,アダムズ方式の全面的な導入を平成32年国勢調査としつつ,平成27年簡易国勢調査の結果に基づきアダムズ方式により0増6減等することにより,選挙区間の最大較差を2倍未満に是正したことは合理的であること,本件選挙区割りは,国会が正当に考慮することができる政策的要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ったものであること,小選挙区選挙の較差の是正には,種々の限界があるため,単に1倍を超える投票価値の較差が生じていることをもって,投票価値の平等の要求に反するものとは到底認められないこと等に照らすと,本件各改正は,投票価値の平等の要請を国会が正当に考慮できる他の政策的要素との関連において調和的に実現したものであり,十分な合理性を有する。
以上のとおり,本件区割規定は,本件選挙時において,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえず,憲法の規定に違反していない。

合理的期間の未経過
仮に本件区割規定が本件選挙時において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとしても,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かは,裁判所において投票価値の較差が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が違憲状態となったことを認識し得た時期を基準(始期)として,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。
本件各改正は,上記のとおりの経緯や内容等に照らせば,本件各大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として十分に相当なものと解されるのであって,国会において,本件選挙までに,本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあるなどということは全く認識できない状況にあった。
したがって,本件区割規定の定める本件選挙区割りについて,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったなどといえないことは明らかである。
第3
1
当裁判所の判断
合憲性判定のための基準
(1)

憲法は,選挙権の内容の平等,すなわち,投票価値の平等を要求してい
るものと解されるが,他方で,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。そして,衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められる。したがって,このような選挙制度の合憲性は,上記諸事情を総合的に考慮した上で,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断すべきであり,国会が具体的に定めた選挙制度の仕組みが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めて憲法に違反することになると解すべきである。
また,定数配分又は選挙区割りが上記のような諸事情を総合的に考慮した上で,投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたとしても,それによって定数配分規定又は区割規定が直ちに憲法の規定に違反するわけではなく,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかった場合に限り,当該規定が違憲との評価を受けることになると解すべきである。
以上は,本件各大法廷判決を始め,衆議院議員の選挙に関する累次の最高裁判決の趣旨とするところである。
(2)

原告らは,憲法の前文,1条,56条2項の規定により人口比例選挙の
保障が憲法上要求されるとし,本件区割規定はこれに反しているから,憲法98条1項により無効とされるべきである旨主張する。
しかし,厳格な投票価値の平等という理念の下に,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれる選挙制度が構築されることが望ましいことはいうまでもないが,上記のとおり,投票価値の平等のみが選挙制度の仕組みを決定する基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されているか否か,すなわち,国会に与えられた裁量権の行使が合理性を有するか否かという観点から(合理的期間の経過の有無はさておく。),当該定数配分又は選挙区割りの違憲性が判断されるのである。
したがって,人口比例選挙の保障が憲法上要求されるとか,この保障に反していれば直ちに違憲の評価を受ける旨の原告らの主張は採用することができない。
2
本件区割規定の合憲性
(1)

前記のとおり,本件選挙当日の選挙区間における議員1人当たりの選挙
人数の最大較差は1対1.979であり,平成28年改正及び平成29年改正の結果,前回の平成26年選挙時における最大較差である1対2.129よりも縮小して2倍を下回り,かつ,最大較差が2倍以上となった選挙区は,前回選挙時の13選挙区から0となった。
(2)ア

平成23年大法廷判決は,平成21年選挙に関し,選挙時における選
挙区間の選挙人数の最大較差が1対2.304であるなどの投票価値の較差の状況下において,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする区画審設置法(旧々区画審設置法)の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,区割基準(旧々区割基準)のうち1人別枠方式に係る部分及びそれに従って定められた選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っている旨判示し,平成25年大法廷判決も,平成24年選挙に関し,平成21年選挙時に既に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた選挙区割りの下で再び施行されたものであることなどからして,平成24年選挙時の選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったが,国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできないから,当該区割規定は憲法の規定に違反しない旨判示し,平成27年大法廷判決は,平成26年選挙に関し,選挙時における選挙区間の選挙人数の最大較差が1対2.129であるなどの投票価値の較差の状況下において,平成24年改正法により1人別枠方式に係る規定が削除されるなどしたものの,0増5減の対象とされた県以外の多くの都道府県について,1人別枠方式に係る規定が削除された後の区割基準(旧区割基準)に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数配分がされており,このような投票価値の較差の状況やその要因などを総合考慮すると,平成26年選挙時の選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないが,国会において1人別枠方式に係る規定の削除と選挙区間の人口の較差を2倍未満に抑えるための定数配分の見直しが行われたほか,平成25年改正後も引き続き選挙制度の見直しや投票価値の較差の更なる縮小を可能にする制度の見直しなどの検討が続けられていることなどを考慮すると,国会における是正の実現に向けた取組が立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできないから,当該区割規定は憲法の規定に違反しない旨判示した。

国会は,平成27年大法廷判決後も本件選挙時までに,平成28年改正及び平成29年改正を行い,衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差について,都道府県の区域内の選挙区の数を平成32年以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により配分した上で,各選挙区間の人口の最大較差が2倍以上にならないようにすること(新区割基準),平成37年以降の簡易国勢調査の結果に基づく各選挙区間の人口の最大較差が2倍以上になったときは,較差2倍未満を達成するため,区画審が選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うものとすること,平成32年国勢調査までの措置として,平成27年簡易国勢調査の結果に基づき,各選挙区間の人口に関し,将来の見込人口を踏まえて較差2倍未満となるよう区割りを行うなどの措置を行うこと,小選挙区選挙の定数を6減することとし,その対象県について,平成27年簡易国勢調査に基づき,アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員の対象となる都道府県のうち,議員1人当たりの人口の最も少ない都道府県から順に6県とすること,これらを前提に19都道府県の97選挙区において区割りを改めることなどを定めた。
そして,これによって改定された本件区割規定及び本件選挙区割りの下で本件選挙が施行された。その結果,前記のとおり,本件選挙時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対1.979となって2倍を下回り,平成32年見込人口によった場合でも,選挙区間の人口の最大較差は1対1.999と2倍を下回ることになったのである。ウ
以上に照らせば,本件各改正(殊に平成28年改正及び平成29年改
正)により,本件各大法廷判決が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態を生じさせる要因とした区割基準としての1人別枠方式は,規定上廃止されただけでなく,アダムズ方式を導入する平成32年国勢調査までの暫定的な措置とはいえ,定数を6減することを前提に,平成27年簡易国勢調査に基づきアダムズ方式により都道府県別定数を計算し,人口較差が最大でも2倍未満となるように選挙区割りを改めるとともに,将来的にも各選挙区間の人口較差が2倍未満を維持できるようにするための方策が講じられているのであって,人口変動等により較差が2倍以上の選挙区が出現しやすいなどといった従来の1人別枠方式の問題は,実質的に解決されたものというべきである。
そうすると,本件区割規定は,大規模国勢調査の結果を基に全面的に新区割基準に基づく定数の再配分を行ったものではなく,また,仮に上記国勢調査に基づいてアダムズ方式により全面的に議席の再配分をした場合,12都県について7増7減の議席の再配分が必要であることなど原告らの指摘する点を考慮しても,全体として区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備を実現するものといえる。また,平成28年改正法がアダムズ方式の導入を平成32年国勢調査からとしたのは,前記のとおり,前回の大規模国勢調査である平成22年国勢調査の結果に基づいてアダムズ方式を導入すれば,それから既に2回の衆議院議員選挙を経ていることなどに伴う不都合に配慮し,かつ,法改正から4年後には次の大規模国勢調査(平成32年国勢調査)が控えていて,平成27年簡易国勢調査の結果を基にアダムズ方式を採用して立て続けに議席配分の見直しを行うのも,選挙制度の安定性に欠けるという問題があることなどによるのであって,十分な合理性を有し,国会の立法裁量権の行使として相当でなかったとはいえない。
(3)

したがって,本件区割規定(及びこれに基づく本件選挙区割り)は,本
件選挙時の選挙区間における選挙人数の最大較差が,本件各大法廷判決により投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準である旨判示された2倍を下回っていることに加え,本件各改正の経緯や内容に鑑みると,従来の1人別枠方式に絡む問題が実質的にも解決され,本件各大法廷判決が問題とした投票価値の平等の要求に反するという違憲状態の瑕疵は解消されたといえることを考慮すれば,本件選挙時において,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとは認められず,憲法の規定に違反していたということはできない。
3
結論
よって,その余の点について検討するまでもなく,原告らの本件請求はいずれも理由がないので,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所金沢支部第1部
裁判長裁判官

内藤正之
裁判官

鳥飼晃嗣
裁判官

大野博

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