判例検索β > 平成29年(う)第714号
相続税法違反被告事件
事件番号平成29(う)714
事件名相続税法違反被告事件
裁判年月日平成30年2月13日
法廷名大阪高等裁判所
結果棄却
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平成30年2月13日大阪高等裁判所第1刑事部判決
平成29

714号相続税法違反被告事件
主文
本件控訴を棄却する
理由
本件控訴の趣意は,主任弁護人浅井健太,弁護人大坪尚紀,同科埜貴広,同柳原克哉,同古屋正隆連名作成の控訴趣意書,主任弁護人浅井健太作成の控訴趣意書訂正書に記載のとおりであるから,これらを引用する。
控訴趣意は,事実誤認の主張である。
1控訴趣意の要旨
原判決は,原判示の相続税法違反の事実につき,被告人を有罪としたが,被告人には脱税の故意も共謀もなく,同事実につき無罪であるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
2当裁判所の判断
(なお,以下には原判決と同じ略称を用いる。)
原判決が,原判示の相続税法違反の事実につき,被告人が共同正犯としての責任を負うとして有罪と認定したことに,所論のような事実誤認があるとは認められない。以下,その理由について述べる。
本件の公訴事実は,被告人が,相続人であるAの相続税申告に関して,A,B,C,D及びE税理士と共謀し,被相続人Xの預金,有価証券及び不動産等の大部分がY会に遺贈されたように仮装するなどして,当該財産を相続財産から除外する方法で相続税課税価格を減少させるなどした内容虚偽の相続税申告書を所轄税務署に提出してこれらを受理させ,そのまま法定納期限を徒過させて,不正の行為によりAの正規の相続税額(5億3697万9000円)と申告税額(4677万0200円)との差額(4億9020万8800円)を免れたというものである。原審においては,相続人AやBら大阪グループが共謀して公訴事実記載の虚偽過少申告をしたことは争われておらず,本件の争点は,被告人に虚
偽過少申告の認識・認容があったか,また,共犯者らとの間で意思連絡があったか,これらがあったとして正犯性が認められるか,という点であった。
原判決の(争点に対する判断)の構造は,まず,同意書証によって,㋐X(平成25年11月死亡)から多額の財産を単独相続したAが,相続財産の相当部分を浪費した末に相続税のほ脱を企て,これがBら大阪グループに順次伝わり,各自が報酬目当てに参画していった経緯,㋑当初にBらが考案したほ脱の手口がCやE税理士の意見を受けて変容し,相続財産の社会福祉法人への寄附の仮装等を内容とする最終的な脱税スキームに落ち着いたこと,㋒これと並行して遺贈を受ける法人探しが行われ,最後にY会が遺贈による寄附先となったこと,㋓E税理士が相続税申告書や偽造遺言書を準備し,郵送により提出されたことなどを前提事実として認定した上,証人らの原審公判供述を含む関係証拠から,本件への被告人の関与,被告人と大阪グループとの間の金銭の授受,脱税スキームに関する被告人の認識を認定している。そして,これら認定事実を総合して,被告人は,本件寄附が,相続税対策として行われる実態を伴わない仮装のものと分かりながら,寄附の受入先の選定・交渉について様々な便宜を図って協力し,大阪グループと寄附の受入候補先を取り次いだばかりか,候補先に直接説得を図るなどし,最終的に寄附受入先となったY会に対し,その内部対立を利用して寄附を受け入れさせており,本件脱税スキーム完成のために不可欠な役割を果たしたものであるから,虚偽過少申告の認識・認容や共犯者らとの意思連絡が認められるとともに,正犯性にも欠けるところはなく,被告人は,原判示の相続税法違反の共同正犯と認められるとするものである。
原判決の認定には,基本的な内容自体に誤りはなく,その結論も相当として是認することができる。
すなわち,本件においては,原判決が認定した前提事実(それらは同意書証により認定できる事実であり,当事者間において概ね争いのない客観的事実関係である。)自体が,被告人に脱税スキームを説明してその理解を得た旨のCらの原審公判供述の合理性を担保しており,その余の客観証拠も併せれば,被告人が脱税スキームの要点を理解して,仮装の寄附の受入先となる社会福祉法人探しに協力し,その結果としてY会が寄附の受入先に
決まったことは優に認められる。そうである以上,その余について検討するまでもなく,被告人に虚偽過少申告の認識・認容があること,他の共犯者らとの順次共謀が成立すること,正犯性が認められることは,明らかである。
当初,Bが構想した脱税スキームは,宗教法人に相続財産を寄附する形にして,一定の手数料を法人側に残し,残りを還流してもらうというもの(宗教法人スキーム)であったが,最終的に定まった脱税スキームは,相続財産の大半を社会福祉法人に寄附したことにし,実際に不動産の登記名義なども移転する一方,寄附先の社会福祉法人の理事に大阪グループの関係者が就任して支配することで,当該相続財産を管理運用するというやり方(社会福祉法人スキーム)であった。社会福祉法人スキームは,それなりに精緻な手法で,成功すれば相続税のほ脱であることを外部から見抜くことは困難と考えられるものの,鍵となる仮装の寄附の受入先の確保には様々な障壁があると考えられる。当該社会福祉法人には,仮装の寄附のみならず,理事の交代等にも応じてもらう必要があるところ,これは安定的に運営されている法人には二の足を踏む条件である一方,破たんが危ぶまれるような法人に仮装の寄附をすると相続財産の維持そのものが難しく,目的を達することができない。また,法人が寄附の受入れの後に変心し,理事の交代等を拒むと目的を達することができない。したがって,適切な社会福祉法人を探し出し,脱税スキームの条件を異論なく承知させることは,簡単な作業とは考えられず,しかも,BがAから相続税について相談を受けたのが申告期限の2か月余前,脱税スキームが固まったのが1か月余前であったことに照らすと,大阪グループとしては,社会福祉法人の選択等に時間をかける余裕はなかったはずである。
したがって,大阪グループは,短期間のうちに仮装の寄附の受入先を探すという困難な問題の解決のために,地方政治家である被告人の幅広い人脈や影響力に期待し,頼っていたと考えるのが自然であり,現に,大阪グループと被告人との面談以降は,被告人以外の者が社会福祉法人探しをしていた事実はうかがえず,被告人がこれを一手に引き受けていたと考えられる。しかるに,被告人において脱税スキームの仕組みを正確に理解していなければ,短期間で,適切な法人を選択して,条件を呑ませることはおぼつかない。
こうした観点からすると,7月30日面談及び8月3日面談において,被告人に対し,本件が相続人による浪費に端を発する脱税案件であることや脱税スキームの要点をきちんと説明した旨のCの原審公判供述は,極めて自然で合理的である。B,Dらの原審公判供述も細部は別として概ねCの供述に合致してこれを補強し,その信用性を高めている。しかも,7月30日面談の録音(原審甲184・資料95)では,相続税の申告期限が迫っていること,相続財産がかなり費消されていること,大阪グループの関係者が寄附の受入先となる法人の理事長になることが条件であることなどが被告人自身の発言を交えて会話されており,これは,Cの供述をよく裏付けている。
一方,被告人が自ら作成したことを自認しているZ宛て文書(原審甲184・資料68)の内容は,社会福祉法人スキームを簡潔にまとめたものになっており,被告人が同スキームの要点を理解していたことを物語っている。被告人は原審公判において,Cに言われるまま文書を打ち込んだだけで,その内容を理解していなかったなどと弁解するが,にわかには信じられない。同文書には2つのバージョンがあり,いずれも8月21日に被告人の事務所からCの下にファックス送信がされていることからすると,被告人自身が原案を下書きし,Cの意見を聞いて書き直したことが優に認められ,被告人が同スキームの狙いを理解した上でその原案を作成したことは明らかである。なお,Z宛て文書中には「弁護士事務所,税理士事務所等相談し,合法的に処理します。」との下りがあるものの,これは,その文書の記載内容自体が寄附の仮装による脱税をうかがわせるものであるため,合法性を強調して相手を安心させる必要があったからこそ挿入したとみるのが相当で,被告人がこうした記載をしたことが,違法性の認識と矛盾するとは思われない。そうすると,被告人は,Cから説明を受けた脱税スキームの内容を理解した上で,社会福祉法人を探し出して仮装の寄附を受け入れさせるべく,大阪グループに協力したものと評価できるから,被告人は虚偽過少申告を認識・認容して,共犯者らと意思連絡を取り合ったものと認めることができる。そして,被告人の果たした社会福祉法人の選定という役割は,大阪グループでは果たすことのできなかった不可欠なものであることも明らかで,金銭の授受の点を取り上げるまでもなく,被告人の正犯性を肯定することができる。なお,
相続人Aは,社会福祉法人スキームをよく理解しておらず,不動産の寄附に同意していなかった事情がうかがえる。しかし,Aと大阪グループや被告人とでは,相続税をほ脱するとの点では目的を一にしていたのであるから,この間の認識の食い違いが故意や共謀の認定を左右することはない。
これに対し,所論は,要旨,以下のとおり,原判決の上記認定を論難する。ア政治家として支援者や知人経由の陳情や相談を日常的に受けている被告人が,大阪グループから持ち込まれた話を,陳情等の一つとしてその違法性を疑わずに協力したことは何ら不合理ではない。
イC,B,D,Fらの供述は,これらの者に虚偽供述の動機があることや,その内容の不自然さなどに照らして信用性が乏しいのに,原判決は,これらが信用できることを前提として意思連絡や現金の授受等の事実を認定している。
ウ被告人は,大阪グループから専門家が関与して合法的に処理するとの説明を聞かされる一方,遺言書を偽造することや架空の債権を作出するとの説明を受けたことはなかったのに,大阪グループに寄附先に実質的に財産を帰属させる意思がないことを被告人が知っていたとしてほ脱の故意を認定した原判決には論理の飛躍がある。まず,所論イの点については,一般論として共犯者には虚偽供述の動機があることはそのとおりとしても,こと被告人との関係については,C,B,Dら大阪グループの供述の根幹部分に十分な信用性が認められる。7月30日面談及び8月3日面談についてのCの供述が合理的で,確実な裏付けを有し,信用性が高いことは,前述のとおりである。BやDの供述中には,自らの関与を小さく見せるための虚偽供述と疑われるような不自然な部分がないではないが(例えば,同人らは,遺言書の偽造等をCから聞いた時点で初めて脱税と認識したなどと述べるが,同人らは,Aが正規の相続税を納めたくないと考えたことが本件の発端であることを知っていたのであるから,当初からこれが脱税案件であることは承知の上で関与したはずで,虚偽過少申告の認識時点を殊更に遅く述べているものと考えられる。),被告人とのやりとりについてそのような不自然な点はない。他方,Fの原審公判供述は,CやB,Dらの供述とは異なる点が多く,検察官からの誘導尋問によって
Dから聞いた宗教法人スキームを被告人に電話で伝えたことなどはしぶしぶ認めたものの,自分自身も脱税に関与している意識はなかったし,被告人も脱税スキームを理解しているとは思わなかったなどと供述する。しかし,Fの原審公判供述は,全体的にかなり曖昧な部分が多い上,捜査段階の供述からみると被告人に有利な方向へと大きく変遷していることがうかがえ,Fと被告人の関係(被告人から資金援助を受けており,被告人の政治活動の後援者でもある。)やF自身が相続税法違反につき起訴されていないことも併せると,同人が原審公判で被告人をかばって事実関係を隠そうとしたことはあっても,自らの刑事責任を回避するために被告人に責任を押し付ける供述をしているとは考えられない。そうすると,Fの原審公判供述との不一致点がCらの供述の信用性を揺るがすとは思われない。なお,所論は,被告人と大阪グループとの間の金銭の授受に関するこれら各人の供述の信用性についてるる述べるが,先述したとおり,金銭の授受の有無や額の問題は,少なくとも共謀の成否や正犯性の認定自体を左右するものではないから,この点の所論は,それ自体が失当である。
所論ウの点については,脱税スキームの説明の際,Cらにおいて合法であると述べた事実があったと仮定しても(なお,C自身は,原審公判において合法であると明言した事実はない旨を供述している。),そのことが脱税に関与しているとの認識が被告人になかったことを示す事情になるとはいえない。すなわち,当初にFが被告人に本件の話を持ちかけたのは,Bらにおいて宗教法人スキームを進めていた当時であって,Fも宗教法人スキームを被告人に説明して宗教法人探しを依頼しているところ,手数料を払って実質的に寄附を免れる宗教法人スキームは,寄附を仮装したあからさまな相続税のほ脱というほかないもので,被告人においてその理解ができなかったとは考えられない。そして,7月30日面談の際にCから被告人に伝えられた社会福祉法人スキームについても,相続人がかなりの現金を浪費しており,相続税が払えないので社会福祉法人を探して寄附するという前提がある以上,遺言書の偽造や架空債権の計上に踏み込むまでもなく,これが相続税のほ脱であることはかなり明瞭であるし,それ以前から宗教法人スキームについて聞かされていた被告人にはそれがはっきりと理解できたはずである。無論,Cらが同スキームを被告
人に説明するにあたり,これは脱税である,違法であると明言したとは思われないが,それが共謀の成否や故意の認定を阻害する事情になるとは考えられない。また,仮に,Cらにおいて,税務や法務の専門家も関与していて合法であると力説した事実があったとしても,同スキームの説明内容自体やそれ以前の経緯からみれば,それが方便にすぎないことは被告人にも分かったはずである。Z宛て文書にこれが合法であるとの下りがあることが被告人の虚偽過少申告の認識を否定するものではないことは,前述のとおりである。所論は,いったん社会福祉法人等に寄附して相続税を減額した上で実質的に相続人に戻すスキームを実行することが,直ちに脱税行為になるわけではなく,上記の点は,被告人の脱税の故意を肯定する根拠にはならないなどと主張する。しかし,本件のように,相続財産を社会福祉法人等に実質的に帰属させるつもりもないのに,そのように装って,税の大幅な減額を図る行為は,まさしく,「偽りその他不正な行為により相続税を免れる」行為にほかならない。被告人において,この点について十分な認識があったと認められることは,これまで述べてきたとおりであるし,そもそも,被告人自身もAが既に3億円を費消していることを認識していたのだから,この点も含めて合法的に税を免れられる方法などあるはずもなく,いずれにしても所論には理由がない。
そして,以上からすれば,これが通常の陳情とは異なる類の話であることは明らかで,所論アの点は,その前提を欠く。
以上のとおり,所論はいずれも採用できない。
その他,所論がるる述べるところに照らして原審記録を精査しても,原判決が原判示事実を認めたことに誤認はない。
論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
平成30年2月13日
大阪高等裁判所第1刑事部
裁判長裁判官

和田真
裁判官

坪井祐子
裁判官

西森英司
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