判例検索β > 平成29年(わ)第313号
事件番号平成29(わ)313
裁判年月日平成29年12月21日
法廷名松山地方裁判所
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主文
被告人を懲役1年に処する
この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,東京都ab丁目c番d号eビル1階所在の診療所であるアの管理者,分離前の相被告人Aは,臍帯血の卸売等を業としていたイ株式会社の代表取締役として同社の業務全般を統括管理していたものであるが,被告人は,A,B及びCと共謀の上,本件クリニックにおいて再生医療法に規定する第一種再生医療等に該当する他人間の臍帯血移植を実施するに当たり,被告人において,第一種再生医療等提供計画を厚生労働大臣に提出することなく,別表記載のとおり,平成28年7月28日から平成29年4月12日までの間,6回にわたり,本件クリニックにおいて,Dほか3名に対し,別表記載の各目的で,分離調製済みの冷凍保存された他人の臍帯血を,解凍の上,投与し,もって第一種再生医療等提供計画を提出せずに第一種再生医療等を提供したものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
罰条
包括して刑法60条,再生医療法60条1号,4
条1項〔同種行為を反復継続する意思をもって事
前の提出義務に違反し,各提供行為に及んでおり,
包括一罪になると解する。


刑種の選択
刑の執行猶予

懲役刑を選択
刑法25条1項

(量刑の理由)
1
本件は,本件クリニックの管理者である被告人が,A,B,Cと共謀の上,被
告人において,第一種再生医療等提供計画を提出することなく,各患者に対し,それぞれ脳性麻痺の治療,網膜剥離の治療,アンチエイジング,膵炎の再発防止の目的で,細胞の分離,冷凍等の操作を加えた他人の臍帯血を解凍した上,皮下注射等をするという方法で臍帯血移植を行った再生医療法違反の事案である。2
再生医療法は,実施される再生医療等に想定されるリスクの程度等に応じた安全確保のための仕組みを設けており,臨床応用がほとんどなく,未知の領域が多く残された第一種再生医療等については,
細胞の腫瘍化や予測不能かつ重
篤な有害事象を発生させ,
人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあ
ることに鑑み,同法4条1項において,これを提供しようとする病院又は診療所の管理者に対し,厚生労働省令で定めるところにより,その提供計画の提出を義務付けている。
被告人らが再生医療法施行以前から実施してきた臍帯血移
植は,アンチエイジング等の目的,あるいは移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律施行規則1条所定の27疾病(悪性リンパ腫,急性白血病等)以外の疾病に対する治療を目的として,免疫抑制等の処置をすることなく,細胞の分離,冷凍等の操作を加えただけの他人の臍帯血を皮下注射等によって患者に投与する方法(以下「本件臍帯血移植」という。
)によるもので
あり,このような方法は,安全性,有効性が確立された医療技術ではなく,投与された細胞の性質が体内で変わり得る未知のリスクが含まれるものであって,
移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律2条2項所定の有効性,安全性が確立された造血幹細胞移植には該当せず,また,本来の細胞と異なる構造・機能を発揮することを目的として細胞を使用するものであり,再生医療法2条4項所定の「細胞加工物」を用いた医療技術であると解されることなどから,
同法4条1項の適用対象となる第一種再生医療等に該当するも
のであった。
被告人らは,平成27年11月に再生医療法の罰則適用の対象となり,平成28年1月には,厚生労働省から,本件臍帯血移植が再生医療法の対象となる
ため直ちに治療の提供を中止し,法に基づく手続を行うよう行政指導がされたにもかかわらず,その後も平成29年4月までの間,医師である被告人において,前記27疾病に該当する病名又はその疑いがあるなどと,事実とは異なる診断名をカルテに記載するなどして同法の適用除外となる臍帯血移植であるかのように装いながら,臍帯血の卸売業等を営むA,Cを介して臍帯血の販売業等を営むBから仕入れていた臍帯血を用いて本件犯行に及び,それぞれ多額の利益を得ていたのであり,本件犯行は,再生医療等提供計画の提出を義務付けることにより当該治療の安全性確保を図るという同法の趣旨を没却する悪質な犯行であったいうべきである。加えて,本件臍帯血移植は,前記のとおり,安全性や有効性が科学的に証明されておらず,仮に,第一種再生医療等提供計画を提出しても,そのまま受理されることはないというものであり(被告人自身も,このことを自認する供述をしている。,人命及び健康に重大な影響を与え)
るおそれがあったのであるから,唯一医業を行うことができる医師によってこのような行為が行われたことは,再生医療そのものに対する国民の信頼を著しく失墜させるものであり,その社会的影響も看過することができない。被告人は,上記のような本件臍帯血移植において,施術担当医師として,必要不可欠で最も重要な役割を果たしており,
本件に限っても合計約511万円
もの利益を得ている。被告人は,再生医療法制定後も,自らが経営する本件クリニックの資金繰りに対するプレッシャーから,
少しでも収益を上げようと本
件臍帯血移植を継続し,
再生医療法の抵触の有無について自ら厚生労働省等に
確認するのは怖い気持ちがあったなどとも供述するが,
動機が身勝手であると
いう基本的評価は動かない。
3
このような本件臍帯血移植の内容,被告人の役割,特に被告人が事実と異なる診断名をカルテに記載するなどしていることを考慮すると,第一種再生医療等提供計画の提出義務者である被告人の刑事責任は,当該違反の法定刑(1年以下の懲役等)の範囲の中で上限に位置すると評されることはやむを得ないのであって,
弁護人が求める罰金刑は,行為責任主義の観点からして選択することができない。4
その上で,被告人に前科前歴がないこと,犯罪事実を認めて反省の態度を示していること,本件クリニックについて閉院の準備を進めており,今後は同種の行為に及ばず,社会貢献できるような働き方や生き方をする決意を示していること,出廷した妻や医師仲間もそれぞれの立場で今後の監督等を申し出ていることなどを考慮すると,懲役1年の刑を科してその刑事責任を明確にした上,今回に限っては刑の執行を猶予し,社会内において自力更生の機会を与えるのが相当である。そして,その執行猶予期間については,上記のような再犯可能性の乏しさなどを総合考慮し,2年間にとどめるのが相当であると判断した。

(求刑―懲役1年)
(別表省略)
平成29年12月21日
松山地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

末弘陽一
裁判官

馬場義博
裁判官

丸林裕矢
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