判例検索β > 平成29刑年(わ)第939号
殺人、死体遺棄被告事件
事件番号平成29刑(わ)939
事件名殺人,死体遺棄被告事件
裁判年月日平成30年1月30日
法廷名東京地方裁判所
戻る / PDF版
平成29年刑(わ)第939号,同年合(わ)第93号
殺人,死体遺棄被告事件
平成30年1月30日宣告
主文
被告人を懲役14年に処する
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,リフォーム店の営業担当者として被害者から自宅のリフォームの相談を受けていたが,被害者が被告人の母親を揶揄するような言動をしたことなどから,被害者に不快感を覚えていた。被告人は,平成29年1月11日,東京都杉並区ab丁目c番d号被害者方において,被害者から玄関ドアの修理について叱責された際に,従前における同人の言動も思い出して憤激し,同人の顔面を手拳で殴打し,仰向けに倒れた同人に馬乗りになって更にその顔面を手拳で数回殴打した上,その顔面及び手足等を粘着テープで緊縛するなどし,同人を被害者方床下収納孔下の床下に運び入れた。
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

同日,被害者方において,被害者(当時62歳)に対し,殺意をもって,その左胸部を包丁(刃体の長さ約18センチメートル:平成29年東地領第4404号符号1)で数回突き刺し,よって,その頃,同所において,同人を胸部刺切創による失血により死亡させ,

第2

同日,被害者方において,前記第1のとおりその左胸部を数回突き刺され
た状態の同人を,被害者方床下収納孔下の床下から南側に押し込んだ上,同収納孔に床下収納ボックスを取り付け,蓋を閉めてその上に冷蔵庫等を置くなどして隠匿し,もって死体を遺棄した。

(事実認定の補足説明)
弁護人は,遺棄行為完了時までに被害者が死亡したことについて合理的疑いがあるから,判示第2について,死体遺棄罪は成立しない旨主張する。そこで検討すると,関係証拠により認められる①左胸部から背部まで達する5つの刺切創は,いずれも左肺を貫通し,更にそのうちの1つは心臓の右心室内部に刺入して穴を開けていたなどという被害者の受傷状況,②鼻と口を塞ぐような状態で粘着テープが重ねて被害者の顔面に巻かれていた状況,③「だらんとして体に力が入っていなかった」
(被告人の公判供述)という刺突後の被害者の様子に加え,被
害者の死因等に関する解剖医Aの証言を併せてみれば,被告人が被害者を隠匿した時点で,被害者は既に死亡していたか,あるいは,ごく短時間のうちに確実に死亡する状況にあったといえる。そのような状況の被害者を隠匿することが死体遺棄罪に該当することは明らかである。
(量刑の理由)
被告人は,殴打された後に粘着テープで手足等を緊縛されるなどして全く抵抗できない状態にある被害者の左胸部を包丁で突き刺し,背部まで貫通する創傷だけでも5つ生じさせた。このような刺突の強さや回数等からして,殺人の犯行は,強固な殺意に基づく執ような態様によるものといえる。死体遺棄についても,被害者方の床下収納孔下という予想外の場所に隠匿するなど,手際のよい犯行といえる。本件により突然生命を奪われた被害者の苦痛,無念さは計り知れず,被害者の行方を案ずる中で最悪の結果を迎えた遺族らが被告人の厳罰を求めるのも当然のこととして理解できる。
弁護人は,被害者の発言が本件犯行のきっかけとなったのであって被害者には落ち度があり,さらに,当時,母親の病状や介護の負担等につき被告人が悩んでいたことなども指摘して,犯行に至る経緯について被告人に有利に考慮すべき事情がある旨主張する。しかしながら,被害者の発言が殴打行為のきっかけとはなったものの,暴力を受けたり,ましてや生命を奪われたりしなければならないような落ち度
があったなどとは評価できない。しかも,被告人が被害者を殺害しようと決意した直接の動機は,先行した殴打行為等を隠ぺいして保身を図ることにあったことは動かし難い。殺人及び死体遺棄の犯行動機は身勝手というほかなく,犯行に至る経緯や動機に酌むべき点は乏しい。
そうすると,本件は,同種の殺人事案(刃物類を用いた前科のない単独犯によるもの)の中でも,重い方の部類に位置する事案といえる。
以上を前提に,被告人が事実を認め反省の態度を示していること,家族からの支えが期待できることなどの事情も考慮して,主文の刑が相当であると判断した。(検察官の求刑;懲役16年,弁護人の科刑意見;懲役8年)
平成30年1月30日
東京地方裁判所刑事第3部

裁判長裁判官

丹羽敏彦
裁判官

大川隆男
裁判官

上田佳子
トップに戻る

saiban.in