判例検索β > 平成29年(う)第578号
詐欺被告事件
事件番号平成29(う)578
事件名詐欺被告事件
裁判年月日平成30年1月12日
法廷名大阪高等裁判所
結果破棄差戻
戻る / PDF版
平成30年1月12日宣告

大阪高等裁判所第4刑事部判決
詐欺被告事件

主文
原判決を破棄する
本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

第1


本件控訴の趣意

本件控訴の趣意は,検察官畝本毅作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は弁護人亀石倫子作成の答弁書及び同補充書に各記載のとおりであるから,これらを引用する。
検察官の論旨は,事実誤認の主張であり,その要旨は,次のとおりである。1
本件公訴事実の要旨は,被告人が,氏名不詳者ら及びAと共謀の上,
被害者(当時81歳)が架空の介護施設建設計画が実在するものと誤信していることに乗じて同人から現金をだまし取ろうと考え,①平成28年7月20日,氏名不詳者らが,複数回にわたり,大阪府吹田市内の被害者方に電話をかけ,同人に対し,弁護士になりすまし,同施設建設の資金拠出者の一人が親族とトラブルになっているので,その解決のために現金200万円を送付してもらえないかなどとうそを言い,被害者をして,現金200万円を送付すれば前記トラブルを解決できる旨誤信させ,大阪市西淀川区内の本件居室「B」宛てに現金200万円在中の小包1個を発送させ,同月21日,同室において,被告人が同小包を受領し,②同月22日から同月23日までの間,氏名不詳者らが,複数回にわたり,前記被害者方に電話をかけ,同人に対し,弁護士になりすまし,同施設建設の資金拠出者全員への資金返還を順次行っていくために現金300万円を送付してもらえないかなどとうそを言い,被害者をして,現金300万円を送付すれば,同人及び他の資金拠出者
全員が資金返還を受けることができる旨誤信させ,本件居室「B」宛てに現金300万円在中の小包1個を発送させ,同月23日,同室において,被告人が同小包を受領し,もって人を欺いて財物の交付を受けた,というものである。
2
被告人は,原審公判において,実弟であるCから荷物を受け取る仕事
を紹介され,中身については裏DVDだと聞かされ,所持しているだけであれば違法ではなく,捕まる心配もないと考えたので引き受けた,中身が詐欺の被害現金とは考えなかったなどと供述して,詐欺の故意及び共謀を争った。3
これに対し,原判決は,本件公訴事実記載の各詐欺の外形的事実が認
められ(以下「本件各詐欺」という。),被告人が被害者の発送した荷物の受取役として本件各詐欺の実行行為の一部を分担したこと自体は明らかであり,被告人としても,荷物の中身は,販売目的所持が禁じられる裏DVD関係の品物に限定されるものではなく,他の犯罪絡みの物品である可能性は当然に認識していたと認められるが,特殊詐欺に関してはオレオレ詐欺が問題になっているという程度の知識しかないという被告人において,荷物の受取に係る仕事内容等のみから,これを特殊詐欺の犯行と結び付けて考え,荷物が詐欺の犯行によってだまし取られた被害金品の類である可能性を認識し,これらを受け取る行為が特殊詐欺の一環をなす可能性があることも認識したとまで認めることはできず,被告人に詐欺の未必の故意があったとは認められないとして,被告人に対し,無罪を言い渡した。
4
しかし,関係証拠やこれによって認められる間接事実によれば,被告
人が,荷物の中身が詐欺の被害金品であるかもしれないと認識していたことは優に推認でき,被告人に詐欺の未必の故意があったことは明らかであるのに,正しい評価をせずにこれを否定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
第2

当裁判所の判断

1
前提事実
原判決が第2「争点に対する判断」の1「前提事実」

において認定し

たところは相当であり,その内容は概ね次のとおりである。


Aは,平成28年7月初め頃(以下,特に断らない限り,平成28
年のことである。),Dなる人物から,荷物の中身は薬物だと思うが,自分も分からないし,毎回違うものだと思う,中身を知らなかったら捕まることもないし,捕まってもヨンパチで済む,最初捕まっても2回目以降でないと罪にならないなどと言われ,1回10万円で荷物の受取役を探して欲しい旨の依頼を受けた。
Aは,7月上旬頃,知人のCに対し,10万円のうちの5万円は自分が受け取ることを前提として,荷物の中身は自分への依頼者も薬物関係とか裏DVDだと思うと言っていたなどと伝えた上で,1回5万円で荷物の受取役を紹介して欲しい旨依頼した。
その後,Cは,5万円のうちの2万円は自分が受け取ることを前提として,1回3万円で荷物の受取役を引き受ける人物を探すこととし,実兄である被告人に対してもそのような話がある旨を告げたところ,被告人は,7月20日頃,その仕事を自分が引き受ける旨Cに返答し,CからAにその旨が伝えられた。
被告人は,7月20日午後11時頃,Aから,電話で荷物の受取場所となる本件居室の住所と号室,待機時間が午前9時から午前12時までであること,鍵を外す番号,「B」という名前で荷物を受け取ることなどを指示され,その際,荷物の中身については,裏DVDとか,毎回中身は違い,自分も何が入っているか分からない,何かあってもヨンパチで出てこれるなどと言われた。
被告人は,7月21日午前9時6分頃,本件居室に赴いて待機し,同日午前10時28分頃,配達票に「B」とサインして被害者が送付した公
訴事実①に係る現金200万円入りの荷物を宅配業者から受け取った。その後,Aに電話でその旨連絡し,受け取った荷物の引渡し方法について指示を受け,その日のうちに荷物の包装等を開披することなく,Aから指示されたレストランの駐車場の植込みの中に荷物を置いて立ち去る方法でこれをAに引き渡した。


Aは,7月22日,Cに対し,同月23日にも同様の仕事がある旨
伝え,その受取役の手配を依頼し,21日分の報酬と23日分の前払い報酬として10万円を手渡した。


被告人は,7月22日,Cから23日にも同様の仕事があると言わ
れたことから,これを引き受け,2回分の報酬として6万円を受け取り,同月23日午前8時25分頃本件居室に赴き,同日午前9時42分頃,配達票に「B」とサインして被害者が送付した公訴事実②に係る現金300万円入りの荷物を宅配業者から受け取り,その日のうちに荷物の包装等を開披することなく,前回と同様の方法でこれをAに引き渡した。なお,被告人は,7月21日及び同月23日のいずれも,マスクで顔を隠すなどして変装したり,手袋を着用したりすることなく本件居室に赴いて荷物を受け取っている。⑻

被害者が本件居室「B」宛てに発送した各荷物は,菓子の空き箱な
いし空き缶の中に銀行の封筒に入った現金を動かないようにガムテープで止め,隙間に丸めたチラシを敷き詰めたものであり,各配達票の品名欄にはいずれも「本」と記入されていた。


本件居室は,本件当時,空き室の賃貸物件であったことから入居希
望者の内覧等がある場合に仲介業者が自由に解錠できるようにするため,玄関ドアのシリンダー錠は施錠せず,ドア上部に4桁の数字を合わせて解錠するダイヤル錠が外付けされた状態で管理されており(ただし,7月26日時点で,このダイヤル錠とこれを玄関ドアに取り付けるための鉄製プレートは何者かによって取り外され,玄関ドア横のメーターボックス内に置かれてい
た。),7月21日当時,室内にカーテンや家具等はなかった。
被告人は,7月25日,Cから同月26日にも同様の仕事があると言われて,これを引き受けたが,別の用事があったことから3万円の報酬のうち1万円は自らが取得することにし,残りの2万円を報酬として支払うとの約束で,知人に上記仕事を依頼したところ,同日本件居室内で待機していた知人が,建物関係者から不法侵入だ,警察を呼ぶなどと言われ,捕まりそうになったという出来事が発生した(以下,この出来事のことを「7月26日の出来事」という。)。知人からこの旨聞いた被告人は,Cを通じてAに苦情を述べ,それ以降,Aからの荷物受取の依頼には応じなかった。なお,被告人とAとの間に面識はなく,被告人と本件各詐欺の共犯者らである氏名不詳者らやDとの間にも直接の接点は見当たらず,また,被告人が本件以前に特殊詐欺に関与したことがあったという事情は認められない。
2
原判決の判断の当否
原判決の概要
原判決は,被告人が本件に関与した経緯等についての前記1の事実関
係,特に被告人の引き受けた仕事内容等に照らすと,被告人としても,受け取る荷物の中身は,販売目的所持が禁じられる裏DVD関係の品物に限定されるものではなく,他の犯罪絡みの物品である可能性は当然に認識したと認められるし,近時本件のように被害者をだまして金品を発送させ,偽名を名乗ってそれを受け取るなどの手口のいわゆる特殊詐欺が横行して社会問題化していることを踏まえると,被告人において犯罪絡みの物品の可能性の一つとして詐欺の被害金品の類をも想定した可能性が相当程度あることは否定できないとした。
その上で,原判決は,未必的であっても,被告人が詐欺の被害金品の類を想定していたといえるかについて検討し,本件当時,被告人には特殊詐欺の手法等に関してオレオレ詐欺と言われるもの以上に詳しい知識・認識を有し
ていたと認めるに足りる証拠はないこと,被告人に荷物の中身が詐欺の被害金品の類であることを想起させるような事情は見当たらないこと,被告人が「B」という受取人の氏名が偽名である可能性を認識・検討していたとも認め難いことなどに照らし,結局,被告人が荷物の受取に係る仕事内容等のみから,これを特殊詐欺の犯行と結び付けて考え,荷物が詐欺の犯行によってだまし取られた被害金品の類である可能性を認識し,これらを受け取る行為が特殊詐欺の一環をなす可能性があることも認識したとまで認めるのは,無理があるといわざるを得ず,他に,被告人において,犯罪絡みの物品の可能性の一つとして,詐欺の被害金品の類を想定したとまで認めるに足りる的確な証拠はないとして,詐欺の故意を否定した。
しかしながら,原判決が認定した前記1の前提事実によれば,被告人には少なくとも詐欺の未必の故意があったと認めることができるから,これを否定した原判決は是認できない。以下,その理由について,説明する。被告人がAから指示を受けた仕事の内容は,被告人が本件居室に一人で赴いて数時間待機し,そこへ送られてきた「B」宛の荷物を,被告人が「B」のふりをして宅配業者から受け取り,その後,これをAが後に指定する方法で同人に引き渡し,このような仕事に対して1回につき3万円という高額の報酬が支払われるというものである。そして,被告人は,実弟であるCから上記のような仕事を紹介されたとはいえ,直接仕事の指示を受けたAとは全く面識はなく,その職業や人となりもよく分からない状況下で,Aからは「何かあってもヨンパチで出てこれる」などと警察に逮捕される可能性も示唆されていたというのである。しかも,本件居室は賃貸借契約がされていない空き室であったところ,被告人が,7月21日に本件居室に赴いた際,本件居室内には誰もいなかったのに玄関ドアは施錠されておらず(なお,この時点で玄関ドアのダイヤル錠は既に取り外されていた可能性があり,被告人がこれを外して中に入ったとまでは認められない。),室内に家具はなく,
電気もついておらず,被告人がトイレを使用すると水があふれ出て,2回目は水がほとんど流れなかった(被告人の原審公判供述539から540丁)というのであるから,被告人としても,本件居室が本当に「B」なる人物の居室であるかや使用の実態があるかも相当に疑わしい空き室のような状態であり,通常の荷物の送り先としては相当に不自然な場所であることを当然認識していたと認められる。
そして,被告人が未必的であってもいかなる犯罪を想定したとみられるかについては,犯罪絡みの物品を前記のような経緯や態様で受け取るという仕事の特性を認識した者が通常どのようなものを想定するかという観点から適切な考察を加えるべきものである。このような観点から検討すれば,被告人が容易に想定し得た犯罪行為として,経験則上,薬物や銃器等の禁制品やわいせつ物などに関わる犯罪はもとより,刑法上の主要な犯罪類型の一つである財産犯絡みの被害物品を受け取るという犯罪もその想定の範囲内にあったというべきであって,本件のような特殊詐欺を含む詐欺罪も当然にその一つとしてこの中に含まれているとみることができる。そして,本件においては,以下に検討するとおり,この犯罪の中から詐欺の可能性を排除するような特段の事情は何ら見当たらないことからすれば,本件各詐欺について,被告人には少なくとも詐欺の未必の故意があったと推認できるというべきである。そうであるのに,原判決が,被告人において,受け取る荷物の中身が何らかの犯罪絡みの物品である可能性は当然に認識していたとしながら,被告人が未必的であっても認識した犯罪絡みの物品の一つとして,詐欺の被害金品の類をも想定した可能性については,相当程度推認できるという限度にとどめた上,他の事情を検討しても,被告人が特殊詐欺に関与していることを認識していたと認めるに足りないとして,詐欺の故意を否定したことについては,関係証拠から明らかに認められる荷物の受取方法や受取場所などの客観的な事実及びこれらに関する被告人の認識等を適切に考察すれば,経験則上,容
易に想定できる犯罪の一つとして詐欺があり,被告人には少なくとも詐欺の未必の故意があると合理的に推認できるにもかかわらず,このような推認をしなかった点において,論理則,経験則等に違反しているといわざるを得ない。
被告人の弁解について
被告人は,原審公判において,AからもCからも荷物の中身は裏DVDと言われたのでそう信じ,以前に違法なDVD店で働いていた経験から所持しているだけであれば違法ではなく,捕まる心配もないだろうと考えて引き受けたもので,荷物の中身が詐欺の被害現金とか,詐欺に関わる可能性は全く考えなかったなどと供述している。
しかし,Aは,原審公判において,7月20日午後11時頃に被告人と電話で話した際,被告人から「中身は裏DVDか」と尋ねられ,「そうですね」とは答えたものの,「DVDとか毎回違うものが入っている」,「自分も分からない」とも伝え,裏DVDは可能性の一つとして告げたが,詐欺の関係ではないと自分から言っていない旨供述している。また,Cも,被告人に先立ちAと荷物の中身について話した際,最初にCから薬物や拳銃など所持しているだけで罪になるものを例に挙げて確認した後に,Aから「裏ビデの原本か何かっすよ」と曖昧な表現で説明があり,最終的に「裏ビデの原本っすよ」と言われた旨供述しており,Aが裏DVD関係以外の品物の可能性について言及しなかったとは述べていない。A及びこれと一致する部分のCの上記各供述は,特に不自然なところはなく,同人らがこの点についてあえて虚偽の供述をする動機もないことから,十分信用することができる。加えて,弟であるCの知人であるとはいえ,面識もないAと短時間電話で話した程度で,被告人が荷物の中身が裏DVDであると確信することができたとは到底考え難く,このことは,Cにおいて,被告人が7月21日に荷物を受け取った後,Cに対して荷物を持った感触や重さについて説明し,「本をくり抜い
て,中にCDか何か入れてんちゃうん」,「拳銃とかはまずないわ」などと述べていたと原審で供述していることによっても裏付けられている。以上からすれば,被告人の上記弁解供述は信用することができない。
これに対し,弁護人は,①被告人においては,弟のCから紹介された仕事であり,同人が逮捕されるリスクのある仕事を紹介することはないと思っていたこと,②被告人が荷物の受取の際,マスクで顔を隠したり,本件居室等に指紋が残らないよう配慮したりしていないことは,被告人の上記供述と整合していること,③被告人が,7月26日に荷物を受け取る仕事を依頼した知人に対して,裏DVDの仕事であると説明していることなどから,上記被告人の供述は信用できるという。
しかしながら,①については,あくまで抽象的,一般的な期待にとどまるものである上,むしろ,被告人がAから「ヨンパチで出てこれる」と逮捕される可能性について聞かされていたことを自認していることと大きく齟齬しており採用できないし,②については,変装等をする必要性の判断は犯罪発覚の可能性等をどのように考えているかに関わっており,犯罪に及ぶことを認識しつつ行動する者が必ず変装等をしながらこれに関与しているとは限らないといえ,さらに,③については,仮に被告人が仕事を依頼した知人に対し裏DVDを受け取る仕事であると説明していたとしても,そのこと自体は被告人が荷物の中身が裏DVD以外の犯罪絡みの物品である可能性を認識していたこととも十分両立し得る事情といえる。その他,弁護人が種々指摘する事情を踏まえて検討しても,被告人の弁解供述は信用できないという上記結論は変わらない。
したがって,被告人は,荷物の中身が販売目的所持が禁じられている裏DVDであると確信していたものではなく,それ以外の犯罪に関わる物品である可能性も認識していたと認められる。そして,本件全証拠を検討しても,被告人において,荷物の中身が,違法薬物や拳銃等の法禁物所持などの詐欺
以外の犯罪行為に関わる物品であると確信していたことをうかがわせる事情は見当たらない。
原判決が検討したその他の事情について

原判決は,①本件のような手口の特殊詐欺が近時社会問題化して
いるとはいえ,被告人自身が特殊詐欺についてある程度詳しい知識を有していたと認めるに足りる証拠はないこと,②AないしCと被告人との間で荷物の中身について話した際に現金の可能性に関して話をしたことは一切なく,各荷物の形状や各配達票の記載にも,荷物の中身が詐欺の被害金品であることを直ちに想起させるような事情は見当たらないこと,③被告人が,本件居室が誰も契約していない空き室であるとは知らず,「B」という受取人の氏名が偽名である可能性を認識・検討していたとも認め難いことなどを指摘し,被告人において,荷物が詐欺の犯行によってだまし取られた被害金品の類である可能性を認識し得たとはいえず,被告人が荷物の受取の仕事を持ち掛けられ,これを実行する過程で,荷物の受取行為を特殊詐欺の犯行と結び付けて考えるような具体的契機があったとまではいえないと説示している。しかしながら,①については,本件当時,本件のようないわゆる現金送付型特殊詐欺の存在が通常の社会生活を送っている者であれば誰もが知っている社会常識であるとまでは認め難く,被告人がこのような詐欺の具体的手口までは知らなかった可能性があることを踏まえて検討しても,前記のような一連の本件事実関係の下では,被告人において,容易に認識し得る犯罪行為の一つとして,経験則上,詐欺が含まれているといえる。また,②については,本件では被告人が自ら接した関係者との間で荷物の中身が詐欺の被害金品であることにつき具体的なやり取りがなされた形跡がなく,荷物自体からも直ちにこれを想起させる事情が見当たらないとしても,そのことが,本件において,詐欺の未必の故意の推認を妨げる事情になるとはいえない。さらに,③については,被告人が指示された仕事の内容や報酬の額などの事情に
加え,本件居室が通常の荷物の送付先としては相当に不自然な空き室のような状態であったことや,被告人が「B」を装って宅配業者をだまして荷物を受け取ることを十分認識していたといえる以上,被告人が本件居室の正当な使用権原の有無や「B」が実在しない偽名である可能性についてまでは明確に知らなかったとしても,やはりそのことが詐欺の可能性を想定する妨げになるような事情とはいえない。

また,原判決は,被告人が,Aから具体的に告げられていた裏D

VD関係の物品以外の可能性については深く掘り下げて考えることをしないまま荷物の受取をしていた可能性もあながち否定できず,荷物の各受取日にマスク等で顔を隠したり,配達伝票等に指紋が残らないような配慮を一切することなく,また,7月26日に本件居室が契約されていない空室であったことを知った後にはAからの荷物の受取依頼には応じなかったという被告人の行動は,そのような見方とより整合すると説示している。
しかしながら,被告人が,裏DVD関係の物品以外の可能性について深く検討していなかったとしても,被告人が裏DVD関係の物品であると確信し,あるいは,詐欺以外の犯罪に関わる物品であると確信していたなどの事情はうかがわれない以上,このことが,前記諸事情から推認される被告人の抱いた犯罪に関わる認識から詐欺の可能性を排除する事情になるとはいえない。被告人が,各荷物の受取の際,マスクで顔を隠す等の変装をせず,指紋が付着しないような配慮をしなかったのは,被告人が容易く検挙されることはないだろうと軽信して,各荷物の受取行為に及んだためであるという合理的な説明も可能であるし,7月26日の出来事の後,Aからの荷物の受取依頼に応じていないのは,知人から本件居室から逃げ出した事情を聞かされたことによって自分が検挙される現実的な危険性を改めて認識したためであると考えることができるから,これらの被告人の言動は,被告人に詐欺の未必の故意があったことと何ら矛盾するものではない。原判決は,多様に解釈ないし
評価が可能で推認力に限界がある事情をもって,詐欺の故意を否定する方向に働くものとみた点でその評価を誤っている。
その他,弁護人が主張する事情を踏まえて検討しても,本件において,上記詐欺の故意の推認を妨げるような特段の事情は何ら見当たらない。したがって,本件各詐欺について,被告人には詐欺の未必の故意があったと認められる。そして,被告人は,このような認識の下で被害者がだまされて送付した現金の入った荷物の受取という詐欺の実行行為の一部を担当したのであるから,A及び氏名不詳者らとの間での詐欺の共謀があったと優に推認することができ,本件各詐欺の共同正犯としての責任を負う。
3
結論
以上のとおり,原審記録によれば,原判決が認定した間接事実から本件
各詐欺について被告人に未必の故意を認めるに十分であり,これを否定する事情は見当たらないことから,被告人は有罪であるといえるのに,被告人を無罪とした原判決の認定には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
第3

破棄差戻し
よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,当審に
おいて,職権で被告人質問を実施したものの,結果として事件の核心についての事実取調べを経たとはいえないことに鑑み,同法400条本文により,本件を大阪地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。平成30年1月12日
大阪高等裁判所第4刑事部
裁判長裁判官

樋󠄀

口裕
裁判官

飯畑正一郎
裁判官

角谷比呂美晃
トップに戻る

saiban.in