判例検索β > 平成28年(ワ)第32038号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成28(ワ)32038
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日平成30年1月30日
法廷名東京地方裁判所
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平成30年1月30日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成28年(ワ)第32038号

特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日平成29年11月9日
判決原告
株式会社デンソーウェーブ

同訴訟代理人弁護士

林正己
同訴訟代理人弁理士

碓氷裕彦被櫻
カシオ計算機株式会社


同訴訟代理人弁護士

窪同乾同今同中主田英一郎裕介井優仁岡起代子文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
1被告は,
別紙被告製品目録記載1ないし3の光学情報読取装置
(以下,「被
順に
告製品1ないし3」といい,これらを「被告製品」と総称する。
)を製造し,輸入
し,輸出し,譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。2被告は,被告製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,2億円及びこれに対する平成28年9月30日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,
発明の名称を
「光学情報読取装置」
とする特許第3823487号
(以
下「本件特許」という。
)に係る特許権(以下「本件特許権」という。
)を有して
いた原告が,
被告において業として被告製品を製造等する行為は原告の本件特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造・販売等の差止めを,同条2項に基づき,被告製品の廃棄を,民法709条に基づき,損害賠償金2億円(一部請求)及びこれに対する不法行為後である平成28年9月30日(訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
なお,
原告は,
本件特許権の存続期間の満了後,
上記差止請求及び廃棄請求に係る訴えを取り下げたが,被告はこれに同意しなか
った。
1争いのない事実等(下記⑴ないし⑸は当事者間に争いがない。)
(1)当事者

原告は,情報処理,情報通信に関するソフトウェアの開発及び機器・システムの開発・製造・販売等を業とする株式会社である。


被告は,各種電子計算機,電子記録装置その他情報機器,その他電子応用機器及び関連する部品の製造販売等を業とする株式会社である。

(2)原告の特許権
原告は,以下の本件特許権を有していたが,平成29年10月27日の終了をもって存続期間が満了した。
登録番号
発明の名称

第3823487号
「光学情報読取装置」

出願日
登録日

平成18年7月7日

訂正審決日
平成9年10月27日

平成27年7月2日(同審決はその後確定)

(3)特許請求の範囲の記載
本件特許に係る特許請求の範囲における請求項1の記載は以下のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。。

【請求項1】
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果
を出力するカメラ部制御装置と,を備える光学情報読取装置において,前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素
子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。

(4)構成要件の分説
本件発明の構成要件は,以下のとおり分説できる。

A
複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,

B
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,
当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的セン
サと,

C
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
D
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,

E
を備える光学情報読取装置において,

F
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,

G
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部に
おいても周辺部においても読取が可能となるようにした
H
ことを特徴とする光学情報読取装置。

(5)被告の行為
被告は,被告製品を,業として,製造し,輸入し,販売し,輸出し,販売の申出等をしている。
(6)被告製品の構成
原告は,
被告製品の構成が別紙被告製品説明書記載のとおりであると主張するのに対し,被告は,その一部につき争っている。具体的には,
「このコンピュ
ータチップにおける処理は,
読み出された信号について,
閾値に基づいて
『0』

もしくは『1』に2値化し,2値化した信号の中から所定の周波数成分比を検出し,
検出結果を出力するものである。

(上記説明書8頁下線部)
について
「被
告製品では,そもそも光学的センサからの出力信号を増幅しないため,その後の2値化,周波数成分比の検出の処理の対象となる信号がない」とすべきである旨を主張し,
「また,被告製品では,露光時間などの調整で,中心部において

も周辺部においても適切な読み取りが可能である」
(上記説明書9頁下線部)
について「被告製品では,周辺部の出力の落ち込みという課題を,マイクロレンズの受光素子に対する位置をオフセットすることにより解決している」とすべきである旨を主張する。
2争点
(1)本件発明の技術的範囲への被告製品の属否

文言侵害の成否(順に争点1-1ないし1-4という。

被告製品が本件発明の構成要件A,
C,
E,
Hを充足することは当事者間
に争いがない。
(ア)構成要件Bの充足性
(イ)構成要件Dの充足性
(ウ)構成要件Fの充足性

(エ)構成要件Gの充足性

均等侵害の成否(争点1-5)

(2)本件特許に係る無効理由の存否

進歩性欠如(順に争点2-1ないし2-7という。

(ア)ICX084ALを用いた2次元バーコードリーダを主引用例とするもの
(イ)2次元コードリーダ(IT4400)を主引用例とするもの(ウ)乙5(特開平7-254037号公報)を主引用例とするもの(エ)乙6(特開平9-270501号公報)を主引用例とするもの(オ)乙7(特開平8-334691号公報)を主引用例とするもの(カ)乙8(米国特許第5331176号明細書)を主引用例とするもの
(キ)乙9(特開平7-73266号公報)を主引用例とするものイ
記載要件違反(順に争点2-8及び2-9という。

(ア)明確性要件違反(①「所定の周波数成分比の検出」,②「相対的に長く
設定し」
,③「所定値」


(イ)実施可能要件違反(①「所定の周波数成分比の検出」,②「所定値」
,③
「相対的に長く設定し」

(3)原告の損害額(争点3)
3争点に対する当事者の主張
(1)

本件発明の技術的範囲への被告製品の属否

文言侵害の成否(争点1-1ないし1-4)について
(ア)構成要件Bの充足性(争点1-1)について
【原告の主張】
a
光学的センサに関する本件発明の構成要件Bは,「前記読み取り
対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元
的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた
光学的センサ」というものである。しかるところ,被告製品のCMOSイメージセンサも,「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され」ているものであり,「その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列
され」ており,
「当該受光素子毎に集光レンズが設けられ」ている。

すなわち,被告製品のCMOSイメージセンサは,構成要件Bの「光学的センサ」の要件を全て充足している。
b
本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。
)の実施例に
おいて「CCDエリアセンサ」が記載されているからといって,本件発
明の「光学的センサ」が,実施例の「CCDエリアセンサ」に限定されるものではない。
本件特許の出願当時(平成9年)
,未だ2次元コードは普及してお
らず,
光学情報読取装置はバーコード(1次元)の読み取りを行うも
のが普通であった。そして,バーコードの読み取りでは,1次元方向
の読み取りができればよいため,バーコード読取装置の光学的センサは「CCDラインセンサ」であった。
本件発明はそのような背景の下,マイクロレンズ付きCCDエリア「
センサ」を2次元コードの読取装置に利用することに着目するとともに,その際,見出された課題を解決するためになされたものである(段落【0003】。

このような本件特許の出願当時の状況に鑑みれば,本件明細書の

実施例で光学的センサとしてCCDエリアセンサが記載され,CMOSイメージセンサが記載されていないのは,むしろ当然である。
c
被告製品のCMOSイメージセンサは,被告主張のとおり増幅器を含むため,構成要件D,すなわち「光学的センサからの出力信号を増
幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」のうち,「カメラ部制御装置」の機能の一部(出力信号の増幅)も取り込んでいる。
しかし,追加の機能を備えたからといって,「光学的センサ」で

ないことの理由にはならない。
【被告の主張】
a
構成要件Bは,
「読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置
に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する」「2
次元的に配列された」複数の受光素子」「受光素子毎に集光レンズ」「
と,

を備えた光学的センサであることを要件としている。
原告は,
「光学的センサ」に対応するいくつかの説明において,
「受光
素子」という言葉を用いており,
「受光素子」があたかも「光学的セン
サ」であるかのように主張する。
しかし,構成要件Bの光学的センサは,複数の受光素子とマイクロレ
ンズを備えたものであり,
光学的センサと受光素子は同じものではない。
したがって,受光素子を「光学的センサ」であると解釈することは誤りである。
b
本件明細書には,光学的センサとして,CCDエリアセンサが開示されているにすぎず(段落【0029】等)
,それ以外に「光学的センサ」の
例は記載されておらず,
「光学的センサ」についてのそれ以上の説明も
存在しない。

CCDエリアセンサは,イメージセンサと呼ばれる,対象物体の光の像をその光の強度に応じた電気信号に変換して出力する装置の一種である。イメージセンサには,CCDを用いたセンサ(CCDイメージセンサ)と,
CMOSイメージセンサと呼ばれるセンサの2種類が存在する。
本件明
細書に記載されているCCDエリアセンサは,CCDイメージセンサの一種
である。他方,被告製品ではCMOSイメージセンサが使用されている。c
被告製品が使用しているCMOSイメージセンサは,受光素子で受光した光を電荷に変換して蓄積し,
個々の画素内にある増幅器によって電圧
に変換し,増幅された電圧が,垂直信号線に転送され,その後水平信号線に送られる。そして,被告製品のCMOSイメージセンサは,アナログ
デジタル変換回路を備えており,
この回路により8ビット/ピクセルの
デジタルデータに符号化され,出力される。
以上のとおり,被告製品において,本件明細書における「CCDイメージセンサ」
に対応する構成要素は,CMOSイメージセンサである。したが
って,被告製品において,
「光学的センサ」に該当するものを挙げると

すれば,それはCMOSイメージセンサである。
(イ)構成要件Dの充足性(争点1-2)について
【原告の主張】
a
構成要件Dは,「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,
閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と」である。したがって,
「カメラ部制御装置」は,①前記光学的センサからの出力信号を増幅する機能を持ち,②閾値に基づいて2値化する機能を有し,③2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出する機能を備え,④検出結果を出力する機能を有するものである。しかるところ,被告製品では,「カメラ部制御装置の前記光学的
センサからの出力信号を増幅する機能」は,CMOSイメージセンサの増幅器が受け持っている。
そして,カメラ部制御装置の閾値に基づいて2値化する機能は,
被告製品ではコンピュータチップが受け持つ。

コンピュータチップには,CMOSイメージセンサで増幅された信号が出力線を介して入力され,同チップで,閾値に基づいて「0」もしくは「1」に2値化される。ここで,閾値に基づき「0」もしくは「1」に2値化するのは,2次元コードが「明」と「暗」の2色からなるバイナリーコードであるので,2次元コードを読み取る上
で必須の機能であり,2次元コードの読み取りを行う被告製品は当然備えている。
また,カメラ部制御装置の2値化された信号の中から所定の周波
数成分比を検出する機能も,被告製品では,コンピュータチップが受け持っている。

周波数成分比検出は,2次元コードに書き込まれたデータを検出
することであり,2次元コードの位置検出パターンの検出に限定されないが,位置検出パターンの検出も含まれる。2次元コードの読み取りができる被告製品のコンピュータチップは,この周波数成分検出機能(データ読取機能)を当然備えている。

そして,カメラ部制御装置の検出結果を出力する機能も,被告製
品では,コンピュータチップが受け持っている。カメラ部制御装置で検出した検出結果は出力されてはじめて2次元コード読取装置として機能する。2次元コードの読み取りを行う被告製品でも,検出結果の出力機能を当然備えている。
b
「光学的センサからの出力信号を増幅」について
本件発明の光学的センサの特徴は,読取位置に2次元配置された

マイクロレンズ付き受光素子が備えられていることであり,この受光素子からの出力を増幅するのに,CCDエリアセンサのように外部の増幅器を用いるのか,CMOSイメージセンサのように内部の増幅器を用いるかは,実質的な相違ではない。したがって,被告製品では,CMOSイメージセンサの増幅器部分が,カメラ部制御装置の一部を構成している。
c
「2値化」及び「周波数成分比検出」がアナログ信号のハード
ウェア処理に限定されるかについて
本件発明のカメラ部制御装置には「前記光学的センサからの出力

信号を増幅」
する機能が求められるが,
その機能は被告製品ではCMOS
イメージセンサの増幅器が受け持っている。更に,被告製品のCMOSイメージセンサでも,内部の増幅器はアナログ信号の増幅を行っている。
したがって,被告製品のCMOSイメージセンサは,本件発明のカメラ部制御装置の増幅機能を有している。

被告は,本件明細書の段落【0031】,図4に記載された実施
例に照らせば,本件発明においては,アナログ信号をAGCアンプで増幅し,2値化されたアナログ信号の中から周波数成分比をハードウェア的に検出するものと解すべきところ,被告製品では,CMOSイメージセンサからはアナログデジタル変換回路で変換されたデジ
タルデータが出力され,これがソフトウェア的に処理されているから,構成要件Dを充足しない旨主張する。
しかし,被告の上記主張は,本件発明において,増幅されたアナ
ログ信号をハードウェア的に検出するものが記載されていることに基づき,実施例限定を主張するものにすぎない。
本件発明は,2次元配置されたマイクロレンズ付き受光素子を2
次元コードの読取装置に用いる上での工夫(絞りの位置を工夫して光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定するなどして,周辺部においても良好な読取を可能としたところ)に発明としての特徴があり,2値化処理や周波数成分比検出をハード的に行うかソフト的に行うかは,本件発明の特徴部分ではない。被告の
主張は,本件発明の特徴的部分ではない部分について,技術の進歩に付随して構成要件該当性を欠いているとの主張に帰着するにすぎず,本件発明の本質に照らせば,設計上の微差の類いでしかない。前記aのとおり,被告製品では,カメラ部制御装置の閾値に基づ
いて2値化する機能,及びカメラ部制御装置の2値化された信号の
中から所定の周波数成分比を検出する機能は,いずれもコンピュータチップが受け持っている。
d
「閾値に基づいて2値化」について
構成要件Dでは,「閾値に基づいて2値化」するとされているだ

けで,閾値が「一定の値」でなければならないとはされていない。2次元コードはバイナリーコードであり,「白」か「黒」か,「明るい」か「暗い」か,「0」か「1」かを判断することは必須であり,その判断に用いるのが閾値である。
被告製品もバイナリーコードである2次元コードを読み取ってい
る。ソフトウェア的に処理しているとしても,閾値を用いて「0」
か「1」かを判断していることは明白である。
e
「所定の周波数成分比を検出」について
周波数成分比検出は2次元コードに書き込まれたデータを検出
することであり,2次元コードの位置検出パターンの検出に限定
されることはないが,位置検出パターンの検出も含まれる。
2次元コードの読み取りができる被告製品のコンピュータチップ
は,周波数成分検出機能(データ読取機能)を当然備えている。

【被告の主張】
a
「光学的センサからの出力信号を増幅」について
「光学的センサ」は,被告製品のCMOSイメージセンサと対応させて考えるべきである。そして,
「増幅」とは「振動電流又は電圧の振幅を増
加させて大きいエネルギーの振動とすること」を意味するが,その対象
はアナログ信号であり,デジタルデータが増幅されることはない。つまり,被告製品のCMOSイメージセンサからの出力であるデジタルデータが増幅されることはない。
このように,被告製品では,構成要件Dの「前記光学的センサからの出力信号を増幅」していない。それ故,その後に行われる「閾値に基づ
いて2値化し,
2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,
検出結果を出力する」こともしていない。
なお,
「光学的センサ」とは,CCDエリアセンサ等のセンサ全体を意味し,それぞれの受光素子は「光学的センサ」ではない。したがって,受光素子に蓄積された電荷は「光学的センサ」の出力ではないから,受光
素子に蓄積された電荷が増幅されたとしても,これは「光学的センサからの出力を増幅」したことにはならない。
b
「2値化」及び「周波数成分比検出」がアナログ信号のハードウェア処理に限定されるかについて

構成要件Dは,
「光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基
づいて2値化し,
2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出
し,検出結果を出力する」ことを要件とするが,これが何を意味するかは,特許請求の範囲の文言のみからは理解できない。
構成要件Dは,訂正により追加されたものであるが,本件明細書の段落【0031】に同訂正の根拠があるとされており,これ以上の説明はない。同段落の記載に基づけば,構成要件Dの「光学的センサからの出
力信号を増幅し」は,本件明細書の「補助アンプ56にて走査線信号を増幅すること」
に対応し,
構成要件Dの
「閾値に基づいて2値化し」
は,
本件明細書の「2値化回路57」において「上記走査線信号を,閾値に基づいて2値化」することに対応し,構成要件Dの「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,
検出結果を出力する」「周波
は,

数分析器58」において,
「2値化された走査線信号の中から所定の周
波数成分比を検出し,その検出結果は画像メモリコントローラ61に出力」することに対応する。
また,実施例において,CCDエリアセンサ41からの出力は,AGCアンプ52で増幅された後,2つのルート(
「補助アンプ-2値化回路-

周波数分析器ルート」及び「A/D変換器ルート」
)で処理されるところ,
構成要件Dは,
前者の処理ルートを特許請求の範囲に記載したものであ
る。
他方で,
被告製品においては,
CMOSイメージセンサ内でA/D変換回路
にアナログからデジタルに変換されたデータがCMOSイメージセンサの
外部に出力され,
かかるデジタルデータがソフトウェア的に処理される
ため,
「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」を有していな
い。したがって,被告製品は構成要件Dを有しない。
c
「閾値に基づいて2値化」について
「閾値」とは,その値を境にして動作や意味などが変わる値を意味する,いわば境目の値を示すものであり,ある一定の値を意味している。そのため,可変の値は,もはや「閾値」とはいえない。
被告製品では,
2次元コードのデジタルデータをソフトウェアによる
複雑なアルゴリズムにより処理し,2次元コードが置かれた場所の明るさが同じであっても,同じグレースケール値のグレーを白と判断したり黒と判断したりする。そのため,被告製品では,2次元コードが置かれ
た場所の明るさによって定まる「明」と「暗」の間の境目の値である閾値をもとに2値化していない。
d
「所定の周波数成分比を検出」について
「所定」とは「定まっていること。定めてあること。(乙50)を意」
味することからすると,少なくとも定められた周波数成分の比率を検出
することが「所定の周波数成分比」の検出を意味するといえる。一方,データが記載される領域は,そのデータの内容によってパターンが変化するため,定められた周波数成分比の検出は行われない。
仮に,
別件の特許出願の内容等から,所定の周波数成分比」「検出」


を,2次元コードの位置検出パターンから得られる暗:明のモジュール
幅の比率1:1:3:1:1を検出することと解釈しても,被告製品では,暗:明のモジュール幅の比率1:1:3:1:1を検出せずとも,二次元コードが読み取れる(乙49の実験参照)ため,いかなる意味においても,
「所定の周波数成分比」の「検出」を行っておらず,構成要件
Dの「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出」を充たさ
ない。
(ウ)構成要件Fの充足性(争点1-3)について
【原告の主張】
a
構成要件Fのとおり,本件発明の光学的センサから射出瞳位置までの距離は,
「読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズ
に入射するよう,絞りを配置する」ことによって,そうでない配置(例えばレンズ間に配置)と比較して相対的に長く設定される。
そして,本件発明との対比で必要なことは,被告製品の射出瞳位置の絶対値ではなく,
被告製品の射出瞳位置が本件発明の要件を備えない配
置に比して相対的に長く設定されていることである。
被告製品のレンズ形状,配置においては,レンズ間に被告製品の絞り
をそのまま配置することを想定することは難しいので,絞りを「ガラスレンズの下方」
(光学的センサ側)
に配置したと仮定した場合
(射出瞳位
置に相当するのは絞りの位置そのもの)と比較すれば,被告製品においては,
読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後に結像レンズに入
射するように絞りを配置したことにより,光学的センサから射出瞳位置
までの距離は,相対的に長く設定されている。
b
射出瞳までの距離は,本件明細書の段落【0009】欄で定義しているとおり,
光学的センサから射出瞳までの距離であり,
射出瞳は,
絞りよりも像側(光学的センサ側)にある光学系によって物体空間
に生じる絞りの虚像(exitpupil)である。つまり,射出瞳までの距離は,光学的センサから見て絞りの像がどの位置に見えるかである。被告製品の2枚のレンズ間に絞りを配置する例において,射出瞳
位置は絞りの位置近くに設定して設計することが多いため,そのように設定すると,現状の被告製品では,光学的センサから絞りまで
の距離は9mm程度であるところ,光学的センサからレンズ間までの距離は7mm程度となるので,レンズの屈折を考慮したとしても,光学的センサから見える絞りの位置は,絞りがレンズの前にある被告製品の方が,レンズ間に絞りがある比較例より遠くに見える(射出瞳位置までの距離が長い)ことが理解できる。

【被告の主張】
a
構成要件Fは,
「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対
的に長く設定」することを要件とする。しかし,
「相対的に長く」の意味
は不明確であり,充足・非充足を論じるための前提を欠く。
b
原告の前記主張aは,本件明細書の記載と合致しないものである。すなわち,本件明細書には,
「課題を解決するための手段及び発明の
効果」の項目に,
「結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合

(図6(a)参照)と比べて,複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合
(図6(b)参照)
には,
光学的センサから絞りまでの
光学的な距離が相対的に長くなる。との記載があり

(段落
【0009】,

「発明の実施の形態」の項目に,
「結像レンズの複数のレンズ間に介装
されていた場合
(図6(a)参照)
と比べて,
複数のレンズで構成される結

像レンズ(図3の34b,34cが相当する)よりも前に配置した場合(図6(b)参照)
には,
CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学
的な距離が相対的に長くなる。
」との記載があり(段落【0040】,図

6もこれに沿った描写となっている。
ここでは,
比較の対象はあくまで,
絞りが「結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合」であり,
それ以外の場合と比較することについては本件明細書には何ら記載が存在しない。
構成要件Fの「相対的に長く設定し」の文言が,レンズ間に絞りを配置した場合との比較における「相対的な長さ」を意味するにもかかわらず,
被告製品においてレンズ間に絞りを配置した場合を想定することが
できないのであれば,そもそも被告製品においては比較対象となる場合が存在せず,したがって,被告製品は構成要件Fを充足しないという結論にならざるを得ない。
(エ)構成要件Gの充足性(争点1-4)について
【原告の主張】
a
「出力の比が所定値以上」及び「射出瞳位置を設定」について
本件発明における「所定値」とは,ある一定の値を意味するのではなく,
周辺部においても適切な読み取りができる程度の値を意味している。そして,出力レベルを所定レベル以上にするために,本件発明が採用した手段は,
「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長
く設定」することであり,この点,被告製品も同様の構成を採用してい
る。
すなわち,
被告製品では,
絞りはレンズ群の前に配置されており,
それにより射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定できており,更に周辺部でも良好な読み取りができているので,センサ周辺部にある受光素子からの出力レベルは所定レベル以上に設定されており,構成要件Gを備えている。

被告は,被告製品では,オフセットを採用したCMOSイメージセンサ(以下「オフセットマイクロレンズ付きCMOSイメージセンサ」という。)や「ソフトウェア処理」により,光学的センサの中心部においても周辺部においても読み取りを可能としているとも主張する。しかし,本件発明は,レンズ配置を工夫することにより所定の発明
の効果を生じさせるものであるところ,オフセットマイクロレンズ付きCMOSイメージセンサや,ソフトウェア処理によってそれなりの効果があるにしても,本件発明の効果を享受した上で,それらの処理をしているにすぎず,本件発明の構成を備え,発明の効果を得ていることについて変わりはない。

b
「露光時間などの調整で…適切な読取りが可能となる」点について構成要件Gは,構成要件AないしFを備える光学情報読取装置
(構成要件H)の効果を記載しているものである。
構成要件Gの射出瞳位置の設定は,構成要件Fのレンズ配置により
射出瞳位置までの距離を「相対的に長く設定」したことを前提にし,それに加えて,センサ周辺部にある受光素子からの出力レベルが所定レベル以上になるように調整するとしている。そして,構成要件Gの「所定値以上」とは,ある「特定の値以上」を示すのではなく,
「本件
発明の効果が得られる所定レベル以上」であればよい。換言すれば,本件発明の効果が得られれば,この構成要件Gの所定値以上の要件を満たしている。

【被告の主張】
a
「出力の比が所定値以上」及び「射出瞳位置を設定」について
(a)原告は,構成要件Gの「所定値」について,
「ある一定の値を意味す
るのではなく,
周辺部においても適切な読み取りができる程度の値を

意味している」と主張し,被告製品では周辺部においても適切な読み取りができているから,
「出力の比」は「所定値以上」であることを充
たすと主張する。
しかし,
構成要件Gは,
「出力の比」「所定値以上」

とすることを要件としており,単に周辺部においても適切な読み取りができていることは,かかる要件を充たしていることを意味しない。
原告は,
被告製品が構成要件Gを充たすことについて何ら立証できて
いない。
(b)仮に,原告主張のように,
「所定値」が,ある一定の値を意味するの
ではなく,
周辺部においても適切な読み取りができる程度の値であれ
ばよいと解するなら,本件明細書図5(c)の従来例に示されるような
値も本件発明における「所定値」に含まれることになり,従来例と比べて何ら改善されていないものも本件発明の技術的範囲に含まれることになる。しかし,かかる解釈は不合理であり,採用し得ない。本件明細書には,
「所定値」について特段手がかりとなる記載はな
いが,原告による訂正審判請求書(甲4の1)記載の図面を手がかり
として,センサの中心部を1とした場合の閾値を計算したところ,閾値は約0.9であった。
本件発明の課題や上記の訂正審判請求書の説明からすれば,本件発明は,センサの周辺部のセンサの出力がセンサ中心部の出力とほぼ同様(0.9以上)になることを求めるものと解される。
これに対し,
被告製品では,
CMOSイメージセンサの中心部に位置す
る受光素子からの出力に対するCMOSイメージセンサの周辺部に位置
する受光素子からの出力の比は0.9を下回るものとなっており,上記の出力比が「所定値」以上となっていないため,構成要件Gを充たさない。
(c)被告製品は,マイクロレンズ(集光レンズ)が受光素子ごとに設けられたCMOSイメージセンサを用いているが,マイクロレンズを用い
たことによるイメージセンサの周辺部の出力の落ち込みという本件発明と同様の課題を,マイクロレンズの受光素子に対する位置をオフセットすることにより解決している。
このように,被告製品では,
「オフセットマイクロレンズ付きCMOS
イメージセンサ」や「ソフトウェア処理」等により,光学的センサの
中心部においても周辺部においても適切な読み取りを実現している。そのため,被告製品においては,上記の出力比が「所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定」する必要はなく,また,実際にも,被告製品はそのような構成を採用していない。
b
「露光時間などの調整で…適切な読取りが可能となる」点について特許庁の合議体が審理事項通知書(乙75)において示した見解からも明らかなとおり,構成要件Gの「所定値」とは,構成要件AないしFを備える光学情報読取装置の効果ではなく,構成要件Fとは異なる「射出瞳位置」の設定条件について規定したものであり,別個独立の要件を
定めたものである。また,原告も,構成要件FとGとが「射出瞳位置」の設定について異なる条件を定めたものであることを認めている(乙76)
。したがって,被告製品における光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの「出力の比」がいくつか,かかる「出力の比」が,いかなる「所定値以上に」該当するのかについては,構成要件Fの絞りの位置とは別の立証が必要となることは明らかである。


均等侵害の成否(争点1-5)について
【原告の主張】
受光素子からの出力を,光学的センサとは別個の「カメラ部制御装置」において増幅し,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の
中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力することに代えて,受光素子からの信号(電荷)を増幅,デジタル信号として出力する機能を有する光学的センサ(CMOSイメージセンサ)を用いて,同光学的センサからの信号をデジタル処理,検出し,検出結果を出力することは,前者と均等である。

(ア)第1要件(発明の非本質的部分)
本件発明の本質的部分は,2次元コードリーダにおいて,素子ご
とに集光レンズを設けた受光素子を2次元配置した光学的センサを採用した点(構成要件B)と,この光学的センサの採用に伴う問題点を解決するために,絞りを複数のレンズの前に配置して射出瞳位
置までの距離を相対的に長く設定し(構成要件F),この射出瞳位置の設定により中心部においても周辺部においても読取可能とした点にある(構成要件G)。つまり,本件発明の本質は,上記光学的構成の部分にある。
他方で,本件発明におけるカメラ部制御装置の機能である,光学

的センサからの出力信号を増幅すること,閾値に基づく2値化,2次元コードの読取り結果を出力する上で必要となる所定の成分比検出,2次元コードの読取り結果の出力は,これらの一連の流れにより光学処理後のデータの読み取り処理等ができれば足り,光学的センサと別のアンプによって増幅機能が果たされなければ本件発明の目的を達成できないということはない。
すなわち,本件明細書の実施例のように「CCDエリアセンサを用い,
そこからの微弱な信号を,
カメラ部制御装置において増幅する」
か,被告製品のように「CMOSイメージセンサ内において,光学的センサに相当する機能部分からの電荷(信号)を,同センサ内の増幅機能を有する部分で増幅する」かは,本件発明の本質的部分ではな
いから,第1要件を充足する。
(イ)第2要件(置換可能性)
本件発明の作用効果は,絞りを複数のレンズの前に配置して射出
瞳位置までの距離を相対的に長く設定し(構成要件F),この射出瞳位置の設定により中心部においても周辺部においても読取可能と
した(構成要件G)点にある。
2次元コードの読み取りを行うに際し,光学的センサからの出力
信号を,同センサと別個のカメラ部制御装置で増幅して信号の読み取りを行うことに代えて,光学的センサ内に増幅機能部分を備えるCMOSイメージセンサを使用して,光学的センサに相当する受光素子
部分の信号
(電荷)
をCMOSイメージセンサ内の増幅機能部分で増幅し
て,読み取り信号を出力することは置換可能であり,置換しても,信号を光学的に読み取り,
その信号を増幅して処理でき,
上記の本件発
明の作用効果を奏する。
そして,被告製品も絞りが2枚のレンズの前に配置されて射出瞳

位置までの距離が相対的に長くなっており,中心部においても周辺部においても読取可能となっているので,本件発明の作用効果を奏している。したがって,本件は第2要件を充足する。
(ウ)第3要件(置換容易性)
CMOSイメージセンサが周知技術となっている本件での侵害行為の時点で,CCDエリアセンサを用いて光学情報を取得し,そこからの信号をカメラ部制御装置に備わった増幅機能を使用して増幅することに代えて,
同じ光学情報の読み取り,
同信号の増幅機能を果たすもの
として開発されたCMOSイメージセンサを用いる程度のことは,当業者において,極めて容易に置換可能な事柄である。したがって,本件は第3要件を充足する。

(エ)第4要件(公知技術から容易想到でないこと)
構成要件Dについて,2次元コードの読み取りを行うカメラ部制
御装置が,受光素子と別の素子でなければならないと解釈しても,公知技術から容易想到ではない。
このカメラ部制御装置の増幅機能部分が,受光素子と同じ素子の

中に含まれたとしても,容易想到性の議論に何らの影響を及ぼさない。すなわち,2次元コードリーダの読み取りを行うに際し受光素子からの微弱信号を増幅する必要はあるが,カメラ部制御装置の内部で信号を増幅するか,又は増幅済みの信号をカメラ部制御装置が2値化するかによって,公知技術との対比における進歩性の議論に
差は生じない。したがって,本件は第4要件を充足する。
(オ)第5要件(意識的除外)
構成要件Dのカメラ部制御装置は訂正により加えられた要件であ
るが,被告製品はカメラ部制御装置を備えている。
すなわち,カメラ部制御装置が増幅された信号を2値化するに際し
て,カメラ部制御装置の内部で増幅し,その後の処理をするか,光学的センサ内で信号の増幅を行い,カメラ部制御装置に相当するコンピュータチップにおいて,その増幅済みの信号を用いるのかは,正に設計上の微差にすぎず,カメラ部制御装置が増幅済みの信号を用いる構成が,訂正審判手続で意識的に除外された事実はない。したがって,本件は第5要件を充足する。
【被告の主張】
少なくとも本件発明の構成要件Dは,本件発明の本質的部分であり,訂正審判手続において意識的に除外されたものであるため,均等侵害については,
第1要件及び第5要件を充たさない。
また,
被告製品は公知技術から
容易に推考できたものであるため,第4要件も充たさない。

(ア)
a
第1要件について
構成要件B,F,Gの光学的構成については,原告が訂正審判請求書において自らが提出した公知資料(乙12ないし14)に開示されており,
この点は,
知的財産高等裁判所の判決
(甲7)
でも認定されている。
したがって,このような構成要件B,F,Gを含む周知技術である光学的構成のみが,本件発明の本質的部分といえないことは明らかである。
b
原告は,訂正審判手続において,上記の各公知資料等はビデオカメラ等に関するものであるから,これらの公知資料等から,本件発明のカメラ部制御装置(構成要件D)を備える2次元コード等の形状を把握する光学情報読取装置は容易に想到し得ないことを繰り返し主張した。原告のかかる主張や,構成要件A,B,C,F,Gの光学的構成が周知技術
であることを考慮すると,本件発明の本質的部分は,少なくとも,構成要件Dを有する光学情報読取装置に上記の光学系を組み合わせた点にあると考えられる。
c
以上のとおり,
光学的センサからの出力信号を増幅すること等を要件
とする構成要件Dも発明の本質的部分であるから,第1要件を充たさない。
(イ)

第4要件について
本件発明は公知技術から容易に想到し得るので無効とされるべきものであり,本件特許の出願当時,イメージセンサとして,CCDセンサとともにCMOSイメージセンサも知られていたため
(乙67)CMOSセンサ

内部で増幅する構成を有する被告製品も同様に公知技術から容易に想
到し得るものであった。したがって,第4要件も充たさない。
(ウ)
a
第5要件について
原告は,訂正審判において,構成要件Dを加えた(甲4の1)ほか,3つの公知資料を提出し,
本件発明は構成要件Dを備える2次元コード
等の形状を把握する光学情報読取装置であるのに対し,
これらの公知資

料は構成要件Dを備えないビデオカメラ等である点が異なるとして本件発明は公知資料を組み合わせても容易に想到し得るものではない旨主張した。かかる訂正審判の経緯からみても,特許請求の範囲を減縮して公知資料を回避するために構成要件Dが加えられたといえ,
構成要件
Dに係る構成を備えない製品を特許請求の範囲から意識的に除外した
ものであることは明らかである。
なお,原告は,訂正により構成が付加されたにもかかわらず意識的除外がなされていないことの根拠として,本件発明と被告製品の相違点は設計上の微差にすぎないことを挙げるが,
「設計上の微差であれば意識
的除外はない」とはいえない。

b
以上のとおり,本件発明の構成要件Dは,公知文献を回避するために加えられた要件であることは明らかであり,
構成要件Dの文言を充足し
ない被告製品の構成は意識的に除外されたものといえる。したがって,第5要件を充たさない。

(2)本件特許に係る無効理由の存否

進歩性欠如
(ア)

ICX084ALを用いた2次元バーコードリーダを主引用例とする進歩性欠
如の有無(争点2-1)について
【被告の主張】
a「日経エレクトロニクス」は,電子・情報・通信などエレクトロニクス分野の技術情報を扱う専門誌であり,
これらの分野の当業者にとって
は著名な雑誌であった。乙55(平成7年9月25日に発行された雑誌「日経エレクトロニクス」の写し)には,ソニー株式会社の広告が掲載されており,ICX084AL(内蔵フィルター白黒)のほか,CCDイメージセンサ6種が販売されたことが示されている。したがって,本件特許の出
願前の上記同日に,
ICX084ALが日本国内で販売され,
また日本国内で公
然に知られていたことは明らかである。
乙43にも,白黒のICX084ALを含む複数の製品がソニーから平成7年に販売されることが記載されており,乙43の記事の内容も乙55に合致することから,乙43も信用性の高い記事であるといえる。また,
ICX084ALがオンチップマイクロレンズを搭載したこと等の乙43と同様の内容が,
ソニーの平成7年6月19日のプレスリリースにも報じら
れている(乙64)

このほか,本件特許出願前に頒布された乙55のICX084AL等の広告記事にも記載されたとおり,
ICX084ALの用途の一つが,
2次元コードリ

ーダであった。
ICX084ALのデータシートにも,
用途として2次元バーコ
ードリーダ等における使用に適しているとの記載が存在する(乙42,発行日は平成7年3月1日)

なお,被告は,2次元コードリーダであるIT4400を購入し,公証人の立会の下,
分解調査したところ,
ICX084ALには受光素子ごとに集光レ

ンズが設けられていることを確認した(乙56)

したがって,
本件特許の出願前に,
ICX084ALを2次元バーコードリー
ダに使用した光学情報読取装置も日本国内で知られ,または公然実施されていたことは明らかといえる。
なお,
乙43ないし乙45は,
「ICX084AL」
がどのような構成をもつも
のであったかを示す証拠(記事)であり,それ自体を特許法29条1項3号における「刊行物」として主張するものではないため,その刊行物
性や頒布日は問題とならない。
また,原告は,2次元配置のマイクロレンズ付きCCDを用いた2次元コードリーダは仮想のものにすぎないとも主張するが,2次元配置のマイクロレンズ付きCCDは本件特許出願前に日本国内で販売されており,かかる公知センサICX084ALは2次元コードリーダに使用されることが
知られていたのであり,仮にこのようなコードリーダが実際に製品として存在しなかったとしても,そのような使用が知られていた以上,公知センサICX084ALを用いた2次元コードリーダは知られていたのであって,仮想例ではない。
b
以上のとおり,
ICX084ALを2次元バーコードリーダに用いることは本
件特許出願前に公知となっていたのであるから,
ICX084ALを用いた2次
元バーコードリーダそれ自体もまた,本件特許出願前に公然知られ,または公然実施された発明(特許法29条1項1号又は2号)となっていたものである(以下,当該発明を「公知発明1」という。。


c
公知発明1と本件発明の対比について
本件発明と公知発明1を対比すると,両者の相違点は以下のとおりで
ある。
(相違点1)
本件発明は,
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光
を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」と,
「該光学的センサへの
前記反射光の通過を制限する絞りと」を備え,
「前記読み取り対象から
の反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」
ているのに対して,
公知発明1は,
かかる構成を備えるとは限らない点。
(相違点2)
本件発明は,
「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの
出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能と
なるようにしている」
のに対し,
公知発明1は,
かかる構成を備えると
は限らない点。
(相違点3)
本件発明は,
「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に
基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を
検出し,
検出結果を出力するカメラ部制御装置」
を備えるのに対し,

知発明1は,かかる構成を備えるとは限らない点。
d(a)相違点1について
2次元バーコードリーダが,読取対象からの反射光を光学的センサで読み取るために,絞りや複数のレンズを備えることは周知であった
(乙7,乙8,乙9,乙25,乙34)

また,受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサを光学情報読取装置に使用する場合,光学的センサの中心部にある集光レンズに比べて,
周辺部にある集光レンズに入射する光束が斜めから入射
し,入射光束が受光素子に有効に入射しなくなる結果,周辺部の光量
が不足するという問題点は当業者に周知であり(乙6,乙7,乙10ないし乙18)
,この問題点を解決する構成として,その射出瞳位置
を遠くすることは,かかる光学的センサを扱う当業者にとって技術常識であった。そして,射出瞳位置を遠くするために,対象からの反射光が絞りを通過した後でレンズに入射するように絞りを配置することも周知慣用技術にほかならず
(乙7,
乙11ないし乙17)射出瞳

位置を結像面からなるべく離した構造として,全てのレンズの前面(読取対象側)に絞りを配置した構成も周知の構成であった(乙11ないし乙15)なお,

これらの構成を開示する文献の用途として,

デオカメラやスチルカメラが挙げられているが,集光レンズが設けられた光学的センサを使用した場合の問題点は,ビデオカメラやスチル
カメラに特有のものではなく,受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサを使用した装置一般にあてはまるものであった。さらに,2次元コードはビデオカメラやテレビカメラで読み取られることも周知であり(乙35ないし乙38)
,受光素子ごとに集光レンズが
設けられた光学的センサを使用した際の課題やその解決手段は,2次
元コードの読み取りを含む光学情報読取装置を扱う当業者にも広く知られていた。
なお,原告は,乙6,乙7,乙10ないし乙18は,いずれも2次元コードを用途とするものではないと主張するが,本件発明は2次元コードリーダに限定されるものではなく,光学情報読取装置であり,
乙6,乙7等には光学情報読取装置が開示されている。
したがって,
当業者は,
ICX084ALを備えた2次元バーコードリーダ
を設計するにあたり,当然に,周辺部の光量が不足するという課題を認識し,射出瞳位置を遠くするために,対象からの反射光が絞りを通過した後でレンズに入射するように絞りを配置する構成を採用し得
たといえる。
つまり,
ICX084ALを備えた2次元バーコードリーダに,
「複数のレンズで構成され,
読み取り対象からの反射光を所定の読取
位置に結像させる結像レンズ」と,
「該光学的センサへの前記反射光
の通過を制限する絞りと」を備え,
「前記読み取り対象からの反射光
が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,
前記絞り
を配置する」
という周知技術を組み合わせることは容易に想到し得る
ものであった。
なお,
「光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設
定し」の「相対的」の意味は不明確であり,それ自体が無効理由を構成する。この点について原告は,
「読み取り対象からの反射光が前記
絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,絞りを配置」し
ていないものと比べて,
相対的に長いとの意味であると主張するよう
であり,
「読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記
結像レンズに入射するよう,絞りを配置」するものであればかかる要件も同時に充たすと主張するようである。
かかる原告の主張を前提と
すれば,ICX084ALを備えた二次元バーコードリーダに周知技術を組
み合わせた場合,
「読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した
後で前記結像レンズに入射するよう,絞りを配置」することとなるため,
「光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」
(構成要件F)する構成も同時に有することとなる。
したがって,
公知発明1に周知慣用技術を組み合わせることにより

相違点1に係る事項は容易に想到し得る。
(b)相違点2について
「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となる」の「所定値」の文言は不明であり,この点は無効
理由を構成する。
また,本件明細書には,このような出力比となるための射出瞳位置の設定につき,
絞りをレンズよりも読取対象側に配置する以上の説明
はない。
この点について,原告は,
「読み取り対象からの反射光が前記絞り
を通過した後で前記結像レンズに入射するよう,絞りを配置」しておけば,
「光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対す
る光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,射出瞳位置を設定」されることとなると主張する。仮に,かかる原告の主張に基づけば,ICX084ALを備えた2次元バーコードリーダに周知技術を組み合わせた場合,
「読み取り対象から

の反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,絞りを配置」する構成となるため,
「光学的センサの中心部に位置す
る受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,射出瞳位置を設定」する構成となる(構成要件Gの一部)といえる。

なお,かかる構成要件が何らかの意味をもつとしても,光学情報読取装置においては,
光学的センサの周辺部の受光量が不足すると正し
く情報を読み取れないことが指摘されており(乙26,乙27,乙32,乙39)
,周辺部の出力を中心部の出力に比べてある程度の値以
上となるように確保することは当業者が当然に心得る技術常識にす
ぎないものであった。そのため,射出瞳位置の設定にあたり,
「前記
光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となる」とすることは当業者にとって当然の事項であった。
同様に,光学的センサの中心部及び周辺部においても,適切な読み
取りがなされるように設計することは,
光学的センサを使用した光学
情報読取装置を扱う当業者にとって当然に心得る技術常識にすぎないものであり(乙26,乙27,乙32,乙39)
,光学的センサに
おいて露光時間を制御して適切な読み取りを行うことも周知慣用技術にほかならないものであった(乙8,乙9,乙25,乙34)

したがって,
公知発明1に上記相違点2に係る事項を採用すること
は,
当業者であれば適宜に採用し得る周知慣用技術の付加にすぎない
ものであり,容易に想到し得るものである。
(c)相違点3について
CCD等のイメージセンサを用いた場合において,CCDの出力を増幅するプリアンプやAGCアンプを設けることは一般的に採用されて
おり(乙8,乙25ないし乙31,乙33)
,2次元バーコードリー
ダにおいてもCCDセンサからの出力を増幅することは周知慣用技術であった(乙8,乙25ないし乙31)

また,光学情報読取装置において,読取対象が白・黒等の2値の情報である場合に,
画像を2値化することも一般的に採用されている事

項であり(乙9,乙24,乙26,乙28,乙30ないし乙32,乙35)
,2次元コードも2値の情報であることから,2次元バーコー
ドリーダにおいても,
光学的センサの出力を2値化することは周知慣
用技術であった(乙9,乙24,乙26,乙28,乙30ないし乙32,乙35)


なお,
「所定の周波数成分比」との文言は不明確であり,それ自体
が本件特許の無効理由を構成する。しかしながら,仮に,乙24の図4に示されるような位置決めマークを有する2次元コードを読み取った際の特定の比率を検出することが「所定の周波数成分比の検出」であるとしても,
このような位置決めマークを有する2次元コードが

知られており(乙24,乙5,乙41)
,かかる2次元コードを読み
取る際には,
2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出す
ることも公知であった(乙24,乙5)

さらに,2次元バーコードリーダにおいて,信号処理回路を制御するためにCPU等を設けることも本件特許出願前に一般的に採用されている周知慣用技術であった(乙5,乙9,乙24ないし乙27,乙29)


以上より,相違点3に係る事項は,公知発明1に,出力信号を増幅し,2値化する周知技術,及び,2値化された信号の中から所定の周波数成分の検出を行う制御回路を設ける公知技術を組み合わせることにより容易に想到し得るものである。
e
以上のとおり,
本件発明は,公知発明1(ICX084ALを使用した2次元
コードリーダの発明)に,周知慣用技術(乙8,乙11,乙25等)及び乙5や乙24に記載の公知技術(又は周知技術)を組み合わせたものにすぎず,これらに基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるから進歩性を欠き,無効とすべきものである。

【原告の主張】
a
乙55(
「日経エレクトロニクス」の平成7年9月25日号)から読
み取ることができるのは,同雑誌にソニー社のCCDの広告があること,CCDのタイプ名に「ICX084AL」等があること,同CCDの用途として,電子スチルカメラ,PC画像入力,2次元バーコードリーダ,FA用カメラなどがあることであるが,同広告には,
「ICX084AL」がマイクロレン

ズ付きであることの説明はない。
広告のCCDの用途の例示として2次元バーコードリーダが挙げられているものの,
実際に広告に記載されたソニー社製CCDが2次元コードリ
ーダに用いられているわけではなく,
「このような用途も考えられます」
ということが示されているだけである。
b
被告は,乙42,乙43,乙56などから,上記「ICX084AL」がマイクロレンズ付きである旨主張する。しかし,乙42は,発行日も定かでなく,記載されたCCDがマイクロレンズ付きであるという説明もない。また,乙43はインターネット上の画面にすぎず,出願時の特許法では刊行物に該当せず,しかも,米国内での販売を示しているだけである。乙56は,
「ICX084AL」を用いた製品の分解実験の事実実験公正証書で
あるが,仮に乙56のとおり分解実験がされたとしても,そもそも乙56の分解実験に使用された製品
(乙56製品)
の出所自体が不明である。
乙56製品は,現在,米国で販売されている製品(インターネットで購入が可能である)であり,本件特許の出願前に日本国内で販売されたものではないものと推測される。

そうすると,最近米国で販売された乙56製品に「ICX084AL」が用いられ,
そのCCDがマイクロレンズを備えたものであることを証明しても,本件特許出願時に「ICX084AL」を用いた2次元コードリーダが,日本国内で公知公用であったことの証明にはならない。
このほか,乙44,乙45についてみても,乙44は刊行物性も頒布
日も不明で天体望遠鏡の用途に用いられる例が開示されているだけであり,乙45もいつのものか不明の製品の写真にすぎず,マイクロレンズ付きであるかどうかも不明である。
以上によれば,日本国内における公知資料としては,乙55の広告が「ソニー社製CCDの考えられる用途の一例として2次元バーコードリーダを挙げている」だけであり,実際に「ICX084AL」を使用した2次元バーコードリーダが日本国内で知られていたとも,公然実施されていたとも認められない。
c
仮に,乙55を主引用例としても,前述のとおり,乙55には,
「CCD
を2次元バーコードリーダーに用いることもできる」
ということが示さ
れているだけで,本件発明の課題などは全く明らかでない。
被告は,
2次元配置のマイクロレンズ付きCCDを用いた2次元コード
リーダの存在を前提とし,それを「公知発明1」とした上で,本件発明との一致点相違点を認定し進歩性を論じているが,「公知発明1」・
この
は仮想のものにすぎない。
また,被告は,周辺部の光量不足は当業者に周知であったとも主張す
るが,引用する乙6,乙7,乙10ないし乙18は,いずれも2次元コードリーダを用途とするものではない。エリアセンサを使用した「2次元コードリーダ」
におけるセンサ周辺部の光量不足に起因する読み取り
の課題とその解決手段は,本件発明の発明者が初めて見出したものである。

(イ)

2次元コードリーダ
(IT4400)
を主引用例とする進歩性欠如の有無
(争
点2-2)について
【被告の主張】

a
本件特許出願前に,2次元コードリーダIT4400は,以下のとおり,日本国内で販売され,公然に知られていた。
WelchAllyn社(以下「ウェルチアレン社」という。
)は,米国の会社

であり,1996年(平成8年)2月に,米国で,2次元コードを読み取ることのできるコードリーダImageTeam4400(IT4400)の販売を開始した(乙65の2,4,6)
。IT4400は,日本にも輸出され,本件特
許出願前,アイニックス株式会社(以下「アイニックス社」という。)を
含む数社が輸入し,アイニックス社はこれを日本の顧客に販売した(乙65)

アイニックス社は,平成9年7月から,ウェルチアレン社の2次元コードリーダIT4400の販売を開始した。アイニックス社は,購入した
IT4400を自社で使用するほか,同月にキーエンス,ウェルキャット,JBCC等の顧客に販売した(乙65の5)

また,乙66は,HoneywellInternationalInc.(以下「ハネウェル社」という。
)が入手したIT4400の日本の顧客への販売を示すリス
トである。
同リストには,
アイニックス社に,
1997年
(平成9年)
6月にモデル名44001
(4400LR-131)
を6台販売したこと,
同年7月に
同モデルを20台販売したことが示されているが,アイニックス社の台帳(乙65の5)にも,同月7日付けで同モデル6台が入庫したこと,同年8月7日付けで同モデル20台が入庫したことが記載され,当該リスト(乙66)とアイニックス社の台帳(乙65の5)の記載は合致している。
なお,
原告の前身であるシステム機器株式会社は,
本件特許出願前

に日本国内でIT4400を購入していたのであるから,原告は,IT4400が本件特許出願前に日本国内で販売されていたことを当然知っていたと考えられる。
b
IT4400には,長距離読取に適したLRタイプと,高密度読取に適したHDタイプの2種類があり
(乙77の1)いずれもアイニックス社

により本件特許出願前に日本国内において販売されていた。
被告代理人が入手したIT4400(乙56,乙77の7)はLRタイプ
であり,ハネウェル社が入手したIT4400(乙45,乙77の8),ゼ
ブラテクノロジーズジャパン株式会社が入手したIT4400甲24)・


は,アイニックス社が販売した製品と同一のものであった(乙77の1)

なお,これらの製品の製造年月は,その製品のラベルから,平成9年5月
(乙56,乙77の7)
,同年7月(乙77の8)
,同年7月(甲
24,乙77の8)である。甲25の製品は,平成10年7月とラベ
ルに記載されているが,
製造月が異なっても,
同一の公知センサ
(Sony
社製のICX084AL)
及び絞りを含むレンズ構成が採用されていることか
らすると,IT4400(LRタイプ,HDタイプの全て)の製品において,同一の公知センサとレンズ構成が使用されていたと考えられる。
さらに,通常,シリアル番号は,製造された順で番号が割り振られるものであること,
アイニックス社が販売した製品のシリアル番号は,
被告らが入手した製品のシリアル番号と極めて近いことから,
ほぼ同
一の時期に製造されたものであるといえる。また,CCDセンサとレンズ構成を変更するとコードリーダ全体の大幅な設計変更が必要となるところ,
同じ型番の,
極めて近い時期に製造された製品が異なるCCD
センサとレンズ構成を採用しているとは考えられない。

なお,乙45製品(ハネウェル社購入品)及び乙56製品(被告購入品)
はアイニックス社の販売した製品の構成を立証するための間接
証拠であり,
これらが実際に日本国内で本件特許出願前に販売されて
いたかどうかは問題ではない。
乙45製品
(ハネウェル社購入品)乙

56製品(被告購入品)はアイニックス社の販売した製品と同一であ
る。
また,
ユーザーズガイドのラベルはラベルの説明を行うためのもの
にすぎず,この日付から,ユーザーズガイドの発行日が本件特許出願後であったと当然に認定することはできない。乙65の3は,被告代理人が,インターネットで検索を行い,入手したユーザーズガイドで
あり,
乙45製品
(ハネウェル社購入品)
と乙56製品
(被告購入品)
に添付されていたものではない。乙56製品(被告購入品)にはユーザーズガイドは添付されていなかった。
このほか,日本で販売された製品すべてに日本語のユーザーズガイドが添付されているとは限らない。事実,アイニックス社によれば,
本件特許出願前,
IT4400には英語のユーザーズガイドが添付されて販
売されていた。
前記のとおり,アイニックス社が本件特許出願前にIT4400を販売していたことは明らかである。
さらに,
原告は,
原告購入品と,
月刊バーコード誌平成9年8月
(甲
10)
に掲載されたアイニックス社の広告の写真とでは細かな相違点
があるとして,被告やハネウェル社が購入した製品は,アイニックス社が販売したIT4400とは異なるとも主張する。
しかし,アイニックス社によれば,甲10の写真は,ウェルチアレン社から提供を受けた写真であり,
アイニックス社が実際に日本で販
売した製品の写真ではないため,
甲10の写真との比較によりIT4400

と同一か否かを論ずること自体,意味がない。
アイニックス社が日本において本件出願前に販売したIT4400の外観は,乙77の5に示されるものであり,被告及びハネウェル社が入手した製品の外観は乙77の5と同じである。
以上より,被告及びハネウェル社が入手した製品は,アイニックス
社が本件特許出願前に日本国内で販売したIT4400と同一であり,当該IT4400は,少なくとも,公知センサを用い,被告及びハネウェル社が入手した製品と同一のレンズ構成を有するものであったといえる。
c
本件特許出願前,
受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的セ
ンサである公知センサを用いた2次元コードリーダであるIT4400が
発売され,
かかる2次元コードリーダが公然知られ,
日本国内で公然
実施されていた(以下「公知発明2」という。。IT4400は広告等に)
「二次元コードが読み取りできる」
と記載があることからもわかるよ
うに,2次元コードを読み取る2次元コードリーダであった。
d
本件発明と公知発明2を対比すると,
両者の相違点は以下のとおり
である。
(相違点1)
本件発明は,
「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過し
た後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」ているのに対して,公知発明2においては,絞りは複数のレンズの間に配置されている点。
(相違点2)
本件発明は,
「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子から
の出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子から
の出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしている」
のに対し,
公知発明2がかかる構成を備
えるか不明である点。
(相違点3)

本件発明は,
「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値
に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,
検出結果を出力するカメラ部制御装置」
を備えるのに対
し,公知発明2がかかる構成を備えるか不明である点。
e(a)相違点1について

受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサを光学情
報読取装置に使用する場合,光学的センサの中心部にある集光レンズに比べて,
周辺部にある集光レンズに入射する光束が斜めから入
射し,入射光束が受光素子に有効に入射しなくなる結果,周辺部の光量が不足するという問題点は当業者に周知であった
(乙6,
乙7,

乙10ないし乙18)
。この問題点を解決する構成として,その射
出瞳位置を遠くすること,
そのために対象からの反射光が絞りを通
過した後でレンズに入射するように絞りを配置すること(乙7,乙11ないし乙17)
,射出瞳を結像面からなるべく離した構造とし
て,全てのレンズの前面(読取対象側)に絞りを配置した構成とすることも,
2次元コードの読み取りを含む光学情報読取装置を扱う
当業者にとって周知の構成であった(乙11ないし乙15等)

したがって,当業者は,IT4400においても,周辺部の光量が不足するという課題を認識し,絞りをレンズの間に配置する構成に代えて,射出瞳位置を遠くするために,対象からの反射光が絞りを通過した後でレンズに入射するように絞りを配置する構成を採用する

ことは容易に想到し得たといえる。つまり,かかる一般的な課題を知っていた当業者は,
「複数のレンズで構成され,読み取り対象か
らの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」と,
「該光
学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと」を備えた
IT4400に,
「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した

後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置する」という周知技術を組み合わせることは容易に想到し得るものであった。
なお,IT4400は,
「デジタルカメラの原理」を採用した2次元コ
ードリーダであった(甲65の6)ため,同じ,デジタルカメラの光学系を開示する乙11ないし乙15を組み合わせる動機づけは

十分にあったといえる。
また,
「光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く
設定し」の「相対的」の意味は不明確であり,それ自体が無効理由を構成する。
この点,
原告は,
「読み取り対象からの反射光が前記絞
りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,絞りを配置」し
ていないものと比べて,相対的に長いとの意味であると主張するようであり,
「読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で
前記結像レンズに入射するよう,絞りを配置」するものであればかかる要件も同時に充たすと主張するようである。かかる原告の主張を前提とすれば,IT4400に周知技術に組み合わせた場合,
「読み取
り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに
入射するよう,
絞りを配置」
することとなるため,
「光学的センサか

ら射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」
(構成要件F)する
構成も同時に有することとなる。
したがって,公知発明2に上記周知慣用技術を組み合わせること
により相違点1に係る事項は容易に想到し得る。
(b)相違点2について

前記(ア)【被告の主張】d(b)記載のとおり,この点は,周知慣用技術であり,公知発明2に上記相違点2に係る事項を採用するこ
とは,当業者であれば適宜に採用し得る周知慣用技術の付加にす
ぎず,容易に想到し得るものである。
(c)相違点3について

前記(ア)【被告の主張】d(c)記載のとおり,この点は,周知慣用技術であり,公知発明2に,出力信号を増幅し,2値化する周知技術,及び,乙5や乙24に記載の2値化された信号の中から所定の周波数成分の検出を行う制御回路を設ける公知技術を組み合わせ
ることにより容易に想到し得るものである。

f
以上のとおり,
本件発明は,
公知発明2に,
上記の周知慣用技術
(乙
8,乙11,乙25等)及び乙5や乙24に記載の公知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものであるから進歩性を欠き,無効とすべきものである。

【原告の主張】
a「IT4400」が本件特許出願前に日本国内において公然実施されたとはいえないこと
被告は,アイニックス社が平成9年7月から「IT4400」を日本国内で販売していたと主張するが,乙65の4の回答によれば,
「製品は
保管されていません。
」というのであり,実際にアイニックス社が同
月に日本国内で販売したという製品は現存していない。

また,アイニックス社は,
「ユーザーズガイド(添付資料2)に記載
のIT4400は,貴社が1997年7月に輸入販売を開始したWelchAllyn社の二次元イメージャIT4400に相違ないでしょうか。」との問
いに対し,
「相違ございません。
」と回答しているが(乙65の4)
,添
付資料2(乙65の3)のユーザーズガイドは,製造日の記載から平
成11年7月以降に発行されたものであり,また著作権表示からは平成12年の発行であることが明らかである。
したがって,アイニックス社が平成9年7月に日本でIT4400を販売したのかどうか不明である。
b
「IT4400」の構成の不明確性
仮に,アイニックス社が平成9年7月にIT4400を日本国内で販売したとしても,その「IT4400」が具体的にいかなるものかは不明である。
なお,乙65の6及び乙65の7でも,アイニックス社が販売した
という「IT4400」がマイクロレンズ付きの2次元配置CCDを用いているという記載はない。
ハネウェル社購入製品(乙45)
,被告購入製品(乙56)及び原告
購入品
(甲9)いずれも最近米国で販売されたものであるところ,
は,
原告購入品が販売可能となったのは平成9年12月以降である上,こ
れらは,モデル名の表示も異なる。
また,
「2次元コードリーダ」
を製品として販売するに際し,
ユーザ
ーズガイドの添付は必須と思われ,アイニックス社から平成11年7月に「IT4400」が販売されたとすれば,日本語のユーザーズガイドや保証書が必要であったと思われるが,これらの証拠はない。
なお,
原告購入品に同封されたユーザーズガイド自体に印刷日等の
日付の記載はないが,製品を特定するラベルに記載されている製造日
は平成9年12月であり,また,乙65の3のユーザーズガイド(乙45製品又は乙56製品に添付されていたものと推測される。
)は,
その著作権に関する記載からすれば,平成12年に発行されたものと解される。
そして,アイニックス社が平成9年7月に発売したという製品は,
月刊バーコード誌平成9年8月号(甲10)に掲載されたアイニックス社の広告の「IT4400」
(月刊バーコード品)と考えられるところ,月
刊バーコード品と原告購入品とでは,以下の相違が認められる。



グリップと底板とを連結するための係合穴の有無



上面に嵌め込まれた読取完了を示す発光部の相違。



読取完了を音で報知する放音用の穴の有無

「WelchAllyn」のプレートの相違。

したがって,
乙45製品や乙56製品と平成9年7月にアイニック
ス社から販売されたと被告が主張する「IT4400」は,具体的形態その他において相違しており,
同一の製品であるとは認められない。
なお,

月刊バーコード誌では,
「IT4400」が2次元コードを読み取ることが
できる旨の説明はあるが,CCDを使用しているのか自体も含めて,「IT4400」がCCDを用いていることについての説明は一切ない。c
「IT4400」から本件発明は容易に推考できないこと
被告の主張によっても,集光レンズ付き受光素子を2次元配置した2次元コードリーダは,本件発明の出願前3ヶ月前(平成9年7月)にようやく公知公用となったのであり,しかも,絞りは読み取り対象側(右側)から2つ目のレンズと3つ目のレンズとの間に配置されていたのであるから,その時点では,集光レンズ付き2次元配置の受光素子を2次元コードリーダに使用したときの本件発明の課題は,何人も認識していなかったものである。
他方,被告が引用する副引用例は,いずれも2次元コードリーダについてのものではない。
本件発明の2次元コードリーダと副引用例のビデオカメラとでは,マイクロレンズ付きCCDを用いるとしても,2次元コードリーダは,
ビデオカメラほどきれいな像は必要とされないが,その代わり,より正確により早く周辺部においても2次元コードを読み取ることができるよう,
受光素子の周辺部の集光率を低下させないことが必要とな
る。
そのため,
光学的センサの中心部に位置する受光素子と周辺部に位

置する受光素子との
「出力比が所定値以上」
であることが重要である。
そうしてみると,乙45製品,乙56製品や原告購入品は本件発明の課題など全く想定していないにもかかわらず,
本件発明を知ること
なく,
被告が引用するビデオカメラ用であって2次元コードリーダに
ついてのものではない副引用例を参照したからといって,
当然のごと

く2次元コードリーダである「IT4400」における本件発明の「課題」を見出し,その「IT4400」に,2次元コードリーダでない上記副引用例を適用して,絞りをレンズの一番前に移動させた上で,これら副引用例には開示されていない,読み取り性能を向上させるために中心部と周辺部の出力比が所定値以上となるように配置を工夫するなどと
いった2次元コードリーダに特有の構成を採用することが容易に推考できるなどということはできない。
以上のとおり,
「IT4400」
が出願前に公知であったとしても,
本件発
明は容易に推考できるものではない。
(ウ)

乙5を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-3)について

【被告の主張】
a
乙5には,
TVカメラ等の画像検出装置を用いて二次元コードを取
り込むこと,読取装置にCCDを使用すること,CCDから出力された画像信号を2値化し,
特定周波数成分を検出し,
これらの制御を行うCPU
を有する二次元コード読取装置(以下「乙5発明」という。
)が記載さ
れている。

b
本件発明と乙5発明とを対比すると,以下の相違点が存在する。

(相違点1)
本件発明の光学的センサは,
「受光素子ごとに集光レンズ」が設けら
れているのに対し,乙5発明のCCDは「受光素子ごとに集光レンズ」を備えたものであるか明らかでない点。
(相違点2)
本件発明は,
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光
を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」と,
「該光学的センサへの
前記反射光の通過を制限する絞りと」を備え,
「前記読み取り対象から
の反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,
前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」
ているのに対して,
乙5発明がかか
る構成を備えるか不明である点。
(相違点3)
本件発明は,
「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの

出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,
中心部においても周辺部においても読取が可能となる
ようにしている」のに対し,乙5発明がかかる構成を備えるか不明である点。
(相違点4)
本件発明は,
「前記光学的センサからの出力信号を増幅して」いるの
に対し,乙5発明がかかる処理を行うか不明である点。
c(a)相違点1について
乙5発明のリーダにおけるCCDを「受光素子ごとに集光レンズが設けられた」ものとすることについては,光学情報読取装置において受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサを用いる

ことは周知であり,光学的センサの高集積化に伴い,集光率を高めるためにマイクロレンズを用いることは,本件特許出願時の一般的な技術的趨勢にほかならないもの(乙42ないし乙45,乙6,乙7,乙10ないし乙23)であった。したがって,乙5発明のリーダにおける光学的センサを「受光素子ごとに集光レンズが設けられ
た」ものとすることは,容易に想到し得るものであった。
2次元シンボルは,ビデオカメラやテレビカメラで読み取られる
ことも複数の引用文献(乙35ないし乙38)に記載されるとおり周知であり,
乙11ないし乙22に記載の受光素子ごとに集光レン
ズが設けられた光学的センサを使用するビデオカメラを乙5発明

の2次元シンボルを読み取るリーダに組み合わせる動機付けも十
分にあった。特に,集光レンズが設けられたCCDであるICX084ALは,用途を2次元バーコードリーダ用と明記しており,このような用途を有するCCDを乙5発明に採用することは当業者にとって十分な動機付けもあり,容易に想到し得るものであったといえる。

なお,ICX084ALの用途として,2次元バーコードのほか,電子スチルカメラ,PC画像入力,FA用カメラなどのアプリケーション
が示されており
(乙55)このような光学系は汎用性が高く,

ビデ
オカメラで採用されている光学系と2次元コード読取装置の光学
系は共通していることが知られていて,ビデオカメラで採用されている光学系を2次元コード読取装置の光学系に採用する動機付け
があったことを示しているといえる。
したがって,乙5発明のリーダにおける光学的センサを「受光素
子毎に集光レンズが設けられた」ものとすることは,出願時の当業者であれば容易に想到し得たものである。
(b)相違点2について

前記(ア)【被告の主張】d(a)記載のとおり,この点は,周知慣用技術であり,乙5発明にこれらの技術を組み合わせることにより,相違点2に係る事項は容易に想到し得る。
なお,
受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサを用
いた場合に生じる,センサに光が斜めに入射することに伴うセンサ
周辺部における光量不足という本件発明の課題は,ビデオカメラ等を開示する乙10~乙18にも同じ記載があるとおり,ビデオカメラ等においても共通する課題であり,ビデオカメラと光学情報読取装置で,原告主張のような画像認識の仕組みの違いにより,かかる課題が異なることはない。

(c)相違点3について
前記(ア)【被告の主張】d(b)記載のとおり,この点は,周知慣用技術であり,乙5発明にこれらの技術を組み合わせることにより,相違点3にかかる事項は容易に想到し得る。
(d)相違点4について

CCD等のイメージセンサを用いた場合において,CCDの出力を増幅するプリアンプやAGCアンプを設けることは一般的に採用さ
れており(乙8,乙25ないし乙31,乙33)
,2次元バーコード
リーダにおいてもCCDセンサからの出力を増幅することは周知慣用技術であった(乙8,乙25ないし乙31)
。したがって,乙5発明
において,CCDの出力信号を増幅する処理を組み合わせることは本件特許出願前の周知慣用技術の付加にほかならない。

d
以上のとおり,本件発明は,乙5発明に,上記の周知慣用技術
(ICX084ALや乙6,乙8,乙25等)を組み合わせたものにすぎず,当業者が容易に想到し得たから,進歩性を欠く。
【原告の主張】

a
乙5は,
QRコードの基本構成を記載したもので,
「複数のレンズ」

「絞り」や本件発明の「受光素子ごとに集光レンズを設けた光学的センサ」など2次元コードリーダの具体的な構成については開示がない。
また,乙5には,本件発明の技術的課題と解決手段,すなわち,

「光学情報読取装置において,光学的センサに集光レンズを設けることにより,同光学的センサの周辺部の読み取り性能が低下する」という課題に対し,
「絞り」の配置位置を工夫することなどにより,
これを解決するという本件発明の特徴的部分については,開示も示唆も一切ない。すなわち,
「結像レンズは複数枚のレンズが組にされ

た組レンズとして構成されていて,その中心付近に絞りが配置されていた」従来の光学情報装置(2次元コードリーダ)において,
「受
光素子ごとに集光レンズを設けた光学的センサ」に適用した場合に生じる「周辺部の読み取り性能の低下」などという本件発明の解決課題はどこにも示されておらず,この課題を解決するために「読み
取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置」することなどにより,周辺部においても適切に読み取ることができる光学情報読取装置を構成するという技術思想は皆無である。
b
そのため,乙5を主引用例として本件発明に到達するためには,
①まず,「CCD」を2次元配置の「CCDエリアセンサ」としたうえで,この「CCDエリアセンサ」を集光レンズ(マイクロレンズ)付
きのものとすることを想到し,②開示されていない「複数のレンズ」と「絞り」の配置を想到し,③上記①,②の結果,本件発明の課題を新たに発見,認識し,④更に,これを解決するために「読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置するなどの構成を採用する」という解決手段を発
見しなければならない。
このように,被告の無効主張は,上記の多段階の推考をしなけれ
ば本件発明に到達しないものであり,いわゆる「容易の容易」を多数回重ねるもので,当業者において容易に想到できるものではないことは明白である。

(エ)

乙6を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-4)について
【被告の主張】

a
乙6には,複数の受光部が行列状に配列されるとともに,受光部の上部に光を集光するオンチップレンズが形成されたCCD固体撮像素子をOCR等の光学的読取装置に使用すること,
光学的読取装置にはカメラレ

ンズや絞りが備わっていること,
オンチップレンズ付きのCCD固体撮像
素子を使用する場合,カメラレンズの絞りや,射出瞳特性等により一部集光されない光があるという問題点があること(以下「乙6発明」という。
)が開示されている。
b
本件発明と乙6発明を対比すると,両者の相違点は以下のとおりである。
(相違点1)
本件発明における結像レンズは
「複数のレンズで構成され」
ており,
「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」ているのに対して,
乙6発明における
「カメラレンズ」
の枚数や
「カメラレンズ」
と「絞り」との位置関係は不明で,
「射出瞳位置までの距離を相対的に
長く設定」されているか不明である点。
(相違点2)

本件発明において,
「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子
からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」いるのに対して,乙6発明では,
「前記光学的センサの中心部に位置す
る受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する
受光素子からの出力の比が所定値以上となる」といえるものであるか否か不明である点。
(相違点3)
本件発明は,
「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に
基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検
出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」を有するのに対し,乙6発明には「CCD固体撮像素子」から出力された信号をいかに処理するかを説明する記載はない点。
(相違点4)
本件発明は「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部におい
ても読取が可能となるようにした」ものであるのに対し,乙6発明が露光時間などの調整を行うかどうか不明である点。
c(a)相違点1について
相違点1のうち,結像レンズを2枚以上で構成することは必要に

応じて適宜に採用されている周知慣用技術にすぎないものであった(乙7ないし乙9,
乙10ないし乙17,
乙24,
乙39,
乙40)

また,相違点1のうち,構成要件Fに係る構成は,前記(イ)【被告の主張】e(a)のとおり,周知慣用技術であった。
なお,
「光学情報読取装置」が光学的な情報を読み取る装置である
ことは特許請求の範囲の記載から一義的に明確に理解できるため,本件発明の光学情報読取装置は,2次元コードリーダに限定されるものではない。そして,OCR(光学式文字読取装置)も光学情報読取装置であることは明らかであり,2次元コードリーダであるか否
かは相違点とはならない。
仮に,原告が主張するように乙6発明が固体撮像素子の発明であ
るとすれば,
OCRはその一例にすぎず,
乙6発明はオンチップマイ
クロレンズ付きCCDを用いる装置一般に適用可能な発明であり,2次元コードリーダに適用する十分な動機付けもあったといえる。

また,乙6発明には「カメラレンズの絞りや,射出瞳特性等により一部集光されない光がある。「H方向とV方向とで入射する斜め光」
L′の量および入射光の入射方向の限界が異なっていた。
」との記載
があるように,
カメラレンズの絞りや,
射出瞳特性等による入射光の
入射方向の限界という本件発明が解決しようとする課題と同等の問
題点も示唆されており,かかる課題の解決のために,乙7,乙10ないし乙18が開示する「読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で
(複数のレンズで構成された)
結像レンズに入射するよう,
絞りを配置する」
構成を採用することの動機付けがあった。
したがっ
て,乙6発明にかかる構成を組み合わせることは当業者にとって容
易であった。
以上のとおり,
乙6発明において,
相違点1に係る事項を採用する
ことは,当業者であれば当然に想到する技術常識的な設計事項にすぎず,容易に想到し得るものである。

(b)相違点2について
前記(ア)【被告の主張】d(b)記載(ただし,
「出力の比が所定値以上
となるように射出瞳位置を設定すること」に係る部分)のとおり,この点は,周知慣用技術であった。
したがって,乙6発明において,相違点2に係る事項を採用することは,
当業者であれば当然に想到する技術常識的な設計事項にすぎず,
容易に想到し得るものである。
(c)相違点3について
前記(ア)【被告の主張】d(c)記載のとおり,この点は,周知慣用技
術であった。
なお,乙6発明は,OCRであるところ,OCRは読み取った画像を白・黒に2値化して処理するものであるため,乙6発明のOCRを用いた場合,
当業者は2値化についての記載がなくとも2値化処理が
行われるものと理解する。

また,OCR装置は,手書きや印刷された文字・数字・記号などを光学的に読み取り,電気信号に変換するものであり,乙6発明のOCR装置を,
記号の1つである2次元コードを読み取る用途に使用する
ことも当業者であれば容易に想到し得る事項である。そして,その際には乙5に開示された「2値化された信号の中から所定の周波数成分
比を検出し,検出結果を出力する」ように構成することになることは明らかである。
したがって,相違点3に係る事項は,乙6発明に乙9の周知技術や乙5や乙25記載の公知技術(または周知技術)を組み合わせることにより,容易に想到し得るものである。

(d)相違点4について
前記(ア)【被告の主張】d(b)記載(ただし,
「露光時間などの調整」
等に係る部分)のとおり,この点は,周知慣用技術であった。
したがって,
乙6発明に上記相違点4に係る事項を採用することは,
当業者であれば適宜に採用し得る周知慣用技術の付加にすぎないものであり,容易に想到し得るものである。
d
以上のとおり,
本件発明は,
乙6発明に,
周知慣用技術
(乙8,
乙9,
乙11,
乙25等)
及び乙5や乙24に記載の公知技術
(又は周知技術)
を組み合わせたものにすぎず,当業者が容易に想到し得たものであるから進歩性を欠く。

【原告の主張】
a
乙6は,本件発明の光学情報読取装置(2次元コードリーダ)を開示しておらず,マイクロレンズ付きCCDエリアセンサを2次元コードリーダに用いる上での工夫である本件発明の技術的課題,解決手段について示唆するところは皆無である。

b
本件発明は,
「受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサ」
を使用した場合に生じる「光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下」を極力防止し,適切な読み取りを実現する光学情報読取装置を提供することを目的とするものである。一方,乙6発明は,
「OCRカメラレンズに使用されることもあるオンチップレ
ンズ付きCCD」であるから,二次元コードリーダの光学系である「複数
のレンズ」

「絞り」二次元コードリーダのコード情報を読み取る
や,
「カ
メラ部制御装置」については開示も示唆もない。
必然的に,乙6発明には,本件発明の技術的課題と解決手段,すなわち,
「光学情報読取装置において,光学的センサに集光レンズを設けること」
により,
「同光学的センサの周辺部の読み取り性能が低下する」

いう課題に対し,同光学情報読取装置において「絞り」の配置位置を工夫することなどにより,これを解決するという本件発明の特徴的部分について,開示も示唆もない。
そこで,
乙6を主引用例として,
本件発明に到達するためには,「O

CRカメラレンズに使用されうる」オンチップレンズ付きCCDである乙6開示技術を,
乙6に適用の動機付けが一切開示されていない2次元コ
ードリーダにあえて適用した上で,②その2次元コードリーダについて,
いずれも開示がない「複数のレンズ」と「絞り」の構成及び配置を想到し,③上記①,②の結果,本件発明の課題を新たに発見,認識し,④前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上
となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにするという解決手段を発見しなければならない。
このように,被告の無効主張は,上記の多段階の推考をしなければ本件発明に到達しないものであり,容易に推考できるものでないことが明
らかである。
(オ)

乙7を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-5)について
【被告の主張】

a
乙7には,
受像面上の全面に亘って複数のマイクロレンズが配設され
ているCCDの固体撮像素子と,絞りと,絞りの前方側に位置され,絞り上に後側焦点位置を位置させ,
物空間においてテレセントリック光学系
を構成している第1のレンズ群と,
絞りの後方側に位置され,
絞り上に
前側焦点位置を位置させ,
像空間においてテレセントリック光学系を構
成している第2のレンズ群とを備えた指紋照合装置が記載され,
このよ

うな光学系を採用したことにより,
像面に対して入射する主光線入射角
がこの像面上のいずれの点に対しても等しくなり,
像面上における光量
分布が平坦になること
(以下
「乙7発明」
という。が記載されている。

なお,本件発明の光学情報読取装置は,2次元コードリーダに限定されるものではない。指紋照合装置も指紋を光学的に読み取る装置であり,技術分野は同一である。
b
本件発明と乙7発明を対比すると,両者の相違点は以下のとおりである。
(相違点1)
本件発明は,光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,
検出結果を出力するカメラ部制御装置を備えるのに対し,乙7発明ではこのようなカメラ部制御装置を備えることが明らかでない点。
(相違点2)
本件発明は,露光時間などの調整を行うのに対し,乙7発明ではそのような調整を行うか明らかでない点。

c(a)相違点1について
前記(ア)【被告の主張】d(c)記載のとおり,この点は,周知慣用技術であった。
乙7は,
乙7発明の光学系を指紋照合装置に適用できることを示し
ているが,
指紋照合の具体的な処理方法については述べられていない。

しかしながら,指紋を照合する際に,2値化や,特異点を抽出して比較することは周知であり,前記の周知慣用技術をも考慮すると,乙7に光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化することについての記載がなかったとしても,当業者は当然にこれらの処理を行うものと理解する。

なお,当業者であれば,
【0018】段落で述べられた「受像面に対
する光束の入射角度が所定角度以下となる領域が生ずると,この領域
では,
該受像面上の全面に亘って配設されている複数のマイクロレン
ズのため,該光束が受光されないこととなる。
」との問題点は,CCDの
受像面が傾斜されているか否かに関わる問題ではないことを理解するといえる。さらに,入射角度が大きくなるのはCCDセンサの周辺部であり,
センサの周辺部における光量が不足することは図15からも
明らかといえる。
よって,乙7には,オンチップマイクロレンズ付きCCDを光学情報読取装置に使用した場合の課題(周辺部においても適切な読み取りを行うようにする)が開示されている。

また,乙7発明の用途の「指紋照合装置」はあくまで例示であり,乙7発明の用途はこれらに限られないと考えられること,指紋も光学的に読み取られる情報であり,指紋照合装置も光学的読み取り情報であること,仮に「所定の周波数成分比」との言葉からかかる処理が2次元コードの処理を意味するものと考えても,指紋と2次元コードは,
ある一定の範囲に存在する模様自体が情報であり,指紋照合装置も2次元コード読取装置もいずれもこれらの情報を光学的に読み取り処理する点で極めて近い分野であり,本件発明の課題と解決手段を考慮する上では,
指紋照合装置も2次元コード読取装置も何ら違いはない
と考えられる。

したがって,
乙7発明に,
光学的センサからの出力信号を増幅して,
閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,
検出結果を出力するカメラ部制御装置を組み合わせる
ことは容易に想到し得たものである。
(b)相違点2について

乙7発明は,
センサの全領域で適切な光量を得ることを考慮したも
のであり,そのために,露光時間を調整することは乙8,乙25,乙34に記載のように周知の技術にほかならないものであった。
したがって,乙7発明において,相違点2に係る事項を採用することは,当業者であれば適宜に採用し得る周知慣用技術の付加にすぎないものであり,容易に想到し得るものである。
d
以上のとおり,本件発明は,乙7発明に,周知慣用技術(乙8,乙25等)及び乙5や乙24に記載の公知技術(又は周知技術)を組み合わせたものにすぎず,
当業者が容易に想到し得たものであるから進歩性を
欠く。

【原告の主張】
a
本件発明は,
「受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサ」
を使用した場合に生じる「光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下」を極力防止し,適切な読み取りを実現する光学情報読取装置を提供することを目的とするものであるところ,乙7発明は,指紋照合装置であり,
「2次元コードリーダの光学系として

の,複数のレンズ,絞り」や,2次元コードリーダのコード情報を読み取る「カメラ部制御装置」については開示がない。
また,
そもそも乙7発明は,用途を指紋照合装置とする「結像レン
ズ装置」の発明であるのに対し,本件発明の「光学情報読取装置」は2次元コードリーダであり,乙7発明とは,技術分野が相違してい
る。しかも,乙7は「結像レンズ」を主とする発明であり,実施例における固体撮像素子(CCD)に関しての詳細な説明がない。その結果,乙7には,テレセントリック光学系の結像レンズと共に用いられるCCD(74,86,94)がマイクロレンズ付きCCDであることの開示も示唆もない。

仮に,乙7にマイクロレンズ付きCCDの開示があるとしても,マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダに用いる上での課題(中心部においても周辺部においても適切な読取を可能とする)や解決手段についての開示や示唆はない。
b
そのため,乙7を主引用例として,本件発明に到達するためには,①指紋照合装置である乙7発明を,特段の動機付けもないのに,光学情報読取装置(2次元コードリーダ)に適用し,②開示されていない「2次
元コードリーダの複数のレンズと絞り」の配置を想到し,③上記①,②の結果,本件発明の課題を新たに発見,認識し,④前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中
心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記

射出瞳位置を設定するという解決手段を発見しなければならない。この
ように,被告の無効主張は,上記の多段階の推考を重ねなければ,本件発明に到達しないものである。
(カ)

乙8を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-6)について
【被告の主張】

a
乙8には,複数のレンズから構成される焦点レンズシステムと,センサと,絞りと,センサの出力を増幅するビデオアンプと,ビデオアンプ等を制御するCPUとを備える2次元シンボルを読み取るリーダにおいて,
読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後でレンズに入射す

るように絞りが配置され,照明を制御することによりセンサの全ての受光素子によって生成される光を平均化でき,所定の閾値以上の平均強度となるように光の強度を調整して,適切な読み取りが可能となるようにしたもの(以下「乙8発明」という。
)が開示されている。
なお,本件発明の「絞り」は,特許請求の範囲に記載のとおり,光学
的センサへの読み取り対象からの反射光の通過を制限する機能を有するものが記載されており,絞りが入射の光量の「調整」を行うことについては何ら限定がない。したがって,乙8の絞りが入射光量の「調整」を行うかどうかは,乙8と本件発明の相違点とならない。
また,乙8には「2次元コード・・・全体のシンボルは,CCDアレイのようなセンサアレイを用いて一度で取り込まれる」ことが開示されており,乙8発明のCCDセンサが受光素子を二次元的に配置したものであ
ることは明らかである。
b
本件発明と乙8発明を対比すると,両者の相違点は以下のとおりである。
(相違点1)

本件発明では,
光学的センサの受光素子ごとに集光レンズが設けられ
ているのに対し,乙8発明では,CCDセンサの受光素子ごとに集光レンズが設けられているかどうか不明である点。
(相違点2)
本件発明では,
カメラ部制御装置は光学的センサからの出力を2値化

し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するのに対し,乙8発明では,シンボルの方向や外周を決定する処理を行うが,このような処理を行うか明らかとされていない点。(相違点3)
本件発明は,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出

力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたのに対し,乙8発明ではこの点が明らかとされていない点。
c(a)相違点1について

前記(ウ)【被告の主張】c(a)記載のとおり,この点は,周知慣用技術であった。
また,乙8発明のリーダは,2次元シンボルのみならず,バーコードも読み取り可能なものであり,受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサをバーコードリーダに使用することは乙19ないし乙22に記載されるとおり周知であり,これらに記載の受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサを,同じくバーコードを読み取る乙8発明に組み合わせる動機付けは十分にあった。
したがって,乙8発明のリーダにおける光学的センサを「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとすることは,出願時の当業者であれば容易に想到し得たものである。
なお,乙19ないし乙22には,バーコードについてはラインセン
サに加えてエリアセンサが開示されており,乙26や乙29には,エリアセンサを用いてバーコードを用いることが記載されていることから,
乙19ないし乙22のオンチップマイクロレンズつきCCDを乙
8発明のエリアセンサに採用することの十分な動機付けがあるといえる。

(b)相違点2について
前記(ア)【被告の主張】d(c)記載(ただし,
「出力信号の増幅」を
除く)のとおり,この点は,周知慣用技術である。
また,乙8発明においても,2次元シンボルの方向や外周を決定
する処理を行うとの記載があり,
乙8発明において,
乙24,
乙5等

に記載の位置決めマークを有する2次元コードを読み取る際には,2次元シンボルの方向や外周を決定する際に,所定の周波数成分比を検出する処理を行うこととなることを当業者は理解するといえる。したがって,2次元シンボルの読み取りを行う乙8発明において,(光学的センサからの出力を増幅した後)2値化する処理を組み合
わせること,
及び,
乙8発明において,
乙24や乙5記載の所定の周
波数成分比の検出を組み合わせることは当業者にとって容易に想到し得るといえる。
(c)相違点3について
前記(ア)被告の主張】

d(b)記載
(ただし,露光時間などの調整」

を除く。
)のとおり,この点は,周知慣用技術である。
また,
光学的センサの中心部の出力に比べて周辺部の出力が低く

なった場合に支障が生じることは,乙10ないし乙13,乙15ないし乙18,
乙32,
乙39に記載のとおり,
周知の事項であり
(特
に乙27,乙32,乙39は光学情報読取装置における問題点を指摘しており,乙32には,センサ周辺部の受光素子の光量が不足すると2値化できなくなり,その結果,バーコードを判読できないこ
とが開示されている。,光学的センサを用いる装置の当業者であれ)
ば,
光学的センサの中心部の出力に比べて周辺部の出力の比がある
程度以上となるようにして周辺部においても読み取りが可能とな
るようにすることは当然の事項であったといえる。さらに,前記のとおり,乙8発明は,照明レベルの調整によりセンサの中心部だけ
でなく周辺部においても適切な読み取りができることを考慮した
ものであることは明らかである。したがって,
「出力比が所定値以
上となる」ことについて乙8発明に明示的な記載がなくとも,当業者は,乙8発明においては,光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素

子からの出力の比は,所定値以上となっているものと理解する。
したがって,相違点3に係る構成は,そもそも相違点といえない
か,相違点といえるとしても,乙8発明に,周知慣用技術を組み合わせることにより,当業者にとって容易に想到し得るといえる。
d
以上のとおり,本件発明は,乙8発明に,周知慣用技術(ICX084ALや乙6,乙32等)及び乙5や乙24に記載の公知技術(又は周知技術)を組み合わせたものにすぎず,当業者が容易に想到し得たものであるから進歩性を欠く。
【原告の主張】
a
乙8には,2次元コードリーダの光学系の記載はあるものの,本件発明で特徴となる絞りに関しては開示がなく(この点において,被告
による乙8発明の認定は誤りである。,光学的センサもセンサCCDア)
レイとするのみで受光素子ごとに集光レンズが設けられるものでもなく
(CCDが受光素子を2次元的に配置するものであることすら不明),
本件発明の技術的意義に関しては,開示も示唆も皆無である。
なお,
被告は,
乙8がバーコードの読取りが可能であることをも

って,受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサを用
いる動機付けがあると主張する。
しかし,
その中で被告が援用する
乙19ないし22はいずれもラインセンサであり,受光素子は2
次元配置されていない。
b
本件発明は,
「受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的セン
サ」
を使用した場合に生じる「光学的センサの周辺部の受光素子に対
する集光レンズによる集光率の低下」を極力防止し,適切な読み取りを実現する光学情報読取装置を提供することを目的とするものであるところ,乙8は,
「絞り」も,
「本件発明の集光レンズ付きの光学的

センサ」も開示しておらず,本件発明の技術的課題と解決手段,すなわち,
「光学情報読取装置において,光学的センサに集光レンズを設
けること」により,
「同光学的センサの周辺部の読み取り性能が低下
する」という課題に対し,同光学情報読取装置において「絞り」の配置位置を工夫することなどにより,
これを解決するという本件発明の

特徴的部分(概要)について,一切,開示も示唆もない。
「結像レン
ズは複数枚のレンズが組にされた組レンズとして構成されていて,そ
の中心付近に絞りが配置されていた」従来の光学情報装置(2次元コードリーダ)において,
「受光素子ごとに集光レンズを設けた光学的
センサ」に適用した場合に生じる本件発明の課題,すなわち,
「周辺
部の読み取り性能の低下」
などという解決課題はどこにも示されてお
らず,
この課題を解決するために「読み取り対象からの反射光が絞り

を通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置」することなどにより,
周辺部においても適切に読み取ることができる光学情報読
取装置を構成するという技術思想は皆無である。
その結果,乙8を主引用例として,本件発明に到達するためには,①まず,
「CCDエリアセンサ」
について,
集光レンズ
(マイクロレンズ)

付きのものとすることを想到し,②開示されていない「絞り」の配置を想到し,
③上記①②の結果,本件発明の課題を新たに発見,
認識し,
④これを解決するために「読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置するなどの構成」という解決手段を発見しなければならない。

このように,被告の無効主張は,上記多段階の推考をしなければ,本件発明に到達しないものである。
(キ)

乙9を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-7)について

【被告の主張】
a
乙9には,複数枚のレンズで構成されたレンズと,複数のピクセルPijが2次元的に配置されたCCDセンサと,レンズ絞り機構と,センサに結像された像を,白黒の特定レベルを基準に2値化を行い,コードを判別し,
コードに対する処理を行って出力端子に出力する制御装
置を備えた1次元や2次元コードを読み取るコードリーダにおいて,
読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後でレンズに入射するようにレンズ絞り機構が配置されたもの
(以下
「乙9発明」
という。

が開示されている。
b
本件発明と乙9発明を対比すると,両者の相違点は以下のとおりである。
(相違点1)

本件発明では,
光学的センサの受光素子ごとに集光レンズが設けら
れているのに対し,乙9発明では,CCDセンサの受光素子ごとに集光レンズが設けられているかどうか不明である点。
(相違点2)
本件発明では,光学的センサからの出力信号を増幅し,増幅された
後2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するのに対し,乙9発明では,光学的センサからの出力を増幅することが明らかとされておらず,また,コードを判別し処理を行って出力端子に出力することについては記載があるものの,所定の周波数成分の検出を行うかどうか明らかとされていない点。

(相違点3)
本件発明では,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子から
の出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定しているのに対し,
乙9発明ではそのような位置に設定されているのか明ら

かとされていない点。
(相違点4)
本件発明では,露光時間などの調整で中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしているのに対し,乙9発明では露光時間などの調整を行うかどうか明らかとされていない点。

c(a)相違点1について
前記(ウ)【被告の主張】c(a)記載のとおり,この点は,周知慣用技術であった。

また,乙9発明のコードリーダは,2次元シンボルのみならず,
バーコードも読み取り可能なものであり,受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサをバーコードリーダに使用すること
は乙19ないし乙22に記載されるとおり周知であり,これらに記載の受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサを,同じくバーコードを読み取る乙9発明に組み合わせる動機付けは十分
にあった。
したがって,乙9発明のコードリーダにおける光学的センサを
「受光素子ごとに集光レンズが設けられた」ものとすることは,出
願時の当業者であれば容易に想到し得たものである。
(b)相違点2について
前記(ア)【被告の主張】d(c)記載のとおり,この点は,周知慣用技術であったから,乙9発明にこれらの技術を組み合わせること
により,相違点2に係る事項は容易に想到し得る。

(c)相違点3について
前記(ア)【被告の主張】d(b)記載(ただし,
「出力の比が所定値
以上となるように射出瞳位置を設定すること」に係る部分)のと
おり,この点は,周知慣用技術であった。
また,光学的センサの中心部の出力に比べて周辺部の出力が低

くなった場合に支障が生じることは,乙10ないし乙13,乙1
5ないし乙18,乙32,乙39に記載のとおりの周知の事項で
あり
(特に乙27,
乙32,
乙39は光学情報読取装置における問
題点を指摘しており,乙32には,センサ周辺部の受光素子の光
量が不足すると2値化できなくなり,その結果,バーコードを判

読できないことが開示されている。,光学的センサを用いる装置

の当業者であれば,光学的センサの中心部の出力に比べて周辺部
の出力の比がある程度以上となるようにして周辺部においても読
み取りが可能となるようにすることは当然の事項であったといえ
る。
したがって,
相違点3に係る構成は,
そもそも相違点といえない
か,
相違点といえるとしても,
乙9発明に,
周知慣用技術を組み合

わせることにより,当業者にとって容易に想到し得るといえる。
(d)相違点4について
前記(ア)被告の主張】

d(b)記載
(ただし,露光時間などの調整」

等に係る部分)のとおり,この点は,周知慣用技術であった。
また,乙9発明においても,乙8発明と同様に,コードを適切に

読み取れるよう,読み取り対象に光を照射する光源体2が設けられており,露光時間の調整についての明確な記載がなくとも,本件特許出願時の当業者であれば,乙9発明においても,かかる光源体2の制御を行う等して露光量を調整することを当然に理解するとい
える。

d
以上のとおり,本件発明は,乙9発明に,周知慣用技術(ICX084ALや乙6,乙8,乙25,乙32等)及び乙5や乙24に開示の公知技術(又は周知技術)を組み合わせたものにすぎず,当業者が容易に想到し得たものであるから進歩性を欠く。

【原告の主張】
a
乙9には,2次元コードリーダの光学系で,受光素子を2次元的に配置したCCDを用いること,複数枚のレンズを用いること,及び絞りを用いることの開示はあるが,本件発明で特徴となる受光素子ごとに集光レンズを設けたCCDや,複数枚のレンズ・絞りの配置に関しては
開示も示唆もなく,本件発明の技術的意義に関しても,一切開示も示唆もない。
b
乙9発明は
「結像レンズは複数枚のレンズが組にされた組レンズと
して構成されていて,その中心付近に絞りが配置されていた」従来の光学情報装置
(2次元コードリーダ)
を示しているにすぎず,
「受光素
子ごとに集光レンズを設けた光学的センサ」に適用した場合に生じる
本件発明の課題,
すなわち,
「周辺部の読み取り性能の低下」
などとい
う解決課題はどこにも示されておらず,この課題を解決するために「読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置」することなどにより,周辺部においても適切に読み取ることができる光学情報読取装置を構成するという技術
思想は皆無である。
その結果,乙9を主引用例として,本件発明に到達するためには,①まず,
「CCDエリアセンサ」
について,
集光レンズ
(マイクロレンズ)
付きのものとすることを想到し,
②その上で,
「絞り」
の配置が複数枚
のレンズの間となっている実施例において,本件発明の課題を新たに
発見,認識し,③これを解決するために「読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置するなどの構成」という解決手段を発見しなければならない。
このように,
被告の無効主張は,
上記の多段階の推考をしなければ,
本件発明に到達しないものである。

しかも,仮に,
「CCDエリアセンサ」について,集光レンズ(マイク
ロレンズ)
付きのものとすることを想到したとしても,
乙9発明では,
複数枚のレンズ3a,3bを,読取口5a側から見たときの絞り孔径が,
センサ4側から見たときの絞り孔径より小さくなるように絞り6
6をレンズ3aとレンズ3bとの間に配置しているのであるから,
「絞り」
を複数のレンズ間以外に配置することには阻害要因さえ認め
られる。

記載要件違反
(ア)明確性要件違反(争点2-8)について
【被告の主張】
a「周波数成分比」という文言は一般的な用語ではなく,本件明細書に
も,段落【0031】に「周波数分析器58は,2値化された走査線信号の内から所定の周波数成分比を検出し」と記載されるのみで,いかなるものが「所定の周波数成分比」であるのか説明がない。
そもそも,構成要件Dは,光学的センサから出力され,増幅され,閾値に基づいて2値化された信号の中から「所定の周波数成分比」を検出
することを記載しているが,この信号が「2次元コード」であることは構成要件Dからは読み取ることができない。その他の構成要件も含めて考慮しても,
特許請求の範囲には,
「読み取り対象」
が2次元コードであ
るか否かについては限定がなく,光学的センサから出力された信号が2次元コードであることを読み取れる記載もない。それゆえ,
「所定の周

波数成分比」が構成要件Dの記載から「2次元コードの読み取りを行うこと」を意味することは明らかとする原告の根拠は不明である。
さらに,
「所定の周波数成分比」
との文言は,
少なくとも定められた周
波数成分の比率を検出することを意味すると考えられ,定められた比率を有しないデータが記載される領域も含めて2次元コードの読み取り
全般が「所定の周波数成分比」の「検出」に含まれるとする解釈することは,
「所定の周波数成分比」の「検出」との文言の持つ意味にも反するものである。
したがって,
当業者は,
「所定の周波数成分比」
の意味を理解できず,
本件特許は特許法36条6項2号所定の明確性要件に違反する。

b「相対的に長く設定し」に関し,一般的に何かと比較して,長くなっていることを意味するものと考えられるが,特許請求の範囲の記載においては,
「相対的」
の基準が明確でないため,
かかる記載からは射出瞳位
置までの距離がどのように設定されていることを意味するのか,どのようなものが本件発明の技術的範囲に含まれるのか理解できない。
この点,原告は,
「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過
した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置」していないものと比べて,相対的に長いと主張するようであるが,かかる基準は特許請求の範囲には記載されていないため,その基準とするところが,特許請求の範囲の上では明確となっていない。
したがって,当業者は「相対的に長く設定」の意味を理解できず,ど
のようなものが本件発明の範囲に含まれるのか外延が不明確であるから,本件特許は特許法36条6項2号所定の明確性要件に違反する。c「所定値」とは,あらかじめ定められた一定の値を意味するものと解されるが,いかなる値が所定値に該当するのか,本件明細書には何ら説明されていない。

原告は,所定値とは特定の値を意味しないと主張するが,仮にそうであるとすれば,
従来例における値であっても本件発明における
「所定値」
に含まれることになり,従来例と比べて何ら改善されていないものも本件発明の技術的範囲に含まれることになるが,かかる解釈は不合理であり採用し得ない。しかし,他方で,
「所定値」については,それがいかな

る値を意味するのか,本件明細書には手がかりとなる記載が一切存在しない。そのため,本件明細書に接した当業者は,
「所定値」がいかなる値
であれば本件発明の課題が解決されるのか,理解することはできない。したがって,当業者は「所定値」の意味を理解できず,どのようなものが本件発明の範囲に含まれるのか外延が不明確であるから,本件特許
は特許法36条6項2号所定の明確性要件に違反する。
なお,構成要件Gは,絞りを構成要件Fのように配置することにより相対的に長く設定された射出瞳位置について,さらなる限定を加えたものであり,特許請求の範囲の文言からも,構成に限定を加えたものであって,
構成要件AないしFを備えることよって当然に得られる効果を記
載したにすぎないものとはいえない。
仮にかかる記載が効果であったとしても,実際に,そのような効果を
奏するものでなければ,発明の技術的範囲に属さないのであり,かかる構成要件もまた,発明の外延を画するものである。
【原告の主張】
a
「所定の周波数成分比」は,構成要件D,すなわち「前記光学的
センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値
化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と」において用いられているところ,この特許請求の範囲の記載上,「所定の周波数成分比」とは,「2次元コードの読み取りを行うこと」であることは明白である。
バイナリーコードである2次元コードを読み取るためには,「明」
か「暗」か,すなわち,「0」か「1」に分ける必要があり,これが「閾値に基づいて行う2値化」であり,周波数成分比検出は,この2値化されたデータの読み取りを行うことである。本件発明では,2値化された2次元コードからデータを読み取ることを,周波数成分比の検出としている。

b
構成要件Fは「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過
した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,」とされている。

被告も認めるように,「相対的に長く設定し」とは,何かと比較
して長くなっていることを意味するところ,特許請求の範囲には,「相対的に長く設定」できるための因果関係が明示されている。すなわち,「前記絞りを配置することによって」,「相対的に長く設定」できる。この場合の比較対象は,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置」していないものであることは,特許請求の範囲の記
載から明らかである。
c
所定値とは「所定のレベル」であればよく,特定の一定値である
必要はない。また,適切な読み取りが可能となる「所定値」,「所定レベル」であることは,当業者において明確である。
構成要件Gは「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子か

らの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」である。この特許請求の範囲の構成要件Gは,構成要件Aないし構成要件Fを備える光学情報読取装置(構成要件H)の効果を記載しているものである。
そして,この本件発明の効果は,本件明細書では,段落【004
2】欄の記載が対応するから,上記特許請求の範囲の記載は不明瞭ではない。

(イ)実施可能要件違反(争点2-9)について
【被告の主張】
a
前記(ア)同様,
「周波数成分比」について,当業者は,本件明細書にお
ける発明の詳細な説明からその意味を理解できず,
その技術的意義も理
解できず,実現方法についても何ら記載されていないことから,このよ
うな内容を実現するためのカメラ部制御装置を発明の詳細な説明に基づいて実施することができない。
したがって,本件特許は,特許法36条4項所定の実施可能要件に違反する。
なお,実施例においては,
「周波数分析器58は,2値化された走査
線信号の内から所定の周波数成分比を検出し」
(段落【0031】
)との
記載があるのみで,いかなるものが「所定の周波数成分比」であるのか何ら説明がなされていない。ましてや,
「所定の周波数成分比」の「検
出」
が2次元コードからデータを読み取ることを意味することについての記載もない。
b「所定値」とは,あらかじめ定められた一定の値を意味するものと理
解されるが,かかる所定値については,
「所定レベル」
「所定値以上」と
記載される(段落【0042】
)のみであり,いかなる値をもつものが
所定値に該当し,いかなる値をもつものが所定値に該当しないのか,何ら説明がなされていない。
したがって,当業者は,本件明細書における発明の詳細な説明から,
「所定値」をどのように設定すればよいか理解できず,センサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合いを小さくし,センサ周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止し,
適切な読み取りを実現する光学的情報読取装置を実現するこ
とができないので,本件特許は,特許法36条4項所定の実施可能要件
に違反する。
c「相対的に長く設定し」について,本件明細書における発明の詳細な説明には,図6(a)に示されるような2枚のレンズ34bおよび34cの間に絞りが配置されている場合に比べて,図6(b)の2枚のレンズで構成される結像レンズ34bおよび34cよりも前(読み取り対象側)
に,絞りを設定しておけば,CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的に長くなり(段落番号【0040】,CCDエリ)
アセンサ41から絞り34aまでの光学的距離が長くなれば,
射出瞳位
置はそれに伴って長くなる(段落番号【0041】
)との説明があるの
みである。しかしながら,絞りをこのような位置に設定しておけば,複数のレンズからなる光学系全てにおいて射出瞳位置が図6(b)のような位置に設定されるとは限らず,当業者は,どのようにすれば射出瞳位置
が「相対的に長く設定され」ているのか,発明の詳細な説明から理解することができない。
したがって,当業者は,発明の詳細な説明に基づいて,本件発明にかかる光学的情報読取装置を実現することができず,本件特許は,特許法36条4項所定の実施可能要件に違反する。

【原告の主張】
a「周波数成分比」については,本件特許の実施例において,周波数分析器を用いて,2値化された2次元コードからデータを読み取ることを説明しているから,当業者は実施可能である。
なお,QRコードの場合,1:1:3:1:1の位置検出パターン
を検出することは周波数成分比検出の一例である。ただ,周波数成分比検出はこの位置検出パターンの検出に限られない。
b
本件発明で「所定値」とは,あらかじめ定められた一定の値を規
定しているのではなく,適切な読み取りが実現できるための所定の
レベルを意味している。
そして,
本件明細書で,適切な読み取りを実現するためには,セン
サ周辺部にある受光素子からの出力レベルが所定レベル以上になる必要があることは,段落【0042】に記載されているから,当業者は実施可能である。

c「相対的に長く設定」という構成要件について,請求項1は「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」と規定している。この記載から,
「相対的」とは,
「前記読み取り対象からの反射光が前記絞り
を通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置する」ものと,
「そのように配置されていないもの」
との対比であることは,

らかである。すなわち,請求項1記載の配置のもの(絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう絞りを配置したもの)は,そのように配置されていないもの
(絞りを通過せずに結像レンズに入射するよう絞りを
配置したもの)に比べて,光学的センサから射出瞳位置までの距離が相
対的に長く設定される。
そして,
本件発明の
「前記結像レンズ」「複数のレンズで構成され,
は,
読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」であり,本件発明の配置(
【図6】(b))は,比較例の配置(
【図6】(a))
に比べて射出瞳位置までの距離を相対的に長くする結果,受光素子に対
して入射する反射光が極力斜めにならないようにしている。
本件発明が比較例に比べて相対的に長くなることは,本件明細書段落【0009】や段落【0040】の説明及び図6からも,当業者が実施可能に説明されている。
(3)原告の損害額(争点3)について

【原告の主張】
被告は,平成26年3月1日以降,被告製品の製造・販売をしており,同日以降,今日まで,被告製品1については9000台(販売額22.5億円),被
告製品2については1万1000台(販売額22億円)
,被告製品3について
は1万6000台(販売額36億円)を販売している。また,被告の上記販売
による限界利益率は,
いずれの製品についても販売価格の10%を下回らない。
以上から,被告は,被告製品の販売により,少なくとも8億0500万円の利益を得たものであり,特許法102条2項により,同額は原告の損害額と推定される。
【被告の主張】
争う。
第3争点に対する判断
1本件特許権の存続期間の満了
前記第2,
1(2)のとおり,
本件特許権は,
平成29年10月27日の終了をも
って,その存続期間が終了したため,本件特許権に基づく被告製品の製造等の差止め及び廃棄請求(請求の趣旨1,2項)はいずれも理由がないことになり,損
害賠償請求(請求の趣旨3項)の当否のみが問題となる。
2本件発明の内容
(1)

本件明細書(甲2)には,以下の記載がある。
発明の属する技術分野
「本発明は,2次元コードなどの読み取り対象に光を照射し,その反射光から読み取り対象の画像を読み取る光学的読取装置に関する。(段落【000」

1】


発明が解決しようとする課題
「…受光素子41aに対して光が斜めに入射した場合には,集光レンズ41bによって集光されることで逆に受光素子41aへの集光率が低下し,その
結果,感度が低下する。…CCDエリアセンサ41からの出力は,センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込んだ状態となり,その周辺部において読取に必要な光量が確保できず,適切な読み取りができないという問題も生じる。(段落【0004】


「…受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを備えている場合
に,
光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止し,
適切な読み取りを実現する光学情報読取装置を提供するこ
とを目的とするものである。(段落【0005】



課題を解決するための手段及び発明の効果
「そこで,本光学情報読取装置においては,読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,
絞りを配置している。
つまり,
結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比
べて,複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合(図6(b)
参照)
には,
光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長く
なる。絞りよりも像側(つまり光学的センサ側)にある光学系によって物体空間に生じる絞りの虚像を射出瞳(exitpupil)というが,光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳距離)は,光学的センサから絞りまでの光学的
距離が長くなれば,それに伴って長くなるため,このような絞りの配置とすることで,結果的に光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。
(段落【0009】

「そして,光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなれば,センサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合も,それに伴
って小さくなる。したがって,光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止することができ,適切な読み取りの実現に寄与する。(段落【0010】


「最終的には適切な読み取りを実現することが目的であるので,本発明の光学情報読取装置においては,光学的センサの中心部に位置する受光素子から
の出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,射出瞳位置を設定している。このようにしておけば,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる」
(段落【0011】。



発明の実施の形態
「…中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。…」
(段落【0042】

(2)本件明細書における上記各記載によれば,本件発明は,2次元コードなどの読み取り対象に光を照射し,その反射光から読み取り対象の画像を読み取る光学的読取装置に係る発明であり,
光学的センサの周辺部の受光素子に対する集
光レンズによる集光率の低下を極力防止し,適切な読み取りを実現する光学情報読取装置を提供することを目的とするものであり,そのために,読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置

することによって,
光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設
定し,
光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,射出瞳位置を設定することとされている。
もっとも,
本件明細書には,
「所定値」
に関する具体的な記載がないことによ

れば,本件発明においては,構成要件Gの「所定値」自体に技術的ないし限界的な意味はなく,上記の出力の比のほか,照射光の光量,露光時間などの調整等の結果として,中心部と周辺部のいずれにおいても適切な読取りができるとの目的が達成できればよいものにすぎないと解すべきである(なお,原告自身も,構成要件Gの「所定値以上」とは,ある「特定の値以上」を示すのではな
く,
「本件発明の効果が得られる所定レベル以上」であればよいと主張している。。

(3)また,上記の段落【0011】
【0042】の記載からすると,露光時間など
の調整は従来から行っていた技術ではあるが,本件発明の構成(射出瞳位置の設定等)を採用することで,これが容易になることを意味するにすぎないもの
と解される。
そうすると,本件発明の構成要件Gにおける「露光時間などの調整」は,従来から行っていた技術を記載したものにすぎず,これが「適切な読取り」のための条件であるわけではないものと解され,結果的に,露光時間などを調整しつつ,
中心部と周辺部のいずれにおいても適切な読取りが可能となるようなものであれば,当該要件を充たすものと解される(なお,原告自身も,構成要件Gは,構成要件AないしFを備える光学情報読取装置(構成要件H)の効果を記載しているものであると主張している。。

3争点2-2(本件発明について,2次元コードリーダ(IT4400)に基づき進歩性を欠如するか)について
事案に鑑み,まず,争点2-2(2次元コードリーダ(IT4400)に基づく進歩
性欠如)について判断する。
(1)認定事実
証拠(甲13,14,乙43,44,56,65の2,4,5,乙66,77の5,乙79の1,10)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


米国のウェルチアレン社が製造販売していた2次元バーコードリーダ・
(2
次元マトリクスコードのバーコードスキャナー)には,第1ないし第3世代のものが存在し,第2世代のものは「IT4400」製品として知られ,1997年(平成9年)から2000年(平成12年)にかけて世界中で販売されていた。
なお,
第2世代のIT4400製品は,
青緑色で,
カメラレンズの周りに照明LED

用の穴を有する輝く反射アレイを含んでおり,第1,第3世代の製品とは,それぞれ視覚的に区別できる。

第2世代のIT4400製品は,3枚のレンズと,3枚のレンズ間にある絞りと,CCDイメージセンサとしてのソニー製のICX084ALを搭載していた。なお,第2世代のIT4400製品は,全て上記の構造を有していた。

ウェルチアレン社においては,1997年(平成9年)頃,第2世代のIT4400にユーザーズガイドを添付するのが標準的であった。同ユーザーズガイドには,スキャナーについている(商品)ラベルのイラストが含まれているが,同商品ラベルに記載された製造年月日は,必ずしもユーザーズガイドそれ自体の発行日を示すものではない。

ウェルチアレン社が,試作品の写真を撮影して,これを販促資料に使うことがあったが,同写真の撮影後,イメージセンサ,照明システムやプロセッサなどを変更することなく,商品の外観に小規模な変更が加えられることもあった。


ウェルチアレン社は,1997年(平成9年)6月から9月にかけて,「IT4400」のうち型番が「44001」のもの(長距離読取りに適したLRタ
イプのもの)
を日本のアイニックス社に出荷した。
なお,
上記の出荷台数は,
同年6月頃に6台,同年7月頃に20台,同年9月頃に10台であった。カ
アイニックス社は,
同年7月に,
日本国内での
「IT4400」LRタイプのもの)

の販売を開始した。
すなわち,アイニックス社は,同年7月頃に,ウェルチアレン社から,上
記「IT4400」
(LRタイプのもの)を6台購入した上で,同月中に,日本国内で同6台を全て販売した。また,アイニックス社は,同年8月頃にも,ウェルチアレン社から,上記「IT4400」
(LRタイプのもの)を20台購入した上で,
それ以降,日本国内で,これらを順次販売した。

被告は,
我が国においてIT4400を購入し,
これを,
平成29年3月9日,
公証人立会の下,
分解して調査した
(乙56,
平成29年第75号公正証書)

同調査によると,被告が購入した上記IT4400は,
「WELCHALLYN,INC.」
(ウェルチアレン社)
が製造者であり,
型番
(モデル番号)「44001」

であり,1997年(平成9年)5月に製造されたものであった(乙56,
写真2)
。このほか,上記IT4400を分解したところ,
「AMI」と記載されたIC
が搭載された基板のほか,金属製の板状の基板,複数のライトが搭載された基板,
レンズユニット,センサ等を含む基板があり,センサには
CCD
CCD
「SONY
ICX084」と記載され,その裏面には「SONY647A3KKCX084AL」と記載されていた(乙56,写真1ないし11,31,32,38)

このほか,上記IT4400のCCDセンサの表面の中央部分を顕微鏡で拡大したところ,縦横に整列して板状に広がる多数の小さな円形のものが存在し,
これをさらに拡大したところ,半円状の凸部分が存在することが確認され,これを3次元解析したところ,断面形状のグラフからも凸部分があることが確認された(乙56,写真39ないし41)


乙43
(CBR作成の平成7年7月27日付けのインターネット記事)
には,
ソニーのCCDエリアセンサ
(ICX084ALを含む)
に関し,
「センサのトップに,
センサの開口部を効果的に増加させ,その感度を増加させる,オンチップマイクロレンズが設けられている。
」との記載があった。また,乙44(Eugene
B.Senetaほか作成の記事)には,
「組み込みCCDは,マイクロレンズが搭載
され,…ソニー社製ICX084ALである。
」との記載があった。

このほか,甲13,14(それぞれTheFreeLibrary,PRNewswire作成の平成7年6月19日付け記事)にも,ICX084ALについて「オンチップマイクロレンズは,各ピクセル上に光を集光することにより,優れた光に対する感度を実現します。
」との記載があった。
(2)本件特許出願前に,
「IT4400」により実施された発明(公知発明2)は日本国

内で公然実施されていたか
前記(1)ア,オ,カの事実によれば,
「IT4400」は,本件特許出願日(平成9
年10月27日)
前に日本国内で販売されており,
「IT4400」
により実施された
発明(公知発明2)は,本件特許出願日前に公然実施されていたものと認められる。

なお,被告が実際に行ったように,
「IT4400」を分解するなどして,その内部
構造等を知ることは可能であったといえる(乙56参照)

(3)「IT4400」は,乙56記載の製品と同じ構造を有していたか否か前記(1)アないしエ,キの事実によれば,
「IT4400」は,乙56記載の製品と
同じ構造(3枚のレンズと,これらのレンズ間にある絞りと,CCDイメージセンサとしてのソニー製のICX084ALを搭載しているもの)を有するものと認められる。
なお,原告は,月刊バーコード誌の平成9年8月号(甲10)に掲載されたアイニックス社の広告の「IT4400」と原告購入品(甲9)における若干の外観の違いや,ユーザーズガイドの日付等を根拠として,上記「IT4400」と乙56記載の製品の同一性を争うが,
前記(1)ウ,
エ認定事実によれば,
原告の上記主

張は採用できない。
このほか,IT4400に用いられているソニー製のICX084ALがマイクロレンズ付きであるかどうかについて争いがあるところ,前記(1)キのとおり,乙56記載の製品を分解した結果からすると,ソニー製のICX084ALにおいては,受光素子ごとに集光レンズ(マイクロレンズ)が設けられていたことが認められ
る。なお,前記(1)クのとおり,複数の記事(乙43,44,甲13,14)の記載も上記結論を裏付けるものといえる。
(4)本件発明と「IT4400」により実施された公知発明2との一致点・相違点本件発明と
「IT4400」
(乙56記載の製品と同じ構造を有するもの)
により実
施された公知発明2とを対比すると,両者の一致点・相違点は以下のとおりで
あるといえる。
(一致点)
複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取装置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位
置に配置され,
その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光

素子が2次元的に配列されるとともに,当該受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサと,
当該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞
りとを備える光学情報読取装置である点。
(相違点1)
本件発明は,
「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前
記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」ているのに対して,公知発明2においては,絞りは複数のレンズの間に配置されている点(構成要件F)

(相違点2)
本件発明は,
「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に

対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしている」のに対し,公知発明2がかかる構成を備えるか不明である点(構成要件G)

(相違点3)
本件発明は,
「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づい

て2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」を備えるのに対し,公知発明2がかかる構成を備えるか不明である点(構成要件D)

(5)上記各相違点の容易想到性について

相違点1について
証拠(乙65の6,甲19)によれば,IT4400は,2次元コードリーダではあるが,デジタルカメラの原理や技術を採用したものと認められ,デジタルカメラと同じ課題を有するといえる。
この点に関し,原告は,2次元コードリーダとビデオカメラ(デジタルカ
メラ)とでは,前者では後者ほどきれいな像は必要とされないが,その代わり,より正確に,より早く周辺部においても2次元コードを読み取ることができるよう,
受光素子の周辺部の集光率を低下させないことが必要となるな
どの違いがあると主張する。
しかし,
原告の上記主張からも明らかなとおり,
ビデオカメラ
(デジタルカメラ)
においてきれいな像が必要とされるならば,
当然に,
受光素子の周辺部の集光率を低下させないことも求められるものであり,この意味で,2次元コードリーダ(IT4400)とビデオカメラ(デジタ
ルカメラ)は,やはり同じ課題を有するものというべきである。
また,乙11ないし15(それぞれ特開平5-203873号公報,特開平7-168093号公報,特開平5-188284号公報,特開平8-278443号公報,特開平5-40220号公報)は,いずれもデジタルカメラ等の光学系に関する発明に係る公開特許公報(いずれも本件特許出願前
に公開されたもの)であるところ,これらの文献には,画像周辺部における光量不足や,
射出瞳から像面までの距離の不足といった課題を解決するため
に「射出瞳を結像面から離した構造として,全てのレンズの前面(読取対象側)に絞りを配置する」構成とすることが記載されており,同技術は,本件特許出願時点で周知であったといえる。

以上によれば,公知発明2に,乙11ないし15に記載されたデジタルカメラ等の光学系に関する上記技術を組み合わせる動機付けはあったといえ,同組合せによれば,相違点1に係る構成は容易想到というべきである。イ
相違点2について
前記アのとおり,公知発明2に,乙11ないし15に記載されたデジタルカメラ等の光学系に関する周知技術(絞りの位置に関するもの)を組み合わせることは容易であるところ,その際に,適切な読み取りを実現するために絞りを最適な位置に調整することは,当業者であれば当然に行うことと認められる。

また,前記1で検討した本件発明の内容を前提とすると,光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が「所定値以上」となることは,本件発明の構成要件Fに係る構成(相違点1に係る構成)を採用し,かつ,適切な読み取りを実現するように絞りの配置を行えば,当然に充たされることにすぎない。
このほか,前記1で検討した本件発明の内容を前提とすると,露光時間な
どの調整も,
光学情報読取装置において当然に備えるべき手段であるものと
認められる。なお,この点は,乙8(米国特許第5331176号明細書),
乙9
(特開平7-73266号公報)乙25の1及び2

(国際公開第96/
13798号,
特表平10-501360号公報)乙34

(特開平7-28
2178号公報)によっても裏付けられており,本件特許出願時点において
周知であったといえる。
以上のとおり,相違点2に係る構成については,当業者であれば適宜採用できる程度の周知慣用技術にすぎず,容易想到である。

相違点3について
相違点3に係る構成については,出力信号を増幅する技術(乙8,25な
いし31参照)
,2値化する周知技術(乙5,9等参照)や,2値化された信
号の中から所定の周波数成分の検出を行う制御回路を設ける公知技術(乙5,乙24等参照)により容易想到である(この点について,原告は特段争っていない。。


以上のとおり,相違点1ないし3は,本件特許出願当時において周知又は公知であった技術によって,いずれも容易想到であったといえる。
(6)小括
以上によれば,本件発明は,本件特許出願前から日本国内で販売されていた「IT4400」
(その構成は,乙56記載の製品と同じであった。
)により実施され
た公知発明2から容易想到であったといえる。このように,本件発明は,公然実施品により実施された発明から容易想到であるため,本件特許は進歩性を欠き(特許法29条2項,同条1項2号)
,特許無効審判により無効にされるべき
ものと認められる。
4結論
以上によれば,その余について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第47部

裁判長裁判官

沖中康人
裁判官

矢口俊哉
裁判官

髙櫻慎平
(別紙)
被告製品目録
以下の商品名等で特定される光学情報読取装置(2次元コードリーダ)1被告製品1
商品名

DT-X100シリーズ


DT-X100-20J


2被告製品2
商品名

DT-X200シリーズ
DT-X200-20J,DT-X200-21J


3被告製品3
商品名

IT-G500シリーズ


IT-G500-20J,IT-G500-C21J


IT-G500-WC26J
以上

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